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Page 1 総 四国歯誌 25(1): 1〜10、2012 カプサイシンの作用とその
四国歯誌 25(1): 1-10, 2012
総 説
カブサイシンの作用とそのレセプター, TRPVl,
及びそれらと関連する小型一次知覚ニューロンの概観
中川 弘,樋浦 明夫*
キーワード:カブサイシン,ヒスタミン,痛み, TRPVI
An Overview of the Actions of Capsaicin and Its Receptor, TRPVl,
and Their Relations to Small Primary Sensory Neurons
Hiroshi NAKAGAWA, Akio HIURA*
Abstract : The speci丘c actions of capsaicin on the small prlmary a鵬rent neurons with regard to
neurogenic inHamation and plasma extravasation紬e examined in mi§ review・ First, a shon history
of the study of capsaicin is introduced五〇m the viewpoint Of the e胱rent mnction of capsaicin-
sensitive nerve nbers・ Agonist (resiniferatoxin) and antagonists (capsazepine and ruthenium red) or
capsaicin are refらned, to better understand the action of the dmg・ The signi丘cance of the discovery of
capsaicin receptor, TRPVl, and its ch紬aCtehstic features (polymodal receptor)紬e discussed based
on recent repons, although the sensitization or desensitization mechanisms狐e not yet resolved. This
review also bheHy deals with the therapeutic use of capsaicin and its agonist and antagonist for relief
pain・ Whether or not capsaicin-sensitive neⅣe魚bers紬e involved in itching lS examined by a recent
literature survey・ TRPVl-expresslng nerVe丘bers were recently reponed to be responsible fbi the
itching sensation・ Then, We proposed putative three possible itching pathways・ The panlClpation of
pure sensory neⅣe nbers which exclusively transmit itchiness has not been found, as yet・
1,カブサイシンに関する研究史の概要
ン研究の歴史に汚点を残した。
植物の唐辛子から抽出したカブサイシンの発見と料
カブサイシンの作用の第1の特徴は,痛み感覚を引
理への利用についての歴史は他のレヴューを参照する
き起こすことであり,第2の特徴は,繰り返し投与に
と良い1・2)。カブサイシンは,最も痛み刺激のある化
より脱感作(痛覚鈍麻)を誘導することにある。しか
合物の1つで, 「辛さ」と「灼熱感」を引き起こす3)。
しながら,機械的刺激に対するアロデイニア(触覚異
Szolcsinyiのレヴューから,カブサイシン研究のパイオ
管) allodyniaや痛覚過敏は,中枢の侵害受容性ニューロ
ニアはハンガリーの研究者たちであることがわかる4)。
ン(脊髄後角内の投射ニューロン)の反応性の増強に
一方,最近のインド軍隊による世界で最も幸い唐辛子で
よるものであり,中枢性感作と呼ばれていることを忘
あるbhutjolokia,別名「ghostchili (お化けトウガラシ)」
れてはならない5)。第3の特徴は,一次求心(知覚)悼
(100万scoville単位以上)の武器としての開発と使用
ニューロンに対する可逆的あるいは不可逆的な変性作
(MainichiWee虻y, 2010年4月3日号)は,カブサイシ
用である。その変性作用の程度は,カブサイシンの投
徳島大学病院障碍者歯科
*徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部口腔組織学分野
Tbkushima University Hospital, Dentistry仕)I Persons with Disabilities
* Department of Oral Histology, The Universlty Of Tokushima, Institute of Health Bioscience
四国歯誌 第25巻第1号 2012
2
与量,動物の年齢,動物種に依存している。実験系にお
フグ毒によって抑制されるということは,それが軸索伝
けるカブサイシンの投与法には,全身投与と局所投与が
達には関係していないことを示してい88,9)。カブサイ
ある。前者は,皮下投与,腹腔内投与および血管内投与
によって,循環系を介して動物や人の全身に影響を与え
ルの刺激で遠心性作用を発現する4)。いずれにしても,
シン感受性知覚ニューロンは,痛みの間借より低いレベ
る。一方,後者は,カブサイシンを注射あるいは貼付し
この2つのタイプの遠心性作用は,神経病理・生理学的
た局所に効果を発揮する。これらの特徴に共通している
ブサイシン感受性ニューロン)やその軸素に選択的に影
状態における非常に重要な概念である。
Naとcaの両方が流入する陽イオンチャネルである
というTRPVlの特徴的な性質は,前述のカブサイシン
響を与えるということにある。
感受性ニューロンの知覚・運動性作用を説明できる'0)。
のは,カブサイシンが小型の一次求心性ニューロン(カ
1.カブサイシン感受性ニューロンの"知覚・運動
2.カブサイシンの全身投与
カブサイシン感受性ニューロンの特異な機能を知る
赤唐辛子の成分であるカブサイシンによって,小型
の一次知覚ニューロンが選択的に破壊されるという重要
ことは,カブサイシンの作用を理解する上で有益であ
な発見以来11),カブサイシンは神経解剖学的研究12),柿
る。カブサイシン感受性一次知覚ニューロンの末梢性終
経薬理学的研究13・14),神経生理学的研究15)に広く用い
末は,皮膚や内臓に広く分布していて,様々な物理的あ
るいは化学的刺激によって興奮すると,末梢と中枢の両
られてきた。カブサイシン(50mg庇g)を生後間もない
性''作用
醤菌類の皮下に投与すると,成長を阻害することなく,
方で貯えていた神経伝達物質を放出する。そのカブサイ
シン感受性知覚神経による内臓や自律神経機能に対する
後根神経節(DRG)や三叉神経節(TG)のニューロン
調節は知覚・運動性作用と呼ばれてい86)。知覚ニュー
ロンにおけるこのタイプの作用は, 「局所的効果器作用」
する11)。その結果,急性の侵害熱刺激に対する反応が
あるいは「軸索反射」とも呼ばれる7)。軸索反射は, 1
状態での侵害熱刺激に対しては,両種とも痛覚過敏を示
つの知覚神経からの神経線経が末梢で二股に分かれて
す17・18)。
いるために起こると考えられている。二股の一方は刺
や無髄のC線経の約70%が不可逆的(永久的)に減少
ラットでは消失し,マウスでは消失しない16)が,炎症
成熟したラットへのカブサイシンの全身投与は,いく
激を感知し,もう一方は血管に終止している7)。知覚神
らかの小型の知覚ニューロンや無髄の知覚C線経に特
経の終末は,刺激によりインパルスを発生し,分岐点で
インパルスが逆行性(血管側)に伝導する7)。神経原性
異的な形態変化を引き起こす。細胞質やその神経突起は
わずかに変性する程度だが,その末梢の終末はかなり破
炎症や発赤は,この軸索反射のメカニズムによってしば
しば説明されてきた7)。軸索反射によって起こる血管拡
壊されていることは重要である。これに関連して,分離
張(発赤の原因)や血襲タンパク質の血管外港出(膨疹
の原因)にカブサイシン感受性知覚ニューロンが関係し
イシンにより退縮するが,カブサイシンのない培養下に
培養したヒヨコのDRGニューロンの成長円錐がカブサ
もどすと再生するという報告がある19)。さらに成熟した
ていることは,多くの実験結果により明らかにされてい
ラットへのカブサイシン(50mg庇g)の全身投与では,
る。この現象は自律神経に関わりなく引き起こされ,外
C線経の消失にかなりの個体差が見られ,線経が減少し
科的知覚神経切除によって阻害される7)。さらに,局所
ない個体もいれば わずかに減少する個体もいる20)。
的効果器作用は,末梢の知覚神経終末が刺激された時,
哺乳類のある特殊なタイプの一次知覚ニューロンに
皮膚や内臓の神経終末からサブスタンスP (SP)のよう
おいて,カブサイシンによって障害をうけやすいという
なメデイエークーの放出によって仲介されると信じら
性質が成長の間に消失する(カブサイシンに対して抵抗
れている。 Holzerら7)によると,局所というのは求心性
性をもつ)ということは,疑いのないことである12)。さ
(知覚)ニューロンの末梢やその近傍の限局された部位
であること,また効果器というのは受容体構造あるいは
らに,成熟したラットに対するカブサイシンの投与は,
刺激に対して瞬時に反応する能力のことを意味する。
カブサイシン感受性ニューロンは,前述した古典的な
新生仔期に比べて小型のニューロンに選択的に作用す
る14)。このことは,成熟動物のポリモダールな侵害受容
器がカブサイシンに対して特異な感受性を持つことを意
遠心性作用である軸索反射以外に,直接活性化されても
味する21)。それば寸して,新生仔期の知覚ニューロンの
同じ終末から伝達物質を放出する。すなわち,刺激の受
容と神経ペプチドの放出が,分枝を介さずに同じ終末で
破壊は,より非選択的である10)。従って,新生仔と成熟
同時に起こる。このタイプの遠心(運動)性作用は,ハ
ンガリーの研究者たちによって"知覚・運動性(相互)
の違いの評価は大切である。
作用''と名づけらn8・9),現在,多くの研究により支持
3.カブサイシンの局所投与
動物の間にみられるカブサイシンの全身投与による作用
されてい86・7)。この知覚・運動性作用(すなわち神経
カブサイシンの作用についての生理学的研究の結果
原性炎症や知覚神経ペプチドの放出)が,局所麻酔薬や
は,主にLynnの報告に基づいている22)。なぜなら,そ
カブサイシンの作用とそのレセプター, TRPVl,
及びそれらと関連する小型一次知覚ニューロンの概観(中川,樋浦)
の報告は簡明かつ詳細であるからである。カブサイシ
ンの局所投与によって哺乳類の体性,内臓性器官(皮膚
や気管等)で引き起こされる広範囲に及ぶ興奮作用は,
主に無髄C線経に対する特異的な作用によるものであ
る22)。特に,全ての哺乳類の冷知覚受容性C線経と機
3
性は,ニューロンの障害が軽度であるために起こる可逆
的な現象である。それ故,知覚ニューロンの重度な障害
である変性や細胞死とは区別される2)。脱感作のメカニ
ズムは,カブサイシンの量に依存していること以外,不
明な点が残されている21)。臨床的な治療にカブサイシン
械的受容性C線維以外の皮膚ポリモダール(化学,熱,
を用いる場合,不可逆的な毒性反応を引き起こさずに脱
浸透圧,リガンド等)侵害受容性C線経を興奮させる。
カブサイシンは遅い伝達速度を有するC線経を持つ小
感作を誘導する正確な濃度が目安になる。
型のDRG細胞を脱分極(興奮)させることで作用を発
4,カブサイシンのアゴニストとアンタゴニスト
揮する。体性や内臓性組織に分布している小型の神経
カブサイシンのアゴニストとアンタゴニストについ
ニューロン内のニューロペプチド(SP,CGRP,VIP)が,
ての知識は,カブサイシンの作用を理解する上で重要で
カブサイシンによって減少する。体性や内臓性器官にあ
ある。アゴニストとしてRTX (レシニフェラトキシン)
るポリモダール受容体に対するカブサイシンの選択的脱
について,アンタゴニストとしてはcpz (カブサゼピ
感作や毒性作用は,末梢における鎮痛作用に効能をもつ
のと同時に,神経原性炎症に影響を及ぼす効能もある。
ン)とRR(ルテニウムレッド)について簡単に紹介する。
ヒトの皮膚へのカブサイシンの局所投与は,焼けるよ
レヴューから引用している。 RTXは,サボテンのよう
うな痛みや熱および圧に対する顕著な痛覚過敏を引き起
こす。その後,カブサイシンを繰り返し投与すると脱感
な植物のEuphorbia resinlferaから抽出された強力な作
灯Xに関する以下の記述は, szallasiとBlumbe唯2)の
用を持つカブサイシンのアナログである。 E. nesinlfera
作が生じる。我々は,カブサイシンを香辛料として日常
を乾燥させた乳液は, 2世紀にわたって鎮痛物質とし
的に使用すると,口腔粘膜がカブサイシンの刺激作用に
より脱感作されることを経験的に知っている。 1%のカ
て用いられてきた。 RTXは1975年に初めて分離され,
1989年に非常に強い作用を持つバニロイドであること
ブサイシンを舌に繰り返し投与することで,カブサイシ
が証明された。 RTXは,カブサイシンの数千倍の活性
ンやマスタードオイル(カラシ油)に対して脱感作(感
がある。カブサイシンとRTXは,ともに生物活性のも
じなくなる)されることは容易に想像される。一方,刀
とになるバニロイド基を有しているが,後者はカブシ
ブサイシンによって,味覚や機械的知覚(触覚,ピン刺
ノイドに見られる疎水性の単純な鎖ではなく,もっと
し刺激,圧覚等)は影響を受けない14)。実験動物におい
重要な役割を果たす複雑で強固なジテルペン(炭素数
て,カブサイシンは,軸索反射によって,投与した部位
20)骨格を持っている。 RTXは, α1-酸性糖タンパク
やその周辺の皮膚の血管を拡張させ,発赤と血薬の血管
(orosomucoid)と特異的に結合し,カ)レシウムを流入さ
外漏出(膨疹)を引き起こす。カブサイシンの反復投与
せる能力の25倍もタンパク質との結合能を持っている。
によって,発赤と膨疹も減少する。興味深いことに,刀
従って, RTXはvR (バニロイドレセプター-カブサイ
ブサイシン投与の中断により,侵害刺激に対する感受性
シン受容体の旧名。現在はTRPVlと呼称)との結合能
は回復し,熱刺激,逆行性電気刺激や化学的侵害刺激お
とカルシウムを流入させる相対的な能力が,カブサイシ
よびアレルギー刺激による血薬の漏出も回復する。
ンのそれらの能力に比べ約310倍高い。このことは,刀
動物実験に反して,ヒトの前腕の掌側へのアレルギー
ブサイシンはカルシウム流入(vRチャネルを開ける能
原滴下に先立つカブサイシンの前投与は,急性の灼熱
痛と発赤を抑制しないが,膨疹を抑制する23)。この結果
刀)に優先的に作用し,一方RTXはvRに強く結合す
る能力を有することを意味する。従って, RTXが結合
から,発赤はカブサイシン感受性知覚線経と関係しない
が,膨疹反応とカブサイシン感受性知覚線経は密接に関
異なる場所であると考えられる。 RTXの血管内投与は,
するドメインは,カルシウムの流入を誘導する部位とは
ニューロンの興奮後の「神経機能障害」を基に,レセプ
膀胱内に分布する知覚ニューロンの長期間脱感作を誘導
し,尿失禁患者に対するカブサイシン投与による副作用
なしに長期的な改善をもたらす。
ターの「脱感作desensitization」と「耐性tachyphylaxis」
一般的に用いられるバニロイドアンタゴニストである
を区別している。それによると,脱感作はアゴニスト
CPZは, vRやRTX結合部位に競合的に結合し,バニ
(カブサイシン)によって占領された受容体の活性が急
速に消失し,ニューロンが侵害熱刺激,機械的刺激や内
ロイドが引き起こす活性を抑制する。このアンタゴニス
因性物質(ヒスタミンやブラデイキニン等)と外因性物
シンの知覚神経に対する全ての特異的作用を阻害する。
係すると考えられる。
szallasiとBlumbe唯2)は,バニロイドによる知覚神経
I
トは,構造的にカブサイシンと類似しており,カブサイ
質(キシレンやマスタードオイル等)によるアレルギー
しかしながら, cpzのVRに対する効果の解釈には,注
性炎症による刺激等の様々な刺激に反応しなくなること
意が必要である。というのは, cpzは電位依存性のカ
を指す。一方,耐性は,アゴニストの繰り返し投与によ
ルシウムチャネルをブロックするからであり,このこ
り,反応が徐々に消失していくことを指す。脱感作と耐
とは, cpz非感受性のVRの存在を示唆している2) (vR
四国歯誌 第25巻第1号 2012
4
はカブサイシン特異的にカルシウムイオンが流入する
タゴニストとしての分子的なメカニズムは,今のところ
から)。それは,今までの実験結果が矛盾している背景
解明されていない。
になっているかもしれない2)。ヒト皮下にカブサイシン
TRPVlアゴニストが,カブサイシン感受性ニューロ
を投与すると痛みを感じる。この痛みは,ごく微量の
ンの破壊や脱感作を引き起こし,結果的に抗侵害刺激作
cpzの投与により半減する。 CPZの発見は,カブサイ
用を示すのに対して, TRPVlアンタゴニストは,発熱
シンが知覚ニューロンに特異的な結合部位(レセプター)
を伴わずにTRPVlを介する感作のみを抑制するので治
を持っているという仮説を強く裏づけるものであった。
療法として有益である24)。
TRPVlアンタゴニストが,カブサイシン,酸(pH5),
熱の全ての様式(ポリモダール)によって引き起こさ
れるTRPVl活性に措抗し,抗痛覚過敏効果を発揮する
5,カブサイシン貼付による局所的治療法
ヘルペス,糖尿病,寒冷葦麻疹によって引き起こされ
には,アンタゴニストが血液脳関門を通過する必要があ
た痛みの部位へのカブサイシン局所貼付(0.025%ある
る24)。多くのTRPVlアンタゴニストは,チャネルのブ
いは0.075%クリーム)は痛みを軽減する効果がある21)。
ロックによって体温上昇を誘導するので, TRPVlは体
局所的なカブサイシン投与によって軸索反射による発
赤の消失が起こることから,皮膚の侵害受容C線経が
脱感作されだと考えられる22)。病的状態(例えば,寒冷
温の調節にも大きな役割を果たしていると予想されてい
る24)。
RR (カルシウムチャネルブロッカー)は,無機の多
葦麻疹)でのカブサイシンの減痛作用のメカニズムは正
価陽イオン性の色素で,一次知覚ニューロンや平滑筋細
確には分からないけれども,カブサイシンによるポリモ
胞へのカルシウム流入を阻害する。 RRは,細胞内ミト
ダールな侵害受容性C線経の選択的な脱感作が炎症や
コンドリアのカルシウム取り込みも阻害する25)。 RRの
アレルギー性の病的状態に効果的である。しかしながら,
作用は,ルテニウムイオンやルテニウム塩化物のどちら
の作用にもよらない。カブサイシンンの急性作用を抑制
慢性の痛みを持つ患者へのカブサイシンの局所貼付とい
するRRの濃度の範囲は狭くて, 0.1-10匹Mの間であ
がある。神経痛の痛みは,しばしば,刺痛,電撃癌,焦
る。 RRの主な作用部位は細胞内でなく,細胞膜と考え
熱痛,灼熱痛として表現され,侵害刺激による痛みとは
られている。 RRは,一次求心性神経の知覚機能や遠心
区別される28)。低濃度(0.075%)のカブサイシン貼付
性機能の両方を阻害することで,カブサイシンの選択的
は,神経痛による痛みを持つ患者の慢性病を和らげる治
なアンタゴニストとして作用する。 RR(30nM以上)は,
療法として試みられている。この方法は,低い濃度の貼
1日Mカブサイシン投与による一次知覚ニューロンの脱
付のためと広く治療に準拠してくれないということから
感作を阻害する。 RRは, RTXがDRGの細胞膜に結合
効果が乏しい25)。つい最近, Notoら28)は, NGX-4010
う治療法には,灼熱感(刺激痛)が随伴するという難点
することを阻害しないので, RRの作用部位はvRでは
(Qutenza)という高濃度(8%)の合成カブサイシンの
ないようである。それ故, RR感受性の陽イオンチャネ
皮膚貼付が,神経性の療病や異常知覚(ヘルペス後神経
ルにおいては, RRがチャネルの開口を直接阻害すると
痛, HIV関連末梢知覚神経障害,糖尿病性神経障害によ
考えられている25)。一方, RRは, vR上のRTX結合部
る疫病:ストッキング・グローブ症候群)を副作用や神
位にかなり選択的に結合するという報告もある26)。興
経毒性を起こさずに抑制することができることを報告し
味深いことに, RRは,カブサイシンによる侵害刺激の
ている28)。
興奮を脱感作のごとく減弱する効果があるにもかかわ
らず,侵害熱刺激やプロトンによる興奮に対しては抑
ストを用いた治療法には問題が残っていて,有効な薬
TRPVlをターゲットとしたアゴニストやアンタゴニ
制効果を発揮しない27)。行動学的な動物実験において,
の開発が期待されていが4,9・24・29 33)。特に,アンタゴニ
RRが熱反応を抑制しないということは,最近のTRPVl
ストのTRPVlの活性を抑制することによって起こる体
遺伝子欠損マウスの研究と類似している。すなわち,
温を上昇させる副作用を,プロトンが除去するという方
TRPV (1,2,3,4)欠損マウスに急性の侵害熱刺激に対
法が,将来の有効な治療薬の開発につながる可能性があ
する感受性の喪失がないことは, RRがマウスにおいて
る抄。
カブサイシンによる刺激作用のみを抑制するということ
と一致する27)。両者(RRとTRPVl欠損マウス)とも,
Ⅱ〟 カブサイシン受容体, TRPVl
カブサイシンの作用は抑制されるが,急性侵害熱刺激に
クローニングされたカブサイシン受容体は,新たに
対しては通常通り反応する。 TRPVlチャネル間孔をRR
TRPVl (同nsient receptor potentid vanilloid 1 :かつては
が抑制しても,動物実験では熱刺激に対して反応が起こ
バニロイドレセプターと呼ばれていた)と名づけられた。
る。しかし,炎症状態では,感作されたTRPVlチャネ
ルの補充が抑制されるので,侵害熱刺激に反応しなくな
の陽イオンチャネルであるTRPファミリーの1つであ
このレセプターは,カルシウムを通過させる非選択性
る27)。このようなRRが基本的で正常な温痛覚に干渉し
り, 6つの膜貫通ドメイン(TM1-6),細胞質内にア
ないことは謎である27)。結局, RRのカブサイシンアン
ミノ基とカルポキシル基の終末,そしてTM5とTM6の
カブサイシンの作用とそのレセプター, TRPVl,
及びそれらと関連する小型一次知覚ニューロンの概観(中川,樋浦)
間に孔ループを共通のサブユニットとして持つ。機能的
5
カブサイシンと侵害熱刺激は,非選択的陽イオンチャ
なTRPチャネルは4つのサブユニット(4量体)で構
ネル(TRPVl)を介して,侵害受容性知覚ニューロンを
成されている。 TRPVlがクローニングされて以降,刀
活性化す847)。カブサイシンが結合することでチャネル
ブサイシンの作用は分子レベルで広く研究されるよう
が開くとカルシウムが流入し,その結果,侵害受容性神
になり,カブサイシンの分子ターゲットがイオンチャ
経に脱分極が起こる47)。侵害熱刺激は,単独でTRPVl
ネルタンパク質であるということが証明された。以前
を活性化することができ,カブサイシンと同じメカニ
の研究結果に一致するように, TRPVlは,無髄のC線
ズムで痛みを誘導する47)。唐辛子を食べた時,何故,辛
経を出す小型の一次知覚ニューロンや有髄のA6線経を
出す中型の一次知覚ニューロンに特異的に発現してい
味と熱を同時に感じるのかという疑問や,傷ついた部位
が酸に曝されると何故痛みを感じるのかという疑問は,
ることが証明された36)。 TRPVlは,体性組織だけでな
TRPVlがポリモーダルセンサーであることで説明され
く内臓性組織など全ての組織に分布していると考えら
ている。 TRPVlは,痛み刺激の分子的集積器として注
れてい83)。この10年間で,このレヴューに関連する
目を集めている。このように, TRPVlは今や時のセン
TRPVlのトピックスだけでも多くのものが発表されて
サーである。低いpH(プロトン)によって,カブサイ
い8 3・4, 10・ 24, 27・ 29・ 31・ 32,37-45) 。
シンと熱の作用が増強されるというのは最も不思議な現
TRPVlは,外因性刺激であるカブサイシンやそのア
ナログだけでなく,内因性物質(内因性バニロイドであ
象である。熱によって引き起こされるTRPVlの特性と
カブサイシンによって引き起こされるTRPVlの特性と
るアナンダミド, N-arachydonoyldopmineのような脂肪
の違いは,前者がカルシウム非依存性の脱感作を起こす
酸ドーパミン,アラキドン酸の誘導体およびポリアミ
ン)や熱およびプロトンによっても単独で活性化され
ということであ839)。細胞外アシド-シスは,バニロイ
る29・30)。イオンチャネルであるTRPVlは,特異的なポ
に直接作用するようであ839)。 Holzer3)は,炎症下と知
リモダール侵害受容器であり,様々な侵害刺激の分子集
覚過敏時のTRPVlの役割について簡潔にまとめている。
積器である。それ故,化学的あるいは物理的刺激を調節
主な点は, 1)炎症下や知覚過敏時には,知覚神経に
する作用を有してい83)。このことが,このチャネルの
TRPVlが過剰に発現している。 2)熱,カブサイシン,
特徴的な性質となっている。プロスタグランディン,ブ
プロトンや他のリガンドによって活性化されたTRPVl
ド結合部位に直接作用するのではなく,チャネルの開放
ラデイキニン, ATP,セロトニンおよびNGFのような
は,侵害刺激の闇値が下がる。 3) TRPVlノックアウ
炎症性のメデイエークーも, TRPVlチャネルをアロス
トマウスでは,実験的な炎症下で熱に対する痛覚過敏は
テリックに調節することでチャネルを開くことができ
減少する。すなわち, TRPVlは病的状態下での侵害受
83)。アゴニストの長期間の結合によるチャネルの連続
容に必須なレセプターである。
した開放が脱感作を誘導するかどうかは定かではない。
TRPVlアゴニストやアンタゴニストの結合部位は,
プロテインキナ-ゼによるTRPVlのリン酸化がチャネ
TM3とTM4ドメインのアミノ酸残基(セリン505-ス
ルの感作を引き起こすのに対して,プロテインフオス
レオニン550)48)にある。 TM3とTM4の構造変化は,細
フアクーゼによる脱リン酸化が脱感作を誘導する。リン
胞外のTM3-TM4リンカードメインを介するプロトンセ
酸化と脱リン酸化の間の動的なバランスがチャネルの活
ンサーの活性化によって起こり,それはカブサイシンや
性化と非活性化にとって重要であ83)。さらに,細胞膜
へのTRPVlの輸送が感作に関与していて,いくつかの
RTXによる活性化にも関係している49)。しかしながら,
キナ-ゼ(src虹nase, phosphoinositide 3-虹nase,プロテ
めて)は今まで正確に同定されていない31)。 TMl近く
インキナ-ゼC)が,このことに影響している。カブサ
のN末端の60個のアミノ酸を切除して異種発現させた
イシンと熱による増強作用は,機能的な電位センサーと
ヒトのTRPVlイソフォームは,プロトンやカブサイシ
リガンド結合部位の正確な位置(細胞外か細胞内かも含
してのTRPVlチャネルの開放を促進する10)。 TRPVlの
ンには反応しなかった。しかし, 47度以上の熱には反
電位センサーは明らかでないが,電位依存的なTRPVl
応した。このことから, 60個のアミノ酸が消失したこ
の活性化は確かである42)。電位依存性の感作と脱感作
とによるチャネルタンパクの構造的な変化にもかかわら
が温度やリガンドの濃度によって調節されているので,
ず,侵害熱刺激は感知されるがカブサイシンや低pHは
TRPVlの熱やリガンドに対する感受性は固有の電位変
感知されないという結論が導かれる。 6個のアンキl)ン
化を反映している42)。すなわち, TRPVlチャネルのユ撫
ドメインに結合するATPは, TRPVlチャネルの開放を
ニークな特徴は,リガンド依存性開孔チャネルである
感作すると言われている10)。最近,細胞質のコレステロー
だけでなく,電位依存性開孔チャネルでもあることに
ルとガングリオシド(脂質ラフトに不可欠を構成要素)
ある10)。膜を貫通しているTM4が電位センサーと考え
がTRPVlチャネルの細胞膜周囲の脂質ラフトと干渉を
られている46)。多くのアゴニストによる電位センサーを
起こし,チャネルと侵害受容の機能的な調節に重要な役
直接調節する機能的なメカニズムの存在が議論されてい
割を果たしていることが想定された32)。
る46)。
TRP複合体は, TRPタンパク質以外に,足場タンパ
四国歯誌 第25巻第1号 2012
6
ク質,チロシンキナ-ゼBや酵素(フオスフォリパー
があり,視床後腹側核や外側核へ痛みシグナルを伝達し
ゼC)やプロテインキナ-ゼCのレセプターを含んで
ていることを証明した。このことから, schmelz53)は,
い838)。 TRPVl,足場タンパク質のAキナ-ゼ固着タ
痛みの特異説がかなり有力だと述べている。
ンパク質79/150 (AKAP)およびpKCによるTRP複合
成熟ラットのDRG内のヒスタミンに反応するニュー
体形成は,細胞膜の感受性を調節する遺伝子翻訳後の
ロンの90%は,全て小型の細胞(直径:平均17.8叫m)
過程(細胞内カスケード)において,炎症時のチャネ
ルの感作と密接に関連していることが報告された51)。ま
で,そのほとんどがカブサイシン感受性ではない52)。こ
た, TRPVlのC末端ドメインにAKAPの結合に関係
異的にヒスタミン感受性線経であることが分かった(特
する14のアミノ酸断片も発見された51)。さらに,細胞
異説)52)。健康なヒトの皮膚に血管反応性物質(プロス
の発見によって,痛み知覚神経線経のほとんどは,特
膜へのTRPVlタンパク質の輸送(補充)は,機能的な
タグランディン,セロトニン,アセチルコリン,ブラ
AKAPの存在に依存してい851)。すなわち, TRP複合
デイキニン,カブサイシン)を微量投与すると,ヒス
体は,感作や脱感作に極めて重要な役割を担っているよ
タミンにより高い掻痛感を示すが,カブサイシンは痛み
うである。
ではなく強い痛みを引き起こす55)。ヒスタミン陽性神経
線経は,純粋な痛み誘発物質にも反応するため「痛み特
皿。 TRPVlと産み
慢性の掻痺症(アトピー性皮膚炎)は,極度の痛み
のために皮膚を掻きむしったり(痛み反応-痛み行動),
異的」神経線経に分類されないから,痛み選択的という
方が妥当である。けれども,侵害受容器の中に,厚みに
反応する役割を担う集団があることが強く示唆されてい
通常の眠りを阻害したりすることで,生活の質に悪影
855)。最近,痛み誘発物質であるヒスタミンが, invivo
響を与える。痛みの緩和は,患者にとって痛みと同様
やinv誼oにおいて,フオスフォリパーゼA2やリボキ
に重要な問題である。しかしながら,ヒスタミンと掻
シゲネシスの下流域の代謝の促進で,知覚ニューロンの
痛感との密接な関係について実験的に証明されている
TRPVlを興奮させることが報告された56)。痛みや痛み
にもかかわらず,痛み知覚のメカニズムは明らかにされ
を誘導するチャネルのタイプがあるのではなくて,一次
ていない52)。現在,痛みのメカニズムについて次の4つ
知覚ニューロンに痛みや痛みを誘導するタイプのあるこ
の説がある。 1)痛みのみに反応する特異的な知覚神経
とが予想された56)。ヒスタミン経路とは別の痛みの非ヒ
線経の存在を前提とする説(特異説), 2)侵害受容性
スタミン経路がプロテアーゼ活性レセプター(PAR)-2や
ニューロンが,強く活動すると痛みを感じ,弱く活動す
セロトニンのアゴニストの皮下注射によって明らかにさ
ると痺みを感じるという説(強度説), 3)侵害受容性
れた。両物質とも共通して,後角表層のニューロンを活
の知覚神経線経の一部が中枢の侵害受容性のニューロン
性化させが7)。さらに, TRPVl発現ニューロンは,症
ではなく,痛みに反応するニューロンを活性化させると
みの主たるセンサーであり,痛み伝達を仲介すること
いう説(選択説), 4)皮膚の知覚神経線経の一時的あ
が強調された58)。産みシグナルの細胞内の中心となる代
るいは部分的な活動パターンが他の知覚を痛み知覚へ変
謝産物であるフオスフォリパーゼC (PLC) βは,ヒス
換するという説(パターン説)。 「窪み特異的」なニュー
タミンやセロトニンに反応し,侵害熱刺激には関係し
ロンが存在するかどうかは解明されていない,なぜな
ないことが証明された58)。エンドテリン(ET)-1による
ら,痛み特異的な知覚神経が他の感覚を感じている可能
痛みは, TRPVlが必要であり, pLCβを介さない。この
性を除去することができないからである。
ことは,細胞内カスケードの下流経路がヒスタミンやセ
アレルゲンに暴露されると,皮膚は,アレルギー反
ロトニンに仲介されないことを示唆している58)。興味深
応としての発赤(血管の拡張)と膨疹(血薬タンパク質
の血管外漏出)を伴った痛み反応を起こす。ヒトの皮膚
いことに,セロトニンとETlによって誘導される痛み
行動が, TRPVl欠損マウスで減少しないこと(痛みに
に事前にカブサイシンを投与しておくとアレルギー反応
TRPVlは関与しない)は,カブサイシンの髄脛内投与
の発赤を抑制し厚みを軽減することができる。一方,形
によってTRPVl発現ニューロンを減少させたマウスの
疹反応はカブサイシンの事前投与では抑制できなかっ
痛み行動の極端な低下(痺みにTRPVlが関与する)と
た23)。アレルゲンによるカブサイシン感受性ニューロン
矛盾してい858)。一方,ヒスタミンレセプター1は,症
の活動は,膨疹ではなく発赤や痛みに大きな役割を果
み以外に, PLC/PKC経路を通して,ヒスタミン誘導性
たしている23)。膨疹は,マスト細胞が放出したヒスタミ
のTRPVl感作に関連していることが示唆されている。
ンによる直接作用であり,カブサイシン感受性神経終末
なぜなら,マウスDRGのヒスタミン感受性ニューロン
から放出されるメデイエークーとは関係がないと考えら
は,ほとんどカブサイシン感受性ニューロンと重複して
れる23)。この結果は,カブサイシン感受性でかつ痛みを
いるからである。
伝達する皮膚知覚神経線経が存在することを示唆してい
マスト細胞の脱顆粒によって皮下に放出されたヒスタ
る。 Andrewとcraig54)は,ネコの脊髄後角の第I層に
ミンは,皮膚の無髄C線経の興奮を介して,最初に痺
痛みに直接反応する特異的な二次ニューロンのグ)レ-プ
みの知覚を引き起こす52)。カブサイシン感受性C線維
カブサイシンの作用とそのレセプター, TRPVl,
及びそれらと関連する小型一次知覚ニューロンの概観(中川,樋浦)
7
とマスト細胞のどちらが血薬の溢出や痛みに関係がある
かを,マスト細胞が欠損したW/W+マウスとマスト細
胞の豊富なNCマウスを用いて研究した60)。新生仔期の
皮下にカブサイシン(50mg/kg)を授与されたNCマウ
スは,マスト細胞の脱顆粒促進物質であるコンパウンド
(co) 48/80で刺激しても,血薬の漏出は見られなかっ
た(図1,2)60)。痛みのために起こる痛み行動も,カブ
サイシン投与群と溶媒のみ投与したコントロール群と
の間に差は認められなかった。さらに,生後2日の皮下
にカブサイシン(50mg/kg)を投与したマウスとコント
ロール群の間にCo48/80で誘発される痛み行動にも差は
なかった61)。すなわち,痛み特異的なC線経はカブサ
イシン非感受性であると考えられた。また,痛みを増強
するオピオイド作動性経路はカブサイシンにより活性化
されることが示唆された61)。なぜなら,痛み行動がモル
ヒネ指抗薬であるナロキサンや新生仔期のカブサイシン
投与によって抑制されたからであ662)。このことから,
痛みの経路は新生任期のカブサイシン投与によって無髄
C線経が極端に減少して機能を果たさなくなり,残存し
ている侵害受容性Ae (痛み)線経が,オピオイドやオ
ピオイド措抗薬によって影響を受け,痛み知覚の増強や
減少を誘導していると考えられる。
我々の研究60)と同様に,カブサイシンの前投与によっ
図I NCマウス耳介の皮下内マスト細胞
co48/80投与前の顆粒を蓄えた多くのマスト細胞
(a)。 co48/80投与後,脱顆粒したマスト細胞(b,
C, d)。脱顆粒に伴い赤い顆粒が青色に変化する。
このことは,高濃度の硫酸化ヘパリンが低濃度の
硫酸化-パリンに変化したことを示している。矢
印:マスト細胞から放出された顆粒。マスト細胞
て眼のワイビング行動は有意に減少し,角膜に分布して
いる侵害性化学受容C線経が減少していることが示さ
染色した。 d:細胞膜の崩壊と脱顆粒を示す電子
れた61)。新生仔期にカブサイシンを投与すると,一次求
顕微鏡像, co:コラーゲン。 Hiuraら(1995)か
心性神経の無髄C線経が70%減少することが確かめら
れていることから,残存しているカブサイシン非感受性
ら改変。
は, 0.5%アルシアンブルーと0.1%サフラニンで
C線維(約30%)がマスト細胞から放出されたヒスタミ
ンによる痛み知覚に関わっていると考えられる60)。なお,
残存するカブサイシン非感受性線経は急性の熱刺激も感
知する可能性が示唆されている12,16・20・40)。このことは,
培養したDRG細胞において,ほとんどのヒスタミン感
受性小型ニューロンがカブサイシンに非感受性であった
という結果によって支持され852)。カブサイシン感受性
あるいはTRPVl発現一次求心性線経が痛み伝達を担っ
ているという報告も数多くあるが3・56・58・59), Nicolsonら
は,痛みのみを感じる特異的な,ポリモダー)レではな
い侵害受容性一次知覚線経が存在することを強調してい
852)。実験動物による差,用いた痛み誘発物質の種類,
図2 NCマウスにおける化学的刺激(キシレン)によ
る足背血襲漏出(エバンスブルー)とヒスタミン
放出による痛み反応
新生何期にカブサイシンを投与したマウス(C)
は,溶媒のみ投与したマウス(a)に比べて,明
invivoとinvitroの実験による差,細胞内経路の複雑さ
らかに血薬漏出が減少している。痛み行動につ
により,多くの研究の間に矛盾(たとえば, TRPVlが
いては,コントロールマウス(b)とカブサイシ
関係するか,しないか)が存在する。以上をまとめると,
ン投与マウス(d)に差は認められなかった(ど
痛み知覚には, 3つの経路があると考えられる(図3)。
ちらも耳介がもぎ取れるほどの痛み行動を示し
た)。矢印:重篤な痛み反応により生じた耳介の
1. TRPVlと関係するヒスタミン経路, 2. TRPVlと
関係しないヒスタミン経路, 3.非ヒスタミン(5-HT
損傷。 Hiuraら(1995)から改変。
やmR-2)経路,である。すなわち,痛みのみに関連し
ている特異的な神経(経路)は,今のところ見つかって
いない。
ヒトのボランティアによる研究で,痛み領域から離れ
た神経線経に侵害熱刺激を与えたり,掻きむしったりす
るとヒスタミンによる皮膚の血流(充血)の減少(体温
の低下)が生じて,ヒスタミンによって誘導される痛み
四国歯誌 第25巻第1号 2012
8
ETl = Endothelin-I
T
盲
ヨ
Sm
U⑤
5-HT ≡ Serotonin
NGF = Nerve growth factor
Ⅴ
mR = Protease-activated receptor
.=.3-._..SDH-∠蛮\-
園田i重量覆
je一雄/一
PKC = Protein kinase C
PLC = Phospholipase C
RR = Ruthenium red
・....VHi:MaBtCeu ∴∴
-
RTX = Resiniferatoxin
SDind00rd
SP ≡ Substance P
図3 脊髄後角表層(篤I層)に至る痛みに関する3つ
の推測される経路
1)炎症性の痛みと同様に,ヒスタミンやエンド
テl)ン-I (BTl)を介する痛みを起こすTRPVl
陽性小型知覚ニューロン。これらのニューロン
Src = Rou§ sarcoma virous's oncogene
STT = Spinothalamic tract
TG ≡ Thgeminal ganglion
TM = Hansmembrane
は,血柴の血管外への漏出(発赤や膨疹)にも関
TRP ≡ Hansient receptor potential
与している。 2)ヒスタミンによって活性化され
TRPVl ≡ Hansient receptor potential vanilloid-1
るカブサイシン非感受性(TRPVl陰性)の経路。
おそらく,この経路は急性の侵害熱刺激も伝達す
VH = Ventral horn
る。 3)セロトニン(5-HT)やPAR-2(プロテアー
VR = Ⅵnilloid receptor : capsaicin receptor, TRPVl
VIP = Vasoactive intestinal polypeptide
ゼ舌性化レセプター)によって活性化される非ヒ
スタミン性経路。この経路は,ヒスタミン性の経
路とは別に第I層の外側に終止している。矢印:
痛みシグナルの伝達方向と血管に分布している
TRPVl陽性ニューロンの遠心性作用(軸索反射)
を示している。 DRG:後根神経節, S:小型知覚
謝 辞
本稿は, Bentham Science Publisherから転載許可を得
て, 「Anti-InHamatory and Anti-Allergy Agents in Medicinal
chemistry (AIAAMC), Vol. 10 (1), 2-9, 201lJのHot-Topic
"Anti-InHamatory and Anti-Allergy Functions of Capsaicin
ニューロン, L:大型知覚ニューロン, SDH:香
髄後角表層, STT:脊髄視床路, vH:前角。
in Association with its Action on Primary Sensory Neurons"
(Eds.byA.Hiura&G.Jancse)中の我々の英文総説
``An Overview of the Action of Capsaicin and its Receptor,
TRPVl, and Their Relations to Small Primary Sensory
が緩和されることがわかった63)。このことは,逆な言い
Neurons"を訳咄,加筆したものである。
方をすると,日常において体温が上昇すると痛みが増強
参考文献
することと一致している。このことから,著者ら63)は,
皮膚の発赤を減少させる薬が新しい抗掻痺剤として有効
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