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page201-300 - 新エネルギー・産業技術総合開発機構

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page201-300 - 新エネルギー・産業技術総合開発機構
E
D
C1
A1
B1
A2
C2
F
G
B2
: Direction of flow
Fig.①.c1-1. Schematic illustration of the continuous flow reactor.
を搭載した。また、TOPO(貯槽:A1)は 50℃以下で固化するワックス性状であるため、送液
ポンプを含む送液部全体(A1,B1 および C1)の保温確保に留意した。当初 TOPO が反応器入
り口付近(C1∼D)および終端取出し口付近(F∼G)にて固化・閉塞する場合があったが、配
管系の工夫によりこれを克服した。更に、高速製造時に反応器の 2 液合流点の高温保持のため
に、原料溶液の予熱能力を向上してよい結果を得た。
このような改良を重ねた連続合成装置により、97%ジメチルカドミウムとしてStrem
Chemicals社製を使用し、TOPOに前記長鎖アルキルホスホン酸を1重量%添加し、原料溶液注
入部温度300∼330℃程度を確保しての運転により、高品質のCdSeナノ粒子を得ることができ
た。本検討によって、実績として約1時間の連続運転が可能となり、約10gのCdSe-TOPOナノ粒
子を得た。これは生産速度として毎時10∼13gに相当した。また反応温度および熟成時間の制
御により、得られるCdSeナノ粒子の発光スペクトルを制御できることを確認した(この点は発
光素子の項で説明する)
。また、TEM観察よりCdSe結晶に由来する格子像が確認され、製造条
件の制御により平均粒径は2.5∼5nm程度の範囲で可変であった。粒子径分布の変動係数はいず
れも20%以下であり、粒子形状の均一性を示すアスペクト比の変動係数は20%以下であった。
(4)成果の意義
粒径及び粒子形状が精密に制御された半導体ナノ粒子の高速合成技術の研究のモデルとして、
液相反応であるホットソープ法による CdSe ナノ粒子の製造研究を行った。反応条件の変動が
鋭敏に発光特性に反映する、いわば高難度の製造課題である本モデル系での検討により、2 液
合流型連続製造装置の実用的な基礎技術を確立した。
こうして得た装置と運転に関する知見は、
例えば、別項で解説する酸化亜鉛(ZnO)のような他物質のナノ粒子の製造においても威力を
発揮した。流通型(管状反応器)のメリットである下流流路における多段階反応の可能性を生
かし、必要な表面修飾反応も連続で行うことが可能であり、今後の工業的製造への成果利用が
期待できる。
156
c2.蛍光体ナノ粒子の合成
(1)目標
蛍光体ナノ粒子の合成手法として超音波噴霧熱分解法を検討してきた。追求する蛍光体物質
は、代表的な酸化物蛍光体であるユーロピウム賦活酸化イットリウム(Y2O3:Eu)に定めた。そ
の理由として、Y2O3は賦活元素を選ぶことで三原色(赤、緑、青)の蛍光能発現が原理的に可
能であること、酸化物ナノ粒子の製造技術開発により産業上重要な多くの酸化物製造への水平
展開が将来可能であること、更に、グリーンケミストリーの観点から有毒な原料(例えば硫化
水素)を必須とするが実用的に広く利用されている非酸化物蛍光体(例えば硫化亜鉛ZnS)の
酸化物蛍光体ナノ粒子技術による代替可能性追求の意味がある。
本研究の数値目標は下表の通りで、その目標達成のため、連続方式対応の大スケール合成装
置の設計上必要な a.合成基礎検討(特に 1000℃以下の低温域での合成可能性)
、b.a.の合
成基礎検討結果を踏まえた連続方式対応の大スケール合成装置の建設、c.b.の装置を使用し
ての大量合成の 3 つのステップで行うこととした。
粒子径
粒子径分布
粒子形状分布
1反応器あたりの生産量
(変動係数) (アスペクト比の変動係数)
最終目標
1∼10nm
10%以下
10%以下
100g/hr以上
ところで、本研究で1000℃以下の低温域での合成可能性に特に着目した理由は、これよりも
高温での合成ではフラックスとして使用する塩の蒸気圧が大きくなるので、炉内壁への望まし
くない融解付着物の増大による高速製造への支障が懸念されたためである。
(2)目標の達成度
粒子径
粒子径分布
粒子形状分布
1反応器あたりの生産量
(変動係数) (アスペクト比の変動係数)
現状
AV.13nm
21%
粒状
50g/hr
達成度
80%
80%
80%
50%
蛍光体回収装置等を連結した連続方式大スケール合成装置を2系列化することによって、8hr
以上運転し、平均粒径が13nmである蛍光体ナノ粒子(Y2O3:Eu)を50g/hの連続製造速度で得
た。 粒子径、平均粒径で目標の1∼10nmに対し、平均粒径13nmと肉薄した。生産量に関し
ては、現状の装置で、半分の能力を達成したので、現状の装置を2基以上で目標はクリアする
ものと思われる。
参考であるが、本蛍光体前駆体のフラックス洗浄品では1600℃の二次処理で75%の相対輝度を
呈した。以上ように、塩添加超音波噴霧熱分解法により、実用レベルのY2O3:Eu蛍光体ナノ粒子
の合成技術を確立した。
157
(3)研究成果内容
(3.1)合成基礎検討
合成基礎検討に使用した装置は、炉心管の長さが1.5m、内径が15mmのものを用いた。蛍光
体原料は、酸化イットリウムと酸化ユーロピウムを硝酸に溶解したものを用いた。仕込みのユ
ウロピウム濃度は、イットリウムとユーロピウムの和に対して6モル%とした。硝酸の使用量
はイットリウムとユーロピウムの総モル数の3倍とした。フラックスとしては、塩化リチウム、
塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウムを検討した。蛍光体原料/フラックスモル
比は、1/10∼1/1の範囲で検討した。キャリヤガス供給速度は、1∼4L/minの範囲で、炉内温度
は、600∼1000℃の範囲で検討した。
検討の結果、これらの諸パラメータは複合的に粒子径及び輝度に影響を与えることがわかっ
た。これらの検討から、好ましい合成条件は、フラックスとして塩化ナトリウム、蛍光体原料
/フラックスモル比は1/5∼10、炉内温度850∼900℃、キャリヤガス供給速度は1L/minである
ことがわかった。輝度は、電気炉にて再加熱することによって、60%を呈した。
解粒は水を溶媒として、未解粒粒子を純水中で超音波を照射しながら行ったが、蛍光体組成
が水に溶解し、1次粒子どうしが付着してしまう場合があることがわかった。この時の水のpH
が弱酸性となっていたことから、解粒に使用する水のpHをアルカリ性側としたところ蛍光体組
成の水への溶解が防止され、1次粒子どうしの付着を回避できることがわかった。解粒操作は、
粒子の沈殿、上澄み水の除去、解粒水の添加、並びに超音波照射の4つの単位操作を繰り返し、
上澄み水の電気伝導度が所定の値より小さくなるまで行った。これにより、ほぼ完全に電解質
成分(フラックス等)を除去することが可能であった。
しかし、水中での解粒のみでは小粒子径化
に限界があるので、ビーズミルでの分散およ
び分散剤の検討をした。粒子径分布が10∼
20nm程度の1次粒子として分散した成分を
含むレベルの分散が可能となった。こうして
分散されたY2O3:Euナノ粒子は1週間以上再
凝集や沈殿をしない安定性を示した。Fig.①.
c2-1に、こうして得たY2O3:Euナノ粒子のTEM
写真を示した。
33 nm
Fig.①.c2-1 TEM image of Y2O3:Eu nanoparticles.
158
(3.2)合成基礎検討結果を踏まえた連続方式対応の大スケール合成装置の建設
合成基礎検討の結果により装置設計を行い、連続方式対応の大スケール合成装置を構成する
ユニットを3つに分け、その能力を確認しながら順次導入した。例えば、[13年度]大型電気炉(容
量:43KW、炉芯管径150mm、炉芯管長2200mm)
、[14年度]大型超音波噴霧器(発振周波数:
、排風器
1.6∼1.7MHz、噴霧量5L/hr以上)
、キャリアガス供給装置部(1.8m3/min、7kgf/cm2)
3
、[16年度]蛍光体回収装置(回収能力:100g/hr、8時間連続運転可)
、乾燥空気
(16m /min)
製造装置(空気圧縮機+乾燥機1m3/min)、排ガス処理装置(10m3/min)を導入し、2005年8
月に連結完成(Fig.①.c2-2)し、これにより、大量合成検討が可能となった。
なお、当初は、三菱化学社敷地内に連続方式対応大スケール合成装置を建設したが、スペ
ースの問題により2003年末から広島集中研に移設し、2004年3月に完了した。
電
気
炉
流
量
計
圧縮機
炉
芯
管
クーリン グ
タワ ー
流
量
計
バグ
フィル ター
圧縮機
冷
水
循
環
器
原料
超音 波
噴霧 器
コールドトラップ
流
量
計
排風 機
排
ガ
ス
装
置
Fig.①.c2-2 The large continuous synthesizer
(3.3) (3.2)の装置を使用しての大量合成
蛍光体原料は、酸化イットリウムと酸化ユーロピウムを硝酸に溶解したものを用いた。仕
込みのユウロピウム濃度は、イットリウムとユーロピウムの和に対して6mol%とした。硝酸の
使用量はイットリウムとユーロピウムの総モル数の3倍とした。フラックスは、塩化ナトリウ
ムを用い、蛍光体原料/フラックスモル比は、1/5∼10とした。
[15年度]
蛍光体回収系を設計するため、簡易回収装置にて短時間合成を行った。温度900℃、原料
水溶液噴霧速度1.5kg/hr(空気吹込量200L/min)の条件で2時間連続運転し、フラックスのNaCl
を含有した蛍光体ナノ粒子前駆体300gを75g/hの速度で得た(ナノ粒子として15g/hr相当)
。ま
た、水中でのボールミル分散により、平均粒径18nmのY2O3:Eu ナノ粒子が得られた。
159
[16年度]
正式な蛍光体回収装置等を接続し、15年度の結果を踏まえ、連続方式対応大スケール合成
装置を構成する大型電気炉、大型超音波噴霧器、冷却系装置を主に見直し、更なる能力アップ
を図った。その結果、昨年度の倍増で、かつ長時間運転が可能となった。
主な見直として、大型電気炉の炉芯管割れ対策で、噴霧水と乾燥空気(露点温度-20℃以
下)の切替方法の見直し(運転マニュアルの改善と大型超音波噴霧器と大型電気炉の連結部の
改造)
、大型噴霧器の冷却系の改造(空冷と水冷の見直し)
、廃液回収系(水冷の見直し)等の
改造・改善を行った。
電気炉温度は900℃、空気供給量は400L/min、前出蛍光体原料噴霧量は3.0kg/hrで熱処理
合成を行い,結果30g/hrの速度で蛍光体ナノ粒子前駆体を合成した。この前駆体をボールミルに
より解粒・分散すると、平均粒径13nmの蛍光体ナノ粒子を得ることができた。
[17年度]
16年度に見直し完成した蛍光体回収装置を接続した連続方式対応大スケール合成装置を2系
列化し、構成する大型電気炉、大型超音波噴霧器、冷却系装置をさらに見直し、その改善、改
良により昨年度の倍増で、かつ長時間運転が可能となった。
(Fig.①.c2-3、Fig.①.c2-4)
主なものとして、大型電気炉の炉芯管内下部断熱材の口径アップ(蛍光体粉末の回収率アッ
プ、及び割れ対策)
、大型噴霧器の2噴霧口化(噴霧量の倍増:16年度成果)
、大型噴霧器の薬
液液面の調整(噴霧量増大)
、クエンチング方式冷却器増設等(水冷の見直し:16年度成果)
の改造・改善を行った。
電気炉温度は 800℃、空気供給量は 800L/min、前出蛍光体原料噴霧量は 5.0kg/hr で熱処理
合成を行い,結果 50g/hr の速度で蛍光体ナノ粒子前駆体を合成した。これを、洗浄し、1600℃
で 2 次処理すると、市販品の輝度の 83%%を呈した。また、前出前駆体をボールミルにより解
粒・分散すると、平均粒径 13nm の蛍光体ナノ粒子を得ることができた。
(Fig.①.c2-5)
160
電
気
炉
流
量
計
圧縮機
炉 炉
芯 芯
管 管
クーリング
タワー
流
量
計
圧縮機
冷
水
循
環
器
原料
コールドトラップ
流
量
計
超音波
噴霧器
冷
水
器
バグ
フィルター
Fig.①.c2-3 The large continuous synthesizer
Fig.①.c2-4
Y2O3:Eu phosphor nano-particles synthesized
161
排風機
排
ガ
ス
装
置
Fig.①.c2-5
Y2O3:Eu phosphor nano-particles irradiated
By the 254nm UV rays .
(3.4)更なる製造速度アップのための指針
13年度に作製した大型超音波噴霧熱分解装置を、改造の範囲内で最終目標達成のための検討
(どこまでの能力が有るものかの探索研究)を行ってきたが、大型電気炉については、炉芯管
の割れ、炉芯管内部断熱材上への蛍光体の沈積を考えると、現状の装置では、蛍光体ナノ粒子
50g/hrの製造能力が限界であり、従って、以後のナノ粒子作製の工程の回収率等を考慮すると、
最終目標を達成するためには、現状の装置の2系列以上は必要と思われる。大型超音波噴霧器
の能力向上については技術的に不透明な部分は有るが、現状のままでは、蛍光体ナノ粒子50g
/hr相当の噴霧量が限界である。これも、最終目標を達成するためには、現状の装置の2系列以
上は必要と思われる。しかし、本装置は、未完成な部分もあり、改造によって目標の蛍光体ナ
ノ粒子換算100g/hrは達成可能も十分考えられると思う。例えば、薬液温度制御、液面調整、超
音波素子配置、超音波素子間距離、噴霧流導入筒のサイズ・取付方法、空気吹込位置、空気吹
込方法等の運転要因についての改良が考えられる。今回のプロジェクト研究においては、予算
的及び時間的制限から、特に影響の大きな運転要因と考えられた薬液温度制御と液面調整を集
中検討した。他の運転要因の改良は大規模な装置改造となるので、今回は断念した。
(4)成果の意義
ナノ蛍光体粒子合成法の基本仕様を確立し、大型装置の原型を完成した。表示・照明デバイ
スなどに用いられる次世代蛍光体として、サンプル出荷可能な技術レベルとなった。また、蛍
光体に限らない多品種の金属酸化物ナノ粒子への応用可能性もある。
162
c3.噴霧熱分解法および水熱合成法によるナノ粒子蛍光体の合成
(1) 目標
ナノ粒子蛍光体の合成技術の確立を目標とし、モデル粒子として SrTiO3:Pr,Al(以下 STO)蛍光
体を選定し、ナノレベルの粒子径で発光特性の良い蛍光体粒子を液相法により合成する技術を
確立する。特に、固相法により合成した試料(粒径:2∼3μm)に比べ、1μm 以下の粒径で発
光特性が同等以上の蛍光体の合成法を確立する事を目標にする。ナノ粒子蛍光体の合成のアプ
ローチの方法としては、噴霧熱分解法、水熱合成法の検討を行い、従来法である固相法との比
較検討を行う。
(2)目標の達成度
噴霧熱分解法及び水熱合成法によるナノ粒子蛍光体の合成技術の確立を目標とし、実験室レ
ベルでの検証を行い、スケールアップを行った結果、工業レベルまでの合成プロセスの確立も
可能である。発光特性について、従来法である固相法との比較を行った結果、噴霧熱分解法に
より合成した数 100nm のサブミクロンサイズの粒子の発光特性が、固相法により合成した 2
∼3μm の粒子との比較において 90%を超える発光強度が得られた。また、水熱合成後に熱処
理を施した試料については、数 100nm のサブミクロンサイズで固相法(2∼3μm)の約 50%の
発光特性のため未達成であるが、1000℃、2 時間といった低温の加熱処理を施したにも関わら
ず、通常 1200℃以上で数時間の熱処理が必要な固相法の約 50%発光特性を有する蛍光体粒子
を合成することができたことは大きな成果である。以上の結果から、今後、ナノサイズの蛍光
体合成を目指すことが可能となった。
(3)研究成果内容
STO ナノ粒子の新規合成手法として、噴霧熱分解法および水熱合成法の検討を行った。
(3.1) 噴霧熱分解法による STO 蛍光体の合成
噴霧熱分解法による STO 蛍光体について、合成用原材料としては Sr、Pr、Al 原料に硝酸系材
料を用い、
Ti 原料にチタニウムテトライソプロポキシド(以下 TTIP)を用いた。
合成方法はまず、
所定量の硝酸に TTIP を溶かし、その後 Sr、Pr、Al 原料をそれぞれ Sr : Ti : Pr : Al = 1 : 1 : 0.002 :
0.15 となるよう混入し、原料溶液濃度が 0.1M となるよう、純水により調整した。これをプリ
カーサー液とし、その溶液を、超音波噴霧器を用いてミクロンサイズの液滴として反応炉内へ
導入し、1000℃∼1700℃の高温で反応させる。反応炉は管状のチューブ内を反応域とし、高純
度アルミナ反応管の内部を微小液滴が通過することで、液滴の水分の蒸発→熱分解を起こし、
球状のナノ粒子蛍光体を得た。
163
装置の概略図を Fig.①.c3-1 に示す。
噴霧熱分解法により合成した STO 蛍光体(写真上 a)と、市販の固相法により合成し STO 蛍
光体(写真下 b)の粒子を比較するため、それぞれの SEM 写真を Fig.①.c3-2 に示す。
電気炉
トラップ
アルミナ管
1μm
集塵器
Fig.①.c3-2-a
噴霧熱分解法により合成した
STO 粒子(倍率×30k)
キャリアガス
流量計
超音波噴霧器
ポンプ
プリカーサー液
Fig.①.c3-1
噴霧熱分解法に使用した
装置の概略図
1μm
Fig.①.c3-2-b
固相法により合成した STO 粒子
(倍率×30k)
噴霧熱分解法により合成した STO 蛍光体粒子は固相法に比べて小さく、粒子径が数 100nm
のサブミクロンオーダーの球状の微粒子である。一方、固相法により合成した粒子は比較的大
きな微粒子であり形も一様でない。
噴霧熱分解法により 1700℃で反応させて合成した STO 蛍光体と、
固相法により合成した STO
蛍光体の発光特性を比較するため、それぞれの比較を Fig.①.c3-3 に示す。
164
1.0
固相法
噴霧熱分解法
PLE Int. : 107%
λ = 330 nm
PLE Int. : 92%
λ = 360 nm
1.2
1.0
PL Int. : 92%
λ ex. = 360 nm
0.8
0.8
0.6
0.6
PLE Int. : 50%
λ = 380 nm
0.4
0.4
0.2
0.0
PL Intensity [a.u.]
PLE Intensity [a.u.]
1.2
0.2
300
400
500
600
0.0
700
Wavelength [nm]
Fig.①.c3-3
噴霧熱分解法により合成した STO 粒子と
固相法により合成した STO 粒子の PL および PLE スペクトル
Fig.①.c3-2 及び Fig.①.c3-3 より、噴霧熱分解法により合成した STO 蛍光体粒子につ
いて、粒径は数 100nm 程度であり、固相法により合成した粒子より小さいが、同じ励起波長
で比較した際に 360nm 励起においては固相法の約 92%とほぼ同等の発光強度を示しており、
また、330nm 励起においては約 107%と固相法により合成した STO 蛍光体の発光特性を上回
っている。
(3.2) 水熱合成法による蛍光体の合成
水熱合成法による STO 蛍光体の合成について、STO 蛍光体を合成する為の Sr, Ti, Pr, Al 原材
料には塩化物系原材料を用いた。 合成方法は下記の通りである。まず、塩化物系原材料を必要
量秤量し、純水に溶かす。それとは別に水酸化ナトリウムを必要量秤量後、純水に溶かしアル
カリ溶液を得る。塩化物系原材料を溶かした水溶液をアルカリ性溶液へ滴下すると、沈殿物が
得られる。この際の pH 濃度は 12~13 としておく。この沈殿物をオートクレーブにより 200℃
で 4 時間程度反応させ、反応後、取り出した沈殿物を水洗いすることで STO ナノ粒子を得るこ
とができる。その後、熱処理を行うことで STO 蛍光体を得た。
オートクレーブの概略図を Fig.①.c3-5 に示す。
165
反応槽用
熱電対
冷却水
500nm
金属パッキン
ヒーター用
熱電対
Fig.①.c3-6-a
水熱合成法により合成した
STO 粒子の SEM 像
(倍率:×100k)
撹拌羽根
反応槽
耐圧容器
1μm
ヒーター
Fig.①.c3-5
オートクレーブ概略図
Fig.①.c3-6-b
水熱合成後に加熱処理を
行った STO 粒子の SEM 像
(倍率×30k)
水熱法にて合成した STO ナノ粒子蛍光体と加熱処理後の粒子の状態を観察する為、各々の
SEM 写真を Fig.①.c3-6 に示す。尚、熱処理は大気雰囲気中 1000℃で 2 時間行った。
水熱合成法により合成した STO ナノ粒子の粒径は 100nm 以下であった。一方、水熱合成し
た STO ナノ粒子に対して、大気雰囲気中 1000℃で 2 時間の加熱処理を施した STO 蛍光体の粒
径は、凝集傾向はあったもののサブミクロンオーダーであった。
水熱合成法により作製した STO ナノ粒子蛍光体およびそれに加熱処理を施した STO 蛍光体
の PL 及び PLE スペクトルを比較するため、発光特性の測定を行った。
(Fig.①.c3-7)
166
固相法
水熱合成後、加熱処理
水熱合成法
1.2
1.0
1.0
PLE Int. 52%
λ = 330nm
0.8
PLE Int. 47%
λ = 360nm
0.6
0.4
PLE Int. 25%
λ = 380nm
0.2
0.0
300
400
0.8
PL Int. 52%
λ ex. = 330nm
0.6
0.4
PL Int. 1%
λ ex. = 330nm
500
600
PL Intensisy [a.u.]
PLE Intensisy [a.u.]
1.2
0.2
0.0
700
Wavelength [nm]
Fig.①.c3-7
水熱法により合成した STO 粒子の PL および PLE スペクトル
水熱法により合成した STO ナノ粒子蛍光体は SEM 写真(Fig.①.c3-6-a)より、ナノ粒子
であるものの発光をほとんど確認できなかった。一方、水熱合成した STO ナノ粒子蛍光体に対
して大気雰囲気中 1000℃で 2 時間の加熱処理を施したところ、STO 蛍光体の発光特性は、
360nm の励起において固相法の約 50%の発光特性であった。
(4)成果の意義
従来の蛍光体はほとんどの場合において、輝度や効率の良いとされる 3∼10μm 程度の粉末
粒子が用いられている。これは、粒子を小さくしていくと、発光効率の劣る結晶表面の割合が
増加するため、
一般的に蛍光体の粒径が 1∼2μm 以下で発光効率が低下してしまうからである。
本プロジェクトでは、噴霧熱分解法により合成した数 100nm のサブミクロンサイズの粒子の
発光特性が、固相法により合成した 2∼3μm の粒子との比較において 90%を超える発光強度が
得られた。この事は、これまで一般的に 3μm 以上が最適とされてきた蛍光体粒子サイズの常識
を覆すと共に、ディスプレイ用途における高精細化、塗布性の向上に大きく貢献する。また水
熱合成後に熱処理を施した試料については、数 100nm のサブミクロンサイズで固相法(2∼
3μm)の約 50%の発光特性ではあるが、1000℃、2 時間といった低温の熱処理を施したにも関
わらず、通常 1200℃以上の熱処理が必要な固相法の約 50%発光特性を有する蛍光体粒子を合
成することができた為、さらなる研究により低消費エネルギー化の糸口になると考えられる。
167
c4.気相合成法による半導体ナノ粒子(13 族窒化物)の合成
(1)目標
光機能素子に使用するための、13 族窒化物ナノ粒子の気相合成に取り組んだ。ま
ず窒化ガリウム(GaN)のナノ粒子の合成を行い、次いで窒化インジウムガリウム
(InGaN)の合成にチャレンジした。粒子径 1∼10nm、粒子径分布の変動係数が 10%
以下が最終目標である。
(2)目標の達成度
熱MOCVD法を用いて粒子径約 8 nm 変動係数約 15%の GaN ナノ粒子の合成に成
功した。また、可視発光の可能性がある InGaN ナノ粒子を合成するためにプラズマ
MOCVD 法の開発を行った。プラズマ MOCVD 法では粒子径約 6 nm の GaN ナノ粒子
を合成することができた。インジウムを入れた粒子の窒化が十分に進まない点と、粒
子径分布の変動係数が 28%とまだ広い点に課題を残した。
(3)研究成果内容
(3.1)熱 MOCVD 法による窒化ガリウムナノ粒子の合成
連続式の有機金属化学気相堆積法(MOCVD)装置を用いて窒化ガリウム(GaN)ナ
ノ粒子の合成を検討した。気相における粒子合成を効率よく進めるため、以下のコン
セプトに基づいて実験を進めた。
i.
原料濃度制御のしやすさからMOCVD原料を用いる
ii.
粒子生成を進めるため、常圧を基本とした設計とする
iii.
熱・プラズマなど、多様なエネルギー源を利用できる設計とする
iv.
多様な原料ガスに切り替えて対応できる仕様とする
v.
環境に配慮し、排ガスを高度にクリーン化してから排出する
上記コンセプトに沿って、キャリアガス種類、キャリアガス流量、リアクター形状、
ガリウム原料濃度、窒素原料濃度等を検討した。また、リアクター形状についても、
急速混合が出来る形状を基本コンセプトとし、内部の流速、ガスの滞留時間などを考
慮して最適な形状を模索した。以下に装置の概略図を示す。
168
M
F
C
M
F
C
M
F
C
ガス原料
キャリアガス
ガス原料
静電捕集(図)
フィルター捕集
熱泳動捕集
などにより粒子を回収
液体原料はバブラーで飽和
蒸気圧で供給
ガス原料はマスフローコントローラ(MFC)で流
量制御して供給
リアクター:石英など
反応温度:1000℃程度
高温で結晶化が可能
プラズマを利用して更に微細な粒子、
より高速の合成も検討した。
Fig . ① . c4-1 Schematic diagram of the CVD instrument for the synthesis of GaN
nanoparticles
上記装置を用い、これらの観点から最適条件を検討した結果、GaN ナノ粒子の一次
粒径の数平均約が 8 nm、標準偏差 1.2 nm の粒子を合成することが出来た。粒子径変
動係数で表せば約 15%に相当し、これは、最終目標に対して 70~80%の達成度であ
る。以下に粒子の透過型電子顕微鏡写真を示す。また、ナノ粒子は結晶化しており六
方晶であった。
Fig.①.c4-2 TEM image of the synthesized GaN nanoparticle
169
また、熱泳動捕集器一体型の粒子合成リアクターを制作し、熱泳動捕集部で
100mg/day の捕集量を達成した。この量は液相粒子合成等と比較すると少ないが、
気相法であること及びガリウム原料の供給が約 4mmφ の管によって行われているこ
とを考えると決して非効率ではない。粒子の生産量を増やしたが組成はやはりガリウ
ム:窒素が 1:1 の定量的な窒化ガリウムであった。捕集した粉体の色は黄白色であ
り、金属ガリウムによるコンタミネーション(通常黒っぽくなる)がないことを示し
ている。
(3.2)プラズマ MOCVD 法を用いた 13 族窒化物ナノ粒子の合成
可視発光を目指し、熱 MOCVD 法を用いた窒化インジウムガリウム(InGaN)の粒
子合成の研究を行ってきた。しかし、窒化ガリウムはアンモニア雰囲気中で合成でき
るものの、窒化インジウムは化合物自体の分解温度が 600℃と低く、アンモニアを用
いる限りアンモニアが活性化される温度が 800℃以上であるため両立する点がなく、
熱を用いて合成することが出来なかった。このため、より活性な窒素源を用いる必要
性がある。窒素源の候補としてはアジド化合物やヒドラジン類といった、爆発性のあ
る高活性の窒素源を用いる方法もあるが、安全性を考慮すると良策ではなく、特にス
ケールアップしたときの危険性は計り知れない。
これに対して、プラズマを用いる方法は原料に(分子状)窒素やアンモニアといった
比較的安全性の高いガスを用いることができる。プラズマ中で生成する不安定で高活
性な化合物が 13 族元素を窒化する際に効果的に働くことを期待した。先行する薄膜
等の研究報告を参考にすると、窒化に大きく寄与するのは原子状窒素である。これは、
窒化に使われなかった場合基本的に窒素ガスに戻るので環境・安全上も極めて都合が
よい原料といえる。
プラズマを用いた粒子合成においては、系内の圧力を比較的高く保つ必要がある。
一般的に薄膜に用いられている RF プラズマでの条件は数 Pa∼数 100Pa 程度であり、
この領域では薄膜成長が粒子発生より優先して起こる。圧力を上げてゆくと RF プラ
ズマなどは不安定になるため、比較的高い圧力でも安定して維持できるプラズマが必
要である。この用途に適したプラズマ源として、マイクロ波プラズマを選択した。
プラズマを用いて GaN ナノ粒子を合成するために、
プラズマ CVD 装置を開発した。
特に重要な部分は、マイクロ波のエネルギーを集中して反応ガスを電離させるための
マイクロ波共振キャビティー(Fig.①.c4-3)の開発である。
170
石英製反応管
マイクロ波入力用
アンテナ
プラズマ発生位置
周波数調整用
チューナー
Fig.①.c4-3
Schematic of the microwave-resonant plasma cavity.
マイクロ波共振キャビティーは、入力されたマイクロ波の電場が、内部を貫通する
形で設置された石英管の入り口付近で最大の強度になるようにデザインした。デザイ
ンは 2.45GHz のマイクロ波に共振するよう、電場のシミュレーション(計算)に基づ
き行った。プラズマを利用した共振回路の設計の難しさは、プラズマが発生する前と
発生したあとでは、プラズマ自体の導電性のため、回路の共振状態が変わってしまう
点にある。
プラズマ発生による共振状態の変化のうち最も重要なものは共振周波数のシフトで
ある。工夫がなければこの現象により共振状態が崩れ、プラズマが消火してしまう。
本研究の共振キャビティーではこの課題を解決するためにキャビティーにふたつの共
振モードを作り、プラズマ発生前とプラズマ発生後でそれぞれのモードで共振するよ
うに設計した。プラズマ発生前の共振モードは Transverse Magnetic(TM)010 モードと
呼ばれる、円筒の中心軸方向に電場が強く振動するモードであり、プラズマ発生後の
共振モードは Transeverse ElectroMagnetic(TEM)モードと呼ばれる、円筒の中心軸に対
して垂直な、放射状の電場が強く振動するモードである。
これを実現するために、電場のシミュレーションを用い、電場の最適化を行った。
特に、プラズマ発生前の電場が石英管内で強く均一になるようにキャビティー形状を
設計した。
171
Fig.①.c4-4 Calculated electric fields in the cavity before plasma ignition (left) and
after the ignition (right).
本研究では 1/2 インチの石英管を用いるキャビティーと、より大きな 1 インチの石
英管を用いるキャビティーを比較し、1 インチの石英管のタイプのキャビティーのプ
ラズマ安定性が圧倒的に高い結果を得た。このシステムでは 10 時間程度の運転もま
ったく問題なくできたため、このあとの実験はすべて 1 インチのシステムで行った。
径が大きい方がプラズマが安定する理由は 1)石英管内の電場が均一になる、2)プラ
ズマの壁面との接触による消滅が起こりにくい、ことによると考えている。さらに径
を大きくするとマイクロ波の漏洩の危険性があるためこれ以上の大径化は行わなかっ
た。プラズマ点火直後のキャビティーの写真を Fig.①.c4-5 に示す。
172
Fig.①.c4-5 Photograph of the plasma cavity at plasma ignition.
プラズマ発生実験の結果、キャビティー本体の形状以外に、マイクロ波をキャビテ
ィー内部に導くアンテナの長さが長い方が強いプラズマが発生することが分かった。
これはマイクロ波の発生側とキャビティーとの電気的な結合(カップリング)状態が
密結合になり、エネルギーが効率よく入力されたためである。但し、アンテナが石英
管に接近しすぎる(5mm 程度)とマイクロ波の電場で石英管(本来石英はマイクロ波
の吸収は低い材料)が加熱されて溶解するという問題が生じるため、これが現実的な
限界になる。
アンテナの長さのほか、アンテナ形状を工夫することにより石英管のダメージを防
ぎながら入力パワーを増すことができた。
プラズマ状態の把握はプラズマ発光を分光光度計でモニターすることによって行っ
た。発光は窒素由来の 300~400nm に立つ鋭いピーク群(N2 Second Positive Series)
と、アンモニア由来と思われる 500~800nm のプロードな発光スペクトルからなって
いた(Fig.①.c4-6)
。この発光ピークが最も高くなるようにキャビティーの条件を
設定して実験を行った。
173
Photon Energy (eV)
4.0
3.0
2.5
2.0
Plasma Emission (arb.units)
5.0
200
300
400
500
600
Wavelength (nm)
700
800
Fig.①.c4-6 Emission spectrum from the plasma under the condition of N2:NH3=1:1
プラズマの安定化に重要なのはガスの種類と混合方法である。本研究では二重管式
のリアクターを用い、内管に窒素(トリメチルガリウムを含む)
、外管に窒素とアンモ
ニアの混合ガスを流し、プラズマの直前で混合した。外管の流量を内管の流量の約 10
倍に設定し中心部でガスをよどませることによりプラズマの炎が中心で安定した(Fig.
①.c4-7)。
174
N2・NH3
N2・TMG
マイクロ波
約 1.1kW
Fig.①.c4-7 Experimental set-up of the plasma cavity.
このプラズマを利用し、GaN 粒子の合成を行った。生成した粒子の写真を Fig.①.
c4-8 に示す。Ga と N の元素の比はほぼ1であり、化学量論的な GaN が生成した
(SEM-EDX により確認)
。この粒子の平均粒子径は 6.2 nm 標準偏差は 1.7 nm (変
動係数約 28%)であった。また、粒子はアモルファスであった(電子線回折により確
認)
。
175
Fig.①.c4-8 Transmission electron microscope image of the GaN nanoparticles
更に窒化が難しく、熱 CVD では合成が出来なかった InGaN そして InN の合成をこ
のプラズマ CVD 装置を用いて行った。インジウム原料はトリエチルインジウムをバブ
ラーで気化させて用いた。SEM-EDX の定量結果では、InN の合成において In:N が約
1:0.5 であった。一部窒化されており、熱 CVD に対して優位な結果を得た。但し更
に窒化を進めるためのプラズマの改良が必要である。InGaN の合成は、Ga:In:N が
0.9:0.1:0.8 と一部窒化させることが出来た。こちらも更に窒化を進める改良が必要
である。また、InN、InGaN の粒子はアモルファスであり、発光を確認することは出
来なかった。
以上より、熱 MOCVD 法による GaN ナノ粒子の合成および、プラズマ MOCVD 法に
よる GaN のナノ粒子の合成に成功した。熱 MOCVD 法ないしプラズマ MOCVD 法を用
い、10 nm 以下の GaN ナノ粒子を合成した本研究の成果は、これまでに例がなく、初
めての研究成果である。InGaN および InN の合成は、更に窒化を促進するための、プ
ラズマの改良やリアクターの改良などの工夫が必要である。
(4)成果の意義
13 族窒化物半導体ナノ粒子は薄型ディスプレイの発光体として、また毒性の低い
バイオマーカーとして将来の応用が期待されるナノ材料である。本研究では、熱
MOCVD 法およびプラズマ MOCVD 法を用いて GaN ナノ粒子の合成に成功した。熱
MOCVD 法およびプラズマ MOCVD 法を用い、10 nm 以下の GaN ナノ粒子を初めて合
成した本研究の成果は、13 族窒化物の応用の可能性を広げる研究成果である。
176
d.構造体材料向けナノ粒子の合成
(1) 目標
構造体材料向けSiO2等材料
・粒子径:1∼10nm
(構造体材料として、ナノ粒子表面拘束層の効果を引き出すために必要な粒子径)
・粒子径分布:変動係数 10%以下
(構造体材料として、ナノ粒子とポリマー鎖との分子オーダーでの相互作用を効果的に引き出
すために必要)
・粒子形状の分布:アスペクト比の変動係数 10%以下
(粒子径 1∼10nm に対応し、ナノ粒子とポリマー鎖との分子オーダーでの相互作用を効果的
に引き出すために必要)
・生産量:1 反応器あたり、100g/hr 以上
(工業生産規模にスケールアップするために、技術確立が必要な最低限の生産能力)
(2) 目標の達成度
構造体材料向けSiO2等材料
・粒子径:
達成度 100%(5.8∼10nm の範囲で制御して合成(ex.6.3nm))
・粒子径分布:
達成度 100%(変動係数 10%以下(ex.9.8%))
・粒子形状の分布:達成度 100%(アスペクト比の変動係数 10%以下(ex.4.6%))
・生産量:
達成度 100%(1 反応器あたり、100g/hr 以上(ex.750g/hr))
以上より、目標を 100%以上達成した。
(3)研究成果内容
(3.1)研究の背景
SiO2(シリカ)粒子は、機械的、熱的性質等を向上させる目的で、樹脂フィルムや電子基板
材料、接着剤等、樹脂のフィラーとして広く用いられている。従来の製法としては、ケイ素原
料を高温の炎の中で酸化させて合成する火炎法等が挙げられるが、このプロセスでは、高温に
よる粒子同士の融着のため、一次粒子径が10nm程度の粒子を合成できたとしても大部分が凝
集した粒子で、凝集による二次粒子径は数十∼百nm程度あるため解粒プロセスが必要となる。
また融着による凝集は非常に強固であるため、完全に一次粒径まで分散させるのは非常に困難
で、ナノ粒子の特性を十分生かせないという問題があった。一方、コロイダルシリカの場合は、
比較的凝集の少ないナノ粒子が得られるのが特徴であるが、製法上含水性が高く、構造体材料
としての特性を発揮するには十分とはいえなかった。
本プロジェクトでは上記問題点を考慮し、ゾルゲル法と噴霧法を組み合わせることにより単
分散で含水率の低い構造体材料向けシリカナノ粒子の合成技術を開発し、目標達成に向け高速
合成技術の研究開発を行った。さらに、シリカナノ粒子以外の粒子種についても新規合成プロ
セスを創出し、検討をすすめた。
(3.2)ゾルゲル法を応用した SiO2 ナノ粒子の合成
高速ゾルゲル反応装置(Fig.1)を設計し、SiO2ナノ粒子をモデル材料に下記原料系を中心に
単分散ナノ粒子の高速合成の検討を行った。
Si原料:テトラエトキシシラン
177
溶媒:イソプロピルアルコール
触媒:アンモニア
分散剤:2,2'-ビピリジン、等
(Spray Drier)
Pump
Pump
Tank
Fig.1 Outline image of a sol-gel reactor.
上記装置を用いて、シリカナノ粒子前駆体の組成、触媒濃度、リアクターの反応温度、反応
流量、反応管径、反応時間、セパレーターの噴霧条件等を最適化するために各種検討を行った。
その結果、750g/hrの高速合成条件において粒子径10nm以下の球状SiO2ナノ粒子を合成する
ことができた。粒子径は5.8nm∼80nmにおいて任意のサイズに制御可能で、10nm以下の領域
で粒子径変動係数10%以下を達成した。一例をFig. 2, Table 1に示す。
20nm
Fig. 2 FE-SEM and TEM photographs of SiO2 nanoparticles.
Table 1 Particle size and distribution of SiO2 nanoparticles.
Goal
Particle Size
1-10nm
Size distribution
<10%
Shape distribution
<10%
Product
6.3nm
9.8%
4.6%
これらの SiO2 粒子の含水率はカールフィッシャー法により 0.1wt%以下であった。
また、溶媒置換による SiO2 各種溶媒分散液合成の検討を行った結果、極性∼無極性の種々の溶
媒での分散液が合成可能となった。
178
IPA
2-butanone
2 b
Acetyl
acetone
MMA
Cyclohexane
Fig. 3 Dedital photo images of SiO2 dispersion (SiO2:7.0wt%).
Fig. 3 からいずれの分散液も非常に透明性が高く、透明フィルムや樹脂レンズ、光学フィルタ
ーのように高い透明性が要求されるような構造体材料への適用が期待される。さらに分散安定
性についても 3 ヶ月経過後も凝集せずほぼ一次粒径を保ちながら安定していることが DLS(動
的光散乱法)の結果から確認された。
Table 2 Transparency of SiO2 dispersion.
Dispersion
IPA
2-butanone
medium
Concentration
7.0
7.0
of SiO2 (wt%)
Transmittance
98.6
99.3
at 580nm (%)
Acetylacetone
MMA(monomer)
Cyclohexane
7.0
7.0
7.0
99.5
98.4
99.6
Table 2 には、紫外可視分光光度計を用い、SiO2 分散液の透明性評価を行った結果を示す。セ
ルは光路長 10mm の石英セルを使用した。この結果、すべての分散液について 580nm の波長
で 98%以上と高い可視光透過率を有していることが示された。
以上の結果より、粒子径、粒子径分布および粒子形状分布を制御し、100g/hr を大幅に上回る
750g/hr の合成速度にて SiO2 ナノ粒子を高速合成する技術を確立し、最終目標を達成した。さ
らに本研究で製造した SiO2 ナノ粒子は、各種溶媒への分散が可能で、分散液の透明性は極めて
高いことがわかった。
(3.3)高分子テンプレート法を応用した BST ナノ粒子の合成
(3.2)項の目標を達成後、さらに SiO2 以外の粒子合成として、複合酸化物材料である BST
(チタン酸バリウムストロンチウム)をモデル材料に、ナノ粒子合成技術の開発を行った。
BST ナノ粒子は高い誘電性を有しており、次世代の誘電体材料として期待されている。しか
しながら 3 成分系であるため組成制御が困難で、特性の向上には高い結晶性が必要なため、ゾ
ルゲル法などの液相法では材料特性を十分に発揮するBST ナノ粒子の合成が難しい状況にあっ
た。
そこで本研究者らは検討の結果、ブロックコポリマーを粒子合成の反応場(高分子テンプレ
ート)に利用し、その中で粒子原料を加熱により結晶化させることによって粒子径や粒子形状
を制御した BST ナノ粒子を合成することに成功した。目的とする粒子の形状に応じたテンプレ
179
ート-BST プリカーサー複合体を合成し、加熱処理によってテンプレートの除去と BST 粒子の
結晶化を同時に行うことにより、粒子の形状を制御した結晶性 BST ナノ粒子の合成が可能とな
った。
プロセスの概要を Fig. 4 に示す。
.
原料系の検討の結果、テンプレート
としてスチレン-ビニルピロリドン共
重合体、プリカーサとしては Ba-Sr-Ti
アセチルアセトナート高分子複合錯体
をそれぞれ調製し、テンプレート-BST
プリカーサー複合体を合成した。
これらを加熱処理することによって得
られた形状制御粒子の TEM および
FE-SEM 写真を Fig. 6 に示す。テンプ
レートを用いず、Ba-Sr-Ti アセチルア
セトナート高分子複合錯体のみを加熱
した結果(Fig. 5)と比べて、粒子の
サイズ、形状をコントロール可能
であることがわかる。
Fig. 4 Outline image of novel polymer template method
5μm
Fig. 5 FE-SEM photographs of BST particles. (Conventional method)
Fig. 6 TEM and FE-SEM photographs of BST nanoparticles. (Polymer template method)
従来の手法では、Fig. 5 で得られた粒子を機械的に解粒処理する必要があったが、本法では
あらかじめ目的のサイズ・形状となるようにプリカーサおよびテンプレートの設計、合成条件
の設定を行うことにより、
サイズや形状の揃ったナノ粒子を大量に合成することが可能である。
180
また、得られた粒子の結晶性について、XRD および TEM,SAED パターンによる評価の結果、
結晶性の高い立方晶 BST が生成していることが確認された。
さらに得られた粒子について、ICP-AES による粒子組成分析を行った結果を Table 3 に示す。
Table 3
ICP-AES analysis of BST precursor and BST particles..
Molar ratio
Material
Ba
Sr
(a)BST Precursor
0.50
0.50
(b)BST Precursor
0.47
0.51
(calcined at 900℃)
Ti
1.00
(c)BST Spherical Particle
(calcined at 900℃)
0.49
0.50
1.00
(d)BST nanoparticle
(calcined at 900℃)
0.49
0.50
1.00
1.00
この結果から、今回開発した高分子テンプレート法を用いることにより、従来組成制御が
難しい複合酸化物ナノ粒子材料を、組成を保ちつつ合成可能であることが明らかになった。
(4)成果の意義
本研究で得られたSiO2ナノ粒子は従来の液相法の非凝集性・分散性、気相法の低含水性と
いった両方の長所を併せ持つSiO2ナノ粒子合成プロセスとして期待できる。また連続合成に
より工業化が可能で、SiO2以外の酸化物ナノ粒子にも適用が考えられるため、汎用性が高い
プロセスであるといえる。本研究を通して得られた上記プロセスの創出は非常に意義がある
と思われる。
さらに、多成分系の複合酸化物ナノ粒子をサイズ・形状を制御し合成する技術の研究で得
られた知見・基盤技術は、BSTをモデル材料に、これまでに組成制御が困難とされていた多
成分系の複合酸化物ナノ粒子をサイズ・形状を制御して合成することが可能となった。これ
により、ナノ粒子の構造体に及ぼす諸機能(サイズ・形状・粒子組成)を制御する重要な知
見が得られたことは非常に意義深い。
以上より、今回の成果は広く酸化物ナノ粒子合成に関するプロセス技術、基盤技術の向
上に寄与するものであり、有意義な成果を得ることができた。
181
e.半導体ナノ粒子の合成と複合化
(1) 目標
半導体ナノ粒子に関して、新規性のある合成例を提示することを目標にする。
また、半導体ナノ粒子を複合化し、機能発現例を提示することを目標にする。
(2)目標の達成度
・半導体ナノ粒子に関して、新規性のある合成例の提示:
非凝集InSbナノ粒子の合成により100%達成した。
・半導体ナノ粒子を複合化し、機能発現例を提示:
熱電変換機能の提示により、100%達成した。
(3) 研究成果内容
(3.1) 非凝集InSbナノ粒子の合成
液相法による合成法の中で
も、非凝集状態でナノ粒子を
三口フラスコ
ヘキサデシルアミン
18g
オレイン酸
1.4mmol
1,2-ヘキサデカンジオール 4.7mmol
得られやすいホットソープ法
に着目し、分散剤やプリカー
サーの種類や組成、反応条件
等を詳細に吟味し、非凝集に
なる合成条件を検討した。そ
Arガス置換
加熱攪拌
…ex.300℃
の結果、Fig.①.e-1に示す
注入
…ex.30分
合成フローにより、Fig.①. 加熱攪拌
e-2に示すTEM写真の様に、
非凝集状態でサイズが数∼数
十nmに分布したナノ粒子を
得た。このXRDチャートを、
In(AcAc)3
0.22mmol
Sb(OBu)3
0.15mmol
dichlorobenzene
冷却
沈殿
貧溶媒(EtOH)
再結晶 (CHCl3/EtOH)
Fig.①.e-3に示す。これよ
り、ナノ粒子がInSbの結晶状態
Fig.①.e-1 Flow chart for synthesis of InSb nanoparticle
であることが確認された。
182
TEM
Intensity [a.u.]
: InSb(JCPDS)
10
30
50
2θ [deg]
70
90
Fig.①.e -3 XRD chart of InSb nanoparticle
Fig.①.e -2 TEM Image of InSb
nanoparticle
InSbナノ粒子の合成条件を変化させて、サイズの異なるナノ粒子を合成した。得られたナノ
粒子の粒度分布をFig.①.e -4に、吸収スペクトルを図. ①.e -5に示す。粒度分布及び吸収
スペクトル測定時に使用した分散媒は、クロロホルムである。
16
14
No.3
Intensity
12
10
No.1
No.2
8
6
4
2
0
10
100
1000
10000
粒径 [nm]
Fig.①.e -4 Particle size analysis charts of InSb nanoparticles dispersion
183
100
90
80
No.1
透過率 [%]
70
60
50
No.2
40
No.3
30
20
10
0
250
750
1250
λ [nm]
1750
2250
Fig.①.e -5 Absorption spectra of InSb nanoparticles dispersion
吸収スペクトルより、InSbナノ粒子の吸収端は最も短波長のもので約700nm(1.77eV)であり、
バルクのInSbのバンドギャップである0.18eV(6800nm)から実に6000nmもの短波長シフトを
実現した。また、粒子サイズが小さいほど、吸収スペクトルの吸収端は短波長へシフトするこ
とが確認された。これらはInSbナノ粒子の量子サイズ効果によるものと考えられる。
(3.2) InSbナノ粒子を含む2種ナノ粒子の複合化(成型)及び熱電変換材料の検討
機能発現の一例として、熱電変換材料に着目した。熱電変換材料は、1990年代後半からナノ
構造による熱電変換性能向上の研究報告が相次いでいる。一例として、量子ドット超格子 があ
る。量子ドットにより、エレクトロンに比較してフォノンが散乱され易いことや、ナノ構造に
よりゼーベック係数が増大する傾向にあることから、熱電性能が向上する。しかしこれらの報
告はほとんど真空系における薄膜作製の手法によりナノ構造を作製しており、バルク材料の量
産には不向きである。そこで2種ナノ粒子の複合化によって作製されるナノコンポジットなら、
量産に適していると考えた。
熱電変換材料に適したナノコンポジットの一つは、マトリックス中にナノ粒子が分散した構
造である。今回、マトリックスとしてInSbを、分散させるナノ粒子としてInSbと非相溶なMo
を選択し、Moナノ粒子は液相法により合成した。以下、複合化の手順を示す。サイズが約50n
mのInSbナノ粒子:99vol%のクロロホルム分散液と、サイズが約4nmのMoナノ粒子:1vol%の
クロロホルム分散液を混合した後、超音波処理により分散し、分散液を得た。これを遠心分離
して固形分を取出し、減圧雰囲気下350℃加熱による脱脂処理で分散剤を除去後、減圧雰囲気
184
下、62MPa、350℃加熱によるホットプレス処理により成型体を得た。この状態では酸化分解
物が生成していたため、水素雰囲気下450℃加熱により還元処理をして、目的の成型体を得た。
成型体は、銀白色の直径1cm、厚み1mmの錠剤状であった。これを所定の大きさにカットし、
種々の測定に使用した。
Fig.①.e -6 STEM image and element-mappings of Mo nanoparticles dispersed in InSb matrix
得られた成型体のSTEM像と元素マッピング結果をFig.①.e -6に示す。STEM像にほぼ合致
したInの分布が確認され、MoはIn中にほぼ均等に分散していることを確認した。尚、SbはInと
ほぼ同様な分布像であった。
このMo分散InSb成型体(Mo+InSb)と、InSbのみの成型体について、室温における熱電変換
性能を測定した。また、van der Pauw法により、移動度とキャリア密度の測定を行った。これ
らの結果をTable①.e -1に示す。
Table①.e -1 Thermoelectric parameters of Mo nanoparticles dispersed in InSb matrix
S
[μV]
ρ
[Ωcm]
移動度
[cm2/Vs]
キャリア密度
[1/cm3]
κ
[W/m・K]
ZT(300K)
Mo+InSb成型体
5.7
3.8E-3
29
5.8E+19
0.84
3.1E-4
InSb成型体
23
1.9E-2
71
4.6E+18
2.1
4.0E-4
S:ゼーベック係数、 ρ:抵抗率、κ:熱伝導率
熱電変換性能
性能指数:ZT= (S^2 ・T) /(ρ・ κ)
κ値が、InSb成型体よりMo+InSb成型体の方が低いことから、Moの導入により、恐らくフォ
ノン散乱の効果によってκが減少したと考えられる。この結果は、Mo導入の効果と言える。し
かしMoの導入により、移動度も下がってしまった。それにもかかわらず、ρは逆に小さくなっ
た。これはキャリア密度が1桁大きいためである。S値は一般にキャリア密度が増大すると減少
185
する傾向にあり、このためInSb成型体よりMo+InSb成型体の方がS値が低くなったと考えられ
る。結果として、ZT値は、κは下がったが、Sが小さくなったために、Moの導入の有無に関し
てほとんど差が見られなかった。
(4) 成果の意義
・非凝集InSbナノ粒子が合成できたことにより、これまで困難であったInSbの分散媒中への
分散が可能になった。そのため、InSbナノ粒子分散液において、量子サイズ効果によると
思われる、非常に大きな短波長シフトが確認された。今後、各種材料との複合化により、
様々な機能発現が期待される。
・InSbナノ粒子とMoナノ粒子の複合化により、InSbマトリックス中にナノサイズのMoが分
散したコンポジットの作製に成功した。このコンポジットは、InSbのみの場合に比べて熱
伝導率を減少させることができた。しかしキャリア密度の増大により、熱電性能は増大し
なかった。キャリア密度を増大させない材料設計が必要との知見を得た。この成果は、熱
電変換材料の高性能化に寄与すると期待される。
186
f.レーザー照射による粒子のナノサイズ化
(1)目標
・処理速度:0.1%分散液として 10g/h
・粒子径:1∼10nm
・粒子形状分布:アスペクト比の変動係数 10%以下
・粒子分布:変動係数 10%以下
(2)目標の達成度
ITO(In2O3:Sn)および、AZO(ZnO:Al)のナノ粒子において、パルスレーザー照射による粒
子の小サイズ化に成功した。また、粒子形状の均一化も達成することが出来た。
(3)研究成果内容
ITO や AZO などの金属酸化物ナノ粒子分散液の製造法として、主にゾルゲル法による大量合
成が用いられている。しかし、ゾルゲル法で合成した粒子は結晶化のため乾燥、アニール後に
凝集体を機械的に分散させ、分散剤などを添加しているため、形状が不揃いであるとか、より微
小な粒子を合成するのが難しいなどの問題点がある。
金属ナノ粒子の分散液にパルスレーザーを照射すると、小径化および形状が変化するという
ことはすでに報告がある。本プロジェクトでは、各種金属酸化物でこのパルスレーザー照射の
効果を検討した。
パルスレーザー源として Nd:YAG の Lotis-TII 社製ナノ秒レーザー装置 LS-2147 を用いた。現
在ではパルスレーザーはフェムト秒のレーザーも実用に使われている。ナノ秒レーザーではフ
ェムト秒やピコ秒のパルスレーザーに比べて照射部周辺への熱拡散が大きい。しかし、対象が
金属酸化物であり 1900℃以上の融点を持つため、高出力なレーザーが必要となる。しかもメン
テナンスの簡単な YAG レーザーであるためこれを購入した。
Fig.①.f-1 Lotis-TII Nd: YAG nano second laser LS-2147
固形分濃度を 0.05%に調整した ITO および AZO ナノ粒子分散液を光路長 10mm の石英セル
に入れ、攪拌しながらレーザーを照射 180mJ で 10 分間照射したときの形状変化を下に示す。
ITO 分散液は市販の分散液(分散媒:水/IPA)を希釈したもので、AZO 分散液はメーカーサン
プルの粉体を水に混合し超音波ホモジナイザーにかけたものを使用した。
照射前はおよそ 25nm の粒子と一部ロッド状の混合であった ITO 分散液では、照射後、10nm
以下の球状粒子(チェーンライク)に変化した。
187
B)
A)
Fig.①.f-2 TEM images of ITO nanoparticles ( A) before irradiation, B) after irradiation)
また、AZO ではレーザー照射前は 150∼200nm であった粒子サイズが 20∼30nm ほどに小さ
くなった上、形状も六角形状に揃う傾向になった。
Fig.①.f-3 TEM images of AZO nanoparticles (left: before irradiation, right: after irradiation)
照射前後で AZO のサイズ分布を DLS 測定した結果を比較しても、サイズが小さくなってい
るだけでなく、分布が狭くなっていることがわかる。
23K (0.05%)
40
23K (0.05%) irradiated
Number [%]
30
20
10
0
1
10
100
1000
10000
Particle size [nm]
Fig.①.f-3 Size distribution of AZO nanoparticles.
レーザー照射によるサイズリダクションの改善すべき課題として、ナノ粒子濃度の問題があ
る。本プロジェクトで検討したレーザー照射に対応できるのは、濃度が 0.05∼0.1%の低濃度
のため、バッチ式では実用的でない。そこで、フローで連続的に照射できる系を検討した。フ
ロー式の分光セルや HPLC の分析セルを検討した結果、HPLC の分析セルを用いて実施するのが
最も効率よく照射できた。まだ、若干の改良が必要であるが十分対応可能であり、今後の課題
としたい。
188
Fig.①.f-5 Micro flow pump (left) and cell unit (right)
(4)成果の意義
パルスレーザーのナノ粒子分散液への照射に関して、実用を鑑みた検討はこれまでにあまり
なされていなかった。また、バルクの融点が非常に高温な金属酸化物において、そのナノ粒子
であるという性質を上手く活かした手法を考案することが出来たと言える。今回、金属酸化物
ナノ粒子のレーザー照射によるサイズリダクションの検討結果から、ナノ粒子分散液の塗布膜
形成において、課題となっている品質向上などに対して解決策が見出せる可能性があり、この
成果の意義は非常に大きいと思われる。
189
g.高温高圧水熱合成
(1)目標
中間目標:
① in-situ SAXS 装置を高温高圧水熱合成装置に取り組み、反応場の観察が可能なシステムを
確立する。それにより、ナノ粒子合成の機構解明の基盤を確立する。
② 急速混合法、
表面改質法を併用したナノ粒子合成により、
ナノ粒子の連続高速合成を図り、
最終目標に向けて課題を明らかにする。中間段階では、20nm サイズ以下の金属酸化物ナ
ノ粒子を、分散 50%以下で、反応時間 5min 以内、1g/day 以上の生産性で合成を達成する。
最終目標:
① 高温高圧水熱合成によるナノ粒子合成機構解明とそれに基づく設計手法の確立。
② ナノ粒子を 1min 以内で短い反応時間で 10g/hr 以上の大量高速連続合成手法の基盤確立。
(2)目標の達成度
達成度:100%
根拠・理由:
(2.1)ナノ粒子合成解明機構
当初予定していた、ナノ粒子の小角側での測定のみならず、小角から広角全域にわたる情報
を同時に測定し、固体、固体の結晶構造、凝集構造、溶液構造を評価するオリジナルな手法を
開発し、超臨界場を含む高温高圧場での in-situ 測定法を確立した。また、in-situ 測定法に基づ
き、古典論では説明できなかった核発生・成長機構モデルを提案した。
(2.2)ナノ粒子大量高速連続合成
シングルナノメーターサイズのナノ粒子を 1min 以内の短い反応時間で、10g/hr 以上の大量
高速連続合成する手法の基盤技術を確立し、試作装置により実証した。さらに、ナノ粒子合成・
配列化を進めていく上で重要技術である表面修飾技術の開発に着手し、有機単分子層修飾ナノ
粒子の in-situ 高温高圧水熱合成に世界で初めて成功した。
以上の結果、当初の目標に対して、100%以上の達成度と判断した。
(3)研究成果内容
(3.1)ナノ粒子合成解明機構
ナノ粒子生成場を観察する手法として、小角 X 線散乱法を用いる手法の開発を進めてきた。
その結果、本研究を通して、析出するナノ粒子だけでなく、溶液構造の変化についても情報が
得られること、また、得られた粒子やクラスターの回折パターンを解析することの重要性を認
識し、広角側の WAXS 測定を同時に行なうことを発案した。金属塩水溶液からの金属酸化物の
水熱合成について検討を行なった結果、古典的な理論とは異なり、まず、1.3nm 程度の核が成
長することなく増加し、その後に粒子径の増大、凝集が進み、最後に結晶化が進行することが
分かった。なお、本反応機構のついては、シミュレーション技術を援用しながら、高度の解析
を進めた。
ナノ粒子を観察する手法としては、小角 X 線散乱法が最も適している。高温高圧場での観察
には、ダイヤモンド窓を用いる必要があり、X 線の散乱強度の減衰が著しい。また、高温での
高速反応の場合、
散乱パターンの時間分解を追跡することは不可能である。
そこで本研究では、
流通式装置を用い定常状態で測定を行なう方法を提案した。ダイヤモンド窓付きフロー式セル
190
を用い、ナノ粒子分散水溶液の SAXS(小角 X 線散乱)測定を行なった結果、散乱強度は約 1/50
程度まで小さくなったが、サンプリング時間を増加させることで、粒径は正確に評価できるこ
とを確認した。本手法をさらに発展させることにより、超臨界場を含む高温高圧場でのナノ粒
子の in-situ 測定法を確立した。
(3.2)ナノ粒子大量高速連続合成
金属塩水溶液を加熱するとイオン反応平衡は水酸化物、さらには酸化物側へとシフトする。
この平衡のシフトを利用した金属酸化物の合成法が水熱合成である。本研究においては、水溶
液系の反応に広く用いられている HKF モデルに基づき、金属酸化物の溶解度に関して、フィッ
ティングパラメータを一切用いずに予測する手法を開発した。その結果、超臨界場では急激に
飽和溶解度が低下することが確認できた。
また、流通式装置を駆使し、金属塩水溶液と高温高圧水を混合させることにより、急速に超
臨界状態とし、水熱合成する手法を開発した。亜臨界条件下では反応速度のアレニウスプロッ
トは直線で表されたが、超臨界水中では反応速度が飛躍的に増大した。これは、超臨界場での
誘電率の急激な低下に起因するものと結論付けた。
以上より、超臨界水熱合成場では、極めて高い過飽和度を与えることが可能であり、ナノ粒
子合成場として非常に適しているとこが確認できた。
高温高圧水中でのナノ粒子合成の基盤をベースに、急速昇温法による超臨界水熱合成による
ナノ粒子合成手法を確立した(Fig.①.g-1, 2)
。様々な系についてのナノ粒子合成の可能性を
検討し、金属酸化物(Fig.①.g-3)および複合金属酸化物ナノ粒子(Fig.①.g-4)に関し
て、1min 以内の短い反応時間で、10g/hr 以上の大量高速連続合成を実証した。また、混合部
の小型化による混合促進により、シングルナノメータサイズで、分散 50%以下のナノ粒子の合
成を実現した。
さらに、ナノ粒子合成・配列化を進めていく上で重要技術である表面修飾技術の開発に着手
し、有機単分子層修飾ナノ粒子の in-situ 高温高圧水熱合成に取り組み、非常に単分散性に優れ
る無機−有機ハイブリッドナノ粒子の合成(Fig.①.g-5)とその有機溶媒中への完全分散(Fig.
①.g-6)に成功した。
Heater
Reactor
Cooling
Pump
in-line
filter
Metal Salt Solution
Distilled Water
Fig.①.g-1 Scheme of flow-type apparatus.
191
Fig.①.g-2
Flow-type apparatus.
Fig. ①. g-3
Fig. ①. g-5
Metal oxide nanoparticles (3nm).
Hybrid nanoparticles (5nm).
Fig. ①. g-4
Complex metal oxide nanoparticles (7nm).
Fig.①.g-6
Dispersive properties of hybrid
nanoparticles.
(4)成果の意義
本研究では、高温高圧水熱合成によるナノ粒子合成機構解明とそれに基づく設計手法を確立
し、ナノ粒子を 1min 以内の短い反応時間で 10g/hr 以上の大量高速連続合成手法の基盤を確立
した。具体的には、急速昇温法による超臨界水熱合成装置を開発し、シングルナノメーターサ
イズのナノ粒子を、1min 以内の短い反応時間で、10g/hr 以上の大量高速連続合成を実証した。
これにより、ナノ粒子の工業レベルでの生産を可能とし、その実用化に大きく貢献した。さら
に、ナノ粒子合成・配列化を進めていく上で重要技術である表面修飾技術の開発に着手し、有
機単分子層修飾ナノ粒子の in-situ 高温高圧水熱合成に世界で初めて成功した。これにより、ナ
ノ粒子の分散安定性やハンドリング性を著しく改善できる可能性を示し、最終製品、最終プロ
セスを視野に入れたナノ粒子の高機能化へと広く展開できるものと期待できる。
192
h.希土類化合物ナノ粒子合成
(1)目標
逆ミセル法、保護コロイド法、水熱結晶化法などを利用するナノ粒子合成技術による金属酸
化物・硫化物などのナノ粒子機能材料の合成技術、表面修飾・固定化などの材料化技術および
発光材料・触媒材料などへの応用に関する基盤技術の開発を行う。
(1.1)希土類酸化物ナノ粒子発光材料の合成技術開発
発光材料への応用を想定し、希土類酸化物ナノ粒子に関して、凝集抑制のための液相法によ
る粒子合成技術の開発、凝集抑制のための粒子乾燥・表面修飾および回収技術の開発を行う。
また、合成された希土類酸化物シングルナノ粒子の発光特性の評価を行い、発光強度の向上を
目指す。
(1.2)希土類酸化物ナノ粒子触媒材料の合成技術開発
(1.1)と同様の手法に加え、比表面積増大のための耐熱性付与技術の開発を行い、合成時の
比表面積200m2・g-1以上、かつ1000℃焼成後の比表面積が40m2・g-1以上の希土類酸化物ナノ粒
子粉末の合成、ならびに触媒活性の評価を行う。
(1.3)希土類酸化物系紫外線遮断材料の合成技術開発
逆ミセル法、保護コロイド法、水熱結晶化法、およびこれらの組み合わせにより、紫外線遮
断能90%以上、かつ光照射や150℃程度の熱照射に対して安定な紫外線遮断材料を合成し、可
視透明性と紫外不透明性の両立と触媒作用の抑止を実現する。
(1.4)金属硫化物ナノ粒子材料の合成技術開発
(1.1)と同様の手法により、粒径が 5nm 以下の金属硫化物シングルナノ粒子に関して、凝
集抑制のための液相法による粒子合成技術の開発、凝集抑制のための表面修飾および回収技術
の開発を行う。さらに、安定化向上のための分散固定化技術の開発を行い、光照射や 100℃程
度の熱照射に対して安定である光触媒ナノ粒子を固定化した、水分解に適応できる光触媒材料
の合成、ならびに触媒活性の評価を行う。
(2)目標の達成度
(2.1)希土類酸化物ナノ粒子発光材料の合成技術開発
一般的に蛍光体をサブミクロン以下のサイズにすると、結晶性が低下し表面欠陥により励起
エネルギーが奪われ発光効率は低下してしまうが、 (Y, La)2O3:Eu を発光強度を落とさずに微粒
子化する技術を開発した。また、W/O/W 型エマルション(乳化液膜系)や逆ミセルなどの微
小反応場を利用する数十 nm およびシングルナノサイズの希土類酸化物・酸硫化物ナノ粒子の
合成に成功した。これらは発光に関わる希土類イオンのドープにより、赤色および緑色蛍光体
や、赤外可視変換型蛍光体として利用できる。
(2.2)希土類酸化物ナノ粒子触媒材料の合成技術開発
クエン酸を表面保護材とする水熱結晶化法により、高比表面積 CeO2 の合成に成功した。TEM
観察による平均粒径は 3.1 nm であり、分散液、微粉末のいずれの状態でも保存可能であり、
比表面積は 211 m2g-1 と極めて大きく、目標値の 200m2・g-1 以上を達成した。
(2.3)希土類酸化物系紫外線遮断材料の合成技術開発
紫外線遮断特性 90%以上、光および熱触媒活性の抑制された希土類アモルファスリン酸塩系
紫外線遮断剤の開発に成功した。また、紫外線遮断特性 90%、触媒活性の抑制された窒化ホウ
193
素被覆酸化セリウム紫外線遮断剤を開発に成功し、紫外線遮断能の目標値を達成した。
(2.4)金属硫化物ナノ粒子材料の合成技術開発
逆ミセル法による、粒径 5nm 以下の光触媒ナノ粒子の合成に成功し、さらにナノ粒子固定化
複合材料の合成技術の開発によりナノ粒子固定化光触媒の合成と高機能化に成功し、目標を達
成した。
(3)研究成果内容
(3.1)希土類酸化物ナノ粒子発光材料の合成技術開発
微粒子化しても従来の
蛍光体(粒径数 μm)に劣
(a)
(b)
らぬ十分な発光強度を有
する蛍光体の開発を目指
した。微粒子化による発光
強度の低下を抑えるため、
2μm
マイクロ波照射による尿
素の加水分解を利用して、
粒径の揃った(Y,La)2O3:Eu
2μm
Fig.①.h-1 SEM images of (a) the (Y0.95La0.05)2O3:8at%Eu fine
particles and (b) a commercial Y2O3:Eu phosphor.
微粒子を合成し、Y3+イオ
ンよりイオン半径の大きい La3+イオンを固溶させることで、Eu3+イオン間の距離を増大し濃度
消光の抑制を行った。さらに、表面欠陥を減少させるために表面平滑化処理を行い、粒子表面
を平滑化することで発光強度の向上を試みた。Fig.①.h-1 に得られた蛍光体試料の SEM 写真
を示す。得られた粒子はサブミクロンサイズではあったが、市販蛍光体と比較すると明らかに
粒径が小さいことがわかる。発光強度は市販蛍光体の
95%であり、粒子径は小さいにもかかわらず、市販品
と遜色ない発光強度を有する微粒子蛍光体を得ること
に成功した。
W/O/W 型エマルション(乳化液膜)系のミクロン
サイズの内水相を微小反応場として希土類しゅう酸塩
ナノ粒子(前駆体)を合成し、これを空気中または硫
黄雰囲気中で焼成して、約 50 nm サイズの希土類酸化
物および酸硫化物蛍光体を合成した(Fig.①.h-2)
。Y2O3
や Y2O2S などを母体、Eu を付活剤とする蛍光体微粒子
は紫外光励起により赤色発光を示した。一方 Yb や Er
を同時にドープした蛍光体は、赤外線レーザ光(波長
980 nm)照射下で2光子励起による赤色発光(赤外−
SEM image for the
Fig. ① .h-2
infrared-to-visible
Y2O3:Yb,Er
upconversion phosphor nanoparticles
prepared by using a W/O/W emulsion
system as a microreactor.
可視変換)を示した。また、Yb ドープされた Y2O2S を母体とし、発光に関わる希土類イオン
である Er を Ho や Tm に変更することで、赤外線励起による緑色および青色発光が得られた。
また、ナノ粒子を合成し包含した W/O エマルションを Si などの基板に膜状に塗布し、その
まま焼成することにより、希土類酸化物ナノ粒子薄膜を作製できることを示した(Fig.①.
h-3)
。
194
さらに、逆ミセル系のナノサイズの内水相を微
小反応場として希土類(Y-Eu)水酸化物ナノ粒子
を合成した。逆ミセル系から直接回収したナノ粒
子を焼成する方法では、ナノ粒子の凝集を引き起
こす。そこで、逆ミセル溶液中にジイソシアナー
トを添加し、水酸化物ナノ粒子をジイソシアナー
トの重合により生成するポリ尿素中に固定化し
て沈澱・回収した。これを焼成することで、希土
類酸化物(Y2O3:Eu)ナノ粒子(粒子径 4∼8 nm)
を得ることができた。得られたナノ粒子の紫外光
励起による蛍光特性を測定したところ、ナノ粒子
化によって表面欠陥の影響を強く受けるように
Fig.①.h-3 AFM image for the surface of
Y2O3 nanoparticulate film.
なるために、発光強度が減少することが認められた。
(3.2)希土類酸化物ナノ粒子触媒材料の合成技術開発
クエン酸を粒成長抑制の保護剤として用いた水熱結
晶化法により、超微粒子かつ、高分散性の酸化セリウム
ナノ粒子の合成を行った。塩化セリウムとクエン酸の混
合水溶液をアンモニア水に加え、茶褐色の透明溶液を得
5 nm
た。これを室温で一晩熟成後、353 K で 24 時間水熱結
晶化した。得られた粒子を遠心分離によって回収し、脱
イオン水とメタノールで洗浄後、凍結乾燥した。乾燥後
に若干の凝集が見られたものの、得られた粒子のサイズ
50
は極めて小さいものであった。透過型電子顕微鏡観察に
より、結晶性の良い粒子が確認され、その平均粒径は
-1
3.9 nm、B.E.T.比表面積は 211 m ·g であった(Fig.①.
h-4)
。赤外吸収スペクトル測定から、粒子表面がクエン
酸で被覆されていることが明らかとなった。
(3.3)希土類酸化物系紫外線遮断材料の合成技術開発
クエン酸水熱結晶化により合成した高分散性の酸化
セリウムナノ粒子の表面を、ホウ酸とジエタノールアミ
40
Number fraction / %
2
30
20
10
ンの縮合反応により得られる高分子状の前駆体を経由
する新しい方法により窒化ホウ素で被覆し、新しい高性
能紫外線防御剤の開発を行った。Fig.①.h-5 に見られ
るように、得られた粒子の平均粒径は 27 nm であった
が、表面は厚さ数 nm の窒化ホウ素により被覆されてい
た。紫外線遮断特性は 90%と優れ、触媒活性の抑制さ
0
0
1
2 3 4
5
Particle size / nm
6
Fig.①.h-4 HRTEM photograph
and Size distribution histogram of
the CeO2 nanoparticles.
れた白色の微粉末であった。
さらに、セリウムとチタンの複合アモルファスリン酸塩(Ce1-xTixP2O7)のナノ粒子を合成し、
紫外線遮断剤としての応用を試みた。
195
Ce1-xTixP2O7 粒子(x = 0, 0.05, 0.50, 0.90, 0.93,
0.95, 1.0)は共沈法により合成した。リン酸イ
オン自体に分散性を向上させる保護コロイド効
果があるため、ナノ粒子の高速大量合成に適す
ると考えられる。硫酸セリウム(Ce(SO4)2)と
硫酸チタン(Ti(SO4)2)との混合水溶液と、ピロ
リン酸ナトリウム(Na2P2O7)水溶液を化学量論
比で混合し、353K で 30 分攪拌した。得られた
沈殿物を遠心分離で回収し、脱イオン水で 5 回
洗浄後、353K で一晩乾燥した。
100 nm
Fig .①.h-6 は得られたアモルファス
Fig. ① .h-5 TEM image of CeO2
nanoparticles coated with turbostratic
ある。一次粒子径が 15-30 nm のナノ粒子であり、
boron nitride. The inset high-resolution
電子線回折によりアモルファスであることが明
image shows that surface of the CeO2
particles was covered with a very thin layer.
らかとなった。Fig.①.h-6 に得られたアモル
Ce1-xTixP2O7 ナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真で
ファスCe1-xTixP2O7 紫外線遮断剤の紫外可視反射
スペクトルを示す。
アモルファス Ce1-xTixP2O7 は
紫外線を極めて効率よく吸収するだけでなく、Ce と Ti の組成比を変えることで吸収波長を自
在に制御できることが分かる。ラマンスペクトル測定から、チタン量が増加するに伴いリン酸
塩中の架橋酸素が増加し、それに伴いバンドギャップが増加することを明らかにした。さらに
触媒活性を評価したところ、アモルファスリン酸塩には従来の酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セ
リウムに見られたような光あるいは熱触媒活性は認められず、人体のみならず環境にとっても
無害であることから、紫外線遮断剤として極めて好適な材料となることが明らかとなった。
100
Reflectance (%)
80
60
CeP2O 7
Ce0.50Ti0.50P2O7
40
Ce0.10Ti0.90P2O7
Ce0.07Ti0.93P2O7
20
TiP2O7
0
300
400
500
600
700
800
Wavelength (nm)
Fig.①.h-6 HRTEM photograph and reflection spectra of amorphous Ce1-xTixP2O7 nanoparticles.
(3.4)金属硫化物ナノ粒子材料の合成技術開発
AOT(エーロゾルOT、ビス(2-エチルヘキシル)スルホこはく酸ナトリウム)は、非極性溶媒
中で球形の逆ミセルを形成する界面活性剤としてよく用いられている。界面活性剤に対する水
のモル比で定義される含水率Woで約30程度までの水分子を可溶化できるため、適用範囲が広く、
また含水率の増加によってほぼ直線的にミセル径が増大するなど、ミクロ反応場としての制御
196
に有利である。市販のAOTはナトリウム型であるが、各種の金属イオンへのイオン交換による
置換が可能である。さらに、逆ミセル内の内容物の交換や、内水相での化学反応速度に関する
研究成果も多数蓄積されている。
AOT逆ミセル系を用いる金属硫化物ナノ粒子の調製については、CdS、ZnS、PbSなどの半導
体ナノ粒子を中心に検討し、シングルナノ粒子を調製可能であること、また、逆ミセル系の含
水率を制御することにより、ナノ粒子の粒径を制御可能であることを見いだした。CdSおよび
ZnSに関して得られた吸収スペクトル、およびその吸収端波長よりBrusの推算式を用いて推算
したナノ粒子の粒径をFig.①.h-7に示す。Wo < 8ではナノ粒子は特に安定である。これらは、
Cd2+またはZn2+を含む逆ミセル溶液を、S2-を含む逆ミセル溶液と混合・攪拌して得られた結果
であるが、H2Sガスを用いるガス注入法などの手法も利用できる。
また、逆ミセル反応場では、複合ナノ粒子の調製も簡便な方法で可能である。Cd2+とZn2+を
含む逆ミセル溶液とS2-を含む逆ミセル溶液を混合・攪拌することにより、CdS-ZnS混晶ナノ粒
子を調製でき、ナノ粒子の吸収端波長を連続的に変化させることができた。また、CdSナノ粒
子を調製した逆ミセ
ル溶液に、Zn2+を含む
逆ミセル溶液とS2- を
含む逆ミセル溶液を
交互に少量ずつ滴下
することにより、CdS
にZnSをコーティング
したコア−シェル型
ナノ粒子を調製でき
た。
逆ミセル系で調製
した半導体ナノ粒子
を安定に分散固定化
し、材料化する技術の
開発を行った。研究し
た技術は、3種類に分
類できる。まず(1)
結合基を有するチオ
ール類でナノ粒子表
面を修飾して逆ミセ
ル系から回収・再分散
したのち、結合基を介
Fig.
①.
h-7 Absorption spectra and estimated diameter for (a) CdS
and (b) ZnS nanoparticles in reverse micellar solution.
してポリマーやシリカマトリクスに固定化する技術である。また(2)ナノ粒子を含む逆ミセ
ル系でのin situマトリクス合成による固定化技術がある。この手法は、化学結合を用いないた
め、ナノ粒子の種類や組成を選ばない利点を有する。さらに(3)チオール基など、ナノ粒子
表面に結合する結合基を有する担体を合成し、これを逆ミセル溶液に添加してナノ粒子の回
収・固定化を同時に行う技術がある。
ジチオールで表面修飾したZnドープシリカ粒子(dt-Zn-SiO2)を担体として、逆ミセル中で合成
197
したCdSナノ粒子を上記(3)の技術を用いて回収・固定化した。CdSナノ粒子合成時の含水率
によって吸収端の波長が変化したが、いずれの含水率の場合にもバルクCdSと比較して吸収端
はブルーシフトしており、量子サイズ効果を示すナノ粒子であることが明らかとなった。吸収
端波長よりBrusの式を用いて推算したナノ粒子の粒径は、3.7 nm(Wo = 2)、4.1 nm(Wo = 4)、
4.3 nm(Wo = 6)、5.1 nm(Wo = 8)であり、含水率の制御によりCdSナノ粒子径を容易に制
御できた。得られた複合材料CdS-Zn-SiO2に波長300 nm以上の光照射を行ったところ、ジチオ
ールやZnを介さずにCdSナノ粒子を固定化したシリカ(CdS-SiO2)やZnの代わりにNiをドープ
して調製したCdS-Ni-SiO2と比較して、著しく大きな光触媒活性を示した。この高い光触媒活性
は、光照射によってZnS(ジチオールの結合したZn)部分で励起された電子がCdSナノ粒子に
移動し、水の光還元反応に利用されたためと考えられる。また、ジチオール鎖の長さを変化させ
たCdS-Zn-SiO2を調製し、光照射実験を行ったところ、鎖の長さが短いジチオールを用いると光
触媒活性が高くなり、ZnSからCdSへの電子移動を支持する結果となった。
以上のように、CdSナノ粒子の固定化に使用する担体と固定化方法を選択することにより、
効率の良い電荷分離や電子移動を実現する光触媒材料のナノ構造設計が可能であることが示さ
れた。
さらに、RuS2ナノ粒子の合成について検討した。Ruイオンを可溶化した逆ミセル溶液にH2S
ガスを注入することで、粒径約3nmのRuS2ナノ粒子を合成できた。さらに、チオール基で表面
修飾したポリスチレン粒子(PSt-SH)を逆ミセル溶液に添加し攪拌することにより、ナノ粒子
はPSt-SH上に回収・固定化され、PSt-RuS2複合材料が得られた。この複合材料は、波長350 nm
以上の光照射下で、2-プロパノールおよびNa2SO3を犠牲剤として水からの水素生成に対する安
定な光触媒活性を示した。
CdS ナノ粒子の合成・表面修飾と、カルボン酸を介する二酸化チタン粒子あるいは薄膜への
固定化を行った。ここでは、チオール基とカルボン酸基の両方を有するメルカプト酢酸(MAA)
の存在下での Cd イオンと S イオンの沈澱反応により CdS ナノ粒子を合成した。
この手法では、
CdS ナノ粒子径は MAA 濃度で制御可能である。得られた MAA 被覆 CdS ナノ粒子(CdS-MAA)
を含む水溶液に TiO2 粒子またはガラス基板上に作成した TiO2 薄膜を接触させることにより
CdS ナノ粒子を固定化し、CdS-MAA-TiO2 粒子および薄膜を得た。TiO2 粒子上に固定化された
CdS ナノ粒子に可視光を照射すると、CdS
上で励起された電子が TiO2 上に移動し効
(a)
(b)
率よく電荷分離されるため、2-プロパノー
ル水溶液からの水素発生に対する高い光
触媒活性を示した。一方、TiO2 薄膜への固
100
定化により、CdS ナノ粒子が整然と固定化
されたナノ粒子薄膜が得られた(Fig.①.
h-8)
。
200
100
300
400
X: 100 nm/div
nm Z: 20 nm/div
200
300
400
nm
Fig.①.h-8 AFM images for the surface of (a)
TiO2 and (b) CdS-MAA-TiO2 thin films.
(4)成果の意義
1)一般的に蛍光体をサブミクロン以下のサイズにすると、結晶性が低下し表面欠陥により励
起エネルギーが奪われ発光効率は低下してしまう。これに対し、開発した(Y, La)2O3:Eu 微粒子
は発光強度を落とさずに微粒子化できた。W/O/W 型エマルション(乳化液膜系)や逆ミセル
などの微小反応場を利用する数十 nm およびシングルナノサイズの希土類酸化物・酸硫化物ナ
198
ノ粒子の合成に成功した。
これらは発光に関わる希土類イオンのドープにより、
赤色蛍光体や、
赤外可視変換型蛍光体として利用できる。
2)クエン酸を表面保護材とする水熱結晶化法により、高比表面積 CeO2 の合成に成功した。
TEM 観察による平均粒径は 3.1 nm であり、分散液、微粉末(ただし凝集している)いずれの
状態でも保存可能であり、粉末の BET 比表面積は 211 m2g-1 と極めて大きかった。
3)紫外線遮断特性は 90%、触媒活性の抑制された窒化ホウ素被覆酸化セリウム紫外線遮断剤
を開発に成功した。また、高い紫外線の遮断特性、可視光の透明性、光や熱に対する化学的安
定性を兼ねそなえた全く新規な紫外線遮断材料であるアモルファスのセリウム−チタン複合リ
ン酸塩ナノ粒子を開発した。
4)逆ミセル系で調製したナノ粒子の材料化技術と光触媒材料の開発について研究し、3種の
技術に分類して検討を行った。チオール基などの、ナノ粒子と結合できる基を修飾した担体を
用いる手法は、ナノ粒子を逆ミセル系から直接回収・固定化し複合材料を調製できる簡便な手
法として有効である。
以上、本研究において、ナノ粒子の合成・表面保護・回収・固定化・材料化などの基盤技術
の開発と、基盤技術を利用した新規材料の開発に大きな成果をあげた。
199
②シングルナノ粒子の合成過程のシミュレーション技術の開発および in-situ 計測手法の開発
a.ナノ粒子の合成に対するプロセス工学的アプローチおよびナノ粒子計測技術の開発の重要性
(1)目標
ナノ粒子合成を高度化するためには、ナノ粒子の生成機構や動力学的挙動を明らかにし、凝
縮、凝集、分散、捕集、沈着、分離などのナノ粒子のハンドリング技術を確立することが重要
であり、機構・挙動の解明および技術の確立によってナノ粒子の合成に対するプロセス工学的
アプローチが可能となる。そのためには、合成したナノ粒子を in-situ で計測できる計測手法を
開発し、ナノ粒子の性状を正確に求める必要がある。しかしながら、従来の装置では、粒子径
10 nm 以下のシングルナノ粒子の計数効率は非常に低く、
ナノ粒子の精密計測が困難であった。
そこで、イオンおよびナノ粒子の個数濃度の計測が可能な混合型の凝縮核計数装置(混合型
CNC)
、粒子拡大装置(PSM)およびファラデーカップ電流計(FCE)を製作し、その性能を実
験的、理論に検討し、10 nm 以下のサイズ領域において高い計数効率を保持する計測装置の開
発を行う。さらに、浮遊粒子に対する代表的な粒子サイズ分布の計測装置である微分型静電分
級装置(DMA)を使用するうえで重要なパラメーターである粒子帯電率をより詳細に検討する
ことにより、ナノ粒子の計測精度を向上させる。
(2)目標の達成度
新規計測装置を開発し、その性能評価ならびに DMA、CNC、PSM を用いた計測系を構築し、
反応器内のナノ粒子の気中浮遊状態におけるサイズ分布を求めた。その結果、これまで困難と
されていたナノ粒子に対する凝縮成長を可能とし、3 nm までの領域において高い計測効率を
保持することができ、ナノ粒子の成長過程を検証することが十分可能であることがわかった。
また、DMA 計測において計測環境が粒子帯電率に与える影響を実験、理論の両面から詳細に検
討することにより、ナノ粒子の計測精度を向上させることができた。また、気相合成粒子だけ
ではなく、後述する液相合成粒子の計測においても本計測装置および、計測手法を用いること
で高精度の粒子計測を行うことができた。よって当初の目的は十分に達成できたと考える。
(3)研究成果内容
(3.1)混合型 CNC の開発
本研究で開発した混合型 CNC の概略図を Fig. ②. a-1 に示す。混合型 CNC は、蒸気発生部で
あるサチュレータ、エアロゾルと蒸気が混合される混合部、液滴が凝縮成長するコンデンサ、
液滴の個数をカウントする光学系から成っている。サチュレータ内には、エチレングリコール
をしみ込ませたフェルトが入っており、ヒータにより目的の温度に加熱され、エチレングリコ
ール蒸気が発生する。コンデンサは、凝縮管の外側に両側からペルチェ素子を取り付け、目的
の温度に冷却する。実際に測定する際、常温のエアロゾルはサチュレータ部で発生した高温の
エチレングリコールの飽和蒸気と混合部で混合される。コンデンサ内で成長した液滴はレーザ
ーを照射され、その散乱光の数がパルスとして出力され、それが粒子の個数としてカウントさ
れる。また液滴が光学計に入る際、シースガスが周りを囲むように流れることで、液滴の流れ
はレーザーの焦点を通過し、また液滴の沈着によるロスが軽減される。
200
MFC
Photo Detector
Pump
Laser
Liquid
drain
Filter
N2
Electronic
refrigerating
element
MFC
Condenser
(Tc)
Filter
MFC
Aerosol
(Ta, Qa)
N2
Ethylene
glycol
Mixing Part
Saturator
(4 nozzle, inner
diameter=0.7mm)
(Tsh, Hsh, Qsh)
Fig. ②. a-1 Schematic diagram of Mixing Type CNC (MTCNC).
計測系の概要を Fig. ②. a-2 に示す。NaCl 粒子発生装置により PVD(Physical Vapor
Deposition)法で発生した粒子は、241Am により荷電された後、DMA により分級され、希釈器
により濃度が 1000 個/cm3 程度に調節される。余分な流量はパージされ、比較対象であるファ
ラデーカップ電流計(FCE)と、混合型 CNC に同じ濃度のエアロゾルが供給される。混合型 CNC
にサンプリングされるエアロゾルの流量(Qa)は、全体の流量から、FCE に供給される流量を
引くことにより正確に制御される。CNC では、サンプリングされた常温のエアロゾルは、サチ
ュレータ部で発生した高温のエチレングリコールの飽和蒸気と、
混合部で混合される。
その後、
コンデンサ部での冷却により過飽和度がさらに大きくなり、液滴は凝縮成長する。成長した液
滴はレーザーを照射され、その散乱光のパルスが粒子の個数としてカウントされる。FCE は粒
子の帯電量を電流値として測定することで、粒子の個数濃度を求めている。非常に低い濃度の
エアロゾルの場合、電流値がノイズに隠れてしまうが、粒子の粒子径には測定限界がない。以
上のように、混合型 CNC と FCE に供給された同濃度のエアロゾルを同時に測定し、それぞれ
の測定効率を比較することとする。
混合型 CNC の粒子径による計数効率の変化を、市販の伝導冷却型 CNC である TSI 3022 およ
び TSI 3025 と比較した結果を Fig. ②. a-3 に示す。ここでの計数効率とは、FCE で測定した粒
子濃度に対する、CNC が測定した粒子濃度の割合と定義している。また、試験粒子の粒子径を
Dp [nm]、サチュレータ蒸気量の全体の流量(サチュレータ+サンプリング流量)に対する割
合を混合比とする。3 nm 付近では伝導冷却型 CNC が計測困難なのに対して、混合型 CNC は
85 %の効率で粒子を計数できることが確認された。
201
Atmospheric
pressure
N2
Reduced
pressure
Valve 2
Drain
NaCl
NaCl aerosol
generator
Electronic
refrigerating
element
N2
MFC
Capacitance
manometer
Condenser
Cooling
water
MFC
N2
Purge
Saturator
241Am
charger
Mixing Type CNC
DMA
Diluter
Valve 1
Vacuum
Pump
Faraday Cup
Electrometer
MFC
Valve 2
Fig. ②. a-2 Schematic diagram of the experimental system.
1.2
Counting Efficiency [-]
1.0
0.8
0.6
+ charge (MTCNC)
- charge (MTCNC)
+ charge (TSI 3025)
- charge (TSI 3025)
+ charge (TSI 3022)
- charge (TSI 3022)
Literature data range
of TSI 3025
0.4
0.2
0.0
0
5
10
15
20
Particle Diameter [nm]
Fig. ②. a-3 Counting efficiency of MTCNC, TSI 3022 and 3025 CNC as a function of particle
diameter for different polarity particles.
(3.2)改良型 PSM の開発
粒子拡大器(PSM)は、サチュレータで発生した高温の蒸気を常温のエアロゾルと混合した
ときの温度降下により過飽和の蒸気雰囲気を作り、ナノ粒子を凝縮成長させ、光散乱法により
粒子を計測する装置である。そこで、既存の PSM を改良することでシングルナノ粒子を効率よ
く検出できる装置を開発し、より一般的に普及している CNC(伝導冷却型 CNC)と比較して性
202
能評価を行い、粒子径 1 nm まで測定可能な装置の開発を行った。
本研究で改良した PSM は、サチュレータ、エアロゾル導入部、混合部、コンデンサ部から構
成されている。既存の PSM に比べ、混合部に T 字管を導入することで、装置を単純な構造とし
て、混合時間を短くした。また、壁面での冷却効果や熱損失も減らすことができる構造とした。
改良型 PSM の詳細図を Fig. ②. a-4 に、計測系の概要を Fig. ②. a-5 に示す。PVD 法で発生し
た NaCl 粒子を DMA で分級し、FCE と、PSM に同じ濃度のエアロゾルを供給した。
初めに過飽和度による計数効率の変化を調べた。過飽和度はサチュレータの温度とエアロゾ
ルと蒸気の混合比で調節できる。サチュレータの温度と粒子径による計数効率の変化を Fig. ②.
a-6 に示す。エアロゾル温度、エアロゾル流量、混合比はそれぞれ 10 oC、500 scm3/min、0.17
に保っている。サチュレータの温度を 30 oC から 105 oC まで変化させた場合、計数効率はサチ
ュレータの温度の増加に伴い増加する傾向を示す。特に 70 oC 以上では計数効率の増加が著し
い。これは凝縮成長が起こる粒子径を決める重要な因子が過飽和度であることを示す。またこ
の結果より、10 nm 以下の粒子を凝縮成長させるためには大きな過飽和度が必要であることが
分かる。Fig. ②. a-7 にサチュレータの温度が 90 oC と 100 oC のときの、粒子径に対する計数
効率の変化を示す。他の条件は Fig. ②. a-5 と同じである。サチュレータの温度が 100 oC では
粒子径 1.6 nm まで計数効率が 100%であるが、サチュレータの温度が 90 oC のときは粒子径 8
nm 以下では低い効率を示す。これはサチュレータの温度の減少による蒸気の量と温度が減少
したからである。
Fig. ②. a-8 に改良した PSM の性能を市販されている TSI 社の伝導冷却型 CNC3020、3022、
3025 と比較した結果を示す。PSM は最適な条件で操作している。伝導冷却型 CNC はいずれも
粒子径の減少とともに計数効率が低下し、2 nm 以下はほとんど検出しない。それに対して本
研究で改良された PSM は実験で使用した最小粒子径である 1.6 nm でも負帯電粒子は 100%付
近の計数効率を示している。試験粒子の帯電極性の違いによる計数効率の違いの原因は未だ明
らかではないが、本研究の結果より、適切な蒸気とガスを使うことで帯電粒子を粒子径 1 nm
まで凝縮成長させることが可能であることが示された。
このように性能評価された改良 PSM について、実際に製造した金ナノ粒子及び TiO2 ナノ粒
子の粒径分布計測への適用性を検討した。一般的にナノ粒子を PVD 法で気相製造する場合、蒸
気が凝縮を経て成長するため粒径分布が 2 つのピークを持つと言われている。しかし、従来の
研究結果では測定装置の限界で 3 nm 以下の粒子径域を測定することが不可能であり、明確な
粒径分布を得ることができなかった。そこで本研究で改良した PSM を用いて金粒子の粒径分布
の計測を行った。結果を Fig. ②. a-9 に示す。PSM を用いた場合と従来の測定装置で測定した
結果を比較すると、従来の測定装置では検出できない 3 nm 以下の分布を測定することが可能
であった。さらに熱 CVD 法により合成した TiO2 ナノ粒子の粒径分布測定を行った。従来、最
も初期に生成する核生成領域の粒子サイズは数 nm と小さく、ナノ粒子生成・成長メカニズム
の研究において重要なこの領域における粒径分布の in situ 測定はできなかったが、改良した
PSM を用いると、Fig. ②. a-10 に示したように、粒子生成初期の分布の様子を測定することが
でき、後述する、技術の体系化に繋がるプロセス工学的アプローチが可能となった。
203
TSI CNC3022A
Improved particle size magnifier (PSM)
ULTRAFINE
CONDENSATION
PARTICLE
C OUNTER
Mixing part
Condenser
Heater
Felt
Ethylene
glycol
Saturator
Cooling
water
MFC
Filter
Filter MFC Vacuum
pump
Thermocouple
Thermocouple
N2
Cooling
water
Aerosol part
Nanoparticles
Fig. ②. a-4 Schematic diagram of the experimental setup.
N2
MFC
NaCl
300 scm3/min
NaCl aerosol
generator
Laser Particle
Counter
Laser Particle
Counter
PSM
MFC
Purge
Cooling
water
ULTRAFINE
CONDENSATION
PARTICLE
COUNTER
Vacuum
Pump
TSI CNC3020
241Am
300 scm3/min
Diluter
charger DMA
Faraday Cup
Electrometer
MFC
Fig. ②. a-5 Schematic diagram of the experimental setup.
204
Vacuum
Pump
1.2
Counting Efficiency [-]
1.0
0.8
0.6
dp=3 nm
0.4
dp=5 nm
dp=10 nm
0.2
dp=15 nm
dp=20 nm
0.0
20
40
60
80
100
120
o
Saturator Temperature [ C]
Fig. ②. a-6 Change of counting efficiency as a function of saturator temperature at aerosol
flow rate of 500 scm3/min and Rh =0.17.
1.2
Counting Efficiency [-]
1.0
0.8
0.6
0.4
Tsh=90oC
0.2
Tsh=100oC
0.0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
20
Particle Diameter [nm]
Fig. ②. a-7 Change of counting efficiency as a function of particle diameter at aerosol flow
rate of 500 scm3/min and Rh =0.17.
205
1.2
Counting Efficiency [-]
1.0
(PSM+TSI 3020)
0.8
0.6
TSI 3025
- charge
+ charge
- charge
+ charge
- charge
+ charge
- charge
+ charge
TSI 3022
0.4
TSI 3020
0.2
0.0
1
10
Particle diameter [nm]
Fig. ②. a-8 Counting efficiency of TSI 3020, 3022, 3025 and PSM+TSI 3020 for different
polarity particles.
108
600oC
750oC
750oC
1000oC
1000oC
Au Particles
107
3
ΔN/Δlog(Dp) [#/cm ]
PSM+TSI CNC 3022
106
105
TSI CNC 3022
104
103
1
2
3
4
5
6 7 8 910
20
30
Electrical mobility diameter, Dp [nm]
Fig. ②. a-9 Size distribution of gold nanoparticles generated by a PVD method at different
generation temperatures.
206
108
107
-3
ΔN/Δln(Dp) [cm ]
(b)
109
Temperature
200 oC
275 oC
300 oC
400 oC
475 oC
500 oC
525 oC
550 oC
600 oC
108
Temperature
400 oC
o
450 C
500 oC
550 oC
600 oC
107
106
ΔN/Δln(Dp) [cm-3]
(a)
106
105
105
104
104
103
103
2
4
6
8
10
20
102
40
2
4
6
8
10
20
40
Dp [nm]
Dp [nm]
Fig. ②. a-10 Size distribution of TiO2 nanoparticles generated by (a) thermal decomposition of
TTIP and (b) oxidation of TiCl4.
(3.3)粒径分布計測の高精度化
DMA は、気相浮遊粒子に対する代表的な粒子サイズ分布の計測装置であるが、DMA を用い
て粒子の分級を行うためには、エアロゾル粒子を両極イオンにより荷電させる必要がある。両
極イオンを用いたエアロゾル粒子の拡散荷電においては、
粒子とイオンが衝突付着する確率
(結
合係数)はイオンの電気移動度に支配される。しかしながら、イオン発生雰囲気の湿度により
負イオンの電気移動度が変化することが我々の研究により明らかにされてきた。そのため、拡
散荷電におけるイオン電気移動度の変化の影響を評価することは、正確な粒子帯電率の決定の
ために必要である。そこで、粒子の荷電効率の予測手法を高度化し、これによりナノ粒子の分
級、サイズ計測技術を向上させるために、イオン電気移動度の変化が粒子帯電率に及ぼす影響
を検討し、さらに既往の拡散荷電に対する予測式を改良し、イオン電気移動度の分布を考慮し
た新たな拡散荷電式を導出した。
Fig. ②. a-11(a)は既往の拡散荷電式によるナノ粒子の帯電率の計算結果である。横軸は粒子
径、縦軸は粒子帯電率である。負イオンの電気移動度が増加すると、正に帯電した粒子の帯電
率のみが減少した。Fig. ②. a-11(b)は各湿度雰囲気における粒子帯電率の測定結果である。計
算結果と同様に、湿度変化により負イオン電気移動度が増加すると、正帯電率のみ減少した。
これらの結果から、負イオン電気移動度の変化は、正帯電率に影響を及ぼすことが分かった。
Fig. ②. a-12 は、イオンの電気移動度分布を考慮して改良された拡散荷電式、および既往の
拡散荷電式に基づいて計算した粒子帯電率を、測定値と比較した結果である。負に帯電した粒
子の帯電率の測定値は、両方の計算結果とほぼ一致した。それに対し、正の帯電率については、
改良された拡散荷電式による計算結果の方が、実験結果との一致が良好であった。以上の結果
から、イオン電気移動度の分布を考慮することにより、より正確な粒子帯電率の決定が可能と
なることが分かった。DMA を用いた粒子の分級、サイズ計測においては、粒子の帯電率を求め
ておく必要があるため、ここで得られた成果は、分級、計測の高精度化に直接役立つものであ
る。
207
Charging ratio [-]
(a) Calculated result
(b) Experimental result
6
4
4
2
Negative
0.1
2
6
4
Positive
0.1
2
0.01
8
6
4
6
4
2
Zp-: 1.25×10-4 m2V-1s-1
Zp-: 1.73×10-4 m2V-1s-1
2
2
4
1
6 8
2
0.01 5
100
4
6 8
10
1236 ppm
(+)
8028 ppm
(+)
6 7 8 9
2
3
(-)
(-)
4
5
6
10
Particle Diameter [nm]
Fig. ②. a-11 Calculated (a) and measured (b) bipolar charging ratios of aerosol particles.
Charging ratio [-]
2
0.1
Negative
7
6
5
4
Positive
3
2
Improved solution
Previous solution
0.01
3
4
5
6
7
8 9
2
10
Particle Diameter [nm]
Fig. ②. a-12 Bipolar charging ratios of particles measured and calculated by the improved and
the basic charging equations.
(4)成果の意義
本成果は、気相のみならず液相の粒子に対しても、液相粒子の気中分散技術との併用により
高精度の計測・分級・分離を可能とし、ナノ粒子合成における重要なハンドリング手法のひと
つとなり得る。また、本成果を用いることにより、ナノ粒子の初期生成過程ならびに合成粒子
の動力学的挙動の詳細な検討が可能になる。これにより、ナノ粒子合成プロセスにおける様々
な操作因子をプロセス工学的に抽出、体系化することを可能とし、ナノ粒子合成技術の高度化
につながるものと考えられる。
208
b.気相合成法に対する検討
(1)目標
気相合成法によるナノ粒子の製造は、
ラボスケールのような小規模な製造装置では可能だが、
大量合成しようとする際、分布が広くなったり、化学組成にずれが生じたりするなど、サイズ
が揃ったナノ粒子の大量合成は非常に困難な課題となっている。これは、ナノ粒子製造のスケ
ールアップ技術が確立されていないことに起因しており、この問題の解決のためには Fig. ②.
b-1 に示すように、気相中での核生成および成長によるナノ粒子の生成過程を、数値計算によ
り評価する必要がある。そのため、これらの数値計算を反応器内のガスおよび液の流動状態、
温度分布、反応物の濃度分布を計算する熱流体数値計算ソフトにカップリングさせて行い、流
れおよび温度が不均一な反応器内で合成されるナノ粒子のサイズ分布および形態などの性状を
評価できることが重要となる。
Fig. ②. b-2 にナノ粒子合成過程の模式図を示す。ナノ粒子は、原料の化学反応により反応生
成物ができ、それらが均一核生成によりクラスターとなり、クラスターの凝縮、凝集成長およ
び焼結を経て生成する。そこで、リアクターレベルシミュレータとして、気相における化学反
応、凝集、焼結を考慮したシミュレーションコードを作成し、これをもちいて管型モデル反応
器による粒子合成実験と比較することで、より精度の高いシミュレーション技術を開発するこ
とを目標とする。
環境への負荷・
省エネルギーを考慮
機能性微粒子材料のニーズ
粒子性状、サイズ分布の決定
低コストなプリカーサーの選択・調整
反応機構、反応速度および平衡定数などの探索
反応条件(温度、圧力など)の決定
反応器の設計
生産量の決定,
プリカーサーの供給法,
装置サイズの決定,
熱源の選択
滞留時間、
混合時間、
加熱時間の決定
熱流体
シミュレーション
流動、伝熱、物質移動
の基礎式の数値計算
(CFD-code)
ナノ粒子合成の
シミュレーション
パイロット試験
セラミックスの科学
(相転移の科学,技術,etc)
反応装置の製作
ナノ粒子のGDE
の数値計算
(核生成、凝縮、凝集,
化学反応,焼結,etc)
微粒子製造の基礎実験
比較
微粒子性状の測定
微粒子性状の評価
計測・物性評価
サンプリング捕集による計測
(粒径分布,形態,結晶構造,
組成,熱的物性,機械的物性,
電気的物性,光学的物性,etc)
ナノ粒子の計測
(粒子浮遊状態での動力学径,
粒径分布,帯電状態,濃度,etc)
高機能をもつ微粒子材料・新規材料の
製造プロセス開発および製品化
Fig. ②. b-1 Process engineering approach for nanoparticle synthesis processes.
209
Fig. ②. b-2 Schematic illustration of particle generation process by gas phase reaction.
(2)目標の達成度
円管型合成装置内のガス流れ場の熱流体シミュレーションを行い、合成場の解析を行った。
そのうえで、合成反応場、ナノ粒子の合成過程(化学反応、凝集、焼結、凝集粒子の構造等)
を考慮した厳密な動力学的シミュレーションコードを作成し、シミュレーションと気相管型反
応器内でのナノ粒子の合成実験との比較を行った。その結果、実験結果と非常に良く一致した
高精度のシミュレータを作製することができた。よって、当初の目的を達成できたと考える。
(3)研究成果内容
(3.1)円管型ナノ粒子合成装置を対象とした装置内の流体の流速分布、温度分布を求める熱流
体シミュレーション
気相法における合成のタイムスケールが一般に数十マイクロ秒から数秒の範囲であること、
その間の合成場温度変化が激しいことから、合成途中の粒子の性状の変化過程を観測すること
はきわめて困難である。したがって、合成プロセスをシミュレーションにより解析する必要性
は非常に高い。粒子の合成過程を支配するメカニズム、すなわち反応、凝縮、凝集、形態変化
はすべて温度と滞留時間といった合成の場に大きく依存するため、ここではまず、円管型合成
装置内のガスの流れ場の熱流体シミュレーションにより、合成場を評価することを検討した。
・熱流体計算手法
部分的に加熱された壁を持つ円管内では、導入されたガスにはその加熱、冷却に伴い、膨張
と収縮が生じる。したがって軸方向とともに半径方向にも不均一な速度分布と温度分布が形成
される。円管型装置内部の空間を軸対象系とみなすと、半径方向と軸方向のガスの速度 u、v
と温度 T の分布は、以下の式で表される。
・連続の式:
1 ∂
(rρu ) + ∂ (ρv ) = 0
(②. b-1)
r ∂r
∂z
・ 運動量輸送方程式(半径方向)
:
1 ∂
(rρuu ) + ∂ (ρvu )
r ∂r
∂z
=
1 ∂ ⎛ 4 ∂u ⎞ ∂ ⎛ ∂u ⎞ 2u ⎛ 2μ ∂μ ⎞ 3 ∂ ⎛ ∂v ⎞ ∂ ⎛ ∂v ⎞ ∂p
+
⎜μ ⎟ + ⎜μ ⎟ −
⎜
⎟−
⎜ rμ ⎟ + ⎜ μ ⎟ −
r ∂r ⎝ 3
∂r ⎠ 2 ∂r ⎝ ∂z ⎠ ∂z ⎝ ∂r ⎠ ∂r
∂r ⎠ ∂z ⎝ ∂z ⎠ 3r ⎝ r
・運動量輸送方程式(軸方向)
:
210
(②. b-2)
1 ∂
(rρuv ) + ∂ (ρvv )
r ∂r
∂z
=
1 ∂ ⎛ ∂v ⎞ ∂ ⎛ 4 ∂v ⎞ 1 ∂ ⎛ ∂u ⎞ 2 ∂
⎜ rμ ⎟ −
⎜ rμ ⎟ + ⎜ μ ⎟ +
r ∂r ⎝ ∂z ⎠ ∂z ⎝ 3 ∂z ⎠ r ∂r ⎝ ∂z ⎠ 3r ∂z
⎡ ∂
⎤ ∂p
⎢μ ∂r (ru )⎥ − ∂z + ρg
⎣
⎦
(②. b-3)
・エネルギー方程式:
∂C p
⎛ ∂C p
∂
1 ∂
1 ∂ ⎛ ∂T ⎞ ∂ ⎛ ∂T ⎞
ρC p Tv =
rρC p Tu +
+v
⎜ rk
⎟ + ⎜k
⎟ + ρT ⎜⎜ u
∂z
r ∂r
r ∂r ⎝ ∂r ⎠ ∂z ⎝ ∂z ⎠
∂z
⎝ ∂r
(
)
(
)
⎞
⎟ (②. b-4)
⎟
⎠
(②. b-1)∼(②. b-4)式中で、r と z は、それぞれ、管入口の中心を原点とする半径方向と軸方向
座標で、p、μ、Cp、k はガスの圧力、粘度、等圧比熱、熱伝導度である。ガスの密度ρは、理想
気体の状態方程式から求めた。
以上の基礎式の流れに関する境界条件として、ここでは、管入口では発達した放物線形の速
度分布、管壁面では no slip wall 条件を課した。また、温度境界条件を設定するために、熱電対
を用いた壁面温度プロファイルの実測を行い、得られた値を数式化して壁面境界条件として与
えた。なお、実測に合わせて、管径は 13 mm、管長は 1.1 m とした。
計算では、基礎式を SIMPLER のアルゴリズムに則って離散化して数値計算した。ガスの物性
の温度依存性は、文献などに従って推定し、解析手順中で適切に考慮した。計算格子の数と配
置を種々に変えて計算精度をチェックした後、最終的に半径方向に 20、軸方向に 60 の不等間
隔格子を設定して計算結果を得た。
・シミュレーション結果
Fig. ②. b-3 に、N2 を 1 l/min の流量で流したときの装置内部の温度分布の計算結果の例を示
す。流動と伝熱が同時に生じるケースでは、壁面温度と内部のガス温度の間に、かなりの差が
あることがわかる。
また、ガスを He と Ar としたときの温度分布の計算値を Fig. ②. b-4 に示す。Ar ガスの場合
は、He ガスよりも半径方向の温度分布が明らかに大きい、すなわちガス温度と壁面温度との差
が大きい。これは主として、Ar ガスの熱伝導度が He ガスのそれよりも約 1 オーダー小さいこ
とに起因していることがわかった。
以上のことより、温度と滞留時間に大きく影響される粒子の合成において、合成の場を評価
するためには、装置の操作温度や壁温分布の情報のみでは不十分であり、流動とガスの物性を
考慮した熱流体シミュレーションによる解析が不可欠であることがわかった。
211
Fig. ②. b-3 Typical axial temperature profile in the furnace
obtained by calculation (a) and measurement (b).
Fig. ②. b-4 Typical radial temperature profile in the furnace obtained by calculation.
(3.2)粒径・形態分布を離散的に表現した 2 次元離散-区分(2 Dimensional Discrete Sectional;
2D-DS)型モデルを用いたシミュレータの開発およびシミュレーションの妥当性を評価
ナノ粒子の合成過程は、化学反応、凝縮、蒸発、凝集、焼結等の様々な現象が反応管壁への
拡散沈着とともに生じる複雑なものであるため、ここでは、これらの現象のうち生成粒子へ与
える影響が大きいと考えられる化学反応、凝集、焼結を考慮した動力学シミュレーションコー
ドを作成した。その際、凝集体の構造を考慮して粒径分布を表すために、凝集粒子の体積と表
面積をパラメータとして 2 次元的に粒径分布を表現し、さらに粒子を構成しているモノマーの
数が比較的少ない粒子は、粒子(モノマー/クラスター)同士の衝突の際に瞬時に融合し、球
212
形粒子となると考えて、粒子構成モノマー数により離散的に取り扱う、2 次元離散‐区分型モ
デルによって粒径分布を表現した。このモデルの利点は、凝集体を考慮した計算が行えること
はもちろん、クラスター程度の小さい粒子に影響が大きい沈着等の現象を考慮に入れることが
できる点である。
さらに、ここで開発した化学反応、凝集、焼結を考慮した動力学シミュレーションコードを
検討するために、比較的解析の容易な鉛直管型の反応器を用い、チタンのアルコキシドである
TTIP と四塩化チタンの 2 種類の原料により酸化チタンナノ粒子を製造し、DMA と CNC を組み
合わせた in-situ 計測技術により凝集体としてのサイズ分布を、粒子を捕集して透過型電子顕微
鏡(TEM)観察により一次粒子径の分布を、それぞれ求めた。
・粒径・粒径分布計算手法
粒子の生成と成長に伴うガス中浮遊粒子の粒径分布の変化を理論的に評価するためには、生
成や成長の機構が数式で記述されたエアロゾルの一般動力学方程式(General Dynamic
Equation; GDE)の解析を行う必要がある。GDE を解くためには、粒径分布を有限個に分割近
似せざるを得ず、代表的な方法は、区分型の GDE(Sectional GDE)(Gelbard and Seinfeld, 1980)、
およびモノマー、クラスターの動力学をより精度良く表現することを目的とした離散‐区分型
の GDE(Discrete-Sectional GDE)(Wu and Flagan, 1988) を用いる方法である。ただし、これ
らのモデルを用いたほとんどの研究では、粒子は成長する間球形を保つと近似され、凝集粒子
の生成と緻密化による形態変化は考慮されていなかった。
Xiong and Pratsinis (1993)は、凝集粒子の粒径と形態の両方の変化をシミュレーションする
方法を提案した。この方法は、粒子サイズが粒子の体積基準と表面積基準の両方で区分化され
ることから、2 次元区分型モデルと呼ばれる。体積と表面積が求まれば、凝集粒子の代表径(凝
集粒子径)と一次粒子径が求まることになる。この方法によると、凝集成長と形態変化による
粒径分布の変化を表す GDE は、以下の式で表される。
dN (Va , as , t ) ⎡ dN (Va , as , t ) ⎤
⎡ dN (Va , as , t ) ⎤
=⎢
+⎢
⎥
⎥
dt
dt
dt
⎣
⎦ coag. ⎣
⎦ sint.
(②. b-5)
ここで、t は時刻、N(Va, as)は 1 個あたり Va の体積、as の表面積を持つ凝集粒子のガス中の
個数濃度である。式(②. b-5)の右辺第 1 項は凝集による粒子個数の変化を、第 2 項は焼結など
に起因する形態変化による粒子個数の変化を表している。右辺第 1 項は次式で表される。
23
23
⎛
⎞
⎛ V′ ⎞
⎛V −V′ ⎞
⎟
1 Va ⎜
⎡ dN (Va , as , t ) ⎤
a
a
a
⎜
⎟
⎜
⎟
=
θ
>
+
a
a
a
∫0 ⎜ s ⎜
⎟
pi
pi
⎢
⎥
⎜ vpi ⎟
dt
vpi ⎟⎠
⎣
⎦ coag. 2
⎜
⎟
⎝
⎝
⎠
⎝
⎠
Va′
βVa′ ,Va −Va′ (as′ , as − a s′ )N (Va′ , a s′ , t )N (Va − Va′ , a s − a s′ , t )da s′ dVa′
× ∫ vpi api2 3
⎛ V′ ⎞
⎜ a ⎟
⎜ vpi ⎟
⎝
⎠
api
Va′
− N (Va , as , t )∫0∞ ∫ vpi api2 3
⎛ V′ ⎞
⎜ a ⎟
⎜ vpi ⎟
⎝
⎠
βVa ,Va′ (as , a s′ )N (Va′ , as′ , t )da s′ dVa′ + R p
(②. b-6)
api
ここで vpi と api はモノマーの体積と表面積である。また、βはブラウン凝集速度関数であり、
不整形の凝集粒子に対する値は、別に求めておく必要がある。式(②. b-6)の右辺第 1 項は、体
213
積 Va、表面積 as よりも小さい粒子同士の凝集による、体積 Va、表面積 as の凝集粒子の増加を
示している。また、右辺第 2 項は、体積 Va、表面積 as の凝集粒子同士の凝集による体積 Va、
表面積 as の凝集粒子の減少を表す。さらに、最終項 Rp は化学反応による粒子物質生成の寄与
を表す。
一方、式(②. b-5)の右辺第 2 項は次の式で定義される。
d
⎡ dN (Va , as , t ) ⎤
[HN (Va , as , t )]
=−
⎢
⎥
dt
da s
⎣
⎦ sint.
(②. b-7)
v o lu m e c o n c e n tra tio n
ここで H は、焼結などによる粒子の表面積の減少速度、すなわち−das/dt である。
しかしながら、Xiong and Pratsinis (1993)によると、粒子生成、凝集、焼結が同時に起こる
系に対しては、シミュレーション結果と実験値の間にかなりの隔たりがあった。この原因は、
新規モノマーの発生を含めた小粒子(クラスター)の動力学の評価が重要となる系に対して、
区分型モデルではこれを十分な精度で計算できないことであると考えられる。
上述の問題を克服する方法として、本研究では 2 次元区分型モデルに対する離散-区分型モデ
ルの適用を検討した。構築を試みた 2D-DS 型モデルの概念を Fig. ②. b-5 に模式的に示す。構
成モノマー数が ndisc 個(数∼数十個)までの小さなクラスターは離散的に表わされ、それ以上
の大粒子は粒子の体積と表面積を対数で区切った区分型として取り扱われる。区分型としたセ
クション領域では、同じ体積を持つ粒子のうち、表面積の最も小さい粒子は球形の粒子を、表
面積の大きい粒子は嵩密度の低い凝集粒子をそれぞれ表す。一方、Fig. ②. b-5 中の柱状グラフ
で表したディスクリート領域内の粒子は、粒子が十分に小さいため凝集後、瞬時に融合して球
形粒子となるとみなせるため、球形粒子として扱われる。
(k, l) section
(total agglomerate
volume: V k,l )
Discrete domain, kk
(cluster volume: Vd kk )
is
ax
re a
a
ce
r fa
Su
1• • k
a k,l
a k,l-1
k v
0
v1
v o lu v2 • • • •
v
me
a x is k vk + 1
Fig. ②. b-5 Schematic illustration of description of particle size distribution by Two-Dimensional
Discrete Sectional Model.
この概念を用いて、式(②. b-5)∼(②. b-7)を数値的に計算できるように変形した。セクショ
ン領域において、Vk,l を(k,l)セクション(k 番目の体積セクション(vk-1、vk が境界となる)のう
ちで、l 番目に小さい表面積セクション(表面積 al-1、al が境界となる)
)に含まれる総体積とし
て定義すると、以下のように与えられる。
Vk ,l = ∫vvk ∫aal Va N (Va , as , t )dasdVa
k −1 l −1
(②. b-8)
式(②. b-8)でセクション毎に N を一定と近似すると、セクション毎に積分した式(②. b-6)と
214
式(②. b-7)は V に関する連立常微分方程式となる。このとき式(②. b-6)の右辺には各セクショ
ンの境界や粒子形状、ガスの物性に依存する、凝集速度関数の積分値が現れる。以下これらを β 、
β 、 β として表す。
以上より、まずディスクリート領域の最小単位であるモノマーの体積の時間的変化は、次の
ように表わされる。
dVd1
ndisc
nv mk
mm =1
k =1 l =1
= −Vd1 ∑ β12,mmVd mm − Vd1 ∑ ∑ β11,k ,lVk ,l + rp
dt
(②. b-9)
ここで、Vdmm は mm 番目のディスクリート領域における粒子体積であり、右辺第 1,2 項は他
の粒子との凝集による消失速度、第 3 項は化学反応によるモノマー生成速度を表わす。その他
のディスクリート領域の粒子に対しては、
dVd kk
dt
ndisc
1 kk −1 kk −1 1
2
∑ ∑ βkk , mm, nnVd nn Vd mm − Vd kk ∑ βkk , mmVd mm
2 mm =1 nn =1
mm =1
=
nv mk
− Vd kk ∑ ∑ β1kk ,k ,lVk ,l
(②. b-10)
k =1 l =1
となる。右辺第 1 項は凝集による生成速度、第 2,3 項は他の粒子との凝集による消失速度を表
わしている。さらに、各セクション領域内の粒子の体積の変化は以下の式で表わされる。
dVk ,l
dt
=
ndisc k mi
1 ndisc ndisc 3
2
∑ ∑ βmm,nn,k ,lVd nn Vd mm + ∑ ∑ ∑ βmm,ik , slVi, sVd mm
2 mm =1 nn =1
mm =1i =1s =1
ndisc
− Vk ,l ∑ β3mm,k ,lVd mm +
mm =1
1 k −1 k −1 mi m j 1
∑ ∑ ∑ ∑ βijk , stlVi, sV j ,t
2 i =1 j =1 s =1t =1
k −1 mi l −1
k −1 mi
i =1 s =1t =1
i =1 s =1
2
3
+ ∑ ∑ ∑ β ik
, stl Vi , s V k ,t − V k ,l ∑ ∑ β ik , sl Vi, s
k −1 mi mk
4
+ ∑ ∑ ∑ βik
, stlVi , sVk ,t +
i =1 s =1t =l +1
l −1
l −1 mk
s =1
s =1t =l +1
1 l −1l −1 5
∑ ∑ βk , stlVk , sVk ,t
2 s =1t =1
− Vk ,l ∑ β6k , slVk , s + ∑ ∑ β7k , stlVk , sVk ,t
mk
nv mi
1
− β8k ,lVk2,l − Vk ,l ∑ β9k , slVk , s − Vk ,l ∑ ∑ β10
ik , slVi, s
2
s =l +1
i = k +1 s =1
+ H k ,l +1Vk ,l +1 − H k ,lVk ,l
(②. b-11)
右辺第 1,2,4,5,7,8,10 項は凝集によって k,l セクションに流入する粒子体積を表わし、第
3,6,9,11,12,13 項は凝集によって k,l セクションから流出する粒子体積を表わしている。また、
右辺第 14 項は焼結によって粒子表面積が減少し k,l セクションに流入する粒子体積、第 15 項
215
は k,l セクション内の粒子が焼結により表面積が減少して k,l セクションから流出する粒子体積
を表わしている。ここで は式(②. b-7)のセクション内積分によって生じる項である。
前述した GDE に対する 2D-DS 型モデルに基づいたシミュレーションを実現するためには、
1.で検討された熱流体シミュレーションによる粒子合成場の情報を組み入れる必要がある。こ
れは、式(②. b-9)∼(②. b-11)中に現れる化学反応に関連する速度 rp、凝集速度関数β、形態変
化速度 H などが温度と滞留時間に依存するからである。式(②. b-9)∼(②. b-11)は、ガスが合成
装置に導入されてからの時間 t を独立変数とする連立常微分方程式であり、一方合成場の変数
(速度、温度)は 2 つの独立変数(空間座標 r、z)の従属変数である。理想的には、式(②. b-9)
∼(②. b-11)に空間座標を関連付けて、すなわち不均一な合成場内での粒子の輸送を表す項を付
け加えて、シミュレーションが行われるべきであるが、現在の計算機の性能を考慮すると、ま
ったく現実的ではないと考えた。
そこで、
本研究では実用的なシミュレータの開発の意味から、
現実に計算可能な手法を検討した。
まず、合成場に対する熱流体シミュレーションで求められた速度と温度分布より、断面(軸
方向座標 z)にわたった平均の速度 v(z ) と温度 T (z ) を、以下の関係より求める。
v( z ) =
T (z ) =
1
πR
R
∫ v(r , z )2πr d r
2 0
(②. b-12)
R (
T r , z )2πr d r
2 ∫0
(②. b-13)
1
πR
Fig. ②. b-3 に示した断面平均温度は、式(②. b-13)に基づいて求められたものである。半径
方向の分布を無視し、ガスと粒子は軸方向の断面平均速度で輸送されていくと仮定すると、軸
方向座標 z と時間 t の関係は、以上の平均値を用いて以下のように表される。
t = ∫0z
1
v( z )
(②. b-14)
dz
これにより、半径方向の分布情報は失われるものの、軸方向の合成場の分布を、時間による
変化に変換でき、したがって、式(②. b-9)∼(②. b-11)の 2D-DS 型モデルに場の情報を組み入
れることができる。
・シミュレーション結果と実験結果の比較
Fig. ②. b-6 および Fig. ②. b-7 に反応温度が 1200 oC での各原料に対する実験結果と計算結
果の比較を示す。図中の各線は計算値で、反応器入口からの距離に対する粒径分布の変化を表
しており、実線が反応器出口(距離:1.5 m)で測定された実験値に対応している。図より、
どちらの原料の場合も粒子のサイズならびに個数濃度のオーダーは本計算により良好に予測さ
れている。実験では、原料の違いによる影響があまりみられなかったが、計算結果では、反応
器内で粒子が成長していく様子が原料、すなわち反応速度によって異なることがはっきりとわ
かる。
まとめは以下の通りである。ナノ粒子気相合成プロセスに対するリアクタースケールのシミ
ュレーション手法を開発し、合成実験結果との比較によりその妥当性を検証した。その結果、
粒子のサイズならびに個数濃度のオーダーがシミュレーションにより良好に予測できることが
わかった。
216
-3
ΔN / Δlog (d ) [m ]
10
10
10
10
10
10
20
TTIP
exp. cal.
凝集粒子径
一次粒子径
18
at 0.92m
16
at reactor
outlet
14
at 0.56m
12
10
10
-1
0
1
2
3
10
10
10
10
particle diameter, d [nm]
10
4
Fig. ②. b-6 Comparison between measured and calculated size distributions (TTIP, 1200°C).
-3
ΔN / Δlog (d ) [m ]
10
10
10
10
10
10
20
TiC l4
at 0.56m
18
exp. cal.
凝集粒子径
一次粒子径
16
at 0.92m
at reactor
outlet
14
12
10
10
-1
0
1
2
3
10
10
10
10
particle diameter, d [nm]
10
4
Fig. ②. b-7 Comparison between measured and calculated size distributions (TiCl4, 1200°C).
(4)成果の意義
金属、金属酸化物のナノ粒子について、凝集構造までも考慮にいれた厳密性の高いシミュレ
ーションコードを作成し、高精度のシミュレータを作成できた。この成果により、他のナノ粒
子の材料についても、物性値から成長過程を予測することが可能となった。また、原料ガスの
化学反応速度、合成温度、滞留時間を入力データとして、合成後のナノ粒子の粒子径分布を予
測するシミュレーションを提案した。この成果は、産業界において、合成条件の探索のために、
経験的・試行的なパイロット実験とスケールアップに多大な労力を要していた気相ナノ粒子合
成法において、プロセッシング条件から粒子性状を予測することを可能とする非常に重要な手
段を提供することにつながる。
参考文献
Gelbard, F. and J.H. Seinfeld, “Simulation of Multicomponent Aerosol Dynamics”, J. Colloid
217
Interface Sci.: 78 485-501 (1980).
J. J. Wu and R. C. Flagan, “A discrete-sectional solution to the aerosol dynamic equation”, J.
Colloid Interface Sci.: 123, 339-352 (1988).
Xiong, Y. and S.E. Prasinis, “Formation of agglomerate particles by coagulation and
sintering—Part I. A two-dimensional solution of the population balance equation”, J. Aerosol Sci.:
24 283-300 (1993).
218
c1.液相合成に対する検討
(1)目標
液中ナノ粒子の粒径分布の計測は、既往の計測手法では、その精度に大きな問題がある。そ
こで、液中ナノ粒子(コロイド粒子、液相合成ナノ粒子)を一個ずつ気中に浮遊させ、エアロ
ゾル技術法を用いた気中粒子の計測手法により、精度よく粒径分布が計測できるシステムを開
発する。
(2)目標の達成度
静電噴霧法(エレクトロスプレー)により液中ナノ粒子を一個ずつ気中に浮遊させ、微分型
静電分級器を用いた気中の粒子の計測手法によりオンラインで粒径分布が計測できることが明
らかになり、研究の目標を達成できた。
(3)研究成果内容
液相中ナノ粒子(特に粒子径 50 nm 以下の場合)の粒径分布に対して、既往の計測手法の精
度に大きな問題があることが知られている。本研究では液相中(溶液中)に分散する 100 nm
以下の粒子径を持つナノ粒子に対して、オンラインで粒子径分布を計測する方法を検討した。
この方法は、液相中に分散しているナノ粒子を静電噴霧(エレクトロスプレー、ES)によって
気中にエアロゾル化し、微分型静電分級器(Differential Mobility Analyzer : DMA)を用いてその
エアロゾル粒子を分級し、粒子径を計測するというものである。サンプル粒子を静電噴霧によ
りエアロゾル化し、その粒径を計測することで本研究の評価を行った。サンプル粒子には、数
nm∼100 nm の市販の粒子、およびプロジェクト内で合成された粒子(金ナノ粒子や磁気 FePt
ナノ粒子)を用いた。
比較のために、サンプル粒子のコロイド溶液を基板上に滴下、乾燥させ、電子顕微鏡により
観察を行った粒子の粒子径分布(平均粒子径および幾何標準偏差)を求めた。次に、コロイド
溶液を静電噴霧法によりエアロゾル化し、DMA-CNC システムによってナノ粒子の粒径分布を
計測した(ES-DMA システム)
。電子顕微鏡および ES-DMA システムにより得られた粒径計測の
結果からは、液相中に分散するナノ粒子を、静電噴霧によって一次粒子の状態で気相中に分散
させることができたと考えられる(Fig.②.c1-1)
。実際にエアロゾル化したナノ粒子を基板に捕
集して観察した結果、液中ナノ粒子は孤立した一次粒子として気相中に分散していることが観
察できた。本計測システムは球状以外のナノ粒子にも適用できた。金のナノロッドを計測した
時の結果を示す(Fig.②.c1-2)
。粒子を気中に分散させた後に、気中に浮遊している状態で粒子
を加熱しながらオンライン計測を行ったところ、温度が高くなるにつれて粒子径が小さくなる
ことが確認された。これは、ナノ粒子を合成する際に使用された分散剤(有機物)が気中に分
散された粒子のまわりにも存在し、加熱によって有機物が除去されたためと考えられる。
以上より、静電噴霧法を用いて数 nm の液中ナノ粒子をエアロゾル化することで、液相中に
分散するナノ粒子の粒子径分布を DMA と CNC を組み合わせた、エアロゾル計測システムで精
度良く計測できることが実証された。
(4)成果の意義
液中ナノ粒子を気中に浮遊させることで高精度を有するエアロゾル計測技術の使用を可能
としたことは重要である。すなわち、レーザーや光散乱に基づく通常の計測装置においてしば
しば問題となる液中のゴミによる計測の不確定さが解決できたことは、極めて意義が大きい。
219
Electrospray of
Colloidal Solutions
Aerosol Size
Analyzing Technique
Liquid
supplying
Electrical classified by
a Differential Mobility
Analyzer (DMA)
Solvent
evaporation
Carrier gas
Particle Counter
(CNC)
5
(a)
4
DMA
4 4
3
dN/dLog(D ) X×10
10 (#/cm
) 3]
dN/dLog(Dp)
[#/cm
p
4
3
dN/dLog(D ) ×10
X 10 4(#/cm
) 3]
dN/dLog(Dp)
[#/cm
p
Colloidal
nanoparticles
D =20
4.2nm
nm
g
σg= 1.11
SEM
3
2
Dp = 4.2 nm
σg = 1.11
1
0
3
4
5
6
7
8
9 10
2.5
(b)
nm
D =50
25 nm
g
σ = 1.13
2
g
20 nm
1.5
1
Dp = 25 nm
σg = 1.13
0.5
0
10
Particle size, D (nm)
100
Particle size, D (nm)
p
p
Fig. ②. c1-1 Electrospray of colloidal solutions and online sizing using aerosol technique
(ES-DMA). Figures below show the results by ES-DMA technique and the corresponding TEM
images of gold (Au) nanoparticles (4.2 nm and 25 nm) directly collected from the gas-phase.
3
20
10
0
2 34 6
zp
1 2 34 6 10 2 34
[ x10-7m2 / V・s ]
200°C
Z p = 8.14e-08
50 Dp = 55.07 nm
(converted from Zp)
40
30
20
10
0
2 34 6
zp
1 2 34 6 10 2 34
[ x10-7m2 / V・s ]
Z p = 1.06e-07
50 Dp = 47.84 nm
(converted from Zp)
40
30
20
10
0
2 34 6
zp
300°C
300 nm
10x10
60x10
Number concentration [ #/cm 3 ]
30
Number concentration [ #/cm 3 ]
Number concentration [ #/cm 3 ]
Z p = 8.14e-08
50 Dp = 55.07 nm
(converted from Zp)
40
3
3
60x10
1 2 34 6 10 2 34
[ x10-7m2 / V・s ]
400°C
300 nm
Number concentration [ #/cm 3 ]
3
60x10
Z p = 3.64e-07
8 Dp = 25.15 nm
(converted from Zp)
6
4
2
0 2 34 6
1 2 34 6 10 2 34
2
zp [ x10 -7m / V・s ]
800°C
300 nm
Fig.②. c1-2 Change in shape and size of gold nanorods due to in-flight heating.
220
300 nm
c2.サイズ排除クロマトグラフィー−動的光散乱法(SEC-DLS)による溶液中の粒子径の測定
(1)目標
液中ナノ粒子の、サイズ計測の精度を向上させることを目標とする。
(2)目標の達成度
代表的なin line計測手法である動的光散乱(DLS)法の欠点を克服し、計測精度を向上させる
ことが出来たことから、目標は達成できたと考える。
(3)研究成果内容
従来、ナノ粒子の分散状態を調べるために透過型電子顕微鏡(TEM)が用いられてきたが、
溶液中の凝集の判別は非常に難しかった。一方、溶液中の粒子径測定手法でシングルナノサイ
ズまで適用可能な方法に動的光散乱法があった。しかし、凝集粒子からの強い散乱光の影響を
受けて結果の信頼性が悪くなるという問題があった。
本研究では後述するサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)でナノ粒子を分級し、次いで動
的光散乱法(DLS)で粒子径評価し、積算して粒子径分布を再構成することにより粗大な凝集
粒子の影響を避け、ナノ粒子からの光散乱を正確に捉えた。代表的な結果をFig. ② c2-1に示
す。
この成果はSECのほか、強力なレーザー(2 W)
、高感度な検出器、高速なコリレータを用い
ることによって実現した。
(4)成果の意義
動的光散乱(DLS)法の最大の問題点である、粗大粒子による計測の阻害を克服できたこと
は、DLS法のin line手法としてのメリットを活かしつつシングルナノサイズへの適用性を飛躍的
に向上させられるという点で、非常に意義が大きい。
221
分散性の良いシリカサンプル
分散性の悪いシリカサンプル
・SEM観察結果(一次粒子径)とSEC-DLSがほ
・SEM観察結果とSEC-DLSが一致していない。
→凝集を強く示唆
ぼ一致。
12
8
SEC-PCS
6
8
q (%)
q (% )
SEC-PCS
4
4
2
0
0
0
10
20
30
0
40 50 60 70 80 90 100
Diameter (nm)
10
20
30
40 50 60 70
Diameter (nm)
Volume Base
50
90 100
Volume Base
12
SEM
40
80
10
q (%)
q (% )
30
20
10
SEM
8
6
4
2
0
0
10
20
30
40 50 60
Diameter (nm)
70
80
90
100
0
0
Volume Base
10
20
30
40 50 60 70
Diameter (nm)
80
90 100
Volume Base
Fig. ② c2-1 Size distribution of well-dispersed (left) and flocculated (right) silica nanoparticles.
222
d.ナノ粒子の分離・分析基礎技術の開発
(1)目標
本研究項目では、シングルナノ粒子の合成過程において、in situ で解析できる新しい分離・
分析技術を開発することを目的としている。最終目標は、ナノ粒子の分離能に関して 5 nm 以
上の粒子に関して分離でき、1 回の分析時間は 30 min 以内である新しい分離・分析技術を確立
することである。
(2)目標の達成度
カラムと溶離液の選択により、47 nm,17 nm,5 nm が分離でき、最終目標である「5 nm
以上の粒子に関して分離できる」という目標は達成できた。また分析時間についても、セミミ
クロカラムを選択することにより、通常よりも分析時間を半分程度に短縮でき、約 20 min 以
内に全粒子が溶出したので、最終目標である「1 回の分析時間は 30 min 以内」という目標は達
成できた。
(3)研究成果内容
シングルナノ粒子の合成を検討する場合、そ
の合成過程において粒子がどのように成長して
いくかなどを解析する必要があり、そのために
in situ で高精度に検出する計測手法の開発が不
可欠である。粒子の分析法においては、TEM や
SEM などの形態観察から画像処理を行い統計
解析で粒子径分布を求める方法や、動的光散乱
法による溶液中での粒子径分布を求める方法な
どがある。TEM や SEM を用いる方法では、形
状も同時に把握できるが、観察から画像処理、
統計解析にいたる一連の操作に、大きな労力と
時間が必要である。また、Bimodal Mode の粒子
径分布をもつ粒子に対しては、動的光散乱
Fig. ② d-1 SEC chromatogram of colloidal silica
(DLS)法では精度良く測定できない。そこで、
Nanoparticles
短時間にかつ簡便で試料量も少量で測定できる、
(1A: 43 nm, 1B: 17 nm, 2A: 11 nm, 2B: 8 nm,
サイズ排除クロマトグラフ法(SEC)による分
12C: 5 nm)
離・分析を検討した。
試料はモデル粒子として市販のコロイダルシ
リカを用いた。用いた試料の各平均粒子径は、
1A: 43 nm, 1B: 17 nm, 2A: 11 nm, 2B: 8 nm, 12C: 5 nm であった。装置は水系 SEC カラムを使
用し、検出器は示差屈折計を用いた。また、今回検討した SEC 分析システムには、セミミクロ
カラムを用いた。溶離液はリン酸 Buffer を用いた。
結果を Fig. ② d-1 に示す。最下位のクロマトグラムから順に 1A, 1B, 12C, 2A の試料を単独
で分析したものである。このことから粒子径が小さくなるにつれて溶出時間を遅くすることが
できた。このことで SEC を用いた粒子径による分離が可能となった。最上位から 3 つのクロマ
トグラムは、粒子径の異なる試料を混合し分離した結果である。最上位からそれぞれ、(1A, 2A,
12C),(2A, 2B, 12C),(1A, 1B, 12C)であり、シングルナノ領域まで粒子径により分離可能であ
ることが分かった。2A 単独のクロマトグラムはピークがブロードになっているが、他の 4 つの
223
クロマトグラムの結果と比較すると、最初から粒子が凝集していることが原因と考えられる。
このように凝集状態の粒子も解膠することなく測定できることが分かった。SEC 法を検討し得
られた結果を以下に示す。
① 粒子径が小さくなると溶出速度が遅くなるサイズ排除の原理が現れているので、粒子径
による分離が可能であることが分かった。実際に平均粒子径が 47 nm,17 nm,5 nm の
混合シリカ溶液を用いて SEC で分析したところ、それぞれの粒子が分離できた。
② 本方法を用いて、分散・凝集状態の解析が可能であることが分かった。
③ セミミクロカラムを用いることにより、通常のカラムよりも分析時間を半分程度に短縮
できた。
(4)成果の意義
本方法を用いてシングルナノ粒子の合成過程を高精度に計測できる手法を確立したことの意
義は大きい。分析のために必要な試料量は 30 μg で非常に少ない。これは DLS 法などの他の分
析法と比較して注目すべき点である。この方法を用いれば合成条件の最適化に大いに役立つと
考えられる。さらにカラムの処理容量を大きくするとナノ粒子の分離・分取にも適用できる可
能性がある。
224
2.2 シングルナノ粒子の表面修飾・薄膜化技術の開発
①ナノ粒子の表面を均一かつ薄く修飾する技術の開発
a.液相合成法による半導体ナノ粒子の合成および表面修飾技術の研究開発
(1)目標
本研究では、光機能を有する半導体ナノ粒子として酸化亜鉛(ZnO)の高速合成とその応用
技術開発を行った。ZnO を取り上げた理由は、各方面での実用実績のある比較的緩やかな対
環境負荷性を有する材料である、液相での高速合成に適した簡便な合成反応がある(Lubomir
、並びに紫外線吸
Spanhel and Marc A. Anderson; J. Am. Chem. Soc. 113, 2826-2833 (1991))
収性と発光性の光機能を有する、という実用的に興味深い性質を持つことである。
ZnO ナノ粒子の具体的な用途として、汎用樹脂材料の紫外線吸収剤としての応用技術開発
があげられる。従来、堺化学工業株式会社、日本ナノテク株式会社などの ZnO ナノ粒子市販
品が知られている。これらは、1次粒径が、小さくても20nm 程度であり、しかも2次凝集
したものであるので、樹脂材料へのナノ粒子としての分散性に限界があった。
ZnO ナノ粒子を樹脂材料に分散する場合に、ZnO の半導体としての触媒活性(光又は熱)
を制御することが必要である。かかる触媒活性の封鎖には、従来より不活性物質による粒子の
包含(シェルの形成)が行われてきた。例えば、前記市販品の「ナノファイン」
(登録商標、
堺化学工業株式会社製)では、珪酸亜鉛などのシェルが形成されている。
以上の技術背景より、本研究の目標を、樹脂材料に対して以下の性能を満たす技術開発とし
た。
①
シングルナノオーダーの ZnO ナノ粒子の透明分散性を確保する。
②
触媒活性の封鎖が実用レベルである。
③
量産可能である。
かかる実用的な目標は、本プロジェクトの数値目標(粒子径1∼10nm)である均質な粒径
分布を有するナノ粒子とその分散技術の開発によって好適に達成されるものであり、相互に密
接に関係している。本研究の数値目標は下表の通りである。
最終目標値
表面処理能力
分散性
安定性
1反応器あたり
100g/h以上
凝集粒子の割合が
全粒子個数の
10%以下
1 週間以上分散性が
左記条件を
満たすこと
表面処理能力
分散性
安定性
(2)目標の達成度
凝集粒子の割合が
2 ヶ月分散性が
全粒子個数の
左記条件を
10%以下
満たす
当該合成反応の基礎的な解明と連続合成装置の改良を経て、最終目標値を達成する結果を得
た。即ち、ポンプ及び反応容器(管)のレイアウト変更により圧損を減らし流速を確保するこ
とで、目標処理能力は達成可能と判断された。分散性および安定性は、生成した分散液の透過
型電子顕微鏡(TEM)観察像より ZnO の凝集粒子が目標値以下であることを確認した。全
体として、本研究の目的である半導体ナノ粒子および表面修飾の高速製造技術の開発を達成し
たと考える。
達成状況
1反応器あたり
100g/h以上
225
Absorbance
(3)研究成果内容
(3.1)合成条件検討1:原料配合比制御による酸化亜鉛ナノ粒子の凝集抑制
①酢酸亜鉛に対する水酸化リチウム当量比の酸化亜鉛分散状態への影響
バッチ式反応(フラスコ、またはサンプル瓶使用)で、酢酸亜鉛二水和物をエタノール
に加えて還流により溶解させ、63.7mmol/Lの溶液とした。そこへ、水酸化リチ
ウム一水和物を約0℃で超音波により溶解させた138mmol/Lの溶液を、Li/Z
n=1.1∼1.4モル比になるように室温で加えた。反応液の吸収スペクトルと経時に
よる分散液の様子は以下の Figure ①.b-1 と Table①.b-1 に示す。
13日 後 の 反 応 液
吸 収 ス ペ クトル
2 .5
2
L i/ Z n =
1.4
L i/ Z n =
1.3
L i/ Z n =
1.2
L i/ Z n =
1.1
1 .5
1
0 .5
0
200
400
600
800
W a v e le n g t h ( n m )
Figure ①.b-1. 異なる原料配合比により生成した ZnO ナノ粒子の UV-vis 吸収スペクトル.
Table ①.b-1. 酢酸亜鉛に対する水酸化リチウムの当量と反応液の分散状態
酢酸亜鉛に対する
水酸化リチウムの当量
13日後の様子
28日後の様子
1.4
1.3
1.2
1.1
透明分散液
透明分散液
透明分散液
透明分散液
白濁
透明分散液
透明分散液
透明分散液
Li/Zn=1.4では、28日後に分散液が白濁した。ZnOの粒子成長や粒子凝集
が進行したためと考える。
(3.2)合成条件検討2:酸化亜鉛生成後のテトラエトキシシラン(TEOS)添加量による
分散安定性改良
Ⅰ.で得た液にTEOSをSi/Zn=0.037∼1.8モル比になるように室温で加
えて攪拌した。その結果、Si/Zn=1.2以上では反応液の吸収スペクトルの立ち上が
り波長が13日後でも長波長側にほとんど移動せず、13日以上透明な溶液であった。この
ことより、粒子成長や粒子凝集が抑えられ、良好な分散状態が保たれていると考えられた。
(3.3)合成条件検討3:TEOS処理後の水添加量による分散安定性
Ⅰ.で得た液にTEOSをSi/Zn=1.8モル比になるように室温で加えて攪拌した。
3時間後、脱塩水を(添加H2O/Si=0∼2.4モル比)となるように室温で加えて撹拌
した。その結果、添加H2O/Si=0.8モル比までは2ヶ月以上透明な溶液であった。こ
のことより、添加脱塩水量をコントロールすることでシェル化促進に伴う、凝集を制御したと
226
考えられる。
(3.4)合成条件検討4:流通合成法によるZnOナノ粒子スケールアップ検討
上記合成条件等結果を踏まえ、連続合成装置による詳細な合成条件検討を行った。
E
D
C1
A1
B1
F
A2
G
B2
C2
Fig.①.b-2 液相法連続合成装置概念図
本検討で使用した連続合成装置(Fig①.b-2)は主に、エタノールに溶解した酢酸亜鉛の貯槽
(Fig①.b-2. A1)、水酸化リチウムの貯槽(Fig①.b-2. A2)、電子制御 3 連式ポンプ(Fig①.
b-2. B1, B2)、管状反応器(Fig①.b-2. D, E)からなる。ZnOナノ粒子の合成においては均
質かつ速やかに核発生させる事が重要であり、本連続合成装置においてこれを達成するために
は、半導体原料を液体として一定速度で反応系に注入し続けることが望ましい。
この連続合成装置においてゾルゲル法ZnOナノ粒子高速連続合成を検討した。貯槽 A1 内
の49mmol/Lの酢酸亜鉛二水和物エタノール溶液を123mL/分のポンプ流量で流
し、貯槽 A2 内の94mmol/Lの水酸化リチウム一水和物エタノール溶液を63mL/分
のポンプ流量で流し混合することにより、透明分散液としてZnOナノ粒子を得ることができ
た。原料のZnが全てZnOに粒子化したとして、約 47 g/hr に相当する生産能力を確認し
た。
さらに、
このようにして得られたZnOナノ粒子分散液1Lを撹拌しながらTEOS11.
7mLを加えた。このようにして得られたZnOナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)観察を
合成して2ヶ月後に行ったところ、ZnOナノ粒子の粒径が1∼4 nm (Fig①.b-3)の範囲
内であることを確認した。またこうして得たTEM像によれば凝集粒子の割合は全粒子個数の
10%以下(2 点/33 個=6%)であった。
227
項目
円相当径(nm)
最小値
1.32
最大値
3.55
平均値
2.40
標準偏差
0.53
変動係数
22%
円形度
0.57
0.94
0.85
0.08
n=33
Figure ①.b-3. 液相連続合成装置で得られた反応液のTEM像とナノ粒子径及び形状(円形
度)の分布解析
さらに、この流通合成装置で得られたZnOナノ粒子分散液を貯槽 A1 内に入れ、123mL
/分のポンプ流量で流し、貯槽 A2 内の300mmol/LのTEOSエタノール溶液を63
mL/分のポンプ流量で流し混合した。透明なZnO/TEOS処理分散溶液を得ることがで
きた。原料のTEOSが全てZnOを被覆しSiO2 に変化したとして約113g/hr に相当す
る生産能力を確認した。
(3.5)精製検討:セラミックフィルター及び有機膜フィルターによる限外ろ過検討
エタノールに分散したZnOナノ粒子/TEOS処理品から合成副生成物のリチウム塩を
選択的に除去できるフィルターを探索した。濾過前の原液と濾過透過液についてICP発光分
光分析により元素分析を行った。
(透過液中の元素wt%)/(濾過前原液中の元素wt%)
=透過率とし、Znに対するLiの透過率の比(透過選択性)を各フィルターで比較した。ま
た、フィルター処理能力を比較するため、濾過の透過液量がほぼ安定状態である、分散液が1.
5倍に濃縮された時の単位時間および単位膜面積当たりの透過量(flux)を算出した。
C社の有機膜フィルターで分画分子量 Mw=1000 のものはLiを55%透過するが、Znは
6%しか透過しなかった事より、ZnOナノ粒子をほとんど透過させずに副生成物のリチウム
塩を選択的に透過し除去できている事が判った。
③のC社の有機膜フィルター(分画分子量:Mw=1000)を使用し、膜面積を4m2 に広げた
モジュールにし循環濾過する事で、濾過原液を30kg/h処理できるので、本検討で用いた
濃度では110g/hのZnOナノ粒子を濾過処理できる目処がついた。
Table ①.b-2. フィルター孔径と Li イオンの透過選択性およびフィルター処理量
228
Li 透過率
(%)[A]
①A社
セラミック NF フィルター
(孔径2nm)
<膜面積 523cm2>
[モノリス形状]
②B社
有機膜フィルター
(分画分子量:Mw=10000)
<膜面積 150cm2>
[チューブラー型]
③C社
有機膜フィルター
(分画分子量:Mw=1000)
<膜面積 54cm2>
[平膜]
④C社
有機膜フィルター
(分画分子量:Mw=300)
<膜面積 54cm2>
[平膜]
Zn 透過率
(%)[B]
透過選択性
[A/B]
flux
(kg/hr・m2)
濾過方法
79.7
63.0
1.3
7.6
ポンプ
による
循環濾過
87.7
47.8
1.8
8.7
ポンプ
による
循環濾過
54.8
4.1
5.9
0.32
9.3
13
7.6
5.5
バッチ式
窒素加圧
による
平膜濾過
バッチ式
窒素加圧
による
平膜濾過
(4)成果の意義
1次粒径が 4nm 弱で粒径分布の変動係数が 25%以下で、凝集粒子の割合が全粒子個数の1
0%以下である ZnO ナノ粒子の高速合成技術を開発した。また、この ZnO ナノ粒子にシリケ
ート系シェル化を施して、室温静置での分散液安定性が2ヶ月に達する分散技術を開発した。
反応原料が全て酸化亜鉛粒子と被覆するSiO2 に変化したとして約115g/h に相当する生
産量を達成した。さらに、シェル化 ZnO ナノ粒子を透明分散したシリカフレーク(厚さはサブ
ミクロン∼数μmオーダーが可能)を連続塗膜装置を用いて連続試作した。こうして得たフレ
ークは、紫外線照射による ZnO の発光能を維持していた。このフレークを PC 樹脂に分散して
透明性に優れる樹脂組成物を得た。かかる樹脂組成物は、250℃における熱安定性を有するの
で、実用的な溶融成形が可能と考えられた。また、前記フレークの原料液を直接樹脂成形体表
面に塗布することで、前記フレークと同質の薄膜を形成させることが可能であった。かかる表
面塗布法を応用することで、前記フレークが様々な分散構造をとる樹脂積層体を工業的に有利
に製造する可能性を拓いた。
室温において、ZnOのバルク結晶の屈折率は 2.0 程度である。一方シリカの屈折率は、製
法により変動するが通常 1.47-1.50 程度の範囲である。従って、前記フレークの屈折率は、Z
nO/シリカ組成比により制御可能である。このことは、汎用の透明樹脂材料に対して該フレ
ークの屈折率を調整可能であることを意味するので、例えば PC 樹脂の屈折率(1.59)やシク
ロオレフィン樹脂の屈折率(1.53)に調整すれば、汎用の混合方法で優れた透明分散性が得ら
れる紫外線吸収性を兼ね備えたオーダーメイドの樹脂用フィラーとしての利用が期待される。
229
b.ナノ粒子の表面改質技術
(1)目標
・表面処理能力: 1 反応器あたり 100g/h
・膜厚:単分子層から粒子径の 10%以下まで
・分散性:極性溶媒に分散し、かつ凝集粒子の割合が全粒子個数の 10%以下
・安定性:1 週間以上分散性が上記条件を満たすこと
(2)目標の達成度
<半導体ナノ粒子の表面修飾>
CdSe ナノ粒子の簡便な ZnS シェル化方法を見出し、MPA 表面修飾による極性有機溶媒への良好
な分散性を確認した。CdSe/ZnS-MPA の有機溶媒分散液は、1週間以上目視による粒子の沈降は
見られなかった。これにより、大面積塗布薄膜形成の材料として利用することを可能にした。
<レーザーによる金属酸化物ナノ粒子の表面改質>
ITO や AZO のナノ粒子分散液にパルスレーザーを照射することにより、分散性と結晶性の向上を
可能にした。高品質、高分散なナノ粒子を製造することが難しい液相合成法に適応することで、簡便
かつ低コストに粒子を製造することが可能になる。
(3)研究成果内容
(3.1)半導体ナノ粒子の表面修飾
光機能素子材料として研究対象となっている CdSe 半導体ナノ粒子において、大面積塗布膜形成
条件に適応させるためのナノ粒子表面修飾方法を検討した。
ホットソープ法で合成された CdSe ナノ粒子は TOPO(Trioctylphosphin Oxide)分子が表面に配位
しているがナノ粒子の安定性を向上させるため、粒子を ZnS の膜で粒子を覆う必要がある。一般的
な方法として、ジアルキル亜鉛とビストリメチルスルフィドが用いられている。しかし、ジアルキル亜鉛
の取り扱いやスルフィドの不快臭から、大量スケールの処理には適さない。大スケール化に適した
方法として Zn[S2CN(CH2CH3)2]2 を使用する手法を用いた。この化合物は無臭な白色固体であるた
め取り扱いも簡便である。更にこの方法であれば、ホットソープ法での CdSe ナノ粒子合成から同反
応容器で連続して ZnS シェル化まで行うことができる。
また、ナノ粒子分散液の塗布膜を形成する上で、成膜条件として極性有機溶媒の使用が必要とな
ってくるが、TOPO 配位の CdSe/ZnS では極性溶媒に分散しないため、TOPO を適当な化合物へ変換
す る こ と が 必 要 と な る 。 い く つ か の 化 合 物 を 検 討 し た と こ ろ 、 HSCH2CH2CO2H ( MPA :
Mercaptopropanoic Acid)が最も有効であった。CdSe/ZnS-MPA の粒子は、アミンやアルコール等の
極性溶媒中で分散可能である。
CO2H
CdSe
CdSe
ZnS
HO2C
HO2C
CO2H
CO2H
CdSe
CO2H
ZnS
CO2H
CO2H
Fig. (2)-①-a-1 Surface exchange of CdSe nanoparticle.
各 CdSe ナノ粒子の蛍光スペクトルを比較しても(Fig. (2)-①-a-2)、MPA で表面修飾した粒子は蛍
光発光に不安定性は見られず、良好な結果を示した。
230
PL CdSe/ZnS-MPA
100
2.5
PL CdSe/ZnS-TOPO
PL CdSe-TOPO
UV CdSe/ZnS-MPA
UV CdSe/ZnS-TOPO
80
2
60
1.5
40
1
20
0.5
0
UV Absorvance
PL Intensity
UV CdSe-TOPO
0
300
350
400
450
500
550
600
650
700
750
Wavelength [nm]
Fig. (2)-①-a-2 Absorbance and photoluminescence spectra of CdSe nanoparticles.
(3.2)レーザーによる金属酸化物ナノ粒子の表面改質>
ITO や AZO などの透明導電性ナノ粒子分散液は、主にゾルゲル法による大量合成が工業的手法
として用いられている。しかし、ゾルゲル法で合成した粒子は、乾燥のみでは結晶性が不十分であ
るため、高温でのアニールが施される上、高い分散性を保持させるのが難しいなどの問題点があ
る。特に、インクジェット法での塗布に適応を考える場合、インク液適量の急速な微量化に対応して
いくために、より微小で分散性の高い粒子が望まれる。今後インクジェット法で塗布する材料が様々
な材料に展開されていくためには非常に重要な点である。そこで、ITO や AZO などのナノ粒子分散
液レーザー照射による、粒子の分散性および結晶性の向上を検討した。
ナノ粒子の分散液にパルスレーザーを照射する試みはすでに報告がある。また、ターゲットに液
中でレーザー照射し、ナノ粒子分散液を製造する技術の報告もある。ナノ粒子分散液にパルスレー
ザーを照射する場合、粒子は溶融して微細化して固化する。そのため照射前と比較して、粒子の表
面状態が変化することが予想される。
パルスレーザー源として Nd:YAG の Lotis-TII 社製ナノ秒レーザー装置 LS-2147 を用いた。現在で
はパルスレーザーはフェムト秒のレーザーも実用に使われている。ナノ秒レーザーではフェムト秒や
ピコ秒のパルスレーザーに比べて照射部の加熱が大きい。しかし、対象が金属酸化物であり
1900℃以上の融点を持つため、程度以上の高出力なレーザーが必要となる。しかもメンテナンスの
簡単な YAG レーザーであるためこれを購入した。
Fig. (2)-①-a-3 Lotis-TII Nd: YAG nano second laser LS-2147.
固形分濃度を 0.05%に調整した ITO および AZO ナノ粒子分散液を光路長 10mm の石英セルに
入れ、マグネティックスターラーを用いて攪拌しながら、波長 355nm のパルスレーザーを 180mJ で
10 分間照射した。波長は ITO および AZO の吸収スペクトルとバルクのもつ融点および、レーザー発
振装置の可能出力最大値から、選択した。ITO 分散液は購入した分散液(分散媒:水/IPA=1/1)
231
を希釈し、AZO 分散液はメーカーサンプルの粉体を水に混合し超音波ホモジナイザーにかけたもの
を使用した。
TEM 写真からわかるように、ITO ではサイズの小径化とともに分散性が向上している。AZO では、
照射前の 30nm 前後から、粒子サイズの小径化はほとんどないが、分散性が向上しさらに形状の均
一化(六角形)が見られた。
Fig. (2)-①-a-4 TEM images of ITO nanoparticles (left: before irradiation, right: after irradiation).
Fig. (2)-①-a-5 TEM images of AZO nanoparticles (left: before irradiation, right: after irradiation).
以下に示す写真のように、分散液の見た目からも粒子の分散性がよくなっていることがはっきりわ
かる。良好な分散性はこのままでは長期間維持することは出来ないが、レーザー照射後に分散剤を
添加するなどで維持することが出来ると思われる。
Fig. (2)-①-a-6 Dispersion of ITO (left picture) and AZO (right picture) nanoparticles
(left: before irradiation, right: after irradiation).
また、AZO において、照射前後で高倍率TEM と結晶回折観察結果を比較したところ、照射後では結
晶性が向上していることがわかった。
232
After irradiation
Diffraction
TEM image
Before irradiation
Fig. (2)-①-a-7 TEM images of AZO nanoparticles (left: before irradiation, right: after irradiation).
また、AZO ナノ粒子において、レーザー照射前後の Z 電位を比較したところ、レーザー照射後は Z
電位の数値が 2 倍以上になった。レーザー照射により粒子表面の状態がより分散する方向に改質さ
れたと言える。
Table (2)-①-a-1 Zeta potential of AZO nanoparticles.
Zeta potential [mV]
Mobility [μmcm/Vs]
Conductivity [mS/cm]
Before irradiation
15.5
1.219
0.0128
After irradiation
32.1
2.531
0.0268
検討したナノ秒パルスレーザーによる照射では、低濃度の分散液(∼0.1wt%)しか対応できない
のが欠点である。高濃度の分散液に照射すると、粒子が吸収した光エネルギーが熱として溶媒に拡
散する量が低濃度に比べて多くなり、非常に高温となってしまうからである。これは高出力でよりパ
ルス幅が短いレーザーを使用することが出来れば改善される。また、低濃度でもバッチ式でなく連続
フロー式にすればより効率よく実施することが出来る。
(4)成果の意義
本プロジェクトで検討した CdSe ナノ粒子の表面修飾技術において、one pot かつ大スケールで
CdSe/ZnS コアシェル粒子を合成することが出来た。研究段階で有用な物性が見出されても、大量な
合成方法が確立しなければ、実用化には支障がある。この点で、容易に大スケールで合成可能な技
術は非常に意義のある結果であると言える。また、CdSe/ZnS を極性溶媒に分散させうる表面修飾剤
として MPA を見出したことは非常に意義深い。たいていの表面修飾剤では TOPO に比べて PL の発
光強度が大きく低下する場合が多く、ほぼ同等もしくはそれ以上の強度を持たせることが出来るとい
うのは有用な結果であると言える。
金属酸化物ナノ粒子の表面改質技術の研究では、ナノ粒子分散液へのレーザー照射という非常
に簡便な方法でより分散性を高め、結晶性を向上させることに成功した。ゾルゲル法などで合成され
た粒子の邂逅や分散ではボールミル等が用いられているが、レーザー照射法であれば、邂逅およ
233
び分散が、短時間かつ簡便に実施することが出来る。分散液は低濃度で無ければならないという制
限があるが、逆に研究段階での少量でのナノ粒子評価には威力を発揮すると言える。研究段階で高
分散、高純度、高品質のナノ粒子を少量だけ得るのは、手間がかかるものであるが、この手段を用
いることで、よりナノ粒子評価が容易になり、新規機能の発見に拍車をかけることが出来ると考えて
いる。また、実用化を鑑みても、レーザー照射における条件の設定がシビアでないので、非常に適し
ていると思われ、成果の意義はとても大きい。
234
c.デンドリマによるナノ粒子表面修飾技術の開発
(1)目標
本研究は、合成化学的な精密ナノ構造制御手法であるデンドリマ手法を利用した新しいナノ
粒子表面修飾技術の開発を目的とした。
デンドリマとは規則的に分岐した構造を有する数ナノメートルレベルの樹状高分子の総称で
ある。その大きさと構造は合成化学的手法で精密に制御できることから、医薬、電子材料、化
学の分野における新しい機能性材料として注目されている。本研究では、電子情報・光機能素
子向けを想定し、ナノ粒子の表面修飾物質として特異な光学物性(光増感作用いわゆるアンテ
ナ効果)やナノ空間の排除体積効果を有するデンドリマ修飾ナノ粒子の合成とその物性応用技
術の開発を目標とした。
具体的には、極めて高効率のアンテナ効果で注目を集めているデンドリマ側鎖ポリフェニレ
ンエチニレン(共役パイ電子系を有する。参考文献1及び2参照)に着目した。その理由は、
剛直直線状のπ電子共役系主鎖を有するので、導電性や半導体性など未知の物性を有する可能
性が考えられ、しかもデンドリマ側鎖がかかる「分子電線」の被覆層(絶縁層)となりかつ可
溶化機能を果たすので、溶液を経る成形加工性も期待されたことである。フェニレンエチニレ
ン(
「PhE」と略記する場合がある)分子鎖の末端にチオール基を導入したアナログを種々合成
し、これを金属や半導体など様々な電気特性を有するナノ粒子表面に自己組織化により配位さ
せる表面修飾を検討した。これはデンドリマとナノ粒子とのナノコンポジット創製とも捉える
ことができ、ナノスケールで構造と機能が制御された光電機能薄膜の開発に資すると考えた。
かかる材料設計コンセプトを Fig.①.d-1 に模式的に示した。
・ 参 考 文 献 1 : T. Sato, D.-L. Jiang, and T. Aida; “A blue-luminescent dendritic rod:
poly(phenyleneethinylene) within a light-harvesting dendritic envelop”, J. Am. Chem. Soc. 121,
10658-10659 (1999).
・参考文献2:”Dendritic rod emits blue light”, Chem. Eng. News, Dec13/1999, 38 (1999).
Phenyleneethynylene (PhE) chain
(rigid rod)
HS−
−SH
+
Au
Gold nanoparticle
(< 5nm)
Dendrimer
(Insulator of the
π-conjugated PhE chain)
Self-assembly via the
coordination of SH to Au
Fig.①.d-1. Schematic illustration of self-assembled dendrimer/nanoparticle nanocomposite.
(2)目標の達成度
顕著なアンテナ効果を有するポリベンジルエーテルデンドリマを側鎖に有し遷移金属元素な
どへの配位能力を有するチオール基を末端基として有する PhE 類の合成と、それをセレン化カ
ドミウム(CdSe)や金(Au)のナノ粒子に配位させる意図によるナノコンポジット調製検討を
235
行った。その結果、Fig.①.d-2 に示す新規化学構造のデンドリマの Au 系ナノコンポジットが、
①ヨウ素ドープ薄膜(厚さ約 70μm)として 0.6S/cm の導電率(表面抵抗 260Ω/□)を示し、
②強い青色発光を示し、③有機半導体としての特性評価から有機ELの陽極バッファー層(正
孔注入層)としての応用が考えられることを見出した。新しい材料系における実用可能性を確
認したことから、目標を十分に達成したと考えている。
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
R=
OR
HS
SH
1
OR
Fig.①.d-2. A new antenna Dendrimer forming nanocomposites with Au nanoparticles. The
nanocomposites exhibited electron conductivity (as I2-doped film) and blue photoluminescence.
(3)研究成果内容
(3.1)末端チオール基を有するポリフェニレンエチニレンの合成と CdSe との複合化
当初、
前記参考文献の知見に基づき、
高分子量の末端チオール型ポリ PhE の合成を検討した。
前記参考文献に習った遷移金属触媒 Pd(0)/Cu(I)を用いた重合検討を経て得た代表的なものに
ついて、CdSe ナノ粒子(本事業原簿別項参照。TOPO を配位子とする。
)との複合化を検討し
た。チオール類が CdSe 表面の TOPO を置換し表面修飾剤として働くことは文献で知られてい
たが、本系ではそのような現象は明確に確認できなかった。その理由として、末端チオール型
ポリ PhE では、チオール基濃度が通常のチオール類(例えばドデカンチオール)よりもかなり
小さく、しかも高分子末端である立体障害もあることから、表面被覆の反応確率が極端に低下
したことが考えられた。そこで、高分子量化させない PhE 類の使用に検討方向を転換した。
(3.2)デンドリマ側鎖の溶解性への影響
デンドリマ構造とナノ粒子との複合化条件の最適化のために、デンドリマ側鎖の世代数(分
岐回数つまり分子の大きさに対応)の溶解性への影響を調べた。標準である第3世代デンドリ
マ側鎖に対して、第1及び第2世代デンドリマ側鎖、並びに非デンドリマであるヘキシル基側
鎖を比較した。その結果、世代数が減少するほど溶解性が低下した。ヘキシル基の場合は、前
駆体のS−アセチル体では溶解性良好であったが、脱アセチル化により不溶化した。また、こ
の実験で、いずれの場合も脱アセチル化すると、想定外の反応であったジスルフィドオリゴマ
ーの生成(2つのチオール基の縮合による−S−S−結合の生成)が起きた。但し、標準の第
三世代デンドリマ側鎖の場合は、そのジスルフィドオリゴマーは可溶性を保持した。後述する
が、かかるジスルフィドオリゴマーは、還元剤の共存下でチオール体を再生し所望の自己組織
化に使用可能であった。
(3.3)アルカンチオール被覆金(Au)ナノ粒子の調製と PhE 類とのナノコンポジット化
文献[M. Brust, et al.; J. Chem. Soc. Chem. Commun., 801 (1994)]に従い、ヘキサンチオー
ルを配位子とする平均粒径約 2nm の金ナノ粒子の黒色粉末を得た(SEM、TEM 及び NMR で構
造を確認)
。この Au ナノ粒子はトルエン、クロロホルム、テトラヒドロフラン等の溶剤へ速や
236
かに分散した。前記末端チオール型 PhE(Fig.①.d-2 の化合物1)のジスルフィド体をエタノ
ール/テトラヒドロフラン混合溶媒に溶解し、ここへ水素化ホウ素ナトリウムを加え数十分攪
拌した。ここへ、前記 Au ナノ粒子を加え一晩攪拌した。溶媒を減圧留去後、クロロホルムで
抽出し有機相を得、これを水洗し濃縮後、エタノールを加え生成物を沈殿させた。さらに再沈
殿操作を繰り返し、
乾燥して化合物1と Au ナノ粒子からなる目的のナノコンポジットを得た。
構造確認は NMR(チオール基による Au ナノ粒子との結合生成の確認)と SEM でおこなった。
Fig.①.d-3 はその SEM 写真であり、白く見える金ナノ粒子が判別され、しかもそれが正方格子
状の規則配列を部分的にとっていることがわかった。このことから、デンドリマ分子(前記化
合物1)が Au ナノ粒子と特定の比率で規則的に複合化したナノコンポジットの形成が、溶液
塗布という簡便な手段で自己組織化的に進行したものと考えられた。
100 nm
Fig.①.d-3. SEM image of a self-assembled dendrimer/Au nanoparticle nanocomposite.
(3.4)ナノコンポジット薄膜の物性評価
(a)導電性
前記薄膜は機械的強度が低く、基板上では比較的透明な薄膜になるがもろく剥がれ易く、通
常の 4 端子法のよる導電性測定が困難であった。そこで圧縮成型によりナノコンポジット薄膜
(65μm 厚)を調製し、予め金を蒸着したガラス基板を準備しこれを電極とする素子を作成し、
不活性ガス(アルゴン)下のガラス容器内にこの素子を入れて測定した。試料は加熱減圧乾燥
後のサンプルと、その後ヨウ素蒸気に暴露しドーピングしたものを計測した。結果は、いずれ
のサンプルも導電性を確認した。表面抵抗率:ドープなし 2.2x108Ω/□、ヨウ素ドープ 260Ω/□
(0.6S/cm の導電率に相当)
。ドープ型は濃い灰色に着色しており、市販の帯電防止シート並み
の導電性であり、ディズプレイ用途では更に一桁以上の改良が必要と考えられた。この材料で
は機械的強度が不足しており、透明性と導電性の相関関係を見積もる実験はできなかった。
(b)発光特性
前記薄膜(非ドープ)に紫外線を照射すると、予期せず強く青色に発光することを見出した。
Fig.①.d-4 に示した発光スペクトルから、デンドリマ側鎖の励起(280nm 付近にデンドリマの
吸収ピークがありこの波長では PhE 鎖は吸収しない。
)により発光するアンテナ効果も確認さ
れた。前記末端チオール型 PhE(Fig.①.d-2 の化合物1)自身の発光ははるかに弱く、この化
237
Fluorescent intensity (a.u.)
合物1の前駆体であるS−アセチル体と Au ナノ粒子の混合薄膜又は Au ナノ粒子のみでは発光
は観測されなかった。これら実験事実から、詳細機構は未解明であるが、Au ナノ粒子の末端チ
オールを介した相互作用がこの発光現象に必要であると考えられた。
(c)有機EL材料としての適性
前記発光現象の発見から、有機EL材料としての可能性を検証した。有機半導体としての特性
評価の結果、バンドギャップエネルギーEg は 2.7eV、イオン化ポテンシャル Ip は 4.5eV であ
ったので、青色発光層は困難であるが陽極バッファー層(正孔注入層)としての応用可能性が
確認された。
ii
i
iii
300
400
500
600
700
Wavelength
nm (nm)
Fig.①.d-4. Luminescence spectra of a self-assembled dendrimer/Au nanoparticle
nanocomposite: (i) Excitation: λobsd =470nm and photoluminescence (ii) λexc=280nm, (iii) λexc
=380nm.
(4)成果の意義
デンドリマと金属ナノ粒子の複合という未開拓領域において、新規デンドリマの合成とその
Au ナノ粒子とのナノコンポジットの実用的物性(導電性、青色発光能、有機EL材料向け有機
半導体性能)を確認した。世界に先駆けたナノ構造材料の基礎研究成果であり、新しい技術領
域の可能性を示した。
238
②秩序構造を有する薄膜の作製技術
a/b.薄膜作製およびナノ粒子配列基盤技術
(1)目標
本研究項目では、ナノ粒子を利用し基板上に高速に大面積な粒子配列膜を作製することを目
的としている。そのためには、汎用的な塗布・乾燥技術をベースに、現状技術の限界を明らか
にすること、さらにその限界を超える新たな方法の開発を目指す。ここで、実験的な研究のみ
ならず、理論的研究が重要な意味を持つ。つまり、基本的にサブミクロン以下のサイズ領域ゆ
えに、可視化実験は極めて難しく、理論的に厳密なシミュレーション方法が重要な役割を果た
す。よって、塗布・乾燥における粒子配列を予測できるモデリングの作製を基盤技術と位置づ
ける。
(2)目標の達成度
塗布・乾燥過程におけるナノ粒子の配列構造を予測するシミュレータの開発を実施した。そ
の結果、乾燥過程において溶媒が蒸発する条件下において形成されるナノ粒子の配列構造を予
測することができた。また、2次元的な単層配列のみではなく、3次元的な多層配列にも拡張
した。以上により、初期の目標を十分に達成した。
(3)研究成果内容:
研究成果を2部構成で示す。
(3.1)は自己組織化の学理の観点で、塗布乾燥プロセスを体系
化したものである。ボトムアップ型のナノテクノロジーにおいて、塗布乾燥プロセスは必須で
あるが、装置形式や操作条件など多様である。これらに共通する基盤技術として、せん断流動
場における構造形成や、乾燥場における構造形成の一般化を試みた。
実用レベルにおいて、パターン化基板上のナノ粒子の自己配列は極めて重要な研究課題であ
る。よって、
(3.2)において、主として実験結果について述べる。シミュレーションとの比較
も行い、良好な一致を得ている。
このように、基盤技術の確立と、具体的な応用にいたる「ナノ粒子薄膜形成」の体系化は複
雑な系にも適用できる。
239
(3.1)塗布乾燥プロセスにおけるナノ構造形成の学理
塗布乾燥プロセスにおけるナノ粒子の自己組織的構造形成のメカニズム解明のために、モデ
リングと実験の両面から研究を行った 1)。塗布乾燥プロセスは本来化学工学における重要技術
であるとともに、高速・大量製造をめざすナノプロセシングのボトムアップ・テクノロジーの
一つとして産業界の注目を集めている。また塗布乾燥プロセスにおけるナノサイズ要素の自己
組織的構造形成そのものが、固液二相中の非平衡秩序化の典型として基礎科学上の興味の対象
である。Fig.②.a/b-1 に示すような塗布乾燥プロセスでは、サスペンジョン中のナノ粒子は塗布
過程でせん断流れにさらされるとともに、乾燥過程で気液界面と基板の影響を受ける。これら
の外場の影響がナノ粒子同士やナノ粒子と溶媒間の相互作用に加わって、プロセス時間に応じ
た様々な非平衡秩序が生じる。ここではナノ粒子サスペンジョンの塗布過程と乾燥過程におけ
る秩序化を、実験とモデリングの結果を示す。
Fig.②.a/b-1
ナノ粒子サスペンジョンの塗布乾燥プロセス
塗布過程のせん断流れによるナノ粒子系の自己組織的構造形成に関する二次元シミュレーシ
ョン結果を Fig.②.a/b-2 に示す。ここでは粒子と流体の相互作用を高い精度でモデル化するた
めに粒子運動を Lagrange 法で、流体運動を Euler 法で扱うハイブリッド法を開発した 2)。直径
50 nm のナノ粒子を含む水サスペンジョンが反対方向に動く上下の壁で拘束されており、塗布
過程のブレード先端を表現している。またシミュレーション領域の左右は周期境界である。初
期条件として、分散状態だったナノ粒子は他の粒子との衝突によって次第に結晶化し、t= 10 μs
では周囲の流体と一緒に剛体的な運動をするようになる。その結果流れ方向の速度分布は結晶
部分で平坦化すると同時に壁付近で急峻になるため、見かけの粘度は著しく増大する。これは
サスペンジョンの shear-thickening を生み出すメカニズムであると考えられる。この場合計算
領域の中で粒子部分が占める割合、すなわち二次元的体積濃度は 0.5 であるが、シミュレーシ
ョンの結果、体積濃度が 0.3 以下ではナノ粒子系は結晶化せず、shear-thickening は生じない。
したがって体積濃度が 0.3 と 0.5 の間で自己組織的構造は紐状の凝集構造から結晶構造へと相
転移することがわかった。なお、図 2 の結晶構造は古典的なブラウン動力学シミュレーション
では得ることができない。ブラウン動力学シミュレーションでは粒子が受ける流体力を単一粒
子に対する Stokes 抵抗で表現するため、濃厚サスペンジョンにおける流体を介した粒子間の遠
240
距離相互作用を表現できないためである。このとき粒子と流体の相互作用は流体から粒子への
一方向となるため、粒子運動によって流れは影響を受けず,見かけの粘度は変化しない。
t = 0 μs
t = 10 μs
Fig.②.a/b-2 塗布過程のせん断流れによるナノ粒子系の自己組織的構造形成シミュレーショ
ン
Fig.②.a/b-3 は乾燥過程の液膜減少によるナノ粒子系の自己組織的構造形成の三次元シミュレ
ーション結果である。ここでは粒子と流体の相互作用を古典的なブラウン動力学シミュレーシ
ョンと同様に表現する代わりに 6 自由度の粒子運動を扱い、気液界面の時間変化を追跡するモ
デルを開発した 3)。直径 50 nm のナノ粒子を含む水サスペンジョンが基板と気液界面の間に満
たされており、シミュレーション領域の水平方向は周期境界である。初期状態では、厚さが粒
径の 3 倍の液膜中にナノ粒子が分散しており、基板上に塗布されたサスペンジョンの乾燥過程
を表現している。溶媒の蒸発によって界面が低下すると、界面に接触した粒子は鉛直方向の縦
毛管力によって基板方向に運動し、やがて全ての粒子が基板に接触するとともに粒子間に水平
方向の横毛管力が働き、最終的に(t= 15 μs)ナノ粒子系は単層多結晶構造をつくる。ここで
は乾燥後にナノ粒子がちょうど基板全体を覆うサスペンジョン濃度、すなわち被覆率 1 の結果
t = 0 μs
t = 15 μs
Fig.②.a/b-3 乾燥過程の液膜減少によるナノ粒子系の自己組織的構造形成シミュレーション
を示したが、被覆率が 1 より小さい場合は単層のネットワーク構造や海島構造が得られ、被覆
241
率が 1 より大きい場合には多層の結晶構造が得られる。 Fig.②.a/b-2 及び Fig.②.a/b-3 に示し
たモデリングはナノ粒子サスペンジョンの特性を反映して多分野融合モデリングとなる。我々
は粒子間の直接相互作用を表す粉体力学の離散要素法、溶媒中の粒子運動を表現する DLVO 理
論、ブラウン動力学,連続流体力学を組み合わせて、ナノ粒子の自己組織的構造形成をシミュ
レーションするためのマルチスケール・モデルを構築し、実験結果と対応づけながら研究を進
めている。
研究における自己組織化の意義と役割
自己組織化は対象とするシステムの構成要素の相互作用が本質である。つまり、相互作用力
が小さいシステムでは自己組織化しない。ナノ粒子はサイズが小さいため、比表面積が極めて
大きく相互作用が大きい。このために、ナノ粒子は例えば凝集体を形成しやすく、ナノ粒子の
構造形成に自己組織化は極めて重要な影響を与えている。
一般に、
コロイド科学における理論体系は希薄系を中心に確立されている。
濃厚系になると、
ナノ粒子間距離が近接し、相互作用力が強くなり、自己組織化が極めて重要になる。つまり、
濃厚系のコロイド研究は自己組織化の研究の場であるといえる。自己組織化は非平衡場におけ
る構造形成であり、物質やエネルギーが出入りするオープンシステムである。コロイド系にお
いては、流動場や乾燥場が良い例であり、このような非平衡場における構造形成の事例研究の
一部を示した。ナノ材料とするには、乾燥場のような構造のクエンチングが重要になる。
自己集合(自己集積)は平衡に近い領域でおきる構造形成である。その結果、平衡構造を得
ることが可能になる。ナノ粒子の乾燥における、fcc 構造(ヘキサゴナル)形成はその例である。
自己集合は既に規定された場のポテンシャルに従って、構造形成される。つまり、自己組織化
はポテンシャルの自発的形成を経て構造化されるのに対し、すでに存在する場のポテンシャル
によって構造化されるのが自己集合である。例えば、エピ成長は典型的な自己集合である。ナ
ノ材料をつくるには、自己組織化と自己集合の両方が必要である。特に、自己組織化の必要十
分条件を理解することが、最も重要な課題だといえる。
研究の将来展望と自己組織化
ナノテクノロジーの産業化への道筋には、まずナノサイエンスとナノテクノロジー及びナノ
プロセシング(ナノ生産技術)を連携させることである。製品分野別に、性能、ライフ、コス
ト、それに安全性の観点で技術課題をブレークダウンし、解決すべき問題点を明確にする。そ
して、学術の知識とマッチングさせる。そのためには、学術の知識を構造化する必要がある。
これにより、
基盤研究と実用化研究が連携される。
機能材料はますます高度の機能が要求され、
作りこみ技術の高度化も必要になる。一方、サイエンス&テクノロジー領域の学術論文は指数
関数的な増加を示し、
ナノプロセシング領域の特許も増加している。
このような状況において、
産業応用の課題と学術の知識をマッチングさせる必要性は高まり、
「材料知識の構造化」4)に期
待される。
ナノプロセシングの重要な概念は自己組織化である。
非平衡場における自己組織化を利用し、
構造のクエンチングによりナノ材料の秩序構造を実現する。言い方を変えると、非平衡場の制
御により、自己組織化による秩序構造(散逸構造)を実現し、平衡場に落とし込む(平衡構造)
操作をナノプロセシングとして設計する。ナノプロセシングは、ナノ反応工学、ナノ分離工学、
ナノ薄膜化工学、ナノコンポジット工学、ナノ物性工学などに大別される。これらは、ナノユ
ニットプロセスから構成される。ナノユニットプロセスは以下の構成となる。
242
① ナノ単位構造の形成(クラスターや核発生と成長)
:ナノ反応工学、ナノ分離工学
② ナノ高次構造の形成(凝集、分散)
:ナノ薄膜化工学、ナノコンポジット工学
③ ナノ界面構造の形成(表面修飾)
:ナノ薄膜化工学、ナノコンポジット工学
④ ナノ物性の評価(光電物性、電子物性、磁性、力学、その他)
:ナノ物性工学
自己組織化は構成要素間の相互作用により自発的に形成される秩序化であり、上記の全てに
関係している。
自己組織化の学理を確立することが、
ナノプロセシングの体系化に必須である。
自己組織化の学理は自己組織化の数理方程式を明確にすることである。そのためには、個別の
事例研究をすすめ、一般化することが必要である。つまり、個別研究と体系化研究が進捗する
ことにより、面白い現象や職人的スキルがナノプロセシングとして産業が利用できる技術体系
になる。これが、我々が目指す方向であり、10年先には自己組織化の学理の姿が見えてくる
ことを期待したい。
ナノ粒子の構造形成の研究は、以上の目的を実現するために、見通しの良い対象であると考
えている。ナノ粒子間の相互作用が場のポテンシャルを決定し、そのポテンシャルがナノ粒子
間の相互作用に影響を与えるという非線形フィードバック機構が見られる。様々な機能材料や
電子デバイスを実現することが期待されている。それは、自己組織化による秩序形成の方法の
開拓と、最利用可能な技術の体系化が必要であり、20年先には可能になっていると期待され
る。
<参考文献>
1) 藤田昌大, 山口由岐夫, “液相ナノ粒子系の自己配列プロセスとその原理,” 表面科学, Vol. 25,
No. 10, pp. 642-649 (2004)
2) M. Fujita and Y. Yamaguchi, “Multiphase/Multiscale Simulation Method of Colloidal
Nanoparticles,”
Proceedings of the 43rd Symposium on Powder Science and Technology, B31-f, pp. 541-546,
Busan, Korea, November 2005
3) M. Fujita and Y. Yamaguchi, “Development of Three-Dimensional Structure Formation
Simulator of Colloidal Nanoparticles during Drying”, J. Chem. Eng. Japan, Vol. 39, No. 1, 83-89
(2006)
4) http://nmat.t.u-tokyo.ac.jp/
243
(3.2)パターン化基板上のナノ粒子の自己配列
ナノ粒子の規則配列膜は各種磁気、電子、光学デバイスへの応用が考えられ、注目を集めて
いる。[1],[2]大量生産が可能であること、製造コストが低く抑えられることなどは実用化に向け
て重要な要素であり、近年、これらの特徴を備えたウェットプロセスを利用してナノ粒子の配
列膜を作製する研究が盛んに行われている。また、実用化のためには粒子の配列膜の基板上に
おける位置を制御できることが望ましい。このような観点から、パターン化された基板を用い
て粒子を選択的に集積させる技術が求められるようになってきた。パターン化基板に粒子を選
択的に集積させた既往の研究としては、フラットな基板上に疎水性分子をパターニングした基
板を用いたものや、[3] 基板と粒子間の静電気的な相互作用をパターニングに利用した研究[4]、
フォトリソグラフィーの技術を利用して作製した凹凸のある基板に塗布した研究などがあるが、
被覆率、配列性、層数の均一性などに課題が残っている。
そこで本研究では、パターン化基板上にナノ粒子の薄膜を作製し、ナノ粒子が自己配列する
条件の探索を行うものとする。溶液の乾燥過程において液膜の厚さが粒径以下になると、粒子
間に横毛管力が働いて粒子が基板上で自己配列することが知られており、本研究ではこの作用
を利用してパターン化基板上でナノ粒子の自己配列を行う。また、パターン化基板に溶液を塗
布した後の乾燥過程および粒子の配列過程をモデル化して実験結果との比較を行い、パターン
化基板上で選択的に粒子が自己配列するために求められる条件について検討する。
244
実験
シリカ粒子(粒径 22 nm)溶液をパターン化基板上にスピンコートし、シリカ粒子薄膜を作
製した。パターン化基板としては、石英基板上に厚さ 110 nm の Cr 層がホール加工してある 1 cm
角の基板を用いた。Fig. 1 にパターン化基板の模式図を示す。水系のシリカ粒子溶液は、pH
によって粒子のゼータ電位が変わり、最終構造の配列性に違いが生じる。予備実験から、本研
究で用いるシリカ粒子系では pH 11 付近において配列性が良好になることが分かったので、ア
ンモニア水を添加することによって pH を 11 に調整した溶液(粒子濃度 0.4 ∼ 1 wt%)を実験
に用いた。溶媒はエタノールと水の共沸溶液(エタノールの質量分率 0.04)である。スピンコー
ト方法としては、50 ・L を基板上に滴下して 3000 rpm でスピンコートする方法と、90 ・L を
滴下して 1000 rpm で 5 sec 回転させた後、1500 rpm に回転数を上げてスピンコートする方法
の 2 種類を行った。90 ・L という滴下量は、滴下後に 1 cm 角の基板表面を完全に覆う量であ
る。
パターン化基板の Cr 部分と石英部分では、溶媒に対するぬれ性が異なる。ぬれ性の影響を調
べるために、接触角計によって接触角の測定を行った。測定には粒径 22 nm、粒子濃度 1 wt%、
pH 10.9 のシリカ粒子溶液を用いた。基板上のぬれ性の不均一性をなくし、凹凸の影響を見る
ために、O2 プラズマ処理を施し、ぬれ性を均一にしたパターン化基板にスピンコート法でシリ
カ粒子溶液を塗布した。O2 プラズマ処理を施した基板に塗布した溶液は、粒径 22 nm のシリカ
粒子溶液と粒径 106 nm のシリカ粒子溶液の 2 種類である。106 nm のシリカ粒子溶液の分散媒
は水で、アンモニア水によって pH は 11 に調整した。
Table 1 接触角の測定結果
基板
石英
O2プラズマ処理前Cr
O2プラズマ処理後Cr
21.7 ±4.5
69.3±9.1
25.2±5.1
4 μm
10 μm
quartz
Cr
110 nm
20 mm
Cr
quartz
作製したシリカ粒子薄膜は真空乾燥器で減圧乾燥後
Fig. 1 パターン化基板の模式図
Pt をスパッタし、表面構造を FE-SEM で観察した。また、
パターン化基板上の溶液が蒸発していく様子を調べるためにパターン化基板に超純水を滴下し、
反射顕微鏡によって観察した。
結晶性の評価にはボロノイ多角形解析を用いた。粒子が六方最蜜充填した場合の正六角形の
245
一辺 shcp から、実際のボロノイ六角形の一辺がどの程度ずれているかを(1)式によって評価し
た。
F order =
∑ Forder ,k
k =1
N
2
∑ (s − s )
6
N
i
hcp
i =1
Forder ,k =
ただし、
6 × shcp
(1)
ここで、si は各ボロノイ 6 角形の一辺、N は粒子数である。(1)式では粒子の結晶性が優れて
いるほど、0 に近い値が得られる。
結果と考察
Table 1 に接触角の測定結果を示す。これをみると、石英部分は親水性で、Cr 部分は疎水性
であることが分かる。また、O2 プラズマ処理によって Cr 部分も石英部分と接触角が近くなり、
ぬれ性の差がほぼなくなることが分かった。
Fig. 2 は、粒径 22 nm のシリカ粒子溶液(粒子濃度 0.4 wt%)50 ・L をパターン化基板
に 3000 rpm でスピンコートして作製した粒子薄膜の SEM 写真である。これをみると、粒子
が石英上にも Cr 上にも多層膜を形成しているのが分かる。Fig. 3 は水の蒸発過程の反射顕
微鏡写真である。Fig. 3 から、液膜のエッジが石英と Cr の両方に接している場合には、石
英パターン内に液が存在しながら Cr 上の液膜の蒸発が進行しているのが分かる。Fig. 2 の
粒子薄膜は、Fig. 3 の液膜の蒸発過程をそのまま反映した形状をしており、また、単層か
ら膜厚が徐々に厚くなっていっていく様子は、液膜のエッジ部分の粒子薄膜の形状[5]と一致
しているので、Fig. 2 の粒子薄膜は基板上に残った液膜のエッジ部分で形成されたと考え
られる。
石英パターン内部
石英パターン内部
C
シリカ粒子薄膜
r
Cr
石英
1.5 μ m
蒸発の方向
蒸発する液膜
Fig. 2 粒径 22
の SEM 像 nm
のシリカ粒子薄膜
246
Fig. 3 液膜の蒸発過程
の反射顕微鏡写真
Fig. 4 は、
O2 プラズマ処理を施した基板にシリカ粒子溶液を 3000
rpm でスピンコートした結果である。基板の Cr 部分が親水化した
ことで Cr 部分、
石英部分のどちらにも粒子が存在する結果となっ
た。106 nm のシリカ粒子を塗布したサンプルでは、どのパターン
においても石英部分の粒子被覆率は 0.4 以下にとどまっていた。
これは、液膜が Cr 層の厚みに等しいような条件では、石英パター
ン内部に存在する粒子は高い被覆率の単層膜を形成できるほどの
数にならないためだと思われる。従って、パターン内部に粒子を
高い被覆率で充填するためには、Cr 層の厚みは粒径よりも数倍は
大きい必要があるといえる。
Fig. 5 はシリカ粒子溶液 90 ・L をパターン化基板に滴下して
1000 rpm で 5 sec 回転させた後、1500 rpm に回転数を上げてスピ
ンコートした結果である。Cr 上には粒子が存在しておらず、石英
パターンにのみ粒子が薄膜を形成している。中心から数・m は単
層が形成されており、Fig. 6 が単層部分の SEM 写真である。充填
率(六方最密充填構造で規格化した被覆率)は 79±0.5 %で、高
密度の単層を形成していた。ボロノイ多角形による解析の結果は
0.12±0.04 で、結晶性に優れた薄膜であることが分かった。石英
パターンのエッジに部分は多層膜を形成しており、これはパター
ン内部の液膜のメニスカスが下に凸になっているためだと思われ
る。Fig. 6 において観察される線欠陥は、液膜が蒸発に伴って減
少し、粒子間にメニスカスが形成された後に粒子が横毛管力によ
ってパッキングした結果生じたと考えられる。ただし、パターン
ごとの被覆率のばらつきは大きく、安定してパターン内に液膜を
形成させることが今後の課題である。
パターン化基板上のナノ粒子の自己配列のモデル化
モデル化の領域は、Fig. 7 に示すように x 方向が基板長 L で固
定され、y 方向が粒径相当の幅をもつ空間とした。粒子は x 方向
および z 方向にのみ運動するものとする。溶媒の蒸発速度は液膜
厚み、および x 方向の位置によらず一定とし、液面は単調に減少
していくものとした。区切られた空間に存在する液膜のメニスカ
スの形状は放物線によって近似できるので、本研究の実験でも液
面の形状は放物線型とした。初期条件としては、溶液中に粒子を
ランダムに配置した状態を与えた。
(a)
シリカ
粒子
1 μm
(b)
Cr
石英
1 μm
Fig. 4 シリカ粒子薄膜のSEM像
(a) 粒径22 nm
(b) 粒径106 nm
Cr
単層部分
1.2 μm
Fig. 5 粒径22 nmのシリカ粒子
薄膜のSEM像
300 nm
Fig. 6 単層部分のSEM像
247
Cr
数値モデルとアルゴリズム
ナノ粒子の自己配列過程をモデルによって検討するために
は、溶液中の粒子の微視的な挙動をシミュレーションする必
要がある。そこで本研究では、1 つ 1 つの粒子の運動を運動
方程式に基づいて追跡する離散要素法(DEM)を採用した。シ
ミュレーションに用いる数値モデルの基本は、(2)式に示す
Brown 動力学における Langevin 方程式である。
Langevin 方程
式の外力項 F には、横毛管力、粒子・基板間摩擦力、DLVO 力、
重力、浮力、および Voigt モデルで表現された粒子・基板間
接触力、粒子間接触力を導入した。
m
dv
= F − ξv + F B
dt
z
y
x
傾斜角 Ψ
液面
Cr
Cr
quartz
D
L
Fig. 7 モデル化の領域の模式図
Table 2 シミュレーションの条件
(2)
ここで、m は粒子の質量、v は粒子の速度、F は他の粒子から作
用する力と外力の和、・は摩擦係数、FB は粒子の不規則運動を
引き起こすブラウン揺動力である。
粒子運動方程式の積分には、
分子 動力学で用 いられる Velocity Verlet 法を改 良した
Predictor-Corrector Velocity Verlet 法を採用した。
粒径
22 nm
粒子のヤング率
7.22×1010 N/m2
粒子のポアソン比
0.195
溶媒の密度
1.0×103 kg/m3
溶媒の粘度
1.0×10−3 Pa s
溶媒の表面張力
7.275×10−2 N/m
溶媒の温度
293 K
メニスカスの傾斜角
5 degree
シミュレーション条件
基板の底面および壁面、溶媒、粒子の物性は実験で用いたパターン化基板とシリカ粒子分散
液の物性を反映させた。粒子数と基板長の関係に関しては、最終的に double layer 以下の粒子
薄膜を形成するような初期粒子濃度を与えることにした。Table 2 にシミュレーションに用い
た条件を示す。
結果および考察
Fig. 8 にシミュレーションの結果を示す。メニスカスの形状が本研究の実験系のように下に
凸の場合、エッジ部分に多層膜が形成されることがシミュレーションにおいても観察された。
フラットな基板に塗布した場合には被覆率が 0.8 以上になると多層膜が不特定の場所に発生す
るが、本研究の実験で用いた基板のように、液膜が存在する領域を壁によって限定することで
多層膜が形成される部分をエッジに集中させることができるのではないかと考えられる。Fig.
8 の図では中心よりの部分に 2 層目が乗っている部分があるが、溶媒と基板のぬれ性、パター
ン長の最適化を行うことで、確実に高い被覆率の単層膜をパターンの中心部分に得られるので
はないかと思われる。
初期状態
終状態
Fig. 8 シミュレーション結果
まとめ
パターン化基板にナノ粒子水溶液をスピンコートし、親水性の部分にのみナノ粒子の自己配
列膜を作製することに成功した。パターン内部の被覆率は高く、パターンのエッジ部分は多層
膜になったものの、結晶性の優れた単層膜がパターン内の広範囲に形成された。表面に凹凸を
もったパターン化基板に粒子溶液を塗布した場合のナノ粒子の自己配列過程をモデル化し、メ
248
ニスカスの形状や溶媒の違いが最終構造に与える影響を調べた。実験およびモデルから、凹凸
のあるパターン化基板上では、物理的に区切られた領域内においてメニスカス力によって高い
被覆率の単層膜を作製できる可能性を示した。従って、submonolayer を形成するような濃度領
域でメニスカスの形状、溶媒の表面張力、粒子間および粒子基板間の相互作用を最適化するこ
とで、効率よく単層の粒子規則配列膜を作製できるのではないかと思われる。
参考文献
[1] A. N. Shipway, E. Katz and I. Willner, Chem. Phys. Chem., 1, 18 (2000)
[2] S. Sun, C. B. Murray, D. Weller, L. Folks and A. Moser, Science, 287, 1989 (2000)
[3] CA. Fustin, G. Glasser, H. W. Spiess and U. Jonas, Adv. Mater., 15, 1025 (2003)
[4] J. Aizenberg, P. V. Braun and P. Wiltzius, Phys. Rev. Lett., 84, 2997 (2000)
[5] N. D. Denkov, O. D. Velev, P. A. Kralchevsky, I. B. Ivanov, H. Yoshimura and K. Nagayama,
Langmuir, 8, 3183 (1992)
249
c.液相からの薄膜作成技術開発
c1.ナノ粒子配列挙動の解析とナノ粒子配列の作製
(1)目標
膜厚:単粒子層,均一性:膜厚の変動係数 10%以下
シリカナノ粒子薄膜およびシングルナノ粒子薄膜の塗布成膜における、良好な粒子配列秩
序性を与える条件についての知見を得る。また、各種機能素子としての応用展開の可能性
を追求するため、配列構造と膜物性の相関について調べる。ただし、多粒子層でのポーラ
スシリカ薄膜はディップコート法にてすでに多くの研究がなされているため、本研究では
単粒子層に限って進める。
(2)目標の達成度
・膜厚:100%を達成した。
CAP コーターを用いて 100cm/min の高速にて単層で高密度、大面積に粒子を配列した膜作
製できたため。
・均一性:100%を達成した。
(3)研究成果内容
(3.1)自己組織化による細孔を有するシリカ薄膜の作製法検討
①はじめに
粒子を高密度に配列させる手法として自己組織化を用いることは、ボトムアップによる粒子
配列手法であり高速、大量生産に適する有力な手法である。その中で有機/無機混合粒子系を用
いて微細な孔を有する3次元構造体の作製に関する研究が行われてきた 1)∼2)。これらの微細な
孔を有する薄膜は、光学フィルター、触媒の反応場などへの応用として注目されている。これ
までの研究では 2 粒子混合分散中から基板を引き上げるディップコーティング法で行われてい
た 3)。この手法では溶媒の乾燥速度と同期した基板の引き上げ速度(数 cm/時)が限界となり更
なる高速化が困難であった。このため、高速化を目的として同様の 2 粒子混合分散液をスピン
コーター法で単層の高配列膜を作製する検討も行われてきた 4)。しかし、回転中に粒子が円周
縁方向へ移動し中心部分のポリスチレン(PSL)粒子が希薄となるため、中心ほど細孔の欠陥
が多くなる面内均一性に問題が生じていた。本
塗布方向
研究では、CAP コーター5)(Fig.②.c1-1)を用い
ることで面内均一性の優れているマクロポーラ
吸着盤
ス薄膜の大面積化および高速化の検討を行った。
Up
②実験
PSL/コロイダルシリカ粒子混合分散液は単
分散ポリスチレン微粒子(PSL 粒子)とナノサ
イズコロイダルシリカを配合して作製した。溶
媒は精製水を用いて、PSL/コロイダルシリカ粒
子混合分散液が最適な濃度比になるように調製
した。
2 次元自己組織化 PSL/コロイダルシリカ粒子
250
基板 塗布液
塗布ノズル
Fig.②.c1-1
Down
インキタンク
Schematic feature of
capillary coater
薄膜の作製では、PSL/コロイダルシリカ粒子混合分散液を 1∼15wt%の間で調製し、研磨ガラ
ス(大きさ:10x10cm、厚さ:1.75mm)上に CAP コーターを用いて PSL が単層になるように塗
布を行った。吸着テーブルを移動する速度で塗布速度を決定し、10∼100cm/min の間で調製し
た。初期塗布膜厚による影響を明らかにするため、最終的な PSL 被覆率が同等になるように混
合分散液濃度と初期塗布膜厚を調製して検討を行った。初期塗布膜厚は、CAP コーターの塗布
速度を変化させることで調製を行った。マクロポーラスシリカ薄膜作製は、PSL/コロイダルシ
リカ微粒子混合塗布膜を電気オーブンで 400℃、15 分間加熱を行い、マクロポーラスシリカ薄
膜を得た。
マクロポーラスシリカ薄膜は、走査型電子顕微鏡で表面を観察し配列の評価行った。得られ
た面観察画像を画像処理ソフトにより画像解析して細孔中心を決定し、その座標よりボロノイ
ポリゴン 9)を作製して隣接する粒子数を計算した。すべてのボロノイポリゴンが六角形となる
場合を最高配列状態とし、得られた結果の全体の多角形に対する六角形の割合を VP6(Ordering
Parameter : Voronoi Polygon 6 )として細孔の規則性を数値化した。
VP6=(六角形の数)/(全ての多角形の数)
③結果と考察
まず自己組織化 PSL 粒子薄膜の生成機構に関して考察する。スピンコーター4)を用いる手法
では、コロイダルシリカが存在することで PSL 粒子がより高配列状態になることを報告してい
る。同様に CAP コーターを用いた本研究でもコロイダルシリカが有無の分散液を用いて評価を
行った。Fig.②.c1-2 は、CAP コーターで塗布したガラス基板であり、8x9cm2 の面積で膜厚が
均一に PSL/コロイダルシリカ粒子混合分散液が塗布、乾燥されていることが確認できる。この
粒子膜は目視で一様に青く見え、PSL 粒子の大きな欠陥による無色の部分や多層になることに
よる赤色の部分が確認されなかった。Fig.②.c1-3 はそれぞれ膜表面の SEM 画像であり、a)は熱
分解する前の PSL 粒子のみで塗布したもの、b)はコロ
イダルシリカを含有して塗布したものである。c)は、
b)のサンプルから熱分解により PSL 粒子を取り除いた
ものである。コロイダルシリカを含有させることで
VP6 が 0.69 から 0.99 へと PSL 粒子の配列規則性が向
上した。乾燥中に塗布液に存在するコロイダルシリカ
がブラウン運動を起こすことで PSL 粒子の再配列挙動
を促した結果として PSL 粒子の規則性が良好状態に変
化したものと考えられる。さらに、熱分解によって PSL
粒子を除去したマクロポーラスシリカ薄膜の VP6 は
0.98 であり、熱分解前の粒子配列規則性を維持してい
Fig.②.c1-2 Silica thin film with
たものと考えられる。
PSL spheres coated by
Capillary coater
251
次に塗布膜厚の影
響に関して考察する。
VP6 が a)、b)、c)それ
ぞれ 0.58、0.65、0.78
と混合分散液濃度が高
く、初期膜厚が薄いも
のほど粒子配列性が良
好になる傾向であった
(Fig.②.c1-4)
。a)の場
合は初期膜厚が厚くコ
ロイダルシリカがまば
らであるため、液膜の
乾燥時に PSL 粒子の再
配列挙動を促す効果が
小さいのに対して、c)
の様に初期膜厚が薄く
濃度が濃い場合は、コ
ロイダルシリカが密に
存在することで PSL 粒
子の再配列挙動を促す
効果が大きかったもの
と考えられる。
a)
a)
b)
b)
c)
c)
Fig.②
②.c1
.c1-4
-4 SEM
a)初期膜厚
Fig.
Fig.②
②.c1
.c1-3
-3 SEM
SEM image
image of
of a)
a)
Fig.
images of 3.2
(3.2)溶媒マランゴニ
μm、
b)2.3μm、
c)1.9
ミクロ
of PSL
PSLpartiwithout
monolayer of
cles
silica thin films with
macro効果を用いたナノ粒
ン スケール:1μm
silica
nanoparticles のみ塗
without
silica nanoparticles,
pores.
Initial liquid thick子分散液の挙動解析
布、b)PSL
粒子/コロイダルシ
b)
monolayer
of PSL particles
ness were a) 3.2μm, b) 2.3
①はじめに
with
silica nano- particles, c)
μm and c) 1.9μm, respectリカ混合で塗布、c)塗布後焼
また、塗布手法以外
tively.
Silica
thin
film
with
成 スケ ル 1
にナノ粒子分散液の液
macropoers after PSL particles
物性を検討することで
calcined
高速に作製できないか
検 討 を 行 っ た 。
Schneemilch6)らは斜めに置いた基板の上下で温度差を設けることで温度マランゴニ効果によ
る溶液の上昇過程を明らかにした。この研究では、溶液が濡れ広がる先端部で Prewet 層と呼
ぶ極めて薄い層が形成されていることが報告されている。また、Bertozzi7)らはこの温度マラン
ゴニによる濡れ広がり挙動を計算によって明らかにしている。さらに Stoebe8)らはミネラルオ
イル上に界面活性剤を含有する水溶液を展開したときに水溶液の濡れ広がる挙動が界面活性剤
濃度によって違うことを報告している。ある界面活性剤濃度では水溶液の濡れ広がりの先端部
で界面活性剤濃度が水溶液中心部より薄くなることで、先端部に界面活性剤を補う挙動がドラ
イビングフォースとなり他の条件より速く濡れ広がることを報告している。この挙動を濃度マ
ランゴニとして考えた際、2種類の混合溶媒を用いて混合溶媒の濃度変化を利用して濡れ広が
り速度の変化を確認し、CAP コーターによるナノ粒子膜の作製の高速化に寄与できないかを検
討した。
252
②実験
CdSe ナノ粒子分散液は、ホットソープ法によって合成した CdSe ナノ粒子(平均粒径 4.5nm)
をヘキサン/オクタンの混合溶媒に分散することで調製した。
CdSe ナノ粒子分散液の濡れ広がり挙動は、シリコンウエハ上に5μl のナノ粒子分散液を滴
下してその過程をデジタル録画し、その動画から液膜の濡れ広がり速度を測定することで解析
した。この際、ヘキサン/オクタンの混合比を変化させ、液滴を滴下する環境をヘキサンおよ
びオクタンの飽和蒸気圧にすることで濡れ広がり速度の変化があるかを解析した。
speed (mm/s)
③結果と考察
Fig.②.c1-5 に CdSe ナノ粒子分散液の溶媒をヘキ
40
サンおよびオクタンの単溶媒またヘキサン/オクタ
30
ンの 1/1 混合溶媒を用いた際の濡れ広がり速度の時
20
間変化を示す。
単溶媒ではまったく濡れ広がらなく、
10
混合溶媒にすることで初期濡れ広がり速度 30mm/s
0
0
2
4
6
を越えることが確認された。これは、濡れ広がる際
time (s)
ヘキサン:オクタン=1:1
ヘキサンのみ
オクタンのみ
にヘキサンが優先的に蒸発し、中心部分に比べて液
膜が薄い縁のほうが濃度変化が大きくなるため中心
Fig.②.c1-5 Effect of solvent on
部分から縁に向かって分散液が移動することで濡れ
wetting
velocity
of
CdSe
広がり速度が大きくなったと思われる。
nanoparticle dispersion
次に液滴を滴下する環境を使用する溶媒で飽和し
た環境としさらにヘキサン/オクタンの混合比を変
化させた時のナノ粒子分散液の濡れ広がり速度の結果を Fig.②.c1-6 に示す。遅く蒸発するオク
タンの飽和蒸気圧環境でヘキサンが多く混合する系で一番早い濡れ広がり速度を記録した。こ
れは、オクタンの飽和蒸気圧下での実験のため、分散液中のオクタンの蒸発が抑制されヘキサ
ンの濃度変化がより大きくついたためと思われる。
4.
非飽和環境下
飽和ヘキサン環境下
40
20
0
60
速度(mm/s)
60
速度(mm/s)
速度(mm/s)
60
飽和オクタン環境下
40
20
0
0
4
8
12
40
20
0
0
4
時間(s)
8
12
0
時間(s)
4
8
12
時間(s)
Fig.②.c1-6 Effect of surroundings during drying on wetting velocity of CdSe nano- particles
dispersion
Hexane: Octane=9:1
1:1
253
1:9
(4)結論
(4.1)自己組織化による細孔を有するシリカ薄膜の作製法検討
PSL 粒子/コロイダルシリカ混合分散液を CAP コーターで塗布することで、100cm/min の高
速で 8x9cm2 の大面積での自己組織化 PSL 粒子薄膜を得ることが出来た。さらにこの薄膜を
400℃で熱分解することで、高規則配列マクロポーラスシリカ薄膜を作製できた。
(4.2)溶媒マランゴニ効果を用いたナノ粒子分散液の挙動解析
2種類の蒸発速度が違う混合溶媒を分散媒として用いた CdSe ナノ粒子分散液をシリコンウ
エハ上に滴下してその濡れ広がり速度を測定した。ヘキサン/オクタン混合溶媒の場合、オク
タン飽和蒸気圧条件化で行うと最大 50mm/s で濡れ広がることが判明した。ポーラスシリカ
薄膜を CAP コーターで作製する際にこの様な混合溶媒を用いることでさらに高速で出来る
可能性が示唆された。
参考文献
1) Meng, Q. –B., et al., Appl. Phys. Lett., 77, 4313-4315 (2000)
2) Iskandar, F., et al., Nano Lett., 1, 231-234 (2001)
3) Iskandar, F., et al., J. Appl. Phys., 93, 9237-9242 (2003)
4) Sasakura, H., et al., 2003 MRS Fall Meeting Abst., 299 (2003)
5) Kinomoto, S., Convertech, 6, 40-42 (2000)
6) Schneemilch, M., et al., Langmuir, 16, 9850, (2000)
7) Bertozzi A. L., et al., Physica D, 134, 431, (1999)
8) Stoebe T., et al., Langmuir, 13, 7282, (1997)
9) Seul, M., et al., Practical Algorithms for Image Analysis, Cambridge Univ. Press, 221-227
(2000)
254
c2.ナノ粒子配列挙動の解析とナノ粒子配列膜の作製
(1)目標
ナノ粒子薄膜の塗布成膜における粒子配列挙動の実験的解析を行い、良好な粒子配列秩序性
を与える条件について知見を得ることを目的とする。モデル粒子および膜形態としては、シリ
カ単層膜およびラテックス多層膜を選択した。
(2)目標の達成度
(2.1)シリカ単層膜
配列秩序性の向上因子およびそのメカニズムを把握し、秩序性が高いシリカ単層膜を得るこ
とができた。全体目標(膜厚:単層∼100μm、膜厚変動係数<10%)のうち、膜厚が単層の部
分について、目標を 100%達成した。
(2.2)ラテックス多層膜
配列秩序性の向上因子およびそのメカニズムについて把握できた。しかし、液膜中(厚さ
100μm 程度)において多層配列構造が得られることを確認したが、固体状の多層膜を取出すま
でには至らなかった。達成度は 50%である。
(3)研究成果の内容
(3.1)シリカ単層膜
シリカ粒子単一層薄膜の液相塗布成膜における諸条件と粒子配列状態の相関についての実験
的調査を行なった。シリカ粒子は平均粒径 100nm の真球状単分散粒子を用いた。着目した諸
条件は、材料的条件として、粒子濃度、分散系のゼータ電位および基材の表面処理状態、プロ
セス的条件として、
乾燥速度および塗布時のせん断速度である。
粒子配列状態の定量的評価は、
配列秩序性とドメインサイズに着目し、各種ボロノイ解析を用いて行った。
A) 粒子間相互作用の配列状態への影響
分散系のゼータ電位により粒子間相互作用を変化させ、配列状態へ与える影響を調べた。
ゼータ電位の絶対値が大きいほど粒子間反発力が大きくなる。薄膜の AFM 像を Fig.②.c2-1
に示す(被覆率=0.6, 0.85、ゼータ電位=−30mV, 10mV)
。低被覆率においてはゼータ電位
による配列の差異は生じなかったが、高被覆率においてはゼータ電位絶対値が大きい場合、
配列秩序性が良好かつドメインサイズが大きくなることを確認した。
各ゼータ電位における被覆率と配列秩序性の相関、および被覆率とドメインサイズの各ゼ
ータ電位における相関をそれぞれ Fig.②.c2-2, Fig.②. c2-3 に示す。
ゼータ電位によらず、被覆率が大きいほど配列秩序性が良好となり、かつドメインサイズ
も大きくなることを確認した。また、低被覆率(概ね 0.6 以下)においては、被覆率と配列
秩序性あるいはドメインサイズの相関はゼータ電位に依存しないが、高被覆率(概ね 0.7 以
上)では、ゼータ電位絶対値が大きい場合、配列秩序性が良好かつドメインサイズが大きく
なることを確認した。これらの傾向は、Fig.②.c2-1 の AFM 観察結果と一致している。この
ように、粒子間反発力が大きいほど良好な配列状態が得られることがわかった。
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