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京都精華大学人文学部1年次留学生対象必修日本語ø¿ における

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京都精華大学人文学部1年次留学生対象必修日本語ø¿ における
−2− 京都精華大学人文学部1年次留学生対象必修日本語ø¿におけるレポート・論文指導概要報告
京都精華大学人文学部1年次留学生対象必修日本語ø¿
におけるレポート・論文指導概要報告
江 口 英 子
EGUCHI Eiko
1.はじめに
大学入学志願者の合計と大学入学定員合計が同数になるといわれる2007年1を前にして,京
都精華大学ではさまざまな取り組みが行われている。2006年度には,現在の芸術学部が再編さ
れ,新たにデザイン学部,マンガ学部の2学部が立ち上がり,芸術学部には,従来の造形学科
に加え,素材表現学科,メディア造形学科が設置される。すでに人文学部では,人文学科にか
わるものとして,2000年度に発足した環境学科に加え,2003年度に社会メディア学科,文化表
現学科が立ち上げられ,3学科体制が実動している。
そして,これら一連の変化にともなう「改革」のなかに,2005年度から開始された留学生も
含むすべての人文学部1年生を対象とする「導入教育」の充実がある。この「導入教育」は,
「ゆとり教育」がはじまって最初の高校卒業生を本学に迎えるために用意された。2005年現在,
前期に置かれている「入学セミナー(大学入門)」,そして,通年で置かれている「日本語リテ
ラシー」が「導入教育」を担う主な科目であり,それに加えて通年で置かれている「情報リテ
ラシー」も,2005年度より「導入教育」に合わせコース内容を変えたという。
人文学部1年次留学生は,「導入教育」と必修日本語ø¿を同時に受講することになる。必
修日本語ø¿では,2001年度からレポート・論文の書き方を指導しているので,両者の整合性
がとれていなければ,留学生が混乱する,貴重な時間を浪費する等の危険性が生じる。「導入
教育」が始まったことを,留学生にとって,より意味のある「日本語教育」を再考する好機と
とらえ,「日本語教育」を「導入教育」とより整合性のある効果的なものとするために,2005
年現在行われている人文学部1年次留学生対象必修日本語ø¿におけるレポート・論文指導内
容を開示し,これからの必修日本語ø¿のあり方を探りたい2。
本稿では,まず,2005年度の授業形態に至るまでの京都精華大学における日本語授業の流れ
を簡単にまとめ,次に,人文学部に在籍する留学生の紹介,現行の必修日本語ø¿の位置づけ
と意義,必修日本語ø¿の授業内容(コース概要,シラバス・デザイン,教材,教授法,評価)
について報告したあと,改善案を示す。
京都精華大学紀要 第三十号
−3−
2.人文学部1年次留学生対象必修ø¿の流れ― Japanese for General
Purposes から Japanese for Specific Purposes へ
1989年に短大から4年制へと移行した当初,人文学部における1年次留学生対象必修日本語
授業は,20単位(日本人学生は必修英語20単位)であったが,1993年度から8単位となった。
当時,人文学部1年次留学生対象必修日本語ø¿と芸術学部1年次留学生対象必修日本語1・
2は合同クラスで授業が行われていた。教授内容は,いわゆる Japanese for General Purposes3
(以下 JGP と略す)で,多用な活動を取り入れ,プリント教材を多用して,大学生として学習
するときに必要な「読む」,「書く」技能に重点を置きながら,「聞く」,「話す」技能も加え4
技能を伸ばすことを目指した。
京都精華大学が新学科増設の条件として受け入れ留学生数を拡大4しはじめた1999年,芸術
学部,人文学部合同の1年次留学生対象必修日本語クラスは学部別クラス編成となった。また,
留学生の増員にともない,留学生間の日本語における能力差から生じる問題を解決するために,
両学部ともレベル別編成の複数クラスを用意した5。上位クラスは日本語能力試験1級6高得点
合格から2級合格レベル,日本語力の不足している学生からなるクラスは2級合格から3級7
合格レベルの留学生も含まれる。なお,人文学部の必修日本語はø¿¡¬で8単位と変わって
いないが,必修日本語ø¿については日本語能力の不足している学生からなるクラスに限り,
正規の必修クラス2コマに補習クラスを1コマ加え週3コマで2単位とした。
すでに大学に入学している1年次留学生対象の「日本語教育」が大学の正規授業と並行して
行われていることを考えれば,従来の4技能を伸ばすことを目的とした JGP は迂遠な方法だ
と考えざるを得ない。大学で学ぶ留学生にとって,確実に役立つ授業を目指し,2001年度から
人文学部必修日本語ø¿の授業内容を Japanese for Specific Purposes8(以下 JSP と略す)とし,
レポート・論文指導を主眼にすえた。
人文学部に関しては,2002年度9まで必修日本語ø¿¡¬で8単位だったが,2003年度に外
国語科目の卒業要件8単位の内訳は必修が4単位,選択必修 10が4単位となった。この結果,
留学生対象必修外国語科目は1年次必修日本語ø¿の4単位だけとなり,時間的な制約の中で
必要な教授項目を絞って効率的に教えることがますます重要となった。
2005年度人文学部1年生対象の「導入教育」を「日本語リテラシーø¿」,「入学セミナー
(大学入門)」,「情報リテラシーø¿」等が行うことになった。具体的には,「日本語リテラシ
ー」では読み書きが,「情報リテラシー」の前期ではワープロソフトを使ってレポートの書き
方等が教えられている。また,「入学セミナー(大学入門)」で使用されている教科書『大学入
門』11によれば,前半は“学問する場”としての大学について考えた後,京都精華大学の歴史や
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履修のしかたが教えられる。そして,後半は大学で学ぶときに必要とされる具体的なスキル,
すなわち,講義の聴き方,本の読み方(第7章「本を読む」,第2節「本を読むときの心得」,
第3節「実際に本を読んでみる」),レポートの書き方(第8章「文章を書く」,第2節「レジ
ュメの書き方」,第3節「レポートの書き方」)等が教えられる。
上記のような流れのなかで,「日本語リテラシー」の一部を留学生対象の日本語担当教員が
受け持つことにより,留学生対象必修日本語ø¿補習クラスがなくなり,必修日本語ø¿は全
クラスとも火曜,金曜の3時間目に1コマずつ週2コマ,ゾーニングされることとなった。
3.京都精華大学人文学部に在籍する留学生
本節では,京都精華大学人文学部に在籍する留学生を簡単に紹介したい。出身地は,中国,
インドネシア,べトナム,韓国,台湾,モンゴル等,アジア地域がほとんどである。年齢は20
代前半を中心に,30代までとなっている。留学生の若年化,出身国の社会変化にともない,こ
こ10年間で,意識や生活態度は留学生と日本人学生の差がだいぶ縮まったようだ。とはいえ,
自らの意思で来日し,身銭をきって学ぶ留学生は,大学の授業に対してコスト―ベネフィット
を意識し,特に日本語や「導入教育」については役に立つことを短時間で効率的に学ぶことを
期待するようである。さらに,留学生は日本人学生とくらべて年長者が多く,母国では社会人
として働いていた者もおり,平均的に社会経験が豊富で,成熟度も高めだといえる。
多くの留学生は,学位を取ってよりよい仕事に就く,さらに大学院に進んで国の大学で教え
る等,それぞれに留学の目的を持ち,学習に意欲的でよく努力する。しかし,経済的な困難は
多数の留学生に共通の問題であり,ごく一部の富裕層を除いて,学費,生活費をアルバイトと
奨学金で捻出する者がほとんどである。中には学業とアルバイトの両立が難しくなり,予習,
復習,課題作成,試験準備等にさく時間が足りなくなって,学業に支障をきたす者もいる。
留学生の日本語力,論理的な思考力については,相当なばらつきがある。非漢字圏出身の留
学生は「聞く」,「話す」は優れているが,漢字が壁となり,「読む」,「書く」場合に困難を覚
える者が多い。逆に,漢字圏出身の留学生は「読む」,「書く」は優れているが,「聞く」,「話
す」が苦手という者が少なくない。人文学部の留学生の習熟度については,日本語能力試験1
級に高得点で合格した学生から,日本語能力試験3級合格程度の学生までレベルもさまざまだ
が,平均すれば日本語能力試験2級合格程度だと思われる。
京都精華大学紀要 第三十号
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4.必修日本語ø¿の位置づけと意義
留学生といえども一旦大学に入学すれば,一般教養科目,専門科目で学ぶに際して,専門用
語を多用し,レポート・論文にふさわしい「形式」,つまり,レポート・論文に特徴的なこと
ばの規則と「組み立て方」,つまり,レポート・論文の構造で書かれた文献に当たらねばなら
ない。また,学期の途中で提出するレポートや期末レポートでは,レポート・論文の「形式と
組み立て方」で書くことが要求されることが多い。たとえ日本語能力試験1級に高得点で合格
した留学生であっても日本語は第二言語であり,母語話者である日本人学生とは語彙の量,表
現の幅,文法的正確さ,産出のスピード,社会言語的な適切さ等に大きな隔たりがあることは
否めない。
また,一般教養科目や専門科目に関する背景知識についても,背景知識自体が不足していた
り,母国と日本ではそれぞれの分野の背景知識と考えられているものにズレがあったり,すで
に持っている背景知識を日本語で言語化し応用するのに困難をともなったりすることは珍しく
ない。ここから見れば,日本の大学において一般教養科目,並びに専門科目のレポートを作成
し,最終的に卒論へと進む過程で,第二言語としての日本語で学習するというハンディを負う
留学生のための準備教育の一部としてレポート・論文作成の指導は必要であろう。
留学生の若年化にともない,本学に入学する前に大学で学んだ経験を持つ者は極めて少なく
なった。そのほとんどは日本国内の日本語学校から本学に入学している。一般に日本語学校で
は,JGP が教えられており,作文授業では,文型練習のための作文,エッセイ・タイプのモデ
ル文に基づいて書く作文,身近な話題や自分の思いを書く作文,手紙の形式を学ぶための作文,
社説等の要約,そして,感想文等が多く,上級クラスでもレポート・論文指導を集中的に行っ
ているところは少ない12。
そのような背景を考慮して,必修日本語授業ø¿では,これまで日本語で論文を書いたこと
がない,あるいは何回か書いたことがあるが,まだうまく書けない留学生のために,論文の
「形式と組み立て方」をできるだけわかりやすく順序立てて教える。そして,日本国内の日本
語学校や母国の教育機関で培ってきた留学生の日本語力を,大学における一般教養科目,専門
科目を学ぶ際に要求される日本語力へ近づけるための橋渡しをすることを目指す13。
そのため,必修日本語ø¿におけるレポート・論文指導の目標は,「与えられた情報を整理
し,レポート・論文の『形式と組み立て方』に則って,意図したことが自分のことばで読者に
誤解なく伝わるようにまとめることを学ぶ」ことに限定した。したがって,この授業では,問
題意識を持つことや新たなアイデアを持つこと等を特に要求しないし,ある分野の学問的面白
さを伝えること等も行わない(付随的学習として留学生が問題意識を持ったり,ある分野が面
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白くなったりすれば,大変うれしいことであるが)。年間90分授業60回という制限のある日本
語授業の目指すものは,中・上級で必要な日本語の読み書き能力を養いながら,レポート・論
文作成の基本の基本を身に付けることなのである。
5.人文学部1年次留学生対象必修日本語ø¿の授業内容
5.1コース概要
人文学部必修日本語ø¿のコース概要は以下のとおりである。まず,コースの前半は,レポ
ート・論文の「形式」に焦点をしぼり,原稿用紙の使い方からはじめ,レポート・論文にふさ
わしい文体,文のレベルで気をつけるべき句読点,記号などの使い方を練習する。次に,客観
的な文を書くために事柄に視点をあてた文を練習し,その後主述関係を意識して読者に誤解さ
れることのない文を書く練習をする。さらに,大学でレポート・論文を作成するときに重要な
ポイントとなる引用のしかた,参考文献の書き方を学ぶ。
コースの後半は,レポート・論文の「組み立て方」に焦点をしぼり,段落内の構造,段落と
段落のつながりを意識させた上で,定義する,要約する,時間軸に沿って説明する,分類して
それぞれの特徴を述べる,因果関係を説明する,グラフや表を使って比較・対照する等,論文
の展開方法を学ぶ。最終的には,2000字程度の調査報告型/資料まとめ型レポートが書けるよ
うにする。
5.2シラバス・デザイン
シラバス・デザインに関しては,教科書として用いている2003年に出版された二通信子,佐
藤不二子著『改訂版留学生のための論理的な文章の書き方』スリーエーネットワークに準じ,
複合シラバスを使う。具体的には,前半のレポート・論文の「形式」に重点を置く部分では,
主に文法シラバスを用い,後半のレポート・論文の「組み立て方」に重点を置く部分では,主
に文章構造/談話構造シラバスを用いる。以下は,毎年使われるおおよそのシラバスである。
授業回数
前期
学習内容
1回目
オリエンテーション,原稿用紙の使い方,レポート・論文の文体導入
2・3回目
レポート・論文の文体(文末表現・文末以外の表現,練習)
4・5回目
事柄に視点をあてた文(動作主に視点をあてた文との違い,対応す
る自動詞と他動詞がない場合にそれに代わる受身形と使役形の導
入,練習)
京都精華大学紀要 第三十号
6・7回目
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助詞「は」と「が」の使い分け(連体修飾節の主語の「が」,主題
を示す「は」,「象は鼻が長い」タイプの文14,対比の「は」,練習)
8・9回目
語や文の名詞化(動詞・形容詞・形容動詞の名詞化,名詞化と助詞
の使い方,形式名詞,練習)
10・11回目
首尾一貫した文(主語・述語の対応,接続の関係,並立の関係,一
つの文に一つの内容,練習)
12・13回目
句読点の打ち方(修飾の関係,練習)
14回目
レポート・論文で使われる記号の使い方(練習)
15・16回目
引用のしかた・参考文献表の書き方(練習)
17回目
ここまでの総復習
18回目
必修日本語ø¿全クラス共通中間試験(達成度テスト)
19回目
中間試験フィードバック
20・21・22回目
段落(段落内の構造,段落相互の関係,モデル文提示,練習,課題
作文)
23・24回目
仕組みの説明(全体の概要から個々の事柄を説明する,モデル文提
示,文型,練習,課題作文)
25・26回目
時間軸に沿った説明(取り上げる対象の概要の後,時間軸に沿って
説明する,モデル文提示,文型,練習,課題作文)
27・28回目
レポート・論文の全体像(調査報告型/資料まとめ型のレポート,
アウトライン提示,モデル文提示,練習,期末レポートにつなげ
る)
29回目
人文学部必修日本語ø¿・芸術学部必修日本語1・2 共通実力試
験(習熟度テスト)
30回目
後期 1回目
2・3回目
期末試験(達成度テスト),期末レポート提出
オリエンテーション,前期期末試験・期末レポートのフィードバック
分類(分類してそれぞれの特徴を述べる,分類の基準,モデル文提
示,文型,練習,課題作文)
4・5回目
定義(短い定義のしかた,まだ社会的に十分定着していない概念の
定義のしかた,モデル文提示,文型,練習,課題作文)
6・7・8回目
要約(要約して引用する,複数の段落から構成される文章を要約す
る,モデル文提示,文型,練習,課題作文)
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9・10・11回目
比較・対照(よく似たものの比較・対照,相反するものの比較・対
照,グラフを使った比較・対照,モデル文提示,文型,練習,課題
作文)
12・13回目
因果関係(ある現象や事柄が起きた有力な要因を考え,それらを論
理的に関係付ける,モデル文提示,文型,練習,課題作文)
14回目
ここまでの総復習
15回目
必修日本語ø¿全クラス共通中間試験(達成度テスト)
16回目
中間試験フィードバック
17・18・19回目
論説文(レポート・論文の「形式と組み立て方」で書かれた長めの
論説文を構造に焦点をあてて読む,文型,練習)
20・21・22回目
資料の利用(数値の使い方,資料の探し方,資料の利用にあたって
の注意点,図表の説明,モデル文提示,文型,練習,課題作文)
23・24・25回目
レポート作成(意見主張型のレポート作成方法,レポートの構成,
アウトライン作成方法,モデル文提示,期末レポートにつなげる)
26回目
ビデオ教材を使ったレポート作成の総まとめ
27回目
応用練習
29回目
応用練習
30回目
期末試験(達成度テスト),期末レポート提出
上記のシラバスから,特に日本語母語話者に対する教育と留学生に対する教育の違いを示す
例をいくつかとりあげ説明したい。まず,学習項目の中から「事柄に視点をあてた文」15を紹介
し,次に,他の授業との関連で重要と思われる学習項目,引用,参考文献の書き方について述
べたい。
日本語を母語としない留学生には,手がかりとなる日本語の規則を明示的に与える必要があ
る。その例として,「事柄に視点をあてた文」を取り上げる。レポート・論文では,「動作主に
視点をあてた文」だけでなく,「事柄に視点をあてた文」がよく使われる。動作主に視点をあ
てるか,事柄に視点をあてるかにより,他動詞を使うか自動詞を使うかが決まり,また動詞の
形も決まる。ただし,日本語の動詞すべてに他動詞・自動詞があるわけではないので,「事柄
に視点をあてた文」を作る場合に知っておくべき3つの方法を導入する。
1)対応する自動詞がない場合は受身形が使われる。
例)学生たちがフィールドワーク発表会を行った。(他動詞文)
(学生たちにより)フィールドワーク発表会が行われた。(受身文)
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2)対応する自動詞がない場合は使役形が使われる。
例)(炭酸ガスの増加により)大気の温度が上昇する16。(自動詞文)
炭酸ガスの増加が大気の温度を上昇させる17。(使役文)
3)一つの動詞が自動詞にも他動詞にも使える。
例)(京都市により)交通渋滞の問題が解決した。(自動詞文)
京都市は交通渋滞の問題を解決した。(他動詞文)
「動作主に視点をおく文」,「事柄に視点をおく文」という学習項目は,留学生にとって「視
点をおく」という概念を理解するだけでも努力を要する。その上,この概念と結びつけて,自
動詞・他動詞,受身形,使役形というやや難度の高い既習項目を復習することになるので,留
学生も担当者も毎年苦労する。留学生がレポート・論文を書くに際して,言語の規則に関する
知識は,正誤を判断するとき,自分の文章を修正するときにも重要な役割を果たす。この学習
項目についても,レポート・論文に特徴的な文とそれを書くにあたって必要な言語の規則をセ
ットで教えることは効果があると思われる。
人文学部1年次留学生対象必修日本語ø¿で行っているレポート・論文指導では,引用のし
かた,参考文献の書き方にかなりの比重を置いている。というのは,第一に,他人が言ったり
書いたりしたことを,出典を示さず使ったり自分が言ったり書いたりしたことのように使うこ
とは,許されない行為であることを留学生にしっかりわかってもらう必要があるからである。
さもないと,自分のことばでレポート・論文を書くのが難しい段階では,字数の多い課題が出
た場合,字数に圧倒され,インターネットで見つけた HP の論文を丸写ししてしまったり,参
考文献の切り貼りになってしまったりする危険性がある。第二に,大学で提出するレポートで
は,数多くの文献にあたって,それを論拠として適切に引用しながら,まとめて報告したり,
自分の主張を展開したりすることが要求されるからである。
上級生になれば卒業論文に備えて,専門ゼミの担当教員がその分野にふさわしい引用のしか
た,参考文献表の書き方を教える。人文学部はその名が示すように,極めて幅広い専門分野を
提供している。したがって,必修日本語ø¿では,ごく一般的な引用のしかた,参考文献の書
き方18を教えることにしている。
5.3教材
教材に関しては,2001年から現在にいたるまで,レポート・論文作成を目的とする必修日本
語ø¿全クラスの教科書として,『改訂版留学生のための論理的な文章の書き方』スリーエー
ネットワーク19を,また,ビデオ教材として,日本図書館協会監修「図書館の達人第6巻レポ
ート・論文のまとめ方」「新・図書館の達人第6巻レポート・論文作成法:誰にでも書ける10
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のステップ」紀伊国屋書店を使用している。
自主作成教材に関しては,「文体練習,自動詞・他動詞,視点の移動,助詞の使い分け,語
や文の名詞化,主部述部の対応,修飾関係,読点の打ち方,要約,図表説明等の練習プリント」
,
「ビデオ教材『図書館の達人第6巻レポート・論文のまとめ方』,ビデオ教材『新・図書館の達
人第6巻レポート・論文作成法:誰にでも書ける10のステップ』のタスクシート」,そして,
非漢字圏の留学生用に「教科書の各課別漢字読み方プリント」他を作成し使用している20。
教科書以外に自主作成教材を使用する理由としては,学習項目を理解し自分のものにできる
よう,十分練習し,応用する必要があること,また,日本語力の不足している学生からなるク
ラスの学習者にとっては教科書に出ているモデル文や練習・課題に難しい部分があり,その部
分については,学習者のレベルにあった別のモデル文や練習・課題を用意し噛み砕いて教える
必要があったことがあげられる。
5.4教授法
教授法は媒介語を使わない直接法で,主に一斉指導と個別指導の組み合わせとなる。ただし,
課題作文が自由課題の場合にテーマの候補をあげたり,与えられたテーマの内容を膨らました
りするためのブレイン・ストーミングや,課題作文のフィードバック活動で,ペアー・ワーク
やグループ・ワークを行うことがある。授業の進度については,教科書『改訂版留学生のため
の論理的な文章の書き方』を,前半はおよそ2コマで1課,後半はおよそ3コマで1課のペー
スで進む。課題作文,期末レポートについては,合格レベルに達するまで書き直しを行う。
指導手順の例
コース後半1課1コマ目
1.挨拶
2.出欠席確認
3.当該授業の目的と教室活動の概要説明
4.前回の課題作文のフィードバック
5.学習項目の導入
6.モデル文1の重要語句導入
7.モデル文1の提示と構造分析
8.モデル文1の理解問題
9.練習
10.まとめ
11.挨拶
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2コマ目
1.挨拶 2.出欠席確認
3.当該授業の目的と教室活動の概要説明
4.前回の復習と書き直し課題作文のフィードバック
5.学習項目の導入
6.モデル文2の重要語句導入
7.モデル文2の提示と構造分析
8.モデル文2の理解問題
9.練習
10.まとめ
11.挨拶
3コマ目
1.挨拶 2.出欠席確認
3.当該授業の目的と教室活動の概要説明
4.前回の復習
5.学習項目の確認
6.課題作文に使われる文型の導入
7.課題作文の説明
8.クラス全体,あるいはグループ,ペアーによる課題作文のテーマ,アウトライン
作成等についての話し合い
9.個人による課題作文作成と個別指導
10.まとめ
11.挨拶
実際,それぞれの担当者が学習者に合わせていろいろな工夫をしながら授業を組み立ててお
り,上の授業手順はあくまでも一例に過ぎない。できるだけ,教室内で課題作文を完成させる
よう努力はしているが,時間が足りず宿題となる場合も多い。なお,課題作文の書き直しは宿
題となる。
5.5評価
必修日本語ø¿の評価については,専任教員が同一の計算式で素点を計算し成績管理をする。
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具体的には,1クラスを担当する2人の担当者21が平常点(課題提出,授業参加等),中間試験,
出席率,期末試験/期末レポートの4項目について素点を出し,各項目の平均点を最終的な素
点とする。ただし,出席率に関しては,素点100∼80点は一律85点,79∼70点は一律75点,69
∼60点は一律65点とする。次に,出てきた素点を平常点(20%),中間試験(20%),出席率
(30%),期末試験/期末レポート(30%)の割合で重み付けし,合計100点満点とする。この
計算式により出てきた点数を大学の基準に照らして,最終的にA,B,C,H(保留),K
(棄権),F(不合格)の成績をつける。
このような成績のつけ方をするのは,以下の理由による。現在,留学生対象の奨学金は成績
の上位者に給付されるので,成績は留学生に重要視されている。したがって,万一留学生が成
績のつけ方について疑問を抱いた場合,成績のつけ方の根拠を明確に説明する責任がある。上
記のような方法を採ることによって,留学生に対し日本語授業の成績は明確な基準に基づき在
籍者全員について同じ方法で計算して出すことを説明し,要望があれば点数がどのようにして
出てきたかを公開することができる。
最後に,試験と期末レポートについて簡単な説明を付け加える。まず,前期・後期に行う授
業内容の達成度を測るための共通中間試験とその採点基準については,必修日本語ø¿を担当
する担当者が協議して毎年改定を重ねている。クラス別の期末試験は各担当者の責任で問題作
成と採点を行っている。期末レポートに関して,日本語力の低い学習者からなるクラスについ
ては,チェックリストを渡し,自分のレポートをチェックすることを求めたり,期末レポート
を早く提出し,書き直しを繰り返して,より完成度の高いレポートを仕上げることを促したり
している。
6.今後の改善に向けて
異文化の視点を持ち,社会経験も豊富な留学生は,京都精華大学人文学部の貴重な資源であ
る。言語の壁を乗り越え,留学生がさまざまな場面で積極的に発言することは大学の活性化に
もつながる。これを実現するためのはじめの一歩として,人文学部1年次留学生対象必修日本
語ø¿では,留学生が大学で学ぶときに役立つ日本語授業を目指し,「与えられた情報を整理
し,レポート・論文の『形式と組み立て方』に則って,意図したことが自分のことばで読者に
誤解なく伝わるようにまとめることを学ぶ」という限定的な目標を設定した。というのは,言
語の壁にくわえて,アルバイトと学業の両立も要求されるという厳しい条件下にある留学生に,
レポート・論文の基本の基本を一歩一歩確実に身に付けてもらいたかったからである。
2001年度から2005年度前期まで,4年半レポート・論文指導を続けてきたが,改善の余地が
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残されている。特に2005年度に「導入教育」がはじまってから,「日本語教育」に期待される
ことは,日本人学生と留学生両者に共通して必要な部分を人文学部全1年生対象の「導入教育」
にまかせ,留学生に固有の困難点に集中するということに変わってきたように思う。
人文学部1年次留学生対象の必修日本語ø¿の改善点として,以下の3点をあげたい。第一
に,これまでは産出(production)に重点を置いてきたが,これからはレポート・論文の理解
(comprehension)に比重を置きながら,レポート・論文の構造分析ができるようになることを
目指すコースを考えること,第二に,第一のポイントをふまえて,自律した学習者として,自
分で自分の書いたものがチェックできるようになること,そして,第三に,人文学部全1年生
を対象とした「導入教育」で教えていることと必修日本語ø¿で教えていることを調整するこ
とである。
まず,「レポート・論文の理解(comprehension)に比重を置きながらコースを考えること」
について説明したい。現在の必修日本語ø¿では,前半は「形式」,つまり,レポート・論文
に特徴的なことばの規則に焦点をあてているため,前期は主にいわば断片的な節や文を扱うこ
とになる。段落やレポート・論文の「組み立て方」を意識化させるための,まとまった長さの
あるモデル文は,前期が終わりにさしかかったころにやっと出てくることになるが量が少な
い。
留学生のレポートを読むと,参考文献の中から自分が理解できた部分だけを全体の文脈を把
握せずに切り取って引用したり,筆者の主張をとりちがえて引用したりしているものが多い。
また,簡単な説明であっても,情報を整理する作業をせずに思いつくまま書いてしまっている
ものも目に付く。いずれも,論理的な文章の読解練習不足に起因するものだと考えられる。大
学においては,参考文献や先行研究を「読む」ことがレポート・論文を「書く」ことに先んず
ることを考えれば,コースのはじめから「組み立て方」を意識化させるためのまとまった長さ
のあるモデル文を導入し,レポート・論文の文章を分析的に読みつつ22「形式」も教えること
が効果的だと思われる。
次に,大学で学ぶについて「自律的な学習者となる」ことは,必修日本語ø¿において極め
て重要なポイントである。「レポート・論文の理解(comprehension)に比重を置いたコース」
では,第一のポイントで書いたように,繰り返しモデル文の構造を分析し,留学生がレポー
ト・論文を読むときに常に構造を意識することを目指す。これを踏まえて,レポート・論文の
構造を押さえ,自律的な学習を目指すためにステップ・バイ・ステップで課題作文を用意する
ことが必要であろう。
現在のレポート・論文指導では,留学生は合格するまで何度も何度も課題作文の書き直しを
する。しかし,それは担当者がヒントを与えたり,朱を入れたりしたところを受動的に直すこ
−14− 京都精華大学人文学部1年次留学生対象必修日本語ø¿におけるレポート・論文指導概要報告
とにとどまり,自律性が養われる教え方にはなっていない。そこで,課題作文をレポート・論
文作成のプロセス(A書く前にテーマについてのアイデアを出す,Bアウトラインを作る,C
下書きを作成する,D修正・校正・編集する,E最終原稿を作成する23)を体得するためにス
テップ・バイ・ステップでテーマやアウトライン等をある程度指定して課題作文を与える。さ
らに,段落の構成や,内容,文法等のチェックリストを使って担当者に提出する前に注意すべ
き項目を自分で確かめる習慣をつけ,最終的には自分で自分の作文を批判的に読み,修正する
ことのできる力をつけることを目指す。このような課題作文を用意することにより,ポイント
を絞ることができるだけでなく,「書く」ことにかける時間を効率的に短縮できると考える。
最後に,
「『導入教育』で教えていることと必修日本語ø¿で教えていることを調整すること」
とは,例えば,「導入教育」の各教科が課している期末レポートを必修日本語ø¿では課さな
いこと,また,「入学セミナー(大学入門)」等で教えている参考文献表の書き方は教えない24
こと等である。このようにして複数の教科間の重なりをできるだけ少なくし,留学生の負担を
軽減することにより,一つ一つのレポートをレポート・論文作成のプロセスに則って熟考し何
度も手直しした上で完成することが可能になると考える。
本稿では,人文学部1年次留学生対象必修日本語ø¿について,2001年度から2005年度前期
に行ったレポート指導の概要を報告したのち,これを検討してこれからの授業のあり方を探っ
た。これからの人文学部1年次留学生対象必修日本語ø¿の目標を「レポート・論文をその構
造を意識して読み解き,レポート・論文作成のプロセスに則り,自律的にレポート・論文を修
正・校正・編集し作成すること」へと移行するため,「導入教育」との調整を図りながら,留
学生が大学で学ぶに際して,より役に立つコース作りを考えてゆきたい。
謝辞:本稿を作成するにあたりご協力いただきました日本語担当非常勤講師,専任教員,教務
課職員のみなさまに厚く御礼申し上げます。
(注)
1
「18歳人口が減少を続ける中,大学・短大の収容力は2007(平成19)年には100%に達するものと予
測される(従前の試算より2年前倒し)」。(第36回中央教育審議会大学分科会2004年8月6日「21世紀
日本の高等教育の将来構想〈グランドデザイン〉」文部科学省 HP http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/
chukyo/chukyo4/gijiroku/001/04081801/006.htm)中央教育審議会大学分科会で取り上げられた「2007年問
題」は,大学の危機感を増幅させた。
2
本稿は,読者として,日本語教育関係者ではなく,主に学内の教員,教務関連の職員を想定している。
そのため,内容は日本語教育関係者にとって,新味のない月並みなレポート・論文指導コース紹介とな
京都精華大学紀要 第三十号
−15−
っていることを予めお断りしておきたい。
3 一般目的の日本語能力。
4
財政的な処置に関しては,2000年度から2003年度にかけ,留学生数の拡大にともない予算の増額があ
った。このおかげで,資料収集(教科書,問題集,日本語能力試験関連試料・日本留学試験関連資料,
視聴覚教材,PC 用教材,データブック等),消耗品購入(原稿用紙,印刷関連用品,ビデオテ−プ,オ
ーディオテープ,CD,DVD 等),教材,資料管理用ファイリング用品購入等が可能となった。また,教
材作成,試験作成,成績管理,定期的な担当者会議のための会合費等の財源が確保でき,レポート・論
文指導のコースの充実,改善が実現した。
5
クラス編成については,まず,入学前に行われる本学の日本語学習状況調査と入試の成績に基づいて
(日本語能力試験,日本留学試験の試験結果が出ていればその結果も参考にする)レベルを分ける。次
に,前期末に芸術・人文両学部で実施される実力試験(実力試験は日本語能力試験1級から2級レベル
の難易度で記述問題を含む習熟度試験である)の結果と成績を参考にして,クラスのレベルがあってい
ない学習者を調整し,後期にクラスを再編成する。
6
日本語能力試験の構成及び認定基準によれば,
「1級試験の構成は,文字・語彙,45分,100点,聴解,
45分,100点,読解・文法,90分,200点,計180分,400点。合格は70%,280点。認定基準は,高度の
文法・漢字(2,000字程度)
・語彙(10,000語程度)を習得し,社会生活をする上で必要であるとともに,
大学における学習・研究の基礎としても役立つような,総合的な日本語能力。(日本語を900時間程度学
習したレベル)」である。ちなみに,大学に入学するのに最低達していなければならないとされる「2
級試験の構成は,文字・語彙,35分,100点,聴解,40分,100点,読解・文法,70分,200点,計145分,
400点。合格は60%,240点。認定基準は,やや高度の文法・漢字(1,000字程度)
・語彙(6,000語程度)
を習得し,一般的なことがらについて,会話ができ,読み書きができる能力。(日本語を600時間程度学
習し,中級日本語コースを修了したレベル)」となっている。(ú日本国際教育支援協会「日本語能力試
験」HP http://www/jees.or.jp/)
7
日本語能力試験の構成及び認定基準によれば,
「3級試験の構成は,文字・語彙,35分,100点,聴解,
35分,100点,読解・文法,70分,200点,計140分,400点。合格は60%,240点。認定基準は,基本的
な文法・漢字(300字程度)
・語彙(1,500語程度)を習得し,日常生活に役立つ会話ができ,簡単な文章
が読み書きできる能力。(日本語を300時間程度学習し,初級日本語コースを修了したレベル)」となっ
ている。(ú日本国際教育支援協会「日本語能力試験」HP http://www/jees.or.jp/)
8
学習者がその専攻する学問や将来従事する職業において必要とする種類の日本語,およびその学習に
関する事柄を指す総称。例えば,看護師の業務を遂行するための日本語力(JOP),あるいは大学院で法
律を研究するための日本語力(JAP)をいう。
9
必修日本語ø¿¡¬の8単位は2001年度まで1年次必修となっていたが,2002年度のみ,必修日本語
−16− 京都精華大学人文学部1年次留学生対象必修日本語ø¿におけるレポート・論文指導概要報告
ø¿は1年次必修,必修日本語¡¬は2年次必修となった。
10
2005年度現在必修選択科目は,フランス語,中国語,朝鮮語,タイ語,上級英語,上級日本語,原典
講読から選択することとなっている。なお,2003年度,2004年度は必修選択日本語¡ƒが開講されてい
たが,受講人数が少なかったこともあり,2005年度は開講されていない。
11
松尾眞2005『大学入門』京都精華大学人文学部
12
ただし,現在ほとんどの日本語学校において,2002年に開始された日本留学試験日本語科目の「記述」
対策で作文を書く際に論理的能力が教えられている。日本留学試験対策で学ぶ論理的な作文とは,与え
られた主張に対して,第一段落で賛成か反対かの立場を決め,第二段落でその理由を述べ,第三段落で
まとめるものである。日本留学試験について以下簡単に説明したい。独立行政法人日本学生支援機構に
より,年2回国内外で行われている日本留学希望者対象の試験で,この試験を採用している大学の指定
により科目を選んで受験する。試験科目は,日本語(日本の大学等での勉学に対応できる日本語力〈ア
カデミック・ジャパニーズ〉を測定する),120分,400点,理科(日本の大学等の理系学部での勉学に
必要な理科〈物理・化学・生物〉の基礎的な学力を測定する),80分,200点,総合科目(日本の大学等
での勉学に必要な文型の基礎的な学力,特に思考力,論理的能力を測定する),80分,200点,数学(日
本の大学等での勉学に必要な数学の基礎的な学力を測定する),80分,200点。日本語については,(1)
構成:記述,読解,聴解,聴読解の4領域,(2)順序と時間:記述(20分間)→読解(30分間)→聴
解・聴読解(説明等を含め70分間)の順に実施,(3)得点範囲:読解は0∼160点,聴解は0∼120点,
聴読解は0∼120点の,合計0∼400点の範囲,記述は,文法的能力が0∼3点,論理的能力が0∼3点
の,合計0∼6点の範囲となっている。(日本留学試験〈EJU〉2004独立行政法人日本学生支援機構 HP
http://www.jasso.go.jp/examination/efjuafis.html)
13
アカデミック・ジャパニーズ研究会によれば,国内の日本語学校や母国の日本語教育機関で,「日本
語の文法の積み上げ学習をし,たくさんの言葉を覚えても,論理的な文章の読み書きのしかたがわから
ないために,大学…での勉学…に困難を感じている学習者が少なく」ない(アカデミック・ジャパニー
ズ研究会編著2001「はじめに」『大学・大学院留学生のための日本語A』アルク)という。このことか
らも,大学で学ぶ留学生に,わかりやすく段階を追って,レポート・論文指導をすることは必要である
ことがわかる。
14
主題となる人/動物・物・事柄の部分の性質/外観を述べるとき,「人/動物・物・事柄+は+部
分+が+性質/外観」となる文。例)このホテルは設備が新しい。
15
二通信子・佐藤不二子著 2003『改訂版留学生のための論理的な文章の書き方』スリーエーネットワー
ク pp.11-12
16
同上書 p.12
17
同上書 p.12
京都精華大学紀要 第三十号
18
−17−
必修日本語ø¿で教えている参考文献の書き方は,American Psychology,『京都精華大学紀要』,日本
図書館協会監修 2002『新・図書館の達人第6巻レポート・論文作成法:誰にでも書ける10のステップ』
紀伊国屋書店,日本図書館協会監修1993『図書館の達人第6巻レポート・論文のまとめ方』紀伊国屋書
店等で使われている形式とほぼ同じである。
必修日本語ø¿で教える参考文献の書き方の例:
・単行本の場合
田中克彦(2000)『「スターリン言語学」精読』岩波書店
・雑誌論文の場合
樋口直人(2002)「国際移民の組織的基盤―移住システムの意義と課題」『ソシオロジ』
第47巻2号 pp.55-72
なお,「導入教育」の一教科である「入学セミナー(大学入門)」の教科書,松尾眞 2005『大学入門』
では,必修日本語ø¿で教える参考文献の書き方とは異なる書き方が紹介されている。
19
『改訂版留学生のための論理的な文章の書き方』スリーエーネットワークの初版は2000年に出版され
ている。
20
これに加え,『大学・大学院留学生の日本語4論文作成編』アルク,『表現技術―伝える考えるための
演習ノート1』,『表現技術―伝える考えるための演習ノート2』,『表現技術―伝える考えるための演習
ノート3』,『表現技術補助プリント』創拓社(3冊とも絶版),『にほんご文法セルフ・マスターシリー
ズ1はとが』くろしお出版,一般用・中高生用のデータブック,『日本語文章能力検定4級問題集』オ
ーク他を参考資料としている。
21
担当者に関しては,専任教員1人と非常勤講師2人∼3人がレポート・論文指導にあたっている。そ
の配置については,2000年度から1クラスを1人の担当者が担当するのではなく,2人の担当者が1ク
ラス週2コマを1コマずつシェアするよう徐々に移行し,2002年度からはすべてのクラスについてそれ
ぞれ2人の担当者が担当することにしている。このような担当者の配置をすることにより,以下のメリ
ットがある。
まず,2人の担当者が複眼的に学習者の学習を観察し,それを授業にフィードバックしたり,評価に
反映したりすることができる。次に,2人の担当者がお互いに情報開示し,話し合うことで思い込みを
排除しながら授業の改善が実現できる。また,1人の担当者と学習者という密室を開放する一手段とな
り,担当者の教え方が学習者に合わないとき,担当者と学習者との相性がよくないときの安全弁となる。
最後に,担当者の与える日本語,教授法のバリエーションが豊かになることもあげておく。
22
構造を意識化させるために,モデル文をアウトラインに書き直すなどの課題を用意する必要がある。
23
… Prewriting for ideas, outlining, drafting, revising, and editing lead to carefully written final draft.
(Hodge, A. 1996. First Steps in Academic Writing. Addison-Wesley Publishing Company, Inc. ix) を筆者
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が意訳した。
24
引用については,意見文を書くときの論拠として要約と絡めて教えることを考えている。
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