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1 従業員の自己啓発を高める施策 ∼学びを促進させる2方向からの

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1 従業員の自己啓発を高める施策 ∼学びを促進させる2方向からの
3
従業員の自己啓発を高める施策
社内で推奨している資格や講座に
∼学びを促進させる 2 方向からのアプローチ∼
ついては,周囲からの「承認」が
(一社)全国産業人能力開発団体連合会 事務局長 坂口 敦
では,どうすれば自己啓発をす
欲しいところである。
る人が「承認」を得られたと感じ
の打ち手としては,大きく 2 つの
やすい環境を整備できるだろう
考え方があるだろう。 1 つは,イ
か。一番手っ取り早い方法は,上
ンセンティブ等によってやる気を
司が率先垂範で「自己啓発」に励
社会人の自己啓発は大きな課題
促す方法,もう 1 つは,学習を阻
む姿を見せることだ。筆者は,社
となっている。日本再興戦略(平
害する要因を取り除き,やる気を
内の人材育成部門にいた際に,
「勉
成25年版)でも,
「資格取得等に
失わせない(環境を整備する)方
強は生野菜と一緒だ。人には身体
つながる自発的な教育訓練の受講
法である。
に良いから食べろと言うが,本人
など社会人の学び直しを,今まで
■学習のやる気を促す方法
はあまり食べたがらない」という
にない規模で大胆に支援する」と
一番分かりやすい方法は,金銭
話をよくしていた。上司が自己啓
の文言が入れられた。変化の激し
によるインセンティブだろう。資
発を敬遠するのではなく,積極的
い現代において,一度身につけた
格奨励一時金や資格手当の支給等
に取り組む姿勢を見せることが,
知識やスキルにずっとしがみつく
が挙げられる。また,資格取得や
自己啓発に高い関心を持っている
のではなく,環境の変化に合わせ
通信教育の受講・修了を昇格要件
ことの何よりの証明になるだろ
て新しい知識・スキルを学び直す
やポイントに組み込んでいる企業
う。
ことが必要になっている。
もあり,これらもインセンティブ
先日,「ビジネス・キャリア検
では,自己啓発が盛んかといえ
によるやる気促進策といえる。
定試験」を社内に導入している企
ば,そこまでには達していない。
こうした定番の施策に加えてソ
業の人事担当役員にインタビュー
厚生労働省『能力開発基本調査』
フト面でのやる気促進も検討して
を行った。そのとき感心したのは,
によると,自己啓発の実施状況に
い た だ け れ ば と 思 う。JILPTの
その役員の方が検定を人事施策の
ついて平成23年度では,正社員
調査(
『職業資格の取得とキャリ
一環として取り入れる前に,まず
43.8%,正社員以外19.3%だった
ア形成に関する調査』平成26年)
自らが受験したということだっ
ものが,平成27年度ではそれぞ
をみると,
「資格取得の活動をし
た。当検定は科目数が多く,必要
れ42.7%,16.1%とほぼ横ばいと
ていることへの職場の対応」につ
と考える科目を受験し終わるのに
なっている。こうした前提を踏ま
いて興味深い結果が出ている。こ
3 年近くかかったそうだが,自ら
え,社内の自己啓発を支援するた
の調査で最も多かったのは「特別
の受験結果を踏まえて社内への導
めの施策を検討してみたい。
の対応はなかった」の45.7%。マ
入を決定したという。
ザー・テレサが「愛の反対は無関
上司が自己啓発に熱心な職場で
心」
と語ったという逸話があるが,
部下の自己啓発が承認されないと
半数近くが応援も反対もしないと
いうことは考えにくい。上司が自
いうのは少し寂しい。少なくとも,
己啓発に熱心になれば部下も熱心
1 社会人の自己啓発に
1
関する現状
2 自己啓発を促進するための
2
2 方向からの打ち手
従業員の自己啓発を促進のため
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人事マネジメント 2016.7
www.busi-pub.com
坂口 敦(さかぐち あつし) (一社)全国産業人能力開発団体連合会 事務局長
1972年生まれ。早稲田大学教育学部卒。㈱ニチイ学館,TAC㈱で主に社会人向け講座の企画開発に従事。IT企業の人材開発
課長,採用推進部長を経て2012年にニチイ学館に復帰,外国人講師の人材育成・労務管理を行う。2013年,一般社団法人
全国産業人能力開発団体連合会に出向,事務局長に就任。社会人の学びに関わる事業者団体の立場から,厚生労働省をはじ
めとした関係団体との折衝や学びに関するセミナー企画等,多岐にわたり活動している。特技は料理とExcel。社会保険労務
士,産業カウンセラー。 ●URL http://www.jad.or.jp/ ●Facebook https://www.facebook.com/jad.or.jp/
図表 自己啓発に問題があるとした労働者の問題点の内訳(複数回答)
になる,とまでは言えないのが難
しいところだが,自ら学ぼうとい
0
けになるだろう。特に資格や検定
の学習は,成果が出ないことを恐
れて上司も尻込みしがちだ。上司
が勇気を出して学ぶ姿を見せるこ
とが,職場の「やる気」改善につ
ながる。
人事担当者としては,上司が自
20
30
40
70(%)
37.4
21.0
家事・育児が
忙しくて自己啓発の余裕がない
33.6
20.4
23.5
どのようなコースが自分の目指す
キャリアに適切なのかわからない
正社員
16.8
19.5
適当な教育訓練機関が見つからない
正社員以外
16.8
12.8
自己啓発の結果が社内で評価されない
16.4
自分の目指すべきキャリアがわからない
21.3
12.9
休暇取得・定時退社・早退・短時間
勤務の選択等が会社の都合でできない
8.6
12.6
10.3
コース受講や資格取得の効果が
定かでない
12.1
14.2
コース等の情報が得にくい
その他
60
31.2
29.8
費用がかかりすぎる
己啓発をすることへのインセンテ
50
57.6
仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない
う意欲のある社員にとっては,そ
うした上司の存在は大きな勇気づ
10
5.2
ィブ施策を考える必要もあるだろ
11.5
う。
■学習のやる気を失わせない方法
策を提案しようと考えている方
金は不正受給を防ぐという観点か
厚生労働省『平成27年度 能力
に,ぜひ知っておいていただきた
ら申請書類のボリュームが多く,
開発基本調査』では,自己啓発の
い制度がある。
パンフレット等の文書も厚い。詳
問題点について調査している。正
厚生労働省が行う「キャリア形
しい内容については,各都道府県
社員のデータをみると,「仕事が
成促進助成金」は,企業内の主に
労働局や,都道府県職業能力開発
忙しくて自己啓発の余裕がない」
正社員を対象としたキャリア形成
サービスセンター(中央職業能力
「費用がかかりすぎる」「家事・育
促進に関する助成金制度である。
開発協会のグループ組織)に相談
児が忙しくて自己啓発の余裕がな
従業員への研修や自己啓発支援,
する方法もある。
い」と続く(図表)
。一番ネック
キャリアコンサルティング等,キ
なお,キャリア形成促進助成金
となっているのは学習時間の確保
ャリア形成支援を幅広い角度から
は,他にも多数のコース・制度が
のようだ。資格受験者の合格体験
とらえ,フォローしている制度と
設けられている。研修に関する費
記を見ていても,学習法の多くは
なっている。
用やその時間の受講者の賃金の一
「細切れ時間の活用」といったタ
従業員の自己啓発支援では,
「制
部について助成されるコースもあ
イムマネジメントに関わる内容が
度導入コース」のなかの「教育訓
る。新卒・若手社員研修や,育休
挙げられており,時間の確保が個
練休暇等制度」が該当する。教育
復帰者研修,社内検定制度など,
人の努力に委ねられている実態が
訓練休暇制度または教育訓練短時
比較的ポピュラーな人事施策に対
垣間見える。
間勤務制度を導入し,適用した場
する助成制度となっている。人事
人材育成にあたって自己啓発を
合に助成される制度で,一定の要
担当者であれば本助成金のパンフ
重視するのであれば,企業として
件を満たした場合に,中小企業は
レットには目を通しておきたい
も学習時間の確保に関する施策を
50万円,大企業は25万円が支給
(厚生労働省のホームページから
打つべきであろう。そのための施
される。とはいえ,こうした助成
ダウンロード可)。
2016.7 人事マネジメント
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