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農業環境研究成果情報 第20集

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農業環境研究成果情報 第20集
は
じ
め
に
わたしたちは、法人が発足してから新しい農業環境研究を目指してさまざまな角度か
ら研究所の構造を改革しました。さらに、この構造がうまく「機能」するためのシステ
ムを構築してきました。当たり前のことですが、農業環境技術研究所は、明確な目的の
ために存在する集団です。すなわち、わたしたちはこの組織を共同体ではなく機能体と
して捉えています。したがって、「機能の向上」をさらに追求することが、研究所の使
命でなければなりません。
そのために、研究所が忘れてならない活動に、受信(社会・専門・政策)、研究(自
己増殖・成長)、討論(セミナー・啓蒙)、貯蔵(インベントリー・発酵)、評価(組
織・課題・成果)、発信(専門・一般・パブリックアセスメント)、提言(リスク評価
・マスタープラン)および宣伝(新聞・TV・雑誌)があります。
ここにお届けする農業環境技術研究所の成果情報は、平成15年度に実施した研究の
うち、「農業と環境」に関わる主要な成果を冊子としてまとめたもので、上に掲げた活
動のうち、「評価」と「発信」に当たる部分を担うものです。
この成果の中には、新たな「技術知」と「生態知」と「統合知」が含まれます。「技
術知」とは目的と手段を定めたうえで、資源を活用し水平方向に新しい技術を開発して
いく知です。「生態知」とは現場で観察し、獲得してきた知です。「統合知」とは、こ
れらの二つを融合した知です。この成果集には、これらの「知」が混在しています。
江戸時代の儒学者である伊藤仁斎は、彼の著書「童子問」で次のように語っています。
大抵詞(ことば)直く
理明(あきらか)に
知り易く
記し易きものは必ず正確なり
詞難しく
理遠く
知り難く
記し難きものは必ず邪説なり
この冊子が伊藤仁斎の詞を満たしているとは努々思いませんが、できるだけ仁斎の詞
に近づける努力はしました。それでも、研究成果の要点のみを簡潔にまとめようとした
ので、細部については不明な点もあると思われます。不明な点、さらにはご意見やご質
問があれば、当所の研究企画科にお問い合わせください。
この成果情報が、みなさまにとって有意義な情報になることを願っております。
平成16年3月
(独)農業環境技術研究所
理事長
陽
捷行
利 用 に 当 た っ て
1.本誌は,平成15年度主要成果検討会で選ばれた主要な研究成果の中から農業環境研究
推進会議において選定された成果情報を編集・刊行したものである。
2.編成は,独立行政法人農業環境技術研究所中期計画の「Ⅱ−1試験及び研究並びに調査」
の課題編成の順としている。
3.要約中のアンダーラインはキーワードである。
4.分類は次の略称を記入している。
①行政:行政からのニーズに対応した調査研究成果
行政施策の計画,立案,遂行の参考になる成果
国際機関等で参考となる成果
②技術:他の試験研究機関(法人,民間を含む)の試験研究上有効となる成果
普及現場で活用される成果
③学術:新しい技術,基礎的知見あるいは研究手法等に関する学術上の価値が高い成果
5.独立行政法人農業環境技術研究所では,上記分類の「行政」及び「技術」を,独立行政
法人評価委員会における「普及に移しうる成果」として扱う。
6.本文は,[背景・ねらい ],[成果の内容・特徴 ],
[成果の活用面・留意点],[具体的デ
ータ],[その他]と分けて記入している。
7.[その他]の研究課題名で、括弧内は年度計画小課題を示す。
8.参考資料として、指定試験から提出のあった成果情報を掲載した。
9.本成果集の内容に関する問い合わせの窓口は,独立行政法人農業環境技術研究所研究企
画科とする。
10.本成果集に掲載された成果情報の無断複製・転載を禁ずる。
目
次
A.農業生態系の持つ自然循環機能に基づいた食料と環境の安全性確保
1
1. 水田土壌中のダイオキシン類起源の推移
2
2. 凝集剤による水田からのダイオキシン類の流出防止法
4
3. ストロンチウム同位体比を利用したネギの産地国判別
6
4. 畑条件で栽培するイネはカドミウム汚染水田の修復に最適である
8
5. 子実カドミウム蓄積性が高いダイズ品種は幼植物の段階で簡易に検定できる
10
6. 硝酸性窒素の浅層地下水および第二帯水層への到達時間
12
7. 農業生産に伴う養分収支を都道府県・市町村単位で算出するシステム
14
8. PCR-DGGE 法による土壌中のクロロ安息香酸分解菌群の検出
16
9. 日本産珪藻および藍藻を用いた OECD 藻類生長阻害試験法の改良
18
10. PCR-Luminex 法を用いてイネいもち病菌の MBI-D 剤耐性菌を遺伝子診断する
20
11. アシベンゾラルSメチルによるナシの黒星病抵抗性誘導には PGIP が密接に関与する
22
12. リンゴ火傷病が日本に侵入するリスクの推定法
24
13. ショウガ科植物に寄生する外来性青枯病菌系統の侵入と伝搬
26
14. マメ科植物根粒菌のモニタリング手法開発のための 16S rDNA 情報
28
15. チャノコカクモンハマキの交信撹乱剤抵抗性系統の作出と抵抗性の要因
30
16. チャノコカクモンハマキの性フェロモン構成成分比の地理的変異
32
17. イヌホタルイのスルホニルウレア系除草剤の抵抗性遺伝子は集団中に急速に広まる
34
18. 土壌を用いた他感作用の検定手法の開発
36
19. ソバ属植物のアレロパシーとソバを利用した植生管理
38
20. 土壌中の腐植酸を構成する炭素に占めるススキ由来炭素の割合
40
B.地球規模での環境変化と農業生態系との相互作用の解明
43
21. 衛星画像を用いたモンスーンアジアでの主要穀物の栽培期間の推定
44
22. 局地気象モデルを活用した水田の水温・地温の広域的な推定手法の開発
46
23. 水稲単作田の熱収支と CO2 フラックスの通年データセットの構築
48
24. 農耕地への有機物施用は亜酸化窒素の主要な排出源のひとつである
50
25. トウモロコシ花粉飛散量自動モニター装置の開発
52
26. わが国の食料供給システムにおける 1980 年代以降の窒素収支の変遷
54
27. 迅速測図を用いて過去 100 年間の土地利用変化を定量的に計測する
56
28. 天然放射性核種
210
Pb は乾燥地草原での風食を示す指標として有効である
C.生態学・環境科学研究に係る基礎的・基盤的研究
58
61
29. 玄米に含まれるカドミウムのレーザーを利用した直接定量法の開発
62
30. 多周波マイクロ波は全天候下で作物群落特性のリモートセンシングを可能にする
64
31. 熱赤外リモートセンシングによる表面温度は土壌面 CO2 フラックスの広域評価に有効である
66
32. 遺伝子情報に基づく巨大系統樹推定プログラムの開発
68
33. 土壌情報の一元的収集システムの開発
70
34. 農業環境技術研究所が所蔵する昆虫タイプ標本一覧表ならびに画像の Web 上での公開
72
35. 分散型データベースによる「微生物インベントリー」の構築と Web 上での公開
74
36. 凍結保存細菌の反復利用効率を高めるための分散媒の改良
76
A.農業生態系の持つ自然循環機能に基づいた
食料と環境の安全性の確保
-1-
[成果情報名]水田土壌中のダイオキシン類起源の推移
[要約]水田土壌中のダイオキシン類濃度は,1960 年代から急激に上昇し,1970 年前後をピ
ークに現在まで緩やかに減少している。1960∼1970 年代のダイオキシン類の起源は,主として
PCP 製剤と CNP 製剤の不純物であるが,近年は燃焼・焼却過程からの寄与が増加している。
[担当研究単位]化学環境部
ダイオキシンチーム
[分類]学術
[背景・ねらい]
ダイオキシン類は,主としてゴミ等の燃焼・焼却過程で発生すると考えられている。しかし,
河川や沿岸底質では,過去に水田除草剤として使用された PCP 製剤および CNP 製剤中に不純
物として含まれていたダイオキシン類の影響が指摘されている。本研究では,1960 年から経年
的に保存されている全国 5 地点の水田土壌試料中の各種ダイオキシン類異性体を分析し,水田
土壌中のダイオキシン類起源の推移を明らかにする。
[成果の内容・特徴]
1.水田土壌中のダイオキシン類濃度は 1960 年代初期から急激に上昇し,1970 年前後をピー
クに現在まで緩やかに減少している(図1)。
2.PCP 製剤と CNP 製剤に不純物として含まれている主なダイオキシン類異性体は,それぞ
れ,OCDD と 1368-/1379-TeCDD であり,これらの異性体濃度の推移は,両製剤の出荷量(原
体あたり)の推移と一致している。(図 2)
3.水田土壌中ダイオキシン類異性体の年次変動を主成分分析により解析し,起源の推移を検
討した(図 3)。ダイオキシン類の主な起源は,1960 年前後は燃焼・焼却過程であるが,1960
∼1970 年代は PCP 製剤と CNP 製剤である。1980 年代以降は,再び燃焼・焼却過程で生成さ
れるダイオキシン類の割合が増加している。
4.PCP 製剤,CNP 製剤中のダイオキシン類異性体の減衰曲線から推定したダイオキシン類の
半減期は 15 年程度である。
[成果の活用面・留意点]
1.日本における水田土壌,河川及び沿岸底質等のダイオキシン類汚染の定量的把握に活用で
きる。
2.1999 年採取試料の分析値は 20∼130pg-TEQ/g,平均 55 pg-TEQ/g であり,環境省・農林水
産省による調査結果(5.3∼180pg-TEQ/g,平均値 44pg-TEQ/g)と比較すると,当該保存試
料は,我が国の現在の水田土壌における汚染実態をよく反映している。
3.PCP 製剤は 1990 年に,CNP 製剤は 1996 年に農薬登録が失効しており,現在は使用されて
いない。
-2-
500
ダイオキ シン 類濃度(pg-TEQ/g-dry)
最大値
400
平均値
最小値
300
200
100
19
99
19
96
19
93
19
90
19
87
19
84
19
81
19
78
19
75
19
72
19
69
19
66
19
60
0
19
63
[具体的データ]
年 代
水田土壌(5 地点)中ダイオキシン類濃度の推移
PCP, CNP原体の出荷量 (t)
20000
200000
●
○
■
□
15000
PCP原体出荷量
CNP原体出荷量
OCDD
1368-/1379-TeCDD
150000
10000
100000
5000
50000
99
19
19
96
93
19
90
19
19
87
84
19
81
19
78
19
19
75
72
19
69
19
66
19
19
19
63
0
60
0
ダイオキ シン 類濃度 (pg/g-dry)
図1
年 代
図2
PCP,CNP 原体の出荷量および水田土壌中ダイオキシン類
(1,3,6,8-/1,3,7,9-TeCDD,OCDD)濃度の推移
PCDDs
が多い
CNP(1972-1981)
1972
1975
1969
1978
1963
PC2(7.0%)
CNP(1982-1994)
1984
1981
1996
1993
1999
1987
1990
1966
PCP (HCB Method)
●は水田土壌,
数字は採取年度
矢印は起源の年次変動
を示す
PCP (Phenol
Method)
1960
燃焼・焼却
PCDFs
が多い
PC1(84%)
PCP製剤の
影響大
図3
CNP製剤の
影響大
水田土壌中ダイオキシン類組成の主成分得点によるプロット
[その他]
研究課題名:水田土壌におけるダイオキシン類の消失特性の解明
(イネ等におけるダイオキシン類の吸収,移行特性の解明)
予算区分
:環境研究[有害化学物質]
研究期間
:2003 年度(2003∼2007 年度)
研究担当者:清家伸康,大谷
卓
発表論文等:
1)清家ら,環境化学,13(1),117-131(2003)
2)清家ら,農業技術,58(2),62-66(2003)
3)清家ら,インベントリー,2,19-20(2003)
-3-
[成果情報名]凝集剤による水田からのダイオキシン類の流出防止法
[要約]代掻き時に凝集剤として塩化カルシウムまたは塩化カリウムを施用することで,水
稲収量を低下させることなく田面水の懸濁物質(SS)を速やかに沈降させ,SSに吸着している
ダイオキシン類の水田系外への流出を大幅に軽減できる。
[担当研究単位]化学環境部
化学環境部
ダイオキシンチーム,
重金属研究グループ
土壌化学ユニット
[分類]技術
[背景・ねらい]
ダイオキシン類は水田中で土壌粒子等に吸着・蓄積されており,代掻き時などにSSととも
に流出するため水田系外への環境負荷が懸念されている。凝集剤を用いて田面水中のSSを効
率的に沈降させ,水田からのダイオキシン類の流出防止技術を開発する。
[成果の内容・特徴]
1.粘土の分散性が高くSSが生じやすい水田圃場(黄色土)に凝集剤として塩化カルシウム
または塩化カリウムを施用して代掻きすると,田面水中のイオン強度が高まりSSが凝集し
易くなる。このため,SSは沈降し流出が抑制される(図1)。
2.凝集剤を15kg/10a施用するとSSが充分に沈降するのに24時間以上要するが,30kg/10aで
は代かき1時間後に同程度の効果が得られる。沈降促進効果は塩化カルシウムがやや高い
(図1)。
3.田面水に含まれるダイオキシン類含量は凝集剤施用で著しく低下する(表1)。
4.凝集剤施用は水稲の生育および収量に悪影響を示さず,本技術は現地圃場に適用できる
(図2)。
[成果の活用面・留意点]
1.代掻き時においてダイオキシン類を含んだSSの流出抑制に活用できる。
2.凝集剤は約2,000円/25㎏(塩化カルシウム),約1,000円/20kg(塩化カリウム)と低コス
トである。
-4-
[具体的データ]
無施用区
塩化カルシウム(15kg/10a)
塩化カルシウム(30kg/10a)
塩化カリウム(15kg/10a)
塩化カリウム(30kg/10a)
SS含量 (g/ L)
16
12
8
4
0
1 時間
3 時間
2 4 時間
C
代掻き後の経過時間
図1 凝集剤施用に伴う田面水中SS含量の変化
表1 凝集剤の施用に伴う田面水中のダイオキシン類の変化
(相対値;無施用区=100,代掻き3時間後,n=2)
凝集剤
施用量(kg)
ダイオキシン類
10.9
15
塩化カルシウム
0.1
30
36.4
15
塩化カリウム
0.1
30
塩化カルシウム(15kg/10a)
塩化カルシウム(30kg/10a)
塩化カリウム(15kg/10a)
塩化カリウム(30kg/10a)
150
100
50
0
稈長
わら重
1
精玄米重
図2 凝集剤施用に伴う水稲の生育・ 収量の変化
( 相対値;無施用= 1 0 0 )
[その他]
研究課題名:土壌凝集剤および吸着剤を用いた化学物質の汚染拡散防止技術の開発
(イネ等におけるダイオキシン類の吸収,移行特性の解明)
予算区分
:環境研究[有害化学物質]
研究期間
:2003年度(2003∼2007年度)
研究担当者:牧野知之,大谷
卓,清家伸康,菅原和夫
-5-
[成果情報名]ストロンチウム同位体比を利用したネギの産地国判別
[要約]中国山東省産と上海産ネギのストロンチウム同位体比は国内産ネギより高い。中
国福建省産のストロンチウム同位体比は国内産と同水準にあるが,ストロンチウム濃度は
国内産より高い。これらの特性から,中国産と国内産ネギの産地国判別ができる。
[担当研究単位]化学環境部
重金属研究グループ
重金属動態ユニット
[分類]行政
[背景・ねらい]
ネギ等の生鮮野菜の中国からの輸入量が急増し,国内産品の価格よりも安価に流通して
いる。このような情勢下で原産国表示の徹底が求められているが,その表示を確認する手
法は未だ確立されていない。野菜の産地の判別には,産地土壌の特性が手がかりになる。
地質の年代測定に利用される微量元素の安定同位体比は,地域による差異があり,産地を
示す重要な特性を有する。そこで,ストロンチウム同位体比(87Sr/86Sr)に着目し,中国産
ネギの 3 大産地である山東省,上海,福建省産ネギと国内産ネギの判別法を開発する。
[成果の内容・特徴]
1.ネギのストロンチウム同位体比は産地土壌のストロンチウム同位体比をよく反映して
いる。
2.中国産のストロンチウム同位体比は,山東省産(18 点)が 0.710∼0.712 の範囲,上海
産(13 点)が 0.710 のごく近傍にある。福建省産(6 点)のストロンチウム同位体比は
0.706∼0.709 の範囲にあり,山東省産と上海産より低い(図1)。
3.国内産(67 点)のストロンチウム同位体比は 0.704∼0.710 の範囲にあり,中国の山東
省及び上海産より低い(図1)。
4.中国福建省産のストロンチウム同位体比は国内産と同水準にあるが,福建省産のスト
ロンチウム濃度(平均 37 mg kg-1)は国内産のストロンチウム濃度(平均 14 mg kg-1)よ
り概して高い(図1)。
5. 中国産ネギと国内産ネギのストロンチウム同位体比及び濃度から線形判別関数を求め,
産地判別試験用のフローチャートを作成した(図2)。このフローチャートに基づき,
店頭買い取り品を用いた判別試験の結果,中国産 36 点中 35 点,国内産 6 点中 5 点が正
しく判別された。
[成果の活用面・留意点]
1.産地土壌とネギのストロンチウム同位体比が一致することから,他の畑作物に対して
も本成果が適用できる。
2.ストロンチウム同位体比測定には,同位体比測定用の質量分析計(マルチコレクタ型
ICP 質量分析計,表面電離型質量分析計など)が必要である。
3.試料前処理から測定までに 6 日を要する。前処理法をさらに検討することで時間短縮
は可能である。
-6-
[具体的データ]
国内産
上海
0.713
山東省
福建省
0.712
図1.ネギの Sr 同位体比と濃度
図中のラインは線形判別関数
式1:0.154x+2547y-1809=0
式2:0.364x-550y+380=0
x は Sr 濃度,y は Sr 同位体比
0.711
87
Sr/ 86Sr
0.710
式1
0.709
0.708
判別関数の誤判別率
式1: 中国産 0
国内産 7
式2: 中国産 0
国内産 6
0.707
0.706
0.705
式2
0.704
0
10
20
30
40
50
-1
Sr濃度 [mg kg ]
60
%
%
%
%
70
[その他]
Sr 濃度を x,87Sr/86Sr 比を y
とする
0.154x+2547y−1809>0
Yes
店頭買い取り品を用いた判別試験結果
No
0.364x−550y+380>0
中国山東省,上海産の
可能性
Yes
中国産:36 個中 19 個該当
国内産:6 個中該当なし
残りの中国産:17 個中 16 個該当
国内産:6 個中 1 個該当(誤判別)
中国福建省産の
可能性
No
中国産:17 個中 1 個該当(誤判別)
国内産:6 個中 5 個該当
国内産の可能性
図2.ネギの産地判別試験用フローチャート
研究課題名:元素同位体によるネギの産地国別・判別技術の開発(農耕地におけるカドミ
ウム等負荷量の評価とイネ・ダイズ等による吸収過程の解明)
予算区分 :行政対応特研[品種産地判別]
研究期間 :2003 年度(2001∼2003 年度)
研究担当者:織田久男,川崎 晃
発表論文等:
1)Oda et al.,Anal. Sci.,17,i1627-i1630(2002)
2)Kawasaki et al.,Soil Sci. Plant Nutr.,46,635-640(2002)
-7-
[成果情報名]畑条件で栽培するイネはカドミウム汚染水田の修復に最適である
[要約]土壌タイプの異なるカドミウム汚染水田においてイネ,ダイズ,トウモロコシを
畑条件下で栽培すると,イネが最も多くカドミウムを吸収する。イネは土壌中のカドミウ
ム可溶性画分だけでなく難溶性画分も吸収可能で,汚染水田のファイトレメディエーショ
ンに最適である。
[担当研究単位]化学環境部 重金属研究グループ 土壌生化学ユニット
[分類]行政
[背景・ねらい]
CODEX 委員会で審議中の玄米中カドミウム濃度の新基準は,わが国のそれに比べて数
倍厳しく,早急な対策が求められている。基準値を超える恐れがある広範な水田に対する
吸収抑制対策としてファイトレメディエーションが有望であり,汚染水田土壌に対する修
復作物としては栽培やコストの面からイネが最適であると考えられる。本研究では,イネ,
ダイズ及びトウモロコシを異なるタイプの汚染土壌で栽培し,汚染水田土壌の修復に最適
な作物種を選定する。
[成果の内容・特徴]
1.栽培体系が確立されておりかつ水田転換畑土壌で栽培可能な作物として,イネ,ダイ
ズ,トウモロコシを選定し,ポットおよび現地ほ場でカドミウム吸収試験(畑条件)を
行った。品種はこれまでの研究結果を参考にし,イネはカドミウム高吸収品種である密
陽 23 号,IR-8 及び PEH-KU-TSAO-TU,ダイズはスズユタカ,トウモロコシはゴールド
デントを選択した。
2.カドミウムの吸収限界を把握するためポット栽培を 2 年間行った。各作物地上部のカ
ドミウム吸収量は,全ての土壌においてトウモロコシ≪ダイズ<イネの順位であった
(表 1)。
3.栽培後,土壌のカドミウムは,イネ区において他の作物区と比較して交換態,無機結
合態だけでなく有機物結合態といった難溶性画分及び 0.01N,0.1N 塩酸抽出画分が著し
く減少した。このことから,汚染水田土壌の修復作物としてイネが最適であることが示
された(表 1)。
4.九州地方の現地ほ場におけるイネのカドミウム吸収試験において,密陽 23 号および
IR-8 が PEH-KU-TSAO-TU より高い吸収量を示した。従って,温暖地におけるファイト
レメディエーションには密陽 23 号および IR-8 が適している。また,0.1N 塩酸抽出濃度
の減少量から算出した土壌カドミウム減少量(深さ 15cm,仮比重 1.2 で計算)はイネ地
上部吸収量とほぼ一致した(誤差 10%以内,表 2)。
[成果の活用面・留意点]
1.イネのカドミウム高吸収品種を畑条件で栽培することにより,比較的軽度な汚染水田
土壌のカドミウム濃度(0.6∼0.7ppm:0.1N 塩酸抽出)を 3 年以内に非汚染レベル
(0.3ppm:0.1N 塩酸抽出)まで下げることが可能である。
2.寒冷地での栽培においては,その地域の気候特性に適応した品種を選定することが望
ましい。
3.収穫したイネに関しては,焼却を基本とした処理を行い,カドミウムを回収する。
-8-
[具体的データ]
*
*
表1.作物のカドミウム吸収量 および栽培に伴う土壌カドミウム濃度変化 (ポット試験,2年間栽培)
**
土壌
栽培作物
地上部
吸収量
1)
交換態
2)
無機
結合態
3)
有機物
結合態
(mg Cd pot-1)
A
なし
(黒ボク土)
トウモロコシ
ダイズ
***
イネ
O
なし
(沖積土)
トウモロコシ
ダイズ
***
イネ
K
なし
(黒ボク土)
トウモロコシ
ダイズ
***
*
イネ
4)
酸化物
吸蔵態
5)
0.01N
塩酸
5)
0.1N
塩酸
(μg Cd g soil-1)
0.05
0.65
0.82
1.1
0.7
0.8
0.5
3.8
3.3
2.8
2.1
3.4
3.0
2.5
2.2
4.9
4.0
4.0
3.9
0.3
0.2
0.2
0.1
9.6
7.9
7.1
5.8
0.03
0.33
0.42
0.7
0.4
0.4
0.1
0.6
0.7
0.5
0.2
0.5
0.6
0.4
0.3
2.1
1.5
1.7
1.7
0.4
0.2
0.2
0.1
1.7
1.6
1.1
0.5
0.03
0.35
0.38
0.5
0.3
0.6
0.1
1.1
1.1
0.8
0.4
1.7
1.5
1.0
0.7
1.6
1.2
1.2
1.2
0.1
0.1
0.2
0.0
3.2
2.7
2.2
1.0
**
4連の平均値 2年間の積算値 ***密陽23号 1) 0.05M 硝酸カルシウム抽出 2) 2.5% 酢酸抽出 3) 6% 過酸化水素水処理後 2.5% 酢酸抽出
4) アスコルビン酸−酸性シュウ酸アンモニウム液抽出 5)土壌:抽出液=1:5,2時間振とう
表2.イネのカドミウム吸収量と栽培に伴う土壌カドミウム濃度変化 (現地ほ場:九州地方)
栽培年度
品種
1)
地上部
吸収量
-1
(g Cd ha )
2002
密陽23号
195
2003
IR-8
205
PEH-KUTSAO-TU
168
2)
抽出濃度
-1
1)
0.01N 塩酸
(μg Cd g soil )
栽培前
0.56
栽培後
0.43
栽培前
0.50
栽培後
0.41
栽培前
0.47
栽培後
0.43
算出減少量
-1
(g Cd ha )
0.1N 塩酸
2)
抽出濃度
-1
(μg Cd g soil )
算出減少量
-1
(g Cd ha )
2.43
227
2.32
204
1.42
159
1.30
229
1.37
73
1.28
159
-1
1) 土壌:抽出液=1:5,2時間振とう 2)抽出濃度の減少量(栽培前-栽培後)×1800 t soil ha (深さ15cm,仮比重1.2で計算)
[その他]
研究課題名:作物・土壌タイプ別の汚染土壌修復目標値の策定とその検証手法の開発
(カドミウム吸収能の低いイネ・ダイズ品種の検索)
予算区分
:環境研究[有害化学物質]
研究期間
:2003 年度(2003∼2007 年度)
研究担当者:村上政治,阿江教治,杉山
恵,石川
覚
発表論文等:
1)村上・阿江,日本土壌肥料学会講演要旨集,49,175(2003)
2)Murakami and Ae,Abstracts of Promising Agricultural Practices and Technologies for
Reducing Heavy Metal Contamination in Relevant Staple Crops,70-71(2003)
3)Arao and Ae,Soil Sci. Plant Nutr.,49(4),473-479(2003)
-9-
[成果情報名]子実カドミウム蓄積性が高いダイズ品種は幼植物の段階で簡易に検定
できる
[要約] カドミウム汚染土壌を充填したポットで播種後3週間まで栽培したダイズ幼
植物体中のカドミウム( Cd )と亜鉛( Zn )の濃度比から,子実 Cd 蓄積性が高い品種を簡
易に検定できる。
[担当研究単位] 化学環境部
重金属研究グループ
土壌生化学ユニット
[分類] 行政
[背景・ねらい]
ダイズの子実へのカドミウム( Cd )蓄積性には品種間差があり,それは土壌,気候な
どの環境要因に影響されない遺伝的形質である。播種後4∼5ヶ月の子実生産を待っ
て Cd 濃度を分析する現在の検定方法では,新品種育成に時間,労力,コストがかか
る 。大幅な時間 ,労力等の軽減を図り ,有望品種のより飛躍的な選抜を進めるために ,
幼植物(播種後3週間程度)の段階でCd高蓄積品種・系統を簡易に検定する方法を開発
する。
[成果の内容・特徴]
1.ダイズ栽培品種および有望系統 150 品種をカドミウム汚染土壌を充填したポット
で3週間栽培する(3週間は種子栄養から独立栄養に切り替わり,体内 Cd 濃度は
土壌 Cd の影響を大きく受ける時期である )。その幼植物体(地上部)の Cd 濃度に
より,子実 Cd 濃度が低い品種群Aグループと高い品種群Bグループとに分けられ
る。ただし, 150 品種中3品種の幼植物体 Cd 濃度は 3.0 ∼ 3.3ppm の範囲にあり,判
別はできない(図1 )。
2.AグループとBグループの幼植物体 Cd 濃度は統計的に有意な差がある。一方,
幼植物体の亜鉛( Zn ),カルシウム,銅の濃度はグループ間に差はない。このグルー
プ間差違は Cd に特異的であり,Bグループは幼植物体の段階からすでに Cd を選択
的に吸収する品種である(表1 )。
3.幼植物体 Cd 濃度の代わりに, Cd と Zn の濃度比を用いると,BグループをAグ
ループから明確に分けることができる(図2 )。
[成果の活用面・留意点]
1.播種後3週間でダイズの子実への Cd 蓄積性が高い品種を明瞭に検定できる新し
い手法である。
2 . Cd 汚 染 土 壌 を 用 い る こ と で 感 度 が 低 い 原 子 吸 光 で も 測 定 が 可 能 で あ る 。土 壌 の
種類によって幼植物体の Cd / Zn (濃度比)が変化するため,検定の際にはAグループ
からエンレイなど,Bグループからスズユタカなど数品種を標準品種として同時に
栽培に加える必要がある。
- 10 -
[具体的データ]
0.25
子実Cd濃度 (ppm)
0.20
0.15
Aグループ
0.10
Bグループ
0.05
0.00
1.00
1.50
2.00
2.50
3.00
3.50
4.00
4.50
5.00
5.50
幼植物体Cd濃度 (ppm)
ダイズ子実*カドミウム濃度と幼植物体**カドミウム濃度
図1
*
表1
非汚染圃場栽培,** 汚染土壌(0.1M塩酸抽出Cd濃度;3.0ppm,100mL)ポット栽培
幼植物体のカドミウム,亜鉛,カルシウム,銅濃度
カドミウム濃度
亜鉛濃度
( ppm )
( ppm )
2.19 *
4.21
64.4
67.6
Aグループ ( n=129)
Bグループ ( n= 21)
カルシウム濃度
( ppm )
銅濃度
( ppm )
9,901
10,320
7.24
7.76
* グループ間に5%水準で有意差があることを示す(t-検定)
0.25
Harosoy
子実Cd濃度 (ppm)
0.20
0.15
エンレイ
作系4号
0.10
ハタユタカ
スズユタカ
0.05
Aグループ
Bグループ
0.00
0.02
0.03
0.04
0.05
0.06
0.07
0.08
幼植物体 Cd/Zn (濃度比)
図2
ダイズ子実カドミウム濃度および幼植物カドミウムと亜鉛の濃度比
[その他]
研究課題名:地域に適合したカドミウム低吸収品種の開発,
ダイズのカドミウム吸収能に関する品種間差異のほ場における検証
(カドミウム吸収能の低いイネ・ダイズ品種の検索)
予算区分 :環境研究[有害化学物質 ],高度化事業[カドミウムリスク予測]
研究期間 : 2003 年度
研究担当者:杉山 恵,石川 覚,阿江教治,村上政治,羽鹿牧太(作物研)
発表論文等:
1 )杉山ら,土肥学会講演要旨集第 49 集, 77 ( 2003 )
- 11 -
[成果情報名]硝酸性窒素の浅層地下水および第二帯水層への到達時間
[要約]農業環境技術研究所内の黒ボク土畑圃場における硝酸性窒素の浅層地下水への到達時間
は,1.6 ~ 6.0 年(平均 2.8 年)であり多雨年ほど短い。これに対して,浅層地下水面から難透水層下
の第二帯水層までの移動時間は,降水量の年次変動によらずほぼ一定(8.2 ~ 8.3 年)に保たれる。
[担当研究単位]化学環境部
栄養塩類研究グループ
土壌物理ユニット
[分類]学術
[背景・ねらい]
浅層地下水を介した硝酸性窒素の汚染拡大を防止するためには,まず土層内での水および硝酸
性窒素の移動時間,従って浅層地下水への到達時間を明らかにする必要がある。本研究では,農
業環境技術研究所内の黒ボク土畑圃場における土層内の水収支および浅層地下水位観測結果に基
づき,深さ別保水量と水フラックスを用いて地表浸入水が浅層地下水面および難透水層下の第二
帯水層に到達するのに要する時間を推定すると共に,年降水量の違いによる変化を明らかにする。
[成果の内容・特徴]
1.地表浸入水および硝酸性窒素の土層内移動速度は見かけ上ほぼ一致する(図 1)。土層内の水
移動時間を求めれば,硝酸性窒素の移動時間を推定できる。
2.根群域下端から溶脱した硝酸性窒素が浸透水とともに下方移動して浅層地下水面に到達する
のに要する時間(表 1 のτ0–1 + τ1–h)は,年次変動が大きく,多雨年ほど短い。平均到達時間は 2.8
年,降水量の大小により 1.6 ~ 6.0 年の範囲で変動する(表 1)。
3.浅層地下水面に到達すると,浸透水フラックスは難透水層上を横移動する水平成分 Gh と難透
水層下の第二帯水層に向かう鉛直成分 Gv に分かれる(図 2)。土層内水収支と浅層地下水位の
観測結果および難透水層の飽和透水係数から Gv と Gh の値を求めれば,硝酸性窒素の浅層地下
水帯通過時間τh–2.6 と難透水層通過時間τ2.6–4.8 を推定できる。
4.多雨年には浅層地下水位が上昇すると共に,深さ 1 m を通過した水フラックスのうち難透水
層上を横移動する割合が増加する(Gh は少雨年の 22 mm に対し,多雨年では 549 mm)。これに
対して,鉛直成分 Gv の大きさはほぼ一定(Gv = 208 ~ 226 mm)であり,年次変動が小さい(表 1)。
このため,浅層地下水面から難透水層を通じて第二帯水層に到達するのに要する時間(τh–2.6 +
τ2.6–4.8)は,年降水量の変動によらずほぼ一定に保たれる(農業環境技術研究所内の黒ボク土畑
圃場では 8.2 ~ 8.3 年)。
[成果の活用面・留意点]
1.黒ボク土畑から溶脱した硝酸性窒素の浅層地下水帯を通じた流出および難透水層下のより深
い帯水層における硝酸性窒素の地下水汚染の予測に用いることができる。
- 12 -
[具体的データ]
図 1 黒ボク土畑の (a) 作土か
0
深さ z (m)
(a)
らの浸透水の到達深さ zp およ
zp
1
び浅層地下水位 h と (b) 深さ
1 および 1.5 m の液相 NO3-濃
2
度の変化。1995 年秋~1996 年
h
秋に作土から移動し始めた水
深さ1.5 m
(b)
-1
NO3 (mmol c L )
3
10
年夏には深さ 1.5 m に到達し,
深さ1 m
各々の深さへの zp 到達時期は,
-
5
は,1997 年夏に深さ 1 m,1998
各々の深さの液相 NO3-濃度ピ
ークとほぼ一致した。
0
19951995
1996
1996
1997
1998
1998
表 1 年降水量の違いによる水フラックス,
間隙率 φ , 体積含水率 θ
3
浅層地下水位,硝酸性窒素の深さ別移動時
-3
(m m )
0
0.2
0.4
0.6
0.8
間の変化
1
0
φ
θ
浸透水
フラックス
深さ z (m)
1
η
D
保水量
ζ0
S
2
3
浅層地下水
水平フラックス
Gh
浅層地下水
鉛直フラックス G v
1999
1999
浅層地下水位
h
難透水層
2.6 m
図 2 難透水層を有する黒ボク土畑における水平方向
および鉛直方向の浅層地下水フラックスの模式図
1997
1998 1995 ~ 2003
少雨
多雨
平均
a
-1
水フラックス
———— mm y ————
P
987
1531
1211
D
227
760
469
Gv
208
226
213
Gh
22
549
254
浅層地下水位
————— m —————
h
2.12
1.88
2.04
b
深さ別移動時間
————— y —————
2.54
0.79
1.24
τ0−1
3.41
0.83
1.56
τ1−h
1.49
2.09
1.68
τh−2.6
6.72
6.18
6.54
τ2.6−4.8
a
P は降水量,D は深さ 1 m からの浸透水量,Gv と
Gh はそれぞれ鉛直下方および水平方向への正味
の浅層地下水フラックス。
b
下付き数字は対象土層の深さ(m)。0, 1, h, 2.6 お
よび 4.8 は,それぞれ,地表面,根群域の下端,浅
層地下水位,難透水層の上端および難透水層下の
第二帯水層の深さに相当する。
[その他]
研究課題名:地下水到達・流下過程における硝酸性窒素の流出遅延時間の予測
(硝酸性窒素等の土層内移動の解明)
予算区分 :環境研究[自然循環]
研究期間 :2003 年度(2003 ~ 2005 年度)
研究担当者:江口定夫
発表論文等:
1)江口ら,地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会第 9 回講演要旨集,228-231
(2003)
2)江口ら, 日本土壌肥料学会講演要旨集第 49 集,2(2003)
- 13 -
[成果情報名]農業生産に伴う養分収支を都道府県・市町村単位で算出するシステム
[要約]統計情報に基づき,作物生産量,化学肥料の施用量,家畜ふん尿の発生量等を推定し,
農地での養分(窒素,リン酸,カリ)収支を都道府県・市町村単位で算出するデータベースシス
テムを作成する。本データベースシステムによって地域における各種養分による潜在的な環境負
荷量を算出できる。
[担当研究単位]化学環境部
栄養塩類研究グループ
養分動態ユニット
[分類]行政
[背景・ねらい]
過剰な家畜ふん尿や化学肥料に由来する環境負荷を低減するためには,地域の作物生産量や家
畜ふん尿の発生量,化学肥料の施用量の実態を把握することが重要である。そこで統計情報を元
に都道府県・市町村単位で農地での養分(窒素,リン酸,カリ)収支を求めるデータベースシス
テムを作成する。
[成果の内容・特徴]
1.データベースシステム(図1)は,地域名を入力することで,インプット量(化学肥料,家畜ふ
ん尿,雨,灌漑水,窒素固定)とアウトプット量(作物生産量,副産物持出し量,脱窒)を算出し,
農地での養分収支を表示する。ここで示される過剰な養分は,潜在的な環境負荷量である。
2.都道府県・市町村単位の統計情報として農林水産研究計算センターの基礎数値情報に登録さ
れている,1)全都道府県・市町村の 1997 年の耕地面積,2)70 種の作物の作付け面積と生産
量,3)5 種の家畜の飼養頭羽数,を利用する。統計情報を養分量に換算する係数として,各種
作物の養分の含有率,各作物への化学肥料の施用量,家畜のふん尿排出量を,各種文献,農林
水産省統計情報部によるアンケート調査の結果,統計資料等から求める。
3.畜種別の家畜ふん尿の農地への施用量・廃棄の割合は,統計資料から求める。
[成果の活用面・留意点]
1.家畜ふん尿や稲わらといった地域内にある有機物資源量を把握し,地域内での有効利用,地
域間流通を促進するための基礎的な情報として利用できる。
2.本システムは表計算ソフト(Microsoft EXCEL)を用いて構築した.利用希望者には無償で提供
可能である。
3.地域間の家畜ふん尿等の移出入は考慮されていない。
4.登録されていない作物が栽培されている場合,作物生産量と化学肥料の施用量は低く見積も
られる。
- 14 -
[具体的データ]
県名を入力
s
茨城県
市町村名を入力
地域の指定
美野里町
都道府県・
市町村
農畜産統計
データベース
検索
施肥量等
養分換算係数
基礎統計
情報開示
養分収支構成要素(単位:t/地域)
計算
作物生産量
施肥量
N
P2O5
K2O
N
P2O5
K2O
稲
かんしょ
38
19
14
55
77
52
2
1
4
2
7
5
ばれいしょ
牧草
4
2
11
12
20
13
13
4
16
5
8
4
養分収支構成要素
結果表示
計算
N
P2O5
K2O
乳牛
肉牛
376
147
217
24
9
23
豚
303
256
215
ふん尿量
養分収支結果表示
茨城県美野里町での算出例(単位:kg/ha)
インプット
アウトプット
N
P2O5
K2O
化学肥料
145
182
123
家畜ふん尿
106
49
69
N 固定など
27
0
2
合計
278
231
194
図1
P2O5
K2O
57
22
56
副産物持ち出し
1
0
2
脱窒
37
合計
95
22
58
作物生産量
−
潜在環境負荷量
N
N
P2O5
K2O
183
209
136
=
データベースの構造,登録情報および養分収支の算出過程
[その他]
研究課題名:行政区界レベルでの養分収支に基づく環境負荷リスクの推定
(土壌・水系における硝酸態窒素等の動態解明と流出予測モデルの開発)
予算区分
:環境研究[日韓水質保全]
研究期間
:2003 年度(2003∼2007 年度)
研究担当者:三島慎一郎,松森
信(熊本県農研センター)
,井上恒久
発表論文等:
1)三島ら,日本土壌肥料学会要旨集第 49 集,10(2003)
- 15 -
[成果情報名]PCR-DGGE 法による土壌中のクロロ安息香酸分解菌群の検出
[要約]PCR-DGGE(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動)法によって,土壌から直接クロロ安息香
酸分解遺伝子を検出できる。この方法により,培養法では見落とされていた土壌中のクロロ安
息香酸分解菌を効率的に探索できる。
[担当研究単位]化学環境部 有機化学物質研究グループ 土壌微生物利用ユニット
[分類]学術
[背景・ねらい]
クロロ安息香酸を分解できる微生物は,PCB 等の難分解性芳香族塩素化合物による汚染環
境の浄化に有用である。従来,このような分解菌を土壌から取得するためには,主に液体集
積培養などの培養手法が用いられてきた。しかし,集積培養で得られる分解菌は,培地中の
特殊な条件下で選抜されたものであるために,実際の土壌環境中での分解能や定着性が優れ
ているとは限らない。さらに,土壌中の微生物の大半は培養困難なものであることが知られ
ており,培養手法で見出せる分解菌はごく一部に過ぎないと考えられる。そこで,培養法に
頼らず,土壌中のクロロ安息香酸分解菌群を直接検出することを目指し,分解遺伝子を標的
とした PCR-DGGE 法の利用を試みる。
[成果の内容・特徴]
1.クロロ安息香酸分解反応の重要なステップを担う酵素,安息香酸ジオキシゲナーゼをコー
ドする遺伝子(以下 benA)を,土壌中の多様な細菌種から増幅できるプライマーを作製し
た。このプライマーを用いて PCR-DGGE を行なう。
2.3-クロロ安息香酸(以下 3CB)を添加した土壌及び液体集積培養から経時的に DNA を抽
出し,PCR-DGGE を行なった(図1)。土壌 DNA から得られた DGGE パターンは,多数の
バンドで構成されており,これは多様な benA 保有細菌が土壌中に存在していることを意味
する。一方,集積培養のパターンは,少数のバンドからなる単純なものであり,ごく一部の
菌のみが選択的に培養されていることを示している。この結果から,土壌 DNA をもとにし
た PCR-DGGE によって,集積培養法では見落とされていた分解菌を検出できることが確認
される。
3.3CB の添加後,新たに出現するバンドは 3CB を分解資化することによって増殖した菌に
由来すると考えられる。土壌中と集積培養中では,3CB の添加によって増強するバンド(図
1;A,B)に違いがみられ,それぞれの条件に適した異なる分解菌が優勢化していること
が分かる。
4.3CB 添加土壌から得られた DGGE パターンから,主要なバンドを切り出して塩基配列を決
定し系統樹を作製した(図2)。この結果,本手法によって多様な benA 遺伝子が網羅的に検
出されていることが分かる。また,3CB の添加によって新たに出現したバンド(a,e)は,
Burkholderia 属細菌がもつ benA に近縁な配列であることから,土壌中での 3CB 分解にはこ
のグループの分解菌群が関与している可能性が高い。
[成果の活用面・留意点]
1.3CB 添加土壌において増強する DGGE バンドと同じ塩基配列を持つ菌を選抜することに
よって,土壌環境に適した分解菌を効率的に探索できる。
2.標的とする遺伝子を変えることによって,クロロ安息香酸以外の物質の分解に関わる微生
物についても同様のアプローチが可能である。
- 16 -
[具体的データ]
液体集積培養
3CB添加土壌
添加後
日数
0 2 4 6 16 23 30 1 2 3 4 5
6
図1. 3CB添加土壌及び液体集積培養に
おけるDGGEパターンの経時変化
A
DGGEによって土壌中(および集積培養中)
に棲息する様々な細菌のbenA遺伝子が、個
別のバンドとして検出されている。
バンド強度の増減は、それぞれのバンドに
対応する菌の消長を端的に表わす。
B
液体集積培養=3CBを単一炭素源とする無機塩培地
に土壌を加えて振とう培養したもの。
7日後
添加前
3CB添加土壌の
DGGEパターン
(outgroup)
a
b
c
d
e
f
g
h
i
j
P. putida NCIB9816-ndoB
Acinetobacter sp. ADP1
Burkholderia cepacia 2CBS
Burkholderia sp. TH2
a
b
Burkholderia sp. NK8
Burkholderia gladiori G1588
Burkholderia cepacia C2531
e
Ralstonia eutropha NH9
j
Rhodococcus sp. RHA1
Rhodococcus sp. 19070
Streptomyces setonii
i
TOL plasmid(pWW0)
Pseudomonas aeruginosa PAO1
Pseudomonas putida KT2440
d
h
f
g
c
10%塩基置換距離
(補足)3CBを添加しない土壌では、7日後も
バンドパターンは変化しない。
図2. 3CB添加土壌のDGGEバンドと既知のbenA塩基配列から作製した系統樹
[その他]
研究課題名:クロロ安息香酸分解菌等の分解遺伝子群の構造と機能の解析技術の開発
(クロロ安息香酸分解菌等の分解能解析技術の開発)
予算区分 :運営費交付金
研究期間 :2003 年度(2001∼2005 年度)
研究担当者:森本 晶,小川直人,長谷部亮,藤井 毅
発表論文等:
1)森本ら,第 18 回日本微生物生態学会講演要旨集,62(2002)
2)森本ら,日本農芸化学会 2003 年度大会講演要旨集,235(2003)
- 17 -
[成果情報名]日本産珪藻および藍藻を用いた OECD 藻類生長阻害試験法の改良
[要約]OECD 等の推奨試験法を基本に,日本産珪藻および藍藻の試験種としての適合性
を評価した。14 種類の水田除草剤に対する生長阻害濃度は,藻類種により大きく異なって
おり,緑藻だけでは正確な評価が困難である。珪藻や藍藻を加えた複数種による評価が重
要である。
[担当研究単位]化学環境部
有機化学物質研究グループ
農薬動態評価ユニット
[分類]学術
[背景・ねらい]
農薬等化学物質が水域生態系の一次生産者である藻類に与える影響を評価するために
は,単細胞の緑藻 Pseudokirchneriella subcapitata を用いた暴露試験が現在 OECD 等の推奨
試験法として用いられている。しかし,わが国の河川では珪藻および藍藻を中心とした付
着性藻類が一次生産の主役であること,緑藻 P. subcapitata は我が国にほとんど分布しない
ことから,緑藻 P. subcapitata を用いた試験結果のみで水域生態系の一次生産者に及ぼす影
響を評価することは危険である。そこで,OECD 等の推奨試験法を基本に,日本産珪藻お
よび藍藻の適合性を評価し,わが国に適した精度の高い評価手法を開発する。
[成果の内容・特徴]
1.試験生物種として小型で増殖力が高い珪藻 Achnanthes minutissima NIES-71 株および藍
藻 Merismopedia tenuissima NIES-230 株を用いる。比較対照として OECD 等における藻類
生長阻害試験の推奨種である 2 種の緑藻 P. subcapitata ATCC22662 株および Chlorella
vulgaris NIES-227 株の計 4 種を使用する(図1)。
2.OECD 等が推奨する試験法,すなわち化学物質曝露後 72 時間後の生存細胞数に基づく
半数生長阻害濃度(72h-EC50:対照区に比べて細胞数が半数になる暴露濃度)を指標にし
て,14 種の水田除草剤を比較すると,酸アミド系除草剤,カーバメート系除草剤では緑
藻 P. subcapitata が 4 種の藻類の中で感受性が最も高い。一方,スルホニルウレア系除草
剤やトリアジン系除草剤に対しては,藍藻 M. tenuissima が,緑藻 P. subcapitata 以上の
著しく高い感受性を示す。また,珪藻 A.minutissima は緑藻 C. vulgaris と同程度の感受性
で,4 種の藻類の中では感受性は一般に低い(図1)。
3.酸アミド系除草剤,カーバメート系除草剤およびスルホニルウレア系除草剤では 4 種
藻類間で感受性差が大きい。特にベンスルフロンメチルに対する感受性差は大きく,最
も感受性の高い種(M. tenuissima)と低い種(A. minutissima)の間で 72h-EC50 に1万倍
以上も差がある(図1)。
[成果の活用面・留意点]
1.用いた珪藻 A. minutissima と藍藻 M. tenuissima はいずれも日本産であり,保存株化さ
れており入手が容易である。また長期継代培養も可能であり,生長阻害試験法は単細胞
緑藻の場合と同様に実施できる。
2.本試験法により新規開発除草剤の藻類に対する影響(感受性差の大小)を予測できる。
- 18 -
[具体的データ]
①
②
③
20μm
④
20μm
20μm
20μm
(緑藻) Pseudokirchneriella subcapitata ATCC22662
(Selenastrum capricornutum ATCC22662)
(緑藻)Chlorella vulgaris NIES-227
(珪藻) Achnanthes minutissima NIES-71
(藍藻) Merismopedia tenuissima NIES-230
①:
②:
③:
④:
#
#
*
*
*
1×103
72-h EC50 (μg/L)
#
#
1×104
1×102
10
:
:
:
:
:
1
酸アミド系
トリアジン系
スルホニルウレア系
カーバメート系
その他
はEC50が>(より大)である
ことを示す。
ベンタゾン
ダイムロン
ジメピペレート
モリネート
イマゾスルフロン
キノクラミン
エスプロカルブ
ベンチオカーブ
メフェナセット
ベンスルフロン
メチル
シメトリン
ジメタメトリン
カフェンストロール
プレチラクロール
0.1
除草剤名
図1
14 種水田除草剤に対する 4 種藻類の 72h-EC50 の比較
*水溶解度による暴露濃度の限界
#暴露濃度の上限は10000(μg/L)
[その他]
研究課題名:除草剤の高感度分析法の開発と藻類に対する影響評価法の検討(水田用除草剤
の水系における拡散経路の解明と藻類等水生生物に対する影響評価法の開発)
予算区分 :環境研究[日韓水質保全]
研究期間 :2003 年度(2003∼2005 年度)
研究担当者:石原 悟,堀尾 剛,遠藤正造
発表論文等:
1)Ishihara et al.,SETAC 22nd Annual Meeting Abstract Book,206(2001)
2)石原,植調,36,22-31(2002)
- 19 -
[成果情報名]PCR-Luminex 法を用いてイネいもち病菌の MBI-D 剤耐性菌を遺伝子診断する
[要約]イネいもち病菌のシタロン脱水酵素阻害剤(MBI-D 剤)耐性菌は,シタロン脱水酵
素遺伝子の1塩基変異を PCR-Luminex 法で解析することにより,多検体の中から迅速に検出
することができる。
[担当研究単位]化学環境部
有機化学物質研究グループ
農薬影響軽減ユニット
[分類]技術
[背景・ねらい]
イネいもち病防除薬剤として全国で広く使用されるシタロン脱水酵素阻害剤(MBI-D 剤)
に,最近西日本でいもち病菌の耐性菌が出現し問題となっている。この薬剤耐性はシタロン
脱水酵素遺伝子のコドン 75 における GTG(推定アミノ酸バリン)から ATG(同メチオニン)
への1塩基変異によって起こることが知られている(角ら,2003)。そこで,最近開発された
PCR-Luminex 法を用いて,耐性菌の迅速かつ多検体処理が可能な遺伝子診断法を開発する。
[成果の内容・特徴]
1.イネいもち病菌のシタロン脱水酵素遺伝子の MBI-D 剤耐性型(変異型 ATG)または感
受性型(野生型 GTG)配列を含む 2 種の DNA オリゴプローブを設計,合成し,予め蛍光
ビーズに固定する。次いで,いもち病菌より標識プライマーを用いて PCR 増幅したシタロ
ン脱水酵素遺伝子を熱変性後,ビーズとハイブリダイズさせて Luminex システム(日立ソ
フトウェアエンジニアリング(株))により解析する(図1)。なお,PCR プライマーは産
物の長さがハイブリダイゼーションに最適なサイズとなるように設計,合成する。
2.PCR-Luminex 法の適用により,イネいもち病菌のシタロン脱水酵素遺伝子における MBI-D
剤耐性変異を特異的に検出することができる(図2)。
3.この方法は従来法に比べて,制限酵素処理や電気泳動,エチルブロマイドによる電気泳
動ゲルの染色などの煩雑な操作を必要とせず,簡便で作業の安全性や快適性が高い。また,
正確かつ短時間に結果を判定することができるほか,96 穴のマイクロプレートを使用する
ので多検体処理(ハイスループット)が可能である。
4.PCR-Luminex 法の農業分野への適用は今回が初めてである。
[成果の活用面・留意点]
1.PCR-Luminex 法は新しい遺伝子多型判別法としての汎用性も高く,他分野への応用も十
分可能であるが,これを用いるためには Luminex システムの購入が必要である。
- 20 -
[具体的データ]
O
各プローブを異なる色
のビーズに結合させる
蛍光
ビーズ
C
OH
NH2
変異部位
5‘
3‘
DNAオリゴプローブ
カップリング
未標識プライマー
伸長
変異部位
5‘
ビオチン標識したプライ
マーでターゲット遺伝子
を増幅する
伸長
3‘
鋳型DNA
ビオチン標識プライマー
ストレプトアビジン
標識蛍光色素
ビオチン標識された
PCR産物をビーズ上の
プローブとハイブリダイ
ズさせ、蛍光標識する
Luminex システムによ
り、 ビーズを1粒ずつ
流しながら蛍光強度を
測定する
蛍光ビーズを用いた Luminex 法の原理
1000
1000
800
800
600
蛍光値
蛍光値
図1
400
200
600
400
200
0
A
0
G
A
塩基
G
塩基
薬剤感受性菌(野生型の塩基G)
薬剤耐性菌(変異型の塩基A)
図2 PCR-Luminex 法による耐性菌の遺伝子診断
[その他]
研究課題名:環境低負荷型農薬の創製を目指した全身抵抗性誘導機構の解明
(新規資材による生体防御機能等の活性化機構の解明)
予算区分
:運営費交付金
研究期間
:2003 年度(2003∼2005 年度)
研究担当者:石井英夫
- 21 -
[成果情報名]アシベンゾラルSメチルによるナシの黒 星 病 抵 抗 性 誘 導 には PGIP が密 接 に
関 与 する
[要約]病害抵抗性誘導剤であるアシベンゾラルSメチルによってナシの感受性品種‘幸水’
に黒星病抵抗性が誘導される過程で,ポリガラクツロナーゼ阻害たんぱく質(PGIP)遺伝子
の転写量が抵抗性品種と同様増大し,抵抗性発現には PGIP が密接に関与する。
[担当研究単位]化学環境部
有機化学物質研究グループ
農薬影響軽減ユニット
[分類]学術
[背景・ねらい]
植物の生体防御機能を活性化して各種病害に対する複合抵抗性を発現させる全身抵抗性誘
導の分子機構は,草本植物を中心に解明されつつある。しかし,殺菌剤使用回数が多いナシ
など永年性作物における抵抗性誘導の研究事例は少ない。そこで,抵抗性誘導剤であるアシ
ベンゾラルSメチル(ASM)によってナシに誘導される黒星病抵抗性機構の一端を明らかに
する。
黒星病菌の感染にはナシのペクチン分解が重要であり,この菌からはペクチン分解酵素で
あるポリガラクツロナーゼ(PG)が単離、精製されている。また,黒星病抵抗性品種では菌
糸が高頻度で変性,死滅し,PG の阻害は抵抗性品種で高いなどの知見がある。そこで,黒
星病菌の PG とナシの PGIP の相互作用に着目する。
[成果の内容・特徴]
1.遺伝子の塩基配列からアミノ酸配列を推定すると,ニホンナシの PGIP も病害抵抗性遺
伝子に特徴的なロイシンに富む繰り返し配列を持つことから,PGIP と抵抗性との関係が示
唆される。
2.黒星病菌に対するナシの抵抗性品種‘巾着’や非宿主であるセイヨウナシの‘フレミッ
シュビューティー’では,黒星病菌の葉への接種によって,PGIP 遺伝子の転写量が増大
する(図1)。また,ウェスタンブロッティングで調べた PGIP の蓄積量も増大する(図2,
矢印で示したのが PGIP)。
2.感受性品種‘幸水’に予め ASM を散布してから黒星病菌を接種すると,PGIP 遺伝子の
転写量が増大する(図3)。
3.ASM は黒星病菌に対して抗菌活性を示さないにもかかわらず,黒星病菌の感受性品種
‘幸水’に全身抵抗性を誘導して黒星病の発生を抑制する。ASM は対照の殺菌剤ポリカー
バメートやクレソキシムメチルと同様,圃場試験においても黒星病に対する防除効果を示
す(図4)。
[成果の活用面・留意点]
1.ASM はナシでは農薬登録がないので,試験研究目的以外には使用できない。
- 22 -
[具体的データ]
6
幸水
遺伝子の転写量
5
巾着
幸
フレミッシュビューティー
4
水
巾 着
フレミッシュビューティ
3
2
1
0
1
2
3
4
5
6
7
菌接種後の日数
菌接種後の日数
図1
0 1 2 3 5 7
0 1 2 3 5 7 0 1 2 3 5 7
0
ナシ葉における PGIP 遺伝子の発現
図2
ナシ葉における PGIP の蓄積
b
10
発病葉率(%)
蒸留水
8
遺伝子の転写量
20
ASM
6
4
15
10
2
a
5
a
0
0
0
1
2
3
4
5
6
ASM 50ppm
ポリカーバメート 750ppm
クレソキシムメチル 157ppm
無散布
7
菌接種後の日数
図3
a
アシベンゾラルSメチルで抵抗性を
誘導したナシの PGIP 遺伝子の発現
図4
アシベンゾラルSメチルのナシ黒星
病防除効果
[その他]
研究課題名:環境低負荷型農薬の創製を目指した全身抵抗性誘導機構の解明
(新規資材による生体防御機能等の活性化機構の解明)
予算区分
:運営費交付金
研究期間
:2003 年度(2003∼2005 年度)
研究担当者:石井英夫
発表論文等:
1)石井,今月の農業,47(10),13-18(2003)
- 23 -
[成果情報名]リンゴ火傷病が日本に侵入するリスクの推定法
[要約]リンゴ火傷病が日本へ侵入する確率の推定に関して,輸出元における火傷病の感染
確率のバラツキを考慮した新たな推定法を提案した。これを用いて推定を行うと侵入リスク
がより大きくなることが判明した。
[担当研究単位]生物環境安全部
昆虫研究グループ
個体群動態ユニット
[分類]行政
[背景・ねらい]
米国産リンゴの火傷病に対する日本の植物検疫措置は科学的証拠に基づかないとする米国
の主張により,WTO は 2002 年 6 月にパネルを設置した。米国側がパネル意見書の証拠資料
として採用した論文(米国産リンゴ果実を介した日本への火傷病の侵入・定着の可能性を定
量的に解析した論文,Roberts et al. 1998, Crop Protect. 17: 19-28)にはいくつもの問題が認め
られる。このため,その中の侵入リスクの推定技法に関して,感染果実が日本に持ち込まれ
る確率の推定法上の問題点を指摘し,それに代わる推定法を提案する。
[成果の内容・特徴]
1.輸出元における火傷病の感染確率は時間・場所によりばらつくはずであるが,米国で行
われている推定法ではそのようなバラツキが考慮されていない。本成果では,このバラツ
キを組み込んで,次の三つの仮定をおいて火傷病の侵入リスク(侵入確率)を推定する。
(1)輸入荷口の輸出元における果実の感染率が式(1)のベータ分布で近似的に表現できる,
(2)すべての荷口は輸出元の無限母集団からランダム抽出された果実からなっている,
(3)それぞれの感染果実は輸入後に独立に一定確率でリンゴ樹木に感染を発生させる。
2.第 i 番目の荷口によって侵入が引き起こされる確率 Pr(Zi ≥ 1)は式(2)で与えられ,1年あ
たりの侵入リスクはそれを式(4)に代入することにより求められる。そのパラメーターは最
尤推定法によって推定することができる。
3.パラメーターを推定するためには,輸出元の荷口からランダムにリンゴ果実を採取して
感染率を調べる必要がある。しかし,輸出元のデータは日本では利用できないので,計算
手順と推定値の性質を例示するために,ここでは便宜上 Roberts et al.(1998)に掲載され
ている圃場感染率のデータを用いる。
4.輸出元における感染確率のバラツキを考慮して推定すれば,1年あたりの侵入リスクの
推定値は 30.0×10−4 となる。一方,感染確率のバラツキを無視して推定した場合には,式
(3)を式(4)に代入することにより,侵入リスクの推定値は 5.9×10−4 となる。つまり,感染
確率のバラツキを考慮しない場合には侵入リスクが過小に評価されてしまう。
[成果の活用面・留意点]
1.本成果では推定技法について主張しているのであり,ここで暫定的に算出した推定値自体
は必ずしも的確ではない。的確な推定値を得るためには,輸出元で正しい手順でデータを採
取する必要がある。
2.本成果の内容を記した論文は,日本側の主張の正しさを裏付ける証拠書類の一つとして
WTO パネルに提出された。
- 24 -
[具体的データ]
侵入リスクの定義(確率のかけ算)
左の確率コンポーネン
トのうち,F(1)P(1)の推
定法に関して反論
感染果実が日本に持ち込まれる確率 F (1)P (1)
×
感染果実上で火傷病菌が生存する確率 P (2)
米国で用いている推定法:
×
果実がリンゴやナシの近くに捨てられる確率 P (3)
輸出元での感染確率は一定
値であるとして推定
×
リンゴやナシが感染可能な状態である確率 P (4)
×
火傷病菌が果実からリンゴやナシへ感染する確率 P (5)
日本が推薦する推定法:
輸出元での感染確率にはバ
ラツキがあるとして推定
||
火傷病の侵入確率(=侵入リスク)
図1.侵入リスクの推定法
記号を次のように定義する。
第 i 番目の荷口を通じて少なくとも一つの果実
k : 1年に輸入される荷口の数
が火傷病の侵入をもたらす確率は
ni : 第 i 番目の荷口に含まれる果実数
Pr( Z i ≥ 1) = 1 − ∫ Pr( Z i = 0|X i = x )f ( x )dx
Xi : 第 i 番目の荷口の輸出元における感染果
1
0
1
=1− ∫
x a −1 (1 − x )b −1 (1 − px )ni dx
0 Β(a ,b )
= 1 − 2 F1 ( −ni ,a; a + b ; p ) LLLLL(2)
1
実の率
μ: Xi の平均
Zi : 第 i 番目の荷口を通じて日本にもたらさ
ここに 2F1 はガウスの超幾何関数である。また,
れる感染果実の数
p : 感染した1果実が国内に入ったときに,
輸出元における感染率が場所や時間に依存せ
それが火傷病の侵入をもたらす確率( =
ずに常に一定と仮定する場合には
P (2)P (3)P (4)P (5))
Pr( Z i ≥ 1) = 1 − (1 − pµ )ni
仮定から,Xi の確率密度は次のベータ分布で
与えられる。
1
f (x ) =
x a −1 (1 − x )b −1 LLLLL(1)
Β(a ,b )
LLLLLL(3)
また,ある年に侵入が生じる確率 R は
k
R = 1 − ∏ 1 − Pr( Z i ≥ 1) LLLLLL(4)
i =1
図2.提案した推定式の導出の概略
[その他]
研究課題名:生物の侵入速度および侵入リスク推定手法の開発
(ハモグリバエ等に対する導入寄生蜂等が非標的昆虫に及ぼす影響の評価)
予算区分 :運営費交付金
研究期間 :2003 年度(2003∼2005 年度)
研究担当者:山村光司,勝又 肇(横浜植防),渡邊朋也(中央農研)
発表論文等:
1)Yamamura et al.,Biological Invasions,3,373-378(2001)
- 25 -
[成果情報名]ショウガ科植物に寄生する外来性青枯病菌系統の侵入と伝搬
[要約]わが国で初めて,高知県において発生したショウガ科植物の青枯病菌(Ralstonia
solanacearum)は, レース 4 および生理型 4 である。rep-PCR 解析の結果,タイまたは中国由来と
考えられる2つの系統が,それぞれ異なる経路で高知県に侵入・伝搬したと推察される。
[担当研究単位]生物環境安全部
微生物・小動物研究グループ
微生物機能ユニット
[分類]学術
[背景・ねらい]
青枯病菌は, 熱帯から温帯に広く分布し,5つのレース(宿主植物に対する寄生性の違い),お
よび炭水化物の利用性に基づく6つの生理型(biovar)に,それぞれ類別される多様な系統が存在
する。わが国では従来, 40数種の宿主植物が知られ,トマト,ナス等に寄生性のあるレース1とジ
ャガイモに特異的なレース3, および生理型 N2, 3, 4 が在来系統として報告がある。近年, わ
が国で初めて,高知県において, 新たに3種のショウガ科植物(クルクマ,ショウガ,ミョウガ)
に青枯病が認められ,被害が拡大している。そこで, 同病原細菌の同定と分子生物学的手法によ
る外国産菌株との比較を行い,新規系統の由来と伝搬経路について検討する。
[成果の内容・特徴]
1.クルクマ,あるいはショウガでそれぞれ確認された青枯病菌は,侵入後, ショウガおよびミ
ョウガへの感染,発病を通して伝搬,拡大している(図1)。
2.わが国で3種ショウガ科植物から分離された青枯病菌株は,マンニット,ソルビット,ズル
シットの利用性が陽性,マルトース,ラクトース,セロビオースについては陰性であり,既報
の知見と一致し,生理型 4 と判定される。
3.ナス科およびショウガ科植物に対する接種試験から, 在来系統(レース 1, 3)は後者に病原
性を示さず, 一方,ショウガ科植物からの分離菌株は,原宿主に加え,ジャガイモ,トマト等
にも病原性を有することから,わが国初のレース 4 系統と判定される(表1)。
4.細菌ゲノム中の反復配列間の領域を指標として DNA 多型を検出する rep-PCR 解析の結果, シ
ョウガ科植物分離菌株には在来系統では未報告の2つの DNA パターンが認められ,それぞれタ
イ産菌株(I型)および中国またはオーストラリア産菌株(II 型)と同一である(図2)。
5.以上から,タイに由来し,クルクマに感染,侵入した I 型系統は,その後ショウガおよびミ
ョウガへと伝播,拡大し,一方,オーストラリアまたは中国経由でショウガを通じて侵入した
II 型系統は,I 型系統とは異なる経路で,それぞれ高知県内での定着を果たしたものと推測さ
れる(図1)
。
[成果の活用面・留意点]
1.外来性微生物種の分布拡大や安全性に関する評価手法の確立に資する。
2.青枯病菌の多様性研究の新規素材として利用可能であり,また侵入・導入生物に関するデー
タベースの構築に貢献する。
- 26 -
[具体的データ]
1997.9.
△
1998.7-1999.2
▲▲
▲
● 2000.4 ●
●
1999.8 ●
1998.7
1995.8
I 型(
▲
):◎(クルクマ)
△(ショウガ)●(ミョウガ)
)
:▲(ショウガ)
II型(
◎
▲
タイ由来
1997.5
図1
中国由来
高知県におけるショウガ科植物青枯病の発生地と
推定される外来系統の侵入,伝搬経路
インドネシア
日
本
オースト
ラリア
◎
中 国
タ
イ
表1
ショウガ科植物由来の青枯病菌
と在来系統菌との病原性の比較
2.1
1.0
病原性(萎ちょう程度)
レース4
レース1 レース3
(ショウガ由来)
(トマト由来)
(ジャガイモ由来)
トマト
0-中
中-強
0-弱
ナス
弱-中
中-強
0
ピーマン
弱-中
中-強
0
タバコ
HR
弱-中(HR)
0
ジャガイモ
弱-強
中-強
中-強
ショウガ
中-強
0
0
ミョウガ
中-強
0
0
HR: 過敏感反応
検定植物
0.3
II 型
I 型
II 型
I
型
図2
rep-PCR (BOX プライマー)による各国産
ショウガ科植物青枯病菌の DNA パターン
[その他]
研究課題名:環境微生物等の増殖促進・抑制に影響を及ぼす環境要因の解明
(微生物及び植物の二次代謝物等が微生物の増殖に及ぼす影響の解析)
予算区分 :運営費交付金
研究期間 :2003 年度(2001∼2005 年度)
研究担当者:土屋健一,澤田宏之,高橋真実,吉田隆延,矢野和孝(高知農技セ),
堀田光生(北海道農研セ)
発表論文等:
1)土屋ら,日植病報,65(3),363(1999)
2)Tsuchiya et al.,The 1st Int. Conf. Tropic. Subtropic. Plant. Dis.,11(2002)
3)Tsuchiya et al.,Proc. Int. Semi. Biol. Invasions,305-317(2003)
- 27 -
[成果情報名]マメ科植物根粒菌のモニタリング手法開発のための 16S rDNA 情報
[要約]マメ科植物根粒菌およびその近縁菌の 16S rDNA 配列をもとに菌種間の系統関係を
明らかにし,配列上の相違点が明瞭にわかるように整理した。これらの情報を利用すること
で,根粒菌に対する特異性の高いモニタリング技術を開発することが可能になる。
[担当研究単位]生物環境安全部
微生物・小動物研究グループ
微生物機能ユニット
[分類]学術
[背景・ねらい]
根粒菌の効果的な利用技術を確立するためには,対象とする根粒菌を特異的にモニタリン
グし,その動態を把握する必要がある。しかし,根粒菌と近縁菌との系統関係の解明が十分
でなく,菌種間における性質の違いが明確になっていないために,モニタリングの指標とし
て利用できるような特異性の高い情報を入手することが困難であった。そこで,根粒菌およ
びそれ以外の多数の細菌の 16S rDNA の配列データを蓄積して系統解析を行うとともに,菌
種間における配列上の相違点を整理することによって,モニタリング技術を開発するために
必要な情報を得る。
[成果の内容・特徴]
1.既知のすべての根粒菌(新種と考えられる野生株を含む 13 属 59 菌株)や,様々な環境
中に生息する細菌(1142 菌株)の 16S rDNA の配列データを蓄積した。このデータを用い
て系統樹を作成したので,各根粒菌に対してどのような細菌が近縁であるかが具体的に把
握できる(図1)。
2.根粒菌と近縁菌の 16S rDNA の配列情報を整理してデータセットを作成したので,菌種
間における配列の相違が明瞭にわかる(図2)。
3.モニタリング対象の根粒菌について,系統樹をもとにその近縁菌を把握した後,データ
セットを利用して両者の間の配列の相違を探索する。得られた配列をもとに,目的とする
根粒菌に対して特異性の高いプライマーやプローブを設計することができる。
[成果の活用面・留意点]
1.ここで得られた情報は,根粒菌だけでなく,近縁の有用菌や有害菌などのモニタリング
やセンシング技術の開発へも利用可能である。
2.16S rDNA の配列が互いにきわめて類似している一部の近縁菌種を識別するためには,
配列の置換速度が 16S rDNA より速い遺伝子を新たな指標として採用することが必要である。
3.データセットの利用希望者は,研究担当者([email protected])に連絡する。
- 28 -
[具体的データ]
図1 16S rDNA 配列に基づいた
根粒菌およびその近縁菌の系統関係
(代表的な菌株のみを用いて作成
した系統樹の一部を抜粋した)
Rhizobium 属
Allorhizobium 属
Agrobacterium 属
Blastobacter 属
この系統内に含まれている細菌の
属名を右側に書き出した。
系統樹上における根粒菌の位置,
および根粒菌を含む属は●で示した。
サンプル名
塩基配列
図2 根粒菌およびその
近縁菌における 16S rDNA
配列の相違
(一部を抜粋した)
一番上の Rhizobium
leguminosarum(サンプル
番号 769)の配列と異なる
塩基のみを示し,同じもの
についてはドット( . )
とした。
[その他]
研究課題名:環境微生物等の増殖促進・抑制に影響を及ぼす環境要因の解明
(微生物及び植物の二次代謝物等が微生物の増殖に及ぼす影響の解析)
予算区分 :運営費交付金
研究期間 :2003 年度(2001∼2005 年度)
研究担当者:澤田宏之,吉田隆延,高橋真実,土屋健一
発表論文等:
1)澤田,土と微生物,57 (1) ,39-64(2003)
2)澤田・土屋,日本植物病理学会報,69,349-365(2003)
3)Sawada et al.,J. Gen. Appl. Microbiol.,49,155-179(2003)
- 29 -
[成果情報名]チャノコカクモンハマキの交信撹乱剤抵抗性系統の作出と抵抗性の要因
[要約]ハマキガ類の防除を目的とした交信攪乱剤(ハマキコンL)処理によりチャノコ
カクモンハマキに抵抗性が生じた茶園から本種を採集し,交信撹乱剤処理下で採卵,飼育
を繰り返し,抵抗性系統を確立した。感受性,抵抗性両系統の雌雄の交尾行動を調査し,
両系統間で雄の嗅覚能力に違いが生じていることを明らかにした。
[担当研究単位]生物環境安全部 昆虫研究グル−プ 昆虫生態ユニット
[分類]学術
[背景・ねらい]
チャノコカクモンハマキの性フェロモンは4成分から成るが,そのうちの1成分だけを
使った交信攪乱剤(ハマキコンL,成分:(Z)-11-tetradecenyl acetate)は 1983 年に農薬登
録されたが,連年使用されていた一部地域で 1995 年頃からその効果が低下した。性フェロ
モンによる交信撹乱には抵抗性が生じにくいとされているので,これは世界的にも初めて
の事例であり,その原因については雌の性フェロモンの変化,雄の感覚器官の麻痺からの
回避,さらには種の変化など多くの仮説が提唱されている。環境に影響の少ない害虫防除
法として重要なフェロモン利用の将来を考える上で,この原因の解明は重要である。そこ
で,交信撹乱剤に対する抵抗性発現の要因の解明をめざし,抵抗性系統を作出し,抵抗性
の要因を検討した。
[成果の内容・特徴]
1.抵 抗 性 個 体 群 の 発 生 地 か ら 約 6,000 頭 の チャノコカクモンハマキを 採 集 し ,こ れ を 用
い て 交 信 撹 乱 剤 処 理 下 で 採 卵 , 飼 育 を 繰 り 返 し た 。 1996 年 に は 30µg/L の 処 理 で 交 尾
を 阻 害 で き た が , 44 世 代 後 に は 1mg/L 処 理 で も 半 数 が 交 尾 す る 抵 抗 性 系 統 を 確 立 し
た (図1)。性フェロモン抵抗性系統個体群を育成したのは,世界で初めてである。
2.抵抗性系統を用いて,触角の交尾への役割を確認するため雄の触角を切除して交尾試
験を行ったところ,触角一本を半分切除,一本を全切除,両方を半分切除した場合には
処理しない場合と同様に 70%が交尾したが,全切除した雄は交尾できなかった。
3.感受性および抵抗性系統の雌雄を交信撹乱剤処理下で経時的に観察した結果,歩行活
動,求愛行動など全く同様で差異はなかったが,感受性系雄では求愛行動を行っている
雌と接触しても交尾行動を行わなかった。
4.1mg/L と 10mg/L の交信撹乱剤処理下で交尾試験を行った結果,感受性系雄との組み
合わせでは交尾は行われず,抵抗性系雄と両系統の雌を組み合わせた場合には交尾が行
われた。従って,抵抗性は雄に生じていると考えられる(表1)。
5.チャノコカクモンハマキの性フェロモンで,最も量の多い成分である(Z)-9-tetradecenyl
acetate は,抵抗性を生じさせた交信撹乱剤(ハマキコン L)には含まれていない。それ
に も か か わ ら ず , 今 回 作 出 し た (Z)-11-tetradecenyl acetate 抵 抗 性 系 統 は , (Z)-9tetradecenyl acetate を処理しても交尾阻害を起こさず,この成分に対しても抵抗性であっ
た(図2)。
6.チャノコカクモンハマキの性フェロモン組成(4成分)を持った剤で感受性および抵
抗性系統を処理すると,両系統とも 100µg/L で交尾は完全に阻害され(図3),抵抗性
を示さない。
[成果の活用面・留意点]
1.交信撹乱剤の作用機構や抵抗性発現機構の解明などにチャノコカクモンハマキ抵抗性
系統を利用できる。
- 30 -
[具体的データ]
最初の世代
44世代後
120
120
交尾割合︵%︶
交尾割合︵%︶
100
100
80
60
40
20
80
60
40
20
0
0
1
3
10
0
30
0
撹乱剤の量(μg)
感受性系統
3
10
30
100
300 1000
撹乱剤の量(μg)
抵抗性系統
図1
チャノコカクモンハマキの感受性と抵抗性系統の交信撹乱剤処理濃度と交尾率
表1
交信撹乱剤処理下でのチャノコカクモンハマキ感受性と抵抗性系統の雌雄の組み合
わせによる交尾率 (S は感受性,R は抵抗性,♂は雄,♀は雌を示す)
S♂
S♂
R♂
R♂
S♂
R♂
R♂
供試虫
X S♀
X R♀
X S♀
X R♀
X R♀
X S♀
X R♀
処理濃度
交尾率(%)
1mg
1mg
1mg
1mg
10mg
10mg
10mg
0
0
53.3
60.0
0
55.0
60.0
雌数
雄数
30
30
30
20
40
40
20
36
36
36
24
48
48
24
20
100
交尾割合︵%︶
交尾割合︵%︶
80
15
60
10
40
5
20
0
0
1μg 10μg100μg 1mg
1μg
10μg
100μg
性フェロモン組成撹乱剤の量
10mg
(Z)-9-tetradecenyl acetaの量
感受性系統
感受性系統
抵抗性系統
図2 チャノコカクモンハマキの感受性
および抵抗性系統での(Z)-9-tetradecenyl
acetate 処理濃度と交尾率の関係
抵抗性系統
図3 チャノコカクモンハマキの感受
性および抵抗性系統に対する性フェロ
モン組成での処理濃度と交尾率の関係
[その他]
研究課題名:カメムシ等の誘引現象の解明
(カメムシ,ハマキガ等の放出物が周辺昆虫に及ぼす影響の解明)
予算区分 :運営費交付金
研究期間 :2003 年度(2001∼2005 年度)
研究担当者:野口 浩,杉江 元
- 31 -
[成果情報名]チャノコカクモンハマキの性フェロモン構成成分比の地理的変異
[要約]性フェロモンは種特異性が高く,その成分比は種ごとに一定と考えられている。
しかし,各地で採集したチャノコカクモンハマキの性フェロモンは,(Z)-11-tetradecenyl
acetate の比率が異なる。一方,各地の雄は,それぞれ該当する地域の雌が放出する性フェ
ロモンによく反応し,その変異に対応している。
[担当研究単位]生物環境安全部
昆虫研究グル−プ
昆虫生態ユニット
[分類]学術
[背景・ねらい]
チャノコカクモンハマキの放出する性フェロモンは,(Z)-9-tetradecenyl acetate (Z9-TDA):
(Z)-11-tetradecenyl acetate(Z11-TDA):E11-TDA:10-methyl dodecyl acetate の 63:31:4:2
の混合物であり,これに雄が反応して種を維持している。本種の近縁種は数が多く,同じ
物質を性フェロモン成分として使用し共存しているため,その成分比が種の隔離に非常に
重要な働きをしている。しかし,各地から採集した本種の性フェロモンの成分比は,主成
分の Z9-TDA と Z11-TDA の比率が異なっていた。種を維持する上で不利と思われるこの地
理的変異の実態を,個体ごとに性フェロモンを測定することによって明らかにする。
[成果の内容・特徴]
1.採集した同一個体群内では性フェロモンの成分比は安定しており,飼育温度,世代数,
日令などにより変化しない。
2.性フェロモンの組成は,関東,九州地方では Z11-TDA の比率(平均値)が低く,東海,
近畿地方では高い傾向にあり,中国,四国地方ではばらついており(図1),地理的変異
がある。
3.各地における Z11-TDA の比率の分布には,本種の性フェロモンとして報告されている
ように分布が低い方に偏っている例(図2の左列),高い方に偏っている例(右列),中
間的な例(中央列)がある。広島県世羅町と三和町などでは二山型の分布となり,Z11-TDA
の比率の異なる個体群が共存している可能性が示唆される。
4.Z11-TDA の比率が異なる入間市,島田市,四日市市(図2上段)から得られた雌,お
よび性フェロモンの構造決定に使用した累代飼育系統の雌を誘引源に用いて,これら3
地域で誘引試験を行った。各試験地において雄の誘引数が最も多かったのは,当該試験
地から得られた雌を用いた場合であり,雄の反応性はその地域の雌の放出する性フェロ
モンの成分比に同調していると考えられる(図3)。
[成果の活用面・留意点]
1.チャノコカクモンハマキの性フェロモンには地理的変異があるものの,合成性フェロ
モン剤は発生予察用に使用できる。しかし,その誘引性に地域的な違いが生じる可能性
があり,地域間での誘殺数の比較には注意が必要である。
- 32 -
[具体的データ]
図1 各地で採集したチャノコカクモンハマキの性フェロモン成分 Z11-TDA の比率
図2
各地におけるチャノコカクモンハマキの性フェロモン成分 Z11-TDA の比率の分布
入間市での雄の誘殺数
島田市での雄の誘殺数
20
80
15
60
10
40
5
20
0
0
四日市市での雄の誘殺数
50
40
30
20
入間市 島田市 四日市 累代系統
雌の由来
図3
10
0
入間市 島田市 四日市 累代系統
雌の由来
入間市 島田市 四日市 累代系統
雌の由来
各地の雌を誘引源とした場合の各試験地における雄の誘殺数の比較
[その他]
研究課題名:カメムシ等の誘引現象の解明
(カメムシ,ハマキガ等の放出物が周辺昆虫に及ぼす影響の解明)
予算区分 :運営費交付金
研究期間 :2003 年度(2001∼2005 年度)
研究担当者:野口 浩,杉江 元
- 33 -
[成果情報名]イヌホタルイのスルホニルウレア系除草剤の抵抗性遺伝子は集団中に急速に広まる
[要約]イヌホタルイのスルホニルウレア系除草剤抵抗性は単因子遺伝に支配され,感受性の遺伝子に
対して完全優性を示す。このような抵抗性遺伝子は,他殖率および感受性の埋土種子集団の存在にかか
わらず,この除草剤が持つ高い淘汰圧によって集団中に急速に広まる。
[担当研究単位]生物環境安全部 植生研究グループ 植生生態ユニット
[分類]学術
[背景・ねらい]
水田で使用される主要な除草剤としてスルホニルウレア系除草剤(SU 剤)があり,我が国でこれに抵
抗性を示す雑草は,現在までに 5 科 7 属の 11 種に及んでいる。これらの雑草のうち,イヌホタルイは
1997 年に北海道で初めて SU 剤抵抗性型が確認された後,宮城県(1998 年)
,福島県(2001 年)でも確
認され,全国的な発生が懸念されている。一方,除草剤抵抗性の遺伝子は除草剤による淘汰圧が高いほ
ど集団中に急速に広まるが,他殖性と感受性の埋土種子集団の存在は,除草剤抵抗性の遺伝子頻度の増
加を抑制すると考えられている。そこで, SU 剤(ベンスルフロンメチル;BSM)に対するイヌホタル
イの抵抗性の遺伝様式を解明し,それに基づいて,SU 剤抵抗性の遺伝子頻度の増加に及ぼす影響をモデ
ル化する。そして,このモデルによる数値実験結果と発生地における蔓延実態との整合性を評価する。
[成果の内容・特徴]
1.イヌホタルイを用いて,SU 剤感受性個体(S)の胚珠に SU 剤抵抗性個体(R)の花粉を交配させた
ヘテロ接合体(F1)を得た後に,この自殖種子(F2)を採種し,BSM 処理実験に供した。自殖種子
の分離比(R:S)は 3:1 を示し,この植物の SU 剤抵抗性は単因子完全優性遺伝することが明らか
となった(表1)
。この結果はこれまでの報告(アゼトウガラシ,ミズアオイ)と一致しており,こ
れらの種が属する 3 科(5 属 9 種)の SU 剤抵抗性については,同様の遺伝様式を示すと考えられる。
2.次世代の SU 剤抵抗性の遺伝子頻度は,SU 剤による淘汰圧,他殖性および SU 剤抵抗性と感受性の
埋土種子集団を考慮した,完全優性の1遺伝子座2対立遺伝子モデルにより式1のように表せる。
3.式1を用いた数値実験により,SU 剤抵抗性遺伝子頻度の増加を抑制する他殖率と感受性埋土種子
集団の効果は SU 剤による淘汰圧の効果に比べて低く,SU 剤抵抗性遺伝子は約 10 世代程度で集団中
に広まることが示された(図1)
。この結果は,イヌホタルイだけでなく,SU 剤の連用を始めてから
6∼7 年目に SU 剤抵抗性集団が初めて認められ,その後,年を重ねるほど多数の種で広域的に SU 剤
抵抗性集団が確認されているという我が国の SU 剤抵抗性雑草の出現パターンと良く一致している。
[成果の活用面・留意点]
1.SU 剤抵抗性雑草のうち,2 科(ミソハギ科とミゾハコベ科の 2 種)の抵抗性の遺伝様式は未検討で
ある。
2.式1は,単因子完全優性という遺伝様式を示す他の除草剤抵抗性雑草にも適用できるが,個体数が
十分に多い集団を仮定しており,個体数の少ない集団には適用できない。
- 34 -
[具体的データ]
表1 ヘテロ接合体イヌホタルイの自殖種子における SU 剤抵抗性型と感受性型の分離比
BSM 処理量 実験に供試した
うち出芽し
出芽個体の分離
期待値
χ2
P
3:1
0.00
1.00
24
3:1
1.37
0.24
28
3:1
0.14
0.71
(g/ha)
全種子数
た本数
抵抗性 (R)
感受性 (S)
(R:S)
24
120
116
87
29
120
120
118
94
240
120
119
91
式1 単因子完全優性を示す SU 剤抵抗性の遺伝子頻度モデル
t
pt +1 =
∑ (1 − r )
t −i
pi
i =0
t
(1 − s )(1 − r ) t +1 b0 + ∑ (1 − r ) t −i (1 − sqi ( qi (1 − F ) + F ))
i =0
ここで,pt:世代 t における SU 剤抵抗性対立遺伝子の頻度,qt:世代 t における SU 剤感受性対立遺伝子の頻度,r:埋土種
子の減少率,s:SU 剤の淘汰係数(SU 剤連用水田ではおよそ 0.99)
,b0:SU 剤感受性埋土種子の割合(初期の埋土種子数
/第1世代が生産した総種子数比)
,F:近交係数(近交弱勢を無視できる場合,F = (100 - 他殖率)/(100 + 他殖率))
.
100
100
感受性埋土種子の割合
感受性埋土種子の割合
5 世代後
80
60
40
20
0
0
10 世代後
SU 剤抵
抗性の遺
伝子頻度
80
600.8 -1.0
0.8 -1.0
0.6 -0.8
0.4 -0.6
0.2 -0.4
0.0 -0.2
0.6 -0.8
400.4 -0.6
0.2 -0.4
200.0 -0.2
0
20
40
60
80
0
100
20
40
60
80
100
他殖率 (%)
他殖率 (%)
図1 他殖率−SU 剤感受性埋土種子の割合(b0)平面における SU 剤抵抗性の遺伝子頻度マップ
(抵抗性遺伝子の初期頻度 p0 = 1.0×10-8,埋土種子の減少率 r = 0.5,淘汰係数 s = 0.99 の場合)
[その他]
研究課題名:除草剤抵抗性雑草の遺伝子拡散モデルの開発
(スルホニルウレア系水田除草剤施用が水田周辺の植物群落の種多様性に及ぼす影響)
予算区分 :バイテク先端技術[雑草防除]
研究期間 :2003 年度(2000∼2002 年度)
研究担当者:池田浩明,伊藤一幸(東北農業研究センター)
発表論文等:
1)Blancaver, et al.,Weed Biology and Management,1,205-209(2001)
2)Blancaver, et al.,Weed Biology and Management,2,60-63(2002)
3)伊藤ら,雑草研究,47(別)
,62-63(2002)
- 35 -
[成果情報名]土壌を用いた他感作用の検定手法の開発
[要約]植物の根から土壌に放出された他感物質の活性を評価する生物検定法を開発した。空中振とう
法で採取した根圏土壌に寒天を添加しそれに重層した寒天上に置床した検定植物の成育阻害状況から,
現地土壌中で発現する植物の他感作用を検出できる。
[担当研究単位]生物環境安全部 植生研究グループ 化学生態ユニット
[分類]学術
[背景・ねらい]
これまで,他感作用の 3 つの作用経路(根からの滲出,茎葉や残さからの溶脱,揮発性物質による揮
散)に特異的な検定法として,それぞれプラントボックス法(農業環境研究成果情報第 8 集)
,サンドイ
ッチ法(同,第 14 集)
,揮発性物質検定法(同,第 16 集)を開発してきた(表1)
。しかし,植物の根
から土壌に放出された物質が土壌中で示す活性を評価する手法がなかった。そこで,他感物質の濃度が
最も高い根圏土壌を材料とし,土壌中における他感物質の活性を評価するための検定法(根圏土壌法)
を開発する。なお,根圏土壌は「空中振とう法」
(岡島ら, 1973)に準じる。すなわち,植物の根系を攪
乱せずに採取し,手首を上下に軽く振ることによって落とした土壌を根域土壌,その後も根の表面に付
着している土壌を刷毛等で拭き落としたものを根圏土壌とする。
[成果の内容・特徴]
1.本法は根から放出された他感物質の,土壌中での活性を検定する方法であり,具体的な検定の手順
は次のとおりである:目の開き1mmの篩で根毛を除去した後の根圏土壌を,乾土換算で3.0g(4cm3相
当)秤量し,内径 3.5cmの6穴マルチディッシュに入れ,0.75%の寒天5mlを添加する。固化した後,
検定層として3.2mlの寒天を重層し,その上にレタス等の検定植物を置床する。暗黒下20∼25℃の恒温
装置中で3日間培養後,幼根長と下胚軸長を測定する(表1)
。
2.土壌に水を添加した培地および土壌に寒天を添加した培地を用いて,検定用植物の成育を比較した
結果,前者の培地では検定植物の成育は不良である。しかし,後者では十分な成育が確保されるため,
検定植物の成育差を測定しやすい。このように,土壌に寒天を添加した培地を用いることにより,土
壌中に含まれる他感物質の影響を容易に検出できる(図1)
。
3.本法を用いていろいろな植物の活性を測定した結果,他感作用の報告があるヘアリーベッチや,大
型侵入植物であるクワモドキの根圏土壌から,強い阻害作用が検出される(表2)
。
4.土壌が存在しない条件下で根から放出される物質の阻害作用を検定するプラントボックス法と本法
とを比較すると,同一植物でも後者で強い阻害活性が検出されることが多い(表2)
。両手法ともに高
い活性が検出される植物は,土壌を介しても他感作用を発現することが示唆される。このことから,
現場における植物の他感作用の発現を評価するために,本法は有効と考えられる。
[成果の活用面・留意点]
1.本手法(根圏土壌法)は他感作用を検定する他の手法とともに,遺伝子組換え農作物の生物多様性
影響評価にかかわる調査手法のひとつとして使用される(農林水産大臣がその生産又は流通を所管す
る遺伝子組換え生物等に係わる第一種使用規程の承認の申請について;施行文書,平成16年2月9日)
。
- 36 -
[具体的データ]
表1 根圏土壌法と他のアレロパシーに関する生物検定法の比較
検定する作用経路
【検定する物質】
サンドイッチ法
葉→(浸出する物質)→寒天→被検定植物
(Sandwich Method)
【主に水溶性物質】
葉や根→(揮散する物質)→濾紙→被検定植物
ディッシュパック法
【主に揮発性物質】
(Dish Pack Method)
根→(滲出する物質)→寒天→被検定植物
プラントボックス法
【寒天中で混植した時に相互作用する物質】
(Plant Box Method)
根→(滲出する物質)→栽培土壌→根圏土壌
根圏土壌法
を分離+寒天→被検定植物
(Rhizosphere Soil Method)
【土壌に吸着された物質】
方法名
表2 各種植物のアレロパシー発現に及ぼす
検定手法の比較
30
植物名
RS法 PB法 RS/PB
ヘアリーベッチ
74
90
0.82
クワモドキ(オオブタクサ)
73
80
0.91
下胚軸長
セイタカアワダチソウ
53
42
1.26
20
メヒシバ
27
71
0.38
ヨモギ
22
77
0.29
イヌビエ
22
69
0.32
カタバミ
18
75
0.24
10
オヒシバ
13
71
0.19
ホソアオゲイトウ
13
72
0.18
アキノエノコログサ
12
73
0.17
ショクヨウガヤツリ
10
43
0.23
0
スベリヒユ
8
81
0.10
WHC100%
WHC90%
WHC80% 根圏土壌法
ホナガイヌビユ
6
56
0.11
3
51
0.05
図1 土壌に添加する水の量あるいは寒天(根圏土壌法) アメリカセンダングサ
1)RS法:根圏土壌法、PB法:プラントボックス法
がレタスの成育に及ぼす影響
2)数値は、レタスを検定植物として用いたときの
WHCは最大容水量,値は平均値±標準誤差 (n=15)
根の伸長阻害活性(対照区に対する%)を示す。
長さ (mm)
幼根長
[その他]
研究課題名:遺伝子組換え植物が農業生態系に及ぼす作用の検出のための化学生態的手法の開発,
導入,侵入植物の生物検定法による他感作用の検定と作用物質の同定
(カテコール関連化合物を放出する植物の導入が周辺の植物や土壌環境に及ぼす影響解明)
予算区分 :バイテク先端技術[組換え体総合研究]
,運営費交付金
研究期間 :2003 年度(2000∼2003 年度)
研究担当者:藤井義晴,平舘俊太郎,荒谷 博
発表論文等:
1)Furubayashi et al.,Abstracts for the Third World Congress on Allelopathy,236(2002)
2)Parvez et al.,Plant Growth Regul.,40,139-148(2003)
3)Iqbal et al.,Weed Biol. Manage.,4,43-48(2004)
- 37 -
[成果情報名]ソバ属植物のアレロパシーとソバを利用した植生管理
[要約]アレロパシー活性をプラントボックス法で検定するとソバ属植物に強い阻害作用がある。ソ
バには,他感物質として没食子酸,ファゴミン,および数種のピペリジンアルカロイドが含まれてい
る。雑草が発生する前にソバを播種すると,顕著に雑草が抑制される。
[担当研究単位]生物環境安全部 植生研究グループ 化学生態ユニット
[分類]学術
[背景・ねらい]
遊休農地や法面などではエゾノギシギシやオオブタクサなどの雑草が繁茂して,
景観を損ねている。
除草剤や機械による刈り取りは環境影響や労力とコストの面で問題がある。このため,アレロパシー
活性の強い被覆植物を利用して,省力的に雑草を管理する方法が有効になる。これに対し,ソバは古
くから焼き畑農業において雑草害の顕著な3年目から栽培され,栽培時にほとんど除草を必要としな
い。そこで,ソバの雑草抑制作用を明らかにするとともに,現場での適用方法を検討する。
[成果の内容・特徴]
1.プラントボックス法(農業環境研究成果情報第8集)により被覆植物のアレロパシー活性を検定し
た結果,ソバ(Fagopyrum esculentum Moench)
,ダッタンソバ(F. tartaricum Gaertn.)
,シャクチリ
ソバ(F. cymosum Meisn. )等のソバ属植物の活性が強い(表1)
。
2.生理活性を指標としてソバに含まれる植物成長阻害物質を分離・精製した後,質量分析器,NMR
および旋光度計等により構造解析した。その結果,それらは没食子酸(gallic acid)
,ファゴミン
(fagomine)およびその関連のピペリジンアルカロイド(2-hydroxymethyl piperidine, piperidine-4-one)
であることを明らかにした(図1)
。
3.各成分のレタスに対する50%成長阻害濃度(EC50)とソバ中の含有量を比較した結果,没食子酸
はEC50 が5ppmと他成分より阻害活性が数倍強く,そのうえ地上部に乾燥重量で1.3%も含まれるの
で,主たる阻害活性成分である。また,没食子酸はキク科,アブラナ科,マメ科等の双子葉植物の
生育を5∼50ppmの濃度で50%以上抑制するが,イネ科植物への影響は小さい(表2)
。
4.ソバの雑草抑制効果を現地栽培試験によって確認した結果,雑草放任区では旺盛な雑草の発生が
認められたのに対し,ソバを雑草発生前に播種した区(6月播種区)では,雑草の発生は顕著に抑制
される。しかし、雑草発生後にソバを播種した区(7月播種区)では抑制効果が小さい(図2)
。ソ
バの下では広葉雑草はほとんど存在しないが、イネ科植物は残存する。
[成果の活用面・留意点]
1.ファゴミンと関連のピペリジンアルカロイドは最近発見された新しいアルカロイドであり,植物生
育阻害作用はこれまでに報告されていない。
2.ソバは,休耕地や法面等における雑草防除と景観向上を目的とした実用的な被覆植物となる可能
性がある。
- 38 -
[具体的データ]
表1 プラントボックス法による被覆植物の他感作用
植物名
ポテンティラ
マツバギク
ソバ(最上早生)
ダッタンソバ(ヒマラヤ系)
シバザクラ
シャクチリソバ
ヘアリーベッチ
ソバ(みやざきおおつぶ)
ハゼリソウ
セントオーガスチングラス
バーベナ・カナデンシス
キチョジョウソウ
スタイロサンセス・ハマタ
ネモフィラ
クルマバソウ
モモイロアサガオ
バーベナ・リギダ
スペアミント
スベリヒユ
ツルマンネングサ
ローマンカモミール
クリーピングタイム
ローズマリー
ダイコンドラ
アークトセカ
阻害率
(%)
Potentilla verna
77
Lampranthus spectabilis
75
Fagopyrum esculentum
73
Fagopyrum tartaricum
72
Phlox subulata
71
Fagopyrum cymosum
70
Vicia villosa
70
Fagopyrum esculentum
69
Phacelia tanacetifolia
68
Stenotaphrum secundatum
62
Verbena canadensis
58
Reineckea carnea
57
Stylosanthes hamata
52
Nemophila maculata
52
Asperula odorata
50
Ipomoea tricolor
50
Verbena rigida
49
Mentha spicata
48
Portulaca oleracea
45
Sedum sarmentosum
42
Chamomilla nobilis
40
Thymus serphyllum
32
Rosmarinus officinalis
20
Dichondra repens var. carolinensis
17
Arctotheca calendula
12
OH
COOH
学名
OH
HO
N
OH
CH2OH
H
OH
2-hydroxymethylpiperidine-3,4-diol
gallic acid
没食子酸
ファゴミン
O
N
CH2OH
N
H
H
2-hydroxymethylpiperidine
piperidin-4-one
図1 ソバから単離された植物成長阻害物質
データは、レタスを検定植物として用いたときの幼根伸長阻害率(%)
雑草放任区
太字はソバ属(Fagopyrum )
ソバ7月播種
ソバ6月播種
表2 没食子酸が各植物の生育に及ぼす影響
EC50 (ppm)*
植物名
科名
根 地上部
4
5
キカラシ
アブラナ科
レタス
キク科
5
50
シロツメクサ
マメ科
5
10
ムラサキウマゴヤシ
マメ科
8
46
ニンジン
セリ科
18
44
タマネギ
ユリ科
23
62
イネ
イネ科
100
100
ネズミムギ
イネ科
>100
>100
イヌビエ
イネ科
>100
>100
*EC50 (ppm)のデータは没食子酸が各植物の成長を
50% 阻害する濃度 (ppm)
雑草乾燥重 (g/m2)
200
150
100
50
0
7/1
7/21
8/10
8/30
9/19
10/9 10/29
[月/日]
図2 ソバによる圃場での雑草抑制試験
[その他]
研究課題名:導入・侵入植物の生物検定法による他感物質の検定と作用物質の同定(カテコール関連
化合物を放出する植物の導入が周辺の植物や土壌環境に及ぼす影響解明)
予算区分 :運営費交付金
研究期間 :2003 年度(2001∼2005 年度)
研究担当者:藤井義晴,荒谷 博,平舘俊太郎
発表論文等:
1)Iqbal et al.,Weed Biol. Manage. 2,110-115(2002)
2)Iqbal et al.,Weed Sci. 51,663-682(2003)
3)Fujii et al.,Weed Biol. Manage. 4,19-23(2004)
- 39 -
[成果情報名]土壌中の腐植酸を構成する炭素に占めるススキ由来炭素の割合
[要約]日本各地で収集した土壌から腐植酸を精製して炭素安定同位体比(δ13C 値)を測
定した結果,ススキなどの C4 植物に由来する炭素が腐植酸中の炭素に占める割合は
18~52%であり,ススキ以外の植物も腐植酸の生成過程で重要な給源であることを初めて
明らかにした。
[担当研究単位]生物環境安全部
植生研究グループ
化学生態ユニット
[分類]学術
[背景・ねらい]
日本の黒ボク土には黒味の強い腐植酸が異常に多量に蓄積されている。この黒色腐植酸
の生成・集積メカニズムの一つとして,ススキ草原を維持するために行われてきた野焼き
によって生成されたススキの燃焼微粒炭が腐植酸の給源であるとする学説が提案されてい
る。しかし,腐植酸を構成する炭素に占めるススキ由来の炭素の割合をこれまでに調べた
例はない。そこで,土壌から腐植酸を分離・精製し,その δ13C 値を測定することによって
ススキに代表される C4 植物に由来する炭素の含有率を明らかにし,日本の黒ボク土にお
ける腐植酸の生成・集積メカニズムの基礎的知見とする。
[成果の内容・特徴]
1.植物の δ13C 値は光合成システムによって大きく分かれ,C3 植物では約-27‰,C4 植物
では約-13‰となる。日本に自生する C4 植物の代表種はススキであり,そのバイオマス
は他の自生 C4 植物よりも圧倒的に多い。また,植物体の燃焼によって δ13C 値は変化し
ないことから(図1),腐植酸の δ13C 値を測定することによって,ススキに代表される
C4 植物に由来する炭素が腐植酸中に含まれる炭素に占める割合を見積もることが可能
である。
2.黒ボク土を含む日本の表層土壌 9 点から腐植酸を分離・精製した。δ13C 値は,燃焼型
元素分析計を直結した高分解能安定同位体質量分析計により測定した。その結果,腐植
酸に占める C4 植物由来炭素の含有率は 18∼52%と見積もられた(表1)。
3.腐植酸に占める C4 植物由来炭素の含有率は,非常に黒味の強い腐植酸(A 型腐植酸)
でも最大で 52%であった。このことから,ススキ以外の C3 植物も腐植酸の給源として
重要であることが初めて明らかになった。
[成果の活用面・留意点]
1.植生が安定している土壌では,土壌の δ13C 値を直接測定することによって,腐植酸に
占める C4 植物由来炭素の含有率を推定することができる。
2.ススキ以外の C4 植物としては,シバ,トウモロコシ,サトウキビ,ヒエ類がある。
このような植物が優占している土壌では,C4 植物由来炭素の含有率はススキ由来炭素の
含有率と一致しない可能性が高い。
- 40 -
[具体的データ]
δ13C 値(‰)
-10
C4 植物
-15
-20
-25
C3 植物
-30
無処理
Control 200℃
200℃ 250℃
250℃ 450℃
450℃ 部分灰化
PA
図1.加熱および部分灰化がススキ植物体の δ13C 値に及ぼす影響
表1.日本各地の土壌から分離・精製した腐植酸のδ13C 値および C4 植物由来炭素含有率
No.
採取地点および利用形態
土壌の母材
δ13C 値
C4 植物由来炭素
(‰)
含有率(%)
1
岡山県・鳥取大学蒜山演習林
火山灰
-19.7
52
2
青森県三戸町・ヒノキ林
火山灰
-20.4
47
3
茨城県つくば市・農環研畑圃場
火山灰
-20.6
46
4
茨城県つくば市・農環研水田圃場
火山灰
-22.1
35
5
青森県三戸町・ヒノキ林
火山灰
-22.8
30
6
岩手県久慈市・ヒノキ林
火山灰
-24.5
18
7
茨城県つくば市・農環研水田圃場
沖積堆積物
-23.6
25
8
沖縄県読谷村・サトウキビ畑
石灰岩,黄砂
-20.3
48
9
青森県三戸町・泥炭
火山灰,新鮮有機物
-22.2
34
注:上段の腐植酸ほど黒味が強く下段ほど淡い。No.1∼6 が黒ボク土。
[その他]
研究課題名: (カテコール関連化合物を放出する植物の導入が周辺の植物や土壌環境に及
ぼす影響解明)
予算区分
:運営費交付金
研究期間
:2003 年度(2000∼2005 年度)
研究担当者:平舘俊太郎,藤井義晴,荒谷
博
発表論文等:
1)Hiradate et al.,Geoderma,119,133-141(2004)
- 41 -
B.地球規模での環境変化と農業生態系との
相互作用の解明
- 43 -
[成果情報名]衛星画像を用いたモンスーンアジアでの主要穀物の栽培期間の推定
[要約]衛星から得られたデータが雲や水蒸気,大気混濁物質などの影響を大きく受ける
モンスーンアジア地域について,これらの影響を除去した植生指数(NDVI)画像を作成して
植生指数の季節変化を旬単位で明らかにし,主要穀物の栽培期間の分布を推定する。
[担当研究単位]地球環境部 食料生産予測チーム
地球環境部 気象研究グループ 気候資源ユニット
地球環境部 生態システム研究グループ リモートセンシングユニット
[分類]学術
[背景・ねらい]
気候および土地利用などの環境が変化することによって,現在の水資源の需給バランス
が崩れ,食料生産がその影響を受けることが指摘されている。水稲が主要穀物であるモン
スーンアジアではこの影響がとくに大きいと考えられ,この地域全体の食料生産の変化を
評価するためには,農耕地での水資源の需給バランスを左右する栽培期間とその分布を明
らかにする必要がある。そこで,モンスーンアジア全域を対象として,衛星画像の時系列
解析により主要穀物の栽培期間の分布を推定する。
[成果の内容・特徴]
1.モンスーンアジアという広域での植生を捉えるには,人工衛星から得られた植生指数
(NDVI)画像データが有効である。しかし,この地域には明瞭な雨季があり,そのため
画像データは雲や水蒸気,大気混濁物質などの影響を強く受ける。そこで,この影響を
取り除くために,画像データに時系列のフィルタリングと調和関数を当てはめる処理を
施した。これから,雲などの影響を取り除いた NDVI の季節変化が求まる(図1)。
2.主要穀物の栽培期間と NDVI の季節変化との関係を明らかにするために,均質な栽培
期間のデータが得られる日本の水稲について解析した。移植日から収穫日までを水稲の
栽培期間と定義し,また,移植日直後と収穫日直前の NDVI を求め,その度数分布を示
すと,NDVI は 0.4 を中心に分布する(図2)。さらに,図2と独立なデータを用いて,水
稲の栽培期間と NDVI が 0.4 以上の期間を比較すると,両者の差はほぼ 10 日の範囲に収
まる(図3)。中国黒竜江省と浙江省について,聞き取り調査を行ったいくつかの水田に
関しても,水稲の栽培期間と NDVI の季節変化は同様な関係が得られた。以上のことか
ら,水稲の栽培期間を NDVI が 0.4 以上の期間とする。
3.NDVI と,水稲,小麦,トウモロコシ,大豆など主要穀物の生育過程との対応が類似
であることから,穀物の種類が変わっても,NDVI の時間変化と栽培期間との関係は変
わらないと仮定し,モンスーンアジアの主要穀物の栽培期間に関する分布を推定する
(図4)。これによると,栽培期間は,東北日本で 150 日,西南日本で 250∼300 日と推
定された。また中国東北部では 100 日,華北地方では 150∼200 日,華南地方では 250
∼300 日と推定された。この様に,モンスーンアジアでは,地域によって主要穀物の栽
培期間に大きな違いがあることがわかる。
[成果の活用面・留意点]
栽培期間の分布を推定することによって,モンスーンアジアの農耕地での水需要量を推
定することができる。なお,この推定方法を適用する時は,前もって対象地域の農耕地分
布を明らかにしておく必要がある。
- 44 -
[具体的データ]
0.9
250
800
Processed Data
Raw Data
700
Digital
Number
NDVI
0.7
200
600
0.5
150
度数分布
500
0.3
100
300
100
0
図1.1998 年 4 月∼2002 年 3 月におけ
る四川盆地の正規化植生指数(NDVI)
の季節変化。Raw Data:雲等の影響を
除去する前の値,Processed Data:除去
後の値を示す。
0
0.2
0.4
NDVI
0.6
0.8
図2.日本の水田における,水稲の移植
日直後と収穫日直前の NDVI の度数
分布。
180
NDVIが0.4以上となる期間(日)
400
200
Apr., 2002
Apr., 2001
Apr., 2000
Apr., 1998
- 0.1
0
Apr., 1999
0.1
50
160
140
120
100
80
80
100
120
140
160
180
100
栽培期間(日)
図3.栽培期間と NDVI が 0.4 以上の期
間とを比較。破線に囲まれた領域はそ
の差が 10 日以内であることを示す。
150
200
250
300
350 (days)
図4.栽培期間を NDVI が 0.4 以上の期間
と定めたときの,モンスーンアジアにお
ける主要穀物の栽培期間の分布。
[その他]
研究課題名:農業生産マネージメント的視点から見た気候変動影響評価(地球規模の環境
変動に伴う生育阻害要因を考慮した東アジアのコメ生産力の変化予測)
予算区分 :文科省:先導的研究[水資源変動予測]
研究期間 :2003 年度(2001∼2003 年度)
研究担当者:鳥谷 均,大野宏之,西森基貴,石郷岡康史,原 政直(ビジョンテック)
発表論文等:
1)鳥谷ら,システム農学会 2003 年度春季シンポジウム・一般研究発表会講演要旨集,
69-70(2003)
2)鳥谷ら,農業環境工学関連5学会 2003 年度合同大会講演要旨集,70(2003)
3)Toritani et al., Program and abstracts on the international conference on research on water on
agricultural production in Asia for the 21st century, 30(2003)
- 45 -
[成果情報名]局地気象モデルを活用した水田の水温・地温の広域的な推定手法の開発
[要約]アメダスなどのルーチン気象データ,衛星による日射量推定値,ならびに局地気象モ
デルによって計算される気象情報を統合化し,熱収支理論に基づいて水田の水温・地温(日平
均値)の 1km メッシュ分布の実況ならびに予測値を計算する手法を開発した。
[担当研究単位]地球環境部 気象研究グループ 気候資源ユニット
[分類]学術
[背景・ねらい]
水田の水温・地温は,水稲の重要な生産環境の 1 つであり,異常気象に対応した水稲の安定
生産技術の確立や水田からのメタン発生量評価などの目的で,その広域的な推定手法の確立が
求められている。そこで,アメダスなどのルーチン気象データ,衛星データ,ならびに局地気
象モデルによって計算される気象情報を統合化して,水田の水温・地温(日平均値)の 1km メ
ッシュ分布の実況ならびに予測値を計算する手法を開発する。
[成果の内容・特徴]
1.熱収支理論に基づき,水田の水温・地温を計算するためのモデル(以下「水田水温モデル」
とする)を新たに開発した。このモデルでは,気象データ(気温,湿度,風速,日射量,下
向き長波放射量)と葉面積指数 LAI を入力データとして,水田の水温・地温(深さ 0∼5cm)
の日平均値が計算できる。日平均水温と深さ 0∼5cm の日平均地温はほぼ一致するため,モ
デルでは両者を等しいと仮定している。北海道から九州にかけての複数地点の水田で実測し
たデータを用いて,生育初期から出穂期までのモデルの精度を調べた結果,平均偏差(測定
値と計算値の差の平均値)の大きさが概ね 0.5℃以内,2 乗平均平方根誤差(RMSE)は 1℃前
後であった。本モデルによって,水田の水温・地温におよぼす風速と LAI の相互影響を初め
て考慮することが可能となった。
2.水田の水温・地温(日平均値)の広域推定のために構築したアルゴリズムを図1に示す。
まず始めに,局地気象モデルによる気温,湿度,風速などの計算結果を,アメダスデータや
気象衛星 GMS データによる日射量の推定値と組み合わせることによって,水田の水温・地
温の計算に必要な 1km メッシュ気象データを作成する。また LAI については,1km メッシ
ュ気象データより水稲生育モデルを用いて計算し,水田水温モデルの入力データとする。
3.本手法によって推定した,東北地方における 1997 年 6 月 17 日の日射量ならび水田水温と
気温の差の 1km メッシュ分布を図2に示す。日射量の多い地域ほど水田水温と気温の差が大
きな傾向にあり,ほぼ妥当な水田水温の分布となっている。
[成果の活用面・留意点]
1.今回開発した手法では,日本気象協会の局地気象モデルと組み合わせることにより,水田
の水温・地温の 1km メッシュ分布の実況値,ならびに 51 時間先までの予測値を,はじめて
提供できるようになった。本手法を実際に運用すれば,異常気象時における水稲の減収・品
質低下の危険を事前に察知することが可能となり,被害回避のための対策(例えば深水管理
など)を効果的に実施できるようになる。
2.モデルでは灌漑水温が水田の水温・地温におよぼす影響は考慮されていない。減水深が大
きな水田では,灌漑水温が気温よりかなり低い場合(大まかな目安として日平均値で 10℃以
上の差がある場合)にその影響が無視できなくなり,水温は計算結果より低くなる。
3.水田水温は LAI に依存するので, LAI が水稲生育モデルの計算値と大きく異なる水田に
適用する場合には,注意が必要である。一方、水温・地温(日平均値)の水田水深に対する
依存性は小さい。
- 46 -
[具体的データ]
アメダスデータなど
局地気象モデル
気象データ
(1kmメッシュ)
気温・湿度
風速
GMS
データ
日射量
下向き大気放射量
水田水温モデル
水稲生育モデル
水田水温・地温
葉面積(LAI)
0
5
10
15
20
25
30
図1:水田の水温・地温(日平均値)の
広域推定のためのアルゴリズム(左側の
図)。水田水温モデルは今回新たに開発し
たものであり,局地気象モデルには日本
気象協会の AMEMOS を使用した。水稲生
育モデルには SIMRIW を使用し,作柄表
示地帯別に品種と移植日を設定する。
図2:図1で示されたアルゴリズムによ
って推定した,東北地域における 1997 年
6 月 17 日の日射量,ならび水田水温と気
温の差(日平均値)の 1km メッシュ分布。
右図で水田がないグリッドは黒塗りにな
っている(下の図)。
-1
35
0
1
2
3
4
5
6
7
8
Tw - −
Ta 気温
(C) (℃)
水田水温
-2 -1
Sd (MJm-2/day)
日射量(MJm
d )
[その他]
研究課題名:アメダス地域気象データ等を用いた水田水温・地温の予測評価システムの開発
(気候変動や二酸化炭素の濃度上昇による農業気候資源量の変動特性の解明と影
響評価法の開発)
予算区分 :総合研究 [協調システム]
研究期間 :2003 年度(2001∼2003 年度)
研究担当者:桑形恒男,石郷岡康史,長谷川利拡,米村正一郎,横沢正幸,川村 宏(東北大学),
辻本浩史(日本気象協会)
発表論文等:
1) 桑形ら,農業環境工学関連 4 学会講演要旨集,142(2002)
2) 桑形ら,日本気象学会秋季大会講演予稿集,252(2001)
3) 桑形ら,農業環境工学関連 4 学会講演要旨集,159(2001)
- 47 -
[成果情報名]水稲単作田の熱収支と CO2 フラックスの通年データセットの構築
[要約]FLUXNET の標準的な手法を用いた観測結果に基づき,水稲単作田のフラックスデータ
セットを構築した。非耕作期間を含む通年の熱収支諸項や,CO2 フラックス,気象要素の 30 分値
が,一定の基準による品質管理を施されて収録されており,欠測値や異常値は補完されている。
[担当研究単位]地球環境部
フラックス変動評価チーム
[分類]学術
[背景・ねらい]
陸域生態系の炭素循環の解明や植生の気候緩和機能の評価のためには,大気-植生-土壌系での
エネルギーや物質交換過程の総合的な観測とモデル化が重要である。しかし,農耕地を対象とし
た従来の観測研究は,作物の生育期間に限定されていたり,観測項目が限られた研究が多かった。
そこで,本研究では東アジアの代表的な土地利用である水稲単作田を対象として,国際的なフラ
ックス観測ネットワーク(FLUXNET)の標準的な方法を用いた総合的な観測を実施し,年間の 2/3
を占める非耕作期間を含む地表面の熱収支,CO2 収支に関するデータを提示するとともに,その
季節変化を明らかにする。
[成果の内容・特徴]
1.本成果は,慣行に従って管理された茨城県つくば市内の農家水田での観測結果に基づく。観
測水田の土壌は灰色低地土,栽培品種はコシヒカリ,栽植密度は約 18 株 m-2,最大葉面積指数
は約 5,平均湛水深は 3cm で,稲藁は収穫後の耕起の際に土壌中にすき込まれる。
2.データセットには,フラックスデータの他に,気象,土壌,植生のデータが含まれる(表 1)。
植生データを除いて,年間の各要素の 30 分値が収録されている。一定の基準に基づくデータの
品質管理が施され,フラックスの欠測値や異常値は,FLUXNET の標準的な手法を用いて補完
され,補完値であることを示すフラグが付されている。このデータセットから,各要素の日別
値や月別値が計算できる。
3.データセットを用いて計算したフラックスほかの要素の日別値(図 1)から,水稲単作田で
は年間を通じて有効エネルギーの大半が潜熱フラックスに分配されるが,土壌が乾燥する春季
(湛水開始前)には一時的に顕熱フラックスへの分配割合が増加する(ボーエン比が上昇する)
ことや,収穫後のひこばえ生育期間には水田からの CO2 の放出フラックスが減少することなど,
水田の熱収支や CO2 収支の季節変化の特徴が把握できる。
[成果の活用面・留意点]
1.本観測データは,水田と大気間のエネルギーや CO2 の交換に関するモデルの構築や,リモー
トセンシングの検証データとして利用できる。
2.本データセットには,2000 年から 2004 年までのデータが収録される予定であり,2001 年と
2002 年のデータの整備が完了した。データの修正,追加や要素の追加は随時行われ,説明用の
テキストデータとともに提供される。なお,冬季の CO2 フラックスのデータについては,精度
を検証中である。
3.本データセットの利用希望者は,研究担当者に連絡する。研究期間終了後には,本データセ
ットは Web サイトから公開される。
- 48 -
[具体的データ]
表 1 データセットに含まれる要素
分類
要素
フラックス
顕熱,潜熱(蒸発散量)
,CO2,運動量(摩擦速度)
気象,土壌
日射量(入射,反射),長波放射量(入射,反射),光合成有効放射束密度(入
射,反射,透過),気圧,降水量,風向,風速,気温,水蒸気圧,地温,水温,
水位,群落表面温度,地中熱フラックス,土壌体積含水率,CO2 濃度
植生
部位別乾物重,葉面積指数
図 1 データセットから計算した,つくば市真瀬の水稲単作田における(a)アルベド,(b)蒸発散
量,(c)ボーエン比(潜熱フラックスに対する顕熱フラックスの比),(d)CO2 純交換量の季節変
化。冬季の大きなアルベドは積雪による。CO2 純交換量は,水田からの CO2 放出を正値で示す。
[その他]
研究課題名:微量ガスフラックス評価手法の高度化
(農耕地や自然生態系におけるフラックス変動の評価)
予算区分 :運営費交付金
研究期間 :2003 年度(2001∼2005 年度)
研究担当者:宮田 明
発表論文等:
1) 宮田ら,環境省地球環境研究総合推進費終了成果報告書,B-3,58-72(2003)
2) URL:http://ecomdb.niaes5.affrc.go.jp/
- 49 -
[成果情報名]農耕地への有機物施用は亜酸化窒素の主要な排出源のひとつである
[要約]施用有機物の種類により亜酸化窒素の排出量は大きく異なり,施用有機物の C/N 比と亜
酸化窒素の排出量の間には負の相関関係がみられる。また,わが国の黒ボク土畑全体では,施用
有機物と化学肥料からの亜酸化窒素の排出量は同程度である。
[担当研究単位]地球環境部
温室効果ガスチーム
[分類]学術
[背景・ねらい]
気候変動枠組み条約に基づくわが国の温室効果ガス排出・吸収目録の算定において,農耕地へ
の有機物施用による亜酸化窒素(N2O)の排出量は,実測データが非常に少ないために化学肥料の
排出係数を用いて推定されている。このため現在の推定値の不確実性は大きく,その精緻化が課
題とされている。本研究では,日本の畑土壌の約 50%を占める黒ボク土において,有機物の施用
が N2O の排出(発生)に及ぼす影響について,実測データを用い定量的に評価する。
[成果の内容・特徴]
1. 農業環境技術研究所温室効果ガス発生制御施設におけるクローズドチャンバー法を元にした
連続自動測定試験の結果,施用有機物の種類により,N2O の排出量は大きく異なることが示さ
れた。C/N 比が比較的小さい有機物〔括弧内の数値は C/N 比〕〔発酵鶏糞(9.7),発酵豚糞(10.7),
菜種油かす(9.6),魚かす(4.2)〕からの N2O 排出量は尿素区よりも大きく,C/N 比の大きい
有機物〔牛糞堆肥(24.3),乾燥牛糞(15.9)〕からの N2O 排出量は尿素区よりも小さい傾向が
みられた(図1)。また,施用有機物の C/N 比と N2O の排出量の間には負の相関関係が見られ
た(図2)。
2. わが国の施用有機物の統計データを用いて N2O の排出量を推定するために,施用有機物を二
つのカテゴリー(C/N 比の大きい有機物および C/N 比の小さい有機物)に分け,各カテゴリー
の N2O の排出係数を本研究の結果を用いて表1のように算定した。N2O の排出係数は,いずれ
の値についても,IPCC ガイドラインのデフォルト値(1.25%)より小さい値であった。
3. 算定した排出係数と施肥量等の統計データを用いて,わが国の黒ボク土畑全体からの N2O の
排出量を試算した(表1)。その結果,わが国の黒ボク土畑における有機物施用による N2O の
排出量(0.36 Gg N yr-1)は化学肥料のもの(0.34 Gg N yr-1)と同程度であり,有機物施用は農
耕地からの N2O の主要な排出源のひとつであることが示された。
[成果の活用面・留意点]
1. 気候変動枠組み条約に基づくわが国の温室効果ガス排出・吸収目録の基礎データとして,そ
の精緻化に寄与する。
2. 施用有機物の C/N 比と N2O の排出量の関係をモデルに組み込むことにより,より詳細な排出
量推定が可能となる。
3. さらに多くの種類の有機物を用いて C/N 比と N2O の排出量の関係について検証する必要があ
る。また黒ボク土以外の土壌についても検討する必要がある。
4. 有機物施用による環境負荷については水質への影響などを含めて総合的に検討していく必要
がある。
- 50 -
[具体的データ]
150
排出量 (mgN/m2 )
2
排出量(mgN/m )
1000
100
50
尿素
乾燥牛糞
魚かす
牛糞堆肥
菜種油かす
発酵豚糞
発酵鶏糞
0
処理区
10
1
0
図1 有機物を施用した黒ボク土畑からの N2O
排出量
農業環境技術研究所・温室効果ガス発生制御施設で
の連続測定データのうち,施用後 30 日間の排出量を
示した。有機物区は右側より順に 2 種類ずつ 3 年間に
わたって得られたデータである。対象区として化学肥
料(尿素,3 年間の平均値)を用いた。施用量は全窒
素として各区 150 kgN/ha であり,全量を基肥とし,全
面全層に施用した。作物はチンゲンサイである。
表1
100
0.1
0
10
20
施用有機物のC/N 比
30
図2 黒ボク土畑における,施用
有機物の C/N 比と施用後 30 日
間の N2O 排出量との関係
供試有機物および施用量は図1のと
おり。
わが国の黒ボク土畑からの N2O 排出量の見積もり
化学肥料
C/N 比の小さい
有機物c
有機物
C/N 比の大きい
有機物d
排出係数 a(%)
0.21
0.55
0.08
活動量 b (Gg N yr-1)
162
54
78
132
0.34
158
0.29
135
0.06
28
0.36
163
有機物合計
排出量
(Gg N yr-1)
(Gg CO2 eq. yr-1)
a: 施肥 N に対する排出量。本研究の結果(年間測定値)をもとに推定した。なお化学肥料の値はつくば地域の他
の黒ボク土畑の結果[Yan et al. (2001), Cheng et al. (2002), Hou and Tsuruta (2003)] と同程度である。
b: 窒素施用量。農林水産省統計情報部・農業生産環境調査報告書(2000 年)と黒ボク土畑の面積割合より求めた。
c: 上述の環境調査報告書において,「有機質肥料」のすべての種類と「堆肥等」のうちの一部(豚糞堆肥,鶏糞
堆肥)を「C/N 比の小さい有機物」とした。
d:上述の環境調査報告書において,豚糞堆肥,鶏糞堆肥をのぞく「堆肥等」のすべての種類を「C/N 比の大きい
有機物」とした。
[その他]
研究課題名:農地における土地利用と肥培管理に伴う温室効果ガス等の発生要因の解明と発生抑制技術
の開発(農地の利用形態と温室効果ガス等の発生要因の関係解明および発生抑制技術の開発)
予算区分 :運営費交付金
研究期間 :2003 年度(2001∼2005 年度)
研究担当者:秋山博子,八木一行,須藤重人,西村誠一
発表論文等:
1)Akiyama and Tsuruta,J. Environ. Qual.,32,423-431(2003)
2)Akiyama and Tsuruta, Global Biogeochem. Cycles,17(4),1100,doi:10.1029/2002GB002016,
(2003)(インターネット版)
- 51 -
[成果情報名]トウモロコシ花粉飛散量自動モニター装置の開発
[要約]大粒径の大気生物粒子であるトウモロコシ花粉の飛散量を,簡易かつ連続的に自
動計測できるモニター装置を開発した。空中花粉の基準的測定法として広く用いられて
いるダーラム法による花粉計測値との相関は極めて高い。
[担当研究単位]地球環境部 気象研究グループ 大気保全ユニット,
生物環境安全部 組換え体チーム
[分類]技術
[背景・ねらい]
遺伝子組換え体花粉の飛散による同種間の交雑が問題となっている。これに対処するに
は,問題となる作物花粉の拡散動態を把握し,気象条件等との関係を明らかにしなければ
ならない。しかしながら,ダーラム法など既存の花粉計測法は,顕微鏡での花粉計数に多
大の労力を必要とする。そこで,代表的な風媒花植物であり,花粉による交雑が問題とな
っているトウモロコシについて,大粒径花粉の光学的および空気力学的特性を考慮して,
簡易に花粉飛散量の連続的な自動測定ができる装置を開発する。
[成果の内容・特徴]
1.トウモロコシ花粉はきれいな球状であり,粒径は花粉の中で特に大きく約 100µm もあ
る。これはスギ花粉のおよそ3倍の粒径,27 倍の重さに相当するため,同じ花粉でも全
く異なった光学特性と運動特性を持つ。農業環境技術研究所の圃場及び室内での試験に
よって,トウモロコシ花粉飛散量の計測に最適な光学系,気流系を作成する。
2.光学系について,半導体レーザーからの光は,光収束用及び調光用レンズを通して,
照射部において厚さ約 60µm のシート状ビームにして,花粉を照射する(図1a)。光源
の最適値は波長 780nm,出力 3mW である。
3.花粉に照射された光はあらゆる方位に散乱するが,前方と側方に検出器を設置し,受
光したパルス幅と強度をもとに識別アルゴリズムによって,該当粒径の球状粒子だけを
検出する。粒径識別レンジの幅が±20µm になるように,レンジの上限と下限を決定す
る。散乱光特性は,実際のトウモロコシ花粉を用いて取得する.
4.気流系について,大粒径の花粉は落下する際の慣性力が大きく,吸引口に入りにくい。
そこで,花粉を計測部に導くために,吸引口の前に気流を収束させる装置を設ける。各
種形状を比較した結果,ガラス製ロート(開口部直径 100mm)が効率よく花粉を捕捉し,
野外での花粉飛散に対して花粉モニターが適切に応答する(図1b)。吸引速度は毎分 4.1
リットルが最適である。濾過した気流を循環させることにより,応答が安定する。
5.本花粉モニター装置による花粉飛散量の日積算値は,空中花粉の基準的測定法として
広く用いられているダーラム法による花粉計測値(日値)との相関が極めて高く,相関
係数は 0.95 となる(図2)。
6.本花粉モニター装置を用いることで,時間分解能が向上するため,花粉飛散の日変動
がわかる(図3)。午前中にピークがあり,正午にはピーク濃度の半分以下に減少する。
日の出後の濃度増加は急であるが,ピーク後から夜にかけての濃度減少は緩やかである。
[成果の活用面・留意点]
1.遺伝子組換えトウモロコシの環境影響を推定するための試験研究で,大気モニタリン
グ装置として使用し,花粉の飛散量,飛散距離等の基礎データ取得に活用できる。
2.圃場に設置する際には,近隣植生などによる局所的気流の影響が入らないようにする
ため,植生などと密着しないようにする。
- 52 -
大気
前方散乱検出器
空気流路 光収束レンズ
半導体レーザー
整流管
(平面図)
側方散乱検出器
(立面図)
b) 気流系
調光シリンダーレンズ
大気吸引口
ガラス製ロート
空気排出口
流量計
砂塵濾過装置
毎
分 4.1
毎分
リットル
バルブ
4.1
・
花粉モニター装置による花粉飛散量(個/24m 3 )
[具体的データ]
a) 光学系
4500
4000
3500
3000
2500
2000
1500
Y = 316.01 + 34.243X
R = 0.949
1000
500
0
0
25
50
75
100
125
150
ダーラム法による花粉計測値(個/cm 2 day)
←循環気流
フィルター
ポンプ
循環気流方式
光学系 ←エアージャケット方式
図2 ダーラム法による花粉計測値と花粉モ
ニター装置による花粉飛散量の関係
フィルター 緩衝タンク
図1 トウモロコシ花粉モニターの光学系と気流系
花粉モニターによる花粉計測数(個/m 3 )
(破線内が既存のパーティクルカウンターに改良を加えた部分)
900
800
700
600
500
400
300
200
100
0
30
31
1
2
3
4
5
6
7
7月
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
8月
図3 トウモロコシ花粉モニターで計測された花粉飛散量の経時変化
[その他]
研究課題名:農業生態系における大気質の放出・拡散過程のモデル化と濃度評価手法の開発
(農業生態系における炭化水素,花粉,ダスト等大気質の放出・拡散過程の解明)
予算区分 :運営費交付金
研究期間 :2003 年度(2001∼2005 年度)
研究担当者:川島茂人,杜 明遠,井上 聡,米村正一郎,松尾和人,芝池博幸,吉村泰幸
発表論文等:
1)川島ら,第 3 回つくばテクノロジー・ショーケース(2004)
2)川島,日本生気象学会雑誌,40(1),37-47(2003)
- 53 -
[成果情報名]わが国の食料供給システムにおける 1980 年代以降の窒素収支の変遷
[要約] これまでの算定システムを一部拡充して,わが国の 1980 年代以降の窒素収支の変
遷を明らかにした。窒素の環境への総排出量は 1992 年をピークとして, 1997 年は減少して
いる。そのなかで輸入食飼料由来の窒素量の増加はとまらず,国産由来の窒素量の減少が
顕著に認められた。
[担当研究単位] 地球環境 部 生態システム研究 グループ 物質循環 ユニット
[分類] 行政
[背景・ねらい]
農業環境技術研究所は,環境保全や食料自給率向上の必要性を明らかにするために,食
飼料の生産,加工,消費までのフローをモデル化した全国版養分収支算定システムを用い
て, 1992 年までの窒素収支を公表してきた。一方,その後のわが国の食料の需給状況をみ
ると,依然として輸入の増加が続いている。そこで,養分収支算定システムの中で魚介類
等に関する算定方式を拡充して, 1982 年, 1987 年, 1992 年の窒素収支を再計算する。そし
て,新たに 1997 年の窒素収支を算定し,近年の窒素収支の変遷の実態を把握する。
[成果の内容・特徴]
1. 1982 年から 1997 年までの窒素収支の算定結果を,図に示す。前回に公表した算定値と
の 違 い は , 1992 年 の 環 境 へ の 総 排 出 量 で 約 40 千 tN の 増 加 と な っ て い る 。 こ れ は , 主
に,飼料品目の追加,食飼料品目の窒素含有率の補正及びシステムの拡充によるもの
で,全体の数値は前回までの算定値と整合している。
2.窒素収支算定の精度について,「環境」への排出量の大半を占める「食生活」と「畜
産業」を対象とし, 1997 年の排出量を用いて検討する。
(1)「食生活」から環境への排出量( 643 千tN)は,生ごみと生活排水(し尿・台所排水,
風 呂 等 ) と み な すこ と が でき る 。 生ご み は , 品目 別 の 食品 廃 棄 ・食 べ 残 し率 か ら , 42
千 t N と 推 測 さ れ る 。 残 り を 生 活 排 水 分 と し ( 601千 tN ), 生 活 下 水 基 本 原 単 位 を 用 い
た 見 積 量 の 543 千 tN ( 11.8g N / 人 ・ 日 × 12,600 万 人 × 365 日 )と 比 較 す る と , 約 10 % の
違いがある。
(2)「 畜産業 」から環 境への 排出量は 約 802 千 tN と推測 される。 このうち,家畜糞尿の
量は,牛・豚・鶏の家畜に対し,「飼料(肉骨粉等の副産物リサイクル分を含む)−と
畜体−畜産物(鶏卵,牛乳)」から,約 730 千tNと推測される。本量は, 1999 年におけ
る 飼 養 家 畜 に 対 し , 1日 1 頭羽 当 た り の 糞 尿 中 の 窒 素 原 単 位 を 用 い た 算 定 値 721 千 tN
(原田, 2001 )と同等である。
3. 1982 年から 1997 年の養分収支の変遷を概括すると次のとおりである。
(1)環 境 へ の 総 排 出 量 (年 間 の 総 消 費 量 )は , 1992 年 を ピ ー ク と し て , 1997 年 は , 若 干減
少している。
(2)国内生産と輸入の内訳からみると,総消費量の減少を上回る早さで国内生産量が減
少しており,その不足分を輸入分が補うという状況で推移している。
(3)輸入物の増加は,畜産業の場合でみると,飼料としての輸入はむしろ減少し,肉類
そのものの輸入が増えており,原料より半製品形態の輸入物の増加が顕著である。ま
た,加工業への供給量の輸入割合の増加,国内生産における作物残さの減少など,い
ずれも,食料全般にわたる国外依存の増加傾向を示している。
[成果の活用面・留意点]
1.本成果は,今後,マクロな観点から,家畜糞尿,食品加工残さ等の有機性副産物の有
効利用や廃棄物処理を検討する際の参考情報として活用できる。
- 54 -
[具体的データ]
輸出
輸入
食飼料
[ 穀類保管 ]
4
0
0
2
847
1035
1164
1212
在庫増
1
6
5
9
[ 加工業 ]
20
25
5
2
[ 畜産業 ]
0.1
0.1
0.2
0.1
[ 国内生産]
3
4
5
5
国内生産
食飼料
[総輸出]
27
29
11
9
311
362
373
402
633
665
584
510
140
143
144
130
398
440
449
441
穀類保管
109
104
98
97
3
3
3
3
300
327
329
297
18
23
27
33
137
146
159
161
加工業
306
326
305
309
215
231
241
230
137
160
176
172
食生活
200
210
146
117
在庫増
0
1
0
0
130
152
135
154
畜産業
畜産物
65
114
172
158
29
44
67
88
33
49
66
80
国産畜産物
167
190
193
183
712
798
835
802
10
20
31
33
化学肥料
683
669
572
494
579
631
652
643
85
87
69
63
165
169
168
154
40
51
52
41
環境(農地を含む)
1474
1655
1708
1675
[ 穀類保管 ]
現存量 在庫増
84 -15
77
2
60
4
96
11
[ 加工業 ]
[ 畜産業 ]
現存量 在庫増 現存量 在庫増
55
-5
92 -1
61
7
98 -1
58
18
100
2
58
19
94 -2
[ 食生活 ]
現存量
154
161
164
169
図 わが国の食料供給システムにおける窒素収支の変遷 (単位:千tN)
注)・4つ組の数値は,上から順に,1982年,1987年,1992年,1997年のフロ−及び現存量等に対応する。
・「輸入食飼料」の内部に示した 「畜産物」 は,半製品形態の輸入畜産物であり,「輸入食飼料」 の生産量の内数である。
・「畜産業」への入量は,輸入畜産物以外は家畜の飼料であり,これらによって「国産畜産物」が生産される。
・「国内生産食飼料」 と 「輸入食飼料」 からの環境への排出量は,主に,養魚用の魚粉などの消費によるものであり,また,
これらと,「穀類保管」,「加工業」,「畜産業」,「食生活」の各排出量との合計が,「環境(農地を含む)」への総排出量である。
・現存量は,「穀類保管」 と 「加工業」 ではストック,「畜産業」 と 「食生活」 では,家畜と人間の体内に含有される窒素量である。
・「化学肥料」 と 「作物残さ」は,システムの系外からの入量として示してあり,本収支算定には含めていない。
[その他]
研究課題名:全国版養分収支算定システムの拡充と整備
(物質収支算定システムの構築と環境負荷の定量化手法の開発)
予算区分 :運営費交付金
研究期間 : 2003 年度( 2001 ∼ 2005 年)
研究担当者:織田健次郎
- 55 -
作物残さ
226
231
221
209
[成果情報名]迅速測図を用いて過去 100 年間の土地利用変化を定量的に計測する
[要約]明治初期に測量された迅速測図と現存植生図を地理情報システム(GIS)で重ね合わ
せる手法を開発した。茨城県南部の牛久地域の過去 100 年間の土地利用変化の特徴は、草地、
林地の都市的土地利用への変化と草地の消滅に見られる。
[担当研究単位]地球環境部 生態システム研究グループ 生態管理ユニット
[分類]学術
[背景・ねらい]
明治初期(1880 年代)に平板測量で作成された迅速測図は,日本で初めて近代的な手法により
測量された地図であり,農業環境を復元するための貴重な資料である.しかし,迅速測図は投
影法が適用されておらず,現在の地形図などとの重ね合わせが難しい。これまでの迅速測図を
用いた土地利用変化の研究は,地図に格子をかけて比較する半定量的な評価を中心に行われて
きた。本研究では,土地利用変化の定量的な評価を可能にするために,迅速測図と現在の地形
図を高精度で重ね合わせる手法を開発する。その手法を用いて,「茨城縣河内郡牛久駅近傍」
を例として環境省の現存植生図(1980 年)との重ね合わせ処理を行い,土地利用変化の傾向を
明らかにする。
[成果の内容・特徴]
1.迅速測図に示されている土地利用境界線をデジタル化した上で,補正を二段階で行う。1
次補正:迅速測図と現地形図の間に共通する 4 つの基準点を選択し,その基準点を利用して
現地形図が使用する横メルカトール図法に迅速測図を幾何補正する。2 次補正:1 次補正し
た迅速測図を現地形図と重ね合わせ,残るずれをラバー・シーティングで更に補正する。特
に,水田など細長い地目は 2 次補正が必要である(図1)。今回使用した牛久地域の迅速図
の 1 次補正での RMS エラーは 1.7 メートルで,地形図をよい精度で重ね合わせが可能であ
った。また,2 次補正での総合 RMS エラーは X 方向 26.2 メートル,Y 方向 26.8 メートルで
あった。これは迅速測図内における歪み及び測量誤差と考えられる。
2.1880 年代の牛久地域では畑,水田などの農地とともに,林地や草地の農村的土地利用が大
部分であった(図2)。迅速測図と植生図を重ね合わせた結果,1880 年代から 1980 年代の土
地利用は,無変化(図幅面積の 35%),都市、造成地など都市的土地利用への変化(同 37%),
その他の田畑、林地、草地、緑の多い住宅地など農村的土地利用への変化(同 28%)の三つ
の傾向にまとめられる(図3)。一方、土地利用変化を迅速測図の地目毎に見ると,水田の
58%,畑の 44%が無変化であるが,林地の 48%と草地の 62%は都市的土地利用に変化して
いる(図4)。また、それぞれの地目から,他の農村的土地利用への変化も 21∼38%認めら
れ,農村的土地利用が固定されているものではなく,柔軟に変化している。
3.特に、草地が肥料などの供給地として農業景観の重要な構成要素であったことが明治初期
まで遡ることにより確認できる。牛久地域の草地は 14%を占めていたが,100 年の間にほと
んど消失している(図3,図4)。
[成果の活用面・留意点]
1.歴史地図をデジタル化し,高精度の補正を行うことにより,日本全国にわたって整備され
ている GIS 情報との比較が可能であり,さまざまな場面で農業環境の定量化や,農地面積だ
けでなく,生物の生息空間変動の解析などへの応用が可能である。
2.ただし,地図によっては精度が違うので注意が必要である。加えて,過去の地形図等はデ
ジタル化されていないものがほとんどであるため,入力作業が必要となる。
- 56 -
[具体的データ]
[その他]
研究課題名:農業生態系の空間構造変動に関する歴史地図および地形図等の活用手法の開発
(GIS を活用した農業生態系の空間構造変動の定量的把握手法の開発)
予算区分 :運営費交付金
研究期間 :2003 年度(2001∼2005 年度)
研究担当者:デイビッド スプレイグ,岩崎亘典
発表論文等:
1)Sprague,Landscape Planning and Horticulture,2(2),218-222(2002)
2)スプレイグ,Grassland Science,48(6),532-536(2002)
3) Iwasaki and Sprague,Society and Environment Interaction under Global and Regional Changes,
Abstracts,p. 330(2003)
- 57 -
[成果情報名]天然放射性核種
210
Pb は乾燥地草原での風食を示す指標として有効である
[要約]砂漠化に直面する乾燥地域の放牧試験区では、放牧圧が大きく、地表面が攪乱さ
れ風食を受けているところほど、土壌表層部に含まれる
を示す新しい指標として,天然由来の放射性核種である
[担当研究単位]環境化学分析センター
生物環境安全部
地球環境部
210
210
Pb 濃度が低いことから、風食
Pb を提案する。
放射性同位体分析研究室,
植生研究グループ
景観生態ユニット,
食料生産予測チーム
[分類]学術
[背景・ねらい]
世界の人口密集地域である東アジアでは,農耕地での土壌侵食や,砂漠化に伴う土地荒
廃や黄砂の発生が深刻な問題となっている。これらの問題を軽減するには,できるだけ早
く侵食や砂漠化を検知し,適切な対策を施すことが必要である。そこで,砂漠化域を対象
に,過放牧等による植生の退行とともに風食の初期段階で起こる,土壌中の微細粒子の移
動を検知するための指標として,天然に空中降下し微細粒子に吸着する,放射性核種
210
Pb
を活用することの有効性を検証する。
[成果の内容・特徴]
1. 210 Pb は,これまで侵食評価に活用されてきた核爆発由来の
137
Cs とは異なり,天然の
空中降下物であり, (1)侵食により一度表層の微細粒子が失われても,新たに集積する,
(2)半減期が約 22 年であり 10 年オーダーの変化を追跡できる,という利点をもつ。
2.210 Pb は,水に溶けて浸透することはなく,通常土壌の地表近くに集積されていること
から,表層の土壌を採取して濃度を比較することにより,土壌表層部の風食を推定でき
る(図 1)。
3.1992 年以降放牧試験(1996 年までは放牧,1997 年以降は全て禁牧)を実施した,中
国内モンゴル自治区奈曼の試験地(図 2)で,風食に対する
210
Pb の適用の有効性につい
て検討した。試験地は,比較的平坦であるが南側には比高 4m 程度の小さな砂丘が東西
に延び,放牧圧の異なる 3 つの試験区と禁牧区からなる。重放牧区の南側 3 分の 2 と中
放牧区の砂丘表面は,1996 年には裸地となり,夏季でも砂が飛散していた(図 3)。その
他の部分は,羊による踏圧を受けていたが,表面は草本で被覆されている。
4.1998 年 8 月に地表から深さ 5cm までの土壌を採取して,210 Pb(ex)放射能濃度を測定し
た。210 Pb 濃度は,放牧圧が高く,裸地化していた重∼中放牧区の場所ほど低い(図 4)。
また各放牧区の
210
Pb 濃度平均値は,禁牧区から重放牧区へかけて、植被率が小さくな
るにつれて、小さくなっている。この結果は,210 Pb 濃度分布が,植被の退行に伴う土壌
表層部の風食を,よく反映することを示す。
[成果の活用面・留意点]
1.本成果は,乾燥∼半乾燥地域の風食の前兆を検出することに有効である。また砂漠化
防止対策実施後の,微細粒子集積に伴う有機物含量の増加で示される,土壌肥沃度の評
価にも適用可能である。
2.表層物質の定着に関する定量的評価には, 210 Pb の降下量を検討する必要がある。
- 58 -
[具体的データ]
0
放射能濃度(Bq/kg 乾土)
20
40
60
80
100
軽放牧区
禁牧区 (2頭/ha)
0
中放牧区
(4頭/ha)
重放牧区
(6頭/ha)
N
4
深度(cm)
8
200
200m
300
100
12
0
16
-100
(cm)
図 1 標準土壌断面における
210
Pb(ex)放射能濃
38m
75m
75m
75m
図 2 放牧試験地の地形図(1996 年に測量した
度分布
比高分布)
軽放牧区
禁牧区 (2頭/ha)
中放牧区
(4頭/ha)
重放牧区
(6頭/ha)
軽放牧区
禁牧区 (2頭/ha)
中放牧区
(4頭/ha)
重放牧区
(6頭/ha)
21.0
8.9
N
75∼
50∼75
25∼50
5∼25
1∼5
0∼1
40∼
30∼40
20∼30
10∼20
0∼10
(Bq/kg乾土)
(%)
平均:
22.2
22.5
図 4 放牧試験地における土壌の 210Pb(ex)放射
図 3 放牧試験地における植被率(1996 年)
能濃度分布
[その他]
研究課題名:中国における砂漠化に伴う環境資源変動評価のための指標開発に関する研究
(中国における砂漠化に伴う環境資源変動評価のための指標の開発)
予算区分
:地球環境[砂漠化]
研究期間
:2003 年度(2001∼2003 年度)
研究担当者:藤原英司,大黒俊哉,白戸康人
発表論文等:
1)藤原ら,第 40 回理工学における同位元素・放射線研究発表会要旨集,173(2003)
2)藤原ら,第 39 回理工学における同位元素・放射線研究発表会要旨集,156(2002)
- 59 -
C.生態学・環境科学研究に係る
基礎的・基盤的研究
- 61 -
[成果情報名] 玄米に含まれるカドミウムのレーザーを利用した直接定量法の開発
[要約]玄米中カドミウム含量を,レーザー照射と ICP 質量分析装置を組み合わせることによ
り直接定量する手法を開発した。この手法は従来に比べ複雑な前処理が不要であり迅速な分析
が可能であることから,出荷時における分析として有用である。
[担当研究単位]環境化学分析センター
環境化学物質分析研究室
[分類]技術
[背景・ねらい]
現在,米に含まれるカドミウムの国際基準値の策定作業が進められており,0.2ppm の基準値
原案が提案されている。我が国では諸外国よりもカドミウム濃度が高い傾向にあるが,地域
差・品種間差が大きく実態把握には非常に多くの試料を分析する必要がある。また,収穫から
出荷までの短期間にカドミウム含量の評価を行わなければならない。しかしながら,従来の分
析法は強酸分解等の煩雑で時間を要する操作が必要であり短時間での多検体分析には向かな
い。そこで,米に含まれる微量のカドミウムを複雑な前処理なく迅速に直接分析できる手法を
開発する。
[成果の内容・特徴]
1.加圧成形された玄米粉末ディスクに波長 213nm のレーザーを照射し,気化したカドミウム
を ICP 質量分析装置(図1)で分析することにより,玄米粉末中カドミウムの直接定量が可
能である。
2.分析に必要な前処理は玄米の粉砕と加圧によるディスク成形のみであり,従来前処理に用
いられてきた強酸や有機溶媒・試薬は不要である(図2)。
3.基準値原案 0.2ppm の 1/10 以下の低濃度から 1ppm を超える高濃度試料まで分析が可能で
ある(図3)。
4.1検体当たり1回の分析時間は約 60 秒である。なおレーザー照射表面の不均一性のため
に分析値がばらつくので,1検体当たり 5 回の平均値を利用することが望ましい。
5.低濃度のカドミウムの場合はモリブデンオキサイド(95Mo16O)による質量干渉の補正
を行うことで,より正確な定量が可能になる(図4,表1)。
[成果の活用面・留意点]
1.従来の分析法の代替として多検体分析に利用できる。特に出荷時における迅速な分析法と
して有用である。
- 62 -
[具体的データ]
[その他]
研究課題名:農業環境中におけるカドミウム等微量元素の分離精製・ICP-MS 分析法の開発
(農業環境中のカドミウム等の超微量分析法の開発)
予算区分 :運営費交付金
研究期間 :2003 年度(2001∼2005 年度)
研究担当者:馬場浩司,渡邉栄喜,殷 煕洙,荒尾知人
発表論文等:
1) Baba et al., J. Anal. At. Spectrom., 18(12), 1485-1488(2003)
- 63 -
[成果情報名]多周波マイクロ波は全天候下で作物群落特性のリモートセンシングを可能にする
[要約]雲を透過し天候に左右されずに作物生育を観測できるマイクロ波領域のうち,L
バンドがバイオマスの,C バンドが葉面積指数の,X バンドが茎数密度の,Ka・Ku バンド
が穂重量の推定にきわめて有効である。
[担当研究単位] 地球環境部
生態システム研究グループ
環境計測ユニット
[分類]学術
[背景・ねらい]
環境保全のための精密農業管理,および地域・地球規模における農業生態系評価のため
に,リモートセンシングによる空間データの活用は不可欠となっている。しかし,特にモ
ンスーンアジアのように生育期に雲の多い地帯では,光学センサは良好なデータの取得頻
度が不十分な場合も多い。そのため,雲を透過するマイクロ波センサの利用が世界的に活
発化しつつあるが、マイクロ波信号が植被特性にどのように効果的に結びつけられるかに
ついては,実証データも定量的な理解もいまだ不十分な状態にある。そこで,比較的単純
な系である水田を対象に,多周波数・全偏波・多入射角のマイクロ波データを取得し,群
落特性との関係を解明する。
[成果の内容・特徴]
1.水田を対象に,地上約 5m に設置したマイクロ波散乱計によって多周波(Ka: 35.25 GHz,
Ku: 15.95 GHz,X: 9.6 GHz,C: 5.75 GHz,L: 1.26 GHz の 5 バンド),多偏波(水平 H,垂
直 V として,HH,HV,VH,VV の4種),多入射角(25o,35o,45o,55o)の全組合
み合わせにおける後方散乱信号を,移植前から収穫・耕起後までの全期間にわたって連
続測定した(図1)。
2.L バンドの水平偏波(HH)およびクロス偏波(VH と HV)の後方散乱係数 σ L は群落
バイオマス(生体重)B と最も密接な関係にあり,直線回帰モデルにより推定できる(図
2;B=0.4σ L +8.16)。C バンドの水平偏波およびクロス偏波の後方散乱係数 σ C は葉面積
指数 LAI と最も密接に関係しており,指数回帰モデルにより精度よく推定できる(図3;
LAI=0.28 e 0.31(
σ +25)
C
)。
3.X バンド σ X は群落の茎数密度 S に対して高い相関関係があり,ゆるやかな指数回帰モ
デルにより茎密度を高精度で評価できる(図4;S=66.9 e 0.113(
σ +35)
X
)。波数の高い Ka バン
ドおよび Ku バンドの後方散乱係数 σ Ku と登熟期の穂重量 H との間に密接な関係が見出
された。逆指数回帰モデルにより穀実収量に関する情報を直接とらえ得る(図5;
H=1.03[1- e -0.21(
σ Ku +21)
])。
[成果の活用面・留意点]
1.航空機,人工衛星から得られる合成開口レーダデータの解釈や,植被特性を定量評価
するためのモデル開発,異なる周波数データの同時利用手法の開発に役立つとともに,
将来の地球観測衛星・航空機センサの仕様策定の基礎となる。
2.本結果は水稲群落について得られたもので,類似の草本植物に適用できるが,畑地条
件では,土壌水分や地面粗度の影響を考慮する必要がある。また、推定精度は観測セン
サ固有の感度や誤差ならびに観測条件にも依存することに留意が必要である。
- 64 -
[具体的データ]
④
⑤
③
②
①
図 1 周 波 数 の 異 な る マ イク ロ 波 の
植 被 における後 方 散 乱 プロセ
ス; 浸透する深さによって受信
される後方散乱係数に含まれる
植 被 情 報 が異 なるため,多 周
波 センサを使 うことで,同 時 に
異種形質を評価できる。
6
1:1
r2=0.988
5
実測した葉面積指数 (m-2m-2)
実測した群落バイオマス(kg m-2)
バンド名 周波数 散乱プロセス
(GHz) ① ② ③ ④ ⑤
Ka
35.25
Ku
15.95
X
9.60
C
5.75
L
1.26
4
3
2
入 射 角 35°
水平偏波
1
0
1:1
r2=0.993
5
4
3
2
入 射 角 35°
クロス偏 波
1
0
0
1
2
3
4
5
6
0
Lバンドによる群落バイオマス推定値(kg m-2)
1
2
3
4
5
6
-2
Cバンドによる葉面積指数の推定値(m m-2)
図2 L バンドによる群落地上部バイオ
マス推定モデルの適合度
図 3 C バンドによる群 落 葉 面 積 指 数
推定モデルの適合度
1.2
実測した穂重 (kg m-2)
500
実測した茎数密度 (本 m-2)
6
2
r =0.991
400
300
200
100
入 射 角 35°
クロス偏 波
1:1
0
1:1
2
r =0.998
1.0
0.8
0.6
0.4
入 射 角 35°
垂直偏波
0.2
0
100
200
300
400
500
0.2
-2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
Kuバンドによる穂重の推定値(kg m-2)
Xバンドによる茎数密度の推定値(本 m )
図 4 X バンドによる群 落 茎 数 密 度 推
定モデルの適合度
図5 Ku バンドによる穂重推定モ
デルの適合度
注) 観測入射角は同一プラットフォームによる一括測定を想定して35°の結果を表示した。
[その他]
研究課題名:リモートセンシングおよびモデリングによる植 物 ・環 境 情 報 の計 測 評 価
(リモートセンシングによる植 被 動 態 の広 域 的 検 出 ・評 価 手 法 の開 発 )
予算区分 :運営費交付金
研究期間 :2003 年度(2001∼2005 年度)
研究担当者:井上吉雄
発表論文等:
1)Inoue et al., Physical Measurements and Signatures in Remote Sensing, 8, 427-436(2001)
2)Inoue et al., Proc. IGARSS2001, Australia, Vol. III, 1271-1273(2001)
3)Inoue et al., Remote Sensing of Environment, 81, 194-204(2002)
- 65 -
[成果情報名]熱赤外リモートセンシングによる表面温度は土壌面CO 2 フラックスの広域評価に有
効である
[要約]渦相関法により測定した裸地期間の土壌面 CO 2 フラックスは地中温度や土壌水分
よりも熱赤外リモートセンシングにより得られる表面温度と密接に関係していることが判
明した。広域観測が容易な表面温度による評価モデルは CO 2 動態の広域評価に有効である。
[担当研究単位] 地球環境部 生態システム研究グループ 環境計測ユニット
[分類]学術
[背景・ねらい]
CO 2 等ガスフラックスはシンク・ソースが面的であるため,点計測データによるモデリ
ングやリモートセンシングによる広域評価につなぐことが不可欠である。しかし,これま
で炭素収支に関わる土壌呼吸研究においては土壌水分や地中温度など面的に観測しにくい
パラメータについて日平均・月平均などの値を用いた相関が調べられているだけである。
そこで,広域観測が容易なリモートセンシングデータと CO 2 フラックスの間に有用な関係
を探索し,広域的かつ動的な変動評価法への道を開く。
[成果の内容・特徴]
1.典型 的 な 畑 地 生 態 系 ( つ く ば 市;腐 植 質 黒 ボ ク 土 ; 炭 素 含 有 率 3 . 7 % , 窒 素 含 有 率
0.31%; ダイズ-コマツナ-トウモロコシ-コムギの作 付 体 系 )において,微 気 象 ・植 物 ・リモ
ー ト セ ン シ ン グ デ ー タ お よ び 渦 相 関 法 に よ る CO 2 フ ラ ッ ク ス を 多 年 次 に わ た り 測 定 し た 。
2.全測定期間のうち作物根の呼吸がない裸地期間の土壌面 CO 2 フラックスと気温・土壌
等の環境要因の関係を1時間平均値に基づいて解析した結果,気温とは低い相関
(r 2 =0.28)があり,土壌体積水分率(表層 10cm)および地中温度(深さ 5∼10cm の平均値)
とはほぼ無相関であったのに対して,リモートセンシングによる土壌表面温度との間に
は密接な相関関係(r 2 =0.64)が見出された。
3.土壌面 CO 2 フラックス SSF CO2 は Q 10 関数を用いた次式に土壌表面温度を用いることで,
より的確に評価できる(r 2 =0.66, RMSE=0.098; 図2)。
SSF CO2 = a Q 10 ( TIR -20)/10 – b
Q 10 は温度係数,T IR はリモートセンシングによる土壌表面温度,a と b は係数
Q 10 係数は 1.45 で拡散過程と生化学反応に対する値の中間程度の数値であった。微生物
呼吸のポテンシャルを表す係数 a は 0.56 であり,SSF CO2 は約 10 ºC で 0 に接近する。CO 2
フラックスと土壌表面温度はいずれも地中温度や気温に比べて速くかつ大きく変動し
ているため,CO 2 フラックスの動態評価にはリモートセンシングによる土壌表面温度の
使用が有効である。
4.可視・近赤外リモートセンシングによって得られる植生指数 NDVI(=[近赤外の反射
率 − 赤 の 反 射 率 ]/[ 近 赤 外 の 反 射 率 + 赤 の 反 射 率 ] ) は 裸 地 期 間 に つ い て の 平 均 値 が
0.18±0.03 であった。これに対して植被がある場合の NDVI は,葉面積指数が 0.5 程度と
小さい段階ですでに 0.5 に達する。このことから NDVI 値を同時に利用することにより,
上記評価式の適用範囲である裸地期間を判別できる。
[成果の活用面・留意点]
1.生 態 系 ス ケ ー ル の 炭 素 収 支 研 究 に お い て リ モ ー ト セ ン シ ン グ に よ る 地 表 面 温 度 の 利
用に関する種々の応用研究・モデル化研究に活用できる。
2.土性や有機物量が異なる場合など,モデルの一般化・高精度化に向けたパラメータの
同定に関する検討が必要である。なお,裸地や疎な植被においては乱流輸送が卓越して
おり,従来のチェンバ法では本結果のようなダイナミックな変動の検出には制約がある
点に留意する必要がある。衛星データ等では大気補正を要する場合がある。
- 66 -
[具体的データ]
注 ) 図 中 DOY は 1 月 1 日 を 001 とする通 日 を示 す。
1.0
1996DOY263-278
1997DOY263-281
1998DOY121-148
1988DOY257-278
0.9
0.8
土
壌surface
面 CO 2 フラックス
(mgmm-2-2s-1s)-1 )
Soil
CO2 flux (mg
土
壌 surface
面 CO 2 フラックス
(mgmm-2-2s-1s)-1 )
Soil
CO2 flux (mg
1.0
r2 = 0.28
(n=929)
0.7
a)
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
0.9
0.8
1997DOY263-281
r2 = 0.01
1998DOY121-148
(n=783)
(n=929)
1988DOY257-278
0.7
b)
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
0
5
10
15
20
25
30
35
40
10
15
Air temperature (ºC)
気
温 (℃)
1.0
25
30
35
40
45
50
55
1.0
1996DOY263-278
1997DOY263-281
1998DOY121-148
1988DOY257-278
r2 = 0.01
(n=929)
0.9
0.8
0.7
-2 -1
Soil
surface
CO2 flux (mg
(mg m
))
土
壌面
CO 2 フラックス
m -2ss -1
-2 -1
Soil
surface
CO2 flux (mg
土
壌面
CO 2 フラックス
(mg m
m -2s s)-1 )
20
Volumetric soil water content (%)
土 壌 体 積 水 分 率 (表 層 10cm) (%)
c)
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
r2 = 0.64
(n=929)
0.9
0.8
0.7
d)
0.6
0.5
0.4
0.3
1996DOY263-278
1997DOY263-281
1998DOY121-148
1988DOY257-278
0.2
0.1
0.0
5
10
15
20
25
30
35
40
0
Soil temperature (ºC)
地 中 温 度 (5∼10cm 平 均 値 ) (℃)
5
10
15
20
25
30
35
40
45
50
55
Remotely sensed surface temperature
リモートセンシングによる土
壌 表 面 温 度 (ºC)
(℃)
図1 裸地状態における渦相関法による地表面CO 2 フラックスと,(a)気温,(b)体積土壌
水分率,(c)地中温度,および(d)熱赤外リモートセンシングによる表面温度の関係
-2 -2 -1-1
Soil
surface2 フラックス
CO2 flux (mg
(mgmm
土壌面CO
s s))
1.2
SSF CO2 = 0.56 * 1.47
(TIR - 20)/10
- 0.38
2
R =0.66 RMSE=0.098 (n=929)
1.0
図2 裸地期間における渦相関法によ
る土 壌 面 CO 2 フラックスと熱 赤 外
リモートセンシングによる表 面 温
度 の 関 係 に 対 し て , Q 10 温 度 反
応モデルを適用して求 めた回 帰
モデル
SSF CO2 : 土壌面CO 2 フラックス
T IR : 熱 赤 外 リモートセンシング
による土壌表面温度
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
50
Remotely
sensed surface temperature (℃)
(ºC)
リモートセンシングによる土壌表面温度
[その他]
研究課題名:農耕地における炭素収支関連パラメータの評価手法の開発
(リモートセンシングによる植被動態の広域的検出・評価手法の開発)
予算区分 :文科省:総合研究[炭素循環]
研究期間 :2003 年度(2001∼2003 年度)
研究担当者:井上吉雄
発表論文等: 1) Inoue et al., Proc. IGARSS2003, France, Vol. V, 1271-1273 (2003)
2) Inoue et al., International Journal of Remote Sensing 24, 1001-1010 (2004)
- 67 -
[成果情報名]遺伝子情報に基づく巨大系統樹推定プログラムの開発
[要約]遺伝子の塩基配列データに基づいて系統樹を推定する新しいソフトウェアを開発した。
既存の系統推定ソフトウェアでは計算それ自体が不可能だった,万単位の端点(種)をもつ巨大
データに対しても相対的に短い時間内で最節約系統樹を構築することが可能になった。
[担当研究単位]地球環境部
生態システム研究グループ
環境統計ユニット
[分類]学術
[背景・ねらい]
系統推定に用いられる形質データのサイズがますます巨大化する傾向が強まってきた。形質数
だけでなく,端点(種)の数が増大するとともに,最節約法や最尤法のような最適性基準(目的
関数)による系統樹の離散最適化を行なう手法では,いかにして効率的にかつ高速に最適系統樹
を計算するかという問題につねに直面している。とりわけ,計算の複雑性の点で,もはや完全探
索が不可能である以上,発見的探索のためのアルゴリズムを高速化する必要がある。
[成果の内容・特徴]
1.形質状態(塩基配列)をもつ端点集合を与え,形質空間の中でハミング距離(マンハッタン
計量)の上で近い端点部分集合を同時並行的に作成する。端点の各部分集合に対して,部分木
を最節約的に構築する。その際,仮想祖先(スタイナー点)の形質状態は最節約復元のメディ
アン演算によって計算する。構築された複数の部分木を逐次的に結合することにより,最終的
に完全な最短系統樹を探索的に構築する(図)
。
2.最節約系統推定においてもっとも広く用いられているソフトウェア PAUP*(version 4)との
性能比較をしたところ,今回開発した系統スタイナー樹ソフトウェア Bogen は,より短い計算
時間でより巨大なデータの系統解析を可能であることがテスト塩基配列データから示された
(表)。ソフトウェアの比較を実行した計算環境は Windows マシン(Pentium 4,2.26GHz,RAM
1GB)である。その他の既存ソフトウェア PHYLIP や TNT とも比較し,系統樹の計算速度や分
析可能なデータサイズの点で Bogen が勝っていることを確認した。
3.とくに,端点数が数千を越えるケースでは既存のいずれのソフトウェアでも系統解析そのも
のが不可能だが,Bogen を用いれば許容される計算時間の範囲内で最適系統樹を探索できるこ
とがわかった。現バージョンでの最大端点数は3万種,最大形質数は5万塩基対である。
[成果の活用面・留意点]
1.Bogen は最節約法に基づく分子系統樹推定ソフトウェアであり,距離法には対応していない。
最尤法については現バージョンでは対応していないが, Bogen の最適性基準(目的関数)を尤
度に変更することにより将来的には対応可能になるだろう。
2.今回開発したソフトウェアは塩基配列に基づく分子系統樹推定にはいつでも利用できる。た
だし,塩基配列データはあらかじめアラインメント(整列)されている必要がある。入力デー
タ形式として現在広く用いられている NEXUS 形式などには対応している。
3.Bogen の公開方法については現在検討中である。詳細については担当者([email protected])
へ連絡ないしウェブサイト(http://www.bogen.co.jp/)を参照されたい。
- 68 -
[具体的データ]
[その他]
研究課題名:環境資源情報解析のための多変量解析手法・系統分類手法の開発
(環境資源・環境負荷データの分類手法及び多変量解析手法の開発)
予算区分 :運営費交付金
研究期間 :2003 年度(2001∼2005 年度)
研究担当者:三中信宏,陶村貴(チュラルテック),町井弘禧(チュラルテック)
,山本春雄(ボ
ーゲンファイル),浅野剛弘(ボーゲンファイル)
発表論文等:
1)Minaka, Cladistics, 18, 227(2002)
2)Minaka, et al., Cladistics, 19, 157(2003)
3)Minaka, et al., Hennig XXI, Helsinki, Finland, Program and Abstracts(2002)
4)Minaka, et al., Hennig XXII, New York, Abstract(2003)
- 69 -
[成果情報名]土壌情報の一元的収集システムの開発
[要約]Web GIS の機能を使って全国規模の土壌調査結果(現地情報,断面記載,理化学分析値,
土壌図)を地形図上に表示し,調査現場においてオンラインで新たな調査結果を入力や修正でき
るシステムを初めて開発した。現行の行政調査事業における結果を効率的かつ一元的に収集でき
る。
[担当研究単位]農業環境インベントリーセンター 土壌分類研究室
[分類]行政
[背景・ねらい]
全国規模の土壌調査結果は,これまで各種コンピューターメディアを使って,一定フォーマッ
トのファイルを郵送により収集している。この際ファイル破壊などの事故やデータ修正に時間が
かかるなどの問題がある。このため,過去の調査研究や事業などにより得られた土壌情報を,全
国の野外現地や実験室などから閲覧でき,かつ,分散した機関が得ている調査結果を効率よく一
元的に収集できるシステムを開発する。
[成果の内容・特徴]
1.行政調査事業「土壌環境基礎調査(定点調査 )」の結果をもとに土壌分類研究室のデー
タベースサーバーに土壌情報データベースを構築し,オンラインでこのデータベースに
アクセスして以下のことができる。
2.GIS 機能を使って,1/50,000 地形図の上に農耕地土壌図と定点調査地点を表示できる。土壌
図または定点調査地点を画面上から選定することにより,土壌または調査地点の情報を表示で
きる(図1)。
3.調査年次や都道府県などから調査地点を検索し,調査区分を選択することで調査結果を表示
でき,この画面からデータを修正できる(図2)。集計については,調査年次,都道府県およ
び層位を指定して,地目別,土壌群別または土壌統別に最小値,最大値および平均値を表示で
きる。
4.新しいデータは,画面上で項目ごとにコード選択や測定値を書き込むことで入力するか,別
途エクセルファイルを作成し一括して入力する。コード表にないコードやあり得ない値は入力
時にチェックされ,データの信頼性を向上させている。
5.本システムには,農耕地土壌分類第3次改訂版による土壌分類プログラムが付属しており,
調査地点を選択すると土壌名が表示できる。新たな調査地点については,データ入力後,この
プログラムで第3次改訂版による分類ができる。
[成果の活用面・留意点]
1.土壌調査を行っている公立試験研究機関に ID とパスワードを発行する。
2.インターネット・エクスプローラでのみ動作を確認している。
3.土壌特性別の主題図(例えば,土性図や保水容量図など)の表示機能も順次追加される。
4.関係機関との協議を経て,データを公開する。
- 70 -
[具体的データ]
図1
図2
Web GIS により地形図
上に土壌図を表示した画
面
(●は定点調査地点で右
クリックすることにより
地点を特定する情報が表
示できる)
データの検索結果
(この画面からもデー
タの修正ができる)
[その他]
研究課題名:機能に基づく土壌分類の体系化と土壌インベントリーのためのフレームの構築
(機能に基づく土壌の分類及びインベントリーのためのフレームの構築)
予算区分 :総合研究[協調システム]
研究期間 :2003 年度(2001 ∼ 2003 年度)
研究担当者:中井 信,小原 洋,大倉利明
発表論文等:
1) 中井,農業および園芸,76(10),1123-1130 (2001)
- 71 -
[成果情報名]農業環境技術研究所が所蔵する昆虫タイプ標本一覧表ならびに画像の Web 上
での公開
[要約]農業環境技術研究所で所蔵している昆虫タイプ標本 508 種の一覧表と 279 種の画像
を含む標本情報を Web 上で公開した。外部から,タイプ標本の所蔵状況の確認および標本の
形態情報の入手が容易になる。
[担当研究単位]農業環境インベントリーセンター
昆虫分類研究室
[分類]学術
[背景・ねらい]
タイプ標本は,種名と種の対応を示すために指定されたもので,基本的に生物 1 種につき 1
個体しか存在しない貴重な標本である。酷似する種を正確に同定する場合や近似種との関係
に疑問が生じた場合には,タイプ標本の参照が必要になる。世界中の博物館や研究機関等で
タイプ標本は保管されているが,所蔵一覧を公開している機関はまれで,目的とするタイプ
標本がどの機関で保管されているか不明な場合も少なくない。そこで,当所で所蔵が確認さ
れている昆虫タイプ標本の一覧と,各タイプ標本の画像情報およびその他情報を Web 上で公
開し,タイプ標本の外部からの参照を可能にする。
[成果の内容・特徴]
1.農業環境技術研究所で所蔵が確認されているタイプ標本 508 種について一覧表(図1)
を Web 上で公開する(http://cse.niaes.affrc.go.jp/nakatany/inssys/typelst.htm)。
2.タイプ標本 508 種のうち,アミメカゲロウ目 10 種,コウチュウ目 233 種,ハチ目 36 種
の計 279 種については,全体像,頭部,翅等,グループごとに特徴となるいくつかの部位
の画像を撮影し,標本の採集地や採集年月日などの標本ラベルデータ,および新種記載文
献情報とともに Web 上で公開する(図2)。
3.所蔵タイプ標本の一覧により,当所のタイプ標本の所蔵状況を確認できる。また,詳細
な画像情報は種の同定に利用できる。
[成果の活用面・留意点]
1.残りの種についても今後作業を継続して,公開する。
2.公開できる画像の枚数に限りがあるため,より詳細な形質の情報が必要な場合は,直接
タイプ標本を観察する必要がある。
- 72 -
[具体的データ]
図1タイプ標本一覧表
の一部
図2タイプ標本情報
の一例
[その他]
研究課題名:所蔵タイプ標本のデータベース化と昆虫インベントリーのためのフレームの構築
(所蔵タイプ標本等のデータベース化及びインベントリーのためのフレームの構築)
予算区分 :運営費交付金
研究期間 :2003 年度(2001∼2005 年度)
研究担当者:中谷至伸,安田耕司,吉松慎一,小西和彦(現北海道農業研究センター)
発表論文等:
1) Yasuda et al., Proc. International Workshop on Material Circulation through Agro-Ecosystems in East
Asia and Assessment of its Environmental Impact, Tsukuba, Japan, 71-72(2003)
- 73 -
[成果情報名]分散型データベースによる「微生物インベントリー」の構築と Web 上での公開
[要約]分散型データベースにより「微生物インベントリー」を構築し,農業環境技術研究所
所蔵の微生物標本,除草剤 2,4-D 分解菌および人畜植物共通の病原菌 Burkholderia 属細菌など
のデータベースを Web 上で公開した。 種名などによるキーワードで複数データベースから情
報が取得できる。
[担当研究単位]農業環境インベントリーセンター
微生物分類研究室
[分類]技術
[背景・ねらい]
微生物は,生態系におけるバランスの維持,環境修復および食品分野等で活用される一方で,
人畜及び植物の病原として知られており,同一微生物がこれら機能を有する場合もある。しか
し,これらの情報については必ずしも整理されていない。そこで,多くの微生物情報を網羅的
に整理して発信することを目的として,「微生物インベントリー」を構築して,農業環境技術
研究所が所蔵する微生物標本の画像,除草剤 2,4-D 分解菌,さらに,人畜植物共通病原性なら
びに環境修復等の機能を有する微生物に関する情報を Web 上で公開する。
[成果の内容・特徴]
1.分散型データベース検索システム(国立遺伝学研究所宮崎ら作成)により「微生物インベ
ントリー」を構築し,Web 上で公開した(http://cse.niaes.affrc.go.jp/seya)。複数のデータベー
ス内にある関連情報を,指定した種名などのキーワードによりすべて表示できる(図1,図
2)。現時点で対象とするデータベースは,以下の農業環境技術研究所所蔵微生物標本,2,4-D
分解菌および Burkholderia 属細菌で,いずれも本邦初公開である。
2.1880 年代から農業環境技術研究所微生物標本館に収集・保存されているサビ菌,クロボ菌
等の微生物標本画像(図3)を中心に,寄主植物や採集場所などに関わる情報(448 件)を
公開した。微生物種名や寄主植物名などで検索できる。
3.2,4-D の分解菌に関わる情報(161 件)を公開した。菌株名,種名,分解遺伝子名および初
出文献名などで検索できる。分解遺伝子の塩基配列や研究状況を知ることができる。
4.人畜植物共通の病原性ならびに環境修復などの多様な機能を有する Burkholderia 属細菌に
関する情報(49 件)を公開した。農学,工学,医学分野の情報を初めて網羅的に整理してい
る。菌株名,種名,採取場所,人畜および植物に対する病原性等で検索できる。
[成果の活用面・留意点]
1.微生物のバイオセーフティ指針リスト(日本細菌学会作成)も加えており,種ごとのバイ
オセーフティーレベルを簡単に検索できる。
2.本サイトから公開中の「日本野生植物寄生・共生菌類目録」や「日本産糸状菌類図鑑」な
どのデータベースにもアクセスできる。
- 74 -
[具体的データ]
図1.データベース名の指定(左)とキーワード入力検索画面(右)
図3.微生物標本館標本
図2.分散型データべースによるキーワード
(Burkholderia)検索結果表示画面
の画像データ
(1920 年 Perenospora 属菌標本)
[その他]
研究課題名:イネ科植物における常在微生物の所在,特性及び遺伝情報のデータベース化とイ
ンベントリーのためのフレームの構築
(主要イネ科植物に常在する微生物相の分類,同定及び機能解析並びにインベン
トリーのためのフレームの構築)
予算区分
:運営費交付金
研究期間
:2003 年度(2001∼2005 年度)
研究担当者:對馬誠也,月星隆雄,吉田重信,篠原弘亮,長谷部亮,酒井順子,小川直人,
土屋健一
- 75 -
[成果情報名]凍結保存細菌の反復利用効率を高めるための分散媒の改良
[要約]凍結保存した細菌を融解して一部を取り出し,残りを再び凍結すると,生き残る菌
数が減少する。その程度は菌種によって異なる。既知の分散媒にトレハロースを添加すると,
凍結・融解の処理を多数回反復した後でも十分な生存菌数が得られる。
[担当研究単位]生物環境安全部
微生物・小動物研究グループ
微生物評価研究官
[分類]技術
[背景・ねらい]
大多数の細菌種は適当な分散媒に懸濁して凍結すると長期間保存できる。凍結保存細菌を
融解して一部を取り出し,残りを再び凍結すると,生き残る菌数が減少する。その程度は菌
種によって異なる。ここでは多数回の反復利用ができるように分散媒を改良する。
[成果の内容・特徴]
1.グルタミン酸ナトリウム添加スキムミルク分散媒には長い利用実績があるが,これにト
レハロースを 0.2% ∼ 5% の割合で添加すると,濃度に比例して融解時の生存菌数が増加
する (表1)。
2.凍結障害に対する耐性が低い細菌にはトレハロースの添加効果が高く,耐性が高い細菌
には添加効果はない。
3.トレハロースの添加が凍結障害を助長する事例は見られない。
4.トレハロースと同様の有益な効果は,スクロース,マルトース,ラクトースでも見られ
る(表2)。
5.推奨分散媒の組成は 1.5% グルタミン酸ナトリウム,5% トレハロース,10% スキムミ
ルクである。
[成果の活用面・留意点]
1.添加効果の認められた二糖類がなぜ有効に作用するのかは不明である。
2.凍結保存細菌は 1010 cfu/ml 以上の高濃度懸濁液にすることが望ましい。
3.凍結保存細菌を移植した際に,集落が点在して生育するようになった時は,その保存標
本は利用限度に近づいているので,更新の準備をする。
- 76 -
[具体的データ]
以下の試験は,凍結障害の防護作用を比較するために過酷な条件で行っている。
凍結・融解条件:凍結時 -20℃,融解時 23℃10分間,融解回数 1日1回
試験細菌: 軟腐病菌 (Erwinia carotovora subsp. carotovora MAFF 301393),
大腸菌 (Escherichia coli JCM 1649),
かいよう病菌 (Clavibacter michiganensis subsp. michiganensis MAFF 301245),
初期濃度 106 cfu/ml
試験細菌の凍結障害に対する耐性:(低)軟腐病菌 < 大腸菌 < かいよう病菌(高)
表1 トレハロースの添加濃度と生存菌数との関係
処理
菌株
トレハロースの添加量
回数
無添加
0.2%
2.0%
5.0%
軟腐病菌
(MAFF 301393)
1
8
12
1.6 x 105
1.2 x 103
6.5 x 102
2.0 x 105
1.9 x 103
6.8 x 102
1.8 x 105
5.4 x 103
2.8 x 103
1.6 x 105
1.3 x 104
6.2 x 103
大腸菌
(JCM 1649)
1
8
12
6.3 x 105
8.4 x 104
1.5 x 104
5.5 x 105
7.0 x 104
2.0 x 104
5.4 x 105
1.0 x 105
4.2 x 104
5.3 x 105
1.9 x 105
1.0 x 105
かいよう病菌
(MAFF 301245)
1
8
12
1.1 x 106
8.2 x 105
6.0 x 105
1.1 x 106
7.3 x 105
5.7 x 105
1.2 x 106
1.0 x 106
7.6 x 105
1.2 x 106
1.2 x 106
9.8 x 105
(注) 処理回数は凍結・融解の反復回数を表す。数値の単位は cfu/ml
表2 添加糖類の違いと生存菌数との関係
軟腐病菌 (MAFF 301393)
添加糖類
無添加
5% トレハロース
5% ラクトース
5% マルトース
5% スクロース
1回処理
3.7
2.9
4.0
2.9
2.9
x
x
x
x
x
5
10
105
105
105
105
12回処理
2.0
2.9
3.8
3.1
2.1
x
x
x
x
x
3
10
104
104
104
104
大腸菌 (JCM 1649)
1回処理
( 1.0)
(14.5)
(19.0)
(15.5)
(10.5)
9.7
7.8
8.8
9.0
1.0
x
x
x
x
x
15回処理
5
10
105
105
105
106
5.0
2.2
2.8
2.5
2.2
(注) 処理回数は凍結・融解の反復回数を表す。数値の単位は cfu/ml
( )内の数字は糖類無添加に対する相対比
[その他]
研究課題名:微生物ジーンバンク
予算区分 :農林水産ジーンバンク
研究期間 :2003年度(2001∼2005年度)
研究担当者:西山幸司
発表論文等:
1) 西山, 平成15年度日本植物病理学会関東部会講演要旨集,14(2003)
- 77 -
x
x
x
x
x
104
105
105
105
105
(1.0)
(4.4)
(5.6)
(5.0)
(4.4)
参考資料
(指定試験から提出のあった成果情報)
- 79 -
[成果情報名]農家実態調査に基づく水稲移植前落水時の水質汚濁負荷量の推定と低減方策
[要約]八郎潟干拓地に位置する農家水田の調査から、移植直前の落水により水田から発生す
る窒素排出量は 33.4Mg と推定され、不耕起、無代かき栽培の導入により 8 ∼ 9 割、代かき
栽培の場合でも移植前落水時の水深を 60mm 以下にすることにより 6 割低減できる。
[キーワード]不耕起、無代かき、代かき、水質、窒素、懸濁物質、全有機態炭素
[担当]秋田農試・生産環境部・環境調和担当
[連絡先]018-881-3330、電子メール [email protected]
[区分]東北農業・生産環境(土壌肥料)、共通基盤・土壌肥料
[分類]行政・参考
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
[背景・ねらい]
閉鎖水系水田地帯においては水田からの水質汚濁物質排出量の抑制が求められる。水田からの
水質汚濁物質の排出は、主に水稲移植直前の落水に伴って発生することが指摘されている。そ
こで、八郎潟干拓地内に位置する農家圃場において移植前落水の実態調査を行い、水田からの
水質汚濁物質の排出量を推定するとともに、不耕起、無代かき、落水量の抑制を導入した場合
の水質汚濁物質排出量の低減効果を明らかにする。
[成果の内容・特徴]
1.移植前落水時に排出される全窒素(T-N)量は 0(落水なし)∼ 47.3kg/ha である。落水がある
場合、 T-N 排出量の対数値ヒストグラムは、カイ2乗適合度検定により正規分布に適合す
る(図1、p<0.05)。
2.落水時の水深と T-N 排出量の対数値には正の相関関係が認められ、落水時の水量をでき
るだけ小さくすることが T-N 排出量を抑制することにつながる(図2)。このことは、 T-N
以外の懸濁物質(SS)、全有機態炭素(TOC)、全リン(T-P)においてもあてはまる(結果省略)。
3.代かき水田において、移植前に発生する水質汚濁物質の排出量は土性の影響を受け、HC(粘
土含量が 45%以上)よりも粘土含量が低い水田では HC に比べて非常に小さくなる(表1)。
また、不耕起、無代かき水田における水質汚濁物質の排出量は代かき栽培の2割以下とな
り、水質保全効果が実証された。
4.代かき水田の場合においても、落水時の水深を平均値程度の 60mm 以下にすることができ
れば水質汚濁物質の排出量を半分以下に削減できる。
5.八郎潟干拓地内の水田から移植前の落水に伴って発生する T-N 排出量は 33.4Mg と試算さ
れ、不耕起、無代かき栽培の導入により8∼9割、代かき栽培においても水稲移植前落水
時の水深を 60mm 以下にすることにより6割程度削減できる(表2)。
[成果の活用面・留意点]
1.水質汚濁物質の排出量は、農家水田において圃場中央部の水深と圃場面積から算出した排
水量と排水開始から一定時間後に採取した排水中の水質汚濁物質を分析して推定した。
2.調査期間は 1999 ∼ 2003 年、調査圃場の基本単位は 1.25 および 2.5ha、調査地点は八郎潟
干拓地内で偏りがない。
- 80 -
[具体的データ]
r=0.734
p<0.01
2.0
不耕起
無代かき
代かき
16
14
度数(データ数)
LOG(T-N負荷量(kg/ha))
18
12
10
8
6
4
2
1.5
1.0
0.5
代かきHC以外
代かきHC
不耕起
無代かき
0.0
-0.5
-1.0
0
-0.9 -0.6 -0.3 0
0.3 0.6 0.9
LOG(TN排出量(kg/ha))
1.2
0
1.5
30
60
90
120
150
落水時の水深 (mm)
図1 農家水田における移植前落水時における全窒 図2 移植前落水時における農家圃場中央
素排出量の対数値ヒストグラム
部の水深とT-N排出量の対数値との関係
横軸は排出量の常用対数とし、数字は階級の下限値を表している。
データ数は54。落水がなかった6圃場の結果は除外した。
データ数は54。落水がなかった6圃場の結果は除外した。
表1 農家圃場調査から推定した水稲移植前落水により排出される水質汚濁物質量の算術平均値
TOC
SS
耕起方法
土性
観測数
水深
mm
kg/ha
代かき
HC
代かき
HCより粗
32
4
17
11
13
63
43
48
33
34
22.9 (100) 707
6.6 (29) 16
12.2 (53) 250
2.7 (12)
10
5.2 (22)
35
a)
代かき
HC
不耕起
HC
無代かき
HC
%
kg/ha
T-N
T-P
%
kg/ha
%
kg/ha
%
(100)
(2)
(35)
(1)
(5)
4.3
0.6
1.8
0.4
0.8
(100)
(14)
(42)
(9)
(17)
0.76
0.09
0.34
0.05
0.12
(100)
(12)
(45)
(6)
(14)
排出量の推定値は[落水時における圃場中央部の水深]×[落水中の水質汚濁物質濃度]から算出した。 a)代かき水深が60mm以
下のデータを用いて算出した。
表2 落水改善、不耕起、無代かき導入による八郎潟中央干拓地から落水時に排出
されるT-N削減効果の推定
土性
面積a)
ha
現状
M g (%)
落水改善
M g (%)
不耕起
M g (%)
無代かき
M g (%)
HC
HC以外
7504
1876
9380
32.3
1.1
33.4 (100)
13.5
1.1
14.6 (44)
3.0
0.8
3.8 (11)
6.0
1.1
7.1 (22)
合計
a)
「平成14年産 秋田の農産物」東北農政局秋田統計事務所の水田面積(周辺市町村の増
反地を含む)に対して干拓地に占めるHC以外の割合を20%として算出。不耕起移植、無代か
き移植、直播が、全水田面積に占める割合はわずかであり、ここでは考慮していない。
[その他]
研究課題名:閉鎖水系水田地帯における環境負荷物質の動態と環境保全機能の定量的解明
予算区分
:指定試験
研究期間
:1999 ∼ 2003 年度
研究担当者:原田久富美、太田
健、村上
章、進藤勇人、小林ひとみ、藤井芳一
- 81 -
[成果情報名]復田時の不耕起、無代かき移植栽培における水質汚濁物質負荷の特徴
[要約]水稲不耕起栽培を継続した場合、6∼7月に表層に集積する有機物からの水質汚濁物
質の負荷が、代かき濁水を発生しないことによる負荷低減量を超えることもあるが、不耕起
栽培を田畑輪換体系に導入することで水質保全効果が高まる。一方、無代かき栽培の水質保
全効果は復田後の年数にかかわらず安定している。
[キーワード]不耕起、無代かき、水質、田畑輪換、窒素、懸濁物質、わら
[担当]秋田農試・生産環境部・環境調和担当
[連絡先]018-881-3330、電子メール [email protected]
[区分]東北農業・生産環境(土壌肥料)、共通基盤・土壌肥料
[分類]技術・参考
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
[背景・ねらい]
閉鎖水系に位置する水田では水質汚濁物質の排出を抑制することが求められる。水稲不耕起、
無代かき移植栽培は、代かき濁水を生じないので環境保全型生産技術として期待されているが、
しかし、明確な水質保全効果が得られない場合もある。特に、不耕起栽培においては田面表層
に集積する有機物の影響が考えられる。そこで、畑作後に不耕起、無代かき移植栽培を導入し
た場合の3年間の調査により、復田時における不耕起、無代かき栽培の水質保全効果を明らか
にする。
[成果の内容・特徴]
1.無代かき栽培は、復田初年目の場合、用水中の懸濁物質(SS)、全窒素(T-N)が水田で浄化
され、その後も水質汚濁物質の差引排出量は代かき栽培に比べて同等以下となる(図1)。
2.不耕起栽培の場合、復田3年目まで安定した SS に対する浄化効果が認められるが、復田
2年目の全有機態炭素(TOC)および T-N 差引排出量は代かきと同程度となり、3年目では
代かきより大きくなる(図1)。
3.不耕起栽培の場合、復田後3年間における水稲栽培期間中の SS および T-N 差引排出量の
総計は代かき栽培よりも小さくなるが、 TOC は大きくなる(表1)。無代かき栽培の場合、
いずれの水質汚濁物質の差引排出量も代かき栽培より小さくなる。
4.不耕起栽培の場合、代かきから移植時に用水中の水質汚濁物質を水田で浄化するが、復田
後3年目の6∼7月では表層に集積した有機物由来と考えられる TOC および T-N の差引
排出量が代かき水田よりも大きくなる(図2)。従って、不耕起栽培を田畑輪換体系への導
入することは、表層への有機物の集積を妨げ、不耕起栽培の水質保全効果を強化する。
5.無代かき栽培は、代かき時の負荷がなく、移植時以降は代かき栽培に似た排出量となるの
で、水質保全効果が安定している(図2)。
[成果の活用面・留意点]
1.八郎潟干拓地内の透水性の低い重粘土水田における調査結果であり、水質汚濁物質負荷の
ほとんどは表面排出である。
2.代かき時に、用水中の水質汚濁物質濃度が高くなる循環水系を利用した水田の調査結果で
ある。
- 82 -
[具体的データ]
400
0
-400
-800
-1200
160
16
120
12
T-N差引排出量(kg/ha)
800
TOC差引排出量(kg/ha)
SS差引排出量(kg/ha)
1200
80
40
0
-40
1
2
3
復田後の年次
8
4
0
-4
-8
1
2
3
復田後の年次
1
2
3
復田後の年次
図1 復田後の経過年数に伴う水稲栽培期間中の水質汚濁物質差引排出量 (2001-2003年)
施肥条件:不耕起、無代かき栽培は育苗箱全量25(復田1年目)、50(2年目)、50(3年目)kgN/ha
● 代かき区
:代かき栽培は全量元肥として全層0(復田1年目)、50(2年目)、50(3年目)kgN/ha
■ 無代かき区
▲ 不耕起区
SSは懸濁物質、TOCは全有機態炭素、T-Nは全窒素を表す。不耕起区の初年目は無代かきとした
表1 復田後3年間の水稲栽培期間における水質汚濁物質差引排出量
試験区
取水量
SS
TOC
T-N
代かき
33.2
962
150
18.2
無代かき
41.0
-1161
81
-3.5
不耕起
81.9
-1834
187
6.2
取水量の単位はGg/ha、その他の単位はkg/ha。負の数字は浄化、正の数字は負荷を
表す。不耕起区の復田初年目は無代かき栽培とした。
100
TOC負荷量 (kg/ha)
SS負荷量 (kg/ha)
1000
800
600
400
200
60
40
20
0
-200
0
5/10-5/31 6/1-6/19 6/20-7/20 7/21-9/28
5/10-5/31 6/1-6/19 6/20-7/20 7/21-9/28
8
6
4
2
0
5/10-5/31 6/1-6/19 6/20-7/20 7/21-9/28
溶存態N負荷量 (kg/ha)
8
T-N負荷量 (kg/ha)
80
-2
6
4
2
0
5/10-5/31 6/1-6/19 6/20-7/20 7/21-9/28
-2
図2 復田3年目における時期別の水質汚濁物質負荷量 (2003年) 代かき
[その他]
無代かき
不耕起
研究課題名:閉鎖水系水田地帯における環境負荷物質の動態と環境保全機能の定量的解明
予算区分
:指定試験
研究期間
:1999 ∼ 2003 年度
研究担当者:原田久富美、太田
健、村上
章、進藤勇人、小林ひとみ、藤井芳一
- 83 -
[成果情報名]砂質浅耕土転換ダイズ作ほ場における窒素収支
[要約]砂質浅耕土の転換畑ダイズ作ほ場において、窒素のインプットは根粒窒素固定、
アウトプットは子実の収穫に由来する割合がそれぞれ 80%以上を占める。また、その窒素
収支は負となり、土壌窒素が減少すると試算される。
[キ−ワ−ド]転換畑、砂質浅耕土、ダイズ、窒素収支、窒素固定
[担当]富山農技セ・農業試験場・土壌肥料課
[連絡先]電話 076-429-5248、電子メール [email protected]
[区分]農業環境
[分類]科学・参考
-------------------------------------------------------------------------------[背景・ねらい]
砂質浅耕土は土壌窒素含量が少なく、近年はダイズ作における地力窒素の減少が指摘さ
れている。そのため、施肥等の窒素投入量の策定に当たっては土壌生産性の面から考えて、
ほ場窒素収支について十分考慮する必要がある。そこで根粒窒素固定のために試算が困難
なダイズ作ほ場における窒素収支を試算し、肥培管理の参考となる知見を得る。
[成果の内容・特徴]
1.転換 1 年目および転換 3 年目の両ほ場ともに、成熟期(転換 1 年目:10/7、転換 3 年
目:10/1)の窒素のほとんど(転換 1 年目 95%、 転換 3 年目 94%)が、子実に集積し
ている(図 1)。
2.ほ場における 2 種類のダイズ(エンレイ、エンレイの根粒非着生系統:表 1 参照)の
重窒素自然同位体比から、ダイズの根粒固定由来窒素の割合を算出すると、転換 3 年
目ほ場におけるダイズの窒素は 74%が根粒固定由来と推定される(表 1)。
3.転換 1 年目ほ場におけるダイズの根粒固定窒素の割合は、重窒素自然同位体比の差が
小さいため、2の方法では算出できない(表 1)。そこで、導管溢泌液中のウレイド態
窒素濃度を窒素固定活性の指標として、7/18∼9/4 までの荷重平均値を求め、転換 3
年目と比較して 94%となったことから、70%を窒素固定由来とする(図 1、2)。
4.ほ場レベルにおける窒素のインプットの 80%以上が根粒の窒素固定に由来し、窒素の
アウトプットの 80%以上が収穫による子実の持ち出しに由来する(図 3)。
5 . ほ 場 レ ベ ル に お け る 窒 素 収 支 は 、 転 換 1 年 目 で -6.5kgN/10a/y 、 転 換 3 年 目 で
-4.6kgN/10a/y であり、転換 3 年目で収支が増加したのは、収量の低下により子実窒
素の持ち出し量が減少したことによる(図 3)。
6.ほ場系外への窒素負荷量は、転換 1 年目で 4.5kgN/10a/y、転換 3 年目で 4.1kgN/10a/y
であり、溶脱が主な要因である(図 3)。
7.砂質浅耕土の転換畑ダイズ作において、現行の施肥だけでは窒素収支が負となり、土
壌窒素が減少すると試算される(図 3)。
[成果の活用面・留意点]
1.土壌有機物が少なく、土性が中粗粒より粗い灰色低地土において活用する。
2.本成果は、2002 年度の結果による。
3.転換ダイズ作では有機物投入等を推進していく必要があるが、窒素収支の不足分を投
入しても窒素負荷量等の変化により、収支は均衡しない可能性があるため、堆肥等の
施用に当たっては施用指針を遵守する。
4.本成果においては、作付け期間中にほ場に還元されていく葉、葉柄、脱落根における
根粒固定由来窒素、脱窒は考慮していない。ちなみに乾物最大期頃(9/4)の葉、葉柄
の窒素含有量は、転換 1 年目で 3.9kgN/10a、3 年目で 3.8kgN/10a であった。
- 84 -
30
25
20
15
10
5
0
600
施肥・土壌由来
13.9
14.6
5.9
6.2
子実
ウレイド-N濃度(mgN/L)
N含有量(kgN/10a)
[具体的データ]
N固定由来
全体
13.4
14.4
4.6
4.9
子実
全体
転換1年目
500
400
300
200
転換1年目
転換3年目
100
0
7/3
転換3年目
7/23 8/12
9/1
9/21
図2 導管溢泌液中のウレイド態
窒素*濃度の推移
15
*1
*2
表1 ダイズのδ N値 と根粒固定窒素の割合 の推定 *根粒固定由来窒素の指標であるアラン
図1 ダイズ子実、地上部の由来別窒素含有量
トイン、アラントイン酸態窒素の合量
転換3年目
転換1年目
15
δ N(‰) %Ndfa δ N(‰) %Ndfa
エンレイ
1.2
74.4
1.3
1.8
*3
4.7
Ref
1.4
Ref
非着生系統
15
*1 器官毎の加重平均値
*2 根粒固定窒素の割合(%Ndfa)は下式による
15
15
%Ndfa =( 1−δ Nエンレイ /δ N非着生系統 )× 100
*3 エンレイの根粒非着生系統(生物資源研 赤尾 作出)
窒素固定
14.6
82.5%*1
降雨
0.8
収量301kg/10a
降雨
0.8
収穫
19.8
肥料 2.0
種子 0.3
82.3%*1
収量264kg/10a
窒素固定
14.4
収穫
18.0
肥料 2.0
種子 0.3
81.8%*1
インプット17.7
灌水 0.0
アウトプット 24.2
溶脱
4.0
収支 - 6.5
81.4%*1
インプット17.5
灌水 0.0
表面流去
0.5
表面流去
0.4
溶脱
3.7
収支 - 4.6
負荷 4.5
(単位は,kgN/10a/y)
負荷 4.1
(単位は,kgN/10a/y)
A.転換1年目における窒素収支
図3
アウトプット 22.1
B.転換3年目における窒素収支
転換年数の異なるほ場における窒素収支 *2
*1
図中の%表示は、インプット、アウトプットに占める割合
*2
窒素収支の算出方法(窒素固定については、表 1 参照)
溶脱 N 量、表面流去 N 量、降雨中 N 量、潅漑水中 N 量
=
土壌溶液(35cm 深)、表面流去水、降雨、潅漑水の各 N 濃度
×
降下浸透水(降雨−蒸発)、表面流去水、降雨、潅漑水の各水量
その他 = 各窒素濃度 × 現物量
[その他]
研究課題名:田畑輪換利用体系における生産力変動要因の解明と窒素収支の向上技術
予算区分 :国補(指定試験事業)
研究期間 :1999∼2003 年度
研究担当者:大野智史、高橋茂、八木麻子
- 85 -
[成果情報名]集団茶園地帯から流出する硝酸性窒素の水田による除去可能量
[要約]牧ノ原台地の集団茶園地帯から平水時の河川に流出する硝酸性窒素量は 1 年間 1ha
あたり約 200kg と見積もられる。茶園地帯周辺のいくつかの河川流域では、非作付期にも
水田に湛水灌漑することで、流出硝酸性窒素量を上回る除去可能量が得られる。
[キーワード]硝酸性窒素、茶園、水田、窒素除去
[担当] 静岡農試・海岸砂地分場
[連絡先]0537-86-2218、[email protected]
[区分] 関東東海北陸農業・関東東海・土壌肥料、共通基盤・土壌肥料、野菜茶業・茶業
[分類] 技術・参考
-------------------------------------------------------------------------------[背景・ねらい]
茶園では、大きな硝酸性窒素負荷排出が認識され減肥対策が取られ始めている。しかし、
減肥対策と同時に、過去の多施肥により茶園下の深い地層に集積し流出を続ける硝酸性窒
素の除去対策も重要で、流出水に対して水田・休耕田の脱窒機能を活用することが有効と
考えられる。そこで、台地上に茶園が広がるモデル地域において、小河川を通じて流出す
る硝酸性窒素量に対し、水稲非作付期に湛水した場合を含めた水田による除去可能量を明
らかにする。
[成果の内容・特徴]
1. モデル地域は牧ノ原台地の南東部末端に位置し、地域内には上部の大部分 5.4km 2 を茶
園が占める台地がある(図 1)。この台地は河川に取り巻かれて他の台地より独立し、
また茶園以外に大きな窒素負荷源を有さない。従って、台地周辺河川を流れる硝酸性
窒素量から茶園由来の流出量を評価できる。
2. 月に 1 度の水質・水量調査結果から平水時各河川の 1 年間の硝酸性窒素流量を求める
と、2001 年 10 月∼2002 年 9 月の場合、最小 39kg から最大 27,942kg となり(図 1)、
この地域全体で 113 トン、1ha あたりの茶園から1年間に 209kg の硝酸性窒素が流出
したと推定される。なお、地域全体の硝酸性窒素流出量には、1999 年以降の調査で大
きな変化が認められていない。
3. モデル地域内全水田面積は 132ha、水田は内陸部に多く海岸低地部で少ない(図 2)。
各流域別に水稲作付状況での除去速度(2.3kgN ha -1 d -1 、戸田ら 1997)を用いて算出
した水田による硝酸性窒素の除去量は、水稲作付期間(6∼8 月)に各河川を流出して
いる硝酸性窒素量に対し、内陸部で 100%、海岸低地部では 3∼51%となる(図 2)。
4. 同地域内にある休耕田において、硝酸性窒素濃度の高い河川水を通年湛水灌漑(面積
50m 2 、流入水平均硝酸性窒素濃度 26∼31mgNL -1 、流入水量 6∼9 月 7706mm、10∼11 月
5370mm、12∼3 月 7794mm、4∼5 月 3173mm)したところ、0.58∼1.04gN m -2 d -1 の窒素
除去速度が得られた(表 1)。
5. 仮に、水稲非作付期間にも水田に湛水灌漑を行うとすれば、表 1 の期間別休耕田の除
去速度を適用して硝酸性窒素除去可能量が試算できる。9∼11 月、12∼3 月、4∼5 月
の硝酸性窒素除去可能量は、海岸低地部では硝酸性窒素流出量に達しない場合がある
が、内陸部ではすべての期間において流出量を上回る(表 2)。
[成果の活用面・留意点]
1. 水田・休耕田を活用した水質浄化対策立案の基礎資料として活用できる。
2. 茶園からの硝酸性窒素流出量には大雨時の流出量を含まない。
3. 水稲非作付期間の硝酸性窒素除去速度は十分に湛水状態が維持された場合の値である。
- 86 -
[具体的データ]
10,378
○R:河川モニタリング地点
硝酸性窒素流出量:kgN y-1
流域7、26.5ha
R12
R13
10
5
0
6,553
流域6、0.5ha
5
流域8、28.8ha
R11
R14
10,313
R10
R9
茶園
(5.4km2)
R8
R8
0
5
流域5、2.7ha
0
1,698
5
台地
(9.3km2)
0
R15
流域4、0.9ha
5
8,639
0
R6 R7
666
R16
25,532
R17
流域3、7.1ha
R5
R18
林地
R4
R19
1,089
10
5
0
842
8,902
R3
流域2、2.8ha
4,751
R2
5
流域9、3.4ha
N
R20
27,942
0
5
5,770
R1
流域1、1.3ha
0
5
N (t)
流域10、53.7ha
駿河湾
39
1 km
駿河湾
流出
除去
5
棒グラフ■:流出量、□:除去量、単位はN(t)
モデル地域内の河川に流出する
図2
硝酸性窒素量(2001 年 10 月∼2002 年 9 月)
0
流域11、4.2ha
流域No、水田面積
01.Oct-02.Sep
図1
10
5
0
0
モデル地域内の河川と水田分布及び
水稲作付期間(2002 年 6∼8 月)各河川流域
の硝酸性窒素流出量と水田による除去量
表1 期間別休耕田の硝酸性窒素除去速度
除去速度(gN m-2 d-1)
表2
6∼9月
1.04
10∼11月12∼3月 4∼5月
0.75
0.58
0.69
各流域における期間別の硝酸性窒素流出量と除去可能量(2001 年 10 月∼2002 年 9 月)
期間
①
②
③
流域1 流域2 流域3 流域4 流域5 流域6 流域7 流域8 流域9 流域10 流域11
硝酸性窒素流出量(トン)
0.7
2.6
1.1
4.4
4.4
2.1
8.6
6.2
2.3
2.9
2.0
0.8
0.6
0.3
0.2
4.5
1.2
0.8
4.0
1.4
0.6
0.4
0.1
0.1
0.4
0.2
0.2
11.1
5.6
3.2
0.0
0.0
0.0
0.4 20.4
0.4 18.6
0.2 11.1
期間①:9−11 月、②:12−3 月、③:4−5 月。
22.2
20.2
12.1
2.6
2.4
1.4
41.3
37.7
22.6
3.2
2.9
1.8
硝酸性窒素除去可能量(トン)
①
②
③
1.0
0.9
0.5
2.2
2.0
1.2
5.5
5.0
3.0
0.7
0.6
0.4
2.1
1.9
1.2
網掛け部は除去可能量が流出量を上回ることを示す。
[その他]
研究課題名:水田・休耕田の土壌タイプ別窒素除去能の解明、茶園排水浄化のための土地
利用図の作成
予算区分 :国補(指定試験)
研究期間 :1999∼2003 年度、2002∼2003 年度
研究担当者:新良力也、渥美和彦、宮地直道
発表論文等:渥美ら(2002)日本砂丘学会誌 48(3):129-138
- 87 -
[成果情報名]赤黄色土露地野菜畑におけるキャベツ・スイートコーン栽培の施肥窒素動態
[要約]赤黄色土露地野菜畑における3年6作栽培における施肥窒素の作物吸収量及び地下
浸 透 流 出 量 の 割 合 は 、 速 効 性 化 学 肥 料 で は 37 % と 32 % 、 緩 効 性 化 学 肥 料 は 35 % 、 20 % 、 牛
ふ ん 堆 肥 併 用 は 37 % 、 18 % と な り 、 緩 効 性 化 学 肥 料 の 施 肥 窒 素 流 出 量 は 著 し く 少 な い 。
[キーワード]窒素動態、速効性化学肥料、緩効性化学肥料、牛ふん堆肥、キャベツ
[担当]愛知農総試・東三河農業研究所・野菜グループ
[ 連 絡 先 ] 電 話 0532-61-6235 、 電 子 メ ー ル [email protected]
[区分]関東東海北陸農業・関東東海・土壌肥料、共通基盤・土壌肥料
[分類]技術・参考
------------------------------------------------------------------------------[背景・ねらい]
愛知県東三河地域に広く分布する赤黄色土露地野菜畑では生産性を維持するために化学
肥料及び堆きゅう肥等有機物資材の施用量が多く、硝酸性窒素等による地下水汚染が懸念さ
れている。そこで、施肥した窒素の動態を調査して、地下水の硝酸性窒素濃度を低減するため
の環境保全型施肥法を開発する。
[成果の内容・特徴]
1 . 窒 素 施 用 量 は キ ャ ベ ツ は 30k g /10a、 ス イ ー ト コ ー ン は 25k g ( 6作 目 の み 20㎏ ) を 基 準 施 用 量
と し 、 牛 ふ ん 堆 肥 併 用 ( 尿 素 + 1 作 目 に 牛 ふ ん 堆 肥 10 t ) で は 速 効 性 化 学 肥 料 ( 尿 素 ) を 夏
作 2 作 目 は 25 ㎏ 、 4 作 目 12.5 ㎏ 及 び 6 作 目 は 10 ㎏ を 施 用 す る 。
キャベツ・スイートーンの3年6作栽培を通した施肥窒素の作物吸収量及び地下浸透流出
量 の 施 肥 量 に 対 す る 割 合 は 、 速 効 性 化 学 肥 料 で は 37 % と 32 % で 、 緩 効 性 化 学 肥 料 ( L P
40 ) で は そ れ ぞ れ 35 % 、 20 % で あ り 、 牛 ふ ん 堆 肥 併 用 で は 37 % 、 18 % と な り 、 速 効 性 化
学肥料の地下浸透流出量は著しく多い(表1)。
2.地下浸透流出量が少ない緩効性化学肥料の収量は、キャベツ及びスイートコーン作ともに
速効性化学肥料よりも著しく増収する。牛ふん堆肥併用の収量は1年目の堆肥施用直後の
キャベツで窒素の有機化により減収するが、2作目以降では速効性化学肥料と同等かそれ
以上で推移する(図1)。
3.緩効性化学肥料の作物に吸収された全窒素量は、速効性化学肥料や牛ふん堆肥施用より
もやや多い傾向が見られ、地下浸透で流出する全窒素量は、速効性化学肥料に比較して著
しく少ない。一方、牛ふん堆肥併用の流出する全窒素量は堆肥により持ち込まれた窒素の
影 響 か ら 速 効 性 化 学 肥 料 と 同 等 程 度 ま で 多 く な り 、 全 吸 収 量 と ほ ぼ 等 し く な る ( 図 2 )。
[成果の活用面・留意点]
1 . 供 試 し た 牛 ふ ん 堆 肥 の T-N含 有 率 は 1.52% 、 乾 物 率 は 32.0% で あ る 。
2.牛ふん堆肥は腐熟したものを使用することが好ましい。
3.牛ふん堆肥の施用方法は毎作適量を施用して、併用する化学肥料を少なくすることが重要
である。
- 88 -
[具体的データ]
表1 キャベツ・スイートコーン栽培体系6作までの窒素動態
速効性化
学肥料
緩効性化
学肥料
牛ふん堆
肥併用
施
肥
量
吸収量
割合
流出量
割合
土壌残存量等
割合
㎏/10a
㎏/10a
%
㎏/10a
%
㎏/10a
%
160.0
59.4
37
50.7
32
49.9
31
160.0
55.7
35
32.1
20
72.2
45
137.5
51.2
37
25.4
18
60.9
44
施肥窒素動態内訳
備考) 施肥由来窒素は尿素5.12Atom%、被覆尿素40日タイプ3.22Atom%を用いて算出した。
吸収量は作ごとに作物の地上部重から算出し、流出量はキャピラリライシメータを用いて算出した。
土壌残存量等は施肥量から吸収量と流出量を差し引いたものである。
速効性化学肥料
緩効性化学肥料
牛ふん堆肥併用
180
160
収
量 140
指
数 120
100
5.4
t/10a
1.2
t/10a
5.9
t/10a
1.1
t/10a
4.1
t/10a
0.8
t/10a
1作キャベツ
2作スイートコーン
3作キャベツ
4作スイートコーン
5作キャベツ
6作スイートコーン
80
60
図1
収量指数の推移
㎏ / 10a
全窒素吸収量
120
108
全窒素流出量
108.8
103.6
98.9
90
102.5
78.4
60
30
0
速効性化学肥料
緩効性化学肥料
牛ふん堆肥併用
図2 作物に吸収された全窒素量と地下浸透で流出した全窒素量
[その他]
研究課題名: 赤黄色土露地野菜地帯における環境負荷物質の動態解明
予算区分 :国費(指定試験)
研究期間 : 2001 ∼ 2003 年度
研究担当者:今川正弘、山田良三、荻野和明、白井一則
発表論文等:白井・山田・今川・結田( 2002 )土肥要旨集 48 : 144 .
- 89 -
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