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農業での新たな人材確保の現状と課題

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農業での新たな人材確保の現状と課題
農業での新たな人材確保の現状と課題
研究レポート (社)JA総合研究所 基礎研究部 主任研究員
横田 茂永 (よこた しげなが )
1.はじめに
最近、農業に参入する都会人や企業がマスコミで注目を浴びている。これまで悪
い面ばかりが強調されてきた農業の見方が変わったという点では素直に喜ぶべきで
はないかと思われる。
しかしながら、実際の農業参入には難しい面が多々あるのも事実である。言うま
でもないことであるが、このような“農業ブーム”とは別に農業での新たな人材確
保の問題についてじっくりと考えておくことが必要だろう。
農業での人材確保については、単純作業などのための雇用労働の問題もあるが、
ここでは主に農業経営者に焦点を当てることにしたい。経営にかかわる人材が新た
に農業に参入する経路については、図 1 のとおりである。以下、農業での新たな人
材確保の現状とその課題について述べていくことにする。
【図1】新たに農業に参入する経路
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2.新規就農者の現状
新規就農者というと、農家以外の都市住民が農業を始める姿を思い描く人が多い
と思われるが、実際にはもう少し広い概念で使われている。現在、農林水産省が定
義しているところによると、自営農業就農者、雇用就農者、新規参入者の3者を合
わせたものが新規就農者である(表1)。
前述したような農家以外の都市住民が農業を始める場合は、新規参入者に含まれ
【表1】新規就農者の定義
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JA 総研レポート/ 2009 /秋/第 11 号
《研究レポート》農業での新たな人材確保の現状と課題 21
る。逆に農家の子弟が自分の家の農業 【図 2】2008 年新規就農者の構成比
経営を継承して就農した場合が自営農
業就農者である。ただし、農家の子弟
であっても自分の家の農業を継ぐので
はなく、別途農地を取得するなどして
就農すれば新規参入者となる。そして、
法人等に雇用されることで新たに農業
に従事した場合が雇用就農者である。
新規参入者や雇用就農者を含めて新
規就農者の統計がとられるようになっ
出典:農林水産省「平成 20 年 新規就農者調査」
たのは、2006 年の新規就農者数(2007
年調査)からであり、それ以前の調査では雇用就農者は含まれておらず、新規参入
者については別の調査からの数値が目安として公表されていただけである。これは、
少し前までは新規就農者のほとんどが自営農業就農者であったからである。
逆に言えば、近年雇用就農者と新規参入者が増加してきているのであるが、それ
でも自営農業就農者の数が圧倒的に多いのが現実である。2008 年でも、自営農業就
農者が新規就農者全体の8割を占めているのである(図 2)。
もう1つ新規就農者という言葉からのイメージとして、若い人を連想することも
多いと思われる。しかし、39 歳以下で大学や高校を卒業してすぐに農業に就いた人
注 1) た だ し、 新 規 参
入者のうち新規学卒就
農者が何人いるかは公
表 さ れ て い な い の で、
実際にはわずかにこれ
より高い数値になると
考えられる。
(新規学卒就農者)は全体の 5.4% と少ない注 1)。
39 歳以下の就農者(新規就農青年)全体でも 24.1% と4分の1以下であり、逆に
60 歳以上の就農者が 46.4% と半数近くに及んでいる。農業従事者の高齢化が問題に
なっているが、農業に参入する時点ですでに高齢者という状況なのである。特に自
営農業就農者では、新規就農青年が 16.8%、60 歳以上の就農者が 53.8% と高齢化が
著しい。逆に、雇用就農者では 65.8%、新規参入者では 29.6% と相対的に新規就農
青年の割合が高い(表2)。
表 2 注)数値について
は、四捨五入のため合
計と内訳の計が一致し
ないことがある。
【表 2】新規就農者の年齢構成
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*
*
*
出典:農林水産省『平成 20 年新規就農者調査』
このような自営農業就農者での高齢化の傾向は、バブル期の 1990 年に新規就農者
数が大幅に落ち込み、その後回復する過程のなかでより一層進んできた。他産業の
景気も悪いが、農業も決して良いわけではないことを農家出身者こそ最もよく知っ
ているのであるから当然ともいえる。
ただ、新規学卒就農者数はバブル期直前の 1985 年には新規就農者数に占める割合
が 5.1%、39 歳以下の新規就農者数の中に限っても 23.4% とすでに少数派であった。
むしろ、1990 年に離職就農者の落ち込みが激しかったことから、一時的に新規就農
者中 11.5%、39 歳以下の新規就農者中 41.9% とその割合を高めたくらいである。そ
の後は離職就農者数の回復とともにバブル期直前の状態に戻ってきており、自営農
22 《研究レポート》農業での新たな人材確保の現状と課題
JA 総研レポート/ 2009 /秋/第 11 号
業就農者に限れば 2008 年で全体の 3.9%、39 歳以下の新規就農者中の 23.3% となっ
ている。
このような新規学卒就農者数の相対的な減少については、むしろ積極的に農業外
の仕事に後継者を就かせたいという声も農家から聞かれる。農業外の仕事の経験が、
農業経営に生かせるという理由からである。単に親子で農業を一緒にやっても生活
できないということだけではなく、積極的な意味でも離職就農が選択されているの
である。
3.農外の法人による農業参入の現状
農外からの人材確保については、近年新たな要素が加わっている。それは、個人
ではなく、法人による農業参入である。農地の権利取得を伴わない施設栽培や畜産
であれば、農業法人として農外から参入している例が以前から存在しているのであ
るが、農地の権利取得を伴う場合についても認められてきているのである。制約が
あるものの参入の方法は現在2通り存在している。
1つは、1962 年の農地法改正によって創設された農業生産法人への出資である。
当初は農業者しか農業生産法人の構成員になることができなかったが、現在は取引
関係にある食品流通業や外食産業などの農外企業も関連事業者として出資が認めら
れている。
ただし、関連事業者が無制限に出資できるわけではない。関連事業者全体で議決
権の4分の1以下、1法人については 10 分の1以下という制限が付けられているの
である。農業生産法人が認定農業者になれば、農業経営改善計画に記載された関連
事業者についてこの制限が外されることになるが、それでも農外の企業等に限って
は2分の1未満という出資制限がある。
もう1つは、2005 年の農業経営基盤強化促進法の改正で創設された特定法人貸付
事業による農外の法人の直接参入である。特定法人貸付事業は、構造改革特別区域
法で可能となった農業生産法人以外の法人による農業参入を全国展開したものである。
この方式では、農地の権利取得は借地に限られ、市町村が基本構想で設定する参
入区域の中で、市町村もしくは農地保有合理化法人と協定を締結することで農外の法
人の参入が可能となる。つまり、農業生産法人よりも資本面での制限は緩和されている
が、農地の権利取得など営農面での条件については厳しくなっているのである。
これら農外の法人の農業への参入条件については、2009 年6月の農地法と農業経
営基盤強化促進法の改正で緩和されることになった。農業生産法人では、1法人 10
分の1以下という出資制限を撤廃し、認定農業者でなくても農商工連携事業者等政
令で定められた関連事業者については2分の1未満までの出資を可能としている。
また、農業生産法人以外の法人の借地農業が農地法のなかで認められたことによ
り、参入区域の拘束はなくなり、市町村等との協定も必要としないで農外の法人が
農業に参入できることになる。もちろん農外の法人の直接参入についての制限が全
くなくなったわけではない。1人以上の業務執行役員が農業に常時従事しているこ
とや地域の農業に悪影響を与えないことなどの条件が課せられている。しかしなが
ら、農外の法人の直接参入については、大幅に条件が緩和されたといえるだろう。
農業生産法人は着実にその数を増やしており、2008 年1月現在で1万法人を突破
した。ただし、このなかに農外の法人が出資してつくった農業生産法人がどの程度
あるのかは明らかにされていない。後述する特定法人貸付事業で参入した法人から
の農業生産法人への移行が8法人あるが、それ以外にも最初から農業生産法人とし
て参入しているケースが多数報告されている。数は明確ではないが、農業生産法人
として参入している農外の法人は少なからず存在しているのである(次ページ図 3)。
JA 総研レポート/ 2009 /秋/第 11 号
《研究レポート》農業での新たな人材確保の現状と課題 23
図 3 注)各年とも 1 月
1 日現在の数値である。
構造改革特別区域法や 【図 3】農業生産法人数の推移
特定法人貸付事業を通じ
て 参 入 し た 法 人 の 数 は、
農林水産省が最初に公表
し た 2004 年 10 月 1 日 現
在の 71 法人(特区法によ
る)から、2009 年3月1
日 現 在 に は 341 法 人 に 増
え て い る。 業 種 別 で は、
建 設 業 36.7%、 食 品 会 社
21.1%、その他 42.2% であ
る。その他の半数近くは、
NPO 法人、第3セクター、
社会福祉法人などであり、
そ れ 以 外 に 農 業 資 材・ 施
図 4 注1)2004 年は 10
月 1 日 現 在、2005 年 は
5 月 1 日現在、それ以外
は 3 月 1 日現在の数値
である。
図 4 注 2)2009 年 3 月
1 日現在で 8 法人が農業
生産法人に移行してい
る こ と か ら、 参 入 し た
法 人 数 全 体 で は 349 法
人
出典:農林水産省経営局調べ 設等の製造・販売業、旅館、 【図 4】農業生産法人以外の農業参入法人数の推移
自動車教習所、運搬業者、
人材派遣会社など多種多
様な企業が含まれている
(図 4)。
出典:農林水産省経営局「特定法人貸付事業(農地リース方式)を活用した企業等の農業参入について」
4.農外からの人材投入の必要性
かつては、農家出身者以外の人材が農業に就業するといえば、婚姻関係あるいは
養子縁組み以外は難しかったはずである。しかし、過去に新規参入が大規模に行わ
れたことがないかといえばそうでもない。明治維新直後の旧武士階級を中心とした
開拓就農や戦後の戦災者・海外引き揚げ者等を中心とした開拓就農などが明治期以
注 2) 田 島 重 雄「 次 世
代の担い手のために-
新規就農と教育」『公庫
月報』2004 年3月、4
ページ
降にも幾度かあったことが指摘されている注2)。
このような社会環境の変化のなかで、就農が進められた歴史は現在にも通じると
ころがある。長期化する不況のなかでの失業対策という面が、今日の新規参入や雇
用就農のブームの裏に存在しているのである。ただし、現在の新規参入等の動きが
過去と異なる点は、新たな人材により衰退する日本農業を活性化することが求めら
れている点である。
過去の新規参入では農地の開拓がセットで行われていることが多いわけであるが、
現在行われているのは既存の農地への参入である。農産物価格の低迷と農業資材の
高騰は、農業への就業を妨げるとともに高齢化も推し進めてきた。その結果、既存
の農家によって既存の農地が耕作しきれなくなっているという現実が背景となって
24 《研究レポート》農業での新たな人材確保の現状と課題
JA 総研レポート/ 2009 /秋/第 11 号
いる。逆に言えば、このような厳しい農業の現状が開拓なき新規参入を可能にした
わけである。
本来は農業環境が良好なうちに人材投入を行って、革新的な動きが農業内に常に
起こるようにしておくべきだったのかもしれない。今後日本農業に良い時期が来る
かどうかは分からないが、今回の新規参入ブームを契機として、常に新規参入の余
地があるように体制を整えておくことが望まれる。
新規参入の余地をつくったとしても、農家出身者の数的な優位は揺るがないであ
ろうから、自営農業就農者に刺激を与えることも農外からの新規参入者の大きな役
目である。実際、新規参入者が成功したことで、地元の農業後継者も奮起したとい
う話がよく聞かれる。また、新規参入者や参入企業がきっかけとなって、既存の農
家も含めた連携が生まれるケースもある。
もう1つ農外から人材が参入することの意味として、国内農業を守るというコン
センサスづくりがしやすくなることが挙げられる。農家と非農家が全く別の階層で
あり、非農家から農家への乗り入れができないとしたならば、非農家出身者が現実
味を持って国内農業の存続を考えることは難しい。新規参入の道が開けることは、
農家出身者以外の国民にも日本農業が自分たちに直接かかわる問題であることを認
識させるきっかけとなるはずである。
5.農業参入の課題としての農地問題
図 5 注 )2004 年 は 10
月 1 日 現 在、2005 年 は
5 月 1 日現在、それ以外
は 3 月 1 日現在の数値
である。
新規の農業参入は必要であ 【図 5】特定法人貸付事業による貸付面積の構成比
るが、その一方で農地に関連
して摩擦が起きる可能性が大
きいことも事実である。特に
企業の参入区域制限の撤廃に
ついては既存の担い手も巻き
込んだ優良農地の争奪戦を引
き
ぐ
き起こすことが危 惧される。
特定法人貸付事業でリースさ
れた農地も徐々に遊休農地以
外に広がってきていたという
実 情 が あ る。 企 業 だ か ら と
いって、遊休農地で営農して
も利益を挙げられるわけでは
なく、むしろ利益を挙げるた
めに優良農地を求める必要が
生じてきているのである(図
5)。
しかし、法人が市町村等との協定を締結しなくても農業に参入できるようになっ
たことは、企業にとってプラスマイナス両面がある。2008 年のアンケート調査では、
特定法人貸付事業の公的機関による仲介の仕組みについて、「行政等の公的機関が仲
介してくれることから、貸し手側(農家)が安心して貸借に応じてくれた」48%、
「行
政等の公的機関が関与することで農地の選定、借入れがスムーズにいく」24%、「地
権者等との農地の利用調整の手間が省略できる」8% といったプラスの評価が全体
の8割を占めているからである。農家を安心させるため、農地をまとめてもらうた
めなどの理由で何らかの仲介者を農外の法人も必要としているのである(次ページ
図 6)。
JA 総研レポート/ 2009 /秋/第 11 号
《研究レポート》農業での新たな人材確保の現状と課題 25
]9
#1>BH,URS&OLG<H
図 6 注 )2008 年 3 月 1
日現在に参入している
281 法人のうち 270 法人
を対象として、82 法人
から回答を得ている。
農 地 の 貸 借 に は、 地 【図 6】公的機関が仲介して農地を借りる仕組みについて
縁・ 血 縁 が 優 先 さ れ る
ケースが依然として多
い し、 転 用 の 可 能 性 を
)MR&O<=V
I>-NK<T
>;S
73
'?> 2LKR:
)MP;R:
EM
,/L0>==S
63
73
念頭に置いているため
に下手に貸すより遊休
)%M
#1>
BH@TSAJ=Q:
(%JM,M
農地化した方がよいと
+B[,\>
!*M0>$"I
考 え る こ と さ え あ る。
BH+LCH@TF
?S
583
83
農家にとって農地は大
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#1>
1DSAJI,M
事な財産であることか
.:T>WYZ
XL<@
ら致し方ない面もある
453
が、 こ の よ う な 地 権 者 出典:農業参入法人連絡協議会、全国農業会議所「農外から農業に参入した法人に対するアンケート調査結果」(2008 年 8 月)
農家を説得できるかどう
かが農地の権利取得の鍵となる。法律の改正以上に現場でのケースバイケースの交
渉能力が必要である。
2006 年5月に「多様な機会のある社会」推進会議(再チャレンジ推進会議)によ
る中間取りまとめが発表されたことを受けて、経験がない者でも新規就農できるよ
うに、これまでの新規就農対策が再チャレンジ支援対策に基づいて再編された。地
方自治体の独自措置も含めて、新規参入者や雇用就農者に対する支援は充実してき
ている。また、農地法の改正により農外企業の農業参入もしやすくなってきたとい
えるが、農地問題が農業参入時の最も大きな課題として今でも残っていることは否
めない。
6.農業経営者の育成とJA
注 3) 農 林 水 産 省「 農
業 構 造 の 展 望 」 で は、
2015 年に効率的かつ安
定的な農業経営として、
家族経営 33 万~ 37 万、
集落営農経営2万~
4万、法人経営1万が、
日本の農業生産の相当
部分を担うこととなる。
農地を含む経営資源の獲得が農業に参入するときの課題ではあるが、就農後に経
営資源を有効に活用できる能力があるかどうかが重要である。特に現在の厳しい経
営環境を考えたとき、農業経営を志して成功する人材となると誰でもよいというわ
けにはいかない。
日々変化する経営環境のなかで経営を持続させていくことは容易なことではない。
そこには、単なる知識ではなく、直感も含めた判断力が必要とされる。これは、外
部から一方的に知識や経営資源を与えてもらうことによっては育まれない力といえ
るだろう。主体的な知識の吸収と才能が必要とされる仕事である。
そのような農業経営者を育成するためには、ある程度距離を置いて本人の自発的
努力に任せる部分が必要である。行政が支援のために担い手の人数や類型を決めな
ければならないのも分かるが注3)、あまり型にはめようとし過ぎると創造的な力を発
揮しづらくなるだろう。ある程度間口を広くして、自由な競争と選抜に任せる必要
がある。
新規参入者の中に辞めていく人がいることを批判する者もいるが、どんな仕事で
も向き不向きがある。入ってから辞める人がいるのは当たり前である。過去には後
継者ということで、本人がやりたくないのに無理に続けてきた人もいるはずである。
撤退を決意した者に対しては、他者に交代させてあげることも一方で必要なことな
のである。
農業での新たな人材確保、そして農業経営者の育成に関連して、新規参入者や参
入企業が農業に参入するとき、また撤退するときの農地の権利取得の調整は今後ま
すます重要になってくることが予想される。大規模化により組合員農家との関係が
希薄化しているといわれるJAではあるが、農地の利用調整主体の1つとして積極
的に関与することが期待される。
26 《研究レポート》農業での新たな人材確保の現状と課題
JA 総研レポート/ 2009 /秋/第 11 号
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