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食の安全に関する状況報告
食の安全に関する状況報告 Fact sheet on Food safety November 2014 鍵となる事実 ● 十分な量の安全で影響下の高い食料を入手できることが、生命を維持し、 健康を増進するための鍵である。 ● 有害な細菌、ウイルス、寄生虫あるいは化学物質を含む安全でない食品 は、下痢から癌に至るまで200種類以上の病気を引起し得る。 ● 食品媒介性および水系感染の下痢性疾患によって、多くの子供達を含め、 年間で推計200万人が死亡している。 ● 食品の安全性、栄養および食料安全保障は表裏一体である。安全でない 食品は、病気と栄養失調の悪循環を形成し、とくに乳児、幼児、高齢者 および病人に影響を与える。 ● 食品媒介性疾患は、医療システムに負担を掛けることによって社会経済 的発展を妨げ、国民経済、観光および貿易を損なう。 ● 食料供給網は現在複数の国境を越えている。政府、生産者および消費者 の間の適切な協力は食品安全の確保に役立つ。 ――――――――――――――――――――――― 主要な食品媒介性疾患とその原因 食品媒介性疾患は、通常、感染や中毒であり、汚染された食物や水を介して 体内に入る細菌、ウイルス、寄生虫や化学物質によって引き起こされる。 食品媒介性病原体は、重度の下痢や髄膜炎を含む消耗性感染症引き起こし得 る。化学物質汚染は、急性中毒または癌などの長期的な病気につながることが ある。食品媒介性疾患は、長期的障害や死亡につながる可能性がある。安全で ない食品の例として、動物由来の未調理食品、糞便に汚染された野菜や果物、 海洋生物毒を含む生の魚介類などがある。 -1- 細菌: ● サルモネラ、カンピロバクターおよび腸管出血性大腸菌は、毎年何百万 の人々が罹患し、時々重症化して死亡することもある最も一般的な食品 媒介性疾患の一つである。症状は、発熱、頭痛、吐き気、嘔吐、腹痛お よび下痢である。サルモネラ症の発生に関与する食品には、卵、家禽、 動物由来のその他の製品がある。カンピロバクターによる食品媒介性疾 患例は、主に生乳、生または加熱不十分な家禽肉、ならびに飲用水によ って引起される。腸管出血性大腸菌は、未殺菌牛乳、加熱不十分な肉な らびに生の果物や野菜が関係している。 ● リステリア感染は、絶妊娠中の女性に予期せぬ流産や新生児の死亡を引 起す。この病気の発生は比較的低いが、リステリアがとくに乳幼児、小 児および高齢者に深刻な病気、時々致命的な帰結をもたらすので、最も 重大な食品媒介性疾患の中に入れられている。リステリア菌は、未殺菌 の乳製品や様々な調理済み食品で見つかり、冷蔵温度で発育することが できる。 ● コレラ菌は、汚染された水や食品を介して人々に感染する。症状には、 腹痛、嘔吐および重度の脱水を招き死につながる可能性がある多量の水 様性下痢が含まれる。米、野菜、雑穀の粥、ならびに様々な種類の魚介 類がコレラの発生に関与している。 抗生物質などの抗菌薬、細菌によって引き起こされる感染症を治療するため に不可欠である。しかしながら、動物薬および人体薬の濫用と誤用は耐性菌の 発生と広がりに関連しており、動物およびヒトにおける感染症治療の無効化が 起きている。耐性菌は動物を通して食料供給網に入り込む(たとえば鶏を通し てサルモネラ)。抗菌薬耐性は、現代医学に対する主な脅威の1つである。 ウイルス: -2- ノロウイルス感染症は、吐き気、激しい嘔吐、水様性下痢、腹痛によって特 徴付けられる。A 型肝炎ウイルスは、長期的な肝臓病を引き起こし、通常は生 または加熱不十分な魚介類あるいは汚染された生の製品を通して感染する。感 染した食品取扱者がしばしば食品汚染源となる。 寄生虫: 魚媒介性吸虫など一部の寄生虫は、食品を介してのみ伝播される。たとえば エキノコックスは、食品および動物との直接接触を介して人に感染する。回虫、 クリプトスポリジウムなど赤痢アメーバやジアルジアなどその他の寄生虫は、 水や土を介して食料供給網に入り、生鮮食材を汚染し得る。 プリオン: 蛋白質から成る感染性病原体プリオンは、神経変性疾患の特定の型に関連付 けられている独特のものである。牛海綿状脳症(BSE、または「狂牛病」)は、 ヒトの変異型クロイツフェルト・ヤコブ病 (vCJD)に関連付けられている牛のプ リオン病である。たとえば脳組織など特定危険物質を含む牛由来食品の喫食は、 異常プリオンのヒトへの伝達の可能性が最も高い経路である。 化学物質: 健康に対して最も懸念されるのは、自然毒と環境汚染物質である。 ● 自然毒には、カビ毒、海洋生物毒、青酸配糖体、毒キノコが産生する毒 素が含まれる。トウモロコシや穀物などの主食は、アフラトキシンやオ クラトキシンなどのカビ毒を高濃度に含むことがある。長期曝露は、免 疫システムと正常な発育に影響し、癌を引き起こすことがある。 ● 残留性有機汚染物質(POP: Persistent organic pollutant)は、環境や 人体に蓄積される化合物である。既知の例には、産業工程や廃棄物焼却 の不必要な副産物であるダイオキシン類およびポリ塩化ビフェニル (PCBs)がある。それらは世界中の環境で見つかり、動物の食物連鎖 -3- に蓄積されている。ダイオキシンは非常に有毒で、生殖と発達の問題、 免疫システムの損傷、ホルモンへの干渉ならびに癌を引き起こす。 ● 鉛、カドミウム、水銀などの重金属は、神経および腎臓の損傷を引き起 こす。食品の重金属汚染は、空気、水および土の汚染によって主に発生 する。 (つづく 2015/3/16) 発展する世界と食品の安全性 安全な食品の供給は、国民経済、貿易および観光を支え、食品と栄養の安全 保障に貢献し、持続可能な発展を支える。 都市化および旅行を含めて消費者習慣の変化は、公共の場所で調理された食 品を購入して食べる人々の数を増やしてきた。国際化が食品の消費者需要をよ り幅広くしており、国際的食料供給網が益々複雑化して長くなっている。 世界人口が増えるにつれ、食料需要の増加を満たすための農業および動物生 産の集約化と工業化が、食品安全の機会と課題の両方を作り出している。気候 変動が食品の安全性に影響することも想定され、気温の変化は食料の生産、保 管および流通に関連する食品安全のリスクを変化させる。 これらの課題は、食品の安全性を確保するために食料生産者と取扱者により 大きな責任を課している。生産物の流通の速度と範囲のため、地域的事故が直 ちに国際的緊急事態に発展し得る。深刻な食品媒介性疾患の流行が過去10年間 において全ての大陸で発生し、国際化した貿易によってしばしば増幅される。 その例としては、2008年のメラミンによる乳児用粉乳の汚染(中国だけで も300,000名の乳児と幼児に影響を与え、6名が死亡した)、2011年のドイツにお ける汚染されたフェヌグリークもやしと関連した腸管出血性大腸菌大腸菌の流 行はヨーロッパと北アメリカの8ヶ国で症例が報告され、53名が死亡した。2011 年のドイツにおける大腸菌の流行は、農家と業者に対する13億ドルの損害賠償、 -4- 欧州連合加盟22ヶ国に対する緊急援助の支払い2億3600万ドルを引き起こした。 食品の安全性:公衆衛生上の優先事項 安全でない食品は、国際的な健康の脅威をもたらし、全ての者を危険に晒す。 乳児、幼児、妊娠女性、高齢者および基礎疾患のある者は、とくに脆弱である。 食品媒介性および水系の下痢疾患は、多くの子供達を含めとくに発展途上国 において、毎年推定200万人を殺している。安全でない食品は、最も脆弱な人々 の栄養状態を脅かす下痢と栄養失調の悪循環を作り出す。 食料供給が不安定な場合、人々は健康的でない食事に傾き、「安全でない食 品」を食べることになり、化学的、微生物学的およびその他の危害が健康上の リスクをもたらす。 食料供給網全体に亘って食料生産者と供給者が責任を持って活動し安全な 食料を消費者に供給することを保証する効果的な食品安全システムを確立して 実施する政策および法的枠組みを策定する中枢的役割を果たすように、政府は 食品の安全性を公衆衛生の優先事項としなければならない。 食料は、生産と流通の任意の点で汚染される可能性があり、一時的責任は食 料生産者にある。食品媒介性疾患の事故の大部分は、家庭、食品サービス施設 や市場において不適切に調理されたかまたは誤って取扱われた食品によって引 き起こされている。自分の健康とより広範な地域社会を護るため、食品を購入、 販売および調理する際基本的な衛生慣行を採用するなど、自らが果たすべき役 割を全ての食品取扱者と消費者が理解しているとは言えない。 誰もが食品の安全化に貢献できる。いくつかの効果的な行動の例を以下に挙 げる。 政策立案者は次のことができる。 ● 緊急事態の最中においても、食料供給網全体を通して食品安全上のリス クに対処して管理するための適切な食料システムと社会的基盤(たとえ -5- ば研究所)を構築して維持する。 ● より適切なコミュニケーションと共同行動のため、公衆衛生、動物衛生、 農業およびその他の部門の間の多部門の連携を促進する。 ● 食品安全をより広範な食品政策プログラム(たとえば栄養と食料安全保 障)に統合する。 ● 国内的食品生産が国際的に安全であることを保証するため、地球規模で 考え地域的に行動する。 食品取扱者と消費者は次のことができる。 ● 自分が使う食品を知る(食品包装のラベルを読む、情報に基づいて選択 する、一般的な食品の危害に精通する) ● 食品を安全に取扱い調理し、家庭であるいはレストランや地元の市場で 販売する時、WHOの「食品をより安全にする5つの鍵」を実践する。 ● 微生物汚染を減少させるため、WHOの「果物と野菜をより安全に育て る5つの鍵」を用いて果物と野菜を育てる。 WHOの対応 WHOは安全でない食料と関連する公衆衛生上の脅威の国際的予防、発見お よび対応の促進を目指している。消費者の当局に対する信頼および安全な食料 供給の信用を確保することは、WHOが達成するために活動した成果である。 これを成し遂げるため、WHOは、加盟国が以下のことによる食品媒介性リ スクを予防、発見および管理する能力を構築する手助けを行う。 ● どこに由来しようと食品が安全であることを確保するため、コーデック ス委員会として知られる国際的な食品の基準、指針および勧告の基礎を 形成する微生物学的および化学的危害に関する独立した科学的査定を 提供する。 ● 遺伝子組み換えやナノテクノロジーなどの食料生産に使用される新しい -6- 技術の安全性を査定する。 ● 国の食料システムと法的枠組みを改善し、食品安全上のリスクを管理す る適切な社会的基盤を実施するのを支援する。国際食品安全機関連携網 (INFOSAN)は、食品安全上の緊急事態に迅速に情報を共有するため にWHOとFAOによって構築された。 ● 系統的な疾病予防と注意喚起プログラム、およびWHOの「食品をより 安全にする5つの鍵」のメッセージおよび訓練教材を通して、安全な食 品の取扱いを推進する。 ● 保健上の安全保障の重要な要素として食の安全を提唱し、国際保健規則 (IHR - 2005年)に沿って食品の安全性を国の政策とプログラムに統合 することを提唱する。 WHOは、生産から消費までの食料供給網全体を通して食品の安全性を確保 するために、FAO、OIEおよびその他の国際機関と密接に共同作業を行う。 -7-