...

地方政府における地方税収入構造の現状とその要因

by user

on
Category: Documents
1

views

Report

Comments

Transcript

地方政府における地方税収入構造の現状とその要因
地方政府における地方税収入構造の現状とその要因
多変量解析による実証分析を中心として
片
田
興
1. はじめに
2. 地方税収入の所得弾力性
3. 地方税収入の重回帰分析
4. 主成分分析による地域経済分析
5. 主成分分析による地方税収入分析
6. 分析結果および考察
7. おわりに
1. はじめに
都道府県は, 市町村をその行政区域に内包する。 それゆえ, 市町村再編に関する動向は, 都
道府県再編に関する議論にも影響を与えるものといえる。
実際, 市町村再編は, 行財政運営の広域化を実現し, 同時に, 効率的な行財政運営をも実現
する行政区域再編として, 地域住民の期待を担っている。 したがって, その意味から, 市町村
における財政構造の分析が必要不可欠とされるが, この分析は, 歳入面, 歳出面の2つの側面
に区分して分析することが重要である1)。 すなわち, 歳入面の分析では, 行財政運営の広域化
と地方税収入との関係を把握することが重要である2)。 また, 歳出面の分析では, 行財政運営
の広域化と効率性との関係を把握することが重要である3)。
1) ここでは, 歳入面および歳出面に区分して分析することの重要性を論じているが, もちろん, この
2つの側面に区分して分析するのみではなく, 多様な分析アプローチが存在するものといえる。 本論
文では, 歳入面および歳出面に区分して分析する重要性を指摘しているものであり, しかも, 2つの
側面に区分したうえで歳入面に焦点をあてて分析しているものである。 都道府県の歳出面に関する分
析は, 「最適人口」 の理論に基づいておこなっている。 この点について, 詳しくは, つぎの文献を参
照のこと。 拙稿 「高次関数による
期大学・経営学科), 第
号,
道府県
年,
の最適人口規模に関する分析」
経営研究
(山梨学院短
ページ。
2) 税収関数の推計など, 歳入面に関する分析については, つぎの文献を参照のこと。 齊藤愼
動の経済分析
創文社,
政府行
年。
3) 「最適人口」 の推計などについて, 詳しくは, つぎの文献を参照のこと。 拙稿 「最適人口規模の推
計における推計曲線の形状に関する分析」
経営研究 (山梨学院短期大学・経営学科), 第
号,
立教経済学研究
第
巻
第3号
年
今日, 都道府県再編に関する議論は, かつての 「連邦制」, 「道州制」 に関する議論と比較し
て活発的とはいえない4)。 しかし, 都道府県再編に関する議論が活発化すれば, 当然, 都道府
県再編に関する理論的根拠が重要となる。 加えて, 実証分析に基づいた都道府県再編に関する
根拠も重要となるものといえる。
都道府県再編に関する分析は, 市町村再編に関する分析と同様, 歳入面と歳出面の2つの側
面に区分して分析することができる。 歳入面の分析は, 再編後の歳入増加が実現するのか否か
に関する分析ともいえ, 行財政運営の広域化とそれに伴う歳入増加との関係を中心的に取り扱
うものである。 一方, 歳出面の分析では, 再編後の歳出構造の変化, つまり, 1人あたり各種
歳出額の削減による行財政運営の効率性に関する分析ともいえ, 行財政運営の広域化と効率性
との関係を中心的に取り扱うものである。 もちろん, この2つの側面は, 「広域行政と歳入増
加」, 「広域行政と効率性」 といった, いわば相反する側面を取り扱っている。 もちろん, 行財
政運営の広域化によって, 自主財源としての地方税収入が増加し, 同時に, 以前と同じ水準の
行財政サービスを, 以前よりも安価に供給 (1人あたりの各種歳出額が削減) することができ
れば, 行財政運営の広域化は妥当性を得るものといえる。
本論文は, 都道府県における地方税収入の充実に焦点をあてて分析している。 地方税収入の
充実に関する側面を取りあげた理由は, 基礎的自治体として位置づけられている市町村と国と
の中間に位置する, 都道府県の行財政運営に関する今後の方向性, そして, 地域の空間的広が
りとしての範囲などを, 地方税収入構造の側面から検討するためである。 それゆえ, 本論文の
中心的課題は, 基礎的自治体として位置づけられている市町村をその行政区域に内包し, より
広域の行政区域をもつ都道府県における今後のあり方を, 地方税収入の充実との関連で把握す
ることにある。 具体的には, 地方税収入の充実に関して, 地域経済構造と地方税収入構造との
関連性を, 回帰分析, 主成分分析を用いて分析している。
このように, 本論文の目的は, まず, 回帰分析で, 地方税収入に関する税収入関数を求め,
つぎに, 主成分分析によって地域経済構造および地方税収入構造を把握し, 最後に, 地方税収
入の充実に関する今後の方向性を探ることにある。 なお, 使用したデータについて, 財政項目
は
地方財政統計年報 (平成
び,
社会生活統計指標 (
年版) , 経済項目は
県民経済計算年報 (平成 年版) , およ
) のデータを使用しており, データは, 平成
年度に対応して
いる。 そして, 本論文中の図および表は, すべて, 上記のデータに基づいて作成したものであ
る。
年,
正寿
ページ, ならびに, 中井英雄
地方財政論
ぎょうせい,
現代財政負担の数量分析
年, および, 林宜嗣
有斐閣,
地方財政
有斐閣,
年, ならびに, 林
年。
4) 都道府県の再編に関する研究については, 代表的な研究としてつぎの文献をあげておく。 恒松制治
編著
連邦制のすすめ
研究所,
学陽書房,
年, および, 古川俊一編著
年, ならびに, 斎藤精一郎責任監修
連邦制
ぎょうせい,
年。
日本再編計画
地方政府における地方税収入構造の現状とその要因
2. 地方税収入の所得弾力性
地方税収入と所得との関係は, 地方税収入の所得弾力性の概念を用いることによって, 所得
の変化に対応する地方税収入の変化を把握可能となる。 そこで, 主要地方税収入における, 所
得弾力性を推計し, 所得 (県民所得) と主要地方税収入との関係を把握することにする。
1) 道府県税総額と所得との関係
地方税収入は, 「地方政府」 の自主財源として重要な財源である。 まず最初は, 道府県税総
額の所得弾力性の推計からはじめることにする。
道府県税総額の所得弾力性とは, 所得が1%変化した場合, 道府県税総額が何パーセント変
化するのかを示す指標である5)。 ここでは, 所得 (県民所得) を説明変数, 道府県税総額を目
的変数とし, 双方の変数を自然対数に変換して回帰分析をおこない, 道府県税総額の所得弾力
性を推計している。
回帰分析における回帰方程式は,
(道府県税総額)=α+β
(所得)
で示されることになる6)。 この場合, 係数βが弾力性を示すことになる7)。
推計した回帰方程式は次のとおりである。 数式の下にあるカッコ内の数値は 値であり, 回
帰方程式の決定係数は,
の所得弾力性は,
となっている。 推計した回帰方程式の係数から, 道府県税総額
と推計され, 数値が1の水準を下回っていることがわかる。
(道府県税総額)= −
+
(−
)(
(所得)
)
5) この点については, 水野利英 「地域間の税源配分とその指標」 野勢哲也・河崎俊二編著
政策の数量分析
多賀出版,
年,
6) この点については, 林宏昭 「個人住民税の問題点と課題」 橋本徹編著
経理協会,
年,
地方財政
ページを参照。
地方税の理論と課題
ページ, および, 林宏昭 租税政策の計量分析 日本評論社,
税務
年,
ページを参照。
7) 林宏昭は,
年度から
年度までの
年間のデータに基づいて, 地方税の
に対する弾力
性を推計し, その推計結果を一覧表にまとめている。 なお, 取りあげている地方税 (弾力性の数値)
は, 道府県税総額 (
), 道府県民税 (
施設利用税 (
), 料理飲食等利用税 (
町村税総額 (
), 市町村民税 (
気税+ガス税 (
租税政策の計量分析
), 事業税 (
), 道府県たばこ税 (
), 自動車取得税 (
), 固定資産税 (
), 娯楽
), 軽油引取税 (
), 市
), 市町村たばこ消費税 (
), 電
) である。 推計結果の一覧表については, つぎの文献を参照のこと。 林宏昭
日本評論社,
年,
ページ。
立教経済学研究
第
巻
第3号
年
2) 地方税収入と所得との関係
つぎに, 地方税収入 (道府県税) における普通税の主要税目について, 所得 (県民所得) と
の関係を把握し, それぞれ所得弾力性を推計することにしよう。 ここでは, 分析対象として,
道府県民税 (個人分), 道府県民税 (法人分), 事業税 (個人分), 事業税 (法人分), 地方消費
税, 自動車税, 不動産取得税, 道府県たばこ税を取りあげている。 したがって, 地方税収入の
うち目的税8)は分析対象から除いている。
そこで, 道府県民税 (個人分・法人分) と所得との関係から取り扱うことにする9)。
道府県民税 (個人分) と所得との関係は, つぎの回帰方程式で表すことができる。 数式の下
にあるカッコ内の数値は 値であり, 回帰方程式の決定係数は,
となっている。 推計し
た回帰方程式の係数から, 道府県民税 (個人分) の所得弾力性は,
と推計され, 道府県
税総額の数値より大きくなっていることがわかる。
(道府県民税・個人分)=−
+
(−
(所得)
)(
)
道府県民税 (法人分) と所得との関係は, つぎの回帰方程式で表すことができる。 数式の下
にあるカッコ内の数値は 値であり, 回帰方程式の決定係数は,
となっている。 推計し
た回帰方程式の係数から, 道府県民税 (法人分) の所得弾力性は,
と推計される。 この
数値は, 道府県民税 (個人分) と同様, 道府県税総額の数値を上回っている。 したがって道府
県民税は, 個人分, 法人分ともに, 所得弾力性の数値が道府県税総額の所得弾力性の数値より
大きいことがわかる。
(道府県民税・法人分)=−
+
(−
)(
(所得)
)
事業税 (個人分) と所得との関係は, つぎの回帰方程式で表すことができる。 数式の下にあ
るカッコ内の数値は 値であり, 回帰方程式の決定係数は,
帰方程式の係数から, 事業税 (個人分) の所得弾力性は,
となっている。 推計した回
と推計されるが, この数値は,
道府県民税 (個人分・法人分) と同様, 道府県税総額の数値を上回っている。
(事業税・個人分)=−
(−
+
)(
(所得)
)
8) 道府県税における目的税は, 分析対象の平成
年度現在で, 自動車取得税, 軽油引取税, 入猟税,
水利地益税となっている。 なお, 特別区分として, 事業所税, 都市計画税がある。 これらの点につい
ては, 石山弘編
国税と地方税 (平成
9) データの出所である
年版)
大蔵財務協会,
地方財政統計年報 (平成
府県民税は, 個人分, 法人分に区分して推計した。
年版)
(平成
年, 7ページを参照。
年度決算額) の区分に基づき, 道
地方政府における地方税収入構造の現状とその要因
事業税 (法人分) と所得との関係は, つぎの回帰方程式で表すことができる。 数式の下にあ
るカッコ内の数値は 値であり, 決定係数は,
となっている。 推計した回帰方程式の係
数から, 事業税 (法人分) の所得弾力性は,
と推計される。 この数値も, 道府県民税
(個人分・法人分), そして, 事業税 (個人分) と同様, 道府県税総額の数値を上回っている。
(事業税・法人分)=−
+
(−
)(
(所得)
)
地方消費税と所得との関係は, つぎの回帰方程式で表すことができる。 数式の下にあるカッ
コ内の数値は 値であり, 回帰方程式の決定係数は,
式の係数から, 地方消費税の所得弾力性は,
となっている。 推計した回帰方程
と推計され, 数値が1の水準を下回ってい
る。 したがって, 所得弾力性という観点からは, 道府県民税 (個人分・法人分), 事業税 (個
人分・法人分) と比較して, 数値が下回っていることが判明した。 また, 地方消費税の所得弾
力性は, 道府県税総額の所得弾力性の数値をも下回っている。
(地方消費税)=−
+
(−
(所得)
)(
)
自動車税と所得との関係は, つぎの回帰方程式で表すことができる。 数式の下にあるカッコ
内の数値は 値であり, 回帰方程式の決定係数は,
の係数から, 自動車税の所得弾力性は,
となっている。 推計した回帰方程式
と推計され, 地方消費税と同様, 数値が1の水
準を下回っている。 したがって, 所得弾力性の観点からは, 道府県民税 (個人分・法人分),
事業税 (個人分・法人分) と比較して, 数値が下回っていることが判明した。 また, 自動車税
の所得弾力性は, 地方消費税の所得弾力性の数値をも下回っている。
(自動車税)=−
+
(−
)(
(所得)
)
不動産取得税と所得との関係は, つぎの回帰方程式で表すことができる。 数式の下にあるカ
ッコ内の数値は 値であり, 回帰方程式の決定係数は,
程式の係数から, 不動産取得税の所得弾力性は,
となっている。 推計した回帰方
と推計され, 地方消費税および自動車
税の所得弾力性の数値とは逆に, 数値が1の水準を上回っている。
(不動産取得税)=−
(−
+
)(
(所得)
)
道府県たばこ税と所得との関係は, つぎの回帰方程式として表すことができる。 数式の下に
あるカッコ内の数値は 値であり, 回帰方程式の決定係数は,
となっている。 推計した
立教経済学研究
表1
項
目
第
巻
第3号
年
主要地方税収入 (道府県税・普通税) の所得弾力性
弾力性 (係数・β)
係数 (β) の 値
決定係数
道府県税総額
道府県民税(個人分)
道府県民税(法人分)
事業税(個人分)
事業税(法人分)
地方消費税
自動車税
不動産取得税
道府県たばこ税
回帰方程式の係数から, 道府県たばこ税の所得弾力性は,
と推計され, 地方消費税, 自
動車税と並んで, 数値が1の水準を下回っている。
(道府県たばこ税)=−
(−
+
)(
(所得)
)
表1は, 推計結果を一覧表にまとめたものである。 この表からもわかるように, 道府県税総
額を除いた主要地方税収入のうち, 地方消費税, 自動車税, 道府県たばこ税は, 所得弾力性の
数値が1を下回っており, 所得の増加に対して, 税収がそれほど伸びないことが示されている。
一方, 道府県税総額を除いた主要地方税収入のうち, 道府県民税 (個人分・法人分), 事業
税 (個人分・法人分), 不動産取得税は, いずれも, 所得弾力性の数値が1を上回っている。
したがって, 所得の増加に対して, 税収入が比較的順調に伸びる税目であることが示されてい
る。 なお, 道府県民税, 事業税は, 双方ともに個人分の数値が, 法人分の数値を上回っている
ことが注目される。
3. 地方税収入の重回帰分析
3章では, 地方税収入 (道府県税) における普通税
) 道府県税における普通税は, 分析対象の平成
)
を, 複数の経済項目によって説明する
年度現在で, 道府県民税 (個人分・法人分), 事業
税 (個人分・法人分), 地方消費税, 不動産取得税, 道府県たばこ税, ゴルフ場利用税, 特別地方消
費税, 自動車税, 鉱区税, 狩猟者登録税, 道府県法定外普通税となっている。 なお, 特別区分として,
固定資産税 (特例分), 特別土地保有税がある。 これらの点については, 石山弘編
(平成 年版)
大蔵財務協会,
年, 7ページを参照。
国税と地方税
地方政府における地方税収入構造の現状とその要因
重回帰分析をおこなうことにする。 この分析の目的は, 地域経済と道府県税総額を構成する地
方税収入との関係を把握することにある。
分析対象の地方税収入項目は, 道府県税総額, 道府県民税 (個人分), 道府県民税 (法人分),
事業税 (個人分), 事業税 (法人分), 地方消費税, 自動車税, 不動産取得税, 道府県たばこ税
であることから, 目的税は分析対象に含まれていない。
上記の地方税収入を目的変数とし, 各目的変数を説明する説明変数 (経済項目) には, 1次
産業生産額, 2次産業生産額, 3次産業生産額, 年少人口比率, 生産年齢人口比率, 老年人口
比率を使用した。
なお, この分析では, 多重共線性 (
変数選択 (変数減少法) 分析
)
)
)
を避けるため, 相関分析
)
および
をおこない, 地方税収入項目に対して, 上記の経済項目のうち,
から の項目を説明変数として採用している。 また, 目的変数, 説明変数に採用したデータは,
すべて自然対数に変換して分析をおこなっている。
表2は, 重回帰分析に基づき, 地方税収入項目に対応する説明変数の係数,
値, そして,
決定係数を一覧表にまとめたものである。
1次産業生産額は, 地方消費税, 自動車税, 道府県たばこ税で説明変数の1つとして採用さ
れているが, 係数の数値はいずれの場合も大きくない。 したがって, 地方税収入の充実という
観点からみると, 1次産業の側面が積極的に貢献しているとはいいがたい。
2次産業生産額は, すべての地方税収入項目で説明変数の1つとなっている。 その意味から,
2次産業生産額の動向は, 地方税収入の充実において, 重要な意味を持つものといえる。
3次産業生産額も, 2次産業生産額と同様, すべての地方税収入項目で説明変数の1つとな
っている。 その意味から, 2次産業生産額と同様, 3次産業生産額の動向も, 地方税収入の充
実において, 重要な意味を持っているものといえる。
2次産業生産額と3次産業生産額との比較では, 自動車税を除くすべての地方税収入項目で,
) 重回帰分析をおこなう場合, 説明変数相互に高い相関がある変数を, そのまま説明変数に使用する
と, 分析結果の符合が異なる場合がある。 このような現象を多重共線性 (
) と呼ぶ。
したがって, 重回帰分析をおこなう場合, 偏回帰係数の符号と単相関係数の符号とが一致しているか
どうかの確認が必要である。 また, 重回帰分析をおこなう場合, 説明変数を選択して, 多重共線性
(
) が生じない分析をおこなうことが必要である。 この点については, 菅民郎
変量解析の実践 (上)
現代数学社,
) ここでの相関分析は, 多重共線性 (
年,
多
ページを参照。
) をさけるため, 目的変数や説明変数につい
て, お互いの相関関係を分析するものである。 したがって, 本論文での推計にあたっては, すべての
変数について相関分析をおこない, 単相関係数の符号を確認し, 説明変数の選択をおこなったうえで,
重回帰分析をおこなっている。 この点については, 同上,
ページを参照。
) 説明変数の選択については, 変数選択 (変数減少法) 分析に基づいている。 この点については, 同
上,
ページを参照。
立教経済学研究
表2
項
目
1次産業生産額
係数 ( 値)
道府県民税(個人分)
道府県民税(法人分)
事業税(個人分)
事業税(法人分)
自動車税
第3号
年
2次産業生産額
係数 ( 値)
3次産業生産額
係数 ( 値)
(
)
(
(
)
(
)
(
)
(
)
(
)
(
)
生産年齢人口比率
係数 ( 値)
(
(
)
(
)
(
)
)
)
(
)
(
)
(
)
(
)
(
)
(
)
(
)
(
)
(
)
(
)
決定係数
)
(
不動産取得税
道府県たばこ税
巻
主要地方税収入 (道府県税・普通税) と経済項目との関係
道府県税総額
地方消費税
第
(
)
(
)
注1) 値の有意水準は, 道府県たばこ税における2次産業生産額が5%有意で, それ以外はすべて1%有意である。
注2) 多重共線性をさけるための説明変数の選択は, 相関分析および変数選択 (変数減少法) 分析に基づいている。
注3) 表中の空欄は, 説明変数として採用されていないことを表している。
3次産業生産額における係数の数値が, 2次産業生産額における係数の数値を上回っている。
また, 係数の数値の大きさを1次産業生産額と比較した場合, 2次産業生産額と3次産業生産
額は, 道府県たばこ税の2次産業生産額を除いて, 係数の数値が上回っている。 したがって,
地方税収入において, 2次産業の側面とともに, 3次産業の側面の重要性が示されている。
生産年齢人口比率は, 道府県民税 (個人分), 事業税 (個人分), 不動産取得税, 道府県たば
こ税で説明変数の1つとなっている。 そして, これらの地方税収入では, 生産年齢人口比率に
おける係数の数値が大きくなっており, 地方税収入と人口構成比率との関係が示されているも
のといえる。 また, 道府県民税 (個人分), 事業税 (個人分) は直接税でもあり, 人口構成比
率の変化 (高齢率の上昇など) は, 今後, 地方税収入における直接税収入にも影響を与えるも
のといえる。
このように, 地方税収入にとって, 2次産業の側面, 3次産業の側面は重要な役割を果たし
ていることがわかる。 そして, 地方消費税などの間接税は, 係数の数値の大きさから判断する
と, 3次産業の側面による影響が大きいものといえる。 また, 直接税の個人分では, 人口構成
地方政府における地方税収入構造の現状とその要因
比率の変化に影響を受けることから, 地方税収入の充実を検討する場合, 地域経済における,
2次産業の側面, 3次産業の側面, 人口構成比率の側面などに関するより詳細な分析が重要と
なる。
4. 主成分分析による地域経済分析
4章では, より詳細に地域経済を把握するため, 主成分分析によって, 地域経済の構造分析
をおこなうことにする。
ここでは, 地域経済構造に関係する項目として, 1人たり所得 (県民所得), 2次産業比率,
3次産業比率, 生産年齢人口比率, 老年人口比率を採用し, 産業構造 (産業比率) の側面と人
口構成比率の側面との関係を中心にして分析をおこなっている。 具体的には,
都道府県につ
いて, 産業構造の側面では, 2次産業と3次産業の関係を把握し, 人口構成比率の側面では,
生産年齢人口比率と老年人口比率との関係を主成分分析に基づいて把握している。
主成分分析においては, 相関行列方式
)
を採用し, 固有値
)
が1以上となる上位2つの主成
分を用いて分析している。 そして, 第1主成分, 第2主成分ともに, 主成分得点を求め, この
主成分得点に基づいて,
都道府県を類型化している。
表3は, 固有ベクトルを第1主成分, 第2主成分ごとにまとめたものである。 第1主成分の
固有値は
, 寄与率
)
は
%である。 また, 第2主成分の固有値は
ある。 したがって, 第1主成分, 第2主成分の合計による累積寄与率
)
, 寄与率は
は,
%で
%となっている。
第1主成分, 第2主成分ともに固有ベクトルの数値から, 各主成分の解釈をおこなうことが
できる。
第1主成分は, プラス側が, 生産年齢人口比率, 1人あたり所得 (県民所得) などの数値が
大きいが, マイナス側は, 老年人口比率などの数値が大きくなっている。 したがって, 第1主
成分は, 人口構成比率と経済力との関係を示しているものと解釈できる。
第2主成分は, プラス側が, 2次産業比率の数値などが大きく, マイナス側は, 3次産業比
) 主成分分析をおこなう場合, 「データ単位が異なる場合, 相関行列を用いて主成分分析をおこなう」
ということ基づいている。 この点については, 菅民郎・前掲書,
ページを参照。
) これは, 主成分の決定に際して, 「相関行列で主成分分析をおこなうときは, 固有値が1以上であ
る」 ということに基づいている。 この点については, 同上,
ページを参照。
) 寄与率とは, 主成分の説明力を示すもので, この寄与率の数値が大きければ, 主成分の説明力が高
まることになる。
) 主成分は, それぞれの主成分について寄与率が存在する。 たとえば, 第1主成分の寄与率, 第2主
成分の寄与率といった具合となる。 したがって, 複数の主成分を採用する場合, 採用した主成分の寄
与率を合計することになるわけで, この合計した寄与率のことを累積寄与率と呼ぶ。 累積寄与率が大
きくなることによって, 主成分分析による説明力は高まることになる。
立教経済学研究
表3
固有ベクトル
第
巻
第3号
年
固有ベクトル表 (地域経済分析)
第1主成分
固有ベクトル
生産年齢人口比率
2次産業比率
1人あたり(県民)所得
老年人口比率
2次産業比率
1人あたり(県民)所得
第2主成分
3次産業比率
−
生産年齢人口比率
−
老年人口比率
−
3次産業比率
−
率の数値などが大きくなっている。 したがって, 第2主成分は, 産業構造の側面を把握するこ
とが可能であり, 2次産業と3次産業との関係を示しているものと解釈できる。
したがって, 第1主成分を横軸に, また, 第2主成分を縦軸にとる場合, 横軸には, 「人口
構成比率と経済力」 について, また, 縦軸には, 「2次産業と3次産業との関係」 を表すこと
が可能となり,
都道府県を4つのグループに類型化することができる。
そこで, 主成分得点を求め, 第1主成分, 第2主成分に基づいて,
都道府県を類型化する
ことにしよう。 表4は, 第1主成分, 第2主成分の主成分得点を一覧表にまとめたものであり,
図1は, 第1主成分を横軸, そして, 第2主成分を縦軸にとり, 主成分得点のパターンを図示
したものである。
第1象限は, 第1主成分がプラス, 第2主成分もプラスなので, 「生産年齢人口比率が高い
傾向にあり, 経済力が強く, 2次産業の側面も強い」 団体が位置している象限と解釈すること
ができる。 この第1象限には, 茨城, 栃木, 群馬, 岐阜, 山梨, 静岡, 愛知, 三重, 滋賀, 兵
庫の
団体が位置しており, 北関東や中部地方の団体が中心となっている。
第2象限は, 第1主成分がマイナスで, 第2主成分はプラスなので, 「老年人口比率が高い
傾向にあり, 経済力も弱い傾向がみられるが, 2次産業の側面が強い」 団体が位置している象
限と解釈することができる。 この第2象限には, 山形, 岩手, 福島, 新潟, 富山, 長野, 和歌
山, 鳥取, 岡山, 山口, 徳島, 愛媛, 佐賀, 大分の
団体が位置しており, 東北の一部, 日本
海側, 瀬戸内側の団体が多く含まれている。
第3象限は, 第1主成分がマイナスで, 第2主成分もマイナスなので, 「老年人口比率が高
い傾向にあり, 経済も弱い傾向がみられるが, 3次産業の側面が強い」 団体が位置している象
限と解釈することができる。 この第3象限には, 北海道, 青森, 秋田, 福井, 島根, 香川, 高
知, 長崎, 熊本, 宮崎, 鹿児島, 沖縄の
団体が位置しており, 北海道, 東北の北部, 島根,
高知, 九州の南部の団体にみられるように, 地形的にいえば日本の周辺部に位置する団体が多
く含まれている。
第4象限は, 第1主成分がプラスで, 第2主成分はマイナスなので, 「生産年齢人口比率が
高い傾向にあり, 経済力が強く, 3次産業の側面が強い」 団体が位置している象限と解釈する
地方政府における地方税収入構造の現状とその要因
表4
項
目
第1主成分
主成分得点表 (地域経済分析)
第2主成分
項
目
第1主成分
第2主成分
北海道
−
−
滋
賀
青
森
−
−
京
都
−
岩
手
−
大
阪
−
宮
城
−
兵
庫
秋
田
−
−
奈
良
山
形
−
和歌山
−
福
島
−
鳥
取
−
茨
城
島
根
−
栃
木
岡
山
−
群
馬
広
島
埼
玉
−
山
口
−
千
葉
−
徳
島
−
東
京
−
香
川
−
神奈川
−
愛
媛
−
−
−
−
−
−
新
潟
−
高
知
富
山
−
福
岡
石
川
−
佐
賀
−
福
井
−
長
崎
−
−
山
梨
熊
本
−
−
長
野
大
分
−
岐
阜
宮
崎
−
−
静
岡
鹿児島
−
−
愛
知
沖
−
−
三
重
−
−
縄
−
−
ことができる。 この第4象限には, 宮城, 埼玉, 千葉, 東京, 神奈川, 石川, 京都, 奈良, 大
阪, 広島, 福岡の
団体が位置しており, 東京, 大阪をはじめ, 「東京圏」, 「大阪圏」 に近接
する団体が多く含まれている。
もちろん, ここで示した類型は, あくまでも相対的なものであって, 固定的なものでないこ
とを指摘しておく。
このように, 主成分分析に基づいて, 地域経済構造を分析し,
都道府県を4つのグループ
に類型化することができた。 したがって, つぎに, 地域経済構造と地方税収入構造との関係を
詳細に分析することが必要となる。
立教経済学研究
図1
第
巻
第3号
年
主成分得点の分布図 (地域経済分析)
第1主成分
4
5. 主成分分析による地方税収入分析
5章では, 主成分分析によって, 地方税収入の構造分析をおこなうことにする。 地方税収入
のうち収入額の多い, 1人たり道府県民税 (個人分), 1人あたり事業税 (法人分), 1人あた
り地方消費税, 1人あたり自動車税, 1人あたり目的税を分析対象とした。 したがって, 分析
の目的は, これまで分析対象外であった目的税を分析対象に含め, 総合的な意味で, 主要地方
税収入項目に基づく,
都道府県における地方税収入構造の分析をおこなうことである。
地域経済構造の分析と同様, 地方税収入構造の分析においても相関行列方式を採用し, 固有
値が1以上となる上位2つの主成分を用いて分析している。 そして, 第1主成分, 第2主成分
ともに, 主成分得点を求め, この主成分得点に基づいて,
都道府県を類型化している。
表5は, 固有ベクトルを第1主成分, 第2主成分ごとにまとめたものである。 第1主成分の
固有値は
, 寄与率は
%である。 また, 第2主成分の固有値は
る。 したがって, 第1主成分, 第2主成分の合計による累積寄与率は,
, 寄与率は
%であ
%となっている。
第1主成分, 第2主成分ともに固有ベクトルの数値から, 各主成分の解釈をおこなうことが
できる。
第1主成分は, プラス側が, 1人あたり目的税以外のすべての項目となっており, マイナス
側は, 1人あたり目的税のみとなっている。 しかも, マイナス側の1人あたり目的税の数値は,
−
と小さいものである。 その意味から, 第1主成分は, 「主要普通税における税収入力」
地方政府における地方税収入構造の現状とその要因
表5
固有ベクトル表 (地方税収入分析)
固有ベクトル
第1主成分
固有ベクトル
第2主成分
1人あたり事業税(法人分)
1人あたり目的税
1人あたり地方消費税
1人あたり自動車税
1人あたり道府県民税(個人分)
1人あたり地方消費税
1人あたり自動車税
1人あたり事業税(法人分)
1人あたり目的税
−
1人あたり道府県民税(個人分)
−
を表しているものと解釈できる。
第2主成分は, プラス側が, 1人あたり目的税, 1人あたり自動車税などの数値が大きく,
マイナス側は, 1人あたり道府県民税 (個人分) のみである。 したがって, 第2主成分は,
「目的税的側面における税収入力」 を表しているものと解釈できる。 なお, 道府県税における
目的税 (特別区分を除く) には, 自動車取得税, 軽油引取税, 入猟税, 水利地益税が含まれて
おり, 「目的税的側面」 と解釈する場合, 自動車所有の状況や, 軽油引取に関する地域的状況
が影響を与えているものといえる。
そこで, 主成分得点を求め, 第1主成分, 第2主成分に基づいて,
都道府県を類型化する
ことにしよう。
表6は, 第1主成分, 第2主成分の主成分得点を一覧表にまとめたものである。 また, 図2
は, 第1主成分を横軸, そして, 第2主成分を縦軸にとり, 主成分得点のパターンを図示した
ものである。
第1主成分は, プラス側が, 「主要普通税における税収入力」 が強く, マイナス側は, 「主要
普通税における税収入力」 が弱いものと解釈できる。 第2主成分は, プラス側が, 「目的税的
側面の税収入力」 が強く, マイナス側は, 「目的税的側面の税収入力」 が弱いものと解釈でき
る。 それゆえ, 第1主成分を横軸に, また, 第2主成分を縦軸にとる場合, 横軸は, 「主要普
通税における税収入力」 の強弱, また, 縦軸は, 「目的税的側面の税収入力」 の強弱を表すこ
とになる。 したがって, それぞれの関係に基づき,
都道府県を4つのグループに類型化する
ことができる。
第1象限は, 第1主成分がプラスで, 第2主成分もプラスであることから, 「主要普通税に
おける税収入力が強く, 目的税的側面の税収入力も強い」 傾向をもつ団体が位置している象限
と解釈することができる。 この第1象限には, 宮城, 栃木, 群馬, 新潟, 富山, 石川, 福井,
山梨, 長野, 岐阜, 静岡, 愛知, 三重, 滋賀の
団体が位置しており, 北関東や中部地方の団
体が多く含まれている。
第2象限は, 第1主成分がマイナスで, 第2主成分はプラスであることから, 「主要普通税
における税収入力が弱いが, 目的税的側面の税収入力は強い」 傾向をもつ団体が位置している
立教経済学研究
表6
項
目
第1主成分
第
巻
第3号
年
主成分得点表 (地方税収入分析)
第2主成分
項
目
第1主成分
第2主成分
北海道
−
滋
賀
青
森
−
京
都
−
岩
手
−
大
阪
−
宮
城
兵
庫
−
秋
田
−
奈
良
−
−
山
形
−
和歌山
−
−
福
島
−
鳥
取
−
茨
城
−
島
根
−
栃
木
岡
山
−
群
馬
広
島
埼
玉
−
山
口
−
千
葉
−
徳
島
−
東
京
−
香
川
神奈川
−
愛
媛
−
−
−
−
−
−
−
新
潟
高
知
−
−
富
山
福
岡
−
−
石
川
佐
賀
−
福
井
長
崎
−
−
山
梨
熊
本
−
−
長
野
大
分
−
−
岐
阜
宮
崎
−
−
静
岡
鹿児島
−
−
愛
知
沖
−
−
三
重
縄
象限と解釈することができる。 この第2象限には, 北海道, 青森, 岩手, 秋田, 山形, 福島,
茨城, 鳥取, 岡山, 山口, 佐賀の
団体が位置しており, 北海道, そして, 宮城以外の東北の
団体が中心で, 日本の北東部 (北海道・東北地方) の団体が多く含まれている。
第3象限は, 第1主成分がマイナスで, 第2主成分もマイナスであることから, 「主要普通
税における税収入力が弱く, 目的税的側面の税収入力も弱い」 傾向をもつ団体が位置している
象限と解釈することができる。 この第3象限には, 埼玉, 奈良, 和歌山, 島根, 徳島, 愛媛,
高知, 福岡, 長崎, 熊本, 大分, 宮崎, 鹿児島, 沖縄の
団体が位置しており, 四国, 九州の
団体が中心で, 日本の南西部 (四国・九州地方) の団体が多く含まれている。
地方政府における地方税収入構造の現状とその要因
図2 主成分得点の分布図 (地方税収入分析)
第4象限は, 第1主成分がプラスで, 第2主成分はマイナスであることから, 「主要普通税
における税収入力が強いが, 目的税的側面の税収入力は弱い」 傾向をもつ団体が位置している
象限と解釈することができる。 この第4象限には, 千葉, 東京, 神奈川, 京都, 大阪, 兵庫,
広島, 香川の8団体が位置している。
なお, 地域経済構造の分析同様, 上記に示した類型は, 相対的なものであって, 固定的なも
のでないことを指摘しておく。
このように, 主成分分析に基づいて, 地域経済構造の分析と同様に地方税収入についても,
都道府県を4つのグループに類型化することができた。 そして, これらの分析から大変重要
な分析結果を得ることができた。
6. 分析結果および考察
これまでの分析結果を踏まえ, 以下においては, 地方政府における地方税収入構造の現状と
その要因に関する分析結果を整理し, 今後の方向性を論じることにする。
地方税収入の所得弾力性の分析では, 主要地方税収入の所得弾力性を比較検討した。 分析の
結果, 道府県税総額の所得弾力性の数値は1を下回っていたが, 道府県税総額を構成する主要
地方税収入の所得弾力性を推計すると, その数値が1を上回る項目が複数あった。 このうち,
数値の大きい上位2つの項目は, 事業税 (個人分), 道府県民税 (個人分) であったが, 法人
分は, 事業税, 道府県民税ともに個人分の数値を下回っていることが判明した。
立教経済学研究
第
巻
第3号
年
地方税収入の重回帰分析では, 主要地方税収入と地域経済との関係を分析した。 分析の結果,
主要地方税収入 (道府県税) と2次産業, 3次産業, 人口構成比率との関係を把握することが
可能となった。 そして, 主要地方税収入と経済項目との関係について, 説明変数 (経済項目)
で目的変数 (主要地方税収入) を説明する重回帰分析に基づく回帰係数を一覧表にして, その
傾向を把握することができた。
主成分分析による地域経済分析では, 地域経済構造の分析をおこない,
都道府県を4つの
グループに類型化して, 地域経済における都道府県の特徴を把握することができた。 具体的に
は, 第1主成分 (「人口構成比率と経済力」), 第2主成分 (「2次産業と3次産業との関係」)
を, それぞれ横軸と縦軸にとり, 4つの象限に位置する都道府県を各主成分の解釈に基づき分
類した。 まず, 第1象限は, 北関東や中部地方の団体が中心となっていた。 つぎに, 第2象限
には, 東北の一部, 日本海側, 瀬戸内側の団体が多く含まれていた。 また, 第3象限には, 北
海道, 東北の北部, 島根, 高知, 九州の南部の団体にみられるように, 地形的にいえば日本の
周辺部に位置する団体が多く含まれていた。 そして, 第4象限には, 東京, 大阪をはじめ,
「東京圏」, 「大阪圏」 に近接する団体が多く含まれていた。
主成分分析による地方税収入分析では, 地方税収入構造の分析をおこない, 地域経済構造の
分析と同様,
都道府県を4つのグループに類型化し, 地方税収入における都道府県の特徴を
把握することができた。 具体的には, 第1主成分 (「主要普通税における税収入力」), 第2主
成分 (「目的税的側面における税収入力」) を, それぞれ横軸と縦軸にとり, 4つの象限に位置
する都道府県を各主成分の解釈に基づき分類した。 まず, 第1象限には, 北関東や中部地方の
団体が多く含まれていた。 つぎに, 第2象限には, 北海道, そして, 宮城以外の東北の団体が
含まれており, 日本の北東部 (北海道・東北地方) の団体が多く含まれていた。 また, 第3象
限には, 四国, 九州の団体が多く含まれており, 日本の南西部 (四国・九州地方) の団体が多
く含まれていた。 そして, 第4象限には, 千葉, 東京, 神奈川, 京都, 大阪, 兵庫, 広島, 香
川の8団体が位置していた。
以上の分析結果をもとに, 地方税収入の充実に関する議論として, 都道府県の再編について
論ずることにする。
都道府県の再編に関する議論は, 「連邦制」 や 「道州制」 などの議論に基づく, 「州」 システ
ムの構築に向けての議論として把握することができるが, 都道府県システムから 「州」 システ
ムへの移行を議論する場合, 行財政運営における歳入面・歳出面での 「効果」 に基づく議論が
重要である。
行財政運営における歳入面・歳出面での 「効果」 とは, 歳入面では 「自主財源収入の充実」
であり, 歳出面では 「支出の効率化」 であるものといえる。 本論文の目的は, 都道府県のあり
方を, 地方税収入の充実との関連で把握し, 地域経済と地方税収入の構造をそれぞれ関連させ
て分析して, 今後の都道府県の再編に関する方向性を提示するものであった。 その意味で, 地
地方政府における地方税収入構造の現状とその要因
域経済と地方税収入の構造分析から, 都道府県間の組み合わせをおこなう場合の指針となりう
る, 都道府県の類型を提示することができた。
都道府県の組み合わせについては, 「自主財源収入の充実」 が図られるとともに, 「支出の効
率化」 が実現できる組み合わせが重要になってくる。 また, 地方税収入に与える地域経済の影
響が大きいことから, 都道府県を組み合わせる場合, 地域経済の産業構造や人口構成比率など
も考慮に入れて, 都道府県を組み合わせることが重要である。 そして, 企業立地・企業行動に
関する議論も重要である。 また, 都道府県を組み合わせた場合, 「州」 システムにおける 「州」
の数や 「州」 間のネットワークなどの構築も重要である。
さらに, 「地方政府」 の組み合わせに関する理論的根拠として, 「 最適
連邦構造」 などの
理論をどのように現実に位置づけるのかも重要である )。
そして, 「 最適
連邦構造」 の理論とともに, 自然・地理的条件, 文化, 歴史といった視点
をどのように位置づけるのか。 都道府県再編に関する議論において, 今後に残された課題は少
なくない。
7. おわりに
都道府県における地方税収入の充実を考察する場合, 地域経済と地方税収入における構造分
析をおこない, その相互関係を把握することが重要である。 その意味から, 本論文は, 地域経
済構造と地方税収入構造との関係に焦点を定め, 分析方法としては回帰分析, 主成分分析を用
いて, 地方税収入の充実に関する方法などを分析してきた。
今後は, 都道府県システムと 「州」 システムに関する分析, また, 市町村の再編による広域
化にともなう, 市町村と都道府県との関係についても分析することが重要である。 つまり,
「州」 システムの地方税収入に関する分析と, 各 「州」 に含まれる市町村の広域化による地方
税収入ならびに財政支出に関する分析が重要になるものといえる。
また, 地域的特色による 「地域間競争」 や 「地域間ネットワーク」 に関する分析も重要であ
) この 「 最適
連邦構造」 の確立には, 「人的移動の費用」, 「結託の可能性」, 「公共性の範囲」, 「行
政機構の規模の経済」 といった4つの要素が基礎的要素として重要視され, これら4つの要素は,
「生産資源の地域的固有性」, 「地域住民の同質性 (等質性)」, 「中央政府・地方政府の課税権に対する
明示的な憲法制限の有効性」 と一緒に取り入れなければならない, とされるものである。 この点につ
いて, 詳しくは, つぎの文献を参照のこと。
(深沢実・菊池威・平澤典男訳
年,
公共選択の租税理論―課税権の制限
また, 「州府制」 に基づく 「地域主権創造」 に関する文献として, 江口克彦
論
文眞堂,
ページ。)
研究所,
年をあげておく。
脱 「中央集権」 国家
立教経済学研究
第
巻
第3号
年
る。 つまり, これらの分析は, 都道府県再編による 「州」 の成立, そして, 「州」 の数, さら
には, 「州」 に含まれている市町村間のネットワークなどに関する分析とも関連してくる。 も
ちろん, 「州」 間のネットワーク分析も重要となるわけで, 企業立地・企業行動などを含めた
「地域間競争」 と広域行政との関係についての分析も重要である。
このように, 今後に残された課題は少なくないが, これらの課題については, 今後, 稿を改
めて論及することにしている。
Fly UP