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豊かな人間性を培う家庭教育の支援 -生活科「めざせ!おしごとめいじん
豊かな人間性を培う家庭教育の支援 -生活科「めざせ!おしごとめいじん」の取組を通して- 生駒市立生駒南小学校 教諭 福 本 亜 矢 子 Fukumoto Ayako 要 旨 1年生は保護者も子どもも学校という新しい環境の中で、学校生活への期待と不安を胸 に緊張した日々を送っている。子どもの生活環境が大きく変化するからこそ、学校と家庭 との連携が必要であると考える。そこで、生活科の学習活動を通して、子どもたちの自立 する力を学校と家庭とが連携して育てていく取組について研究した。 キーワード:家庭との連携、自立する力、親子の会話や触れ合い 1 はじめに 小学校への入学は、子どもたちにとって大きな節目である。生活が遊び中心の場から学習中心の場 に移る。また、保護者も小学校生活への期待と不安でいっぱいである。学校に期待する分、子どもに 手をかけなくなったり、これまで家にいた母親が働きに出て多忙になったりすることが原因で、子ど もに目が行き届かなくなり、子どもの生活に課題が生じてしまう場合もある。幼稚園・保育所時代に は、毎日担任と話をしていたのが、学校に入ったとたんにそうした場がなくなり、その不安から子離 れできない保護者もいる。 子どもたちにとって、家庭は生活の場であり心の居場所である。小学校低学年の子どもは家庭に全 面的に依存し、家庭生活の中の自分でできることに気付いていないことが多い。また、生活が便利に なったため、保護者が教育的な意識をもって手伝わせないと、子どもが手伝う機会がなくなってしま う。子ども一人一人の家庭環境は異なるが、家族みんなが支え合って生活していること、自分もその 中の一人であることに気付かせたい。そして、家庭の仕事の分担や手伝いは、みんなが楽しく生活し ていくために行うのであり、それらを自主的、自発的に行うためには、家庭の温かさや家族の大切さ を感じることが必要である。子どもの気付きを引き出すだけでなく、一連の活動への連携・協力を通 して、保護者の気付きをも引き出していきたいと考える。 そして、子どもたちには、家庭での自分の生活について振り返り、自分なりにできることについて 考えることを通して、家族のために役に立つ喜びと達成感や成就感を体感させたいと考える。幼児期 から学童期へと心も体も成長し、できることが増え、ルールに従ったり、周囲のことを考えたり、友 達と力を合わせて何かをしたりする社会性の基礎がはぐくまれるこの時期にこそ、自分の力でできる ことに取り組み、家族の一員としての役割を果たすことが大切なのである。 そこで、子どもたちの生活実態調査によってそれぞれの課題を把握した上で、家庭での役割意識を 育てるきっかけ作りをすることによって、親子の会話や触れ合いが増え、子どものやる気を伸ばし、 自立する力を育てていくことができると考え 、 「めざせ!おしごとめいじん 」を実践することにした 。 - 1 - 2 研究目的 小学校へ入学したばかりの子どもをもつ保護者に、学級担任としてどのような支援ができるのか、 また、子どもたちが生活上必要な習慣や技能を身に付け、自立への基礎を培うために、学校と家庭が どのように連携・協力していくべきかを考察する。 3 研究方法 (1) 学級担任としての家庭教育支援の方策 (2) 生活実態調査の実施と子どもの生活課題 (3) 生活科「めざせ!おしごとめいじん」の取組を中心とした家庭教育支援の実際 4 研究内容 (1) 学級担任としての家庭教育支援の方策 保護者にとって子どもが就学した喜びの大きい1年生のこの時期こそが、家庭と担任や学校との 信頼関係を築くチャンスであると考える。担任が保護者と出会う機会の一つ一つを大切にして、じ っくりと支援できるよう、年間行事予定に設定されている毎月1回の保護者との懇談には、ねらい や支援すべき内容とその方法について計画を立てておくことが必要である。また、日々の子どもの 様子をリアルタイムで保護者に伝えるために学年通信の果たす役割は大きい。今年度は以下のよう に取り組んだ。 ア 家庭訪問 保護者が担任と子どものことについて詳しく話ができる最初の機会である。家庭での様子や留意 点を聞くことが、子ども理解のための情報源となった。また、入学して間もない子どもたちに対す る保護者の不安解消にも役立てるため、保護者には担任に伝えたいことをあらかじめ準備しておく ように伝えるなど、限られた時間を有効に使う工夫を行った。 イ 学年懇談会 1学期末に、入学後の子どもたちの様子と1年生で育てたい力や、初めての夏休みの過ごし方に ついて話した。また、6月に実施した生活実態調査の結果から家庭生活で大切にしたいことや夏休 み中に手伝いをする習慣を付けるためのポイントなどを伝えた。 ウ 教育相談 1学期末に、希望する保護者への教育相談を行った。担任から入学後の子どもの学校生活を伝え るとともに、不安をかかえている保護者から話を聞くことで、少しでも子育て不安を解消できるよ う取り組んだ。 エ 参観・懇談会 年間5回の学習参観日を設けている。6月は休日参観とし、働いている保護者や家族が来やすい ように。11月は自由参観とし、休憩時間や給食の時間などの授業以外の子どもたちの姿を見ても らったり、一緒に授業に参加してもらったりしている。2月の参観は1年間の総まとめとして学習 発表会の形をとっている。また4月・10月・2月は学習参観後に学級懇談会を設けて、子どもた ちの様子や行事予定を伝えるだけでなく、家庭での子どもたちの様子を出し合い、保護者同士が子 育ての悩みや家庭教育の工夫を共有する場となるようにした。 オ 個人懇談 12月の個人懇談では、一人一人の成長ぶりとこれから大切にしたいことを保護者に伝えている 。 - 2 - また、11月に保護者と子どもに実施した生活実態調査(生活科)の結果を6月の結果と比較しな がら、より具体的に話すことを心がけた。 カ 学年通信 4月は毎週、6月からは2週に1度、7月からは月に1度発行している。また2学期からは、子 どもたちの「あのね帳」や作文を載せた作文編も不定期に発行することにした。保護者にとっては 、 この通信が子どもたちの学校での様子を知る大切な手段となっている。また、作文等の子どもの作 品を載せることで、子どもが学習に取り組む姿勢や学級の雰囲気、家庭での様子を伝えることがで きた。 (2) テ レ ビ を 見 る (ゲ ー ム を す る )時 間 生活実態調査の実施と子どもの生活課題 1年生を2年間連続して担任したことによ って、共働き家庭が多く、参観にも来られな いために保護者同士のかかわりが少なくなっ ⑤ 3時 間 以 上 ④ 2時 間 ~ 3時 間 を強く感じた。そこで、今年度は6月に子ど ③ 1時 間 ~ 2時 間 子どもの実態に即した支援が必要であること ② 1時 間 以 内 ①見 な い ている保護者が多いということと、保護者や 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 もたちの生活実態を調査し、子どもの家庭生 活や生活経験を把握し(別紙資料参照)、家庭 図1 への支援に役立てようと考えた。調査の結果、 夜、何時に寝ていますか 本校1年生の生活課題として、テレビを2~3 時間見る(ゲームをする)子どもが20%いる こと(図1 )、午後10時台に寝る子が18% いること(図2 )、家での決まった仕事(手伝 無回答 をあげることができる。(図1~4は、平成18 ⑥ 1 2時 よ り 後 をしない子が73%ということ(図4)の5つ ⑤ 1 1時 台 ④ 1 0時 台 ③ 9時 台 れていること、遊んだ後自分から進んで片づけ ② 8時 台 理由として親に時間の余裕がないことが上げら ① 8時 ま で い)がない子が51%いること(図3 )、その 60 50 40 30 20 10 0 図2 年6月実施の生活実態調査より抜粋) 家での 仕事(手伝い)は あります か 1% 遊 ん だ後 自 分 で 片 付けま す か 2% 2% 19 % 49 % 30 % 7% ①決ま った仕事が ある ②毎日ではない が仕事がある ③決め ていないが 時々手伝う ④全く仕事をさせ ていない 27% ① 自 分 で 片 付 ける ②言 わ れ たら片 付 ける ③ た ま に片 付 ける ④ ほ とん ど 人 任 せ 無回 答 63% 図3 図4 昨今、子どものテレビ視聴時間や生活リズムが夜型になってきている傾向と、学力との関係につ いて指摘されているところであるが、同様の傾向がこの調査からも見取ることができる。また、家 - 3 - 庭での決まった仕事がない子がほぼ半数を占めているということや自分から進んで片付けをしない 子の割合が高いということもいえる。しかし、学校では担任の手伝いや給食や掃除などの当番活動 を進んでやるなど、子どもたちは仕事への関心も高く意欲的である。この違いの原因は、家庭生活 の中に潜んでいるのではないかと考えることができる。 そこで、子どもたちが生活科の「だいすきだよ」の単元で家での仕事にチャレンジし、自分にで きることを考える学習活動に取り組むことを通して、保護者には学校と家庭との連携の必要性や家 庭教育の大切さに気付いてもらう機会としたいと考え、「めざせ!おしごとめいじん」の単元を設 定した。 (3) 生活科「めざせ!おしごとめいじん」の取組を中心とした家庭教育支援の実際 ア 「めざせ!おしごとめいじん」での家庭教育支援のねらい ・ 家族の一員として、決まった仕事をしていく中で、自分の力でやり遂げた喜びを味わい、自 分でできることをさらに増やし、自立への基礎を培う。 ・ 保護者から認めてもらうことによって、子どもたちに自分でできるという自信を付けるとと もに、家庭における家族の会話や触れ合いを増やす。 イ 取組の概要 生活実態調査の回答(6月) 生活科 「めざせ!おしご とめいじん」学習 学年懇談会(7月) 活動への協力依頼 教育相談(7月) (学年通信) 「め ざ せ ! お し ご と め い じ ん」 夏休みの自分の仕事・手伝い 「おしごとがんばりカード」記入 名人をめざすための修 行について計画 家族 会議 「仕事のコツ」発表 学習参観・懇談(10月) 「おしごとたいけんた い」(図5) 「おしごとめいじん」への修行 「おしごとがんばりカード」へ メッセージ記入 家族会議 「おしごとめいじん」 認定式 子どもへの手紙と認定証の作成 自由参観 (11月) じぶんでできるようになったこと - 4 - 生活実態調査回答(11月) 図5 ウ 「おしごとたいけんたい」 図6 「おしごとめいじん」認定式 保護者の反応 6月の生活実態調査段階では、子どもの仕事に対して、保護者に見守るための時間の余裕がなか ったり、子どもに任せられないと思っていたりする保護者が約10%あった。7月の学年懇談会で、 夏休みに手伝いをする習慣を付けるために 、「家庭教育7か条」(平成15年度教育研究所作成) を紹介し、一緒にすることやほめることの大切さを話した。保護者の反応は真剣で、ほとんどの家 庭で取り組んでもらえた。 家族の家庭内での仕事調査や仕事のコツのインタビュー、毎日続ける仕事を決定するための家族 会議等に、ほとんどの家庭が快く協力してくださった。10月の学習参観では、家族にインタビュ ーした仕事のコツを友達に発表する場面を見てもらった。懇談会では、家庭で仕事に取り組む子ど もの様子を出し合い、この取組が家庭での会話のきっかけになっていることや、仕事を弟や妹に教 えている姿などについて報告(図7)があった。「おしごとめいじん」認定式(図6)では、多く の保護者が時間に合わせて来校したり保護者の代わりを祖母に頼んだりして、子どもに直接認定書 を渡せるよう、でき得る限りの協力をしてくださった。子どもたちには秘密にしていたため、喜び も大きく何度も認定書を読み返していた。 ・子どもが野菜を切る分を残している。いろいろとやってみたがるようになった。 ・言わないとやっていないときもあるが、弟にも靴並べをするよう言ったり意識はしている。 ・アイロンかけは自分のナフキンだけだが、毎日するようになった。 ・帰ってくる人を待って、大きさ順に靴を並べたり、汚れた靴のどろを落としたりしている。 ・お米洗いのとき、米がつぶれたり水加減が少なかったりしたが、だんだんできるようになった。 ・新聞取りは毎日できなかった。話を聞いて考えてみると、おふろそうじやはし並べは少ししていた。続けられる仕事につ いて考え直してみる。 ・新聞を読みたいときも我慢して待つ。父にも協力を求めた。 ・日曜日はそうじの日と決めているのでぞうきんがけにした。色を塗りたいためにしているが、妹と楽しんでしている。 ・姉にも靴を並べていないと注意するようになった。 ・今まであまりやってくれなかった食器運びを進んでするようになった。 ・帰ったらすぐに、宿題より先に靴並べをする。 図7 懇談会での保護者の意見 - 5 - エ まとめ この取組について11月に再度保護者と子どもにアンケートを採った。その結果(別紙資料参照) から、子どもたちは仕事に積極的に取り組むようになり、決めた仕事以外にも取り組むようになっ ていることが分かった。また、親が子どもをほめるようになり、家族で協力し合い、家族の会話も 増えてきている。さらに、子どもは、自分でできることが増え、できたという達成感や自信が付い てきているようだ。 また、課題のあったAもBも11月のアンケートでは、「 『 めざせ!おしごとめいじん」に取り 組んでよかったですか』の問いに対して、「とてもよかった」と答えている。成果が現れてきてい ると実感した。今後も子どもの様子を観察し、家庭状況や保護者の考えを深く理解するために、連 絡を密に取っていきたい。 学級では、入学当初、指示待ちの子どもが多かったが、この取組を始めてからは、積極的に当番 活動や係活動をしたり、声をかけなくても次の行動を考えられたりする子どもが増えている 。また、 何事にも意欲的で、学校生活全般にわたって活力が感じられるようになった。 5 研究結果と考察 「めざせ!おしごとめいじん」の取組を通して、生活体験が乏しかったり、大人が多忙で生活が夜 型になっていたりする子どもたちの姿が浮かんできた。核家族や共働き家庭が増える中で、保護者は 日々の生活に精一杯で、保護者同士の交流も少なく、仕事や手伝いをさせることの大切さに気付いて いない場合が多い。家庭での仕事や手伝いは本来家庭で学ぶもので、学校で教えるものではないと思 っていたが、今後さらに、学校が家庭での仕事のきっかけづくりをしたり、家庭教育に関する情報を 提供したり、子育てについて相談を求める保護者への支援の必要性が増すと思われる。また、子ども の仕事をきっかけに家庭での会話が増えると、親がほめることも多くなる。そのような状況は、子ど もたちの「ヤッター!」「できた!」という達成感や成就感につながり、責任感や自尊感情を高めて いくことにつながるといえる。子どもたちがよい生活のリズムを身に付け、見通しをもって生活しな がら自立への基礎を培うために、学校と家庭とが手を取り合って子育てしていくことの大切さを痛感 した。 小学校では幼稚園・保育所(園)時代より保護者と担任が話す機会が少なくなる分、学校と保護者 との信頼関係をしっかりと築くことが必要になる。担任は子どもたちの変化に早く気付き、連絡帳や 電話、家庭訪問等で連絡を取り合い支援を続けることで、保護者の不安が取り除かれ、保護者と学校 との絆が深まることが分かった。 6 今後の課題 家庭のプライバシーを尊重することに配慮することで、適切な指導ができなかった面もあった。学 校で、子どもたちに家庭生活上必要な習慣や技能を教えることも必要となってきている現実を受け止 め、学校での取組を通して子どもや家庭の有り様に気付いてもらうことが、家庭の教育力を高めてい く力となっていくのである。 また、これまで1年間をかけて築いてきた家庭との信頼関係を基盤として、次の学年に継続して取 り組めるよう、全教職員の共通認識が必要である。 保護者からの相談や悩みを、プライバシーに配慮しながらも、学校として共有し、次の学年へ引き 継ぐこと、必要があれば地域の教育支援施設や相談機関等を紹介するなどの体制づくりも必要である - 6 - と考える。 年間に位置付けられた懇談会の場を計画的に活用して家庭教育支援に取り組むだけでなく、個別に も日常のきめ細やかな情報交換を心がけ、保護者との信頼関係を築き、連携した教育を行いたいと考 える。そのためには、日々の教育内容についての保護者の理解が欠かせない。学習参観・懇談等への 参加だけでなく、各教科・領域の学習活動に保護者が直接かかわっていただく形での支援や協力をお 願いし、共に活動しながら学校教育への理解を深めてもらえるようにしたいと考える。 本校では現在、各学年ごとに保護者にゲストティーチャーや活動ボランティアをお願いしている。 学校として系統立てた計画のもとに、行事に参加してもらったり、授業に協力してもらったりする体 制づくりも検討していきたい。また、保護者の学習の機会として、子育て講演会や保護者同士の情報 交換の場を学校が提供していくことも必要であると考える。 豊かな人間性を培う家庭教育の支援のために、学校として担任として子どもと保護者の思いを真摯 に受け止め、子どもを共に育てていこうという姿勢をもち、安心して相談できる雰囲気づくり、信頼 できる学校づくりをしていくことが必要である。子どもたちの生活の自立・学習の自立・精神的自立 を目指してさらに次の実践へとつなげていきたい。 参考・引用文献 (1) 辰巳渚 子どもを伸ばすお手伝い 岩崎書店 2006 (2) 丸山美和子 子どもの発達と子育て・子育て支援 かもがわ出版 2003 (3) 鈴木由美子 自立する力を育てる教育 玉川大学出版部 1999 (4) 杉渕鐵良 家庭楽習でわが子は変わる 学研 2004 (5) 「edu」8・9月合併号 小学館 2006 (6) 県立教育研究所 平成12年度家庭教育アンケート調査報告書 奈良県教育委員会 平成12年 (7) 県立教育研究所 平成13年度家庭教育アンケート調査報告書 奈良県教育委員会 平成13年 (8) 県立教育研究所 きらきら子育て 奈良県教育委員会 平成13年 (9) 県立教育研究所 ならっ子みんなで育てよう ママと一緒に“家事”しよう! 今日から明日へ 子どもと親のための家庭教育7か条 奈良県教育委員会 平成16年 《資料1》 第1学年 生活科学習活動案 2006年10月20日(金) 第3・4校時 1年2組 1 単元名 2 単元について ・ 31名 場所 家庭科室 指導者 福本 亜矢子 めざせ!おしごとめいじん 本校は、生駒山麓に位置し、創立132年の歴史を刻む学校である。校区には往時を偲ばせる暗 峠の石畳や棚田などが今も残っている。一方国道沿いは大型のショッピングセンターが建ち並び、 - 7 - 宅地開発も進み、昔からの地の人と新しく引っ越してきた人が混在する地域である。 ・ 本学級の子どもたちは、共働きの家庭が多く4分の1の児童が学童保育に通っている。そのよう な家庭環境での子どもの生活の様子について6月にアンケート調査を実施した。その結果、19% の子どもは家庭内で決まった仕事があった。一方、習い事が忙しかったり、遊ぶのに夢中で時々し か仕事をしていなかったり、親が忙しくてほとんどさせていなかったりする家庭がほぼ半数あった 。 しかし、学校では先生のお手伝いや給食や掃除などの当番活動を進んでやるなど、仕事への関心も 高く、意欲的である。そこで、家庭でも家族の一員として、自分から進んで決まった仕事をしてい く中で自分でもできる喜びに気付いてほしいと考えた。 また、学習面では人前で話すのが苦手であったり、絵を隠すように描いたり、自分に自信をもて ない子も多い。家庭で仕事を続ける中で、家族からの感謝の言葉や温かい励ましを受けることは、 子どもにとって充実感や満足感を得る大切な経験である。このような経験の積み重ねが、自分でで きるんだという自信につながっていくと考えた。 子どもたちにとって、家庭は生活の場であり心の居場所である。しかし、この時期の子どもは家 庭や家族のよさを感じたり、自分が家庭でできることの存在に気付いたりしていないことが多い。 家族みんなが支え合って生活していること、自分もその中の一人であるということに気付き、家族 と一緒にやっていることや、してもらっていることを振り返ることによって、家庭のことや自分で できることについて考え、家族のために役に立つ喜びと自信を体感させたい。そして、この活動を きっかけとして、家族との会話や触れ合いが増えていくことを願い、本単元を設定した。なお、こ の学習活動は学習指導要領生活科の内容(4)に位置付けられる。 ・ 本単元では、夏休みに家族と一緒にした仕事や手伝いを思い起こして家族の仕事を調べる中で、 家庭にはたくさんの仕事があることに気付かせたい。そして、家族の一員として自分でできる仕事 を見付けて仕事のコツを発表したり、仕事を実践していく中で自分の生活について考えさせ、自分 のことは自分で行い、健康に気を付けて規則正しい生活が送れるようにしていきたい。そして、そ のような体験を学校生活の場で友達と交流し合ったり、自分で家庭での過ごし方を決定する場面や 家庭での様子を表現したりする活動を通して、家族のよさと自分ができるようになったことが増え てきたことに気付かせたい。 これらの学習に当たっては、家庭のプライバシーを尊重することに配慮するとともに、保護者の理 解と協力を得るため学年通信や懇談会を通じて呼びかけたり、情報を提供したりすることに努め、家 庭との連携を図りながら取り組んでいきたい。この単元の活動だけに終わらず、学習を通して得たこ とが家庭生活の中で定着し、生かされるよう長いスパンで子どもの成長を見守っていきたい。 3 単元の目標 ・ 家庭での生活や家族の仕事や役割について興味・関心をもち、家族の一員としての 自分の役割を進んで行い、規則正しく生活しようとする。 ・ 家族のことや自分でできることを考え、家庭や家族のことについて調べたことや体験 したことをまとめたり表現したりできる。 ・ 家庭生活は、家庭の温かさや家族の仕事によって支えられていることや、自分ができ るようになったことに気付くことができる。 - 8 - 4 単元の構想図(全14時間、本時11・12時) 他教科・領域との関連 国語「みんなにしら くつそろえを毎日 い え で こ ん な こ と し た よ (1) したよ。 せたいこと」 兄弟でごはんの準備をし 夏休みに、はじめてお米 夏休みに包丁で野 たよ。 をあらったよ。 菜を切れるように なったよ。 ぼくは毎日新聞取 か ぞ く の し ご と を し ら べ よ う (2) りしているよ。 玄関のそうじなら、毎 私にもできる仕 日続けられそう。 事があるよ。 共働きだから、晩ご飯の準備 は交代だよ。 お母さんの仕事が一番多 道徳 いなあ。 なかま 「ぼくのかぞく」 しごとめいじん おしごと イ ン タ ビ ュ ー (1) し ゅ ぎ ょ う ち ゅ う (8) 図工 「おしごとしゅぎょう アイロンかけのやり方 せんたくものは、どう がわからないから、教 したらうまくたためる えてもらおう のかな。 ちゅう」に使う道 毎日がんばるぞ! みんなにも仕事のコツ 具 作り を教えよう やっぱりこっちの仕事の方 が続けられそうだな これからも毎日仕事 を続けるよ。 国語 「おしごとえにっき」 思 っ た こ と やで じぶんでできるもん (2) 給食ナフキンのアイロ ンがけしたよ。 自分の部屋の片付けもし しわがなくなったらき たよ。 「じょうずにな き る よ う に なっ たことを書こう。 ったね」っていわ れたよ。 道徳 もちがいいな。 「いつもしてくれるので 助かった」とほめられた よ。 - 9 - こころのノー ト「かぞくが大好き」 5 評価計画 小単元名 生活へ の関心 ・意欲 ・態度 活動 や体験 につい ての 身近な環境や自分についての 思考・ 表現 気付 き 主な 学習活 動 家 で こ ん な こ と し た ・自分の仕事の経験を ・夏休みの仕事の経験 ・家庭にはいろいろな よ 友達に伝え、友達の発 を友達に伝えることが 仕事や活動があること ・夏休みのお手伝い発表 表 に 関 心 を も っ て 聞 できる。 に気付くことができ こうとしている。 る。 会 か ぞ く の し ご と を し ・家の仕事には、どん ・家の仕事をカードに ・家族それぞれが仕事 らべよう なものがあるかを進ん 書いたり調べたりして や活動をしていること ・家族の仕事調べ で 調 べ よ う と し て い 気付いたことを発表す に 気 付 く こ と が で き ・気付いたことを発表し る。 ることができる。 る。 よう し ご と め い じ ん に イ ・仕事のコツを進んで ・仕事のコツをカード ・仕事をするためのコ ンタビュー 調べようとしている。 にまとめることができ ツに気付くことができ る。 ・仕事のコツを家族に聞 る。 こう お し ご と し ゅ ぎ ょ う ・ 自 分 に で き る こ と を ・ 家族 の た め に 役 立 つ ・ 家 庭 で の 自 分 の 役 割 ちゅう 探し、家族の一員とし こ と を 考 え 、 工 夫 し について気付くことが ・自分の仕事を決めよう て の 役 割 を 進 ん で 実 践 て 行 う こ と が で き る 。 できる。 ・友達に仕事のコツを教 しようとしている。 えよう ・認定書をもらおう ・仕事のコツを友達に ・仕事のコツを進んで 分 か り や す く 伝 え た 発表しようとしたり、 り、意見を交換したり 友 達 の 発 表 を 聞 こ う と することができる。 したりしている。 じ ぶ ん で で き る も ん ・自分にできることを ・仕事をしながら思っ ・自分でできるように ・自分でできるようにな 探し、できるようにな たことや感じたこと、 なったことが増えてき ったことを発表しよう ったことを友達にわか 気付いたことなどを自 たことに気付くことが り や す く 伝 え よ う と し 分 な り に 工 夫 し て ま と できる。 ている。 めたり、発表したりす ・自分のことは自分で ・ 家 族 の 一 員 と し て 、 ることができる。 するこ と の大 切 さ に 気 よりよい生活をしよう 付き、継続して行う という意欲を高められ ことができる。 ている。 - 10 - 6 本時案 本時の目標 ・ 友達に仕事のコツを進んで教えることができる。 ・ いろんな仕事を体験することで、本当に続けていける仕事を見付けることができる。 本時の活動 学 習 活 動 活 動 へ の 支 援 評価(※)と 準備 「おしごとたいけんたい」いろいろなしごとをやってみよう 1 本時の活動を確認する。・ 20分 で各ポ イン トを回 ることを 知ら 指示文 せる。 チェックカード ・ポイントを回ったらチェックをするこ ポイントの準備 とをおさえる。 物 ・自分ができる仕事がないか見付けなが らまわることを約束する。 2 Aグループが仕事のコ ・人数が少ないところや危険を伴うポイ ツを 教え、 Bグ ループ は ント(アイロン・野菜切り)には指導者 ※友達に仕事の 各ポイントを回る。 がつく。 コツを教えよう ・ す い て い る と こ ろ か ら 回 る こ と を 伝 え と し て い る 。( 関 る。 心・意欲・態度) ・交代したときの準備を素早くできるよ ※仕事を進んで 3 B グ ル ー プ が 仕 事 の コ うに声かけをする。 ツを教え、Aグループは やることができ る 。(思考・表現) 各ポイントを回る。 ・全部回れなくてもいいことをおさえる。 ・できた仕事に赤丸を付けさせる。感想 を書かせて自分のできたことについて振 り返らせる。 4 ※自分にできる 本時の学習を振り返る。・ 今日の 活動を 基に 、もう 一度家族 会議 仕事を見付ける をし、続けられる仕事を見直すことを伝 ことができる。 える。 (気付き) ・最後まできちんと片付けられるように する。 5 片付けをする。 - 11 - 《資料2》 生活実態調査(対象:1年生の保護者 ① 6月実施) ② 自分で起きますか 朝、何時に起きますか (人) 50 8% 40 14% ①いつもできる 30 20 10 ⑤ 決 ま って いな い ④ 8時 台 ③ 7時 台 ② 6時 台 ① 6時 よ り 前 0 ③ 40% 38% ②だいたいでき る ③できないこと が多い ④ほとんど自分 で起きない ④ 1% 元気にあいさつをしますか 朝ごはんを食べていますか 2% 13% 2% ①いつもできる ①いつも食べる 11% 33% ②だいたいでき る ③できないこと が多い ④ほとんどでき ない ②だいたい食べる ③食べないことが多 い ④ほとんど食べない 52% 86% ⑤ ⑥ 11% 27% ⑤ 3時 間 以 上 - 12 - ④ 2 ~ 3時 間 62% ③ 1 ~ 2時 間 ③ほとんどしてい ない ② 1時 間 以 内 ①自分からあいさ つをしている ②ときどきしている テレビを見る(ゲームをする)時間 ①見 な い (人) 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 近所の人にあいさつをしていますか ⑦ ⑧ 宿題は進んでしていますか 1% 夕食を家族みんなで食べますか 20% 2% ①いつも食べ る ②食べること が多い ③食べないこ とが多い ④食べない 19% 46% 39% ①自分からして いる ②だいたいでき る ③言わないとで きない ④ほとんどしな い 40% 33% ⑨ ⑩ 決まった時刻に寝ているか 家での仕事(手伝い)はありますか 2% 8% 19% 0% ①決まった仕事が ある ②毎日ではない が仕事がある ③決めていないが 時々手伝う ④全く仕事をさせ ていない 49% 30% 31 % ①いつも寝てい る ②だいたい寝て いる ③できないこと が多い ④ほとん どでき ない 61 % 〈仕事を決めていないまたはさせていない理由〉 ・子どもがやりたいときにやりたいことをさせる。 ・時間の余裕がない。 ・言われたときだけしかしない。 ・子どもがやろうとしない。 ・親の都合 ⑪ ⑫ 子どもだけで買い物をしたことがありますか バスに乗って出かけることがありますか 1% 14% 2% 11% ①一人である 26% 60% ①よく乗る ②兄弟や友達とな らある ③いつも親と一緒 にする ②時々乗る ③たまに乗る ④めったに乗らな い 86% - 13 - ⑬ ⑭ 1% 電車に乗って出かけることがありますか 遊んだ後自分で片付けますか 2% 11% 7% 27% ①よく乗る 39% 20% ②時々乗る ③たまに乗る ①自分で片付け る ②言われたら片 付ける ③たまに片付ける ④ほとんど人任せ ④めったに乗らな い 無回答 63% 30% 《資料3》生活実態調査2回目(対象:保護者 11月実施) ① ② 決めたこと以外にも取り組むようになったか 自分の仕事に積極的に取り組む ようになったか 2% 0% 取り組んだ 33% 31% するようになった 変わらない 67% 変わらない 空白 以前より取り組まなく なった 67% ③ ④ 自分の仕事以外に取り組むようになったこと (人) 25 子どもにことばをかけているか 20 19% 15 1% かけている 10 ときどきかけている 5 弟 妹 の世 話 水 やり 布 団 しき 新 聞 ・郵 便 物 取 り 片 付 け ・整 理 整 頓 ペ ット の世 話 台 ふき アイ ロンかけ 靴 揃 え ・玄 関 掃 除 掃除 風 呂 掃 除 ・湯 張 り 洗 濯 物 た た み ・片 付 け 調理 食 器 配 膳 ・片 付 け 0 - 14 - かけていない 80% 子どもにかけていることば (人) 20% え ら いね よ く でき ま した き れ い に な った (き れ い に で き た ) 上 手 にでき たね (上 手 に な った ね ) 頑 張 った ね (頑 張 って る ね ) ごくろうさま 助 かるわ ⑨ ⑧ ほ め る こ と 、感 謝すること 子 ど も と の時 間 調整 仕 事 が し やす い 環境作 り 子 ど も を待 つこ と 子 ど も への 声 か け と タ イ ミ ング 毎 日 継 続 でき る よ う にす る こ と 自 分 の服 の 準備 自 分 の仕 事 以 外 の手 伝 い 机 や部 屋 の 片付 け 宿題 やその 他 の勉 強 時 間 割 を合 わ せる - 15 - 家庭で苦労したこと・協力したこと (人) 自分でできるようになったこと 変わらない 空白 62% 52% 変わらない 47% 少し増えた 36% 65% とても増え た 少し増えた 1% とても増えた 1%1% 自分でできることが増えたか 家族の会話が増えたか できる 9% 6% できないことが 多い ほとんどできな い あ り がとう ⑧ ⑦ 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 (人) 16 14 12 10 8 6 4 2 0 声をかけなくても自分の仕事ができるか だいたいできる 70 60 50 40 30 20 10 0 ⑥ ⑤ ⑩ 家庭で仕事を続けることへの期待 感謝 忍 耐 力 ・根 気 強さ 達 成 感 や満 足 感 継続 する こと 自信 をも つ 自分 のことは 自 分 で でき る 自主性 自 ら気 付 く 協力 家 族 の一 員 と し て の自 覚 責任感 (人) 14 12 10 8 6 4 2 0 《資料4》「めざせ!おしごとめいじん」取組後のアンケート (対象:1年生 ① 11月実施) ② 自分からすすんで仕事ができたか 仕事を決める前から手伝いをしていたか 7% 12% 9% 40% していた すすんでで きた できた ときどきしていた 51% 40% 41% ③ ④ 仕事をわすれずにできたか 9% 仕事はなにもいわれずにしたか 0% できた 9% 36% できた 55% あまりできな かった 空白 していない 36% ほぼできた あまりできたかった 言われてから 55% - 16 - ときどきいわれた いわれてからしか できない ⑥ ⑤ 44% た かわらない 40% よ く でき ま し が ん ば った ね ごくろうさま 雨 戸 閉 め 水 や り (料 理 ) お米 と ぎ 台 ふ き 調 理 ア イ ロ ン か け 調 理 (野 菜 切 り ) 洗 濯 物 干 し ・取 り 入 れ 洗 濯 物 た た み 風 呂 掃 除 靴 並 べ ・玄 関 掃 除 食 器 洗 い ・食 器 ふ き ・片 付 け ・郵 便 物 取 り 食 器 配 膳 掃 除 新 聞 - 17 - た す かる わ よ く でき ま し た ○ ○ のお かげ ごくろうさま が ん ば った ね 0 ふえた 3% 7% す ご いな あ う れ し いわ 50% 助 かる よ 70 60 決めた以外の仕事をするか 決めている仕事以外の手伝い (人) あ り が とう ⑧ ⑦ 話さなく なった 空白 あ り が とう ⑩ ⑨ 30 20 10 ときどきす る 52% かわらな い 空白 36% 家族との会話 ( 人 ) 仕 事を したあ と、 言わ れて うれ しいこ とば 70 60 50 40 30 20 10 0 50 40 する 2% 10% かけてもらった 4% 19% ときどきかけて もらった なにもいわれ なかった 空白 33% 家族からのことば (人 ) 40 35 30 25 20 15 10 5 0 家族からことばをかけられたか ⑪ 自分でできることがふえたか 14% とてもふえた 45% 41% すこしふえ た かわらない - 18 -