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双方向インタラクション可能なハンガー型デバイス

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双方向インタラクション可能なハンガー型デバイス
「マルチメディア,分散,協調とモバイル
(DICOMO2013)シンポジウム」 平成25年7月
双方向インタラクション可能なハンガー型デバイス
羽田 久一1
概要:
あらゆる日用品をネットワーク化する Internet of Things(IoT) という言葉の広まりとともに,従来ではイ
ンターネット化することが困難であったモノをネットワーク化する動きが生じている.このようなネット
ワーク化によって,さまざまな物体はインターネットを介した情報検索,情報提示のためのデバイスとし
て利用することが可能となる.
本研究では日常だれもが利用するモノとして衣服をとりあげ,衣服のネットワーク化のためのデバイスと
して双方向インタラクション可能なハンガーを提案し実装を行った.単方向の通信が主であった従来の研
究とは異なり,ハンガーを双方向通信を行えるデバイスとして構成することでハンガーを通して衣服の情
報の提示・検索・ログの取得といったさまざまな用途に利用することが可能となる.
A Hanger as I/O Device for Real-space Network
Hisakazu HADA1
摘されることが多い.ネットを利用したオンラインショッ
1. はじめに
ピングでは在庫の検索,確認を簡単に行えるが実店舗にお
情報技術の応用分野において情報検索はひとつの大きな
ける購買時には決まった商品の検索は困難であり,店員の
位置を占めている.インターネットの発展とともにオンラ
力に頼ることが多い.これは書籍や CD,服飾雑貨などの
イン上で公開される情報は増え続け,従来はオンラインで
ように少量多品目な商品では顕著にあらわれる.そのため
は手に入らなかった情報も検索,閲覧することが可能と
書店やレコード店においては店舗内の在庫を検索する端末
なっている.これらの情報は書籍や論文といった文献から
を用意している例も多く,検索の結果としてどの棚に目的
動画に至るまでさまざまである.
の商品が存在するかを知らせることが行われている.また,
Google に代表される検索エンジンではオンライン上に
百貨店における婦人靴の販売において,在庫管理システム
分散した情報を集約し検索可能にしている.このようなシ
と見本となる靴に添付された RFID タグを組み合わせるこ
ステムは 90 年代後半の web が一般的になった時代からは
とでサイズや色違いの商品を検索することが出来るシステ
じまる数多くの情報を蓄積している.
ムも開発されている.しかしながら,これらのシステムは
しかしながら全ての情報がオンライン化されている訳で
最終的に商品の存在を確認することはできても,存在場所
はなく,日常におけるさまざまな情報はオンライン化はも
に関しては大まかな範囲でしか特定することができず,最
とより,デジタル化されていないのが現状である.例えば
終的には人力による物体の検索能力に頼ることとなる.
自分の身の回りの持ち物に関する情報は一般的にはデジタ
本研究ではこのような問題を解決するために実空間ネッ
ル化されて管理されていない.よって自分の身の回りにあ
トワークという考え方を利用する.実空間ネットワークで
るものの存在を確認することは,地球の裏側にある国のレ
は実空間に存在するさまざまな物体をネットワークに接続
ストランの情報を得ることよりも困難であることが多い.
されたエンドポイントとして取り扱う.これらの物体はコ
同様の問題は家庭に限らず店舗などの環境においても指
ンピュータを内蔵していなくともあたかもネットワークに
接続されたコンピュータのように振る舞い,情報の提示や
1
東京工科大学メディア学部
School of Media Science, Tokyo University of Technology
取得や演算などの操作を行うことができる.
― 477 ―
実空間ネットワークのためのデバイスの例として双方向
断できるものではない.そのため店舗内においても実物を
インタラクション可能なハンガーを提案し実装を行った.
探し確かめることが重要である.このときに同形状のよう
単方向の通信が主であった従来のハンガー型デバイスとは
にみえてサイズが異なる商品が多数存在することがあり,
異なり,双方向通信を行えるデバイスとして構成すること
そのような場合には目的の洋服を特定することは容易では
でハンガーを用いた衣服情報の提示・検索・動作の取得と
ない.
いったさまざまな用途に利用することが可能である.
2. 実空間ネットワークによる洋服のノード化
2.1 Internet of Things と実空間ネットワーク
2.3 洋服とハンガーの関係
ハンガーは洋服の管理・整理において重要な役割を果た
している.1つのハンガーには1セットの洋服が掛けられ
Internet of Things(IoT) [1] とは現在主流である PC や
ている.店舗の場合には客による試着などが行われない限
携帯端末,サーバといったコンピュータのみならず,日用
り,一つのハンガーにかけられたものは同じハンガーにか
品などを含めたさまざまなモノをインターネットのノード
けられ続けている.家庭内での利用においてもハンガーに
として扱おうという考え方で,日本語ではモノのインター
かけられた洋服は,着用するために取り出さない限りは対
ネットと呼ばれている.もともとは RFID のような小型
応が変わることはない.ハンガーに洋服をかける時にハン
の自動認識可能な固有 ID をもった物体がインターネット
ガーと洋服の対応をつけることが出来れば,ハンガーと洋
とシームレスに繋がることを想定して作られた言葉であっ
服は一意に特定できると考えられる.
たが,現在では小型の無線通信機能を持った端末がネット
ワークに繋がることを想定することが多い.
ハンガーによる陳列はスペースを必要とするため,色違
いやサイズ違いといった商品が数多く存在する場合には
コンピュータや通信端末が小型軽量化されたとはいえ,
スペースの関係上折り畳まれて収納されることもあるが,
さまざまな制約からあらゆる物体にコンピュータを内蔵す
スーツやコートのような折り畳みに適さない洋服の場合に
ることは難しく,そのような場合には外部からの観測など
はそのまま展示されることが一般的である.
を用いて当該物体の状況を把握することになる.RFID を
スーツのように同色・同形状でありながらサイズ違いが
用いる場合も同様であり,その材質や形状などの問題から
店頭に多数存在する場合には,ハンガーのネックの部分に
より小型の RFID ですら利用することが困難である場合も
サイズが表記されていることがある.利用者はこれを頼り
多い.また RFID 単体では ID の取得しか行うことが出来
に自分にマッチするサイズの洋服を探すこととなる.この
ないため ID を取得するのみならず,センサ情報を得るこ
ような場合であっても,ディテールを確認するためにはそ
とや LED やブザーのようなデバイスの駆動を行うために
れぞれをハンガーごとラックから引き出して確認する必要
は何らかのシステムが必要となる.そのような機構を単体
がある.
の物体に組み込めない場合には外部環境を用いてサポート
することが必要となる.
一般的な店舗での洋服の購買行動を想定すると特定の興
味をもった洋服のみがハンガーから取り外されて試着され
実空間ネットワークではこのような IoT の概念をさらに
ると考えられる.試着を行う洋服の数は限られていること
拡張し,外部環境からの観測や代理サーバのサポートを利
が多く興味の度合いが高いものほど試着される確率が高
用することで,本体である物体には変更を加えることなく
い.そのため,試着されたかどうかという情報は販売店に
仮想的に通信のエンドポイントとなるような方式でのイン
とってはどの商品が売れたかという情報と同様に重要なも
ターネットノード化も想定している.
のであると考えられる.
このような方法を用いることで,従来はリソースの制約
によりインターネット化が困難であった物体であっても,
2.4 双方向通信可能なハンガー型デバイスの提案
インターネットの標準的なプロトコルを用いた通信によっ
てその状態を取得したり変更することが可能となる.
前述の洋服の試着情報の重要性やハンガーと洋服の対応
関係を考慮し,実空間ネットワークの実装として本研究で
は洋服の販売店における利用を想定したハンガー型のデバ
2.2 洋服の検索における問題点
イスを提案する.
店舗において購入する服の選択を行う場合には自らがそ
本システムでは店舗での利用を想定し顧客への商品の検
の好みに応じて選ぶ場合や店員との会話によって選択する
索機能の提供と同時にどの服が利用されているかについて
場合がある.
の情報を取得することを目標とする.現在でも洋服の売れ
洋服の場合には書籍や CD などと異なり,質感やディ
行きに関しては POS(Point of Sales) を利用して販売時の
テールなどのように写真では判断できない部分がある.サ
レジにおいて取得されている.しかしながら店舗内でその
イズに関してもメーカ毎の差異や生地の伸縮性,デザイン
商品がどれくらい参照されているのか(試着されているの
の違いなどに起因して,カタログ上に載せられた情報で判
か)といった購買前の情報 [2] は取得することが困難なた
― 478 ―
サーバ部
ハンガー部
LED
衣服
センサ
MCU(Arduino)
センサ
LED
MCU
IEEE802.15.4
独自プロトコル
Webアプリ
無
線
通
無
信
線
通
信
WebAPI
外
WebAPI
無
線
Webサービス
API
部
ア
プ
リ
DB
1… n
図 1 iDrobe システム概要
め,ほとんど利用されていない.そこで本システムでは検
索結果を提示するとともに,利用者の興味の度合いを示す
図 2 デモ動作中のハンガー型デバイス
ハンガーからの洋服の脱着情報を取得できる双方向性を
たシステム全てを内蔵することが可能である.半透明のハ
もったハンガー型デバイスを設計した.
それぞれのハンガーは固有の ID を保持している.ハン
ンガーは内部に装着した LED 等の光を柔らかく透過し拡
ガーは LED を用いて検索結果を提示するとともに,掛け
散させることが出来る.さらに赤外線を透過するため内部
られている洋服の脱着状況をセンシングするためのセンサ
に赤外線を用いたセンサも外部に設置せずに内蔵すること
を内蔵している.ハンガーはこの2つの機能をもった無線
が可能である.
ハンガーの内部には洋服の装着を監視するためのフォ
ノードとして構築するが,ハンガーの形状は変化させず,
単体での利用を妨げないものとする.これらの要求を満た
トリフレクタと,外部からの情報を出力するデバイスと
すことで利用者,運用者の両方に役立つサービスを提供す
なる LED が搭載される.これらをコントロールするため
るための基盤として利用することが可能である.
のマイコンボードとしては ArduinoFIO 用いており,外
このハンガーから得られる情報を収集するミドルウェア
部との通信には FIO に装着した Xbee モジュールによる
はすべてウェブアプリケーションとして構成することと
IEEE802.15.4 方式の通信を用いる.無線ネットワークは
する.
PC に接続された無線ノードを中心とした1対多のスター
ウェブを利用したシステムを構築し API を定義するこ
型のネットワークを構成する.
とにより,一般的なウェブサービスを利用したアプリケー
それぞれのマイコンにはファームウェア上で異なる ID
ションと同様の手法で店舗管理用アプリケーションを構築
を割り当てることでどのノードからの通信であるかを判断
することが可能となる.
している.
動作しているハンガーの様子を図 2 に示す.
3. システムの設計と実装
それぞれのハンガーはホスト側からのコマンドに従って
3.1 システム設計
LED の点滅を行い,衣服センサに反応があった時には個々
システムは洋服をかけるハンガー本体に内蔵された無線
のハンガーの ID とともにセンサ情報を送信する.
ノードと外部に設置されたサーバならびに通信装置によっ
て構成されている.本システムの概要を図 1 に示す.
衣服センサとして利用するフォトリフレクタはハンガー
の肩にあたる部分に内部から外部に向かってとりつけてい
ハンガーに内蔵された無線ノードはサーバ PC と通信を
る.衣服がかけられている場合には衣服がフォトリフレク
行い,LED のコントロールとともにセンサ情報の送信を行
タを覆うためリフレクタを利用することで物体が近接して
う.サーバ PC ではセンサ情報をデータベースに蓄えると
いると判断できる.この方法を用いることで非接触でハン
ともに,Web インターフェースを提供する.サーバ PC で
ガーの外形に変化を加えることなく衣類の着脱状況を認識
はウェブを用いた検索用アプリケーションが動作しており
することが可能である.
検索のためにタブレット型端末や PC を利用することが可
能である.以下それぞれの構成について述べる.
3.3 動作状況の蓄積とハンガー上 LED の操作
3.2 インタラクティブなハンガーの実装
受信機を接続した PC からネットワーク上のデータベース
ハンガーの稼働状況はリアルタイムにモニタリングされ,
本システムでは半透明乳白色のプラスチック製のハン
へと蓄えられる.この稼働状況データにアクセスするため
ガーを用いている.このハンガーは中空構造となってお
にウェブサービスの API を提供している.LED を用いた
り,内部にマイコンやバッテリ,通信装置,センサといっ
ハンガーへの情報提示も同様に,ウェブサービス上のコマ
― 479 ―
http://server.domain/idrobe/turnon/LEDNUM
図 3
LED の点灯用コマンド (URL 形式)
ンドとして実装されている.これらの仕組みを用いること
でアプリケーション開発者はハードウェア環境を意識する
ことなくハンガーの操作を行うことが出来る.LED のコン
トロールを行うためのコマンドとして,TURNON, TURNOFF
という二つのコマンドを用意した.これらのコマンドを含
む URL にハンガーの ID 番号を指定することで URL によ
るアクセスのみで特定のハンガー上の LED の操作を行う
ことが可能である.図 3 に今回作成したコマンドの例を示
す.LEDNUM と書かれたところには操作を行いたい LED
の ID 番号を入力する.
3.4 洋服の検索インターフェース
検索用インターフェースとして写真から洋服の検索を行
うことが出来るアプリケーションを作成した.ブラウザ上
で動作するインターフェースの様子を図 4 に示す.
アプリケーションは PC やタブレット上のウェブブラウ
図 4 検索用アプリケーション
ザで動作することを想定したウェブアプリケーションとし
て開発されており,データベースと同じ PC 上で動作して
り特定のハンガーをコントロールすることが可能となって
いる.
洋服のサンプル写真を利用して,ブラウザを用いて洋服
を検索することが可能である.これらの情報はウェブイン
おり,実空間ネットワークノードとして構成できていると
言える.
双方向性という観点から考えた場合には,本システムで
ターフェースを用いて管理することが可能となっており,
ハンガーと洋服の対応関係の変更を容易に行うことが可能
は外部からのコマンドによる LED の明滅のコントロール
となっている.
と同時に,ハンガーからの脱着情報の取得を行うことが出
洋服の検索では一覧表示とともに,取り出し回数のデー
来ている.この脱着情報に関してもウェブインターフェー
スを用いて取り出すことが可能となっており,容易にアプ
タを利用した人気順の一覧表示も可能となっている.
このソフトウェアを利用することで写真から選択した洋
リケーションで利用することが可能である.
服のかかっているハンガーをブラウザ上のクリック操作に
4.2 利用シーンとシナリオ
て明滅させることが可能である.
本システムの利用シナリオとしては以下のようなものが
4. 議論
考えられる.ここでは主として店舗での利用を想定した利
今回試作した双方型通信機能を持つハンガー型デバイス
用シーンとその特徴について述べる.
が実空間ネットワークとしての要件を満たしているかどう
雑誌やネット広告で見た洋服を探す場合には,写真での
かについて述べるとともに,本システムの利用シナリオを
検索や名称,ブランドなどでの検索を店舗に設置されたタ
提示する.また,本システムの機能である物体と情報提示
ブレット型端末やスマートフォンで行うことが出来る.
デバイスの一体化の有効性についての議論をおこなう.
利用者が行った情報検索の結果をリアルタイムにハン
ガーにフィードバックして実物とともに提示することが可
4.1 実空間ネットワークノードとしての機能要件
能となる.このような方法をとることで,オンラインショッ
本システムは実空間ネットワークを実現するためのシス
ピングで行われているような特定の衣服の特定や検索結果
テムとして構築している.ハンガーにかかった洋服が実空
の提示などを,ディスプレイ上の衣服の写真などではなく
間ネットワークのノードとして成立するためには,ハン
実物を通して行うことが可能である.洋服のようにさまざ
ガーにかかった状況下において仮想的に洋服がネットワー
まな素材や細工のなされた商品の場合には実物のディテー
クに接続されているとみなすことが出来るかどうかであ
ルを確認することは必須であり,オンラインショッピング
る.今回のシステムではウェブサービスを用いた操作によ
の発展にともない相対的に地位が低下している実店舗の魅
― 480 ―
力を益すことが可能ではないかと考えられる.さらにその
添付することは容易であるが,リーダライタをどこに設置
店舗でのおすすめ商品のように目立たせたいアイテムを選
するか,バッテリを使わずに動作をどうやって認識するか
択して発光させるといった利用方法により検索ではない商
といった問題がある.リアルタイムのセンシングを行うた
品ディスプレイの一環としての利用も考えられる.
めには本稿のようにアクティブ型の無線ノードを用いる方
本システムは利用者への視覚的なアピールを行うと同時
に衣服をハンガーから抜き差ししたことを検出できるの
法が有効であり,利用者がきにならない形でハンガーに埋
め込んでしまえる点は利点となるといえる.
で,その衣服に興味があった,あるいはその衣服を試着し
たという情報を収集することが可能である.このような情
4.4 今後の課題
報を利用して店舗の販売計画や店舗設計などに活かすこと
店舗での利用を想定した場合には,現状のシステムでは
が可能となるだろう.このように,ハンガーにかかった衣
いくつかの問題が生じる.ひとつは,複数人が同時にひと
服を取り上げて触るという,ごく一般的な動作をデジタル
つのシステムを利用した場合の提示に関する問題である.
化して収集することが可能になることも大きな特徴の一つ
空間上に広がったハンガーを直接操作するため,ひとつの
であると言える.
空間を専有していない限りは複数人の検索が混じってしま
う.このため,タブレット側にも ID を持たせることで,ど
4.3 データの物体への直接提示と行為による情報収集
のタブレットからの検索なのかを判断し,複数の色を表示
一般的にはコンピュータを用いた検索結果の結果は,画
することで複数の検索結果を同時に提示する必要がある.
面上に提示される事が多い.実空間に情報を提示する技術
また,洋服とハンガーの対応は現在のところ固定となっ
である AR(Augmented Reality) ではビデオカメラによる
ているため,なんらかの理由で違うハンガーに洋服をかけ
環境画像の取得を行い,その画像のうえに処理した情報を
直した場合には,実際の検索結果が想定するものと異なっ
重畳して表示することが多い.そのため,高密度に重なっ
てしまうということが生じるおそれがある.リアルタイム
た物体の認識に弱いといった問題が挙げられる.RFID の
に洋服とハンガーの対応を更新するためには,洋服そのも
場合には重なりあった物体の裏まで検索することが出来る
のに RFID のような自動認識可能なタグを取り付けてハン
が,伝搬状況の判断が難しい電波を利用するため,検索対
ガーで読み取るなどの工夫が必要である.
象を特定することが困難であり,物体の検索や数え上げに
このような小型の無線デバイスに一般的な問題としては
利用することができても,検索結果を示すことが難しい.
省電力化や小型化が挙げられる.店舗などで実運用する場
本研究のような,それぞれの物体に直接デバイスをとり
合には電池の交換や充電頻度は大きな問題となることが考
つけて発光させるという手法をとることにより,重なり
えられるし,サイズを小型化することが可能であれば,ハ
あった狭い場所であっても物体を一意に特定することが可
ンガーだけにとどまらずさまざまな商品を同じ仕組でネッ
能となる.無線ノードを添付するというサイズやコストの
トワーク化することが可能となる.
問題は生じるものの,店舗における大型商品などの検索に
おいては物体とデータの直接的な融合と動的な支援が有効
5. 関連研究
日常使う物品に表示装置を取り付けて利用する例とし
であると考えている.
逆にノードからの物体情報の収集の観点からはハンガー
ては Media Lab の Tangible Media Group で開発された
に装着したセンサを用いることで,利用者の行動をある程
TouchCounters [5] がある.TouchCounters はプラスチッ
度推定することが可能となることが挙げられる.衣類の脱
クのコンテナに LED の表示部をとりつけて,コンテナの利
着を検出するためにハンガーの肩にあたる部分にはフォト
用を行った情報に従って LED の表示カウントを増加させ
リフレクタを装着しており,このフォトリフレクタにより
るというものである.この研究ではそれぞれの箱の利用状
ハンガーになにかがかけられているかいないかを判断する
況をリアルタイムにカウントし表示することでプロセスの
ことが可能である.そのため衣類の細部を観察する,ある
改善などに役立てることが可能であるとしているが,ネッ
いは試着するためにハンガーから取り外すという行為を認
トワーク上で得られた検索結果を表示するといった使い方
識することが可能である.
をするものとは異なっている.
これらの行動を取得することにより,販売前の顧客の行
衣類の収納においてハンガーは非常に一般的な手段の一
動データを収集し分析することが可能となる.このよう
つである.そのため,ハンガーを持ちいた研究は非常に多
なデータを収集する場合にはビデオカメラに頼る方法や
くなされている.
RFID タグを用いる方法などがあるが,ビデオカメラは近
筆者らが作成した iDrobe[3] はファッションコーディネ
年のプライバシ保護問題により公共の場での情報収集装置
イトのために推薦する洋服を提示するためのシステムで
として使うことが困難になってきている.電池を内蔵しな
ある.ハンガーに赤外線通信装置ならびに LED を搭載す
いパッシブ型の RFID の場合には小型軽量なタグを洋服に
ることにより,推薦結果として検索されたハンガーを知ら
― 481 ―
せることが出来る.さらに,それぞれの洋服ならびに会員
[3]
カードには RFID を取り付けることにより,洋服から違う
洋服への端末操作を伴わない推薦や自分のサイズにフィッ
トした洋服のみの抽出を行うことが出来る.
[4]
AwareHanger[4] は洗濯用ハンガーにセンサを取り付け
ることにより衣類の乾き具合を知ることができるハンガー
[5]
である.電導率を計測することにより,衣類の乾燥を検知
し,ブザーやツイッターを利用して利用者に通知する.こ
のような方法をとることにより,屋外に干すことが一般的
な洗濯物を建物の内部や遠隔地からモニタリングすること
[6]
が可能となっており洗濯時の利便性を向上させている.今
後の計画としては乾燥した衣類のかかっているハンガー
を知らせるために LED を発光させるといったアイデアが
あったが,基本的には AwareHanger は洗濯物のセンシン
グを行うためのデバイスとして構成されており,オンライ
ン上での情報処理の結果を提示するデバイスとしては構成
されていない.
TeamLab hanger [6] はチームラボによる店舗内でのイ
ンタラクションを生成するためのハンガーである.ハン
ガーをスタンドから取り外す動作を検知することで,取り
出された衣類に関連した画像や動画を店舗に設置されたサ
イネージ上に流すことが出来る.ハンガーは画像や動画と
いったコンテンツを再生するためのトリガーとなってお
り,AwareHanger と同様にオンライン上での情報検索の結
果を提示するといった双方向性はもっていない.
6. おわりに
本研究では衣服を媒介とした情報の検索と提示を行う
ためのデバイスとして,双方向通信を行い状態の入出力を
行えるデバイスでもあるハンガーを設計ならびに実装した.
センサとアクチュエータの機能をもつノードとしてハン
ガーを再構成し,それにかけられる衣服のプロキシとして
利用する.この手法を用いることで,衣服のように電子回
路を埋め込むことが困難な物体であっても限定された条件
であればリアルタイムなセンシングや発見を行うことが可
能である.その結果,タブレット型端末と連携したオンラ
イン店舗で展開されているような検索・推薦機能の利用を
行うと同時に利用状況ログを収集することが可能となる.
さらにこれらのシステムをウェブサービス上に構築する
ことで利用者ならびに開発者はウェブ開発の知識のみを利
用することで実空間に実体として存在するハンガーを介し
た情報システムを構築することが可能となる.
参考文献
[1]
[2]
Kevin Ashton: That ’Internet of Things’ Thing. RFID
Journal, 22 July 2009.
田村哲朗, 稲葉達也, 中村修, 國領二郎, 村井純, ”RFID を
利用した購買前行動の解析”, 経営情報学会 2009 年秋季全
国研究発表大会 pp. 232-235 (2009)
― 482 ―
境賢太郎, 羽田久一, 安村通晃. iDrobe: RFID を用い
たファッションコーディネート結果の表示システムの試
作. ヒューマンインタフェースシンポジウム 2008 論文集
(一般発表), September 2008.
AwareHanger:洗濯物の乾き具合を通知するハンガー, 田
島 奈々美, 塚田 浩二, 椎尾 一郎: 情報処理学会研究報告,
UBI, 2010-UBI-27(2), 1-5, 2010-07-08
Paul Yarin and Hiroshi Ishii. 2000. TouchCounters: designing interactive electronic labels for physical containers. In CHI ’00 Extended Abstracts on Human Factors
in Computing Systems (CHI EA ’00). ACM, New York,
NY, USA, 18-19. DOI=10.1145/633292.633305
teamLabHanger,
http://www.team-lab.net/portfolio/hanger.html
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