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用地取得における土地改良事業の創設換地との
用地取得における土地改良事業 の創設換地との効果的業務調整 戸嶋 用地部 用地対策課 大介・難波 英行 (〒950-8801 新潟県新潟市中央区美咲町 1-1-1) 北陸地方整備局が施行する公共事業に必要な用地の取得と、土地改良法に基づく土地改良 事業の施行が重複する場合、通常の用地取得とは異なる方法により、事業用地を確保できる 手法が存在し、通常よりも効率よく事業用地を確保できるメリットが考えられる。しかし、 事案としては少ないこともあり、そのような用地取得の手法に関する事務取扱い等が定めら れていない。 近年、事業化された箇所において、土地改良事業との協調による用地取得が見られた。今 後、他の事業でも同様の事案が生じた場合にも活用できるよう事務取扱いの考え方を整理す る必要があると考え、平成25年度用地部勉強会において過去の事例調査等を行い、一連の 手続の流れを整理するとともに、制度上の問題点を考察したものである。 キーワード 創設換地 土地改良事業 事務取扱 そこで、用地部において職員のスキルアップを目 的として行われている平成25年度用地部勉強会に おいて、土地改良事業との協調により公共事業に必 要となる土地を生みだす「創設換地」という手続に 公共事業に伴い必要となる土地等を取得する場合、 ついて、過去の事務処理実態等を調査し、管内各事 一般的な手法としては、起業者と被補償者とで個別 務所の参考となるよう手順等の整理を行った。 交渉を行い、土地売買契約等を締結することにより、 被補償者から事業用地の引渡しを受けるものである。 土地改良法(昭和24年法律第195号)に基づ 2.土地改良事業について く土地改良事業が進められようとしている地域にお いて、通常の用地取得の手法とは別に、公共事業と 土地改良事業との協調による用地取得の手法も存在 する。しかし、土地改良事業は私たちにとっては馴 (1) 土地改良事業とは 染みがなく、どのような手続なのかもよくわからな 土地改良事業は、土地改良法でその実施に関す い。北陸地方整備局管内においても、過去に土地改 る手続が規定されている。農業の生産性の向上を 良事業との協調により用地を取得した事例が見られ 図るとともに、農村地域での生活環境の改善と活 るものの、現在、具体的な事務取扱い等は定められ 性化を促すため、圃場整備や農道の整備等、農業 ていない。 生産に必要となる土地や水を確保・整備すること ただ、土地改良事業と協調することにより、通常 を目的とする事業である。 よりも簡潔かつ短期間である程度まとまった用地の 実施主体は、国、都道府県、市町村、土地改良 確保が可能となるため、この手法の流れ等を整理し 区等となるが、事業の規模、技術的難易度等によ ておけば、活用しやすくなるのではないかと考えら って異なる。 れる。 1.はじめに 公共事業に伴い必要となる用地を土地改良事業 との協調により取得するには、どのような手続が 必要か。そのキーワードが『換地』という手続で ある。 (2) 換地処分について 換地とは、土地改良事業における特別な手続で ある。対象となる地域内において、従前よりも耕 作しやすくなるように農地等の配置・形状等を見 直した計画を策定し、その計画に基づいて工事す る。そして、工事後の農地の土地所有者や耕作者 等の権利関係を一括して決定するというものであ る。 基本的には、農地等の区画変更後においても、 その所有者や耕作者には面積等従前と同じ条件の 土地が充てられ(相対換地)、形状等がよりよくな った土地で耕作を継続するものである。 【換地前の土地の配置】 (3)創設換地について 上記(2)のとおり、通常は農地を再配置する相対 換地が多いが、従前の農地の全部又は一部を減ら すことにより、従前は存在していなかった施設用 地を生み出す場合もある。このような換地の手法 を『創設換地』という。 創設換地によって、農業生産に役立つ施設用地 (揚水機場、ライスセンター等)を生み出すこと が多いが、その他にも国道や河川の用地に必要と なる土地を捻出することがある。これが公共事業 と土地改良事業との協調=「創設換地による用地 取得」である。 【創設換地により国道敷を生み出すイメージ】 (「図解換地計画の手引き」全国土地改良事業団体連合会 P26 より) 【換地後の土地の配置】 (「図解換地計画の手引き」全国土地改良事業団体連合会 P26 より) (4)創設換地による用地取得のメリット 創設換地による用地取得には次のようなメリッ トが考えられる。 ①代替地や残地の問題が生じない 土地改良事業施行者が対象地域内の農地等の再 配置計画を検討する中で、農地等の所有者には土 地改良後の土地の割当てが決められていることが 前提となるため、代替地要望は発生しない。 また、土地改良事業対象地域内の土地は無駄な く有効活用されるのは言うまでもなく、土地所有 者にとって、耕作等が不便な残地が生じることが 少なくなる。 代替地や残地の問題は、用地交渉が長引く要因 となり得るため、このような問題が生じないとい うメリットは大きい。 ②契約手続や登記手続の簡素化 通常の用地取得では、各地権者と個別に用地交 渉、土地売買契約、取得した土地の登記手続を行 うことになる。 しかし、創設換地による用地取得では、土地改 良事業施行者の土地改良法に基づいた一元的な行 政手続で完了し、公共事業に必要となる土地の確 保が可能となる。 このように事務量が大幅に減少することも、大 きなメリットといえる。 3.創設換地による用地取得の流れ 公共事業施行者が「創設換地による用地取得」 を行おうとする場合、土地改良事業施行者と調整 を図りながら手続を進めることとなる。公共事業 施行者、土地改良事業施行者双方の主な手続の手 順は以下のとおりである。 (表-1のとおり) 表-1(創設換地による用地取得の流れ) 土地改良事業 土地改良事業施行者 公共事業施行者 の流れ の主な手続 の主な手続 事業調整 計画概要の公告 事業計画段階 非農用地区域の設定 創設換地取得の内諾 用地測量 土地評価 事業計画の認可申請 創設換地に関する覚書等の締結 不換地・特別減歩の同意書 徴収 換地原案の作成 事業施行段階 一時利用地の指定 創設換地に関する協定書等の締結 創設事業用地の引渡し 創設事業用地の引受け 土地代金の支払 確定測量 換地計画決定 創設換地取得の同意 換地処分の公告 事業確定 清算金の徴収・支払 ・清算段階 換地処分の登記 登記(所有権保存登記) 4.創設換地による用地取得制度上の留意 事項について 上記3のような手順で手続を進めるに当たり、以 下のような留意点及び制度上の問題点等が考えられ る。 (1)土地改良事業施行者との事前協議(事前調整)に ついて 創設換地による用地取得では、事業スケジュー ル等、様々な面において土地改良事業施行者との 調整が不可欠となる。このような手法を選択した 場合、個別交渉を行うよりも時間短縮が見込まれ る等、用地取得上のメリットが期待できるが、土 地改良事業施行者と事前協議を行い、事業計画(施 工範囲、事業スケジュール等)の摺合せが可能か 否かの観点から、慎重に判断する必要がある。 併せて、事業担当課と用地担当課との内部の事 業調整(予算措置、用地取得時期等)を十分に図 っておく必要がある。 (2)用地測量について 用地測量段階では、土地改良事業の工事前の土 地の現況を測量する。測量の実施に当たっては、 土地改良事業施行者側の測量データとの整合を図 る必要がある。 また、土地改良事業の工事後は、土地の配置・ 形状が大幅に変わり、新たな地番が付されること になる。そのため、換地処分後の公図等も上記の 測量成果と併せて保管・管理しておく必要がある。 (3) 土地評価について 土地評価段階では、土地改良事業の工事前の現 況地目で評価することとなる。 土地の価格協議は、原則、土地改良事業施行者 と行う。ただ、土地改良事業施行者との価格協議 において、関係地権者の同意を得て貰いたいとの 申出がなされる場合がある。 そのような場合には、公共事業施行者は、土地 改良事業施行者と連携し、関係地権者に対して土 地価格説明会等を実施する必要がある。 (4)覚書等の締結について 土地改良事業施行者と創設換地による用地取得 の方針等(取得金額、取得範囲、契約手法、契約 条件等)を確認するため、創設換地に関する覚書 等を締結する。 各土地改良事業施行者によって、運用方法が異 なることから、覚書等により契約手法・契約条件 等を明確にしておく必要がある。 この覚書に基づき、以下の手続を行うことにな る。 (5)不換地・特別減歩の同意書徴収の確認について 創設換地により公共事業に必要な用地(以下「創 設事業用地」という。 )を生み出すには、従前の農 地の全部又は一部の面積を減らし、公共事業に必 要となる土地を捻出することについて、当該土地 改良事業区域内の農地所有者から「不換地同意」 又は「特別減歩同意」を得ることが必要となる。 この同意を得るために、農地所有者から同意書 を徴収する作業は、土地改良事業施行者が行うこ ととなる。 創設換地は、換地を定めないとされる土地の面 積(同意を得られた面積)以上の換地はできない ため、公共事業に必要な面積が確保されているか 確認しておく必要がある。 この同意書徴収の確認は重要な事項であり、契 約条件の一つとして覚書・協定書等に明記し、土 地改良事業施行者に対して確認又は同意書(写し) の提出を求めることができるようにしておくこと が重要である。 この協定書等により、公共事業施行者は創設事業 用地を取得し、その対価として土地代金を支払うこ とになる。 (8)創設事業用地の引渡しについて 上記(6)のとおり、公共事業施行者が、換地処分前 に創設事業用地の引渡しを受けるには、従前の土地 の権利関係者に対して、一時利用地の指定等の処分 (従前の土地の使用収益の停止処分)がなされてい ることが必要となる。 この一時利用地の指定等の結果生じた空地は、土 地改良法第53条の7の規定により、土地改良事業 施行者が管理することになる。 (6)一時利用地の指定等の確認について 土地改良事業施行者は、この管理権に基づき創設 公共事業施行者が、換地処分前に創設事業用地 事業用地を引き渡すことになる。 の引渡しを受けるには、従前の土地の権利関係者 しかし、当該土地にかかる登記は換地処分に基づ に対して、一時利用地の指定等の処分を行い、従 き行うことになるので、それまでは公共事業施行者 前の土地の使用及び収益を停止させる必要がある。 の所有権は確定せず、従前の土地所有者の登記名義 この処分は土地改良事業施行者が行うことになる。 は残ったままとなる。 a)営農を希望する者(換地希望、特別減歩同意者) そのため、公共事業施行者は、換地処分前の創設 ・暫定的に別の土地で使用及び収益をしてもら 事業用地の引渡しにおいては、従前の土地所有者の うために、一時利用地の指定を行う。 登記名義が残ったままの土地の引渡しを受けること ・指定後、従前の土地の使用及び収益の停止処 になる。 分を行う。 この換地処分前の創設事業用地の引渡し等につい b)営農を希望しない者(不換地同意者) て、土地改良法に明確な規定がない。 ・従前の土地の使用及び収益の停止処分を行う。 そのため、引渡しを受けた土地の権原を確実に取 ・その対価として、仮清算金を支払う。 得できるよう、土地改良法第54条の2の規定に基 づき、換地処分の公告の翌日をもって公共事業施行 この手続は、換地処分前に行う処分等により従前 者が所有権を取得する旨を覚書・協定等により定め の土地の権利関係者に損失を与えることのないよう ておくことが重要である。 にするための措置である。 創設事業用地の引渡しを受けるに当たっては、一 (9) 土地代金の支払について 時利用地の指定等の処分がなされた土地であるかど 公共事業施行者は、創設事業用地の引渡しを受 うか確認しておく必要がある。 け、その対価として土地代金(負担金)を支払う この一時利用地の指定等の確認は重要な事項であ ことになる。 り、契約条件の一つとして覚書・協定書等に明記し、 従前の土地所有者(不換地同意者・特別減歩同 土地改良事業施行者に対して指定状況を確認できる 意者)に対しては、公共事業施行者の負担金を原 ようにしておくことが重要である。 資として土地改良事業施行者から仮清算金が支払 われることになる。 (7)協定書等の締結について 土地改良事業施行者と下記要件が調った段階で、 (10)換地処分の公告・登記について 創設換地に関する協定書等を締結することになる。 土地改良事業施行範囲内の工事完了後、換地処 a) 不換地同意書等の徴収(前提条件) 分が行われる。換地処分は、土地改良事業で見直 b) 一時利用地の指定等の処分の完了 された土地の権利者が確定する行政処分であり、 c) 公共事業施行者の予算措置がなされたとき 知事の換地処分の公告により効力が発生するもの d) 創設事業用地の確定がなされたとき である。 この換地処分により、公共事業施行者の創設換 地で取得した用地の所有権が確定し、換地処分の 登記を行うことで一連の手続が完了する。 なお、土地改良事業施行者が行う換地処分によ る登記は表示登記までであり、所有権保存登記は 公共事業施行者が自ら行い、第三者への対抗要件 を備える必要がある。 5.今後の取組について 創設換地による用地取得業務を進める上での留意 事項や制度上の課題等を検討の上、創設換地に関す る事務取扱要領等の制定が必要と考える。 まずは、平成25年度の用地部勉強会でとりまと めた手続フロー及び留意事項等について、更なる精 緻化を図り、各事務所の用地担当課へ周知して行き たいと考えている。 【用地部勉強会のとりまとめ成果】 a) 創設換地による用地取得手続フローの作成 b) 創設換地による用地取得手続に関する留意事 項 c) 各県毎の契約様式の整理 d) 各県毎の土地改良事業の取扱い通知等の整理 6.まとめ 創設換地による用地取得は、公共事業で必要とな る用地をある程度まとめて確保できるため、用地取 得に携わる者にとっては、魅力的な手法に見える。 ただ、例えば、換地処分前の創設事業用地の引渡 しについては、土地改良法上に明確な規定がないこ とから、各土地改良事業施行者によって運用方法が 異なることが考えられる。 また、役割分担もしっかりと確認しておく必要が ある。特に、農地を減らした分公共事業用地を捻出 することについての同意を得るという作業は、個別 交渉に相当するような作業である。それを土地改良 事業施行者が担当することが原則であるが、任せき りにならないような配慮と連携が必要と考える。 このように、実際に創設換地制度を活用して用地 取得を行う場合には、手続や運用、役割分担の詳細 について、土地改良事業施行者等に事前に確認して おくことが重要である。 また、土地改良事業施行者と公共事業の適切な調 整を図る意味においても統一的な運用制度の早期確 立が必要なものと思料される。 (参考文献) 森田昇「創設換地による公共用地の取得について」月刊用地 1976 年 8 月号