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可変入口案内翼(VIGV) 付コンプレッサ

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可変入口案内翼(VIGV) 付コンプレッサ
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特集 可変容量・高過給ターボ
特
集
研究報告
岩切雄二
Centrifugal Compressor with Variable Inlet Guide Vanes
Yuji Iwakiri
要 旨
自動車用小型ターボチャージャを対象に,可変
た。また,ベースのコンプレッサでは高圧力比域
入口案内翼 ( Variable Inlet Guide Vane,VIGV ) に
において旋回失速を原因とする騒音を伴う空気振
よる入口予旋回流れがコンプレッサ性能に及ぼす
動が発生するが,予旋回を与えることによりその
影響を,実験と3次元計算流体力学 ( Computational
発生を回避できた。
Fluid Dynamics,CFD ) 解析により明らかにした。
インペラの高効率化技術として,自由曲面翼イ
実験に用いたVIGVは軸流式のもので,軸方向か
ンペラについてもCFDおよび実験による検討を行
らのVIGV設定角は0,12,24,36,48,60degの
い,CFDを活用した高効率自由曲面翼インペラの
6条件である。入口予旋回を与えることにより少,
設計法を確立した。CFDにより翼負荷が均等化す
中流量域の広い範囲でコンプレッサ効率が向上し
るインペラ翼形状を決定することで,従来設計の
た。サージ流量はVIGV設定角の増加に伴い減少
直線線素翼と比較して約5.5point効率が高いコン
し,設定角0degと比較して最大で14%以上低減し
プレッサの開発に成功した。
キーワード
ターボチャージャ,遠心圧縮機,可変入口案内翼,予旋回,羽根車,計算流体力学
Abstract
The effects of pre-whirl flow generated by variable
guide vanes (VIGVs) on the performance of a small
centrifugal compressor has been investigated by
experiments and three-dimensional CFD. The
compressor efficiency and surge limit were examined
experimentally. Axial-type VIGVs were employed in
this study. The VIGV setting angles were 0, 12, 24,
36, 48 and 60degrees from the axial direction. The
compressor efficiency was improved over a wide flow
range especially under a high pressure ratio. The surge
flow rate was reduced according to the increase in the
VIGV setting angle. The maximum reduction rate of
the surge flow rate was 14% compared to that without
pre-whirl flow. By using VIGVs, the rotating stall
Keywords
accompanied by noise which usually occurs under a
high pressure ratio and far from the surge was
removed. Moreover, the design technology for a
convex blade impeller was examined which consists of
convex wingspans toward the rotational direction. The
convex impeller has flexibility of changing the
intermediate blade angle between the hub and the
shroud independently. The convex impeller was
designed to have a gradual change in blade-load and
have mostly equal distributions between the full blades
and splitter blades by utilizing a three-dimensional
CFD. Compared with the straight blade impeller, a
compressor with 5.5points higher efficiency has been
developed.
Turbocharger, Centrifugal compressor, Variable inlet guide vane, Pre-whirl, Impeller, CFD
豊田中央研究所 R&D レビュー Vol. 35 No. 3 ( 2000. 9 )
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特
集
1.はじめに
自動車用ターボチャージャのコンプレッサに
れる。断面形状は翼形で,半径方向には一定のピ
ッチ・コード比をもつ。VIGV枚数は6,インペラ
翼枚数は12 ( 半翼付 ) である。実験はVIGV設定
は,エンジンの燃費向上,加速性能の向上および
角 ( 軸方向に対する角度 ) を0,12,24,36,48,
エミッション低減のため,低速域で高い過給圧が
60degの6種の条件で実施した。
得られるとともに広い流量範囲とワイドレンジの
効率特性が要求される。広い流量範囲にわたるコ
ンプレッサ効率の向上に有効なデバイスとして,
2.1 コンプレッサ効率
Fig. 3にVIGV設定角24degでのコンプレッサ特
可変入口案内翼 ( 以降VIGV ) がガスタービン用
性を,予旋回無し ( VIGV設定角0deg ) のものと
圧縮機等で用いられているが,小型ターボチャー
比較して示す。回転数,空気流量ともに最大値
ジャに用いられた例はまれである。本研究では軸
N*,Q*で無次元化している。VIGV設定角24deg
流式のVIGVを設置したターボチャージャを試作
では少,中流量域で効率が最大約 4point 向上し
し,実験と3次元計算流体力学 ( 以降CFD ) 解析
ている (at N/N*=1.0 )。また,VIGV設定角0deg
を行うことでVIGVがコンプレッサ性能およびイ
では高圧力比,大流量域で騒音を伴う空気振動
ンペラ翼間流れに及ぼす影響を明らかにした。ま
が発生する不安定領域がある ( Fig. 3 網掛け領
た,インペラの高効率化技術として,翼面を構成
域)。これはインペラの旋回失速が原因であり,
する線素を従来の直線から回転方向に凸の曲線と
作動範囲を広くとる必要があるターボチャージ
した,自由曲面翼インペラについても検討を行っ
ャ用のコンプレッサではしばしば発生する現象
た。
で,同時に効率の低下を伴う。VIGV 設定角
2.可変入口案内翼 ( VIGV ) の効果
VIGVには,空気にインペラ回転方向の予旋回
24degではこの空気振動が発生しない。チョーク
流量の減少量は最高回転数で約6%である。
Fig. 4に圧力比一定条件でのVIGV設定角と効率
を与えることでインペラ入口相対Mach数を低減
するとともに入口迎え角を小さくする効果がある
(Fig. 1)。Fig. 2に,供試した軸流式VIGV付コン
プレッサの構造とCFD解析領域を示す。VIGVは
インペラ前縁から入口径と同じ34㎜上流に設置さ
Fig. 1
Velocity triangle at impeller inlet.
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Fig. 2
Structure and calculation domain of
compressor with VIGVs.
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特性の関係を示す。圧力比 1.5 では VIGV 設定角
大きくなる高圧力比域ほどVIGVによるMach数低
0degに対する効率の向上はわずかであるが,圧力
減効果が大きいためである。
比2.0および2.5では少流量域から中流量域の広い
実験で比較的広い流量範囲にわたり効率が向上
範囲でそれぞれ最大1.5pointおよび3point向上して
した,VIGV設定角24degと設定角0degについて
いる。特に少流量域の効率向上はエンジンの加速
CFD解析を実施した。計算は,回転数N/N* = 0.8
性能向上に効果的である。高圧力比側で効率向上
一 定とし,それぞれ 5 つの流量条件で行った。
しろが大きいのは,インペラ入口相対Mach数が
Fig. 5 に VIGV 設定角 24deg の計算格子を示す。
周期境界条件を用いておりスクロールは計算領
域に含まない。また,圧縮性および粘性は考慮
しているが,VIGV とインペラとの干渉による
非定常性は考慮していない。
Fig. 6に流量Q/Q* = 0.66におけるVIGV直後の圧力
および旋回角分布を示す。VIGV設定角24degでは
Hubに近づくほど静圧が低下しているが,全圧分
布は Hub 付近を除いて同程度であり,設定角
24degでのVIGVによる圧損は0degと同程度であ
る。旋回角は壁面付近で大きく,それ以外の領域
では約22degでほぼ一定である。この予旋回によ
り50%Hub-Shroud間距離の位置でインペラ入口迎
え角が18degから12degへ減少する。壁面付近で旋
回角が大きくなるのは,壁面摩擦による減速が速
度の大きい軸方向速度でより顕著なことによる。
Fig. 7はインペラ入口および出口近傍での相対
Mach数分布を示している。VIGV設定角24degで
Fig. 3
Effects of VIGV setting angle on compressor
characteristics.
Fig. 4
は0degと比較して,入口最大相対Mach数が1.61
から 1.42 へ約 12%低下しており,出口では Hub-
Relationship between efficiency and VIGV setting
angle at constant pressure ratio.
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特
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特
集
Shroud間の速度差が設定角24degの場合に比較的
どサージ流量が減少する傾向があるといえる。
小さい。入口迎え角の減少に加えて,これらの効
果により効率が向上しているといえる。
Fig. 8にCFDで予測した効率特性を実験結果と
比較して示す。CFDではスクロールの圧損が含ま
3.自由曲面翼インペラの開発
Fig. 10に自由曲面翼インペラの外観図を一般的
れないため効率の絶対値が実験結果より高いが,
な直線線素翼インペラとともに示す。直線線素翼
予旋回を付与した場合の効率が少流量域で向上
ではHub,Shroudにおける翼角分布を決めるとそ
し,大流量域で低下する様子が実験結果と一致し
ている。少流量域の効率差および大流量域での効
率の逆転する位置が実験とCFD解析で少し異なる
のはスクロールの圧損が原因である。
2.2 サージ特性
Fig. 9はVIGV設定角0degを基準としたサージ流
量減少率を,VIGV設定角に対してプロットした
ものである。圧力比1.5のデータに特異点がある
が,圧力比によらずVIGV設定角を大きくするほ
Fig. 5
Computational grid.
(VIGV setting angle = 24deg)
Fig. 7
Fig. 6
Mass averaged pre-whirl angle and
pressure distributions near VIGV exit.
Relative Mach number distributions near impeller inlet and exit.
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の間の形状に自由度がないが,自由曲面翼にする
翼負荷分布を示す。縦軸の翼負荷は圧力面と負圧
ことでHub-Shroud間の翼角を最適化できる。開発
面との静圧差を大気圧で無次元化している。横軸
した自由曲面翼インペラは翼負荷の急変を避け,
は無次元子午面距離で0がインペラ前縁を,1が後
全翼と半翼との翼負荷分布を均等化することを設
縁を示す。直線線素翼は,全翼入口および出口で
計方針とし,翼形状はCFDにより決定した。計算
翼負荷が急変し全翼と半翼との負荷が大きく異な
法はVIGVがないことを除いて前述した方法と同
るのに対し,自由曲面翼インペラでは設計指針通
様である。計算条件はインペラ回転数N/N* = 0.8
りに比較的均等な翼負荷分布である。Fig. 12に,
における最高効率点付近である空気流量Q/Q* = 約
全翼負圧面と半翼圧力面との中央の流路における
0.76とした。
静圧分布を子午面に投影して示す。等圧線の間隔
Fig. 11にCFDによる50%Hub-Shroud間距離での
から,直線翼の入口部では,自由曲面翼と比較し
Convex
Straight
Fig. 10 Convex blade impeller and
straight blade impeller.
Fig. 8
Comparison of efficiency in experiment and
CFD.
Fig. 9
Effects of VIGV setting angle on
surge limit.
Fig. 11 Comparison of loading diagram at 50%
hub to shroud distance, normalized by
atmospheric pressure.
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特
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て静圧が急変していることがわかる。また,Hub-
クすることにより3,4回のCFDを繰り返せば,ほ
Shroud間で静圧のひずみが大きい ( Fig. 12網掛け
ぼ最適な翼形状を決定することが可能である。
部)。
Fig. 13にCFDによる予測効率と実験による効率
4.まとめ
を比較して示す。CFDではスクロールが考慮され
可変入口案内翼による予旋回流れがコンプレッ
ないため絶対値が高く計算されるが,自由曲面翼
サ性能に及ぼす影響を実験および3次元CFDによ
インペラの効率が直線線素翼インペラのものより
り明らかにするとともに,高効率自由曲面翼イン
高く予測されており,実験結果と一致している。
ペラの設計法を確立した。
効率差はCFDで2.5point,実験では約5.5pointであ
(1) 入口予旋回を与えることにより少,中流量域
る。翼負荷分布を翼角分布の設計にフィードバッ
のコンプレッサ効率が向上する。高圧力比域ほど
効果が大きく,圧力比2.5で最大3point向上した。
(2) 予旋回流れが強いほどサージ流量が低減す
る。また,VIGV設定角を24deg以上にすることに
より,予旋回を与えない場合に発生する空気振動
を回避できる。
(3) CFDにより,VIGVによる予旋回が効率およ
びインペラ内流れに与える影響を明らかにした。
また,効率特性の予測も実験結果とよく一致した。
CFDを活用することで翼負荷の急激な変化を無
くし,全翼と半翼との翼負荷分布を均等化した高
効率自由曲面翼インペラの設計法を確立した。実
験により従来のインペラと比較してコンプレッサ
効率が5.5point向上することを実証した。
Fig. 12 Distribution of static pressure.
参考文献
1) Ishino M., et al. : "Effects of Variable Inlet Guide Vanes on
Small Centrifugal Compressor Performance",
ASME Pap., 99-GT-157, (1999)
2) 岩切雄二, 内田博 : 第35回日本航空宇宙学会中部・関
西支部合同秋季大会講演集, (1998), 19∼20
3) Whitfield, A., Abdullah, A.H. : "The Performance of a
Centrifugal Compressor with High Inlet Prewhirl", ASME
Pap., 97-GT-182, (1997)
( 2000年4月18日原稿受付 )
著者略歴
Fig. 13 Comparison of efficiency in
experiment and CFD.
豊田中央研究所 R&D レビュー Vol. 35 No. 3 ( 2000. 9 )
岩切雄二 Yuji Iwakiri
生年:1968年。
所属:エンジン機能制御研究室。
分野:ターボチャージャ内流れの数値解
析。
学会等:日本機械学会会員。
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