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Page 1 胃瘻のトラブルを未然に防ぐ スキンケア、カテーテル管理の実際

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Page 1 胃瘻のトラブルを未然に防ぐ スキンケア、カテーテル管理の実際
Vol.
社会医療法人誠光会 草津総合病院におけるPEG管理の実際シリーズ
・
・
・つくろう、
つかおう、
まもろう
01 【創刊号】 いい胃瘻(PEG)
2009.09
[ペグ ケア レター]
編集・発行●株式会社 ジェフコーポレーション 〒105-0012 東京都港区芝大門1-3-11 YSKビル7F http://www.jeff.jp (03)3578-0303
( )
胃瘻のトラブルを未然に防ぐ
スキンケア、カテーテル管理の実際と
経腸栄養の合併症対策編
はじめに
近年の臨床栄養法で、
経腸栄養は欠かせないものになっています。
中でもPEG
(経皮内
視鏡的胃瘻造設術)
は、
経口摂取困難な患者さんに、
高い生活の質を維持しながら、
安全に
栄養を補給できる方法として急速に広まりました。現在、新規の PEG 患者さんの増加は
年間数万人のペースといわれていますが、
それと共に管理も長期化し、
一施設にとどまら
ず、
在宅移行患者さん、
他施設転院患者さんの急増を招き、
「PEG患者さんをいかに安全
に地域で支えるか」
は大きな問題となりつつあります。
こうした状況下で、
滋賀県草津市の誠光会 草津総合病院では、
院内のPEG 患者さんの
ケアを徹底するだけでなく、在宅の PEG 患者さんのケアをも見据えた地域的、総合
的ケアマネージメント活動に積極的に取り組んでいます。
当院のPEG患者さんのケアや栄養管理への取り組みを4回シリーズでご紹介
本紙では、
します。
全国各地で PEG 患者さんと奮闘されている皆様への愛情を込めたお手紙です。
CONTENTS[創刊号]
胃瘻のトラブルを未然に防ぐ
スキンケア、カテーテル管理の実際と経腸栄養の合併症対策編
❶ 誠光会 草津総合病院の特徴とPEG管理の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 01
❷胃瘻造設とその管理を「胃瘻患者管理シート」で一元化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 02
❸胃瘻トラブルに対応する2つのツール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 05
❹ 経腸栄養施行時の合併症とその対策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 09
01
PEG
CARE
LETTER
PEGのトータルマネージメント
誠光会 草津総合病院の
特徴とPEG管理の概要
社会医療法人誠光会 草津総合病院は、急性期病棟569床、医療療養型病棟50床、介護療養型病棟100
床を有する総合病院で、2008年9月、全国で2番目に社会医療法人に移行した。2003年に発足したNST
は2006年にはJCNT
(日本栄養療法推進協議会)認定NST稼動施設となった。
[NST の取り組みと構成]
誠光会 草津総合病院 NSTは、
急性期病棟チームと
療養病棟チームに分かれて活動しており、
それぞれが
定期ミーティングを毎週行っている。
介入症例数は、
月
平均延べ 65例程度である。
これまで、
「入院時初期評
価用紙の作成」
「
、摂食・嚥下障害への集学的アプロー
チ」
、
「栄 養 剤 の 固 形 化」
、
「中 心 静 脈 栄 養 不 適 正 メ
ニューのチェック法の考案」
といった活動のほか、
「地
域一体型NST」
への取り組みも行っている。
また、
医師、
看護師
(内視鏡技師)
、
管理栄養士、
病棟
草津総合病院の外観。滋賀県草津市の琵琶湖に程近い田園風景の中に
位置している
リンクナースで構成されるPEGチームが並列して存
在し、
毎週1回PEGカンファレンスおよび PEG患者
回診を実施している。
さらに、
嚥下・口腔ケアチームも
あり、
こちらは言語聴覚士、
歯科衛生士もメンバーに加
わり、
月2回の回診を行っている。
[PEG
(胃瘻)
患者さん情報の共有と管理]
一方、
当院は急性期から療養型までケアミックスの
医療が特徴のため、
PEG の患者さんは非常に多い。
入
院 PEG患者さんは2009 年 3月現在 93人に及び、
特に療養病棟の入院患者さんの約半数が PEG患者さ
NST構成メンバー
んという状況だという。また、在宅PEG患者さんは
27名、近隣医 療・福祉 施設に入 所中でケアに関る
PEG患者さんが27名おり、
総計150 名近いPEG患
者さんの管理に携わっている。
また、
PEG 交換件数は
年間270に達している。
この多数の情報を一元化していくために、
「胃瘻患
者管理シート」
(P3 参照)
を作成し
「PEGチーム」
が中
心となり、
スキンケア等の PEG 管理を行っている。
当院PEGチームが行う回診をサポートする
医療法人西山医院院長 西山順博先生(右端)と
継続看護課 NST専門療法士の山田圭子先生(左端)
左から2人目は病棟リンクナース
01
[PEG患者回診の実施]
*COMMENTS PEG 患者回診は各病棟リンクナースや NST栄養
「PEG交換は内視鏡下で」
士等が参加するPEG チームが中心となって行う。
当
院 NSTチェアマンである伊藤明彦先生
(臨床栄養セ
伊藤明彦先生 臨床栄養センター長兼消化器内科副部長
ンター長兼消化器内科副部長)
を、
継続看護課 NST
当院では基本的に年1回は経鼻内視鏡下で、必ずチ
専門療法士の山田圭子先生がサポートする。
また、
週
ューブが胃内に挿入されるのを確認してPEG 交換を
1回の回診には医療法人西山医院院長の西山順博先
行っています。
これはできるだけ安全な PEG 管理を
生も加わる。
西山先生は滋賀 PEG ケアネットワーク
実施しようという、
私と当院副院長の小山茂樹先生の
こだわりなのです。
在宅、
他施設の患者さんにも、
多少
の世話人で、
当院の非常勤医師である。
開業医として
大変ですが、
半年に1回は来院いただいて交換を受け
在 宅 PEG 患者さん の ケアをするかたわら、当院 の
てもらいます。
2009 年の交換件数は例年を上回る
PEG 造設、
交換、
PEG 患者回診のアドバイザー的存在
300ぐらいのペースですが、
その効果は誤挿入ゼロと
となっている。
いう数字に表れています。
また、
内視鏡で胃がんが見
患者さんにPEG 造設を行う前には、
NSTに
「胃瘻造
つかることもあり、
胃食道逆流が発見されれば迅速に
設依頼」
を提出し、
必ず栄養状態および PEG 造設の適
栄養剤の固形化を進める等、
内視鏡下での交換は効
応を検討する。
造設後はPEGチームが回診を行い、
病
果が大きいと考えています。
棟での PEG 管理のアドバイスを行っている。
02
PEG
CARE
LETTER
患者さんの情報を共有してQOL向上
胃瘻造設とその管理を
「胃瘻患者管理シート」
で一元化
当院は急性期から療養型までのケアミックス医療を実施し、常時100名を超える非常に多くのPEG患者
さんをケアしている。継続看護課 NST専門療法士の山田圭子先生に
「胃瘻患者管理シート」
による胃瘻造設
の管理について、ポイントをうかがった。
◉PEGカテーテルの種類
[PEG造設前のインフォームドコンセント]
PEGカテーテルは内部ストッパーと外部バンパーで抜けない構造
になっている。
内部ストッパーは
「バルーン
(風船)
型」と
「バンパー型」
の 2タイプがあり、
カテーテルは
「ボタン型」
と
「チューブ型」
の 2 種類
がある。
バルーンタイプ:バルーン内に蒸留水を注入して固定する。
交換は
水を抜いて行うため、
容易である。
長期間使用していると水の漏れ等
で、
抜去されやすくなる
(週1回の蒸留水の交換が必要)
。
バンパータイプ:カテーテルが抜けにくく、
長期間使用可能。
交換時
にやや圧迫や痛みを感じる。
ボタン型:目立たず邪魔にならない。
逆流防止弁の位置がカテーテ
ルにより異なるため、
注意が必要。
チューブ型:投与時に栄養チューブとの接続が容易。
チューブ内が汚
染しやすく、
注入後のフラッシングが必要。
事故抜去に注意が必要。
造設が決まった患者さんとその家族には、
医師から
PEGの必要性、
造設方法、
合併症等についてインフォー
ムドコンセントを行い、さらにNST−PEGコーディ
ネーターからも実際の PEGカテーテルや患者用パス
を使って、
造設直後から療養生活までの流れについて
説明します。
この目的は、
患者さんに造設後の生活に
ついて具体的なイメージを持っていただくためです。
山田圭子先生
継続看護課
NST専門療法士
ボタン型 バルーン
チューブ型 バルーン
ボタン型 バンパー
チューブ型 バンパー
出典 PDN
「胃ろうと栄養 TEXT BOOK 2008」
02
胃瘻患者管理シート *院内造設用*
*患者情報*
*胃瘻造設時情報*
様
患者名
病名
状態*
ID
病棟・施設名
1
主治医
*造設前の
状態*
Dr
造設医
身長
㎝
麻痺・拘縮
体重
㎏
(病棟記入)
)
有
無
痰の量
有
無
多い
HEE:
kcal
発熱(37.5℃↑)
投与カロリー
kcal
無
無
有
有
有
無
嚥下訓練
有 (
L)
気管切開
SaO2
径の太さ
ルームエアー
*造設後の
逆流
O2時
(
%
0
+1 +2 +3
*GF所見*
状態*
筋肉消失
0
+1 +2 +3
食道裂孔ヘルニア
有
無
TLC(
浮 腫
0
+1 +2 +3
指サイン
有
無
口腔汚染
0
+1 +2
イルミネーションテスト
有
無
嚥下状態
(
記入者
(
)
)
無
抗凝固薬
SaO2の変動
5
有(
異常所見
(
造設位置
有
% BP:
造設位置
体中部
体下部
(
CT後の造設可能
)
)
前庭
胃角
体中部
体下部
3
無
ボタン型
バンパー型
Fr
長さ
創痛
発熱(37.5℃↑)
状態*
無
有
無
半座位での食道への逆流
)
状態*
臥位での食道への逆流
ALB(
)
注入方法
PNI(
)
小弯
大弯
不可能
6
(
)
*造設1週目
の評価*
前(
%)
造設不可能の理由 (
)
*造設2週目
中(
%)
造設予定キット (
)
の評価*
後(
%)
*PEG前カンファレンスの内容*
右
抜糸
注入
無
注入トラブル
胃瘻評価表に記入
身長
㎝
の評価*
体重
㎏
(PEG回診時)
増
・
HEE:
記入者
8
嚥下困難
誤嚥性肺炎繰り返し
造設日
年
減圧目的
摂食拒否
月
その他
(
日
キーパーソン
妻
夫
長男
長女
嫁
(
)
PEG前のI C 妻
夫
長男
長女
嫁
(
)
目標
在宅
*出棟時の状態*
施設
経口併用
)
経口はお楽しみ程度
KT:
特記事項
(
月
日
kcal
投与カロリー
(
)
水分量
(
)
)
*退院時
身長
㎝
の評価*
体重
㎏
(PEG回診時)
IC日
増
HEE:
記入者
(
・
減
BMI:
)
PEGのみ
減
BMI:
7
造設目的
少量
半坐位
*造設1ヵ月
(
有
)
体位
)
投与カロリー
kcal
(
)
)
HR:
栄養剤の内容
BP:
水分量
朝)
SaO2:
記入者
(
)
GE後のKot
無
有
口腔ケア:
無
有
備考欄
経口摂取の内容)
12
[胃瘻患者管理シートの作成]
次回の交換予定:
(1)
胃瘻造設前のチェック項目
(図 ①―⑥)
①造設前の NST 回診で、
内服薬や患者さんの状態を確認し、
内容を記載します。
②HEE
(必要エネルギー)
…Harris-Benedictの式より算出
③上部消化管内視鏡検査
(GF)
…穿刺部位の確認と、
内臓誤
穿刺予防のためそのまま脱気せずにCT撮影を行い、
解剖
学的な適応を確認する。
④主観的栄養アセスメントを行う
(SGA)
。
⑤上部消化管内視鏡検査時の
「酸素飽和度の変動」
を確認し、
嚥下性
胃瘻の管理は造設前から始まります。
当院では胃瘻
は
「栄養療法のツールの1つ」
である、
ということを常
に念頭におきながら、
胃瘻患者管理シート( 上図)の内
容に沿って胃瘻造設前から退院までの一連の管理を
行っています。以下に胃瘻患者管 理シート記入の
ポイントを解説します。
呼吸器合併症対策と歯科衛生士による専門的口腔ケアを行う。
⑥予後推定栄養指数(O−PNI)を算出し、
当院の基準値(小
野寺らの予後推定栄養指数 =38)以上であることを確認。
(右ページ COMMENTS 参照)
03
(
チューブ型
バルーン型
*造影時の
透視下
可能
体上部
キットの型
人口呼吸器
脂肪消失
4
% BP:
製品名
*造設前の
(PEG前GF時)
中:
) (
酸素
少ない
部位:
2
記入者
(
意志疎通
無
BMI:
% BP:
記入者
Dr
血圧の変動
前:
後:
内服薬(抗凝固薬の有無も含む)
家族連絡先
(
SaO2の変動
*造設時の
生年月日
PEG №
HRの変動
(
ハナPull法
HR:
イントロデューサー法
透視下
HR:
(2)
造設直前のチェック項目
(図 ⑦)
)
−
無
胃壁固定
PEG 造設前のカンファレンスで倫理的・栄養学的・解剖学
的適応について検討された内容を記入します。
9
有
⑦PEG 前カンファレンス内容…その後の療養生活で介護者
開腹補助下
が使用しやすいPEGカテーテルのタイプ(ボタン型・チュー
ブ型)、
栄養剤の形態に基づく径(20Fr・24Fr等)の選択等。
特記事項
HR:
胃角
(
前壁
小弯より
月
PEG-J
大弯より
有
月
小
中
多い
無
有
(
右側
左側
臥位
有
(
右側
左側
)
(
5%TZを少量開始食道への逆流を確認
右側きみ
左側きみ
有
有
)
エア抜きの必要性
(
0
+1 +2 +3
筋肉消失
0
+1 +2 +3 ALB (
)
浮 腫
0
+1 +2 +3 TCL (
)
0
+1 +2 +3 PNI (
無
有
栄養状態:
中等度不良
良
+1 +2 +3
筋肉消失
0
+1 +2 +3 ALB (
浮 腫
0
+1 +2 +3 TCL (
)
口腔汚染
0
+1 +2 +3 PNI (
)
(
)
不良
検査データー
)
*COMMENTS 「予後推定栄養指数(O−PNI)38以上が
当院の造設の目安」
胃瘻評価表に記入
)
無
有
)
0
抗凝固薬
無
胃瘻評価表に記入
脂肪消失
嚥下状態
●PEG 造設に関する項目
⑧造設日⑨胃壁固定の有無… PEG 造設後 2 週間以内の
PEG カテーテル事故
(自己)
抜去トラブルは、
ほぼ胃穿孔と
同じ危険な状態である。
「造設日
(胃壁固定の有無)
」
記入は
トラブル対処に重要な要素。
⑩造設位置…スキントラブルヘの対応、
次回交換時の情報 として重要。
●PEGカテーテルの名称・種類・規格
⑪メーカー名と製品名、
規格を記載… PEGカテーテルに印刷
されている情報は、
時間の経過によって消えてしまうこと
もあるため、
バルーン型かバンパー型か、
チューブ型かボタ
ン型か、
さらに径 (Fr)とシャフトの長さを記載しておく。
●交換予定日
⑫次回の交換予定日…バンパー型は 4 ∼ 6 か月目の交換、
バルーン型は1か月に1回の交換が原則。
有
検査データー
)
抗凝固薬
無
)
)
(
)
半固形栄養
脂肪消失
嚥下状態
ml
(
(
口腔汚染
㎝
肺雑
)
量ずつ開始
無
(
日に変更
排液量
無
入トラブル
PEG 造設後の情報、
特に在宅や施設への申し送り時に、
その
後の PEG 管理やスキンケアに必要なため、
以下の項目を必ず
チェック、
記載しておきます。
11
出血
無
(3)
造設後のチェックポイント
(図 ⑧―⑫)
ml
㎝
翌日
座薬の使用
有
)
)
日に変更
固定水
㎝
10
真前壁
有
栄養状態:
中等度不良
良
昼)
不良
夕)
伊藤明彦先生 臨床栄養センター長兼消化器内科副部長
当院の新規PEG患者さんの数は徐々に減少してい
ます。その理由の一つとして、NST回診、PEGカンフ
ァレンスでの栄養評価で、PEG造設の意味があるか
を考えるようにしていることが挙げられます。
年
月
当院では小野寺らの予後推定栄養指数O−PNI:38
日頃
という値を、PEG造設を行うかどうかの一応の基準と
しています。38未満の場合はPEG造設の侵襲が大き
2009.2.14 改定 草津総合病院 NST・PEG
な負担となるため、まず経鼻胃管やTPNで栄養改善
を図り、改善が見込める患者さんに対して、PEGの適
[情報を共有して管理]
応と考えています。
その他、在宅へ移行できる場合は積極的に造設し
「胃瘻患者管理シート」
を利用して、
PEG造設前から
ますが、超高齢患者さんの場合は、38以上でも慎重
退院まで、
PEG患者さんに関わる全てのスタッフが情報
に検討します。PEG造設によってかえって患者さんに
を共有することは、
患者さんやそのご家族のQOL向上
負担がかかることもあるからです。
に大変役に立ちます。
情報の共有のためには院内の
コーディネーターが中心となり、
各職種が積極的に関わ
小野寺らの予後推定栄養指数
(O−PNI)
ることができるチーム医療のシステムを構築すること
O−PNI=10×血清アルブミン値
+0.005×総リンパ球数
が重要と考えています。
04
◉アセスメントとケアを一体化
PEG
CARE
LETTER
03
胃瘻トラブルに対応する
2つのツール
誠光会 草津総合病院では、
「胃瘻評価スケール」と「胃瘻ケアフローチャート」という二つのツールを用い、
「PEGチーム」が中心となって胃瘻の管理やスキンケアを行っている。日々のPEGケア、スキントラブルへの
具体的な対処について、西山順博先生にお話をうかがった。
[胃瘻評価スケールと
胃瘻ケアフローチャートが基本]
◉胃瘻評価スケールの使い方
胃瘻評価スケールは、
胃瘻特有の観察項目を抽出
し、
誰が使用しても簡便に同一の評価が得られるよう
当院では、
滋賀PEG ケアネットワーク監修の
『PEG
になっている。
カテーテルの状態、
漏れの状態、
老廃物
アセスメントハンドブック』
に収められた
「胃瘻評価ス
付着の状態、
皮膚の状態等のチェック欄に、
トラブルの
ケール」
「
、胃瘻ケアフローチャート」
のツールを用い
原因区分と部位を組み入れており、
これらの評価を点
て、
PEGトラブルに対応しています。
これらは大津市民
数化し、
結果を経時的に記載して病棟で管理している。
病院の看護師
(中島泉先生・吉田すみ子先生他)
が試
「胃瘻評価記録欄」
に合計点数を記載することで、
病棟
行錯誤して作り上げたものを滋賀PEG ケアネットワー
では前回よりも数値を良くしようという目的意識が生
ク世話人会での検討を経て完成したものです。
まれる。
【胃瘻評価スケール】●原因区分 漏れ:M ストッパー:S チューブ:T 氏名
PEG:No
造設日
最終交換日
評価点数
観察項目
カテーテルの状態
漏れの状態
老廃物付着の状態
発 赤
湿 疹
水 疱
皮膚の
状態
があり変形も見られる場合は
「2」
。
ボタン型のカテーテルには逆流防
使用キットの種類
特記事項
びらん
・潰瘍
肉 芽
止弁があるが、
キャップを開けたときに内容物が逆流する場合は、
こ
評価段階
0
汚れなく変形もなし
の破損と考えられ、
交換が必要となる。
保険上、
バンパー型は造設後
1
汚れはあるが変形はなし
汚れがあり変形している (a: チューブ b: 逆止弁 c: キャップ )
4 か月から交換が可能なため、
当院では 4∼6 か月ごとの交換を基
2
3
閉塞している・破損している (a: チューブ b: 逆止弁 c: キャップ )
0
なし
1
時々漏れる
(体位により漏れる etc.)
●漏れの状態では、
腹部やチューブを手で触り、
瘻孔から漏れがない
2
必ず漏れる
状態は
「0」
、
滲んでくる程度の漏れは
「1」
、
漏れで衣類が濡れている
0
なし
1
少量の汚染がある
(容易に除去できる)
場合は
「2」
となる。
「1」
のときどき漏れる状態では、
胃内にガスが溜
2
多量の汚染がある
(除去困難)
0
なし
行う。
長期的にそのような状態を繰り返す患者さんは便秘もあると
1
軽度の発赤がある
(乾燥している)
考えられ、
排便コントロールも行う。
「2」
以上で胃にガスが溜まる患
2
重度の発赤がある
(湿潤・滲出液がある)
なし
者さんは常に漏れている状態になり、
ガス抜きだけでは対応できな
0
1
あり
0
なし
1
破れていない
●皮膚の状態は、
発赤、
湿疹、
水疱、
びらん・潰瘍、
肉芽の 5つの症状
2
破れている
を観察する。
例えば発赤は、
ストッパー等の接触による場合や、
漏れ
0
なし
1
びらん
によって常に湿潤していることが原因の場合もあり、
乾燥している
2
潰瘍
3
壊死
0
なし
1
乾燥していて滲出液がなく色調に赤みなし (良性)
2
上記に加えて、
赤みがある 3
色調の変化と共に湿潤・滲出液がある
4
上記に加えて、
出血がある
5
膿様の滲出液がある
形化栄養を試みる。
か、
湿潤しているかに分けて評価を行う。
皮膚の状態は3つの原因区
分
(漏れ:M、 ストッパー:S、 チューブ:T)
のどれによるものかを
記入する。
(左図記入例参照)
(不良)
※
11
/16
カテー
テル
0
漏れ
1
老廃物
発赤
1
M1
(0-12)
❶
湿疹
0
い状態。
いため、
胃蠕動促進剤の投与などを行う。
さらに状態が悪ければ固
【胃瘻評価記録欄】 記 入例
評価日
本にしている。
評価スケール
「3」
のカテーテル閉塞は注入物が落ちな
まっていることが疑われ、
その場合は注入の前に減圧
(ガス抜き)
を
*
「胃瘻評価スケールに基づく胃瘻ケアフローチャート」は、造設 2 週間後以降の胃瘻患者を評価対象としています。
項目
●カテーテルの状態を観察し、汚れ、変形がなければ評価スケール
「0」
、
汚れはあるが変形はない場合は
「1」
。
チューブ型の場合は、
汚れ
水疱
0
びらん
・潰瘍
肉芽
アセスメント・プラン
・アクトシン 塗布
T2
1
・Y パフ
(3-6)(9-12)・カテーテル押込みぎみに
Ⓡ
❷
評価
点数
記入者
サイン
6
山田
❸
05
❶漏れ
(M)
を原因区分とする発赤評価点数
「1」
❷カッコ内の数字は PEG を時計に見立て、
頭側を 0 時
(12 時)
、
足側
を 6 時として記録したもの
❸胃瘻ケアフローチャート
(右ページ参照)
に従って、
原因区分、
評価
段階に応じた処置を行う
◉胃瘻ケアフローチャートの使い方
●評価スケールが1なら、
看護師がケアができる範囲だが、
2 以上は PEG
胃瘻評価スケールをもとに、週1回の PEG 患者さ
あれば NST・PEGコーディネーターに連絡、
コーディネーターが PEG 回
チーム等の診察とアドバイスの必要がある。
当院では 2 以上の該当項目が
ん回診時にケアプランを立て、
病棟リンクナースに連
診シートを作成し、
回診を行う。
●皮膚の状態の原因区分
「漏れ」
「
、ストッパー」
「
、チューブ」
に従った対応を
絡する。
日々変化する胃瘻の状態に対応するため誰で
行う。
症状がひどい場合は薬品塗布の指示も参照する。
もケアプランが変更しやすいように、
スケールの点数
●先輩看護師が付けた評価について、
後輩が学んだり対応方法を経験的
ごとにケアプランを示した
「胃瘻ケアフローチャート」
に引き継ぐことができる。
皆が興味を持って胃瘻を見て、
PEG ケアを体験
できる、
という教育効果も大きい。
を合わせて利用する。
(下図)
【胃瘻ケアフローチャート】
瘻孔完成[PEG造設2 週間以降]
カテーテル
の状態
漏れの
状態
老廃物
付着の状態
皮膚の状態
発 赤
[原因]
1
拭き取り
徹底
ワセリン塗布
Y パフ
2
[原因]
[原因]
[原因]
ストッパー
チューブ
漏れ
[対策]
[対策]
[対策]
[対策]
[対策]
ガス抜き
微温湯洗浄
体位の工夫
刺激除去
固定の
工夫
ガス抜き
微温湯洗浄
体位の工夫
刺激除去
1
1
1
1
1
1
拭き取り
の徹底
対策の
徹底と
Y パフ
対策の
徹底と
薄いガーゼ
保護
対策の
徹底
対策の
徹底と
専門医に
コンサルト
対策の
徹底と
専門医に
コンサルト
2
2
2
2
2
交換要
(主治医に
相談)
上記に加え
注入前の
ガス抜き
微温湯洗浄
(付着物
の除去)
Yパフ
3
多い場合は
専門医に
コンサルト
半固形化
の検討
同上
上記に加え
リンデロンVⓇ
塗布
[原因]
ストッパー
ストッパー (クランプ
などの
付属品)
漏れ
上記に加え
リンデロンVⓇ
塗布
びらん・潰瘍
水 疱
[原因]
[原因]
漏れ
ストッパー
チューブ
[対策]
[対策]
[対策]
[対策]
[対策]
刺激除去
ガス抜き
微温湯洗浄
体位の工夫
刺激除去
固定の
工夫
押し込み
気味
1
1
1
1
1
対策の徹底と
アクトシンⓇ
塗布と薄い
ガーゼ保護
対策の徹底と
接触位置を変え
アクトシンⓇ
塗布
対策の徹底と
肉芽の方向に
カテーテル
を倒す
2
2
2
2
上記に加え
専門医に
コンサルト
対策の徹底と
アクトシンⓇ塗布
皮膚保護材貼用
専門医にコンサルト
上記に加え
専門医に
コンサルト
上記に加え
リンデロンVⓇ
塗布
3
3
3
同上
同上
同上
対策の徹底と 対策の徹底と
皮膚保護材 皮膚保護材
(ハイドロ
(ハイドロ
サイトⓇ)貼用 サイトⓇ)貼用
同上
◉基本ケア
◉漏れ、
滲出液に対するケア
❶微温湯で濡らした布
(ガーゼ)
による拭き取り
〔2 ∼ 3回 /1日〕
❷外部ストッパーの位置を変える
〔カテーテルを回転・上下動させストッパーの位置を変える〕
❸外部ストッパーを押し込み気味にする
〔カテーテルの無理な引っ張りを避ける〕
❷❸が 瘻孔部への刺激(摩擦・圧迫)の除去
①汚染時は必ず交換
②外部ストッパーと皮膚の距離が10mm 以上なければ禁忌
● 通常 ⇒ ティッシュこより、
Y ティッシュ、
Y パフ
(P8 参照)
●出血を伴っている場合 ⇒ ガーゼこより、
Y ガーゼ
*
「胃瘻評価スケールに基づく胃瘻ケアフローチャート」は、
造設 2 週間以降の胃瘻患者を評価対象としています。
[原因]
チューブの
無理な
引っ張り
2
上記に加え
リンデロンVⓇ
塗布
[原因]
肉 芽
肉 芽
4
上記に加え
専門医にて
焼灼療法
◉塗り薬の使用注意事項
●漏れや滲出液が多い場合 ⇒ クリームタイプを使用
※前回の塗り薬はしっかり洗浄・拭き取り後に塗布する事
[監修]滋賀 PEG ケアネットワーク 2009年 8月
06
5
上記に加え
抗生剤の
投与
看護師対応
1
●ボタン型
細い綿棒で拭く
●チューブ型
ブラッシング
・ミルキング
[原因]
湿 疹
[スキンケアの手順]
◉カテーテルの構造を考慮しながら観察
チューブかボタンか、バンパーかバルーンか等、カ
テーテルのタイプを理解した上でその状態を観察しま
す。
カテーテルが垂直で外部バンパーと体表との距離
が1.5 ㎝程度あれば、
スキントラブルは発生しにくい状
態です。
しかし右図のようにカテーテルが斜めに引っ
張られていると、
瘻孔の片側がめくれあがり、
肉芽、
皮
膚炎、
皮膚潰瘍が形成されます。
このような場合は、
胃
内の潰瘍形成も疑われます。
PEGトラブル
[スキンケアの実際
(PEG患者回診)
]
PEG患者回診の対象は、
造設1週間目、
2 週間目、
1
まずカテーテルのタイプやシャフトの長さ、
交換時期
か月目の患者さんと胃瘻評価スケール2 以上の項目が
を必ず確認します。
その後に瘻孔の状態、
皮膚の状態
あり回診依頼が出た患者さんです。
スキンケアの前に、
を診ていき、
トラブルに対応します。
◉造設後の抜糸
(1週間目)
・・・・・・造設時に胃壁固定した糸を抜糸。
創部を観察し、スキントラブルの有無を確認
抜糸箇所を消毒する
抜糸後、PEGでの新しい生活が始まる
◉PEGの状態のチェック・・・回診は日々の状態を把握している病棟リンクナースとともに進められる。
PEGカテーテルの回転、上下動を行い、皮膚状態等をチェック
PEGカテーテルに「Yパフ」をはさむ(右頁コメント参照)
PEG患者回診セット(右頁コメント参照)が画面右下に見える
◉滲出液、
肉芽への対応・・・PEG の瘻孔に肉芽が出来てしまった患者さんへのスキンケア。
PEGカテーテルを軽く引き、瘻孔の肉芽の状態を確認
出血を伴うため、20%硝酸銀溶液で焼灼
07
綿棒で丁寧に焼灼する
[ボタン型、
チューブ型の使い分け]
[外部バンパーと体表との距離は1.5㎝程度が理想]
ボタン型 PEGはカテーテルのシャフトが最長 5cm
外部バンパーと体表との距離は1.5㎝程度が理想です
なので、
皮下脂肪が厚い場合はチューブ型の適応で
(下図1)
。
栄養状態の改善や栄養過多によってこの距離
す。
また、
穿刺部位が出血しやすい場合も、
複数回の穿
が短くなり、
バンパー埋没症候群を引き起こす恐れがあ
刺が必要なイントロデューサー法
(セルジンガー法・ダ
ります。
一方バルーン型では、
この距離が長いと、
バルー
イレクト法)
は避け、
プル/プッシュ法でチューブ型を造
ンが十二指腸に引き込まれてしまう危険があります。
設します。
しかし、
プル/プッシュ法は、
創部感染が問題
となりやすく、
例えば口腔ケアで改善できない汚れが
ある等、
感染の可能性が高いケースや、
食道がん、
頭頸
部がんの患者さんへの PEG 造設で、
患部のがん細胞
を胃瘻部に持ち込んでしまうインプランテーションの
可能性のある場合は禁忌となります。
角度は 90°
その他、
食道裂孔ヘルニアで胃食道逆流の可能性が
「あそび」
は1.5cm 程度
高い場合は、
造設後に空腸チューブへの移行も行いま
すのでプル/プッシュ法を選択します。
胃瘻評価スケール点数 0 点→満点の胃瘻
PEGカ テ ー テル に は「栄 養 投 与チューブ」
「減 圧
図1 理想のPEG
チューブ」
「ボーラス投与チューブ」
等が付属し、
逆流防
止弁の位置や栄養剤の内容によって使い分けます。
バ
◉PEG回診セット
ルーン型は週1回、
バルーン内蒸留水の交換が必須で、
1)
基本ケア:洗浄もしくは拭き取り
4つ折ガーゼ・霧吹き( 微温湯が入ったもの)もしくは、ウェットティッシュ
2)
軟膏
プロバデルム ®・プロスタンディン ®・ワセリン
3)
皮膚保護剤
ハイドロサイト ®・ペグケアー ®
必ず同量の新しい蒸留水を加水することが重要です。
スキンケアの最後には、
無理な引張りが無いように、
カテーテルを押し込み気味にしておきます。
4)
肉芽焼灼
蒸留水・生理食塩水・20%硝酸銀溶液・ワセリン・綿棒
5)
その他
Yガーゼ・Yパフ・ペンライト・テープ
(サージカル・ビニール)
®
綿棒
(極細タイプ)
・プッシュ綿棒 (10%ポピンドンヨード+綿棒)
キシロカインゼリー ®・手袋・手指消毒用アルコール・ゴミ袋
回診リスト
(胃瘻管理シート・胃瘻評価表)
*COMMENTS 「Yパフ」
の考案とPEG患者回診セット
山田圭子先生
継続看護課 NST専門療法士 「漏れの対策としてティッシュ
*COMMENTS こよりの利用が浸透しています
「回診時は全身状態も同時にチェック」
が、当院では、化粧用パフをY字
にカットした「Yパフ」を使用して
います(写真上)。こよりを作る
西山順博先生
医療法人西山医院 院長 手間が省け、また、二重、三重に
回診時に胃瘻を詳しく評価するのはPEGチームで
こよりを巻くことで起きる皮膚の
すが、
NST本体、
嚥下・口腔ケアチームも胃瘻を含め
引っ張りによる肉芽形成の恐れも
診ています。
それぞれ専門箇所以外の患者さんの状態
低減します。老廃物の付着は、注
を診て、
問題があれば報告します。
PEGチームから
「こ
入後にしっかり拭き取ることで防止できます。在宅で
の患者さんは嚥下訓練によって食べられるようになる
は、ウェットティッシュを使用し、食後に口を拭くのと
かもしれない」
という報告を行うこともあるのです。
同じように、注入後に「おなかの口」の周りを拭いて
PEGチームでは、
①口腔と嚥下の状態を観察、
②上
ください、と指導しています。」
腕で脂肪の付き具合を観察、
③大胸筋
(胸部)
・大腿
また、回診時に必要なすべての物品をセットにして
四頭筋
(太もも)
で筋肉の付き具合を観察、
④下腿前
院内の持ち歩き用にカゴに入れてあります(PEG患
面・仙骨部で浮腫の程度を観察、
⑤最後にPEG を観
者回診セット・写真下)。
察するように指導しています。
08
04
PEG
CARE
LETTER
◉安全な栄養投与を目指して
経腸栄養施行時の合併症と
その対策
胃瘻周囲のトラブル防止に万全な管理を行っても、経腸栄養の投与自体に問題が生じれば元も子もない。
経腸栄養の投与による合併症は、消化器症状、機械的合併症、代謝性合併症がある(表1)。臨床栄養センタ
ー長兼消化器内科副部長の伊藤明彦先生に合併症対策や経腸栄養投与時の注意点についてうかがった。
[非生理的な栄養摂取による
微量元素の欠乏]
◉消化器系合併症
◉代謝性合併症
1.胃食道逆流;食道裂孔ヘルニア
2. 悪心、
嘔吐;胃排出能の低下
3. 誤嚥性肺炎;Mendelson 症候群
・不顕性誤嚥
4.下痢
5.ダンピング症候群
6.便秘
まず、
経腸栄養による栄養管理の大きなポイント
は、
「毎食まったく同じ内容のものを、
まったく同じ方
法で提供し続ける」
という非生理的な状態であること
1. 脱水
2. 電解質異常
3. 糖代謝異常
・高浸透圧性非ケトン性昏睡
4. 肥満
5. 必須脂肪酸欠乏
6.ビタミン欠乏
7.微量元素欠乏
・銅欠乏による貧血、
白血球減少
・亜鉛欠乏による皮膚炎、
創傷治癒遅延
・セレン欠乏による心筋症、
QT延長
◉機械的な合併症
を理解しなければなりません。
したがって長期管理の
合があります。
1.PEG による機械的刺激
バンパー埋没症候群など
2. 瘻孔周囲の漏れなどによる
スキントラブル
3.PEG の汚染、
閉塞、
破損
微量元素については、
従来から経腸栄養剤は銅‐亜
表1 合併症の種類
PEG患者さんでは、
普段めったに診ることのない症状
を呈する微量元素欠乏症や代謝性合併症等に陥る場
鉛比に問題があると言われてきました。
われわれが
行った調査でも、
いわゆる微量元素強化型の経腸栄養
剤を使っても大きな効果が出ない、
という結果になっ
ており、
結論から言うと、
経腸栄養剤に含まれる亜鉛
の量そのものが十分ではないと考えられます。
ま た、空 腸 へ 栄 養 剤 を 投 与 す る Jチ ュ ー ブ
(PEG‐J)
患者さんとPEG患者さんの血清の亜鉛濃
◉Mendelson 症候群
◉不顕性誤嚥
・急速かつ多量の胃内容物を
・知らず知らずのうちに少量の
誤嚥する場合
口腔咽頭分泌物や胃液を
・化学性肺炎
(pH<2.5)
繰り返し気道内へ吸引する
・気管支鏡による洗浄
・嫌気性菌や G
(‐)
桿菌による
・ARDS に進展しやすい
細菌性肺炎を併発する
・ステロイドが有効
・口腔ケア、
呼吸リハが重要
度を比較した結果、
PEG‐J 群で有意に低値となりま
をPEG‐J
した。
さらに、
亜鉛含有製剤
(プロマックⓇ)
患者さんの胃へ投与して亜鉛濃度を測ったところ、
今
度は極端に高値となりました。
この理由は、
亜鉛を吸収
する箇所が十二指腸から小腸上部で、
PEG‐J患者さ
図1 誤嚥性肺炎の分類
んでは栄養剤が吸収部位の肛門側に投与されるため、
と考えられます。
また、
亜鉛の投与で血清亜鉛値が急
①半座位での投与
(褥瘡対策の面からは 30°又は 90°
)
上昇したのは、
単独投与したため他の成分との拮抗が
∼投与終了後も1hは臥位にしない
無く、
純粋に亜鉛のみを吸収できたということです。
②栄養剤の投与速度を落とす
我々は常にどんな成分がどこで吸収されるかを考慮
∼場合によっては 24h持続注入
(50mL/h以下)
③胃内容、
気道吸引内容物のモニタリング
すべきであり、
特に代謝性合併症の場合、
意思表示が
④胃排出能を高める薬剤
できないPEG患者さんの早期発見は困難で、
詳細な
∼ガスモチン ®、
ナウゼリン ®、
六君子湯 ® など
モニタリングが不可欠であることを強調しておきたい
⑤排便コントロール
と思います。
⑥栄養剤の固形化、
粘度調整食品
⑦PEG-J
図2 逆流対策
09
[造影検査による誤嚥性肺炎対策]
胃食道逆流が減少
誤嚥性肺炎の予防
合併症の中では、
誤嚥性肺炎
(図1)
が最も重篤で、
死の転帰をとることも少なくありません。
当院では、
誤嚥性肺炎の引き金となりやすい、
胃食
道逆流をできるだけ防ぐ目的で図2のような逆流対
策を実施しています。
また、
PEG 造設翌日には、
胃瘻か
らの造影検査を実施して
「造影時の状態」
を記録し、
逆
下痢の軽減
胃蠕動刺激への効果
糖尿病に対する効果
流の危険性をチェックします。
注入時の体位を考えて、
半座位と右半座位、
臥位と右側臥位の4枚を造影し、
注
入した造影剤が食道へ達してしまわないか確認しま
栄養剤リークの
改善
注入時間の短縮
褥瘡対策
図3 固形化の利点
す。
食道への逆流の有無と程度、
十二指腸への流出状
◉下痢の発生メカニズム ①単位時間当たりの栄養剤の量②栄養剤の浸透圧
況を確認し、
注入食の形態や体位を決定します。
逆流がなければ、
少量の液体栄養剤を投与開始し、
徐々に増量して1週間以内に必要量全量投与にもって
①投与速度を落とす、
場合により24h持続注入
②浸透圧を下げる、
栄養剤を薄める
③粘度を上げる、
流動性を低下させる
・食物繊維;ゲル化、
保水機能
・固形化
④栄養剤の変更
⑤乳酸菌製剤、
止痢剤
∼整腸剤、タンナルビン ®、アドソルビン ®、ロペミン ® など
いきます。
長期絶食後であれば、
消化態栄養剤を選択
する 等 配 慮しま す。ち な み に2007年 の1年 間 に
PEG 造設後チューブ造影を実施した50 例中、
34例
が逆流なしと診断されました。
臥位で少量の逆流が認められた症例は10例でした。
こ の よ う な 場 合 は、5 % ブ ド ウ 糖 液500mLを
100mL/h 程度の速度でゆっくり投与して逆流症状を
図4 下痢対策
再チェックします。
問題が無ければ、
液体栄養剤を少量
から開始し慎重に増量していきます。
◉病態 胃切除後または腸瘻
(PEG-J)
による栄養管理中に、
高張な食物=経腸栄養剤が急速に腸内に入るために生じる
一方、
半座位でも大量の逆流がみられる症例は50
①早期ダンピング
・食後 20 ∼ 30 分で生じ、
1∼2時間持続する
・高張な食物が急速に入ったため、
腸管内腔に水分が移動し、
循環血液量が低下する
②後期ダンピング
・食後2∼3時間で生じ、
30 ∼ 40 分持続する
・食事による一過性の過血糖からインスリンが過剰に分泌され、
低血糖となる
例中6例に認められました。
このような患者さんには
液体栄養剤の投与を中止し、
半固形化栄養剤で対処し
ています。
栄養剤の固形化は逆流対策だけでなく、
下
痢や栄養剤のリークの軽減、
注入時間の短縮等いろい
ろな効果が得られるので、
今後も利用機会は増えるだ
◉対処方法
①投与速度を落とす、
場合により24h持続注入
②浸透圧を下げる、
栄養剤を薄める
③糖尿病用栄養剤に変更する
④食後過血糖改善薬を使用する
ろうと感じています
(図3)
。
[下痢対策]
図5 ダンピング症候群
経腸栄養剤の合併症で多いのが下痢です。
まず感
◉病態 ①栄養剤の投与速度が速く、
糖の処理が
追いつかず、
高血糖になる。
②尿糖が増え、
尿量が増加し、
脱水となる。
③血漿浸透圧が上昇し、
意識障害を呈する。
染を否定することが最も重要です。
それ以外の下痢の
原因は、
単位時間あたりの栄養剤の量や浸透圧の影響
が考えられますが、
当院では、
投与速度の減速
(場合に
◉症例 90 代女性
よっては24 時間持続投与に切り替え)
、
浸透圧を下げ
うっ血性心不全、
PEG、
糖尿病の指摘無し
脳梗塞後遺症、
H18.1.22 NST;エネルギー必要量1000kcal
H18.1.24 F2αⓇ700kcal+テルミール Ⓡ2.0α400kcal
H18.1.28 発熱
H18.1.29 脱水、
意識障害
H18.1.30 FBS
(空腹時血糖値)1237mg/dL、
非ケトン性浸透圧性昏睡と診断
大量輸液、
インスリン治療
H18.3.4 内服薬で血糖値安定、
インスリン不要
内服薬不要
H18.3.9 タピオンⓇ800kcal で血糖値安定、
る
(栄養剤を薄める)
、
栄養剤の変更、
乳酸菌製剤や止
痢剤の利用等で対処しています
(図4)
。
また、
栄養剤
の流動性を低下させる方法として前述した半固形化栄
養剤の投与も考慮することがあります。
その他、
ダン
ピング症候群
(図5)
や水分、
高浸透圧性昏睡
(図6)
等
にも十分注意しながら管理していくべきです。
図6 非ケトン性高浸透圧性昏睡
10
*COMMENTS ためには、病院内で中心となるスタッフが必要不可欠で
「終わりに∼NST-PEGコーディネーター
および病棟リンクナースの重要性∼」
す。つまり、システムを前進させるためには医師からの
目線だけでは不可能であり、患者さんの目線に最も近
い病棟リンクナースと、それを束ねるNST−PEGコーデ
伊藤明彦先生
社会医療法人 誠光会草津総合病院
臨床栄養センター長兼消化器内科副部長
ィネーターの存在は非常に重要です。幸い周辺の施設
でもそうした窓口になって退院後の地域連携等にもよく
ご協力いただいている方がおられますので、次号以降に
今回は、
胃瘻患者管理シート、胃瘻評価スケール、胃
瘻ケアフローチャート等を駆使した当院でのPEG造設
ご紹介したいと思います。
から退院までの管理システムの概要と、ケアの方法を中
しかし、そういうキーパーソンの育成はなかなか難し
心にご紹介しました。
いのも事実です。そうした存在を認めてもらえる病院で
専門医師やPEGの専門スタッフだけでなく、一緒に
なければ成立しませんし、このようなコーディネーター
PEGケアに関わるあらゆる職種のスタッフ、あるいは、
が扱わねばならない領域は、医師の価値観とも、学会の
患者さんご自身にも正しいPEG管理を行っていただく
価値観とも違う独特の世界だと思います。周囲にその存
ために必要なシステムは何か、試行錯誤しながら構築し
在価値を認めてもらうことも難しいのです。看護師等、
てきました。 コメディカルの地位の向上が、例えば、PEG・在宅医療
顧みると、いくら良いパスやスケール、チャート等のツ
研究会(旧 HEQ研究会)で開始した認定制度等で図れ
ールが揃っていても、それに基づく活動を実践していく
ればと期待しています。
次号では、
PEGチームと密接に活動するNSTや嚥下・口腔ケアチーム等の紹介を通じてPEG患者さん
の栄養管理の実際や経腸栄養法の投与法
(半固形化栄養剤の調製、
投与管理等)
、
外来 PEG患者さんの
NST 的アプローチ等について御紹介します。
編注:取材した先生方の肩書きは、
改訂に伴い変更しています
(2011年11月現在)
。
2011年11月改訂
11
MPC・L05・1111・JF
Fly UP