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三菱電機宇宙事業の海外展開
平成23年5月 第689号 三菱電機宇宙事業の海外展開 三菱電機株式会社 宇宙システム事業部長 稲畑 廣行 1.はじめに 3月7日、当社はトルコの国営衛星通信会社 なかった。衛星システム、コンポーネントの 拡販活動を通じて、欧米メーカとの差を直接 「Turksat Satellite Communication, Cable TV and 肌で感じ、高い製品競争力(短納期、高信頼性、 Operation AS」から2機の人工衛星「Turksat- 低コスト)とそれを裏付ける一貫生産体制、 4A/4B」を受注した。これは2008年のシンガ 標準衛星バスによる軌道上実績が必要である ポール/台湾の通信衛星「ST-2」に続く受注 ことを痛感した時期であった。 であり、当社標準衛星バス「DS2000」として は10機目となった。本商談では、関係省庁及 3.宇宙事業の海外展開に向けた当社の取組み び関係機関から多大なご支援を賜り、受注へ 2項で述べた課題を解決すべく、当社は衛 の強力な後押しとなった。この場を借りて御 星の一貫生産体制の整備と標準衛星バスの確 礼申し上げたい。 立に乗り出した。 当社宇宙事業の海外展開においてはこのよ まず短納期、高信頼性、低コストを一層進 うに徐々に成果が現れつつあるが、この受注 めるための設備投資として、2000年に当社鎌 に至るまでには苦難の道のりがあった。 倉製作所内に大型衛星工場を建設した。工場 内には、宇宙空間の真空状態を模擬する国内 2.宇宙事業の海外展開の歴史 最大級のスペースチェンバ、衛星打上げ時の 1990年のいわゆる日米衛星調達合意によ 音響環境下での機能確認を行う音響試験設備 り、非研究開発衛星(通信・放送、気象観測 等の設備を備え、国内メーカでは唯一となる などの実用衛星)の調達手続きは、公開、透明、 衛星の設計・製造・試験に亘る全工程を一貫 かつ、無差別な国際競争入札にかけることが して行う生産体制を整えた。 定められた。当時、先行する欧米メーカを国 また、宇宙航空研究開発機構(JAXA)殿 際競争入札で打ち破ることは困難であり、事 の ご 指 導 の も と 当 社 が 製 造 し た「こ だ ま 実上国内メーカは国内の実用衛星市場から締 (DRTS) 」 (2002年打上げ)、及び「きく8号(ETS- め出されることとなった。 その環境下、当社はまず欧米メーカへコン Ⅷ)」(2006年打上げ)をベースに社内開発を 加え、標準衛星バス「DS2000」を開発した。 ポーネントを輸出することで実績を重ね、こ DS2000は、「ひまわり7号」「スーパーバード の海外展開を足掛かりに衛星システムの受注 C2号機」「みちびき(準天頂衛星初号機)」等 を狙う段階的な戦略の下で活動を展開したも の衛星に適用されて着実に軌道上実績を積み のの、しばらくは衛星受注はおろか顧客から 重ね、高い品質と信頼性の証明が可能となっ 提案要請書(RFP)を受領することさえでき た。加えて、当社ではそれらを顧客のメリッ 1 トピックス トへ繋げていくための活動も行った。商用通 における重点施策について」や「当面の宇宙 信衛星では、調達側である衛星通信事業者が 政策の推進について」等の政策文書において、 事業リスクの担保として衛星の保険を付保す 宇宙システムのパッケージによる海外展開の るが、信頼性の高い衛星であれば料率が低く 推進がうたわれており、これら方針の下で関 なり、事業者の投資額を抑制できる。すなわ 係省庁及び関係機関からは海外へのインフラ ち保険料率が低いことは価格が安いことと等 輸出案件として力強い支援活動を展開頂いて 価となり衛星の競争力につながる。当社では おり、当社海外展開の追い風となっている。 料率を算定する保険会社を衛星製造工場に招 き、衛星の設計思想から運用実績に至るまで 5.近年の当社宇宙事業の海外展開状況 紹介し討議することで、現在では世界最高水 3項の取組みにより、2008年には国産衛星 準(=最低料率レベル)の評価を得るに至っ バスとしては日本初となる海外向け商用通信 た。 衛 星「ST-2」を 受 注、本 年 3 月 に は 前 述 の 「Turksat-4A/4B」を 受 注 す る こ と が で き た。 4.海外宇宙事業を取り巻く環境 なかでも「Turksat-4A/4B」は、各メーカがし 世界の商用衛星の需要規模は、これまで年 のぎを削る状況下で大幅にメーカの選定が遅 間20∼25機で推移している。向こう10年間も れ、結果として契約書調印まで1年以上を要 同程度と予測しており、従来に比べ新興国に する異例の長期戦となった。 「ST-2」 「Turksat- よる衛星需要の割合が高まることが見込ま 4A/4B」ともに、並みいる欧米メーカとの厳 れ、注目している。近年、国家のトップによ しい競争に打ち勝ったものであり、軌道上実 るセールスなど、各国で国家レベルでの衛星 績に裏付けられたDS2000の高い信頼性と品質 拡販の動きが活発化する中、我が国でも2009 が国際的にも評価されたといえる。 年に策定された宇宙基本計画で「宇宙外交」 また、コンポーネント事業は、欧米メーカ の方針が打ち出された。その後も「宇宙分野 との長期供給契約もあり着実に規模を拡大し ST-2((C)SingTel, CHT, STS Ventures) Turksat-4A/4B 2 平成23年5月 第689号 てきており、当社製コンポーネントが搭載さ 算の拡充である。欧米メーカに伍する競争力 れた衛星数は累計で440機を超えた。主力で を確保しつつ、さらに凌駕していくためには、 ある太陽電池パネル、リチウムイオンバッテ たゆみない開発継続が必須である。民間側も リ、ヒートパイプパネルの市場シェアは30% 自社投資による技術開発は継続するが、それ ∼40%を確保しているほか、宇宙ステーショ に加え国側でも継続的な研究開発の推進、及 ン補給機「こうのとり(HTV)」で実証され び技術試験衛星の開発などによるシステムと た国際宇宙ステーションへのランデヴ制御技 しての軌道上実証の機会創出をお願いするも 術が高く評価され、そのうちの「近傍接近シ のである。SJACにおかれては、こうした要望 ステム」が2009年にNASAの宇宙貨物輸送機 を産業界の意見として集約、提言頂くことを Cygnusに採用されるなど、着々と成果が出始 これまで以上に期待する。 めている。 このように、海外事業は積年の苦労が結実 し、当社宇宙事業の柱の一つとして大きな飛 躍を遂げている。 7.今後の取組み 当社は、新興国の需要の高まりを見込み、 それらをターゲットとした拡販を進めるとと もに、DS2000対応レンジを拡大すべく小型版 6.政府・SJACへの期待 である「DS2000S」の開発に着手している。 政府には次の2点につき期待したい。一つ 更に大型版「DS2000L」の開発についても検 は、各商談における支援である。新興国向け 討中であり、こうした幅広い製品ラインアッ の商談では、衛星調達だけでなく、将来の自 プを実現することで顧客のニーズに対応でき 国での衛星生産を見据えた技術協力、自国産 る衛星を揃え、海外事業規模として現状の1 業育成、及び試験の共同実施等のキャパシ 機/年の受注から2機/年の受注を実現したい。 ティ・ビルディングも含めたパッケージ提案 これにより当社宇宙事業全体では2020年には を各国に求めている。これらの要求はメーカ 現状から倍増となる1,500億円への規模拡大を 単独では実現が難しいことから、関係省庁及 実現することで、世界の衛星メーカのトップ び関係機関の一層のご支援をお願いしたい。 5に食い込みたいと考えている。 もう一つは、製品競争力強化に向けた政府予 3