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アオイシロ・アナザーストーリー 平和的解決

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アオイシロ・アナザーストーリー 平和的解決
アオイシロ・アナザーストーリー
★平和的解決
1.穏やかな朝の一時
ジリリリリ・・・
朝7時・・・目覚まし時計の軽快なアラームが部屋中に響き渡り・・・とても眠たそうに目を擦りなが
ら、馬瓏琉は布団から身体を起こした。
大きく背伸びをして、パジャマからいつもの V 系の服装に着替える。
今日の天候は雲1つ無い清々しい快晴。瑠璃宮の門を開く為の生贄の儀式を執り行うには、ま
さに絶好の晴天だ。
「ふぁ~あ。」
大きなあくびをしながら、馬瓏琉はリビングへと足を運ぶ。
トントントン・・・
キッチンからは包丁がリズミカルにまな板を叩く軽快な音が響き渡り、味噌汁のとてもいい香りが
漂ってきた。
「おはようございます。馬瓏琉さん。」
「おう。」
「今日は絶好の儀式日和ですね。」
リビングに足を運んだ馬瓏琉を、対面式のキッチンで朝食を作っている柚明が穏やかな笑顔で
出迎えた。
馬瓏琉はテレビの電源をつけて、地元のローカル局のニュース番組にチャンネルを合わせる。
この卯奈坂は辺境の田舎だという事もあって、テレビのチャンネルはそれ程多くなく、また地上デ
ジタル放送の放送環境も未だに整っていないという状況だ。
ニュースで報じられていたのは、最早この卯奈坂では毎年の恒例行事と化してしまっている、昨
日上陸した台風についてだ。
昨日の台風は例年と比べて勢力が強かったようで、クロウ様がお怒りになっていらっしゃるので
はないかと、地元の住職がテレビで熱弁を振るっている。
「はい、朝ご飯が出来ましたよ~。」
ご飯、味噌汁、紅鮭、納豆・・・柚明が次々と朝食をテーブルに並べていく。
朝食を作り終えた柚明が馬瓏琉と反対側の席に座り・・・それを合図に馬瓏琉は朝食に手を付け
始めた。
「頂きま~す。」
「はい、どうぞ召し上がれ。」
今日の味噌汁の具は、豆腐と豚肉のようだ。
絶妙に煮込まれた豚肉の出汁が豆腐と味噌汁に巧く染み込み、両者の味をさらに引き立たせて
いる。
馬瓏琉が味噌汁を一口すすると・・・豚肉のとても香ばしい香りが口の中に広がった。
美味だ。
「・・・うむ、美味い。」
「良かった、馬瓏琉さんの口に合ったようで何よりです。」
「この鮭も塩加減と焼き加減が絶妙で、飯が進むな。」
同じ材料を使って調理しているのに、何で自分と柚明とではこんなにも味に差が出るのだろう
か・・・馬瓏琉は柚明の料理の腕に素直に関心していた。
鮭なんてただ塩をぶっかけてフライパンで焼くだけの代物で、誰が焼こうが大して味に差は出来
ないと馬瓏琉は思っていたのだが、どうやらそんなに単純な代物でも無いらしい。
塩加減と焼き加減1つで、鮭本来の旨みをより引き立たせる事が出来るのだ。それを馬瓏琉は柚
明の鮭を食べて思い知らされた。
「代わりを頼む。」
「はい、どうぞ。」
味噌汁をお代わりして、馬瓏琉はとても美味しそうに口に含む。
羽藤桂は、こんなにも美味い味噌汁を毎日食べているのかと・・・馬瓏琉はちょっとだけ桂がうら
やましいと思ったのだった。
「・・・馳走になった。」
「はい、おそまつさまでした。」
とても綺麗に柚明の朝食を平らげ、馬瓏琉は食後のお茶を満足そうに啜っている。
しばらく柚明と一緒にお茶を飲みながら、テレビを見ながらのんびりとくつろいでいたのだが・・・
馬瓏琉はふと思い出したように柚明に声をかけた。
「なあ、羽藤柚明。ちょっとそこに置いてある俺の携帯を取ってくれないか?」
「はい、どうぞ。」
とても穏やかな笑顔で、柚明は馬瓏琉の携帯電話を馬瓏琉に手渡す。
彼女の右手はとても優しくて、温かかった。
「ありがとな。」
「いえいえ。」
ピッ、ピッ、ピッ。
プルルルル・・・プルルルル・・・
とても神妙な表情で、馬瓏琉は携帯電話に耳を当て・・・次の瞬間。
『はい、卯奈坂警察です。』
「もしもし、警察ですか?不法侵入です(泣)。」
2.穏やかじゃない朝の一時
携帯電話を耳に当てた馬瓏琉は、柚明が起動した馬瓏琉のノートパソコンの画面を、驚愕の表
情で見つめていた。
「は・・・羽藤柚明・・・何故てめぇがそれを・・・!!」
「はい、馬瓏琉さんの机の一番下側の、鍵が掛かった引き出しの中の隠し板の下に隠されてい
た、パソコンのアプリケーションソフトのパッケージに見せかけていた DVD ケースの中に入ってい
たブルーレイディスクを馬瓏琉さんのパソコンで起動して、3重にも渡る隠しフォルダを5重にも渡
るパスワードを解除して閲覧した、馬瓏琉さんが違法にダウンロードした、この大量のアニメの動画
ファイルの事ですか?」
「・・・・・(汗)」
「・・・あの・・・今からこれを馬瓏琉さんのパソコンを使って Youtube とニコニコ動画で流そうかと思
うんですけど・・・著作物を権利者の許可無く無断でアップロードする行為は犯罪なので、そうする
と馬瓏琉さんは警察に捕まっちゃいますけど・・・」
携帯電話を持つ馬瓏琉の右手が、プルプルと震えていた・・・。
何故柚明がこのディスクを持っているのか・・・しかも厳重にパスワードを掛けて自分以外は誰に
も見れないようにしていたというのに、まさかそれを解読したとでもいうのか。
もし、これを本当に Youtube やニコニコ動画で流されでもしたら・・・IP アドレスから馬瓏琉のパソ
コンが割り出され、タイーホという事態になりかねない。
そして今、馬瓏琉が電話で助けを求めている相手が・・・その事を知られたくない警察なのだ。
『あの、もしもし!?どうかしましたか!?』
「・・・いえ・・・すいません・・・よく見たら俺の知り合いでした・・・(泣)!!」
ピッ。
今にも泣きそうな顔で、馬瓏琉は携帯電話の通話を切った。
そして柚明が物凄い早業で、既に動画ファイルの一部をクリック1つで、Youtube にアップロード
出来る状態にしてしまっていた・・・。
それを見た馬瓏琉が、物凄い形相で柚明の胸倉を掴む。
「きゃっ!?」
「羽藤柚明!!てめぇ、何でここにいるんだぁ!?」
「あの、ちょっと馬瓏琉さんにお願いしたい事があってここまで来たんです。呼び鈴を鳴らしたん
ですけど馬瓏琉さんまだ寝ていらっしゃったようなので、鍵をピッキングで開けて中に入ろうとした
んですけど、馬瓏琉さんが張った結界に阻まれたのでそれを破壊して中に入らせていただいたん
ですけど、さらにマタムが襲い掛かってきたので叩きのめしたんですけど・・・」
「お前、凄ぇな(汗)!!」
よく見たら部屋の片隅で、マタムが泣きそうな表情で身体を丸めながらガタガタと震えていた。
柚明の事を、なんか悪魔か何かを見ているかのように怯えた瞳で睨み付けている・・・。
「それで折角なので、馬瓏琉さんに朝ごはんを作ってあげようと思って、こうしてキッチンで待って
いたんです。」
「ああそうだよ!!てめぇの料理があまりに美味かったから、俺もつい和んじまったじゃねえか畜
生がああああああああああああああああああああ(泣)!!」
「うふふ、どうもありがとうございます~。」
とても穏やかな笑顔で、柚明は自分の胸倉を掴んでいる馬瓏琉の両手を優しく引き離した。
「それで、馬瓏琉さんへのお願いなんですけど・・・」
「何だ!?下らねぇ用事だったらぶっ殺すぞ!!」
「瑠璃宮の門を開く儀式を、今年限りでやめて頂きたいんです~。」
「ブ チ 殺 し ま す !!」
龍戟を召喚して、柚明に突きつける馬瓏琉。
柚明は何だかとても困ったような表情で、馬瓏琉の事を見つめている。
「わ、私、暴力は嫌いなんです。ですから今回の件に関して平和的に解決しようと、馬瓏琉さんと
話し合いの場を持ちたいと思って、こうしてここに来たんですけど・・・」
「平和的に解決だぁ!?何甘ぇ事言ってんだてめぇはよ!!今ここでてめぇをぶっ殺す事が出来
れば、俺の野望を阻止しようとする邪魔者が1人減る事になるじゃねえかよ!!あああっ!?」
「・・・そんな・・・折角馬瓏琉さんの為に朝ごはんを作ってあげたというのに・・・」
うるうるした瞳で、馬瓏琉の事を見つめる柚明。
そんな柚明の豊満な左胸を、馬瓏琉は龍戟で貫こうとしたのだが・・・
「てめぇを殺して、根方維己を生贄の儀式に捧げ・・・」
次の瞬間。
「・・・お・・・お・・・お・・・(泣)」
ぐりゅるるるるるるるるるるるる。
馬瓏琉の腹が盛大に鳴り響いた瞬間、突然馬瓏琉はその場にうずくまった。
龍戟を杖代わりにして、とても苦しそうな表情になる。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお(泣)!!」
「その・・・こんな事もあろうかと、さっきの味噌汁の中に下剤を仕込んでおいたんです。」
「て、てめぇ!!これのどこが平和的な解決だ!?ただの恐喝じゃねえかぐおおおおおおおお
おおおお(泣)!!」
「ええ、馬瓏琉さんが素直に私のお願いを聞いてくれるなんて、最初から思っていなかった物で
すから・・・」
「トイレ!!トイレ!!トイレ!!トイレ!!トイレ(泣)!!」
泣きそうな表情で馬瓏琉はトイレに駆け込もうとするが、何故か内側から鍵が掛かっていた。
ドンドンドン!!
馬瓏琉が慌てて扉をノックすると、中からとても爽やかな声が・・・。
「は~い、入ってま~す。」
「羽藤白花ぁ!!てめぇ、ハシラの使命はどうしたぁ!?」
なんかもう泣きそうな表情で、トイレの扉を物凄い勢いで叩きまくる馬瓏琉。
「出る!!出る!!出る!!出る!!出ちゃうよおおおおおおおお(泣)!!」
「私も本当は、ここまで馬瓏琉さんを苦しめるつもりは無かったんです。でもまさか馬瓏琉さんが
私の作った下剤入りの味噌汁をお代わりしてくれるなんて、全く想定していなかった物ですか
ら・・・」
それはつまり、馬瓏琉が柚明の想定以上に下剤を飲んでしまった事を意味していた。
全身に脂汗をかきながら、馬瓏琉はトイレの前で物凄い笑顔でうずくまっている。
「ああそうだよ!!てめぇの味噌汁が無茶苦茶美味かったから、ついお代わりしちまったんだよ
おおおおおおおおおおおおお(泣)!!」
「うふふ、どうもありがとうございます~。」
「あああああああああああああああああああ!!出ちゃう!!出ちゃうよぉ!!頼むから開け
ろ!!開けてくれぇ(泣)!!」
ガンガンガンガンガン!!
馬瓏琉は凄まじい勢いで扉を叩くが、次の瞬間。
「い・・・入れるぞ・・・小僧・・・!!」
「あああ!!入ってる!!入ってるよ!!主!!」
主と白花が、トイレの中でなんかやってた。
「主ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!てめぇ、何やってんだあああああああああああああ(泣)!!」
「それで馬瓏琉さん、大人しく瑠璃宮の門を開く事を諦めて下されば、主と白花ちゃんをトイレか
ら追い出しますけど・・・どうか私の願いを聞き入れて下さいませんか?」
「だからてめえ!!これのどこが平和的な解決なんだああああああああああああ(泣)!!」
傍から見てると話し合いどころか、柚明がうんこを盾に馬瓏琉を脅しているだけである。
柚明はとっても穏やかで優しい笑顔で、馬瓏琉の事を見つめていた。
「この間、夏夜さんから《剣》を奪・・・譲って頂きましたし、根方さんも脅・・・説得しましたので、後
は馬瓏琉さんを説得するだけなんですけど・・・」
「お前、本当に凄ぇなおい(泣)!!」
「どうか瑠璃宮の門を開くのを諦めて下さいませんか?」
「ふざけるなぁ!!だったら無理矢理にでも扉をぶち壊してうんこをするまでだぁ(泣)!!」
龍戟でトイレの扉を切り裂こうとする馬瓏琉だったが、柚明が張った結界に阻まれて扉はびくとも
しなかった・・・。
「あああああああああああああああああああああああ(泣)!!」
「その・・・全身全霊の力を込めて張った結界だものですから・・・」
「うんこ!!うんこ!!うんこ!!うんこ!!うんこおおおおおおおおおおおおお(泣)!!」
「瑠璃宮の門を開くのを諦めて下さるのなら、すぐにでも結界を解除しますけど・・・」
「わ、分かった!!諦める!!諦めるからあああああああああああああああ(泣)!!」
さすがの馬瓏琉といえども、柚明の拷問(?)には耐えられなかったようだ・・・。
誰の血も流す事無く、平和的な(笑)解決に成功した事で、柚明は満面の笑みを浮かべる。
「嬉しい・・・やっと分かってくれたんですね、馬瓏琉さん。」
「だからお願い!!俺にうんこさせてくれええええええええええええええええ(泣)!!」
「ええ、どうぞ。」
とても嬉しそうな表情で、柚明はトイレの扉に張った結界を解除した。
だが、それに安心した馬瓏琉の、尻を締める力が一瞬緩んだ次の瞬間。
「・・・あ・・・」
バリバリバリバリバリッ!!
ぐりゅるるるるるるるるる。
もももももももももももも。
「・・・あああ・・・出ちゃったよぉ・・・(泣)」
なんか凄く気持ちよさそうな、何かをやり切ったかのような表情で、馬瓏琉は柚明の前で崩れ落
ちてしまった。
「出ちゃった・・・(泣)」
目に涙を浮かべながら、その場に崩れ落ちた馬瓏琉は柚明に右手を差し出したのだった・・・。
「紙・・・(泣)」
3.万事解決
「あれ?早いですね柚明さん、用事はもう済んだんですか?」
朝8時・・・朝食を済ませた梢子の目の前に、咲森寺から姿を消していた柚明が戻ってきた。
『ちょっと用事があるので、少し出かけてきます。9時までには戻る予定です。朝ご飯は向こうで
済ませてきますので、皆さん私の事は気にせずに朝ご飯を食べて下さいね。』
そんな内容の書置きを、柚明は咲森寺に残していたのだ。
何だかとっても充実した表情で、柚明は梢子の事を見つめている。
「ええ、何もかも終わらせてきた所よ。思っていたよりも早く片付いたわ。」
「はぁ。」
「梢子ちゃん、朝ご飯はもう済ませたの?」
「あ、はい。朝ご飯を向こうで済ませてくるっていう柚明さんの書置きがありましたから。」
この後9時からの練習まで、しばらくの間自由行動という事になっている。
部員たちはトランプやゲームをやったり携帯電話をいじったり、砂浜を散歩したり街を散策したり
と、思い思いの一時を過ごしていた。
「ああそうそう、柚明さん。実は柚明さんに紹介したい人がいるんですけど・・・」
「紹介したい人?私に?」
「はい。実は死んだと思っていた私の従姉が、8年ぶりに私の元に戻ってきたんですけど・・・」
そんな梢子の元に、夏夜が姿を現したのだが・・・。
「梢ちゃん、ちょっといいかし・・・らあっ!?」
「あら夏夜さん、昨日の夜はお世話になりました~。」
「ひいいいいいっ!!」
何故か柚明の姿を見かけた夏夜が、物凄く恥ずかしそうに顔を赤らめながら後ずさったのだった。
そんな夏夜の行動を見て、怪訝な表情を見せる梢子。
「あれ、柚明さん、もしかして夏姉さんと知り合いなんですか?」
「ええ、昨日の夜に『ちょっと』ね。」
「そうですか。なら、今更夏姉さんの事を紹介する必要は無いですね。」
夏夜は何故か身体をモジモジさせて、柚明の事を直視する事が出来ないでいた。
一体夏夜は昨日の夜、柚明に何をされたのだろうか・・・。
柚明はそんな夏夜に対して、とても穏やかな笑顔を浮かべている。
「そうそう、柚明さん。今日の晩御飯は浜辺でバーベキューをする事になったんですよ。」
「あら、そうなの。」
「それで百子が肉肉~って凄くはしゃいじゃって・・・」
「うふふ、それは百子ちゃんらしいわね。」
とても穏やかな笑顔で、梢子と何気ない会話をする柚明。
何もかも全て『平和的に』、一切の血を流さずに解決した・・・柚明の穏やかな笑顔からは、そん
な充実感に満ち溢れていたのだった・・・。
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