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北海道包括外部監査の結果報告書
平成 24 年度 北海道包括外部監査の結果報告書 企業誘致施策に関する事務の執行について 北海道包括外部監査人 弁護士 薄木 宏一 −目 Ⅰ 次− 外部監査の概要 第1 外部監査の種類 1 第2 選定した特定の事件(監査のテーマ) 1 第3 特定の事件を選定した理由 1 第4 監査の対象年度 1 第5 監査の対象機関 1 第6 監査の着眼点 3 第7 主な監査手続き 3 第8 包括外部監査人及び補助者 3 第9 監査期間 4 第 10 利害関係 4 第 11 監査の結果 4 Ⅱ 外部監査結果の概要 5 Ⅲ 外部監査の結果 第1 北海道の経済環境 11 第2 北海道の企業誘致施策 13 第3 北海道財政の現状 16 第4 北海道の人口 19 第5 企業誘致促進費 20 第6 企業立地促進費(企業立地促進費補助金) 23 第7 中小企業総合振興資金貸付金(産業振興資金のうち企業立地貸付) 35 第8 苫東地域開発 39 苫小牧東部地域開発出資特別会計貸付金 北海道土地開発公社苫小牧東部工業基地用地資金貸付金 第9 石狩湾新港地域開発 66 石狩湾新港地域開発出資特別会計貸付金 北海道土地開発公社石狩湾新港地域港湾用地資金貸付金 Ⅳ おわりに Ⅴ 参考資料 第1 苫東地域開発の歴史的経緯 第2 石狩湾新港地域開発の歴史的経緯 83 85 106 ◎ 報告書における表及び図の金額等は、特に断りのない限り単位以下を切り捨てしているた め、合計額と一致していない場合がある。 ◎ 報告書における表及び図は、道及び団体から提出された資料に基づき監査人が作成した。 Ⅰ 外部監査の概要 第1 外部監査の種類 地方自治法第252条の37第1項の規定に基づく包括外部監査 第2 選定した特定の事件(監査のテーマ) 企業誘致施策に関する事務の執行について 第3 特定の事件を選定した理由 企業の誘致は、適地の取得や道路・港湾などのインフラ整備をはじめ、誘致活動の 展開や財政的支援の実施など、様々な段階を踏んで実現するものであり、計画から最 終的な立地に至るまでには数十年の期間を要することもある。 このため、 企業誘致施策は、その時々の社会経済情勢の変化等に的確に対応しつつ、 費用対効果を見極めながら実施されなければ、その効果が十分に発揮されないおそれ がある。 これまで北海道においては、自立型経済構造への転換を図るため、企業誘致施策の 積極的な展開を図ってきているところであるが、本道経済は、近年の公共投資予算の 削減という構造変化への対応の遅れから経済規模の縮小が進行しており、加えて、平 成20年の世界同時不況や急速な円高の進行、さらには、平成23年3月に発生した 東日本大震災などによる影響を受け、厳しい状況に直面している。 こうした状況を踏まえ、これまでの北海道の企業誘致施策が、自立型経済構造への 転換や経済の活性化及び雇用機会の創出にどのように寄与し、その効果の測定は適切 になされているか、また、施策や制度の内容などは現在の社会経済情勢などを的確に 反映したものとなっているか、さらには効果的・効率的な事務の執行となっているか などについて検証することは重要であると考え、包括外部監査における特定の事件と して選定した。 第4 監査の対象年度 原則として平成23年度としたが、必要に応じて他の年度についても監査対象と した。 第5 監査の対象機関 北海道経済部 1 < 北 海 道 経 済 部 の 組 織 > (北海道機構一覧表より 平成 24 年 4 月 1 日現在) 総務課 計量検定所 食関連産業室 観 経済部 光 局 経営支援局 中小企業課 サハリン事務所 国際経済室 産業振興局 産業振興課 環境・エネルギー室 雇用労政課 労 高等技術専門学院 働 局 人材育成課 障害者職業能力開発校 2 第6 監査の着眼点 北海道の企業誘致施策が、厳しい財政状況を踏まえ、最小の経費で最大の効果を 上げる制度となっているか、また、その運営の合理化に努めているか。 1 企業誘致関連事業は、現在の社会経済情勢などを的確に反映しているか。 また、効果的・効率的に実施されているか。 2 企業誘致関連事業の効果測定はどのようになされているか。 3 過去の包括外部監査における指摘事項などは、是正・改善が図られているか。 < 監査対象事業 > 監査対象事業の考え方については、15頁で詳述しているが、事業内容や予算 規模などから、次の7事業を抽出した。 (1) (2) (3) (4) (5) (6) 企業誘致促進費 企業立地促進費(企業立地促進費補助金) 中小企業総合振興資金貸付金(産業振興資金のうち企業立地貸付) 苫小牧東部地域開発出資特別会計貸付金 北海道土地開発公社苫小牧東部工業基地用地資金貸付金 石狩湾新港地域開発出資特別会計貸付金 (7) 北海道土地開発公社石狩湾新港地域港湾用地資金貸付金 第7 主な監査手続き 1 関係法令、条例、規則等の根拠規定を確認した。 2 道の企業誘致施策等に関する書面を閲覧し、所管部に対してヒアリングや実地 調査を実施した。 3 その他監査の着眼点に適合した各種監査手続を必要に応じ選択した。 第8 包括外部監査人及び補助者 包括外部監査人 補 助 者 補 助 者 補 助 者 薄 天 橋 中 木 宏 羽 場 弘 島 正 一 浩 之 博 3 弁 護 士 公認会計士 弁 護 士 弁 護 士 第9 監査期間 平成24年10月1日から平成25年1月31日まで 第10 利害関係 包括外部監査の対象とした事件につき、地方自治法第252条の29の規定に より記載すべき利害関係はない。 第11 監査の結果 次の区分により対応を求めた。 (個別の内容は 「Ⅱ外部監査結果の概要」 を参照) 【 指 摘 】 早急に是正または改善を求める事項(1件) 【 意 見 】 監査の結果に添えて提出する意見(10件) (有効性、効率性等の観点から検討の必要がある事項) また、包括外部監査人が今回の監査を通じて感じた点について、 【所感】として 記載した。(1件) 4 Ⅱ 外部監査結果の概要 事業名 企業誘致促進費 【所感 1】 (20頁) ・ 財政状況の制約から、毎年度事業費は縮小を余儀なくされているが、比較的少額の事業 費でありながら、毎年度一定程度の立地件数を維持していることから考えれば、費用対効 果の高い事業であると考える。 (上記の説明) ・ 平成20年のリーマンショック後、立地件数は低迷していたが、平成23年度には、加 工組立型(自動車関係など)や食品工業などの分野で回復しており、東日本大震災を契機 とした、企業の活動拠点分散化の動きを捉え、道外でのセミナーや道内視察会の開催、知 事自らによるトップセールスの実施、企業への意向調査など積極的な取組を行ったこと等 によるものと思われる。 事業名 企業立地促進費(企業立地促進費補助金) 【意見 1】 (32頁) ・ 厳しい道の財政状況の中で、多額の予算措置を行っている補助金の効果等について十分 な検討を行うとともに、社会経済情勢の変化や企業ニーズを的確に把握の上、今後とも制 度内容の工夫に努めていく必要がある。 (説明) ・ 北海道産業振興条例に基づく助成措置については、条例施行規則に規定しており、条例 制定以降、数次にわたり産業の動向や経済環境の変化などを反映した制度の見直し(規則 改正)が行われている。これまで道では、本補助金を活用した企業27社に対し、平成2 3年度に制度内容に係る意向調査を実施しているが、広く、誘致対象となる道外企業等に 対する意向調査等は行っていない。本補助金を活用した立地企業数の減少という実態や他 都府県との差別化といった課題等を勘案し、アンケート調査等の実施により、企業のニー ズを的確かつ幅広く把握し、企業立地促進費補助金が企業立地へのインセンティブとして 十分に機能しているか、社会経済情勢の変化に適切に対応しているか、他都府県との差別 化が図られているかなど細やかに調査検討するとともに、検討結果等を踏まえて、適時適 切な制度の見直しに努めるべきである。 5 【指摘 1】 (34頁) ・ 補助金交付直後の交付先企業の倒産といったケースは、結果として補助金の交付目的が 果たされないことから、こうした事態を防ぐため、補助金交付にあたっては、交付先企業 の直近の経営状況について十分な確認を行うべく、審査マニュアルの改善など必要な措置 を講ずること。 (上記の説明) ・ 平成21年度から平成23年度までの間において、北海道産業振興条例に基づく企業立 地促進費補助金が交付された後に、操業が休・廃止された企業が3社あり、そのうち1社 は、平成23年6月23日に補助金の支払いがなされたが、その直後の7月1日に弁護士 に破産申立を委任し、同月15日、操業廃止届を提出している。 ・ 補助金を交付した直後に交付先が倒産するという事態は、結果として補助金の交付目的 が果たされておらず、本来あってはならない事である。 ・ 施行規則第11条では、認定の申請をした事業者が債務超過の状態にある等の理由によ り、継続的な事業の実施が困難であると認められるときは補助金を交付しないこととなっ ており、当該事案に係る交付前の審査は、マニュアルに従って行われたが、特段問題とな る事項がなかったとして処理されていた。 ・ しかし、マニュアルでは、交付先が交付直後に破産申し立てを行う事は想定しておらず、 さらには、破産申し立て後、道では、申立人に対する聞き取り調査しか行っていなかった。 ・ 破産管財人に対する返還請求を検討する余地があったことや、補助金の申請書類に添付 されていた決算書が、補助金交付の9か月前(平成22年9月時点)のものであり、補助 金交付の直近の経営状況について、月次の試算表などにより確認すべきであったと思われ ることから、今後同様の事態の発生を回避するため、審査マニュアルの改善等を検討すべ きである。 6 事業名 中小企業総合振興資金貸付金(産業振興資金のうち企業立地貸付) 【意見 2】 (38頁) ・ 厳しい道の財政状況の中で、多額の予算措置を行っている企業立地貸付金の効果等につ いて十分な検討を行うとともに、社会経済情勢の変化や企業ニーズを的確に把握の上、今 後とも制度内容の工夫に努めていく必要がある。 (上記の説明) ・ 企業立地促進費補助金と同様に、アンケート調査等の実施により、企業ニーズを的確に 把握し、当該貸付金が企業立地へのインセンティブとして十分に機能しているか、社会経 済情勢の変化に適切に対応しているかなど細やかに調査検討するとともに、検討結果など を踏まえて、適時適切な制度の見直しに努めるべきである。 事業名 苫小牧東部地域開発出資特別会計貸付金 【意見 3】 (53頁) ・ 分譲実績が計画を下回り続けていることに伴って、 ㈱苫東から苫小牧東部地域開発出 資特別会計に対する株主還元が予定どおり進まない状況となっていることから、北海道と しては、㈱苫東に対し、役員報酬等を含む経常的な経費のより一層の節減に努めるよう、 株主総会における株主としての権限の行使なども含め、これまで以上に積極的な対応を図 ること。 (上記の説明) ・ 91haの分譲を計画していた平成22年度における㈱苫東の分譲面積が0haであっ たにもかかわらず、北海道が㈱苫東に対して株主として、株主総会の場において役員報酬 等に関し意見を述べた形跡が全く見られない。 ㈱苫東の増収と役員報酬等を含む経費節減が達成されなければ、当初見込んだ株主還元 が予定どおりに進まず、その結果として、北海道の一般会計に更なる負荷(苫小牧東部地 域開発出資特別会計貸付金の増加)をかけることになるのは明らかである。 7 事業名 北海道土地開発公社苫小牧東部工業基地用地資金貸付金 【意見 4】 (64頁) ・ 北海道は、引取りの際の北海道土地開発公社に対する「経費」の支払いの財源確保など、 苫東二次買収用地に係る土地処分の具体化に向けた検討を急ぐとともに、国土交通省北海 道局に対し、これまで以上に積極的に、利活用の具体化に係る申し入れを行い、北海道土 地開発公社の長期保有地の解消に最大限取り組むべきである。 【意見 5】 (65頁) ・ 無利子貸付金の単年度償還による簿価抑制については、総務省からの通知の趣旨なども 踏まえ、道財政がおかれている現状も考慮した上で、早期に見直しを検討すべきである。 (上記の説明) ・ 北海道土地開発公社への支払期限である平成27年度末に向けて、北海道は、引取りの 際の北海道土地開発公社に対する「経費」の支払いの財源確保など、土地処分の具体化に 向けた検討を急ぐとともに、国土交通省北海道局に対し、これまで以上に積極的に、利活 用の具体化に係る申し入れを行い、北海道土地開発公社の長期保有地の解消に最大限取り 組むべきである。 ・ 無利子貸付金の単年度償還による簿価抑制は、平成13年度から行われているが、反復・ 継続的に実施されている単年度貸付によって、巨額の含み損の実態が見えにくくなってお り、地方公共団体の財務情報の開示の推進の流れに照らしても、不透明な方式と言わざる を得ない。総務省からの通知の趣旨なども踏まえ、道財政がおかれている現状も考慮した 上で、早期に見直しを検討すべきである。 【意見 6】 (65頁) ・ 毎年度発生する市中金融機関に対する借入利子については、北海道が年度毎に負担処理 し、簿価算入を解消すべきである。 (上記の説明) ・ 平成15年7月16日及び同月28日に北海道と公社との間で締結された公共用地等の 先行取得等に係る経費の支払いに関する契約において「経費」の範囲を拡張し、 「経費」に は、平成15年度以降、当該用地に係る無利子貸付金を北海道に返済するために金融機関 から借入した資金にかかる利子(以下「本件利子」という。 )を加算するとの約定が追加さ れている。 ・ しかし、平成11年度包括外部監査の結果に関する報告並びに契約当時の土地開発公社 経理基準要綱、日本公認会計士協会が昭和49年8月20日に公表した申合わせ及び平成 17年1月21日に改正された土地開発公社経理基準要綱の趣旨に鑑み、北海道は、公社 に対する短期貸付(単年度償還)を繰り返すことによって毎年度新たに発生する本件利子 について、北海道の一般会計による年度毎の負担処理(道費での支出)をすべきである。 8 事業名 石狩湾新港地域開発出資特別会計貸付金 【意見 7】 (77頁) ・ 分譲実績が計画を下回り続けていることに伴って、石狩開発㈱から石狩湾新港地域開発 出資特別会計に対する株主還元が予定どおり進まない状況となっていることから、北海道 としては、石狩開発㈱に対し、役員報酬等を含む経常的な経費のより一層の節減に努める よう、株主総会における株主としての権限の行使なども含め、これまで以上に積極的な対 応を図ること。 (上記の説明) ・ 石狩開発㈱の増収と役員報酬等を含む経費節減が達成されなければ、株主還元が予定ど おりに進まず、その結果、一般会計からの借入の増加が懸念される。 ・ 石狩開発㈱では、平成14年度から平成19年度にかけて、役員報酬の削減を実施して いたが、石狩開発㈱の売上高が激減した平成20年度に、業務執行体制の一層の強化を 図ることを目的に、常勤監査役を廃止した上で常務取締役を配置した結果、平成19年度 の役員報酬総額(1620万円)よりも、平成20年度の役員報酬総額(1880万円) が増加し、その後全く変動が無い。 9 事業名 北海道土地開発公社石狩湾新港地域港湾用地資金貸付金 【意見 8】 (81頁) ・ 北海道は、引取りの際の北海道土地開発公社に対する「経費」の支払いの財源確保など、 石狩湾新港地域港湾用地に係る土地処分の具体化に向けた検討を急ぐとともに、次期港湾 計画の改訂の際には、当該港湾用地の開発が明確に位置づけられるよう、石狩湾新港管理 組合など関係機関に対してこれまで以上に積極的に申し入れを行い、北海道土地開発公社 の長期保有地の解消に最大限取り組むべきである。 【意見 9】 (81頁) ・ 無利子貸付金の単年度償還による簿価抑制については、総務省からの通知の趣旨なども 踏まえ、道財政がおかれている現状も考慮した上で、早期に見直しを検討すべきである。 (説明) ・ 北海道土地開発公社への支払期限である平成29年度末に向けて、北海道は、引取りの 際の北海道土地開発公社に対する「経費」の支払いの財源確保など、土地処分の具体化に 向けた検討を急ぐとともに、次期港湾計画の改訂の際には、当該港湾用地の開発が明確に 位置づけられるよう、石狩湾新港管理組合など関係機関に対してこれまで以上に積極的に 申し入れを行い、北海道土地開発公社の長期保有地の解消に最大限取り組むべきである。 ・ 北海道土地開発公社苫小牧東部工業基地用地資金貸付金においても記載したとおり、反 復・継続的に実施されている単年度貸付によって、含み損の実態が見えにくくなっており、 地方公共団体の財務情報の開示の推進の流れに照らしても、不透明な方式と言わざるを得 ない。総務省からの通知の趣旨なども踏まえ、道財政がおかれている現状も考慮した上で、 早期に見直しを検討すべきである。 【意見 ・ 10】 (82頁) 毎年度発生する市中金融機関に対する借入利子については、北海道が年度毎に負担処理 し、簿価算入を解消すべきである。 (説明) ・ 借入利子については、簿価算入が継続されているが、北海道土地開発公社苫小牧東部工 業基地用地資金貸付金同様に北海道土地開発公社石狩湾新港地域港湾用地資金貸付金につ いても、北海道土地開発公社に対する短期貸付(単年度償還)を繰り返すことによって毎 年度新たに発生する本件利子について、北海道の一般会計による年度毎の負担処理(道費 での支出)をすべきである。 10 Ⅲ 外部監査の結果 第1 北海道の経済環境 北海道は、広大な土地、豊富な農林水産資源、大自然を活かし、農業、水産業、製 造業(食料品) 、観光産業に優位性を有している。 農業、水産業は、ともに総生産額が全国1位、食料品製造業の総生産額は全国13 位と、地域の経済や雇用を支える重要な産業として発展してきたところである。 しかし、北海道経済の特徴としては、①依然として公的需要への依存度が高いこと、 ②全国に比べて、産業全体に占める二次産業の割合が低い産業構造となっていること、 ③労働生産性(就業者1人当たりの道内総生産)の減少傾向が続き、特に第二次産業 の労働生産性が全国平均を大きく下回り、競争力が低いなどの課題を抱えている。 そのため、北海道経済の活力を維持し、成長力を高めていくため、厚みと広がりの ある自立型産業構造への転換を図ることが重要であり、北海道の企業誘致施策の中心 的な課題とされてきた。 ①公的需要への依存度が高い経済構造 <道内需要に占める公的需要の割合の推移> H17年度 H18年度 H19年度 H20年度 H21年度 北海道 32.9% 32.4% 32.1% 32.6% 33.6% 全 22.9% 22.3% 22.4% 22.9% 24.8% 国 (出典:平成21年度国民経済計算確報、平成21年度道民経済計算確報、平成24年度北海道経済部施策の概要) ②製造業の比率が低い産業構造 <道(国)内総生産の産業別構成比(平成21年度)> 第1次産業 第2次産業 (うち製造業) 第3次産業 北海道 3.9% 14.5% 8.0% 84.5% 全 1.4% 24.3% 18.0% 76.4% 国 (出典:平成21年度国民経済計算確報、平成21年度道民経済計算確報、平成24年度北海道経済部施策の概要) ③全国と比較して低い産業の競争力 <産業別労働生産性の比較(平成21年度)> (単位:万円/人) 北海道 全 第 1 次産業 352.9 211.5 141.4 第 2 次産業 594.8 738.7 ▲144.0 第 3 次産業 851.9 806.1 45.8 (出典:平成24年度北海道経済部施策の概要) 11 国 差 経済成長率の推移(道(国)内総生産の対前年度増加率) 年度 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 名 北海道 △ 1.3 △ 0.2 △ 0.8 0.6 △ 0.9 △ 1.8 △ 1.1 △ 0.3 △ 2.2 △ 1.0 △ 1.6 △ 2.6 △ 1.7 目 全 国 0.9 △ 2.0 △ 0.8 0.9 △ 2.1 △ 0.8 0.8 1.0 0.9 1.5 1.0 △ 4.6 △ 3.7 実 北海道 △ 2.6 0.5 0.1 1.5 0.6 △ 0.4 △ 0.6 0.4 △ 1.0 △ 0.5 △ 1.3 △ 2.1 △ 1.9 質 全 国 0.0 △ 1.5 0.7 2.6 △ 0.8 1.1 2.1 2.0 2.3 2.3 1.8 △ 4.1 △ 2.4 道(国)内総生産(名目)の推移 年度 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 北海道 209,452 206,796 206,329 204,713 206,020 204,244 200,610 198,478 197,869 193,525 191,614 188,541 183,651 180,528 (単位:億円、%) 増加率 全 国 5,090,958 5,136,129 5,033,241 4,995,442 5,041,188 4,936,447 4,898,752 4,937,475 4,984,906 5,031,867 5,109,376 5,158,043 4,920,670 4,740,402 − △1.3 △0.2 △0.8 0.6 △0.9 △1.8 △1.1 △0.3 △2.2 △1.0 △1.6 △2.6 △1.7 増加率 − 0.9 △2.0 △0.8 0.9 △2.1 △0.8 0.8 1.0 0.9 1.5 1.0 △4.6 △3.7 道(国)内総生産(実質)の推移 年度 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 北海道 207,101 201,727 202,730 202,915 205,977 207,218 206,442 205,244 206,101 204,022 203,081 200,439 196,168 192,375 (単位:%) デフレーター 北海道 全 国 1.4 0.9 △ 0.7 △ 0.5 △ 0.9 △ 1.5 △ 0.9 △ 1.6 △ 1.5 △ 1.3 △ 1.4 △ 1.8 △ 0.5 △ 1.3 △ 0.7 △ 1.0 △ 1.2 △ 1.3 △ 0.5 △ 0.7 △ 0.3 △ 0.9 △ 0.5 △ 0.5 0.2 △ 1.3 シェア 4.1 4.0 4.1 4.1 4.1 4.1 4.1 4.0 4.0 3.8 3.8 3.7 3.7 3.8 (単位:億円 増加率 全 国 4,969,346 4,968,358 4,894,597 4,930,487 5,056,219 5,016,175 5,070,149 5,177,129 5,279,803 5,400,254 5,524,708 5,625,350 5,394,840 5,267,353 − △ 2.6 0.5 0.1 1.5 0.6 △ 0.4 △ 0.6 0.4 △ 1.0 △ 0.5 △ 1.3 △ 2.1 △ 1.9 増加率 ※北海道経済要覧2011(平成23年)10頁∼11頁 12 − △ 0.0 △ 1.5 0.7 2.6 △ 0.8 1.1 2.1 2.0 2.3 2.3 1.8 △ 4.1 △ 2.4 %) シェア 4.2 4.1 4.1 4.1 4.1 4.1 4.1 4.0 3.9 3.8 3.7 3.6 3.6 3.7 第2 北海道の企業誘致施策 北海道経済部では、平成24年度の施策展開の方針として、 「ほっかいどう産業振興 ビジョン(平成23年12月策定) 」に基づき、「厳しい経済・雇用情勢」 、「本道経済 の構造的な問題」、 「経済社会環境の変化」という3つの現状・課題を解決し、持続可 能な自立型経済産業構造を確立するため、東日本大震災の影響への対策や、力強い地 域経済づくりに向けた取組、北海道の優位性を活かした食や観光、環境などの分野に おける成長力強化に向けた取組を推進することとしている。 その中で、企業誘致施策については、平成20年に発生した世界同時不況と急速な 円高の進行を原因とする、企業の設備投資計画の凍結・見直しや生産拠点の海外移転 の動きの加速化などによって、平成22年度の立地件数が過去最低となる等、厳しい 状況に陥ったことや、東日本大震災を契機とした企業の活動拠点の地方分散化の動き を踏まえ、経済波及効果の高い自動車産業などのものづくり産業に加え、北海道に立 地優位性のある食関連産業やデータセンター、今後の成長や投資の拡大が見込まれる 環境産業などを中心に、効率的・効果的な企業誘致活動を行っていくとともに、産業 振興条例の施行規則を見直し、成長産業分野の範囲の拡大や、要件緩和(投資額や雇 用増)を行ったほか、道外道内での立地セミナーや知事のトップセールスも含めた企 業訪問や現地視察会の開催などにも積極的に取り組むこととしている。 <震災に関連したリスク分散目的で、本道への立地を決定した企業> 総 数 21社 うち被災企業(東北) うち首都圏からのリスク分散 5社 13社 (平成23年度) また、誘致企業の受け皿である産業集積地域の開発に関しては、 「苫小牧東部地域」 (以下「苫東地域」という。) 、 「石狩湾新港地域」についても、平成20年以降の景気 低迷や円高の進行による影響を大きく受け、企業立地が低迷し、用地分譲やリース契 約の件数が落ち込むなど、厳しい状況となっている一方で、東日本大震災以降、企業 における活動拠点の分散化が進んでいる実態を踏まえて、それぞれの地域の立地特性 を最大限に活かした企業誘致に取り組むとしている。 具体的には、苫東地域については、 「北海道企業誘致推進会議」や「苫小牧東部開発 連絡協議会」との連携による企業立地セミナー等の開催、物流機能強化を目的とした 苫小牧港東港区の整備や道路などの基盤整備に向けた関係機関と連携による国への要 望などのほか、大規模震災のバックアップ拠点としての大規模開発プロジェクトや太 陽光発電などの民間の再生可能エネルギー関連プロジェクトの導入促進に向けた検討 や働きかけを行うこととしている。 また、石狩湾新港地域については、物流関連産業やリサイクル関連産業、LNG基 地などのエネルギー関連産業、データセンターなど情報関連産業の集積を推進するこ ととしている。 13 <苫小牧東部地域、石狩湾新港地域の分譲状況(平成24年3月末現在)> 区 総 面 分 苫小牧東部地域 積 石狩湾新港地域 10,700ha 3,022ha 5,500ha 1,296ha 1,052ha 828ha 分譲割合 19.1% 63.9% 立地企業数 105社 736社 70社 612社 分譲用地面積 うち分譲・リース済面積 うち操業企業数 <北海道の主な工業団地の分譲状況> 工業団地名 所在地 (単位:ha) 工業団地 工 場 等 分譲済 分譲中 分 譲 面 用地面積 面 面 割 合 事業主体名 苫小牧東部地域 苫小牧市、安平町、厚真町 ㈱苫東 石狩湾新港地域 石狩市、小樽市 苫小牧西部工業基地 積 積 積 10,700 5,500 1,052 4,448 19% 石狩開発㈱ 3,022 1,296 828 468 64% 苫小牧市 苫小牧港開発㈱ 1,721 1,156 1,100 56 95% 千歳臨空工業団地 千歳市 千歳市土地開発公社 402 214 168 46 79% 釧路白糠団地 釧路市、白糠町 (独)中小企業基盤整備機構 340 249 243 6 98% 西港臨海工業団地 釧路市 釧路市 280 228 212 16 93% 空知団地 美唄市、奈井江町 (独)中小企業基盤整備機構 277 247 137 110 56% 明野北工業団地 苫小牧市 苫小牧港開発㈱ 203 143 66 77 46% 明野軽工業団地 苫小牧市 苫小牧市 168 156 151 5 97% 千歳美々ワールド 千歳市 千歳市土地開発公社 148 108 28 80 26% 恵庭テクノパーク 恵庭市 恵庭市 127 89 89 0 100% ウトナイ住宅・商工業団地 苫小牧市 苫小牧港開発㈱ 126 84 7 77 8% 道央砂川工業団地 砂川市 砂川市土地開発公社 100 75 52 23 69% 合計 17,614 9,545 4,133 5,412 43% うち苫東地域を除く 6,914 4,045 3,081 964 76% ※分譲割合=分譲済面積/工場等用地面積 (北海道工業団地ガイド」掲載団地一覧から総面積 100ha 以上の団地を抽出) ○ 現在分譲中(100ha 以上)の団地については分譲済の割合が 43%となっており、全体の およそ5割程度が分譲中という状況である。なお、苫東地域を除くと分譲割合は 76%とな る。 ○ 苫小牧西部工業基地が分譲済 95%であるのに対して、近隣地区である苫東地域は 19% と対照的な状況となっている。 14 北海道経済部が所管する企業誘致の推進等を目的とする主な事業(平成24年度)は以下 のとおりである。 道では、 「ほっかいどう産業振興ビジョン」に基づき、大きく2つの施策を柱立てて企業誘 致の推進等に向けた事業を実施しているが、これらの事業のうち、本年度は、①道が企業誘 致活動を強化するための推進経費、②立地企業に対する直接的な支援経費、③産業集積地域 の形成のための経費といった、3つの観点で事業をとらえ、その内容や予算規模などからそ れぞれの観点における主要な事業(7事業)を抽出し、監査を実施した。 (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) 企業誘致促進費 企業立地促進費(企業立地促進費補助金) 中小企業総合振興資金貸付金(産業振興資金のうち企業立地貸付) 苫小牧東部地域開発出資特別会計貸付金 北海道土地開発公社苫小牧東部工業基地用地資金貸付金 石狩湾新港地域開発出資特別会計貸付金 北海道土地開発公社石狩湾新港地域港湾用地資金貸付金 事業の概要及び監査の結果については、次章以降で述べる。 ほっかいどう 産業振興ビジョン 施策の柱 事 業 名 予算額 (単位:千円) 本道の立地 企業誘致促進費 7,737 企業誘致促進費(特定重点分野誘致活動強化事業費) 2,804 企業立地促進費(企業立地促進費補助金) 立 地 環 境 を 活 か し た 企業誘致 の推進 ・集積 の促進 優位性を活 環境産業誘致活動強化事業費(※国庫補助) かした誘致 被災企業等緊急移転事業費補助金(※国庫補助) 活動の強化 中小企業総合振興資金貸付金(産業振興資金 のうち「企業立地貸付」に係る原資預託額) 苫小牧東部地域開発促進費 本道をリー 苫小牧東部地域開発出資特別会計貸付金 ドする産業 北海道土地開発公社苫小牧東部工業基地用地資金貸付金 集積地域の 苫小牧地区工業用水道事業補助金 苫小牧東部地域用地等管理費 石狩湾新港地域開発推進費 形 成 苫東地域 石狩湾新港地域開発出資特別会計貸付金 北海道土地開発公社石狩湾新港地域港湾用地資金貸付金 1,965,145 4,858 10,000 9,256,000 666 510,193 11,803,851 1,471,594 2,004 205 308,828 2,128,380 石狩湾新港地域工業用水道事業費補助金、出資金及び貸付金 633,984 石狩湾新港地域用地管理費 255 石狩湾新港地域LNG冷熱利用型プロジェクト推進事業費 175 ※ 中小企業総合振興資金貸付金(産業振興資金)は、ほっかいどう産業振興ビジョンの「人々の生活を支える力強い地域経済づくり」に位置づけら 石狩湾新港地域 れているが、このうち企業立地貸付金については、立地企業に対する直接的な支援経費であることから、便宜上企業誘致施策として整理している。 15 第3 北海道財政の現状 北海道財政の現状については、 「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」に基づ き、平成19年度決算から実質赤字比率などの健全化判断比率や公営企業に係る資金 不足比率を公表しているが、北海道は「過去に国の景気・経済対策に呼応し、道債を 財源として積極的に公共投資を実施してきたことや、収支不足を補てんするために、 行政改革推進債や退職手当債を発行してきたこと等により、巨額の道債残高を抱え、 道債償還費が多額となっており、実質公債費比率や将来負担比率は他都府県と比較し て高い水準」となっており、平成24年度(平成23年度決算に基づく算定結果)の 実質公債費比率は23.1%、将来負担比率は334.8%である。 なお、平成24年9月末における道債残高の一般会計及び特別会計の総額は、5兆 9,163億7千万円である。 他都府県と比較したところ、平成23年度決算に基づく北海道の実質公債費比率は (表 1)に示す通り、全国ワーストとなっている。 北海道の財政状況は厳しい状態にあり、行財政改革に取り組んでいる最中である。 (表 1) 実質公債費比率 都道府県名 実質公債費比率 順 位 北 海 道 23.1 47 位 徳 島 県 21.4 46 位 岐 阜 県 19.7 45 位 兵 庫 県 19.5 44 位 富 山 県 18.9 43 位 ( 中 略 ) 千 葉 県 11.4 5位 栃 木 県 11.3 4位 沖 縄 県 11.0 3位 県 10.3 2位 都 1.5 1位 神 東 奈 川 京 「全都道府県の主要財政指標(総務省 H23 年度) 」より抜粋 16 ( 参 考 ) ●実質公債費比率について 当該地方公共団体の一般会計等が負担する元利償還金及び準元利償還金の標準財政 規模に対する比率の過去3年間の平均値で、借入金(地方債)の返済額及びこれに準 じる額の大きさを指標化し、資金繰りの程度を表す指標のこと。 「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」における早期健全化基準については、 市町村・都道府県とも25%とし、財政再生基準については、市町村・都道府県とも 35%としている。 ●早期健全化基準および財政再生基準について 地方公共団体は、健全化判断比率(実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費 比率、将来負担比率)のいずれかが早期健全化基準以上である場合には、当該健全化 判断比率を公表した年度の末日までに、「財政健全化計画」を定めなければならない。 また、再生判断比率(実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率)のいず れかが財政再生基準以上である場合には、当該再生判断比率を公表した年度の末日ま でに、「財政再生計画」を定めなければならない。 (表 2) 北海道の実質公債費比率の推移 25.0 24.0 24.0 23.1 23.0 21.7 22.0 22.3 20.6 21.0 20.0 24.1 19.8 19.0 18.0 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24 http://www.pref.hokkaido.lg.jp/sm/zsi/H24tekiseikakeikaku.pdf より 17 (表 3) 平成 24 年度北海道一般会計予算の概要 (単位:億円) 歳 入 歳 出 税 4,947 人 費 6,563 地方交付税 6,990 投資的経費 3,289 道 債 6,528 公債償還費 (B) 7,070 その他収入 8,945 義務的経費 5,085 道 件 施設等維持管理費 一般施策事業費 歳入計 (A) 27,410 (B) / (A) 歳 出 292 5,111 27,410 計 25.8% ○ 歳入合計 27,410 億円に対する道債償還費 7,070 億円の割合( (B) / (A) )は、 25.8%となっており、収入の1/4が道債の返済に充てられているという状況である。 ○ 一方、他の自治体における同様の比率をみてみると、例えば東京都では 7.6%、 札幌市は 11.4%であり、道の財政がいかに硬直的で厳しい状況にあるかよく理解 できる。 18 第4 北海道の人口 北海道は、総面積は全国の22.1%と広大にも関わらず、一方で総人口が全国の 4.3%(労働人口4.2%)というアンバランスな状態にあり、日本の人口減少傾 向以上に北海道の人口減少の傾向が顕著である。 国勢調査の結果によると、日本の人口は平成12年の1億2692.6万人から平成 22年には1億2805.7万人となっている。 北海道の人口は、平成2年に初めて減少した後、 平成7年には再び増加したものの、 平成12年には再度減少に転じ568.3万となり、平成22年の国勢調査において 更に550.6万人に減少した。 国立社会保障・人口問題研究所による推計によると、平成47年には北海道の人口 は441.3万人になると予測されている。 平成17年国勢調査人口では、北海道の人口が562.8万人であったことを考え ると、30年間で約121万人以上減少、減少率は約21.6%と、全国平均である 約13.4%を大きく上回っていることが判る。 さらに、人口に占める15歳から64歳の生産年齢人口の減少率に注目すると、平 成17年時点から、全国の生産年齢人口の減少率が25.47%であるのに対し北海 道が35.15%と人口の減少率を上回っている。 このような北海道の生産年齢人口の減少は、働き手の不足による経済の縮小懸念、 具体的には、経済活動の停滞やそれに伴う生産活動の縮小、北海道の税収の減少、社 会保障費の増加による財政制約等というマイナスの影響が予想される。 将来の人口(1,000 人) 『日本の都道府県別将来推計人口』 (平成19年5月推計)より作成 平成 17 年 全国 平成 22 年 平成 27 年 平成 32 年 平成 37 年 平成 42 年 平成 47 年 127,768 127,176 125,430 122,735 119,270 115,224 110,679 5,628 5,513 5,360 5,166 4,937 4,684 4,413 北海道 人口の増加率(%)5 年期間での増減 平成 12∼ 『日本の都道府県別将来推計人口』 (平成19年5月推計)より作成 平成 17∼ 平成 22∼ 平成 27∼ 平成 32∼ 平成 37∼ 平成 42∼ 全国 0.7 -0.5 -1.4 -2.1 -2.8 -3.4 -3.9 北海道 -1.0 -2.0 -2.8 -3.6 -4.4 -5.1 -5.8 将来の生産年齢人口 『日本の都道府県別将来推計人口』 (平成19年5月推計)より作成 平成 17 年 平成 22 年 平成 27 年 平成 32 年 平成 37 年 平成 42 年 平成 47 年 全国 84,422 81,285 76,807 73,635 70,960 67,404 62,919 北海道 3,701 3,515 3,241 3,007 2,819 2,615 2,400 生産年齢人口の割合(%) 『日本の都道府県別将来推計人口』 (平成19年5月推計)より作成 平成 17 年 平成 22 年 平成 27 年 平成 32 年 平成 37 年 平成 42 年 平成 47 年 全国 66.1 63.9 61.2 60.0 59.5 58.5 56.8 北海道 65.8 63.8 60.5 58.2 57.1 55.8 54.4 19 第5 1 企業誘致促進費 概要 自動車産業や電気・電子機器産業などものづくり産業をはじめ、データ センターや物流関連産業などの本道への立地を促進するため、北海道企業 誘致推進会議と連携し、企業訪問や企業立地セミナー等の開催等により、 本道の立地環境をPRするなど、各種の企業誘致活動を展開するほか、立 地企業に対し、きめ細やかなフォローアップ事業を推進する。 事業目的 事業内容 予 算 額 (H24 年度) 2 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 民間信用調査機関の情報を活用した本道への投資意向調査の実施 企業立地セミナーの開催 官民一体となったトップセールスをはじめとした企業訪問の実施 進出企業に対するフォローアップ活動の実施 地域別企業誘致連絡会議の開催 工業団地視察会の開催 市町村企業立地実践研修会の開催 企業訪問の実施、地域協議会への負担金 ○ 官民一体となった各種の企業誘致活動を実施する北海道企業誘致推 進会議への負担金の支出 7,737千円 監査の結果 近年の道内への企業立地件数は、次表のとおりであり、北海道経済活性化戦略ビジ ョンにおける目標(H19∼H22の4年間で200件) を上回る222件であった。 平成20年のリーマンショック後、 立地件数が低迷していたが、平成23年度には、 加工組立型(自動車関係など)や食品工業などの分野で回復しており、東日本大震災 を契機とした、企業の活動拠点分散化の動きを捉え、道外でのセミナーや道内視察会 の開催、知事自らによるトップセールスの実施、企業への意向調査など積極的な取組 を行ったこと等によるものと思われる。 【所感 1】 財政状況の制約から、毎年度事業費は縮小を余儀なくされているが、比較的少 額の事業費でありながら、毎年度一定程度の立地件数を維持していることから考 えれば、費用対効果の高い事業であると考える。 20 年度 H19 H20 H21 H22 H23 合計 合 計 83 件 46 件 44 件 49 件 62 件 284 件 加工組立型 10 件 9件 3件 5件 14 件 41 件 食品工業 26 件 8件 21 件 20 件 25 件 100 件 その他 47 件 29 件 20 件 24 件 23 件 143 件 <平成23年度の取組概要(主なもの)> (道経済部への聞き取りによる) ① 北海道データセンター立地集中セミナー 日 時 平成23年8月25日(木)14:00∼17:00 場 所 東京都内 参加者等 190名 内 ○北海道の立地環境に関するプレゼンテーション(道経済部) ○立地企業、道内企業等からの情報提供 さくらインターネット㈱、NTTコミュニケーション㈱、KDDI㈱ ② 容 北海道立地環境セミナー 日 時 平成23年12月13日(火)14:00∼16:00 場 所 東京都内 参加者等 145名 ○北海道の立地環境に関する説明等 (道経済部、(独)北海道中小企業基盤整備機構北海道支部、北海道経済産 内 ③ 容 業局) ○立地企業、道内企業などからの情報提供 ㈱デンソーエレクトロニクス、佐藤鋳工㈱ 北海道立地環境セミナー 日 時 平成23年12月14日(水)13:30∼15:30 場 所 名古屋市内 参加者等 内 容 134名 ○北海道の立地環境に関する説明等 (道経済部、(独)北海道中小企業基盤整備機構北海道支部、北海道経済産 業局) ○立地企業、道内企業などからの情報提供 ㈱デンソーエレクトロニクス、㈱メディック 21 ④ 北海道立地環境セミナー 日 時 平成23年12月15日(木)14:00∼16:00 場 所 大阪市内 参加者等 113名 内 ○北海道の立地環境に関する説明等 (道経済部、(独)北海道中小企業基盤整備機構北海道支部、北海道経済産 業局) 容 ○立地企業、道内企業などからの情報提供 ㈱デンソーエレクトロニクス、㈱キメラ ⑤ データセンター事業者 北海道・札幌・石狩現地視察会 日 時 平成23年12月8日(木)∼9日(金) 場 所 札幌市、石狩市ほか 参加者等 内 容 79名 ○現地視察会 ・NTT 東日本北海道データセンター、 ・さくらインターネット㈱石狩データセンター ・苫小牧∼千歳コース (㈱苫東、千歳臨空工業団地、千歳アルカディア・プラザ等) ・空知∼旭川コース(美唄ハイテクセンター、空知工業団地、旭川リサー チセンター、旭川工業団地) ⑥ 知事によるトップセールス 相手先企業 日時 富士通㈱ 平成23年 4月27日(水) ソフトバンク㈱ 平成23年 6月18日(土) シャープ㈱ 平成23年12月13日(火) ㈱デンソー アイシン精機㈱ 平成24年 2月 9日(木) トヨタ自動車㈱ ⑦ 個別企業訪問 ターゲット業種や震災による拠点分散化の可能性のある企業など1,036企業 ⑧ 外資系企業の誘致 外国語版のPRツールを作成し、データセンターなどの企業を訪問 22 第6 1 企業立地促進費(企業立地促進費補助金) 概要 事業目的 事業内容 予 算 額 (H24 年度) 企業立地を促進するため、経済波及効果の高い産業、成長発展が期待さ れる産業及び地域の特性に応じた産業の分野に対し、重点的な措置を講ず る。 ○ 「北海道企業立地促進条例」に基づく助成の措置(S60∼H19)、「北 海道経済構造の転換を図るための企業立地の促進及び中小企業の競争 力の強化に関する条例」(北海道産業振興条例(通称))に基づく助 成の措置 (詳細は下表のとおり) 1,965,145千円 <助 区分 対象業種 成 内 容 の 詳 細> 補助要件 対象地域 投資額・雇用増 新設 (平成 24 年 4 月 1 日現在) 助成内容 助成額 限度額 投資額の 10% 15 億円 投資額の 5% 5 億円 投資額の 10% 10 億円 投資額の 5% 3 億円 投資額の 5% 1 億円 - <一般型> 3 億円 <環境配慮型> 5 億円 <一般型> 1 億 5 千万円 <環境配慮型> 2 億 5 千万円 <一般型> 4 億 5 千万円 <環境配慮型> 7 億 5 千万円 同一企業につき 3 億円 13 億円 同一企業につき - 自動車関連製造業 増設 新設 電気・電子機器製造業、 医薬品製造業、食関連産業、 新エネルギー関連製造業 類型Ⅰ・ 成長産 業分野 新エネルギー供給業 ※市町村支援の対象であるこ と 増設 全 道 新設 ※札幌市を除く 新設 データセンター事業 増設 新設 基盤技術産業 増設 ソフトウェア業 類型Ⅰ・ 発展基盤 施設分 野 自然科学研究所 5 億円以上 20 人以上 全 道 10 億円以上 1 人以上 <一般型> 10 億円以上 5 人以上 <環境配慮型> 20 億円以上 5 人以上 2,500 万円以上 5 人以上 投資額の 10% 投資額の 5% 投資額の 10% 投資額の 5% 新設 5,000 万円以上 特定技術者 5 人以上 特定技術者 1 人 あたり 100 万円 1 億円(新設後 3 年間の累計) 新設 10 億円以上 研究員 5 人以上 投資額の 10% 10 億円 増設 5 億円以上 研究員 5 人以上 投資額の 5% 3 億円 投資額の 10% 10 億円 投資額の 5% 3 億円 全 道 全 道 新設 ※札幌市を除く 増設 高度物流関連事業 20 億円以上 20 人以上 23 通算限度額 20 億円 同一企業につき 13 億円 同一企業につき 13 億円 同一企業につき 区分 対象業種 補助要件 対象地域 類 型Ⅱ・ 市町村 連携促 進分野 市町村が行う立地助成措置の 対象であること ※企業立地促進法適用地域に おいては指定集積業種 ・製造業 ・自然科学研究所 ・データセンター事業 ・ソフトウェア業 ・情報処理・提供サービス業 ・コールセンター事業 助成内容 新・増 企業立地促進法 適用地域 ※札幌市の区域に あっては、特認 事業者が新設す る場合に限る 工業団地 ※札幌市を除く ※製造業に限る 新設 新設 増設 限度額 投資額の 4% 新増 設 特別対策地域 助成額 2,500 万円以上 5 人以上 5,000 万円以上 5 人以上 通算限度額 1 億円 雇用増 1 人あた り 50 万円 ※雇用増が 6 人 以上の場合 6 人 目から支給 5,000 万円 投資助成 3 億円 同一企業につき 投資額の 8% 1 億円 投資額の 4% 設備投資や雇用増による経済波及効果は、一般に産業連関表分析により測定され、 道では、平成23年度の企業立地(62件のうち製造業46件)による経済波及効果 については、下記のとおり試算している。 「建設投資」と「機械設備投資」の効果は、投資による1回限りの効果である一方、 「操業」による効果は、1年当たりの効果であり、立地した企業の生産継続により、 操業で誘発された雇用も維持されるとの説明である。 企業立地 62 件(製造業 46 件) 建設・機械設備投資額 約 291 億円 操業の際の出荷額 約 389 億円 生産波及効果 約 300 億円 生産波及効果 約 617 億円 所得形成効果 約 156 億円 所得形成効果 約 239 億円 税収効果 雇用誘発数 約 5 億円 税収効果 2,075 人 雇用誘発数 24 約 7 億円 2,566 人 2 監査の結果 北海道の企業立地に関する条例としては、平成19年12月に、それまでの「企業 立地促進条例」と「創造的中小企業育成条例」の二つの条例に基づき実施されてきた 施策を体系的に整理した上で見直し、「企業立地の促進」と「中小企業の競争力強化」 を一体的かつ相乗的に推進するための今後の重点方針、重点施策を明確化するものと して、「北海道産業振興条例」が制定された。 ≪北海道産業振興条例制定の趣旨≫ ① 本道の経済構造は公的需要に大きく依存しており、公共投資の縮減など で大きな影響を受け、北海道経済の活性化や、それを通じた雇用の創出に つなげていくためには、道内総生産全体に占めるものづくり産業のウェイ トの向上や商品・サービスの付加価値の向上など、北海道の産業構造が抱 える課題を克服し、民間主導の自立型経済構造への転換を図ることが不可 欠である。 ② 成長力・波及力の高い産業や地域の特性に応じた産業の発展、市場の要 求に即応し、市場を開拓する中小企業の育成、企業立地と地場企業の参入 の促進の一体的推進などを通じて、「道内経済を牽引する産業の発展」と 「地域経済活性化」を図ることが重要な課題である。 ③ これまで展開してきた施策を体系的に整理した上で見直し、「企業立地の 促進」と「中小企業の競争力強化」を一体的かつ相乗的に推進するための今 後の重点方針、重点施策を明確化する新しい条例を制定する。 25 北海道産業振興条例に基づく助成措置については、条例施行規則に規定しており、 条例制定以降数次にわたり、産業の動向や経済環境の変化などを反映した制度の見直 し(規則改正)が行われている。 改正の内容及び経緯などに関する北海道経済部の説明は次の①∼④のとおりである。 ① 平成21年 4 月1日付け施行規則改正 平成20年秋以降の急速な景気後退により、製造業の設備投資が減少する一方、 企業の情報化やアウトソーシングなどの分野では積極的な投資の動きが見られ、そ れらの動きに対応するため、「情報処理・情報サービス業」を、産業支援サービス 業の新たな対象業種として設定するとともに、道内各地域で企業立地促進法を活用 した企業誘致の取組が活発化してきたことから、市町村との連携を一層効果的に推 進するため、企業立地促進法地域を対象地域に追加した。 ② 平成22年 4 月1日付け施行規則改正 国内では、製造業の設備投資が縮小する一方、将来有望な分野・事業への積極的 な投資と生産拠点の集約・再編の動きが進んでいることから、次世代自動車や環境 に関連する3業種を、類型Ⅰの「電気・電子機器製造業」の新たな支援対象業種と して設定するとともに、類型Ⅱの「データセンター」への助成要件を拡充した。 ③ 平成23年1月1日付け施行規則改正 事業の縮小や撤退に至る企業がある一方、自動車関連製造業や電気・電子機器製 造業などでは国内生産拠点の再編の中、増設による投資が検討されており、また北 海道ブランド力を活用した食料品製造業の増設投資の動きも見られることから、類 型Ⅱの工業団地の増設について、土地確保要件を緩和した。 ④ 平成24年4月1日付け施行規則改正 厳しい経済・雇用状況のもと、「ほっかいどう産業振興ビジョン」などで定めて いる重点的に取り組む分野として位置づけている産業の立地を促進するため、「新 エネルギー関連産業」や「食関連産業」、「高度物流関連施設」を成長産業分野や 発展基盤施設分野の新たな支援対象として設定するとともに、次世代自動車の基幹 部品工場等の立地を促進するため、 自動車関連製造業等の補助対象要件を緩和した。 26 <産業振興条例施行規則の改正内容(主なもの)> 規則改正 時 期 H21.4.1 改正の概要 改 ○対象地域の拡大 ○特別対策地域 ・ ○企業立地促進法適用地域 企業立地促進法適用地 域を追加 (市町村連携促進分野) 正 後 ・新設に限る ・対象業種かつ企業立地促進法に基づく基本計画に定める指定 集積業種に限る ○対象業種の追加 ・ 産業支援サービス業に ○市町村が行う立地助成措置の対象であること ・製造業 情報処理・提供サービス ・自然科学研究所 業等を追加 ・産業支援サービス業 (市町村連携促進分野) ①ソフトウェア業 ②データセンター事業 ③コールセンター事業 ④情報処理・提供サービス業 ⑤その他①∼④までに準ずる事業として知事が認める事業 ○対象業種の追加 H22.4.1 ・ 「電気・電子機器製造 ○「電気・電子機器製造業」 ・電子デバイス製造業 業」に、次世代自動車や ・電子部品製造業 環境に関連する業種を追 ・電池製造業など14業種 加(成長産業分野) ・発電用・送電用・配電用電気機械器具製造業 ・産業用電気機械器具製造業 ・電球・電気照明器具製造業 ○データセンターへの助成 拡充 ○補助要件 <一般> (産業集積拠点形成分野) ・投資額 ・ 雇用増要件の緩和 ・雇用増 ・ 環境配慮型データセン ・補助限度額 3億円 ターへの助成拡充 10億円以上 5人以上(改正前の20人以上から緩和) <環境配慮型> ・投資額 20億円以上 ・雇用増 5人以上 ・補助限度額 5億円 ※下線部が追加・修正箇所 27 規則改正 時 期 改正の概要 ○増設に係る土地確保要件 H23.1.1 の緩和(工業団地) 改 正 後 ○対象業種 ・製造業(投資額5千万円以上、雇用増5人以上) ・データセンター業(投資額10億円又は20億円以上、雇用 増5人以上) ○限度額 ・3億円(環境配慮型データセンター5億円) ○助成額 ・新設 投資額×8% ・増設 投資額×8% *増設は、工業団地内に新たに土地を取得、賃借等により確 保してから3年以内に工場等の建設に着手した場合に限 る。 ・増設 投資額×4% *工業団地内にすでに土地を確保している場合の増設で、自 動車関連製造業、電気・電子機器製造業、食料品製造業であ って市町村が行う立地助成制度の対象であるものに限る。 ○対象業種の追加 H24.4.1 (成長産業分野) ○対象業種 ・自動車関連製造業 ・電気・電子機器製造業 ・食関連産業 ・医薬品製造業 ・データセンター事業 ・新エネルギー供給業 ・基盤技術産業 ・ソフトウェア業 ・新エネルギー関連製造 ・食関連産業(食品工業及び食関連加工組立型工業の新増設) 業 ・新エネルギー供給業(再生可能エネルギー特措法に掲げる 省エネ・新エネ促進行 エネルギー供給業の新設であって、市町村支援と連携を図る 動計画や環境産業振興 もの) 戦略等の位置づけを踏ま え、立地誘発が期待で ・新エネルギー関連製造業(再生可能エネルギー特措法に掲げ るエネルギー関連製造業の新増設) きるため。 ○助成要件の緩和とそれに 伴う限度額の引下げ (成長産業分野) ・自動車関連製造業 ・電気電子機器製造業 ○自動車関連製造業 ・投資額5億円以上、雇用増20人以上 ・限度額15億円(新設) 、5億円(増設) ・通算限度額20億円 ○電気・電子機器製造業 ・医薬品等製造業 ・投資額5億円以上、雇用増20人以上 ・基盤技術産業 ・限度額10億円(新設) 、3億円(増設) ・通算限度額13億円 ※下線部が追加・修正箇所 28 規則改正 時 期 改正の概要 改 正 後 ○医薬品等製造業 H24.4.1 ・投資額5億円以上、雇用増20人以上 ・限度額10億円(新設) 、3億円(増設) ・通算限度額13億円 ○基盤技術産業 ・通算限度額13億円 ○制度の拡充等 ○データセンター事業 ・データセンター事業 ・助成率10%(新設) 、5%(増設) リスク分散の動きが活 ・限度額3億円(新設一般型) 、5億円(新設環境配慮型) 、 発な中で、北海道への 1億5千万円(増設一般型) 、2億5千万円(増設環境配慮 立地優位性が高く、道 型) のバックアップ拠点構 想においてもデータセ ンター誘致を重点化し ・通算限度額4億5千万円(一般型) 、7億5千万円(環境配 慮型) ○自然科学研究所 ており、インセンティ ・施設新設のほか、施設増設も対象とする。 ブを高め、立地誘導を ・投資額5億円以上(増設) (新設は10億円以上) 図るため。 ・助成率5%(増設) (新設は10%) ・限度額3億円(増設) (新設は10億円) ・自然科学研究所 ・通算限度額13億円 技術革新に伴う増設が 見られることや、食ク ラスター加速化に伴う 研究所増設の傾向を踏 まえ対応。 ○対象業種の追加 ○高度物流関連事業 ・高度物流関連事業 ・高度な要件を満たす高度な物流施設の新増設 広域な北海道において ・投資額20億円以上、雇用増20人以上 産業、生活を支える重 ・助成率10%(新設) 、5%(増設) 要な役割を果たす物流 ・限度額10億円(新設) 、3億円(増設) 事業の集約化、高度化 ・通算限度額13億円 の動きに対応し、立地 を促進するため。 ○対象事業(航空機整備関 連事業)の廃止 助成実績が無く、今後 の見通しも無いため ※下線部が追加・修正箇所 29 平成12年度行政監査(「北海道企業立地促進条例に基づく補助事業の執行につい て」)においては、企業立地の決定に際しての補助金の意義について、企業に対するア ンケート調査が行われており、69.5%の企業が「補助金は、企業立地決定の大き な要因」として評価している。 一方、直近5年間における本補助金を活用した立地企業数、 雇用者数及び投資額は、 いずれも急激に減少しており、平成 23 年度の投資額は平成19年度の約5分の1程度 にまで落ち込んでいる。 年度 企業数 雇用増 投資額(百万円) 補助金額(百万円) H19 61 社 1,670 人 100,789 5,188 H20 51 社 1,149 人 58,172 2,757 H21 38 社 900 人 38,650 2,540 H22 23 社 389 人 21,120 1,516 H23 22 社 382 人 21,864 1,103 <平成12年度行政監査(北海道企業立地促進条例に基づく補助事業の執行について)> ①工場等の進出決定時における補助金の役割 ・決定する上で、最も重要 15社(13.9%) ・決定する際の要因の一つ 60社(55.6%) ・重要な要件ではない 12社(11.1%) ・どちらともいえない 13社(12.0%) ・その他(後日、知ったなど) 5社( 4.6%) ②平成 10 年 4 月 1 日から平成 12 年 10 月 31 日までに北海道企業立地促進条例に基づく 補助金交付を受けた企業 補助年度 対象企業数 補助件数 補助金額(単位:円) 平成 10 年度 43社 62件 1,447,540,000 平成 11 年度 52社 77件 3,773,801,000 平成 12 年度 39社 39件 2,807,367,000 119社 178件 8,028,708,000 合 計 30 他都府県と比較すると、立地企業に対する補助金や貸付金等のような優遇措置につい ては、北海道は、補助限度額、補助率ともに中位に位置している。(下表) 製造業の国内空洞化が指摘され、道外地域との誘致競争の激化が予想される中で、他 の自治体の制度とどのように差別化するかが施策推進上の課題である。 <補助金制度の他自治体との比較 ①立地関係補助金に係る最高限度額> 補助限度額 限度なし 都道府県名 岩手県、兵庫県 150 億円 90 億円 70 億円 50 億円 40 億円 35 億円 30 億円 20 億円 15 億円 12 億円 100 億円∼ 50 億円 ∼100 億円 30 億円 ∼50 億円 10 億円 ∼30 億円 10 億円 7 億円 5 億円 3 億円 1 億円 1 億円 ∼10 億円 制度なし 大阪府 三重県、和歌山県 千葉県、岡山県 山形県、新潟県、熊本県、宮崎県 宮城県 秋田県、福島県、広島県 栃木県、富山県、福井県、奈良県、鳥取県、山口県、高知県、佐賀県 青森県、長崎県 北海道、徳島県 京都府 山梨県、静岡県、石川県、長野県、愛知県、滋賀県、岐阜県、愛媛県、 福岡県、鹿児島県、沖縄県 香川県 大分県 埼玉県、群馬県 茨城県、東京都、神奈川県 都道府県名 都道府県数 青森県、岩手県、秋田県、山形県、石川県、福井県、愛媛県、徳島県、高知県、長崎県 10 7 長野県、三重県、和歌山県、鳥取県、島根県、広島県、香川県 10% 5% ∼10% 3% ∼5% 制度なし 11 ②立地関係補助金に係る補助率> 補助率 20% 15% 2 1 2 2 4 1 3 8 2 2 1 1 1 1 2 3 島根県 <補助金制度の他自治体との比較 都道府県数 北海道、宮城県、福島県、山梨県、富山県、岐阜県、静岡県、滋賀県、愛知 県、京都府、奈良県、山口県、岡山県、熊本県、沖縄県 8% 6% 5% 4% 3% 福岡県 佐賀県、鹿児島県 栃木県、新潟県、大阪府、大分県 群馬県、宮城県、埼玉県 千葉県、兵庫県 茨城県、東京都、神奈川県 ※参考 ①各都道府県のホームページ(H24.10)による。 ②製造業に対する設備投資基準の限度額で最も高額な値及び補助率で最も高率な値を抽出 31 15 1 2 4 3 2 3 前述したように、北海道産業振興条例に基づく助成措置については、条例施行規則 に規定しており、条例制定以降、数次にわたり産業の動向や経済環境の変化などを反 映した制度の見直し(規則改正)が行われている。 これまで道では、本補助金を活用した企業27社に対し、平成23年度に制度内容 に係る意向調査を実施しているが、広く、誘致対象となる道外企業等に対する意向調 査等は行っていない。 本補助金を活用した立地企業数の減少という実態や他都府県との差別化といった課 題等を勘案し、アンケート調査等の実施により、企業のニーズを的確かつ幅広く把握 し、企業立地促進費補助金が企業立地へのインセンティブとして十分に機能している か、社会経済情勢の変化に適切に対応しているか、他都府県との差別化が図られてい るかなど細やかに調査検討するとともに、検討結果等を踏まえて、適時適切な制度の 見直しに努めるべきである。 【意見 1】 厳しい道の財政状況の中で、多額の予算措置を行っている補助金の効果等につ いて十分な検討を行うとともに、社会経済情勢の変化や企業ニーズを的確に把握 の上、今後とも制度内容の工夫に努めていく必要がある。 32 次に、監査の結果、平成21年度から平成23年度までの間において、北海道産業 振興条例に基づく企業立地促進費補助金が交付された後に、操業が休・廃止された企 業が3社あった。 そのうち1社は、平成23年4月14日に申請書を受理し、同年6月14日に補助 金額を10,253,000円と確定し、同月23日に支払いがなされたが、補助金 交付直後である同年7月1日に弁護士に破産申立を委任し、同月15日、操業廃止届 を提出している。 <平成23年度 企 業 1 2 プラスチック製品製造業 金属製品製造業 3 食料品製造業 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 金属製品製造業 医薬品製造業 飲料・たばこ・飼料製造業 食料品製造業 食料品製造業 電子部品・デバイス・電子回路製造業 輸送用機械器具製造業 食料品製造業 はん用機械器具製造業 情報処理・提供サービス業 輸送用機械器具製造業 食料品製造業 食料品製造業 電子部品・デバイス・電子回路製造業 食料品製造業 食料品製造業 製材業、木製品製造業 コールセンター事業 印刷・同関連業 業 種 企業立地補助金交付実績> 町村 市 進出 区分 道外 道内 新 増 新 増 市 道内 市 市 町村 町村 市 市 市 市 市 市 市 町村 町村 市 市 町村 町村 市 町村 道内 道外 道内 道内 道内 道外 道内 道内 道外 道外 道外 道外 道内 道外 道内 道内 道外 道内 道内 立地先 (単位:千円) 289,592 210,539 21 5 企業立地 補助金額 31,167 16,843 増 128,167 15 10,253 増 新 新 新 増 増 増 増 増 新 増 増 新 増 新 新 増 増 増 335,068 1,060,618 8,447,028 34,467 125,213 2,039,643 3,997,436 976,623 92,244 101,156 2,829,203 232,636 333,719 157,424 111,610 127,505 48,221 98,649 87,643 21,864,404 6 14 22 11 5 41 5 9 5 55 14 6 17 13 7 5 16 81 9 382 26,805 88,349 300,000 8,257 5,008 101,982 100,000 41,064 3,689 29,046 226,336 9,805 19,348 10,296 9,928 10,200 7,428 41,945 5,506 1,103,255 投資額 雇用増 上表の企業3については、補助金交付直後に破産手続開始となっており、企業3に 係る補助金交付に関する経緯は次のとおりであった。 操業開始 補助金交付申請受理 補助金交付決定 補助金交付 破産申立委任 破産手続開始決定 操業廃止届提出 平成 22 年 10 月 1 日 平成 23 年 4 月 14 日 平成 23 年 6 月 14 日 平成 23 年 6 月 23 日 平成 23 年 7 月 1 日 平成 23 年 7 月 11 日 平成 23 年 7 月 15 日 33 平成12年度の行政監査の際にも、補助金交付後に休・廃止した企業が2社あった が、このうちの廃止案件については、補助金を交付した企業が倒産した事案であり、 補助金交付額は、28,277,000 円であった。(平成10年度)。 <平成12年度行政監査における改善意見(抜粋)> ① 補助金使途報告書の提出について、事業者に対する指導を徹底し、当該補助金 が適正に充当されているかなどの確認をすること。 ② 操業状況報告書の提出については、その操業状況によっては補助の取り消しや 補助金の返還等の問題が生じるため、事業者に対する指導を徹底すること。 ③ 操業等の休止・廃止に伴う補助の取消し又は補助金返還については、道民の雇 用機会の拡大を図るという条例の目的から判断すると、一定期間にわたる雇用の 継続についても求めるべきものであるため、雇用増を基準とする助成に対しても 返還の対象として、条例、規則等の関係規程の整備について検討する必要がある。 補助金を交付した直後に交付先が倒産するという事態は、結果として補助金の交付 目的が果たされておらず、本来あってはならない事である。 施行規則第11条では、認定の申請をした事業者が債務超過の状態にある等の理由 により、継続的な事業の実施が困難であると認められるときは補助金を交付しないこ ととなっており、当該事案に係る交付前の審査は、マニュアルに従って行われたが、 特段問題となる事項がなかったとして処理されていた。 しかし、マニュアルでは、交付先が交付直後に破産申し立てを行う事は想定してお らず、さらには、破産申し立て後、道では、申立人に対する聞き取り調査しか行って いなかった。 破産管財人に対する返還請求を検討する余地があったことや、補助金の申請書類に 添付されていた決算書が、補助金交付の9か月前(平成22年9月時点)のものであ り、補助金交付の直近の経営状況について、月次の試算表などにより確認すべきであ ったと思われることから、今後同様の事態の発生を回避するため、審査マニュアルの 改善等を検討すべきである。 【指摘 1】 補助金交付直後の交付先企業の倒産といったケースは、結果として補助金の交 付目的が果たされないことから、こうした事態を防ぐため、補助金交付にあたっ ては、交付先企業の直近の経営状況について十分な確認を行うべく、審査マニュ アルの改善など必要な措置を講ずること。 34 第7 1 中小企業総合振興資金貸付金(産業振興資金のうち企業立地貸付) 概要 事業目的 融 資 対 象 事 業 概 要 融 資 条 件 中小企業者等の経営基盤の強化、事業の活性化を図り、本道産業経済の 発展に資するため、金融機関に原資を預託して、中小企業者に対する融資 を促進する。 企業立地貸付金については、道内において事業所などの施設を新増設す る事業者等に対し、事業の実施に要する資金の円滑化を図ることにより、 本道の企業立地を促進することを目的としている。 次の業種(北海道が行う企業立地促進費補助金の対象事業)に係る事業 所の新増設を行う者 製造業、自然科学研究所(成長分野に関連する業種に限る。) 、 高度物流関連事業(成長産業分野に関連する業種に限る。 ) 、 データセンター、ソフトウェア業、情報処理・提供サービス業、 コールセンター事業、新エネルギー関連産業(供給業・製造業) 資金使途 設備資金 融資金額 8億円以内 融資期間 15年以内(うち、据置2年以内) 融資利率 (固定) 3年以内 年1.4% 7年以内 5年以内 年1.6% 15年以内 年1.8% 年2.0% 融資利率 (変動) 年 信用保証 必要により信用保証協会の保証に付することがある。 1.4%(融資期間が3年を超える取扱いの場合のみ) 原資(預託額) 9,256,000千円(企業立地貸付分) (H24 年度) (平成 24 年 4 月 1 日現在) 35 2 監査の結果 道経済部では、企業立地補助金の対象業種等の見直しにあわせて、企業立地貸付事 業の対象業種についても見直しを行っている。 見直しの内容及び経緯などに関する北海道経済部の説明は次の①∼③のとおりであ る。 ① 平成20年4月1日 北海道産業振興条例の制定に伴い、企業立地補助金の補助実績や成長性・優位性 の高い業種を重点的に支援する観点から、産業支援サービス業の対象業種について は、ソフトウェア業、データセンター事業、コールセンター事業の3業種に絞り込 み、本道の業種特性に合わせた支援を行うことした。 ② 平成21年4月1日改正 企業の情報化やアウトソーシングなどの分野では積極的な投資が見られることか ら、それらの動きに対応するため、「情報処理・提供サービス業」を新たな対象業 種として設定した。 ③ 平成24年4月1日改正 今後の市場拡大が見込まれ、本道の豊富な再生可能エネルギーが活用可能な新エ ネルギー関連産業や、物流の集約化や高度化の動きに対応し、国際物流関連事業か ら高度物流関連事業を新たな支援対象とするとともに、実績がなく見込みが乏しい 航空機整備関連事業を廃止した。 見直し時期 改正の概要 ○業種の重点化 H20.4.1 ・産業支援サービス業の13業 種を3業種に重点化 H21.4.1 改 ・製造業 ・航空機整備関連業種 ・ソフトウェア業 ・コールセンター事業 ・製造業 ・航空機整備関連業種 ・情報処理・サービス業を設定 ・ソフトウェア業 ・コールセンター事業 ○対象業種の追加 後 ・自然科学研究所 ・国際物流関連業種 ・データセンター事業 ・自然科学研究所 ・国際物流関連業種 ・データセンター事業 ・情報処理・提供サービス業 ・製造業 ・自然科学研究所 ・高度物流関連事業 ・新エネルギー関連産業や高度物 ・ソフトウェア業 ・データセンター事業 流関連事業を新たな支援対象と ・コールセンター事業 ・情報処理・提供サービス業 して設定 ・新エネルギー関連産業(供給業・製造業) ○対象業種の追加 H23.4.1 正 36 過去5年間における企業立地貸付金の貸付実績の推移及び北海道における企業立地 の件数は以下のとおりである。 平成22年度以降、北海道における企業立地の全体的な件数は増加している一方で、 企業立地貸付金の貸付実績は縮小していることが判る。 企業立地貸付金の実績の推移(平成19年度∼平成23年度) H19年度 H20年度 H21年度 (単位:百万円) 年 度 H22年度 H23年度 件 数 45件 23件 18件 8件 3件 金 額 6,732 3,048 1,915 600 185 H22年度 H23年度 北海道における企業立地件数(平成19年度∼平成23年度) 年 度 件 数 H19年度 83件 H20年度 46件 H21年度 44件 49件 62件 道経済部では、経済環境の厳しい折には、経営の安定を維持することが容易では無 いため、資金供給の円滑化などについても支援を行うことにより、北海道への立地企 業件数の増加を図りたいとしている。 北海道産業振興条例制定以降、3度の制度見直しを行っているが、企業立地件数と 貸付実績を見る限り必ずしも有効な見直しにはなっていないのではないだろうか。 道経済部では、企業立地貸付金の貸付実績の縮小の要因として、平成20年9月の リーマンショックや円高の急激な進行による立地件数の減少、国内への設備投資の冷 え込み等が一因と分析しているが、上記の表(北海道における企業立地件数(平成1 9年度∼平成23年度))を見る限り、明確な因果関係は導きがたい。 37 企業立地促進費補助金と同様に、アンケート調査等の実施により、企業ニーズを的 確に把握し、当該貸付金が企業立地へのインセンティブとして十分に機能しているか、 社会経済情勢の変化に適切に対応しているかなど細やかに調査検討するとともに、検 討結果等を踏まえて、適時適切な制度の見直しに努めるべきである。 【意見 2】 厳しい道の財政状況の中で、多額の予算措置を行っている企業立地貸付金の効 果等について十分な検討を行うとともに、社会経済情勢の変化や企業ニーズを的 確に把握の上、今後とも制度内容の工夫に努めていく必要がある。 38 第8章及び第9章では、誘致企業の受け皿である産業集積地域(苫東地域及び石狩湾新港 地域)の開発について記載する。 監査人においては、本監査の結果や平成11年度及び平成17年度における包括外部監査 の結果、さらには歴史的経緯も含め整理を行った。 なお、歴史的経緯の詳細については、後に資料として掲載している。 第8 1 苫東地域開発 概要 事 業 名 事業目的 苫小牧東部地域開発出資特別会計貸付金 道では、苫小牧東部地域開発プロジェクトの推進主体として平成11年 度に㈱苫東が設立された際、全額起債により170億円を出資し、当該出 資に関する経理を明確にするため、苫小牧東部地域開発出資特別会計を設 置したところであるが、同特別会計の歳入不足に対応し、起債償還に必要 な財源を確保するため、一般会計からの資金の貸付を行う。 ○ 事業内容 予 算 額 (H24 年度) 苫小牧東部地域開発出資特別会計では、毎年度、㈱苫東からの還元金 (資本剰余金配当金)を原資として、起債発行計画に基づく起債元金返 済(積立)及び利払いを行っている。 ○ 還元額が計画を下回った場合、一般会計から資金を借り受け、計画ど おりの元金返済(積立)及び利払いを行う。 ○ 借り受けた資金は、還元額が計画を上回った場合、一般会計へ返済す る。 510,193千円 事 業 名 北海道土地開発公社苫小牧東部工業基地用地資金貸付金 事業目的 苫東二次買収用地の処理方策に基づき、開発用地等及び道路用地につい て、譲渡までの間の簿価上昇を抑制するため、北海道土地開発公社への簿 価相当額の無利子貸付を行う。 事業内容 予 算 額 (H24 年度) ○ ○ 貸付先 貸付対象経費 ○ 貸付条件 北海道土地開発公社 開発用地等及び道路用地に係る平成24年度期首 簿価相当額 無利子貸付、年度内償還 11,803,851千円 39 2 苫東開発の歴史的経緯 (1) 国家プロジェクトとしてのスタート 苫東開発は、昭和30年代後半、高度経済成長に伴う地価高騰、都市部への過度 の集中、公害の発生、地方の過疎化などが顕在化し、太平洋ベルト地帯以外への工 業分散化や、大都市への人口や産業の過度の集中の是正などが急務となったこと等 から、昭和40年代初頭に、重厚長大型産業を苫小牧東部地域に立地させることを めざし、北海道開発庁と北海道が主体となって進めてきた。 当初、以下のとおり石油化学や石油精製などを中心に多数の企業が苫東基地への 立地意向を表明したこともあって、企業立地は順調に推移するものと想定されてい たことが窺われる。 石油化学及び石油精製の立地意向表明企業が示した予定生産規模の合計は、基本 計画の想定のそれぞれ約4.3倍、約2.9倍に達し、他にも、非鉄金属2社、北海 道電力及びいすゞ自動車からも立地表明があった。 昭和37年10月 「全国総合開発計画」 閣議決定 北海道開発庁「北海道開発の長期展望−豊かな北海道へのビジョン」策定 昭和42年 8月 昭和43年 4月 北海道開発庁 昭和43年 9月 北海道庁 大規模港湾建設のための調査費を確保 昭和43年12月 昭和44年 5月 昭和44年 8月 昭和44年10月 昭和45年 7月 昭和46年 8月 <重化学工業等の基幹工業を太平洋臨海部に展開> 大規模工業基地候補地として、苫小牧東部地区を選定 通産省 「工業開発の構想試案」策定 <巨大工業基地を遠隔地に分散立地> 「新全国総合開発計画」 閣議決定 <遠隔地に基礎資源型の大規模工業地帯を建設> 経団連首脳が北海道知事に用地確保を要請 北海道 「北海道工業団地開発事業条例」制定 「第3期北海道総合開発計画」 閣議決定 <苫小牧東部地域に大規模工業基地建設> 北海道開発庁 「苫小牧東部大規模工業基地開発基本計画」 策定 石油メーカーを中心に苫東基地への立地意向表明 昭和46年∼ 昭和47年 4月 「苫小牧東部大規模工事基地開発連絡会議」 発足 昭和47年 7月 「苫小牧東部開発株式会社」 設立 昭和48年 3月 「苫小牧東部大規模工事基地開発連絡協議会」 発足 昭和48年10月∼ 第1次オイルショック 昭和53年12月∼ 第2次オイルショック 40 <苫東基地への立地意向を表明した企業> 石油化学会社名 立地意向表明 エチレン生産規模 石油精製会社名 立地意向表明 生産規模 出光石油化学 昭和46年7月 80万トン/年 出光興産 昭和46年7月 50万バーレル/日 新大協和石油化学 昭和48年2月 60万トン/年 共同石油 昭和48年2月 50万バーレル/日 丸善石油化学 昭和48年3月 60万トン/年 丸善石油・大協石油 昭和48年3月 40万バーレル/日 三井グループ(10社) 昭和48年4月 120万トン/年 ゼネラル石油精製 昭和48年4月 30万バーレル/日 三菱化成工業 昭和48年4月 80万トン/年 極東石油工業 昭和48年4月 40万バーレル/日 三菱油化 昭和48年5月 80万トン/年 三菱石油 昭和48年5月 40万バーレル/日 住友化学工業 昭和48年6月 60万トン/年 昭和石油 昭和48年6月 40万バーレル/日 東燃石油化学 昭和48年6月 60万トン/年 山陽石油化学 昭和48年7月 80万トン/年 (2) 苫小牧東部開発株式会社の設立から経営破綻まで 経済団体連合会が、業界団体、銀行及び商社からの出資応諾をとりまとめ、昭和 47年7月19日に、苫小牧東部開発株式会社(以下「苫小牧東部開発㈱」という。 ) が、資本金20億円の第3セクターとして設立された。 北海道は、主に起債をもって昭和46年度末までに約6300ha の民有地を買収 しており、起債の元利償還金などについては苫小牧東部開発㈱に引き渡す用地費に 上乗せすることとしていたため、北海道は、苫小牧東部開発㈱に土地を売り渡し、 起債償還の支払原資に充てねばならなかったことから、昭和47年度以降、苫小牧 東部開発㈱は資金調達難に直面しながらも、継続的に道有地を譲り受けていた。 しかしながら、オイルショックを契機に、立地を表明していた重化学工業を中心 とする企業が進出希望を撤回するなど、 昭和47年から昭和52年までの6年間は、 企業立地は皆無であった。 一方で、苫小牧東部開発㈱は、北海道が先行買収した土地を先行的に譲り受ける 形で有利子借入金により4105ha の用地取得及び一部造成等を行った結果、昭和 52年度には借入金残高は618億円に達し、金利の支払額が年間50億円を超え るようになり、設立後間もなく借入金の利払による資金繰りの圧迫に対峙すること となったのである。 なお、港湾の掘り込みに必要な国鉄及び国道の移設用地を確保するために、北海 道の委託を受けた北海道土地開発公社が昭和53年から昭和58年にかけて先行取 得した追加買収用地348ha(いわゆる二次買収用地)についても、基本協定に基づ き苫小牧東部開発㈱に譲渡する運びであったが、苫小牧東部開発㈱の資金繰りの問 41 題から、約250ha については譲渡期限の延長が繰り返された。 その後、北海道開発庁では、1次・2次オイルショックなどに伴う産業構造の転 換などの経済社会情勢の変化や企業立地動向等を踏まえ、3期にわたって段階計画 を策定したが、工業基地開発の方針は維持されたままであった。 さらに、大規模な基幹資源型産業等の立地が進まない実態を踏まえ、北海道開発 庁では、平成7年8月に策定した、 「苫小牧東部開発新計画」において、生産機能に 加え、研究開発機能、 居住生活機能を備えた複合開発への転換を図る等しているが、 苫東開発が抱える問題点 新計画が策定されるまでの間、産業構造の転換期以降も 重厚長大型産業の立地が継続されたこと。、 膨大な有利子借入金を抱えていたこ と。 への抜本的な対応策がとられないまま、また、基本計画についても大幅な修正 が行われないまま、開発計画が推し進められていったのである。 こうした状況の中で、民間協調融資団(都市銀行など39金融機関)の代表幹事 であった北海道拓殖銀行が、平成9年11月に経営破綻したことを契機に、民間金 融機関からの新規融資が途絶えたこと等によって、苫小牧東部開発㈱の経営状態が 一気に悪化、苫小牧東部開発㈱は、金融機関に対する元利金の約定弁済が不履行と なったこと等から、金融機関に対して、2年間の元利棚上げを要請、平成10年4 月、会社再建案を提示したが、金融機関の理解を得ることができず、会社再建が困 難となった。 昭和48年12月 第1段階計画策定(S53年目標) 昭和54年11月 第2段階計画策定(S58年目標) 昭和61年 6月 第3段階計画策定(S70年代目標) 平成 7年 8月 平成 9年 3月 平成 9年 9月 平成 9年11月 北海道開発庁 「苫小牧東部開発新計画」 策定 <生産機能+研究開発機能・居住生活機能を備えた複合開発> 北海道開発庁 「苫小牧東部開発新計画の進め方について」 <当面10年間の開発目標・開発優先区域の設定> 「特殊法人の整理合理化について」 閣議決定 北海道拓殖銀行の経営破綻 (3) 株式会社苫東の設立 平成10年12月15日閣議了承により、 「会社を清算し、借入金に依存しない形 での土地の一体的確保・造成・分譲を行う新会社を設立する」との処理方針が打ち 出され、平成11年3月には、資本金621億円で新会社を設立し、苫小牧東部開 発㈱の所有土地の一部による現物出資(207億円)及びその余の所有不動産譲渡 (361億円) 、苫東東部開発㈱から金融機関に対する新会社株式による代物弁済及 び譲渡代金による弁済、苫小牧東部開発㈱の清算処理案が固まった。 42 その後、上記の処理案について金融機関40社の了解を得て、苫小牧東部開発㈱ は平成11年7月16日までに各金融機関との間で、処理案に沿った代物弁済及び 現金による弁済を行った後、解散決議をなし、特別清算手続を行う旨の協定及び合 意をした。 平成11年7月30日に株式会社苫東(以下「㈱苫東」という。 )が設立され、苫 小牧東部開発㈱は、現物出資による新会社株式41万4000株を取得し、同年8 月6日に金融機関に対してこの株式による代物弁済をした。 また、同月16日、苫小牧東部開発㈱は新会社に対し、残余の不動産全部を代金 361億円にて譲渡し、同月17日に金融機関に対してこの売却代金を原資として 弁済を行った。更に、同年9月2日には、苫小牧東部開発㈱は金融機関に対し、埋 立権の売却代金の残余資金8億4000万円を原資とする按分弁済などを実施した。 以上の経過を経て、平成11年9月3日に開催された臨時株主総会(株主構成は 以下の表のとおり)で苫小牧東部開発㈱の解散が決議され、同月29日、札幌地方 裁判所に特別清算手続開始の申立てをするに至った。 同年11月19日に特別清算手続開始決定が下され、平成12年3月21日の債 権者集会で特別清算協定が可決され、同月27日に裁判所は同協定を認可し、同年 9月22日、特別清算手続が終結した。 なお、苫小牧東部開発㈱の債権者と北海道との間で損失補償契約が締結されたこ とはなかった。 平成10年12月 「苫小牧東部開発及びむつ小川原開発の両プロジェクトの取り扱いについて」 閣議了承 平成11年 ㈱苫東設立 7月 平成20年12月 区 分 国土交通省 「苫小牧東部開発新計画の進め方について(第2期) 」策定 (平成4年3月31日現在) 株主数 株(㈱) 出資額(億円) 持株比率 議決権比率 北海道東北開発公庫 1 3,000,000 (15.00000) 25.00% 25.00% 北海道 1 2,400,000 (12.00000) 20.00% 20.00% 苫小牧市・厚真町・安平町・鵡川町 4 630,000 (3.15000) 5.25% 1.95% 24 3,510,100 (17.55050) 29.25% 16.23% 8 990,000 (4.95000) 8.25% 1.95% 29 1,466,900 (7.33450) 12.22% 100.00% 5 3,000 (0.01500) 0.02% 0.00% 72 12,000,000 100.00% 100.00% 金融機関 商社 民間企業(金融機関・商社を除く) 個人 合 計 60.00000 ※公的機関(6名)の持株数比率は50.25%で、民間(法人61名・個人5名)の持株数比率は49.75%であった。 43 【㈱苫東の設立時の出資状況等】 (単位:億円) 苫東会社への 融資残高① 新会社への現 金出資額 ② 現金回収額 ③ 代物弁済額 ④ 出資額 ②+④ 出資額比率 償却額 ①−(③+④) 国(北東公庫) 961 222 196 112 334 54% 653 民間協融団 821 ― 165 95 95 15% 561 北海道 ― 170 ― ― 170 27% ― 苫小牧市等 ― 11 ― ― 11 2% ― 地元経済界 ― 11 ― ― 11 2% ― 1,782 414 361 207 621 100% 1,214 合 計 ※㈱苫東への現金出資額414億円に苫小牧東部開発からの現物出資分207億円を加え、㈱苫東の設立時の資本金は621億円 ※現金回収額の合計361億円は、㈱苫東への現金出資額414億円から諸税等53億円を控除した額である。 44 3 株式会社苫東について 設 立 平成 11 年 7 月 30 日 資 本 金 62,100,000 円 事業内容 苫小牧東部地域を開発するため、次の事業を行う (1) 土地の取得、造成、分譲、賃貸および管理 (2) 埠頭等開発を促進するために必要な施設の建設および管理運営 (3) 公共緑地、公共施設等の維持管理業務の受託 (4) 前各号に関連する一切の附帯事業 株主構成 ※㈱苫東ホームページより引用 北海道との関係でいえば、上記の経緯で設立された㈱苫東の特徴として、苫小牧 東部開発㈱の歴代代表取締役の出身母体が、大阪商船三井株式会社、東洋電機製造 株式会社、北海道開発庁、北海道東北開発公庫(北海道開発庁)であったのに対し、 苫東新会社の代表取締役は、公益的法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関す る法律(平成12年法律第50号)に基づき、北海道と㈱苫東との間で協定を締結 のうえ、北海道の職員が派遣されている1。苫小牧東部開発㈱では20%の出資にと どまっていた北海道が、出資比率を27.3%に高めて、現金で全額起債(有利子) により170億円を出資したことが挙げられる。 新会社設立時の出資状況は、以下のとおりである。 1 公益法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律(平成12年4月26日号外法律第50号) (特定法人の業務に従事するために退職した者の採用) 第10条 任命権者と特定法人(当該地方公共団体が出資している株式会社のうち、その業務の全部又は一 部が地域の振興、住人の生活の向上その他公益の増進に寄与するとともに当該地方公共団体の事務又は事 務と密接な関連を有するものであり、かつ、当該地方公共団体がその施策の推進を図るため人的援助を行う ことが必要であるものとして条例で定めるものをいう。以下同じ。)との間で締結された取決めに定められた内 容に従って当該特定法人の業務に従事するよう求める任命権者の要請に応じて職員(条例で定める職員を 除く。)が退職し、引き続き当該特定法人の役職員として在職した後、当該取決めで定める当該特定法人にお いて業務に従事すべき期間が満了した場合又はその者が当該特定法人の役職員の地位をうしなった場合そ の他の条例で定める場合には、地方公務員法第16条各号(第3号を除く。)の一に該当する場合(同条の条 例で定める場合を除く。)その他条例で定める場合を除き、その者が退職した時就いていた職又はこれに相当 する職に係る任命権者は、当該特定法人の役職員としての在職に引き続き、その者を職員として採用するも のとする。 公益法人等への北海道職員等の派遣等に関する条例(平成13年10月19日条例第54号) (法第10条第1項に規定する条例で定める法人) 第10条 法第10条第1項に規定する条例で定める株式会社(以下「特定法人」という。)は、次に掲げる法人 であって、人事委員会規則で定めるものとする。(以下略) 公益法人等への北海道職員等の派遣等に関する規則(平成14年3月29日人事委員会規則16-1) 第5条 条例第10条に規定する人事委員会規則で定める株式会社(以下「特定法人」という。)は、別表第2に 掲げるものとする。→別表第2(第5条関係) 株式会社苫東・株式会社北海道エアシステム 45 なお、㈱苫東にかかる事業計画(計画期間は平成11年度から平成46年度の3 6年間)は、北海道開発庁が、北海道、北海道東北開発公庫、苫小牧市及び地元経 済界からなるワーキンググループにより作成された。 経営諮問委員会 企画営業部 取締役会 会 長 社 長 専 務 常 務 基盤事業部 監査役 平成23年度末現在の㈱苫東の株主構成 区 分 (平成23年度末現在) 株主数 株 出資額(億円) 持株比率 議決権比率 ㈱日本政策投資銀行(旧北東公庫) 1 558,624 (249.7) 44.98% 49.65% 北海道 1 340,000 (152.0) 27.37% 30.22% 苫小牧市・厚真町・安平町 3 22,000 (9.8) 1.77% 1.95% 民間金融機関(旧金融シンジケート団) 22 182,663 (81.6) 14.71% 16.23% 道内民間企業 27 21,950 (9.8) 1.77% 1.95% 54 1,125,237 (502.9) 90.60% 100.00% 1 116,763 (52.2) 9.40% 0.00% 55 1,242,000 100.00% 100.00% 小 計 自己株式 合 計 46 555.1 国が作成した㈱苫東の分譲計画、収支見通しの試算 H21∼H30年度 H31∼H40年度 H41∼H46年度 一般分譲面積 H11∼H20年度 140.0ha 180.0ha 220.0ha 141.5ha 681.5ha プロジェクト等分譲 617.0ha 730.0ha 1,460.0ha 1,191.5ha 3,998.5ha 売 上 548億円 611億円 1,458億円 1,257億円 3,874億円 原 価 250億円 281億円 689億円 596億円 1,816億円 売上総利益 298億円 330億円 769億円 660億円 2,057億円 償却前販売費 合 計 46億円 46億円 46億円 28億円 166億円 252億円 284億円 723億円 633億円 1,822億円 10億円 5億円 4億円 3億円 22億円 課税前焼却後利益 242億円 279億円 719億円 630億円 1,870億円 配当金(A) 130億円 150億円 386億円 338億円 1,004億円 内部留保(B) 101億円 113億円 206億円 163億円 583億円 (A)+(B) 230億円 263億円 592億円 501億円 1,586億円 償却前営業利益 償却費 国が作成した㈱苫東の事業計画(案)に対する実績 項 目 (単位:ha、百万円) H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 合計 分 計画 36.0 64.0 81.0 74.0 78.0 84.8 84.8 84.8 84.8 84.8 91.0 91.0 91.0 1,030.0 譲 実績 27.2 51.8 7.7 6.8 31.3 7.2 18.2 2.5 9.3 9.2 16.8 0.0 12.3 200.3 積 達成率 76% 81% 10% 9% 40% 8% 21% 3% 11% 11% 18% 0% 14% 19.4% 売 計画 1,732 3,052 4,834 6,352 6,440 6,484 6,484 6,484 6,484 6,484 6,110 6,110 6,110 73,160 上 実績 1,580 2,014 2,253 1,813 1,111 1,153 1,609 1,112 2,131 1,850 1,369 725 1,007 19,727 高 達成率 91% 66% 47% 29% 17% 18% 25% 17% 33% 29% 22% 12% 16% 27.0% 分 計画 1,232 2,552 4,334 5,842 5,940 5,984 5,984 5,984 5,984 5,984 5,610 5,610 5,610 66,660 譲 実績 936 990 662 327 124 165 623 209 1,269 996 621 0 289 7,211 入 達成率 76% 39% 15% 6% 2% 3% 10% 3% 21% 17% 11% 0% 5% 10.8% 株 計画 808 1,495 2,191 2,547 2,617 2,648 2,648 2,648 2,648 2,648 2,611 2,611 2,611 30,731 主 実績 1,615 621 745 497 373 248 497 124 745 563 450 112 225 6,815 達成率 200% 42% 34% 20% 14% 9% 19% 5% 28% 21% 17% 4% 9% 22.2% 面 収 還 元 ※株主還元は、翌年度の株主総会後に実施 ※※各達成率の%の小数点(合計は少数点第1位)以下は四捨五入 (単位:ha、百万円) 項 目 計画値(a) [H11∼H23] 実績値(b) [H11∼H23] 達成率 (b/a) 計画値 [H24∼H30] [H31∼H40] 合計 分譲面積 1,030.0 200.3 19.4% 637.0 1,680 3,347.0 売 上 高 73,160 19,727 27.0% 42,770 145,800 261,730 分譲収入 66,660 7,211 10.8% 39,270 140,800 246,730 株主還元 30,731 6,815 22.2% 18,277 58,813 107,821 ※分譲面積 200.3ha は、㈱苫東の分譲面積 236.1ha から無償譲渡分 32.5ha と未引渡分 3.3ha を除いた面積 ※年度ごとの計画の数値は、北海道開発庁が作成した事業計画(案)を基に北海道が割り振ったものである。 47 4 監査の結果 (1) 苫小牧東部地域開発出資特別会計貸付金 北海道は、㈱苫東の設立のために170億円を全額有利子借入金(起債)により 出資し、苫小牧東部開発出資特別会計及び苫小牧東部開発減債基金を設けた。 有利子借入金の返済計画期間は、平成12年度から平成41年度の30年間で、 償還可能原資は約297億円(㈱苫東の事業計画による30年間の北海道への総還 元予定額)とされている。 170億円の起債の具体的内容は以下のとおりである。 当 金額 170億円 (平成22年3月15日に29億3090万円償還して借換え) 年月日 平成12年3月15日 利率 1.9%/年 (平成17年4月1日以降 1.5%/年に見直し) 借入先金融機関・借入金額 北洋銀行 119億円 借入期間・償還期限 10年間 元金の償還方法 満期一括償還 ※償還財源確保のため株主還元金を計画的に積立てているが、㈱苫東から の株主還元金が元金積立計画額に満たない場合には、一般会計から借入 れを行う。 利子の償還方法 年2回(9月・3月) 株主還元金と減債基金の運用益が返済財源 ※㈱苫東からの株主還元金が約定の利子償還額に満たない場合には、一般 会計からの借入れを行う。 金額 140億6910万円 年月日 平成22年3月15日 利率 0.95%/年 (ただし、平成27年4月1日以降は、平成27年3月の5年もの国債表面利率に 0.45%を加えた利率) 借入先金融機関・借入金額 北洋銀行 98億4837万円 借入期間・償還期限 10年間 元金の償還方法 満期一括償還 ※償還財源確保のため株主還元金を計画的に積立てているが、㈱苫東から の株主還元金が元金積立計画額に満たない場合には、一般会計から借入 れを行う。 利子の償還方法 年2回(9月・3月) 株主還元金と減債基金の運用益が返済財源 ※㈱苫東からの株主還元金が約定の利子償還額に満たない場合には、一般 会計からの借入れを行う。 初 起 債 の 関 係 借 北海道銀行 51億円 期限 平成22年3月15日 (平成32年3月15日に約41億円を償還して借換え予定) 換 債 の 関 係 北海道銀行 42億2073万円 期限 平成32年3月15日 平成32年3月に40億8010万円、平成42年3月に99億8900万円の 元金を償還する予定である。 平成12年3月から平成24年3月までの約定利息の合計額は約32億円である。 還元金の配分ルールは、株主還元額が計画額よりも小さい場合と大きい場合とで 異なり、前者の場合は不足額を翌年度に一般会計から借り入れ、後者の場合は積立 不足額、現年償還利子、元金先積の順番で配分する運用がなされている。 48 ㈱苫東は、会社設立に当たり販売用地取得費を全て資本金で賄ったことから、土 地分譲により獲得した資金から、事業に必要となる資金を控除した金額を株主に払 い戻すというのが基本的な考え方である。 株主還元額は、土地分譲収入、埠頭収入及び賃貸収入等によって構成される期末 現預金残高から埠頭耐震対策・臨海臨港地区基盤整備のための積立金、税金、基盤 整備費及び経営資金を控除し、翌年度の必要資金を留保した上で決定している。 ㈱苫東 《元金償還フロー図》 還元 出資〔H11〕 積立 苫東減債基金 17,000,000 千円 貸付 苫東特別会計 繰出〔H31〕 北海道一般会計 返済 元本償還〔次回 H31〕 借換〔前回 H21〕 14,069,100 千円 * 還元額が計画額を下回る場合は、 一般会計から特別会計へ貸し付け 道債引受銀行(北洋・道銀) ㈱苫東 《利子償還フロー図》 還元 積立(同年度) 苫東減債基金 苫東特別会計 運用益(毎年) 北海道一般会計 貸付 繰出(次年度) 利子償還(毎年9月・3月) * 還元額が計画額を下回る場合は、 一般会計から特別会計へ貸し付け 道債引受銀行(北洋・道銀) 49 道債引受銀行に対する毎年度2回の利子償還及び10年に一度の元本償還の原資 は、㈱苫東が毎年実施する株主還元金を充てるのが原則であるが、この株主還元金 が道債引受銀行に対する約定償還金額に満たない場合に備えて、北海道の一般会計 から不足分を貸し付けることとした。 (利率は年1%。借り受けた資金は、株主還元額が計画を上回った場合、一般会 計へ返済することとしている。 ) 同特別会計の歳入不足に対応し、起債償還に必要な財源を確保して、道債引受銀 行に対する利子償還及び元本償還の履行を確実とすることが事業の趣旨である。 この貸付金事業による同特別会計の一般会計からの借入状況は、表1のとおりで ある。 ㈱苫東が設立された平成11年度から平成23年度までの13年間で、利子償還 及び元金償還のために、約50億1030万円を一般会計から借り入れるに至って いる。 (表1) 年 度 (単位:百万円) H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 元金積立 0.0 0.0 0.0 0.0 利息償還 149.2 0.0 323.0 借入合計 149.2 0.0 返 済 0.0 残 高 149.2 合計 0.0 232.5 294.6 338.2 269.2 371.2 201.2 316.5 194.8 2,218.2 323.0 322.0 321.5 251.9 250.5 247.2 238.3 225.4 111.6 132.8 2,896.6 323.0 323.0 322.0 554.0 546.5 588.7 516.4 609.5 426.6 428.1 327.6 5,114.8 104.5 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 104.5 44.7 367.7 690.7 1,012.7 1,566.8 2,113.3 2,702.0 3,218.4 3,827.9 4,254.6 4,682.7 5,010.3 5,010.3 ※平成11年度の利息償還欄の借入金(149.2)は、㈱苫東出資時(H11.7)から起債発行時(H12.3)まで一般会計資金の融通を受けたことによる 一時借入金利子 50 ㈱苫東から北海道に対する株主還元金の計画と実績(表2)に基づき、監査人に おいて、㈱苫東から北海道に対する株主還元金の達成状況を計算した(表3) 。 表3のとおり、監査人が株主還元金の達成率を試算したところ、北海道が㈱苫東 から受領した株主還元金について、実績が計画を上回ったのは、平成11年度のみ であり、平成11年度から平成23年度までの合計額に係る計画に対する実績は、 22.5%と計画額を大幅に割り込んでいた。 この要因を分析するため北海道に聞き取ったところ、平成11年度から平成23 年度までの分譲面積、売上高、分譲収入それぞれの達成率は、19.4%、27.0%、 10.8%と事業計画を大幅に下回っていた。 (表2) ㈱苫東から北海道に対する株主還元金の計画と実績について (単位:百万円) 年 度 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 合計 計 画 221.4 410.0 602.0 700.3 719.6 728.2 728.2 728.2 728.2 728.2 717.7 717.7 717.7 8,447.6 実 績 442.0 170.0 204.0 136.0 102.0 68.0 136.0 34.0 204.0 170.0 136.0 34.0 68.0 1,904.0 (株主還元は、翌年度の株主総会後に実施) ※ なお、この計画は北海道開発庁が作成した事業計画に基づくものであり、㈱苫東が作成 したものではない。 (表3) ㈱苫東から北海道に対する株主還元金の達成状況 年 度 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 達成率 200% 41% 34% 19% 14% 9% 19% 5% 28% 23% 19% 5% 9% ※各達成率の「%」の小数点(合計は少数点第1位)以下は、四捨五入 51 合計 22.5% ㈱苫東の設立に当たり国が作成した事業計画における収支見通しは、平成31年 度から平成40年度の事業計画額が平成21年度から平成30年度を大きく上回る ものとなっている。これは20年間の集積の波及効果等により、用地分譲率が上昇 するものとして見込んだからだと説明されている。 しかし、北海道苫小牧東部地域開発出資特別会計における一般会計からの借入残 高は平成23年度末時点で約50億1030万円(元金積立及び利子償還の合計) に及んでおり、さらに今後も一般会計からの借入金残高は増加し続けることが想像 に難くない状況であることから、苫小牧東部地域開発出資特別会計貸付金事業も存 続を余儀なくされると考えられる。 北海道は、㈱苫東の27.37%の株式を有しており、㈱日本政策投資銀行に次ぐ 大口株主であるばかりか、㈱苫東との協定により同社の代表取締役社長は、歴代、 北海道の職員が派遣され就任している。 包括外部監査人の求めに応じて開示された㈱苫東の定款、定時株主総会議事録及 び営業報告書(以下「本件資料」という。 )を精査したところ、平成21年6月22 日の第10回定時株主総会において取締役の報酬額改定の件が議題として上程され、 改訂の理由及びその内容について説明がなされたうえで、賛成多数をもって承認可 決されていることが確認できた。 ここで承認された取締役の報酬等の改訂の内容は、㈱苫東の経営基盤強化のため に取締役1名を追加選任することに伴い、平成11年7月19日開催の㈱苫東の発 起人会において決定された取締役の報酬総額上限を年額3500万円から年額40 00万円に変更するものであった。 平成18年度ないし平成23年度の各事業報告書には、 役員 (取締役及び監査役) に対して支払った報酬等について、それぞれ支給人員及び支給総額が記載されてい る。 取締役及び監査役に支払った報酬等の額 年 度 (単位:千円) H18 H19 H20 H21 H22 H23 年報酬等合計 35,964 34,481 36,480 36,189 39,048 36,355 報酬受領役員 4名 4名 4名 5名 5名 5名 北海道が見込んだ㈱苫東の株主還元の算定資料となっている事業計画(案)は、 何らの法的拘束力を有するものではなく、還元可能財源を作ることができない場合 においても、株主から法的責任を追及される余地はないところ、大口株主による㈱ 苫東の経営コントロールの必要性は高いものと言わざるを得ない。 52 プロジェクト分譲の中心を担う国の役割が大きいものであることは言うまでもな いが、 ㈱苫東の収支改善が実現しなければ、株主還元額が事業計画と乖離した状態 が是正されず、一般会計から苫小牧東部地域開発出資特別会計に対する貸付を続け ざるを得ないため、㈱苫東の株主としての北海道の経営コントロールのあり方が重 要であると考える。 北海道は株主として、㈱苫東に対して、誘致活動の強化や経営の効率化を進める ことで、株主還元金を最大化するように求めていることが窺えるが、今後とも①各 決算期の事業報告及び各議案に対する質問・意見の申述、②役員の報酬等に対する 監視、③北海道の意向を反映するための適切な議決権の行使、①から③を行う前提 としての調査を徹底・継続することが求められるのである。 しかしながら、91haの分譲を計画していた平成22年度における㈱苫東の分 譲面積が0haであったにもかかわらず、北海道が㈱苫東に対して株主として、株 主総会の場において役員報酬等に関し意見を述べた形跡が全く見られない。 ㈱苫東の増収と役員報酬等を含む経費節減が達成されなければ、当初見込んだ株 主還元が予定どおりに進まず、その結果として、北海道の一般会計に更なる負荷(苫 小牧東部地域開発出資特別会計貸付金の増加)をかけることになるのは明らかであ る。 【意見 3】 分譲実績が計画を下回り続けていることに伴って、㈱苫東から苫小牧東部地域 開発出資特別会計に対する株主還元が予定どおり進まない状況となっているこ とから、北海道としては、㈱苫東に対し、役員報酬等を含む経常的な経費のより 一層の節減に努めるよう、株主総会における株主としての権限の行使なども含 め、これまで以上に積極的な対応を図ること。 53 (2) ① 北海道土地開発公社苫小牧東部工業基地用地資金貸付金 苫東二次買収用地と北海道土地開発公社との関係 いわゆる苫東二次買収用地は、苫小牧東部開発への譲渡を前提に、北海道が北海 道土地開発公社に委託して先行取得したものであるが、集団的農地や市街化調整区 域が含まれていたことから、転用許可等の手続きを履行できず、売買代金の支払い は未了であったが、北海道に所有権移転登記が経由されたものである(代行用地) 。 なお、この苫東二次買収用地については、昭和62年以降、苫小牧東部開発の資 金繰りが厳しい状況となり、その後破綻し特別清算に至る過程で、同社への譲渡期 限の延長が繰り返されたが、㈱苫東設立後については、平成13年1月に、北海道 開発局と北海道の間で確認書が取り交わされ、 土地利用区分に応じた利活用を図り、 利用区分に従った用地の譲渡を行うこととされている。 「いわゆる二次買収用地の取扱いについて」(平成13年1月5日) 国家的プロジェクトである苫小牧東部地域開発を行うに当たり、北海道が苫小牧東部開発株 式(旧会社)への譲渡を前提に、北海道土地開発公社に委託して昭和53年から昭和58年に わたり先行取得し現在所有している土地(いわゆる二次買収用地)については、北海道開発庁 が定めた苫小牧東部開発新計画、同段階計画及び苫小牧港管理組合が定めた苫小牧港港 湾計画に沿って、開発用地及びそれに準ずる用地(以下「開発用地等」という。)、骨格的緑 地、公園用地及び道路用地として土地利用を図ることとし、株式会社苫東、厚真町、苫小牧港 管理組合のそれぞれが異存ない旨確認されたので、次のとおり取り扱うものとする。 記 1. 開発用地等については、苫小牧港東港区において整備される国際物流ゾーン関連用地と して、流通産業等の集積を図るものとし、平成18年度(平成19年2月15日調印の確認書に より平成27年度に延長されている。)を目途に開発推進主体である株式会社苫東に譲渡す る。譲渡については、会社設立の経緯に鑑み、会社経営に支障がないよう、現在、会社が所 有する分譲対象用地以外の用地との交換により行う。北海道開発庁(平成13年1月6日以降 「国土交通省北海道局」と読み替える。以下同じ。)は、交換により北海道が取得する用地に ついては、苫小牧東部開発新計画に定める親水空間の整備などに要する公共事業用地と して活用するよう努めるものとする。 1. 骨格的緑地については、地域内の緩衝機能、優れた自然環境の保全、さらに新しい景観 の創出等の多目的な効果を図るため、北海道が所有・管理することとする。 1. 公園用地については、平成14年度を目途に、厚真町への譲渡を目指す。 1. 苫小牧港港湾計画における位置付けられている臨港道路用地については、港湾整備長 期計画を踏まえ、できるだけ早期に港湾管理者である苫小牧港管理組合に譲渡する。 1. 上記土地利用を着実に推進していくため、今後、北海道開発庁と北海道との間で、新たな 協議の場を設置する。 54 「公共用地等の先行取得等に関する協定書(昭和48年4月1日協定) 」 に基づき、 北海道土地開発公社が取得する土地については、北海道の指示により、北海道又は 北海道土地開発公社の名義に所有権移転登記をすることとしている(第4条) 。 苫東二次買収用地のように、北海道名義に所有権移転登記を経由した土地につい ては、北海道と公社は、公社が当該土地の取得等に要した経費の支払いに関する契 約を締結する約定になっている(第8条第1項) 。 北海道名義に所有権移転登記がなされた場合、北海道が公社に対して支払う経費 の額は、用地費、補償費、管理費、造成費及び調査測量費で構成される事業費、事 務費並びに資金経費の合計額とされている(第9条第1項)。 これは「簿価」と称されている。 昭和53年度から平成3年度における公共用地等の先行取得等に係る経費の支払 いについては、平成3年度末から平成5年度末を支払い期限とする債務負担行為が 設定されていたが、北海道と北海道土地開発公社との間で、返済期限を延長する合 意を行い、支払期限は、平成13年3月31日、平成14年3月31日、平成19 年5月31日、平成28年3月31日と4度延長されている。 また、昭和54年度から昭和58年度までの用地取得に要する経費のほか、その 後の管理費、事務費などに要する経費等で、年々簿価は累増し、平成13年3月3 1日(平成12年度末)には、125億円9千万円にも上る結果となった。 55 (単位:円) 年度 用地費 補償費 造成費 管理費 調査測量費 事務費 資金経費 合計(簿価) S54 567,833,650 182,572,484 2,394,017 3,151,175 21,058,362 1,666,621,360 2,443,631,048 S55 876,538,940 448,002,819 4,630,000 12,989,000 41,347,347 2,688,787,689 4,072,295,795 S56 544,159,640 533,140,651 3,994,000 36,126,081 1,870,233,200 2,987,653,572 S57 376,921,804 770,334,828 8,644,000 37,764,412 1,717,936,174 2,918,921,218 S58 2,360,280 22,116,000 3,330,000 1,668,376 39,078,351 68,553,007 S59 3,202,000 192,120 4,060,818 7,454,938 S60 3,561,000 213,660 3,927,220 7,701,880 S61 3,135,000 188,100 3,003,301 6,356,401 S62 4,276,000 256,560 3,667,606 8,200,166 S63 3,278,000 196,680 2,490,601 5,965,281 H01 2,465,000 147,900 1,643,773 4,256,673 H02 2,582,000 154,920 1,460,075 4,196,995 H03 2,673,000 160,380 1,208,342 4,041,722 H04 3,648,840 218,930 1,269,453 5,137,223 H05 12,401,200 744,072 3,237,820 16,383,092 H06 3,811,000 228,660 762,254 4,801,914 H07 3,605,000 216,300 528,452 4,349,752 H08 3,914,000 234,840 426,031 4,574,871 H09 3,885,000 233,100 301,345 4,419,445 H10 3,885,000 233,100 195,817 4,313,917 H11 3,675,000 220,500 93,741 3,989,241 H12 2,992,500 179,550 22,911 3,194,961 99,097,715 141,983,950 8,010,986,334 12,590,393,112 合計 2,367,814,314 1,956,166,782 7,320,000 0 14,344,017 56 ② 平成11年度包括外部監査の改善意見について 平成11年度の包括外部監査では、北海道土地開発公社における長期保有地の約 191億円もの含み損が顕在化し、北海道財政への相当な負担が懸念される中、ど のような解決・改善の可能性があるか等について監査がなされた。 監査の結果、本来は、北海道が公社から一括引き取る必要があるが、道の財政上 の制約などから、北海道の一般会計による土地の買取り、あるいは北海道の無利子 融資が難しい場合でも、 時間の経過とともに、含み損失は膨らみ続けることになり、 問題の先送りは、将来の北海道の財政負担を大きくすることになるため、早急な対 策が望まれるとして、さらなる簿価額上昇を防ぐため、支払利子(北海道土地開発 公社が、二次買収用地取得及び維持管理のために市中金融機関と締結した金銭消費 貸借契約に基づき発生したもの。) 等に対する北海道の一般会計による補填などの検 討が必要であるとの改善意見が述べられた。 「北海道土地開発公社及びこれに係わる北海道の財務」 改 善 意 見 道が講じた措置 長期保有地に関しては、北海道からの無利子 資金の導入により簿価の増加を抑止するほか、 簿価額抑制のため、苫東二次買収用地は平成 13年度から無利子貸付を行いました。 土地の処分に伴う販売損失の補填措置が必要と なお、含み損の拡大を防ぐため、平成13年 なるが、議会及び道民への説明と理解が得られ 度から自主事業用地の管理費等は簿価額への加 るか検討が必要である。 算をとりやめ、準備金から支出することとしま 北海道は公社に対して債務負担行為(債務保 証)を行っているため、公社の金融機関からの 借入金の返済義務を負っている。 したがって、時間の経過とともに、含み損失 は膨らみ続けることになり、問題の先送りは、 将来の北海道の財政負担を大きくすることにな るため早急な対策が望まれる。 57 した。 北海道の単独事業に係る長期保有地の含み損 苫東二次買収用地については、平成13年度 は、154億円である。北海道単独事業の含み から簿価抑制を図るため無利子貸付を実施する 損については、北海道が解決すべきである。 とともに、管理費等については年度毎に道費で 北海道の単独事業で長期保有となっている用 支出することとした。 地は、いずれも昭和48年から昭和51年頃に なお、苫東二次買収用地については、平成1 かけて取得された。しかし、事業が停滞するな 3年1月の北海道開発庁との合意に基づき処分 かで計画の見直しがなされず、時間の経過に伴 を進めることとしており、平成12年度に、道 い支払利子等が累積し含み損も膨らんでいる。 は骨格的緑地を買い取った。 本来は、事業計画にしたがって、または事業 計画を立てて北海道が公社から引き取る必要が ある。 北海道の財政上の制約などから一括引き取り が困難な場合でも、長期保有地に対し毎年度新 たに発生する管理費、事務費及び支払利子につ いては、北海道の一般会計により年度毎に負担 処理する必要がある。 企業会計において支払利子は発生した年度の 道は支払利子及び管理費について、簿価額抑 費用として処理するのが原則であるが、不動産 制を図るため、苫東二次買収用地については、 開発事業においては、その事業上の特殊性とし 平成13年度から全額無利子貸付を行うととも て一定の条件を満たす場合に発生年度の費用と に、管理費等についても年度毎に道費で支出す せず、棚卸試算(販売用不動産)の簿価加算が ることとした。 認められている。しかし、無制限に認められる ものではない。 現在保有している長期保有地は、いずれも土 地取得後15年から20年経過し、当初の計画 に従った処理を行うことは困難となっており、 この間に算入された利子等が累積し含み損が増 大した。 公社における長期保有地に係る支払利子等の 簿価加算を押さえる方策(北海道の一般会計に よる土地の買取りあるいは北海道の無利子融 資)が難しい場合でも、少なくとも支払利子、 管理費等に対する北海道の一般会計による補填 などの検討が必要である。 58 この改善意見を受けて、北海道では、苫東二次買収用地に関しては、平成13年 度から、北海道土地開発公社への簿価相当額の無利子貸付(単年度償還)を行って いる(その他の道単独事業用地については平成12年度から同様の対応。) 。 平成13年度以降の簿価の推移などは、以下の表のとおりである。 なお、表には、現在支払期限となっている平成28年3月31日(平成27年度 末)までの推計値を、金利水準が現在のまま変動がないとの仮定の下で記載してい る。 (単位:円、%/年) 年度 区 分 元 金 年月日 年月日 日数 年利 増加額 簿価残高 備 考 H13 貸付額 期首簿価 12,590,393,112 13.04.01 13.04.02 2日 1.375 948,544 12,591,341,656 期末簿価 12,591,341,656 14.03.31 14.03.31 ― 1.375 0 12,591,341,656 期首簿価 12,591,341,656 14.04.01 14.04.01 1日 1.375 0 12,591,341,656 期末簿価 11,809,752,875 15.03.31 15.03.31 1日 1.375 444,887 11,810,197,762 期首簿価 11,810,197,762 15.04.01 15.04.01 1日 1.375 444,888 11,810,642,650 期末簿価 11,790,793,240 16.03.31 16.03.31 1日 1.375 444,173 11,791,237,413 期首簿価 11,791,237,413 16.04.01 16.04.01 1日 1.375 444,174 11,791,681,587 期末簿価 11,791,681,587 17.03.31 17.03.31 1日 1.375 444,207 11,792,125,794 期首簿価 11,792,125,794 17.04.01 17.04.01 1日 1,375 444,207 11,792,570,001 期末簿価 11,792,570,001 18.03.31 18.03.31 1日 1.375 444,240 11,793,014,241 期首簿価 11,793,014,241 18.04.01 18.04.03 3日 1.375 1,332,722 11,794,346,963 期末簿価 11,794,346,963 19.03.30 13.03.31 2日 1.625 1,050,181 11,795,397,144 期首簿価 11,795,397,144 19.04.01 19.04.02 2日 1.625 1,050,182 11,796,447,326 期末簿価 11,796,447,326 20.03.31 20.03.31 1日 1.875 605,981 11,797,053,307 期首簿価 11,797,053,307 20.04.01 20.04.01 1日 1.875 605,982 11,797,659,289 期末簿価 11,797,659,289 21.03.31 21.03.31 1日 1.875 606,044 11,798,265,333 期首簿価 11,798,265,333 21.04.01 21.04.01 1日 1.875 606,044 11,798,871,377 期末簿価 11,798,871,377 22.03.31 22.03.31 1日 1.875 606,106 11,799,477,483 期首簿価 11,799,477,483 22.04.01 22.04.01 1日 1.875 606,106 11,800,083,589 期末簿価 11,800,083,589 23.03.31 23.03.31 1日 1.875 606,168 11,800,689,757 期首簿価 11,800,689,757 23.04.01 23.04.01 1日 1.875 606,169 11,801,295,926 期末簿価 11,801,295,926 24.03.30 24.03.31 2日 1.875 1,212,461 11,802,508,387 期首簿価 11,802,508,387 24.04.01 24.04.02 2日 1.875 1,212,462 11,803,720,849 期末簿価 11,803,720,849 25.03.29 25.03.31 3日 1.875 1,819,067 11,805,539,916 期首簿価 11,805,539,916 25.04.01 25.04.01 1日 1.875 606,355 11,806,146,271 期末簿価 11,806,146,271 26.03.31 26.03.31 1日 1.875 606,480 11,806,752,751 期首簿価 11,806,752,751 26.04.01 26.04.01 1日 1.875 606,480 11,807,359,231 期末簿価 11,807,359,231 27.03.31 27.03.31 1日 1.875 606,542 11,807,965,773 期首簿価 11,807,965,773 27.04.01 27.04.01 1日 1.875 606,542 11,808,572,315 期末簿価 11,808,572,315 28.03.31 28.03.31 1日 1.875 606,605 11,809,178,920 増加累計 948,544 H13 948,544 H14 貸付額 948,544 H14 1,393,431 H15 貸付額 1,838,319 H15 2,282,492 H16 貸付額 2,726,666 H16 3,170,873 H17 貸付額 3,615,080 H17 4,059,320 H18 貸付額 5,392,042 H18 6,442,223 H19 貸付額 7,492,405 H19 8,098,386 H20 貸付額 8,704,368 H20 9,310,412 H21 貸付額 9,916,456 H21 10,522,562 H22 貸付額 11,128,668 H22 11,734,836 H23 貸付額 12,341,005 H23 13,553,466 H24貸付額 14,765,928 H24 16,584,995 H25貸付額 17,191,350 H25 17,797,830 H26貸付額 18,404,310 H26 19,010,852 H27貸付額 19,617,394 H27 59 20,223,999 ③ 平成17年度包括外部監査の改善意見について さらに、平成17年度の包括外部監査では、平成11年度の包括外部監査におけ る改善意見に対する是正措置の状況について監査が実施された。 監査の結果、長期保有地の簿価対策等については、道が実施している単年度償還 の無利子貸付により、大幅に改善が図られていると評価されている。 以下、監査の結果について、関係部分を抜粋し記載する。 ◎ 支払利子の簿価加算については、北海道が簿価額全額に対して、単年度償還の 無利子貸付を実施するという措置を行っており、前回監査時の状況に比べると、 今後の簿価の増加は無いに等しい水準になっている。この支払利子の簿価加算に 関しては、他の長期保有地も含めて、大幅に改善されていることが認められる。 ◎ 苫東二次買収用地に係る支払利子の簿価加算については、北海道が簿価額全額 に対して、単年度償還の無利子貸付を実施するという措置をとっているため改善さ れている。 ◎ 現在の北海道の財政状況から推測すると、公社が保有する北海道単独事業用地 を即座に引き取ることは困難であろうが、公社の立場を鑑みると、北海道は早期 の土地の引き取りを行うべきである。 前述のとおり、北海道では、平成11年度の包括外部監査における改善意見を踏 まえ、平成13年度から北海道土地開発公社苫小牧東部工業基地用地資金貸付金に より、開発用地等及び道路用地について、 譲渡までの間の簿価上昇を抑制するため、 北海道土地開発公社への簿価相当額の無利子貸付を行っている。 平成17年度の包括外部監査では、この措置により、簿価上昇が抑制され、平成 11年度監査時に比べ大幅に改善が図られていると評価されているところである。 北海道土地開発公社への簿価相当額の無利子貸付という手法は、あくまで時間の 経過に伴い支払利子等が累積し含み損が膨らみ続けている長期保有地に対する応急 的な対応であることは言うまでもない。 しかし、根本的な解決が図られない限り、つまり、開発用地等と道路用地の具体 的な利活用方策が決まらない限り、北海道は、簿価抑制対策として、 「北海道土地開 発公社苫小牧東部工業基地用地資金貸付金」による単年度償還の無利子貸付を継続 せざるを得ないと考えている。 60 一方で、苫東二次買収用地に係る長期保有地の大部分を占める開発用地等(15 1.4ha)については、北海道と北海道開発庁との間で取り交わされた確認書に基 づき、交換により北海道が取得する用地について、国土交通省北海道局が公共事業 用地として具体的に利活用する目途が立たない限り事態は進展しない。 また、下表にあるように、118億円もの予算措置については、北海道はどのよ うに対応するのかという課題や、測量を行っていないという事務的な課題も残って いる。 (単位:億円) 区 分 面積(ha) 譲渡先 開発用地等 (151.4) 道路用地 (2.9) 苫小牧港管理組合 骨格的緑地 (83.8) 北海道が取得 公園用地 (10.2) 町道用地 0(0.3) 合 計 (154.3) ㈱苫東 譲渡方法 譲渡時期 簿価 時価 差引 交換 H27 目途 (116) (7) (109) 有償譲渡 H15 以降 (2) (1) (1) − H12 (64) (18) (46) 厚真町 有償譲渡 H14 (8) (2) (6) 厚真町 有償譲渡 H15 - 118 - - 8 事業費等 簿価上昇抑制のた め公社に貸付 取得:約 64 億円 売却:約 5,000 万円 売却:約 100 万円 110 ※開発用地等及び道路用地の時価は監査人において算出した。 (500円/㎡(平成15年度の売払価格)は経済部聞き取り) ※骨格的緑地及び公園用地の簿価及び時価は、平成14年度北海道土地開発公社(苫小牧東部工業基地用地資金)につい て[苫東二次買収用地分]決定書添付書類に拠った。 ※「差引」=「簿価」‐「時価」=「含み損」 なお、二次買収用地確認書の中で、開発用地等の土地利用を着実に推進していく ため、国土交通省北海道局と北海道との間で、新たな協議の場を設置することが合 意されているが、これまでの打ち合わせの概要は以下のとおりである。 開催年月日(場所) 協議参加者 内容等 1 平成14年2月20日 (国土交通省) 国:企画調整官等 道:課長・主査 公共事業用地としての活用を図るため、土地利用について協議 2 平成14年3月14日 (国土交通省) 国:開発専門官等 道:主査3名 公共事業用地としての活用に係る意見交換 3 平成14年5月15日 (国土交通省) 国:企画調整官等 道:参事・主幹 公共事業用地としての活用に係る意見交換 4 平成14年7月5日 (北海道経済部) 国:企画調整官 道:次長・参事等 公共事業用地としての活用に係る意見交換 5 平成14年8月29日 (国土交通省) 国:企画調査官 道:次長 二次買収用地の処理について要請 6 平成17年10月17日 (国土交通省) 国:企画調整官等 道:参事・主幹 国に対し、確認書に基づく期限までの処理について要請 7 平成18年2月17日 (国土交通省) 国:開発専門官 道:主幹・主査 国対し、確認書に基づく期限までの処理について要請 61 8 平成18年7月27日 (国土交通省) 国:企画調整官等 道:参事・主査 二次買収用地処理について、国直轄事業の検討を要請 9 平成18年9月14日 (国土交通省) 国:企画調整官等 道:参事 新たな確認書の締結について協議 10 平成18年10月10日 (国土交通省) 国:企画調整官等 道:参事・主査 新たな確認書の締結について協議 11 平成18年10月13日 (北海道経済部) 国:企画調整官等 道:参事・主幹 新たな確認書の締結について協議 12 平成18年10月27日 (国土交通省) 国:企画調整官等 道:課長 新たな確認書の締結について協議 13 平成18年10月21日 (国土交通省) 国:審議官等 道:経済部長等 新たな確認書の締結について協議 14 平成19年1月19日 (国土交通省) 国:北海道局長・企画官 道:副知事・局長 新たな確認書の締結について協議 15 平成19年5月30日 (国土交通省) 国:参事官・企画調整官 道:局次長・参事 公共事業用地としての活用に係る意見交換 16 平成19年7月24日 (国土交通省) 国:参事官・企画調査官 道:局次長・参事 協議を行う上での基本的なスタンスについて確認 17 平成20年4月9日 (国土交通省) 国:開発推進官 道:参事・主査 二次買収用地処理について、国直轄事業の検討を要請 18 平成20年5月30日 (国土交通省) 国:参事官・開発推進官 開発専門官 道:参事 公共事業用地としての活用に係る意見交換 19 平成20年7月29日 (国土交通省) 国:北海道局長ほか 道:副知事・参事 苫小牧東部地域の開発に関する要望 公共事業用地としての活用について要請 20 平成21年5月28日 (国土交通省) 国:企画調整官 開発専門官 道:局次長・参事・主幹・ 主査 国が主体性を発揮したプロジェクトの推進について要請 国直轄事業の可能性がある事業の検討を要請 公共事業用地としての活用を道からの提案事業を含め、幅広く 検討するよう要請 21 平成21年7月28日 (国土交通省) 国:北海道局長ほか 道:局次長・参事 苫小牧東部地域の開発に関する要望 22 平成21年10月19日 (国土交通省) 国:開発専門官 道:参事 国直轄事業の可能性がある事業の検討を要請 23 平成22年7月28日 (国土交通省) 24 平成23年10月28日 (苫小牧市役所) 国:企画調整官 開発専門官 道:苫東担当課長 主幹・主査 国:企画調整官 道:苫東・石狩担当課長 主査 公約プロジェクトの推進について要請 公共事業用地としての活用に係る意見交換 公共事業用地としての活用に係る意見交換 包括外部監査人は、二次買収用地の開発用地等の処理が平成18年度の当期目標 に実行できず、現在もなお見通しが立っていない理由について、北海道経済部に説 明を求めたところ、二次買収用地の処理について、これまでも国と協議を行ってき たが、北海道として今後も苫東開発の核となるプロジェクトや基盤整備などの具体 的な提案を行うなどとして、公共事業用地として活用が図られるよう、国と協議を 継続していく考えであるという回答を得た。 62 本件貸付金取引を資金の流れに着目して説明すると下記のとおりとなる。 北 海 道 ① ④ 北海道土地開発公社 ② ③ 金融機関 毎年度中に以下の①∼④を繰り返す。 平 成 ① 4月1日 北海道は公社に短期貸付金として「前年度期末簿価+利息」を貸付 ② 4月1日 公社は金融機関に「前年度期末簿価+利息」を返済 ③ 翌3月31日 金融機関が公社に「前年度期末簿価+利息」を融資(返済期限は翌日4月1日) ④ 翌3月31日 公社は北海道に短期借入金「前年度期末簿価+利息」を返済 ①及び② 北 海 道 → 北 海 道 土 地 開 発 公 社 → 金 融 機 関 北 海 道 ← 北 海 道 土 地 開 発 公 社 ← 金 融 機 関 平成n+1 年 4 月 1 日 北 海 道 → 北 海 道 土 地 開 発 公 社 → 金 融 機 関 平成n+2 年 3 月 31 日 北 海 道 ← 北 海 道 土 地 開 発 公 社 ← 金 融 機 関 平成n年 4 月 1 日 n 年 度 ③及び④ 平成n+1 年 3 月 31 日 平 成 n + 1 年 度 63 このように、単年度貸付を反復・継続的に実施し、今日に至っているが、年度末か ら翌年度初日の数日間は、北海道土地開発公社は民間金融機関からの借り入れでつな ぎ、翌年度初日に再び北海道が北海道土地開発公社に貸付を行っているのである。 北海道は、数日だけ資金を引き揚げているだけであって、実質的には長期貸付とし ての機能を果たしている。 なお、こうした単年度貸付に関しては、 「第三セクター等の抜本的改革の推進等につ いて」 (平成21年6月23日総務省自治財政局長通知・総財公第95号)が、各都道 府県知事及び各指定都市市長宛てに通知されているところ、次のとおりの指針が示さ れている。 第三セクター等に対する短期貸付けを反復かつ継続的に実施する方法による 支援は、安定的な財政運営および経営の確保という観点からは、本来長期貸付け 又は補助金の交付等により対応すべきものであり、当該第三セクター等が経営破 綻した場合には、その年度の地方公共団体の財政収支に大きな影響を及ぼすおそ れがあることから、早期に見直すべきである。 現在の手法は、平成13年度から行われているが、北海道経済部からは、当時の包 括外部監査結果はもとより、道の財政上の制約なども考慮した上で検討された手法で あるとの説明を受けた。 しかし、反復・継続的に実施されている単年度貸付によって、巨額の含み損の実態 が見えにくくなっており、地方公共団体の財務情報の開示の推進の流れに照らしても、 不透明な方式と言わざるを得ない。総務省からの通知の趣旨なども踏まえ、道財政が おかれている現状も考慮した上で、早期に見直しを検討すべきである。 なお、短期貸付けに関しては、背景等は異なるが、平成17年度及び平成21年度 大阪府包括外部監査報告、平成23年度福岡県包括外部監査報告において、それぞれ 改善意見が提出されていることを申し添える。 いずれにせよ、北海道土地開発公社への支払期限である平成27年度末に向けて、 北海道は、引取りの際の北海道土地開発公社に対する「経費」の支払いの財源確保な ど、土地処分の具体化に向けた検討を急ぐとともに、国土交通省北海道局に対し、こ れまで以上に積極的に、利活用の具体化に係る申し入れを行い、北海道土地開発公社 の長期保有地の解消に最大限取り組むべきである。 【意見 4】 北海道は、引取りの際の北海道土地開発公社に対する「経費」の支払いの財源 確保など、苫東二次買収用地に係る土地処分の具体化に向けた検討を急ぐととも に、国土交通省北海道局に対し、これまで以上に積極的に、利活用の具体化に係 る申し入れを行い、北海道土地開発公社の長期保有地の解消に最大限取り組むべ きである。 64 【意見 5】 無利子貸付金の単年度償還による簿価抑制については、総務省からの通知の趣 旨なども踏まえ、道財政がおかれている現状も考慮した上で、早期に見直しを検 討すべきである。 本件短期貸付(単年度償還)を繰り返していると、数日間分とはいえ毎年度の市 中金融機関に対する借入利子が累積する。 そして、 簿価算入が現在でも継続されているが、 支払利子の取り扱いについては、 以下のとおり速やかに改善すべきであると考える。 平成15年7月16日及び同月28日に北海道と公社との間で締結された公共用 地等の先行取得等に係る経費の支払いに関する契約において「経費」の範囲を拡張 し、 「経費」には、平成15年度以降、当該用地に係る無利子貸付金を北海道に返済 するために金融機関から借入した資金にかかる利子(以下「本件利子」という。 )を 加算するとの約定が追加されている。 しかし、平成11年度包括外部監査の結果に関する報告並びに契約当時の土地開 発公社経理基準要綱、日本公認会計士協会が昭和49年8月20日に公表した申合 わせ及び平成17年1月21日に改正された土地開発公社経理基準要綱の趣旨に鑑 み、北海道は、公社に対する短期貸付(単年度償還)を行うことによって毎年度新 たに発生する本件利子について、北海道の一般会計による年度毎の負担処理(道費 での支出)をすべきである。 【意見 6】 毎年度発生する市中金融機関に対する借入利子については、北海道が年度毎に 負担処理し、簿価算入を解消すべきである。 65 第9 1 石狩湾新港地域開発 概要 事 業 名 事業目的 石狩湾新港地域開発出資特別会計貸付金 石狩湾新港地域の開発推進主体である石狩開発㈱の再生を図り、当地域 の開発推進に資するため、民事再生計画に基づき100億円を出資(起債 90億円、長期借入金10億円)し、当該出資に関する経理を明確にする ため、石狩湾新港地域開発出資特別会計を設置した。 本事業は、同特別会計の歳入変動に対応するため歳入不足の際に一般会 計から資金を貸し付け、公債費の償還を担保する。 ○ 事業内容 予 算 額 (H24 年度) 石狩湾新港地域開発出資特別会計では、毎年度、石狩開発㈱からの還 元金(取得条項付株式の消却)を特定財源として、起債発行計画に基づ く起債元金返済(積立)及び償還利子、一般会計からの借入元金及び利 子に充てることとしている。 ○ 石狩開発㈱からの還元額については、石狩湾新港地域開発減債基金に 積み立て、起債元金償還に充てることとし、還元額が起債発行計画に満 たない場合は、翌年度その不足額を一般会計から借り受け計画どおりの 元金返済(積立)を行う。 ○ 起債利子償還については、還元額が起債発行計画を上回る場合に、上 回る分を充当することとし、不足分を一般会計から貸し付ける。 308,828千円 事 業 名 北海道土地開発公社石狩湾新港地域港湾用地資金貸付金 事業目的 石狩湾新港地域港湾用地について、譲渡までの間の簿価上昇を抑制する ため、北海道土地開発公社への簿価相当額の無利子貸付を行う。 事業内容 ○ ○ ○ 予 算 額 (H24 年度) 貸付先 貸付対象経費 貸付条件 北海道土地開発公社 港湾用地に係る平成24年度期首簿価相当額 無利子貸付、年度内償還 2,128,380千円 66 2 石狩湾新港地域開発の歴史的経緯 (1) 石狩湾新港地域の開発の決定から石狩開発㈱の経営破綻まで 「第3期北海道総合開発計画」 (昭和45年7月閣議決定)において、石狩湾新港 地域が、札幌圏の物資流通機能を最大限に活かすことができる極めて有利な地理的 環境にあるとして、道央圏における新たな流通と生産機能を分担する拠点港を目指 し、石狩湾新港の建設と後背地域の開発が決定された。 この「第3期北海道総合開発計画」を受けて、北海道は、石狩湾新港地域の効果 的な開発を推進するため、当地域の分譲等について、第三セクター方式を採用する ことによって、民間の資金やノウハウを活用することとし、当時、石狩町内で木材 工業団地の開発実績がある石狩開発㈱に、道や札幌市、小樽市、石狩市(当時は石 狩町)などが新たに出資を行い、昭和47年1月に第三セクターとして組織替えを 行い、これにより、石狩開発㈱は、約3000ヘクタールの開発予定地において、 約1700ヘクタールの用地の取得・造成・分譲を進め、一大生産・物流基地の建 設・開発を推進することとなった。 平成初期のバブル経済の最盛期においては、石狩湾新港地区に進出する企業も多 数存在し、石狩開発㈱は、用地を順調に売却し、経営は順調であった。 平成2年度の売上高は約145億円で、経常利益は約1億4000万円、平成3 年度の売上高は約230億円で、経常利益は約3億5000万円を計上するに至っ ており、同年度がピークであった。 しかし、バブル崩壊に伴う地価下落及び用地分譲の停滞等により、平成4年度の 売上高は173億円、平成5年度の売上高は71億円、平成6年度の売上高は30 億円と急速に落ち込み、これまで石狩開発㈱の事業資金を融資してきた当時の北海 道東北開発公庫及び民間金融機関は、平成11年4月以降は新規融資に応じない事 態となった。 当時の石狩開発㈱の年間必要資金は約40億円(造成費、負担金、金利、販管費、 固定資産税等)であったが、土地分譲による売上は約20億円にとどまっていたこ とから、石狩開発㈱は、北海道に対する港湾予定地の先行買上の要請、金融団に対 する金利減免要請、地元経済界に対する支援要請等を試み、資金調達を行うととも に、売上増加及び経費削減の努力をしたものの、土地の売却は伸び悩み、次第に資 金繰りに窮するようになった。 67 平成 11 年度から平成 13 年度の損益の状況 (単位:百万円) H11 年度 H12 年度 H13 年度 2,498 1,536 509 うち土地分譲 2,443 1,474 433 うち賃料収入 54 61 75 営業利益 269 427 ▲191 経常利益 185 ▲781 ▲1,466 当期利益 38 ▲732 ▲1,476 未処理損益 261 ▲465 ▲1,942 売 上 高 石狩開発㈱は、毎年の未処理損失の増大を止めることができない状況であったた め、法的整理による抜本的な会社経営の立て直しを経ずして事業を継続することは 不可能と判断し、平成14年10月、民事再生手続開始申立に至った。 なお、石狩開発㈱の民事再生により債務超過額約350億円が全額免除となった ことから、北海道の石狩開発㈱に対する債権全額(約29億7500万円)も免除 となったとともに、石狩開発㈱の資本20億円が全額減資となったことにより、北 海道が出資していた資本4億円も無償で償却されることとなった。 「第3期北海道総合開発計画」 閣議決定 昭和45年 7月 昭和46年 7月 昭和47年 1月 石狩開発㈱が第三セクターとして組織変更 昭和47年 8月 「石狩湾新港地域開発基本計画」 北海道開発庁策定 昭和53年 4月 石狩湾新港管理組合 設立(北海道、小樽市、現石狩市) 平成 北海道 「北海道工業団地開発事業条例」 改定 <石狩湾新港地区を買収区域に含めた。> 石狩開発㈱の売上高が減少 4年∼ 平成11年 <道央圏における流通と生産機能を分担する拠点港を目指す。> 4月∼ 北海道東北開発公庫及び民間金融機関が新規融資に応じない事態となった。 平成14年10月 民事再生手続開始決定 平成15年 再生計画案認可決定確定 4月 68 3 石狩開発株式会社について 設 立 昭和39年12月(民事再生計画案認可決定 平成15年4月) 資 本 金 33,000,000円 事業内容 第3セクターとして、石狩湾新港地域の開発を地方公共団体と共同で進 め、工業・流通・商業用地等の取得・造成・分譲・賃貸ならびに開発に関 連する事業を行う。 株主構成 北海道 国(日本政策投資銀行) 石狩市 民間金融機関ほか 33.3% 31.1% 0.1% 35.5% 株主総会 監査役 取締役会 会長(非常勤) 社 長 常 務 取締 役 総務部 常務執行役員 執行役員 常務執行役員 業務部 営業企画部 営業推進部 69 取締役及び監査役の状況 地位及び担当 取締役会長 代表取締役社長 常務取締役 取締役 取締役 取締役 取締役 取締役 取締役 取締役 監査役 監査役 監査役 (平成24年10月30日現在) 他の法人等の代表状況等 北海道副知事 小樽市長 石狩市長 北海道経済部長 札幌市副市長 小樽商工会議所会頭 札幌商工会議所専務理事 石狩商工会議所会頭 公益財団法人はまなす財団理事長 NPO法人石狩国際交流協会副会長 小樽商工会議所専務理事 立地状況及び操業状況(平成24年3月末現在) 全体面積 (ha) 立地(分譲・リース)状況 分譲可能 面 積 企業数 (社) (ha) 分 3,022 1,296 譲 分 立地率 (%) 企業数 (社) 譲 分 操業率 (%) 譲 710 リース 803 リース 586 リース 26 25 26 計 ※ 面 積 (ha) 操業状況 736 828 計 63.9 計 612 83.2 分譲可能面積 1,296ha のうち 52ha は、石狩湾新港中央地区で石狩湾新港管理組合が 造成・分譲。 分譲・リース状況の推移 (単位:ha) 再生計画(H15∼44) 分 譲 リース H19 H15 395.0 再生計画目標 契約実績 100.0 再生計画目標 契約実績 H16 H17 5.0 4.0 4.0 4.0 5.5 4.9 6.3 5.9 2.0 2.0 2.0 2.0 5.6 1.8 5.2 4.0 H20 H21 H22 H23 4.0 10.0 10.0 10.0 10.0 61.0 4.7 3.0 0.8 5.3 2.2 38.6 2.0 7.0 7.0 7.0 7.0 38.0 3.5 0.7 0.4 0.2 0.0 21.4 70 H18 累 計 目標達成率 63.28% 56.32% 経営状況 年度 (単位:百万円) H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 売上高 864 732 1,068 795 1,097 536 459 628 447 うち分譲収入 471 295 664 398 749 263 210 377 215 当期純利益 32,032 13 217 147 244 34 △16 15 △66 期末現預金 366 596 1,132 845 1,204 695 528 625 610 株主還元 66 192 692 411 694 160 30 62 36 ※ ※ ※ H15は民事再生手続に伴う債務免除益(32,052)が計上されている。 当期純利益は税引き後の数字である。 株主還元(利益処分ないし自己株式取得)は翌年度の株主総会にて決議。 71 4 監査の結果 (1) 石狩湾新港地域開発出資特別会計貸付金 石狩開発㈱は、認可された再生計画案に従って計300億円の増資を行ったが、 300億円のうち100億円は北海道が現金出資している。 債務免除を受けた石狩開発㈱が抱えていた負債約300億円については、①北海 道が現金にて出資した100億円によって各金融機関に対する100億円を弁済し、 ②各金融機関に対する200億円の債権を株式に振り替える(DES)ことで、全額 弁済された形となった。 ※DES:Debt Equity Swap(負債と資本の交換の意であり、貸し手の立場からは債権を元手にした出資を意味する。) このように、石狩開発㈱は、北海道が100億円、各金融機関が合計で200億 円相当の出資をした株式会社となり、再生手続開始申立前に存在していた負債は全 て消滅した。(土地賃貸借契約を締結した保証金債権者の保証金債権除く。 ) 北海道は、石狩開発㈱への100億円の出資にあたって、90億円は有利子借入 金(起債)で、10億円は一般会計から借入することとし、石狩湾新港地域開発出 資特別会計(以下「石狩特別会計」という。 )及び石狩湾新港地域開発減債基金(以 下「石狩減債基金」という。 )を設けた。 石狩特別会計及び石狩減債基金の流れは、以下のとおりである。 ア イ ウ エ オ カ キ ク ケ 石狩特別会計が起債し、道債引受銀行から資金調達(90億円) 石狩特別会計が、一般会計から借入(10億円) 石狩特別会計が、石狩開発㈱へ100億円出資 石狩開発㈱から毎年の株主還元金を石狩特別会計へ組入 同還元金を石狩減債基金へ一度積立 石狩減債基金の一部又は全部を取り崩し石狩特別会計へ組入 石狩特別会計から道債引受銀行へ償還 ※利子分は年2回の償還、元本は10年後の満期一括償還 道債引受銀行への償還金不足・積立不足の場合、一般会計からその都度借入 石狩特別会計に剰余金が生じた場合は、一般会計へ返済 石狩開発㈱ 毎年の株式償還 石狩減債基金 積 立 取 崩 出資(100 億円) 貸 石狩特別会計 起債分の償還 付 返 済 起債 道債引受銀行(北洋銀行及び北海道銀行) 72 一 般 会 計 北海道は、石狩開発㈱の民事再生手続スキームの中で、100億円の現金出資を 行うこととなり、うち90億円を起債している。 90億円の起債の具体的内容は以下のとおりである。 利率 0.969% → 1.440%(平成20年4月1日付利率変更) 借入日 平成15年8月29日 借入先金融機関 株式会社北洋銀行 (63億円) 株式会社北海道銀行(27億円) (借入金額) 元金の償還方法 利子の償還方法 平成25年3月31日に元金一括償還 平成25年3月に約9億円 同35年3月に約26億円 同45年3月に約55億円の元金を償還予定 ※ なお、10年ごとに残額を借り換え、30年で償還する合意 が存在するとのことだが、道債引受銀行との間で取り交わした 金銭消費貸借契約証書上、かかる借換条項は無い。 毎年3月と9月に利子償還(年2回) 道債引受銀行に対する利子償還及び元本償還の原資は、同社が毎年実施する自己 株式の取得対価(株主還元金)を充てるのが原則であるが、同還元金が道債引受銀 行に対する償還金額に満たない場合は、北海道の一般会計から不足分を貸し付ける こととした。 これが石狩湾新港地域開発出資特別会計貸付金であり、同貸付金の趣旨は、道債 引受銀行に対する利子償還及び元本償還の履行を確実とすることにある。 利率 年1%(単利計算) 貸付金の元金及び利息の償還については、会計年度毎に石狩湾新港 元金の償還方法 地域開発減債基金の積立て及び起債の利子償還を行ってもなお余剰金 がある場合、その資金の範囲内で元金を返済する。 利息については、借入れした日の翌日から返済日までの日数に応じ、 利子の償還方法 当該返済金につき単利で計算し、他の年度に借入れした元金を含めて すべての元金の返済を完了した後に支払う。 73 石狩開発㈱の民事再生計画認可後における、石狩特別会計への株主還元金の償還 の状況は以下のとおりである。 石狩特別会計への株主還元金の償還状況 区 再 計 生 画 実 績 H16 分 (単位:百万円) H17 H18 H19 H20 株式償還額 216.0 185.0 108.0 123.0 135.0 −うち道分 71.5 61.2 35.7 40.7 44.7 株式償還額 66.0 192.0 692.0 411.0 694.0 −うち道分 22.0 64.0 230.4 136.9 231.1 直近 3 年の割合 H21 H22 H23 H24 累 867.0 912.0 960.0 901.0 4,407.0 191.3 356.1 374.8 351.8 1,527.8 160.0 30.0 62.0 36.0 2,343.0 53.2% 4.616% 53.3 10.0 20.6 12.0 780.3 51.1% 3.935% 計 割 合 ※ 株主への償還方法 決算期末の現預金から会社が必要とする内部留保資金を控除した額を財源とし、 配当可能利益の範囲内で1株当たり500円を償還する。 石狩特別会計の一般会計からの借入状況は以下のとおりである。 株主還元金の償還が当初予定の約51%(約7.8億円)という状況であり、再 生計画後9年間で元金積立及び利子償還の計画であるため、既に約8億円(うち約 6億円は平成21年度以降の3年間)を一般会計から借り入れている状況にある。 石狩特別会計の一般会計からの借入状況 区 分 H15 H16 H17 H18 (単位:百万円) H19 H20 H21 H22 元 金 貸付 0.0 0.0 46.8 0.0 0.0 0.0 0.0 57.1 返済 0.0 0.0 0.0 46.8 0.0 0.0 0.0 0.0 利 子 貸付 51.3 87.2 87.2 0.0 0.0 0.0 126.4 126.1 返済 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 50.4 0.0 0.0 H23 累計 193.1 297.0 0.0 46.8 125.2 603.4 0.0 50.4 合 計 803.2 このように、石狩開発㈱からの株主還元金は、平成21年度以降、再生計画上 74 の予定還元額を大きく割り込んでいるが、主な要因としては、平成20年度以降の 土地分譲及びリースが予定通りに進まず、売上が大幅減少したことによる。 そのため、石狩特別会計においては、各道債引受銀行に対して平成25年3月末 に支払う元金の積立及び年2回の利子償還を計画どおり実行するために、一般会計 からの借入を余儀なくされている。 一般会計からの借入金額は、平成23年度末時点で約8億円(元金積立及び利子 支払の合計)にのぼっており、今後も当該地域への企業立地・企業誘致が進まず、 石狩開発㈱の経営不振が続くようであれば、一般会計からの借入金額が膨らみ続け ることが懸念される。 北海道は、石狩開発㈱が認可を受けた再生計画案をもとに、道債引受銀行に対す る元金償還計画を立てている。 この再生計画に基づく、民事再生手続後30年間における石狩開発㈱の収支概略 及び償却可能原資は、以下のとおりである。 石狩開発㈱の再生計画は、平成20年度以降に右肩上がりでの増収とその継続を 前提としているが、現実には石狩開発㈱の収支は、平成20年度を境に急激に悪化 している。 (単位:百万円) 項目 / 年目 1∼5 6~10 11∼15 16∼20 21∼25 26∼30 合 計 収入計 3,269 6,960 8,135 11,685 14,685 14,528 59,262 支出計 2,589 2,842 3,891 6,203 6,791 5,562 27,878 680 4,118 4,244 5,482 7,894 8,966 31,364 29,320 25,202 20,958 15,476 7,582 償却可能原資 出資金残 ※1年目→平成 15 年度 6 年目→平成 21 年度 以下、同様。 (再掲)石狩開発㈱の経営状況 年度 H15 (単位:百万円) H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 売上高 864 732 1,068 795 1,097 536 459 628 447 うち分譲収入 471 295 664 398 749 263 210 377 215 当期純利益 32,032 13 217 147 244 34 △16 15 △66 期末現預金 366 596 1,132 845 1,204 695 528 625 610 66 192 692 411 694 160 30 62 36 株主還元 75 石狩開発㈱の増収と役員報酬等を含む経費節減が達成されなければ、株主還元が 予定どおりに進まず、その結果、一般会計からの借入の増加が懸念されるが、監査 の結果、次の4点が判った。 ① 石狩開発㈱の売上不振が始まった平成20年度以降の株主総会において、取締 役報酬について変更決議が行われていなかった。 ② 民事再生手続による再生計画案の履行を開始した平成15年度以降の株主総会 において、取締役報酬についての変更決議が行われていなかった。 ③ 平成4年度の株主総会で、取締役報酬の限度額(総枠方式)を決議して以降約 20年間、一度もその変更決議をしていない。 ④ 石狩開発㈱では、平成14年度から平成19年度にかけて、役員報酬の削減を 実施していたが、石狩開発㈱の売上高が激減した平成20年度に、業務執行体制 の一層の強化を図ることを目的に、常勤監査役を廃止した上で常務取締役を配置 した結果、平成19年度の役員報酬総額(1620万円)よりも、平成20年度 の役員報酬総額(1880万円)が増加し、その後全く変動が無い。 石狩開発㈱からの株主還元金が事業計画と大きく乖離した状態で推移を続けると、 道債引受銀行に対する償還義務を果たさなければならない関係で、北海道の一般会 計から石狩特別会計への貸付を余儀なくされ、道の財政に大きな負荷がかかること になるため、筆頭株主としての北海道による石狩開発㈱の経営コントロールの重要 性は高い。 また、石狩開発㈱の収支改善が実現しなければ、同貸付金の回収時期が延期、つ まり一般会計への返済が長期化することとなる。 さらに、認可された石狩開発㈱の再生計画では、各株主に対する株主還元は義務 とはされておらず、 「配当可能利益の範囲内で1株あたり500円を償還」とされて おり、配当可能利益が出ない場合は株主還元が行われない。 北海道は筆頭株主として、石狩開発㈱に対して、誘致活動の強化などを進めるこ とで、株主還元金を最大化するように求めていることは窺えるが、平成20年度以 降、同社の収入を増加させ、支出を減少させるために、例えば、次の①から⑤のよ うな権利・権限を行使することができたにも関わらず、同社の株主総会議事録を見 る限り、北海道が石狩開発㈱の経営陣に対する責任追及を行っていなかったことや、 各事業報告や各議案に対する質問を行っていなかったことが判った。 ① ② 各期の事業報告及び各議案に対する質問・意見の申述 業績不振に対する経営陣(取締役)の報酬を減額させるための議題の提案と 議案の提出 ③ 業績不振に対する現取締役の解任及び新取締役の選任を内容とする議題の提 76 案及び議案の提出 ④ 北海道の意向を反映するための適切な議決権の行使 ⑤ ①及び④を行う前提としての調査、分析及び検討等 また、監査の結果、平成19年6月28日に開催された株主総会において、取締 役の報酬を株主総会によって定める旨、明確に定款で定めたにも関わらず、その後 石狩開発㈱においては、この定款事項を遵守しておらず、このことに対し北海道は 何ら異議などを述べていなかったことが判ったが、同社に再生計画案に沿った株主 還元を行わせるべき立場にある北海道の姿勢としては問題である。 【意見 7】 分譲実績が計画を下回り続けていることに伴って、石狩開発㈱から石狩湾新港 地域開発出資特別会計に対する株主還元が予定どおり進まない状況となってい ることから、北海道としては、石狩開発㈱に対し、役員報酬等を含む経常的な経 費のより一層の節減に努めるよう、株主総会における株主としての権限の行使な ども含め、これまで以上に積極的な対応を図ること。 77 (2) ① 北海道土地開発公社石狩湾新港地域港湾用地資金貸付金 港湾用地取得と北海道土地開発公社との関係 花川埠頭と樽川埠頭の供用が開始され、韓国釜山港との定期コンテナ航路が開設 される見通しとなったことから、平成9年11月、石狩湾新港管理組合は石狩湾新 港港湾計画を改訂した。 これにより北海道は、石狩湾新港港湾計画に沿って将来の埠頭用地や水路拡張用 地などを確保するため、国又は同管理組合への処分を前提に、平成11年12月、 約21.2ヘクタールの港湾用地の取得を北海道土地開発公社へ依頼し、公社は、 石狩開発㈱から約21.2ヘクタールの港湾用地を取得価格18億9435万79 06円で取得した。 (所有名義:北海道土地開発公社) 北海道は、北海道土地開発公社との間で取り交わした「港湾整備に伴う用地の先 行取得に関する契約書」 (平成11年11月19日)に基づき、北海道土地開発公社 が先行取得した上記の約21.2ヘクタールの港湾用地について、平成19年度に 23億5286万1140円で取得することで合意した。 平成13年8月には、北海道土地開発公社から石狩湾新港管理組合に対し、港湾 用地のうち0.6ヘクタール部分を譲渡したが、これ以降は譲渡が進まず、残りの 港湾用地20.6ヘクタールについては、石狩湾新港港湾計画の目標年次である平 成19年度までに、国又は石狩湾新港管理組合へ譲渡する予定だったが、港湾整備 の目途が立っていないこと等により、現在に至るまで実現されていない。 そのため、北海道と北海道土地開発公社は、当初合意していた同港湾用地の取得 時期(債務負担行為時期)を平成19年度から平成29年度まで延期した。 北海道土地開発公社は、同港湾用地の取得に際し、金融機関から有利子貸付を受 けていたため、同港湾用地の取得に要した用地費と事務費にかかる利子支払額が年 々増加しており、北海道が最終的に負担すべき取得額(簿価)も平成29年度まで 増加し続けることが予想された。 ① 公社が当該港湾用地の 取得に要した用地費の額 ② 公社が当該港湾用地の 取得に要した事務費の額 ③ ④ ①及び②に有利子の資 金が当てられた場合の当 該利子支払額 合計取得価格 契約書 変更契約書 H11.11.19 H12.2.2 H13.9.3 北海道の取得予定金額 不動産鑑定結果 用地の一部を譲渡 749 円 18 億 9435 万 7906 円 18 億 4109 万 9517 円 4777 万 4000 円 4714 万 8000 円 4582 万 2471 円 3 億 7595 万 6391 円 3 億 4467 億 8717 円 3 億 3069 万 2812 円 23 億 5286 万 1140 円 22 億 8618 万 4623 円 22 億 1761 万 4800 円 19 億 2913 万 変更契約書 ※ 利率は直近の建設省指導金利(2.10%)によるものとされ、買戻し時に実行金利で計算し、変更契約を締結 することとされた。 78 ② 平成11年度包括外部監査の改善意見について 平成11年度の包括外部監査の結果、北海道の単独事業で長期保有地となってい る用地は、本来は、北海道が公社から一括引き取る必要があるが、道の財政上の制 約などから、北海道の一般会計による土地の買取り、あるいは北海道の無利子融資 が難しい場合でも、時間の経過とともに、含み損失は膨らみ続けることになり、問 題の先送りは、将来の北海道の財政負担を大きくすることになるため、早急な対策 が望まれるとして、さらなる簿価額上昇を防ぐため、支払利子等に対する北海道の 一般会計による補填などの検討が必要であるとの改善意見が述べられたところであ る。 この改善意見を受けて、北海道では、苫東二次買収用地に関しては、平成13年 度から、北海道土地開発公社への簿価相当額の無利子貸付(単年度償還)を行って いる。 石狩湾新港地域港湾用地についても、簿価上昇についての改善意見があり、道で は、石狩湾新港地域港湾用地の先行取得に当たっては、できるだけ簿価を抑制する ため、金利については長期プライムレートより利率の低い建設省指導金利を適用し、 事務費については土地取得価格に対応し事務費が圧縮される逓減率を適用すること とした。 「北海道土地開発公社及びこれに係わる北海道の財務」 改 善 意 見 道が講じた措置 石狩開発㈱からの石狩湾新港地域港湾用地の 石狩湾新港地域港湾用地の先行取得に当たっ 先行取得について平成11年第2回北海道議会定 ては、できるだけ簿価を抑制するため、金利に 例会で、石狩湾新港地域港湾用地の先行取得に ついては長期プライムレートより利率の低い建 関し、道の債務負担行為の承認がなされた。 設省指導金利を適用し、事務費については土地 石狩湾新港港湾計画は、平成9年改訂で平成 10年代後半を目標として実施されているようで あるが、北海道の国等に対する売却額は、売却 する時の時価と判断される。 このため、それまでの管理費及び借入金利子 を帳簿価額に加算していくと、帳簿価額が売却 予定価額を上回る可能性がある。平成10年度の 金利水準で試算しても年間5,000万円から6,000 万円程度の支払利子が発生し、平成19年度には 帳簿価額は約25億円となる。 79 取得価格に対応し事務費が圧縮される逓減率を 適用することとしました。 ③ 平成17年度包括外部監査の改善意見について さらに、平成17年度の包括外部監査では、平成11年度の包括外部監査におけ る改善意見に対する是正措置の状況について監査が実施された。 監査の結果、長期保有地の簿価対策等については、道が実施している単年度償還 の無利子貸付により、大幅に改善が図られていると評価されているが、石狩湾新港 地域港湾用地に係る簿価対策については、次のとおり改善意見が述べられた。 以下、監査の結果について、関係部分を抜粋し記載する。 ◎ 石狩湾新港地域港湾用地は、平成11年度に取得されたもので、平成19年度にお いて北海道へ売却することが取り決められている。前回監査において、この用地に関 する支払利子と管理費等の簿価加算について触れられている。 これに対し公社では、簿価の抑制のため低利率の金利を適用し、事務費についても 逓減率を適用しているとしているが、それでも毎年度約25百万円簿価が増加してい る。 ◎ 北海道では、これらの経費を含めた価格で土地を買取ることとしていることから、 公社として、この土地の売却により損失が発生することはないが、北海道から国等へ 売却する際に、北海道がその損失を負担することとなる可能性が大いにある。 ◎ よって、この土地に関しても新千歳空港用地等の長期保有地と同様の観点から、無 利息借入金及び年度毎の費用処理等について今後検討すべきである。 この改善意見を踏まえ北海道は、簿価上昇を抑制すべく、平成20年度から北海 道土地開発公社石狩湾新港地域港湾用地資金貸付金により、北海道土地開発公社に 対する簿価相当額の無利子貸付を開始し、年度毎に処理することとした。 この結果、平成20年3月31日締結の変更契約においては、北海道及び北海道 土地開発公社は、利子支払額を2億3590万5313円に減額変更したとともに、 同港湾用地の取得に要した事務費についても、4581万3278円に減額変更し ており、改善が図られていることが判る。 北海道土地開発公社苫小牧東部工業基地用地資金貸付金においても記載したとお り、単年度償還による北海道土地開発公社への簿価相当額の無利子貸付という手法 は、あくまで時間の経過に伴い支払利子等が累積し含み損が膨らみ続けている長期 保有地に対する応急的な対応であるが、苫東二次買収用地同様に、根本的な解決が 図られない限り、つまり、港湾整備の具体的な見通しが立たない限り、北海道は、 80 簿価抑制対策として、 「北海道土地開発公社石狩湾新港地域港湾用地資金貸付金」に よる単年度償還の無利子貸付を継続せざるを得ないと考えている。 しかし、反復・継続的に実施されている単年度貸付によって、含み損の実態が見 えにくくなっており、地方公共団体の財務情報の開示の推進の流れに照らしても、 不透明な方式と言わざるを得ない。総務省からの通知の趣旨なども踏まえ、道財政 がおかれている現状も考慮した上で、早期に見直しを検討すべきである。 いずれにせよ、北海道土地開発公社への支払期限である平成29年度末に向けて、 北海道は、引取りの際の北海道土地開発公社に対する「経費」の支払いの財源確保 など、土地処分の具体化に向けた検討を急ぐとともに、次期港湾計画の改訂の際に は、当該港湾用地の開発が明確に位置づけられるよう、石狩湾新港管理組合など関 係機関に対してこれまで以上に積極的に申し入れを行い、北海道土地開発公社の長 期保有地の解消に最大限取り組むべきである。 【意見 8】 北海道は、引取りの際の北海道土地開発公社に対する「経費」の支払いの財源 確保など、石狩湾新港地域港湾用地に係る土地処分の具体化に向けた検討を急ぐ とともに、次期港湾計画の改訂の際には、当該港湾用地の開発が明確に位置づけ られるよう、石狩湾新港管理組合など関係機関に対してこれまで以上に積極的に 申し入れを行い、北海道土地開発公社の長期保有地の解消に最大限取り組むべき である。 【意見 9】 無利子貸付金の単年度償還による簿価抑制については、総務省からの通知の趣 旨なども踏まえ、道財政がおかれている現状も考慮した上で、早期に見直しを検 討すべきである。 81 本件短期貸付(単年度償還)を繰り返していると、数日間分とはいえ毎年度の市 中金融機関に対する借入利子が累積する。 貸付日 貸付金額 前年度からの増加額 H20.4.1 21 億 2726 万 3318 円 − H21.4.1 21 億 2748 万 1872 円 21 万 8554 円 H22.4.1 21 億 2770 万 0448 円 21 万 8576 円 H23.4.1 21 億 2791 万 9047 円 21 万 8599 円 H24.4.1 21 億 2835 万 6290 円 43 万 7243 円 計 109 万 2972 円 ※ 前年度と比べて貸付金額が増加するのは、公社が北海道による無利子貸付金の 返済のため毎年度末に金融機関から借入を行い、返済するまでの期間の利子相当 部分(年利 1.875)も含めて、貸付を行っているからである。 借入利子については、簿価算入が継続されているが、北海道土地開発公社苫小牧 東部工業基地用地資金貸付金同様に北海道土地開発公社石狩湾新港地域港湾用地資 金貸付金についても、北海道土地開発公社に対する短期貸付(単年度償還)を繰り 返すことによって毎年度新たに発生する本件利子について、北海道の一般会計によ る年度毎の負担処理(道費での支出)をすべきである。 【意見 10】 毎年度発生する市中金融機関に対する借入利子については、北海道が年度毎に 負担処理し、簿価算入を解消すべきである。 82 Ⅳ おわりに 包括外部監査人として、今回の監査を通じて感じたことを述べたい。 今回の監査では、企業誘致関連施策を、①道が企業誘致活動を強化するための推進経費、 ②立地企業に対する直接的な支援経費、③産業集積地域の形成のための経費といった、大 きく3つの観点でとらえ、さらにその内容や予算規模などから主要な事業を抽出し、監査 を実施したが、施策全体における予算の割合としては、15頁に記載した北海道経済部が 所管する企業誘致の推進等を目的とする主な事業(平成24年度)全体の金額(約281 億円)のうち、企業誘致活動を強化するための推進経費や立地企業に対する直接的な支援 経費は、4割程度(約112億円)に過ぎない。 残りの6割程度(約169億円)は産業集積地域の形成のための経費であるが、このう ち苫小牧東部地域開発と石狩湾新港地域開発に関わる北海道土地開発公社に対する短期貸 付金、すなわち簿価抑制のための貸付金で8割以上(約139億円)を占めており、その ほか、㈱苫東、石狩開発㈱からの還元金を歳入として起債の償還を行っている2つ特別会 計において、計画どおりに分譲が進まないことから歳入不足に陥っているため、起債の償 還に必要な財源を確保する必要があることから、毎年度、道の一般会計から貸付を行って いる。 つまりは、産業集積地域の形成のための経費とはいうものの、その内容としては、消極 的で硬直化した、必ずしも前向きとは言えない予算が相当なウェイトを占めているとの印 象を受けた。 また、監査結果の中でも述べたとおり、過去にも、両開発計画の頓挫に伴って、道は多 額の財政出動を行ってきていることがわかった。そのため、両開発計画の歴史的な経緯ま で踏み込んで調査を行ったが、監査人として、これまでの道の財政負担の主なものを表と して作成したので掲載しておく。 苫東地域の二次買収用地そして石狩湾新港地域の港湾用地は、ともに処分等の計画の見 通しが立っているとはいえず、当面、簿価対策を継続していくことは避けられない。 一方、仮に、両地域の用地の処分等のめどが立った場合、道は簿価で買い取ることにな るため、約140億円の負担をしなければならず、そのうち苫東二次買収用地の含み損は、 約110億円にも上ると監査人において試算した。 自治体の財政は企業会計と違い、こうした簿価概念が必ずしも明確ではなく、わかりづ らい面があるが、将来の道財政に大きな影響を与えることが想定される事項、すなわち、 本件のような、道民生活に影響が及ぶことが懸念される事項については、適時適切な情報 開示に努めるべきであろう。 道の企業誘致施策の中心的な課題とされている「民間主導の自立型経済産業構造への転 換」は、道半ばであり、危機的な道財政の状況を鑑みれば、より費用対効果の高い施策の 推進が重要であることは言うまでもない。 83 例えば、企業立地促進費補助金など立地企業に対する直接的な支援経費は、タイムリー な事業内容の見直しはもとより、補助金の交付目的が十分に果たされるよう、交付先の状 況を十分に把握する必要があると考える。 また、過去の大型開発計画の結果、広大な長期保有地を抱えざるを得ない状況にあるこ とに伴う、様々な課題、懸案などにどのように対応していくのか、より具体的な検討が進 められることを期待するものである。 苫東及び石狩湾新港地域開発に係る北海道の主な負担 (単位:億円) 事 業 名 等 支出時期等 備 考 金額 ① 道から㈱苫小牧東部開発への出資金 H10 年度まで 特別清算により滅失 ② 道から㈱苫東への出資金 H11 年度 当初起債の金額 H12.9∼ 起債額170億円に係る利払累計約 32 ③ ②に係る利払額の累計 ④ 北海道土地開発公社 苫小牧東部工業基地用地資金貸付金 H24.3 H13 年度∼ 12 170 億円のうち、道の負担額 北海道土地開発公社への貸付 28 118 ※㈱苫東からの株主還元 H12∼H24 ① 道から(旧)石狩開発㈱への出資金 S46 年・S53 年 H15.4 再生計画案認可により全額減資 4 ② 道から(旧)石狩開発㈱への貸付金 H12∼H14 H15.4 再生計画案認可により全額免除 29 ③ 道から石狩開発㈱への出資金 H15 年度 H15.4 民事再生計画案認可による ④ ③に係る利払額の累計 ⑤ 北海道土地開発公社 石狩湾新港地域港湾用地資金貸付金 ※石狩開発㈱からの株主還元 H15.9∼ H24.3 H20 年度∼ H16∼H24 (19) 100 起債額 90 億円に係る利払累計約 9 億円 のうち、道の負担額(一般会計借入) 6 ※株主還元金や基金運用益も利払いに充当。 21 (7) (1億円以下切捨て) 84 Ⅴ 参考資料 第1 苫東地域開発の歴史的経緯 昭和30年代後半、池田勇人内閣の閣議決定による国民所得倍増計画を受け、日本 は経済成長により活発な設備投資を生み国際競争力を強化した一方、インフレに伴う 地価高騰、都市部への過度の集中や公害の発生及び地方の過疎化などが社会問題化し たところ、設備投資意欲を有する重化学工業界にとっても、国益上からも、太平洋ベ ルト地帯以外の新たな工業立地場所の確保が必要視された。 昭和37年10月5日に閣議決定された全国総合開発計画は、大規模な工業等の集 積を通じて周辺の開発を促進する役割をもつ工業開発地区と、大規模な外部経済の集 積によって、東京、大阪及び名古屋の経済集積を利用しにくい地域の飛躍的発展を可 能にする中枢指導的な役割を担う地方都市を全国に配置することで、大都市への人口 や産業の過度の集中を防ぎ、地域間格差の是正を目指した。 この手法は拠点開発方式と呼ばれ、全国15か所の新産業都市2と6か所の工業整備 特別地域3が指定された。指定を受けた地区では、港湾や道路などの交通基盤、工業用 地や工業用水の確保、労働者のための住宅や公園、福利厚生施設などの生活基盤整備 を含む大規模開発を進めていくことが計画された4。 昭和42年8月、第3期北海道総合開発計画の策定に先立ち、北海道開発庁(現「国 土交通省北海道局」 ・以下同じ。 )は「北海道開発の長期展望−豊かな北海道へのビジ ョン」を発表し、大規模工業基地の建設が北海道に不可欠であり、重化学工業等の基 幹工業を太平洋の臨海部に展開し、巨大コンビナートを形成するとした。 昭和43年4月、北海道開発庁は、大規模工業基地候補地として苫小牧東部地域(以 下「苫東地域」という。)を挙げた。同年9月、北海道は大規模港湾建設のための調査 費を確保し、基地開発の具体化の検討が始められた。 昭和43年12月、通商産業省は「工業開発の構想(試案) 」を公表し、基幹資源型 工業については巨大化する機能を受け入れる新しい大規模工業基地を建設するため、 従来の大都市集中から遠隔地に分散すべきとし、その候補地としてむつ湾・小川原湖 周辺、中南勢、周防灘、鹿児島県臨海部、さらに北海道東部、南九州東海岸等を挙げ た5。 昭和44年8月、経済団体連合会の首脳は、町村金五北海道知事に対して、大規模 工業団地の開発が急務であるとして用地の確保を求めた6。 2 根拠法は、昭和36年制定の低開発地域工業開発促進法及び新産業都市建設促進法(昭和37年5月10 日法律117号・平成13年3月30日廃止)。なお、1960年に読売新聞社は、大都市の過大化抑制と地方の拠 点となる大都市建設を国が行うとする「100万都市建設構想」を提案している。 3 根拠法は、工業整備特別地域整備促進法(昭和39年7月3日法律146号・平成13年3月30日廃止)。 4 藤井さやか「新産業都市や工業整備特別地域における土地利用整序の再検討に関する研究(平成21年 度国土政策関係研究支援事業 研究成果報告書)」8頁。 5 北海道開発庁「苫東開発をふりかえって」(平成10年11月9日)1頁。 6 前掲「苫東開発をふりかえって」1頁。 85 北海道は、北海道開発庁をはじめ、関係機関、経済界等とも協議のうえ、地価高騰 などによって用地買収が困難になるおそれがあるとして、同年10月、北海道工業団 地開発事業条例7を制定し、土地の先行取得を開始した8。 苫小牧東部大規模工業基地の開発が公式に決定されたのは、国土総合開発法第7条 第1項に基づく新全国総合開発計画(昭和44年5月30日閣議決定)であり、将来 の工業大規模化に伴う新たな巨大工業の立地の必要性に応えるため、広大な未利用地 または低位利用地を有する太平洋岸の適地に、基礎資源型工業の大規模コンビナート を中軸とする巨大工業地帯の建設を図る9と公表された。 北海道開発法第2条第1項に基づく第3期北海道総合開発計画(昭和45年7月1 0日閣議決定) において、 臨海部に新しい構想のもとに大規模工業基地の建設を進め、 もって、既存の工業集積をもとに重化学工業の開発振興を図るとともに、資源利用工 業、消費財工業を振興し、北海道における工業生産の飛躍的増大と産業構造の高度化 を実現するための重要な施策として、強力に推進するとした。そして、用地及び用水 に恵まれた苫東地域に、大規模港湾などの産業基盤を重点的に整備し、国際的な規模 の鉄鋼、石油精製、石油化学、非鉄金属等の基幹工業と自動車工業などの導入を図り、 目標年次の生産額を概ね1兆3000億円と見込んだ10。 続いて、北海道開発庁は、この大規模工業基地の開発は、世界に類例を見ない壮大 な規模のもとに計画され、生産と生活が調和する豊かな地域社会の先駆的実現をめざ して展開されるものであるとして、苫小牧東部大規模工業基地開発基本計画(昭和4 6年8月18日北海道開発審議会了承・以下「基本計画」という。)を策定公表した。 7 昭和44年10月21日条例第39号、平成8年3月31日付けで廃止。条例の一部を以下に示す。 第1条(北海道工業団地開発事業の経営) 北海道は、北海道工業団地開発事業(以下「団地開発事業」という。)を経営する。 第2条(経営の基本) 団地開発事業は、産業基盤の一環として工業団地(住宅地区を含む。)の開発を行い、道民経済の発 展に資するものとし、その経営の規模は、次のとおりとする。(事業施行地−苫小牧市・勇払郡厚真町・勇 払郡早来町・勇払郡鵡川町、予定開発面積−1万5百5十ヘクタール) 第6条(業務の状況を説明する書類の作成) 知事は、法(地方公営企業法)第40条の2第1項に規定する団地開発事業の業務の状況を説明する書 類を、毎事業年度、4月1日から9月30日までの業務に係るものにあっては11月30日までに、10月1日 から翌年3月31日までの業務に係るものにあっては5月31日までに作成しなければならない。 2 前項の書類には、次の各号に掲げる事項を記載するとともに、11月30日までに作成する書類において は前事業年度の決算の状況を、5月31日までに作成する書類においては同日の属する事業年度の予 算の概要及び団地開発事業の経営方針を、それぞれ明らかにしなければならない。 一 事業の概要 二 経理の状況 三 その他事業の経営状況を明らかにするため知事が必要と認める事項 8 前掲「苫東開発をふりかえって」1∼2頁。 9 新全国総合開発計画(増補)の51頁。 10 第3期北海道総合開発計画の5頁、16∼17頁。なお、同計画は、日本において、「経済の国際化の進展 に対応して、生産規模の大型化が急速にすすみ、あわせて先進地域における過密の弊害が顕著となり、今後、 工業生産のいっそうの発展をはかるためには、新たな地域において、装置型工業の巨大コンビナートの形成 を主軸とする工業開発を推進することが強く要請されている。」とも言及している(16頁)。 86 基本計画は、苫東地域においては用地の先行取得が進められているなど、今後の日 本の大規模な工業生産展開の場として最も早期に開発を期待し得る地区であると推奨 した。 開発の意義につき、日本経済の発展を支える工業生産の新たな発展基盤を創出し、 国土利用の抜本的再編成に積極的に寄与する国家的プロジェクトであり、大規模かつ 革新的な工業生産機能と優れた生活環境を備えた理想的な工業都市の実現を目指すも ので、周辺地域はもとより、北海道全域に大きな開発効果を及ぼすことが期待される とし、北海道の長期的飛躍的発展の機動力となる先導的開発事業であると強調した。 基本計画では、苫小牧東部の勇払原野約1万 ha に掘り込み水路を有する大規模港湾 を建設し、港湾を核として、臨海部を基幹資源型工業と背後に関連工業の導入を図る こととし、周辺部において、工業開発に対応した住宅地として苫小牧と千歳両市街地 間の適地に概ね30万人規模の住宅市街地並びに北方及び東方の適地に数万人規模の 住宅市街地数か所を新たに開発することとした。 これらを有機的に連携させる交通通信網をはじめとする各種の産業基盤施設及び生 活環境施設の整備を計画的に進めることにより、生産と生活が調和する理想的な工業 都市圏の実現を目指すこととした11。 また、同基本計画が、開発の推進主体を第3セクター12とした13ことを受けて、昭和 46年8月18日の北海道開発審議会で、第3セクターとして新たな会社を設立する ことが了承された。 11 前掲「苫東開発をふりかえって」2頁。 新全国総合開発計画において、大規模工業基地などの開発プロジェクトの事業主体として提起された「公 共、民間の混合方式による新たな事業主体」(同計画(増補)の76頁)を具体化したもので、地方公共団体の 出資を得ながら公庫など公的資本の割合が過半を占める株式会社の形態をとって設立され、経済ベースで 開発事業を行うとするものとされる(前掲「苫東開発をふりかえって」4頁)。 13 理由として、①公共性の自覚を要すナショナルプロジェクトの実施にふさわしい、②民間の創意、バイタリテ ィ、資産を十分に活用するメカニズム、③地域のコンセンサスを確保し易い、④公と民のメリットを併せ、機動性 に富むことなどが挙げられていた(前掲「苫東開発をふりかえって」4頁)。 12 87 昭和46年7月以降、以下のとおり、石油化学や石油精製などを中心とした多数の 企業が競って苫東基地への立地意向を表明したこともあって、企業立地は順調に推移 すると想定していたことが窺われる。 石油化学会社名 立地意向表明 エチレン生産規模 出光石油化学 昭和46年7月 80万トン/年 新大協和石油化学 昭和48年2月 丸善石油化学 石油精製会社名 立地意向表明 生産規模 出光興産 昭和46年7月 50万バーレル/日 60万トン/年 共同石油 昭和48年2月 50万バーレル/日 昭和48年3月 60万トン/年 丸善石油・大協石油 昭和48年3月 40万バーレル/日 三井グループ(10社) 昭和48年4月 120万トン/年 ゼネラル石油精製 昭和48年4月 30万バーレル/日 三菱化成工業 昭和48年4月 80万トン/年 極東石油工業 昭和48年4月 40万バーレル/日 三菱油化 昭和48年5月 80万トン/年 三菱石油 昭和48年5月 40万バーレル/日 住友化学工業 昭和48年6月 60万トン/年 昭和石油 昭和48年6月 40万バーレル/日 東燃石油化学 昭和48年6月 60万トン/年 山陽石油化学 昭和48年7月 80万トン/年 石油化学及び石油精製の立地意向表明企業が示した予定生産規模の合計は、基本計 画の想定のそれぞれ約4.3倍、約2.9倍に達した。この他にも、非鉄金属2社、北 海道電力及びいすゞ自動車からも立地表明があった14。 開発推進会社の設立に携わる事務局には、経済団体連合会があたり、業界団体、銀 行及び商社からの出資応諾をとりまとめ、昭和47年7月19日、苫小牧東部開発㈱ が、資本金20億円の第3セクターとして設立された15。 昭和48年3月27日に締結された「苫小牧東部大規模工業基地用地の開発および 売買に関する基本協定」 (以下「基本協定」という。 )に基づき、苫小牧東部開発㈱は、 北海道が先行買収した用地の譲り受けを開始した。基本協定はその後、昭和56年2 月、昭和60年3月及び平成5年2月の3回にわたり更改されて北海道から苫小牧東 部開発㈱への売渡年次が7年、6年、7年延長されている16。 14 かような立地意向を基に立案された資金計画では、用地分譲契約は昭和48年度に始まり昭和56年度に 終了し(用地取得費支出は昭和54年度で終了)、分譲代金収入は年とともに累増して、昭和56年度でピーク に達するとされていた。また、単年度の資金収入としては事業費支出が増加するものの、昭和52年度から黒 字に転じて、借入金残高は昭和51年度にピークとなり、借入金を昭和56年度には完済してそれ以降借入金 はなしで推移するとされていた。 15 苫東東部開発㈱は、設立後直ちに早期分譲に向けて、埋蔵文化財調査、造成基本計画の作成、漁業補 償問題の解決、保安林の解除等に着手したが、これらの解決に約6年の時間を要し、第1号の土地売買契約 は昭和53年12月の北海道電力㈱であった。 16 基本協定第5条第1項では、北海道の資金需要、苫小牧東部開発㈱の資金調達の見通し、開発事業の進 捗状況、企業立地の動向等を勘案し、毎年度の売り渡し面積を両社協議により決定するとされていた。 88 北海道は、主に起債をもって昭和46年度末までに約6300ha の民有地を買収し ており、起債の元利償還金などについては、苫小牧東部開発㈱に引き渡す用地代金に 上乗せすることとしていたため、北海道は、苫小牧東部開発㈱に土地を売り渡し、起 債償還の支払原資に充てねばならない事情があったことから、昭和47年度以降、苫 小牧東部開発㈱は資金調達難に直面しながらも、継続的に道有地を譲り受けた。 しかしながら、オイルショックを契機に、立地を表明していた重化学工業を中心と する企業が進出希望を撤回するなど、昭和47年から昭和52年までの6年間は、企 業立地は皆無であった。 その一方で、北海道が先行買収した土地を先行的に譲り受ける形で有利子借入金に より4105ha の用地取得及び一部造成等を行った結果、昭和52年度には借入金残 高は618億円に達し、金利の支払額が年間50億円を超えるようになった。 苫小牧東部開発㈱は、設立後間もなく借入金の利払による資金繰りの圧迫に対峙す ることとなったのである。 昭和49年に策定された苫小牧港港湾計画で実施予定の苫小牧港東港区東水路の掘 込箇所に国道及び国鉄日高線が敷設されており、これらの施設の移設地の確保が必要 となった。本来的には、苫小牧東部開発が取得すべき土地であったが、同社は港湾建 設にかかる漁業補償費の支払や一次買収用地17の残地処理等の資金的な問題で買収が 困難であった。併せて、北海道が直接用地買収をすることは、当時の北海道議会の関 係でも支障があった。即ち、昭和48年の百条委員会18において「地方公共団体であ る道が、今後、大規模工業用地の買収を行うことは適当ではないと考えられる。」とさ れた経緯があった19。 北海道は、 北海道開発庁、北海道東北開発公庫及び苫小牧東部開発㈱と協議のうえ、 苫小牧東部開発㈱への譲渡を前提に、北海道土地開発公社に委託して苫東計画区域内 の土地348haを昭和53年度から昭和58年度にかけて先行取得した。買収地には、 集団的農地や市街化調整区域が含まれており、北海道土地開発公社名義とするには、 転用許可等の手続を履践することが困難であったため、北海道に所有権移転登記が経 由されたが、売買代金の支払は未了であった(代行用地)。20 17 (苫東)一次買収用地とは、北海道が昭和44年度から昭和58年度までに先行取得した7,118ha のうち、 苫小牧東部開発に売却した6,708ha を除く、約410ha の用地のことであったが、平成22年に11.6ha を経済 部から水産林務部に所属替えとなったため、現在北海道経済部で管理しているのは約398ha である。なお、 一次買収用地の箇所は別添図面(平成24年度 苫小牧東部地域道有地管理業務位置図及び地区別箇所 図)のとおりである。 18 地方自治法第100条第1項 普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の事務(中略)に関す る調査を行うことができる。この場合において、当該調査を行うため特に必要があると認めるときは、選挙人そ の他の関係人の出頭及び証言並びに記録の提出を請求することができる。 19 苫小牧東部工業基地土地取得に関する調査特別委員長麻里悌三「昭和48年苫小牧東部工業基地土地 取得に関する調査特別委員会会議録(下)」1681頁以下の報告書(北海道議会図書室所蔵)。今回の監査 報告書の末尾に資料として添付した。 20 北海道経済部の説明によると、北海道財務規則第203条第2項第2号(北海道の第二種普通財産)である 89 この追加買収用地(以下「二次買収用地」という。)348haについては、基本協 定に基づき苫小牧東部開発㈱に譲渡する運びであったが、昭和62年度以降、同社の 資金繰りが厳しいことから、譲渡未了の約250haについて譲渡期限の延長が繰り返 された。21 北海道開発庁では、第1次・第2次オイルショックなどに伴う産業構造の転換など の経済社会情勢の変化や企業立地動向等を踏まえ、3期にわたって段階計画を策定し たが、工業基地開発の方針は維持されたままであった。 その後、大規模な基幹資源型産業等の立地が進まない実態を踏まえ、北海道開発庁 では、平成7年8月に策定した「苫小牧東部開発新計画」において、生産機能に加え、 研究開発機能、居住生活機能を備えた複合開発への転換等を図る等したが22、新計画 の策定までは、産業構造の転換期以降も重厚長大型産業の立地方針から脱却できず、 膨大な有利子借入金を抱えていたことへの抜本的な対応策がとられないまま、さらに は、基本計画についても大幅な修正が行われないまま、開発計画が推し進められてい った。 苫小牧東部開発㈱は、土地の取得・造成資金の大部分を金融機関からの融資金に拠 っていたため、用地分譲不振の常態化により借入金元本の返済が滞り、逆にその間の 利払いのための資金を金融機関から追加融資を受けざるを得ない状況に陥った。 苫小牧東部開発㈱の借入金残高は、昭和53年度末の約703億円から平成10年 度末の約1782億円に至るまで累増し、過大な借入金債務を抱えた。 平成9年3月には、北海道開発庁が苫小牧東部地域開発についての新計画を策定し て関係者間で協議が続けられた。 しかし、金融ビックバンを控えて金融環境が厳しさを増すなかで、民間金融機関の 一部から「苫東開発プロジェクトの見通しが明らかになるまで新規融資には応じられ ない」との意見が出た。 更に、同年11月に北海道拓殖銀行(協調融資団の主幹事行)が経営破綻した影響 により、同月の協調融資団の組成が不調となり、苫小牧東部開発㈱は、同月20日(対 生保) ・同年12月19日(対公庫及び銀行)以降、金融機関に対する元利金の約定弁 ということである。第二種普通財産とは、公有財産のうち行政財産(公用財産及び公共用財産)以外のもので、 公宅の用に供し、又は供するものと決定したもの以外の普通財産である。二次買収用地は、北海道土地開発 公社の貸借対照表の資産の部にも代行用地として計上されている。 21苫東二次買収用地問題と称されているものである。苫小牧東部開発㈱「10年のあゆみ」の64∼66頁 22 北海道及び苫小牧市の都市計画関係部局が協議を重ね、平成3年3月、柏原台地の一部について工業 専用地域から工業地域への用途地域への変更を行った。 工業専用地域は、工業の業務の利便の増進を図る地域。どんな工場でも建てられるが、住宅・物品販売店 舗・飲食店・学校・病院・ホテル等は建てることができない。福祉施設(老人ホームなど)も不可。住宅が建設で きない唯一の用途地域である。代表的な例は、石油コンビナートや製鉄所などの環境悪化の可能性が大きい 設備が設立されている湾岸地域などである(建築基準法別表第二)。 工業地域は、主に工業の業務の利便の増進を図る地域。どんな工場でも建てられる。住宅・店舗は建てら れるが、学校・病院・ホテル等は建てることができない(建築基準法別表第二)。 90 済が不履行となった。このため苫小牧東部開発㈱は、金融機関に対して、2年間の元 利棚上げを要請し、平成10年4月、会社再建案を提示したが、金融機関の理解を得 ることができず、会社再建が困難となった。 上記の状況を踏まえ関係者間で協議をした結果、平成10年12月15日閣議了解 23によって「会社を清算し、借入金に依存しない形での土地の一体的確保・造成・分 譲を行う新会社を設立する」との基本的な処理方針が打ち出され、平成11年3月に は、資本金621億円で新会社を設立し、苫小牧東部開発㈱の所有土地の一部による 現物出資(207億円)及びその余の所有不動産譲渡(361億円)、苫小牧東部開発 ㈱から金融機関に対する新会社株式による代物弁済及び譲渡代金による弁済などを内 容とする苫小牧東部開発㈱の清算処理案が固まった。 その後、上記の処理案について金融機関40社の了解を得て、苫小牧東部開発㈱は 平成11年7月16日までに各金融機関との間で、処理案に沿った代物弁済及び現金 による弁済を行った後、特別清算手続を行う旨の協定及び合意をした。 平成11年7月30日に㈱苫東が設立され、苫小牧東部開発㈱は、現物出資による 新会社株式41万4000株を取得し、同年8月6日に金融機関に対してこの株式に よる代物弁済をした。 また、同月16日、苫小牧東部開発㈱は新会社に対し、残余の不動産全部を代金3 61億円にて譲渡し、同月17日に金融機関に対してこの売却代金を原資として弁済 を行った。 更に、同年9月2日には、苫小牧東部開発㈱は金融機関に対し、埋立権の売却代金 の残余資金8億4000万円を原資とする按分弁済などを実施した。 23 北海道東北開発公庫に係る「苫小牧東部開発」及び「むつ小川原開発」の両プロジェクトについては、特 殊法人等の整理合理化について」(平成9年9月24日閣議決定)において、「新銀行設立までの間に、関係省 庁、地方公共団体、民間団体等関係者間において、その取扱いについて協議の上、結論を得るものとする。」 とされたのを受けたものである。なお、閣議了解とは、全ての閣僚がそろって実施される会議である閣議で、あ る主務大臣の管轄事項について、全ての閣僚が一致して同意し、署名するもの。閣議決定は、内閣全体の意 思として決定する必要がある重要施策を扱うのに対して、閣議了解は、主務大臣の管轄事項で国政全体に影 響する施策を扱う。 91 【苫小牧東部開発㈱の処理スキーム】24 北海道東北開発公庫 (現・日本政策投資銀行) 融資残高 961億円 出資比率 53.8% 現金弁済 196億円 株式弁済 112億円 出資金 1億円 出資金 222億円 株式発行 222億円 土地出資 207億円 株式発行 1億円 出資金 10億円 苫小牧市 現金弁済 165億円 民間協調融資団 (清算旧会社) (銀行23行・生保16社) 苫小牧東部開発㈱ 融資残高 821億円 土地資産 568億円 株式弁済 95億円 厚真町 早来町 株式発行 207億円 土地譲渡 361億円 株式発行 10億円 (新会社) ㈱苫東 資本金 621億円 出資金 11億円 地元経済界 土地代金 361億円 株式発行 11億円 株式発行 170億円 出資金 170億円 北海道 出資比率 27.3% 苫小牧東部開発㈱が土地出資して保有した㈱苫東の株式207億円分は、北東公庫に112億円分、民間協調融資 団に95億円分株式弁済された。北東公庫及び民間協調融資団が㈱苫東に現物出資したところ、北東公庫の出資 額は合計334億円(出資比率53.8%)となった。 以上の経過を経て、平成11年9月3日に開催された臨時株主総会で苫小牧東部開 発㈱の解散が決議され、同月29日、札幌地方裁判所に特別清算手続開始の申立てを するに至った。 同年11月19日に特別清算手続開始決定が下され、平成12年3月21日の債権 者集会で特別清算協定が可決され、同月27日に裁判所は同協定を認可し、同年9月 22日、特別清算手続が終結した25。 なお、苫小牧東部開発㈱の債権者と北海道との間で損失補償契約が締結されたこと はなかった。 24 日本政策投資銀行編「北海道東北開発公庫史」平成14年・551頁、小坂直人「なぜ巨大開発は破綻した か−苫小牧東部開発の検証」・『第三セクター「旧苫東会社」の破綻と「新苫東会社」』」の94頁、小田清「なぜ 巨大開発は破綻したか−苫小牧東部開発の検証」・『大規模工業基地開発と公共事業、自治体財政の変化』 の139頁、北海道経済部産業振興課内部資料「㈱苫東の設立について」、同「新会社設立のスキーム」 25 平成12年10月25日札幌地方裁判所の特別清算終結の決定確定により、同月26日に苫小牧東部開発 ㈱の商業登記簿謄本が閉鎖されている。 92 平成20年12月17日、国土交通省北海道局は、 「苫小牧東部開発新計画の進め方 について【第2期】 」を策定した。その中で以下のような立ち位置を示している。 国が計画推進の中心的な役割を果たし、地方公共団体や㈱苫東等の関係機関が積極 的に参加する苫東開発の推進体制に基づき、それぞれの機能と役割に即した主体性を 発揮しながら相互に協力、協調し、緊密な連携を図ると宣言し、広範多岐にわたる施 策の展開にあたっては、透明性を確保するとともに、PDCAサイクル26などによる 評価を行い、必要に応じて見直しを行うこと、各機能の展開や検討に係るタイムテー ブルの作成、プロジェクト導入推進や企業誘致強化に係る具体的検討などを行うこと、 苫東開発に当たっては、周辺地域はもとより道央地域と広域的な連携を図りつつ、こ れらの地域において構想される各種プロジェクトとの一体的な整備を推進することに より、相乗効果や融合効果が最大限に発揮できるように努める27。 苫東地域が位置する北海道は、北米とアジアを結ぶ線上に位置し、ロシア極東地域 にも隣接している。また、日本海側と太平洋側のそれぞれに港湾を有し、その間に空 港や工業団地などの基盤の集積が存在している。 これらの地理的優位性を活かし、北米及び東アジア各地域との一層迅速で円滑かつ 低廉な物流を推進することで、東アジア地域の成長と活力を取り組んでいく産業群の 形成を図ることが重要であるとする。特に、苫東地域は、苫小牧港、新千歳空港に近 接する広大かつ開発可能性の高い貴重な空間であり、 また自然環境にも恵まれており、 これらの開発可能性を最大限活用し、総合的な経済発展基盤を創出することは、日本 全体及び東アジア地域の成長と活力を取り込んでいく産業群の形成を図ることを目指 す北海道の発展に寄与するとしている。 そして、苫東地域では、これまでの産業集積を活かした幅広い産業開発を進めると ともに、新たな成長産業やプロジェクトの導入に向けた各般の施策検討を総合的、計 画的に展開するための取組を戦略的に推進することの重要性を指摘している。 更に、基本的方針として次のとおり述べている。 苫東開発の推進にあたり、平成15年11月に有識者による苫小牧東部地域開発検 討会が設置され、新計画の策定時から実施された施策について検証を行い、今後の苫 東開発の方向性について検討が行われてきたところである。 これらの経緯を踏まえ苫東開発の基本的な方針として、苫東地域が21世紀の世界 と日本に貢献できるよう、東アジアをはじめとする世界の潮流の変化を的確にとらえ、 国際競争力のある基盤づくりを目指す。 また、国民や北海道民の便益の向上やその安全・安心な暮らしに貢献し、さらに環 境の保全に資するような分野に苫東地域が活用されるよう努める。 26 Plan-do-check-act cycle で、事業活動における管理業務を円滑に進める手法の一つである。即ち、 Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善)の4段階を繰り返すことによって、業務を継続的に改 善するという考え方である。 27 なお、この「進め方」に記載された産業・プロジェクト、期間等については弾力的運用を図り、必要に応じて 見直しを図ると付記しており、対象期間については概ね10年間としている。 93 とりわけ開かれた競争力のある北海道の実現に向け、幅広い産業開発を進めるとと もに、東アジア地域の急速な成長を地域経済発展の好機ととらえ、東アジアや世界と 競争し得る成長期待産業等の育成及びこれに向けた戦略的な条件整備を推進する。 苫東地域の有効活用を具体的に進めていくため、特区制度などの活用や新たな開発 手法等も勘案しながら、優先的に開発を推進する区域を設定し、開発の中心となるプ ロジェクト事業を定めて導入を推進する。 産業機能については、これまで苫東地域において立地が進んできた自動車関連産業 やリサイクル関連産業を始めとする既存立地分野の集積を促進するほか、バイオエネ ルギーや自然冷熱エネルギーなど、地域の特性を活かした新たな産業を育成するとと もに、燃料電池関連産業など今後発展が見込まれる産業等の早期導入を促進する。ま た、産業活動の支援、特区制度の活用等により、企業立地のインセンティブを高める など立地環境の向上に努める。 研究開発機能については、北海道開発で培われた技術を活用した特色ある研究開発 を展開するなど、研究開発基盤の形成を図る。 また、リサイクル関連産業、バイオエネルギーや自然冷熱エネルギーなどの分野に おける産業開発や研究開発を積極的に行い、地球環境の保全や循環型社会の形成の寄 与に努める。 基盤整備については、引き続き、陸・海・空のネットワークの充実及び安全・安心 の確保を図ることとし、とりわけ国際競争力を高めるための物流ネットワーク機能の 強化を推進する。また、その整備に当たっては、景観やアメニティに配慮するととも に、開発の熟度に対応した整備と先行的整備との均衡を図り、投資効果の早期実現な ど投資の効率化に留意しながら計画的に推進する。 環境保全への適正な配慮については苫東地域として一体的に行うこととし、開発に 伴う大気汚染物質、 温室効果ガスの排出抑制など環境負荷を極力少なくするとともに、 緑や湖沼などの多様で豊かな自然環境の保全などを通じて、苫東地域における自然と 共生した良好な環境の保全に十分配慮した開発を行うこととする。 なお、産業機能や研究開発機能、居住・生活機能等を備えた複合的な開発の実現に 当たっては、産業機能の強化を重点的に進め、研究開発機能、居住・生活機能等の展 開につなげる。 「進め方」の実施にあたり、苫東開発推進関係機関等が緊密な連携を図 り、フォローアップ等による評価・検証を行い、それぞれの機能と役割に即した施策 を行う28。 28 これに続いて「展開方向」として、優先的に開発を推進する地区、基盤整備及び自然と共生するアメニティ に満ちあふれた立地環境づくりの各論に言及している。優先的に開発を推進する地区として、柏原台地及び その周辺地域の展開方向(①自動車関連産業を始めとする幅広い産業開発の促進、②研究開発基盤の形 成、③大規模災害に備えた街づくり、④内陸部物流拠点の形成)、遠浅地区の展開方向、臨海低地部等の展 開方向(①中核的産業の早期導入、②資源・エネルギーの備蓄・供給機能等の整備、③臨海部における物流 拠点の形成、④航空機関連産業の誘致)を論じている。 94 政策会議 95 【計画策定の経緯と背景】 <昭和42年8月> <昭和43年4月> 「北海道開発の長期展望-豊かな北海道への…」道開発庁 北海道開発庁 重化学工業等の基幹工業を太平洋の臨海部に展開 <昭和43年12月> 大規模工業基地候補地として苫小牧東部地区を挙げる <43年9月> 「工業開発の構想試案」通商産業省がまとめ 北海道 巨大工業基地を遠隔地に分散立地 <昭和44年5月> 大規模港湾建設のための調査費を確保 <昭和44年8月> 経団連首脳が北海道知事に用地確保を要請 「新全国総合開発計画)」 閣議決定 遠隔地に基礎資源型の大規模工業地帯の建設 <昭和44年10月> 北海道議会が「北海道工業団地開発事業条例」を制定 <昭和45年7月> 開発用地の先行取得に着手 「第3期北海道総合開発計画」閣議決定 苫小牧東部地域に大規模工業基地建設 <昭和46年∼昭和48年> <昭和46年8月> 石油化学メーカーを中心に苫東基地への立地意向表明 計画面積を上回る立地希望 「苫小牧東部大規模工業基地開発基本計画」道開発庁 遠隔地に基礎資源型の大規模工業地帯の建設 <昭和47年4月> 「苫小牧東部大規模工事基地開発連絡会議」発足 通称「11省庁会議」(→「13省庁会議」) <昭和47年7月> 苫小牧東部開発㈱ 設立 <昭和48年3月> 「苫小牧東部大規模工事基地開発連絡協議会」発足 通称「9者連」(→「7者連」)現「苫小牧東部開発連絡協議会」 <昭和48年12月> <昭和48年10月∼> 第1次オイルショック <昭和53年12月∼> 第2次オイルショック 第1段階計画策定(昭和53年目標) ) <昭和54年11月> <昭和61年6月> 第2段階計画策定(昭和58年目標) ※オイルショックや円高不況のため立地希望企業の辞退 が相次いだため、3回にわたり段階計画の策定がなされ たが、工業基地開発の方針は維持された。 第3段階計画策定(昭和70年代目標) <平成7年8月> 「苫小牧東部開発新計画」北海道開発庁 生産機能+研究開発機能・居住生活機能を備えた複合開発 <平成9年9月> <平成9年3月> 「苫小牧東部開発の進め方について」北海道開発庁 当面10年間の開発目標・開発優先区域の設定 「特殊法人の整理合理化について」閣議決定 <平成9年11月> 北海道拓殖銀行(代表幹事銀行)経営破綻 <平成10年3月> 「第5次全国総合開発計画」閣議決定 <平成10年12月> 「苫東(等)の取り扱いについて」閣議了承 <平成11年7月> ㈱苫東 設立 <平成20年12月> 「苫小牧東部開発新計画の進め方について【第2期】」国交省北海道局 96 参考:昭和 48 年 百条委員会 報告書より 報 告 書 本委員会に付託された苫小牧東部工業基地土地取得に関する調査の件につき、その調査経 過及び結果を別紙のとおり報告する。 昭和48年12月5日 苫小牧東部工業基地土地取得に関する調査特別委員長 北海道議会議長 高橋賢一 麻里悌三 殿 目次(省略) 第一 一 委員会の調査結果 総論 苫小牧東部工業基地用地買収事業は、北海道第三期総合開発計画に基づく、大規模工 業用地を先行取得によって全体計画の遂行を確保し、進出企業に用地の安定提供を目的 として、地方自治体たる道みずからが買収に着手したものであり、全国では初めてのケ ースである。昭和44年12月以降同47年9月までに買収した総面積は6396ヘク タールに達し、目標面積8888ヘクタールに対し72%の実績を示している。 これを買収先別に見ると、農地等所有者から直接買収したものは3866件、544 6ヘクタール(85%) 、不動産業者から買収したものは246件、698ヘクタール(1 1%)、公有地の買収は2件、252ヘクタール(4%)に大別されるが、不動産業者か ら買収した経過と内容に最も多くの問題が指摘されている。 買収額は、当初、総額176億円を見積もっていたが、昭和47年9月末で255億 円にのぼり、しかも、未買収地役500ヘクタールの分を見込むとすれば330億円を こえるものと推定される。 道は、買収開始に当たり、基本方針として不動産業者の暗躍を排除するために、開始 以前からの所有のものを除き、業者不介入の原則を立てるとともに、所有者から直接買 収する方針をとり、価格は地目別の基準価格を設定して価格の高騰を防ぐ等の事項をき めている。しかし、この基本方針が守られたのは、ごく初期の段階であって、昭和45 年中期からはもろくもくずれ去り、特定不動産業者の暗躍を許し、その行動には目に余 るものがあった。 基準価格は、現在まで2回改定されているが、不動産業者の買いあさり、価格のつり 上げのあとを追う形となり、宅地あるいは宅地見込地として、観念的な見直し方法や補 償費の上積み等によって買収価格差の矛盾を模糊する結果となっている。 この用地買収事業は、買収件数4114件、この事業を実施するに当たり、関係職員、 特に第一線において個別に折衝の任に当たった現地職員の熱意と並々ならぬ労苦は大き く評価されるところである。 しかしながら、本局幹部を中心とする不適正な指導と処理によって、特定不動産業者 97 との癒着に疑惑がもたれ、道政の公正なる執行を確保するため、去る3月、第1回定例 道議会において本委員会が設置されて以来、実質176日間の調査の結果、その取扱に ずさんな点が多く、数々の指摘を受け道政に汚点を残す結果となったことはきわめて遺 憾なことである。 以下、本委員会が調査した事実と解明点について具体的に列記する。 二 調査した事実と解明点 ㈠ A社に係る事項 A社からは、昭和46年11月2日以降47年7月29日に至る間、7回にわたっ て132ヘクタール(B社分を含む)の用地を買収しているが、その経過と内容を調 査するに多くの疑惑と問題点が指摘される。 1 所有権未確認の買収予約 昭和45年10月、道に対して用地売り込みの意向表明に始まり、同年12月5 日、売買予約の覚書を締結しているが、その面積は110ヘクタールに及んでいる。 しかしながら、その時点でA社の所有地であるものは、わずかに24ヘクタールに 過ぎず、当時、道は、業者からの買収は極力差し控える方針をとっていたにもかか わらず、A社が委任状、権利書等を提示したゆえをもって交渉に応じたと言ってい るが、これはきわめて事務的見解に過ぎず、地域内の不動産業者暗躍の実態を知り 得た当時の状況から簡単に信ずべきでなく、さらに十分な検討をなすべきであった が、それは全くなされていない。また、A社分の買収業務一切は現地事情に暗い本 局扱いとした理由も希薄であり、むしろ直接所有者から買収すべきであったものを 安易に一括同意を与えたことは不可解と言わざるを得ない。 2 買収価格の不適正 ⑴ 45年12月5日締結した覚書によれば、買収価格の決定を見ずに買収の意思 表示を行い、基地内価格実績の最高価格を反映する等の条項が見られる。後日、 この表現を修正しているとはいえ、これがA社に乗ぜられる端緒になり道として 不見識な内容である。 ⑵ また、買収した実際の価格は、当時、他の買収実例に比較するに相当な高価で あることが多くの資料から証明されている。 ⑶ 買収価格決定に当たり、A社が取得したときの価格に対して、賠償金、手数料、 公租公課、金利、損失金を上積みをし、さらに1億5800万円をこえる金額を 加算している。 その内、特に指摘されるものに、次のものがある。 まず、賠償金8320万円については、A社がすでに他へ分譲済の土地を買い 戻すための経費と説明しているが、その事実はなく、上積みの際確認の手段もと られなかったことが明らかとなり、また、損失金として4270万円も算入され ているが、業者間の税対策上の経理金額をそのまま受け入れている等、会社側の 申し立てを十分な調査もせず措置した事実は大きな失態である。 ⑷ 道が提出した資料によると、A社より買収した用地は、B社へ売却させた分を 含めて面積132ヘクタール、総額8億9300万円をこえるに至っているが、 取得価格との差額、すなわち、荒利益とみられるものは3億6700万円にのぼ っている。 98 もちろん、荒利益中には、取得経費、公租公課、金利、手数料、企業経費等が 含まれているのは当然であるとしても、価格交渉と決定方法が適正を欠き、その 結果、不当な利益を与えたことを証明している。 3 協定条項違約の黙認 45年12月5日締結の覚書以降、数回にわたって基地内及び周辺での資本投下 並びに売買行為を行わない旨の取りきめをしていながら、道は、この条項の履行を 主張せず、しかも、その実態を容易に知り得るにかかわらず、以後数回の買収を行 っている。このことは、道自身が協約等の条項を厳守させる姿勢がなかったことを 物語っており、まことに遺憾と言わざるを得ない。 4 融資協力の約定等 ⑴ A社との間に締結された覚書等9件のうち、45年12月5日のC約定と、さ らにこれをふえん、明確化した45年12月18日の念書は、A社に対し融資の 方途を得るために道が協力する旨の内容が見られ、道は極力その実績があったこ とを否定しているが、実績の有無にかかわらず、地方地自体の責任を問われる問 題であって、理由のいかんを問わず締結すべきでないものである。 ⑵ また、C約定の存在を否定し続け、具体的に証拠を持ち出されるに及んで、初 めてそれを認める態度は、調査委員会の審議に対する非協力ぶりを示したもので、 しかも、その後の答弁において私文書であると強弁する等は素直な姿勢とは言え ず、この問題は特に責任を痛感すべきである。 ⑶ 不動産業者から買収した件数は、24社18個人に及んでいるが、融資協力等 の内容は、A社以外には全く見られないことからもA社のみに対する特別の措置 として疑惑がもられる。 5 農地法違反 A社が取り扱った物件のうち、弁天地区のD、E両氏の所有地については、2件 19万1236平方メートルの農地法第3条及び第73条違反の事実が明らかとな り、道警の手によって送検されているが、当初、所有者と直接買収交渉をした際の 評価調書には、農地として算定している経過から見てもずさんな取り扱いである。 道みずからが違反行為を指摘されたことは、本来、指導監督の立場にあるものの 行為として、きわめて遺憾なことである。 6 確認書の信憑性 47年9月2日付の確認書が締結されているが、その内容は、すでに買収済であ る物件を、さも未買収地かのごとく記載しているのは理解に苦しむものであり、そ の意図を疑うものである。 7 協定書の整備 46年2月19日締結の協定書は、昭和47年12月末まで4回にわたって買収 するものとして金額も明示されているが、本協定書は、地方地自法第214条の趣 旨に基づき、所要の整理が行われていなかったことは遺憾である。 8 供応等の有無について 道とA社との交渉経緯や幾多の疑惑がもたれる買収の実態を見るときに、幹部職 員と飲食をともにした事実がなかったかの疑問がもたれている。道及びF証人は一 切これを否定しているが、当委員会調査の中では確証を得るに至らなかった。 99 9 むすび A社と買収に当たった道との関係については、その間に、他に見られない特殊な 事情が介在していなかったか、何らかの癒着状態があったのではないかとの解明は、 本委員会設置に当たっての重要な目的の一つであった。 調査の進展によって具体的内容が掘り下げられ、大きな問題として8項目にのぼ る幾つかの疑惑や不適正な処理方法が指摘されたことは、この種の問題としてきわ めて遺憾なことである。 それならばなぜこうなったかを本委員会は厳正に、しかも客観的に究明しなけれ ばならない立場にあるが、審議の結論としては、特殊な事情の介在についてはつい に立証することができなかった。 道側が用地取得を至上命令と思い込み、その目的達成の熱意のあまり、平常は当 然配慮すべきである地方自治体行政庁としての責任とその手続を欠き、または、逸 脱したと解するにしても、他の被買収者に対する姿勢、買収価格や手続の面とは著 しく異なるものがあり、素直にその弁明を認めるわけにはいかない。 F証言によれば、企業経営の責任者としては、企業並びに投資家のために最大限 の努力をすべきであると述べ、また、事実と異なる資料を使用したことは認めてい るが、道民に対して大きな責任を負う道側が、何ら具体的な調査もせず対応した態 度は、全く弁解の余地は認められないものである。 ㈡ 苫小牧東部開発株式会社出資関係会社の土地取得について 1 G社関係 G社は、H社とI社の合弁会社であるが、基地内において124ヘクタールの用 地を取得保有している。 2 J社関係 J社自体では保有していないが、これと強い結び付きがあると推定されるK社は 10ヘクタール、L社は14ヘクタール、M社は104ヘクタールの用地をそれぞ れ取得保有している。 H社、I社、J社の3社は、基地内の用地造成分譲を目的としている苫小牧東部 開発株式会社の出資者であって、基地内においてこの種の行為をとることは好まし からぬことであり、当初は、道の用地取得に協力するためであったとその意図を説 明していたが、現在、道の見解によれば、これら未買収用地は強制収用による以外 取得は困難であると答えている事情から見ても、一部商社が利益追求のためには手 段を選ばぬやり方をしていたものと言わねばならない。 昭和47年6月下旬、企業局幹部がJ社と接触し、土地状況の意見交換並びに買 収取りまとめを依頼したと見られるが、 (道は依頼していないと主張している)G社 に対しても同様趣旨の接触があったと考えられる。 また、これらの業者が買収に着手したのはその直後からであって、しかも、買収 価格の傾向を見ると、いずれも相当高額を示し、地域全体の価格つり上げに大きな 影響を与えていると判断され、道の見通しの甘さと出資者に対する強い姿勢が欠け ていたことが指摘される。 ㈢ B社並びにN社両社より買収した問題 1 B社に対して一時的に確保を依頼した件 100 A社が道へ売り渡し可能であった用地64ヘクタールを道は46年2月26日と 同年3月16日の2回に分割してB社に買い取らしめ、47年1月11日に至って、 同物件を一括して3億8900万円で道が買収しているが、その行為を通じて、道 は、直接買収に比べて約4100万円高額買収をした結果となっている。道は、当 時、直接買収を行うと地価相場に及ぼす影響が懸念されたので、周辺の値上がりに よって均衡のとれる時点まで確保する必要があったと答えているが、同時点で買収 された他の用地の価格実績に比べて、その見解には了承できないものがあり、A社 から直接買収の方法をとるべきであって、その判断の不合理性が指摘される。 2 N社に対して一時的に確保を依頼した件 O氏が道へ売り渡し可能であった用地43ヘクタールを道は45年12月26日 にN社に買収を依頼し、46年11月8日に至って1億6680万円で道が買収し ているが、この方法をとることで、道は、直接買収に比べて1530万円高額買収 をした結果となっていて、その理由はB社と同様薄弱である。 ㈣ P農業協同組合の農地買収について P農業協同組合は、46年12月28日、組合員10名から総面積174ヘクター ルの土地を買収する契約を締結し、47年3月にかけて所有権の移転登記を行ってい る。しかも、代金の支払いは47年2月8日に完了しており、常識として事前にとら なければならない農地法第3条による申請手続を行っていないことは、組合長外数名 の理事がP農業委員会の委員であることからも、きわめて適正を欠くと言わねばなら ない。 そこで、これらの違反事実を是正するため、47年10月13日に至った申請の手 続をとり、P農業委員会の議を経て10月26日道知事の許可を受けている。しかし ながら、農業協同組合が所有しなければならぬ理由として、昭和50年までの計画を もって採草牧草地の不足からこれを補うための方法であると述べているが、用地代金 は、坪当たり2000円で総額10億6600万円に達し、その金利並びに採草地収 益等を勘案すれば、経済効果を常に念頭におくべき農業協同組合のあり方として、不 可解な土地買収と事業計画と言えよう。また、これを是認するがごとき道の態度も農 業協同組合経営に対する指導性から了承し得ぬものがある。 さらに、昭和50年までの計画を認めるとすると、苫小牧東部工業基地の着工年次 計画との関連からも矛盾を生ずることになり、農地法違反を免れるための手段が講ぜ られたものと推定される。 さらに、道が農家より直接買収した価格と比べ、格差が生ずるために、農業協同組 合をして一時買収取得せしめるためかかる手段をとったものと推定されるが、妥当性 を欠く措置であった。 ㈤ P振興公社より買収した用地について 道は、昭和46年3月15日、P振興公社から251ヘクタールの用地買収を行っ ている。この土地は、市が所有管理する牧野であったものを牧野管理規程の適用から はずし、3月12日に振興公社に移管をし、道に売却の道を開いたものであった。 このような方法をとった理由は、地方自治法の制約から土地代金は、本来、公債と して支払われ、直ちにPの使用財源とならない事情にあり、このため、振興公社から 買収の手続を経たことが明らかになっている。 101 さらに、所有者の登記によれば、市から道へ直接移転したことになっているため、 振興公社の法的所有確認手続が欠け、あわせて農地法上の申請を省略していることは 不適当であると指摘されている。 道は、実害がないと主張しそのことを認めようとしないが、法令の趣旨に抵触する おそれのある問題を含んでおり、きわめて不適切な処理である。 ㈥ 農地法違反について 道が買収した用地のうち、農地法に違反していた幾つかの事実が明らかにされたが、 その内容を区分すると、おおむね次のとおりである。 1 道が直接農家より買収する場合であっても、農地法第73条に規定する開拓農地 については、統制期間内のものは農林大臣の許可手続を経なければならないのにも かかわらず、早来町Q外2名に係る2万2890平方メートルについてはその手続 を怠っている。 また、現在は統制期間を過ぎているとはいえ、買収当時は違反となるものに、早 来町R外11名で69万4417平方メートルと報告されている。 2 買収相手である不動産業者が農地法違反を犯していた物件を道がそのまま買収し たため、二重の違反となった例としては、P弁天地区のE氏並びにD氏に係る2件 19万1236平方メートルがあり、これはA社の手を経たものである。 3 前項目の外未買収地ではあるが、不動産業者が取得に当たって農地法違反に問わ 三 れているものは、9法人41個人、63万5731平方メートルに及んでいる。 以上の状況を見るに、農地法遵守の指導機関である道みずからが違反に該当し、 7月23日、4名が送検されているがごときはまことに不祥事という外はない。 道は、買収着手当初より、農地面積の多いことを考慮して、農地法の精通者を現 地事務所に配置していたにもかかわらず、かかる結果を招いたことは遺憾であって、 今後あやまちを再び繰り返さぬよう厳に反省すべきである。 結論 以上、調査結果に基づく主要な指摘事項を集約したところであるが、さらに各事項に 共通する問題をあげて改善または留意すべき項目をまとめ、道政の基本的態度である厳 正校正な行政が確保されるために十分反映されるよう期待し、本委員会における調査の 結論とする。 ㈠ 基本方針について 1 道が当初決めた基本方針のあり方は適正なものと認められるが、まず業者不介入 について言えば、開発ブームによる全国的な異常な土地値上がりの波は、本道にお いても例外ではなく、ましてや、大面積を買収獲得するには相当の期間を必要とし、 その間、土地ブローカーの暗躍は当然予想されており、そのためにこそ業者不介入 の原則を立てておりながら、権利書、委任状を持ってあらわれた業者との交渉に応 ずる等、単に法律的には、瑕疵がないことを理由として事実関係を確認せず、実質 的にはブローカーの暗躍を助長する結果を招いてしまった。ここに土地売買の代理 行為と称する落し穴が見られる。 また、業者から買収契約をした場合でも、登記関係書類の調査から、道との契約 数日前に業者が土地を入手しており、交渉時点では所有者でなかったと推定される 例が多く、単なる法律上の手続に逃げ道を頼ったものと見られてもいたし方なく、 102 業者不介入、直接買収についての強い姿勢がなかったことに悪質な業者がつけ入る すきが生じた一面があったと考えられ、深く反省しなければならない。 2 基準価格の設定とその後の取り扱いについては、総論においても若干指摘してお いたが、客観的説得力に乏しく、実例として評価調書の中には具体的根拠すら示さ れていないものがあり、価格決定がずさんであったかの証左となっている。 ㈡ 部局間の連携不備について この用地買収に当たって、道執行機関内相互の連携がきわめて不十分であったこと がうかがわれ、農地法違反等のごとく、当然、協議の上適切な処置を要する問題が、 処理後に発見される等の不手際が目立っており、今後は十分意を用うべきである。 ㈢ 内部牽制について 企業局本局取り扱いとした買収事案に最も不適正な問題が多く見られるが、公営企 業管理者、企業局次長が決定の中心であって専行の弊害が見られる。 ㈣ 今後の土地買収について 調査の結果多くの問題、指摘から見て、地方自治体である道が、今後、大規模工業 用地の買収を行うことは適当でないと考えられる。なお、未買収地の整理については すみやかに適切な処置をすべきである。 第二 委員会の調査経過 一 委員会の設置及び議事経過 ㈠ 委員会の設置 本委員会は、昭和48年3月14日の第1回定例会本会議における一般質問にかか わる苫小牧東部工業基地土地取得問題に関する件について実態を調査し、これを明ら かにするため、3月16日の本会議において、倉増新八郎君外13人から設置決議案 が提出され、次のとおり設置された。 1 名称 苫小牧東部工業基地土地取得に関する調査特別委員会 2 委員会の法的根拠 苫小牧東部工業基地土地取得問題に関する必要な調査を行うため、地方自治法第 110条及び北海道議会委員会条例第4条の規定による特別委員会が設置され、あ わせて地方自治法第100条第1項の権限が付与された。 3 調査事項 苫小牧東部工業基地土地取得問題に関する実態の調査 4 委員会の組織と構成 ⑴ 委員定数 27人 (以下略) 103 104 105 第2 石狩湾新港地域開発の歴史的経緯 <国による開発の経緯> 「第3期北海道総合開発計画」 昭和45年7月10日、北海道開発庁が策定(閣議決定)。 同計画によれば、石狩湾新港について「札樽圏における物資流通の増大、消費財 工業の発展、北方圏との経済交流の進展に即応して、石狩湾沿岸に、流通港湾の整 備をはかる。」とされている。 「石狩湾新港地域開発基本計画」 昭和47年8月、北海道開発庁が策定。 同計画は、昭和60年を目処とする石狩湾新港地域開発の構想(意義、基本方針、 構想、すすめ方や地域概況、所要資金等)を定めた基本計画である。 「第三次全国総合開発計画」 昭和52年11月4日、国土庁が策定。 同計画によれば、「地方ブロックの中心都市としての集積を持つ札幌に、国際化、 情報化に対応した高度な都市機能を選択的に集積させ、我が国の新しい配置の実現 に資するとともに、この地域に、国際交流の拠点としての空港、港湾の整備を図る など、北海道地域の国際性を向上させる。 」などとされている。 「新北海道総合開発計画」 昭和53年2月28日、北海道開発庁が策定。 同計画によれば、 「石狩湾においては、レクリエーション利用等との調和を図りつ つ、臨海性工業、物資流動の拠点形成等を進める。北海道はその国土条件を生かし、 これまで培ってきた開発可能性を効果的に発現することにより、将来に向かって我 が国の重要な工業地域としての発展を図り、人口、産業の望ましい配置の実現に積 極的にこたえるとともに、北海道の産業構造の高度化、就業機会の拡大等を通じ、 活力ある安定した地域社会を形成することが極めて緊要な課題となっている。 石狩湾新港地域とその周辺地域について、高次加工型の機械工業や消費財工業等 を開発導入するとともに、このための生産基盤の整備を計画的に推進する。札樽圏 における物資流通の増大、都市型工業の発展に対応するため、石狩湾新港の整備を 促進する。 」などとされている。 106 「第四次全国総合開発計画」 昭和62年6月26日、国土庁が策定。 同計画では、 「流通拠点としての石狩湾新港等の整備を進める。」などとされてい る。 「第5期北海道総合開発計画」 昭和63年6月14日、10年を計画期間として北海道開発庁が策定。 同計画では、 「港湾を核とした工業生産・流通の場として、ソフトとハードを兼ね 備えた拠点の形成を図る。工業開発については、地域特性を生かして、食品加工、 機械等の企業立地を促進するとともに、研究開発機能の整備、エネルギー関連産業 の誘致を進める。 また、札幌とのアクセスなど周辺地域と結ぶ交通体系の整備を進めるとともに、 管理業務機能の充実、情報通信機能、レクリエーション機能等の導入により新たな 展開を促す、LNGの受入れ施設の整備を図る。 」などとされている。 「第五次全国総合開発計画(新・全国総合開発計画) 」 平成10年3月31日、概ね平成19年度までを計画期間として国土庁が策定。 同計画では、 「海運を利用した複合一貫輸送のメリットを享受できる圏域がほぼ全 国をカバーするように、各地域の物流の実態に応じて、海陸複合一貫輸送の拠点と なる港湾を重点的に整備する、国際交流の拠点となる新千歳空港、苫小牧港や釧路 港、近隣の北方圏等へ開かれた空港、港湾の整備を推進することにより北の国際ゲ ートウェイ機能を強化するとともに、アクセスのための交通基盤の整備を図る。 」 などとされている。 「地球環境時代を先導する新たな北海道総合開発計画」 平成20年7月4日、国土交通省が策定。 同計画によれば、 「石狩湾新港、新千歳空港などの国際物流機能の強化を図るとと もに、既存の産業集積を活用した生産拠点の形成を促進する。 」などとされている。 107 <北海道による開発の経緯> 「石狩湾新港地域の土地利用計画」 国が昭和47年8月に策定した石狩湾新港地域開発基本計画に対応する形で、昭 和51年11月、北海道が策定。 同計画によれば、 「石狩湾新港地域の開発は、小樽港と一体になって機能する流通 港湾を核とする新しい地域開発を通じ、我が国における日本海沿岸地域の発展と、 北方圏交流に重要な役割を果たすとともに、札樽圏における新たな流通、生産基地 の創出により、都市機能の純化・高度化を図り、もって、中枢管理機能の整備拡充 と、道民生活の安定向上に寄与することを目的とする。 」とされている。 同計画は、石狩湾新港地域の土地を、流通地区、工業地区、管理業務地区、公園・ 緑地、海岸防風林、道路、港湾地区、その他と区分し、各地区の土地利用方針や面 積を定めており、計画的な工業基地を創出するというものであった。 同計画が予定していた土地利用計画面積は、以下のとおりである。 (単位:ヘクタール) 区 分 業務用地 道 路 公 流通地区 236 18 5 16 275 工業地区 895 101 33 69 1,098 管理業務地区 23 8 6 37 44 91 135 保 安 林 630 630 普通林等 42 42 公園・緑地 道 園 緑 地 その他 109 路 109 そ の 他 計 1,154 228 港湾地区 427 45 1,581 273 小 合 計 計 90 854 142 142 142 2,468 472 90 854 142 ※面積は実地測量及び図上計測による概数である。(以下、同様) 108 2,940 昭和63年6月、港湾計画の改訂に伴い、土地利用計画との調整の必要性が生じた ことや最近における社会経済情勢、企業立地動向に対応するため、昭和70年を目途 として北海道が策定。 同計画によれば、「今後この地域の開発は、計画の弾力的な運用により、経済情勢 や企業立地環境の変化、技術革新、情報化、国際化等の進展、更には産業の複合化に 対応し、企業誘致、基盤施設整備の効果的、経済効率的な推進を図る。 」などとされて いる。 同計画によって計画された土地利用計画面積は、以下のとおりである。 (単位:ヘクタール) 区 分 業務地区 流通地区 237 32 6 16 工業地区 874 98 33 56 管理業務地区 20 4 7 5 3 44 95 公園・緑地 道 路 公 園 緑 地 その他 保 安 林 641 普通林等 32 道 7 1 計 1,138 280 港湾地区 121 18 1,259 298 小 合 計 291 3 1,064 36 1 143 641 1 142 路 そ の 他 計 33 142 90 90 10 186 204 855 191 2,554 2 257 398 857 448 2,952 平成9年8月、昭和63年6月に策定した土地利用計画が昭和70年(平成7年) を目標年次としていることから、その後の社会経済情勢の変化や企業ニーズの変化等 に対応した計画の見直しを行い、おおむね平成17年を目標年次として北海道が策定。 同計画によれば、 「この地域の具体的な土地利用に当たっては、流通、工業地区及び 管理業務、産業支援、生活支援の各機能を備える複合機能地区並びに公園・緑地及び 交通施設の配置を計画的に行い、かつ、これらの各地区間の有機的な連携の確保と効 率的利用を図る。」とされている。 109 同計画によって計画された土地利用計画面積は以下のとおりである。 (単位:ヘクタール) 区 分 業務地区 道 路 公 園 緑 地 その他 流通地区 263 35 6 19 工業地区 876 110 38 51 複合機能地区 69 7 7 12 緑 3 地 95 保 安 林 633 普通林等 32 道 7 1 背後地計 1,215 298 港湾地区 208 35 1,423 333 計 323 3 1,078 95 1 99 633 1 142 路 そ の 他 合 計 33 142 51 51 10 125 143 852 130 2,546 8 225 476 860 355 3,022 平成16年4月、これまでの土地利用計画に基づく開発の長期化に伴い、社会経済 状況や企業立地を取り巻く環境が大きく変化するとともに、近隣地域との連担も視野 に入れてこの地域の振興を図る必要があることなどから、これまでの「道央圏の生産・ 流通拠点形成を目指す。」という基本的な開発方針を維持しつつ、より複合的、弾力的 に土地の有効活用に向けた取り組みを進めるため、土地利用計画の見直しを行い、当 地域の開発を効果的に推進する目的で北海道が策定。 同計画によれば、 「引き続き環境保全に配慮するとともに、今後、これまでの企業集 積や各地区間の有機的な連携に配慮しつつ、立地環境の変化、産業動向、周辺の開発 動向を踏まえて、都市計画の見直しなどにより、土地利用規制を緩和し、この計画の 実効性を高めて、土地の有効活用を進め、環境保全に留意しつつ、当地域の活性化や 振興を図っていくことを基本的な方針とする。 」とされている。 なお、同計画によって計画された土地利用計画面積は、平成9年8月に策定された 石狩湾新港地域土地利用計画におけるものと同一である。 110 次に、石狩開発株式会社の設立から経営破綻までを記載する。 昭和39年12月18日に設立された、石狩開発株式会社(以下、 「石狩開発㈱」と いう。)は、当初、石狩湾新港地域のうち、茨戸川北西沿いの約 100 ヘクタールの用 地を取得し、当該地域において木材工業団地を開発することを計画していた。 設立当時の資本金は金2億円であり、当時の石狩町が 500 万円を出資していたのを 除けば地方公共団体による出資は無く、残りの 97.5%は民間が出資していた。 なお、当時の主要な株主は、北海製罐株式会社、東洋木材企業株式会社、日魯漁業 株式会社、株式会社北海道拓殖銀行などであり、株主総数は 34 名であった。 昭和 42 年、石狩開発㈱は 1 億 3000 万円を増資し、うち 1 億円を当時の北海道東北 開発公庫(現・日本政策投資銀行)が出資した。 (第三者割当) その余の 3000 万円は株主割当である。 昭和 45 年、石狩開発㈱は、株式会社札樽振興公社を吸収合併したが、同社は札樽 地区の公共用地の取得等を目途とするいわゆる第三セクターであった。 (札幌市と小樽 市の出資) 札幌市と小樽市は、同社の計 40%の株式を保有していた関係で、同吸収合併により 石狩開発㈱の株主となった。 昭和 45 年 7 月、国の第3期北海道総合開発計画(前述)において、苫東開発とと もに石狩湾沿岸に流通港湾の整備を図ることとされた。 昭和 47 年 8 月には、札幌圏における新たな生産・流通基地の創出を目指した石狩 湾新港地域開発基本計画(前述)が北海道開発庁で庁議決定され、札幌市に近接する 石狩湾に新港を建設し、その背後地に大規模な工業流通基地を建設するプロジェクト がスタートすることとなった。 石狩開発㈱は、同プロジェクト推進にあたり、北海道をはじめとした関係市、当時 の北海道東北開発公庫及び地元経済界の合意の基、上記背後地の開発を担うこととな った。 なお、北海道は、石狩開発㈱に対し、昭和 46 年 12 月に 2 億円を出資しているが、 その際当時の北海道東北開発公庫が 1 億円を増資し、札幌市、小樽市及び当時の石狩 町がそれぞれ増資している。 以上の経緯で、石狩開発㈱は、いわゆる第三セクターとして北海道の推進する石狩 湾新港地域開発を担い、約 3000 ヘクタールに及ぶ開発予定地において、約 1700 ヘク タールの用地の取得・造成・分譲を進めることにより、同地区に一大生産・物流基地 の建設・開発を推進することとなった。 昭和 53 年、石狩開発㈱は倍額増資を行い、資本金額は 20 億円に達している。 (民 111 事再生手続開始申立時と同額) この際、北海道も 2 億円を増資している。 平成初期のバブル経済の最盛期においては、石狩湾新港地区に進出する企業も多数 存在し、石狩開発㈱も用地を順調に売却し、その経営は順調であった。 平成 2 年度の売上高は約 145 億円で経常利益は約 1 億 4000 万円、平成 3 年度の売 上高は約 230 億円で経常利益は約 3 億 5000 万円を計上するに至っており、同年度が ピークであった。 石狩開発㈱の経営は、その財務体質上、必然的に景気及び地価の上昇に依存するも のであった。 すなわち、昭和 46 年に北海道が出資した直後、地元の意向もふまえ広大な土地の 買収を短期間で円滑に行うべく、北海道が石狩湾新港地域の土地を先行取得し、これ を順次、石狩開発㈱が引き受けたほか、開発に関わる基盤整備(上下水道等)に関す る事業費の相当部分を負担した。 バブル経済期までは地価上昇が続いたことでこれらの費用捻出のための金利を資産 計上処理でき、石狩開発㈱の決算自体は黒字であったが、バブル経済崩壊に伴う地価 下落及び分譲不振によって赤字へ転落、石狩開発㈱の売上高は激減した。 具体的には、平成 4 年度の売上高は 173 億円、平成 5 年度の売上高は 71 億円、平 成 6 年度の売上高は 30 億円と急速に落ち込み、石狩開発㈱の財務内容が一変するこ ととなった。 平成 11 年当時の石狩開発㈱の年間必要資金は約 40 億円(造成費、負担金、金利、 販管費、固定資産税等)であったが、土地分譲による売上は約 20 億円にとどまって おり、平成 11 年 4 月以降、これまで石狩開発㈱の事業資金を融資してきた当時の北 海道東北開発公庫及び民間金融機関は、新規融資に応じない事態となった。 このような状況の中で、石狩開発㈱は、北海道に対する港湾予定地の先行買上の要 請、金融団に対する金利減免要請、地元経済界に対する支援要請等を試み、資金調達 を行ってきたが、次第に資金繰りに窮するようになった。 石狩開発㈱は、 売上増加及び経費削減の努力をしたものの、 土地の売却は伸び悩み、 平成 11 年度から平成 13 年度の損益は以下の表のとおりの状況であった。 以下の推移から明らかなとおり、毎年の未処理損失の増大を止めることができない 状況であったため、石狩開発㈱は、法的整理による抜本的な会社経営の立て直しを経 ずして事業を継続することは不可能と判断し、平成 14 年 10 月、民事再生手続開始申 立に至った。 112 (単位:百万円) H11 年度 H12 年度 H13 年度 2,498 1,536 509 うち土地分譲 2,443 1,474 433 うち賃料収入 54 61 75 営業利益 269 427 ▲191 経常利益 185 ▲781 ▲1,466 当期利益 38 ▲732 ▲1,476 261 ▲465 ▲1,942 売上高 未処理損益 石狩開発㈱の民事再生により、債務超過額である約350億円が全額免除となった ため、北海道も石狩開発㈱に対する債権全額(約29億7500万円)を免除する に至った。 また、石狩開発㈱の資本20億円についても全額減資となったため、北海道が出資 していた資本4億円も無償で償却されるに至った。 石狩開発㈱は、 認可された再生計画案に従い、計300億円の増資を行っているが、 同300億円のうち100億円は北海道が現金出資している。 (90億円が銀行2社か らの借入(いわゆる起債)、10億円が一般会計からの借入) 債務免除を受けた石狩開発㈱が抱えていた負債約300億円については、①北海道 が現金にて出資した100億円部分を用いて各金融機関へ合計100億円を弁済し、 ②各金融機関に対する合計200億円の残債は債権を株式に振り替え(DES)、全額 弁済された形となった。 以上より、石狩開発㈱は、北海道が100億円、各金融機関が合計で200億円相 当の出資をした株式会社となり、再生手続開始申立前に存在していた負債は全て消滅 した。(土地賃貸借契約を締結した保証金債権者の保証金債権除く。 ) ※DES:Debt Equity Swap(負債と資本の交換の意であり、貸し手の立場からは債権を元手にした出資を意味する。) 民事再生手続開始から再生計画案認可決定までの概要 平成14年10月 民事再生手続開始決定 平成15年 2月 再生計画案提出 平成15年 3月 再生計画案認可決定 平成15年 4月 同決定確定 113 認可された再生計画案の内容 (1) 再生債権に対する権利の変更及び返済方法 再生債権 再生債権者総数 40名(うち保証金債権者24名) 確定再生債権総額 内 訳 654億8128万4808円 元本 (うち保証金債権者総額) 利息・遅延損害金 649億1377万3546円 (5768万7688円) 5億6751万1262円及び額未定 一般条項(権利の変更) ① 再生手続開始決定日以降の利息・遅延損害金は、再生計画の認可決定 が確定したとき全額免除を受ける。 ② 土地賃貸借契約を継続する保証金債権者債権を除く元本及び再生手続 開始決定日前日までの利息・遅延損害金は、再生計画の認可決定が確定 したとき全額免除を受ける。 未確定の再生債権に関する措置(法第159条) 異議等がある再生債権で、その確定手続が終了していないものは、再生 債権が確定したときに、前記一般条項の定めを適用する。 (2) 共益債権の表示及び弁済方法 未払共益債権及び開始決定日以降に発生する共益債権は随時弁済する。 (3) 一般優先債権の表示及び弁済方法 未払一般債権及び開始決定日以降に発生する一般債権は随時弁済する。 (4) 資本の減少 減少すべき資本の額 金20億円(400万株) うち北海道出資分4億円(80万株) 発行済株式400万株を無償で償却する。 資本減少の効力は、後記に定める新株式の払い込みがなされることを条件と して、払込期日の翌日に発生するものとする。 但し、払込期日の翌日が再生計画認可決定確定前であった場合は、再生計画 認可決定確定日に効力が発生するものとする。 114 (5) 新株式の発行 再生債務者は、株主総会の特別決議を経たうえで、取締役会を開催し、再生計画 の認可決定後、次の要領により新株式を発行することを決議する。 新株式の内容 株式の種類 償還株式 株式の数 6000万株 1株あたりの発行価格 500円 償還時期 各配当の時期 償還方法 配当可能利益の範囲内で1株当たり500円を償還 新株式の割当の方法 取締役会の決議に基づき割り当てる。 増加すべき資本の額 金300億円 払込期日 取締役会によって決議する日 115