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21年度報告書概要版 - 一財)エネルギー総合工学研究所

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21年度報告書概要版 - 一財)エネルギー総合工学研究所
革新的実用原子力技術開発費補助事業
平成21年度成果報告書(概要版)
Innovative and Viable Nuclear Energy Technology (IVNET)
Development Project
機構論に立脚した
より安全なハフニウム板型制御棒の開発
Mechanism-based Development of
High-Performance Hafnium Plate Control Rods
平成22年3月
東
東 北 大 学
東 京 大 学
京 海 洋 大
1
学
本報告書は、東京大学、東京海洋大学、東北大学が連携して経済産業省からの補助金を受けて
実施した技術開発の成果報告書であり、その著作権は上記連携機関に属します。本報告書の一部
または全部について使用・転載する場合には、事前に許可を受けることが必要です。
2
機構論に立脚したより安全なハフニウム板型制御棒の開発
(平成 21 年度)
東北大学
阿部弘亨
東京大学
関村直人
東京海洋大学 賞雅寛而、元田慎一
機構論に立脚したより安全なハフニウム板型制御棒の開発に関する研究を平成 19 年度より平成 21 年
度までで実施中である。平成 19-21 年度の事業全体の成果は以下のとおりである。
キーワード:原子炉制御棒、ハフニウム、ひび割れ事象、腐食、固着、照射成長、
照射誘起応力腐食割れ
1. 目的
本事業では、最近発生した東電および中電の原子炉制御棒ひび発生事象を受けて、その機構を明ら
かにし、これに基づいた改良制御棒開発を目的とする。事象を、隙間腐食と固着、照射硬化、照射成
長の素過程に分解し、隙間環境における腐食と固着及びこれらに対する照射効果の確認、イオン照射
による照射硬化、照射成長評価と発生応力評価等を行い、照射誘起応力腐食割れに至る機構を検証、
修正しかつ各因子の影響を評価する。さらに金属の隙間や板の形状、材料組成、材料加工法等を試験
パラメータとし、事象発生を抑制ないし低減可能な形状と材料の最適値を探索する。そして最終的に
機構論に基づき安全性により優れた制御棒の設計にかかる技術提案を行う。
平成 21 年度は、平成 19 年度に取りまとめた研究細目表に基づいて、当該事象の調査を平成 20 年
度に引き続き行うとともに、冷間加工や熱処理、照射損傷に伴う微細構造変化を詳細に調査し、当該
部位の腐食に伴い生じる事象として水素化や隙間腐食、放射線照射誘起表面活性効果に関する実験的、
計算科学的研究を行った。
2. 技術開発成果
原子炉制御棒ひび発生事象の機構の解明と改良制御棒の開発に関し、以下の成果をあげた。
[1] 想定される素過程を抽出し、それぞれの重畳、相乗効果を考慮する形で想定メカニズムを構築し
た。そしてこれらを検証するための研究を実施した。
[2] 照射効果および加工熱処理に関する研究では、Hf の加工硬化および熱的回復について X 線回折
法、EBSP、硬度測定により明らかにし、冷間加工材の再結晶化条件を明確にした。さらに照射組織の
詳細な解析を実施し照射成長に関連する転位ループの挙動を明らかにした。
[3] 水素脆化に関する実験的、理論的評価のため Zr を模擬材として、水素化の過程と機械強度低下
を第一原理計算から明らかにした。また合わせて加速器結合型電子顕微鏡を用いて Zr 合金への水素
注入その場観察実験を行い、水素化物の成長過程について実験理論の両面から明らかにした。
[4] BWR 強腐食性環境における SUS/Hf 隙間腐食実験から気相側隙間環境でヘマタイトが形成され、
それ以外の部位ではマグネタイトが形成された。また照射下において耐食性の優れた酸化膜が生成す
ると、孔食/隙間腐食のような局部腐食が発生する可能性があることが分かった。
[5] 応力腐食割れ発生機構となる塩水を用いた室温-室圧での放射線環境下 Hf-SUS 隙間腐食実験を
行い、RISA 防食効果のメカニズムを明らかにするとともに、雰囲気温度の影響を確認した。
[6]これらの成果から Hf 板型制御棒のひび割れ事象に係る原因を整理し、より安全な制御棒システム
設計についての提案を行った
[7]3 年間の人材育成効果としては、国際シンポジウム、日本金属学会、日本原子力学会、国際会議、
学術論文、学位論文等にて 26 件の発表を行った。関連事業者が集う研究会を開催し、また原子力学
会学生海外派遣事業による米国短期留学や、原子力業界への就職など、良好な成果を上げた。
3. まとめ
本研究は平成 21 年度までの 3 年間の研究事業であり、Hf 制御棒ひび割れ事象に関して加工、熱処
理、照射効果、水素化、隙間腐食、放射線照射による防食効果、などの様々な観点からメカニズムに
立脚し材料システム提言に向けた研究活動を実施した。国内外での発表や論文、米国短期留学、就職
など良好な成果を上げた。
3
Mechanism-based Development of High-Performance Hafnium Plate Control Rod
Hiroaki Abe, Tohoku University
Naoto Sekimura, The University of Tokyo
Tomoji Takamasa and Shinichi Motoda, Tokyo University of Marine Science and Technology
Abstract
Mechanism-based research and development of hafnium control rod for BWR has been performed
for three years since 2007. The research activities in FY2009 were summarized.
Keywords
BWR, control rod, hafnium, stainless steel, irradiation hardening, irradiation growth,
irradiation-assisted stress corrosion cracking, radiation-induced surface activations
1. Purposes
Concerning cracks in the hafnium plate control rods installed in BWR, it is required
that the mechanism-based research and development of high performance and safe materials system.
The phenomena are thought to be decomposed into crevice corrosion, irradiation hardening in
stainless steel and irradiation growth in hafnium and so on. In this work, we will perform
ion irradiation experiments and crevice corrosion experiments to reveal microstructural and
mechanical and electrochemical properties in hafnium/SUS system under irradiation and
corrosion environment. Microstructural variation of Hf due to cold-working and annealing will
also be investigated because of the limited availability of scientific and engineering
information. The purpose of this project will extend towards the proposal of engineering
optimization of the control rod system. The fiscal year of 2009, we performed the research
such as structure analyses, first principle calculations, irradiation experiments in
accelerators and TEM-accelerator facilities, corrosion experiments and others. And finally,
the mechanism and a design for modification of control rod system were proposed.
2. Summary of results
In the fiscal year of 2009, the progresses are summarized as follows:
[1] The basic mechanism was summarized into sequences of elemental reactions. The research
plan has been summarized and preceded experimentally and theoretically.
[2] Cold-worked and heat-treated hafnium plates were investigated by XRD, EBSP and
nano-hardening. Typical texture structure was investigated and its recovery process was
clarified. Irradiation effects were clarified to describe irradiation growth.
[3] First principle calculations were performed to reveal the behaviors and mechanical
properties of hydrogen in hydrogen-zirconium solid solution and hydride precipitations.
In-situ observations in TEMs on line with ion accelerators were performed to clarify hydride
formation and effect of electron irradiations in zirconium and hafnium.
(4) Crevice corrosion experiments under gamma-ray irradiation were carried out. Gas phase
corrosion at crevice seemed to leave hematite besides the other regions did magnetite. Total
amount of corrosion was higher at crevice in gas phase. Gamma-ray irradiation is attributable
to form high corrosion-resistant oxide layer but may leave pitting corrosion at the liquid-gas
interface.
(5) As a summary of the three-year project, the mechanism of crack formation in the hafnium
plate control rods in BWR, and alternative modification were proposed.
4
目次
1. はじめに ........................................................................... 6
1.1. 背景 ............................................................................ 6
1.2. 目的 ............................................................................ 6
2. 技術開発計画 ....................................................................... 7
2.1. 全体の技術開発計画 .............................................................. 7
2.2. 研究体制の構築と研究計画 ........................................................ 8
3. 成果の概要 ......................................................................... 9
3.1 機構モデルの構築と制御棒設計提案」(東北大学、東京大学、東京海洋大学) ............. 9
3.2. 照射効果および加工熱処理に関する研究(東北大学、東京大学) ..................... 10
3.2.1 Hf の冷間加工および熱処理による組織と硬度の関係の明確化 ..................... 10
3.2.2 Hf の照射組織発達過程の解明 ................................................. 11
3.2.3 水素吸収に伴う微細構造変化の解明 ........................................... 15
3.3. 腐食に関する研究(東京海洋大学) ............................................... 17
3.3.1 高温高圧オートクレーブ実験 ................................................. 17
3.3.2 高温高圧水実験 ............................................................. 19
3.3.3 室温-室圧の放射線環境下 Hf-SUS 隙間腐食実験 ............................... 22
3.3.4 室温-室圧の放射線環境下 SUS 隙間腐食メカニズム ............................. 24
3.3.5 室温(常温)―室圧の放射線環境下 SUS 隙間腐食(温度による影響) ............... 26
3.3.6 より安全な制御棒の開発に向けた材料開発 ..................................... 27
3.3. 結論:割れの発生と進展の機構の総合的解明、および安全性と経済性に優れた制御棒開発に
向けた総合提案(東北大学、東京大学、東京海洋大学) .................................. 28
4.人材育成効果について .............................................................. 29
5. まとめ ............................................................................ 31
6. 本技術の将来展開 .................................................................. 31
5
機構論に立脚したより安全なハフニウム板型制御棒の開発
(事業成果概要)
Mechanism-based Development of High-Performance Hafnium Plate Control Rod
東京大学
東京海洋大学
阿部弘亨
関村直人
賞雅寛而
元田慎一
機構論に立脚したより安全なハフニウム板型制御棒の開発に関する研究を平成 19 年度より平成 21 年
度までの実施中である。平成 21 年度の事業全体の成果は以下のとおりである。
キーワード:原子炉制御棒、ハフニウム、ひび割れ事象、腐食、固着、
照射成長、照射誘起揚力腐食割れ、照射誘起表面活性(RISA)効果
1. はじめに
1.1. 背景
平成 18 年に東京電力福島第一原子力発電所 3、6 号機、及び中部電力浜岡原子力発電所 3 号機にお
いてハフニウム(Hf)板型制御棒のひび割れが相次いで発見された。この制御棒は Hf 板を SUS316L
ステンレス鋼でシース被覆した構造を有し、炉水に曝された隙間環境と照射場という特異な環境に曝
されている。原子力安全・保安院、原子力研究開発機構、電力各社の報告によると、本事象は Hf 板
と SUS 材の隙間腐食と固着、Hf の照射成長によって、照射誘起応力腐食割れ(IASCC)発生しきい線
量以上の照射を被った SUS シース材コマ(Hf 板固定部材)溶接部において IASCC が発生したことが
原因とされ、制御棒の比較的上部において確認されている。そして現時点では熱中性子照射量 4×
1021n/cm2 を超過する制御棒を全挿入位置に固定すること、定期事業者検査時に全数外観検査する、Hf
制御棒を上記しきい線量以下で交換ないしボロン型(B4C)制御棒に交換するといった中短期的対応
がとられている。しかし Hf の核的寿命はおよそ 9×1021n/cm2(電力メーカーは安全側にとって 6×
1021n/cm2 で交換)であって、これより短期間での交換となること、また B4C 型の核的寿命が Hf 型と
比べて 1/3 から 1/4 程度であること、その他短期対策も含めると経済性にも大きな影響を及ぼしてい
る。
長期的には事象の本質的解決に向け設計変更など安全性と経済性により優れた制御棒の開発が求
められている。そのためには機構の理解は必要不可欠であるが、知見に乏しく甚だ定性的である上に
検証も殆どなされていない。少なくとも IASCC に至る各現象、すなわち(a)隙間腐食および固着現
象、(b)Hf の照射成長については十分な検証がなされるべきで、その効果の定量的評価が必要であ
る。機構解明が進めばその抑制に必要な対策を立てることができ、得られた知見を制御棒開発に速や
かに反映することが可能となる。
また最近 20 年間ないしそれ以上の期間、燃料被覆管および制御棒に関連する研究が大学では殆ど
行われておらず、人材育成という観点からみても本事業は重要な意味を持つ。
1.2. 目的
そこで本事業では、Hf 板型制御棒のひび発生の機構解明と制御棒高度化に向けた材料開発から構
成される研究を実施し、安全性と経済性により優れた制御棒の開発に資することを目的とする。研究
項目を、以下のように、機構解明にかかる基礎研究と、これを元にした産業応用に結びつくような材
料開発研究の二つの項目に大別した。
1.ひび発生機構の構築と検証
上記(a)、
(b)に対応して、
(1)隙間環境腐食および異種金属の固着反応を明確化し、
(2)固着と
Hf の照射成長により SUS 部に発生する応力を評価し、さらに(3)これらに対する照射効果を明確に
する。これら素過程を検証することで、ひび発生の機構を解明する。
6
2.より安全な制御棒の開発に向けた材料開発
上の知見を元にしてひび発生を抑制ないし低減することが可能な制御棒形状、材質、加工方法を提
案することを目的とする。特に腐食、固着、Hf 照射成長がひび発生に至らないよう産業応用に直結
した技術提案を行う。
そして、それぞれの項目に対して、以下の技術開発計画に示すように細目とその目標や計画等を設定
した。
2. 技術開発計画
2.1. 全体の技術開発計画
本事業では、Hf 板型制御棒のひび発生に関し、その機構の解明と制御棒高度化に向けた材料開発
から構成される技術開発研究を実施し、安全性と経済性により優れた制御棒の開発に資することを目
標とする。そして主にメカニズムの解明に主眼を置いた項目「(1)ひび発生機構の構築と検証」と、
その応用として高性能な制御棒の開発に主眼をおいた項目「(2)より安全な制御棒の開発に向けた材
料開発」の二つのステップからなる。
それぞれの技術開発項目リストの目標、方法、手順、おおよその研究計画を表 2.1-1 および表 2.1-2
に示す。
表 2.1-1 研究の全体計画と 21 年度計画
項目
目標
方法、手順
研究計画
(1)ひび発生機構の構築と検証
(1-1)隙間環境
腐食による粒界
腐食発生量の評
価
腐食試験を行い、粒界
腐食の量と速度を定量
評価する。
(1-2)隙間にお
ける異種金属の
固着反応評価
SUS と Hf 界面での固着
反応を検証する。
(1-3)Hf の照射
成長速度および
成長量の評価
Hf の照射成長速度や
量を定量評価する。
(1-4)SUS 部に発
生する応力評価
非照射下での腐食、固
着を検討する。
(1-5)隙間環境
腐食、固着反応に
対する照射効果
の解明
(1-6)割れの発
生と進展の機構
の総合的解明
水の放射線分解による
腐食促進と SUS の照射
硬化を模擬し、ひび発
生を検討する。
上記項目を総合して制
御棒ひび発生事象の機
構を解明する。
19-20 年度導入した装置
およびソフトの改良を引
き続き行い、試験と流れ
シミュレーションを継続
する。
固着反応後の引き剥がし試験 19-20 年度導入した装置
を実施する。
の改良を引き続き行い、
固着反応試験と機械試験
を継続する。
圧延処理等により Hf 試料を イオン照射試験を継続す
作製し、イオン加速器を用い、 る。また電子照射実験を
照射成長過程を、顕微鏡学的 実施する。微細構造観察
に測定する。微細組織変化と および照射成長量評価行
マクロな成長を対応させる。 う。冷間加工の効果を明
らかにする。
固着と腐食、応力を模擬した (1-2)に同じ
試験片を作成し、割れ進展挙
動を確認する。
水、照射、応力の重畳条件で 隙間+水環境での照射試
の試験を行い、顕微鏡学的に 験を実施し、RISA 効果お
評価する。また、γ線照射環 よび腐食を評価する。
境下腐食試験を実施する。
(1-1) か ら (1-5) を 取 り ま と (1-1)から(1-5)を取りま
め、総合的に評価する。
とめ、総合的に評価する。
BWR 炉水環境および制御棒模
擬条件での腐食試験。試験片
の平面および断面を顕微鏡学
的に評価する。
(2)より安全な制御棒の開発に向けた材料開発
(2-1)隙間腐食
及び固着を抑制
する形状の探索
(1-1)(1-2)に関連し、
事象を抑制する隙間条
件を求める。
試験方法は(1-1)、(1-2)に同
じ。試験片形状の関数として
事象を評価する。
7
(1-1)、(1-2)に同じ。材
料開発の観点からのアイ
デアを探索する
(2-2)Hf 照射成
長を低減する材
料加工法の探索
(1-3)に関連し、照射成 加工法の関数として成長量や
長の材料処理依存性を 速度を評価する。
明確にし、最適化する。
(2-3)安全性と
経済性に優れた
制御棒開発に向
けた総合提案
上記を総合し、SUS シ
ース材の照射誘起腐食
割れを抑制、低減する
最適条件を探索する。
全項目を取りまとめ、総合的
に評価する。
20 年度取得した加工、熱
処理に加えて、20-21 年度
のイオン照射試験の結果
を取りまとめて整理す
る。
全項目を取りまとめ、総
合的に評価する。
表 2.1-2 研究計画
研究項目
(1)ひび発生機構の構築と検証
(1-1) 隙間環境腐食による粒界
エッチング発生量の評価
(1-2) 隙間環境における異種金属
の固着反応評価
(1-3) Hf の照射成長速度および
成長量の評価
(1-4) SUS 部に発生する応力評価
実施年度(平成)
20
19
技術整備
21
腐食試験
固着反応試験
既往研究調査
既往研究調査
照射試験
腐食試験
(1-5) 隙間環境腐食、固着反応
技術検討 技術整備 照射腐食試験
に対する照射効果の解明
(1-6) 割れの発生と進展の機構
総合検討
の総合的解明
(2)より安全な制御棒の開発に向けた材料開発
(2-1) 隙間腐食および固着を抑制
既往研究調査
腐食・固着反応試験
する形状の探索
(2-2) Hf 照射成長を低減する材料
加工法等探索、技術整備
照射試験
加工法の探索
(2-3) 安全性と経済性に優れた制御
総合検討
棒開発に向けた総合提案
2.2. 研究体制の構築と研究計画
本事業は、東京大学と東京海洋大学の共同事業である。東京大学が研究を総括し、照射損傷研究と
腐食科学など双方の特徴を生かした研究体制であり、図 2.2-1 のような効率的な知見の取得と技術提
案が可能な体制としている。
(1)ひび発生機構の構築と検証:
(1-1)隙間腐食と(1-2)固着反応については海洋大が主に担当する。(1-3)Hf 照射成長速度、(1-4)
応力評価、(1-5)照射効果については東北大、東大が主に担当し、(1-5)のうちγ線照射試験について
は海洋大と協力して試験を実施する。(1-6)機構モデルの構築については東大と海洋大で共同し、
(1-1)から(1-5)までの知見を総合的に検討して定量的な機構モデルを立てる。ここで得られた成果は
次項目に反映される。
(2)より安全な制御棒の開発に向けた材料開発:
(2-1)隙間腐食および固着を抑制する形状の探索は海洋大が主に担当し、(2-2)Hf 照射成長を低減
する材料加工法の探索は東北大、東大が担当する。そして、
(2-3)安全性と経済性に優れた制御棒開
発に向けた総合提案では東北大、東大と海洋大で共同し、(1)、(2-1)、(2-2)を総合的に検討し、Hf
とシース間の応力発生を抑制、低減する最適条件を抽出し、設計へ反映させる。
8
3. 成果の概要
上記の研究計画(表 2.1-1)の中で平成 21 年度は引き続き試験研究を実施した。図 2.2-1 に示し
た研究項目を、
「照射効果および加工熱処理に関する研究」
(東北大学、東京大学)と「腐食に関する
研究」(東京海洋大学)とに大別し、以下にそれぞれの成果を取りまとめる。
3.1 機構モデルの構築と制御棒設計提案」(東北大学、東京大学、東京海洋大学)
本項目では以下の事項を分担する。
(1-6)割れの発生と進展の機構の総合的解明
(2-3)安全性と経済性に優れた制御棒開発に向けた総合提案
21 年度は、19-20 年度に調査し改良した機構モデルを元に、さらに調査を進め、既往研究や本事業
成果と比較しながらその妥当性について検討した。
平成 18 年に東京電力福島第一原子力発電所 3、6 号機、及び中部電力浜岡原子力発電所 3 号機にお
いて相次いで発見されたハフニウム(Hf)板型制御棒のひび割れ事象は、炉水に曝された隙間環境と
照射場という特異な環境において、Hf 板と SUS 材の隙間腐食、固着、Hf の照射成長によって、照射
誘起応力腐食割れ(IASCC)発生しきい線量以上の照射を被った SUS シース材コマ(Hf 板固定部材)
溶接部において IASCC が発生したことが原因とされる。本事業では、平成 19-20 年度に関連する報告
書を精査し、東京電力、日立製作所、東芝、日本原子力研究開発機構等の関連機関、研究者に対して
聞き取り調査し、当研究 G での検討の上、図 3.1-1 に示すような素過程の連鎖として図式化した。
定性的にはその機構は以下のように考えられる。制御棒は通常運転状態では引き抜かれた状態または
一部挿入状態であり、制御棒上部は中性子およびγ線照射環境に曝される。この条件において、(1)
中性子照射により SUS シース材および Hf に照射損傷が導入される。これにより SUS の照射硬化、照
射誘起偏析が生じ、照射誘起応力腐食割れ(IASCC)感受性が向上する。一方で Hf 中では格子欠陥蓄
積により照射成長が発生し、後述する固着反応と合わせて SUS シース部の応力発生の一因となる。
(2)Hf の(n,γ)反応熱によって Hf および SUS シース材は加熱されると考えられる。これにより局所
沸騰現象が生じる条件では、以下に挙げる隙間腐食と固着現象に影響を及ぼすと考えられるが、現時
点で詳細は不明である。(3)γ線照射の効果は未だ良く分かっていない。これまでの、放射線誘起表
面活性効果(RISA 効果)の研究 3.1-2) も合わせて考えると、特に腐食皮膜のような半導体的な物性を
有する部位ではγ線照射効果が出現する可能性がある。(4)シースと Hf の隙間環境では腐食生成物等
の堆積が進行し、摺動抵抗が増加する。堆積箇所の中にはやがて固着に至るものもあると考えられる。
これらが重畳し、Hf の照射成長に起因した応力によって IASCC 感受性が高まった粒界において割れ
が発生し、これが制御棒のひび割れに至ったものと考えられる。
3.1 の参考文献
3.1-1) 経済産業省原子力・安全保安院プレス発表
URL の一例: http://www.meti.go.jp/press/20060919007/20060919007.html
3.1-2) 本プロジェクトに関する参考文献の一例
「表面酸化させたジルカロイの放射線誘起表面活性現象」仮屋崎誠, 阿部弘亨, 佐谷野顕生, 鹿野文
寿, 片野吉男, 鬼塚貴志, 関村直人、日本金属学会誌 71(2007)423-426
「放射線誘起表面活性効果による高性能原子炉技術開発」賞雅寛而、阿部弘亨、秋葉美幸、安永龍哉、
日本原子力学会誌 49 (2007) 45-50.
9
図 3.1-1
Hf 板型制御棒のひび発生推定メカニズム
3.2. 照射効果および加工熱処理に関する研究(東北大学、東京大学)
本項目では以下の各事項を分担する。
(1-3) Hf の照射成長速度および成長量の評価
(1-5) 隙間環境腐食、固着反応に対する照射効果の解明
(2-2) Hf 照射成長を低減する材料加工法の探索
今年度これまでに実施した技術開発の成果概要について、実施計画に照らし以下にまとめる。
3.2.1 Hf の冷間加工および熱処理による組織と硬度の関係の明確化
上記、(1-3)および(2-2)に関しては、照射成長の解明とひび割れ事象発現への効果の評価が最終的
な目標であるが、これらに対して板材の加工歪や再結晶過程の情報は必須のものであり、Hf 板状試
料の加工法および熱処理法について平成 19-21 年度に調査、検討した。Hf 板型制御棒を構成する Hf
板の工業的加工手法は不明であるが、一般的な加工処理技術を元にすると熱間圧延、冷間圧延、焼鈍
の繰り返しと考えられる 3.2-1)。既往研究調査および関係者への聞き取り調査により、熱処理条件は概
略、鍛造押し出し加工は 1100℃程度、熱間圧延は 900~1000℃程度、歪除去のための焼鈍は真空ない
し Ar ガス雰囲気において温度 800~900℃、焼鈍時間 1/3~数時間程度と考えられる。また板材加工
であることからロール圧延法が用いられている。一部の情報として交差圧延(縦方向と横方向に交互
に圧延する)の可能性も指摘されているが、企業秘密情報に類するため明にすることはできていない。
そこで平成 19-20 年度は、Hf の加工硬化および熱的回復について X 線回折法、EBSP、硬度測定を
駆使して明らかにし、特に冷間加工材の再結晶化条件の最適化を行った。純度 97%受け入れ板材を真
空中にて 1000℃にて 3 時間焼鈍した出発材に対して 5~40%の冷間圧延し、等時焼鈍回復過程を光学
顕微鏡観察、走査型電子顕微鏡/電子後方散乱像解析法(SEM/EBSP)、X 線回折法(XRD)、硬さ測定
を行った。そして冷間加工組織を分析し Zr などの同一結晶構造物質との違いを明確にした。さらに
再結晶化温度が約 900℃であること、回復に伴い歪の大きな領域において微小結晶が形成され、さら
に再結晶化に伴い結晶粒方位を傾斜しながらオストワルド成長する様子を明らかにした。
10
3.2.2 Hf の照射組織発達過程の解明
平成 21 年度はこれまでの成果に加え、Hf 材の照射効果について調査した。照射成長に直接関連す
る転位ループの生成および成長過程に関して明らかにすることを目的として、イオン照射法を適用し
て材料中の照射損傷を模擬し、透過電子顕微鏡(TEM)法を用いて形成された欠陥の性状やその密度
等を明らかにした。具体的成果は以下のとおりである。
加速器を用いたイオン照射法は、実炉の中性子照射によって形成される欠陥集合体を短時間に導入
でき有効な手段と考えられている。本研究では弾き出し損傷の大きな重イオン照射による照射欠陥形
成や転位ループ成長過程などを照射量および照射温度をパラメータに TEM 観察した。これらから特に
序論で記述した Hf 板の照射成長加速に起因すると考えられている c 成分転位の形成過程を調べ、解
明することを目的とした。
Hf 板材または棒材より 3 mmφ×0.1mm 厚のディスク状試料を切り出し、表面を鏡面仕上げ研磨し
た。この試料に対して真空度 1×10-4 Pa にて焼鈍温度 1273 K、焼鈍時間 1 h の熱処理を施した。そ
の後、メタノール、過塩素酸、n-ブタノール溶液(混合比 10:1:6)を用い 25 V、液温-40℃にてツイ
ンジェット法により電解研磨を行い、TEM 試料を作製しイオン照射用試料とした。イオン照射実験は
東大 HIT にて実施し、1MeV Ni+イオンを照射速度 1.1x10-3 dpa/s にて最大 100dpa まで照射した。照
射温度は 300K、623、773K とした。照射後、試料を TEM 観察した。
【転位ループの性状同定】
転位ループの性状決定は 623 K にて 3 dpa 照射した試料について行った。転位ループの性状を決定
するには以下の情報が必要である。バーガースベクトル、ループの晶癖面、ループの性質そして密度
である。TEM 観察は二波条件ないしやや二波条件から外れた条件(s>0、s<0)にて実施した。
バーガースベクトル符号を決定するためにg · b 0の条件を見出すために種々のg を励起させて同
一領域を観察し、そのコントラストの変化から欠陥の性状を決定した(g · b解析および
inside-outside 法)。図 3.2-1 に実験結果の一例を示す。表 3.2-1 には図 3.2-1 に対応した TEM 像の
0の条件で観察したため、転位ループ A では g
· b 0、
観察結果を示す。これらよりs
g
· b 0であることがわかった。その他の転位ループについては表 3.2-2 に示した。例えば、転
位ループ A は図 3.2-1 (d)で観察されているドット状の転位ループで、表に示すg · bの正負の関係と
あわせて考えると格子間原子型であることがわかった。その他の転位ループも格子間原子型であるこ
とが分かった。これらのバーガースベクトルと回折ベクトルの積g · bを計算し、TEM 像の観察結果と
表 3.2-3 の六方晶金属である Zr およびその合金で観察されている転位ループを比較することにより、
表 3.2-4 に代表的な転位ループ A, B, C, D のバーガースベクトルがb 1/3 1120 および b
1/3 1123 であると決定した。
A
g= 0111
g= 0111
A
B
B
C
C
D
D
Ⅰ
Ⅱ
B= 1121
g
1011
g
A
B= 1121
1212
A
B
B
C
C
D
D
Ⅲ
図 3.2-1
B= 1121
ⅣB
6154
50 nm
623 K にて 3 dpa 照射した試料中の照射欠陥コントラスト
11
表 3.2-1 図 3.2-1 の転位ループの観察結果
図(a)
(b)
転位ループ A
Inside
Outside
転位ループ B
Outside
Inside
転位ループ C
Inside
Outside
転位ループ D
現れない
現れない
(c)
Inside
Outside
現れない
Inside
(d)
Inside
Inside
Inside
Outside
表 3.2-2 表 3.2-1 のg · bの正負の値
図(a)
転位ループ A
負
転位ループ B
正
転位ループ C
負
転位ループ D
現れない
(c)
負
正
現れない
負
(d)
負
負
負
正
(b)
正
負
正
現れない
表 3.2-3 六方晶金属である Zr およびその合金で観察されている転位ループ
材料
照射
転位ループの性状
Zr
電子、中性子
空孔型および格子間原子型、<a> type
1/3 1120
Zr
電子
格子間原子型、<a> type および<c>type
1/3 1123
空孔型
1/2 0001
不明、<c> type
1/6 2023
空孔型、<c> type
1/6 2023
Zr と Zr 合金
中性子
表 3.2-4 バーガースベクトルの決定結果
b
b 0111
1/3 1120
転位ループ A
-1
1/3 1123
転位ループ B
1
1/3
1
21
0
転位ループ C
-1
1/3 2110
転位ループ D
0
バーガースベクトル
g·b
0111
1
-1
1
0
1011
-1
2
0
-1
1212
-1
-1
-2
1
【損傷組織の照射量および照射温度依存性】
図 3.2-2 に室温から 773 K の範囲にて 1MeV Ni イオンを照射量 10 dpa まで照射した試料の損傷組
織を示す。3 dpa では、照射によって生成した平均径 7 nm の大きさの転位ループが 5×1021 /m3 の数
密度で観察された。図中(a)で観察された転位ループは b=1/3 1120 , 1/3 1123 を持つ格子間原子型
転位ループによって多数が占められていることが分かった。図 3.2-3 に 623 K における転位密度の照
射量依存性を示す。また、図 3.2-4 に 5 dpa における転位密度の照射温度依存性を示した。これらは
照射量増加とともに合体成長し、10 dpa では転位網を形成した。転位密度は照射量増加とともに増
加した。773 K での照射では 3 dpa で転位ループおよび転位網が形成されるが、照射量が 5 dpa を超
えると転位密度が減少した。これらの回復挙動は Zr に類似している 3.2-1)。
図 3.2-5 は照射量および照射温度/TM(TM:融点)に対する転位ループのザイズおよび数密度を、ジ
ルコニウムと比較して整理した結果である 3.2-2, 3.2-3)。絶対温度で比較すると Hf の照射欠陥は相対的
にループ径が小さく,数密度が大きい傾向にあり、転位ループ粗大化はより高温域で発生すると考え
られる。一方で図に示す相対温度で比較した場合には Hf のサイズおよび数密度は Zr と比べてほぼ同
様な傾向を持っていることがわかり、すなわち点欠陥の拡散挙動が類似していることを明確にするこ
とができた。
12
3dpa
5dpa
10dpa
RT
623K
773K
図 3.2-2
RT-773 K で照射量 3-10 dpa で照射した試料の TEM 明視野(BF)像による損傷組織。
4.0
4.5
3.5
2
14
Dislocation Density ,10 m
14
Dislocation Density ,10 m
2
5.0
4.0
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10 11
Fluence  t,dpa
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
200
300
400
500
600
700
800
Irradiation temperature T,K
図 3.2-3 623 K で照射した試料の照射欠陥の
転位密度の照射量依存性
図 3.2-4 5 dpa 照射した試料の照射欠陥の転位
密度の照射温度依存性
13
Average loop density (1020 m-3)
Average loop diameter (nm)
<0.1
--
照射温度/TM
0.35
0.3
7
33
2
62
<10
8
27
23
-30-50
8.5
53
120
9
0.25
-50-100
50
7
0.1
10
100
照射量
図 3.2-5 転位ループの形成の照射量および照射温度領域のジルコニウムとの比較
1
(dpa)
【高照射量での c 成分転位】
図 3.2-6 に Ni イオンを 623 K, 10-100 dpa および 773 K, 20 dpa で照射した試料の TEM 観察結果
を(暗視野像)示す。入射電子線はほぼ B= 1120 であり反射ベクトルは g=[0004]である。これらから
観察された線状コントラストは転位に対応し、回折条件の g ベクトルとバーガースベクトル b との関
係から c 成分転位と考えられる。図 3.2-7 に 662 K で照射した試料の c 成分転位の転位密度の照射量
依存性を示す。この転位は照射量増加とともに発達し、転位密度が上昇したことがわかる。また、773
K, 20 dpa で照射した試料においてもc成分転位が観察された。
図 3.2-8 にc成分転位形成の照射量及び照射温度の観察領域を示した。これには Zr およびその合
金に対して中性子照射およびイオン照射した材料中のc成分転位の観察結果 3.2-4~3.2-6)も合わせて示
す。Hf はジルカロイに比べてc成分転位発生は高照射側であり、Zr とほぼ同等の転位発生領域であ
るという結果を得た。ただし照射粒子や照射速度の差異などを考慮に入れていないため同図の高精度
化が今後求められる。
(a)
(b)
0004
(c)
(d)
200 nm
図 3.2-6
623 K で照射量(a)10, (b) 20, (c) 50, (d)100 dpa の TEM 明視野(DF)像による損傷組織
14
3.0
14
Dislocation Density ,10 m
2
3.5
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
0
20
40
60
80
100
Fluence  t,dpa
図 3.2-7
623 K で照射した試料の c 成分転位の転位密度の照射量依存性
図 3.2-8
の比較
c成分転位の形成に関する照射量および照射温度領域のジルコニウムおよびジルカロイと
【まとめ】
高照射領域でのc成分転位の形成を調べるために 1-100 dpa までの照射量を室温から 773 K の範囲
で照射した結果、以下の成果が得られた。
照射温度 623 K で照射量 10 dpa までの TEM 観察による損傷組織では、照射量の増加とともに転位
ループや転位網の欠陥集合体を形成した。観察された転位ループの性状決定した結果、b=1/3 1120 ,
1/3 1123 を持つ格子間原子型転位ループが多数占めた。さらに、照射成長機構に影響すると考えら
れている c 成分転位が 623 K, 20 dpa 以上で形成した。
3.2.3 水素吸収に伴う微細構造変化の解明
(1-4)と(1-5)については、照射成長の理解だけでなく、腐食に伴う水素吸蔵効果を明らかにするこ
とも求められる。そこで、金属 Zr の水素化挙動の機構解明に係る第一原理計算、および水素化物の
形成と成長過程に関する研究を 20-21 年度に実施した。Zr は Hf と全率固溶し、同一結晶構造を有す
る同族元素で化学的性質にも類似点が多い。一方第一原理計算および電子顕微鏡観察実験においては
15
Hf を対象物質とすることの困難さが大きく、模擬物質として Zr を採用した。Zr は軽水炉燃料被覆管
の主要構成材料でもあることから実用的にも本節の研究の位置づけは大きい。Zr 水素化物は Zr 被覆
管の腐食に伴い発生する水素の約 15%が被覆管中に吸収されることによって形成される。しかしその
形成過程については明らかではなく、またその強度も統一的な理解が不足している。そこで(1)第
一原理計算によって、Zr 中の水素固溶状態、析出物の結晶構造決定、成長機構の解明、Zr-H 系の表
面エネルギー等面欠陥の性質を調べ、さらに(2)加速器結合型電子顕微鏡(TEM)による水素化の
直接観察を行い、これらを合わせて水素化物の形成過程についての微視的機構を考察した。
【第一原理計算による水素化物の形成過程および機械的性質の解明】
水素化現象を素過程に分解し、密度汎関数理論に基づく第一原理計算コード VASP を用いて解析し
た。まず系のバルク特性を評価し解析の妥当性を確認した後、水素固溶によるエネルギー利得、水素
化物析出による内部エネルギー変化、析出物相のエネルギーを計算した。そして、純物質では hcp 構
造が安定であるが、水素吸収に伴い fcc 構造の方がより安定で、その蓄積は低濃度で最稠密面上だが
濃度増加に伴い fcc(110)面上に蓄積し、ε相として析出することを確認した。実際には完全結晶の
ε相ではなく、水素欠損を含むδ相が析出する。これらの結果は以降に示す水素化物形成のその場観
察実験でも確認された。
また固溶体および析出物の機械強度に関し、結晶の表面エネルギーとγ表面を評価し、水素化物の
形成によって結晶の面間の結合力が減少し、転位の運動による応力緩和が阻害され、き裂進展に費や
される塑性変形エネルギーの減少を通じて固体の脆性的挙動を促す変化であり[3]、水素化物自身の強
い脆性を示唆する結果を得た。
【ジルカロイ中水素化物形成挙動の動的過程】
再結晶化焼鈍したジルカロイ-4 TEM 試料に対し 150keV あるいは 20keV の水素分子イオンを室温注
入し組織変化を直接観察した。水素イオン注入とともに、水素化物は 1120 方向に沿って成長し、
粒界における水素化物の成長挙動も同等であった。また新たな水素化物の形成は観察されなかった。
一方、4MeV Ni3+イオンを 0.5~5dpa 予照射した試料では前述と同様の先行水素化物の成長挙動が観察
され、さらにイオン照射欠陥クラスタにて新たな水素化物が形成された。水素化物の成長に従い、水
素化物近傍において転位が形成される様子が確認された。水素化物先端の観察から、水素化物の成長
は転位の層状発達挙動に関係していると考えられる。また、コントラストの若干異なる二本の転位が
対を成しており、部分転位に拡張しているものと考えられる。
hcp において拡張転位に挟まれた領域は fcc 積層となっており、これらの結果を第一原理計算結果
と合わせて考察すると、水素化の過程を以下のようにモデル化することができる。すなわち、吸収さ
れた水素は照射欠陥によって形成される積層欠陥部(fcc 構造)に蓄積し、積層欠陥エネルギーを低
下させ、部分転位の間隔を広げ、fcc 領域を拡張させる。水素のさらなる蓄積によって fcc(110)面上
に蓄積した水素はδ相として析出する。このような析出プロセスは Hf においても同様であると考え
られ、今後の研究の着眼点となった。
【Hf に対する電子照射実験】
Hf では電子顕微鏡観察の先行研究例がないため 20 年度には試料作製条件の探索を行い、十分に清
浄な表面を得る技術を開発した。この試料に対して電子照射を実施したところ 200keV 程度の低エネ
ルギー電子照射による組織変化が観察された。これは、表面に吸着した僅かな汚れ(一般には酸化物
ないし炭化水素化合物)が電子照射によって試料内部へ拡散し、そのために見られた組織変化である
と考えられる。尚、低速イオンビームスパッタ法によって表面をさらに清浄化するとこの組織変化が
見られず、上記の考察を裏付ける。欠陥を形成する因子は現時点で不明であるが、このことは Hf 中
に水素などが容易に吸収されるということを示しており、上記項目で観察されたような水素化物形成
が Hf でも比較的容易に生じ得るということを示唆する結果を得ることができた。
参考文献
3.2-1) C.
3.2-2) A.
3.2-3) D.
3.2-4) S.
3.2-5) R.
3.2-6) M.
Hellio, C. H. De Novion and L. Boulanger, J. Nucl. Mater., 159 (1988) 368-378.
Jostsons, P.M. Kelly and R.G. Blake J. Nucl. Mater.66 (1977) 236-256.
Lee and E. F. Koch, J. Nucl. Mater. 50 (1974) 162-174.
Yamada, T. Kameyama, Materials Science Research Laboratory Rep.No. Q06020. (2007)
A. Holt and R. W. Gilbert, J. Nucl. Mater. 137 (1986) 185-189.
Griffiths and et al, J. Nucl. Mater. 150 (1987) 159.
16
3.3. 腐食に関する研究(東京海洋大学)
本項目では以下の事項を分担する。
(1-1)隙間環境腐食による粒界腐食発生量の評価
(1-2)隙間における異種金属の固着反応評価
(1-5)隙間環境腐食、固着反応に対する照射効果の解明(ガンマ線照射)
(2-1)隙間腐食および固着を抑制する形状の探索
海洋大において平成 19-21 年度に実施された技術開発の成果概要について、表 2.1-1 研究の全体
計画に照らし合わせながら以下にまとめる。
1.項目(1)ひび発生機構の構築と検証・(1-1)(1-2)(1-5)については、BWR 炉水環境および制
御棒模擬条件での腐食試験を行うため、次の 2 つの放射線環境下隙間腐食試験を行った。
(1) BWR 強腐食性環境における応力腐食割れ再現試験に必要な高温高圧オートクレーブの設計製作お
よび作動試験
1) 脱気されていない高温高圧水中の隙間腐食片において、水面下側で生成される腐食性生物は、ボ
ルト締め付け部外側/内側ともに主成分 Fe3O4 である。
2) 脱気されていない高温高圧水中の隙間腐食片において、水面上側で生成される腐食性生物は、ボ
ルト締め付け部外側で主成分 Pb2(CrO4)O とα-Fe2O3 であり、ボルト締め付け部内側で主成分 Fe3O4
と ZnO である。内側には、Pb2(CrO4)O も微量検出された。
3) 脱気、非脱気にかかわらず隙間およびハフニウムとの接触による腐食への影響は認められなかっ
た。
4) スペーサ接触面には気液の境界線が現れず、一様に蒸気腐食の様相を示した。
5) 水中および蒸気中で生成した酸化膜は、脱気ではマグネタイト、非脱気ではヘマタイトが主であ
った(水中の酸化膜にはマグネタイトも微量混在)。
6) 生成酸化膜の厚さは水中の方が水蒸気中より薄かった。
7) 照射下の NaCl 水溶液中では耐食性がすぐれた薄い Ni 酸化膜が生成していた。
8) 照射下において耐食性の優れた酸化膜が生成すると、孔食/隙間腐食のような局部腐食が発生す
る可能性がある。
(2) 応力腐食割れ発生機構となる塩水を用いた室温-室圧での放射線環境下 Hf-SUS 隙間腐食実験
2.項目(2)より安全な制御棒の開発に向けた材料開発・(2-1)については、事象を抑制する隙間条
件を求めるための解析を行った。
3.3.1 高温高圧オートクレーブ実験
(1) 実験装置
本研究で円筒ルツボ型オートクレーブ(最高温度 360 ℃、設計圧力 22 MPa、容量約 0.85 L)を作
成した。本装置には参照電極、試験電極用の貫通口が 3 箇所あり、これに参照電極、試験電極を挿入
することにより、内部の試験片の腐食電位を検出することもできる。本装置を用いて Hf-SUS 隙間腐
食実験を行い、放射線照射設備については、(株)アトックスの技術開発センター(柏市)コバルト
60 ガンマ線放射線設備を使用した。試験体は 70 mm×47 mm×1 mm の SUS304 板材 2 枚(以下外板)
と、70 mm×15 mm×1 mm の SUS304 板材 3 枚(以下スペーサー)により構成される。組み立て前の外
観を図 3.3-1、組み立て後の外観を図 3.3-2 に示す。
図 3.3-1 試験体組み立て前
図 3.3-2 試験体組み立て後
外板の上にある 3 枚のスペー
サ間にワイヤーが挿入されて
いる
17
(2) 実験結果
実験結果の一例として、温度 250 ℃、圧力 3.78 MPa、試験時間 500 時間、浸漬溶液を非脱気の
純水 250 cc で行った試験結果を示す。
試験後、試験体を解体し試験体の表面観察を行った。解体後の外板のワイヤー接触側の画像を図
3.3-3 に示す。表面全体が高温の水蒸気及び液体の水によって腐食され金属光沢を失っており、ワイ
ヤー接触部とその他の部分で違いが見られなかった。ワイヤー挿入部分の隙間腐食は発見できなかっ
たが、外板とスペーサの締結に使用した、ボルト、ナットと外板との接触部分の腐食様相が、周囲の
水蒸気や液体の水による表面の腐食様相と異なっていた(図 3.3-4)。
(左) 図 3.3-3 試験後 試
験体外板表面 ワイヤー接触
側
(右) 図 3.3-4 試験後 試
験体外板表面 ボルトナット
接触側
(3) 表面分析
試験片の浸漬試験条件及びその分析・測定項目を表 3.3-1 に示す。なお、試験片 C1-T1 と C1-T2 の
相異は、T1 が隙間ありであり、T2 が隙間なしである。
試験片
名
溶液
試験片
A
純水
脱気無
試験片
B
試験片
C-1
試験片
C-2
純水
脱気無
純水
脱気有
純水
脱気有
表 3.3-1 試験片の浸漬試験条件及びその分析・測定項目
浸漬条件
分析・測定項目
温度
圧力
時間 部位名
μ
薄膜
粗さ
(℃) (MPa) (hr)
-XRD
XRD
測定
A-M1
○
○
A-M2
○
○
A-M3
○
250
4.0
500
A-M4
○
A-T1
○
A-T2
○
B-T1
○
290
7.8
500
B-T2
○
C1-T1
○
290
4.0
500
C1-T2
○
290
4.0
500
C2-T1
備考
○
また、薄膜 XRD 分析の結果をまとめて図 3.3-5 に示す。これらの結果より下記のことが考察される。
・図 3.3-5 より明らかなように、試験片 A,B,C1 において水面下側(T2)の金属鉄 Fe のピークが水面
上側(T1)を上回っている。これは、水面下側の膜厚が水面上側の膜厚よりも薄いことを示唆してい
る。このことから、水面下側(没水側)の酸素濃度が水面上側(蒸気側)よりも酸素濃度が低いと推
定される。これは、水面上側の試験片 A-T1、B-T1 で水面下側の試験片 A-T2、B-T2 よりもヘマタイト
のピークが高くなっていることからも推定することができる。
・脱気されていない純水で試験を行った試験片 A-T1、B-T1 では Ni リッチな Fe3O4 型酸化物あるいは
γ-Fe2O3(マグへマイト)が生成されていると推定される。脱気されている純水で試験を行った試験
片 C1-T1、C1-T2 では Fe3O4 型酸化物が生成されていると推定される。試験片 A-T2、B-T2 では両者の
中間的な Fe3O4 型酸化物が生成されていると推定される。なお、NiFe2O4 とγ-Fe2O3(マグへマイト)
は格子定数が同等であり Ni リッチな Fe3O4 型酸化物はγ-Fe2O3 の可能性もある。
18
低い
Fe(110)
高い
図 3.3-5 薄膜 XRD の分析結果
分析結果は以下のようにまとめられる。
1) 脱気されていない高温高圧水中の隙間腐食片において、水面下側(A-M4)で生成される腐食性生
物は、ボルト締め付け部外側/内側ともに主成分 Fe3O4 である。
2) 脱気されていない高温高圧水中の隙間腐食片において、水面上側(A-M3)で生成される腐食性生
物は、ボルト締め付け部外側で主成分 Pb2(CrO4)O とα-Fe2O3 であり、ボルト締め付け部内側で主
成分 Fe3O4 と ZnO である。内側には、Pb2(CrO4)O も微量検出された。
3) EDX による定性分析を行った結果でも、明確に Pb の検出が認められた。この原因としては、ボル
トのメッキ剥離などが考えられる。
3.3.2 高温高圧水実験
本実験では、プロジェクトの背景となっている(Hf)板型制御棒のひび割れ発生の環境である沸騰
水型原子炉水を模擬して高温高圧水中での腐食試験を実施し、合わせて腐食現象の解明に有力な電気
化学測定手法の適用を試みた。
(1) 実験方法
本研究では内径φ80 mm×深さ 170 mm の SUS316 製静置式オートクレーブを使用した。
試験体は 70 mm×47 mm×1 mm の SUS304 ステンレス鋼板 2 枚(以下外板)により 70 mm×15 mm×1
mm の SUS304 ステンレス鋼板スペーサ 3 枚(以下スペーサ)、および 1mmφのステンレス鋼線とハフ
ニウム線を挟み込み、SUS304 ステンレス鋼のボルト/ナットで固定した。外板およびスペーサは原
則#600 のエメリー紙で研磨してある。スペーサと外板の接触部と線の挟み込み部について隙間腐食
の影響を、ハフニウム線との接触部について異金属接触の腐食への影響を調べる狙いがある。試験体
によっては、スペーサ形状に加工を加え外板の内部に 1 mm 厚の隙間空間を与えた。試験体の組み立
ての概要を図 3.3-6 に示す。
腐食試験は、オートクレーブに 450 ml ~ 550 ml の純水あるいは NaCl 水溶液を入れ、試験体をオ
ートクレーブ内に設置(1 体の時には試験体が半浸漬となるよう、2 体の時は、共に半浸漬とする場
合と、1 体が水没もう 1 体が蒸気相中になるように位置を設定)し、所定の温度において約 500 時間
保持した。また、放射線の影響を調べるため、(株)アトックスの Co-60 照射施設にオートクレーブを
持ち込み試験した。図 3.3-7 に Co-60 照射室内に設置したオートクレーブを示す。試験後は試験体を
取り出して解体して外観観察を行い、外観評価結果を踏まえて試料を選定し、薄膜X線回折(薄膜 XRD)、
X線光電子分光分析(XPS)、レーザー顕微鏡、エネルギー分散型電子プローブマイクロアナライザ
(EPMA-EDX)等による分析・測定を行った。
19
Co 線源
(3 分割)
外板 2 枚に挟み込まれた 3 枚のスペーサ
の間にワイヤーが挿入されている
図 3.3-7
図 3.3-6 試験体組み立ての概要
Co-60 照射室内に設置した
オートクレーブ
(2) 実験結果
表 3.3-2 にオートクレーブによる高温高圧水実験の一覧と共に、分析を行った試験片の部位を示す。
各試験片の外側と内側の腐食模様を目視あるいは SEM 観察し、以下の知見を得た。
・ 非脱気純水中では一様な黒褐色、同蒸気中では淡黒色に灰色の斑模様がみられ、ともにややくす
んでいた。一方、脱気純水中では非脱気よりやや淡い一様な黒褐色であり、光の当て方によって
は茶色にみえ、同蒸気中では非脱気と類似の灰色の斑模様がみられた。
・ スペーサ接触面(隙間部)には一部に金属接触による光沢部が残っていたが、気液境界(喫水線)
が模様として現れておらず、水没部も蒸気中の腐食の様相と似ており、黒あるいは灰色の縞状の
酸化膜に覆われていた。
・ しかし、スペーサを一部抜いて形成した 1mm 厚の隙間部は明らかにスペーサ接触面に見られた蒸
気中の腐食模様とは異なり水中の腐食模様となっていた。
表 3.3-2 実験の一覧と分析部位
脱気:昇温沸騰時に水約 50ml 分の水蒸気のブローオフを実施
非脱気:Run 1 & 2 は 100h 毎に降温し空気を吹込み。Run 8 はブローオフなし。
20
・ 脱気 NaCl 水溶液中では黄土色、0.1 mol/L は 0.01 mol/L と較べて色はやや濃くなり、蒸気中
では全体に黒色斑模様がみられた。
・ γ線照射下の 0.1 mol/L NaCl 水溶液中では金色に近い干渉色を示していた。前処理として行っ
た研磨疵がそのまま認められ、表面の酸化膜はかなり薄いと思われる。しかし、気液境界部とな
る喫水線直下に局部的な腐食がみられた。図 3.3-8 にこの腐食部の調査結果を示す。約 35μm の
深さになっており、腐食孔の壁面には金属の活性溶解の痕跡が明らかにあった。
Run 8
0.1mol/L NaCl γ線照射
喫水線直下の孔食(SEM)
蒸気
中
水
中
孔食の 3D 形状
図 3.3-8 Run 8 の試験片(R8_wst_BO)の孔食の調査
次に薄膜X線回折測定結果を図 3.3-9 にまとめて示す。金属組織として Ni-Fe-Cr(α相)、Fe-Ni(γ
相)が確認されているが、γ相は母材の SUS304 のオーステナイト相、α相は研磨等により表面に生成
したマルテンサイト相と考えられる。酸化物は FeCr2O4 または Fe3O4(この 2 つは格子定数で区別でき
ない)、NiFe2O4 と Ni0.6Fe2.4O4 である。
この結果より下記のことが考察される。
・ Run 1, 2, 4 を比較すると、水面下側(A-T2, B-T1, C1-T2)の金属鉄(α相)のピークが水面上
側(A-T1, B-T2, C2-T1)を上回っており、水面下側(没水側)酸化膜の膜厚が水面上側(蒸気
側)よりも薄いことが示唆される。これは、没水側の酸素濃度が蒸気側よりも低いことに起因す
ると推定され、水面上側(A-T1、B-T1)の Fe2O3(ヘマタイト)のピークが水面下側(A-T2、B-T2)
よりも高くなっていることからも裏づけされる。
・ 非脱気純水で試験を行った A-T1 と B-T1 、およびγ線照射下の T5、T13、T3 では、Ni リッチな
Fe3O4 型酸化物(NiFe2O4 あるいは Ni0.6Fe2.4O4、格子定数が FeCr2O4(Fe3O4) とやや異なる)が生成
されていると推定される。
・ 脱気純水で試験を行った C1-T1、C1-T2 および T2、脱気 NaCl 水の T9 および照射下 NaCl 水 1mm
厚隙間部の T4 では FeCr2O4 または Fe3O4 型酸化物(マグネタイト)が形成されていると推定され
る。
・ なお、NiFe2O4 とγ-Fe2O3(マグへマイト)は格子定数が同等であり Ni リッチな Fe3O4 型酸化物は
γ-Fe2O3 の可能性もある。
また、別に行った XPS による元素分析によると、
・ Fe と Ni の深さ方向狭域光電子スペクトルでは、金色に近い干渉色を示していたγ線照射下の非
脱気 0.1 mol/L NaCl 水中の T3 では Fe 酸化物のピークが明らかに高エネルギ側にシフトし、最
表面の Ni が酸化物となっていた。
・ 脱気純水中の酸化膜(T2)の厚さが約 500 nm、脱気 0.01 mol/L NaCl 水中の酸化膜(T9)が 300 nm
程度であったのに対し、T13 の酸化膜厚さは 100 nm 程度であった。γ線による水の放射線分解
で酸化ポテンシャルが高くなり、保護性のある Ni 酸化膜が表面に形成されたものと考えられる。
以上本試験結果をまとめると
1) 脱気、非脱気にかかわらず隙間およびハフニウムとの接触による腐食への影響は認められな
かった。
2) スペーサ接触面には気液の境界線が現れず、一様に蒸気腐食の様相を示した。
21
FeCr2O4(Fe3 O4) or
NiFe2O4
or
Fe2O3
γ
α
Fe2O3
図 3.3-9
α
薄膜X線回折
3) 水中および蒸気中で生成した酸化膜は、脱気ではマグネタイト、非脱気ではヘマタイトが主
であった(水中の酸化膜にはマグネタイトも微量混在)。
4) 生成酸化膜の厚さは水中の方が水蒸気中より薄かった。
5) 照射下の NaCl 水溶液中では耐食性がすぐれた薄い Ni 酸化膜が生成していた。
6) 照射下において耐食性の優れた酸化膜が生成すると、孔食/隙間腐食のような局部腐食が発
生する可能性がある。
なお、合わせて電気化学測定手法の高温水試験への適用を試み、腐食電位の測定が可能であること
を確認した。
3.3.3 室温-室圧の放射線環境下 Hf-SUS 隙間腐食実験
BWR 強腐食環境に必要な高温高圧オートクレーブの設計製作および作動試験と並行して、同様の応
力腐食割れ発生機構となる塩水を用いた室温-室圧の放射線環境下 Hf-SUS 隙間腐食実験を行った。
これにより各種皮膜を付与した SUS 試験片についての微弱放射線環境下隙間腐食現象の知見を得た。
(1) 実験装置と方法
供試材は、直径 65 mm、厚さ 1 mm のオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304 鋼)に酸化被膜を被
覆したものを試験片とした。試料ホルダーはテフロン製で、上下 2 分割の円盤に試験片を挟む形で取
り付けた。小型密封線源は試験片と電極板との間にスプリングを介して収納し、試験片には裏面から
常時密着させた。TiO2 被膜側にホルダー内部の密封性を保持するためのOリングを接触させ、この部
分をすきま構造としてすきま腐食の有無を調べた。強放射線源として東大および(株)アトックスのコ
バルト線源は許可もしくは使用スケジュールの点から、これまで使うことができていない。従って、
本実験では密封放射線源を付与して微弱放射線を連続照射させた実験と、予め中性子照射により試験
片を放射化させた実験の 2 種類を行った。まず前者の密封放射線源を付与する実験では、放射能標準
ガンマ線源 60Co(以下、RI という)を使用した。RI の放射能強度は公称値 1.13 MBq、表面線量は 1460
μGy/h であった。中性子線照射により放射化させた試験片は、東京大学大学院工学系研究科原子力
22
専攻の実験用原子炉施設「弥生」を用いて作製した。
試験片を試料ホルダーに取り付け、人工海水に浸漬させて自然浸漬電位の測定をおこなった。温度
は 25 ℃前後の室温として特に制御はしていない。自然浸漬電位は飽和 Ag/AgCl 電極(SSE)を参照電
極として測定した。また白金(Pt)を対極として、掃引速度 30 mV/min でアノード分極曲線を測定し
た。
(2) SUS 隙間腐食に与える放射線の影響
a. 小型密封放射線源による微弱放射線照射
酸化物半導体被覆が光照射により示す防食効果については、例えば妹川ら 3.3-1)の、 TiO2 を被覆し
た 304 ステンレス鋼の光照射によるカソード防食、また、Akashi ら 3.3-2)、Fukaya ら 3.3-3) の、TiO2
被覆したステンレス鋼の紫外線照射による応力不腐食割れ低減など多くの研究が行われている。一方、
放射線は半導体層を透過するため電子の吸収励起が起きず、皮膜表面での反応が生じないとされてい
たため、放射線照射と酸化被覆耐食材の腐食効果の研究はほとんど行われていなかった。
光照射実験との比較を行うために、ここではまず TiO2 プラズム溶射被覆を施した SUS304 腐食への
小型密封放射線源(RI)の効果を確認した。
TiO2 被覆を施した SUS304 鋼の腐食電位の経時変化から被覆を施さず RI も付与しない(実際にはダ
ミー線源を付与)試験片では、試験開始直後から腐食電位は低下し、4 日後には-260mV vs. Ag/AgCl
まで卑化した。また、被覆を施し RI を付与しない試験片では、腐食電位は局部腐食の発生と再不動
態化と考えられる振動(以下、この状態を萌芽的腐食の発生という)を繰り返した後、浸漬開始 4 日
ほど経過した時点で単調な卑化に転じた。塩水中での耐食材料の腐食現象と腐食電位の関係を調べた
報告として、例えば Scotto ら 3.3-4)は、「自然海水中で SUS304 鋼、SUS316 鋼の腐食電位を測定し、
自然海水特有の現象である微生物付着により、いったんは電位は貴化するが、固形物となって金属表
面に固着してすきま構造を形成した後は急激に卑化した」としている。また、Johnsen ら 3.3-5)も、「ス
テンレス鋼と同様、不動態皮膜により防食効果を発揮するチタンを用い、高温 1.6wt%NaCl 水溶液に
浸漬させた実験で、すきま構造を持つ試験片の電位が腐食発生と同時に突然卑化する」と報告してい
る。すなわち、試験片の腐食電位の卑化現象は、すきま部での不動態皮膜の破壊による腐食発生と対
応すると考えられる。表面観察結果から RI を付与しない試験片においてOリングとのすきま部で赤
錆発生を伴う腐食痕が確認され、これは TiO2 皮膜を介したOリング/SUS304 鋼のすきま腐食と考えら
れる。一方、被覆を施し RI を付与した試験片の腐食電位は上述の振動を繰り返しつつ 15 日間の実験
期間にわたって、およそ-100mV vs. Ag/AgCl の電位を維持し、この場合には赤錆発生を伴う腐食痕
は確認されなかった。なお、ここでは、いずれも 2 回の実験を行って再現性を確認している。これよ
り RI を付与した場合には、萌芽的腐食から継続的なすきま腐食へ移行していないと考えられる。す
なわち、RI 付与による 1.5mGy/h 程度の微弱放射線によって不動態皮膜の耐食性を維持し、すきま腐
食を抑制できることがわかった。
このような微弱放射線環境での効果を明確にするため、RI の付与により腐食電位が-100mV vs.
Ag/AgCl を維持している試験片から、これを取り外して照射を中断する影響を調べた。腐食電位-100
~-60mV vs. Ag/AgCl を維持していた試料から RI を取り外すことで 1 日でおおよそ 100mV 低下し、
その後 2~4 日後に、-250~-200mV vs. Ag/AgCl まで卑化した。この電位は RI を付与しない場合と
ほぼ一致し、さらにこの試験片においてOリングとのすきま部での赤錆の発生を確認した。次に、当
初は RI を付与せずにすきま腐食が発生し、電位が-260mV vs. Ag/AgCl に卑化した試験片に、後付で
RI を取り付けて微弱放射線の効果を調べた。RI を付与した約 2 日後に電位は急激に貴化し、その後、
実験当初から RI を付与した試験片とほぼ同じ-100mV vs. Ag/AgCl まで回復した。これは放射線照射
の開始によりすきま内の腐食部が再不動態化したためと考えられる。これらの結果から、腐食電位の
変化は RI の有無に一義的に対応し、かつ時間遅れもほとんど見られないことから、微弱放射線によ
る耐食材料のすきま腐食の抑制が確認された。
b. ステンレス鋼母材の放射化効果
中性子線照射によって放射化(60 Gy/h)させた SUS304 鋼試験片の自然浸漬電位経時変化を調べ
た。Al2O3(アルミナ)溶射被膜、およびアークプラズマ酸化処理を施した SUS304 鋼試験片は、無被覆
の SUS304 鋼試験片の自然浸漬電位と比べると自然浸漬電位は緩やかに低下し 6 日後には-260 mV vs.
SSE まで卑化した。すなわち TiO2 溶射被膜以外の酸化被膜でも TiO2 溶射被膜ほどの効率はないが、
微放射線照射による耐食材のすきま腐食抑制効果が発現することが確認された。
一方無被覆の SUS304
鋼試験片は、実験開始直後から自然浸漬電位が急激に低下し 3 日後には-300 mV vs. SSE まで卑化し
23
ている。TiO2 溶射 SUS304 鋼試験片は、実験開始から 7 日以上経過しても安定した電位を維持し、す
きま腐食が抑制された。
これら試験片のアノード分極曲線測定結果によるとステンレス鋼の場合、腐食が制御される不動態
域の電位に維持していれば、自然浸漬電位からある一定の電位まで分極した時に、電流密度が大きく
減少することが知られている 3.3-6)。無被膜の SUS304 鋼試験片では、電流密度が最大となることがわ
かった。一方 Al2O3 溶射 SUS304 鋼試験片及びアークプラズマ酸化処理を施した SUS304 鋼試験片は徐々
に電位を増加しながら低電流密度側に移行する傾向を示し、防食効果が得られた。
-100 mV vs. SSE でのアノード電流密度を表面放射線量との関係としてみると図 3.3-10 のように
なる。TiO2 溶射 SUS304 鋼試験片は縦軸のアノード溶解電流密度が表面放射線量に依存して小さくな
っている。また、今回試験を行った表面放射線量が 60 Gy/h の試験片では、TiO2 溶射 SUS304 鋼試験
片の電流密度が最小となり無被覆の SUS304 鋼試験片が最大となる。Al2O3 溶射 SUS304 鋼試験片は、
TiO2 溶射 SUS304 鋼試験片と比べると、電流密度が大きくなっているが、無被覆の SUS304 鋼試験片に
比べると電流密度は低くなっており微放射線照射によるすきま腐食の抑制効果が起きていることが
わかる。アークプラズマ酸化処理を施した試験片は、TiO2 溶射 SUS304 鋼試験片および Al2O3 溶射 SUS304
鋼試験片より電流密度が大きいが無被覆の試験片よりは僅かながら電流密度が減少している。
以上のことから酸化被膜の種類によってその効果の大きさは異なるものの酸化被膜を耐食材に施
すことで微放射線照射によるすきま腐食の抑制効果を発現できることがわかる。
5
Anode Current Density, i [ A/cm2 ]
10
Base material test piece : SUS304
4
10
図 3.3-10 Relation between anode
current density and
surface radiation
intensity of activated
test pieces.
3
10
2
10
1
10
0
10
TiO22 coated
(Motoda 2007)
Al2O3 coated
Arc plasma treatment
non coated
-1
10 -1
10
0
10
1
10
2
10
3
10
Surface Absorbed Dose, D [ Gy/h ]
3.3.4 室温-室圧の放射線環境下 SUS 隙間腐食メカニズム
RISA による隙間腐食抑制効果は正孔による酸素発生が起きることで表面電位を不動態電位に設定
する防食方法であると推定されている。このメカニズムを確認するために、RISA による腐食抑制効
果により発生していると考えられる酸素を隔膜型ガルバニ電池方式により計測した。なお、
Fukaya3.3-3)らは、「スパッタリングにより TiO2 を成膜したステンレス鋼の溶存酸素を含む高温高圧水
中での防食機構を検討し、光照射がある環境下では光電流による腐食の抑制効果によりアノード反応
として酸素発生が起こる」と報告している。従って、光照射による酸素発生の影響を確認するために、
装置を暗幕で覆い光を遮断したものについても実験を行った。
まず、溶液中の溶存酸素を計測するために、小型密封放射線源 60Co を裏面に密着させた試験片と取
り付けていない試験片を人工海水に浸漬し RISA の腐食抑制効果に伴う酸素の発生を調べた。図
3.3-11 に時間経過による溶存酸素の増加量を示す。密封放射線源の無いものは溶存酸素の増加は確
認できないが、RISA により隙間腐食が抑制されているものは、溶存酸素量が増加傾向にあることが
わかる。母材への電子の移動はアノード電流として自然浸漬電位を卑化させるのでステンレス鋼など
不動態金属においては、正孔による酸素発生反応が起こり、これが同じアノード反応である不動態保
持電流を低減すると考えられる。不動態保持電流の低減は不動態被膜の溶解速度の低下に対応するた
め、電位卑化が起こらなくとも、母材は耐食性を示すことになる。また小型密封放射線源 60Co の有無
に関わらず実験装置を暗幕で覆い光を遮断したものは光を遮断されていないものよりも溶存酸素量
が少ないことがわかる。これは試験片が光を吸収することで、光電流による腐食の抑制効果により酸
素発生がわずかながら起きているためであると考えられる。このように RISA による隙間腐食の抑制
24
効果はこれまで報告されている光電流による隙間腐食抑制効果より大きいことがわかる。
次に、溶液中の鉄イオン濃度を計測し試験片の腐食の進行を定量的に評価した。SUS304 鋼などの
耐食材における隙間環境では、小さな腐食を生じると、Fe2+の拡散速度が遅いために Fe2+イオン濃度
が増大する。このため電気的中性を保つように溶液中の Cl-などの陰イオンが泳動して Cl-が濃化する。
濃化した Cl-は Fe2+の活性溶解を促進し被膜修復(再不動態化)を困難にするので、孔食速度は増加
し腐食が促進される 3.3-5)。本報においては、隙間腐食による溶出する鉄イオン濃度の計測を行い RISA
による隙間腐食抑制効果の検討を行った。この実験についても実験装置を暗幕で覆い、光電流の影響
を調べた。まず光溶液の上澄みを採取し、o-フェナントロリンにより Fe2+を発色させ、日立製作所製
分光光度計 U-2010 を使用して溶液中の鉄イオン濃度を測定した 3.3-6)。
図 3.3-12 は腐食試験後の溶液中の鉄イオン濃度を示している。RISA により隙間腐食抑制されてい
るものは、抑制されていないものに比べて Fe3+が若干の増加傾向にある。これは、RISA による隙間腐
食の抑制効果により生じた正孔(h+)によって Fe3+への酸化反応が起こるためであると考えられる。ま
た、RISA により隙間腐食抑制されているものは、抑制されていないものと比べて、鉄イオンの量が
少ないことがわかる。これは、前述した RISA による隙間腐食抑制効果により SUS304 鋼から Fe2+の溶
解量が減少したためであろう。古谷ら 3.3-6)は、TiO2 溶射純鉄試験片の全面腐食に伴い溶出する鉄イオ
ン濃度の計測を行い、腐食の進行を定量的に評価し、RISA による腐食抑制効果(カソード防食)によ
り腐食が制御され鉄イオンの溶出量が減少したことを確認している。従って RISA による耐食材の腐
食抑制効果は、古谷らが確認した RISA による純鉄の腐食抑制効果と同様に、その効果が定量的に確
認された。また図より暗幕で光を遮断されていた試験片は、光を遮断されていない試験片よりも鉄イ
オンの総量が若干少ないことがわかる。これは酸素濃度測定結果(図 3.3-13)で示されたように、
光を遮断されていた試験片が光を吸収することによる光電流による腐食の抑制効果 3.3-7)を得ること
ができなかったためである。
160
Co -ray(1460Gy/h)
Dissolved of Oxygen [mol/l]
60
3+
Fe
2+
Fe
withγ-ray
150
withγ-ray
in dark room
140
130
120
withoutγ-ray
with -ray
with -ray in dark room
without -ray
without -ray in dark room
0
5
10
15
20
without γ-ray
in dark room
0
25
10
20
30
40
50
Ion concentration, [mol/l]
Time, t [day]
図 3.3-11 Oxygen gas concentration in
test solution.
図 3.3-12 Iron ion concentration in test
solution for 1 month.
Rest Potential, ECP [ mV vs. SSE ]
400
SUS304 activated ( 60Gy/h )
TiO2 coated(Motoda 2007)
300
200
Al2O3 coated
100
Arc plasma treatment
non coated
0
-100
-200
-300
-400
-4
-3
-2
60
-1
10 10 10 10
0
1
2
3
4
5
10 10 10 10 10 10
2
Current Density, i [ A/cm ]
図3.3-13 Anodic polarization curves.
25
3.3.5 室温(常温)―室圧の放射線環境下 SUS 隙間腐食(温度による影響)
温度を対象にした RISA 効果による防食効果の発現性について検討した。Tani らは「30 ℃~80 ℃
の人工海水中における隙間腐食電位の温度依存性」について報告している 3.3-8)。本実験は、設定温度
に対する隙間腐食の臨界電位を以上の報告を参考に表面観察と併せて評価した。
実験条件は温度 50 ℃を対象に室温より高い温度にて実験を行った。各実験条件を表 3.3-3 にまと
める。また、図 3.3-14 は浸漬期間中に計測した腐食電位を表す。RI の使用・不使用に関わらず、両
実験においても約-150 mV までの急激な卑下が見られその後、約-170 mV まで緩やかに下降していく
様子が伺える。また、隙間腐食の温度特性 3.3-8)より 50 ℃における腐食電位の対応もとれているとい
える。図 3.3-15 に腐食試験片の表面写真を示す。腐食電位と同様隙間腐食による腐食痕を確認した。
以上のことから、RISA による防食効果は得られず温度 50 ℃の海水中は腐食に対してより厳しい環境
下であることがわかる。
表 3.3-3
Experiment condition
Corrosion potential, ECP [mV vs. Ag/AgCl]
試験片 温度
浸漬期間
実験数 放射線強度
TiO 2溶射
o
50 C 約100 hours 3 case 約1400 Sv/h
65
mm

0
TiO2 coating
Base material of test piece:SUS-304
o
T = 50 C
D =  65 mm
case 6 without RI
case 7 with RI
-100
-200
0
1
2
3
4
Time, t [day]
図 3.3-14 Transient corrosion potential of test piece with and
without 60Co--ray irradiation
図 3.3-15 Surface images on test piece with and without 60Co--ray
irradiation
26
3.3.6 より安全な制御棒の開発に向けた材料開発
前述のように、より安全な制御棒の開発に向けた材料開発については、事象を抑制する隙間条件を
求めるための試験片形状を検討した。
ここでは、Hf-SUS 制御棒の隙間形状(ギャップ 0.1 mm オーダー)を想定した対流物質移動モデ
ルによる蓄積シミュレーションを行った。隙間内の流動についてはいくつかの数値解析例がある 3.3-9)。
用いた解析モデルを表 3.3-4 に示す。
図 3.3-16 に強制流動(図面右から左に 0.01 m/s の初期流速)の場合のイオン粒子の隙間堆積状況
を一例として示す。自然対流、強制対流ともに隙間に粒子が堆積しバルクとの濃度差により電池形成
がなされること、また強制対流時には位置的濃度差が大きく、より強い電池形成がなされることがわ
かった。
表 3.3-4 解析方法
解析の流れ
混相流計算モデル
・VOF Model
・Discrete Phase Model
・Mixture Model
・Euler-Euler Model
1.形状作成
2.メッシュ作成
3.計算
4.可視化
拡大
図 3.3-16 計算結果(強制対流)体積分率 0.1%, 2D, Mixture Model
3.3 に関する参考文献
3.3-1) 妹川透, 藤澤龍太郎, 須田新, 辻川茂男, 「二酸化チタン皮膜による 304 ステンレス鋼の防
食」, 材料と環境, 43, (1994) 482-486.
3.3-2) M. Akashi, H. Iso-o, K. Hirano, N. Kubota, T. Fukuda, and M. Ayabe, "Photoelectrochemical
Protection of Stainless Alloys from the Stress Corrosion Cracking in BWR Primary Coolant
Environment", Proc. 7th Inter. Symp. on Environmental Degradation of Materials in Nuclear
Systems Water Reactors, Houston, Vol. 1, (1995) 621-627.
3.3-3) Y. Fukaya, M. Akashi, T. Yotsuyanagi, J. Takagi, M. Sanbongi, K. Takamori, and S. Suzuki,
"Photoelectrochemical Protection of Stainless Alloys in BWR Primary Coolant Environment",
Proc. 10th International Conference on Environmental Degradation of Materials in Nuclear
Systems Water Reactors, Vol. 1, (2001) 10.
3.3-4) V. Scotto, R. Di Cintio, and G. Marcenaro, "The Influence of Marine Aerobic Microbial
Film on Stainless steel Corrosion Behavior", Corrosion Science, Vol.25, No.3, (1985)
185-194.
3.3-5) R. Johnsen and E. Bardal, " Cathodic Properties of Different Stainless Steels in Natural
Seawater", Corrosion, Vol. 41, No. 5, (1985) 296-305.
3.3-6) 古谷正裕, 賞雅寛而, 岡本孝司, 安永龍哉, 植松進,「放射線誘起表面活性を利用した防食」,
マリンエンジニアリング学会誌, 41, (2006) 133-139.
3.3-7) 篠原正, 「酸化チタンの光触媒効果を用いた金属材料のカソード防食」, 色材協会誌, 78,
(2005), 514-519.
27
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化物応力腐食割れ特性(その 4)-長期試験による SCC 寿命評価および SCC 発生感受性の電気化学
的検討-」, 電力中央研究所材料科学研究所研究報告, No.Q06001, (2006) 25P.
3.3-9) 久保喬之 他「微粒子分級型マイクロチャンネル内における流動状態の可視化・CFD 解析」, 日
本混相流学会年会講演会講演論文集, (2008) 378-379.
3.4. 結論:割れの発生と進展の機構の総合的解明、および安全性と経済性に優れた制御棒開発に向
けた総合提案(東北大学、東京大学、東京海洋大学)
これまでに得られた結果を総合して、本節では割れの発生と進展の機構の総合的解明、および安全
性と経済性に優れた制御棒開発に向けた総合提案を行う。
平成 18 年に東京電力福島第一原子力発電所 3、6 号機、及び中部電力浜岡原子力発電所 3 号機にお
いて相次いで発見されたハフニウム(Hf)板型制御棒のひび割れ事象は、炉水に曝された隙間環境と
照射場という特異な環境において、Hf 板と SUS 材の隙間腐食、固着、Hf の照射成長によって、照射
誘起応力腐食割れ(IASCC)発生しきい線量以上の照射を被った SUS シース材コマ(Hf 板固定部材)
溶接部において IASCC が発生したことが原因とされている。本事業では、関連報告書の精査、東京電
力、日立製作所、東芝、日本原子力研究開発機構等の関連機関、研究者に対する聞き取り調査、およ
び当研究 G での検討の上、図 3.1-1 に示すような素過程の連鎖として図式化した。
本研究成果からは、定性的にはその機構は妥当であり、制御棒上部が被る中性子照射により SUS シ
ース材および Hf に照射損傷が導入され、SUS 中には照射硬化、照射誘起偏析が生じて照射誘起応力
腐食割れ(IASCC)感受性が向上する。一方で Hf 中では格子欠陥が蓄積して照射成長が発生し、後述
する固着反応と合わせて SUS シース部の応力発生の一因となる。使用温度では Hf 中には微小な転位
ループ(7nm 程度)が高密度(5×1021m3 程度)導入される。そのうち照射成長に関連する c 成分転位
が発現する線量はジルカロイと同等であったが、融点に対する相対温度が低いため、核形成が優先す
る条件であって、密度は 100dpa 程度まで単調増加した。また転位ループ密度の照射温度依存性をみ
ると 700K 程度までは増加傾向にある。これらのことから制御棒環境(中性子照射および炉水温度よ
りも核熱のため高温)においては、照射成長に寄与する因子の密度は増加傾向にあり、ジルカロイの
場合と比較して照射成長が大きいことが予想される。
また Hf の(n,γ)反応熱によって Hf および SUS シース材は加熱されると考えられる。これにより局
所沸騰現象が生じる条件では、以下に挙げる隙間腐食と固着現象に影響を及ぼすと考えられる。腐食
については、隙間環境においては溶液側に局所的な濃度差が生じて腐食電池が形成されやすい上、高
温照射環境では安定な腐食被膜が形成されると、気液境界部においては却って孔食などの局部腐食が
発生する可能性があることが指摘された。固着現象については液相腐食では観察されなかったが、気
相腐食の方が液相腐食よりも腐食量が多いことが判明しており、隙間環境でクラッドが堆積しやすい
部位で核熱沸騰によって気相腐食環境に至り、腐食が進行して固着に至る(ないし摺動抵抗が増加す
る)というモデルを立てることができた。ただし高温水を用いた腐食試験結果等からの演繹であり確
認試験が求められる。腐食に及ぼすγ線照射の効果については放射線誘起表面活性効果(RISA 効果)
による腐食抑制効果が期待される。しかしその温度依存性についてはバッチ試験の範囲では高温にお
ける RISA 効果の低下が観察されているが、この効果は RISA 効果が高温高圧水中において照射によっ
て発現する速度と高温でこれが消失する速度の競合で決まるものであり、実機環境での実験が必要で
ある。今後、商用炉への適用の可能性の探索も含めた実機または実験炉を活用した研究が期待される。
本事業成果をまとめると、安全性に優れた制御棒に求められる設計仕様として、隙間環境の低減と
ジルコニウムと同等以上の照射成長を見込んだ設計尤度を挙げることができる。今回問題となってい
るのは Hf 板型制御棒で、板状 Hf を制御棒長手方向に並べ、適宜開けた穴を通して表裏の SUS シース
板をコマ部材を介してスポット溶接した構造となっている。隙間環境はこの構造では避けられないも
のであって流動性の確保は難しい上、いったん摺動抵抗が増加すると照射成長による変形をシース側
で吸収できないという不具合を有する。制御棒システムの別の型として丸棒を用いたものが提案され
ているが、こちらでは制御棒システムの中で IASCC 感受性を発現していない箇所で変形を受け止める
ことが可能であり、また比較的大きな流動経路も確保されているため、ひび割れ事象の発現を抑止す
ることが可能であると考えられる。
28
4.人材育成効果について
本事業においては、Hf の加工、熱処理、照射、腐食、および Hf/SUS 隙間環境腐食などの観点から、
人材育成を進めた。今年度は、他の関連事業も交えて総合的な討論の場を設け、学生にも出席させま
た発表させるなど、積極的に事業を展開した。今年度、本事業で得られた成果のうち、学生による発
表(一部関連する成果も加えられている)は以下のとおりである。
1) 三原武、阿部弘亨、岩井岳夫、関村直人;"Hf の機械的性質に対する加工度および焼鈍の影響";
日本金属学会 2008 年春期(第 142 回)大会(2008.03.26-28 武蔵工業大学)
2) 三原武、阿部弘亨、岩井岳夫、関村直人;"Effect of cold working and subsequent annealing on
structural properties of hafnium";UT-TU Joint Symposium on Global sustainability and
nuclear education and research, 2008.05.18-21, Tshinghua University, China
3) 三原武、阿部弘亨、岩井岳夫、関村直人;日本原子力学会原子力発電部会主催第8回「原子力発
電技術」夏期セミナー (2008.08.25-27 茨城県東海村)
4) 三原武、阿部弘亨、岩井岳夫、関村直人;“Effect of Cold Working and Subsequent Annealing
on Structural Properties of Hafnium ”: GCOE 創 立 一 周 年 記 念 国 際 シ ン ポ ジ ウ ム 開 催
(2008.10.8-10 東京大学)
5) 三原武、阿部弘亨、岩井岳夫、関村直人; "東大の進捗(Hf の機械的性質に対する加工度および
焼鈍の影響)";ハフニウム板型制御棒関連研究国内ミーティング、JAEA 東京事務所、2008.12.25
6) T. Mihara, H. Abe, T. Iwai, N. Sekimura; "XRD Investigations of Structural Properties in
Hafnium under Cold Working and Subsequent Thermal Annealing"; Proc. of 2009 International
Congress on Advances in Nuclear Power Plants (ICAPP'09), (2009) Tokyo
7) 宇田川豊、山口正剛、阿部弘亨、浅利圭亮、篠原靖周、村上健太、中園祥央、三原武、澤山陽平、
関村直人、更田豊志;"ジルコニウム水素固溶体及び水素化物中面欠陥の第一原理計算";原子力
学会 2009 年 3 月
8) 浅利圭亮;"密度汎関数法によるジルコニウム水素化物の形成初期過程の研究";東京大学卒業論
文、2009 年 3 月
9) 篠原靖周;"ジルカロイ中の水素化物形成挙動と軽水炉燃料被覆管劣化に及ぼす影響に関する研
究";東京大学学位論文、2009 年 3 月
10) 阿部弘亨、篠原靖周、関村直人、木戸俊哉;金属学会 2008 年秋期(第 143 回)大会 2008 年 9
月 23-25 日;"イオン照射下におけるジルカロイ中の水素化物形成・成長過程のその場観察"
11) 三原武;“ハフニウム(Hf)板型制御棒の照射下挙動の解明”;東京大学学位論文、2010 年 3 月
12) Takeshi Mihara, Hiroaki Abe, Takeo Iwai and Naoto Sekimura; "Research on Irradiation
Behavior in Hf-plate Control Rods"; Nuclear Education Symposium "Steps toward Leading the
World in Nuclear Education of Universities", (2009) Tokyo
13) 三原武、阿部弘亨、片野吉男、岩井岳夫、関村直人;
“Hf の Ni イオン照射による微細組織変化”、
日本原子力学会 2009 年秋の大会 2009 年 9 月、東北大学
14) 三原武、阿部弘亨、岩井岳夫、関村直人;
“Hf の集合組織に対する 焼鈍時間の影響”、金属学会 2008
年秋季(第 143 回)大会 2008 年 9 月、熊本大学
15) Yutaka UDAGAWA, Masatake YAMAGUCHI, Hiroaki ABE, Naoto SEKIMURA and Toyoshi FUKETA;“Ab
initio study on plane defects in Zirconium-hydrogen solid solution and Zirconium hydride”、
Journal of ASTM International (2010) in press.
16) T. Takamasa, T. Hazuku, Y. Fukuhara, S. Motoda, T. Ishimaru, S. Uematsu, M. Furuya, T.
Nishioji, "Corrosion Control in Marine Use by Radiation Induced Surface Activation", Proc.
of 8th International Symposium on Marine Engineering (ISME BUSAN 2009), (2009) #118.
17) 西大路隆司, 熊田崇徳, 波津久達也, 賞雅寛而, 元田慎一, 「微弱放射線場におけるステンレス
材のすきま腐食挙動」, 日本原子力学会 2009 年秋の大会予稿集, (2009) O04.
18) 賞雅寛而, 「放射線誘起表面活性効果研究の現状と今後の展望(1)放射線誘起表面活性の基礎
とメカニズム」, 日本原子力学会 2009 年秋の大会予稿集, (2009) TN08.
19) T. Kato, T. Hazuku, S. Motoda, T. Takamasa, M. Hishida, T. Kumata, H. Abe, M. Furuya,
“ Crevice Corrosion Control for Stainless Steel Using Radiation-Induced Surface
Activation”, Proc. of 2009 International Congress on Advances in Nuclear Power Plants
29
(ICAPP '09), (2009) #9511.
20) 植松潤一, 波津久達也, 元田慎一, 賞雅寛而, 植松進, 古谷正裕, 「放射線誘起表面活性(RISA)
を用いた船舶・海洋構造物の耐食材防食技術に関する基礎研究 -第 2 報 RISA によるすきま腐食
抑制メカニズム」, 日本マリンエンジニアリング学会誌,43 巻 5 号, (2008) 166-171.
21) 嘉村明彦, 波津久達也, 元田慎一, 賞雅寛而, 植松進, 古谷正裕, 「酸化被膜の種類が放射線誘
起表面活性(RISA)におよぼすすきま腐食抑制効果の影響」, 日本原子力学会 2008 年秋の大会予
稿集, (2008) K11.
22) A. Kamura, T. Hazuku, S. Motoda, T. Takamasa, S. Uematsu, M. Furuya, “Corrosion Control
Technique for Marine and Offshore Structures Using Radiation Induced Surface Activation”,
Proc. of 14th International Congress on Marine Corrosion and Fouling, (2008) 40.
23) T. Hazuku, S. Motoda, T. Takamasa, M. Hishida, T. Nishioji, T. Kumata, H. Abe, M. Furuya,
“Crevice Corrosion Control for Stainless Steel Using Radiation-Induced Surface
Activation”, Proc. of 2009 International Congress on Advances in Nuclear Power Plants
(ICAPP '09), (2009) #9511 投稿中.
24) 馬渕祥吾, 「放射線誘起表面活性によるすきま腐食抑制効果の温度依存性」, 平成 21 年度卒業
論文
25) 木口文夫, 「原子炉環境下におけるステンレス鋼のすきま腐食に関する基礎研究」, 平成 20 年
度卒業論文
26) 植松潤一, 「放射線誘起表面活性による船舶・海洋構造物の防食技術に関する基礎研究」, 平成
19 年度修士論文
また、以下の研究会を実施し、東京電力や日本原子力研究開発機構、電中研などからの出席者ととも
に充実した議論を行うことができた。この中で、本事業だけでなく、東京電力からの情報提供や、JAEA
にて実施中の事業内容についてそれぞれ報告し、十分な議論を深め、知見の深化を図ることができた。
(1)ハフニウム研究検討会第一回 平成 20 年 12 月 25 日 13 時から 17 時 JAEA 東京事務所
出席者 東京大学 阿部、三原
東京海洋大学 賞雅、元田、他学生 3 名
JAEA 中村、山本、井岡、知見
東京電力 手塚
(2)ハフニウム研究検討会第二回 平成 21 年 7 月 30 日 14 時から 18 時 JAEA 原子力科学研究所
出席者 東北大学 阿部、
東京大学 岩井、三原
東京海洋大学 賞雅、元田、波津久、菱田、他学生 2 名
JAEA 鈴木、中村、西山、山本、井岡、知見、扇野
東京電力 手塚
東京大学名誉教授
石野
特記事項
この事業に携わった学生のうち、東京大学では、学生1(三原武、博士)は本事業の中で Hf の研
究に主に従事し、三年を経て今春学位を取得の見込みである。取得後は日本原子力研究開発機構へ就
職し原子炉燃料安全関係の研究に従事し、また当該事象に関する当機構の事業(原子力安全・保安院
委託)にも関与する予定である。また学生2(村上健太、修士)は本事業において第一原理計算に従
事し、平成 21 年 4 月より東京大学大学院博士後期課程へ進学した。学生3(篠原靖周、博士)は本
事業において加速器結合型電子顕微鏡に係る研究に従事し、平成 20 年度に学位を取得し、(株)NDC
にて原子炉燃料被覆管の研究開発に従事している。学生4(宇田川豊、博士)は本事業の中で第一原
理計算に従事した。現在は日本原子力研究開発機構からの社会人ドクターの 2 年生であり、来年度学
位を取得の見込みである。
東京海洋大学では、学生1(嘉村明彦、修士)1 名の原子力学会平成 20 年度日米欧原子力学生国
際交流事業による米国派遣(2 か月)がなされており、さらに原子力関連事業社(東芝及び日本原子
力発電)への就職が各 2 名ずつ合計 4 名あった。また学生2(植松潤一、修士)は、文献 20)の論
文発表により平成 20 年度日本マリンエンジニアリング学会ロイドレジスター奨励賞を受賞した。
これらのことから、順調に原子力人材育成効果を上げることができた。
30
5. まとめ
最近発生した東電および中電の原子炉制御棒ひび発生事象を受けて、機構論に基づいた改良制御棒
の開発を目的とした研究開発事業を平成 19 年度より開始した。これまでの成果は以下のようにまと
められる。
[1] 想定される素過程を抽出し、それぞれの重畳、相乗効果を考慮する形で想定メカニズムを構築し
た。そしてこれらを検証するための研究を実施した。
[2] 照射効果および加工熱処理に関する研究では、Hf の加工硬化および熱的回復について X 線回折
法、EBSP、硬度測定により明らかにし、冷間加工材の再結晶化条件を明確にした。さらに照射組織の
詳細な解析を実施し照射成長に関連する転位ループの挙動を明らかにした。
[3] 水素脆化に関する実験的、理論的評価のため Zr を模擬材として、水素化の過程と機械強度低下
を第一原理計算から明らかにした。また合わせて加速器結合型電子顕微鏡を用いて Zr 合金への水素
注入その場観察実験を行い、水素化物の成長過程について実験理論の両面から明らかにした。
[4] BWR 強腐食性環境における SUS/Hf 隙間腐食実験から気相側隙間環境でヘマタイトが形成され、
それ以外の部位ではマグネタイトが形成された。また照射下において耐食性の優れた酸化膜が生成す
ると、孔食/隙間腐食のような局部腐食が発生する可能性があることが分かった。
[5] 応力腐食割れ発生機構となる塩水を用いた室温-室圧での放射線環境下 Hf-SUS 隙間腐食実験を
行い、RISA 防食効果のメカニズムを明らかにするとともに、雰囲気温度の影響を確認した。
[6]これらの成果から Hf 板型制御棒のひび割れ事象に係る原因を整理し、より安全な制御棒システム
設計についての提案を行った
[7]3 年間の人材育成効果としては、国際シンポジウム、日本金属学会、日本原子力学会、国際会議、
学術論文、学位論文等にて 26 件の発表を行った。関連事業者が集う研究会を開催し、また原子力学
会学生海外派遣事業による米国短期留学や、原子力業界への就職など、良好な成果を上げた。
6. 本技術の将来展開
本事業においては、事象を素過程に分解してそれぞれを調査し、複合事象としてのメカニズムを解
明し、さらにひび発生事象の発現を抑制するための要求仕様をとりまとめた。
本事業以外に、当該事象に関わる事業は複数あり、本事業参画者はそれらの評価委員として今後と
も関わっていく予定である。また、本事業で育成された人材のうち一名は日本原子力研究開発機構に
就職の予定で、配属先センターにて実施中の当該事象に関わるプロジェクトへの関与も期待される。
これらを通して本事業で培った技術や知見は今後直接生かされることとなる。
一方で、当事業においていまだ明らかになっていない事象としては、原子炉環境での実験が必要と
なる高温高圧水中の放射線表面活性効果を上げることができる。この現象が、隙間環境かつ核熱沸騰
条件に近い環境においてどのように効果をもたらすかは、模擬環境では実現できないものであって、
今後の展開が期待される。さらに Hf の照射成長の直接測定も同様であるが、これは日本原子力研究
開発機構の事業の中で JMTR 再稼働後より研究開始予定であり、4 章にて実施した研究検討会(当事
業、JAEA、東電)にて様々な立場からの意見を集約し計画に反映させたところである。
最後に、原子炉出力制御棒が曝される環境については本事業を通して初めて参画者が知りえたもの
であり大変貴重な経験であった。評価委員および日本原子力研究開発機構や東京電力の関係研究者の
方々には事業遂行にあたって重要なご意見を頂いたことに謝意を表します。
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