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リラクサ強誘電体を用いた強誘電体と反強誘電体の固溶体の相転移に

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リラクサ強誘電体を用いた強誘電体と反強誘電体の固溶体の相転移に
SURE: Shizuoka University REpository
http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/
Title
Author(s)
リラクサ強誘電体を用いた強誘電体と反強誘電体の固溶
体の相転移に及ぼす圧力効果に関する研究
大和, 英弘
Citation
Issue Date
URL
Version
2007-09-25
http://doi.org/10.14945/00006460
ETD
Rights
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電子科学研究科, GD
⑳
0007520588R 雛難韓
静岡大学 博士論文
リラクサ強誘電体を用いた強誘電体と反強
誘電体の固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
に関する研究
濃糞
霧
2007年6月
大学院理工学研究科
大 和 英 弘
目次
第1章 序 論
1−1 強誘電体と構造相転移
1−2 リラクサ強誘電体
1−3 強誘電体への圧力効果
1−4 本研究の目的と構成
1
3
10
12
第2章 試料作製と実験方法
2−1 試料作製 ……………
16
2・1・1 セラミック作製
2・1・2 単結晶育成……
16
2−2
2−3
2−4
2−5
2−6
X線解析
誘電率および誘電損失測定
P・Eヒステリシス曲線測定
ドメイン観察
静水圧力印加装置 ………… …・
18
20
20
22
24
24
第3章 Pb(Mg113Nb2/3)03− PbZrO3固溶体の相転移に
及ぼす圧力効果 、
3−1 緒言
3−2 試料作製
3−3 実験結果と考察 ……………………………・・
3−3・1 組成変化による誘電特性
26
27
30
30
3・3・2 (1・x)PMN− xPZ(x=0,0.3,0.5,0.7)の
誘電特性の圧力依存性 …………………
3・3・3 (1・x)PMN−xPZ(x=0.9)の誘電特性の
35
圧力依存性 ………………………………・・
50
3・3・4 (1・x)PMN−xPZ(x=0.95)の誘電特性の
圧力依存性 ………………………………… 53
3−4 結論 59
第4章 Pb(Sc1!2Nb1!2)03 一一 PbZrO3固溶体の相転移に
及ぼす圧力効果
4−1 緒言
4−2 試料作製 ………………”°………………°’”
4−3 実験結果と考察 ……………………………・
4−3・1 組成変化による誘電特性 ………………
61
62
66
66
4・3・2 (1・x)PSN− xPZ(x=0,0.2,0.4,0.7)の
誘電特性の圧力依存性
70
4・3・3 (1・却PSN−xPZ(x=0.9)の誘電特性の
圧力依存性
84
4・3・4 (1・x)PSN−xPZ(x=0.95)の誘電特性の
圧力依存性
4−4 結論 …………………………………一・……・。
87
90
第5章 Pb(Yb1/2Nb1/2)03−PbTio3固溶体の相転移に
及ぼす圧力効果
5−1 緒言 ……………一・・……………一・・……… 92
5−2 試料作製 ………………°°’………………吻’°… 94
5−3 実験結果と考察 98
5・3・1 組成変化による誘電特性 98
5・3・2 (1−x)PYN 一 xPZ(x=0.05)の誘電特性の
圧力依存性 ………………・・… ………… 101
5・3・3 (1・x)PYN−xPT(x=0.1,0.12)の
誘電特性の圧力依存性 ………………… 104
5−3・4 (1・x)PYN−−xPT(x=0.15、0.2、0.25)の
誘電特性の圧力依存性 109
5・3−5 (1・x)PYN−xPTの誘電分散の圧力依存性 115
5−4 結論 ………
・…
@ 124
第6章 Pb(ln1/2Nb1/2)03の相転移に及ぼす圧力効果と
ドメイン観察
6−1 緒言 ………………………____..._
126
6−2 試料作製 ………………………………°°’
129
6−3 実験結果と考察 ………………………………・
132
6・3・1 秩序度の違うPINの誘電特性……・
132
6・3−2
6・3−3
Partially Ordered PINのドメイン観察と
微小領域の誘電特性 ……………………… 134
秩序度の違うPINの誘電特性への
圧力効果……………・一一一・・一…………………139
6・3・4
Partially Ordered PINの微小領域の
誘電特性への圧力効果……………一・・……144
6−4 結論 150
第7章 リラクサの誘電緩和現象と活性化エネルギー
に関する考察
7−1 緒言 ……………………………__...__
7−2 試料の違いによる考察……………・・
7−3 固溶体の濃度変化による考察……… ・…
7−4 固溶体の圧力変化による考察………・ ……・
第8章 総括
一・・…
関連する論文
謝辞
・・・・・・
・・・・・・…
152
154
155
157
@ 161
@・… 165
@ 一 一一・・ 167
第1章 序論
第1章 序論
§1・1.強誘電体と構造相転移
誘電体に外部電場を印加すると、電場方向に分極が誘起される。
誘起される分極には以下の種類がある。
(1)電子分極(electronic polarization)
外部電場E=Oの状態では、正と負の電荷の中心が一致して
いるが・電場が印加されると電子雲が変形してその重心が原
子核の中心と一致しなくなり双極子を誘起して生じる分極。
(2)イオン分極(ionic polarization)
イオンまたは原子団の変位に基づく分極。
(3)配向分極(orientationa1 polarization)
有極性分子の配向に基づく分極。
(4)空間電荷分極(space charge polarization)
セラミクスなどによく見られ、空間電荷が結晶粒や分域
(ドメイン)の中を移動するときに生じる分極。
通常、これらの分極は外部電場を取り去ると分極は消失するが、物質
によっては電場が印加されなくても分極が存在するものがあり、その
分極を自発分極といい、Psで表す。自発分極をもつ誘電体のなかには、
外部電場によってPsの向きを反転できるものがある(分極反転)。こ
の分極反転を生じる誘電体を強誘電体といい、強誘電体は必ず圧電性
(piezoelectricity)と焦電性(pyroelectricity)を示す。
圧電性とは、外部応力によ
って結晶にひずみが生じイオン
の相対位置が変化して誘電分極
を生じる現象のことである。ま
た、焦電性とは、Psを・もつ結晶
の温度を変化させると、原子の
熱振動状態や結晶の大きさが変
化し、それらによるPsの変化分
が結晶の表面に現れ、電位差を
生じる現象のことである。図1・1
図1・1.圧電性、焦電性、
に圧電性、焦電性、強誘電性の
強誘電性の関係
1
1
2
第1章 序論
関係を示す1)。
1920年にロッシェル塩(NaKC4H406・4H20)の強誘電性が発見さ
れて以来2)、1935年にりん酸二水素カリ(KH2PO4)、1945年頃にチタ
ン酸バリウム(BaTio3)などと続々と新しい物質が加わってきた3)。こ
れらの強誘電体は自発分極の発生機構の違いにより、変位型強誘電体
と秩序・無秩序型強誘電体の2つに大別される3)。BaTio3に代表され
る変位型強誘電体は結晶内のイオンが中心対称性のある構造から自発
分極の方向へわずかに変位することにより自発分極が生じる4)。っま
り、常誘電相から温度を下げていくと格子振動のうち1つの横波光学
モードの振動数が減少し、転移温度でゼロになる“critical softening”
5)を示し、転移温度以下ではその振動モードに対する原子変位の復元
力が消失してその変位が凍結し、自発分極を生じる。また、ロッシェ
ル塩に代表される秩序・無秩序型強誘電体は結晶内に回転あるいは反
転できる永久双極子モー一メントがあり、常誘電相ではそれらが不規則
な方向に配置して結晶全体では自発分極が消失している。転移温度以
下の強誘電相では長距離秩序が生じ、永久双極子モーメントが規則的
に配置することにより統計的な偏りが生じ自発分極が生じる。
一般に強誘電性はわずかな結晶構造の変化により対称性が低くな
る構造相転移によって生じ、転移温度より高温側では自発分極を持た
ない常誘電相で、低温側で自発分極が現れる強誘電相となる。転移温
度Teより高温側から温度を下げていくと、誘電率は増大し、転移点で
発散して、キュリV…一・・ワイスの法則
C
s= +s
(1・1)
T−T。1°°
で表すことができる。0はキュリー定数で、誘電体が電場の中に置か
れたときに誘起される分極の大きさに関係する。ε。。は十分高い温度に
おける誘電率で、Toはキュリー・ワイス温度(特性温度)と呼ばれてい
る。相転移点近傍ではεの値は大きいのでε。。を無視すれば、誘電率ε
の逆数は温度に比例する。図1・2に一次転移を示す亜硝酸ナトリウム
(NaNO2)と二次転移を示す硫酸グリシン(TGS)の誘電率の逆数を示す
6)。図より、二次転移を示す強誘電体ではToとTeは一致するが、一
次転移を示す強誘電体では、ToとTeは一致せず、 ToはTcより数度
2
第1章 序論
0.020
3
韓罫
XユO韓罫
0.0ユ5
1/εr O. 010
1/ε,
需=環
O.005
040
44 48 52 56 60 64 68
ユ80 190
温度(℃〕
温度〔℃〕
(a) NaNO2(ヤ次転移),
(b)硫酸グリシソ(TGS)(二次転移),
b軸方向
b軸方向
図1・2.(a)NaNO2と(b)TGSの比誘電率の逆数の温度特性
低いことが多い。Toは常誘電相の1/εを外挿し、温度軸と交わる点の
温度である。
§1・2. リラクサ強誘電体
リラクサ強誘電体とは、誘電率のピークがブロードで、誘電率の
最大値を示す温度が周波数とともに高温側へ移動し、誘電率の最大値
が低下する性質、誘電緩和(Dielectric Relaxation)を示す強誘電体
材料の総称であるが、一般的には鉛を含む複合ペロヴスカイト化合物、
すなわちPb(B’B”)03の組成式をもつ材料をあらわす。ここで、 B’は
ユ5QOO
10000
薯
5, OOO
100 150 200 250 300
τ/K
図1・3.Pb(Mg113Nb213)03の誘電特性
3
第1章 序論
4
MgやZn等の2,3価の陽イオン、B”はNbやW等の5,6価の陽イオン
である。図1−3にリラクサの代表例であるPb(Mg1!3Nb2!3)03の誘電特
性の温度依存性を示す7)。また、リラクサの常誘電領域における誘電
率はキュリー・ワイスの法則の式(1・1)よりも二次式
⊥一⊥+(T−T・)2 (、.2)
s So C
に従うことが知られている。
リラクサは組成式のBサイトを置換することができ、1950年代に
旧ソ連で数多くの物質が合成され、その特性が明らかにされた8)。リ
ラクサについてまとめたものを表1−1に示す9)。表からわかるように
Bサイトが1:1と1;2のものがあり、さらにリラクサのほかに反強誘
電性の物質もある。また、結晶の形態も様々である。リラクサは先に
述べたように複合ぺnヴスカイト構造(図1・4)であり、構造の安定
性を表す指標として、寛容因子(tolerance factor)tが定義される。
(7A十70)
t:
(1・3)
歪(rB+r。)
ここで、rA, rB, roはそれぞれAイオン、 Bイオン、酸素イオン
の半径である。理想的にはt=1のとき、A,Bの陽イオンがいずれも酸
素イオン(陰イオン)に接することになり一番安定となるが、実際は
AイオンであるPb2÷と02一のイオン半径1.49、1.40Aにくらべ、 Bサ
イトに入る物質のイオン半径がかなり小さいことから、この条件が満
たされず、結晶にひずみが生じ様々な特性が現れる。また、構造の安
定性には電気陰性度の差(electronegativity difference)e。も関係が
あり、次のように表される。
(X。一。+Xb−。)
’e 瓢
(1・4)
n 2
ここで、Xa・oはAイオンと酸素イオンの電気陰性度の差を、 Xb・oは
Bイオンと酸素イオンの電気陰性度の差を表しており、この差も大き
いほど安定する。縦軸に電気陰性度の差、横軸に寛容因子をとってグ
ラフにしたものを図1・5に示す10)。この図で右上に行くほど安定性が
4
第1章 序論
5
よく、左下に行くほど安定性が悪い。本研究で扱うPMN、 PSN、 PIN
を比べると、PINが一一ts安定性が悪いと考えられる。
⑫ ⑳ O
AB㌔B”0
図1・4.複合ペロヴスカイト構造
2.5
8
垂
ま莫
ζ?
≡》ぞ2.o
セも
8を
き益
PZNe
PFN
PNNe
PCW
PFW
隻
畠
岱
O.94
O.98 1.OO l.02
LO 6
TOしERANCE FACTOR{曾⊃
Plot ofaverage electronegativity(X)versus tolerance factor
(’),where BT r B訂゜iO」, KN=KNbO3, BZN諜Ba(Zn usNb2rs)03;
BZ譜BaZrOコ, ST鴇SrTiO3, CT=CaTiO3, PT=PbτiO3;PMN=
Pb(Mg置rsNb2,3)0コ, PSN響Pb(ScinNb夏n)OJ, PZ=PbZrO」;PFN累
Pb(FeirzNbl!z)03, PNN謬Pb(Ni1rsNb2x3)03, PZN=Pb(Zn協Nbzt3)O⊃;
and PIN=Pb(ln協Nb肛々)03, and PCN=Pb(Cdl,3Nb2!3)03.
図1・5.ペロヴスカイト型強誘電体の寛容係数と電気陰性度の差
5
6
第1章
序論
_Ω鰍鱒1__,
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Ferro 伽‘1
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TcL , , ●、 , 儀u辱P●駄 , , 甑 且 脚■ ,
丁i響璽 ,P ,艦 邑騨5 」“ L ,冒闘凧,βpq帆帆,,,鳶・隣・Lπ●陶
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_1__…9黒._.__.
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@Antiferro
Pb(B2㌔/3B5+2/3)03
Pb(Cd l!3Nb2!3)03
Pb(Znl!3Nb2!3)03
PCdN
PZN
270
8,000
PC
140
22,000
R
18,000
PC
PC
PC
Pb(Mg1!3Nb2/3)03
PMN
一10
Pb(Ni1!3Nb2/3)03
PNN
一120
4,000
Pb(Mn 1/3Nb2!3)03
PMnN
一120
4,000
Pb(CO I!3Nb2/3)03
PCoN
一98
6,000
Pb(Cdl!3Ta2!3)03
PCdT
?
?
Pb(Mg1!3Ta2!3)03
PMT
・98
7,000
Pb(Nil!3 Ta2!3)03
PNr
一180
2,400
Pb(Mn 1!3Ta2!3)03
PMnT
?
?
Pb(Co 1!3Ta2!3)03
Pα)T
鱒140
4,000
PYN
PHN
280
10
240
480
PLN
260
350
Pbσn1!2Nbi!2)03
P瓜「
90
550
Pb(S。1!2Nbl!2)03
PSN
PFN
PYr
90
38,000
112
12,000
280
100
Pb(Lu 1!2Taレ2)03
PLT
280
145
Pb(hw2Ta1!2)03
PIT
?
?
Pb(Sb l!2Ta1!2)03
PSbT
PST
PFT
?
?
26
28,000
.30
3,700
M
Pyr
PC
PC
F
F
F
F
F
F
28
380
9−10
190
32−34
160
30−35
130
30−35
130
33
250
?
?
?
100
F
30?
F
?
?
R
?
38−41
?
PC
F
?
?
M
M
M
M
AF
AF
AF
50
360
?
?
?
?
Pb(B3+1/2B5+1/2)03
Pb(Yb 1!2Nb l!2)03
Pb(HOI!2Nbl!2)03
Pb(LU I!2Nb 1!2)03
Pb(Fel!2Nb 1!2)03
Pb(Yb 1!2Ta1!2)03
Pb(Sw2Ta1/2)03
Pb(Fe1!2Ta1!2)03
F
F
F
37
320
42
260
7?
140
AF
?
?
?
?
?
Pyr
?
?
?
Pyr
?
?
?
F
45
205
F
?
?
R
R
M
M
R
R
Pb(B2㌔/2B6+1/2)03
Pb(Cdl!2WI!2)03
PCdW
400
400
Pb(Mn1!2Wl!2)03
PMnW
PZW
150
200
?
?
PMW
39
300
Pb(Zn1!2W1/2)03
Pb(Mg 112W 112)03
M
M
PY
0
0
AF
AF
AF
AF
AF
Pb(Co 1!2W112)03
PCoW
32
240
Pb(Ni1!2WI12)03
PNW
一3
?
?
?
PFW
鵬75
9,000
C
F
490
9,000
T
F
?
?
?
55
60
45
310
?
Pb(B3+2/3B6+1/3)03
Pb(Fe2!3W1!3)03
Others
PbTio3
PbZrO3
(Pb,La)(ZろTi)03
PT
PZ
PLZT
印
240
3,000
0
AF
47
360
<350
30,000
0,T
F,AF
30−45
<350
R:rhombohedra1, T:tetragona1,
PC:pseudocubic, M:monoclinic,
0:0rthorhombic, Pyr:pyrochlore,
F:ferroelectrics, AF:antiferroelectrics
表1・1
各種リラクサとその物性9)
6
第1章 序論
7
複合ペロヴスカイト結晶は通常の強誘電体ペロヴスカイト結晶と
比較して、
(1) 誘電率が非常に高い
(2)誘電率がなだらかな温度特性を示す(散漫相転移)
といった応用上優れた特徴がある。
誘電率が高いことにっいては、イオン・ラットリングモデルが提
唱されており、無秩序ペロヴスカイト構造から巨大誘電率発生を説明
している11)。図1・6にA(B’1!2B”1/2)03型結晶の秩序型および無秩序型
構造を示す。
○:B’(価数の低い陽イオン)
㊥:B”(価数の高い陽イオン)
(a)秩序型構造 (b)無秩序型構造
図1・6.イオン・ラットリング結晶構造モデル11)
秩序型では2つのBイオンが規則正しく配置するので、無駄な空間が
少なくなるのに対し、無秩序型では不規則に配置するので無駄な空間
が大きくなる。この無秩序型に電場を印加するとBイオンが酸素人面
体を崩すことなくシフトでき、より大きな分極が生じ、誘電率が大き
くなると考えられる。この配列規則性は2つのBサイトイオンの電荷
とイオン半径の差で決まるといわれている。表1・1より、
Pb(B2+1/3B5+2!3)03タイプは無秩序型、Pb(B2+1!2B6+1!2)03タイプは秩序
型、Pb(B3+1!2B5+1!2)03タイプはどちらでもなりうることがわかる。
リラクサが散漫相転移を示すことについては、まだはっきりとし
た理由は明らかにされていないがいくつかのモデルが提案されている
ので紹介する。
最も初期のモデルはSmolenskii12)とRolov13)によって提出され
たもので、リラクサ内部に化学組成の不均一を仮定し局所的に転移温
度が異なり、徐々に相転移が起こるというものである
7
8
第1章 序論
(Smolenskii・Rolovモデル)。後の研究により、このモデルは様々な理
由からリラクサの本質を充分に説明できるものではないことが示され
ている。
次にCross 14)は常誘電相の中に強誘電相の極性クラスターが生
成し、その分極状態が熱揺動するというモデルを提案した
(Superparaelectric mode1)。分極反転には活性化エネルギーが必要で
あるが、これは分極反転を起こすドメインの体積に比例する。ナノス
ケールの場合、活性化エネルギーは非常に小さくなり常誘電相で分極
反転が起こりうると考えられ、この熱ゆらぎによる分極反転が広い温
度領域で誘電率を大きくすると考えた。
Viehlandら15)はSuperparaelectric mode1を改良し、クラスタ
ー間の相互作用を加えたモデルを提案した(Dip 01ar Glass Transition
model)。ダイポールグラスはグラス転移点Tf(Freezing Temperature)
より高温側では、双極子がランダムな方向を向いており、低温側では
その双極子がランダムな方向を向いたまま凍結し、グラス的な振る舞
いをすると考えた。
また、Kleemannら16)はランダムフィールドがリラクサの振舞い
に重要な役割をすると報告している(Random−Field Induced Domain
States)。リラクサの2つの価数の違うBサイトイオンが無秩序に配置
された構造では、原子スケールで空間電荷を作り電場の変動をつくり
ランダムフィールドとなる。Tf以下では、極性マイクロクラスターが
ランダムフィV−…ルドの影響を受けた状態で凍結すると考えた。
さらに、Blincら17)はDipolar Glass modelとRandom Field
modelを合わせたSpherical random bond−random field modelを提
案している。以上、様々なモデルが提案されているが、決定的なもの
は無い。
また、最近リラクサに微小なOrdered Domainが存在することが
わかり、磁性体のスピングラスと似ていることから以下に示す
Voge1・Fulcherの式を用いて活性化エネルギーを算出し、リラクサの
誘電緩和を議論することが行われている。18−22)
f・ == fo exp[一 thf]
8
第1章 序論
ここで、
9
f。:デバイ周波数[Hz]
Ea:活性化エネルギ…一・一[eV]
Tf:凍結温度[K]
k:ボルツマン定数 1.380×10“23[JIK]
鳳:ε,max時の温度[K]
機能材料として鉛系複合ペロヴスカイト強誘電体は有用で、現在、
強誘電体セラミクスの圧電材料として最も広い用途で応用されている
のがPZT系材料である。 PZTは490℃に転移温度を持つ強誘電体
PbTiO3と230℃に転移温度を持っ反強誘電体との固溶体で、特に
Zr:Ti=53:47となるPb(Zro.53Tio.47)03では斜方晶(Orthorhombic)と菱
面体晶(Rhombohedra1)の濃度相境界(Morphotropic Phase Boundary)
となり、この組成付近では誘電率、電気機械結合係数が大きな値を示
すことが知られている。当然、セラミクスよりも単結晶の方が、より
良い特性を示すはずであるが、PZTの濃度相境界付近では単結晶育成
は非常に困難であり、実際作製された報告は無い。
ところが、リラクサ強誘電体の中にはそれ自身、PZTよりも誘電
率が高い物質であるにもかかわらず、PbTiO3と固溶させると濃度相境
界付近でさらに大きな誘電率、機械結合係数を示す物質がある(表1・1
参照)。さらにリラクサ強誘電体は比較的容易に単結晶が作製可能でも
あるため、高機能、小型化、低コストなどの利点から、非常に注目さ
れ、研究されてきた。積層コンデンサ、アクチュエータ、超音波振動
子、各種センサーのほか、最近では薄膜化におけるFeRAMの研究が
活発になされている。さらに、PZTの2成分系材料に、Pb(Mg1/3Nb 2/3)03
などのリラクサ強誘電体を加えた3成分系材料の圧電材料などが開発
されている。しかしながら、鉛を含んでいるので、製品が廃棄された
後に、環境に悪影響を及ぼすのではないかとの危惧も最近言われてい
る。
9
10
第1章 序論
§1・3.強誘電体への圧力効果
構造相転移の研究では、圧力は温度とともに欠かせない外部変数で
ある圧力は原子・分子間距離を変化させる最も良い方法で、温度だけ
で原子間距離を1%変化させるのはかなり困難であるが、圧力によっ
て10%変化させるのは難しいことではない。構造相転移を示す強誘電
体に静水圧を印加すると、誘電率のピークの変化に伴い、強誘電相あ
るいは常誘電相の温度領域を変化させることができる。また静水圧印
加による誘電特性の変化は、変位型と秩序・無秩序型では違い、転移
温度の圧力効果について次のような経験則が知られている。変位型で
は圧力により結晶格子間隔が短くなり、短距離相互作用による格子力
すなわちイオン変位に対する復元力が増大し、格子振動のバネ定数左
が大きくなり常誘電相領域を増大させる。つまり、圧力の増加に伴い
高温領域である常誘電相領域が発達するため、転移温度が低温側に移
動しdTe/dPが負になる。一方、秩序・無秩序型では永久双極子間の距
離が圧力とともに減少し、協力的相互作用が増大して強誘電状態のエ
ネルギーが低くなるので強誘電相領域が発達しdTe/dPが正になる。
さらに変位型相転移に関しては次のようなソフトモードを用いて
理論的に説明されている4)。変位型強誘電体の常誘電相の赤外活性格
子振動モードの中に、周波数の非常に低いものがあり、転移点に近づ
くにっれ周波数がさらに減少し、転移点ではゼロとなるモードをソフ
トモ・一・…ドあるいはソフトフォノンという。このときこの振動モードの
振幅が発散して相転移がおこると考えられており、ソフトモード周波
数をωoとすると次式で与えられる。
tO8=A(T 一一 To) (1・4)
また、誘電率が測定電場の周波数によって変化する場合(誘電分散)、
誘電率の分散式は次のようになり、
ゐ2
ε(tO)罵8(。。)+22
(1−5)
ω0縣ω
格子振動より測定電場の周波数が非常に小さいときは、
b2
s(0)==・s(。。)+「了
ω0
となる。ここで、bは実効電荷を表し、温度に依存しない。
10
(1−6)
第1章 序論
11
結晶内には短距離相互作用と長距離相互作用があり、両者の符合
は反転している。短距離相互作用による格子力は復元力であり原子間
力rのn乗(n≒10)に反比例し、長距離相互作用によるクーロンカは変
位を増加するように働き原子間力rの2乗に反比例する。すなわち、
短距離相互作用のほうが長距離相互作用よりも圧力、原子間距離に強
く依存する。Samaraによると23)、調和近似によるフォノン周波数ωo
は、短距離相互作用と長距離相互作用の寄与から成り立ち、
tO8。C(短距離相互作用)一(長距離相互作用)
となる。
構造相転移の圧力効果は1970年代から活発に行われ、特に
Samaraと下司らによって数多くの実験が報告された。本研究に関連
するペロヴスカイト型強誘電体の代表例として図1・7にBaTio3の圧
力相図24)とPbZrO3の誘電率の圧力依存性25)を示す。
BaTiO3の研究は以前からSamaraらによってなされていたが21)、
石舘らはさらに高圧力領域の誘電率測定および歪測定から図のような
相図を決定し、低温領域では量子効果から期待されるTc2 oc P−Poの関
係が3つの相転移について成り立つことを明らかにした。図からわか
るように各転移温度は圧力とともに減少し、先に述べた経験則と合致
している。一方、反強誘電体であるPbZrO3では、転移温度は圧力と
BaTiO3 PbZrO3
10x1げ4
§
肱
簑遡
墓
塁2・・
碁
藩
11E
垂
α
1「EMP三RA↑U薩症6 K
図1・7.BaTiO3とPbZrO3の圧力依存性
11
第1章 序論
12
ともに高温側にシフトしていくことがわかる。同じペロヴスカイト構
造でも圧力とともに転移温度が高温側にシフトする物質は、BaTio3
に代表される強誘電性相転移と区別して、ゾーン境界相転移あるいは
スタガード相転移とよばれ、量子常誘電体のSrTiO3も同じ振舞いをす
る26)。強誘電性相転移ではブリュアンゾーンの中心における赤外活性
光学フォノンの凍結によるのに対し、ゾーン境界相転移ではブリュア
ンゾーンの境界での赤外活性光学フォノンの凍結によると説明されて
いる。
§1・4.本研究の目的と構成
リラクサ強誘電体の研究は、工学的応用の目的で最近活発になさ
れており、特に表1・1に示すように濃度相境界で非常に良い特性を示
す強誘電体PbTiO3との固溶体が盛んである。これらは強誘電体同士
の固溶体である。一方、応用で一番有名なPZTは強誘電体と反強誘電
体の固溶体であるにもかかわらず、リラクサと反強誘電体PbZrO3の
固溶体についての研究は少ない。構造相転移の圧力依存性を調べる立
場から言えば、dTc/dPが負同士のリラクサ強誘電体と強誘電体PbTiO3
の固溶体よりも、dTe/dPが正負と相対するリラクサ強誘電体と反強誘
電体PbZrO3の固溶体のほうが興味深い。
本研究ではリラクサ強誘電体と反強誘電体の固溶体を数種類、お
よび熱処理によって秩序度が変わりリラクサにも反強誘電体にもなる
Pb(ln1!2Nb1/2)03単結晶を作製し、誘電率およびP・Eヒステリシスル
ープの圧力依存性を調べること、及び偏光顕微鏡を用いてのドメイン
観察等により、誘電分散の有無、転移温度の変化、誘電率の変化、さ
らに、リラクサ、強誘電性及び反強誘電性領域がどのような振舞いを
するのか、また、ペロヴスカイト構造のBサイトイオンの規則配列性
が弱いリラクサと規則配列性が強いPbZrO3の固溶体と、逆にリラク
サで規則配列性が強く反強誘電性を示すPb(Yb 1!2Nb 1/2)03と強誘電体
であるPbTiO3の固溶体の圧力依存性を調べることにより、圧力効果
がリラクサの規則配列性にどのような影響を与えるのか調べることを
目的とする。さらに各章において誘電緩和を示す試料の活性化エネル
ギーをVogel・Fulcherの式を用いて算出し、リラクサの誘電緩和との
関連について考察する。
12
第1章 序論
13
第2章では試料のおおまかな作製方法、試料評価のための粉末X
線回折、誘電率の測定装置、P・E履歴曲線観測装置、圧力印加装置、
偏光顕微鏡による分域観察について述べる。各試料の具体的作成方法
は試料ごとに述べる。第3章では、リラクサの代表例であり、ペロヴ
スカイトのBサイトが1:2となるPb(Mg1!3Nb2!3)03と反強誘電体
PbZrO3の固溶体(1−x)PMN・xPZについて述べる。第4章ではペロヴス
カイトのBサイトが1:1となるPb(Sc1/2 Nb 1/2)03とPbZrO3の固溶体
(1・x)PSN・xPZについて調べ、(1・x)PMN・xPZとの比較検討をする。第
5章ではリラクサと同型で反強誘電体になるPb(Yb 1!2Nb 1/2)03と強誘
電体PbTio3の固溶体(1・x)PYN・xPTにっいて述べる。第6章では本研
究で唯一単結晶であるPb(ln1/2Nb1!2)03のドメイン観察と微小領域の
誘電特性から、転移温度の分布にっいて述べる。第7章では各章で算
出した活性化エネルギーとリラクサの誘電緩和について考察する。以
上の結果から第8章で全体の総括を行う。
13
14
第1章
序論
参考文献
(1)
岡崎 清:「セラミック誘電体工学」、学献社(1969).
(2)
J.Valasek:Phys. Rev.15(1920)537, Phys. Rev.17(1921)475.
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(4)
(5)
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(6)
犬石嘉雄 他:「誘電体現象論」 オーム社(1980).
(7)
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(8)
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G.A. Smolenskii:Sov. Phy. Solid State 1(1959)147.
(9)
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(11)K.Uchino, L. E. Cross, R. E. Newnham and S. Nomura:」. Phase
Transition 1(1980)333.
(12)G.A. Smolenskii and V. A. Isupov l ZhTF 24(1965)1975.
(13)B.N. Rolov:Sov. Phys. Solid State 6(1965)1676.
(14)L.E. Cross:Ferroelectrics 76(1987)241.
(15)Dwight Viehlandθt a」乙:Phys. Rev。 B43(1990)8316.
(16)V.Westpha1, W. Kleemann and M. D. Glinchuk:Phys. Rev. Lett.68
(1992)847.
(17)R.Pirc and R. Blinc:Phys. Rev. B60(1999)13470.
(18)V.S. Tiwari, G. Singh and V. K. Wandhawan:Solid State Commun.
121(2002)39.
(19)G.Singh, V. S. Tiwari and V. K. Wandhawan:Solid State Commun.
1
129(2004)665.
(20)X.G. Tang, X. X. Wang, K.−H. Chew and H. L. W二Chan:Solid State
Commun.136(2005)89.
(21)X.Duan, W. Luo, W. Wu and J. S. Yuan:Solid State Commun.114
(2000)597.
(22)W.Chen, X. Yao and X. Wei:Solid State Commun.141(2007)84.
(23)G.A. Samara:Ferroelectrics 21(1978)87.
(24)T.Ishidate et.al.:Phys. Rev. Let.78(1997)239グ.
(25)G.A. Samara:Phys. Rev. B 1(1970)3777.
14
第1章
序論
15
(26)G・A・Samara, T. Sakud・u and K Y・shimitu,Phys. Rev. Let.35
(1997) 1767.
15
16
第2章 試料作製と実験方法
第2章 試料作製と実験方法
§2・1.試料作製
本来、強誘電体の構造相転移に伴う電気的、光学的実験を行う場
合、単結晶を用いたほうがより詳細なデータ及び知見が得られるので
あるが、今回実験に用いた試料のうち、Pb(Mg1!3Nb2/3)03−PbZrO3、
Pb(Sc1/2Nb1!2)03−PbZrO3、 Pb(Yb112Nb112)03−PbTiO3の混晶系にっ
いては単結晶育成ができなかったので、セラミックを作製し実験を行
った。Pb(lni12Nb1/2)03については単結晶が容易にできたので、単結晶
を用いて実験を行った。以下に、セラミック及び単結晶の作製方法を
述べる。
⑱2−1・1.セラミック作製
今回作製したセラミックは全てそれぞれの物質の酸化物を調合、
混合して焼結させるのであるが、そのままではペロヴスカイト構造で
はなく、パイロクロア構造になる可能性がある。この原因としてPb
とNbが低温焼結時に先に反応して中間生成物ができてしまうことに
ある。そこで、例えばPb(Mg1!3Nb2!3)03で考えると、先にMgOとNb203
を反応させMgNb204を作製し、その後PbOと反応させることにより
パイロクnア相の発生を抑えることができる。これをコロンバイト法
という。また、セラミクスを作製する場合、2種類以上の物質を混合
して焼結すると、ある温度で膨張し、その後に収縮してから焼結する
ことが知られている。そのときに変形したり、ひび割れなどが起こり
焼結体の均一性が損なわれてしまう。しかし、変形プロセスを経験し
た粉末を使用して焼結させると変形が少なくなる。そこで仮焼きでい
ったん膨張させて、本焼きで焼結させる2度焼結法がよく用いられる。
今回このコロンバイト法と2度焼結方法を用いて作製した。
具体的な焼結条件等は各章で述べることとして、ここではおおま
かな作製方法を述べる。以下に作製プロセスを示す。
16
第2章 試料作製と実験方法
調合 → 混合 → 成型 → 仮焼 →
17
粉砕成型 →
本焼
図2−1. セラミクスの作製工程
(1)調合
各原料粉末を電子天秤を用いて、0.1mgの精度で計量する。
(2)混合
各原料粉末を均一に混合するため、アセトンをいれた璃璃製の
乳鉢で不純物が混入しないように注意しながら、数時間掩拝す
る。
(3)成型
混合したものから完全にアセトンを乾燥させた後、約
200kg/cm2の圧力で直径5mm、厚さ1.5mm程度の円盤状に加
圧成型する。粉末を加圧すると粒子間の接触面積が増加するた
め反応が促進される。
(4)仮焼
成型したペレットを白金堆禍の中に、白金シートを1枚ずつペ
レット間に入れ、一番上にPbO粉末を入れた白金小箱置く。さ
らに白金堆塙をアルミナ堆塙にいれて密封し、焼結させる。PbO
粉末を入れた理由は、800℃以上でPbOが蒸発するため、試料
内のPbOが蒸発しないように堆塙内の雰囲気をつくるためで
ある。
(5)粉砕成型
仮焼きの終えたペレットを再び乳鉢に入れ、アセトンを加えて
粉砕し、約1時間撹絆する。ざらに(3)と同様に加圧形成する。
(6)本焼
仮焼きと同じ要領で白金堆塙内にペレットを積み上げ、アルミ
ナ堆蝸にいれて焼結させる。ここで、本焼きの焼結温度がPbO
の融点である888℃を超えてしまうため、PbO粉末では雰囲気
が作れないので、PbOの代わりにPbZrO3粉末をいれて、試料
内のPbOの蒸発を防いだ。
仮焼、本焼の温度レートを以下に示す。
17
18
第2章 試料作製と実験方法
温度
200
30 120
180
時間(分)
図2−2.焼結温度レート
焼結温度は各試料により異なるが、温度の昇降レートはいずれも同じ
で、それぞれ300℃/hour、一一一 300℃/hourで行った。200℃で2時間放
置してあるのは、試料のプレス時に付着したごみや、擁搾時に用いた
アセトン等を完全に除去するためである。
⑳2・1・2.単結晶育成
単結晶の育成にはフラックス法を用いた。フラックス法とは、結
晶を作製しようとする物質を融剤である適当な塩または酸化物などの
加熱した融剤に溶かし込み、徐々に冷却しながら、あるいは融剤を蒸
発させながら、過飽和溶液状態から結晶を析出、成長させる方法であ
る1)。融剤とは、ある物質を溶かすとき、その物質よりも低い温度で
融解させるために加える物質のことである。通常、融点が比較的低く、
目的物質の融解度が大きく、目的物質と反応せず分離が容易な物質を
選ぶ。本研究ではPb(lni/2 Nb i/2)03を作製するので、フラックスとし
てPbO、添加物としてB203,PbF2を少量用いた。 B203は融液の表面
に膜を形成し、PbOの蒸発を抑制する。作製プロセスは次のようにな
る。
18
第2章 試料作製と実験方法
19
(1)調合
セラミクスと同様に電子天秤で各材料粉末を計量する。ここで、
PbOは材料物質であるとともにフラックスでもあるので、結晶
材料として計量した重量の2倍の量を用意する。
(2)混合
それぞれの粉末物質を、アセトンをいれた乳鉢に入れ、約1時
間混合する。
(3)育成
アセトンを乾燥させた後、20ccの白金堆塙に入れて密封し、さ
らにアルミナ堆塙の中に入れて、以下の単結晶育成の温度レー
トで育成する。
(4)取り出し
自然冷却の後、電気炉から取り出した白金堆塙の中には、フラ
ックスの塊になっている。そこで、水で1/3に薄めた硝酸を白
金堆禍の中に入れ、約300℃で1時間熱して鉛を溶かしだし、
結晶を取り出す。
温度
自然冷却
2
5
84
30
図2・3.単結晶育成温度レート
19
時間(hour)
20
第2章 試料作製と実験方法
§2−2.X線解析
作製したセラミクスや単結晶が、ペロヴスカイト構造をもった試
料になっているかどうか調べるために、X線粉末回折を行った。試料
からのX線回折現象はブラッグの回折条件を満足する限られた角度に
非常に強い回折光が現れる。下図のように原子が平行に並んだ原子面
の間隔をd(A)、面に対する入射角と反射角をθとすると、光路差
2dsinθが波長の整数倍nλのとき、隣接する原子面からの散乱光の位
相がそろい回折現象を生じる。
2dsinθ=nλ(n:整数)
X線
図2・4.ブラッグの回折条件
作製した試料を乳鉢で粉砕し粉末状にしたものを専用のガラス板
に擦り付け、X線粉末回折装置(理学電子 ガイガーフレックス
2011B)にセットし、回折パターンをレコーダ読み取った。 X線の発
生源として銅(Cu)のターゲットを用い、銅から発生されるX線の波長
はλ=1。5418nmである。測定条件として、入力電圧と電流は40kV
−一
@200mA、ステップ幅0.020 deg、計数時間0.20 secとした。
§2−3.誘電率および誘電損失測定
静電容量、誘電損失の測定には、インピーダンスアナライザ
(HEWLETT PACKARD製 4194A)を使用した。測定温度はクロメル
ーアルメル熱電対で測定する。測定系のブnック図を図2・5に示す。
インピ・一一・ダンスアナライザで測定された静電容量Cと誘電損失tanδ
はGPIBでコンピュータに送られ、以下の式により、
20
第2章 試料作製と実験方法
21
3
c=ε・ら’万
εtt
tanδ=コL
Srt
複素誘電率ε(ω)=ε’−iε”に変換される。ここで、sは試料表面
の電極面積、dは試料の厚さ、εoは真空の誘電率(8.855×10’12[F/m])
である。熱電対とコンピュ・’一タはAIDコンバータで接続されている。
測定電界は0.5V/mで、温度変化はHeatingで1℃/minで測定した。
A/D
C・nverterコユ
Computer
Impedance
Analyzer
4194A
Samp1
μV
meter
Reference
Temperature
Thermo−couple
(0°C)
図2・5.誘電特性の測定系ブロック
また、作製した試料を平行度に注意しながら耐氷サンドペーパー
で研磨し、さらにラッピングフィルムシート(住友3M製3μm)で鏡面
加工を施し、厚さを約0.1mmにする。この試料の両面に銀ペースト
(Dupont No.7095)を円形に塗り、約500℃で5分間焼き付けて測定電
極とする。さらに両面の電極に金線を銀ペーストで焼付け、測定用コ
ンデンサとした。
21
22
第2章 試料作製と実験方法
§2・4.P−Eヒステレシス曲線測定
強誘電体の自発分極、Psは外部電場Eによって反転できる。した
がって、強誘電体内の全分極は電場の関数となり、図2−6のようなヒ
ステリシス曲線を描く2)。分極が0になる電場を抗電場Eeといい、直
線部分CBを外挿して得られるOEの長さが自発分極、Psの大きさに
対応する。
P
B C
TiE
’
P舞
A
F
E V
◎
トど・
H
G
図2−6.P−Eヒステリシス
曲線
図2・7.Sawyer−Tower回路
このP・Eヒステリシス曲線は、図2・7に示すようなSawyer’Tower
回路を用いて観測することができる。強誘電体試料Cxの容量に比べ
て十分大きな容量のコンデンサOoを試料に直列につなげると、交流
電圧Vはほぼそのままの大きさで試料に加わるとみなしてよい。Ox
を流れた電流はOoに流れるので、 Cxの電荷の変化はOoの電荷の変
化に等しく、Ooの両端の電圧の変化を∠7とするとOo・A7に等し
くなる。したがって、図2・7のオシロスコープの横軸はCxにかかる
電場Eを示し、縦軸はCxの分極Pを表すことになる。
一般にコンデンサ0に蓄えられる電荷eとコンデンサの両端の電
圧Vとの間には、
e=OV
の関係があるので、自発分極Ps(μClcm2)及び抗電場Ee(kV/cm)は次
式で表される。
22
第2章 試料作製と実験方法
23
Ps −C・°V・E e1 02
8
E, ,. !!tli°V・F
d
ここで、
Co:コンデンサCoの容量(μF)
VOE:図2・6におけるOEに対応する電圧(V)
VOF:図2・6におけるOFに対応する電圧(kV)
S:試料の電極面積(mm2)
D:試料の厚さ(mm)
である。
本研究で作製したSawyer・Tower回路を図2・8に示す。測定周波
数30Hzのサイン波で測定を行った。
試料
30M
20M
15M
100M
5M
5M
10M
!,・・曇
Hor。
図2−8.本研究で使用したSawyer・Tower回路
23
24
第2章 試料作製と実験方法
§2幽5. ドメイン観察
偏光顕微鏡観察は、結晶の光学的異方性を知るのに大変有効な方
法で、偏光子と検光子を直交させた状態(クロスニコル)で使用する。
この状態で光学的に等方な薄片試料を観察すると常に暗黒に見える。
しかし、光学的異方性をもつ薄片試料を観察すると、顕微鏡のステー
ジを90°回転させるごとに消光が起こる。この原理により、光学軸の
決定、複屈折(リターデーション)の測定、結晶が一軸性であるかど
うかの確認、そして分域構造の直接観察を行うことができる。
本研究では、偏光顕微鏡としてオリンパス製の金属顕微鏡(BX・51)
を使用し、温度変化をさせるために顕微鏡用温度制御装置(Linkam製
THMS・600)を用いてドメイン観察を行った。
§2−6.静水圧力印加装置
本研究では銅ベリリウム合金製のピストンシリンダー型圧力装置
(光圧力機器株式会社製)を用いて最高0.7GPaまでの静水圧力を得
ている。圧力発生装置の概要を図2・9に示す。
回
④
①低圧用ハ
Aストツプ
B圧力計
C増圧機
⑦
②
①
⑤
③
⑥
へ
⑤予圧用ハ
⑥空気抜き
⑦高圧塞止
⑧低温高圧
図2−9.静水圧力発生装置の概要図
高圧を発生する増圧器、圧力媒体を増圧器内に流し込みながら増
圧器内のピストンを後端まで押し下げるのに使用する予圧用ハンドポ
ンプ、ブルドン管タイプの圧力計からなる。圧力媒体としてはシリコ
24
第2章 試料作製と実験方法
25
一ンオイルを用い、200℃までの範囲では信越シリコーン製
KF−965・100cs、それ以上の高温になるときは信越シリコーン製
KF−54・400csを使用した。
参考文献
(1) 結晶工学ハンドブック編集委員会編:「結晶工学ハンドブック」、
共立出版
(2)犬石嘉雄他:「誘電体現象論」
オー・・一・ム社(1980).
25
26
第3章 Pb(Mg1!3Nb213)03−PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
第3章Pb(Mg1!3Nb 213)03− PbZrO3固溶体の
相転移に及ぼす圧力効果
§3・1.緒言
Pb(Mg1!3Nb213)03(略してPMN)は鉛系リラクサ強誘電体の1っ
で、Pb(Zn1!3Nb2/3)03(PZN)と並んで代表例として知られている。ま
た、幾種類もある鉛系リラクサ強誘電体の中で1番最初に発見された
物質としても知られている。PMNはリラクサ特有の散漫相転移を示し
(図1・3)、誘電率のピークはブロードで、誘電率のピーク値は周波数
とともに小さくなり、ピークの温度は高温側にシフトする。誘電率の
ピークの温度は0℃付近にあり1層3)、高温側では常誘電相で立方相
(Pm3〃7)で、低温側では擬立方相あるいは立方相に限りなく近い菱面
体相(E〃13〃のである。
PMNは、キャパシタ材料として1番有名なチタン酸バリウム
(BaTio3)や現在圧電材料として利用されているジルコン酸チタン酸
鉛(PzT:Pb zr xTii −xo 3:x・o.45∼o.48)よりも、誘電率が高い値を示
し、電気機械結合係数も大きいことから、盛んに研究されている4’7)。
また、PMNはチタン酸鉛(PbTiO3)と全率固溶させることができ、
誘電率と相図はそれぞれ図3・1、図3・2のようになる8)。
200
13400
舅300
§
巴 200
募
1000
←100
’loo6
PMN
Teimperature(PC)
Concent「ation x
PT
図3・2.PMN−PTの濃度相図
図3−1.PMN・PTの誘電特性
26
第3章 Pb(Mg1/3Nb2/3)03−PもZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
27
x=o.35付近には菱面体相(Rhombohedra1)と正方相(Tetragona1)の濃
度相境界(Morphotoropic Phase Boundary:MPB)が存在し、この
付近の単結晶では誘電率、電気機械結合係数がさらに大きいことから、
応用面において、活発に研究されている9’14)。
また、応用面においてリラクサとチタン酸鉛の2成分系だけでな
く、リラクサ、チタン酸鉛、ジルコン酸鉛の3成分系も研究されてい
るが、リラクサとジルコン酸鉛の固溶体の研究はあまりなされていな
い。本研究で扱うPb(Mg1!3Nb2!3)03− PbZrO3(PMN−PZ)において
は、Yokosuka15)が全率固溶させたときの濃度相図を決定し、 Singh
ら16)がxrO.5付近でリラクサと通常の強誘電相の相境界があるのでは
ないか、と報告している。そこで、本章ではPMN−PZを作製し、圧
力印加により誘電特性及び構造相転移にどのような影響を与えるかを
調べることにより、更なる知見を得ることを目的とする。
§3−2.試料作製
Pb(Mg1/3Nb2!3)03−PbZrO3の試料は、2章にも述べたように単結
晶は作製することができなかったので、セラミックを以下のような化
学式に基づき、コロンバイト法、2度焼き法を用いて作製した。
MgO+Nb20s→MgNb206
3Pb+(1−x)MgNb206+3xZrO2→
3{(1−x)Pb(Mg113Nb2/3)03 一一 xPbZrO3}
焼結の温度レートは2章で述べた以下のレート(図2・2)で行ったが、
仮焼きの温度と時間、本焼きの温度と時間はそれぞれ異なるので、表
3・1にまとめて示す。
温度(℃)
各焼結温度
30 120
時間(分)
27
第3章 Pb(Mg1/3Nb2/3)03−PbZxO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
28
組成比
仮焼温度(℃)
時間(分)
本焼温度(°C)
時間(分)
x=0
800
800
800
850
850
850
850
850
850
900
900
60
60
60
60
60
60
60
60
60
60
60
900
900
900
950
950
900
950
950
1000
1000
1000
60
60
60
60
60
60
60
60
60
60
60
0.1
0.2
0.3
04
α5
06
07
08
0.9
095
表3・1.各組成比の焼結温度と時間
この焼結した試料がペロヴスカイト構造になっているかどうか、
また、格子定数を求めるために、粉末X線回折実験を行った。図3・3
に室温でのx=0.3,0.7,0.9,0.95のX線パターンを示す。
(1−x)PM田一xPZ
x=0.95
゜誘
x=0.9
x=0.7
(200)(110) (111) (210)
(100)
@ (220) (310)
?≠O3
10
(211》
20 30 40 50 60
2θ(deg)
図3・3.各組成でのX線パターン
28
70
80
第3章 Pb(Mg1/3Nb213)03−PわZ罫03固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
29
今回焼結した試料では、x=O.1,0.2の組成においては図3・1に見られ
るピークのほかに、パイロクロア相とみられるピ・一・一・一クが現れたので、
本研究では除外した。図3・3より0.3以上の組成ではペロヴスカイト
構造に現れるピークがはっきりと現れ、比率を大きくしていくとわず
かながら低角度側にシフトしていくことがわかる。さらに、(111)(200)
(310)のピークにおいてx=0.95でスプリットしており、立方相から
PbZrO3の斜方相に変化していることがわかる。これらのデータからブ
ラッグの式、及び次式を用いて、格子定数を求めた。図3・4に各組成
の格子定数を示す。格子定数が濃度にほぼ比例して大きくなることか
ら、ベガードの法則に対応しており、きちんと固溶体を形成している
と考えられる。
24sinθ=誠 ブラッグの式(λ=1.5405A)(3.1)
ナーh2+峯+ア
1 乃2 ん2 12
7篇7+『+7
:Cubic (3.2)
:Orthorombic (3.3)
4.18
4.16
(
㊥:a軸
○:c軸
)4.14
製4.12
4.1
4.08
0.6 0.8
組成比 x
図3・4.各組成での格子定数
29
第3章 Pb(Mg1/3Nb2/3)03 一一 pbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
30
§3−3.実験結果と考察
②3−3−1.組成変化による誘電特性
各組成による誘電特性を図3・5に示す。先に述べたようにx=O.1,
0.2についてはパイロクロア相が混入してしまったので、グラフには描
いていない。測定周波数は1kHz,10k且z,100kHz,1MHzである。
6000
4000
り」
2000
0
0
100 200
Temperature(℃)
図3・5.各組成の誘電率の温度依存性
転移温度はPZの組成が多くなるにつれて高温側に移動していき、
誘電率のピークはx=0.5までは徐々に増加し、x=0.5以上では減少
していく。X=0.95では誘電率のピークの他に、強誘電相
(Pseudo℃ubic)と反強誘電相(Orthorhombic)の相転移を示す肩が現れ、
その温度をTtとする。また、 PMNにあらわれているリラクサ特有の
誘電分散はx=0.4まで見られ、0.5では無くなっているのがわかる。
この誘電率のデータから濃度相図を作ると図3・6のようになる。
30
第3章 Pb(Mg113Nb2/3)03−PもZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
31
200
eA
9
壽
鼠 IOO
墓
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
PMN Conc etration x pZ
図3・6.(1−x)PMN−xPZの濃度相図
立方相(Cubic)、擬立方相(Pseudocubic)、斜方相(Orthorhombic)
はそれぞれ、常誘電相、強誘電相(リラクサ)、反強誘電相を示す。PZ
の濃度が低い領域では相線は直線状に上昇していくが、PZに近づくに
つれ変化が小さくなる。x=0.5の破線は断定することはできないが、
図3・5の誘電率の分散の有無により、リラクサと強誘電相の相境界を
示す。図3・3のX線のデータにおいて、x=0.3と0.7では違いは見ら
れず、スプリットしているピークも無いのでどちらも擬i立方晶である
が、誘電分散のあるリラクサ領域では擬立方晶で、誘電分散の無い強
誘電相では菱面体晶となり、x=0.5で濃度相境界になっているのでは
ないかと考えられる。そうすることにより、x=0.5において誘電率の
ピークの値が最大になることの説明になると思われる。強誘電相が菱
面体晶であるかどうかは、X線回折で120°付近の(332)のピークが3
つにスプリットしているかどうかを調べればわかるのであるが、今回
測定に使用した装置では測定できなかったので、今回はどちらも擬立
方晶とした。しかし、Pb(Sc1!2Ta1!2)03−PbZrO3の固溶体では強誘電
相で(332)のピークが3つにスプリットしており、菱面体晶であること
が確認されていることから17)、PMN−PZの強誘電相も菱面体晶であ
る可能性が高い。
31
32
第3章Pb(Mg113Nb2/3)03−PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
各組成の転移温度の前後で、温度変化により結晶構造と格子定数
がどのように変化するのかを調べるために粉末X線回折実験を行った。
調べた試料はリラクサの振舞いをするx=0.3と反強誘電性を示すx=
0.95である。図3・7にそれぞれx=0.3,0.95のX線パターンを示す。
また、それぞれの45°付近の(200)のピ・一・…一クを拡大したものを図3・8
に示す。
倉
§
鎖
20
30
40 50
60
70
2θ (deg)
0.05PMN−0.95P
300℃
250℃
畜
200℃
§
鎖
P50℃
100℃
T0℃
20
30
40 50
60
70
2θ(de9)
図3・7. (1−x)PMN−xPZ(x=0.3,0.95)のX線パターン
32
第3章 Pb(Mg1/3Nb213)03−PめZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
0.7PMN−0.3PZ
33
0.05PMN−0.95PZ
智
智
旨
8
省
省
1−’−1,
”・−t
25℃
42 43 44 45 46 47
43 44
2θ (deg)
2θ (deg)
45
図3−8. (1−x)PMN−xPZ(x=0.3,0.95)の(200)ピーク
0.7PMN・0.3PZの誘電率のピーク温度は約100℃であるが、100℃
前後で図3・8のX線のピーク角度はほとんど変化していないことから、
結晶構造の温度依存性はほとんど無いと考えられる。一方、
0.05PMN・0.95PZでは、 X線の大きいピーク角度は0.7PMN・0.3PZと
同様に変化はないが、反強誘電体から強誘電体に相転移する誘電率の
肩の温度の約150℃を境にして2本見られたピークが1本になり、明
らかに構造相転移していることがわかる。今回行った粉末X線回折実
験ではリラクサの温度変化による構造変化を捉えることはできなかっ
た。図3・9にそれぞれの格子定数の温度変化を示す。
4.18
4.16
/9,..,、
4.1
4.08
100 200 300
温度(℃)
図3・9. (1−x)PMN−xPZ(x=0.3,0.95)の格子定数の温度依存性
33
34
第3章 Pb(Mg1/3Nb213)03一騰Zτ03固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
また、材料開発の観点からPZTとリラクサの3成分系の研究が
多々なされており、PZT−PMNの相図18)を図3・10に示す。
ru(Mgvs Nbat3」 g3
ZrOJ
偽τiO3
図3・10.Pb(Mg113Nb2/3)03 一一 PbTio3−Pbzro3の相図18)
PMN−PT及びPZTの濃度相境界については数多く研究されているの
で実線で描かれているが、PMN−PZについてはあまり研究されてい
なかったため破線で描かれている。また、PZはOrthorombicなのだ
が示されていない。図3・6の相図と照らし合わせると図3・11のように
なると考えられる。
Pb(Mg1!3Nb2!3)03
Orthorombic
PbZrO3
PbTio3
図3−11.Pb(Mgl!3Nb2!3)o, 一一 PbTio3 一 PbzrO3の相図
34
第3章 Pb(Mg1/3Nb2/3)03−PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
35
㊧3・3・2・ (1−x)PMN−xPZ(x=0,0.3,0.5,0.7)の誘電特性の圧力依
存性
図3・12から図3・15に(1・x)PMN−xPZ(x=O,0.3,0.5,0.7)の誘電
特性の圧力依存性を示す。圧力は常圧から0.6GPaまで測定した。周
波数は1kHz,10k且z,100kHz,1MHzで測定したが、グラフが煩雑に
なるので、100k且zのみを示す。いずれも圧力とともに誘電率のピー
クの値、ピV−・・…クの温度はともに減少して、典型的な変位型強誘電体の
圧力依存性を示している。図3・12∼図3・15から求めた圧力相図を図
3・16、変化率を表3・2に示す。図3・16からわかるように、いずれも圧
力とともに相線は線形に減少していき、PZの比率が多くなるにつれ、
dTe/dPの値は大きくなることがわかる。PZの比率が多くなると図3・4
より単位格子の体積が大きくなることも影響するが、擬i立方晶一立方
晶の相転移をするリラクサ相よりも菱面体晶一立方晶の相転移をする
強誘電相のほうが圧力効果を受けやすいと考えられる。
次に散漫相転移が圧力によりどのように変化するのかを考える。
図3”17から図3・20に(1・x)PMN−xPZ(x=0,0.3,0.5,0.7)の1kHz,
10kHz,100kHz,1MHzにおける誘電特性のOGPaと0.6GPaの圧力依
存性を示す。また、Samaraら19)によってPMN単結晶の圧力依存性
が測定されているので、比較のため図3−21に示す。誘電分散を示すx
=0,0.3においては、圧力を0.6GPaまで印加しても誘電分散は無くな
らず、リラクサのままである。x=0.5,0.7においては誘電分散の無い
ままシフトしていく。
ここで、誘電分散の見られる各組成と静水圧力下における活性化エネ
ルギーの算出を行った。この活性化エネルギーは各周波数における転
移温度の周波数依存性を表し、この値が大きいと誘電分散が強くなる
ことが知られている。活性化エネルギ“一一Eaの算出に対し、下式のVoge1
−Fulcherの関係式(経験則)を用いた。
隅畔剃及びfm ・ f・ exp[一 thf ](3・4)
ここで、
f。:デバイ周波数[Hz]
Ea;活性化エネルギ・・…−k[eV]
35
36
第3章 Pb(Mgli3Nb2/3)(》3−PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
7ン:凍結温度[K]
k:ボルツマン定数 1.380×10”23[JIK]
鳳,婿:ε’max及びε”max時の温度[K]
とする。デバイ周波数は格子振動に関係する値であり、凍結温度は測
定周波数がOHzの時の転移温度である。上式よりEa及びTf,を求め
るのであるが、図3・17からわかるように、ε”max時の温度を決定する
ことができないので、ε’max時の温度T’mから求めた。まず、(3.4)式
の両辺の対数をとると、右辺は一E。/k(T’m・Tf)となりそのプロットに
おける傾きが活性化エネルギーとなる。図3・22にPMNの常圧下での
Tfを0とした時のグラフを示す。図3・22より、わずかに直線にのらず
曲線を描くことからTf=0では転移に必要なエネル’e’ ・一が異なること
がわかる。そこで傾きが直線になるようにTfを求めてグラフにしたも
のが図3・23になる。直線にのることから試料がTF237℃になった時、
各周波数での相転移に必要なエネルギ・・一・“が同じで誘電分散がおこらな
いことを表している。Eaを計算すると0.028[eV】となる。Singhら16)
の報告によると0.020eVであり、本研究のほうが多少大きい値を示し
ているが、グラフでフィッティングする際に多少誤差がでるので、許
容範囲の値であると思われる。同様にして、まず誘電分散を示すx=
0.3,0.4の常圧下でのFoge1・Fulcher図を図3・24に、 Ea、 Tfをまとめ
たものを表3・3に示す。表3・3より、PZの濃度xが増加するにつれ凍
結温度乃は高くなっていき、活性化エネルギ“一一Eaも凍結温度Tfと同
様に、PZの濃度xの増加とともに0.5に向かって大きくなる。これは
PMN(x=0)において非常に小さかったordered domainがPZの濃度
xの増加とともに大きくなり、x=O.5でリラクサ性が消失することを
あらわしていると考えられる。Singhらによると各組成の活性化エネ
ルギーは表3−4に示すようにPZが増えるに従い大きくなると報告し
ており、値は多少異なるが今回の実験結果と同じ傾向を示している。
さらに、x=0,0.3において、圧力印加時のFogel−Fulcher図を図3・25
に、Ea、 Tfをまとめたものを表3・5に示す。表3・5より、x=0,0.3
のどちらにおいても、凍結温度Tfと活性化エネルギー万aは圧力印加
とともに減少していく。これは静水圧力印加に伴い単位格子が小さく
なるとともに常誘電相である立方晶になろうとするため相転移が容易
になるからであると考えられる。
36
第3章 Pb(Mg1/3Nb2/3)03−PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
4000
PMN
100kH乞
3000
㌔
○:OGPa
2000
口:0.2GPa
△:0.4GPa
◇:0.6GPa
1000
0.08
△
ム
ム
0.06
◇ム ロo
◇ム oo
㊨
◇ ム ロO
◇ △ oO
0.04
◇ ム ロO
栫@△ 口o
L哉◇ ム ロ0
T織 叙
O.02
L
錯o o
50
100
Temperature(℃)
図3−12.PMNの誘電特性の圧力依存性
37
37
38
第3章Pb(Mg1!3Nb213)03−PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
5000
4000
ε
3000
2000
0.06
0.04
り
壽
0.02
0
50 100 150
Temperature(℃)
図3・13.(1・x)PMN−xPZ(x=0.3)の誘電特性の圧力依存性
38
第3章 Pb(Mg1/3Nb213)03−PもZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
0。5PMN−O。5PZ
6000
1 00]dH2
c・4000
○:OGPa
口:0.2GPa
2000
△:0.4G]Pa
◇:0.6GPa
0.04
0.03
室亀
㊨
0.02
0.01
50 100 150 200
TemperatUre(℃) 一
図3・14.(1・x)PMN−xPZ(x=O.5)の誘電特性の圧力依存性
39
39
40
第3章 Pb(Mg1/3NE)2/3)03−PbZrrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
5000
○:OGPa
4000
口:0.2GPa
△:0.3GPa
口:0.5GPa
㌔
▽:0.6GPa
38
3000
2000
100
0.04
0.03
り
βα・2
0.01
%0 150 200
Temperature(°C)
図3・15.(1−x)PMN−xPZ(x=0.7)の誘電特性の圧力依存性
40
第3章 Pb(腋g113Nわ213)03一跳翫03固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
0.7PMN−O.3PZ
(90
9
PE
§
弩
擢8。
釜
邑
雇一工・
§
70
一20
0
0.2 0。4
Pressure(GPa)
0.2 0.4 0.6
Pressure(GPa)
160
210
200
(150
(
9190
戴
濤 140
爲
邑
お
含ISO
§
出
U130
170
120
16%
0.2 0.4 0.6
Pressure(GPa)
0.2 0.4
Pressure(GPa)
図3・16. (1・x)PMN−xPZ(x=0,0.3,0.5,0.7)の圧力相図
組成
01π冠P(℃/GPa)
κ=0(PMN)
一40
0.3
一50
0.5
一54
0.7
一60
表3−2.各組成の転移温度の圧力変化率
41
41
42
第3章 Pb (Mg1/3Nb213)03−PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
PMN
4000
’
3000 cs” OGPa
■..
@ ’
ω
1kHz to IMHz
200
0.6GPa
1000
0.1
0GPa
e
O・0 . .兇
箪黙
・o O.0 %牲蒐竃1mz to IMz[irz
器
臼 pa
o・04 ㌔
ea°・
0.02 駆
0.6GPa
PSO O 50 t−’ 100
Tempera加re(℃)
図3−17. PMNの誘電分散の圧力依存性
42
第3章 Pb(Mgi/3Nb2/3)03一賄Z103固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
5000
0.7PMN−O.3P
甜
鏡。
4000
o
o
OGPa
講
。鰐゜8
0◎0◎
蜘
UJ
OOOo
麟゜8
3000
欝
oo
群゜
覇
OOO o
OOO O
0.6GPa
詔ぎ8
8
卿た玩≠・1uaz
2000 タ
0.06
㌔
OGPa
箋
e
●
e
6◎
§
鬼
魅
0。04
%
㍉x
%
o
o
o
α6GPa _・
㊤
⑦
、e
㊤
o
o
o
o
㊦ 、
o %
e
0.02
o
o
o
o
9
1kHz toゐM研z
亀亀
o
o
o
亀
O o
゜o亀
黙
も
1も%
0
50
100
150
Temp erature(℃)
図3・18.
(1−x) PMN 一一 xPZ(x=0.3)の誘電分散の圧力依存性
43
43
44
第3章 Pb(Mg1/3NR)2/3)03−PわZ爵3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
6000
㌔
4000
2000
。00.04
爵
Temperature(°C)
図3・19. (1−x)PMN 一一 xPZ(x=O.5)の誘電分散の圧力依存性
44
第3章 Pb(Mg1!3Nb2/3)03−PbZxO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
0.3PMN−0.7PZ
5000
OGPa
4000
1励’01ル猛
㍉
3000
0.6GPa
2000
1000
①
@
0.05
f∼8 8♂ 8
1励孟01漁
O.04
㊨
’
OGPa
♂ ’
8
ノ
0.03
0.02
㍉
亀
0.6GPa
o
0.01
%0 150
1 200
Temperature(℃)
図3・20. (1・x)PMN−一・ xPZ(x=0.7)の誘電分散の圧力依存性
45
45
第3章 Pb(Mg113Nb2/3)03一賄Z茸03固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
46
P脇麗寧98◎2臆6
−一⑳㍉セ
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貰
…_・
“w
ヒ3
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2,4
も
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㌔
o.晒
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N。、
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略oo
偲ゆ
2P9 250
τ㈹
図3・21.
㎜
3su
珈
PMN単結晶の常圧と8kbarの誘電特性19)
{
46
第3章 Pb(Mg113Nb2/3)03 一一一 PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
1000000
PMN
lOOOOO \o
冨
葬
10000
1°°°3.5 3.6 ¥.7
1000/Tm
図3・22. PMNの常圧下でのTf=OのときのVoge1・Fulcher図
106
PMN
105
冒
邑
104
1°1。22242628亀3。
1000/(T,m−237)
図3腸23・PMNの常圧下でのT・=237のときのV・ №?戟gFulcher図
組成
Tf[K] E、[e∼q
x=0(PMN)
237 0.028
:一灘Ω撒七螢蕪::二
“ o 御“ o 副 り” 眠
@ 0.3
} ・, μ 亀 「ρ”● 辱 醐 閏 軌耶 , ‘ ●, 巳帰
@ 0.4
@ 374 iO.041
表3−3. x=O,0.3,0.4の常圧下でのTf、 Ea
47
47
第3章 Pb(Mgi/3Nb2/3)03−PわZ翌03固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
48
Ea(eV)
ωo(Hz)
Tf (K)
0。00
0。020
6.80×10翼0
225。32
0,10
0.028
1.58×loll
261.22
0.20
0.042
2.57×1014
293.36
0.30
0.048
2.38×1017
323.94
表3・4.singhらによるx=o∼o.3のEa、 cv o、 Tf 16)
106
106
105
105
冒
邑
冨
凄
104
104
103
103
30 32 34 36 38 30 32 34
36
1000/(T「m−340) 1000/(T’m−374)
図3・24. x=0.3,0.4の常圧下でのVogel・Fulcher図
106000 106 boq
PMN x・= O.3
\0.6GPa
105
冨
@ 105 Qq d・
α4GP瓜 E .¢4G誤6GPa
l・・
、・・2舳\ \0♀GP氏
OGPa\ OGpat
103 @ 103 Q
20 30 40 50 30 40 50
1000/(Tm−T{) 1000/(T’m−Tf)
図3・25. x=0,0.3における圧力印加時のVoge1・Fulcher図
48
60
第3章 P妖Mg1!3Nb2/3)03−PbZreO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
x=0,(PMN)
w 由鴇 白冒“ w写 轟 廿貞 ♂ 鮮
ウ力[GPa]
0Aw”却りA脚脇、“甲A㌧乳へ’、…蝋馬甲卵脳、り蟹邸㌍、ハ脇塙κ嬉州
@ 0.2
Aいみ畝へ剛A」料脇匹、、、“wA鵠、 甲A 喰 邦 乱
0.4吊撃A、、㌧㌔7σA七、Aも醐、、v凱い
V A㌔帆 脇 “ し
O.6
Tf[K]
2371、、蝸へ馬馬り卍w凧wり…w耀牌卍醐い”吊
@ 235
w鋭漏帆り献、軋w幅一、即、h、、胤
@229
@226
噛、 《 鳩謂露州…、》西一、w
E、[eV]
x=0.3
Tf[K]
植 早
O,022
磐…ハ 潤Dδ1§^
・Ea[eV]
2 0.039
∫ 0.028噛覧りA A
矯植早酬嬉A臨
R34
幅 岬A ” 闇
毒一一一一一_一脚…一一…
@ 0.037
η}嘔……暁’ P………ρ…^噛…’り……}…蝋…い
@ 328
@ 0.033
嚇㍉ 噛、 唱 唱
嚇ヤκA ¥A蟻 、、Aw 嚇、 、、、wA、唱糖
働、押A、 岬、、v7vv、w匹鴇、v帖Y爆、w醐A、、い 、、b嚇犠“、
@ 0.015
@ 320
@ 0。018
表3−5. x=0,0.3における圧力印加時のEa、 Tf
49
49
50
第3章 Pb(Mgy3Nb2/3)03一騰Zπ(》3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
⑱3−3・3. (1・x)PMN−xPZ(x臨0.9)の誘電特性の圧力依存性
前節では(1・x)PMN−xPZ(x=0,0.3,0.5,0.7)の誘電特性の圧力依
存性について述べ、いずれも圧力印加とともに誘電率のピーク、ピー
クの温度の両者とも減少し、変位型強誘電体の強誘電性相転移を示し
た。次に、図3・26に0.1PMN−0.9PZの誘電特性の圧力依存性を示す。
今回も周波数は1k且z,10kHz,100kHz,1MHzで測定したが、グラフ
が煩雑になるので100k且zのみを示す。グラフからわかるように、
0.IPMN− O.9PZは単純に圧力印加とともに誘電率のピーク、転移温度
がともに減少するわけではなく、0.4∼0.5GPa付近で転移温度が減少
から増大に変化する。また、誘電損失も0.5GPaの圧力で大きな値を
示している。x=0.7までには見られなかった新しい現象であるが、9
割が反強誘電体であるPbZrO3から成り立っているのを考えてみれば、
変位型強誘電体のスタガ…一・一ド相転移の特徴であるdTe/dPが正となっ
てもおかしくない。つまり、図3・26において、0.4∼0.5GPa付近まで
はdTc/dP<0より強誘電性一常誘電性相転移を示し、0.5GPa以上で
はdTe/dP>0より反強誘電性一常誘電性相転移になっていると考え
られる。そこで、、P一βヒステリシスループ観察によって、圧力印加と
ともに、シングルのヒステリシスループがダブルヒステリシスループ
になるか調べた。図3・27に室温における各圧力でのP−Eヒステリシ
スループを示す。常圧ではきれいなシングルヒステリシスルV・一・・一プが見
られ、自発分極も約18μC/cm2と比較的大きな値を示している。圧力
印加とともにループは閉じていき、0.4GPaのときループの中心(E=0,
P=0)が完全に閉じてしまい、わずかな開き具合ではあるが、ダブル
ヒステリシスループが見られ、0.4GPa以上の圧力においても同様のダ
ブルヒステリシスルV・一・・プが見られた。よって、P−Eヒステリシスルー
プ観察より、室温において0.4GPa以上では反強誘電体になっている
ことが判明した。以上のことをまとめて圧力相図を描くと図3・28のよ
うになる。強誘電相一反強誘電相の相転移圧力(0.4GPa)と、転移温
度が最小になる圧力(0.5GPa)とは少しずれてしまうが、 dTe/dPの
正負の変化が現れる領域に、強誘電相一反強誘電相の相転移があるこ
とがわかった。
50
第3章 Pb(Mg113Nb2/3)03−PhZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
4000
3000
り9
2000
○:OGPa
0。1PMN−0。9PZ
⑳:0。1GPa
口:0。2GPa
團:0.3GPa
△:0.4GPa
△:0。5GPa
◇:0.6GPa
◇:0。7GPa
Tc/・ 1d韮
1000
0.06
0.05
0.04
㊨
欝
3en
詮 (9
←0.03
詑
、f
0.02
0.01
200
150
250
Temperature(℃)
図3・26.0.1PMN−O.9PZの誘電特性の圧力依存性
51
51
52
第3章 Pb(Mg1/3Nb2/3)03−PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
u}
一蝉 OGP醜
鱒の
㌔
も
書
’
鷲
●
20℃
↑
→30.49kV/c画
一十
,
“卜鞘
’ノ〆
¶
■一
鼈黷 テ
匿一
㎝
O.5GPa
一
● 櫓
図3・27.室温における各圧力でのP−Eヒステリシスループ
220
9210
9
壽
お200
曾
出
190
18%
0.2 0.4 0.6
Pressure(GPa)
図3・28.
O.1PMN−一一〇.9PZの圧力相図
52
第3章 Pb(Mg1/3Nl)2/3)03−PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
53
㊧3−3−4. (1一力PMN−xPZ(x=0.95)の誘電特性の圧力依存性
図3・29に(1・x)PMN−xPZ(x=0.95)の誘電特性の圧力依存性を示
す。今回も周波数は1kHz,10kHz,100kHz,1MHzで測定したが、グ
ラフが煩雑になるので100kHzのみを示す。誘電率のピークの値は圧
力とともに減少していくが、誘電率のピークの温度(転移温度)は
0.2GPaまでは低温側にシフトし、0.2GPa以上の圧力では高温側にシ
フトしていく。dTe/dPはそれぞれ、−50℃/GPa、50℃/GPaとなる。
また、反強誘電相と強誘電相の相境界を示す誘電率の肩は0.2GPaま
では急に高温側ヘシフトし、0.2GPa以上では緩やかに高温側にシフト
していく。これらの誘電率のピークの温度と肩の温度から圧力相図は
図3・30のようになる。この図はあくまで予想図であり、後に正式な圧
力相図を示す。肩の温度より低温側では反強誘電相(Orthorhombic)で、
誘電率のピークの温度より高温側では常誘電相(Cubic)である。そして、
転移温度と肩に挟まれた領域は強誘電相(Pseudocubic)である。先
に述べたように各相線は0.2GPaを境にして傾きを変えており、特に
誘電率のピークの相線はdTe/dPが負から正に変化していることから、
前節の0.IPMN 一一 O.9PZの圧力依存性と同様にdTc/dPが負から正に変
化した圧力で強誘電相から反強誘電相に変化しているのではないか、
つまり、図3−30において圧力印加にともない強誘電相(FE)が反強
誘電相(AFE ll)に相転移するのでは、と考えた。そこで、、P−Eヒス
テリシスループの観察を行った。
まずは常圧で3つの相が本当に存在しているのかを確認するため、
常圧での温度依存性を観測した。その結果を図3・31に示す。肩より低
温側(130℃以下)ではダブルヒステリシスループが観測され、反強誘
電相であることが確認できる。強誘電相の領域(130∼220℃)では、
ややスリムではあるがシングルヒステリシスルー一プが観測され、常誘
電相の領域(220℃以上)ではループが無くなり、誘電率の結果と一致し
ている。
次に、圧力を0.4GPaに保ったままヒステリシスループの温度変
化を調べた。その結果を図3・32に示す。100℃ではきれいなダブルヒ
ステリシスループが観測され、肩の温度に近づくにつれ閉じていたル
ープの中心部分が少しずつ開き始める(150℃)。そして、転移温度と
肩の相線に挟まれた領域である200℃では、シングルヒステリシスル
ープが観測され、転移温度を超えた高温領域(230℃)ではループが
53
54
第3章 Pb(Mg1/3Nb213)03−PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
0。05P]>N−0.95PZ
2000
&
Tc\叡
100kH2
⑳O
噌
』
Q
Tt
1000
圖詮
0
0.08
0.06
り
舘α・4
○:OGPa
掾F0.1GPa
8
口:0.2GPa
圏:0.3GPa
⑧
「:0.4GPa
圏
團角
△:0.5GPa
◇:0.6GPa
幽
圃
▲
0.02
%0 150
200
25
Temperature(℃)
図3−29.0.05PMN−0.95PZの誘電特性の圧力依存性
54
第3章 Pb(Mg113Nb213)03一賄Zτ03固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
55
250
(
⑪200
葺
曇
2s,
日
出150
0
0.2
0.4
0.6
Pressure(GPa)
図3−30.0.05PMN−0.95PZの圧力相図の予想図
無くなっている。
この結果から、転移温度の相線が0.2GPaの圧力でdTe/dPが負か
ら正に変化していても、強誘電相は反強誘電相に相転移しないことが
わかった。単純に圧力印加によって反強誘電相の領域が高温側に広が
っていくことにより、強誘電相が無理やり高温側にシフトさせられた
だけで、0.1PMN−0.9PZの相線の折れ曲がりとは全く異なったもので
あることがわかった。結局、0.05PMN 一一 O.95PZの圧力相図は図3・33
となる。経験則によるとペロヴスカイト型強誘電体では圧力印加によ
り強誘電相は低温側にシフトするが、02GPa以上でめ強誘電相の振る
舞いは経験則に反している。この理由はまだ明らかではないが、さら
なる圧力を印加すると強誘電相は消滅する可能性がある。
55
56
第3章 Pb(Mg1/3Nb213)03−P協rO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
50℃
ぴ
ゆ
\
\
8
9
o
o
轟
鎚
黛
旨
鯛
↑
↑
→96.24kV/ca
→96.24kV/αa
N
8
N巴
\
\
o
o
$
詔
謡
2
↑
7
→30.34kV/㎝
→30.34kV/像
N週
Pt
醒
\
\
o
o
壽
等
の
9
at;
↑
↑
→1銑6£】kV/oa
→15.62kV/cm
図3・31.0.05PMN−−O.95PZの常圧における履歴曲線の温度依存性
56
第3章 Pb(Mg1/3Nb2/3)03−P協rO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
57
150℃
NH
Pt
g
●
8
ミ
Q
ヨ
Yl
f
舎
,
→50kV/cm、
→ 50kV/cm
230℃
N§
民日
●
8
⇔
12
6
↑
↑
一20kV/cm →20kV/cm
図3・32.
O.05PMN 一 O.95PZの0.4GPaにおける履歴曲線の温度依存性
250
e9 200
t
脅
8150
0
0.2 0.4 0.6
Pressure(GP a)
図3・33.
0.05PMN−0.95PZの圧力相図
57
58
第3章 Pb(Mg1/3Nb213)03−−PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
これまでのことをまとめて、組成一圧カー温度の3次元の相図を
図3・34に示す。
(1−x)PMN一文PZ
解囎聴賑}
磐翻篶欝轡霧驚蜘響
鎚
鵬
鱒
3鵜
♂翁
篭篭・
箪
AFE
蜘餌綴鋒
翻鱒
PMN
図3・34.
PMN−PZの組成一圧カー温度の3次元相図
58
第3章 Pb(Mgu3NR)2/3)03−PわZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
59
§3・4.結論
(1) (1・x)PMN−xPZ(x=O,0.3∼0.95)のセラミック固溶体を作製
し、X線回折によりペロヴスカイト構造であることを確認した。
(2) 常圧下で各組成の誘電率測定により、濃度相図を決定した。x=
0.95の誘電率でピークのほかに肩があらわれることから、濃度相図
のx=0.95付近にPseudocubic(強誘電相)とOrthorhombic(反強誘
電相)の濃度相境界が存在することがわかった。さらに誘電率のピ
ークがx=O.5で最大になることと、リラクサ特有の誘電分散がx
=0.5以上で消えることから、リラクサと通常の強誘電相の濃度相
境界がx=O.5付近に存在すると考えられる。
(3)(1・x)PMN−xPZ(x・=・O,0.3,0.5,0.7)の誘電特性の圧力依存性
は、いずれも圧力印加とともに、誘電率のピークは減少し、転移温
度は低温側にシフトしていき、変位型強誘電体の圧力依存性と一致
する。転移温度の圧力依存性は線形に減少していき、変化率はPZ
の比率とともに大きくなる。また、x==・O,0.3の誘電分散は0.6GPa
までの圧力を印加しても消えることはなく、活性化エネルギS・・・…は圧
力印加とともに減少していくことがわかった。
(4) 0.1PMN−0.9PZの誘電特性の圧力依存性では、0.4GPaまではx
:O∼0.7と同様に誘電率のピー…クは減少し、転移温度は低温側にシ
フトしていったが、0.4GPa以上では転移温度は高温側にシフトし、
P−EヒステリシスルV−一一・・プの観察より強誘電相から反強誘電相に相
転移することがわかり、以上のことから圧力相図を決定した。
(5)0.05PMN−O.95PZの誘電特性の圧力依存性では、0.2GPaまでは
誘電率のピークは減少し、転移温度は低温側にシフトしていったが、
0.2GPa以上では転移温度は高温側にシフトした。また、誘電率の
肩は0.2GPaまでは急に高温側ヘシフトし、0.2GPa以上では緩や
かに高温側にシフトした。P一刃ヒステリシスループの観察より各
相を確認し、圧力相図を決定した。転移温度の低温側から高温側へ
のシフトの変化は0.1PMN−0.9PZで見られた強誘電相から反強誘
電相への相転移ではなかった。
59
60
第3章 Pb(Mgi/3Nb213)03 一一 PbZxO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
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60
第4章 Pb(Scy2Nb 1/2)03−PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
61
第4章 Pb(Sc1/2Nb 1/2)03 一一 PbZrO3固溶体の
相転移に及ぼす圧力効果
§4−1.緒言
スカンジウムニオブ酸鉛Pb(Sc1!2Nb 112)03(略してPSN)は1959
年に1・G・Ismailzadeにより最初にセラミックスで合成され、キュリ
・一一一一・
キ度が90℃にある菱面体晶の強誘電体であることが報告されてい
る1)。また、F. ChuはPSNおよびPb(Sc1!2Ta1/2)03(PST)の欠陥構
造について調べ、欠陥の無い場合は誘電率の最大値がそれぞれ38,000、
27,000になると報告している2)。これらの値は今までに報告されてい
るリラクサ強誘電体のなかで最大である。
また、PSNはBサイトイオンである2種i類のイオンが1:1の比率
で入るリラクサであり、BサイトイオンであるSc3+とNb5+のイオン半
径が近いため、配列規則性を変えられるリラクサとして有名である。
PSTや第6章で述べるPb(ln1!2Nb112)03(PIN)も同様である。この
誘電的性質の配列規則依存性を端的に示した例として、PSTの例を図
4・1に示す3)。
20000
慮
18‘
25.0
①
②
20.0
③100kHz
④1000kHz ぐ
暮15皿
書
鯉
強
1£
K“’°・°
5.o
O.0
泓度(℃♪
氾度‘℃}
図4・1.PST単結晶の規則型(S=0.80)と不規則型(S=O.35)における誘電率
と自発分極の温度依存性3)
61
62
第4章 Pb(Sc1/2Nb 112)03一賄Z禦03固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
図4−1はPSTのBサイトの組成は全く同一な規則型と不規則型の誘電
率と自発分極の温度依存性を示している。規則型では1次転移のよう
なかなりシャープな相転移を示しているが、不規則型ではリラクサ特
有の散漫相転移を示し、転移温度は低温側にシフトしている。自発分
極も規則型では1次転移のように転移温度で急に0になるのに対し・
不規則型ではゆるやかに0になっていく。このような振る舞いは前章
で述べた、Bサイトが1:2で入るPMNでは見られない現象であり・
リラクサの散漫相転移の要因と考えられている微小なOrdered
Domainと関連するとして、PSN4・5), PST3,4), PIN6,7)に関して多くの研
究がなされている。
また、PSN及びPSTとチタン酸鉛(PT)固溶体において、それ
ぞれx=0.42,0.45に濃度相境界(Morphotoropic Phase Boundary:
MPB)が存在し、誘電率、電気機械結合係数ともに非常に大きい値を
示すことから、応用面で注目されているが、スカンジウム(Sc)の値投
が非常に高価なので、実用化はされないようである。
本章では、まだあまり研究されていないリラクサ強誘電体である
PSNと反強誘電体であるジルコン酸鉛(PZ)の固溶体を作製し、誘電
率および構造相転移への圧力効果を調べ、PMN−PZ、 PST−PZと比
較検討することを目的とする。
§4・2.試料作製
Pb(Sc1/2Nb1/2)03 一一 PbZrO3の試料は、前章と同様にセラミックを
以下のような化学式に基づき、コロンバイト法、2度焼き法を用いて
作製した。 、
Sc203+Nb20s→ 2 ScNbO4
2Pb+(1・x)ScNbO4+2xzro2→
2{(1・・x)Pb(Sc1!2Nb1!3)03−xPbZrO3}
焼結の温度レートは2章で述べた以下のレート(図2・2)で行ったが、
仮焼きの温度と時間、本焼きの温度と時間はそれぞれ異なるので、表
4・1にまとめて示す。
62
第4章 Pb(Sc112Nb v2)03−一一PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
63
一3000C!hour
30 120
時間(分)
組成比
仮焼温度(°C)
時間(分)
本焼温度(°C)
時間(分)
x=0
850
850
850
850
850
850
850
800
800
800
800
120
120
120
120
120
120
120
120
120
120
120
1350
1350
1350
1350
1300
1300
1300
1300
1300
1300
1300
120
120
120
120
120
120
120
120
120
120
120
0」
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0.9
0.95
表4−1. 各組成比の焼結温度と時間
PMN−PZの場合、 PZの比率が多くなるにつれて焼結温度が高く
なっていったが、PSN−PZではPZの比率が多くなるにつれて焼結温
度が低くなり、焼結時間も長くなった。これはPSN単体が焼結しにく
く焼結温度を高くしないと反応しないからである。
焼結した試料がペロヴスカイト構造になっているかどうか、また、
格子定数を求めるために、粉末X線回折実験を行った。図4・2に室温
でのx=0,0.2,0.5,0.7,0.9のX線パターンを示す。PSN−PZでは
全率固溶させることができ、図4・2のX線パターンから全ての比率に
おいてペロヴスカイト構造になっていることがわかる。PZの比率を大
きくしていくとわずかながら低角度側にシフトしていくことがわかる。
さらに、(111)(200)(210)(211)(310)のピークにおいてx=0.9でス
プリットしており、立方相からPbZrO3の斜方相に変化していること
がわかる。
これらのデータから前章と同様にブラッグの式、及び次式を用い
て、格子定数を求めた。図4・3に各組成の格子定数を示す。
63
第4章 Pb(Sc1/2Nめ1/2)03−PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
65
(1−x)PSN−xPZ
4.2
⑭:a軸
○:c軸
揖4.15
0
9
の
.94.1
日
4・056
0.2
0.4
0.6
PSN
0.8
PZ
Composition
図4・3.各組成での格子定数
図4・3よりPSN−PZの格子定数は濃度にほぼ比例して大きくな
ることから、ベガV・・…ドの法則に対応しており、きちんと固溶体を形成
していると考えられる。
65
第4章 Pb(Scy2Nlb 1/2)03−PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
66
§4・3.実験結果と考察
㊥4−3−1.組成変化による誘電特性
PSN−一一PZの各組成による誘電特性を図4・4に示す。測定周波数は
lkHz,10k且z,100kHz,1MHzであるが、全てを載せると煩雑になるの
で、誘電率のピークと転移温度の変化を知るために1kHzのみのデー
タを示した。
(1−x)PSN−xPZ
2000
“e
P000
TemperatUre(°C)
図4−4.各組成の誘電特性の温度依存性(1kHzのみ)
図4・4より、PZの比率を増加させるにつれ誘電率のピークはより
シャープになっていき、ピー・・…クの値はx=O.7の時最大となるように大
きくなっていく。また、転移温度は高温側に移動していく。x=o.9で
はわかりにくいが、x=O.97では明らかに200℃付近で誘電率の肩が現
れており、その時の温度をTtとする。この肩はPMN・PZの時と同様
に、強誘電相一反強誘電相転移を表している。
前章のPMN−・PZでは、誘電率のピー・・一‘クが最大となるx==O.5で、
66
第4章Pb(Scv2NR)y2)03−PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
67
リラクサと通常の強誘電体相の濃度相境界が存在すると述べたが、
PSN−PZでもx=0.7のとき濃度相境界が存在するのかどうかを検証
するために図4・5に各組成x=0∼0.7の測定周波数(1k,10k,100k,
1MHz)の誘電特性を示す。
(1−x)PSN−xPZ
es
Q
Ten簗perature(°C)
図4・5.各組成の測定周波数(1k,10k,100k,1MHz)の誘電特性
PSNは前節で述べたようにPST, PINとならんで熱処理によって
Bサイトの秩序度を変化させられ、誘電特性が顕著に変わる物質であ
る。しかし、その現象は単結晶でのみ起こる現象で、セラミックでは
いずれの物質でも無秩序状態のリラクサの誘電特性を示す。x=0と
0ユでは明らかに誘電率のピークの温度は周波数とともに高温側にシ
フトしてリラクサの様相を呈している。x ・O.7ではとても鋭いピーク
を示し、通常の強誘電体の相転移を示している。その中間であるx・=
0.3∼0.6においては、ピークは鋭くなっていくが、わずかな周波数分
散を示している。以上のことをまとめて常圧での濃度相図を描くと図
4−6のようになる。
67
68
第4章 Pb(Se1/2Nb 1/2)03 一一一 PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
(1・一 x)PSN−xPZ
200
Cubic
(
o
毎150
邑
/Pseudoculbic
§100
(rela ,S()r) (ferroelectric)
5060.20.40.60.8
PZ
PSN Concentrationκ
図4・6.PSN−PZの濃度相図
250
⑳:Tc,Tm,T唖
15000
○二砧罰
14000
200
1貸
13000
PE
ζ
2
9150
12000
11000
一嚢
Q.・
N
a
10000w
B
9000
出
tOO
8000
’1, AFE
7000
50
b
6000
0.! O.2 0.3 0.4 0.5 ‘:).6 0、7 0.8 0.9
x
図4−7.PST−PZの誘電率の最大値と濃度相図
68
第4章 Pb(Sc1/2N臨侶)03一跳ZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
69
実線で描かれた相線は誘電率測定から求めたもので、Cubic,
Pseudocu.bic, Orthorhombicはそれぞれ常誘電相、強誘電相、反強誘
電相に対応する。破線はリラクサ相と強誘電相の相境界の予想図であ
る。前章のPMN−PZの場合は誘電率のピークの最大値をとるx=0.5
の前後の濃度ではっきりと誘電特性が違っていたので、直線状の濃度
相境界を考えたが、PSN−PZでは誘電率のピークの最大値をとるx・=
0.7の前後ではっきりとした誘電特性が違いは見られず、誘電分散の有
無がはっきりするのはx=・・O.1∼0.2の間であったため図のような曲線
の濃度相境界になると考えた。NbをTaに置換した
(1’x)Pb(Sc1/2Ta1/3)03−xPbZrO3(PST−PZ)においても同じような相
図になり、図4・7に示す。PST−PZ(x=O.7)のX線回折の実験では122°
の(322)のピークが3つに割れてRhombohedra1になっていることが確
認されており、PST−・−PZにおいてリラクサ相はPseudocubicで強誘電
相はRhombohedra1であるとしている。 PSN−一一一PZでは装置の都合上
(322)のピークは測定できなかったが、PST−PZと同様にリラクサ相
はPseudocubicで強誘電相はRhombohedra1である可能性が高いと思
われる。
同じリラクサであるPMNとPSNの単体およびチタン酸鉛(PT)
との固溶体では、誘電率の値や濃度相境界の比率等の違いはあるが、
濃度相図においては図3−2のような同じ相図を示す。しかし、ジルコ
ン酸鉛(PZ)との固溶体では濃度相図を比べるとPMN− PZのリラク
サ領域よりも、PSN−一 PZのリラクサ領域が狭い。つまり、PSN−PZ
のほうがリラクサ状態を維持しにくい物質であるといえる。
69
70
第4章 Pb(Sc112Nb1/2)03−P砺rO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
㊧4−3−2. (1−x)PSN−xPZ(x=0,0.2,0.4,0.7)の誘電特性の圧力依
存性
図4・8から図4・11に(1・x)PSN−xPZ(x=0,0.2,0・4,0・7)の誘電
特性の圧力依存性を示す。圧力は常圧から0.6GPaまで測定した。周
波数は1kHz,10k且z,100kHzで測定したが、グラフが煩雑になるので・
1kHzのみを示す。各組成において、圧力印加とともに誘電率のピv’’’’”
クの値、ピークの温度はともに減少して、典型的な変位型強誘電体の
圧力依存性を示している。図4・8∼図4・11からそれぞれの誘電率の最
大値の変化を図4・12、4−13に示す。図4・12よりx=0.2,0.4におい
てdε7dPはほぼ線形に減少していくが、x=Oにおいては上に凸、x=
0.7においては下に凸で線形になっていないことがわかる。図4・13は
図4・12のデ・一…タを1つのグラフに描いたものであるが、x=0.7の変
化率がきわだって大きく、x=Oのd87dPはほぼ線形とみなすことが
できる。x=0.7の変化率が大きいことの理由として、 x=0.7付近に
はリラクサ相と強誘電相の相境界が存在する。リラクサでは擬立方晶
(Pseudocubic)と立方晶(Cubic)との構造相転移なので、相転移での
体積変化は小さい。しかし、濃度相図のところで述べたように強誘電
相が菱面体晶(Rhombohedral)であるとするとx=O.7付近では擬立
方晶と菱面体晶が共存する領域も存在することが考えられる。x=O.6
以下では擬i立方晶と立方晶の相転移だけなのに対し、x=O・7では2相
が共存するため圧力に対して、菱面体晶と立方晶の相転移が大きく影
響し誘電率の変化も大きくなると考えられる。また、それぞれの圧力
相図を図4・14に示す。前章のPMN− PZと違い、すべてにおいて直線
に載らないため、相線は点線の直線で示した。この相線から変化率
dTc/dPを求めまとめたものを表4・2に示す。ジルコン酸鉛PZの比率
が増加するにつれてdTe/dPは大きくなる。
また、前章と同様に散漫相転移が圧力によりどのように変化する
のかを考えるため、図4・15から図4・18に(1・x)PSN−xPZ(x=0,0.2,
0.4,0.7)の1kHz,10kHz,100kHzにおける誘電特性のOGPaと0.6GPa
の圧力依存性を示す。また、SamaraらによってdisorderのPSN単
結晶の圧力依存性が測定されているので、比較のため図4・19に示す。
図4・19において2kb ar印加したときの誘電率のピークの温度が100℃
を超えており、図4・6でのPSNの常圧の転移温度が約70℃と比べて
高く、また、誘電率の立ち上がりの途中からリラクサが現れているこ
70
第4章 P賦Sc112Nb 1の03一騰ZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
71
とからも完全なdisorderにはなっていない。しかしながら、圧力印加
とともに誘電率のピークは小さくなり、ピークの温度も低温側にシフ
トしていくことは図4・15と一致する。興味深いことに△Tで示されて
いるリラクサ相領域が圧力印加とともに広がっているが、これは強誘
電相が菱面体晶で、圧力印加により構造変化の少ないリラクサ相の擬
立方晶に転移しやすくなったと考えられる。このことから、強誘電相
はリラクサ相よりも圧力の影響を受けやすいと考えられる。
圧力依存性を測定した中で誘電分散を示すのはPSNのみで、他は
誘電分散を示さず通常の変位型強誘電体の相転移を示す。よって
Vogel−Fulcherの式で各組成の比較はできないが、とりあえずPSNの
活性化エネルギv・・…を求める。Voge1・Fulcherの式(3・4)を用いて計算し、
PSNのVoge1・Fulcher図を図4−20に、活性化エネルギー刃a、凍結温
度Tfをまとめたものを表4・3に示す。
表4・3よりPSNの活性化エネルギーは常圧で0.057eVとなり、
PMNの活性化エネルギーO.028eVと比べて大きな値となった。 PSN
はBサイトが1:1なのでPMNと比べてordered Domainが生成しや
すく大きくなり、相転移に必要な活性化エネルギーが大きくなると考
えられる。また、PSNの活性化エネルギv−一・は圧力印加とともに減少し
ていく。
71
72
第4章 Pb(Scy2Nb 112)03−PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
PSN
1k翫
600
0
o
口 0
△O O
ムロ O
,
掬
り9
難8
400
口 0
禔@O
禔@o
○:OGPa
口:α2GPa
200
△:0.4GPa
◇:α6GPa
α05
co
灘も
α0
り
畿
宅吃
0.03
口
錦園 らo
0.02
ロ
g
0 ロo
0.01
◎D
0
0
0 50 100 15
Tenrperature(℃)
図4・8. PSNの誘電特性の圧力体存性
72
第4章 Pb(Se1/2M 1/2)03−PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
0.8P SN−0。2PZ
0000
o
○:OGPa
8000
,串咽
U000
Q
4000
口:0.2GPa
1kH2
o ∼』° 吃
◇f
W£8△◇△
「:0.4GPa
栫F0.6GPa
◇△
◇△
◇△
o
【コ
o
o
ロロ88 0
栫「
栫「
桙
2000
0
0.05
口
0.0
△
◇△
り
0.03
砧
宅oo o O o口 O口 o口 O
0
@◇△ @口
@◇△・ ◇△ ◇△ ◇△ ◇ ◇
@o
@ロ
@ロ
O.02
宅
会
△
△
0.01
90
も
緯 ・△
o△
△◇
150
100
20
Temperature(℃)
図4・9. (1−x)PSN−xPZ(x=0.2)の誘電特性の圧力依存性
73
73
74
第4章 Pb(Scu2Nb 1/2)03−PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
0。6P SN−0.4PZ
15000
10000
8
8
8
幽N
Q
5000
0.05
0.04
り
0.03
0.02
0.01
%o
150 200
250
Temperature(℃)
図4・10. (1−x)PSN−xPZ(x=0.4)の誘電特性の圧力依存性
74
第4章 Pb(Sc1/2M1/2)03−PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
0。3PSN−0。7PZ
0000
吃
1kH2
。も
○ :OGPa
@も
口 :0.2GPa
宅
亀o
△ :0.4GPa
◇ :0.6GPa
旨
o
0000
△
8
◇△
◇△
0
0
o
0.05
o
0
0.0
o
り 0.03
9
ら
汐ゆ
箋婦
0.02
0.01
0
200
150
250
Temperature(°C)
図4・11. (1・x)PSN−xPZ(x=0.7)の誘電特性の圧力依存性
75
75
76
第4章 Pb(Sc1/2Nめ112)03−P駆翌03固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
7200
PSN 10000 0・8PSN−O・2PZ
7000
6800
㌃
6600
6400
6200
0
PE
9800 PE
㌃9600
FE 9400 FE
9200
0 0.2 0.4 0.6
0.2 0.4 0.6
Pressure(GPa)
Pressure(GPa)
0.6PSN−0.4PZ O.3PSN−0.7PZ
14000
PE 15000 PE
㌃
㌃
13000
FE FE
10000
0
02 0・4 0.6 0 0.2 0.4 0.6
Pressure(GPa) Pressure(GPa)
図4・12.
(1・x)PSN−−xPZ(x=0,0.2,0.4,0.7)の誘電率の最大値の
圧力依存性
0.3PSN−O。7PZ
15000
0.6PSN−O.4PZ
㌃
0.8PSN−0.2PZ
1000
PSN
O O.2 0.4 0.6
Pressure(GPa)
図4・13. (1・x)PSN−−xPZの誘電率の最大値の圧力依存性
76
第4章 Pb(Sc112Nb 1/2)03−PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
77
150
PSN
0.8PSN−0.2PZ
(
ρ140
重6°
冨
⑳ \、 PE
塁
囲5。
、 PE
墓13・
脅
FE ㊧\
FE ⑳\、
昌
120
\璽
0
璽、、
0.2 0.4
\璽
0
0.6
0.2 0.4
Pressure(GPa)
Pressure(GPa)
0.6PSN−−O.4PZ
18
0.3PSN−O.7PZ
22
eA210
(
)170
磐
0.6
、、
A、
璽
⑳\、 PE
冠
⑳ \、、 PE
墓2。。
a160
§
碧
FE ⑳\
FE ⑧’・・、
臼190
150
璽
’㊥、
O O.2 0.4 0.6 06 0.2 0.4 0.6
Pressure(GPa) Pressure(GPa)
図4・14. (1・x)PSN−−xPZ(x=0,0.2,0.4,0.7)の圧力相図
組成
dTc/dP(°C/GPa)
κ=0(PSN)
一32
0.2
一48
0.4
一57
0.7
一58
表4・2. 各組成の転移温度の圧力変化率
77
第4章 Pb(Sc112Nby2)03−PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
78
PSN
8000
6000
OGPa
の
ご4000
0.6GPa
2000
1kH!i to 100kth
0
0.06
O
o
oo
o
◎
O
1kth to ZOOkHlz
e◎0.0
欝
0.02
o
co
0
0
50
100
Temperature(℃)
図4−15.
PSNの誘電分散の圧力依存性
78
o
150
第4章Pb(Sc112Nb 112)03−一一PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
0.8P SN−0.2PZ
oooo
8000
ぎ
ぎ
か
k
6000
3
0.6GPa ◎
o
㊥
警
りり
4000
3
OGPa
2000
0
0.05
0.04
《
驚
②
⑳蛾
O
O
⑩o
鱒④
り 0.03
奪睾
ゆ鵠も⑱
驚⑳霧④㌻
箆曳
0.02
0.01
o
o
1
90
100
150
20
Temperature(℃)
図4−16. (1−x)PSN−・xPZ(x=0.2)の誘電分散の圧力依存性
79
79
第4章 Pb(Sc1/2N’b1/2)03−PbZxO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
80
0。6P SN−0.4PZ
15000
10000
,執
Q
5000
0
0.05
0.04
り
qO.03
0.02
0.01
Ter口perature(°C)
図4−17. (1・x)PSN−xPZ(x=0.4)の誘電分散の圧力依存性
80
第4章 Pb(Scl12Nb 1/2)03−PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
0.3PSN−0。7PZ
H
り
Temperature(°C)
図4・18. (1・x)PSN− xPZ(x=0.7)の誘電分散の圧力依存性
81
81
第偉Pb(Sc、,2Nb、12)0、一一 PbZ,6、固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
82
野
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5
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叩
◎
響
5
◎
300 325 350 375 400
Temperature㈹
図4・19.disorderのPSN単結晶の(a)heatingと(b)coolingによる誘電特性
の圧力依存性8)
82
第魂章 Pb(Sc1/2NE pl/2)03−P脇zO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
PSN
lO5 Q Φ
0.6GPa
厘1。4 島4GPへ
0.2GPa
OGPa、
103 Φ xo ?
25 30 35
1000/(Tm−Tf)
図4−20. PSNのVoge1−Fulcher図
A圧力[GPa]
` E・ [eV]
295 0.045
蒸g§ 0.039
291 0.033
表4・3.
PSNの圧力印加時のTf、 Ea
83
83
84
第4章 Pb(Sc1/2Nb 1/2)03−P脇103固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
㊧4・3−3. (1−x)PSN−xPZ(x=0.9)の誘電特性の圧力依存性
前節では(1・カPSN−xPZ(x=0,02,0.4,0.7)の誘電特性の圧力依
存性について述べ、いずれも圧力印加とともに誘電率のピーク、ピー
クの温度の両者とも減少し、変位型強誘電体の強誘電性相転移を示し
た。
図4・21にO.1PSN−−O.9PZの誘電特性の圧力依存性を示す。今回
も周波数は1kHz,10kHz,100kHzで測定したが、グラフが煩雑になる
ので1kHzのみを示す。誘電率のピークの値は圧力とともに減少して
いくが0.2GPaを超えると極端に小さくなる。誘電率のピークの温度
(転移温度)は0.2GPaまでは低温側にシフトし、0.2GPa以上の圧力で
は高温側にシフトしていく。また、反強誘電相と強誘電相の相境界を
示す誘電率の肩は0.2GPaまでは急に高温側ヘシフトし、0.2GPa以上
では緩やかに高温側にシフトしていく。誘電損失tanδは圧力印加と
ともに小さくなっていく。
図4−21から0.1PSN−−O.9PZの圧力相図を描くと図4・22のように
なる。PE、 FE、 AFEはそれぞれ、常誘電相(Cubic)、強誘電相
(Pseudocubic or Rhombohedral)、反強誘電相(Orthorhombic)で
ある。この相図は0.05PMN・0.95PZの相図と一緒であるので、本章で
は自発分極の観察は行なわずに相図を決定した。PMN−PZではx=
0.95で現れた反強誘電相がPSN−PZではx=0.9で現れることから、
PSN−一一PZのBサイトイオンがPMN−PZよりも秩序状態になってい
る領域が多いと考えられ、このことがリラクサ領域を狭くしている原
因だと思われる。
また、今回は実験を行っていないが、PMN− PZ(x=O.9)での圧力
印加により強誘電相が反強誘電相になる現象は、PSN−PZではx=O.8
で現れると考えられる。
84
第4章 Pb(Sc1/2Nftp 1/2)03−PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
0。lPSNLO。9PZ
di
㊨
卜0.05
TemperatUre(°C)
図4−21. 0.1PSN−0.9PZの誘電特性の圧力依存性
85
85
86
第4章 Pb(Sc112Nb 112)03−PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
0.1PSN−0.9PZ
250
一
9200
零
量15。
10
Pressure[GPa]
図4・22. 0.1PSN−一一〇.9PZの圧力相図
86
第4章 Pb(Sc1/2Nb 1/2)03−PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
87
㊧4−3−4. (1−x)PSN−xPZ(x=0.95)の誘電特性の圧力依存性
図4・23に0.05PSN−O.95PZの誘電特性の圧力依存性を示す。今
回も周波数は1kHz,10kHz,100kHzで測定したが、グラフが煩雑にな
るので1kHzのみを示す。また、誘電特性から決定した圧力相図を図
4・24に示す。PE、 FE、 AFEはそれぞれ、常誘電相(cubic)、強誘電
相(Pseudocubic or Rhombohedral)、反強誘電相(Orthorhombic)
である。誘電率に関しては前節の0.1PSN−O.9PZと全く同様なので、
あらためて記述することはないが、誘電損失tanδに関しては0.1PSN
−O.9PZと違い、圧力印加とともに大きくなっていく。PZの比率が5%
違うことにより各相がどのくらい変化するかを調べるために図4・25
にx=O.9と0.95の圧力相図をまとめて示す。PZの含有量が多くなる
につれ強誘電相領域は減少するが、圧力を0.6GPaまで印加しても強
誘電相の領域は狭くならず、無くならない。通常、圧力を印加すると
強誘電相は減少していくので、図4・19のようにさらなる圧力を印加す
れば強誘電相は無くなっていくと考えられる。
87
88
第4章 Pb(Sc112Nb 112)03−PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
0。05PSN−0.95PZ
5000
4000
○:OGPa
口:0.2GPa
△:0.4GPa
◇:0.6GPa
旨3000
Q
2000
1000
0.Q
り
§
◇
0.1
150 200 250 300
Temperature(℃)
図4・23. 0.05PSN−0.95PZの誘電特性の圧力依存性
88
第4章 Pb(Sc1/2Nb1/2)03−PbZrO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
0.05PSN−0.95PZ
260
240
E
9. 22°
お
§2・・
180
0 0.2 0.4 0.6
Pressure[GPa]
図4・24. O.05PSN−O.95PZの圧力相図
250
PE
箒2。。避i§三;三θ一一…
蓉
島5。
⑱:0.1PSN−0.9PZ
AFE O:0.05PSN.0.95PZ
lOO6 0.2 0.4 0.6
Pressure[GPa]
図4・25. (1−x)PSN−xPZ (」FO.9,0.95)の圧力相図
89
89
90
第4章 Pb(SCI/2Nb 1/2)03−P協置03固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
§4・4.結論
(1) (1・x)PSN−xPZセラミックの全率固溶体を作製し、X線回折に
よりペロヴスカイト構造であることを確認した。
(2) 常圧下で各組成の誘電率測定により、はじめて濃度相図を決定
した。x=・・O.9,0.95の誘電率でピークのほかに肩があらわれるこ
とから、濃度相図のx=0.9付近に強誘電相(Pseudocubic)と反強
誘電相(Orthorhombic)の濃度相境界が存在することがわかっ
た。誘電率のピークはx=O.7で最大となるが、リラクサ特有の
誘電分散はx=O,0.1のみでしか見られないことから、リラクサ
と通常の強誘電相の濃度相境界はPMN− PZの直線状の相境界と
は違ったものになる。PMN−PZではx=0.95で誘電率の肩が現
れたのに対し、PSN−PZではx=0.9で現れ、わずかではあるが
PMN−PZよりも反強誘電相の領域が大きいことがわかった。こ
のことから、PSN−一一PZはPMN−PZに比べてBサイトイオンの
秩序領域が多い、あるいは秩序状態になりやすいと考えられる。
(3)(1・x)PSN−xPZ(x=O,0.2,0.4,0.7)の誘電特性の圧力依存性は、
いずれも圧力印加とともに、誘電率のピークは減少し、転移温度
は低温側にシフトしていき、変位型強誘電体の圧力依存性と一致
する。また、PSN(x=・O)の誘電分散は0.6GPaまでの圧力を印加
しても消えることはなく、活性化エネルギーは圧力印加とともに
小さくなることがわかった。
(4)
(1・x)PSN−xPZ(x=O.9,0.95)の誘電特性の圧力依存性では、
いずれも0.2GPaまでは誘電率のピ・・一…クは減少し、転移温度は低
温側にシフトしていったが、0.2GPa以上では転移温度は高温側
にシフトした。また、誘電率の肩は0.2GPaまでは急に高温側ヘ
シフトし、0.2GPa以上では緩やかに高温側にシフトした。圧力
とともに反強誘電相領域は広くなり、強誘電相領域は02GPaま
では狭くなるが、0.2GPa以上では高温側にシフトし経験則であ
るdTe/dPぐ0とは異なる振る舞いをすることがわかった。
90
第4章 Pb(Sc112Nbv2)03−PhZxO3固溶体の相転移に及ぼす圧力効果
91
参考文献
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91
92
第5章 P駅Yb 112Nb 112)03 一一 Pb[if io3混晶の相転移に及ぼす圧力効果
第5章Pb(Yb112Nb112)03−PめTiO3固溶体の
相転移に及ぼす圧力効果
§5・1.緒言
Pb(Yb 1!2Nb 1/2)03(略してPYN)はBサイトイオンのYb 3+とNbs+
が1:1の比率となるリラクサの1つである。同じ種類では
Pb(Sc、/2Nb、!2)03(PSN)、 Pb(Sc、12Ta・ノ2)03(PST)・Pb(ln・!2Nb・12)03
(PIN)などがあり、これらの単結晶はBサイトイオンの秩序度を熱
処理で変えることができ、物性が変化するが基本的には強誘電性を示
す。しかし、PYNはリラクサとなるペロヴスカイト構造の単結晶が作
製できないこともあるが、セラミックを作製すると規則配列型の反強
誘電体となり、秩序度を変えることができない。また、不規則配列型
で秩序度を変えることができない物質もある。この違いは次の経験則
で説明されている。Pb(B1/2Nb 112)03においては、 Bイオンのイオン半
径が0.85Aより大きい場合(Yb, Lu)は規則配列となり・小さい場合
(Fe)は不規則配列となる1)。 Yb3+のイオン半径は1・00Aで0・85Aよ
り大きいため規則配列をとり反強誘電体となる。In3+、 Sc3+のイオン
半径はそれぞれ0.92A、0.83Aで、0.85Aに非常に近いため熱処理に
よって規則配列にも不規則配列にもなりうる。
反強誘電体であるPYNもチタン酸鉛(PT)との全率固溶体が作製
でき、x=0.5付近に濃度相境界が存在し(表1・1)、誘電率等の特性が
大きくなることが知られている。1995年にH.L、imら2)とT. Yamamoto
ら3)がそれぞれPYN・PTの研究報告をしており、図5・1にそれぞれの
濃度相図を示す。どちらも相線は同じカ・・一・・ブを描いており、x=O.2ま
では転移温度は下がり、x=0.2を越えると転移温度は上がっていき、x
=0.5付近に濃度相境界が存在することを示唆している。しかし、H.
Limらはx=O.5以下において反強誘電相(Orthorhombic)と強誘電相
(PseudoCubic)があると述べているのに対し、T. Yamamotoらはx=O.2
で規則型から不規則型に変わるがx=0.5以下は単斜相(Monoclinic)で
ひとくくりにしている。どちらが正しいかはまだよくわかっていない。
第5章 P駅Yb翅Nめ1/2)03−PbTio3混晶の相転移に及ぼす圧力効果
紬岬側Pτ ^\〆
93
5◎
coo PE
400
{Cubic)
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e
FE
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0.5
(o採ho巾O鴨b逼e,
Fr conto“tくx》
。,oo
O.a O2 0.4 0β O.e 1.O
CO閥C∈N削聡ATION of PT
邑
H.Lim, H. J. Kim and W. K. Choo:
T.Yamamoto and S. Ohaslli:
Jpl1. J. App1. Phys.34(1995)5449.
Jpn. J. App1. Phys.34(1995)5349.
図5・1.PYN・PTの濃度相図
第2章、第3章では強誘電性を示すリラクサ強誘電体と反強誘電
体の固溶体について述べたが、本章では逆に反強誘電性を示すリラク
サと強誘電体の固溶体であるPYN−PTを作製し、濃度相図の確認も
含めて圧力印加により誘電特性及び構造相転移にどのような影響を与
えるかを調べることにより、更なる知見を得ることを目的とする。
93
94
第5章 P駅Yb 112Nわ112)03−P賦髄03混晶の相転移に及ぼす圧力効果
§5・2.試料作製
先にも述べたように、PYNのペロヴスカイト型の単結晶は作製で
きず、結晶成長させるとすべてパイロクロア相になってしまうために、
本実験ではセラミックを作製し、実験を行った。しかし、濃度相境界
付近のx=0.53の単結晶は作製できたので、その作製方法をセラミッ
クの後に述べる。
セラミックを以下のような化学式に基づき、コロンバイト法、2
度焼き法を用いて作製した。
Yb 203+Nb 205→2Yb Nb O 4
2Pb+(1・x)YbNbO4+2xTio2→
2{(1・x)Pb(Yb 1!2Nb 1!2)03− xPbTiO3}
焼結の温度レートは2章で述べた以下のレート(図2・2)で行っ
たが、仮焼きの温度と時間、本焼きの温度と時間はそれぞれ異なるの
で、表5・1にまとめて示す。
組成比
仮焼温度(°C)
時間(分)
x=0
800
800
800
800
800
800
800
800
800
800
800
850
850
850
850
900
180
180
180
180
180
180
180
180
180
180
180
180
180
005
0075
0085
0.1
012
015
02
025
03
04
05
0.6
0.7
0.8
09
嘘80
180
180
焼温度(°C)
1070
1030
1015
1000
980
970
950
930
930
950
960
965
1000
1000
1000
1000
表5・1. 各組成比の焼結温度と時間
94
時間(∠)
120
120
120
120
120
120
120
120
120
120
120
120
120
120
120
120
第5章 Pb(Yb且ノ2Nあ1/2)03一賄TiO3混晶の相転移に及ぼす圧力効果
95
また、単結晶はPbOをフラックスとして以下の化学式に基づき育
成した。温度レートは図5・2に示す。x=0.5の比率で原材料を入れ単
結晶育成したのだが、誘電率測定から転移温度を求めたところ、x
=0.53の単結晶ができていたことがわかった。
4PbO+(1・x)(Yb203+Nb205)+4xPbTiO3→
4{(1・x)Pb(Yb 112 Nb i!2)03−xPbTiO3}
(
審
§
駕
4℃ノh
誌
ら
麗
o
卜
1α驚ノh
鴇6
’刊me(h)
図5−2.PYN−PT単結晶育成の温度レート
この焼結した試料がペロヴスカイト構造になっているかどうか、
また、格子定数を求めるために、粉末X線回折実験を行った。全ての
組成で回折実験を行ったが、例として図5・3に室温でのx=O,0.2,0.4,
0.5,0.6のX線パターンを示す。すべてのX線パターンから、全ての
試料においてペロヴスカイト構造になっていることが確認できた。
2θ=45°付近のピークにおいて、x=O∼0.085まで2本にスプリ
ットしていたが、x=O.1∼0.4までは1本になり、x=O.5以上では再
び2本にスプリットしている。これは室温における結晶構造が反強誘
電体である斜方相(Orthorhombic)から擬立方相(PseudoCubic)に変化
しx=O.5以上で正方相(Tetragona1)に変化することを表している。こ
のことから、x=o.5以下は単斜相(Monoclinic)であるとしたT.
Yamamotoらの考えは間違っている。
また、x=0∼0.25において2θ=19°付近にBサイトイオンの
95
第5章 Pb(Yb 1/2Nb i/2)03一賄TiO3混晶の相転移に及ぼす圧力効果
96
皿oo
相
対50
強
度
20
30
80
⑳
回折角 2θ 【deg】
100
相
対50
強
度
回折角 2θ 【d㎎】
100
相
対50
強
度
70
80
圃折角 2θ 【剛
100
ゼ
謹5°
度
70
80
回折角 2θ 【deg】
100
相
対50
強
度
回折角 2θ 【d㎎灘
図5・3.
x=O,0.2,0.4,0.5,0.6のX線パターン図
96
97
第5章 P賦Yb 1侶Nあ1の03−PhTio3混晶の相転移に及ぼす圧力効果
規則配列を示す超格子回折が見られ、PYN(x=0)のときに最もはっき
り現れ、PTを混ぜていくに従って弱くなり、x=0.3では見られなく
なった。このことから、PTを混ぜていくに従いBサイトイオンの秩
序度が悪くなることがわかる。ちなみに面指数はPMN・PZ及び
PSN・PZの場合と同じである。
これらのデータからブラッグの式、及び次式を用いて、格子定数
を求めた。図5・4に各組成の格子定数を示す。
2d sinθ ・ nZ ブラッグの式(λ=1.5405A)(5.1)
h2+k2+12
d2
a2
1
1
乃2 k2 12
−=一十一十一
d2
a2 わ2 02
乃2+ん2 12
1_
十一
2 2
7一
(5.2)
:Cubic
:Orthorombic
:Tetragona1
a c
A
鷺
縣40
3.9 ③:セラミクスa軸
○:セラミクスc軸
△:単結晶a軸
△:単結晶c軸
0 .30.405
組成比x
図5−4.各組成での格子定数
97
O.9
(5.3)
(5.4)
98
第5章 Pb(Yb 1/2Nb 112)03一騰騒03混晶の相転移に及ぼす圧力効果
§5−3.実験結果と考察
㊧5−3−1.組成変化による誘電特性
全ての組成による誘電特性を描くにはあまりにも煩雑になるので、
x=0∼0.3までを図5・5に、x=0.2∼0.8までを図5・6に示す。測定周
波数はx=O∼0.4までは1kHz,10kHz,100kHz,1MHzであり、x=O.5
以上では10kHz,100k且z,1M且zである。
(1−x)PYN−xP T
600
400
‘
200
XFO.12
XF・O.07
盟
4....:ntpt−”vifl:1:: :
100 200 300
TemperatUre O())
図5−5.(1・x)PYN− xPT(x=0∼0.3)の誘電特性
PYN(x=0)では鋭いピークを示し、転移温度が約290℃と高く、
誘電率のピークの値は約500で誘電損失もとても低いことから一般的
な反強誘電体の振る舞いを示した。x=0.05,0.075においても同じ振
る舞いを示し、誘電分散も無いことから、x=0∼0.075では反強誘電
体であると考えられる。
98
第5章 Pb(珊⊃1/2pa隠)1/2)03−PbTio3混晶の相転移に及ぼす圧力効果
99
x=O.1ではピークの形はシャープであるが、すこしながら誘電分
散が現れ始めているのがわかる。さらにx=O.12∼0.3ではピークの形
はブロードになり、周波数分散もはっきり現れリラクサ特有の散漫相
転移を示している。しかし、X線回折の実験では規則配列による超格
子回折線がx=0.25まで存在していることから、リラクサの誘電特性
は示すが反強誘電性の微小領域が共存していると考えられる。
(1−x)PYN−xPT
2000
㍉
1000
200 300 400
500
Temperature(℃)
図5・6.(1・x)PYN−xPT(x=0.2∼0.8)の誘電特性
x=0.4ではピークはブロードであるが、x=0.5以上ではピーク
の形状もシャープになる。誘電率のピ・…一・クの値はx=O.5で最大となり、
X線回折実験からはx=0.5以上で(200)のピーク(2θ=45°付近のピ
ーク)がスプリットすることから、x=O.5に濃度相境界が存在するこ
とがわかる。また、x=0.4では誘電分散がほとんど無くなるが、x=O.5
以上では転移温度の変化はほとんど無いが、ピークの最大値が周波数
によって大きく異なる。このことについては最後に考察する。
以上のことから、濃度相図を描くと図5・7のようになり、図5・1
のH.]しimらのものとほとんど同じであることがわかる。
99
第5章 Pb(Yb 1/2Nb 112)03−PbTXO3混晶の相転移に及ぼす圧力効果
100
(1−x)PYN−xPT
500
40
PE
(Cubic)
A
§3。
薙
FE
(Tetragonal)
璽2°
10
(Pseudocubic)1
PYN
60
100
Composotion (%)
PT
図5・7.(1・x)PYN−−xl》Zの濃度相図
次に各組成の誘電特性の圧力依存性について述べるが、x=O.4以
上では転移温度が高くなりすぎて現有の圧力装置では測定不能である
こと、さらにx=O.4以上では通常の強誘電性相転移をすることはわか
っていることから、x=0.05∼0.25の組成の試料について、0.6GPaま
での圧力で測定した。
100
第5章 Pb(Yb 1/2Nあ112)03−P鯉io3混晶の相転移に及ぼす圧力効果
101
⑳5−3・2. (1−x)PYN−xPT(x=0.05)の誘電特性の圧力依存性
図5・8に0.95PYN−0.05PZの誘電特性の圧力依存性を示す。測
定周波数は1kHz,10kHz,100kHz,1MH[zで測定したが、誘電分散は
無かったので1kHzのみを示した。
0.95PYN−0.05PT
80
○:OGPa
口:0.2GP a
△:0.4GP a
。・
・k《
°・△ ス
◇:0.6GP a
㌔60
Q
40
0.0
0.03
(・c)0.0
0.01
O
O
150 200 250
300
Ternperature(『C)
図5・8.O.95PYN 一一 O.05PZの誘電特性の圧力依存性
101
102
第5章 Pb(Ykb 1/2Nkp 1/2)03一騰職03混晶の相転移に及ぼす圧力効果
圧力が増加するにしたがい、転移温度は高温側ヘシフトしていき、
誘電率のピークは減少していく。これは反強誘電体PZの圧力依存性
と同じである。0.95PYN−0.05PZが反強誘電体であることの確認のた
め、P−Eヒステリシスル・・一・一プの観察を行ったので、常圧での温度変化
を図5・9に示す。また、図5−8の転移温度から求めた圧力相図を図5・10
に示す。
T=152℃
T=81℃
o
引§6数。,卜,一
㌔
b°
壽
ぜ
L
L 44.13
kVlom
35.11kVlcm
T=176℃
T・=902℃
巻
㌔
8
ミ
婁
じ
め
L3511kVん皿
40.54kVIcm
T=196℃
T=130℃
巻
e”
8
ξ
L
§
o◎
L3238kW,m
35.11kV/cm
図5・9. 0.95PYN−0.05PZのP−Eヒステリシスループの温度依存性
102
第5章 騰(YめmNb 1/2)03一賄Tio3混晶の相転移に及ぼす圧力効果
103
図5・9からわかるように、転移温度以下ではダブルヒステリシスルー
プが見られることから、0.95PYN−O.05PZは反強誘電体であることが
確認できた。また、圧力相図の相線は線形に上がっていくことがわか
り、dTe/dPL・55であった。0.95PYN−0.05PZと同じ誘電特性を示した
0.925PYN−0.075PZについてもヒステリシスループの観察を行い、ダ
ブルヒステリシスループを確認しており、x=0∼0.075では転移温度
以下で反強誘電体であることがわかった。
0.95PYN−0.05PT
ρ27
)
§
§25
a
§24
8
Pressure(GPa)
図5・10. 0.95PYN−0.05PZの圧力相図
103
104
第5章 Pb(Yb 112Nわ112)03一騰盟03混晶の相転移に及ぼす圧力効果
㊧5・3−3. (1・x)PYN−xPT(x=0.1,0.12)の誘電特性の圧力依存性
図5・11と図5・12に(1・カPYN−xPT(x=0.1,0.12)の誘電特性の
圧力依存性を示す。測定周波数は1kHz,10kHz,100kHz,1MHzで測
定したが、誘電分散が見られ全てを描くと煩雑になるので1k且zのみ
を示す。
0.9PYN−O。1PT
200
義。庵0 2
○:OGPa
1kH2
禔F0.2GPa
OD
x
Q
△:0.3GPa
◇:0.4GPa
o
▽:05GPa
0
o (ら
8
⑳:0.6GPa
o
100
8
0.05
屍
0
◎
0.0
o
o
o
0.03
O
⑳
り
毒α。
o
ロ宅口
口
o o
口 O
口
口
0.01
o
㊥
㊦
㊦
150
50 100
200
Temperature(°C)
図5・11.0.9PYN−0.1PTの誘電特性の圧力依存性
104
第5章 Pb(Yb 1/2Nk )1/2)03一賄Tio3混晶の相転移に及ぼす圧力効果
0.88PYN−0。12PT
300
eh’
x
Q
200
0.O
c,◎0.0
欝
0.0
50 100 150 200
Temperature(°C)
図5・12.0.88PYN−0.12PTの誘電特性の圧力依存性
105
105
106
第5章 賄(1 a/2Ma/2)03一賄Tio3混晶の相転移に及ぼす圧力効果
図5−11,5・12より(1・x)PYN 一一 xPT(x=0.1,0.12)の圧力依存性は、
どちらも圧力印加とともに誘電率のピークは減少し、転移温度は
0・2GPaから高温側にシフトしていく。X線回折からx=0.1,0.12は
PseudoCubicなのでリラクサのはずであるが、転移温度が高温側にシ
フトしていくことから、圧力印加とともにリラクサ相から反強誘電相
に相転移すると考えられる。このことを確認するために圧力下でのヒ
ステリシスループの観察をしたが、試料が絶縁破壊を起こしてしまい
測定できなかった。しかし、常圧下での温度依存性は測定できたので
図5・13,5・12にそれぞれのヒステリシスループの温度依存性を示す。
T=22℃
T零136℃
”6
8
ε
黛
世 1&18kV/cm
塙57kW、m
T漏65℃
T・150℃
■
■
㌔δε§
㌔δま噂
環57kV㎞
L竃57撒m
T篇127℃
T冒160℃
●
“§δ哉o.黛
書ξ
L &57kWcm
■
L&57 kV!cm
図5−13. 0.9PYN−O.1PTのヒステリシスループの温度依存性
106
第5章 Pb(YR)1/2Nb 1/2)03一騰騒03混晶の相転移に及ぼす圧力効果
T=20℃
107
T・ 96℃
●1
●
§
㌔8蔚ゴ
ご
冠!19副㎝
L 656kVlom
T=112℃
T嵩74℃
Ҥ
N日8織い.禽
望
験
L656 kV!om
L656kW、m
T=125℃
Tw89℃
●
㌔δ爵語
■
■
゜t
毫
§
じ656靴m
L 6.56kV/cm
図5・14. 0.88PYN−0.12PTのヒステリシスループの温度依存性
図5・13,5・14より、どちらも転移温度(Tc=128℃、96℃)以下で
は強誘電体であるシングルヒステリシスループを示し、転移温度より
少し高温側でわずかながらダブルヒステリシスループを示す。二次転
移の転移温度付近でダブルヒステリシスループが見られることは知ら
れているが、(1・x) PYN 一一 xPT(x=0.1,0.12)は誘電特性でリラクサ的
な振る舞いをすることから二次転移とは考えにくい。よって反強誘電
相が共存しており、その物性が現れたと考えられ、圧力を印加すると
反強誘電性が強くなり転移温度が高温側にシフトしていくと思われる。
107
108
第5章 P賦%112Nb 112)03一騰嘘()3混晶の相転移に及ぼす圧力効果
以上のことから、それぞれの圧力相図を描くと図5・15、5・16となる。
0.9PYN−0。1PT
20
5)18
)
羅16
慧14
}:
O.2 0.4 0.6
Pressure(GPa)
図5・15.
0.9PYN−−O.1PTの圧力相図
0.88PYNLO.12PT
20
go)
015
墓
邑
碧10
0
0.2 0.4 0.6
Pressure(GI)a)
図5・16.
0.88PYN− O.12PTの圧力相図
108
第5章 Pb(Yk)i12Nb i/2)03−P翻亙03混晶の相転移に及ぼす圧力効果
109
⑱5・3・4. (1・x)PYN−xPT(x=0.15、0.2、0.25)の誘電特性の圧力依
存性
図5−17から図5・19に(1・x)PYN− xPT(x=0.15,0.2,0.25)の誘電
特性の圧力依存性を示す。測定周波数は1kHz,10k且z,100kHz,1MHz
で測定したが、誘電分散が見られ全てを描くと煩雑になるのでlkHz
のみを示す。
0.85PYN−0.15PT
300
顔審回
Q
200
8 8
8 8
○:OGiPa
8 3
8 9
口:0.2GP a
0.1
△:0.4GP a
8 8
8 9
◇:0.6GP a
8 5
り
5 ・
9
,!s k
0.05
0
50 . 150
Temperature(℃)
図5−17。
0.85PYN−0.15PTの誘電特性の圧力依存性
109
110
獅章Pb(Ylt)、/,N・tCP、12)O、一一・PbrllVlo・混晶の相転移に及ぼす圧力効果
0。8PYN−0.2PT
400
伽』
りゆ
300
○:OGPa
口:0.2GP a
△:0.4GP a
◇:0.6GP a
0.0
0.0
り
0.0
50 100 150
TemperatUre(°C)
図5・18.0.8PYN− O.2PTの誘電特性の圧力依存性
110
第5章 Pb(Yわ112Nめ112)(》3−P翻io3混晶の相転移に及ぼす圧力効果
0.75PYN−0.25PT
400
騨』
Q
○:Okbar
口:2kbar
△:4kbar
300
0.O
c,00.0
欝
0.0
50 100 150 200
Temperature(°C)
図5−19.0.75PYN−0.25PTの誘電特性の圧力依存性
111
111
U2
第5章 P駅Yb 112Nb 1/2)03一騰騒03混晶の相転移に及ぼす圧力効果
図5・17から図5・19より、(1・x)PYN−xPT(x=0.15、0.2、0.25)
全てにおいて圧力印加とともに、誘電率のピークの値は減少し、転移
温度は低温側にシフトしていく。このことは強誘電性相転移をしてい
ることを示しているが、PTの比率が多くなるにつれピークの形はより
ブロードになり、転移温度の変化率も大きくなっている。X線回折で
はx=0.3まで規則配列を示す超格子回折が見られるが、PTの比率が
多くなるにつれBサイトイオンの秩序度が低くなり、しだいにリラク
サ状態になっていくことを表している。常圧での(1・x)PYN−xPT(x=
0.15、0.2)のヒステリシスループを観測したので図5・20、5・21に示す。
T ・77℃
T ・20℃
●
㌔δ篭罵2
N§
隔
毫
塁
L
じ 14.63
kV!cm
13.96kV/cm
T驕90℃
T冨38℃
◎
●
、
N§δ言り.2
N白δ藁3ゴ
●
L1轍W、m
L 14.63
kWom
Tn100℃
Tt 62℃
Pt
削§δ試ゆo.2
?
塁
L
L 1463
kWom
14,63 kV/cm
図5−20. 0.85PYN−O.15PTのヒステリシスループの温度依存性
112
第5章 Pb(Yb 1/2NR) 112)03−一賄暇()3混晶の相転移に及ぼす圧力効果
T=17℃
U3
T・=74℃
.
領δ識トい.2
遍
R
釜
L
じ 1697kWcm
14.O kV!cm
T=33℃
T・83℃
●●
●
■
㈲茎Qミい.2
●
凹絹8譜の
L1ω7k鞭
じ 18.66kWcm
T=103℃
T ・60℃
騒8ミ§
四臼8竃φ
L 18.66
L 16.97kV/cm
kVlom
図5−21. 0.8PYN−0.2PTのヒステリシスループの温度依存性
図5・20、5・21より、どちらも転移温度以下ではシングルヒステリ
シスループを描いているが、図5・13、5・14の0.9PYN−0.1PTと
0.88PYN−0.12PTのルs・・・…プよりもスリムなループになっていること
がわかる。また、室温において0.85PYN−0.15PTよりも0.8PYN−
0.2PTのほうがよりスリムになっている。リラクサ強誘電体のループ
は残留分極と抗電界が通常の強誘電体よりも小さくスリムなループを
描くことが知られており、図5・20、5・21はこのことをよく表している。
また、X線回折との結果とあわせて、PTの比率を犬きくしていくと規
則配列性が悪くなり、リラクサ性が強くなることを示している。図5・22
113
114
第5章 騰輪112Nb 112)03一騰Ti(》3混晶の相転移に及ぼす圧力効果
に(1・ガPYN−xPT(x=0.15、0.2、0.25)の圧力相図をまとめて示し、
表5−2にdTc/dPを示す。図5・22において、全ての組成で転移温度よ
り高温側では常誘電相(Cubic)で、転移温度より低温側ではリラクサ
相(PseudoCubic)である。 x=0.12まではdTe/dP>0であったが、 x
=0.15からdTc/dP〈0となり、dTe/dPの正負の境界がx=O.12∼0.15
の間にあると考えられる。図5・4より格子定数はx=0.15のほうが大
きいにもかかわらずdTe/dPの変化率が小さいのは、x=0.1,0.12と同
様に反強誘電相である秩序領域がある程度存在してdTe/dPが負にな
ることを妨げていると考えられ、さらなる圧力を印加するとdTe/dP>
0になる可能性もある。
(1−x)P「YN−xPT
12
(
)
910
5
お
爵8
Φ
Pressure(GPa)
図5・22. (1・カPYN−xPT(x=O.15、0.2、0.25)の圧力相図
組成
dTc/dP(°C/GPa)
0.15
一10
0.2
一15
0.25
一30
表5・2. (1−x)PYN−xPT(x=0.15、0.2、0.25)のdTe/dLP
114
第5章 騰(Yb 1/2Nb 112)03 一一 PbTio3混晶の相転移に及ぼす圧力効果
115
㊧5・3・5. (1・xr)PYN 一一 xPTの誘電分散の圧力依存性
(1・カPYN−xPTのx=0.1∼0.3の領域ではリラクサの誘電特性を
示すことがわかったので、圧力依存性を測定したx=0.1,0.12,0.15,0.2,
0.25の誘電分散の圧力依存性を前章と同じようにVoge1・Flulcherの式
を用いて調べる。まず、図5・23から図5・27にそれぞれの比率のOGPa
と0.6GPa(x=025は0。4GPa)の誘電特性を示す。
0.9PYN−0.1PT
200
●事咽
Q
100
0.1
0.0
0.0
2
駕
俘o・o
㍗゜
魯゜
魍8
0.0
8
50
100 150 200
Temperature(℃)
図5−23. 0.9PYN・0.1PTの誘電分散の圧力依存性
115
116
第5章 Pb(Yb協Nめ1/2)03−PbTio3混晶の相転移に及ぼす圧力効果
0.88PYN−0。12PT
300
‘
200
0.0
6◎0.0
0.0
50 、 100 150 200
Temperature(『C)
図5・24. 088PYN・0.12PTの誘電分散の圧力依存性
116
第5章 Pb(Yb112Nめ1/2)03一賄搬03混晶の相転移に及ぼす圧力効果
0.85PYN−0.15PT
○:OGPa
⑳:0.6GPa
300
の
』
o
Q
200
11撒孟01ル勘
o
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0.1
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り
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o
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1駈’01ル猛
0
50
100
150
Temperature(℃)
図5・25. 085PYN・0.15PTの誘電分散の圧力依存性
117
117
118
第5章 ?b(Yb 1/2Nめ1の03一賄Tio3混晶の相転移に及ぼす圧力効果
0.8PYN−0.2PT
Temperature(℃)
図5−26. 08PYN−0.2PTの誘電分散の圧力依存性
118
第5章 Pb(Yb 1/2Nb 1/2)03−P翻io3混晶の相転移に及ぼす圧力効果
0.75P「YN−0.25PT
Temperature(℃)
図5・27. 075PYN・O.25PTの誘電分散の圧力依存性
119
119
120
第5章 Pb(%112N恥112)03 一一 PbTio3混晶の相転移に及ぼす圧力効果
活性化エネルギーと凍結温度は第3章、第4章と同様に
Vo gel− Fulcherの式
fm = f・ exp[一 thf]
を用いて求める。
図5・23、5・24の(1・x)PYN−xPT(x=0.1,0.12)においては、圧力
を印加すると反強誘電相になり0.6GPaでは周波数分散は見られない
ので、常圧での活性化エネルギーを求めることにする。(1・x) PYN 一一 xPT
(x=0.15,0.2,0.25)においては0.6GPaの圧力を印加しても誘電分散
が見られるので各圧力での活性化エネルギーを求める。図5・28に
(1・x)PYN−xPT(x=0.1,0.12)のVoge1・Fulcher図を、図5−29に
(1・x)PYN−xPT(x=0.15,0.2,0.25)のVoge1・Fulcher図をまとめて
示す。また、図より求めた活性化エネルギーと凍結温度を表5・3に示
す。
0.9PYN−O.IPT
0.88PYN−0.12PT
106
106
105
105
冒
邑
冒
邑
104
104
103
103
23 24
25
14 15 16 17 18
1000/(Tm’−360)
1000/(Tm’−310)
図5・28.(1・x)PYN− xPT(x=0.1,0.12)のVogel−Fulcher図
120
第5章 Pb(Yb 112Nあ1/2)03一賄TiO3混晶の相転移に及ぼす圧力効果
0.85PYN−0.15PT
0.8PYN−0.2PT
106
106
105
105
r‘゜゜゜1
邑
邑
104
104
103
103
15
12 14 16
1000/(Tm’・’Tf)
1000/(Tm㌧Tf)
0.75PYN−0.25PT
106
105
冨
凄
104
103
10 15
1000/(Tm’−Tf)
図5・29. (1−x)PYN 一 xPT(x=0.15,0.2,0.25)のVogel・Fulcher図
121
121
第5章 Pb(Yb 1侶Nb 1/2)03一賄Tio3混晶の相転移に及ぼす圧力効果
122
x=012
x=01
圧力[GPa]
Tf[K]
E。[eV]
Tf[K]
E、[eV]
0
360
0159
310
0』1
x=0.21
x=0.15
卿
ウ力[GPa]
0
θ 0.2
犠 0.4
悔 琉喰 鴇
@ 0.6
Tf[K]
280
285
Q90
@ 295
x=0.25
E。[eV]
Tf[K]
Ea[eV]
0,078
290
295
300
305
0,067
鴨〃
O,062
〃κ 脚
0,047
w A
0,042
Tf[K]
E。[eV]
305 〃
0,072
@ 315 弾
0,054
岬〃
0,051掃 ” 点
320 俘 再罰
α043
α035
表5・3. (1・x)PYN 一一 xPT(r・0.1,0.12,0,15,0.2,0.25)の凍結温度と
活性化エネルギY−mm・・
表5・3より、x=0.1,0.12では圧力を印加するとすぐに反強誘電
相に転移することからリラクサ性が弱く、活性化エネルギーも比較的
大きい値をとる。x=0.15,0.2,0.25においては、誘電分散が大きく
なりリラクサの特性を示すので、活性化エネルギーの値は小さくなる。
常圧での活性化エネルギーの値はx=0.1からPTの比率を増加するに
つれ減少し、x=0.2付近で最小となり、それ以降は増加していくと
考えられる。X線回折からx=0.3付近までBサイトイオンの規則配
列性を示す超格子反射が残っており、x=0.2では完全にリラクサに
なりきれていないはずである。しかしながら、図5・7の濃度相図では、
x=O.15∼0.2の転移温度が最低であり、誘電特性もx=0.2のときに
散漫相転移といったリラクサの特徴を最もはっきりと示していること
からx=0.2付近の活性化エネルギーが最小になると考えられる。ま
た、x=0.15,0.2,0.25のいずれも誘電分散は0.6GPaまでの圧力を
印加しても消えることはなく、活性化エネルギS…一…は圧力印加とともに
抑えられる傾向にあることがわかる。
最後にx=0.5以上の誘電率のピークの周波数依存性について考
える。通常、リラクサあるいはリラクサーPT系の誘電分散については、
Voge1・Fulcherの式を用いて説明されることが多い。図5・6よりx=O.4
以上の試料では転移温度の変化は無いが、x=O.5以上では誘電率のピ
ークが周波数を高くするにつれ小さくなる。このことは、リラクサの
誘電分散とは異なると考えられる。そこで唯一出来た単結晶である
0.47PYN−0.53PTの試料で誘電率を測定し、 Cole・Coleプロットを試
122
第5章 Pb(Yb 1侶Nb 112)03一賄騒03混晶の相転移に及ぼす圧力効果
123
みた。図5・30と図5・31に誘電特性と誘電特性から得られたCole・Cole
プロット図を示す。
5000
100
Tc。凡。
0000
010kHz
「40kHz
(の
P磁e1㏄セic pha㏄
溌
』
kコ聖00kH翼
匂
桙S◎OkH2
セ
▽量MHz
@ 轟
♂
口420℃ ▽430℃◇440℃
500
▲
100kH劣
1MH2
轟
5000
△410℃
♂
19kH
▽
o
A
▲
ワ o
o
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▼
1000
▼
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Ψ
▼
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▼
Fe庁oekctrlc pllasc
▼
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り
,o
㊧380℃ 《390℃ 圃395℃ φ400℃
500
・◇o
◎
05
董00kHz
コMH2
ヨ0嚢H・
φ
o
o
1!1 =一一L.....,.一.....mj
?i)o
350 400
450
o
ム
,
Tビmperaτure TCG
εr
図5・30.0.47PYN−0.53PT単結晶の
図5−31.0.47PYN−0.53PT単結
誘電特性
晶の(a)常誘電相と(b)強
誘電相のCole・Cole図
図5・30の0.47PYN・0.53PT単結晶の誘電特性では図5・6のセラミ
ックの誘電特性と同様に、測定周波数が大きくなるにつれピ・一一クの値
が小さくなる。図5・31の(a)は転移温度より高温側の常誘電相、(b)は
転移温度より低温側の強誘電相のCole・Coleプロット図である。どち
らも各温度においてほぼそれぞれの円上にあり、円の中心は横軸の下
に描いているように直線状になっているのでCole・Coleの円弧則に従
っていると考えられる。このことから0.47PYN 一一 O.53PTは秩序無秩
序型強誘電体でよく見られるDebye型の誘電分散を示し、変位型強誘
電体であるにもかかわらず秩序無秩序型強誘電体に似た誘電分散を示
すことがわかった。どうしてこのような特性を示すかはまだわかって
おらず、今後の課題である。
123
124
第5章 Pb(Ykpgi2N#pli2)03−P醜ヨ⑪3混晶の相転移に及ぼす圧力効果
§5−4.結論
(1) (1−x)PYN−−xPTの全率固溶させたセラミックを作製し、X線回
折によりペロヴスカイト構造であることを確認した。規則配列を
示す超格子のピークがx=Oからx=O.3付近まで存在することが
わかった。
(2) 常圧下で各組成の誘電率測定により濃度相図を作成するとH.
Limらの結果と一致した。 X線回折の結果とあわせると、x・= O.5
付近にリラクサ(PseudoCubic)と通常の強誘電相(Tetragona1)
の濃度相境界が存在し、さらにx=0.1付近に反強誘電相
(Orthorhombic)とリラクサ(PseudoCubic)の濃度相境界が存在
することがわかった。
(3)(1・x)PYN− xPT(xニ0.05,0.075)の誘電特性の圧力依存性は、
いずれも誘電分散は見られず、圧力印加とともに誘電率のピークは
減少し、転移温度は高温側にシフトしていき、反強誘電体の圧力依
存性と一致する。
(4)(1・x)PYN−xPT(x=・O.1,0.12)の誘電特性の圧力依存性は、圧
力印加とともに誘電率のピークは減少し、0.2GPa以上では転移温
度は高温側にシフトする。また、常圧で見られた誘電分散も圧力印
加とともに見られなくなることから、強誘電相から反強誘電相に相
転移することがわかり、以上のことから圧力相図を決定した。
(5)(1・x)PYN−xPT(x・=・O.15,0.2,0.25)の誘電特性の圧力依存性で
は、はっきりとした誘電分散が見られ、誘電率のピークは減少し、
転移温度は低温側にシフトし、リラクサであることが確認できた。
それぞれの誘電特性から各組成の圧力相図を決定した。x=O.12ま
ではdTc/dP>0であるがx=O.15からdTe/dP<0になることから、
dTe/dPの正負の境界がx・O.15付近に存在する。また、活性化エ
ネルギ・一を計算すると、18FO.1からPTの組成を増加するにつれ値
は小さくなり、転移温度が低く誘電分散がはっきり見られるx=O.2
付近で最小となる。
124
第5章 Pb(Yb 112Nb 112)03 一一 Pb[E iO3混晶の相転移に及ぼす圧力効果
125
参考文献
(1)M・ F・ Kupriyan・v, A. V. Turik, V. A. K。gan, S. M. Zaitsev and V. F.
Zhestkov:Sov. Phys. Chrystalloger 29(1954)470.
(2)H・Lim・H・」・Kim and W. K Ch・・:Jpn. J. ApPl. Phys.34(1995)
5449.
(3)T・ Yamam・t・and S. Ohashi:Jpn. J. ApP1. Phys.34(1995)5349.
125
126
第6章 Pb(lny2Nb 112)03の相転移に及ぼす圧力効果とドメイン観察
第6章 Pb(lnv2Nby2)03の相転移に及ぼす
圧力効果とドメイン観察
§6−1.緒言
リラクサ強誘電体の誘電特性にはBサイトイオンの秩序度が深く
関わっていることが指摘されている。多くのリラクサ強誘電体では結
晶化の過程で形成されたBサイトイオンの秩序度は、温度、圧力等の
外的要因では変化しない。しかし、Bサイトが1:1となるリラクサの
中には高温の熱処理によって秩序度を変化させることができるものが
あり、Pb(In1!2Nb1/2)03(略してPIN)1)、 Pb(Sc1/2Nb1!2)03(PSN)、
Pb(Sc1!2Ta112)03(PST)2)である。
秩序度パラメータSはX線散乱の超格子反射(1/21/21/2)の強度1112
1!2112と(111)の強度1111の比であらわされ、次式のようになる。
〔窃乳
s=
(6.1)
〔η乳
S=1のときは完全に秩序化した状態、3=0のときは完全に無秩序な状
態である。本研究で扱うPINの秩序度については、 Bokovらによって
報告されており、図6・1に転移温度と秩序度の相図を示す1)。縦軸は
転移温度、横軸はアニS−一…ル温度と秩序度を示している。図よりアニー
ル温度を高くしていくにつれ秩序度の異なったPINが連続的に作製で
きることがわかる。
PINはBサイトイオン(ln3+,Nb5+)の秩序度の違いによっ
て、”Ordered PIN”(S>0.7)、”DisorderedPIN”(S<0.4)とその中間の状
態である”Partially Ordered PIN”に分類される3)。 Ordered PINはB
サイトが秩序的に並んだ状態で、室温では斜方相である。誘電率は
140℃付近で鋭いピークを示し、ヒステリシス曲線の観察からダブルル
vが見られ反強誘電性を示すことが報告されている4,5)。Disodered
PINはBサイトが無秩序的に並んだ状態で、室温では菱面体相である。
v−・一・・
誘電率は40℃付近で緩やかなピv−・…クを持ち、リラクサ強誘電体特有の
126
第6章 Pb(ln 1!2Nb 1/2)03の相転移に及ぼす圧力効果とドメイン観察
C]he滋cal or《ilerin g(S)
1℃
爾05
Φ 燗
毎
誉
PE
舞蜘
AFE
留
50
tt
A皿ealed temperature
図6−1.
PINの転移温度と秩序度の相図1)
(測定周波数 1.6k且z)
Ordered PIN
Disordereed PIN
50nm
図6・2.
Ordered PINおよびDisordered PINの電子線回折と暗視野像6)
127
127
128
第6章Pb(ln1!2Nb1!2)03の相転移に及ぼす圧力効果とドメイン観察
周波数分散が見られる。また、電子線回折の実験からOrdered PINで
は約100nm程度、 Disodered PINでは約30nm程度のOrdered
Domain を持っことが報告されている6)。
以上のことをふまえ、本章では、リラクサに見られる特徴的な誘
電特性(誘電分散)と転移温度の空間分布との関係及び、圧力印加に
対する振る舞いを調べることを目的として、秩序度の異なるPIN単結
晶を用いて、誘電率の測定、偏光顕微鏡観察を行った。
128
第 6章 Pb(Iny2Nblr2b03の 相転移 に及ぼす圧力効果 と ドメイン観察
§6‐ 2。
129
試 料 作製
PIN単 結 晶 の 作 製 方 法 は 第 2章 に 記 した とお りで あ り、20ccの
自
金 増 鍋 を使 用 して 、 以 下 の 化 学 式 に基 づ い て 作製 した 。
4PbO+In203+Nb205
‐〉 4Pb(Inl′ 2Nblノ 2)03
フ ラ ックス
結 晶 の形 態 は 図
:PbO,PbF2,B203
3の
よ うに 黄 色 透 明 で 数 ミ リ角 程 度 で あ る。 特 定 で
き る 結 晶 面 は ほ とん ど現 れ ず 、 双 品 の よ うな形 態 で あ る。
6‐
図 6‐ 3.PIN単 結晶
白金 増 塙 か ら取 り出 した ば か りの PIN単 結 晶 (as‐ grown)は 、後 の 実
験 結 果 で も示 す が 、 秩 序 度 が ば らば らで あ り、 た い て い は Partilly
Ordered PINで あ る が 、 リラ クサ の も の や 反 強誘 電 体 の も の な ども
混 在 して い る。 これ らの 単 結 晶 を熱 処 理 して ね ら っ た 秩 序 度 の 結 晶 を
作 製 す る。
Ordered PINは 650℃ ま で 温 度 を あ げ 、室 温 ま で 温 度 レー ト 50℃
/hで 徐 々 に 冷 却 して 作 製 した 。白金 増 鍋 の 中 に PIN単 結 晶 の 鉛 の 蒸 発
PbOを い れ 、 そ の 中 に埋 め込 む よ うに PIN単 結 晶 を入
れ て 密 封 し、 650℃ で 20時 間 ア ニ ー ル し室 温 ま で ゆ っ く り冷 却 した 。
を防 ぐた め に
を した 。
Disordered PINは 900℃ ま で 温 度 を あ げ 、低 温 ま で 数 秒 で ク エ ン
チ (急 冷 )す る こ とに作製 した 。 ク エ ン チ 処 理 は 、 白金 シ ー トに
129
PIN
130
第6章 Pb(lny2Nb1!2)03の相転移に及ぼす圧力効果とドメイン観察
単結晶の鉛の蒸発を防ぐためにPbZrO3をいれ、その中に単結晶を埋
めて、漏れない様に折り畳んだ。PbZrO3を用いたのは900℃ではPbO
が溶けてしまうからである。その白金シートの包みを900℃に保った
ままの電気炉内に入れ、約10分程おいてからすばやく取り出し・液体
窒素の中に入れ急冷した。
Partially Ordered PINは熱処理をせずに用いた。
これらの熱処理した試料がペロヴスカイト構造になっているかど
うか粉末X線回折を行った。図6・4にOrdered PINとDisordered PIN
の粉末X線回折の結果を示す。
(a)
今
ぐ
)
°1男
竈
(b)
(110)
(211)
鎖
(200)
貯
@ (220)
ヤ
@ (111)
×
i100)
@ (210)
20
30
40
50
60
70
2θ
図6・4.(a)Ordered PINと(b)Disordered PINの粉末X線回折測定
130
第6章 Pb(ln1!2Nb 112)03の相転移に及ぼす圧力効果とドメイン観察
131
Partially Ordered PINは図6・4(b)と同じパターンが観測されている。
リラクサを示すDisordered PIN及びPartially Ordered PINのX
線パターンである図6−4(b)は、ペロヴスカイト構造の良く見られるパ
ターンと一致しておりほぼ完全にペロヴスカイト構造になっていると
考えられる。また、それぞれのピークの割れが無いことから平均的な
対称性は立方晶である。前節では菱面体晶と述べたが、ほとんど立方
晶と変わらない菱面体晶で、擬立方晶(Pseudo℃ubic)とも言われる。
また、反強誘電性を示すOrdered PINのX線パターンである図6・4(a)
では、パターン自体は同じなのでペロヴスカイト構造になっていると
考えられるが、各ピークに割れが生じており、明らかに図6・4(b)とは
違う結晶構造であることがわかる。
131
第6章 Pb(lm/2Nb1/2)03の相転移に及ぼす圧力効果とドメイン観察
132
§6・3.実験結果と考察
⑧6・3−1.秩序度の違うPINの誘電特性
図6・5.に(a)Disordered、(b)Partially Ordered、(c)Ordered PIN
単結晶の誘電特性を示す。
400
○:10kHz
口:100kHz
(a)
△:1MHz
◇:10MHz
伽』
eq 200
(b)
馬
(c)
mom。Pt・Ptllll
0
100
200
Te卿era加re(℃)
図6・5. (a)Disordered、(b)Partially Ordered、(c)Ordered PIN単結晶
の誘電特性
図からわかるように、Disordered PINでは50℃付近でリラクサ
特有の周波数によってピークの温度が違う散漫相転移が見られ、
Ordered PINでは160℃付近で通常の強誘電体及び反強誘電体に見ら
れる鋭いピークがあり、周波数による誘電分散は見られない。Partially
Ordered PINでは誘電分散は見られないが、ピークの形がなだらかに
なっていることがわかる。また、ピークの温度は試料によって異なる。
これらの結果はそれぞれ熱処理をした試料で測定したものであるが、
132
第6章 Pb(ln1!2Nb 112)03の相転移に及ぼす圧力効果とドメイン観察
133
同じ増塙内でできた試料によってもPartially Ordered PINのピーク
の温度が違うことを図6・6に示す。周波数分散は見られなかったので、
グラフが煩雑になるのを避けるため、100kHzのみを示した。
b H
り9
0
Tenrperature(℃)
図6・6.同じ堆塙内で得られた転移温度のことなるPartially Ordered PIN
の誘電特性
133
134
第6章 Pb(llm!2Nb 1!2)03の相転移に及ぼす圧力効果とドメイン観察
図より、同時に作成した結晶でも、堆塙内の位置の違い等で温度や温
度変化が異なることによって様々な結晶ができたと考えられる。図6・6.
ではあえてピークの温度が明らかに違う試料の結果を示したが、(b)の
ような振る舞いをする試料が8割で、残り2割が(a)や(c)の振る舞いを
する。2つの矢印の間では低温相と高温相が混在している領域であり、
このことは偏光顕微鏡観察で消光する様子から決定した。また、全て
の試料において、鋭いピークではなく、なだらかなピークであること
からPartially Ordered PINでは、転移温度の異なる微小領域が空間
分布していると考えられる。序章で述べたように、リラクサに関して
は転移温度の空間分布だけでは説明できないと考えられているが、完
全なリラクサではないPartially Ordered PINには適用できるかもし
れないと考えた。次にそれらのことを調べるため、Partially Ordered
PINに注目した。
㊥6・3・2。
Partially Ordered PINのドメイン観察と微小領域の誘電
特性
Disordered PIN、 Partially Ordered PIN、 Ordered PINの単結
晶において、直交ニコル下での偏光顕微鏡でのドメイン観察を行った。
リラクサ性を示すDisordered PINでは、誘電率のピークの温度の前
後にかかわらず、つまり相転移の前後にかかわらず、顕微鏡のステー
ジをいくら回転させても、光が透過する領域は観察できなかった。こ
のことはリラクサであるDisordered PINのOrdered Domainの大き
さが、報告されているように約30nm程度であることに対応し、試料
の厚さに対して非常に小さいので光が透過できないと考えられる。一
方、反強誘電体であるOrdered PINでは、図6・7のようになった。
Ordered PINは図6・5(c)の誘電率の鋭いピークからわかるように、
160℃付近で反強誘電相(Pbam, Z=8)から常誘電相(Fm3m, Z=8)に相転
移している。それに対応するようにドメインも短時間に消光しており、
2つの相が共存している温度領域は153℃から157℃の間だけである。
134
第 6章 PbCnl虐 島lr2p。 3の 相転移に及ぼす圧力効果 とドメイン観察
(b) 153℃
(a) 140℃
(d)170℃
(c)157℃
図
135
6"7.Ordered PINの
ドメ イ ン の 温 度 変 化
次 に 、 Partially Ordered PINの ドメイ ンの 温 度 依 存 性 を図 6‐ 8
に示 す 。 温 度 レー ト 10℃ ノ
minの 昇 温過 程 で 観 察 した も の で あ る。 明
る い 領 域 が 強誘 電 相 で 、暗 い 領 域 が 常誘 電 相 で あ る。消 光 は 65℃ か ら
始 ま り、130℃ に い た る広 い 温 度 領 域 で徐 々 に 変 化 して い く こ とが わ か
る。この 変 化 は 昇 温 過 程 、降 温過 程 の い ず れ で も同 じで 再 現性 が あ り、
温 度 を 一 定 に 保 つ た 場 合 に は そ の 状 態 で 変 化 せ ず 、相 転 移 が進 む こ と
は な か っ た 。 この こ とか ら Partially Ordered PINで は 、転 移 温 度 の
違 う微 小 領 域 が 存 在 し、誘 電 率 の ブ ロー ドな ピー ク に 影 響 を与 えて い
る と考 え られ る。 さ らに詳 し く調 べ るた め に ドメイ ン観 察 か ら図 6・ 9
に示 す 転 移 温 度 の 分布 図 を作 つ た 。
135
136
第 6章 PbCnlノ 2Nbl′ D03の 相転移に及ぼす圧力効果 とドメイン観察
(a) 30℃
(b) 65℃
(c) 70℃
(d) 80℃
(e)
図
6‐ 8。
(0 130℃
110℃
Partially Ordered PINの ドメ イ ン の 温 度 変 化
136
第6章 Pb(ln112Nb 112)03の相転移に及ぼす圧力効果とドメイン観察
137
】30
110
90
80
70
〇、5㎜
図6・9. Partially Ordered PINの転移温度の分布図
図6・9のような相転移の分布が起こっているのを確認するには、実際
に個々の領域での誘電率測定をしなければならない。そこで図6・9に
黒いスポットで描かれている(a),(b),(c)の3つの領域と結晶面全体の
誘電特性を測定した。図6・10に結果を示す。全ての誘電特性でリラク
サのような誘電分散は見られなかったので、100kHzのみを示してあ
る。図からわかるように3つの微小領域でのピークの温度はそれぞれ
異なっており、その温度はドメイン観察から得られた分布図の転移温
度領域にほぼ一致していた。矢印は相境界が各スポットの中心を移動
していくときの温度を示している。また、結晶面全体の誘電率のピー
クがなだらかなのに対し、各微小碩域のピー・…クは鋭くなっている。
さらに結晶面全体の誘電率のピークと各転移温度の分布領域の関
係を調べるために、図6・9から各転移温度領域の面積を求め、結晶面
全体の誘電率のピークと比較したものを図6・11に示す。図より結晶面
全体の誘電率のピークの形態と各転移温度領域の面積の分布がほぼ同
じであることがわかる。
これらの結果より、明らかに、Partially Ordered PINでは転移温
度の異なる微小領域が存在し、相転移がそれぞれの場所で異なる温度
において生じていることが確認された。また、Partially Ordered PIN
137
138
第6章 Pb(9n1!2Nb 1!2)03の相転移に及ぼす圧力効果とドメイン観察
においては、ブロードな誘電率のピークは結晶内の転移温度の分布が
原因であると考えられる。
伽隣
│
Q
0
50
100
150
Tenrperature(°C)
図6−10. 結晶面全体と3っの微小領域の誘電特性
138
第6章 Pb(ln 112Nb 112)03の相転移に及ぼす圧力効果とドメイン観察
139
1400
1200
6へ0.
豊
曇
1000
㌃
嚢α
800
o
00
00
Temp erature(℃)
図6−11. 結晶面全体の誘電特性と各転移温度領域の面積
⑳6・3−3. 秩序度の違うPINの誘電特性への圧力効果
圧力印加による誘電率の変化を調べるにあたり、まず、秩序度の
違うPIN単結晶の誘電特性の圧力依存性を調べた。用いた試料は、熱
処理によって秩序度を変化させたdisordered PIN(S=O.2,0.4)と
ordered PIN(S=0.7)の3種類の結晶であり、秩序度はX線回折から
(6・1)式によって求めた。これらの結晶面全体に電極を付けて実験を行
った。図6・12から図6・14にそれぞれS=0.2,0.7,’ n.4の誘電特性の圧
力依存性を示す。
図6・12のdisordered PIN(S=O.2)では、リラクサ特有の誘電分
散が見られピークもブロードである。圧力印加とともに誘電率のピV一
クは小さくなり、ピークの温度も低温側にシフトしていく。また、OGPa
と0.7GPaの誘電特性を比べると、明らかに誘電分散が抑えられてい
くことがわかる。前節までに扱ったPMNやPSNでは、誘電特性のみ
139
140
第6章 Pb(lni12Nb1!2)03の相転移に及ぼす圧力効果とドメイン観察
から誘電分散が抑えられていくかどうかはっきりしなかったことから、
disordered PINはPMNやPSNよりも圧力の影響を受けやすいことが
わかる。また、Voge1・Fulcherの式から活性化エネルギーを求めると
表6・1のようになり、圧力印加とともに活性化エネルギーが小さくな
る。
_鶏。Ω_墨漁難_
238 .焦123 _
表6・1.disordered PIN(S=O.2)の圧力印加時のEa、 Tf
図6・13のordered PIN(S=O.7)では、誘電分散は無く126℃で
鋭いピークを示し、圧力印加とともに誘電率のピークは小さくなり、
ピークの温度は高温側にシフトしていく。履歴曲線観測でダブルヒス
テリシスループが観測できたことから、ordered PIN(S=0.7)は反強
誘電体であり、圧力印加によるピーク温度の高温側へのシフトは
PbZrO3の圧力依存性と同じ現象であると言える。この2つの結果から、
PIN単結晶では強誘電体と反強誘電体の違いによってdTe/dPの符号
が変わり、経験則に則っていることが確認できる。
次にdisordered PINとpartially Ordered PINの境界と考えら
れているS=O.4のPINの誘電率の圧力依存性を調べた。図6・14に
disordered PIN(S=O.4)の誘電率の圧力依存性を示しているが、(a)
では誘電分散の変化を、(b)では各圧力における誘電特性を示している。
図6・14(a)から分かるように、常圧では誘電分散がありリラクサの振
る舞いをしているが、圧力を印加し0.4GPa以上になると誘電分散は
見られなくなる。また、図6・14(b)よりピークの温度は、常圧から
0.3GPaまではほとんど動いていないが、0.4GPa以上では高温側にシ
フトしていくことからdisordered PIN(S=O.4)は0.4GPa付近でリ
ラクサから反強誘電体に相転移したと考えられる。実際にこのことに
ついて、野村ら7)はX線解析によって調べており、図6・15に示すよ
うに常圧から0.4GPaまではpseudocubicでリラクサだが、0.4GPa付
近で単位格子の体積が急に減少し、orthorhombicの反強誘電相に相転
移することを報告している。この現象は先に述べた0.1PMN・O.9PZの
圧力依存性と似ており、リラクサ・反強誘電相、強誘電相・反強誘電相
140
第6章 Pb(In112Nb 1/2)03の相転移に及ぼす圧力効果とドメイン観察
o◎OOo
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櫓鱒8$
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50
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100
Temp er ature(℃)
図6・12.
disordered PIN(S=0.2)の誘電特性の圧力依存性
141
141
142
第6章 Pb(lni!2Nlb 112)03の相転移に及ぼす圧力効果とドメイン観察
550
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關圏國図
100 150
200
Temperature(°C)
図6−13.ordered PIN(S ・O.7)の誘電特性の圧力依存性
142
第6章 Pb(ln112Nb 1!2)03の相転移に及ぼす圧力効果とドメイン観察
250◎
了m・x
(a)
0:1kHz
口:10kHz
ムS100kHz
2000
N
1500
8
国
1000
鰍OGP鳶
O:O,2GPe
(b)
團:O.3GPε
0:0.4GPa
2000
㊥:o.50Pa
◇:O.6GP8
A:O,7GPa
L
w1500
1000
0.05
(c)
!㌔
!辱
0.04
轟(
㊨
⑩
Pt
O.03
ノ
厘o
o
脳
8
駆
e8
0.02
評・齢
りり
顎。
0。01
0
一50
0 50 100 150
200
Temperature(°C)
図6・14.disordered PIN(S=0.4)の誘電特性の圧力依存性
143
143
144
第6章 Pb(llni12Nb1!2)03の相転移に及ぼす圧力効果とドメイン観察
69.
Re!axor
歯顕
4.1
痘
響
〈
4.ose°
①
器
⊇68.5
>°
Disordered−type(1)
墨
9
⑳:Vogume
4・・略
[コ :a−aXls
)
〈〉 :b・−axls
△ :C…−ax暫S
0
0。2 0.4 0.6
O。8
Pressure(GPa)
図6・15.
disordered PIN(S=0.4)の単位格子の体積と
格子定数の圧力依存性7)
の違いはあるが、反強誘電相の要素を含む物質、つまり、ペロヴスカ
イト構造のBサイトイオンの秩序度がある程度そろっている物質では
圧力印加に伴い、いずれ反強誘電相が誘起されると考えられる。
㊧6・3−4.
Partially Ordered PINの微小領域の誘電特性への
圧力効果
6・3・2節ではPartially Ordered PINにおいて転移温度の異なる微
小領域が存在することを、また、6・3・3節では秩序度によって圧力依存
性が異なることを明らかにしたが、本節では転移温度の異なる微小領
144
第6章 Pb(ln1!2Nb 112)03の相転移に及ぼす圧力効果とドメイン観察
145
域及び結晶全体が圧力印加に伴い、どのような振る舞いをするのかを
調べる。6・3・2節で使用したサンプルを用いて実験する予定であったが、
微小領域への電極の取り外しの際、砕けてしまい使い物にならなくな
ってしまったので、別のサンプルで実験を行った。まず、温度分布を
知るために、前節とどうようにドメイン観察と転移温度の分布図の決
定を行った。図6・16と図6・17にそれぞれドメイン観1察と転移温度の
分布を示す。圧力印加による誘電率測定は結晶面全体と図6・17の(a)、
(b)の2つの微小領域で測定した。最初に結晶面全体の誘電特性の圧力
依存性を図6・18に示す。
図6・18では、誘電分散が見られなかったので代表として100kHz
のみを示している。常圧下での誘電率のピークは約80℃付近で現れ、
圧力を印加するとともに誘電率のピークは減少し、ピークの温度は高
温側ヘシフトしていく。この現象は反強誘電体であるPbZrO3と同様
である。また、ピー・…クが約80℃付近で見られることは、図6・16のド
メイン観察から70℃から90℃にかけて広い領域で消光していること
と一致している。次に図6・17の微小領域(a)、(b)での誘電特性の圧力依
存性を図6・19に示す。領域(a)では常圧下で鋭いピークが80℃付近に
見られ、ドメインの消光と一一致し、圧力を印加するとともに誘電率の
ピークは減少し、ピークの温度は高温側ヘシフトしていく。一方、領
域(b)では誘電率のピークがブロードであるが、これは電極を付けた領
域が100℃から160℃の温度領域になっており、それぞれのピークが
重なり合ってブロードになっていると考えられる。また、転移温度の
圧力依存性は領域(a)と比べ微小ではあるが、高温側にシフトしている。
いずれの実験結果からも転移温度は圧力印加とともに、高温側にシフ
トしていくことから、すべて反強誘電性を示すと考えられる。微小領
域(a)のdTc/dPはほぼ一定で約80[℃/GPa]であるが、微小領域(b)の
dTc/dPは一定ではなく、値も微小領域(a)に比べ小さいことがわかる。
このことは序論の図1・5で示したラットリング・モデルで説明できる。
転移温度の低い微小領域(a)では微小領域(b)より秩序度が低いため、結
晶構造に無駄な空間が多くあり(図1・5(b))、圧力印加に伴いその空間
が縮小して結晶構造が変化しやすく、転移温度の変化も大きくなる。
それに対し、転移温度の高い微小領域(b)では秩序度も高く、図1・5(a)
のようにほとんど無駄な空間が無い状態であるので、圧力を印加して
も微小領域(a)ほど簡単には体積変化を受けないため、転移温度の変化
も大きくならないと考えられる。また、図6・18の結晶面全体の圧力依
145
146
第6章 Pb(lny2Nb 1!2)03の相転移に及ぼす圧力効果とドメイン観察
存性では、dTe/dPが一定ではなく常圧から0.2GPaまで急に上がり、
0.2GPa以上では緩やかに上がっていく。この現象は、転移温度が低温
側でdTe/dPの変化の大きい微小領域(a)のような領域と、転移温度が
高温側でdTc/dPの変化の小さい微小領域(b)のような領域が重なり合
ったものと考えられ、6−3・2節で述べたとおり結晶面全体のブロードな
ピークは微小領域の温度分布が原因であり、圧力を印加しても同じこ
とが証明できたと考えられる。
図6・1のPINの転移温度と秩序度の相図より、結晶全体と領域(a)
はピークの温度が約80℃なので、秩序度はS=O.65となり、反強誘電
相一常誘電相の相転移を起こすことがわかる。また、領域(b)ではピー
クの温度が100℃から160℃なので、秩序度はS>0.7となり反強誘電
性を示す。本来、反強誘電性を示すかどうかを確かめるには、ダブル
ヒステリシスループを観測すればよいのだが、履歴曲線の観測をして
いる途中に試料が高電圧に耐え切れず、絶縁破壊をおこして壊れてし
まい、データを得ることができなかった。
ドメインの光の透過性を考えると、いくつかのPartially Ordered
PINのドメイン観察において、60℃以下で消光を示す試料は1つも存
在しなかった。つまり、60℃以下で相転移を起こす微小領域では強誘
電相であっても光を透過せず暗黒のままで、微小領域の大きさが可視
光線の波長より小さくなっていると考えられる。つまり、リラクサの
状態になっていると考えられる。しかし、図6−1のPINの転移温度と
秩序度の相図と比較すると、60℃では秩序度はS・・O.6となりリラクサ
の領域ではなく反強誘電相の領域になってしまう。ここで、あらため
て6・3・3節で調べた3種類の試料と図6・1のPINの転移温度と秩序度
の相図と比較する。Ordered PIN(S=0.7)の転移温度は約125度と
なり図6・1と一致するが、disordered PIN(S=02)と(S=0.4)の転
移温度はともに1kHzで約30℃、100kHzで約50℃であるが、図6・1
では測定周波数が1.6kHzでS=02の時60℃、S=O.4の時50℃となり、
一致しないことがわかる。よって、図6−1秩序度の高い領域(Ordered
PIN)では一致しているが、秩序度の低い領域つまりリラクサと考えら
れる領域は修正が必要であると考えられる。また、Partially Ordered
PINでは転移温度が分布していることから、図6・1での0.4<S<0.7の
領域の転移温度は平均値であり、図6・1の相線からずれる可能性も有
りうる。本研究では秩序度の異なるPINを詳しく調べたわけではない
ので、はっきりと転移温度60℃がリラクサと反強誘電体の境目である
146
第 6章 PbCn12Nb1/2b03の 相転移 に及 ぼす圧力効果 と ドメイ ン観察
50℃
60℃
70℃
90℃
160℃
120て 〕
図
9‐
16.Partially Ordered PINの ドメ イ ンの 温 度 変 化
147
147
148
第6章 Pb(ln1/2Nb 112)03の相転移に及ぼす圧力効果とドメイン観察
(b)
(a)
図6−17.転移温度の分布図
2000
ぽ
1000
0.02
り
g O.Ol
50 100 150 200
temperatureOC)
図6・18.結晶面全体の誘電特性の圧力依存性
148
第6章 Pb(ln1/2Nb i!2)03の相転移に及ぼす圧力効果とドメイン観察
149
とは断言できないが、ドメイン観察から転移温度60℃はリラクサと反
強誘電体の境目になる可能性があると考えられる。
領域(a)
1
領域(b)
1
10朧
10瞳
o
o
o
o o
O 口
♂
O ロ
古
o △
W3、
o △
’
古
@ロ ムo ム ロ
8
◇
○:OG[牡
α
α15
禔F0、2(蛮
口
’
△:α4αh
り§
◇:α6G磁
り α1壽
臼α01
卜
口
晶’
α
o
醜
・晶
o
100
150
㎜
100
150
temperatmeeq 麟q
図6・19. 微小領域(a)、(b)での誘電特性の圧力依存性
149
20D
150
第6章 Pb(lni12Nb112)03の相転移に及ぼす圧力効果とドメイン観察
§6−4. 結論
(1)PIN単結晶を作製し、熱処理によってペロヴスカイト構造のBサ
イトイオンの秩序度が異なるOrdered PIN、 Partially Ordered
PIN、 Disordered PINの3種類を作製した。
(2)直交ニコル下での偏光顕微鏡観1察により、3種類のPINのドメイ
ン観察を行った。リラクサであるDisordered PINでは光は全く透
過せず、反強誘電体であるOrdered PINでは短時間の間に消光す
る様子が見られた。両者の中間にあたるPartially Ordered PINで
は広い温度領域において消光していき、結晶内で転移温度が分布し
ている様子が見られた。
(3)Partially Ordered PINの消光する温度が違う微小領域の誘電特
性を測定することにより、実際に転移温度が分布していることが確
認され、Partially Ordered PINの誘電率のブロー一ドなピs・・・・…‘クは結
晶内の転移温度の分布に起因していることがわかった。
(4)秩序度の違うPIN単結晶の結晶面全体の誘電率の圧力依存性を
測定した。S=0.7のとき反強誘電性を示しdTc/dPは正となり、S=0.2
のときリラクサとなりdTe/dPは負で、誘電分散は抑えられていく。
また、S=0.4のとき0。4GPa付近でリラクサから反強誘電相に相転
移することがわかった。PIN単結晶は秩序度によりdTe/dPが変化
する物質であることを確認した。
(5)Partially Ordered・PINの結晶面全体及び微小領域の誘電特性の
圧力依存性を調べると、いずれの場合も転移温度が高温側にシフト
して、反強電性を示すことがわかった。また、Partially Ordered PIN
で光を透過させる領域は全て反強電性を示し、光を透過する領域で
転移温度が60℃付近よりも低温の領域が観測されなかったことか
ら、転移温度60℃がリラクサと反強誘電相の境界であると考えら
れる。
150
第6章 Pb(ln112Nb 112)03の相転移に及ぼす圧力効果とドメイン観察
151
参考文献
(1)
A.A. Bokov,1. P. Raevskii,0.1. Prokopalp, E. G. Fesenko and V. G.
Smatrakov :Ferroelectrics 54(1984)241.
(2)
K.Uchino:The Centennial Memorial lssue of the Ceramic Society of
Japan 99(1991)829.
(3)
0.1.Prokopalp,1. P. Raevskii, M. A. Maltitoskiya, Yu. M. Popov, A.
A.Bokov and V. G. Smatrakov :Ferroelectrics 45(1982)89.
(4)
N.Yasuda,且. Ohwa, J. Oohashi, K. Nomura,且. Terauchi, M. Iwata
and Y. Ishibashi:J. Pyhs. Soc. Jpn.66(1997)1920.
(5)
N.Yasuda, H. Ohwa,」. Oohashi, K. Nomura,且. Terauchi, M. Iwata
and Y. Ishibashi:」. Korean. Soc. Jpn.32(1998)S996.
(6)
C.A. Radal1, D. J. Barber, P. Groves and R. W. Whatmore:」,
Material Science 23(1988)3678’.
(7)
K.Nomura, T. Shingai, N. Yasuda, H. Ohwa and且. Terauchi:」.
Pyhs. Soc. Jpn。68(1999)866.
151
152
第7章 リラクサの誘電緩和現象と活性化エネルギーに関する考察
第7章 リラクサの誘電緩和現象と活性化エネ
ルギーに関する考察
§7・1.緒言
リラクサの特徴は、名前の由来でもある誘電緩和現象であり、周
波数が増加するにつれ強誘電相領域での誘電率が減少し、転移温度が
高温側にシフトする。この現象は、BaTio3のような同じペロヴスカイ
ト構造をもつ通常の強誘電体の誘電特性とは明らかに異なる。この誘
電緩和現象をMulvihillらはPb(zn1!3Nb2!3)03単結晶を用いて以下の
ように説明している1)。外部電場を印加しないときと、印加したとき
のPZNの誘電率と誘電損失の温度依存性と、ドメインを図7・1に示す。
o.5
6go璽
7,.勅極
5墓o’
逼te°
(a)外部電場無
◎繭
鯉川‘
鍔賦ゆ
1亀0・
肛匹ぴ
le ゆ ゆ ゆ Ioo ココめ ゆ ゆ 温度[℃]
お 電界ゼロ,25〔℃』
‘16‘
5量9°
4艮9‘
(b)外部電場有
饗川゜
纏
t論’
●06
竃1伊
コリ の の ゆ 1ou tカ ゆ ua ゆ Mゆ
温度[℃]
電界十6,3「kV/cm l(DC)25℃
図7・1.PZNの誘電特性の温度依存性とドメイン
152
第7章 リラクサの誘電緩和現象と活性化エネルギーに関する考察
153
(a)の場合、巨視的なドメインは見られず、転移温度以下ではリラクサ
特有の大きな誘電緩和と誘電損失が観測される。ところが、(b)のよう
に分極されて巨視的なドメインが現れると、100℃以下において誘電分
散が無くなり、誘電損失が非常に小さくなる。また、温度を上昇させ
ると100℃付近で巨視的なドメインが消失し、誘電分散が現れ、誘電
損失が大きくなる。以上のことから、誘電緩和は結晶中に生じた微視
的ドメインに起因すると考えられる。
複素誘電率の周波数依存性を表す式としてデバイの式が良く知ら
れており,角周波数ωのときの複素誘電率ε(ω)は次式で表される。
ε(0)一一ε(◎○)
ε(tO)=s(。o)+
(7・1)
1+itOτ
ただし、τは緩和時間である。ここで複素誘電率ε(ω)を
s(ω)=ε’@)一・一 is”(ω)とおくと実部、虚部はそれぞれ
s(0)一ε(。o)
ε1 ia))=8(。○)+
1+ω2τ2
stt itO)一ε o曾謂)ωτ
(7・2)
となり、ωを消去すると、Cole・Coleの円弧則
{[ 1e’(の)一ε(。。)]一一一[s(0 2)可+gft(ω瑠(・)一∼可(7・3)
が得られる。(7・1)式は1つの緩和時間による分散(単分散系)を表し
ており、極性分子を含む希薄溶液などでよく成立する。また、緩和時
間が1つではなく分布している場合(多分散系)の誘電分散は次式で
表される。
8(0)一ε(oo)
ε(の)=
1+(∫ωτ)β
ここで、β<1であり、β・=1のとき単分散になる。
153
(7・4)
154
第7章 リラクサの誘電緩和現象と活性化エネルギーに関する考察
また、序章で述べたように最近リラクサに微小なOrdered
Domainが存在することがわかり、磁性体のスピングラスに類似して
ことからVo ge1・Fulcherの式を用いて活性化エネルギーを算出し、リ
ラクサの誘電緩和を議論することが行われている。2°6)本研究でも誘
電緩和を示す試料について活性化エネルギーを算出しているので、誘
電緩和との関係を考察する。
§7・2.試料の違いによる考察
本研究で実験を行ったリラクサ強誘電体試料はPb(Mg1!3Nb213)03
(PMN)、Pb(Sc1!2Nb1/2)03(PSN)、Pb(Yb1!2Nb1/2)03(PYN)、
Pb(In1!2Nb1/2)03(PIN)の4種類であるが、PYNは反強誘電体なので
除外し、3種類の常圧での活性化エネルギー刃。と凍結温度Tfを表7・1
に示す。
PMN
PSN
PIN
E、[eV]
0,028
0,057
0」38
Tf[K]
237
300
240
表7・1.各試料のEaとTf
3種類の試料の中で、PMNの活性化エネルギーが比較的小さな値
を示すのに対し、PSN, PINは順に大きくなっている。これはPMNの
BサイトイオンであるMgイオンとNbイオンが1:2で入るのに対し、
PSN, PINのBサイトイオンは1:1であり、PMNのほうがOrdered
Domainを形成しにくく成長しにくいため、相転移をする際に少ない
活性化エネルSGN 一一しか必要としないためと考えられる。また、 PSNよ
りもPINの活性化エネルギーが大きいのは、セラミクスと単結晶の違
いがあるかもしれないが、図6・1のPINの転移温度と秩序度の相図か
らわかるように、リラクサの振舞いをするdisordered PINの秩序度は
必ずしも0にはならず、比較的大きな秩序度を示すことからPSNより
もOrdered Domainが大きくなっており、活性化エネルギーが大きく
なったと考えられる。試料間での誘電緩和を直接比較する方法はない
ので、ここでは活性化エネルギーと誘電緩和を直接関連付けることに
154
第7章 リラクサの誘電緩和現象と活性化エネルギーに関する考察
155
はいかないが、Ordered Domainがより小さい方がリラクサ性が強い
とするならば、誘電緩和が大きいほど活性化エネルギーは小さくなる
と思われる。
§7・3. 固溶体の濃度変化による考察
前節では誘電緩和を直接比較することができなかったので、この
節では成分が同じである固溶体の濃度変化により誘電緩和を比較する。
あらためて、(1・x)PMN・xPZの誘電特性と活性化エネルギーについて
図7・1に示す。
0
100 200
Tもmr繊ure(℃)
組成 Tf[K]
x=0(PMN) 237 哨橘
Ea[eV]
0,028
崩 Aw鐸
O.3 340
噛 0.039
ツ:耳‘… ㎜r…「ぎラ耳恥…㎜………………酬
@0.041
図7−1.(1・x)PMN−xPZの誘電特性とE。,Tf
図からわかるように、x=O(PMN)から0.4になるにつれ徐々に誘電緩和
が抑えられ、x=O.5において消失してしまう。それに伴い、活性化エ
ネルギーは大きくなっていく。これはPZの比率が大きくなるにつれ
リラクサから通常の強誘電体に近づいていくためであり、x=0のとき
155
156
第7章 リラクサの誘電緩和現象と活性化エネルギーに関する考察
は微小であったOrdered DomainがPZの比率の増加に伴い徐々に成
長して大きくなったためだと考えられる。もし、x=O.5付近の単結晶
が作製できればドメインが観察できると思われる。
以上のことから、誘電緩和現象が大きいほど活性化エネルギーが
小さくなると考えられる。また、転移温度がPZの濃度とともに上昇
していくことと活性化エネルギV−一・・は関連すると考えられる。
(1・x)PMN・xPZではPZの比率が増加するにつれ誘電緩和が消失
していく過程を考察したが、次に(1・x)PYN・xPTではPTの比率を増加
させて誘電緩和が発生する場合を考える。(1・x)PYN・xPTの誘電特性
と活性化エネルギーについて図7・2に示す。
(1−x)PYN−xPT
600
400
‘
200
お gl== :一一.,,,,E :
100 200 300
TemperatUreec)
組成1
鴇
Ea[eV]
0.1
0コ59
0.12
0.11
ハ 軌
商断劇 o網 ゆ
O.2 M ” “
:、
奎
Tf[K]
360
310
280師 阜 噸
町 耶“購 価四 忌嘱賢 、
甑 叩 ” 湘 吻 以
“ 冒岡喚 崩 心
290 坦 ”凡甑 A 6
@0.067M 辰 叫 叫u “”昂尋即’…睡 鳳a‘M
H 辱 凧 ”収 」 駄 遭.”い…盒 9 ・
” ・趣 ● … ■ 榊
O.25
十
0,078
O」5
” 臨
0,072
葦
305
@尋 鱒 へ … ゑ へ
図7−2.(1・x)PYN・xPTの誘電特性とE。,Tf
グラフからわかるようにx=0から0.07までは反強誘電体なので誘電緩
和は現れないが、x=O.1から徐々に誘電緩和が大きくなっていく。そ
156
第7章 リラクサの誘電緩和現象と活性化エネルギーに関する考察
157
れに伴い活性化エネルギ・一は小さくなっていき、x=0.2付近で最小に
なることがわかる。反強誘電体でBサイトの秩序度が大きかったPYN
にPTが入ることにより、秩序度が小さくなりOrdered Domainも小
さくなったためであると考えられる。しかし、グラフをよく見ると
x=O.2よりも0.25のほうが誘電緩和が大きくなっているにもかかわら
ず活性化エネルギーは小さくならずに大きくなっている。これは図5・6
からわかるように、PMN・PZよりも比率の低いx=0.4で誘電緩和が消
失し、x=0.25でOrdered Domainが大きく成長しているため、活性化
エネルギV…一・・が大きくなると考えられる。いずれにしても以上の結果か
ら誘電緩和が大きくリラクサ性が強いほど、活性化エネルギーは小さ
くなる傾向であると言える。
§7−4.固溶体の圧力変化による考察
各章で扱った誘電緩和がある試料の活性化エネルギーは、圧力印
加とともに減少していく。前節までの考えによると、圧力印加ととも
に誘電緩和が大きくなることになる。本研究では0.6GPaまでの圧力
しか印加できなかったためか、いずれの試料でも誘電緩和が大きくな
ることは確認できなかった。そこで、文献のデータと本研究で算出し
た活性化エネルギーを考える。まず、PMNの誘電特性7)と活性化エネ
ルギ・・・・…について、図7・3に示す。
㌃
圧力[GPa]
Ot①
Tf[K】 E、[e∼0
0“ ”
” 叩 “ o 腸
O.2
“
物 晦鴇 哩胸 門 刷n
@ 235
いい
@ 0.4耶 鳥軋四… ” “
0,018
貼 随
0.6
Q26
な
:⑳
100 dSO aOO 250
300 路O ao
了㈹
図7−3.PMNの誘電特性7)とTf, E.
157
0028
O022
顧四 御 搾
叫
O,015
158
第7章 リラクサの誘電緩和現象と活性化エネルギL−一…に関する考察
グラフはPMNの常圧と0.8GPaの誘電特性であるが、圧力印加とと
もに誘電緩和が大きくなってはいない。また、活性化エネルギーの減
少もそれほど大きくはない。圧力印加により転移温度が下がったため
活性化エネルギーも減少したでけであると考えられる。さらなる圧力
を印加すれば誘電緩和に変化が現れる可能性もあるが、PMNの誘電緩
和に対して圧力はあまり影響を及ぼさないと思われる。
次にPSNの誘電特性8)と活性化エネルギーについて、図7−4に示
す。
7
15
10
碧
圧力[GPa]
Tf[K]
0
300
0
押295
0.2
甲 晒
15
,窯ミミ。
鴫 鋼 卵” 植
り 隅
Q93
0.6
291
惚!’°’糠
10 ノつ:越
頓 融 ”M
O.4
i
E、[eV]
0,057
0,045
1
r”
蝋“
榊
O,039
0033
〃!
調 f(・
卑
5
0
300 325 350 375 400
Temperature(K)
図7・4.PSNの誘電特性8)とTf, Ea
グラフはdisordered PSN単結晶の誘電特性であるので、本研究
で扱ったセラミクスとは多少条件が異なるが、圧力印加とともにリラ
クサ領域が広がり誘電緩和が大きくなっていることがわかる。しかし
ながら、セラミクスの活性化エネルギーの減少量はそれほど大きくな
く、また第3章で述べたように誘電特性に菱面体晶の強誘電相が見ら
れることから見かけ上誘電緩和が大きくなっているように見えるかも
しれない。いずれにしても、実験結果からPSNにおいては圧力印加と
ともに活性化エネルギーが減少しリラクサ性が強くなり、前節までの
考えと一致する。
158
第7章 リラクサの誘電緩和現象と活性化エネルギー一に関する考察
159
§7−5.結論
(1) PMN, PSN, PINの活性化エネルギーを比較することにより、
Bサイトイオンが1:1よりも1:2のリラクサのほうがOrdered
Domainが微小で、活性化エネルギーが小さくなると考えられる。
(2) PMN−PZ及びPYN・PTの活性化エネルギーの算出から、誘電
緩和が大きいほど、つまりリラクサ性が強いほど活性化エネル
ギーが小さくなることがわかった。
(3)
実験した試料において活性化エネルギーは圧力印加とともに
全て減少するが、誘電緩和の変化はあまり見られなかった。PSN
では誘電緩和が大きくなって活性化エネルギーが減少したよう
に考えられるが、単に転移温度の低下のため活性化エネルギー
が減少した可能性もある。
159
160
第7章 リラクサの誘電緩和現象と活性化エネルギーに関する考察
参考文献
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160
第7章総括
161
第7章 総括
本研究で扱った鉛系ぺmヴスカイト型強誘電体であるリラクサは、
Bサイトイオンを変えることにより多種多様な物質が作り出され、幅
広い研究がなされている。また、リラクサは強誘電体であるPbTiO3
と固溶体を作り、濃度相境界付近では今までよくキャパシタや圧電材
料として利用されてきたチタン酸バリウム(BaTio3)やチタン酸ジルコ
ン酸鉛(PZT)よりも性能の良い物質もあり、取って代わられようとして
いる。しかしながら、リラクサの特徴である誘電分散のある散漫相転
移の詳しい機構はまだ解明されていない。本研究では、ペロヴスカイ
ト構造のBサイトイオンの規則配列性が弱いリラクサと規則配列性が
強いPbZrO3の固溶体と、逆にリラクサで規則配列性が強く反強誘電
性を示す物質と強誘電体であるPbTiO3の固溶体の圧力依存性を調べ
ることにより、圧力効果がリラクサの規則配列性にどのような影響を
与えるのか調べることを目的として実験を行った。以下に第3章から
第6章で得られた結果をまとめ、総括する。
(1)濃度相図について
Pb(Mg1!3Nb2/3)03 一一 PbZrO3固溶体では、 x=O.95の誘電率でピー一
クのほかに肩があらわれることから、濃度相図のx== O.95付近に
Pseudocubic(強誘電相)とOrthorhombic(反強誘電相)の濃度相境界
が存在することがわかった。さらに誘電率のピークがx・=0.5で最大に
なることと、リラクサ特有の誘電分散がx・=・O.5以上で消えることから、
リラクサと通常の強誘電相の濃度相境界がx=・ O.【5付近に存在すると
考えられる。
Pb(Sc1!2Nb112)03−PbZrO3固溶体では、 x=・O.9,0.95の誘電率で
ピークのほかに肩があらわれることから、濃度相図のx=O.9付近に強
誘電相(Pseudocubic)と反強誘電相(Orthorhombic)の濃度相境界が
存在することがわかった。誘電率のピークはx= O.7で最大となるが、
リラクサ特有の誘電分散はx=0,0.1のみでしか見られないことから、
リラクサと通常の強誘電相の濃度相境界はPMN−PZの直線状の相境
161
162
第7章総括
界とは違ったものになった。
Pb(Yb1!2Nb 1!2)03−PbTio3固溶体では、 x・= o.5付近にリラクサ
(PseudoCubic)と通常の強誘電相(Tetragona1)の濃度相境界が存
在し、さらにx== O.1付近に反強誘電相(Orthorhombic)とリラクサ
(PseudoCubic)の濃度相境界が存在することがわかった。
(2)相転移への圧力効果
Pb(Mg1!3Nb2!3)03 一一 PbZrO3固溶体について、 x・O,0.3,0.5,0.7
は、いずれも圧力印加とともに、誘電率のピークは減少し、転移温度
は低温側にシフトしていき、変位型強誘電体の圧力依存性と一致する。
また、x=O,0.3の誘電分散は0.6GPaまでの圧力を印加しても消える
ことはなかった。x・= O.9では、0.4GPaまではx=・O∼0.7と同様に誘
電率のピークは減少し、転移温度は低温側にシフトしていったが、
0.4GPa以上では転移温度は高温側にシフトし、 P−Eヒステリシスル
vの観察より強誘電相から反強誘電相に相転移することがわかった。
x=0.95では、0.2GPaまでは誘電率のピークは減少し、転移温度は低
温側にシフトしていったが、0.2GPa以上では転移温度は高温側にシフ
トした。また、誘電率の肩は0.2GPaまでは急に高温側ヘシフトし、
・一一・・“
0.2GPa以上では緩やかに高温側にシフトした。
Pb(Sc112Nb1!2)03−PbZrO3固溶体について、x==O,0.2,0.4,0.7は、
いずれも圧力印加とともに、誘電率のピークは減少し、転移温度は低
温側にシフトしていき、変位型強誘電体の圧力依存性と一致する。ま
た、PSN(x=o)の誘電分散は0.6GPaまでの圧力を印加しても消える
ことはなかった。x=O.9,0.95では、0.2GPaまでは誘電率のピークは
減少し、転移温度は低温側にシフトしていったが、0.2GPa以上では転
移温度は高温側にシフトした。また、誘電率の肩は0.2GPaまでは急
に高温側ヘシフトし、02GPa以上では緩やかに高温側にシフトした。
PMN−PZではx=0.95で誘電率の肩が現れたのに対し、PSN−PZで
はx=0.9で現れ、わずかではあるがPMN−PZよりも反強誘電相の
領域が大きく、PSN−PZはPMN−PZに比べてBサイトイオンが秩
序状態になりやすいと考えられる。
Pb(Yb1!2Nbl/2)03−PbTio3固溶体について、 x・o.05,0.075は、
いずれも誘電分散は見られず、圧力印加とともに誘電率のピークは減
162
第7章総括
163
少し、転移温度は高温側にシフトしていき、反強誘電体の圧力依存性
と一致する。x… O.1,0.12では、圧力印加とともに誘電率のピークは
減少し、O.2GPa以上では転移温度は高温側にシフトする。また、常圧
で見られた誘電分散も圧力印加とともに見られなくなることから、強
誘電相から反強誘電相に相転移することがわかった。x==O.15,0.2,
0.25では、はっきりとした誘電分散が見られ、誘電率のピ・一一一一クは減少
し、転移温度は低温側にシフトしていき、リラクサであることが確認
できた。
(3)PIN単結晶について
直交ニコル下での偏光顕微鏡観察により、リラクサである
Disordered PINでは光は全く透過せず、反強誘電体であるOrdered
PINでは短時間の間に消光する様子が見られた。両者の中間にあたる
Partially Ordered PINでは広い温度領域において消光していき、温度
が違う微小領域の誘電特性を測定することにより、実際に転移温度が
分布していることが確認され、Partially Ordered PINの誘電率のプロ
ードなピークは結晶内の転移温度の分布に起因していることがわかっ
た。秩序度の違うPIN単結晶の結晶面全体の誘電率の圧力依存性を測
定すると、S=0.7のとき反強誘電性を示しdTe/dPは正となり、S=0.2
のときリラクサとなりdTe/dPは負で、誘電分散は抑えられていく。ま
た、S=0.4のとき0.4GPa付近でリラクサから反強誘電相に相転移す
ることがわかった。PIN単結晶は秩序度によりdTe/dPが変化する物
質であることを確認した。また、微小領域の誘電特性の圧力依存性を
調べると、いずれの場合も転移温康が高温側にシフトして、反強電性
を示すことがわかった。さらに、Partially Ordered PINで光を透過さ
せる領域は全て反強電性を示し、転移温度60℃がリラクサと反強誘電
相の境界であると考えられる。
(4)誘電緩和と活性化エネルギs・一一一・
PMN, PSN, PINの活性化エネルギーを比較することにより、
Bサイトイオンが1:1よりも1:2のリラクサのほうがOrdered Domain
163
164
第7章総括
が微小で、活性化エネルギーが小さくなると考えられる。PMN・PZ及
びPYN・PTの活性化エネルギv・・…の算出から、誘電緩和が大きいほど、
つまりリラクサ性が強いほど活性化エネルギーが小さくなることがわ
かった。本研究で扱ったセラミック試料において、誘電緩和が見られ
るものに圧力を0.6GPaまで印加すると誘電緩和はあまり変化しない
が、活性化エネルギーはいずれも圧力印加とともに減少する。また、
活性化エネルギーの濃度変化及び圧力変化は、それぞれの転移温度の
濃度依存性及び圧力依存性の振る舞いとほぼ一致すると考えられる。
164
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関連する論文
第3章
1. “Pressure effect of dielectric property in solid solutions
(1・x)Pb(Mg1!3Nb2!3)03−xPbZrO3”;H. Ohwa, N. Yasuda, M. Iwata, H.
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第4章
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“Dielectric properties of(1−x)Pb(Sc1/2Ta112)03・xPbZrO3(0<x<1)solid
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2.
.“
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第5章
1.
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2.
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morphotropic phase boundary”;N. Yasuda, H. Inaba,正【. Ohwa, M.
165
166
Iwata, H. Terauchi, Y. Ishibashi, App1. PhyS. Lett.83,1409−1410,
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第6章
1.
“Observation of the distribution of the transition temperature in
Pb(In1!2Nb1!2)03”;H. Ohwa, M. Iwata, H. Orihara, N. Yasuda and Y.
Ishibashi;」. Phys. Soc. Jpn.,69,1533−1537(2000).
2.
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3.
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J.Ohhashi, K. Nomura, H. Terauchi, M. Iwata, Y. Ishibashi;」.
Korean Phys. Soc.;32, S996・S999(1998).
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antiferroelectric behavior in disordered Pb(In1!2Nb1!2)03”; N.
Yasuda,且. Ohwa, J. Ohhashi, K. Nomura, H. Terauchi, M. Iwata, Y.
Ishibashi;J. Phys. Soc. Jpn.,66,1920−1923(1997).
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謝辞
本研究は静岡大学大学院理工学研究科・鈴木久男教授の御指導の
もとに遂行されたものであり、終始懇篤なる御教示と御鞭捷を賜りま
したこと、ここに深甚なる謝意を表します。
学生時代の恩師であり、論文世話教官として御教示と御鞭捷を賜
りました静岡大学大学院理工学研究科・石舘健男教授に深く感謝いた
します。
本研究の全過程を通じ、御指導と御鞭捷を賜りました岐阜大学工
学部・安田直彦教授に深く感謝いたします。
ドメイン観察や光物性の実験をさせていただき、有益な御指導、
御討論を賜った名古屋大学工学部の石橋善弘教授(現、愛知淑徳大学)、
折原宏助教授(現、北海道大学、教授)、岩田真助手(現、名古屋工業
大学、准教授)に深く感謝いたします。
実験、討論等に御協力いただきました岐阜大学工学部学生諸君に
感謝いたします。
2007年 6月
大和英弘
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