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賃料増額請求と 賃料増額禁止特約の効力
TMI 総合法律事務所 宮下 正彦 賃料増額請求と 賃料増額禁止特約の効力 等の増減、土地や建物の価格の上昇、 宮下 借地借家法 条1項は、建物 の家賃が、土地や建物に対する租税 か。 項とはどのような条文なのでしょう Xに移転したというだけで、当社は 変わっていません。所有者がYから に賃貸借契約を締結したときのまま する旨の特約がありました。これに 間では、賃料を増額することを禁止 法律で解決! 森さん 私の会社は、A県の広範囲 に 複 数 の 店 舗 を 構 え、 雑 誌 や 書 籍、 低下その他の経済事情の変動により、 賃料増額請求に応じる必要があるの 中小企業 トラブルは怖くない! 雑貨類等を販売しています。経営し また、近隣の同種の建物の借賃に比 でしょうか。 事案の概要 年以上にわたって店舗建物を賃借し 較して不相当となったときに、当事 年前 ているB店舗があります。B店舗建 者のいずれからも賃料の増減の請求 社に対して、賃料を増額するよう請 が、新たに所有者となったXは、当 して賃借できると考えていたのです 従前と変わらずにB店舗建物を継続 て は、 所 有 者 が 替 わ っ た と し て も、 う人物に譲渡されました。当社とし 確認いたします。しかし、仮に、賃 建物の賃料が適正なものかどうかを 森さん 分かりました。近隣建物の 賃料相場等を調査した上で、B店舗 うかを確認すべきかと思います。 料が不相当なものとなっているかど ては、まず、現在のB店舗建物の賃 増額を禁止する旨の特約も承継され 森さん そうしますと、賃貸人たる 地位が移転したことに伴い、賃料の す。 B店舗建物の賃貸借契約における賃 宮下 法律上は、B店舗建物の所有 権がYからXに移転したことに伴い、 賃貸人たる地位の移転 従い、B店舗建物の賃料は、 物の所有者はもともとYという人物 ができるとする規定です。貴社とし ている店舗の1つとして、Yから 年程前にXとい 求してきました。Xからの賃料の増 料が不相当であることが判明した場 貸人としての地位も当然に移転しま 額の請求はどのような法的根拠に基 判例 宮下 そのような特約が新たな賃貸 人に承継されるかを明記した法律は ありません。本件と同一の事案では 約に付随して定められた保証金(建 ありませんが、判例には、賃貸借契 たのでしょうか。 し、その特約の効力を否定したもの 設協力金)を返還する旨の特約に関 森さん Xとの間には取り決めはな いのですが、前所有者であるYとの 宮下 貴社とXやYとの間に、賃料 に関して何らかの取り決めはなかっ 賃料増額禁止の特約 請求を受け入れなければならないの るのでしょうか。 条1 森さん たしか、Xも面談した際に、 「借地借家法」ということを言って るのではないかと思います。 いて、貴社に賃料の増額を求めてい 条1項本文の賃料増額請求権に基づ すが、おそらく、Xは借地借家法 合には、当社はXからの賃料増額の だったのですが、 10 づくものなのでしょうか。 32 でしょうか。 10 32 宮 下 X の 言 い 分 を 全 て 聞 い て み なければ断言できない部分もありま 1 いたと思います。借地借家法 32 弁護士 森さんの経営する会社は小売業で、A県の広範囲に店舗を構え、雑誌や書籍等を販売しています。その店舗のうち B店舗建物について、当初はYから賃借していましたが、賃貸借契約期間途中に、B店舗建物の所有権をYから取 得したXから、賃料の増額請求を受けました。森さんは、どのように対応すべきか悩んだ末、宮下弁護士を訪れました。 46 2015.8 森さん ご紹介いただいた判例にお いて、重要な考慮要素はどういった ます。 結果として特約の承継を否定してい 保護の必要性とを比較衡量し、その くなるおそれを生ずる賃借人の利益 れることにより保証金を回収できな 者が当然にはこれを承継しないとさ 有者の利益保護の必要性と、新所有 り不測の損害を被ることのある新所 還債務を承継するとされることによ このことを前提に、当然に保証金返 状況であることが指摘されています。 習ないし慣習法があるとは認め難い 当然に保証金返還債務を承継する慣 素とはなっていないことが指摘され、 返還特約の性質が賃借権の本質的要 があります。この判例では、保証金 な賃貸人に承継されるかが判断され 比較衡量も行った上で、特約が新た や、③新所有者と賃借人の各利益の ません。②特約の承継の予測可能性 されるか否かが決まるものではあり ありますが、それのみで特約が承継 宮下 特約が賃貸借契約の本質部分 かどうかは判断における一要素では ることができることになりますね。 され、当社は賃料増額請求を拒否す 森さん そうすると、賃料の増額を 禁止する特約は新たな賃貸人に承継 れると思います。 約の本質部分に関わるものと評価さ 約とは異なり、賃料という賃貸借契 宮下 賃料の増額を禁止する特約は、 保証金(建設協力金)を返還する特 るのでしょうか。 ると、本件ではどのような結論にな ものといえます。 あるXにとっては一方的に不利益な 賃料の増額禁止は、新しい所有者で 期することは困難といえます。また、 貸人になったXが、特約の存在を予 社(森さん)とYとの間の個人的な 宮下 そのような事情からしますと、 賃 料 を 増 額 し な い 旨 の 特 約 は、 貴 賃料を当初の金額から増額しないこ けではありませんが、Yと話し合い、 払うことにし、その代わりというわ わけにもいかないと考え、賃料を支 たが、当社としても会社の事業とし 料を無償とする旨の申出がありまし 結論 関係に基づくものであり、新たに賃 とにしました。 て建物を借りる以上、無償で借りる ところでしょうか。 時 に ② 特 約 の 承 継 の 予 測 可 能 性 や、 か否かという点に着目しつつも、同 特約が賃貸借契約の本質部分である 宮 下 ② の 要 素 を 考 慮 す る う え で、 少し事情を伺いたいのですが、貴社 いのでしょうか。 森さん では、本件において、それ らの諸要素はどのように考えればよ 宮下 伺った事情からすれば、そう いう結論になるものと考えられます。 ことになるのでしょうか。 地位を承継したXには承継されない ています。 ③新所有者と賃借人の各利益の比較 とYとの間で賃貸借契約が締結され 森 さ ん あ り が と う ご ざ い ま し た。 やむを得ませんが、Xとは、特約が 森さん お話からすれば、賃料の増 額を禁止する旨の特約は、賃貸人の 衡量を行ったうえで、特約の承継の た当初、なぜ賃料の増額を禁止する 承継されないことを前提に、適正な 宮下 この判例を分析すると、①保 証金(建設協力金)を返還する旨の 可否を判断しているといえます。 旨の特約が締結されたのでしょうか。 賃料の金額について協議するように いたします。 本件の判断 森さん 実は私とYは、親戚関係に あるため、契約締結時、Yからは賃 森さん この判例の内容を前提にす 2015.8 47 森さん 雑誌、書籍等の小売業を営む会社の社長 宮下弁護士 健全な企業の力になりたいと願い、研鑽を続ける弁護士 登場 人物 宮下正彦プロフィール 東京大学卒業後、警察庁入庁。同庁退職の後、司法修習を修了し、弁護士登録。 友常木村見富法律事務所へ勤務、シカゴ大学ロースクールへ留学。2004 年 3月よりT M I 総合法律事務所へパートナーとして参画。取扱分野は、一 般企業法務、国際企業取引、企業合併・買収(M&A)、労働関係、倒産処 理/企業再建など多岐にわたる。第一東京弁護士会所属、ニューヨーク州 弁護士資格保有。