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最終氷期の景観と先史狩猟採集民の暮らし

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最終氷期の景観と先史狩猟採集民の暮らし
神奈川県埋蔵文化財センター 平成 27 年度第 2 回考古学講座
平成 27 年 6 月 14 日(日)10:00~
最終氷期の景観と先史狩猟採集民の暮らし
-相模野台地を中心として-
相模原市教育委員会 中川真人
はじめに
1.最終氷期の気候変動と自然環境
・急上昇する気温と緩やかな寒冷化
-ダンスガード・サイクル-
・最寒冷期の植生環境
・動物相の変化 -大型絶滅動物から中型動物へのシフト-
2.最終氷期における相模野台地の形成史
・グローバルな気候変動に連動した相模野台地の形成
-相模川と富士山-
・富士相模川泥流堆積物と陽原段丘面の形成
・相模川流域沿いの段丘面形成と遺跡分布 -相模野第Ⅳ期-
3.旧石器時代の石器群の形成と移動生活
・石器のライフヒストリーと石器群の形成
・移動生活の中の石器づくり -石器の遺跡間接合-
・大規模遺跡の形成と回帰的な移動生活
4.田名向原遺跡住居状遺構
・住居状遺構の構成と尖頭器石器群の形成
・磨石状円礫と皮革処理
・住居状遺構形成の背景を探る
おわりに
1
暖い
田名向原遺跡
住居状遺構
寒い
暖い
寒い
第 1 図 酸素同位体比による気候変動
第 2 図 最終氷期の日本列島古地理図(相模原市 2009)
2
第 3 図 標高 2000mの針広混交林(日光白根山)
第 4 図 最終氷期の植物質食料
5万年前 4万年前 3万年前 2万年前 1万年前
北海道
本 州
九 州
マンモスゾウをともなう動物群
ナウマンゾウをともなう動物群
第 5 図 最終氷期の植生分布と動物種の棲息地域
(高橋 2011)
暖かい
相模野編年
0
礫群検出遺跡数(鈴木2006より)
50遺跡
(10,000年前)
縄文時代
ステージ1︵温暖期︶
寒い
第 6 図 最終氷期における 2 つの動物群の
時間的、地理的変遷(高橋 2011)
縄文草創期
礫群とイノシシの乳歯
Ⅴ期後半
イノシシ
Ⅴ期前半
小温暖期
寒冷期
Ⅳ期後半
ヒグマ
Ⅳ期前半
中型哺乳類
ニホンムカシジカ
絶滅大型哺乳類
最寒冷期
ステージ2 最終氷期︵寒冷期︶
旧石器時代後半期
(吉岡遺跡群C区 第Ⅲ期)
Ⅲ期
前半期
ステージ3
Ⅱ期後半
(30,000年前)
0
オオツノジカ
500基
礫群検出数(『研究紀要かながわの考古学』12より)
ナウマンゾウ
第 7 図 最終氷期の気候変動と動物相の変遷(高橋 2011 を元に作成)
3
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第 8 図 相模野台地の河成段丘面(相模原市 2009 を一部改変)
4
小倉原西遺跡
陽原面
第 9 図 相模川下流域の地形区分と最終氷期最寒冷期の古地理図(久保 1997 を一部加筆) 相模川
小倉原西遺跡
城山
小倉原西遺跡
泥流堆積物
串川
陽原段丘礫層
第 10 図 約 22,000 年前の富士相模川泥流堆積物(左上:相模原市 2009) 5
砂川遺跡
︵移住︶
︵移住︶
砂川型刃器技法
移 住 元
移 住 先
類型 A
個体別資料の類型
類型 B
類型 C
1:原石 2:打面調整剥片 3:石核
4:残核 5:素材 6:ナイフ形石器
第 11 図 ナイフ形石器の製作と遺跡間工程連鎖(安蒜 1992)
暖かい
相模野編年
0
礫群検出遺跡数(鈴木2006より)
※相模原市内遺跡出土石器
50遺跡
(10,000年前)
Ⅳ期後半
縄文時代
ステージ1︵温暖期︶
寒い
縄文草創期
礫群とイノシシの乳歯
Ⅴ期後半
Ⅳ期前半
Ⅴ期前半
Ⅳ期後半
Ⅳ期前半
Ⅲ期
Ⅲ期
最寒冷期
旧石器時代後半
ナイフ形石器文化期
小温暖期
寒冷期
ステージ2 最終氷期︵寒冷期︶
旧石器時代後半期
(吉岡遺跡群C区 第Ⅲ期)
前半期
ステージ3
Ⅱ期後半
(30,000年前)
0
500基
礫群検出数(『研究紀要かながわの考古学』12より)
0
(S=1/4)
10cm
富士黒土層
(縄文)
L1S 層
B0 層
L1H 層
B1 層
L2 層
B2 層
第 12 図 旧石器時代後半期の気候変動と石器群の変遷(写真:下森鹿島遺跡のローム層と石器分布) 6
硬質細粒凝灰岩接合資料
吉岡 B 区
用田鳥居前遺跡
珪質頁岩接合資料
1km
0
黄玉石接合資料
用田鳥居前遺跡出土
第 13 図 吉岡遺跡群 B 区と用田鳥居前遺跡の遺跡間接合(相模野第Ⅳ期前半:約 23,000 年前) 第 14 図 大規模遺跡の形成(海老名市柏ヶ谷長ヲサ遺跡 相模野第Ⅲ期) 7
石器原料消費途次段階の石核一括出土資料
チャート
頁 岩
石器集中部分布図
石核一括出土状況
黒色頁岩
硬質細粒凝灰岩
石英斑岩
多摩川水系(武蔵野台地) :チャート、頁岩
古利根川水系(武蔵野台地) :黒色頁岩
相模川・境川水系(相模野台地):硬質細粒凝灰岩
第 15 図 石器石材の搬入と石核の一括保管(相模原市下森鹿島遺跡 相模野第Ⅳ期前半) 8
田名原面
光明学園遺跡
田名塩田原遺跡
陽原面
陽原面
田名塩田遺跡群 B 地区
当麻遺跡第 1 地点
田名塩田遺跡群 A 地区第 1 地点
田名塩田遺跡群 A 地区第 4 地点
小段丘崖縁辺の礫層直上より出土する石器群(No.1 地点)
第 16 図 陽原段丘塩田原面群の段丘化過程と石器群の形成(相模原市田名塩田遺跡群 相模野第Ⅳ期後半) 9
原礫面
黒曜石原石の一括保管状況
信州系黒曜石の剥片剥離接合資料とナイフ形石器
第 17 図 黒曜石原石の一括保管と石器製作工程(田名塩田遺跡群 A 地区 相模野第Ⅳ期後半)
相模川流域
境川流域
第 18 図 黒曜石原産地と相模野台地における黒曜石利用状況(相模野第Ⅳ期後半)
10
台石
敲石
台石
敲石
尖頭器
ナイフ形石器
スクレイパー
楔形石器
彫器
RF
UF
剥片類
石核
外周円礫
(S=1/100)
※石核実測図はS=1/6
台石
敲石
台石
敲石
外周円礫を構成する石器原料(石核・剥片)
微細遺物サンプリング範囲
焼土
黒曜石微細遺物密度(岡澤2004・島田2004をトレース)
50≦n<150
30≦n<50
10≦n<30
1≦n<10
n<1
被熱黒曜石(坂下2008をトレース)
外周円礫を構成する磨石状円礫
(S=1/100)
黒曜石微細遺物密度と被熱黒曜石の分布
第 19 図 田名向原遺跡住居状遺構の構成(相模野第Ⅳ期後半) 11
第 20 図 田名塩田遺跡群の磨石状円礫出土状況(相模野第Ⅳ期後半)
第 21 図 北海道アイヌの皮革処理工程と砥石の利用(佐々木 1992 を一部改変)
12
(皮なめし?)
ニホンムカシジカ
住居状遺構の復元模型(屋根の覆いにシカ皮を想定)
(狩猟?)
第 22 図 田名向原遺跡住居状遺構の復元
田名向原遺跡の景観復元図
引用参考文献
安蒜政雄 1992「砂川遺跡における遺跡の形成過程と石器製作の作業体系」『駿台史学』86
大泰司紀之 1983「シカ」『縄文文化の研究』2
大泰司紀之 1990「旧石器遺跡の位置と狩猟獣の季節移動ルートに関する考察」『第四紀研究』29−3
工藤雄一郎 2012『旧石器・縄文時代の環境文化史』
国武貞克 2007「石材と行動」『ゼミナール旧石器考古学』
久保純子 1997「相模川下流平野の埋没段丘からみた酸素同位体ステージ 5a 以降の海水準変化と地形発達」『第四紀研究』36−3
公文富士夫・河合小百合・井内美郎 2009「野尻湖堆積物に基づく中部日本の過去」『旧石器研究』5
齋藤玲子 1998「極北地域における毛皮革の利用と技術」『北海道立北方民族博物館研究紀要』7
相模原市 2009『相模原市史 自然編』
坂下貴則 2008「黒曜石の被熱痕跡による田名向原旧石器時代住居状遺構の新しい解釈」『旧石器研究』4
佐々木史郎 1992「北海道・サハリン・アムール川流域における毛皮および皮革利用について」『狩猟と漁労』
佐藤宏之 1992『日本旧石器文化の構造と進化』
佐藤宏之 1996「社会構造」『石器文化研究』5
島田和高 1998「中部日本南部における旧石器地域社会の一様相」『駿台史学』102
島田和高 2008「黒燿石のふるまいと旧石器時代の住まい」『旧石器研究』4
鈴木次郎・矢島国男 1988「先土器時代の石器群とその編年」『日本考古学を学ぶ(1)』(新版)
諏訪間順 1988「相模野台地における石器群の変遷について」『神奈川考古』24
高橋啓一 2011「最終氷期の環日本海地域における大型哺乳動物相の変遷」『野と原の環境史』
多田隆治 1997「ダンスガード・サイクル」『科学』67−8
堤 隆 1996「遺跡の空間構造と遊動パターンについての素描」『石器文化研究』5
堤 隆 2000「掻器の機能と寒冷適応としての皮革利用システム」『考古学研究』47−2
中川真人 2013「2 万年前の生活」『考えよう!旧石器人のライフスタイル』
中川真人 2014「田名向原遺跡と小保戸遺跡」『石器文化研究』19
長崎潤一 2001「日本旧石器時代の社会と集団」『現代の考古学 6 村落と社会の考古学』
中沢祐一 2013「廃棄物形成から見た居住活動の組織化」『旧石器研究』9
野嶋洋子 2005「焼石調理の民族誌」『考古学ジャーナル』531
野嶋洋子 2007「集石の民族誌」『縄文時代の考古学』5
福澤仁之・斎藤耕志・藤原 治 2003「日本列島における更新世後期以降の気候変動のトリガーはなにか?」『第四紀研究』42−3
町田 洋 2009「富士・箱根火山の活動と相模原」『相模原市史 自然編』
吉田政行 2010「遺跡間接合にみる旧石器時代人の活動痕跡」『比較考古学の新地平』
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