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佐藤 滉,1/2 遷移金属錯体触媒による C–H 結合活性化を経る ポリ(ベンゾジピリレンアリーレン) およびベンゾシロールの合成 Synthesis of Poly(benzodipyrrylene arylene)s and Benzosiloles via Transition Metal Catalyzed C–H Bond Activation 応用化学専攻 佐藤 滉 SATO Hiroshi 1. 緒言 Scheme 2. 共役系高分子は有機薄膜太陽電池や有機 EL に応用可能なことからその合成法と物性が盛ん に研究されている。有機金属化合物と有機ハロゲ ン化物を基質としたクロスカップリング反応が 共役系高分子の一般的な合成法として用いられ ている。この反応は基質適用範囲が広く,分子設 計の自由度が高いが,基質の調製に多段階の反応 ステップが必要であることや,副生する金属ハロ ゲン化物の除去などが問題となっている。 近年,C–H 結合活性化を利用した反応が多く報 告され,ポリマー合成にも応用されている 1)。ポ リチオフェンやチオフェンとの共重合体が優れ た物性を発現するという報告が数多くなされて いるため,それに伴いチオフェン含有共役系ポ リマーの合成法も盛んに研究されている。ピロー ルやカルバゾールはチオフェンとならびπ共役 系ポリマーの骨格に有用な電子ドナー性ユニッ トである。しかしながら,ピロール誘導体の直截 的アリール化によるポリマー合成法は一例に限 られており 2)、ピロール骨格含有共役系ポリマー の簡便な合成法が望まれている。 C8H17 C8H17 N C8H17 C8H17 H N [Ru] N + Ac N cat. + NHAc C8H17 Ar N Ac H17C8 C8H17 n 2. 結果と検討 アミド 1 とアルキン 2a を基質として反応条件 の 検 討 を 行 っ た と こ ろ [RhCp*(CH3CN)3](SbF6)2 (10 mol%)と Cu(OAc)2 H2O (40 mol%) 酸素雰囲気 下 90 °C で反応を行うことで 3a を 72%収率で得 ることに成功したためこれを最適条件として,モ デル化合物の合成を行った(Table 1)。 Table 1. Scope of Alkynes NHAc C8H17 [RhCp*(CH3CN)3](SbF6)2 (10 mol%) Cu(OAc)2 H2O (40 mol%) + Ar AcHN 1 Compound tAmOH, 90°C 16 h 2 Ar Yield Compound Ar Ac N C8H17 Ar Ar C8H17 Yield Compound 62 3g 64 3h 3 Ar O F 3a 73 3d N Ac Yield 80 F OMe N 3b 62 3e S N 76 N C8H17 OMe Me 3c 8 3f 63 Me Scheme 1. H H17C8 AcHN Br N Br N N n Fagnou らによって報告されたインドール合成 ではアルキルアリールアルキンを基質に用いた ときに位置選択的に反応が進行する 3)。その反応 を利用することでポリマー主鎖の伸張とドナー ユニットの構築,ポリマーへのアルキル基の導入 を同時に行うことができると考えた。 本研究では N,N’-1,4-フェニレンビスアセトア ミドと内部アルキンの酸化的カップリングをポ リマー合成に応用し,電子ドナー型ポリマーや低 バンドギャップポリマーを合成することを目的 として実験を行ったので以下に報告する。 ベンゼン環の 2,5-位にメチル基を有する基質を 用いたところ,収率は大幅に低下した。これは立 体障害のためであると考えられる。ベンゼン環の 2,5-位に電子供与性のメトキシ基、電子求引性の フルオロ基、電子豊富なアレーンである N-オクチ ル-3-カルバゾール,9,9-ジメチル-2-フルオレンを 有する基質を用いた場合、わずかに収率が低下し たものの良好な収率で目的の化合物を得た。電子 不足なアレーンである 2-フルオレノンとベンゾ チアジアゾールを有する基質を用いたところ,高 収率で目的の化合物を得た。 次にモデル反応と同様の反応条件でポリマー 合成を行った(Table 2)。ポリマー合成は次のよう にして行った。20 mL シュレンク管に N,N’-1,4フェニレンビスアセトアミドと酢酸銅一水和物 (40 mol%), [RhCp*(CH3CN)3](SbF6)2 (10 mol%), ア 佐藤 滉,2/2 ルキン (1.0 eq.), tAmOH, を加えて懸濁させた。酸 素ガスを 30 秒間バブリングして酸素を吹き込ん だ後に密閉して 90 °C で 16 時間かくはんした。反 応液を室温に戻し,メタノール を加えてポリマ ーを沈殿させた。沈殿物をろ過で回収し、真空乾 燥した。乾燥させたポリマーをクロロホルムに溶 解させアンモニア水と水,ブラインで洗浄した。 硫酸マグネシウムで乾燥させた後に溶媒を減圧 留去した。さらにメタノール沈殿することにより 目的のポリマーを得た。 Table 2. Synthesis of Polymers and Solvent Effect C8H17 [RhCp*(CH3CN)3](SbF6)2 (10 mol%) Cu(OAc)2 H2O (40 mol%) NHAc + AcHN C8H17 1 4 C8H17 54 57 Mn 10-4 a PDI a Ar 0.55 0.53 Scheme 4. Reduction of acetyl group Ar C8H17 5 Yield (%) 16 47 1.61 1.71 N Ac n Mn 10-4 a PDI a + Yield (%) + Ar Ac N Ar 16 h, 90 °C Condition A: tAmOH Condition B: tAmOH/THP ピロール部位とベンゼン環部位の軌道相互作用 が効果的に起こることによって,バンドギャップ が小さくなったと考えられる。電子求引性のフル オロ基を持つポリマー5c は HOMO と LUMO がと もに低下したためバンドギャップは 5a と変化が なかった。電子不足なアレーンであるフルオレノ ンとベンゾチアジアゾールを含むポリマー5e-f の 吸光スペクトルを見ると長波長側に大きくシフ トしていた。LUMO が大きく低下したことによっ てバンドギャップが小さくなったと考えられる。 さらなる電子供与性の向上を目的として窒素 原子上からアセチル基の除去と変換を試みた。 0.88 1.49 Ac N 10.9 2.88 8b 54b 2.77 2.42 C8H17 1.94 1.82 4.63 3.12 Ac N N 39 54 1.10 0.72 2.60 1.73 29 29 0.64 0.56 2.48 2.24 S N 25 39 1.66 1.00 3.71 2.57 F N C8H17 a Estimated b Reaction by size-exclution chromatography (SEC) based on polystylene standard in tetrahydrofran (THF) time is 1 h. 電子供与性のメトキシ基,電子求引性のフルオ ロ基を有する基質を用いたところ無置換の場合 と同程度の収率で種々のポリマーを得た。メトキ シ基を有する基質を用いたときに分子量が大き くなったのは溶媒への溶解性が向上したためで あると考えられる。N-オクチルカルバゾールとベ ンゾチアジアゾールを有する基質を用いたとこ ろ収率は低下した。フルオレノンとフルオレンを 有する基質を用いたところ収率は大幅に低下し た。 溶媒の再検討を行うことによって tAmOH/THP 混合溶媒で反応を行うことによって収率が向上 することがわかった。 得られたモデル化合物およびポリマーの物性 を紫外可視吸光スペクトルとサイクリックボル タンメトリー,微分パルスボルタンメトリーによ り評価した(Table 3)。 Table 3. Properties of Model Compounds and Polymers Entry Compound max(nm) 1 2 3a 5a 345 356 3 5c 347 4 5e 442 0.67 1.53 5.76 3.45 5 5f 453 0.77 1.64 5.83 3.32 6 6a 371 0.00 Eox1/2 (V) Ered1/2 (V) EHOMO (eV)b ELUMO (eV)cELUMO (eV)d Egopt (eV)e 5.72 5.77 0.61 0.66 5.92 5.11 2.45 2.67 3.32 3.10 2.82 3.10 3.38 2.38 3.51 2.32 2.03 3.08 a All potentials are given versus the Fc/Fc+ couple used external standard. bEHOMO = -(Eoxonset + 5.1). c ELUMO = -(Eoxonset + 5.1).dLUMO levels were obtained from the equation LUMO = HOMO + Egopt. eEgoptis defined as the energy corresponding to the onset, which is defined as the longest energy absorption wavelength in CH2Cl2. モデル化合物 3a とポリマー5a を比較すると吸 光波長は長波長側にシフトしていた。サイクリッ クボルタンメトリーから求めた HOMO に大きな 差がなかったことから,LUMO においてベンゾジ N Ac C8H17 5a C8H17 Ph N Et C8H17 6a C8H17 OMe F THF rt. to 70 °C N Ac Et N Ph 3a MeO 1.57 1.83 NaBH4 BF3Et2O Ph O 66 46 C8H17 Ph NaBH4 BF3Et2O n THF rt. to 70 °C Et N C8H17 N Et C8H17 7a n 三フッ化ホウ素エチルエーテル錯体存在下,水 素化ホウ素ナトリウムを用いて反応させたとこ ろ,90%収率で 6a を得た。同様の反応条件で 4a を還元したところアセチル基由来のピークが消 失し,エチル基のシグナルが観測された。 還元して得られた 6a は HOMO と LUMO ともに エネルギーが上がり、バンドギャップは小さくな っていた。これはドナー性が向上したためである と考えられる(Table 3)。 3. 結言 アミドとアルキンの酸化的カップリングを用い ることにより,種々のポリベンゾジピリレンアリ ーレンの合成に成功した。窒素原子上のアセチル 基を還元することによりベンゾジピリレン部位 のドナー性が向上した。 参考文献 1) C. K. Luscombe, et al,. Macromolecules, 2013, 46, 8059. 2) T. Kanbara, et al., Macromol. Rapid Commun. 2013, 34, 1151. 3) (a) K. Fagnou, et al., J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 16474. (b) K. Fagnou, et al., J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 18326.