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寄稿 次期薬価制度改革に向けて

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寄稿 次期薬価制度改革に向けて
J P M A
2015年9月号 No.169
N E W S
L E T
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Contribution|寄稿
次期薬価制度改革に向けて
2015年6月10日、3 ヵ月ぶりに中央社会保険医療協議会 薬価専門部会(以下、薬価専門部会)が開催され、次期薬価
制度改革に向けての議論がはじまりました。また、6月30日には経済財政諮問会議が取りまとめた
「経済財政運営と改
革の基本方針2015」が閣議決定され、来年度予算編成に向けての議論が本格化することになりました。
一方で、中期的な政策課題として、政府は2020年度の基礎的財政収支の黒字化を目指していますが、経済再生が順
調に推移したとしても現時点で9.4兆円の赤字額(6.2兆円という試算も)が埋められていないという課題にどのように対処
していくのか。さらには2025年にいわゆる団塊の世代が75歳以上に到達することを前提とした社会保障制度改革の道
筋をどうつけていくのか。こうした2つの大きなターゲットイヤーを5年後・10年後に控え、医薬品産業を取り巻く環境は
今後劇的に変化し、まさにパラダイムシフトが起きようとしているといっても過言ではないと思います。
このような状況を踏まえ、本稿では、次期薬価制度改革における主要テーマにつき、業界としての考え方を、私見を交
えながら論述していきたいと思います。
加茂谷 佳明(日本製薬団体連合会 保険薬価研究委員会
委員長)
経済財政運営と改革の基本方針2015
本論に入る前に、前述した「経済財政運営と改革の基本方針2015」(以下、骨太方針)について若干触れておきたいと思
います。
今回の骨太方針では「後発医薬品に係る数量シェアの目標値の再設定」が注目されていますが、これ以外にも当業界に多
大な影響を及ぼしかねない事項が数多く盛り込まれています。
まず、「基本的な考え方」
として
「これまで3年間の経済再生や改革の成果と合わせ、社会保障関係費の実質的な増加が高
齢化による増加分に相当する伸び(1.5兆円程度)
となっていること、経済・物価動向等を踏まえ、その基調を2018年度(平成
30年度)
まで継続していくことを目安とし、効率化、予防等や制度改革に取り組む」
とされています。
「3年間で1.5兆円程度と
いう目安」が、今後の予算編成過程でどこまで拘束力をもつのかは定かではありませんが、状況によっては医療費・薬剤費
への波及があるかもしれません。
今回の骨太方針に盛り込まれている事項のうち、当業界に影響を及ぼしかねない項目を表にまとめていますのでご参照く
ださい。これまでの骨太方針には医療費・薬剤費の効率化・適正化に向けての提言のみが列記されていることが多く、今回
も財政当局から提起されてきた薬剤費の削減策がほぼ網羅的に盛り込まれています。しかし、表の最後の項目は、産業政
策的な観点に立っての提言であり、このような記載がなされたことはまさに画期的な出来事と高く評価されるべきです。業
界としても、ここに記載された「基礎的な医薬品の安定供給、成長戦略に資する創薬に係るイノベーションの推進、真に有
効な新薬の適正な評価」につながる具体的な施策を提案し、その実現に向けた行動を展開していく必要があると思います。
JPMA NEWS LETTER 2015 No. 169 Contribution | 寄稿 次期薬価制度改革に向けて
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2015年9月号 No.169
次 期 薬 価 制 度 改 革 に 向 けて
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表 経済財政運営と改革の基本方針2015
(医薬品関連)
経済財政運営と改革の基本方針2015
後発品
使用促進
●
参照価格制度
●
後発品の価格等を踏まえた特許の切れた先発医薬品の保険制度による評価の仕組みやあり方等について検討
●
公的保険の役割、
セルフメディケーション推進、患者や医療現場への影響等を考慮しつつ、見直しを検討
市販品類似薬の
保険除外
費用対効果
評価に基づく
保険収載
薬価改定
その他
数量シェア目標値は、2017年央70%以上。2018∼2020年度末のなるべく早い時期に80%以上(2017年央に
進 評価を踏まえて具体的に決定)
● 後発品価格算定ルール見直し検討
● 後発品利用率向上の保険者の努力に応じ負担や交付を増減
● 個人に対するインセンティブ付与を行うことにより、
後発品の使用を更に促進
保険適用に際して費用対効果を考慮することについて、平成28年度試行的導入した上で、速やかに本格的な導
入をすることを目指す
● 生活習慣病治療薬について、
費用面を含めた処方のあり方等について検討
●
●
2018年度までの改定実績を踏まえ頻度を含めて検討
●
臨床上の必要性が高く将来にわたり継続的に製造販売されることが求められる基礎的な医薬品の安定供給、成
長戦略に資する創薬に係るイノベーションの推進、真に有効な新薬の適正な評価等を通じた医薬品産業の国際
競争力強化に向けた必要な措置を検討
2014年度(平成26年度)薬価制度改革
2014年度実施された薬価制度改革においては、消費税率8%への引き上げ対応があり、また、「新薬創出・適応外薬解消
等促進加算(以下、新薬創出等加算)」は適用企業を厳格化した上での試行継続、注射剤容量別最低薬価の設定、新薬の原
価計算方式による薬価算定における営業利益率評価の拡充や先駆導入加算の新設など、多岐にわたる新たな施策の導入
等が行われました。中でも、既収載の後発品と長期収載品の薬価改定について、後発品への置き換えを主眼においた新
ルールが導入されたことは、個人的には1978年(昭和53年)の「銘柄別収載方式の導入」や1992年(平成4年)の「市場実勢価
格加重平均値一定価格幅方式の導入」に匹敵する大改革であったと認識しています。
次期薬価制度改革においては、まず、上述した前回の改革が企業経営ならびに医薬品の安定供給に及ぼした影響につ
いての検証が必要であり、特に、2014年4月以降のわが国の医薬品マーケットの劇的な変化(先発品から後発品への急激な
置き換え)やそれに伴う企業経営への影響については、きちんと現状を把握しておく必要があると認識しています。
新薬創出・適応外薬解消等促進加算の維持・継続
次期薬価制度改革に向けて、製薬協としての最大の目標は「新薬創出等加算の維持・継続」
であることは論をまたないと思
います(図1)。2014年の制度改革において、本加算の目的が革新的新薬の開発促進であることから
「真に医療の質の向上
に資する医薬品の研究開発を行っている企業の品目を対象とする」
とされたところであり、業界としては現行ルールのもとで
の本加算の継続を強く主張していきたいと思っています。
図1 「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」
の試行的導入
販売額
新薬創出など加算導入前
導入後
新薬や未承認薬などの研究開発への再投資
研究開発投資の早期回収
★ 革新的な新薬開発の加速
★ 未承認薬・適応外薬およびドラッグ・ラグの解消
特許期間終了後は速やかに後発医薬品に移行
後発品上市
特許期間
●
●
●
時間
特許期間中に前倒しして研究開発投資を回収し、ハイリスク・イノベーションに挑戦
特許満了後は、後発品使用により薬剤費の効率化
新薬や未承認薬などの開発が促進され、患者の利益につながる
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2015年1月号 No.165
次 期 薬 価 制 度 改 革 に 向 けて
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この「現行ルールの維持・継続」を果たすためには、加算の成果をきちんとエビデンスをもって示していく必要があります。
具体的には、直近の課題であった「未承認薬・適応外薬の解消が進んでいること
(ドラッグ・ラグの解消)」、そして将来的な
課題である
「革新的新薬の創出に向けた研究開発が進展していること
(ドラッグ・ラグの未然防止)」を各社のパイプライン・研
究開発領域等を示しながら、関係者の理解を得ていく必要があると認識しています(図2)。
図2 新薬創出・適応外薬解消等促進加算導入の効果
∼革新的新薬創出とドラッグ・ラグ解消に向けた取り組み∼
【現在】
の課題に対する取り組み
⇒課題を解決
〈未承認薬・適応外薬の解消〉
【未来】
に向けた取り組み
⇒取り組みを継続・拡大
〈ドラッグ・ラグの未然防止〉
〈革新的新薬の創出〉
日本発の新薬創出に向けた研究開発投資
アンメット・メディカル・ニーズの高い領域の新薬創出・開発への挑戦
開発要請・公募品目への即時対応
未承認薬等開発支援センターの運営・活用
国内開発への早期着手
国際共同治験、世界同時開発の推進
バイオ医薬品等の新たな技術の開発
最先端技術(iPS細胞、京)
の応用
疾患関連遺伝子情報の応用
出所 : 2013年9月25日 中医協・薬価専門部会 日薬連意見陳述資料「薬価制度改革に関する意見」
より
併せて、前述した2014年4月以降の後発品への置き換えの加速化を踏まえれば、わが国も後発品上市後のマーケットが
欧米に近づきつつある中で、革新的新薬や未承認薬等の研究開発への投資を継続するためには、特許期間中に前倒しして
研究・開発原資が確保できる仕組みの構築は絶対に譲れないということを主張していきたいと思っています。新薬創出等加
算の維持・継続が、「骨太方針」
で示された「成長戦略に資する創薬に係るイノベーションの推進、真に有効な新薬の適正な
評価」に係る最大の施策であることを、関係者の方々にぜひとも理解していただけるよう尽力していきたいと思っています。
基礎的な医薬品の安定供給
今回の骨太方針にも盛り込まれた「臨床上の必要性が高く将来にわたり継続的に製造販売されることが求められる基礎的
な医薬品の安定供給」に資する施策の実現も、今回の薬価制度改革の大きなテーマであると認識しています。
製薬企業は、新薬の開発のみならず、古くから使用されている医薬品についても、その安定供給を確保すべくさまざま
な投資・取り組みを行っています。薬価収載から非常に長い年月が経過し、大幅に薬価が下落して採算が合わなくなってい
るにもかかわらず、臨床上の必要性が高く、医療現場からの継続供給が求められる医薬品が数多く存在しています。このよ
うな基礎的な医薬品の安定供給継続を薬価制度上担保するために、すでにルールとして存在している不採算品再算定と最
低薬価に係る課題を踏まえつつ、基礎的な医薬品としての要件に合致する品目については「薬価を維持するルールの導入」
を強く訴えていきたいと考えています。
おわりに
次期薬価制度改革における検討課題のうち
「新薬創出・適応外薬解消等促進加算の維持・継続」
と
「基礎的な医薬品の安定
供給」に資する施策について述べましたが、これら2つの課題以外にも
「長期収載品の薬価」、
「市場拡大再算定」、
「新薬の革
新性評価」、
「薬価調査・改定の頻度並びに消費税率引上げへの対応」等、薬価専門部会で検討されると思われる課題は山積
しています。そして、どの課題も、各企業の経営に大きな影響を与えるものであるということを認識し、対応していきたい
と思っています。
今後、わが国の医薬品マーケットが後発品シェアの拡大・長期収載品シェアの減少という未曾有の状況変化を遂げていく
中にあって、「新薬創出等加算の維持・継続に代表される新薬評価の拡充」
と
「基礎的な医薬品の安定供給」に資する施策が
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次 期 薬 価 制 度 改 革 に 向 けて
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実現することにより、「国民の健康の維持・増進」
と骨太方針に掲げられた「医薬品産業の国際競争力強化」が導かれるものと
確信しています。
これから2015年末の予算編成まで、熱い議論が交わされていくと思いますが、業界の英知を結集し、一枚岩となって対
応していきたいと思っています。
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