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マーケットプレイス構築によるBtoBの流通改善の検証
2009年度 卒業論文 マーケットプレイス構築によるBtoBの流通改善の検証 指導教員 宮本 裕一郎 助教 上智大学 機械工学科 管理工学研究グループ A0671241 戸塚 佑貴 1 目次 第1章 序論 ...........................................................................................................................3 1.1. 背景 ............................................................................................................................3 1.2. 目的 ............................................................................................................................6 1.3. 構成 ............................................................................................................................6 第2章 電子商取引と流通構造について ...............................................................................7 2.1. 電子商取引 (Electronic Commerce) [2]. ...................................................................7 2.2. 流通構造に関して ......................................................................................................8 2.2.1. 3つの流通モデル ...................................................................................................8 2.2.2. 企業間電子商取引について(Business to Business) ..........................................8 2.2.3. 消費者間電子商取引に関して(Consumer to Consumer) ..................................8 2.2.4. 企業対消費者間取引(Business to Consumer) ...................................................9 2.2.5. 電子商取引の販売モデル例 .................................................................................. 10 2.3. 日本の流通構造 ....................................................................................................... 13 2.3.1. 中小企業・大企業の流通構造の違い ................................................................... 13 2.3.2. 日本のアパレルの市場規模[4] ............................................................................. 14 第3章 問題設定................................................................................................................. 15 3.1. 想定する小売業者と卸売業者について................................................................... 15 3.2. 仮想モデルにおける前提条件 ................................................................................. 16 第4章 仮想モデル上での検証 ........................................................................................... 18 4.1. 疑似モデル上での比較検証の概要 .......................................................................... 18 4.2. 数理モデルと入力数値 ............................................................................................ 18 4.2.1. 数理モデルについて ............................................................................................. 18 4.2.1. 入力数値について ................................................................................................ 20 4.3. 比較検証について ................................................................................................... 21 4.3.1. ある月の電子商取引の普及の前後の比較検証 ..................................................... 21 4.2.2 ある月の電子商取引普及前後の比較検証における結果 ..................................... 22 4.3.1 時間経過後の電子商取引普及の前後の比較検証 ................................................ 23 4.3.2 時間経過後電子商取引普及前後の比較検証結果 ................................................ 24 第5章 考察 ........................................................................................................................ 25 5.1 考察 ............................................................................................................................ 25 5.2 課題 ............................................................................................................................. 27 第6章 まとめ .................................................................................................................... 28 2 第1章 1.1. 序論 背景 2008 年の,日本の小売業の流通総額に対する電子商取引(Electronic Commerce) の割合は約 2%という規模に拡大している.全産業が衰退傾向にある中,直近 3 年 間で電子商取引(Electronic Commerce)の成長率は前年比 120%を維持して成長を 続けている.アメリカ,日本,ヨーロッパ等の先進国は勿論,東アジア・東南アジ アなどの発展途上国も含めて,電子商取引は人々の生活にはなくてはならないもの へと発展してきた. インターネットに接続できる端末は PC だけでなく,携帯電話にも拡張され、消 費者の購買動向は日々進化している.市場の変化に対して,PC・携帯電話を購買の 媒体として活用することが小売業者の販売拡大に必須である. インターネットを利用した電子商取引の普及により、限られた時間で多数の選択 肢から効果的な意思決定を消費者や仕入れ業者(小売業者)は出来るようになった. 特に小売業の総流通額が減少している中で,電子商取引を活用した販売促進は中小 企業を中心に無くてはならないものとなっている.以下の図1に消費者対企業間 (BtoC)の電子商取引の取扱高の推移を示す. 図1:BtoC の電子商取引における取扱高の推移について[1] 3 また,卸売業者と小売業者の企業間取引における電子商取引の成長が著しい.流 通額の成長率において、企業対消費者間の電子商取引と比較して、企業間取引の電 子商取引は 2 倍以上の成長を遂げている.消費者対企業間取引(BtoC)の電子商取引 と比較して、企業間取引(BtoB)の電子商取引の流通額規模は 10 分の 1 以下の規模 である.しかし、今後急成長が期待される分野である.本研究では急速に普及する 企業間取引(BtoB)の電子商取引を取り扱う. ここで、電子商取引普及前の従来における卸業者・小売業者の流通モデルを以下 の図 2 に示す. 図 2:電子商取引普及前の従来の卸業者・小売業者の流通モデル 図 2 の中の矢印は、小売業者が仕入れ先(卸業者)を選ぶ決定権の有することを 示している.また、各卸業者には各社で取扱うことができるキャパシティが存在す る.同様に、小売業者にも各社で取扱うことができるキャパシティが存在する.ま た、従来の手法では限られた数の卸業者・小売業者間で商取引が発生していた.図 2 の中での例として、小売業者群 A は卸業者群 A のみから商材を選択している.同 様に小業者群 B は卸業者群 B のみから、小業者群 C は卸業者群 C のみから商材を 4 選択するのが従来の手法である. 電子商取引が普及した現在、従来の手法と比較し、マーケットプレイスが構築さ れたことで流通モデルが変化している.マーケットプレイスとはWEB上の仮想市 場のことである.電子商取引普及後のマーケットプレイス構築後の流通モデルを以 下の図 3 示す. 図 3:電子商取引普及後におけるマーケットプレイス構築後の卸業者・小売業者の 流通モデル 図 2 と比較して図 3 では仮想市場(マーケットプレイス)が仲介することで、小 売業者はより多くの選択肢から商材を選択することが可能になった.自社のコンセ プトに合った商材を多くの選択肢の中から小売業者が従来と比較して発見できる ようになった.既に抱えている消費者に対して、より満足させる仕入れを小売業者 はマーケットプレイスを介して実現できる傾向にある.また、限られた数の小売業 者を卸業者は従来では候補としていた.マーケットプレイス構築後、卸業者もより 多くの小売業者へ販路拡大する方法として、この新しい手法を活用している.以上 より、卸業者・小売業者の両者に対して、電子商取引普及によるマーケットプレイ 5 スの構築は、商取引を促進する影響を与えている. 1.2. 目的 卸業者と小売業者の間で行われる企業間取引をマッチングモデルとして検証す ることを目的とする.また,アパレル商材、かつ同価格帯の商材の流通を想定する. 本研究では,仮想の流通モデル上において,企業間取引にマーケットプレイスを 導入前と後で想定流通量を検証する.また、マーケットプレイス導入前と後にそれ ぞれの時間経過後の想定流通量も検証することも目的とする. 1.3. 構成 本論文は以下のように構成されている.第2章では電子商取引と流通構造について, 前提や基礎知識として説明する.第3章では本研究で想定するマッチングモデルに おいての卸業者・小売業者の条件について述べる.第4章では本研究での数値計算 方法とその結果を述べる.第 5 章では各結果に対する考察を行う.第 6 章では本研 究のまとめを述べる. 6 第2章 電子商取引と流通構造について 本研究においての前提・基礎知識として,電子商取引と流通構造について述べる. 2.1. 電子商取引 (Electronic Commerce) 電子商取引とは,商業トランザクションが目的とされたビジネスアプリケーショ ンであり,情報産業(IT 産業)の一部である. 電子商取引は電子資金移動(EFT)、 サプライチェーン・マネジメント、電子マーケティング、オンラインマーケティン グ、オンライントランザクション処理、電子データ交換(EDI)、自動化された在庫 管理システム、および自動化されたデータ収集システムのいずれかであるとも言え る. また電子商取引は,Electronic Commerce と呼ばれており,EC と省略して表 記されることが多い.本論文では電子商取引と以下では統一して表記する. また、 電子商取引といっても広義に渡るが、サプライチェーン・マネジメント、電子マー ケティング、オンラインマーケティング等の流通機能を代替する部分を主に取り扱 う.電子資金移動(EFT)で扱われるような決済機能を代替する電子マネーは,本 研究では扱わない. 電子商取引を考える際、そこに携わるプレイヤーとして、買い手、売り手、仲介 業者の 3 者が想定できる.売り手と買い手をマッチングさせるマーケットプレイス を運営する仲介業者が存在する.手数料が発生するが、それ以上に両者ともにスケ ールメリットが享受されるため既存取引と並行して、電子商取引は普及している. また前述した通り、手数料が発生するため、元々利幅の大きい商材が流通しやす い仕組みである.故に、電子商取引の取扱高の 30%~40%はアパレル商材が占めて いる[2]. 7 2.2. 流通構造に関して 2.2.1. 3つの流通モデル 流通構造の過程を次の三つの取引体系で大きく分ける. 企業間取引(BtoB)、消費者対企業間取引(BtoC)、消費者間取引(CtoC)の三つであ る.以下で,それぞれの電子商取引について述べる. 2.2.2. 企業間電子商取引について(Business to Business) 企業間は、 Business to Business と称され B to B, B2B と略記されることがある. 従って企業間電子商取引は B to B の Electronic Commerce と呼ばれる.主に製造 業者対卸業者、卸業者対小売業者、製造業者対小売業者の組み合わせが考えられる. 本研究では,主に卸業者対小売業者を企業間取引として述べる.売り手側(卸売 業者)は WEB 上の仮想市場(マーケットプレイス)に自社の商品を出品すること で販路を拡大し、買い手側(小売業者)はより多くの選択肢から商品を仕入れるこ とが可能になる.現在,C to C 電子商取引や B to C 電子商取引と比較すると日本 での普及率は著しく低い.しかし,B to B 電子商取引の成長率では,B to C,C to C の電子商取引と比較して,最も高い成長率である.この企業間取引の電子商取引に 導入を本研究で扱う. 2.2.3. 消費者間電子商取引に関して(Consumer to Consumer) 消費者間は、Consumer to Consumer と称され C to C, C2C と略記されることが ある.消費者間電子取引は C to C の Electronic Commerce と呼ばれる.一般的に ネットオークションの事を指し、日本において直近 10 年で爆発的な普及を遂げて いる. 成長のトレンドにおいては,C to C 電子商取引の 2009 年の総取扱高は前年比で 微減しており,成長は鈍化している.とはいえ,消費者の多様化する購買動向のひ とつとして,注目されている流通モデルである. 具体的な例を挙げると,消費者は不要になった所有物を不特定多数の消費者に向 けて,WEB 上の仮想市場(マーケットプレイス)に出品する.それを求める複数 の消費者がオークション形式で落札する.従来では捨てられていた商材に付加価値 が付随して消費者間で流通する仕組みは,環境問題などの観点からも高く評価され ている. 8 2.2.4. 企業対消費者間取引(Business to Consumer) 企業対消費者間は、Business to Consumer と称され B to C, B2C と略記される ことがある.消費者間電子取引は B to C の Electronic Commerce と呼ばれる. 小売業者がマーケットプレイス(仮想市場)に商材を出品する.地域に根差した 実店舗ではリーチ不可能な広範囲の消費者に対して小売業者は販売促進ができる ようになった.また、実際に店舗に行かなくても WEB 上で数多くの選択肢から, 実店舗に訪れなくても消費者は商材を購入できるようになった. 2000 年前半から爆発的に普及し、現在では小売市場の約 2%を占める規模に成長 している.電子商取引の中でも最も流通額規模の大きいものがこの企業体消費者間 取引(B to C)である. 9 2.2.5. 電子商取引の販売モデル例 一部前述もしたが、電子商取引に関する主要サービスを挙げる. 日本の BtoC の電子商取引の販売モデルとしてマーケットプレイス型の販売モデ ルがある.不特定多数の小売業者と不特定多数の消費者をマッチングさせる機能を BtoC のマーケットプレイスは有している.N 対 N の BtoC の電子商取引とも呼ば れる.マーケットプレイス型の電子商取引の概要図を以下の図 4 に示す. 図 4:BtoC における N 対 N のマーケットプレイス型のモデルの概要図 上記の図 4 のように,消費者は仮想市場(マーケットプレイス)介して多数の卸 業者から選択することで、小売業者から商品を購入できる.サービスの事例として、 楽天、ヤフーショッピング等がこのマーケットプレイス型の販売モデルである. 10 サイト運営者である 1 社が売主となり、消費者にWEB上で販売する形態を売主 型の販売モデルと呼ばれている.仲介業者が入らない 1 対 N の流通モデルである. 売主型の販売モデルとして概要図として、図 5 に示す. 図 5:BtoC における 1 対 N の売主型の販売モデルの概要図 マーケットプレイス型と大きく異なる点は、仲介業者が存在しないことである. 1 社の小売業者が不特定多数の消費者に対して WEB 上で販売するモデルである. 売主型の販売モデルのサービス事例として、Amazon.co.jp、ユニクロの自社電子 商取引サイトが挙げられる. 11 また BtoB の電子商取引の販売形態について述べる.BtoB の電子商取引において はマーケットプレイス型のみが普及している.マーケットプレイス型に関して図式 化すると以下になる. 図 6:BtoB における N 対 N のマーケットプレイス型のモデルの概要図 不特定多数の卸業者と不特定多数の小売業者をマッチングさせる機能を仮想市 場(マーケットプレイス)は有している.本研究ではこのモデルを扱う. 12 2.3. 2.3.1. 日本の流通構造 中小企業・大企業の流通構造の違い 企業間取引(BtoB)においての流通構造の違いを説明する.卸業界における大企業 は、従来から多くの取引先を有している.卸売業界全体の流通額が減少しても中小 比べて経営難に陥りにくい.同様に小売業界全体が衰退しても、既に強い販売網を 有している小売業界の大企業は倒産などの深刻な状況に陥りにくい. それに対して、卸業界・小売業界の中小企業は元々の売上が大企業に比べ少なく、 不況などによる影響を最も受けやすい状況である.故に不況や経営難から脱するた めに、中小企業は大企業と比較して新しい手法の導入にも肯定的である.従って、 電子商取引の導入に対して、積極的に活用する企業は中小企業が中心となる.本研 究で扱うアパレル業界においても同様のことが言える. 従って、本研究で扱う卸業者・小売業者は全て中小企業を想定する. 13 2.3.2. 日本のアパレルの市場規模[4] 本研究では日本のアパレルの市場を題材として取り上げる.理由としては前述し た通り元々利幅が大きい業界であるため、電子商取引等の仲介料が発生する試みに 対しても比較的先進的な業界である.また実際に電子商取引上の流通額も他の業界 よりも多い. アパレル業界の市場規模と市場の推移について述べる.アパレルの小売業の市場 規模は約 10 兆円であり、その内訳はレディースアパレルが 7.5 兆円、メンズアパ レルが 2.5 兆円となっており、メンズアパレルに対してレディースアパレルの流通 額は 3 倍である.また、全流通額の 80%が大手百貨店やデパート、大手製造小売業 者で構成されており、本研究で扱う中小企業は小売全体の流通額の 20%を流通させ ている.故にアパレル業界において、中小企業の小売業者が扱う総流通額は約 2 兆 円である. またアパレルの卸業界について述べる.小売市場に対して、アパレルの卸売業の 市場は 60%である.従って、アパレルの卸売業全体の市場規模は 6 兆円である.小 売と同じく、卸売業の市場規模における中小企業が取り扱う割合が全体の 20%であ る.故にアパレルの卸売業において、中小企業が取扱う双竜都賀区は 1 兆~1.2 兆 である. 14 第 3 章 問題設定 本論文において対象とする卸業者・小売業者について述べる. 3.1. 想定する小売業者と卸売業者について 本研究では,アパレル業界の小売業者と卸売業者の企業間取引を想定する.また 実際に電子商取引の普及によるマーケットプレイスを活用している企業は中小企 業が中心である.故に,想定する小売業者と卸売業者は中小企業とする. アパレル業界を取扱う理由としては二点ある.1点目として,BtoC,BtoB それ ぞれの電子商取引において,他ジャンルと比較した時にアパレル商材が最も普及し ている.2 点目として,マーケットプレイスを通すと仲介料が発生するため,企業 間取引においても利幅が大きいアパレル商材は今後成長が見込めるためである. 本研究では,卸業者 50、小売業者 150 をマッチングとしてモデル化する.実際 の卸サイトにおける同じ価格帯のワンピースを扱う卸業者・小売業者のプレイヤー 数を参考にしている. 15 3.2. 仮想モデルにおける前提条件 モデル上での取引においての前提条件を説明する. 以下の図 7 を用いて本研究でのモデル上の条件を説明する.図 7 では例として、 卸業者が 2、小売業者が 3 という状況を想定する. 図 7:アーク・ノードで表わした流通モデル まず図 7 内のノード、アークについて説明する. またノードとはネットワーク問題などで用いられる.無向グラフが連結であり閉 路を含まない時,木(ツリー)と呼ばれ木の点をノードと呼ばれる[2].またノード 同士を繋ぐものアーク,もしくはパスと呼ばれる. 卸業者に関して述べる.図 7 の左側ノード群は卸業者群である.ここでは卸業者 A、卸業者 B が存在し、それぞれに生産量として値が与えられている.卸業者 A の 生産量は 180,卸業者 B の生産量が 220 である.それぞれ与えられている生産量以 上の量を各卸業者は流通させることはできないとする. 小売業者に関して述べる.図 7 の右側のノード群は小売業者群である.ここでは 16 小売業者 C、小売業者 D、小売業者 E が存在する.小売業者 C の販売量は 120、小 売業者 D の販売量は 80、小売業者 E の販売量は 110 である.それぞれ与えられてい る販売量以上の量を流通させることはできない. 商材が流通する方向に関しては、矢印の方向が示すように、企業間取引において も小売業者が決定権を有するとする. 各企業間に与えられている相性について述べる.各小売業者・各卸業者間には相 性が存在する.図 7 に示すように、卸業者 A と小売業者 C の相性が 1.13、卸業者 B と小売業者 D の相性が 1.05、卸業者 B と小売業者 E の相性が 0.80 で与えられて いるとする.相性が流通モデル上でどのように作用するかは以下の図 8 に示す. 図 8:モデル上での相性の作用について 上記の図 8 は、1 か月後の各小売業者の販売量を図 7 に付与したものである. 相性の作用について述べる. 図 8 の中の例として、小売業者 C に注目する.小売業者 C は卸業者 A から 120 の商材を仕入れたとする.図 8 中にも示してあるが、その際の卸業者 A と小売業者 C の相性は 1.13 である.この条件がある月に商取引が発生したとすると、1 ヶ月後 の販売量に変化が生じるとする.ここで小売業者 A の翌月の販売量は 135 となる. 小売業者 C が卸業者 A から仕入れた量の 120 と企業間の相性 1.13 の積によって決 定されるため、翌月の販売量は、135 となっている.同様に小売業者 D、小売業者 E についても翌月の流通量は変化する. 17 第 4 章 仮想モデル上での検証 問題設定したモデルを仮想モデル上で検証する. 4.1. 疑似モデル上での比較検証の概要 比較実験における 1 点目は、電子商取引普及によるマーケットプレイス導入前と 後で、ある月の総流通量で比較する. 比較実験における 2 点目は、電子商取引普及によるマーケットプレイス導入前と 後で商材を流通させ、さらに翌月の流通量を比較する. 上記 2 点を仮想モデル上で検証する. 4.2. 数理モデルと入力数値 数理モデルと入力数値に関しての記述する. 4.2.1. 数理モデルについて 第 3 章で定義した条件を元に数理モデル化する. 必要な条件が与えられた卸業者、小売業者が存在する擬似モデル上で商品の流通 量を測定するための数理モデルが以下の図 9 になる. 図 9:数理モデルについて 18 要約すると以下の条件が示されている. 目的関数について述べる.目的関数は「ノード間に流れる流通量」と「各ノード 間に設定された相性」の積の総和である.目的関数が最大化するように変数は決定 される. 制約式は各卸業側のノード(卸業者)は生産量を超える量を流通させることはで きない.同様に、各小売業者のノードは販売量を超える量を流通させることは出来 ない.また、小売業者・卸業者間の流通量はゼロ以上であるとする. 19 4.2.1. 入力数値について 生産量、販売量、相性において、入力する数値について説明する. 180~240 の値で発生させた一様の乱数を各卸業者 50 社の生産量として与えた. 60~80 の値で発生させた一様の乱数を各小売業者 150 社の販売量として与えた. 0.8~1.2 の値で発生させた一様の乱数を各企業間の相性として与えた. 相性に関する例として、以下の図 10 に示す. 図 10:ノード間の相性の例 こちらの相性は卸売業者 5,小売業者 15 の場合は 75 通りの定数が設定されている. 0.8~1.2 の値の一様の乱数によって与えられたものである.前述したようにこの「相 性」は、 「各小売業者の 1 ヶ月後の販売量」を定義するもので、 「現在の販売量」と 「相性」の積がそれにあたる. 20 4.3. 比較検証について 比較検証実験に関して述べる. 4.3.1. ある月の電子商取引の普及の前後の比較検証 電子商取引の普及の前後の比較検証を行う. 電子商取引普及前の環境を定義する.卸業者 5 社と小売業者 15 社の市場が 10 個 あり、その 10 個の総和が卸業者 50 社と小売業者 150 社の総流通量と定義する. 次に、電子商取引普及後の環境を定義する.電子商取引普及により今まで独立し て取引が発生していた 10 個の市場をWEB上で一元化が可能なため、50 社と 150 社を一つの市場と捉える. 従って、電子商取引普及による比較実験は、5 社×15 社の疑似モデルを 10 個の 流通量の総和、50 社×150 社の疑似モデルの流通量の比較ということになる. また、ここで 電子商取引普及前の全流通量を W 電子商取引普及後の全流通量を X と定義する. 以下の図 11 に電子商取引普及前と普及後のそれぞれの仮想モデルのイメージを 示す.図 11 の左が電子商取引普及前を示しており、電子商取引普及後を示してい る. 図 11:電子商取引普及前後それぞれの仮想モデルのイメージ 21 4.2.2 ある月の電子商取引普及前後の比較検証における結果 結果は以下である. 電子商取引前の 10 個のモデルの総流通量: W=10,568 電子商取引後のモデルの総流通量: X=11,498 電子商取引普及による総流通量の増加率 109%以上である. また結果を図 12 に示す. 図 12:EC 普及前後の流通量比較実験結果 EC 導入後の方が市場に流通した量は多いという結果である. 考察に関しては後述する. 22 4.3.1 時間経過後の電子商取引普及の前後の比較検証 時間経過後の電子商取引の普及の前後の比較検証を行う.時間経過後の各小売の 販売量の変化に関しては前述した「相性」で設定されている倍率によって変化する. また、ここで 電子商取引普及前の 1 か月経過後の全流通量を Y 電子商取引普及後の 1 カ月経過後の全流通量を Z と定義する. 下記の図に先ほどの結果と共に、Y,Z を記すと以下のようになる. W,X,Y,Z の関係を以下の図 13 に示す. 図 13:時間経過後の電子商取引の普及の前後の比較検証実験の前提 また W,X,Y,Z の関係は,上記図のようになり,時間軸と EC 普及軸で4つに分け られていることがわかる. 23 4.3.2 時間経過後電子商取引普及前後の比較検証結果 結果は以下である. 電子商取引普及前の 1 か月経過後の全流通量 10,290 電子商取引普及後の 1 カ月経過後の全流通量 11,788 また結果を図 14 に示す. 図 14:時間経過後の EC 普及前後の流通量比較実験結果 結果としては、電子商取引未普及前提での時間経過後の流通量は減少.また、電子 商取引普及前提での時間経過後の流通量は増加.考察に関しては後述する. 24 第 5 章 考察 5.1 考察 疑似モデル上で以下の 2 点の比較検証をした.電子商取引の普及・未普及の流通 量の比較検証時間経過後の電子商取引の普及・未普及の流通量の比較検証また下記 のように想定される流通量を W,X,Y,Z と置いた.各流通量を以下の図 15 に示す. 図 15:結果の図式化 25 図 15 にも表わされる記号の定義は以下である. 電子商取引普及前のある月の全流通量を W 電子商取引普及後のある月全流通量を X 電子商取引普及前の翌月の全流通量を Y 電子商取引普及後の翌月の全流通量を Z となる. 電子商取引普及前と後のある月の流通量を比較検証した. 仮説として,小売業者・卸業者がそれぞれの選択肢が拡大したことで W<X が成り立つことが想定できる. 結果として W=10,568 X= 11,498 実際に検証した結果、上記の式は成り立った. 故に今回の条件設定において、電子商取引普及による選択肢の拡大は全体の市場 の流通量増加に効果をもたらすということが言える. また 2 番目の仮説として、電子商取引普及により、より多くの卸業者から商材を 選び、自社が抱える消費者に対してより売れるであろう商材を選びやすくなること で、結果的に時間経過後、リピート率増加などによる小売の販売量の増加が見込め るとう仮説があった.この仮説に関しては数式で表すと、 電子商取引普及前での時間経過前後での成長率 X/W 電子商取引普及後での時間経過前後での成長率 Z/Y と表記した際 X/W< Z/Y を証明することで、成り立つと言える. 結果としては Y/W= 0.973 Z/X =1.025 26 という数値が得られ、上記の数式を満たしている.故に 2 番目の仮説も疑似モデル 上では成立した.故に、電子商取引の普及はアパレル業界の中小企業間の直近の取 引を活性化させ、流通量を増加させる効果があり、また消費者により合った商材を 提供できることから、時間経過後の各小売の購買力も高めることができる. 5.2 課題 時間経過後の流通量に関してだが、本研究の設定では時間経過が進むほど無限に 販売量が増えてしまうため、長期の時間軸を加味すると現実的に適用できない.実 取引のより現実的な制約条件の導入、相性が時間とともに収束するような性質を定 義するなどで補う必要がある. また、今回の検証実験は同品種同価格と想定したため、発展形として多品種(複 数価格)に対応していない.多品種の商材の流通を考慮した場合を想定した流通モ デルは本研究の発展形になるかと思われる. 検証実験における数値を乱数で発生させたため、現実的なデータで検証したい. 実際の電子商取引サイトにおける実データを元に実験するとことで現実のデータ と比較することができる. 実験におけるツールに関してだが、数理計算ソフトのバッチ処理を有効活用すれ ば実験時間をより短縮でき、複数のモデルで試すことができたと思われる.実験に 使うソフトウェアの予備知識の習得は必須と感じる. 27 第 6 章 まとめ 本研究ではアパレル業界の小売業者,卸業者の企業間取引において,電子商取引 普及によるマーケットプレイス導入前と後の状況を想定した.その上で,仮想モデ ル上の導入前後で流通量を比較検証した. 本研究で提案した手法は,ソルバーで与えた数値計算を行い比較した結果,マー ケットプレイス導入は全体の流通量増加に繋がっていることが確認できた. 今回は同品種の商材を想定したので,本研究の発展としては多品種の商材におけ るマーケットプレイス構築による仮想モデルの検証などが本研究の発展形になり える. 28 謝辞 本研究を進めるにあたり,終始丁寧にご指導をいただきました宮本裕一郎助教に 深く感謝の意を表します. また,研究全般にわたり有益なご助言をいただきました伊呂原隆准教授に深く感 謝の意を表します. その他,本論文をまとめるにあたり,お世話になりました管理工学講座の皆様に深 く御礼申し上げます. 29 参考文献 [1] 経済産業省:「平成20年度我が国のIT利活用に関する調査研究」(電子商取 引に関する市場調査)の結果公表について http://www.meti.go.jp/press/20091014003/20091014003.html [2] 大出版社,『ザ・バイヤー2009』,大出版社,2009. [3] J.Kleinberg and E.Tardos(浅野考夫・浅野泰仁・小野考男・平田富男):『アル ゴリズムデザイン』,共立出版,2008. [4] 繊研新聞社 編集局:『 最新〈業界の常識〉よくわかるアパレル業界,繊研新 聞社,2009. 30