Comments
Description
Transcript
「犯罪予測」は可能か :時間と空間に着 した犯罪分析
GIS-ASA科研学内ミーティング 140512 「犯罪予測」は可能か? :時間と空間に着⽬した犯罪分析 ⾬宮 護 システム情報系社会⼯学域 [email protected] はじめに:⾃⼰紹介 ⾬宮 護(あめみやまもる) 所属:システム情報系(社会⼯学域) 経歴:システム情報⼯学研究科修了 →警察庁科学警察研究所 →東京⼤学空間情報科学研究センター 専⾨:都市計画・犯罪学・空間情報科学 2 問題意識と関⼼のある問い 犯罪予防のための警察活動 や「まちづくり」,本当に 有効に⾏われているか? • 犯罪の時間・空間的分布 の特徴の研究 • 犯罪と都市空間の関連に 関する研究 • 警察活動,防犯まちづく りの効果検証 3 「都市と犯罪」という研究領域 http://www.math.yorku.ca/SCS/Gallery/guerry/ • 19世紀初頭犯罪統計の地図化に起源 • 1920’sシカゴ学派の社会⽣態学的研究 • 以来,犯罪学者・地理学者の興味の的に 4 犯罪の地理的研究:最近の例 ASC(⽶国犯罪学会) • • • • • • • • • 路上強盗犯の⽣活場所 近隣と犯罪:住⺠のネットワーク の視点から 交通ノードにおける犯罪の時空間 的動態性 犯罪集中の安定性:時空間的分析 ⼩地域における徒歩パトロールの 効果検証 犯罪と場所:スコットランドのバ ンダリズムの研究 場所の秩序違反性の分析 場所・時間と強盗リスクの関係 殺⼈の空間パターン ・・・ AAG(⽶国地理学会) • 犯罪分析の⾃動化 • ポーランドにおける犯罪の地理的分析 • ドアに鍵を:カルガリーの犯罪及び犯罪 不安の研究 • 台北における犯罪の時空間分析 • チェコにおける犯罪の地理的分布 • フレズノにおける⾃動⾞関連犯罪の時空 間分析 • ロンドンにおける犯罪分布の予測分析 • テキサスにおける⼈種,緑地,犯罪の地 理的関係 • 都市犯罪の時間と空間のリズム性 ・・・ 犯罪学と地理学,双⽅からの関⼼ 5 研究の⼤きな流れ: 空間分析から時空間分析へ • Space, Time, and Community Change • Space, Time, and Microenvironments of Crime • CrimeStat II: Multivariate Spatial and Temporal Modeling with CrimeStat • Temporal and Spatial Trends in Sexual Victimization … ASCでの主な演題 “CAST” by GeoDa Center 対応する分析ソフ トウェアも登場 6 本⽇の話題 「犯罪予測」は可能か :時間と空間に着⽬した犯罪分析 • 海外での研究・実務の動向 • ⽇本での可能性 7 犯罪が起きる前に警察が来る!? New York Times, 15 Aug. 2011 http://www.nytimes.com/2011/08/16/us/16police.html 8 プロアクティブな警察活動 • 犯罪関連のビッグデータ から動的に「次の」犯罪 発⽣を予測.それに基づ く警察活動. • 2005年NYPD「リアルタ イム犯罪分析センター」 (RTCC)で実装.以後, 複数都市に波及. • 新しい警察活動 “Predictive Policing” Time誌 “The 50 best Inventions of The Year 2011” に選定 (Perry et al.,2013) 9 http://www.chinadaily.com.cn/photo/2010‐05/14/content_9850832_5.htm 基盤技術としての「地理的犯罪予測」 • データ分析に基づ き,将来の犯罪発 ⽣の時間と空間を 予測する技術 • 時間・場所を絞っ た資源の配分,効 率的な警察活動へ の応⽤ “ProMap” (Johnson et al.,2004) 10 様々な地理的犯罪予測の⼿法 分類 概要 ホットスポット分析 過去の⼀定期間における犯罪の集積地区を,そのま ま将来の犯罪発⽣の可能性の⾼い地区と考えるもの. (Hot Spot Analysis) 回帰分析 (Regression Methods) データマイニング (Data Mining) 近接反復被害法 (Near-Repeat Methods) 時空間分析 (Spatiotemporal Analysis) リスク⾯分析 (Risk Terrain Analysis) 過去の犯罪数に加え,当該罪種以外の罪種の件数や, ⼈⼝等の犯罪に関連するその他の変数を独⽴変数と し,回帰分析によって将来の犯罪数を予測するもの. ⼤量のデータをもとに,クラス分類やクラスタリン グなどのデータマイニング⼿法によって将来の犯罪 数を予測するもの. 1件の犯罪と次の犯罪の時空間的な近接性に基づい て,将来の犯罪を予測するもの. 犯罪集中地区の短期〜⻑期の時間変化に伴う移動パ ターンやそれに影響する諸要因から,将来の犯罪集 中地区を予測するもの. 犯罪に影響する空間的要因との近接性からリスク⾯ を作成し,将来の犯罪の発⽣を予測するもの. 11 Perry et al.(2013)をもとに作成 犯罪予測ソフトウェア • UCLA,サンタクララ⼤ 学,UCアーバインの数 学者,犯罪学者が警察と 共同開発 • 152m四⽅で,⽇ごとの 犯罪発⽣場所を予測. • LA,サンタクルーズ,シ アトル等で導⼊.⼤きな 成果. • 詳細なアルゴリズムは秘 匿(犯罪の点過程,環境 要因に加え,犯罪者デー タも⼊っている模様) “PredPol” 12 地理的犯罪予測はなぜ可能か 犯罪には時間的・空間的依存性がある 理論的根拠 1. 合理的選択論:犯罪者の空間⾏動はランダムで はなく,⼀定の合理性がある 2. ⽇常活動理論・犯罪パターン理論:犯罪は,犯 罪者・被害者・監視者の空間⾏動と関連がある 3. リスク不均⼀説:都市空間には,犯罪の機会が 不均⼀に分布している 4. ブースト説:⼀件の犯罪が起きると,それを契 機にして,近接・反復して犯罪が起きる 13 ⽇本での地理的犯罪予測は可能か? • ⽇本でも,犯罪の時間的・空 間的分布を別個に⾒た際の集 中傾向は確認. • 仮に,両者に⼀定の秩序が⾒ いだせるならば,地理的犯罪 予測の可能性はある. • しかし,犯罪数の少なさ,社 会経済的困難の空間への反映 の少なさ等の事情が,欧⽶と は異なる. • ⽇本での実証研究に基づく議 論が必要. 警視庁データをもとに作成 14 これまでに取り組んできた 時間と空間に着⽬した犯罪分析 菊池城治・⾬宮護・島⽥貴仁・⿑藤知 範・原⽥豊(2010)近接反復被害の罪種 間⽐較:時空間K関数の応⽤,GIS理論と 応⽤,18巻2号,pp.21-30 ⽇単位×地点単位での犯罪 の時空間的集積性の検討 ⾬宮護・島⽥貴仁(2013)東京23 区にお ける住宅対象侵⼊窃盗犯の地理的分布の 変化 -2001 年〜2011 年の11 年間を対象 に-,都市計画論⽂集,48巻1号,pp.6066 町丁⽬単位での犯罪の集 積性の年次変化 ⾬宮護(2013)潜在成⻑曲線モデルを⽤ いた地区レベルでの犯罪の時系列変化と 地区環境との関連の分析 -東京23区にお ける住宅対象侵⼊窃盗犯を事例に-,都 市計画論⽂集,48巻3号,pp.351-356 町丁⽬単位での犯罪の年 次変化と,社会経済的・ 物理環境的要因との関連 15 ⽇単位・地点単位での 犯罪の時空間的集積性の検討 16 ⽇・地点単位での犯罪の集積性= 「近接反復被害」 (Near-Repeat Victimization) Bowers & Johnson(2005) 「⼀件の犯罪が起こると,⼀定期間,⼀定 距離圏での被害リスクが⾼まる」 17 ⽇本でも本当に確認されるか? データ • 2008年に⾸都圏の ⾃治体Aの警察管内 で認知された刑法犯 • 粗暴犯,ひったくり ,⾞上狙い,住宅対 象侵⼊盗,事務所対 象侵⼊盗 • 発⽣⽇時と発⽣地点 データを含む 罪種 件数 粗暴犯 7395 ⾞上狙い 5905 住宅対象侵⼊盗 5159 事務所対象侵⼊盗 2657 ひったくり 1539 18 分析⽅法:時空間K関数 , 任意の点から時間 ・距離 内にある点の数 単位空間・単位時間あたりの点の数(=密度) Time t s Space 時空間的集積性の統計的検定: 犯罪発⽣⽇時を無作為に貼り かえるモンテカルロ・シミュレーション(試⾏数999) 19 (Diggle et al., 1995) 時空間的相互作⽤の尺度 , , Time sとtを変化さ せながら, 範囲内にあ る犯罪の地 点数を計算 t s Space D0は,ある犯罪から(s,t)の範囲内における相対的なリスクの ⾼さ(時空間的相互作⽤がない場合0)(Diggle et al., 1995) 20 分析結果 粗暴犯 (p=0.084) ⾞上ねらい 住宅対象侵⼊盗 (p=0.001) (p=0.001) 事務所ねらい ひったくり (p=0.001) (p=0.001) • 財産犯において 有意な時空間的 集積性 • 特に被害対象が 地理的に固定し た罪種で⾼い時 空間的集積性 21 ある被害から「250m×前後1週 間」の範囲の被害リスクの⾼さ 罪種 リスクの⾼さ(独⽴に発⽣す 粗暴犯 ns 1.38 3.17 3.60 2.13 ⾞上狙い 住宅対象侵⼊盗 事務所対象侵⼊盗 ひったくり る場合に⽐較し何倍か) • ⼀件の犯罪を契機に短期的,集中的に警 戒を強める警察活動は財産犯で特に有効 22 町丁⽬単位での犯罪の 集積性の年次変化 23 犯罪の地理的移動 空き巣 ひったくり 暴⾏ 犯罪は,時間とともに地理的に移動する もし移動に⼀定のパターンが⾒いだせれば ,地理的犯罪予測に役⽴てることができる 24 データ • 2001-2011年における 東京23区での住宅対象 侵⼊盗(空き巣+居空 き+忍び込み) • 年次×町丁⽬で集計さ れたデータ(11年次 ×3028地区) ※対象年次において⾮継続地区,世帯 数が10世帯未満の地区は除外) • 町丁⽬ごとに各年次の 世帯数で割り,1を⾜ した後,対数変換 25 分析⽅法①:GlobalなMoran’s Iの 年次変化 x:地区ごとの犯罪率(対数), w:空間重み (0 or 1), n:全地区の数, i,j:地区 • 犯罪の全体的な地理的集積傾向 • 年次ごとに算出,変化を⾒る + 26 分析⽅法②: LocalなMoran’s Iに基づく地区類型の 年次変化 x:地区ごとの犯罪率(対数), w:空間重み (0 or 1), n:全地区の数, i,j:地区 • 犯罪の局所的な集積の指標(地区ごとに算出) • HH地区を集積地区とし,年次ごとの量的・地 27 理的変化,年次間での相関を⾒る 結果:G-Moran’s Iの年次変化 • 犯罪数の減少に伴い,集積傾向は緩和 • ⼀⽅で,依然として有意な集積 28 L-Moran’s Iに基づく地区類型の 年次変化 • 年次問わず⼀定数のHH地区が存在 29 L-Moranʼs Iに基づく地区類型の 地理的分布の年次変化 凡例 HH地区 HL地区 LH地区 LL地区 30 隣り合う年次間での地区類型の関係 • HH地区,LL地区は固定化する傾向が強い • 変化にはあまり傾向はみられず • 空間的な収縮プロセスは?今後の課題 31 犯罪の年次変化と,社会経済的 ・物理環境的要因との関連 32 犯罪のホットスポットの移動= 地区ごとの犯罪率の時系列変化のばらつき • こうした「変化 のばらつき」は 何により⽣じて いるか? • 環境要因と⼀定 の関連があれば, 地区ごとに将来 の犯罪率を予測 できる 33 分析⽅法:データ(独⽴変数) 参照理論 地域特性 指標 データソース 社会解体論 居住流動性 民営借家居住世帯比率,5年定住世帯比率 社会経済的困難 公営UR居住世帯比率(LN),年収300万以下世 帯比率,*完全失業率,*離婚率,*母子世帯率 国勢調査(2000年,2010年) 国勢調査(2000年,2010年),JPS 「年収階級別世帯数推計データ」 (2000年,2010年) 国勢調査(2000年,2010年),JPS 「年収階級別世帯数推計データ」 (2000年,2010年) 日常活動理論 魅力的な対象 動機付けられた犯罪者 有能な守り手 防犯環境設計論 地区の通り抜けやすさ 他用途との混在 空閑地の量 建蔽率 容積率 世帯密度,低層(1~2階建て)集合住宅居住世 帯比率,戸建て住宅居住世帯比率,*世帯あた り延べ床面積,年収1000万以上世帯比率 - 昼間人口密度(LN),世帯あたり人員,65歳以 上人口構成比率 国勢調査(2000年,2010年),日本 統計センター「推計昼間人口」(2000 年,2010年) 行き止まり率(地区内のノード総数に占めるオー 住友電工「DRM」(2009年) ダー1ノードの割合)(LN),道路密度 住宅とその他の土地利用から計算されるエント ロピー指数 東京都都市計画地理情報システム 未利用地率(LN) (2001年) 地区に占める建築面積の割合 地区に占める建築床面積の割合 「社会解体論」,「⽇常活動理論」, 「防犯環境設計論」を参照して変数を設定 34 分析⽅法:モデル分析のアプローチ 「潜在成⻑曲線モデル」 (Latent Growth Curve Modeling) パネルデータを解析するためのマルチレベル モデルの⼀種 教育社会学,計量経済学などで実績 35 パス図によるモデルの表現と 分析の位置づけ 分析① 各年次犯罪率から, Level1⽅程式の切⽚と 係数を推定,平均・分散 を解釈 平均:全地区共通の傾向 分散:地区ごとのばらつき 分析② 独⽴変数から,Level2 ⽅程式の切⽚と係数を推 定,偏回帰係数を解釈. 偏回帰係数:ある地区特性 との関連の強さ 36 分析①の結果 パラメータ推定結果 推定値 モデル1 モデル2 (一次のモデル) (二次のモデル) 3.298** -0.211** 切片 因子の 平均値 係数(一次) 係数(二次) 1.034** 0.006** 切片 因子の 分散 係数(一次) 係数(二次) -0.704** 切片-係数(一次) 因子間の 相関係数 切片-係数(二次) 係数(一次)-係数(二次) モデル 適合度指標 CFI IFI 0.953 0.953 3.261** -0.187** -0.002** 0.975** 0.027** 0.000** -0.292** -0.037(ns) -0.882** 0.961 0.961 **p <0.01 ⼀次直線,⼆次曲線ともに当てはまりは良好 37 ⼆次の係数の値の⼩ささを考慮して⼀次のモデルを採⽤ ⼀次のモデルのパラメータの解釈 推定値 平均値 分散 切片 傾き 切片 傾き 3.298** -0.211** 1.034** 0.006** 平均値=地区全体の傾向 切⽚→期⾸の値の全地区 平均は,3.3程度(約 26件/1万世帯) 傾き→全体としては有意 な減少傾向 分散=地区ごとのばらつき 切⽚→期⾸の犯罪率に,有意なばらつき 傾き→減少傾向に,有意なばらつき 38 切⽚と傾きの地理的分布のばらつき こうしたばらつきは 何によって説明されるのか? 39 分析②の結果 従属変数 切片 2 ( R =0.525) 傾き 2 ( R =0.275) 切⽚,傾きともに, 地区の社会的・物 理的特性と⼀定の 関連 モデル 適合度指標 係数の推定値 (標準化推定値) 独立変数 民営借家居住率 世帯あたり延べ床面積 道路密度 建蔽率 他用途との混在 低層集合住宅居住率 戸建て居住率 5年定住率 容積率 戸建て居住率 容積率 低層集合住宅居住率 民営借家居住率(変化量) 戸建て居住率(変化量) 65歳以上人口構成比率 世帯あたり人員 昼間人口密度( LN) 世帯あたり延べ床面積 民営借家居住率 CFI IFI 0.463** 0.212** 0.168** 0.115** 0.099** 0.081* -0.082* -0.115** -0.301** 0.417** 0.389** 0.235** 0.130** 0.087** -0.118** -0.139* -0.164* -0.350** -0.478** 0.932 40 0.932 パラメータの解釈(1) 傾きに+の関連:危険になったまちの特性 住宅が新たに増加した地区 →コミュニティの未成熟 低層・⼾建て居住が 元々多い地区 →防犯設備導⼊の遅れ 有意となった変数 ⺠営借家居住率(Δ) ⼾建て居住率(Δ) 低層集合住宅居住率 ⼾建て居住率 容積率 容積率が元々⾼い地区 →床効果の可能性 41 パラメータの解釈(2) 傾きにーの関連:安全になったまちの特性 借家率が元々⼤きい地区 →防犯対策の集中 床⾯積が元々⼤きい地区 →経済的余裕のなかでの 防犯設備の新規導⼊ 有意となった変数 ⺠営借家居住率 世帯あたり延べ床⾯積 65歳以上⼈⼝構成⽐率 世帯あたり⼈員 昼間⼈⼝密度(LN) ⾼齢者率,世帯⼈員, 昼間⼈⼝が元々多い地区 →住宅侵⼊盗の多い昼間の 時間帯における「ひと⽬」の多さ 42 これまでの分析のまとめ 1. ⽇単位×地点単位で,特に財産犯 で時空間的な集積性 2. 犯罪集積の年次単位での固定性 3. 町丁⽬単位における犯罪の年単 位での変動は,社会的,物理的 環境と⼀定の関連 43 犯罪のホットスポット形成と固定化の過程 Risk Risk Space 1. 地区環境に応じ た不均⼀なリスク Risk Space Space 2. 1件の犯罪の発⽣ 3. リスクの空間分布の ゆがみ 地区環 境から の影響 Risk Space 4. 近接反復被害 5. ホットスポット の形成 6. ホットスポット 44 の⻑期固定 「犯罪予測」は可能か? 犯罪数の少ない⽇本においても・・・ 犯罪は, • 過去の周囲での犯罪 • 地区の社会的・物理的環境 と関連して起きる秩序性を持っている 地理的犯罪予測の技術構築の可能性はある 45 ⾬宮 護 システム情報系社会⼯学域 [email protected]