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5 軸制御マシニングセンタの特色と加工事例
「最近の工作機械動向」 5 軸制御マシニングセンタの特色と加工事例 三井精機工業 ㈱ 村 上 誠 生 当社にて製造されている立形、横形それぞれの 5 軸の種類とその特徴の説明を基に、5 軸制御マシニングセンタ の精度とその偏差が加工に与える影響。高い精度の加工要求に対応する時の注意点と最近の 5 軸の加工事例とそ の効果について述べてみたい。 5 軸制御マシニングセンタについての明確な定義は 見あたらないが、ここでは当社にて製造されている直 1.立形 5 軸制御マシニングセンタ 線 3 軸+回転 2 軸で、同時 5 軸での輪郭制御が可能な 1.1 テーブルオンテーブルタイプ マシニングセンタについて、その構成と仕様から加工 標準とする立形 3 軸機を基本としテーブル上面に の適正を紹介する。 回転軸 2 軸(例:A 軸 C 軸'、B 軸 C 軸' の組み合わせ) 当社で生産中の 5 軸制御マシニングセンタは型式で を追加し 5 軸としたタイプ(写真 1)。加工領域は Y 軸 14 種あり、直線 3 軸+回転 2 軸、主軸の立、横の構成 によって、それぞれ特徴がある、5 軸制御マシニング センタ導入検討時に加工対象物にあった機種選定に役 立つようタイプ別の特徴を説明しておく。 立・横 5 軸で以下 3 タイプの 6 種類で分類した。 ①テーブルオンテーブルタイプ ②トラニオンタイプ ③主軸首振りタイプ 写真 1 特集「最近の工作機械動向」企画趣旨 編集委員 安齋正博 今回の小特集は昨年 11 月に開催された JIMTOF 2006 の中から素形材産業に関連の深い金型形状加工に 不可欠な工作機械の最新動向について特集した。JIMTOF での特徴となるキーワードは工程集約、環境負 荷軽減、高速・高精度化、小型化、多軸化、複合化、超精密化による高度化であり、さらに情報化といっ た知能化技術がプラスされより高度でかつ多機能な工作機械に進化してきているという点であろう。 特に今回目を引いたものには、多軸加工機の展示が多かった(ヨーロッパでは製作される 7 ∼ 8 割が 5 軸加工機と言われている)。最近の金型加工技術に要求されているものは先ず金型製造の迅速化である。 多軸加工機を使用することで段取り換えを少なくして、高効率な金型加工を実現することは、迅速製造に 直結する。 本誌では 5 軸マシニングセンタに関する記事 2 件と高速・高精度化を実現した大型門形マシニングセン タについてそれぞれの特徴と加工実例について紹介する。 わが国の金型産業は、他の製造業と同じく、他国では真似の出来ない高度な技術開発で対抗しようとし ており、急速なグローバル化に対する決め手は最先端の加工技術の導入と自社のノウハウを融合させた製 造技術の構築であろう。今回の小特集が一助になれば幸いである。 最近の工作機械動向 に対し X 軸ストローク 1.5 ∼ 2 倍に設定する場合が多 く 5 軸として使用する場合 X 軸ストロークの両端付近 は不要な領域になってしまう。テーブル上面に付加軸 取り付ける構造上、下面∼ C 軸テーブル上面までの高 さ分、テーブル上面と Z 軸ストロークの関係が異なる ので、Z 軸ストロークと位置関係に注意することが必 要である。 <メリット> 標準機ベースでの改造対応が出来る。 取り付け時(5 軸)、取り外し時(3 軸)対応が可能 図1 である。 搭載する付加 2 軸についてスピード、テーブルサイ 主軸直下に切粉排出口を持ち削り出し等による大量 ズなど、テーブルメーカから選ぶ事ができる。 の切粉に対して高い排出力がある。 <デメリット> キューブ構造をしたベッドの上面より上に直線 3 軸 切粉がテーブル上面に溜まりやすい。 の機構をすべて配置し、小型軽量化したため、静的 加工できるワークサイズはテーブルの仕様とスト 精度+動的精度ともに向上した。 ロークによって制限を受ける。 BT 40 25,000 min スピンドルの冷却機構では発生 選んだ付加軸に対しての干渉チェック、ワークの制 した熱量を検知しインバータ制御されたクーラで 限、加工限界の確認など手間が多い。 最適に冷却するとともに熱変位補正機能を標準装 組み込みタイプでないので都度検討する必要がある。 備した事で大幅に熱変位量が低減された。 -1 1.2 立形トラニオンタイプ 切削ポイントより上に直線 3 軸の機構がある事で硬 最近の 5 軸加工の需要の高まりから、立形 5 軸制 く細かな切粉が発生する加工でも機械寿命にあたえ 御マシニングセンタとして開発したのが写真 2 の る影響が少ない。 「Vertex 550−5 X」である。直線 3 軸のストローク範 囲は、X:550 mm Y:600 mm Z:500 mm の立方体で、 傾斜軸(A 軸)で割り出されたワークの加工面積が均 最小指令単位を直線軸 0.0001 mm 回転軸 0.0001 を 標準設定とした。 当機種での精度の実測値を図 2 で示した。従来機の 等となるような配分となっており以下の特徴がある。 写真 2 ベッド構造自体に A 軸トラニオンの軸受け、ドライ ブを組み込んだ高剛性構造となっている。 設置面積 2 m×3 mに対し最大ワークサイズφ500 mm × H 325 mm(H 425 mm/ 制限あり)最大積載重量 350 kg に対応している。 図2 半分以下に改善された結果、金型の分野への導入が広 ンタもある。機械の軸構成上、A 軸に対し主軸側の B まり始めている。 軸が左右傾斜し。カッター先端の加工ポイントが B 軸 の回転中心近くにセットできるため、B 軸の回転位置 2.立形 5 軸 決め誤差が小さく抑えられる。主軸は外径の小さい 2.1 立形トラニオンタイプ(リニアモータ+DDモータ) 物を採用しており、カムの加工など、加工プログラ 高速化は生産効率図る上で重要である。従来、ボー ムの関係でヘッドとの干渉が発生しやすいワーク向 ルスクリューとウオームギア駆動が一般的であった きである。 が、リニアモータ+ダイレクトモータで駆動する 5 軸 マシニングセンタが増えてきている。ロストモーショ ンの少ない特徴を生かし高速、高追従性が求められる 3.横形 5 軸制御マシニングセンタ 3.1 テーブルオンテーブルタイプ(写真 5) 加工はこうした駆動方法が多く採用され、同時 5 軸制 横形 4 軸制御のマシン 御の微少ブロックが連続するような加工、たとえば ベースで付加軸テーブルを 高速加工で追従性が求められる。金型、電極の加工 搭 載 し た タ イ プ、 基 本 ス 分野、インペラやブリスクなど、航空機エンジン、発 ペックはベースマシンにほ 電機のタービンの加工分野から普及しつつある。モー ぼ準ずる。 タパワーのわりにトルクが小さいため高速回転での高 B 軸テーブルの上に、C 送り加工向きで、軸送りモータの発熱の精度に与える 軸テーブルを搭載した 5 軸 影響を抑えるため容量大きな冷却措置が必要など、コ となるため、トラニオンタ スト高も含めて(イニシャルコスト、エネルギーコス イプに比べコンパクトで、 ト)大型化には解決しなければならない問題があるが、 徐々に改善され、モータの大型化も進んでいる。 写真 5 高速で加工での追従性を求 める加工向である。ワーク の厚みは B 軸の旋回径による制限を受けるため、取り 付けのワーク径に対し、厚みが薄い物向きで、横形マ シニングセンタベースのため、ATC、APC などの拡 張性が高い。 3.2 横形トラニオンタイプ(写真 6) 中∼ 大型ワークサイズ向 きで、最大ワーク旋回φ 750 ∼φ 2,000 mm のシリーズ がある。 写真 3 図 3 で示すように、A 軸 の許容旋回径内に C 軸機構 2.2 立形首振り 5 軸タイプ と許容ワークサイズをコン 写真 4 のように首振りの立形 5 軸制御マシニングセ パクトにレイアウトし、切 写真 6 削ポイントが傾斜軸の軸受 け中心が近くになるように 設計されているので、剛性、精度、とともに X、Y、Z 軸ストロークに対して大きなワークエリアがとれる。 ATC、APC などの拡張性も良いので、航空機部品 (エンジン、ケース、アクチュエータ)半導体装置(チャ ンバー)、そして自動車部品(エンジン)の試作加工 などでのニーズが高く、幅広いワークに対して対応で きる。横形 5 軸と立形 5 軸の一番大きな特色の違い 写真 4 は、Z 軸のストロークである。たとえば 500 × 500 × 最近の工作機械動向 チルト軸にかかるモーメントが大きくなる。 回転軸の偏差による誤差量が大きくなる。 Y 軸ガイドレール面∼主軸ゲージラインまでの距離 が長い。 5.5 軸制御マシニングセンタの偏差が与える影響 図 1 のような構成の機械では A 軸の回転中心は両端 の軸受けにて固定され C 軸回転中心と A 軸回転中心が 直交する。直交の 3 軸に対し傾斜軸(A 軸)の偏差が 加工に対しどのような影響を及ぼすかについて、簡単 な例を挙げる。機械で X 軸運動直線 400 mm に対し傾 斜軸回転中心線の偏差量を Y 軸(前後)方向で右前に 加工ポイントは A 軸中心付近に設定できるため、Z 軸の加工 推力がかかってもワークは動きにくく、重切削が可能です。 図3 12 m、Z 方向(水平)0 と仮定する。図 4 のようにワー ク 400 × 200 × 50(mm)を C 軸テーブル上面に A 面を 水平で側面を X 軸に平行になるように取り付ける。そ 500( mm)のワークに貫通するボーリング加工を考え のまま傾斜軸 90 手前傾け図 5 の状態で B 平面削り後、 た場合、650 ∼ 700 mm くらいの Z ストロークとロング 再度 A 面水平に戻し、加工した B 面と X 軸の平行を ツール(工具長 550 mm 程度)が必要となる。機械の設 測定すると 12 置、輸送条件などから、ワークサイズが大きくなると、 と角度にして 6 sec のずれを生じた事になる。A 軸を 立形より横形が構成上有利である。 90 反転させて B 面の反対面を切削した場合は B 面と m 変位を生じる。従って B の反対面 は平行な面となり、A 面は平行四辺形となる。簡単な 4.首振り 5 軸(チルトヘッド) 例だが 5 軸制御マシニングセンタでは 3 軸での空間的 ワークが大きくなるとワークを傾斜させるために、 な精度が高い事はもちろんの事、このように傾斜軸(A それと同等の大きな傾斜軸が必要になる。またワーク 軸)の回転中心線と X 軸運動の軌道直線が空間的に平 の形状によっては傾け 事で変形するなど、主 軸側を傾斜させるほう が精度的にも安定する ケースもある。そうし た場合、写真 7 のよう な横形の首振り 5 軸が 有効である。ワークを 回り込むように主軸が 図4 動く必要がありトラニ オンタイプに比べ大き なストロークが必要と 写真 7 なる。 <メリット> 重量、最大ワーク径の大きなワークに対応できる。 ヘッド側のユニット変更で汎用機ベースを大きく改 造なしで対応が可能。 主軸チルト軸(A 軸)の重量が小さく安定している。 (工具重量変化内) <デメリット> 工具先端からチルト軸中心までの距離が長くなる。 図5 行である事、同様に Z 軸運動の軌道直線と C 軸の回転 中心線も可能なかぎり平行で有る事は製品の精度を求 める上で重要な要件となる。 6.5 軸加工での注意点 より精度の高い加工が求められた場合、どのような 点に注意すればよいか。普段機械を使っていれば、対 象の機械の加工精度の限界が見えてくる。より高い精 度を 5 軸制御マシニングセンタで求めるには軸数が多 いほど、より細かな点に注意を払うことが必要になる。 特に回転軸については、傾斜軸回転中心からの B 軸 中心までの寸法、機械構成上は 0 としても実際は数 m のずれがある。また傾斜軸(A 軸)中心からテーブル上 面までオフセット寸法が 100 mm と規定された機械の 場合でもその正確な数値を知り、NC プログラム作成 時には機械情報として入力が必要である。5 軸加工で は CL データを NC データにするのに 5 軸用ポストプロ セッサ、もしくは CAM メーカで用意した機能を有効 に使用するために、予め機械の情報を正確に入力する 図6 ことが重要である。プログラムを作成する上で、機械 の構造的な寸法情報に違いがあると差分もしくはその コーの円周に沿っ 倍の誤差が加工に生じてくる。割り出しの 5 軸加工で て 0 から 180 移動す あれば、製品の寸法のズレに対し担当者が修正対応す る間に、Z 軸を最低 る手段は 3 軸制御マシニングセンタでのセンスがあれ 1 inch(25.4 mm)上 ば対応できるが、同時 5 軸となると容易ではない。 昇させ、残り 180 で Z 軸を元の位置に戻 7.ダイナミックフィクスチャーオフセット機能 すよう運動させるこ この機能は先ほど説明したオフセット寸法値を修正 とで 5 軸すべてを運 した場合 NC データの作り直しといった手間や、ワー 動させ切削行うよう クのセット位置にズレがあった場合そのズレ量を NC に規定し、加工ピー 側パラメータに入力する事で、NC データをダイナ スの真円度と上下の ミック補正しながら加工を行える機能である。従って 角度誤差の測定を求 5 軸プログラムは 、 機械の理想寸法値で作成しておけ 資料 1 めている。 ば 、 補正寸法値を NC パレメータに与えるだけで 、 機 当社でも同時 5 軸 械が自動的にワーク座標系をずらしながら加工してく の評価としてユーザからの要求により実施して来た れる 。 ものを比較評価のため、実施している。 8.同時 5 軸制御の運動性能評価(NAS 979 に おける試験方法) 8.1 加工サンプル 1 テストピース 写真 8 は、5 軸の割り出し加工のテストのサンプル 加工品 5 軸制御マシニングセンタの動的な性能評価とし 直交する稜線は頂点のポイントで交わっている事。 て、航空機産業向け機械評価規格として NAS 979 の 曲面上の文字彫りコーナ面の状態が良好か?台座面の シート 34 に基づいたテーパーコーン加工が 5 軸制御 曲面はそれぞれ段差が無く繋がっているかどうかを評 マシニングセンタの動的評価法としてよく用いられて 価ポイントとしている。 いる。加工方法は資料 1 に示すように 30 のテーパー (2 + 3 の五軸加工の繋ぎの面を想定) 最近の工作機械動向 写真 8 写真 9 8.2 加工サンプル 2 ギアケースのスライドコア 回転 2 軸位置決め+ 3 軸加工 写真 10 るケースがあるので、実機での加工に望む前にシミュ レーションを実施し干渉をチェック、食い込みチェッ 金型加工において写真 9 のように高さのあるコアを クなどを実施してリスクを回避しておく事が必要で 加工するには数度の段取り変えが必要になる。それを ある。 「2 + 3 の五軸加工」による、ワンチャッキング加工 図 8 は R 0.5 ボールエンドミルを使用して中央の四 で段取り換えの工程をなくし、小径のボールエンドミ 角ポケットの仕上げ加工(5 面とそのピン角)を 1 本 ルで剛性の低下を抑えた切削することによって、放電 の工具行う箇所のシミュレーション画像である。 加工の工程を無くした加工実例で、工具の突き出し量 同時 5 軸といえば、航空機のエンジン部品、ガスター を少なくするようデータを作成、パスの軌跡から細か ビンの部品加工といったイメージが強いが、同時 5 軸 く割出し方向を変え条件の良い角度から加工アプロー 加工の環境充実による普及率の高まりとともに、その チしている事がわかる(図 7)。 効果が広く認識されはじめてきている。 材質:NAK 80、素材サイズ:260 × 220 × H 185(mm) 加工時間:30.5 h 図7 図8 JIMTOF 2006 における各社出展取り組み状況から も、5 軸制御マシニングセンタはこれからもさらに普 8.3 加工サンプル 3 フィンの金型 及、拡大して行くことは確実である。現時点ではまだ 同時 5 軸加工による加工事例として写真 10 のフィ 2 軸+ 3 軸による加工での取り組みが多いが、新技術、 ンの金型加工を紹介する。加工展示用として作成した ノウハウによる差がでるのは、同時 5 軸加工による分 ワークであり、同時 5 軸での加工は 2 + 3 の 5 軸加工 野であると考えている。「5 軸加工が拓くあらたなモ と異なり面の繋ぎの筋目でないようにできる。 ノづくり」を柱にさらなる 5 軸化をすすめて行きたい。 パスの分割に苦慮せずに CL データを作成でき、割 り出し 5 軸加工の場合より、工具の突き出し長さをぎ りぎりまで短く設定できるといったメリットがある。 反面、干渉ぎりぎりの条件での加工が多いこと、工具 先端点制御などを使用した場合、予想外の動きをす 三井精機工業株式会社 精機営業 業務部 http://www.mitsuiseiki.co.jp/ 〒140−0002 東京都品川区東品川 2−2−8 スフィアタワー天王洲 8 F TEL 03−5715−3355 FAX 03−5715−3919