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岐路に立つ世界と 日本 - 生命保険文化センター

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岐路に立つ世界と 日本 - 生命保険文化センター
昭和55年度
公 開 講演 会 記 録
一昭和55年10月24日/於・富国生命本社28階会議室
「岐路に立つ世界と日本」
加 藤 寛
(慶応義塾大学教授)
いま日本と世界がどこにいるのかということからまず考えてみたい
と思います。世界はあるところまでは農業時代でございましたから、
農業を中心とする経済が発展をしてまいりました。その農業を中心と
する経済というのは、土地を中心にしている経済でございまして、そ
の土地というものを私達はつねに中心にしながら、生産を進めてまい
りますから、その生産はいつでも土地というものに限定され、したが
って土地収穫の逓減の法則が働いていることは、皆様方がよくご承知
の点でございます。そこであるところまではぐんぐん発展をしてまい
りますけれども、あるところまでまいりますと、発展のスピードが落
ちてまいります。その落ちてくるということは、次第に農業時代が行
き詰まってくるわけでございますからその行き詰まりました農業時代
がさらに発展をしていくためには、工業化の力を借りなければいけな
いのは言うまでもございません。
そこで工業化が進んでくることになるわけですが、その工業化の特
ー159−
岐路に立つ世界と日本
色は、簡単に言ってしまえば、土地に縛られるのではなくて、大量に
生産をして安く提供するということです。
このような工業化もやはりある限度がまいりますと、次第に発展の
スピードが落ちてくるわけでありますが、日本がそうした転換点に入
りましたのは、言うまでもなく49年でございますけれども、もうちょ
っと早く言いますと_、45年ごろからだいたいこういう転換点があらわ
れております。
45年という年は、皆様方がご記憶になっていると思いますけれども、
日本がそれまで国際収支が赤字であったのが、この年を境にして国際
収支は黒字に転換いたします。そしてその国際収支が黒字に転換する
だけではなくて、日本全体として福祉を要求する声が強くなってきま
す。
このような転換点は、さらに公害問題が大きくなることによって、
明らかになったわけでございまして、この45年から6年にかけまして、
日本では公害反対運動が激しくなります。どうして公害反対運動が激
しくなったのかと言いますと、この時代はすでに三C時代を迎えてい
るのでございまして、自動車そしてカラ、−テレビ、クーラーという形
でもって、三Cというものが非常に大きな時代の波に乗っております。
公害反対ということは昔からございました。おそらく皆様方ご承知
の例では、足尾鋼山というひとつの公害の歴史がありますが、その公
害の足尾銅山以来すでに100年をたっているのですけれども、公害問題
が全国的な規模で広がったのは、このときがはじめてなのでございま
す。それまでは公害問題というのは地方に限られた問題でございまし
て、ローカルな問題として扱われています。それがいまここでローカ
ルな問題から全国的な規模に広がりました。
それはひとつの事件をきっかけとしたのでございます。ご承知の杉
−160−
岐路に立つ世界と日本
並における、女学生がハタハタと倒れたという、光化学スモッグ事件
がその発端なのでございます。光化学スモッグ事件が起きますと、こ
れは自動車が原因であるとみんな思いはじめます。そこで自動車がそ
の犯人だということになりまして、自動車が普及していたからこそ全
国的問題になったのでございまして、もし三C時代というものがなか
ったら、公害反対運動が全国的に広がることは、まだなかったのでは
ないかと私は考えています。
あるいは消費者運動がこのころから激しくなってきます。消費者運
動はマッチ売りの時代から主婦連が手がけてまいりましたけれども、
これが大きな全国的な波に乗るのには、やはノりひとつの事件をきっか
けといたしました。それはカラーテレビの二重価格事件でございます。
カラーテレビが二重価格事件を起こしたときに、いまやカラーテレビ
は大きなひとつの市場となっておりましたから、どうしてこんな問題
が起きるのかということで、みんなの意識が高まるのでございます。
ですから三C時代を迎えていたから、公害反対が激しくなり、消費
者運動が全国的に広がったのだと、私達は考えることができるのでご
ざいますが、さらにクーラーが普及する時期に入っていました。した
がって住宅の不備が間頴になってまいります。そのような都市化がど
んどん進んでいくときに、不備な形の住宅ではクーラーは効果を発揮
いたしません。あるいはクーラーというものを使わなければいけなく
なるということは、風通しが悪くなる都市化時代の反映でございまし
た。こうしてクーラーの時代に入れば入るほど、人々は新しい時代に
きていることに気がつき、都市化時代の過密というものがなにをもた
らすかに、みんな気づいたのであります。
こうして三C時代というものがひとつのきっかけになりまして、日
本に新しい時代がきたことを告げます。しかしその新しい時代がきた
−161−
岐路に立つ世界と日本
ことを告げたにもかかわらず、日本の企業はまだ本格的にそのことに
気がついておりません。
そうしてこの45、6年から起こってきた大きな波に、大企業を中心
として「企業は悪である山という考え方で、人々は接してしまうこと
になるのであります。これは不幸をことでありました。私はそうした
状況というものが、けっしてよかったと思っておりません。しかし企
業自身がまだその時代の変化に気がついていなかったのですから、そ
れはやむを得なかったかもしれません。
そうして石油ショックを迎えました。この石油危機がきたときに、
はじめて企業は大きな批判にさらされました。石油会社は恵である、
こういう考え方によって、三C時代から変化をしてきた日本経済が大
きな変容を遂げることになるのであります。
49年から日本だけではもちろんありませんが、次第に成長が下がっ
ていくという形によって、工業化時代の終焉を告げてきたのでありま
す。このときに起っこてまいりましたのが、新しい波でありました。
これを最近トフラーが「第三の波」と名づけております。
そんなわけで「第三の披」という時代がすでに迫ってまいりました。
この「第三の披」の時代の特色はなんでございましょう。皆様方もお
読みになった方がおいでになると思いますから、詳し−くは説明いたし
ませんけれども、簡単にまとめて申し上げるとこうなります。
それは所得水準が上がっている時代でございます。そして余暇が増
加している時代でございます。そして家族を大切にしようと考える時
代でございます。このような理屈につきましては、皆様方が本をお読
みになっていただいて、さらにたしかめていただきたいのでございま
すけれども、簡単に申し上げれば、所得水準が上がって余暇がふえて
く。余暇がふえてくるということから、人々は会社だけが自分の生活
−162−
岐路に立つ世界と日本
ではなくて、家族も大切なものと考えるようになる。したがって会社
中心から家族を考える時代に入りますから、家族の問題がいろいろと
登場してきて、ここに新しい「第三の波」の時代が起こったのでござ
います。
ということは、消費も大きく変わっているわけでございまして、こ
の「第三の波」の時代の消費は、消費者の気持をいかにうまくつかま
えていくかということが、企業にとっては大切な仕事になってまいり
ます。大量生産で安く売るということは、もはや「第三の披」の時代
の特色ではございません。これからどうやって「第三の波」に合うよ
うな企業が成長してくるかということが、大切なのでございます。
一つの例をあげた方がもっとおわかりいただけるかと思います。吉
野家さんが経営不振に陥りました。なぜ吉野家さんが経営不振に陥っ
たのだろうかといいますと、皆様方はいろんなことをご承知だろうと
思います。アメリ別こ支店を作ったからいけないんだとか、あるいは
いろんなところにどんどん店を拡充したことが間違いであるとおっし
ゃると思います。しかしもうひとつもっと重要なことは、吉野家さん
が発展をしていくときに、いま私の申し上げた三つの発展段階が、そ
れぞれ吉野家さんのなかにあらわれてるのでございます。
吉野家さんは創業80年の歴史をもちまして、農業時代の手づくりか
らはじまりました。したがってその手づくりの考え方をもっている吉
野家さんは、なんとかして牛井をおいしくみんなに食べてもらおうと
考えました。そこでご承知のように、牛肉をなるべく安く仕入れて、
その安い牛肉をおいしく食べてもらうために、たれのなかにワインを
入れて、それをおいしくいたしました。そうしてそのころはまだお米
が安かったものですから、そのお米を使って牛井を作っていったので
ございます。
−163−
岐路に立つ世界と日本
ところがこのようなことでもって、吉野家の牛井はおいしいぞとい
う名声が高まるにつれて、吉野家さんは考えます。大量生産をしたら
もっともうかるんじゃないか、考えた吉野家さんは大量生産に踏みき
ります。そうなりますと牛肉だってそうそう簡単に安く手に入るわけ
ではありません。吉野家さんは乾燥肉を使うようになりました。そう
してさらにワインを使っていては金がかかりますから使わなくなりま
した。そしてお米も値段が上がってきますから、なるべく安くお米を
手に入れるためには、結局売れないで残っている古米を使わざるを得
なくなりました。
こうして吉野家は、味は落ちますけれども、しかし安いということ
をひとつの建前にして、売っていくのでございます。
このようなことが行なわれていきますから、次第に問題が起こって
きます。なぜかといいますと、所得が上がっているわけですから、安
いからいいというわけではないわけです。もうひとつは、余暇がふえ
ておりますから、こんなに目の前で出されて食べて、はいさようなら
という形の食事の仕方というのは、だんだんと人々には嫌われていく
ことになります。
そうすると、いちばん先にこういう店に行かなくなるのは女性でご
ざいます。なぜ女性が行かなくなるかと言えば、女性は比較的所得水
準があり、しかも今日の場合は余暇があり、食事を前にして喋ること
の楽しみがあるわけでございますから、女性はこういうところには面
白くないので行きません。女性が行かなければ家族を連れて行くとい
うことはありません。
ファミリーレストランが伸びていく時代に、なぜ吉野家さんが外食
産業として伸びられなかったか、という理屈が出てきているのでござ
いまして、もし私に吉野家さんを立直らせろと言われましたら、この
−164−
岐路に立つ世界と日本
二つの時代をはっきりと考えてみることが必要だと思っています。
つまり工業化時代にやらなければなりませんことは、それは大量生
産の時代でございますから、これでやっていくならば、当然吉野家さ
んは単身所帯を相手にしなければいけないと思います。つまり単身所
帯が都市にふえているのでございますから。しかも日曜日は食事がで
きなくて困る方が多いのでございますカこら、そういう単身アパートが
たくさんあるところに店を作るべきであります。そして単身所帯でご
ざいますから、それはおかずが月火水木金土日と毎日同じものを出し
てはいけない。牛井一筋ではあるけれども、その牛井に選択をある程
度加えまして、ほかのセントラルキッチンが作った物をここに入れて
いくことによって、メニューの多様化をはかるべきでございますごそ
れをやることによって、単身所帯を相手にした吉野家さんが成り立つ
わけです。もしそれがいやならば、吉野家さんはファミリーレストラ
ンとしてやり方を変えなければなりません。
こういう具合に、企業が発展するかしないかということのひとつは、
時代の動きに対してどこまでついていくことができるかでございます。
いま私は損保とかあるいは生保といったものも、こういったひとつ
の時代にぶつかったことを皆様方がお気づきになっていると思います。
それは生保がたとえばいろいろと契約を結ぶときに、その契約から消
費者が問題を出してまいります。このような生保の保険契約書という
のは、裏を見るといろんなことが書いてあるけれども、細かくて見え
やしない。わざと見えないように書いてあるんじゃないか、というよ
うなことを言われるようになります。
こういうように消費者からいろいろ文句が出てくる時代になってい
るということが、非常に重要なことでございまして、それをトフラー
はプロシューマーと名づけていることは、皆様方もご承知でございま
−165−
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しょう。プロシューマーと申しますのは、プロデューサーのプロ、そ
してコンシューマーのシューマ一、合わせましてプロシューマーでご
ざいます。
つまり農業時代には自給自足時代というのがございましたが、いま
の時代はむしろプロシューマーの時代でありまして、生産をする者と
消費をする者とが一体になろうとしている時代であります。したがっ
て自給自足時代は物がない時代の自給自足でありますが、第三の波の
時代には、物が大量にある時代の消費者と生産者の一体化、つまり自
給自足時代に入ってるのであります。日曜大工がはやったり、あるい
は手づくりの時代と言われるのは、まさにそうした動きのひとつがあ
らわれているのでございますが、これは私達の大きな消費の変化を意
味しているのでございまして、私なりの表現を使いますと、「CDE
FGH」これが私はこれからの時代の消費だといつも言っているので
ございます。
ご承知の方がおいでになれば、ちょっと重なって恐縮でございます
けれども、「CDEFGH」、つまりCはクリーンでございます。きれ
いでありたい。お化粧品が売れるのもそのひとつでございますし、あ
るいはそのクリーンということでもって、私達はなるべく町をきれい
にしたいとか、あるいはきれいな包装にしたいとかいうような考え方
がございます。
さらに二番目にはディフェンスを重んずる時代になりました。ディ
フェンスというのは安全、防衛でございます。国の防衛も必要です。
あるいは地震が起こった時の対策も必要です。あるいは火事になった
時の対策も必要です。そういうことを含めまして、たとえば化学染料
にいたしましても、あるいは化学薬品にいたしましても、安全性が追
求されるというのは、まさにそうした時代のひとつのあらわれだとい
−166−
岐路に立つ世界と日本
うことになります。
Eはエデュケーションの時代になりました。皆様方もおそらくそう
いうご経験があると思いますけれども、たとえば観光旅行に行くとい
うときだって、ただ観光旅行に行くということの喜びは、いまはなく
なっているのでございます。海外ツアーを作るときも、あるいはいろ
いろな国内旅行のツアーをいたしますときも、エデュケーションを組
み込んでいかないと売れない時代になってまいりました。つまりそこ
へ行くことによって、なにかプラスになるということが、なければい
けなくなってるのでございますね。
あるいは皆様方は生保の関係の方でございますから、.その意味では
高齢化社会に興味をおもちの方が多いと思いますが、日本でよく高齢
化社会、高齢化社会はたいへんだと、言うんですね。私は、いったい
どういうふうな意味で高齢化社会ですかと聞きますと、たいていは統
計をお出しになって、60歳以上が何パーセントです。65歳以上が何パ
ーセントです。そして急激にそうなるから高齢化社会ですと、こうお
っしゃるんですね。私は間違っているんじゃないかと思います。
というのは、ヨーロッパの方々が60歳以上というときと、日本人が
60歳以上というときでは、明らかに歴史的段階が違います。つまりヨ
ーロッパの方々が60歳になったときには、人生50年の意味での60歳で
ございます。いま私達の日本では人生50年ではございません。ご承知
のように、平均寿命は世界一でございます。その世界一になった日本
の平均寿命のなかでもって、どうしてヨーロッパと同じ統計を使って、
60歳以上が高齢者と言わなきゃいかんのでございましょう。日本で高
齢者と言ったらば、私の感覚では80歳以上でございます。つまり80歳
以上ならば、ヨーロッパの60歳以上の人と同じくらいでございます。
日本では60、70では老人じゃございません。むしろもう元気いっぱい
−167−
岐路に立つ世界と日本
で、経験豊富でおおいに活躍したい方がたくさんいらっしゃる。です
から高齢化社会のほんとうの意味は、私は雇用問題だと考えています。
つまり雇用というものがじゅうぶんにできているならば、高齢化、
高齢化と少しも心配することはないのであります。厚生省が発表する
統計だけを見まして、ヨーロッパと同じように65歳以上が10%を超え
ますから、日本も高齢化社会ですなんていう必要もございません。80歳
以上をもし高齢者と考えるならば、日本の統計からいったってちっと
も高齢化社会じゃございません。ということは、55歳か60歳で定年に
なってから、その80歳までの間の職業がないからたいへんなんです。
その職業をどうやって作り出すかということさえ考えれば、私達は少
しも驚くことはないのでございます。
エデュケーションということを私があえて申し上げましたのは、い
まになってから急にみんなあわてまして、生涯教育だなんていうこと
を言うのでございます。そして定年間際になりますと三つの選択があ
って、一つの通は子会社に行くことである。もう一つは、もしこの会
社にいたいならば、賃金は半分になるけれども、そのままいてもけっ
こうです。それでもいやな方は自分でなにか資格を得なさい、そのた
めの教育をやってあげましょうと、こんなことを言っているのでござ
いますけれども、教育というのはなにもそうやって年をとってからや
るべきものではございません。年をとってからできる教育と、若いと
きでなければいけない教育とがあるのでございますね。その若いとき
でなければいけない教育というものを、若いうちからやってくれるよ
うに会社の教育は発展しなければいけません。
いまの会社はどち.らかというと、若いときはそのまま働け働けとい
うことになります。そして年をとってから、はいそれであなたの定年
が心配だから、老後が心配だから勉強しなさい。これでは年をとって
−168−
岐路に立つ世界と日本
苦痛が増すだけでございます。私はもっと教育は平均してずっとやっ
ていくべきものだと思っています。そういうふうに教育というものが
はじめからやられているならば、定年になったから、年をとったから
といってあわてることはないのであります。
あるいはそういう時期になりましても、たとえばほんとうの情報が
与えられているかどうかわかりません。たとえば計理士の資格を取っ
ておくといいですよなどと言われまして、急に年をとってから計理士
の勉強をして、計理士の資格を取る方がふえてまいりました。しかし
計理士の資格をとっても、ほんとうに計理士の仕事はあるのでござい
ましょうか。私はそれは間違いだと思っています。計理士ぽっかりふ
えたら計理士の仕事はなくなってしまうんです。
ですからつねに老後はどうするのだ、高齢化社会になってきて、そ
のあとどうするんだと考えるのであれば、このような職業は人が足り
ません、このような職業は人が余ってます、という情報を絶えず流し
てくれなければ困るのでございます。
皆様方はご専門ですからご承知でしょうけれども、イギリスには「チ
ョイス」という雑誌があります。その「チョイス」という雑誌は、つ
ねにそういう情報を流してくれます。こうした意味で、日本では職業
選択についての情報を流す教育もないのでございます。
ですから私は、エデュケーションというものは、非常に重要になっ
てきているんだけれども、その意味が、日本ではうまく使われていな
い。もっと生涯教育でただ歴史の勉強をすりゃいいんだとか、趣味で
勉強すりゃいいんだというような発想が多くて、ほんとうにみんなが
年をとっても、元気で仕事ができるための教育が必要になっている。
それがいまはないのでございますね。
まあこんなことを言いますと、おまえは大学にいながら教育をやっ
−169一
岐路に立つ世界と日本
てないのかなんて言われると困りますけども、私は大学の教育という
のは、どちらかというと、役に立つ勉強なんていうのはだんだん減っ
てまいりまして、とにかく会社へ勤めるまで、無事に怪我をしないよ
うに卒業してくれりゃいいというような感じになってまいりますから
ね、どうもエデュケーションというものの意味が薄れているような気
がして、仕方がございませんが、そういうわけでエデュケーションが
重要になって一まいります。
Fはファッションでございますね。皆さん方はご承知のように、い
まファッションというものがどんどん進んでいますから、若い人向け
のファッションがある、女の人のファッションがあるとみんなお思い
になるんです。ところが実際は、これから必要なファッションは、シ
ルバー社会にふさわしいファッションでございます。これがないこと
が問題なんです。つまりキャリアウーマンだけでも、いまはご承知の
ように1,200万です。1,200万もキャリアウーマンがおられるんですが、
その方が悩んでいることがあります。それは洋服をどうすりゃいいか。
私達男はみんな背広を着ればよろしいのですけれども、キャリアウー
マンの方々が、洋服をどういうふうに着ていったらいいかということ
は、たいへん悩みでございます。そうした悩みに対して答えるような
ファッションがまだできておりません。
男もそうでございます。男も夏になりますとみんな上着を脱ぐよう
になりました。上着を脱いでいちばん困るのはポケットでございます。
ポケットがないからどうしようもない。そのポケットをどうしようか
というときに、仕方がないからデパートに行きますと、いろんな男物
のバッグが売っております。女性の方の場合はハンドバッグという長
い歴史がありますから、実に格好のいいものが売っていますが、男の
場合はどれを見たって御用聞きと変わらないんでございますね。そう
−170−
岐路に立つ世界と日本
いうファッションではたして成り立つんだろうか。これからシルバー
社会にいくんだということは、紳士が下げてもおかしくないような鞄
の開発が行なわれなきゃいかんはずでございます。
Gはゲームでございます。ゲームといえばこれは遊びということで
ございますけれども、ゲームといいますと、いま日本では会社へ勤め
ている方はみんなゴルフでございますね。しかしあれは会員券がない
とできません。会社へ勤めているときはゴルフをおやりになりますけ
れども、会社をおやめになったらゴルフは自分でなかなか行くことは
できません。そうなりますと、どこへ行ったらいいだろうかといった
ときに、結局行くところは日本人にはパチンコしかないんでございま
すね。ゴルフとパチンコではちょっと差があり過ぎましてね、なんと
なく惨めでございますね。そこらへんを埋めるようなゲームの開発が、
もっとできなければいけないわけでございます。
Hは健康でございます。ヘルスです。そのヘルスをどのように考え
るかということがいま重要になりました。いままでのお医者さんの考
え方は、悪い病気を発見して治すことが医者の仕事だと思っています。
これは間違いでございます。これからは年をとる人がふえてくるとい
うことは、病気があるのは当たりまえな時代になります。ですから、
病気があっても健康であるような考えをもつ、あるいは病気があって
も健康を保つようにするのが医者の仕事でございます。それを治すと
いうことを考えるのが間違っているのでございますね。
もちろんだからと言って、全部の病気を治さなくていいと言うので
はございません。そうではなくて、健康を保つということは、一つ二
つの病気があったってよろしいんです。たとえば病気があったって、
けっこう健康でもって張切ってやっておられる方がいらっしゃいます
ね。つまり健康というものは物理的なものではございません。心と物
−171−
岐路に立つ世界と日本
理的な体とが、うまく一致したときが健康でございます。その健康を
保つための工夫をどうするかということが大切なのでございますが、
いまの日本では人間ドックに入れさえすれば、それでもう健康はいい
んだという考え方がございます。そこで人間ドックに入り、お医者さ
んが一生懸命どっかに病気がないかときがしまして、やっと発見し、
「それっ山というんでそれを治して、「さあ治りました山と出た途端に
亡くなる方がいらっしゃいますが、それは健康の考え方が間違ってい
るからです。
皆様方は生保関係にいらっしゃるから、そういうことはよくおわか
りいただけると思うんですが、人間にとって大切なことは病気を治す
ことではございません。健康であるためにどうするかということが大
切なんです。その健康というのは病気がゼロのことではございません。
病気がゼロでなくて、病気があってもいいんです。問題はその病気を
上回る体力を作ることができるかどうかでございます。
こうした意味で私はいまCDEFGHと並べてまいりましたけれど
も、このCDEFGHという考え方が、いかに新しい時代をつくり出
そうとしているかがおわかりいただけるかと思います。
つまり私がここで申し上げてることは、もういちど申し上げますと、
農業時代から工業時代に移りますときに、私達は激動の時代を通りま
した。明治維新がそのひとつであります。いま私達はこの工業化時代
から、次の「第三の披」の時代に移ろうとしています。このような時
代に移るためには、やはり激動の時代を通らなければなりません。明
治維新は物量的な革命でございました。いま私達が経験しているのは
意識の革命でございます。その意識の革命を起こしていくときに、私
達はその意識のずれが起こるために、いろいろな世界的な問題にぶつ
かります。
−172−
岐路に立つ世界と日本
たとえば石油ショックと一口に申しますが、あれは石油が足りない
から起こるのではございません。皆様方も石油問題についていろいろ
とご研究の方がおられると思いますが、石油がそんな簡単になくなる
のではございません。いま地球全体にある石油は二兆バーレルでござ
います。その二兆バーレルのうちの一兆バーレルを私達は発掘するこ
とができます。そのなかでわれわれが便いましたのが3,600億バー一レル
である。ということは、あとまだ倍の石油が残っています。もし開発
の技術が進めば、さらにその倍の石油を私達はもっています。
ということは、私達は地球上でもって、いまもっている石油を、お・
金がかかることになりますけれども、開発をしていくことができるな
らば、いまの使い方をしても、最低90年はあるだろうというのがひと
つの意見になっています。
したがってローマ・クラブがよく言うのでございますけれども、石
油がどんどんどんどんなくなっていくから、われわれは石油危機にき
たと、説明をするのでございますが、私はそれには賛成できません。
それはひとつのある前提に立って言っていることであって、けっして
いまの私達の石油問題を説明することにはならないと考えています。
石油というものが量的になくなるから、いまの問題が起こったなど
とは少しも考えておりません。石油問題が起こったのは、いままさに
私達が新しい時代に入ろうとしている、工業化時代の変革の時期だか
らでございます。その工業化時代の変革の時期というのは、意識革命
が起こっていくときなんです。その意識革命が起こっていくときに、
いま私達はその意識のギャップがあります。先進国はこう考えている、
開発途上国はこう考える、あるいは第三世界はこう考える、いろんな
考え方の意識があって、その意識全体が一つのハーモニーを得ること
ができない。その状況のなかで起こっているのが石油危機なのでござ
−173−
岐路に立つ世界と日本
いまして、石油が量的になくなるのではございません。
そこで私はあえていわせていただきますが、石油価格が上がると、
日本経済は大きな打撃を受けるとみんな言います。これはほんとうで
ございましょうか。私は信じておりません。日本は石油価格が上がっ
てもけっしてだめになる国ではございません。なぜ日本はだめになら
ないのでしょうか。それは石油価格が上がれば赤字がふえます。支払
い代金がふえるから赤字になります。しかし赤字になったからと言っ
て日本はつぶれません。なぜならば、赤字になれば日本は弱くなった
ということになり、円安になります。円安になれば、日本の製品は安
くなりますから輸出が増加いたします。輸出が増加するということは、
必ずその赤字を補っていきますから、今度は円が強くなる時期がまい
りまして円高になります。円高になれば、買ってくる石油価格はその
分だけ安くなります。
ですから日本が石油価格が上がってたいへんなことになると、よく
新聞が書くたびに、私は反発してまいりました。前に円高が起こった
ときも私は新聞に書きました、円高恐れるに足らず。石油価格が上が
っても日本はけっしてだめにならない、赤字は必ず克服することがで
きると私は書きました。しかし私のような意見は少数意見でございま
して、そういうことは一般的にむしろ言わないほうがいいのでありま
す。たいへんだ、たいへんだと言っているほうが、よろしいのであり
まして、楽だということはあまり言わんほうがいいというのが原則で
ございます。
しかし私はあまりにも反対が多過ぎると言いますか、たいへんだと
いう人が多過ぎるから、あえてそれを言うのでございますが、やっと
日本もそれを認めてきたようでございまして、今年の経済自書も、い
ま私の申し上げてる論理に従って、今度の経済的な石油価格の値上げ
一174−
岐路に立つ世界と日本
のショックは柔らいだと断言いたしました。
私はこのひとつのメカニズムがある限り、日本は騒ぐことなんかな
いと言うんです。日本は騒がなくたって必ずこれを乗り越えられます。
いまはご承知のとおり円高でございます。今日は公定歩合を下げる
という昨日の発言から、少し円安に動いていますけれども、それでも
かってに比べればずっと得になっています。
私達の日本は、けっして石油価格が上がったってだめになることは
ないのでございますね。むしろ石油価格が上がることが好ましいので
ございまして、石油価格が上がらないということは、かえって日本に
とっては困ることになります。
なぜかと申しますと、たとえば皆様方ご承知のとおり、フランスが
いまアラブから石油を買うときには、どうやって買っているかご承知
でございますか。歴史的、文化的なつながりを強調して、おまえとお
れとは昔からの仲だったと言って石油を買います。それでもだめなと
きには武器を提供いたしまして、武器を売ってやるから石油をくれと
言います。それでもだめなときには武力を使っておまえの国を攻める
ぞと脅かすから、アラブはフランスに石油を渡します。
ところが日本はこんなことが出来るでしょうか。日本がフランスと
同じように、歴史的、文化的つながりを強調するなんて言ったってな
んにもないんでございますからね、「アラビアンナイト」の翻訳があ
るなんて言ってもあんまり効果はありません。武器を提供するといっ
ても、日本が武器など提供できるわけがありません。平和国家日本が
そんなことは出来ません。では武力で脅かすことが出来るでしょうか、
逆に脅かされるだけでございます。したがってだめなんです。という
ことは、日本の経済力だけが、日本のアラブから石油を買うことので
きる力だということが、おわかりいただけたと思うんです。
一175−
岐路に立つ世界と日本
ヨーロッパやアメリカは石油価格が上がったらたいへんだから、つ
まり日本のような生産力、経済力がありませんからみんな騒ぐんです。
しかし日本は欧米が騒いだって騒‘ぐことはなんにもないんです。まあ
お付き合いで騒いだっていいんですけどね、そんなことをしなくたっ
ていいんです。ですから新聞の書き方が、私は欧米に動かされ過ぎる
と思うんです。日本の力からいけば、石油の価格が上がったからとい
って騒ぐ必要はありません。
しかし、もちろんそうだからといって、私が楽観しているわけじゃ
ありません。量がこなくなったらこれはたいへんでございますね。円
安はい.いんですけれども、インフレが起こっては困ります。輸出がふ
えてもいいですが、貿易摩擦が起こっては困り‘ます。つまり石油の量
的な確保ができ、そしてインフレが起こらない。そして貿易摩擦を避
けることができれば、日本経済は絶対につぶれない。これが日本の経
済の原則でございます。ですから日本はほかの国に比べて経済力が強
いのでございますれほかの国が、日本はすごい図だというのは、ま
さにそこにあるわけでございます。
しかし量とインフレと摩擦、これだけは・日本にとって心配な点でご
ざいます。この三つは企業の努力では解決出来ないからです。この三
つの問題は政府の問題でございまして、日本の政府がこれをうまく解
決してくれなければ、必ず日本にとって障害になるのでございまして、
私は皆様方のなかにも、よくそういう方がおいでになると恩うんです
が、日本の民間企業の活力は素晴しい、だから政府はなにもするな。
政府はなにもしないで民間の活力を生かすようにしろと、こうおっし
ゃる方があります。原則はそうです。
しかし民間の企業では出来ない仕事がある。この三つの仕事は民間
の企業では出来ません。これをやるためには、政府がそれをやってく
−176−
岐路に立つ世界と日本
れなきゃ困るんです。だから政府は優秀な政府でなければ困るのであ
りまして、どんな政府でも企業さえ活力があればいい、経済さえよけ
ればいい、こう言う人がおりますけれども、それは誤まりでありまし
て、私は日本という国が、ほんとうにこの「第三の披」に乗っていく
ためには、政府が障害を起こさないように努力をしてくれなければ困
る、こう思っています。
さて政府にその力があるのでございましょうか。皆さんよくご承知
と思いますけれども、あえてひとつの歴史的な状況というか、いまの
状況を少し説明させていただきますが、ご承知のようにエチオピアと
いうのは、すでに一昨年ソビエトが、友好軍事同盟を結んだところで
ございます。しかしながらいまソ連とエチオピアにとっての悩みは、
この部分、つまりエチオピアから海岸のほうに面した部分、これがエ
リトリアでございますが、このエリトリアにどうしても出ることが出
来ません。このエリトリアに出れないということが、紅海まで進出し
たいにもかかわらず、いまソ連の大きな悩みでございます。その海岸
のここには南イエメンがございます。この南イエメンとは、すでにソ
ビエトは昨年、友好軍事同盟を結んだのでございます。もっとも私の
いま友好軍事という軍事はほんとうは入ってないんです。しかし現実
にはそのやり方は軍事同盟でございますから、私はあえて友好軍事同
盟と申し上げます。
このような中東半島の南イエメンと、すでにソビエトは昨年友好軍
事同盟を結んだのでございますが、その対岸がご承知のようにイラン
であり、そしてこちらがパキスタンであります。そしてそのイランと
パキスタンの真申がアフガニスタンでありまして、このアフガニスタ
ンにはすでにソビエトが侵入いたしました。
そこでみんな大騒ぎになりまして、ソビエトはやがては、ここのア
ー177−
岐路に立つ世界と日本
フガニスタンから次のところ、パキスタンとイランの真申がバルチ族
の住んでいるパルナスタンでございますから、このバルチスタンにや
がて侵入するに違いない。そうなればここで一本の線が引かれて、紅
海は通れない、ホルムズ海峡も通れない、ということになるに違いな
いと言っているのでございますけれども、ソビエトもそんな簡単に出
れるわけではございません。
皆様方もご承知と思いますが、アフガニスタンにソビエトは侵入し
たのでありますが、ソビエトが侵入したというと、ロシア人が出てき
たと、皆様方はお思いになるかもしれませんが、ご承知の方はご承知
でしょう。ロシア人が出たのではございません。非ロシア人とロシア
人とに分けますと、現在2億5,000万のソビエト人口のうちの1億3,0㈹
万がロシア人であります。非ロシア人が1億2,000万おります。その非
ロシア人の約半分の人達はイスラム教徒でございます。このイスラム
教徒がロシア人にどんな気特をもっているかは、皆様方はご承知かも
しれません。
それはスターリンが政権をとりましたときに、宗教を弾圧しようと
考えました。そこで1932年に、このイスラム教徒の25人の指導者を銃
殺にしたのでございます。そのためにそれを恨みに思ったイスラム教
徒達は、ヒットラーが入りましたときに、ヒットラーを助けました。
それを知りましたスターリンがヒットラーを追っ払ったあと、見せし
めとして、イスラム教徒20数万人をシベリアに流刑したのでございま
す。
このようなことが起こりましてから、イスラム教徒は独立運動を激
しく起こしておりまして、ウクライナ中央アジアには、いまだに独立
運動がときどき起こっているのでございます。スターリンは生きてい
る間、ただの一度もこのウクライナ中央アジアに行ったことがありま
−178−
岐路に立つ世界と日本
せん。なぜならば彼は殺される恐れがあったからでございます。その
証拠には、スターリンのあとを継いだフルシチョフが入りました途端
に彼は弾に撃たれまして、左肩を負傷して二週間の治療をしています。
ということからおわかりのように、この非ロシア人の住んでいる地
域は、イスラム教徒の動き如何によってはどうなるかわからないので
あります。それがイランのホメイニさんが、「イスラム教徒よ立ち上が
れdと言いましたから、アフガニスタンのイスラム教徒が動きはじめ
る。その動きを放ったらかしておけば、ソ連のイスラム教徒がそれに
合流するかもしれません。あわてたソビエトは、この非ロシア人達を
先頭に立てて、アフガニスタンに入ったという見方であります。
このようにソ連の内部は必ずしも安定しておりません。その安定し
ていないなかで、このようなアフガニスタン侵入が起こったのでござ
いますから、ソビエトは簡単にバルチスタンに出れるわけではありま
せん。ましてエリトリアがここで戦っていますから、そう簡単に出れ
ません。そして南イエメンの隣の北イエメンをはさんで、サウジアラ
ビアが睨んでいます。したがってサウジアラビアのことを考えても、
そんなに簡単に南イエメンが動けるわけではありません。だからそん
なに急激に中東が変わるはずがなかったのであります。
ところがここにひとつの事件が起こりました。それはイランに接し
ているイラクが、ご承知のようにイランに攻め入りました。これはな
ぜ攻め入ったかは、もうテレビで解説が盛んに出ていますから、私の
申し上げることではございませんが、簡単に申し上げてしまえば、イ
ランはベルシア人、イラクはアラビア人、そしてイランのホメイニさ
んはシーア派であるイスラム教徒、イラクのシーア派というのは、イ
ラクのなかで50%を占めていますけれども、実はこのシーア派は下層
階級でありまして、スンニー派、これが主流であります。これが25%
ー179−
岐路に立つ世界と日本
と数は少ないんですけれども、シーア派を押えているわけでございま
す。
そこでですね、ホメイニさんはこのイラクのシーア派に話しかけま
す。「イラクにいるシーア派よ立ち上がれ。」といいますからスンニー
派は恕こるわけです。おれ達の国にわざわざ革命の輸出をすることは
ないではないか。そこでクルド族を通じて一生懸命イランを牽制して
いたんですが、ホメイニがだんだんと権力をふるっていって、強くな
っていきます。そこでイラクはだんだんと考えて、もうそろそろやっ
つけないといかんという気持になってくるわけですね。そういう気拝
になってくると同時に、イラクは誤算をいたしました。
それはイランという国は、もうアメリカの援助がなくなった。した
がってアメリカの兵器は使えなくなる。しかもその兵器が使えなくな
るだけではありません。イランは穀物封鎖をされておりますから、も
う食べる物もないはずでございます。したがってみんなおなかが減っ
ているから戦えるはずはない。こう考えたイラクは、いまこそイラン
をやっつけるときがきたと勇み立ったわけです。
ご承知と思いますが、アラブ民族というのは、いまだかって異民族
に勝ったことがございません。したがってここでもってもしベルシア
人をやっつければ、アラブの名声を高めることになりまして、イラク
は威張れるわけでございますね。
そこでイラクはイランに攻め入ります。攻め入ったのが誤算であり
まして、もうおなかも減ってなんにも出来ないだろうと思ったイラン
が、やっぱり断食で馴れているんでしょうね、(笑)ものすごく強いわ
けですね、強力に抵抗するわけです。
そんなような状況でございまして、もうイラクも困ってしまってい
るわけです。なんとかしてくれという状況でございますから、戦闘が
−180−
岐路に立つ世界と日本
拡大するという可能性は本来はないのであります。
ないのでありますけれども、ひとつだけ心配な要素がなくはありま
せん。それはイラクの隣にシリアがございます。そのシリアの南のと
ころがヨルダンであります。このヨルダンというのは、ご承知のよう
にハシャミット王家の次男が、イラクの王様でありますから、その次
男についでこちらは三男であります。というのは、ハシャミット王家
がローレンスの助けを借りてトルコ軍を追っ払ったときに、次男がイ
ラクをもらいました。そこで三男が私も土地が欲しいと言ったもので
すから、イギリスがそれじゃというんで、シリアの領地だったところ
をちょん切って、これをおまえにやると言ったのがヨルダンなんです。
ですからシ_リアはヨルダンは自分の土地だと思ってるんです。これ
を取りたい取りたいと思ってるんですが、このヨルダンがハシャミッ
ト王家の三男、イラクをつくったのがハシャミット王家の次男ですか
ら、親戚付き合いになりますね。そこでイラクを助けたいと、動く可
能性がある。そうしますとヨルダンが動けば、シリアはヨルダンに侵
入します。ヨルダンに侵入いたしますと、今度はヨルダンが困ります。
そうするとイスラエルがでるかもしれませんが、そうなればソ連が
そこに介入いたしますから、ヨルダンがもし出れば、世界戦争の危険
があります。
しかしヨルダンは私は出ないと思っています。出ればシリアがこわ
いことをヨルダンは知ってます。
ヨルダンは口で言うだけでありまして出ない、こう私は見ています。
そのようにヨルダンが出ないということになりますと、イラクとし
てはほんとうを言うと、ここでなんとかしてほしいということになる
んですがソ連から援助がなければ武器、弾薬がなくなっちゃいます。
いまアカバから少しずつ入っているようでございますが、おおっぴら
−181−
岐路に立つ世界と日本
にソ連はやるわけにいきません。
しかしどうしてそれじゃシけアがイラクを助けないのか、皆様方は
お思いになるかしれませんが、実はシリアというのは、今度はスンニ
ー派というのが80%いるのでございますね。そうしてこのスンニー派
の8割を押えつけているのが、わずか10%しかいない同じイスラム教
徒のアラウイ派なのでございます。スンニー派は、アラウイ派という
のは邪教だと言ってるんです。
そこでこの80%のスンニー派が怒って、今年の5月にアラウイ派の
将校100人を殺しちゃったんです。そこでこれはたいへんだというので、
アラウイ派はソビエトに助けを求めた。そこでいまやソビエトの軍隊
がシリアに入りまして、2万人のソ連軍がこれを押えています。ソ連
軍にスンニー派が押えられており、−イラクもスンニー派が25%でシー
ア派を押えているわけですから、スンニー派を弾圧したソビエトが、
もしイラクがソビエトに近づくと、自分達も弾圧されるかもしれない、
こう考えるわけです。そこでイラクはなるべくソ連に近づかないほう
がいいというんで、サウジアラビアとむしろ仲よくしようと動きはじ
めたんですね。このようなソ連から離れる傾向を見せはじめているの
で、ソ連もイラクを真っ向うから応援することが出来ないんです。こ
んな状況でございますから、ソ連はいまこの国境でもって、じりじり
しながら待ってるいわけでございますが、アフガニスタンをすでにソ
ビエトは押えたわけでございますね。
これは1週間ほど前ですが、アフガニスタンの政府、カルマル政権
が、ソビエトに対して、アフガニスタンが安定するまで、ソ連軍の駐
留を認めるという約束をいたしました。条約を交しました。したがっ
てアフガニスタンにいまソビエトは、大きな顔をしておおっぴらに入
れるようになったんです。いままではソビエトも世界から、アフガニ
ー182−
岐路に立つ世界と日本
スタンから出て行け出て行けと言われたもんだから、すごく気にして
たんです。ところが今度は政府がはっきりとソ連軍に来てくれと言っ
たわけですから、そこでソ連も今度は大きな顔をして、アフガニスタ
ンに入れることになりました。
さてイランの国境にはソ連軍は22個師団をいま抱えています。そし
ていつでもイランの要請に応えて動けると言っているんですが、ホメ
イニさんはいやだいやだと言いまして、反米ではあるけれども反ソで
ございますから、絶対にそれを求めないというので、ソ連はじりじり
してるんですが、そのソ連がシリアとついこの間、友好軍事同盟を結
んでしまったのでございます。
日本の新聞では、イラクとイランのことばかり書きまして、シリア
がこのようになったことが、なにを意味するのかを書いておいてくれ
ないんです。だからみんなこんなことはあまり注目しておりませんが、
シリアがソ連に入ったということは、非常に重要な問題でありますね。
シリアがもしここでソ連の味方になったことは、なにを意味するか
と言いますと、シリアがエリトリアを応援していたんです。だからエ
チオピアはどうしてもエリトリアに入れなカ:ったんです。それがシリ
アがソ連になったということは、エチオピアはソ連がうしろにいます。
エリトリアをシリアが応援しなくなったら、もうソ連は完全に紅海に
近づけます。したがって紅海は、南イエメンとエチオピアの協力でも
って、ソ連がもし頼むならばいつでも封鎖可能でございます。
このような情勢が生まれてるのでございますから、あと数年でもっ
て、おそらく中東油田に私達は頼ることができなくなります。つまり
ソ連はなんだかんだ言いながら、ここまでちゃんと中東封鎖作戦を成
功させてしまっているわけです。
サウジアラビアでこの間世論調査やったんですね。国連の世論調査
−183一
岐路に立つ世界と日本
でありますが、これをやりましたら、世界でもって頼りになるのは、
アメリカの次が日本だとサウジが言っているんです。そのサウジがで
すね、だからこそ日本は早くサウジに大使館をもってこいと、こう言
っているんです。大使館あるんでございますよ。あるのにもってこい
っていうんですからね、いかにサウジの人が日本のことを知らないか
わかりますね。ということは逆に言えば、日本の大使館がいかになに
もしてないかわかりますね。こういう状況なんです。
このような状況ですから、私達は助けるべきだとこういうんです。
そうするとアラブの民族はみんな日本をいい国だと言うに決まってま
す。そうすると少なくともこれが完全に封鎖されるまでは、中東油田
は私達に供給を続けてくれるでしょう。こういう先を読んだ政策をし
なければいけません。
いまこのイラクとイランがなくなることによって、細かい計算は省
略いたしますが、サウジが100万バーレル増産するとしてだいたい1日当
たり200万バーレル足りなくなるとお考え下さい。いま世界の備蓄量は
だいたい400万バーレルであります。したがって200万バーレル足りな
いのは、この備蓄の半分を使うことによって切り抜けられます。しか
し備蓄というのは半分しか使うことが出来ないんです。したがってあ
と200万バーレルの備蓄はありますけど、それは使えませんから、この
足りない分が長くなってくると困るんです。
いまサウジアラビアはご承知のように、このような状況のなかでた
いへんだというので、950万バーレルをふやしまして、1,050万バーレ
ル作ることにして、100万バーレルふやしました。しかしサウジアラビ
アの石油能力1,050万バーレルは1年間しか続けられません。というこ
とは、現在はなんとか切り抜けられますが、これから来年の秋以降に
なりますと、この200万バーレルに100万バーレルプラスされた300万
−184−
岐路に立つ世界と日本
バーレル足りなくなります。この300万バーレル足りなくなるというこ
とで、おそらく備蓄量に食い込んでしまいますので、私は来年の秋以
降が苦しくなるだろうと考えています。しかしそれまでに石油はなん
とかなりますし、日本の政府がうまくアラブの国々をひきつけること
に成功すれば、私達はじゅうぶんに石油に耐えられるはずであります。
こういう意味で私は、いま世界の国々が直面している問題が、石油
ということだけがクローズアップされてるからご私はあえて申し上げ
たんですが、その石油問題ひとつにいたしましても、日本がどのよう
にアメリカに協力し、どのようにこれから先を考えるかということに
よって決まります。政府がそれだけの力をもっているかどうかという
ことが、たいへん私には心配な点でございます。善幸さんがいままで
にやりました経済政策が二つあります。
一つはご承知のように米価の引上げでございます。これについて今
日私は省略をいたします。2.3%引上げたことはおかしいと私は思って
ます。
二番目、公定歩合の引下げをいたしました。0.75とはどういうこと
でございましょうか。ご承知のようにあのとき8月は、すでに1%引
下げろと河本さん達が主張してました。大蔵、日銀は物価が心配だか
ら0.5%にしろと言ってました。そこで和をもって尊Lとする善幸さん、
(笑)足して2で割りました、0.75でございますね。これは正しいの
でございましょうか。私はこれは日本のいま直面している状況につい
て、じゅうぶんな理解がなかったためではないだろうかと思っていま
す。
なぜかということをお話するのには、ちょっと時間がなくなりまし
たけれども、皆様方はご専門でございますからおわかりいただけると
思うので、少し早口で説明させていただきますが、実は私はいま世界
一185−
岐路に立つ世界と日本
はドル過剰に陥っていると思います。そのドルが過剰に陥っていると
いうことは、簡単に言ってしまえば、それはドルが安くなることでご
ざいます。ドルが安くなるということは、それは国内のドルと同じで
ございますから、アメリカにインフレが発生します。インフレが発生
すれば、アメリカでは換物傾向が強まります。
そこで換物傾向が強まっていくのでございますから、これはアメリ
カは高金利になるのは当りまえであります。高金利になるのでござい
ますから、アメリカは不況になります。不況になりましたらば、それ
は景気が悪くなったらば、とても大統領選挙に勝てません。公定歩合
は引下げました。引下げましたけれどもインフレは続きます。そうす
ると再び金利は上がらざるを得ません。13%まで公定歩合が上がりま
した。それが引下げられて10%になりました。しかし11%に再び上が
ったではございませんか。この高金利時代こそが、アメリカのインフ
レが克服出来ない最大の悩みなのでございますね。
それを考えますと日本はいったいどうなってるのでございますか。
13%のとき日本の公定歩合は9%でありました。それを0.75下げて8.
25にいたしました。これでもってアメリカに対応したつもりでござい
ました。しかしそのときに日本はマネーサプライをもっと緩めるべき
でありました。にもかかわらず公定歩合が下がったのにマネーサプラ
イを緩めませんから、かえって市中金利は上がりました。11%になり
ました。コールレートも上がりました。こういう状況に日本経済が追
い込まれたから倒産が激増しました。1,600件を超えてしまいました。
これは明らかに間違っていたんじゃないでしょうか。つまり9%から
8.25に下げましたが、これをもっと早く下げないと、アメリカが高金
利になるときに、日本はついていくことが出来ません。つまりいま世
界は高金利時代に向かっているのでございます。
−186−
岐路に立つ世界と日本
ということは、それに日本が対抗して、日本のなかでインフレは起
きておりませんから、世界の市場の安定をはかろうと思ったならば、
日本の経済の活力をつけるしかありません。それには公定歩合をすみ
やかに下げて、そしてそこから次の時代を考えていかなければいけな
いわけでございます。
私はいまお話をしてまいりましたように、いま日本の行こうとして
いる道は、「第三の波」の時代をめざしています。それに行くためにい
ま起こっているのが意識革命でございます。その意識革命のひとつが
石油危機でございます。しかしこれは中東とソ連とを見比べながら、
私達は誤まりのないよう、政府がそれをやってくれなければ困ります。
第二番目には、世界がいまインフレ、高金利時代に向かっています。
それを日本はどうやって水際で撃退出来るか、これも政府の仕事であ
ります。そして貿易摩擦の問題はもう言うまでもございません。
こう私達は考えてまいりますと、いまの日本が直面している問題は、
まさに政治と経済のからみ合った問題でございまして、ただ国内の経
済で民間企業が活力だけをもっていればいいという時代ではなくなっ
ているということを、私はあえて申し上げたのでございますが、時間
がもう切れてしまいまして、皆様方にかえってお疲れのところご迷惑
をかけてはいけませんので、私の話はここまでにさせていただきます。
ご清聴ありがとうございました。(拍手)
ー187−
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