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Title 下部尿路不定愁訴に対する清心蓮子飲の使用経験 Author(s) 寺田

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Title 下部尿路不定愁訴に対する清心蓮子飲の使用経験 Author(s) 寺田
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下部尿路不定愁訴に対する清心蓮子飲の使用経験
寺田, 為義; 石川, 成明; 片山, 喬
泌尿器科紀要 (1985), 31(7): 1253-1256
1985-07
http://hdl.handle.net/2433/118536
Right
Type
Textversion
Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
1253
泌 尿 紀 要31巻7号
,1985年7月
、
下部尿路不定愁訴 に対する清心蓮子飲の使用経験
富 山医科薬科大学医学部泌尿器科学教室(主 任:片 山 喬教授)
THERAPEUTIC
PATIENTS
寺
田
為
義
石
川
成
明
片
山
喬
EXPERIENCES
OF SEISHINRENSHIIN
IN
WITH EQUIVOCAL COMPLAINTS
OF
LOWER
URINARY
TRACT
Tameyoshi TERADA,Shigeaki ISHIKAWAand Takashi KATAYAMA
Fromthe Department
of Urology,Facultyof Medicine,ToyamaMedicaland
Pharmaceutical
University
(Director:Prof. T. Katayama)
To study its clinical effect, Tsumura Seishinrenshiin,was administered to male patients
of chronic prostatitis and urethritis with various equivocal complaints of the lower urinary
tract and female patients complaining of cystitoid symptomsinspite of normal urine. These
subjects were 35 males, 20 to 69 years and 7 females 22 to 78 years.
For the patientswho had constitutionally infirm stomach and intestines the rate of effectiveness reached 41%, which was rather satisfactory. For the other patients, however,it was
only 28%. Besides, no correlation was observed between the age of patient and the effectiveness. A combined administration of antibiotics and antibacterial agents led to no increase
in the effectiveness.
All of the side effects were rather slight, which permitted its continuous administration
over a period of more than 4 weeks.
From the above findings Seishinrenshiin was expected to be both effectivefor the patients
who have constitutionally infirm stomach and intestines and can be used safely.
Key words : Seishinrenshiin,Equivocal complaints, Chronic prostatitis, Chronic urethritis
は
じ
め
結 石 ・男 性 不 妊 症 ・膀 胱 炎 ・前 立 腺 炎 な どに 対 す る漢
に
方 治療 の経 験 が 報告 され る よ うに な って きた.今 般,
日常 診 療 に お い てが ん こな 不 定 愁訴 の続 く慢 性 の前
立腺 炎 や 尿 道炎 の患 者,あ
るい は 尿 所 見 そ の他 の検 査
で異 常 が な いに もか か わ らず 膀 胱 炎 様 症 状 を長 く訴 え
る患 者 な どに遭 遇 す る こ とが 多 い,こ
うした病 態 に 対
しては な か な か有 効 な 治療 法 が 見 あた らず,患 者 自身
は もと よ り医 師 の 側 も苦 慮す る こ とが しば しば で あ る.
近 年 西 洋 医 学 の 領 域 に お い て も漢 方 へ の関 心 が 高 ま
りつ つ あ り,泌 尿 器科 領 域 で も,前 立 腺 肥 大 症 ・尿 路
わ れ わ れ は 前 述 の ご と き不 定 愁 訴 を 持 つ患 者 に 対 し て,
慢 性 泌 尿 器 疾 患 に 有 効 な処 方 といわ れ て きた 清心 蓮 子
飲 を投 与 し てみ た の で そ の成 績 を 報 告 す る.
対 象 お よ び投 与 方 法
対象 は1981年9月
か ら1983年12月 まで に 富 山医 科 薬
科 大学 付 属 病 院 泌 尿 器科 外 来 を訪 れ た 患 者 の うち,慢
性 前立 腺 炎 又 は 尿 道 炎 で不 定 愁 訴 の持 続 す る男子35例,
1254
泌 尿紀 要31巻7号ig85年
Table1.男
症例
子 不 定 愁訴 群
胃腸轄
訴
投謹 間 併縢
年齢
診断名蟻 主
1
44
P
会陰 部痙痛 ・下腹部不快感'
4
2
60
P
6
3
23
P
残尿感 ・頻 尿
下腹 部不快 感 ・頻尿
十
8
MlNO
4
42
P・U
排尿痛
十
8
ST
5
49
P
下腹部 不快 感 ・睾丸痛 ・下腹 部重感
6
51
P
7
34
P
会陰部痙痛 ・排尿痛 ・頻尿 ・残 尿感
下腹 部痙痛
8
31
P
十
効果
無効
やや有効
著効
やや有効
4
有効
4
無効
4
やや有効
やや有効
4
4
やや有効
4
無効
やや有効
9
38
P
頻尿 ・残尿 感
頻尿 ・残尿 感
10
44
P
排尿痛 ・残 尿感
11
29
P
DOXY
38
P
十
十
6
12
下腹 部痙痛
頻尿 ・残尿 感 ・排尿痛 ・尿道 不快感
30
DOXY
13
48
P
頻尿 ・排尿 困難
十
6
14
41
P
15
33
P
下腹 部痙痛 ・会陰部不快感 ・頻 尿
頻尿 ・残尿 感
16
23
P
下腹部 不快 感 ・排尿痛
17
45
P
33
P
十
十
4
18
睾丸痛 ・会 陰部痙痛
下腹部痙痛 ・下腹部不快感
19
42
P・u
下腹部不快 感 ・下腹部重感 ・頻 尿 ・
残尿感
十
26
20
36
P
残尿感 ・排尿 困難
21
27
u
22
29
P
尿道不快感
会陰部痙痛 ・尿道痛 ・頻尿
23
47
P
残尿感 ・排尿 困難
24
20
u
排尿痛
25
38
P
排尿痛 ・会 陰部痙痛
4
26
33
P。U
6
ST
27
38
P
残尿感 ・排尿 困難
下腹部重感 ・尿道痛
十
4
ST
著効
無効
28
39
P
会陰部痙痛 ・排尿痛 ・排尿困難
十
14
ST
有効
29
69
u
4
45
P
尿道不快感 ・下腹部重感
頻尿 ・下腹 部痙 痛 ・下腹部不快 感
十
30
31
46
P
排尿困難 ・残 尿感
32
40
P
33
56
P
会陰部疹痛 ・睾丸痛 ・下腹部疹痛
尿道不快感 ・排尿痛
34
33
P
頻尿 ・排尿痛 ・会陰部熱感
35
55
P
残尿感
※P:慢
性 前 立 腺 炎,U:慢
発汗
喀疲
やや有効
ふ らつき
著効
一
12
ST
6
ST
やや有効
無効
4
DOXY
有効
無効
著効
4
MINO
DOXY
無効
4
12
著効
有効
4
著効
4
20
副作用
無効
無効
ST・DOXY
MINO
や や有 効
下痢
無効
無効
6
8
無効
十
8
ST
十
8
ST
4
無効
十
10
有効
有効
有効
下痢
性尿道 炎
お よび,尿 所 見 正常 か つ 尿 道 ・膀 胱 に 器 質 的 異 常 が な
与 を お こな った 群 は26例,抗
いに も か か わ らず 膀 胱 炎 症 状 を 呈す る 女 子7例 で あ
をお こな った 群 は16例 であ る.
る。 男 子 群 の年 齢 は20∼69歳,平
均40.O歳 であ るが 疾
結
患 の性 質 上30歳 代 ・40歳代 に 集 中 して い る.い ず れ も
分 泌物 鏡 検 で膿 球 を 各視 野10個 以 上 確認 して お り,細
生剤 ま たは 抗 菌 剤 の 併用
果
効 果 判 定 は 石 橋 ら1)の 判 定 規 準 を 若 干変 更 し応 用 し
菌培 養は 全 例 に は 施 行 して い ない が 非細 菌 性 の も のが
た.す なわ ち4週 以 内 に症 状 が す べ て消 失 した ものを
過 半 で あ る,患 者 の 訴 え る症 状 は 実 に 多種 多様 で あ る
著 効,4週
が,下 腹 部 ・鼠 径 部 ・会 陰部 の重 感 ・鈍 痛 が も っ と も
消 失 した も のを 有 効,軽 減 はす るが4週 以 上 の観 察 期
多 く見 られ た(Table1),女
間 中 に 消失 しえな い もの を や や有 効,不 変 あ るい は悪
子 群 の年 齢 は22歳 ∼77歳
平 均52.8歳 で あ る,(Table2).
薬 剤 は 清 心 蓮 子 飲 エ キ ス穎 粒7.591日3回
では 消 失 しえ な か った も の の以 後 の投 与 で
化 した ものを 無 効 と した.有 効 率 は著 効 ・有 効 両者 の
分 服,
4週 間 以 上 連続 投 与 を お こな った.清 心 蓮 子飲 単 独 投
合 計 を 百 分率 で あ らわ した.
1)年
齢 との関 連=清 心 蓮 子飲 は虚 証 向 けに 近 い薬
1255
寺 田 ・ほ か:下 部 尿 路不 定 愁 訴 ・清心 蓮 子 飲
Table2.女
症例
年齢
著効
訴
胃腸障害
投与 期間
(週)
3656排
尿痛
4
3777排
尿痛
4
3840頻
尿 ・尿 失 禁
4
3952頻
尿 ・残 尿 感
4
4023頻
尿 ・排 尿 痛
4154頻
尿 ・下 腹 部 不 快 感
4268残
尿感
Table3.年
年齢
主
子不定愁訴群
十
やや有効
無効
PPA無
やや有効
効
副作用
やや有効
6
PPA無
6
効
無効
・発 汗 が 各1例 見 られ た が い ず れ も軽微 な もの であ り
齢層 別 臨 床 効 果
有効
効果
著効
無効
4
十
併用薬
継 続 投 与 可 能 で あ った.
著効有効(%)
投 薬 前 後 に血 液 検 査 を 施 行 した もの は10例 に す'ぎな
20∼292
2
2
1
57
30∼393
1
5
3
33
40∼492
2
2
7
31
50∼590
2
1
3
33
60∼0
0
1
3
0
いが,血
液 一般 ・血 小 板 数 ・血 清 電解 質 。BUN・ ,Cr
肝 機 能 い ずれ も正 常 範 囲 内 の 変 動 で あ った.
考
察
漢 方 で は患 者 の 自他 覚 症 状す べ て を統 合 し得 られ る
Table4.併
併用薬
用 薬 の 有 無 と臨床 効 果
著効 有効
やや有 効
有53
711
無24
4
診 断 を証 と呼 び,証 に 応 じて 治療 方 針 が 決 ま り投 薬が
著 効有効(%)
お こなわ れ る.証 の決 定 が正 しけれ ばほ ぼ 治 癒 した も
31
同 然 といわ れ る.こ の証 を 決 定す るに あ た りも っ と も
38
重 要 な もの は,患 者 の体 力 の 質的 な充 実 度 を あ らわ す
無効
6
虚 と実,な
Table5.胃
胃腸障害
著効
腸 障 害 の 有 無 と臨 床 効 果
有効
やや有効
有
34
4
無
43
711
無効
らび に 体 力 を量 的 な面 か らは か った 陰 と陽,
の2つ の概 念 であ る.た とえ ば清 心 蓮 子 飲 の場 合,そ
著効有効(%)
の 適応 に な る証 は 虚 実 間 小 陽病 期 と いわ れ て い る3)が,
41
漢方 医 で な いわ れ わ れ が,こ の虚 実 陰 陽 の概 念 を正 し
28
く理 解 し,正 し く証 を 決 定す る こ とは きわ め て 困難 で
6
あ る.し た が って病 状 の面 だ けか ら患 者 を 診,証 に 関
剤 であ る とい う観 点か ら,老 人 の方 が 良 く効 くで あ ろ
係 な くア トラ ンダ ムに投 薬 す る こ とに な ら ざる を え な
うと した 報 告2)が あ り,わ れ わ れ も同 様に 考 え て いた
い.前 述 の ご と く清 心蓮 子 飲 の治 療 成 績 が 今 ひ とつ か
が,年 齢 層 ご とに 効 果 を 見 てみ る と,Table3の
んば し くな い 原 因 は そ こに あ った の か も しれ な い.
ご
とく と くに年 齢に よ る差 異 は な か った.ち なみ に39歳
以下 と40歳 以 上 の2群 に 分 け て 比 較 検 討 してみ た が 統
計学的 に 有意 な差 は 認 め られ な か った.
2)抗
生剤 ・抗 菌 剤 併 用 との 関 連;疾 患 の性 質 上,
清 心 蓮 子 飲 を 構成 す る生 薬 は決 苓(ブ
苓(オ
ウゴ ン)・ 車 前子(シ
ギ)・ 地 骨 皮(ジ
コ ッ ピ)・ 麦 門 冬(パ
蓮 肉(レ ン ニ ク)・人 参(ニ
ク リ ョ ウ)・黄
ヤゼ ンシ)・ 黄 薔(オ ウ
クモ ン ドウ)。
ンジ ン)・甘 草(カ ン ゾ ウ)
抗 生剤 。抗菌 剤 と 併 用 に な る こ とが 多 いがTable4
の9種 であ る.こ の うち茨 苓 ・黄 苓 ・車前 子 ・黄 首 ・
のご と く,単 独 投 与 群 と併 用投 与群 間に 有 意 差 は 認 め
地 骨 皮 は 消 炎 利 尿作 用 を有 す る4)と いわ れ,そ れ が 尿
られな い.
路 系 不 定 愁 訴 に 有効 と理 解 され る.ま た,黄 首 ・地 骨
3)胃
腸 障 害 の有 無 との 関 連:胃 腸 虚 弱 な体 質 であ
皮 ・麦 門 冬 ・蓮 肉 ・人 参は 強 壮 作 用 を持 ち4),や や 体
るか い なか が 清 心 蓮 子 飲 の 適 応 の ポ イ ン トに な る とい
力 低 下 気 味 の虚 実 間 小陽 病 期 の患 老 に補 剤 とし て働 く
われ て い るが,Table5の
ご と く平 素 よ り胃腸 障 害 の
と考 え られ る.た だ しわ れ わ れ の デ ータ では 高 齢 者 ほ
あ る患 者 群 に 対 して は 有 効 率41%を 得,統 計 学 的 に 有
ど良 い 効 果 が え られ る とい うよ うな結 果 は え られ な か
意 では な いが,胃 腸 障 害 の な い 患者 に 比 し よ り有 効 で
った.ま た 秩 苓 ・黄 苓 ・人 参 。甘 草 は 胃腸 障 害 に も有
あ る と思 わ れ た.
効 で,か つ 地 黄 を 含 ん で いな い こ とが,清 心 蓮 子 飲 が
副
作
副作 用 と し て軽 い 下 痢 が2例,喉
習腸 虚 弱 な体 質 に適 応 と され るゆ え ん で あ るが,わ れ
用
わ れ も 胃腸虚 弱 な 患 者 に は41%と
の あ れ 一ふ らっ き
え た.
や や 高 い有 効 率 を
1256
泌尿 紀 要31巻7号1985年
これ ら生薬 は上 記 以 外 に も さま ざ ま な効 果 を 持 って
お り,複 合す る こ とに よ って さ らに 複 雑 な 作 用 を 発 現
期 待 で き,か っ長 期 に わ た り安 全 に 使 用 で き る薬 剤 と
考 え られ た.
す る可 能 性が あ る.最 近 で は 生薬 の薬 効 評 価 が 西 洋 医
学 的 に も可能 に な っ て きて い るの で,こ
うした 点 が 解
本 論文 の 要 旨 は1984年4月
び1984年7月
明 され る 日 も近 い と考 え られ る.
第322回
第2回
泌 尿 器 科漢 方 研 究 会 お よ
日本 泌 尿 器 科 学 会北 陸 地 方 会 に おい て
発 表 した.
結
1.慢
語
文
性 前 立 腺 炎 ・尿 道炎 で さ ま ざ ま の不 定 愁 訴 を
持 つ 男 子35名 と,検 査 所 見 正 常 な る も膀 胱 炎 様 症 状 を
1)石
訴 え る女 子7名 に 清心 蓮 子 飲 の投 与 を お こな った.
橋
2.年
齢 と有 効性 の間 に 相 関 は 見 られ なか った.
3.抗
生 剤 ・抗菌 剤併 用 投 与 群 で有 効 率 の上 昇 は見
4.生
5.重
瀬俊 郎 ・井 口厚 司=泌 尿器 科 領域 に おけ る漢 方
療 法.西
来 胃腸 虚 弱 な体 質 の患 老 に 用 い る方 が,有 効
篤 な副 作 用 は 認 め られ なか った.
6。 以上 よ り清 心 蓮 子 飲 は,下 部 尿 路 不 定愁 訴 に対
し,と くに 胃腸 障 害 の あ る患 者 に,あ
る程 度 の効 果 が
平
日泌 尿45:709∼712,1983
健:漢 方 処 方類 方 鑑別 便 覧,藤 平 漢方 研 究
所,東 京.1982
4)高
性 が 高 い と の 印象 を 得 た.
晃 ・三 木 信 男:下 部 尿路 不 定 愁 訴 に対 す る
清心 蓮 子 飲 治 療.泌 尿 紀 要30=275∼277,1984
2)百
3)藤
られ なか った.
献
木敬 次 郎 ・木 村 正康 ・原 田正 敏 ・大 塚 恭 男=和
漢 薬物 学.南
山堂,東 京,1982
(1985年1月14日
迅 速 掲 載 受付)
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