Comments
Description
Transcript
(第二期)(第1年次)
数値地形データを用いた山地地域の地形特徴把握の研究(第二期) (第1年次) −接峰面の作成方法の提案と標高に応じた阿武隈山地の傾斜と地質の関係− 実施期間 平成14年度∼平成16年度 地理地殻活動研究センター 地理情報解析研究室 佐藤 浩 重点研究支援協力員 陳村 理沙 1.はじめに 紙地図から接峰面を作成して日本の地形の骨格(山地や盆地の配列・方向など)を考察 (岡山, 1953)するなど、接峰面を使った地形の研究がこれまで多く行われてきた。国土地理院が 50 m メッ シュ数値標高モデル (DEM: Digital Elevation Model)を整備して以来、DEM から接峰面を作成す る手法の研究や、DEM から作成した接峰面を使った地形の研究が活発に行われている。神谷 (1999)は三角形埋谷法により、飯倉 (2000)はスプライン法の原理により DEM から接峰面を作成す る手法を提案した。政春・菱山 (1998)は、DEM と DEM から計算した接峰面の差から谷地形を抽 出して火山ガスが滞留しやすい地形を抽出し、中山 (1998)は DEM と DEM から計算した接峰面を 地形の侵食量とみなした。 本研究の目的は、特異点とみなせる山頂や谷に注目しながらスプライン法で DEM から接峰面を 作成する手法を提案することと、DEM と DEM から計算した接峰面の差から尾根地形を抽出して 地質ごとの傾斜の特徴を見出すことである。 2.対象地域 対象地域として阿武隈山地を選んだ。阿武隈山地は隆起準平原といわれ (望月, 1929)、高位面群 (標高 750-1,000 m)、中位面群 (550-730 m)、下位面群 (300-550 m)の侵食小起伏面に区分される (小池, 1968)起伏のなだらかな山地である。阿武隈山地の大部分は白亜紀の古期花こう岩類からなり、 南部には竹貫・御在所変成岩帯が分布している。阿武隈山地は第四紀の火山に覆われておらず、地 質が地形に及ぼす影響を考察するための絶好のフィールドである。 3.DEM からの接峰面作成手法の提案 本研究では、政春・菱山 (1998)を発展させた接峰面の作成手法を提案した。詳細は、頼ほか (2002) を参照。国土地理院 50 m メッシュ DEM に一定の間隔で格子を被せ、格子がつくる正方形を窓領 域と呼ぶ。窓領域ごとに DEM を以下のように処理した。 a. 隣接8近傍の DEM よりも標高が高い場合、中心の DEM を局所極大値とした。 b. 局所極大値が1つのとき、これを最大極大値と呼んでおく。 c. 局所極大値が複数個のとき、最も標高が高い局所極大値を抽出して最大極大値とした。 d. 局所極大値が皆無のときは、窓領域で標高が最大の DEM を最大極大値とした。 e. この結果、仮に、対象地域に窓領域が 100 個あれば最大極大値も 100 個あることになる。 f. 最大極大値はランダムに疎らに分布する。DEM と同じ間隔でデータが並ぶように、GIS ソフト ウェア ArcGIS のスプライン補間の機能で標高を補間し、接峰面を作成した。 g. DEM が接峰面より標高が高い場合には、その DEM を最大極大値と入れ替えて、再度「f.」の処理 を再度行った。したがって、対象地域に窓領域が 100 個あれば、一部入れ替え後の最大極大値も 100 20 15 傾斜 (度) 個あることになる。 h. 「g.」のような条件が無く なるまで「f.」と「g.」の処理を 繰り返し、最終的な接峰面 DEM を作成した。 第四系 新第三系 古第三系以前 超苦鉄質岩 苦鉄質岩 花こう岩 花こう閃緑岩 石灰岩 変成岩 火山岩類 10 1100-1200 1000-1100 900-1000 800-900 700-800 600-700 500-600 400-500 300-400 200-300 100-200 0-100 5 4.地質と傾斜の関係 地形を特徴づける指標とし 0 て傾斜に注目した。標高に応 じて侵食小起伏面の分布が異 なるため、阿武隈山地の傾斜 標高 (m は標高に応じて変化がある可 能性がある。また、尾根地形は周囲の地形より相対的に侵食の抵抗性が強く、尾根地形という条件 が同じとき、地質が尾根地形の傾斜に影響を与えている可能性がある。そこで、尾根地形に着目し、 標高に応じて傾斜がどのように変化するかを地質ごとに調べた。 国土地理院 50 m メッシュ DEM を平面直角座標系第 IX 系に座標変換して 55 m グリッド DEM を用意するとともにグリッドごとに傾斜を計算した。次に、55 m グリッド DEM に一辺 1,375 m の窓領域をかぶせ、窓領域ごとに標高の最高点を抽出してから 55 m グリッド接峰面を内挿計算し た(この時点では、「3.」の手法は開発中だったため利用しなかった) 。さらに、DEM−接峰面 ≧ 0 のグリッドを抽出し地形図と重ね合わせたところ、それぞれが尾根地形に相当することを確認し た。以上のデータを、流域面積 100∼200 km2 の 21 個の流域について切り出し、尾根地形を地質 調査所 1/100 万地質図と重ね合わせ、横軸を標高 (100 m 間隔)、縦軸を各グリッドの傾斜の平均値 (標高 100 m 毎に計算)としてグラフを描いた。グラフから、花こう岩では標高 300∼900 m で平均 傾斜が10°∼16°に単調増加、 900 m 以上で減少傾向に転じて1,200 m で13°となることが分かった。 また、新第三系や変成岩では標高が増加すると傾斜は 13°∼9°と単調に減少、石灰岩は、標高が同 じであれば傾斜は花こう岩より急であることが分かった。その他、標高の高低に応じた平均傾斜の 増減には、地質の違いが反映していることが分かった。 5.今後の展開 「3.」で開発した手法を「4.」で活用すること、傾斜を 100 m ごとの平均値で整理するのではな く流域出口からの距離で整理したり、傾斜の最頻値で整理することが必要である。 参考文献 飯倉善和 (2000): 張力と重力の下でのスプライン法を用いた接峰面の作成, 地理情報システム学会 講演論文集, 379-382. 神谷 泉 (1999): 三角形埋谷法による接峰面図の作成, 地理情報システム学会講演論文集, 127-130. 小池一之 (1968): 北阿武隈山地の地形発達, 駒澤地理, 4/5, 109-126. 中山大地 (1998): DEM を用いた地形計測による山地の流域分類の試み ―阿武隈山地を例として ―, 地理学評論, 71A-3, 169-186. 政春尋志・菱山剛秀 (1998): 数値標高データを用いた火山ガスが滞留しやすい地形の抽出の試み, 日本写真測量学会秋季講演会発表論文集, 21-24. 望月勝海 (1929): 阿武隈山地の化石準平原に就いて, 地球, 11, 397-409. 頼 理沙・佐藤 浩・政春尋志 (2002): 数値標高データを用いた地形の曲面的計算の試み ―接峰面 と接谷面の作成について ―, 地理情報システム学会講演論文集, 405-408.