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和光純薬時報, 76(3), 2 (2008).

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和光純薬時報, 76(3), 2 (2008).
R
esearch
γ-Glutamyl transpeptidase(GGT)の新規阻害剤
− GGT の生理的意義をさぐる新たな化学ツール − 京都大学化学研究所 平竹 潤
はじめに
γ-Glutamyl transpeptidase(GGT)
また、グルタチオンを介した生体異物
である 9 , 10)。また、ガン細胞では GGT
の解毒代謝の初発酵素として、生体の
を高発現するものが多く 11 , 12)、抗ガン
レドックスバランスや酸化ストレスに
剤や放射線療法に対する耐性獲得や転
影響を与え、それが引き金となる多く
移活性に GGT が関係し、薬物ターゲッ
の 疾 患 に 関 与 し て い る と 考 え ら れ、
トとしての GGT を指摘する報告は多
5 -glutamyltransferase, EC 2 . 3 . 2 . 2]
GGT に関連した医学論文は非常に多
い 13)。また、抗ガン剤シスプラチンの
は、 グ ル タ チ オ ン(γ-Glu-Cys-Gly)
い。しかし、状況証拠は多いものの、
腎毒性が GGT によるグルタチオン抱
およびグルタチオン抱合体の代謝分解
実際の疾患や病態との因果関係やメカ
合体の代謝活性化に起因するという
の初発段階をつかさどる酵素で、高等
ニズムには不明な点が多く、GGT の
説 14) や、炎症メディエーターである
動植物から微生物までほとんどあらゆ
真の生理作用については謎が多い。
ロ イ コ ト リ エ ン C 4(LTC 4)か ら
[(5 -glutamyl)
-peptide : amino acid
1 - 4)
本総説では、これまで報告されてい
LTD 4 へ の 変 換 を GGT が 触 媒 し て お
γ-glutamyltransferase(IUBMB の 推
る GGT の生理的意義や役割について
り 15)、グルタチオン代謝との関連から
奨名),γ-glutamyl peptidyltransferase
概観するとともに、筆者らが開発した
喘息との関係も議論されるなど 16)、医
とも呼ばれ、後述するように、肝機能
新規 GGT 阻害剤について紹介し、こ
学研究者の注目度は高い。これらの疾
を調べるマーカー酵素として人間ドッ
れまで用いられてきた阻害剤との違い
患は、多くの場合、細胞のグルタチオ
クの検査項目の一つにもなっているた
を中心に、その化学ツールとしての意
ン欠乏が引き金になっていることが多
め、γ-GTP, γ-GT, γ-GPT などとい
義や可能性について述べたい。
い。 そ の た め、 生 体 内 の 主 要 な Cys
る生物に普遍的に存在する
。別名、
プールであるグルタチオンから Cys を
う略称を聞けば、筆者も含め、その数
値が気になる向きも多いのではないだ
GGT の生理的役割
ルタミル結合(イソペプチド結合)を
GGT は分子量約 40 , 000(大サブユ
加水分解するほぼ唯一の酵素で、Glu
ニット)および 20 , 000(小サブユニッ
と Cys-Gly を生成する一方、各種アミ
ト)が非共有結合的に結合したヘテロ
の分解産物 Cys-Gly はきわめて活性な
ノ酸やジペプチド、アミン類を受容体
ダイマー酵素である。ホ乳類の酵素で
チオールで、生理的条件下で金属イオ
Y と し てγ- グ ル タ ミ ル 転 移 生 成 物
は、大サブユニットの疎水性 N 末端を
ンを介して容易に酸素を還元し活性酸
細胞膜にアンカーさせた形で、活性中
素種をつくり出すため、GGT 活性の
心を細胞の外側に向け細胞の表面に局
増大はかえって酸化ストレスを亢進さ
在している一種の膜結合型酵素で、高
せることにつながる(pro-oxidant 効
(γ-Glu-Y)を与える。
γ-Glu-Cys-Gly + H 2 O →
Glu + Cys-Gly(加水分解)
度に糖鎖修飾されている
1 , 3 , 5)
。臨床的
促す抗酸化酵素と考えられる。しかし、
その一方、GGT によるグルタチオン
果 )17)。 こ う し た 相 反 す る 作 用 が、
には、薬物や過度のアルコール摂取に
GGT の生理的役割をわかりにくくし
よって肝臓での GGT 発現および血中
ている原因でもあるが、いずれの場合
への漏出が顕著に起こるため、アル
も、GGT の生理作用を明らかにする
コール依存症や肝疾患のマーカー酵素
ためには、細胞レベルで GGT 活性を
として、健康診断に汎用されている 5)。
抑え、その影響を比較する必要があり、
および L- 体のγ- グルタミルアミドに
GGT に関する報告は実に多い。デー
GGT 阻 害 剤 の 使 用 は 不 可 欠 で あ る。
作用すること、また、加水分解だけで
タベース(SciFinder)を検索すると、
しかし、多くの研究者、特に、医学領
なく、さまざまな受容体へのγ- グル
過去 10 年間で、GGT の関係する論文
域の研究者が容易に入手できる GGT
タミル転移活性があることから、転移
やパテントは 7000 件あまりヒットし、
阻害剤は、市販の天然物 acivicin 以外
酵 素(transferase) と し て 分 類 さ れ
1980 年以降、ほぼ毎年、700 - 900 件の
にはほとんどないのが現状であった。
ているが、本来の生理的意義はグルタ
報告がある。そのほとんどが医学関係
後述するように、acivicin は、GGT 以
チオンおよび、その抱合体の加水分解
の論文で、たとえば、アテローム性動
外にも多くの酵素を阻害し、細胞毒性
にあり、GGT は顕著な転移活性をもっ
脈硬化症や心筋梗塞、狭心症などの心
も強い。そこで、筆者らは、より強力
たグルタチオン加水分解酵素と考える
血管疾患に関する疫学調査では、血中
で選択性の高い GGT 阻害剤の開発を
の が 妥 当 で あ る 2,
GGT 活性の上昇が、常に有意な危険
めざし、本酵素の反応機構や基質特異
GGT は、細胞のグルタチオン生合成
因子であることが繰り返し報告されて
性を考慮して、その遷移状態アナログ
に必要な Cys を供給する酵素として、
いる 7 - 9)。2型糖尿病との関係も同様
となるホスホン酸エステル型の阻害剤
γ-Glu-Cys-Gly + Y →
γ-Glu-Y + Cys-Gly(γ- グルタミル転移)
GGT の基質特異性は広く、さまざ
まな構造のグルタチオン抱合体や、D
2
切り出しリサイクルする GGT は、実
質的に、細胞のグルタチオン生合成を
ろうか。GGT はグルタチオンのγ- グ
5 , 6)
。 す な わ ち、
和光純薬時報 Vol.76, No.3(2008)
を開発した。
の阻害剤であるため、本質的に特異性
は高い。そこで、大腸菌 GGT につい
ホスホン酸モノエステル型
GGT 阻害剤(第1世代)
COO
て、阻害剤 1 a によって失活させた酵
Cl
H3N
O N
素を限定加水分解ののち、ESI-MS を
acivicin (AT-125)
GGT は、セリンプロテアーゼと同
用いたペプチドマッピングにより、阻
じく、求核性の活性残基(水酸基)の
害剤の結合した残基を特定し、これま
関与する ping-pong 機構によって反応
で謎であった GGT の活性中心が、小
を触媒し、γ- グルタミル酵素中間体
サブユニット N 末端の Thr 残基(Thr
(エステル中間体)を経て反応を触媒
391)であることを世界で初めて証明
てみると、過去 10 年間で、acivicin に
した 18)。さらに、化合物 1 e を用いて、
関する報告のうち約 70 % が GGT の阻
4)
している(図1)
。
そ こ で、 こ の 反 応 機 構 を も と に、
acivicin 構造式
同じ手法により、ヒト GGT について
害に関するもので、逆に、GGT の阻
GGT の活性残基と反応し、共有結合
も、 小 サ ブ ユ ニ ッ ト N 末 端 の Thr 残
害に関する報告のうち、実に 95 % に
を作ることで、不可逆的に GGT を失
基(Thr 381)が活性残基であること
acivicin が 関 係 し て い た。 ま さ に、
活させる新しい阻害剤の開発をめざ
が証明されている 20)。
GGT 阻害剤と言えば acivicin を指すと
し、良好な脱離基をもった、γ- ホス
現在、最も広く使われている GGT
言っても過言ではない状況である。し
ホン酸モノエステル誘導体 1 a-e を合
阻害剤は acivicin[別名 AT- 125 ;(αS ,
か し、acivicin は、 も と も とStrepto-
5S )-α-amino- 3-chloro- 4, 5-dihydro- 5-
myces sviceus の 産 生 す る 抗 生 物 質
isoxazoleacetic acid]である。
で、グルタミンの代謝拮抗剤として、
18 , 19)
成した(図2)
。
これら第1世代の阻害剤は、反応の
glutamine amidotransferase(GAT)
遷移状態アナログとして活性残基と反
Acivicin は、1970 年 代 か ら GGT 阻
応し、安定なホスホン酸モノエステル
害に使われはじめた化合物だが、阻害
類 21) に広く作用し、これら酵素の活
結合を形成することで、時間依存的に
が不可逆的であること、市販され、容
性中心 Cys の SH と共有結合をつくり
酵素を失活させる(図2)。しかも、
易 に 入 手 で き る こ と か ら、 便 利 な
酵素を不可逆的に失活させる強い活性
酵素自身の触媒作用の力を借りて酵素
GGT 阻害剤として現在でも最もよく
がある 22)。そのため、多くのグルタミ
と反応する、いわゆる反応機構依存型
使われている。データベースを検索し
ン依存性の酵素を阻害し、プリン、ピ
リミジン塩基や、アミノ酸、アミノ糖
の生合成を阻害する結果、強い細胞毒
COO
H3N
HO GGT
C NHR
O
H3N
O
δ-
H3N
NHR
γ-glutamyl-Enz intermediate
COO
C XR
O
H3N
δXR
RXH
C
O
δ-
Glu or
HO GGT
γ-glutamylpeptides
C O GGT
O
RNH2
TS 1
COO
性や中枢神経毒性を示す 23)。その作用
COO
C
GSH or
γ-glutamylamides
H3N
δO GGT
COO
RXH = H2O
amino acids
peptides
O GGT
TS 2
機 作 や 生 物 学 的 意 義 か ら す る と、
GGT は acivicin 本来の標的酵素ではな
く、たまたま acivicin によって阻害さ
れるに過ぎない。事実、GAT に対す
る阻害活性に比べて、ヒト GGT に対
する acivicin の阻害活性は4桁以上低
い。
第1世代の GGT 阻害剤 1 a-e は、安
図1.GGT の触媒機構
定なホスホン酸モノエステル結合を形
成するため、GGT の活性残基を同定
する目的には適っていた。しかし、負
COO
COO
F
H 3N
O
P
O
1b: X = H
X 1c: X = CF3
1d: X = Ac
1e: X = CN
H3N
O-
P
O
1a
O-
1b-e
1a
性に劣り、実際、ヒト GGT に対する
阻害活性は、たかだか acivicin の 3 . 8
COO
HO-GGT
電荷をもつリン酸モノエステルは反応
OH3N
P
O
O-GGT
F-
倍程度であった 19)。そこで、より阻害
活性が高く、安定で、酵素の基質特異
性を反映した分子設計が可能な、ホス
ホン酸ジエステル型の第2世代 GGT
図2.ホスホン酸モノエステル型阻害剤 1 a-e と GGT 阻害機構
和光純薬時報 Vol.76, No.3(2008)
阻害剤を開発した。
3
ホスホン酸ジエステル型 GGT
阻害剤(第2世代)24)
るほど、リン原子の化学的反応性が上
に対してのみ、2 c の 100 倍以上の活
がり、阻害活性は増大する。その傾向
性を示す。
は、 単 純 な 構 造 の 2 a-g に つ い て は、
なぜ、特定の化合物に、しかも、ヒ
第2世代のホスホン酸ジエステル型
大腸菌、ヒト由来の酵素に関わらず見
ト GGT に対してだけ、このような例
阻害剤の主なものを図3に、大腸菌お
られる。ところが、面白いことに、そ
外的に高い阻害活性が見られるのだろ
よびヒト GGT に対するそれぞれの化
うした傾向から明らかに外れる化合物
うか? その答えは、化合物 3 , 4 , 5 a
合物の阻害活性を表1に示す。
がある。たとえば、阻害剤 3。この化
の構造と、ヒト GGT の基質認識にあ
これら第2世代の阻害剤は、acivicin
合物と、同程度の脱離能をもった化合
ると思われる。すなわち、これらの化
や第1世代の阻害剤と同じく、いずれ
物 2 f(pK a = 7 . 95)とを比較してみ
合物は、いずれも、グルタチオンの
も GGT の活性中心と 1 : 1 で反応する
ると、大腸菌 GGT に対する阻害活性
Cys-Gly をミミックするような構造を
不可逆的阻害剤で、時間とともに酵素
はあまり変わらないのに対し、ヒト
持ち、GGT がグルタチオンを加水分
が失活していくため、通常の阻害定数
GGT に対しては、化合物 3 は 2 f の 50
解する際の遷移状態(TS 1)とよく
K i が定義できない。そのため、酵素
倍以上の活性を示している。すなわ
似ている(図3)
。特に、リン原子か
と阻害剤との2次反応速度定数k on を
ち、化合物 3 は、ヒト GGT に対して、
ら数えて原子8個めに、負電荷を帯び
もって阻害活性をあらわし、この値が
その化学的反応性から予想されるより
たカルボキシ酸素があり、これがヒト
大きいほど、酵素が速やかに失活する
50 倍以上も強い活性をもつことにな
GGT の活性中心との親和性に大きく
る。 ち な み に、 化 合 物 3 の 阻 害 活 性
寄与していると思われる。すなわち、
(k on = 2400 M- 1 s- 1)は、acivicin の 6000
ヒト GGT の活性中心には、グルタチ
第1世代のモノエステル型 1 a-e に比
倍にのぼり、現在、ヒト GGT に対す
オンの Cys-Gly、特に、C 末端グリシ
べて著しく高い阻害活性を示し、同じ
る最強の阻害剤である。さらに著しい
ンのカルボキシ基を厳密に認識する機
脱離基を持つ 2 f と 1 e を比べた場合、
差が見られるのが化合物 4 で、同じ脱
構(残基)が備わっており、グルタチ
2 f は、大腸菌 GGT で 44 倍、ヒト GGT
離能をもつ 2 c と比べると、ヒト GGT
オンに対して高い基質選択性をもった
に至っては 380 倍もの活性を示した。
に対する阻害活性は 188 倍に達する。
酵素であることが予想される。ヒト
予想どおり、負電荷がなくなった分、
また、化合物 5 a も同様で、ヒト GGT
GGT のカルボキシ基に対する認識は
強い阻害剤である。
第2世代のジエステル型阻害剤は、
リン原子の求電子性が上がり、酵素の
活性残基との反応速度が増した結果で
Table 1. Inhibitory activities of phosphonate diesters 2a -g , 3, 4,
5a , 5b and acivicin toward E. coli and human GGT
ある。また、脱離基である置換フェ
ノールの pK a が下がり脱離しやすくな
leaving
group
inhibitor
H3N
X
COO
P
OCH3
O
H3N
2a-g
2a: X = OCH3
2b:
CH3
2c:
H
2d:
Cl
COO
H3N
O
3
4
6
5
O
3
2
O
3
5
6
N
H
SH
7
4
8
O-
O
GGTによるグルタチオン加水分解の
遷移状態(TS1)
7
COO
8
2
1
O
P
O
H
N
O δ− O
GGT
2e: X = CF3
2f:
CN
2g:
NO2
2
1
δ−
1
C
H3N
O
3
4
5
6
7
O
O-
5a
O
O
CH3
O
2
1
H3N
O
P
O
O
3
5
4
N
H
6
7
COO
8
2
O-
1
H3N
O
4
O
3
P
O
5b
O
CH3
4
6
5
7
OCH3
10.40
19
0.16
2b
HO
CH3
10.21
24
0.24
2c
HO
9.98
120
0.40
2d
HO
Cl
9.41
610
5.0
2e
HO
CF3
8.51
2900
12
2f
HO
CN
7.95
12000
46
2g
HO
NO2
7.15
35000
130
8.10
16000
2400
9.98
80
75
9.71
150
51
9.84
210
0.33
-6.18
4200
0.40
3
8
5a
O
5b
O-
4-MU
HO
COOCOO-
HO
acivicin
HCl
Second-order rate constant for enzyme inactivation.
pKa values of the leaving group
c
4-Methylumbelliferone
b
4
c
HO
a
図3.ホスホン酸ジエステル型 GGT 阻害剤
human
HO
4
COO
E. coli
8
P
O
CH3
kon [M-1s-1]a
2a
COO
O
pKab
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厳密で、たとえば、カルボキシ基の位
れる第2世代の GGT 阻害剤は、きわ
置がわずかに異なる化合物 5 b の阻害
めて有望な化合物で、多くの GGT 研
活性は大きく落ち込む。一方、大腸菌
究において、acivicin に取って代わる
の酵素は、末端のカルボキシ基をほと
阻害剤として広く使われることが期待
んど認識せず、どんな構造の阻害剤も
される。阻害は不可逆的で、酵素と
受入れ、単にその化学的反応性だけで
1 : 1 で反応して GGT 活性を完全に抑
阻害活性が決まっているように見受け
えることができ、ヒト GGT に対する
られる。その意味では、大腸菌 GGT
阻害活性は acivicin の 100 倍以上、そ
の基質特異性は広く、グルタチオンを
して何より、GGT 選択的で、GAT 類
本来の基質としないのかも知れない。
を阻害せず、毒性や変異原性もなく、
さて、ホスホン酸ジエステル型阻害
化学的にも安定となれば、acivicin に
剤は、脱離基の脱離能が上がるほど化
対する優位性は明らかだろう。むし
学的に活性になる分、加水分解を受け
ろ、さまざまな酵素を阻害する acivicin
やすくなる。その意味では、化合物
を用いて得られたこれまでの結果は、
5 a は、単純な構造で水溶性が高く、
ひょっとすると、GGT 以外の酵素を
脱離能が低くて化学的に安定な割に
阻害した結果かも知れない。阻害剤
は、ヒト GGT に対する阻害活性が強
5 a は、 そ う し た リ ス ク を 回 避 し、
いため、最も実用的なヒト GGT 阻害
GGT の真の生理的役割を明らかにす
剤と言えよう。そこで、化合物 5 a の
る重要な化合物になるだろう。近年、
安定性を調べたところ、中性の水に溶
ピロリ菌の GGT が病害性因子として、
かして室温で1ヶ月放置しても、全く
胃壁細胞のアポトーシスを誘導するこ
分解は認められず、きわめて安定な化
とや 25)、GGT が骨再吸収因子として
合物であることがわかった。また、化
関節炎や骨粗鬆症に関与するなど 26)、
合物 5 a の GAT(アスパラギン合成酵
興味深い報告が相次ぎ、植物における
素のグルタミナーゼドメイン)に対す
GGT 研 究 も 緒 に つ い た ば か り で あ
る阻害活性を調べたところ、10 mM
る 27 ,
の濃度で2時間処理しても、全く阻害
ますます盛んになるに違いない。その
は 見 ら れ ず、 同 条 件 で、0 . 1 mM の
意味でも、阻害剤の出番は多い。むし
acivicin が GAT を 10 % 以 下 に ま で 失
ろ、この阻害剤が GGT の生理的役割
活させるのと対照的であった。おそら
を明らかにする強力な化学ツールとし
く、 第 2 世 代 の GGT 阻 害 剤 の う ち、
て、GGT 研究を大きく発展させる起
少なくとも、グルタチオンの部分構造
爆剤となることを願って止まない。
28)
。GGT をめぐる研究は、今後、
を 模 し た 化 合 物(3 , 4 , 5 a な ど ) は
GGT 選択的で、GAT 類を阻害しない
ものと思われる。また、雌雄マウスを
用いて、化合物 5 a を 30 mg/kg および
100 mg/kg の用量で単回静脈内投与を
行い、2週間にわたって、一般症状、
体重、摂餌量を観察したが、いずれも
異常は認められず、また、観察期間終
了後の剖検でも、主要臓器・組織に異
常は見られなかったことから、急性毒
性はないと判断された。同様に、微生
物を用いた変異原性試験(エイムス試
験)も陰性であった(未発表データ)。
以上のように、化合物 5 a に代表さ
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His 要求性から非要求性に変わる復帰
突然変異を、プレート上で効率よく
簡便に検出する。既知の発ガン物質
のほとんどが、この方法で陽性を示
し、変異原性とガン原性を精度よく、
かつ、再現性よく検出できる。
P roducts
新規GGT阻害剤
GGsTopTM
COO-
特 長
H3N+
● GGT 特異性が高い
O
P
●ヒト GGT に対する阻害活性が高い
O
COOH
O
CH3
●毒性が低い
C13H18NO7 P = 331.26
●化学的に安定
コードNo.
NEW
6
075-05471
品 名
GGsTopTM
規 格
容 量
希望納入価格
(円)
細胞生物学用
10mg
20,000
和光純薬時報 Vol.76, No.3(2008)
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