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研究内容
2.小秋元 段(文学部) 第 34 回公益信託上野五月記念日本文化研究奨励賞 文学部 小秋元 受賞(2014 年 6 月 30 日) 段 このたび私が受賞した公益信託上野五月記念日本文化研究奨励賞は、東京の電鉄会社の 創業者の令夫人・上野五月氏(故人)が設立した基金より与えられたものです。日本・東 洋の古美術・古典籍の収集に努めた亡夫の生前の活動を踏まえ、日本・東洋の文学・言語 ・歴史・宗教等の領域で、資料にもとづく研究を進めた研究者を顕彰するべく、書誌学の 泰斗、川瀬一馬博士の助言を得て設立された基金であると聞き及んでいます。 私の受賞理由は「中世文学―特に「平家物語」「太平記」を中心とする軍記、説話文学 の研究」というものです。特定の著書、論文が受賞の対象となっているものではなく、こ れまでの一連の研究成果が対象となっています。したがって、以下、受賞対象となったと 忖度される、近年の私の研究成果について簡潔に説明することとします。 私はこれまで『平家物語』『太平記』を中心とする軍記物語の研究を、主に作品論と伝 本研究の両面から進めてきました。このうち、伝本研究の面では室町時代を中心に成立し た写本と江戸時代の刊本の二方面を研究対象としてきました。従来、中世文学研究ではよ り古い本文に遡及する研究が重視され、写本を対象とする研究が中心となっていました。 私もその方面への調査を進める一方で、中世の写本が近世に入り、刊本としていかに流布 してゆくのかという問題を、伝本と文献資料にもとづき追究しました。特に、『太平記』 のはじめての刊本である慶長 7 年(1602)刊古活字本が、京都の神道家で蔵書家として著 名な梵舜の所持本をもとに、当時、京都で出版活動を積極的に行っていた嵯峨の角倉家の 力を背景に五十川了庵が刊行したことを、本文、史料を通してほぼ明らかにすることがで きました。その後、『太平記』は古活字本として次々と刊行され、やがて整版本となって さらなる流布をとげます。刊本は印刷された本であるため、個々の伝本は軽視されがちな のですが、それらを実際に調査することにより、刊行の経緯は多少なりとも明らかにでき たかと考えています。 これらの成果は主に以下の著書、論文で発表しています。 『太平記と古活字版の時代』(新典社、2006 年) 「国文学研究資料館蔵『太平記』および関連書マイクロ資料書誌解題稿」(『調査研究報 告』第 26 号、2006 年) 「国文学研究資料館所蔵資料を利用した諸本研究のあり方と課題―『太平記』を例として ―」(『調査研究報告』第 27 号、2007 年) 「要法寺版をめぐる覚書」(『芸文研究』第 95 号、2008 年) 『平家物語大事典』「版本(古活字本・整版本)」(東京書籍、2010 年、項目執筆) 「古活字版の淵源をめぐる諸問題―所謂キリシタン版起源説を中心に―」(『国際日本学』 第 8 号、2010 年) 『校訂 京大本 太平記』(勉誠出版、2011 年、共編) 「仏教信仰がはぐくむ古活字版」(印刷博物館企画展図録『空海からのおくりもの』、2011 年) 「慶長年間における古活字版刊行の諸問題」(『東アジア書誌学への招待』第2巻、東方 書店、2011 年)