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平成14年度第1学期 体験的授業 報告書
4.平成14年度第1学期 体験的授業 報告書・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・135 1.電気を伝える電子と磁石の性質を示す電子−量子力学の学習と実験を通して−・・・・・・137 2.楽器を作ろう−音の科学入門−・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・143 3.物理入門(I) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・145 4.原子核を見るⅠ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・153 5.体カの経年変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・161 6.脳による行動制御のしくみ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・209 7.音楽心理学・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・213 8.身近な光の不思議を探る・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・221 9.化学フロンティア I (色−化学の過去・現在・未来の伴奏者−) ・・・・・・・・・・・・・・・・225 10.化学フロンティア IV,光を用いて分子の変化を知る・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・233 11.化学フロンティア VI (身の回りの有機化学とその夢) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・237 12.地球環境資源問題:直面する問題解析と行うべき研究課題は何かを考える・・・・・・・・・・241 13.光の速さを測ろう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・249 14.エネルギー・資源を考える・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・257 15.自律走行ロボットの世界−火星探査機から深海調査船まで−・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・269 16.科学とあそぼ!(II) テクテク科学教室・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・271 17.建築構造計画入門・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・277 18.建築・町を見る・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・281 体験的授業実施報告書 1. 授業名:電気を伝える電子と磁石の性質を示す電子 ─量子力学の学習と実験を通して─ 2. 授業区分:基礎セミナー 3. 教官名: (1) [責任者] 大貫惇睦 (2) 摂待力生 (3) 杉山清寛 (所属:大学院理学研究科) (所属:大学院理学研究科) (所属:大学院理学研究科) 4. 達成すべき授業目標:量子力学を学習しながら、物質の中の電子の性質を調べる。 5. 体験の内容:金属の電気伝導は金属中を自由に動く電荷を持つ電子の性質による。 電子が波の性質を持っていることを電気抵抗を実際測定し、量子力学を学びながら 知る。次に磁石同士の力のかかり方を体験し、超伝導体の磁気浮上の実験を行い、 どうして超伝導体の上に置かれた磁石が浮き上がるのかを議論し合う。 6. 受講人員:7名[ 内訳 男子 4名 女子 1名 高校男子 高校女子 2名 0 名] 7. 実施場所:理学部B302 8. 授業内容 (1) 第1回 4月 12 日(金) 計画:オリエンテーション 経過:自己紹介、授業内容の紹介、 「粒子性と波動性」のビデオを見た後、粒 子性と波動性の二重性について議論。波はエネルギーを運ぶのかなどの 疑問がわき、そもそも波とはどういう性質をもっているかなどを議論し 合った。 (2) 第2回 4月 19 日(金) 計画:量子力学をゼミ形式で学ぶ1 経過: 「量子力学入門」のビデオを見る。確率の波について議論。波の性質を 調べるため、Mathematica を用いてコンピュータで波のシュミレーショ ンを行うこととする。まずは、Mathematica の使い方を学んだのち、波 長、振動数および波数など波の基本的性質について具体的なイメージを 137 つかんでもらう。 (3) 第3回 4月 26 日(金) 計画:量子力学をゼミ形式で学ぶ2 経過:第1回、第2回のビデオで学んだ粒子性と波動性を結び付ける概念で ある 波束 をつくるにはどうしたら良いかを議論。波の重ねあわせ、 波の進行、定在波、フーリエ級数の考え方などを学ぶ。 (4) 第4回 5月 10 日(金) 計画:量子力学をゼミ形式で学ぶ3 経過:前回に引き続き波束について議論。コンピュータで波束を作ってみる。 (5) 第5回 5月 17 日(金) 計画:量子力学をゼミ形式で学ぶ4 経過:テキスト「量子力学 I」(小出昭一郎著、裳華房)を用いて、量子力学 が生まれた背景や、発展の歴史を学ぶ。 (6) 第6回 5月 24 日(金) 計画:電気抵抗の仕組みと物質の電気的性質について学習1 経過:テキスト「量子力学 I」(小出昭一郎著、裳華房)を用いて、量子力学 における最も重要な「波動方程式」について学ぶ。 (7) 第7回 5月 31 日(金) 計画:電気抵抗の仕組みと物質の電気的性質について学習2 経過:テキスト「量子力学 I」 (小出昭一郎著、裳華房)を用いて、 「波動方程 式」に現れる「波動関数」、 「存在確率」、 「エネルギー固有値」につい て学び、議論しあう。 (8) 第8回 6月 7 日(金)電気抵抗の仕組みと物質の電気的性質について学習 1 計画:電気抵抗の仕組みと物質の電気的性質について学習3 経過: 「電気抵抗」とは何か、何が電気抵抗の大きさを決めているのか、物質 は電気的性質でどう分類されるかを話し合う。 (9) 第9回 6月 14 日(金)電気抵抗の仕組みと物質の電気的性質について学習 2 計画:電気抵抗の仕組みと物質の電気的性質について学習4 経過: 「電気抵抗」とは何か、何が電気抵抗の大きさを決めているのか、どの ようにすれば精度良く電気抵抗が測定できるかなどを話あう。「四端子 法」についてその利点を考える。 138 (10) 第10回6月 21 日(金) 計画:電気抵抗の実験を行ないながら高温超伝導を作ろう1 経過:電気抵抗の温度変化を測定するためには、物質の温度を測定する必要 がある。温度計として「熱電対」がよく用いられるので、異種金属を接 触させ、温度差をつけたときに生じる「熱電効果」について学び、実際 に銅線と鉄を繋いで一方の端子を氷水につけ、他方の端子をライターの 火に近付けたり液体窒素につけるなどして電圧が発生する実験を行う。 (11) 第11回6月 28 日(金) 計画:電気抵抗の実験を行ないながら高温超伝導を作ろう 2 経過:金属の代表として「銅」の電気抵抗の温度変化を測定する。また、3 つめの測定物質である「高温超伝導体」をつくるために、原料の調合、 混合、ぺレット作り、仮焼きなどを行う。 (12) 第12回 7 月5日(金) 計画:電気抵抗の実験を行なう1 経過:金属の代表として「シリコンダイオード」の電気抵抗の温度変化を測 定する。また、「高温超伝導体」づくりの続きをおこなう。 (13) 第13回9月6日(金) 計画:電気抵抗の実験を行なう2 経過: 「高温超伝導体」の電気抵抗の温度変化を測定し、実際に電気抵抗がな くなる様子を観測する。 (14) 第14回9月 13 日(金) 計画:各自まとめと発表の準備 経過:日本物理学会出席のため休講 (15) 第15回9月 20 日(金) 計画:まとめと発表 経過:各自、実験結果について考えたことや量子力学で学んだことなどを話 あう。 9. 配布教材:プリントしたものを配布 教科書:使用しない 参考図書:授業に応じて提示する 139 10. 成績評価: (1)評価方法:日の活動状況、議論などでの発現状況、最終発表を総合的に 判断する (2)評価結果と成績分布:90点 3名、80点 2名、なお、高校生は成 績評価をしていない。 11. 提出物等受講生による成果のサンプル 受講生が育成した高温超伝導体の一例 140 12. 実施結果と今後の課題: 本授業は電気伝導と磁性という実際の生活では体験しにくい部分を実験を通 じて体験してもらい、その体験から単に頭だけの知識としてでない体験から得 られる量子力学というものを理解してもらうのが最終目的であった。実際に指 導するにあたって、電気伝導と磁性の両方を追いかける事は、 「二兎を追う者は 一兎をも得ず」の例えにならぬよう、電気伝導をテーマの中心に絞り、時間が あれば磁性に触れるというように指導方針の変更を行なった。しかし、実際に 指導を始めてみると、理解なしの体験はあり得ず、論理的でないにしても理解 するというための知識を与える事に苦労した。特に、 「波」の学習をしていない 高校生に波動の概念や知識を知ってもらう事に時間がかかった。そのため、磁 性分野に取り組む時間はなくなってしまい、当初の後半の目的は達せられなか った。 量子力学の直感的な理解に波動についての理解は大切である。今回はコンピ ューターによって直感的に理解してもらう事を考えたが、簡単な実験や模型の ようなものを導入して、直感的な波動の理解というものも工夫する必要がある と感じた。波動は高校レベルでは減らす傾向にあると聞いているが、これから 先、波動の理解が大きなポイントになるかもしれない。 電気伝導を体験してもらうという点では、普段体験できない液体窒素を用い た、低温での金属と半導体での電気抵抗の温度による振舞いの違いや、実際に 自分たちで育成した超伝導物質による超伝導の観察が出来た点で成功した、と 考えている。超伝導状態でのマイスナー効果の確認などは、マイスナー効果そ のものの理解が深くなくても、十分感動的なものだったと思われる。それが量 子力学を用いてどの程度理解できたかといえば、できているとはいえないが、 「体験する」、ということが大切で、将来、量子力学を体系的に学んだ時にこの 体験が生きて来ると信じている。 高校生が参加した授業は私たちにとって始めての体験だった。学生たちの基 準となるレベルが大きく異なるという点で、一般のマスプロ教育(40 名以上の 普通の講義)では成り立たないクラスだと思うが、小人数のクラスであるとい うことで、私たち教える側が個人的にサポートできる点、大学1年生が高校生 を指導できるという点があり、このようなクラスが成り立つ事を体験した。大 学生が高校生を教えるという事は、実は彼等にとっても学習することになって いて、その意味で2重の教育効果があり、一石二鳥となった。高校生に側も学 習意欲が高く、難しい事がらにも臆することなくチャレンジしてくれて良かっ た。 今回の体験型学習は初めての試みで、いろいろ問題点も残った。量子力学と いう実際に目に見ることが出来ずにイメージしにくい学問をコンピューターを 用いて何とかイメージさせる事を考えたが、この部分については成功したとは 言いがたかった。コンピューターそのものの扱いは、今の学生は充分にこなせ 141 ているが、Mathematica という具体的なソフトの扱いにとまどっていた。わたし たち、教える側の一層の準備が必要な部分である。 実験装置が数多くあったとはいえず、積極的な学生と消極的な学生の間で、 役割分担が生じてしまう問題もあった。7名に対して用意できたコンピュータ ーも今回の費用で購入したものと研究室のものの 2 台しかなく、実際に作業に あたれる学生が限られたのも問題である。これらの点については、複数年の開 講にあたっては年を経るにしたがって充実できるものと考える。Mathematica ソ フトの準備の仕方にも一工夫必要であろう。アニメーションなどの取扱いも出 来るのであるが、底までたどりつけなかったのが残念だった。 量子力学の内容に関しては、今迄の経験もあり対応することができたが、電 気抵抗を理解するという点については、教える側の一掃の工夫が必要であると 感じた。物質中を伝搬する電子が周期的な原子の並びの中では抵抗を受けずに 自由に通りぬけ出来るという点が重要であるが、この部分が目に見える形で理 解できるような工夫が必要である。 高校生の参加については、上記にものべたように否定的な反省点は無いが、 連絡などの点で問題があった。携帯電話の普及に伴って、メール等を用いた連 絡態勢が整えば、授業遂行の上で大きな力となるだろう。次回へのすぐにも実 行できる反省点である。 142 体験的授業実施報告書 1. 授業名:楽器を作ろう−音の科学入門− 2. 授業区分:基礎セミナー 3. 教官名: 4. (1) [責任者] 阿久津泰弘 (所属:大学院理学研究科) (2) 菊池誠 (所属:サイバーメディアセンター) 達成すべき授業目標:楽器を作って実験することにより、その発音原理を理解し、それを通して 基礎となる振動・波動現象や電磁気現象の理解を深める。 5. 体験の内容:アコースティック楽器や電気楽器を自分の手で作り、それを用いた実験を行う。 6. 受講人員:7名 7. 受講場所:理学部B406 8. 授業計画と内容 1.第1回 平成14年4月12日(金) 授業経過:ガイダンスとイントロダクション 2.第2回 平成14年4月19日(金) 授業経過:アコースティック楽器を作る(その1) 3.第3回 平成14年4月26日(金) 授業経過:アコースティック楽器を作る(その2) 4.第4回 平成14年5月10日(金) 授業経過:アコースティック楽器を作る(その3) 5.第5回 平成14年5月17日(金) 授業経過:アコースティック楽器を作る(その4) 6.第6回 平成14年5月24日(金) 授業経過:アコースティック楽器で実験する(1) 7.第7回 平成14年5月31日(金) 授業経過:アコースティック楽器で実験する(2) 8.第8回 平成14年6月7日(金) 授業経過:中間発表会 9.第9回 平成14年6月14日(金) 授業経過:電気楽器を作る(その1) 10.第 10 回 平成14年6月21日(金) 授業経過:電気楽器を作る(その2) 11.第 11 回 平成14年6月28日(金) 授業経過:電気楽器を作る(その3) 12.第 12 回 平成14年7月5日(金) 授業経過:電気楽器を作る(その4) 13.第 13 回 平成14年7月12日(金) 授業経過:電気楽器で実験する(1) 143 14.第 14 回 平成14年9月6日(金) 授業経過:電気楽器で実験する(2) 15.第 15 回 平成14年9月13日(金) 授業経過:最終発表会 9. 配布教材: 教科書:なし。 参考図書:講義初回に指示する。 10. 成績評価:中間と最終の2回成果発表を行い、それにより評価。 12.実施結果と今後の課題: 体験は3人1組程度の小グループ単位で行う予定をし、結果的に予定通りの実施となった。授 業アンケートより、良い結果が得られたと考えている。小さい頃より受験勉強に追われて音楽に 係わる余裕のなかったかに見受けられる学生が混じり、グループ指導で困難を感じた。予めのガ イダンス等、学生側の受講決心前の手順も今後考える必要がある。 144 体験的授業実施報告書 1.授業名:物理学入門(I) 2.授業区分:専門基礎教育科目 3.教官名 1.藤田佳孝 (所属:理学研究科) 4.達成すべき授業目的: 大学入試で、物理を選択しなかった理科系学生を対象とする授業である。学生に対するアン ケートは、これらの学生の多くが物理に対して否定的な印象を持っている、ということを明確 に示している。まず物理アレルギーを取り除き、物理への興味を喚起し、後の勉学や研究にお いて必要となる、物理的、体系的な思考能力を養う。 5.体験の内容: 必須の専門基礎教育科目であるので、物理初学者であるからといって、授業内容の程度につ いては妥協しなかった。しかしそのままでは、物理アレルギーが増し授業についていけない学 生の増加を招くばかりである。学習する物理の内容が机上の空論でなく、現実世界と密に結び ついたものであることを示すため、授業内容に関連する実験を授業中に行い、授業内容に対す る興味を喚起し、理解を深めることにした。単なる写真や CG グラフィックによるのでなく、 身の回りにあるもの、身の回りで起こりえることでありながら、「あれっ」と思うような例を できるだけ取り上げた。ブラックボックス的なものは避け、いわゆる「種も仕掛けもない」素 材でありながら、なぜだろうと興味を持たせる内容を、できるだけ選ぶように工夫してみた。 6.受講人員:約74名 男女別内訳 男子 32名(内留学生男子 女子 42名 学部別内訳 医学部医学科 医学部保健学科 歯学部 7.実施場所:共通教育講義室 1名) 17名 40名 17名 B207 8.授業計画と内容: 各回の授業は、月曜3時限、物理学入門(I)のシラバスにのっとり行なった。 大学入試で、物理を選択してこなかった医学部医学科、医学部保健学科、歯学部の学生に対し て、力学を初歩から教えた。導入部分を丁寧に行い応用的な内容を割愛したが、物理学の基本 的な考え方である、「基本式からはじめ、多くを理解する」という基本を守った。また、高校 3年間で修得した、微分やベクトルといった数学的基礎も前提とした。したがって、対象が物 理初学者であっても、授業内容は、いわゆる「大学レベル」を維持し、高校物理の補修とは、 一線を画した。 これら物理初学者の直面する最大の困難は、物理用語の理解ができないことである。例えば、 加速度という言葉と、速さが増す度合い、という体験とが結びつかない。言い換えると、現実 で起こっている事柄に対する認識の不十分さ、ということになる。その為、毎回の授業で授業 内容に関連する現象を、なるべく多く見せ、授業にできるだけ「体験的」要素を取り入れ、内 145 容に対する理解を深めさせることとした。また現代物理学の基本ともかかわる基礎的な実験を 行ない、面白い世界の一端を紹介した。 それぞれの実験は、10分から15分程度で終わるような簡単なものとし、できるだけ、身 近にある素材を使って行った。 また添付した「アンケート」を、毎授業時間の最後に書いてもらい、学生が理解できなかっ た部分の把握につとめた。そのような部分については、次回の授業で追加の補足説明を行った。 講義内容の理解を助けるための資料や、演習問題も必要に応じて配布し、一部については、提 出を求めた。 以下に、授業における「体験的」部分のねらいと内容を、授業内容と関連づけながらを説明 する。 (1)第1回 4月 15日 力学の基本的な考えかたを、歴史的経緯を交えて講義した。そのため、力学に対する一般的 な興味をそそるおもしろい現象として、「逆さゴマ」と、大小の重さ(質量)の大きく異なる スーパーボールを使った実験を行った。 「逆さゴマ」は、コマと地面との摩擦を利用して軸をぶれさせ、ついには、コマの胴の部分 が上になって回転するという、面白い性質を持つ。回転する物体の持つ不思議な一面を見るこ とができる。 スーパーボールのほうは、質量の大きなボールが、小さなボールを大きく跳ね飛ばすという ものである。運動の大きさ(運動量)の意味を実感してもらった。 (2)第2回 4月 22日 力学小史を講義した。物理は常識に反して単純であること。物理学における基本的な力は、 重力、電磁気力、弱い相互作用、強い相互作用の4種類しかないこと、またそのうちで宇宙全 体の大枠の構造を決めているのは、力学的現象であり、重力である事を説明した。後に使うの で、万有引力から重力を導いた。 地球が太陽の回りを回る、とよく表現されるが、その意味するところを天秤棒の両端にぶら 下げた重りを使い説明した。また、電磁相互作用の例として、銅やアルミなどの非磁性の導体 の中を、磁石がゆっくりと落ちる様子を見せた。これは、電磁誘導により引き起こされる現象 であるが、重力に簡単に対抗する電磁相互作用の強さをも示している。 (3)第3回 5月 13日 位置、速度、加速度など、ニュートンの運動方程式を導入するための、基本的な概念を説明 した後、微分の概念、ニュートンの運動の3法則、そして物理学に現れる等号には、3種類あ ることなどの説明をした。 この日は、五月晴れのさわやかな日であったので、力学とは少し離れるが、静電気の実験を 行った。プラスチックの板を、別のプラスチックでこすると、うまくパチパチと音がする。デ モンストレーションは、ペットボトルにあけた穴から流れ出す水(電気的に中性)を、静電気 で曲げる、というものである。はたしてこの日、水は大きく曲がり実験は大成功であった。水 の分極によって起こる現象であることを説明した。 (4)第4回 5月 20日 ニュートンの運動方程式が持つ意味について講義した。また、これを差分表現することによ り、この方程式の持つ物理的な意味を理解させるように努力した。 4月に説明した物理学における4種類の基本的な力(相互作用)のうち、弱い相互作用によ り起こるベター崩壊、及び電磁相互作用により起こるガンマー崩壊の例を見せた。蛍光灯を点 146 灯するのに使うグロースターターには、微量ながら、ベター放射性物質が使われている。また、 天然のカリウム化合物はガンマー線を放出する。これらを線源とし、放射線測定器GM管で検 出する。紙を数枚重ねて線源と測定器の間にいれると、ベター線が止まる様子などを観察し、 ベター線は電子の流れであることで、その振る舞いが理解できることを説明した。一方ガンマ ー線は高エネルギーの光なので、簡単には減衰しない。身近にある放射線の多様性を見てもら えたと思う。 (5)第5回 5月 27日 運動方程式の右辺に現れる外力について説明した。重力により働く力、斜面に置いた物体に 働く力、ベクトルの性質を持つ力の合成、分解、また摩擦力について、基本的な説明を行った。 大きな板で斜面を作り、まずは実際にボールを転がし、ボールが重力によりだんだん加速さ れながら斜面を転がり落ちる様子を観察した。 斜面を使ってできる楽しい、そして考えさせる実験をしてみせた。中味の詰まったコーラ缶、 空のコーラ缶、そして、缶を振って中身を泡立たせたコーラ缶を用意した。これら3種類の缶 を用意した長細い斜面上で転がした。どれが速く転がるか、またそれはどのような理由による ものであるか、をみんなで考えてみた。よく考えると、こんな簡単そうなことに物理がいっぱ い詰まっているのに気付く。 (答え)空の缶が一番遅い。そして振らない缶が一番速くなる。 (6)第6回 6月 3日 物体の運動の最も簡単な例として、時間や位置に依存しない一定の外力が物体に働く場合に ついて、運動方程式をたて、かつその解法を学んだ。 次週に学ぶ単振動の実演をした。ひもにテニスボールを結びつけ、ひもの長さを変えると振 動の周期が変化すること。また2つの単振り子をゴムひもで弱く結びつけた、いわゆる連成振 り子では、一方に起きた振動が、時間とともにゆっくりと他の振り子に移り、自身は止まって しまう。またしばらくすると振動が元に戻る。このような特異な現象が、簡単なシステムで見 えることに驚いた人が多かったようだ。 (7)第7回 6月 10日 バネの先につけた物体が行う振動運動(単振動)の運動方程式、及びその解法について学ん だ。また運動方程式の考え方の復習を行った。 バネが斜面や階段を降りていくとき、非常にユーモラスな挙動を示す。2種類のバネと 1.5m X 40cm 程の板を用意し、バネが斜面を降りていく様子を楽しんだ。 (8)第8回 6月 17日 斜面を滑り落ちる物体を例にとった、二次元運動に対する運動方程式のたてかたと、その解 法を学んだ。 時間の関係でこの授業ではふれることができないが、重要な概念として波(波動)、そして その干渉を、レーザー光と曲尺(かねじゃく)を使いデモンストレーションした。曲尺の金属 部分はレーザー光を反射するが、黒く刻まれている目盛りの部分は反射が起きない。隣同士の 反射が干渉し、白い壁に赤い点の列ができると、どよめきがわき起こった。 (9)第9回 6月 24日 地上で我々が感じる重量、重力が作用したときに感ずる重力質量、物体が動くのを嫌がる性 質として定義される慣性質量について学習した。また重力質量に関連して万有引力の法則その 147 応用としての円運動の導入部について学んだ。 次回に学習予定の、運動量と、その保存則についてあらかじめ概念を知ってもらうため、ア メリカンクラッカー(本来は、パンパンと音を出すおもちゃ)を用意した。アメリカンクラッ カーの一つの球が、同じ質量の他の球に当たると止まる様子を観察した。 (10)第 10 回 7月 1日 回転運動の応用として、潮汐について学んだ。また運動量の意味とその保存則を調べた。保 存則は、始めて学ぶ概念なので次回に続くように、丁寧に説明した。 角運動量についての理解を深めるため、自転車の車輪を持ち込んだ。回転している自転車の 車輪は、倒すことがむずかしこと、つまり、ベクトルである角運動量の方向を変えるのは、容 易ではない(トルクが必要である)ことを体験してもらった。 (11)第 11 回 7月 8日 角運動量保存則について学習するとともに、仕事とエネルギーの基礎、及び似て非なるそれ らの概念を勉強した。 角運動量保存則についての理解を深めるため、前回についで自転車の車輪と、よく回転する 椅子を持ち込んだ。学生さんが椅子にすわり両手を前に突き出し自転車の車輪を支える。また 椅子が自由に回転するように足を床から浮かす。速く回転している自転車の車輪を横倒しにし ようとすると、椅子と体が勝手に角運動量を保存するように回ることを体験した。 時間的制限で、授業中に触れることのできなかった圧力、その代表としての大気圧の強さを 示す実験を、ペットボトルと真空ポンプを使っておこなった。ペットボトルの空気を真空ポン プで引くと、瞬時にペットボトルはグニャグニャにつぶれてしまった。1kg重の物が、1平 方cmの所に乗っていることに対応する、と計算して説明した。 (12)第 12 回 7月 15日 力学的エネルギー保存則について学習した。 実験は、古典力学の次に続くべき課題である、量子力学を意識し、超伝導物質によるマイスナ ー効果をみせた。超伝導状態の超伝導物質の上に磁石を置くと、超伝導状態では磁場が物質内 を通過できないため、浮き上がる様子を観測した。 (13)第 13 回 テスト 9月 2日 (14)第 14 回 9月 テスト(追試) 9日 9.配布教材: 前述のように「アンケート」を、毎授業時間の最後に書いてもらい、学生が理解できなかっ た部分の把握につとめた。そのような部分については、講義内容理解を助けるための資料を配 布した。 教科書、参考書:シラバスに明示 10.成績評価(評価方法): 毎回の授業の理解を問うレポート提出を求めるとともに、最終試験で物理の本質的部分が理 解できているか、またそれを基にしての考える力を問うた。考える時間を与える意味で、試験 148 時間は無制限とした。成績の分布は、後にまとめる統計資料を参考にされたい。 11.その他: (授業をしての一般的感想) 平成 12 年度、13 年度に、授業内容に関連する実験を行う試みをすでに行った。予算もなく 手持ちの器具や「おもちゃ」を使ったが、学生の反応はよかった。今回実験内容をより充実す ることができた。学生の学習意欲の向上につながったと思う。 毎回の出席率は非常に高かった。授業自身は好評であったと思われる。しかし試験をしてみ ると、内容をよく理解しているグループと、復習もせず、ただ面白く聴いていただけではない か、と思われるグループに分かれた。 (試験時の学生の自由記入の欄より) 毎回行われる実験が面白く、物理現象の理解を助けるものでもあり、とても有益だったと思 います。眠気ざましにもなるので、今後とも是非続けてほしいです。 (歯、男) 授業では、日常よく使われるボールや缶を使って実験をされるのが、非常におもしろかった です。印象に残っているのは、アメリカンクラッカーによる保存則の証明です。そんなところ に物理的現象が!! と驚きました。(歯、女) 高校のとき嫌になった物理をまた大学でやらないといけないのかと正直思っていたけど、こ の授業で物理がほんの少しだけ好きになった気がした。実験を見るのも楽しかったし、潮汐現 象は、なるほどそうなのかと思ったし、物理にも以外と楽しい所があるんだと思った。(医、 保、女) 毎回の実験、(中略)身近なものを使ってやってくれたり、生徒が手伝ったりするのもよか った。(歯、女) 高校の物理はワンパターンで公式を覚えれば、計算ミス以外点数を落とすことはほとんどな くなるため、楽なのですが、面白くなかった。大学にきて、いろいろ考えさせられると、難し くて辛いですが、とても面白いです。(中略)入試で、ワンパターンな事ばかりやっていただ けに、頭にはかなりこたえましたが、本当にやっていて楽しかったです。楽しい物理を本当に 有難うございました。(医、医、男) (新聞報道) 7月8日の講義時に日本経済新聞の取材を受け、7月20日朝刊に、体験的授業の様子が、 写真入りで紹介された。 (そのコピーを同封する。) (統計資料) 高等学校における物理の履修状況 なんらかの形で履修した 全く履修しなかった 54名 20名 高等学校で物理履修と単位取得 高等学校で物理履修者の試験合格人数 高等学校で物理未修者の試験合格人数 44名(10名が不合格) 17名(2名が不合格、1名欠席) 149 (考察)このことから、高等学校で物理履修状況と、この授業の合格、不合格の間には、相関 は認められない。むしろ、高等学校ですこしは学習したからと、勉学をおこたった物理履修者 の学生が多く不合格になっているようにも見受けられる。また後に示すように、物理履修者の 学生の多くは、高校からの物理苦手意識を引きづっている。それが災いしたとも考えられる。 教える立場にある私が、学生の心理までは、つかみ切れていなかった、ということになる。一 方、ある意味で中立な立場の未修者が、履修者に負けまいと、努力した成果とも考えられる。 高等学校で物理履修と成績優秀者 高等学校で物理履修者の内優秀な成績であった者 15名 高等学校で物理未修者の内優秀な成績であった者 3名 (考察)物理の用語や概念が難しく、「言葉」だけでも知っている、知らないと言うことで、 差が出たのであろうか。 高等学校で物理履修者の物理に対する意識調査 嫌いではない、少し好き 好きでも嫌いでもない 数式や記号が嫌い 苦手、嫌い 10名 7名 4名 33名 高等学校で物理未履修の理由 カリキュラム上の制度による制約 12名 (生物、科学、物理の内2科目しか履修できない) 物理に対する苦手意識 6名 物理の授業が開講されていない 2名 150 151 152 体験的授業実施報告書 1. 授業名:原子核を見る I 2. 授業区分:共通教育系科目 基礎セミナー 3. 教官名: 1.[責任者] 松多健策 (所属:理学研究科物理学専攻) 2.南園忠則 (所属:理学研究科物理学専攻) 3.福田光順 (所属:理学研究科物理学専攻) 4. 成すべき授業目的: 電子の電荷量や質量の実際の測定を通して、物質の構成要素としての電子を実感する。原子核の探査方法 としての放射線の検出原理を理解し、放射線の物質中での相互作用を実験的に検証する。 5. 体験の内容: ミリカンの装置による電子の電荷測定。電子の比電荷測定による電子質量の導出。霧箱の自作とα線観測。 ガイガーカウンターの自作。放射線検出器によるβ、γ線の観測。β、γ線の物質との相互作用に関する実 験の遂行。研究成果のプレゼンテーション。 6. 受講人員:10 名 [内訳 男子 9 名 女子 1 名 留学生 2 名 高校生 0名] 7. 実施場所:理学部 B124 号室、RI センター豊中分館物理系実習室 8. 授業計画と内容 (1)第1回 平成 14 年 4 月 12 日 16 時 20 分∼17 時 50 分 計画:自己紹介により自己アピールさせる。その後、原子核・素粒子の世界と四つの力について講義する。 また、加速器施設を見学し、実地に原子核の学習を行う。 経過:それぞれに、自由に自己ピーアールを行わせた。これに続いて講義を行った。講義では、自然界の基 本的な四つの力のうち我々に最もなじみの深いものが電磁相互作用であること、我々の感覚器も電磁気 現象を用いて自然を認識していること、したがって、原子核・素粒子の世界を支配する核力等の観測に も、最終的には電磁気現象まで持ってくる必要があることを学生との対話形式で解説し、測定一般の原 理を理解させた。その後、理学研究科附属原子核実験施設内のバンデグラフ実験室にて、バンデグラフ 静電加速器および、直線加速器、ならびにこれらの大型装置を用いた、原子核物理学上の実験装置の見 学を実施した。粒子ビームの加速原理や、放射線の検出法、原子核とはどんなものかといった学習を実 地に行った。 (2) 第 2 回 平成 14 年 4 月 19 日 16 時 20 分∼17 時 50 分 計画:拡散型霧箱の自作とα線観測。 経過:2班に別れ、拡散型霧箱を自作した。製作方法の説明の後、2台の霧箱を製作。これを用いてウラン 鉱石からのα線を観測した。その後、どうしてα線の飛跡が観測できるのか討論し、放射線検出の根本 原理を理解した。またα線が空気中で5cm 程度の距離をやっと飛ぶ事ができることを実感した。 (3)第 3 回 平成 14 年 4 月 26 日 16 時 20 分∼17 時 50 分 153 計画:ガイガーカウンターの自作。ベータ線の観測。 経過:ガイガーカウンターの原理を解説した後、2班に別れて、身の回りにある、フィルムケース、サラン ラップ、電線、ライターのブタンガス等とヘリウムガス及びラジオを用いてガイガーカウンターを自作 した。蛍光灯のグロー球内部に封入してある 147Pm からのベータ線で動作確認を行おうとしたが、動作 不良のため再度挑戦することにした。 (4)第 4 回 平成 14 年 5 月 10 日 16 時 20 分∼17 時 50 分 計画:比電荷(電子の電荷と質量の比)の測定原理の解説と測定実験の実施。 経過:実際の比電荷測定装置を見ながら、この装置の動作原理と測定方法を対話形式で解説した。その後、 各人に装置を操作させ、印加電圧と磁場を調整して電子軌道の曲率半径(直径)のデータを収集させ た。次に、解析方法を解説し、各人それぞれのデータから比電荷を導出させた。これにより10個の データが得られた。 (5)第 5 回 平成 13 年 5 月 24 日 16 時 20 分∼17 時 50 分 計画:比電荷の測定実験の解析による電子の質量の導出。 自作ガイガーカウンターによる 147Pm ベータ線の観測。 経過:持ち寄った各人の比電荷の測定値から、平均を求める手順を解説し、平均操作によるより信頼性の高 い比電荷の値を導出させた。その後、知られている素電荷の値と組み合わせることにより、電子の質 量を導出した。得られた比電荷の値と電子の質量を知られている値と比較させ、今後の精度向上に成 すべき改良点を対話形式により議論した。その中で、電子ビームを曲げるのに使用した磁場の大きさ への地磁気の影響に気付いた。 第3回で自作したガイガーカウンターを再度動作させ、蛍光灯のグロー球に塗布してある 147Pm か らのベータ線を観測した。今回は成功し、距離による計数の違いの実験を行った。 (6)第 6 回 平成 14 年 5 月 31 日 16 時 20 分∼17 時 50 分 計画:ミリカンの装置による素電荷(電子の電荷)測定実験実施。 経過:ミリカンの装置による素電荷測定の原理を説明した後、実際の装置を見ながらその構造を対話形式に て解説した。次に、実際に顕微鏡の視野の中で帯電した直径約 1 ミクロンの微少プラスチック球がゆ っくり落下する様子を各人が観察した。各人はさらに帯電小球に正負の電場をかけ、小球を加速・減 速したり、逆向きに移動を始める様子を観測した。その後、顕微鏡に CCD カメラを取り付け、モニタ ー画面上で小球の運動を観察できる様改良し、小球の移動速度をストップウオッチにて測定した。全 員がカメラ視野調整/小球導入操作/時間計測/記録/電場印加/電場測定/概略グラフのプロット 等それぞれの役割を分担して協力し、印加電場の強さを変えながら、落下速度を測定した。これによ り、4個の微少球体についてデータが得られた。 (7)第 7 回 平成 14 年 6 月 7 日 16 時 20 分∼17 時 50 分 計画:素電荷の測定実験データの解析と再度の実験実施。 経過:第6回で得られた小球の電荷を解析する方法を解説し、多数のデータ点の得られた第4番目の小球に ついて、電荷を各人独立に導出した。その後、素電荷の測定精度を向上するべく、前回に引き続き、 154 全員協力して、素電荷の再測定を実施した。微少プラスチック球を噴霧により帯電させた後、微少球 体の電場中での運動を顕微鏡視野中(モニター画面上)に捕らえ、加速電圧を変化させながら小球の 移動速度を測定した。残念ながら、小球を顕微鏡視野中に十分長い時間捕らえることにあまり上手く 成功せず、新たなデータを加える事は出来なかった。 (8)第 8 回 平成 14 年 6 月 14 日 16 時 20 分∼17 時 50 分 計画:素電荷測定実験の再挑戦。 経過:全員で協力して、顕微鏡中で10個の帯電小球の速度を電場の強さを変えながら測定した。 (9)第 9 回 平成 14 年 6 月 28 日 16 時 20 分∼17 時 50 分 計画:素電荷の導出。 経過:まず前回得られた10個の小球の電荷量を各人が導出。第6回で得られたデータを加え、各人の解析 結果を平均することにより小球の電荷と誤差を見積もった。その後、電荷量の比較的少なく精度の出 せそうな7個の小球のデータを用い、電荷のデータから素電荷(電子の電荷)を導出する方法を議論 した後、実際に素電荷を導出した。その結果素電荷の値が、知られている値の約2倍で求まった。こ れは、データ点数が少なくたまたま偶数個の電子による帯電のみ観測した結果と判断したが、昨年度 のグループも同様に2倍のデータが得られたことから、電子が偶数個で帯電し易い可能性がある。 (10)第 10 回 平成 14 年 7 月 5 日 16 時 20 分∼17 時 50 分 計画:ガイガーカウンターによるベータ線の観測。ベータ線の物質による吸収測定。 経過:既製のガイガーカウンターを見せながら、第3回、第5回に自作したものと比較して、動作原理と装 置の操作方法を説明した。これを用いて、蛍光灯のグロー球の 147Pm からのベータ線を観測した。さら に、アルミフォイルを数枚重ねた吸収体を用いて、物質の厚みの変化でベータ線の吸収の様子が変る ことを観測した。その後、KCl と空気中からサンプルした 226Rn の娘核からのベータ線を観測した。こ れにより、2大自然放射線である 40K およびウラン系列からの放射線を体験した。 (11)第 11 回 平成 14 年 7 月 12 日 16 時 20 分∼17 時 50 分 計画:ガイガーカウンターによるベータ線の観測。 経過:前回に続き、岩石や昆布、マグカップ、KCl を含むカリ肥料のベータ線を観測した。 (12)第 12 回 平成 14 年 9 月 6 日 16 時 20 分∼17 時 50 分 計画:研究発表会での発表の準備。 経過:これまでに行った一連の実験研究の成果を互いに発表しあうことを計画した。発表は主に OHP による 5分間の講演とした。各自、それぞれの研究テーマについてデータを整理しなおし、聴衆に理解しや すいプレゼンテーションの手順を検討し、2枚程度の OHP 原稿にまとめた。 (13)第 13 回 平成 14 年 9 月 13 日 16 時 20 分∼17 時 50 分 計画:電子の電荷、質量と放射線測定法、ベータ線に関する研究発表会 経過:これまで行ってきた電子の電荷/質量、放射線計測器、自然放射線源からのベータ線に関する 5 種類 の実験研究について、各人分担して発表を行わせた。各人5分間程度で、OHP を用いた発表を行い、引 き続いて3分程度の質議応答および討論を順に行った。必要に応じ、教官による補足説明を加え、理 155 解を深めるよう誘導した。 9. 配付教材:理科年表、アイソトープ手帳等を必要に応じて、参照させた。 教科書:余分な先入観なしに実験による実証を行うことに主眼をおいたため、指定しなかった。 参考書:同上。 10.成績評価: (1) 評価方法:実験方法等の議論への積極的な関与と出席数、実験への取り組み姿勢と研究成果発表によ り総合的に評価する。 (2) 評価結果と成績分布:10名とも最後まで受講し、発表会での口頭発表をこなして、全員 80 点代で あった。 11.成果のサンプル 添付別紙1、2、3に学生が研究発表会で使用した OHP のコピーを添付する。これらの学生の成績は僅差 である点に注意。 12.実施結果と今後の課題 結果: (ア) とにかく実験装置の製作や測定を楽しむ事に主眼をおいた。実体験を通して学ぶことで興味を引き 出せた。 (イ) 電子の電荷や質量という基本的な物理量が教科書の中で一方的に与えられるだけのものではなく 自分達で測定できる対象である事を実感させた。ミリカンの実験はかなり難しいものであったが、 全員一生懸命に取り組んだ。これにより、電子の存在が実感でき、同時に自然科学で大切な実証精 神を多少とも育めたと思う。 (ウ) 電磁現象を上手く工夫すれば放射線が検出できることを、実感出来た。とくに、工夫すれば身近な 材料でごく簡単に放射線計測器が作れることを実感し、工夫の大切さを認識した。 (エ) 学生が実際に手を動かして実験し、主体的に授業に関れたと思う。学生による主体的な提案や議論 によって、皆でアイデアを共有するという態度や学習法を、十分体得させるには至らず、まだ教官 の提案を待っている姿勢が抜けきれないが、多少なりとも議論らしきものもできる様になり、最初 のトレーニングにはなった。 (オ) 一方的な知識の伝達と云う形態の授業ではなく、学生の意見が取り入れられて授業が進むという形 態の学習法を体験出来た。 (カ) 研究成果のプレゼンテーションは、テクニックにもまして態度が重要。皆でアイデアを交換する場 であると位置付け、できるだけ敷居を下げた。まだ十分訓練出来たとは言えないが、他人に分かっ てもらおうという努力の跡はうかがえた。 今後の課題: (ア)もう少し少ないテーマ数で、徹底して主体的な議論を展開させる訓練をすべきであると感じている。 実験は楽しく進んで取り組んでいるが、その解析や分析、実験の反省、改良と云った、地道な努力に 156 より1つの実験を徹底的に分析、追究する事で始めて新しい発見が有ることを、どのように体験させ られるか工夫の必要が有る。 (イ)プレゼンテーションを楽しみながらテクニックを自然に身につける工夫が要る。 157 158 159 体験的授業実施報告書 1.授業名:体力の経年変化(No.48)(Following-up the Age) 2.授業区分:基礎セミナー 3.教官名: 1.「責任者」 東 照正(所属:医学部保健学科) 2. 芦田信之(所属:医学部保健学科) 4.達成すべき授業目的: 健康を体力的要素から見た場合、体力があるということが必ずしも一義的に健康と 結びつかず、その絶対値は健康のよい指標とは言いがたい。個人の健康感をあらわす のは標準値に対しての優劣より、個人の体力変化(老化)の度合いによるところが大 きい。この経年的変化には著明な個人差が見られる。特に女性の場合、妊娠・出産・ 育児といった固有の背景が付加される。したがって、健康状態を知るためには、その 生涯を通じて自覚症状調査・体力測定・健康診断を行い、体力の経年変化を追跡する ことが望ましい。 受講者は、その追跡方法を体験したり、人体の仕組みを系統的に勉強する過程で・・・ ①健康のために運動するときに適切な運動処方ができ、 ②病気になったときに家庭医学書を読みこなせ、 ③医療関係者に適切な情報を伝えられる ・・・ようになることを目指す。 5.体験の内容: ①生体機能の基礎知識の講義を受ける。 →医療科学の知識を身につける。 ②教官・学生の共有ホームページを立ち上げて、講義時間にとらわれず意見交換しあ う。 →ホームページの掲示板とメーリングリスト3つを立ち上げて、それを使いこなす。 全体共有の掲示板(1つ):教官からの連絡用、全員の意見交換の場 ディベートグループ別のメーリングリスト(3つ):グループ内での作戦会議室 ③自覚症状調査・体力測定・健康検査を行い、医療情報学の観点から理・管理法を修得 する。 →自分の体力データを自ら得て理解し、個人情報の整理・管理を行う。 また、Web サイトを利用したアンケート調査を経験する。 161 ④健康スポーツに関するテーマでディベートをする。 →ディベートを通じて意見交換・討論の大切さ・難しさを知る。 テーマ1「スポーツ競技でよい成績をあげるために、薬剤の使用を認めるべし」 テーマ2「就職試験の判定材料とするために、健康診断書の提出を認めるべし」 テーマ3「青少年の体力向上のために、体育スポーツは学外のスポーツクラブで行 うべし」 ⑦次年度の後輩へアドバイスする。 →体験的学習での文字通り 体験 を伝承・継承する。 意見・感想・反省のタイムカプセル化 次年度ホームページでの討論参加 次年度講義へのボランティア参加 など、可能な範囲で。 6.受講人員:20 名 [内訳 男子 10 名 女子 10 名 留学生・高校生 0名] 7.実施場所:全学共通教育機構A103 8.授業計画と内容: (1)第 1 回 4 月 12 日(金)16 時 20 分∼17 時 50 分 計画:オリエンテーション 経過:事前にホームページ掲示板を作成した。 講義の趣旨を説明した。 半年間のスケジュールを配布した。 ホームページ掲示板の解説と書き込み方法の説明を行った。 第2、3回用のテキスト「健康・スポーツ科学への道(東 照正)」を配布した。 学生は自己紹介し合った。 資料: 半年間のスケジュール 第 1 回 4 月 12 日(金) 授業説明会 授業内容・スケジュール・ このページの紹介・メールアドレス調査 第2回 4 月 19 日(金) 健康科学の基礎知識(血液・呼吸・循環・消化・吸収・栄養)の講義 第3回 4 月 26 日(金) 健康科学の基礎知識(筋・感覚・神経・スポーツ科学)の講義 第4回5月 10 日(金) 身体計測・体力測定の実施 第5回5月 17 日(金) 医療データ測定 第6回5月 24 日(金) 測定データの解説と整理・管理(医療情報学) 162 第7回5月 31 日(金) ディベートの説明(テーマ、役割決定、スケジュール) 第8回6月7日(金) グループ別にディベートのための調査と打ち合わせ 第9回6月 14 日(金) 1 回目ディベートの実施 第 10 回6月 21 日(金) 1 回目ディベートの反省 第 11 回6月 28 日(金) グループ別にディベートのための調査と打ち合わせ 第 12 回7月5日(金) 2回目ディベートの実施 第 13 回7月 12 日(金) 3回目ディベートの実施 第 14 回9月6日(金) 2、3回目ディベートの反省 第 15 回9月 13 日(金) 全体の反省とタイムカプセル作り ――――――――― 作成した掲示板 163 講義風景の写真 ――――――― (2)第2回 4 月 19 日(金)16 時 20 分∼17 時 50 分 計画:健康科学の基礎知識(血液・呼吸・循環・消化・吸収・栄養)の講義をした。 経過:テキストで健康とスポーツに関係する章を解説し、質疑応答を行った。 資料: 配布したテキストの表紙 164 (3)第3回 4 月 26 日(金)16 時 20 分∼17 時 50 分 計画:健康科学の基礎知識(筋・感覚・神経・スポーツ科学)の講義をした。 経過:健康とスポーツに関係して解説し、討論した。 来週の予告と服装の注意をした。 このような連絡も今後は掲示板で取り合うので、掲示板を常に念頭に置くこと をアピールした。 (4)第4回5月 10 日(金 16 時 20 分∼17 時 50 分) 計画:身体計測・体力測定の実施 経過:佐川節子非常勤講師、大学院生3名が応援に加わった。 この日までに身体計測・体力測定の資料と健康手帳を作成し、スタッフ間での 予行演習を行った。 A103 講義室で時間内に、身体計測・体力測定をすべて完了できた。 資料: 身体計測・体力測定の手順と記録用手帳 165 測定風景の写真 ――――――――― ホームページ体力測定データ入力 ――――――――― 掲示板に学生が書いた感想や意見の例 みんな体力測定どうでした? 私はいーっぱいショックを受けてしまいました。。。 体やわらかくなりたいなぁ∼ 166 ○○です。この間の体力測定はきつかったです。 でも筋肉痛にはならなくてよかったぁ☆ 私も同じく、体力激減した人です。 恐らく、全盛期は小6・・・・ 記録をはっきり覚えている訳ではありませんが。 体脂肪ってどうやったら減るんですか? やっぱ運動・・・? みんな体力のことを不安に思ってるようだけど、私が何より気になるのは、体重と体脂肪・・・。 でも、一人暮しを始めて1ヶ月で体重は2キロくらい、体脂肪は1.5%くらい減ってまし た!このまま順調に減ってくれればいいのですが・・・。 あのぉ∼、アブトロニクス、買っちゃいましたぁ。 ある人にあおられて・・・(^o^; それで効果のほうはどうかって? 体脂肪を減らすのにダンベル体操やってます。 まだ始めて少ししか経ってないから、成果はわからないけど。 やっぱ、少しは努力しないと。 アブトロニックじゃ、なんか減らす!!っていう気がしないような。 ウウン・・・いいといえばいいし、まあソコソコかなぁ。 (なんのこっちゃ) ――――――――― (5)第5回5月 17 日(金)16 時 20 分∼17 時 50 分 計画:医療データ測定(血液検査) 経過:事前に採血道具の用意をした。また、大阪血清微生物研究所に測定の依頼をし た。 全員の採血を行った。採血後の注射針の刺入部位の処置について説明し、各自 が体験した。 検体を大阪血清微生物研究所に搬送して、測定を依頼した。 167 資料: 採血風景の写真 血液検査データ入力ページ 168 掲示板に学生が書いた感想や意見の例 東先生注射めっちゃうまいですね!!はりが入ったのも 見てなかったらわからんくらいでした!(^_^)! 是非将来の為にコツを伝授して下さい(>_<) ちなみに私は看護学専攻なんですが 今日の採血は怖かったです。まだズキズキしてるし(>_< まあ何にせよ今日の注射は痛くはなかったけど 怖かったです(涙)僕は放射やから注射はせんでいいやろうけど するのもこわいです(笑) 東先生の素敵な採血っぷりには感動しました。 私は看護なんで勉強もかねて凝視してました(+o+) アブトロニックは友達買ってましたけど、速攻飽きたらしいです(笑) 結構高いのに・・・あたしも腹筋つけたいよぅ。 むしろ腹筋わりたいかも。 タバコ→CO ヘモグロビン→酸素運搬の低下と行くなら、 赤血球の寿命3ヶ月が目安ナリ 皆さん: pasoちゃんには一日も早く慣れましょう。 採血・・・するもされるも現世の習い。 理屈と意義を知れば怖さを乗り越えられますゥ。 「会いたぁ∼さ、見たさぁ∼にぃ、怖さぁを忘れぇ∼(・・;) ――――――――――― (6)第6回5月 24 日(金)16 時 20 分∼17 時 50 分 計画:測定データの解説と整理・管理(医療情報学) 経過:前2回で得たデータの各項目を解説し、異常値の相談を受けた。 医療情報学の講義を行い、個人情報の管理のあり方について討議した。 (7)第7回5月 31 日(金)16 時 20 分∼17 時 50 分 計画:ディベートの説明(テーマ、役割決定、スケジュール) 経過:事前にディベートタイトルの検討とプリントの用意を行った。 169 説明のプリントを配布し、ディベートの次第を説明した。 男女や学部のバランスを考慮して班分けを行い、表を掲示板に提示をした旨を 告げた。 資料: ディベート班分け表 グループ1 グループ2 グループ3 松本朋憲 人 長嶺洋人 人 干場圭太郎 基 日隠七重 看 矢野可奈子 看 山田晃寛 放 上田樹里 看 門田憲亮 看 溝手千織 看 検見崎 兼治 看 中谷安寿 看 北本正和 放 山辺えり 看 岡本優香 放 神山絵理 看 阿部真人 工 山崎由香里 看 太田絵里夏 看 四十物沙織 放 瀧川剛 工 ディベートに関する資料一式 日程表 5/24 debate の intro 5/31 6/07 第一回の準備 6/14 《第一回》debate 6/21 第一回の反省・第二・三回の準備 6/28 7/05 《第二回》debate 7/12 《第三回》debate 9/06 第二・三回の反省、総まとめ 9/13 170 テーマ 《第一回のテーマ》 「スポーツ競技でよい成績をあげるために、薬剤の使用を認めるべし」 《第二回のテーマ》 「就職試験の判定材料とするために、健康診断書の提出を認めるべし」 《第三回のテーマ》 「青少年の体力向上のために、体育スポーツは学外のスポーツクラブで行うべし」 ディベートについて 先生もみんなも、debate について概ね素人 プラス思考で enjoy 投影機の利用OK コピー代などの費用は申し出ること 5/31:必ず出席!! 班分け表・名簿・役割・テーマ・時刻表・配置図 171 それ以降 班単位での勉強(debate のやり方、調査研究) 「第*回の準備」の日 肯定側−否定側でテーマの定義の擦り合わせも!(知恵蔵などを基準に…) debate 当日まで 班単位で調査研究・まとめ・予行演習 《第*回》の当日 16:20 始まり(16:25 にドアを締め切るので、時間厳守!) 全員、役割あり…自分の受持ちを自発的に! → debate は自然に進行する 「第*回の反省」の日 各役割の人の感想、教科書・プリント、relax time 班分けとディベートの進め方 3グループ(5∼7人/グループ) 肯定側ディベータ 否定側ディベータ ジャッジ (コーディネータ・計時係:ジャッジ班から各1名を先に決めておく! 観客:東、芦田 第一回 第二回 第三回 A 肯定側 ジャッジ 否定側 B 否定側 肯定側 ジャッジ C ジャッジ 否定側 肯定側 《時刻表》 ∼16:20 東・芦田が小道具などを持ってきておく 16:25 コーディネータが全ての取り仕切りを開始する 前後トビラに立入禁止の張り紙、フローシート・バロットシートの配布、 全員の役割をリード、投影機の準備 16:35 全員位置について準備完了 (自分の役割を自発的に! → debate は自然に進行する) 16:40 コーディネータ「本日の debate を開始します。タイトルは・・・・・・です」などで開始 ジャッジは拍手! 172 計時係はタイマーを見ながら、黒板に残り時間を分かるように大きく書く (「残り 分」の に6分から始めて、1分毎に5,4,…と書き換え ていく) その後の流れ 肯定側立論 6分 否定→肯定の反対尋問 6分 否定側立論 6分 肯定→否定の反対尋問 6分 作戦タイム 2分 否定側反駁 4分 肯定側反駁 4分 判定会議 6分 ジャッジ発表 6分 (17:30) コーディネータ「以上、*対*で*側の勝ち…本日の debate を修了します…」など ジャッジは拍手、ディベータは握手 ∼17:50 連絡事項など、予備時間 コーディネータ:ハキハキとメリハリを付けないと、進行が遅れる。 各節目でも、積極的にテキパキと司会進行を行う。 計時係:全員に分かるように、数字を大きく書く。制限時間は厳守! コーディネータに向って、「ハイ、時間です」とはっきりコールする。 ジャッジ:debate 中にまず各自がフローシート(バロットシート)にメモしておく。 判定会議前半に、バロットシートで個人判定をする。 その後半に、グループ全体で討議して、全体としての結論も出しておく。 ジャッジ発表:グループの全員が前に出て、各自の判定結果を公表する。 代表が全体としての総評を述べる (8)第8回6月7日(金)16 時 20 分∼17 時 50 分 計画:グループ別にディベートのための調査と打ち合わせ 経過:グループ内の作戦会議はメーリングリストで、グループ相互の調整は掲示板を 使うようにアドバイスをした。 学生のフリートーキングとした。 173 資料: 掲示板に書き込まれた関連発言の例 ――――――――――― メーリングリストに送られてきた打ち合わせ連絡の例 1 薬剤の使用による副作用については本人は知ることができ、その上での使用であるから、 本人の責任に委ねるべきである。 2 薬剤の使用を認めているアメリカのメジャーリーグはたいしたトラブルはない。それどこ ろか知ってのとおり、ものすごい 人気であり、うまくいっている。そのことからも、本人の 管理において、薬の使用は認めるべきである。 3 薬を飲んだからといって勝手に体が強くなるわけではない。努力が必要であり、あくまで 薬剤は補助。 スポーツはある程度のレベル以上になると、優れた身体能力が必要であり、身体能力には 個人差(個人的限界)があり、それを補うことも可能。 副作用、メジャーリーグのトラブルまた人気、薬剤の種類や効果、などについて金曜日にみ んなで調べ、いろいろ話あいましょう 最後にぼく意見として・・・ たしかに薬は体にとって良くないかもしれない。その人の寿命は短くなるかもしれない。 しかしその人の 生きる 時間は短くなるとは限らない。ただ長く生存するというだけでは 生きる ということにはならない。その人にとって 生きる というの は生を実感すること である。つまり自分の努力により満足する結果を得る、またその結果を得たことにより、自 分の生活や家族 の生活をより豊かにすることもでき 生きる ことができるのであると思う。 今日の2限に看護空きだったのでみんなで集まって調べました調べました! グーグルでドーピングを検索したらいい感じのを見つけました それは長いので印刷したから明日みんなで読もう それとケミがまとめてくれたやつを組み合わせて後何を足すかを明日はまとめたら ok かと 思う。みんな頑張りましょう(^-^) こないだ立論を誰がどれを担当するか希望がなかったので 今日ケミと2人で決めてしまいました! 1.薬物使用は自己責任に委ねるべきである 2.薬だけじゃ無理(努力が必要不可欠) 3.問題だらけのドーピングテスト 人権問題 検出されない薬も存在 まとめ. 174 以上が立論です。残りの担当は 最後の主張 となります。大体自分の読む所を中心に意見をまとめたり 文を作ったりして昼集まった時に読みあって意見を交換しつつ まとめて行こう!!時間なくて忙しいけど頑張りましょう(>_<) (9)第9回6月 14 日(金)16 時 20 分∼17 時 50 分 計画:1 回目ディベートの実施 経過:タイトル「スポーツ競技でよい成績をあげるために、薬剤の使用を認めるべし」 予定通りにディベートが実施できた。 一回目ということもあって、全ての進行を自分達だけで行うことに戸惑いがあ ったように見えた。 資料: 一回目の肯定側立論 一回目の否定側の立論 1、自己責任に委ねるべき 1 スポーツマンシップに反する 2、薬だけじゃ無理 2 選手の健康を害する 3、問題だらけのドーピングテスト 3 社会への影響 4 スポーツの価値 検出されない薬もある 人権侵害 風邪薬や栄養ドリンクもダメ!? 4、結論 ―――――――――――――― 討論風景の写真 175 ――――――――――――――― (10)第 10 回6月 21 日(金)16 時 20 分∼17 時 50 分 計画:1回目ディベートの反省 経過:ディベートの反省アンケートを掲示板に入力するように知らせた。第3者に見 られないためのセキュリティの付け方を解説した。 学生から時間配分の変更の申し出があったので、話し合って調整した。 資料: 反省アンケートの項目 ディベート反省会 学籍番号 肯定側 肯定側立論 否定→肯定の反対尋問 否定側立論 肯定→否定の反対尋問 作戦タイム 否定側反駁 肯定側反駁 判定会議 ジャッジ発表 6分 氏名 否定側 6分 6分 6分 6分 2分 4分 4分 6分 176 ジャッジ 1. 2. 準備 1-1 グループ内の分担はうまくいったか 1-2 各自情報をどこから得たか 1-3 グループ内の連絡方法 1-4 連絡はうまく取り合うことができたか 本番 2-1 立論は準備通りに展開できたか(各自の分担についても) 2-2 相手側の反対尋問は想定できたものであったか 想定できたこと 想定できていなかったこと 3. 4. 2-3 相手側の立論は理解できたか 2-4 相手側の立論は想定できていたか 2-5 相手側は反対尋問に十分に答えてくれたと思うか 2-6 反駁のための作戦会議はうまくいったか 2-7 反駁は時間内に言いたいことをまとめて発言できたと思うか ジャッジ 3-1 論点について、下調べをしたか 3-2 双方の立論が想定できていたか 3-3 どうやって点数化したか 3-4 判定がむずかしかったところ その後の意見(自分の意見.元からの部分と討論後に変化した部分) (11)第 11 回6月 28 日(金)16 時 20 分∼17 時 50 分 計画:グループ別にディベートのための調査と打ち合わせ 経過:グループ内の作戦会議はメーリングリストで、グループ相互の調整は掲示板を 使うようにアドバイスをしたが、実際には個人の携帯電話メールのほうが便利 177 なようであった。 学生のフリートーキングとした。 資料: 学生からの反省アンケートの回答例 "討論前も討論後もドーピングはいけないものだと思っている。 世論も行けないと考えているものが主流・・・というよりほとんどすべてやし・・・ だからこそよく勝ったなあと驚いている" "実際、今の世の中が薬剤禁止であり、子供のころからドーピングはダメだと聞かされていた ので、肯定するのは難しかった。準備をしてても、自分が肯定側であることがうまく理解で きずうまく準備することができなかった。それでも、自分にできるかぎりでがんばった。 討論してても、 「本当のところ自分は否定なんだからそんな風にせめるなよ」とか思ってしま った。 ドーピングについて調べていたら、肯定しても否定してもどっちも問題があることが分かっ た。でも、結局は現在の流れがあるから否定になってしまうと思う。実際、選手も観客もス ポー" 最終的には肯定側の勝利でしたが、私はもちろんドーピングには反対です。薬の使用を認め るとキリがありません。いくら自己判断とはいえ、自らの命を短くするようなことは絶対に すべきではない!やっぱりスポーツは人間の素晴らしい力を発揮して結果を出してこそ、 人々に感動を与えるものだと思います。決して科学技術や製薬を進歩させて記録を伸ばして 喜びを得るのではないはずです。でも、今回のディベートではまだまだあらゆる問題がある ことを知りいい勉強になりました。 "自分としては、今回はかなりテンパっていた気がします。もっと落ち着いて返していたら 結構いい線いってたのかなあと、今でも反省しています。" "ディベイトをやる前は当たり前にドーピングをやってはいけないと思っていたので どう立ち打ちしたらよいか分からなかったけど調べていく内にだんだんドーピングを 本当に認めてもいいような気持にもなりました。 アンケート結果は…….アンケートの集計というより一覧表を作りました。 以後のディベートの参考にしてください。 いちおう、匿名にしておきました。 最後の質問に熱心にお答えいただきありがとうございました。 追加発言のある方は、この掲示板に書き込んでください。….. 178 (12)第 12 回7月5日(金)16 時 20 分∼17 時 50 分 計画:2回目ディベートの実施 経過:タイトル「就職試験の判定材料とするために、健康診断書の提出を認めるべし」 予定通りにディベートが実施できた。 一回目よりはるかに充実した内容であった。 用意した OHP 資料 二回目 肯定側立論 第二回否定側立論 1 企業側の知る権利 1 能力の向上 2 企業側への責任の追及 2 より専門へ・・・ 3 健康診断書の提出はすでに一般的 3 選択の自由 4 自己管理のチャンス 4 広がれ!交流!! 5 結論 (13)第 13 回7月 12 日(金)16 時 20 分∼17 時 50 分 計画:3回目ディベートの実施 経過:タイトル「青少年の体力向上のために、体育スポーツは学外のスポーツクラブ で行うべし」 一度経験しさえすれば、やすやすとこなしてしまう能力には驚いた。 179 用意した OHP 資料 第三回肯定側立論 1 国際的機関の勧告無視 2 プライバシーの侵害、差別 3 世界では・・・・ 4 診断書は正確なのか?! 5 結論 (14)第 14 回9月6日(金)16 時 20 分∼17 時 50 分 計画:2、3回目ディベートの反省 経過:回を重ねるにつれて、ストーリーの組み立てや討論戦術についての細かい作戦 が練られるようになり、事後の反省もレベルの高いものになった。 第4、5回の身体計測・体力測定・血液検査のデータを掲示板に入力するよう に告げた。 資料: 第1回(6/14) 第2回(7/5) 第3回(7/12) 肯定側の勝ち 否定側の勝ち 否定側の勝ち (15)第 15 回9月 13 日(金)16 時 20 分∼17 時 50 分 計画:全体の反省とタイムカプセル作り 経過:掲示板の身体計測・体力測定・血液検査の集計結果を説明した。 事務提出用の授業アンケートに書き込みした。 東・芦田向けの感想文をメールで送ること、タイムカプセル(自分向け・後輩 向け)をメールで送ることを告げた。 来年の後輩の講義のサポート体勢について説明し、そのことや同窓会(第2回 体力測定会)の案内をメールと掲示板で知らせることを予告した。 成績評価の基準を説明した。 9.配布教材:教官作成のプリント等: 教科書:「健康・スポーツ科学への道(東 照正) 」 (教官が第 1 回講義日 4 月 12 日に無料で配布した) 参考図書:スポーツ医科学、ホームページ、ディベートなどの解説書を紹介した。 メールアドレス:[email protected], [email protected] 180 10.成績評価: (1)評価方法: ホームページ掲示板への投稿回数 講義や体力測定への参加意欲 ディベート用の資料作成の度合い ディベートへの参加意欲とプレゼンテーションの内容 レポート (2)評価結果と成績分布: 受講学生の学部は、以下のように医学部を中心に広範にわたったが、来年度は文科系 学部の学生や、留学生、高校生の参加があれば、さらに有意義な講義になるであろう。 人人 :2名 医保看護:11 名 医保放射:4名 工然 :2名 工理 :1名 基シ科 :1名 この科目の目的は、健康スポーツ科学に関心を持ち、生涯にわたる健康管理に重要性 に気づいてもらうことであった。成績評価は、知識そのものと同時に、意欲の度合い を重要視した。その結果は以下のとおりになった。 100 点:5名 95 点:5名 90 点:9名 80 点:1名(講義全般への参加意欲が低い、アンケートの未提出) 0点 :1名(受講せず) 11.提出物等受講生による成果のサンプル: ディベートへの反省アンケート 掲示板への書き込み回数 20 件台 :5名 10 件台 :5名 一ケタ台:10 名 最多書き込み者で 26 件、最少の者で2件、20 名平均で 12 件 教官書き込み回数 127 件(東 70 件、芦田 55 件、佐川2件) 181 12.実施結果と今後の課題: 実施結果 この基礎セミナーでの企画は、総じて大成功であった。教官が意図したこと、期待したこ とはほぼ達成できたと思う。 「授業アンケート」などで見た学生の反応: 『授業は体系的に構成されているか』という問いには、ほぼ全員の学生が yes と回答した。 授業計画に示すように、周到な準備の結果であろう。[講義による知識の習得→体力測定の 実体験→ディベートでの討論→パソコンを操作しての意見の交換→学生・教官とのコミュ ニケーションの形成]の流れの中で、 『出席、意欲的な受講、予習、質問と発言』は非常に高 かった。また、 『教官から積極的な取り組みを促された』と考える学生がほとんどであった。 次回はさらに、ブレインストーミングを取り入れることを検討している。 『もともとの興味があった』『さらに興味を増した』という学生が多かった。講義開始当 初に「企画がイヤだ」「億劫だ」と感じていた人も、最後には「有意義であった」「自分を 見つめることができた」「自分の問題点を思い知った」「これからもっと勉強しなければな らないと感じた」と感じ、素直に達成感や喜びを語っていた。 その結果、 『この講義を受講して(本当に!)よかった』 『友人や後輩に薦められる』と言 っている。「グループで話せた」「友達ができた」「ず∼っと仲良しでいたい」「友達の輪が 学部を越えて広がった」 「自分の領域以外の分野や、それに興味を持つ人が理解できそうな 気がする」と思っている。また、大人(教官)とのコミュニケーションを喜ぶ学生も多か った。是非後輩にも受講を勧めたいと考えている。 「自分の体力データを毎年記録していきたい」学生がかなりいるので、来年度、2回目の 測定会を企画している。できれば後輩との交流の場にできれば、更に教育効果が上ると考 える。 【基礎セミナー参加者の感想】 この基礎セミの感想と言うか、分析と言うか、そういうものを述べたいと思います。 この基礎セミの良かった点は、ズバリ、みんなと仲よくなれること。 この点は、けっこう重要な点で、ほかの基礎セミをとってる友達に聞いても、ここほ どまとまり(?)があるとこは、そうないみたいです。 そして、そのまとまりを生み出すきっかけは、やはり、あのディベートを始めとする、 自分達が積極的に参加できる授業内容だったと思います。 先生方には、このような場を提供して頂いたことに感謝しております。 できましたら、今後とも、何かとお付きあいのほどを、よろしくお願いします。 「授業アンケート」などに基づく教官の考察: 学生の本音(アンケート、感想文、直接の語りかけ)を打ち明けられてつくづく感じるの は、われわれ教官が学生の表情から解釈している以上に、人とのコミュニケーションのと り方や自己の表現に未熟、未経験であるということだ。大学や教官(つまり、大学にいる 182 オトナ)にはそのようなチャンスをあまり期待していないし、前に一歩踏み出すことを諦 めているようにも感じる。 それだけに、ちょっとした機会を与えさえすれば、水を得た魚のように生き生きし、喜び、 こちらが恐縮するほど感謝さえしてくれる。簡単な場を設定しさえすれば、それに意義を 感じ、「・・・でいいんですね?」とか「こうしたい」「こうしなきゃ」と積極的になる。 これを少し考察して見ると・・・ 「学生は勉強していない」状況は変えられるか? 『人間教育・・・のようなもの』 • 物理学教育で考えて見よう。元東大総長の有馬朗人先生が子供たちにお話になっ たことを、新聞記事で見たことがある。 「物理は何の役に立つか」・・・「物理を全 く知らなかったら自動車がブレーキをかけた時に、なんで止まるのかも分からな いよ」。 • 有馬先生は、子供に難しい言い方をしても分かってもらえないだろうと、具体的 な例を挙げたのだと思う。しかし、こういう有用論や「将来、専門に入って研究 するのに大事だから」という発想は、知識教育・意識の世界の話・「脳と心」と いう言い方をしたときの脳の受け持ちの話。 • でも、大学前半で物理数学を学ぶのには、もうひとつ重要な意義がある。ここを 認識していないと、大学からは教養部が消える・・・科目は減少する・・・専門学校化 していく・・・教官がバラバラになっていく。 • それをご理解いただくために、小生の拙文をお読みいただきたい。【資料1】 • つまり、 「物理・数学を学ぶ」 「本を読む」という作業のもうひとつの意義は、人 間教育・無意識の世界・心の領域にある。 • もう一度繰り返すと、勉強は「意識」の世界のこと・・・脳の中のこと・・・教育一般 で言えば知識教育。一方、やる気は「無意識」の世界のこと・・・心の中のこと・・・ 同じように言えば人間教育・人格教育がらみ。 • カリキュラムをいじって効果を期待できるのは前者のみ。「無意識」の世界に属 する後者に、システムなどあろうはずがない・・・前者の連続の中での一瞬一瞬が それなのだ。【資料2】 『意識と無意識』 • 「それじゃあ、最初からその重要性をシラバスに書いて、断っておけばいいの に・・・」 • でも、これは「無意識の世界」の話だから、「ああすればこうなる」とシステマ ティックに伝えることはできない。文章にした瞬間に、「意識」の受け持ちにな ってしまう。 • 解剖学の養老孟司先生がおっしゃるには、「無意識」の世界のことは「道」を究 183 めて悟る以外に方法がない・・・「道」を究めるのは「修行」による・・・「修行」を するには「型」が必要だ・・・と。 • 本を読むという少し窮屈で重たい作業や、それよりもっと大変な数学物理には、 この役割もあることを認識しないといけない。 • The mediocre teacher tells. The good teacher explains. The superior teacher demonstrates. The great teacher inspires.(NHK ラジオで聞いた言葉) 『手塩にかける』 • 「高校までとはゲームが変わったこと」 「知識自体とその生かし方とのバランス」 「人は本来、人間≧社会人≧職業人、つまり basal≧general≧special であるこ と」「競争の厳しさではなくて、何のために競争するか、その意義を知らない点 を問題にすべきこと」【資料3】「つまり、学問は社会のためにあること」【資料4】 「個々の教官の専門領域の意味合い」 「数学や物理の本当の重要性」 「ここはどこ、 わたしはだあれ」【資料5】などなど・・・しつこいまでに語りかけることが大切です。 【資料6】 • それが分かるまで、待って、守って、手塩にかけて育てる姿勢が肝要。【資料7】 • 言葉を尽くせば、必ず若者も感じ取ると信じている。【資料8】彼らのメッセージ に「読書を薦めてくれたおかげで、知識がついて得をしました」と・・・そんなセ コイことを書いていますか?【資料9】 • Education is the ability to listen almost anything without losing your temper or self-confidence. (NHK ラジオで聞いた言葉) 『人生修行の場』 • 「修行など大学でさせることでない」という意見もあるだろう。 • しかし、大学の1∼2年は子供から大人へと、いよいよ自我の完成する年頃・・・ 科学・哲学の世界を場にしての人生修行の適齢期・・・幼児にママゴトが不可欠な ように・・・です。 • 言うまでもないが、この「場の確保」は自由競争です。大学がその場を与えないな ら、他所サンが乗り込んでくる。「カモにしやすい若者を一生懸命集めてくれて ご苦労さん」とばかりに・・・バイト産業が・・・娯楽同好会が・・・etc が・・・。 • だから面倒でも、教官が reaction のみならず action しないと、学生はもっと卑 近な場で「大人ってこの程度なんだ」と勘違いする。そして、われわれはそんな 若者を専門教育する羽目になる。 • 大阪大学に入学した、あの資質の学生たちが、「自分がよそ見をしている間に、 どうも大学じゃあ大変面白くて、ためになることをやっているようだ」と感じた とき、それでも大学に背を向けて他所に行くのだろうか。【資料 10】 • 現代の日本は総じて、大人が子供と真剣に付き合わなくなった。だから、子供だ けが集まって勝手なことを始める。まずは大人の顔色を窺って、様子見をした上 184 で、したたかに居場所を定めるのです。 • 安直にそうさせないために、学内の大人と子供の広場としての教養部があったは ずではなかったのか? 『まとめ』 • 「よし、もう分かったから、この項に関する提言を具体的にまとめよ」 • 「それはできません」・・・なぜって、これは「無意識」の世界の話なんですから・・・ さっき、そう言ったでしょ。 • 「・・・」 • 実利一辺倒のこの数十年・・・その「得も言われぬもの」をおろそかにしてきたツ ケが、どうも周ってきたようです。【資料 11】 • もうひとつ NHK ラジオから・・・ • You can teach a student a lesson for a day. But if you can teach him to learn by creating curiosity, he will continue the learning process as long as he lives. 今後の課題 学生を勉強させるために「あれもさせなきゃ」 「これも教えなきゃ」と、手を打つのはよ い方策とはいえないようだ。簡単なことで、やる気を起こしさえすれば勝手に自走する。 いや、いずれにしてもエネルギーを消費せずにはいられない若者は、どこか向かって自走 してしまう。それを、いい動機でいい方向に向いて自走するように、場を設定するのが教 官の役割であろう。 そのためにはもう少し時間がほしい。カリキュラム上でⅡセメに亘るのではなくて、Ⅰセ メ中にもっと頻回に接触できると、教育効果は格段に上る。「最後になってやっと道が見え ましたね」が、教官二人が最終講義日に交わした言葉である。学生がもっと身近にいたら、 社会をタテとヨコに、まさに縦横に見せることができるのだが、と痛感する。 そこで幾つかの提言をしてみると・・・ 教育の役割をどう分担するか? 『専任担当教官』 • 大学院大学を推進するのにも、学部学生がそのレベルまで達しなければ、うまく 機能しません。出来上がった一流の研究者同士で仕事する方が効率よいに決まっ ているが、そうなるまでの基礎教育が不可欠なことも、教官全員が認識している はず。 • その厄介な作業を受け持っていたのが、昔あった教養部。無くなった今からもや はり、その作業に専念する者が必要ではないのか。 • 教祖的にならずに淡々と通過点になってやる・・・自分のテリトリーに取り込まず に各専門分野に引き渡す・・・そう、通り過ぎるお遍路さんを、ただひたすら善根 185 宿でお接待する四国の人のように。 • 大きな組織にはどうしてもロスが生じるものだ・・・ロスと言い切ると誤解もあろ うが。それはともかく、それを極力なくそうとする方策は「ああすればこうなる」 の世界の発想。むしろ、「どうすれば、そのロスを抱えながらでも 最先端 を 維持できるか」という姿勢が肝要ではないのか。 • 教官の大多数は自分の研究に夢中になっている。そして、 「それだけをやりたい」 という本音を隠して、あたかも教育に関心を持っているかのごとくに装う。しか し所詮、研究は研究、教育は教育。その『両立』は矛盾しているのだ。 • いっそ、全員で素直にそれを認めて、小人数でよいから教育好きを集め、基礎教 養教育の専任担当教官を決めるとよい。もちろん大学全体としては、大学院化に 向かっての最大限の努力が必要なことは言うまでもない。ここで述べているのは 「何もかもがそうでないと駄目なのですか」という話なのだ。 『学部専用教室』 • 同じ発想から・・・全学共通教育機構内に吹田地区学部の出先の部屋(講義室)を 作るとよいでしょう。 • とにかく、学生の「自分の居場所」を確保してやることです。そのクラスの講義 はできるだけその部屋ですればよい。これは、専門学部の教官と大学前半の学生 の接点を増やすのにも、役立つはずです。 • これ・・・結構、効果的ですよ。 ついでに申し上げておけば・・・ 『シラバス』 • Science is what you know. Philosophy is what you don’t know. (NHK ラジオ で聞いた言葉) • 哲学を持たせないでシラバスを見せるのは、危険な行為です。 • 前に書いたように、より確実に「都合のよい居場所を定める」ために利用される だけ・・・「おかげでバイト&レジャーを、先々まで決めることができました」と ばかりに。あるいは、学生サン出版の『講義情報』の参考書にされてしまう。 • シラバスは諸刃の剣であることを、肝に銘じさせなければならない。 • Philosophy なくして読むシラバスには、 「未来」は書かれていない・・・そこにある のは「きたるべき現在」だけだ。シラバスは時に、学生から4年間の未来を奪っ てしまうこともあるのです。 『履修指導日』 • このへ理屈で悪乗りすれば、入学式より前に履修指導日があるのも功罪相半ばす ることになる。 186 • 入学式の本来の意味を無視していませんか。長い学生生活の中でも、この時のこ とだけは鮮明に覚えているものです。【資料 12】 • 教官は、「最も大切なときに、最も大事なカードをビッと切って」おけば、後は ノホホンとしていればよい・・・は言い過ぎでしょうか。 『秋学期制』 • 「鉄は熱いうちに打て!」・・・引き続いての、感性豊かでフレッシュな数ヶ月が 勝負所です。【資料 13】【資料 14】 • このときに教官と学生の「共鳴」できる場を用意すればよい。【資料 15】 • いっそ本格的専門講義は秋からスタートすることにして、4∼7月はその前教育 を集中的にすればいい。 「フルネームを覚えられるだけの人数」を目安に・・・少人 数制で。そして、 「大事なことを伝えるための瞬間」を得るために・・・継続性・連 続性を持たせて。 そして最後に・・・ われわれはこの基礎セミナーで、 『他の授業と重複しない』ユニークな科目だと、学生に 言わせることができた。そのことを振り返りながら、これからの大学や教官にとって大事 なことを申し上げておきたい。 教育の成果をどう評価するか? 『教育評価用学術雑誌』 • 全学共通教育機構の現状打開に、最も効果的な方策を一つだけ述べよと言われた ら、「教育について、教官の評価をすること」を挙げます。 • 研究は、学術雑誌があって、レフリーがいて、成果が公表される。これは研究者 の評価につながる。 • この研究の場合と同じように、教官の教育への貢献を評価できる学術雑誌を作れ ばよい。複数の視点で複数の雑誌を用意する。レフリーも同じように置く。全国 版に広がるともっと好都合。 • あとの評価方法は、その数もあればグレードもあろう。評価が難しいのは教育だ けではない。研究でも何百年と問題視されながら、しかし、何とか評価は行われ てきた。 • 要するに教育も、「こうしている」「こうなった」「こうあるべき」を査定する場 があり、カウントされるようになってさえいれば、あまり細かいことを決めなく ても、流れは勝手にできる。みんな必死になるのです。「頂門の一針」という言 葉があるでしょ。 • 「教育など、どう工夫しても代わり映えがしない」「文章にして紹介するほどの アイデアが、果たして出てくるのか」は誤り。「日本でひとつしかない何々学の 187 授業」はそれなりに可能だ。【資料 16】 • 阪大生の弱いところ・・・つまり、「知識の習得」ではなく「知識の使い方」を学ばせ ることも教育の一つのはずです。 • いずれにしても、一体いつまで、教育が業績にならない冬の時代が続くのでしょ うか。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 【資料1】 小生の拙文 いい本を読もう・いい音楽を聴こう・いい絵を見よう 青春真っ只中の君達に、ぜひ心がけてほしいことが3つあります。一つはいい本 を読んでほしいということ。二つ目はいい音楽を聴くこと。そして、三つ目はいい 絵を見ようということです。本を読むと知識が身に付きますね。音楽を聴くと感性 が養われます。絵を見ていると趣味の世界が広がるかもしれません。でも、ここで 言っているのはそういう実利的なことではないのです。本を読む、音楽を聴く、絵 を見る・・・そのちょっと窮屈で重たい作業を繰り返すことで、人は心の中に幅の広い、 奥行きの深い、そして分厚い立体構造を形成していきます。この 造 こころの立体構 こそが、君達が社会に出て困難に直面したとき、その一つ一つ違う応用問題を 解いて乗り越えるための、最も大きな糧となるのです。みんなと同じ仕事をしても、 「あの人は他の人と違う。人間に味がある」と言わしめる何かを醸し出す、一番の 源になるのです。 大都会の本屋に行くでしょう・・・「よーし、この本を買おう」 堅い本を一冊手に します。 一緒に行った高校時代の友達が横から言います。「やめとけよ、そんな難 しい本。どうせ読まないんだから。僕にも経験があるよ」 それでも、「いーや、絶 対に買って帰るよ。ずっと探していたんだ。さすが大きな書店だなあ。ちゃんと本 棚に置いてある」・・・いいことをするには、それなりの気負いと意地が必要だという こと・・・思い当たる節があるでしょう。そのことを忘れないでほしい、大切にしてほ しいと思います。 【資料2】 人間教育のチャンスは一瞬一瞬にある 教官: 「病院のローカの真ん中を歩けるのは患者さんだけです」 「病院の中で通用する正義は一つだけ・・・患者さんの正義」 学生(1988∼2002): 188 先生がよく「白衣の人はローカのはしを通りなさい」と言われていたことに、す ごく教えられました。言われてみれば「なるほど」ということですが、なかなか気 づかないことだと思います。知らず知らずのうちに真ん中を堂々と歩いてしまうよ うなことになりそうです。このようなささやかなことに気を配れるナースになりた いなと思いました。 先生の言われたとこで私の胸に深く残っていることは「白衣を着て廊下の真ん中 を歩くな」ということです。一見常識で当たり前と思われますが、実際病院に行っ てみると、多くの方が「病院は患者が主役」ということを忘れています。私は将来 病院で勤める時には、このことを良く考えて行動したいと思います。 時々、先生は「医療はあくまで科学にもとづいたサービスをするもの。少しきつ い言い方になるけど、勉強不足や自信の無さを親切や笑顔で補うことにならないよ うに・・・」と言われましたね。この言葉は、私の脳裏にずっとはりついています。こ の言葉を聞いた時、ドキッとしました。私にとってこんなにインパクトの強い言葉 を口にされたのは、先生が初めてだったような気がします。本当に将来ビクビクし なくていいように、自信を持てるように、今から十分に勉強しなければと思ってい ます。貴重な言葉をありがとうございました。 先生が授業中に必ず一回は息抜きの時間を与えてくれたのが印象的でした。私達 に対して看護師としても人間としても立派になって欲しいと思って下さっているの だな、と感じました。 大変面白い授業でした。特に話が脱線した時に出る ナースの卵 たちへ含蓄に 富んだ経験談がよかったです。 ただ単に知識をつめこませるだけの講義ではなくて、本当に人間味のあふれる講義 をして下さってありがとうございました。 【資料3】 何のために競争するのか 朝日新聞 98/3/17「声」の欄から 「よく勉強して、お役人になり、楽な生活をしなさい」と子供に教える親。 「お役人になり、国民に奉仕しなさい」と言える親。 【資料4】 学問は社会のためにある 189 教官: 「競争が激しいのが悪いのではない。なぜ競争するのか、その目的がはっきりしない のが問題なのだ」 学生(1988∼2002): 講義の合間に配られた新聞の切り抜きの中で、 「学校では、自分のためではなく社会 貢献のために学ぶ」という記事が印象的でした。私も自分のために勉強していると考 えていたので、「自分のためなら勝手に家でやればいい」という言葉に妙に納得して しまいました。 【資料5】 ここはどこ、わたしはだあれ 教官: 「出席欠席自由、遅刻早退自由、途中入退室自由、内職居眠り自由、おじいさん・ おばあさん・ポチ・ミケ・ヒヒヒン太・モー助見学自由」 学生(1988∼2002): 始めこの授業を受けた時、授業でやっていいことと悪いことを先生が黒板に書い たことをよく覚えている。これでこそ、大学生のあるべき授業だとひそかに思って いた。 始めの授業で「出席自由、欠席自由、いねむり自由・・・」と黒板に書かれた時は、 はっきり言って驚きました・・・途中ぐらいから「これが本当の大学生のあり方なん だ」と思いました。 最初の授業で「出欠席自由、途中入退室自由、内職自由・・・」といわれ、正直にい って驚いた。今までそういう規則の授業を受けたことがなかったからだ。 この授業での約束事をお話された時が印象的だった。というのは、サボリOK・ 昼寝OK・内職OK等々、 「大学の先生というものは頭が良すぎて、考え方が堅い人 が多い」という固定観念を打ち破ることを次々におっしゃったからである。 先生の講義に出て、授業の受け方を説明され、やっと大学の先生に出会えた、そ んな気がして私はうれしく感じました。 最初の講義のときに先生がおっしゃった言葉に私は感動というか驚きを感じまし 190 た。その言葉とは、 私に授業をさぼっても良いから、毎日通う道の反対方向に行っ てみなさい。そうすれば何か違ったものが見つかるかもしれませんよ。 先生という 立場の人は 学生は講義に出席して当たり前 (もちろんその通りなのですが・・・) と思ってらっしゃる方ばかりだと思っていたので、驚きました。 「朝、一度は皆と違う方向の電車にのってみなさい」とか、先生が大学時代講義 に出席せず授業担当の先生の研究室で留守番をしていたなど、びっくりさせられる 話ばかりでした。 最初の授業から、 「授業に出なくてもいい」なんて、何ておもしろい先生だろうと 思いました。 「たまには、いつもと違った方向への電車に乗ってみるのもいい」とい う話は、今でもすごく心に残っています。 【資料6】 しつこいまでに語りかけよ 学生(1988∼2002): 大学教育の形骸化ということがいわれて久しい。それもそのはずで学生側の姿勢 の問題がまず第1にある。が、ここではこれには触れずに、第 2 の問題、大学教授 のあり方について考えたいと思う。大学は学問の場であるとともに教育の場である が、今の大学教授の両者の比重の置き方は8:2ないし9:1ほどではないかと思 う。もちろん、学問が大学教授の大きな仕事であり社会的責務。まして、学者の間 だけで読まれる論文作成による学者間評価が立場上、大変重要なことは、大学の現 状からすれば、確かに理解できる。しかし、学問は基本的には、自分の好きなこと を自分のためにやるもの。もうひとつの柱の教育は、他人のため、つまり学生のた めにするもの。私は学者であるとともに、いやそれ以上に、教育者であってほしい と考えている。そのためには、その学問について何も知らない初学者に、この学問 は「何が最も大切なのか」しつこいというほど提示、教育してほしいと思う。総論 ではもちろんのこと、各論でもことあるごとに。そして、それがなぜ大切なのかを。 阪大保健学科は新しい学科です。学舎をはじめ、カリキュラムや指導方法など、 今後の改善にかかっている点が多いのはむしろ当然でしょう。1期生や私たち2期 生が良くなるか悪くなる(?)かといったことが、阪大の保健学科を良くできるか どうかを左右していると考えると、身の引き締まる思いです。教官と学生とは、た だ「単位をやる、やらない」という関係ではなく、共に阪大保健学科の歴史を築い ていく同士だと私は感じています。 私は阪大のこの自由な気風が大好きです。是非、先生方と力を合わせて、私たち 191 の手で新たな歴史を作り上げていきたいものです。 そんな中、先生は、いつもニコニコして、楽しい授業をしていらっしゃいました。 先生は、いまの職業が天職ですか?今までに人生の行きづまりを感じたことはあり ますか? 大学での、いろいろな授業において、いろいろな教授の方々の授業を受けました。 そこで、疑問なんですが、先生は最初から今のような講義をしていらっしゃったん ですか?何だか、授業の感想から少しはなれて、変なことばかり書いてしまってス ミマセン。でも、今、いろいろな人の話を聞いて、自分の人生の参考にさせていた だきたいと思っているので、お許しください。 生きていく上で、嫌な事はありましたか?今は、とても楽しい人生ですか?なか なか、先生のように生きていける人は少ないと思います。うらやましいです。 【資料7】 手塩にかけて育てる 学生(1988∼2002): 先生は、とても話し上手で、すごくひきこまれました。勇気付けてくださったし、 これからもずっと習いたいです。・・・・・・ 先生の一番好きなところは、授業を受けてると、勉強がんばらないと、良い看護 師になれないな、と自分で実感させてくれるところです。 先生の話を聞いていると、なんか励まされて、心配なこととか不安なことが解消 されるみたいに思えた。知識はもちろん大事だけど、それ以上に人間の深みのよう なものが大切ですよ、と言われた時、なぜかホッとする気分になった。そして、一 番心に残っている話は、 テストやー! と思って顔をゆがめてばかりいると本当に そんな顔になってしまうぞ、という話。それをきいてから、自分で顔をしかめっ面 にならないように努力はしてる。でも、やっぱりテストは嫌い・・・かも。 先生の話を聞くと、気持ちが軽くなりました。 東先生は、いつもニコニコと講義をしてくれるので、きちんと聞くぞ!という気 にさせられます。いつも一番前の方で聞いていたけど、たまにボーッとしていてご めんなさい。 でも、頑張って勉強できてよかったです。 看護の授業では無駄話がとても多くて、いやなのだけど、東先生の授業はとても 静かで勉強しやすかった。半分くらいしか授業には出席しなかったけれど、出席し 192 た時には内職するより先生のお話をきいているほうがおもしろかった。ほんとに、 授業中の無駄話がないなんてすごい。それだけ先生のお話がおもしろいのでしょう ね。 【資料8】 言葉を尽くせば、必ず分かってもらえる 学生(1988∼2002): 先輩とかから先生の話を聞きますが、結構人気あります。特に、先生の考え方と いうか授業というか・・・。これからも楽しい、学生に何か与えてくれるような先生で いて下さいね。 先生の生理学が一番楽しみな授業でした。黒板を見ながら、ただひたすら先生の 話を聞くというような知識をつめこませる授業ではなく、一人の人間として心を成 長させていくような授業だったと思います。 最初に授業で出欠席自由、途中入退室自由、内職自由といわれ、正直いって驚い た。今までそういう規則の授業を受けたことがなかったからだ。けれどもそう言わ れるとなんだか反対に出てみようという気になった。そして毎回出席していた。出 ろといわれると出たくないのだから、出なくてもいいなら出ないはずだ。だが出よ うと思ったのには理由がある。 それは何よりも授業内容に興味をもったということだ。専門科目の教科書はこむ ずかしくて図もなく、非常につまらない。図はあっても文章がかたくて無意識のう ちに嫌だと思っているからよく理解できない。生理学の教科書も厚い、重い、つま らないと思っていた。 でも、初めての授業で東先生の話を聞いてから、 「これは違うぞ」と感じ、興味が わいた。講義ノートを買って読んでみると、内容は教科書と同じなのに、おもしろ い。 「?」と思うことがあると調べようと思う。頭に入る。文章も短く、ユーモアが ある。人間科学部の子に見せても「この本おもしろいなあ。ちょっと貸して」など と言われた。講義中の話も本当に身近なことと照らし合わせて話がすすむ。少し難 しいところは先生がなるべく易しくわかりやすく説明してくださった。わかるから おもしろい。おもしろいからもっと深く知りたくなる。こんな非常に良い循環にな ったように思う。 東先生の講義を受けることができて本当によかった。(おせじではありません) 毎週受けるのが楽しみな授業でした。 特に始まる前と終わった後の先生の余談が好きでした。 「本や絵や音楽に多く親し 193 んで 深さ を身につけましょう」というお話が幾度か聞けたのが印象的です。 今までそういったお話を大学ではきいたことがなく、とても新鮮でした。 また授業自体もとても分かりやすくきき入ってしまうことが多かったです。 「内職 してもよろしい」とのことでしたが、実際、家でできなかった独語の予習をしよう と思って(すみません)机の上に出したものの、結局、生理学の ノート にばか り目が釘付け、ということが時々ありました。・・・・・・ 今後とも先生の「言葉」を胸に、落ち着きと穏やかさのある看護師を目指して頑 張っていこうと思います。・・・・・・ p.s.毎週授業を受けていたにもかかわらず・・・の成績で先生が落胆されないかと心 配です。ごめんなさい。 【資料9】 学生はメッセージにセコイことを書いていますか? 学生(1988∼2002): 東先生は、他の先生と違って、授業を受ける姿勢を私たち自身にまかせて下さい ました。私は、それで、授業が楽しく受けられました。最初の授業で、 「大学生活を もっと気楽に。いい本を読んで、いい音楽を聴いて、いい絵を見てください」って 聞いたときは、とてもうれしかったです。 「いい本を読み、いい音楽を聴き、いい絵を見る」というのが、とても印象にの こっていて、その時もらったプリントは大事にしてあります。 【資料 10】 学生はそれでも大学に背を向けるのか? 学生(1988∼2002): 私は東先生の講義が一番好きです。理由はやっぱりわかりやすいことが一番だと 思います。東先生の講義は教科書的でないというか、日常よく使う言葉で、日常よ くあることを例にだして教えてくれるので、とてもわかりやすいのだと思います。 話をきいていると、なんだか会話しているような感じです。 あー、よくあるよくあ るそういうこと と思うことが多くて、一発で納得でき、印象にも残りやすいのだ と思います。 それにしても教科書にのっている東先生の似顔絵はめちゃくちゃそっくりですね。 卒業して何年かたってからでも教科書を開くと、一瞬にして東先生の声とかが浮か んできそうです。 先生の言葉の中で、一番私の心をついたのは、 「たまにはサボれ」という、最初に 講義での言葉です。こんなことを言う先生は初めてで、ここからみんなの心が東先 194 生にすいこまれてしまったのだと思います。東先生の人の心をひきつける力はすご いと思います。私も先生のようになりたいなあと思います。 最初の講義で「自由出席です」とおっしゃったけど、わかりやすくて話がおもし ろくて、好きな授業でした。 「なぜ休まないのか」とよく言っておられましたが、自 分の好きな授業はサボらない。 生理学の授業は先生は休んでよいといわれたんですが、なぜか私は休みませんで した。それはなぜかというと、先生に会えるからです。なんか先生の顔を見ないこ とには火曜日がはじまらないような、そんな気になってしまいました。・・・・・・ 生理学の授業はとてもおもしろかったです。 とにかく、この授業は興味深くって、先生がさぼっていい、みたいなことをよく 言われていたのですが、それはもったいなくて出来ませんでした。 東先生の授業は、おせじではなくて、本当に 1 番好きな授業です。 「遅れて来ても おこられないから・・・」っていうのは、はじめの方に思っていた先生の授業が好きな 理由でした。でも、途中ぐらいから「これが本当の大学生のあり方なんだ」と思い ました。高校生のように毎回出欠をとっていたのでは、いつまでも責任や意志がも てない様な気がしたからです。 こんないい授業なら再履修になって、もう半年間、講義を受けたい!! 本当 にこれは素直な感想です。先生のお話は大学教授らしからぬ分かりやすいものでし た。 東先生の授業は、途中で飽きてしまうということがほとんどありませんでした。 私が今年度受けた授業の中では、一番おもしろいものだったと思います。 授業にでていたときには3限ということもあり、また、先生の声が気持ちよくて ウトウトしてしまうことがしばしばありました。 マイクを通した先生の声って気持ちがいいんですよ。本当に。集団サイミンとか やってみたら、いけるんじゃないでしょうか? 【資料 11】 「得も言われぬもの」が大切 学生(1988∼2002): 195 「テストというものから解き放たれないと、変な顔になるよ。看護師は、えもい われぬようなものが本当は必要だ」という言葉を覚えておこうと思います。 受験勉強が勉強の形だと無意識のうちに思っていた私にとって、先生の講義はい つも新鮮で、驚きでした。中でも印象的だった先生の言葉は「豊かな顔をして下さ い」です。 「ガツガツと試験のためだけに勉強していては、顔がそういう風に豊かな 顔に得も言われぬ豊かな顔にはなりません」 とてもいい授業でした。私はこの授業がとても好きでした。私は、どの授業でも、 その授業の先生のはなしてくれる余談をきくのがとても大好きで、 (余談ばかりきい てて、大事な話をききのがしてしまったりもするのですが) 東先生の授業は、先生が積極的に、よーけ余談をしてくれたので、とても楽しん できかさしてもらいました。特に私の頭に残っている話は、 • 「いい本を読む」 「いい絵を見る」 「いい音楽を えもいわれぬ人になるために、 きく」 • 学問は世のため、人のためにするものだ • 先生のお父さんの話 とてもいいお話でした。私もお父さん嫌いなのですが、 お父さんに対する見方がちょっと変わりました。 です。 先生の授業をきくたびに、立派な人間にならんとあかんなー。えもいわれんよう な人になれたらなー。えもいわれんような雰囲気をかもし出せるような人になり たいなー。と、つくづく思いました。 私の人生の目標: 1. 長生きをする 2. みんなと仲良く暮らす 3. えもいわれぬ人になる 【資料 12】 入学式のことだけは鮮明に覚えています 学生(1988∼2002): 阪大の医技短に合格して、胸をわくわくさせながら母と一緒に来た入学式。その 時、先生方の自己紹介での、東先生のインパクトがとにかく強かったです。先生は あの日の言葉を覚えてられますか?「人間は鼻から息をしますけど、鼻で息をして いません」「赤ちゃんが生まれた時、オギャーと泣くのはどうしてか?」「こういう ことを生理学で勉強するのですよ」と言われました。なんだか、退屈な入学式が、 196 東先生の言葉で、早く授業を受けたいなという気持ちになりました。 【資料 13】 鉄は熱いうちに打て! 教官のエッセー: 『父のこと −命日に−』 12月21日は、僕の父の命日です。今年が7回忌。そこで、オヤジの話をしま しょう。 平成元年秋のことです。吹田の母から電話がありました。父、つまりオフクロの 夫(こんなこと言わんでも分かるか・・・)が倒れたのです。千里救命救急センターで の最初の数日間は意識もなく、ベッドに横たわったままの状態でした。 毎日見舞いに行くのですが、こちらはどうしようもありません。傍に座って頭の 上にあるモニターをぼんやり眺めながら、取り留めもないことを考えていました。 「やっぱり心房細動があるなあ(今回も、数年前からの不整脈が原因で血栓を生じ、 脳梗塞を起こしたわけ)」とか・・・「呼吸は鼻孔に装着した温度センサーで捉えてる な」とか・・・。 モニターを見ているとどうしても、ゆっくりしたリズムの呼吸曲線の波に目の動 きを合わせてしまいます。 「上がってぇ、下がって。また上がってぇ、下がって。今 度は大きくなった・・・深呼吸か、ふう∼ん」 やがて、 「あれ? 平らになったぞ。息、 止めたな・・・ギョッ、呼吸停止や!」 思わず立ち上がろうとすると、 「またまた上が ってぇ、下がって」と再開。 「なんやぁ、びっくりさせてぇ。息子をからかっとんか」。 ・・・・・・ハイこれが、かの有名な『チェーン・ストークス呼吸』 父の脳梗塞部位は、ブローカーの言語中枢。左の前頭葉にある運動性の言語中 枢・・・知ってるでしょ。側頭葉にある感覚性の方は?・・・そう、ウェルニッケだよね。 それからの3年間は言葉の不自由な生活になりました・・・言語療法とか、いろいろ試 みたけど。大好きだった囲碁も、 「照正、おとうさんはもうやらないから、碁盤を持 って帰れ」と悲しいことを言うのです・・・それも筆談で。 ところが、中枢神経の機能回復は不思議です。ある日、実家に帰ると、父が外出 していました。母に「どこに行ったの」と聞くと、 「毎日、碁会所に出かけてるのよ。 しばらくは一緒に行ってたけど、もう付いて来なくていいと言うから、最近は独り で」 「・・・・・・」 ・・・・・・教訓『あきらめずに、ひたすらリハビリテーション』 しかし、人間だれしも、生き続けるための条件はじわじわと悪くなっていくもの。 197 平成4年4月、二度目の脳梗塞をおこしたのです。半年あまりの闘病生活の後、と うとう帰らぬ人となりました。享年81歳・・・そう、オヤジはいなくなってしまった のです。 寝たきりで、どの程度意識があるのかないのか、はっきりしない頃。でも、病院 に見舞って手を取ると、必ず握り返してきました・・・それも相当強い力で。看護婦さ んが処置に来たので、 「おとうさん、ちょっと離すよ」と呼びかけても振りほどくの が大変なくらい。看護婦さんも横でニコニコしています。ところが、しばらく時間 が経つとこちらがいくら手を差し出しても、もう握り返してこないのです。僕はよ く分からないまま、深く考えもしませんでした。しかしある日、いつものように病 室を出て玄関に向かいながら、突然思い出すことがあって「アッ」と声を上げたの です。 ずっと以前、心臓のことか何かでよそに入院していたときのこと。見舞いに行く と、それは嬉しそうに話をします。しかし、30分ほど経つと必ず、 「照正、忙しい だろう。もう帰って仕事をしていいよ」と言うのです。そして、 「じゃあ、また来る から」と別れるのが常でした。 「そうか、そうだったのか! オヤジは意識があるんだ。ちゃんと分かっとるんだ。 分かってるから、しばらくすると手を握ろうとせずに、もういいから帰れと知らせ ているんだ・・・」 それを言葉で伝えることのできない父のことを思うと、病院の階 段を降りながら僕は、その父親に守られていた幼い日の・・・あの照正少年に戻ったま ま、ただ「とうちゃん、とうちゃん」と、心の中で叫んでいたのでした。 ここでちょっと、その照正少年と父のことを話そうか。父親と息子・・・そう、世間 によくある話。 物心がついて以来、僕の記憶にある父。それは、とにかく平静・穏やかで、自我・ 欲望を強く出さない・・・淡々と、そして黙々と働く姿だった。あの時代、日本の誰も がそうだったのだろうけど、戦争から無一文で引き揚げてきて、愛媛のクラレ西条 工場に勤めて・・・僕が大学に入学する年に、定年退職を迎えるまで平凡なサラリーマ ンだった。おかげで、僕は質素ながらも世間の厳しさに曝されることもなく、勉学 に励むことができたのです。 でも、反抗期だったんだね。中学2年の頃から突然、父とは一言も口を利かなく なって・・・。理由なんてないよ。とにかく、心が受け付けないだけ。それがほとんど 高校3年まで続いたのだから、父も大変だったと思う・・・子の親になって、僕にも分 かるようになった。とにかく、いろんな我が侭を言ったけど、その時の対応が父の 人柄をよく表わしていた・・・。 小四の秋。友達と秋祭りに行く約束をしたときのこと。朝の4時に集合しないと いけない。 「寝過ごしたら皆と一緒に行けない」とか何とか、グズグズ言うわけ。母 198 は、 「自分のことなのだから、自分でしなさいよ」と受け付けない。すると父が、 「分 かった。おとうちゃんが起きとくわい・・・」と、朝まで布団の中で本を読みながら、 寝ずにいてくれた。 中二の頃。1kmほど離れた別の社宅に家移りをしたときのこと(どうも父には、 すぐ近くに散らばる社宅を次々と住み比べる趣味(?)があったみたい・・・後年になっ て聞いたら、庶務課の者はそうして住環境を知る必要があったとか、何とか言って た)。「勉強に差し障りがあるから、引越しするのは困る。この本棚にこう置いてい る本は、そのまま動かしたくない」とごねる(ただ引越しが面倒なだけなのに)。す ると父は黙って、本が入ったままの本棚をリヤカーに積んだ。僕は、何も言えずに 後ろをついて行くしかなかったです。 受験前。人のプリントを10枚くらい写さないといけなくなったときのこと。確 か、有機化学のだったかな。コピーのない時代でしょ。例によって、ぶつくさ言う わけ・・・「こんなことしていたら、後れを取る」とか、 「でも、大事なところなので、 どうしても写さないと・・・」とか(実際には、あってもなくてもいいようなものをね)。 「いいよ、おとうちゃんが写そう」、そう言って黙々と書き写しはじめた・・・それも 徹夜で。このプリントは今も残している・・・いくら何でも捨てられないでしょ。 大学に入学。いよいよ旅立ちのとき。ぼんやり突っ立ったまま眺めている僕を尻 目に、父は下宿に送るダンボールにひもを掛けてくれた。その腕が逞しくもあった が、一方で、背中の老いが気にかかった。そしてこの時、思ったのです・・・「ああ、 僕は甘えているんだ」 そんなこんなで少年時代が過ぎていったんだけど、僕は歯がゆかったんだろう な・・・活発な母とは対照的に、そんな淡々として我を通さない父のやり方が。「もっ とガツンと怒れないのか!」とか・・・いや、 「駄目オヤジ」とさえ・・・心の中で思って た。 大学に入って、少しは話をするようになっても、「もう助けは要らないよ」とか、 「心配せんでも、あんたよりは上に行ける」という気持ちでいた。それでも一度、 こんなことがあったなあ。「たまには教訓めいたことを聞いてやれ・・・でも、そんな 話、するかな」、そう思いながら尋ねてみた・・・「僕に一言だけ人生のアドバイスす るとしたら、どんなこと?」 すると父はきっぱり、こう言ったんだ。「人間関係。 人生の岐路で決断するときの拠り所はこれのみ。人間関係を大切にすることだ」・・・ 初めて父が示した強い意志に、僕は圧倒されたのでした。 平成4年12月21日、吹田のカトリック教会で葬式が営まれました。キリスト 教徒だった母の強い望みを叶えてやるかのごとく、晩年の父は洗礼を受けたのです。 「ペテロ」がクリスチャンネームでした。ありがたいことに葬儀には、大学の先生 方も参列して下さり、僕も一人前気取りで父を野辺送りしたのです。 199 式次第が進んで、N医療福祉センターのT総長がお立ちになりました。T先生は、 父の一番の親友だったようです。クラレを退職後、同郷の父に「一緒に働かんか」 と誘いをかけたのもT先生です。父は晩年、病院の事務局で、主に院内報の編集を 担当しました。そういういきさつで、T先生が友人代表として弔辞を述べて下さっ たのです。僕は、礼拝堂の最前列でそれに聞き入っていました。 「東君、君とは坊ちゃん列車で郡中から松山中学に通ったとき以来の付き合いで したね」・・・父の故郷は今の愛媛県伊予市。松山市の隣町で当時は郡中町。松山中学 は現在の松山東高等学校。ほら、夏目漱石の小説の舞台になった学校です。毎日、 一緒に通いながら腕白もしたこと・・・自分は進学したが、君は家の都合で働きはじめ たこと・・・縁とは不思議なもので、晩年に再び一緒に仕事ができたこと・・・などなど、 僕の知らない父の話が続きました。 そして最後に、T先生はこうおっしゃったのです。 「東君。君は、そういうさまざ まな出来事の中で、ことさら感情を露わにしたり我を通すこともなく、淡々と生き、 そして黙々と務めを果たしていました。私は困難に直面するたびに、その姿から多 くのことを学び、影響を受けました。君は、まさに『人生の達人』だった・・・この歳 になり、そして君との交友を振り返ったとき、私はつくづくそう思う」 僕はハッとしました。「そうか・・・東大を出てN病院の病院長をされ、自ら発展さ せた組織の頂点においでのT先生から見て・・・父は『人生の達人』なのか・・・オヤジ のあの生きざまがそう見えるのか」 そして僕はこの時、やっと思い知ったのです。 「ああ俺は・・・父が生きている間に、そのオヤジを・・・とうとう、乗り越えることが できなかったのだ」 いなくなって初めて気づいた父の存在感・・・そんなつまらない男が、君達から「先 生」と呼ばれながら生きているのです。 【資料 14】 感性豊かでフレッシュな数ヶ月が勝負時です エッセーへの学生の反応(1988∼2002): いつもいつも、とても楽しい授業をどうもありがとうございました。専門の授業 というとたいていの先生が一本調子の授業でおもしろみがないのですが、この授業 だけは本当に面白くて、毎回出てくるのが苦ではなかったです。 (私は滋賀県から通 っているので、朝が早い1限の授業は嫌いなんです) 私は高校生のときに生物を勉強していたので、授業は半分、高校の復習のような ものになってしまいましたが、説明の間にでてくる余談(でもないけど、そういう 感じでしたね)はとても楽しかったです。 どの話も面白くて大好きでしたが、一番心に残っているのは先生が下さった「お 手紙」です。家に帰ってから手紙を読んで、何ともいえない不思議な気持ちになり 200 ました。共感とよぶべきなのか、よくわかりませんが、先生のお父さんへの気持ち が手紙の中いっぱいにあふれているような感じがして、思わず「ああ、そうなんだ なぁ」と言ってしまいました。実は、私も先生と同じように(私の場合は母ですが) 反抗(とはちょっと違うけど)していた頃があり、自分自身でも「何故こんなこと をしてしまっていたのだろう」と悩んでいました。だから、先生の「お手紙」を読ん で共感したのです。私はこのお手紙をいただいたことだけで、この授業をうけた価 値があったと思っています。本当に素敵で素晴らしいお手紙でした。 ここからは、少し別な話になってしまいますが、他の看護の学生はあまりこの授 業に出席していませんでしたよね。私には彼女たちはすごく損をしていると思えま す。東先生のおもしろさを知らないなんて・・・。私は本当に先生のことが大好きでし た。授業だけではありませんよ。授業から感じられる先生の人柄が大好きでした。 先生は看護の先生ではないので事業を受け持って頂ける機会はもうないでしょうが、 学科棟でお会いした時にはまた色々な話を聞かせてください。半年間、どうもあり がとうございました。 追伸:先生、看護の先生になって下さい。 冬休みに入る前の授業で、先生から手紙を頂きましたが、その頃、私は演奏会前 で(吹奏楽団に入っているんです)落ち着いて読みたかったのですが、結局、日曜 の練習に合間に読みました。久しぶりに泣きました。しかも人が数人いる中で。友 達は「そういう看護師さんていいな」と言ってくれましたが、どうなんでしょうね ぇ。 ところで、なぜ泣いたかを考えてみると、私と私の父に対する気持ちがダブった んだと思われます。中学、高校の 1 年のころは非常に父が嫌いでした。あのかたく なにまっすぐなところが、とてもイライラしていたのです。でも今、 (8月の中頃か ら一人暮らしを始めて特に)父のことがとてもにくめなくて、ほんとうにあいすべ き人だと思っています。 先生は「こんな男が先生と呼ばれて生きている」という感じの言葉で手紙を終わ られていましたが、私は先生と呼ばれるべき先生だと思っています。こんなに親に 対して考えられる人もそういないと思いますし。私はあの手紙をもらう前からとい うか、最初の授業のときから、先生には人間に深みがあるというかなんというか(え らそうなことは言えませんけど)そういうものを感じて、私は、この先生の話はぜ ったいにききにくるぞと決めました。ずっと授業にきてましたが、やっぱり初めに 感じたのは、うそじゃないな、と思っております。ついつい工学部のある先輩に、 こんな先生いるんですよー。とかいって自慢をしてしまいました。先輩は「いいな あ」とうらやましがっていました。・・・・・・ 201 半年間、本当にいろーんな事を教えていただいてありがとうございました。 1限目の授業でふつうなら家でもっとねてたい∼って思うんだけど、この授業に は、がんばっておきて、先生の話をききに行きたいって思えました。(大半の人は、 これが分からずにねてたんだろうなぁ・・・) 先生は私たちの気持ちもよく分かっていらっしゃって、授業のあいまに違う意味 での勉強(人生の勉強)になる話をして下さって、全然、退屈しませんでした。新 聞の切抜きを使って話してくれたこともあったし、あと、先生がくれたあのお手 紙・・・。あれはなんだか貴重なものをいただけたなって思いました。先生の お父さ ん もすごい方だなぁって思ったけど、先生の言葉にすごいジーンと来るものがあ って、涙流しながら読ませていただきました。 (←冗談抜きに) なんだか、これで授業が終わるのはすごくさみしいような気がします。 先生は色々余談をなさったり、プリントなど配布物を配られましたが、私が最も 印象に残ったのは先生のお父さんについての手紙というかプリントです。素晴らし いお父さんだと思いました。感動しました・・・。両親に対する考え方を、再度考え直 させられました。先生は、とても親孝行だと思います。今、これだけ生徒に支持を 受ける教師として、活躍しておられるのですから。 まず始めに先生が、6つぐらい項目を書いて、そのうちの1つに欠席 OK 途中退 出入 OK というのがありました。それを聞いたときにはとても驚きました。でも、 阪大にもこういうユニークな先生がいるんだなと思ってうれしかったです。 それとか、一番最後の授業には、 「1度も欠席したことがない人は、たまにはさぼ るのもいいことだ」とおっしゃっていたので、すっごくいい先生だなぁ∼と思いま した。でもそれは、その人それぞれのヤル気をためしているんだと思いました。 それと、先生が書いたお父さんへの手紙みたいなのを読んで、とても感動しまし た。涙が止まらなかったです。 最後に、この授業を通して得たことは、知識だけではなかったと思います。なん だか人生を学んだような気がします。 楽しい授業をありがとう。 私は高校のとき、生物が大嫌いでした。 「生物は暗記科目」で、ただつめこむだけ。 と思っていました。でもこの授業では、覚えるより「理解する」生物を学べたと思 います。先生のおもしろトークで、生理学など生物を好きになる手がかりのような ものがちょっとつかめたような気がします。 それから、前いただいた、先生のお父様についてのお手紙は本当に感動しました。 寝る前に読みながら「生きているうちに親は大事にしておこう」としみじみ思いま 202 した。でも次の朝起きたら、またお父さんにいじわるを言ってしまいました。原因 は、私がパンを食べたいのに「ご飯とみそ汁を食べろ」って言われたから、それだ けです。 「早く会社いきーよー。うるさいなー」と言ってしまいました。嫌いなわけ じゃないんですよ。どちらかというと大好きなんです。 最後に先生が書かれた「父のこと」を読んでつくづく、親孝行したいが親はいず、 ということが分かりました。私は両親が好きなので、出来るだけ親孝行していくた いと思いました。 先生の授業がこれで最後になるのはさびしいです。 専門科目であるにもかかわらず、最初に授業の時に「出席・欠席は自由です」と 言ったのには、少し驚きました。でも、今までにない、東先生のそういう考え方に 興味を持ち、遅刻したときこそ何度かあるものの、ほとんど出席していたことに、 自分でも少し驚いています。(私は朝が苦手なので) 休み前にいただいた、先生のお父様へのお手紙を読ませていただきました。言葉 の端々に、父への愛を感じ(ちょっと大げさ?)がらにもなく感動しました。 先生の書かれた父への手紙がすごく印象に残っています。読んだ時、泣いてしま いました。私の父も亡くなってしまったので、よけいかもしれません。私はまだ何 もできないし、専門の知識もまだなく、そこにいることしかできませんでした。 先生のお父さんが入院された時の話には心を打たれました。先生の優しさが伝わ ってきました。 先生のお父さんへの手紙に、とても心を打たれました。大学受験のための、手書 きコピーの話など、感動したことを思い出します。 授業でくばられたプリントの中の、先生のお父さんのことが書かれてあったプリ ントは、読んで感動しました。 【資料 15】 教官と学生の「共鳴」できる場を用意せよ 日本電信電話副社長の児島 仁さんが日経新聞の「あすへの話題」にお書きになっ た『共鳴』というタイトルのエッセイを読みました。 山陰の萩に行って、松下村塾と吉田松陰について知りたい、という話から、そこ で起こったであろうことを想像されておられます。小さな田舎の塾で、普通の子供 203 たちが、ほんのひと時の教育を経ただけで、有数に人物となっていくところが興味 深い、と。 「かかる教育とは一体何であるのか。師のいわゆる『講義』のみが、彼らをはぐ くんだとは思えない。・・・・・・むしろ師の強烈な個性や考え方が、弟子たちの心を震 わせて、その中に核のようなものを形成させたに違いない。・・・・・・彼ら弟子たちが 与えられたものは学問というよりは生命であった。・・・・・・私は、師と弟子たちの間 にあった不可思議なる連帯、その感動と共鳴を知りたいと思う。」 【資料 16】 日本でひとつしかない何々学の授業 教官: 「正常」が完璧に解明できれば、「病気」はすべて分かる 学生(1988∼2002): 「正常な時の身体のしくみをちゃんと理解していたら、病気の時などのこともわ かる」と先生が最初の時間に言われましたが、それは当然のことなのかもしれない けど、私にとってなぜかうれしくなってしまうような言葉でした。 生理学の授業が始まって、先生が最初の講義で言われたように「正常が完璧にわ かっていれば異常はわかる」という言葉をあらためて認識させられた気がします。 「正常を知らないと異常は分から 先生が言った言葉で、私が一番刺激されたのは、 ない」という言葉でした。 正常な状態を理解していれば、病的な状態も理解しやすいという話を聞き、本当 に分かるのかと思い授業に出ました。授業で個々の説明を聞いている時は、魔法の ような説明にひきこまれ、分かった気になれたのがうれしかったです。 この教科書で勉強して、難しいものをムズカシク考えて勉強するより、分かりや すい方向から入っていけばいいということを知りました。 まず言えることは、先生は健康そのものだということだ。授業も教科書も は東先生の授業だ とか あれは東先生の本だ あれ と言えるような個性を持っていら っしゃると思う。どこで憶えられたのか知りませんが、清潔そうな服装をしての、 あの無表情の顔から突然間抜けな事をおっしゃる(生理学の本も同様)あれは先生 の 1 つの技術なのか、自然とそうなるのか分かりませんが、どちらにしてもすばら 204 しい。これは決しておせじではありません。短い間でしたけど、どうもありがとう ございました。 教官: 「昔・・・大きな海。今・・・小さな海」 学生(1988∼2002): 私が最も印象に残っているのは一番最初の授業です。「人間は海を背負っている」 という表現が私にとってすごく新鮮なものであると同時に、人という生物の発育過 程が、なんとなくだけど、いっぺんに理解できたような気になりました。 生理学 って一体何やるのかな?と思っていました。特に、一番最初の授業の 人間は小さな海を背負っているなんて言われても、 え? って感じでした。でも、 その時間、先生の講義を聞いていたら、なるほどと思い、 おおー と手をたたきた くなるような講義であったことを覚えています。 テキストの中では、最初の大きな海と小さな海の話がすごい納得できて気に入っ た。ホメオスターシスのことは絶対に忘れないと思う。 一つ感動したことは、講義中使用している本の表紙です。人間が背中に海を背負 って出ていくという絵は私が今まで出会ってきた表紙の中で一番すばらしいと思い ました。はじめは何のことを物語っているのかわからなかったけど、だんだんと授 業を受けていくうちにわかってきて、すごくうれしかったです。 授業で一番印象に残っているのは、やっぱり一番始めの 昔、大きな海・・・今、小 さな海 です。すごくイメージとしてつかみやすかったと思います。 「大きな海」と「小さな海」という表現がとても好きです。 一回目の授業の「小さな海を背負って地上に上がった」という説明(解釈?)に いたく感銘を受けました。 授業で一番印象的だったのは、始めの頃の「人間が小さな海を背負っている」と いうやつです。その発想がとてもユニークだと思いました。先生の授業&本はとて も発想がいいですね。 205 教官の「講義ノート」に対する学生の印象(1988∼2002) : 生理学の授業は大学の多くある授業の中でも私の好きな授業でした。なんといっ ても、あの教科書が私のお気に入りです。すごく、わかりやすくて、それと、授業 ではしないけど、いろいろ日常生活の中での疑問に思ったりしていた身体のしくみ が、教科書のすみに書いてあるのが、とても興味をもてたし、私のためにもなりま した。あの本は、ずっと大切にしまっておきたいと思っています。難しいことを難 しく説明することは、誰にでもできますが、難しいことをだれにでもわかるように 簡単に説明することは、簡単なようでなかなかできることじゃないです。私がやれ ば、簡単なことまで難しくなってしまうだろうと思います。先生はすごいなあーと いつも授業を聞きながら思ってました。 まず言えることは、先生は健康そのものだということだ。授業も教科書も は東先生の授業だ とか あれは東先生の本だ あれ と言えるような個性を持っていら っしゃると思う。 生理学は教科書が見やすくて好きでした。普通の教科書とちがいユニークさがあ り、大笑いする部分もたくさんありました。母や弟にその部分を話して3人で大笑 いしたこともあります。 先生自らお手製の教科書は大変好評でした。普通の教科書だったら難しい語句が 並べてあって理解するのに時間がかかるのに対して、イラストまじり、特に右ペー ジの説明は理解を深め記憶に残りやすいという利点があった。文章もずらずらと長 い文ではなく箇条書き風なところもまた良かった。 教科書をみながら 教育って、コレだよなー と思った。自分自身家庭教師をし ながら痛烈に感じるのも、 教育って、その子をヤル気にさせる事 なんだよなーっ てことである。 一番最初に驚いたのは、やはり独自の教科書のおもしろさである。一人で読んで も何度読んでも笑えるのは「ちびまるこちゃん」以外にはない!と思っていたのに、 教科書にあるなんて・・・。 こんなユーモラスな教科書は、この世にこの一冊しかないだろうと思うくらい、 私をあきさせなかった。 206 高校まではとりあえず大事でテストに出そうな事をその教科書の1ページ1ペー ジいっぱいに書いてあった。そんなもの、だれが何度もみたいと思うだろうか。何 が大事なのかもよく分からないし、生物だったら生物にたずさわった偉い先生が書 くんだから、専門用語ばっかりで内容を把握しにくい。きっとそんな偉い先生は自 己満足のために本を書いているのではと感じる。もっと偉い(超偉い)先生だった ら私たちの立場になって教えてくれるはずだ。今までこんな先生はいないと思って いたら、ここにはいました。東先生はわかりやすかったし、本も読みやすかった。 この教科書は、講義の時以外でもついつい読んでしまうという、私が手にした教 科書類の中でめずらしいものとなりました。夏休み中も、夜寝る前に布団の中で長 い間読めたぐらいです。 教科書は他のものよりもずっと読みやすくて、買った日の帰りの電車の中でずん ずん読んでいきました。 この教科書はすごく分かりやすいように作ってあるので、楽しく読めた。堅苦し い教科書を使って勉強するよりか、何倍もためになったと思う。書いてある例え話 など、知識として知っておけば生活の中で役に立つような気がする。だからあの本 は、生理学を勉強しなければいけない人たちだけじゃなくて一般の人にも読んでも らいたいなあと思う。クラブの部室に持っていって広げていたら、友達がのぞいて て笑い出してしまったこともありました。きっとそれくらい読んでて楽しい読みや すい本だということなんでしょう。 身近なことに結びつけて説明してあるので、興味が何百倍にもなって、好奇心で いっぱいになります。 「わあ、私のツボやー、この本」っていうのが、私のテキスト の感想です。 とても見やすくて分かりやすくて読みやすいノートでしたので、大変驚きました。 私には絶対できないことだと思います。よほど生理学に精通していなければできな い神技だとしみじみ思います。正直に言わせていただくと、私にはとてもうらやま しいです。 本の絵がかわいかったし、左ページの説明を右ページにというのもわかりやすく てよかったです。私の弟もある日教科書を見てすごく気に入ったみたいで、よく見 せて見せてと私の部屋に来ます。 207 先生の書かれたテキストは、普通売られている本よりもずっと見やすく、最初は 寝転がって読んでいましたが、読みあきないので座って机の上で読むようになり、 すごく感激しています。 すごく見やすく、読んでみようかなという気をおこさせるものでした。 手作りっぽくて、とても温かみがあって、好きです。 お正月実家にもってかえって読んでいたら、母もおもしろいといって笑っており ました。 授業以外、テスト勉強以外の時にも、ちょっと見ようかなと、教科書ではなくふ つうの本を読むような感じで見ることができる。 教科書らしくない教科書 であった。おもしろすぎるので、電車の中や病院の 待合室等で読んでいると、注目を浴びてやや照れくさいのが困った。 ニュースにたとえるなら、 「NHKニュース9」というよりも「ニュースステーシ ョン」ていう感じだと思います。専門教科の教科書はとにかく字が小さくて、言葉 のいいまわしがむづかしいものが多いので、ヤル気が出ないが、この本は言葉もか んたんだし、絵や説明も多くて、良いと思う。 208 体験的課題追求型授業補完講義実施報告書 1.授業よる行名:脳による行動制御のしくみ 2.授業区分:基礎セミナー 3.教官名:松尾知之 (所属:健康体育部) 4.達成すべき授業目的 表計算ソフト(Excel)及びプレゼンテーション用ソフト(PowerPoint)を使うための簡単な 計算機リテラシーを修得し、基礎セミナーで実施する体験型授業に必要な解析を行う能力及び研 究発表を効果的に行う能力を身に付ける。 5.体験の内容 逆転メガネ着用時の運動,錯覚による運動の知覚,ランダムドットステレオグラムの作成,注 視点計測,アニメーション製作,把握運動での力制御の体験,ダイナミック・タッチ,ジャグリ ング,意図に反する運動 6.受講人員:10名 [内訳 男子8名 女子2名 留学生男子0名 留学生女子0名 高校生男子1名 高校生女子1名] 7.実施場所:健康体育部セミナー室 8.授業計画と内容 (1) 第 1 回 5月9日(木) 16時20分∼17時50分 計画 1.コンピュータの基本的使い方と表計算ソフトでの計算の基礎 2.データ解析の基礎 3.図表の作成 経過 ・項目としては,1∼3まで実施することができたが,1に思ったよりも時間を要 したため,2の内容を削減した。 (2) 第 2 回 7月11日(木) 16時20分∼17時50分 計画 1.レポートの書き方 2.プレゼンテーション法(ポスター、OHP、PC を用いた発表法の基礎) 経過 ・予定通り,順調に実施できた。 9.配布教材:特になし 10.成績評価 (1)評価方法:課題発表の成果(表現力) (2)評価結果と成績分布:優6名 良2名 可1名 不可1名 11.提出物等受講生による成果のサンプル 最も成績のよい受講生の成果を配布資料として添付。また,その際のプレゼンテーション用の ファイルを保存したフロッピー・ディスクも添付。 12.実施結果と今後の課題 コンピュータに不慣れな受講者と経験のある受講者が混在していることが予想され,多くの 受講者に満足のいく授業が展開できるか不安であったが,幸いにもティーチング・アシスタン トを採用することができ,大いに助かった。補完授業全体として,まずまずの成功を収めたと 感じている。今後の課題としては,受講者一人一人にコンピュータが行き渡るように,サイバ ーメディアセンターの活用も考える必要がある。 209 目的 2枚の写真などが立体的に見える原理を調 べる 立体視の見方と見えるようになるための練習 方法 立体的に見える3D写真の制作 原理 平行法と交差法 人間が立体を認知できるのは人間の目が 2つあるからという所が大きい。左右の目か ら入ってきた情報の差異から立体を認識す る。これは左右の目に別々の絵が見えてい ると考えることができる。つまり、左右の目 で別々の絵を見て、その絵の差異から立体 を 感じる 。 ∼平行法∼ 右目で右の画像、左目で左の画像を見る方法。 ピントをぼかすような感じで2枚の絵を3枚にする。 ピントをうまく合わせれば立体視できる。 ∼交差法∼ 平行法とは逆で、左目で右の画像を、右目で左 の画像を見る方法。視線はそれぞれ逆の方向を 見ているのだから交差する。 立体視の作品∼平行法∼ 練習方法 ∼平行法∼ 人差し指をくっつけた状態で、目の前10㎝のと ころに持ってきて遠くを見る。人差し指どうしの 間にウィンナーソーセージの様な物が見えてくる。 2. それが見える状態のままで指を目から遠ざけて みる。視線を変えなければ30㎝ほど離れても ウィンナー状の指が見えるはず。 3. 実際には焦点は指より向こう。このウィンナー状 の物体をずっと見る要領をつかむ。 1. 210 立体視の作品∼交差法∼ 結果・考察 どちらか一方の見方に慣れるともう一方の 方法が困難になる。 z 平行法での見方が可能となるまで3日ほど かかった。 z やる気を持って続けないと難しい。 z 練習方法を試した人が少なすぎるため、こ の方法が確実とは言い難い。 z まとめ・参考文献 この練習方法には多少なり効果がある。 z できる人とできない人がどうしても出てくる。 z できるにはそれなりの根気が必要。 z 理科コーナー http://www.kagawa-edu.jp/kokubj01/rika/ 裸眼立体視 http://www2a.biglobe.ne.jp/`jun/stereo/stereo.html 211 体験的授業実施報告書 1. 授業名:音楽心理学 2. 授業区分:基礎セミナー 3. 教官名: 1.[責任者]中村敏枝 (所属:人間科学研究科) 4. 達成すべき授業目的: 「演奏音を介した演奏者と聴取者の間の意図の伝達について」のテーマのも とに、実験実施から、仮説の検証に至るまでのプロセスを学生に体験させる。問題提起、企画立 案、論理的思考、協働作業などの能力育成を目的とする。 5. 体験の内容:a.具体的な実験テーマを決定し、実験計画を作成する迄の集団討議。b.実験用刺激 の作成(コンピュータ、各種 AV 機器の使用)。c.心理学実験の実施。d.実験データの統計的解析 (コンピュータの使用) 。e.結果の考察とレポート作成の集団討議。 6. 受講人員:7 名[内訳 7. 実施場所:人文社会科学棟 115 室(防音室)、ならびに、116 室(実験準備室) 8. 授業計画と内容: (1)第 1 回 4月 男子 3名 女子 17 日(水) 4名] 16 時 20 分∼18 時 00 分 計画:受講者各自の日頃の音楽経験に基づく問題提起と集団討議(テーマ「何を調べたいか」) 経過:教官の研究紹介と TA 紹介。 受講者の自己紹介ならびに音楽心理学に関する興味・関心について各自発表。 (2)第 2 回 4月 24 日(水) 16 時 20 分∼19 時 00 分 計画:複数の実験テーマに関し、教官の音楽心理学的解説と先行研究の紹介 経過:受講生各自から研究テーマの提案と集団討議 受講者 A:「癒しと音楽の関係」 受講者 B:「絶対音感と相対音感」 受講者 C:「心拍数と音楽との関係」 受講者 D:「音楽が購買行動に与える影響」 受講者 E:「音楽の調について」 受講者 F:「頭の働きと音楽の関係」 受講者 G:「音楽療法」、「BGM と集中力」、 (3)第 3 回 5月 8 日(水) 16 時 20 分∼19 時 00 分 213 計画:研究テーマを1つに絞るための集団討議(科学的検証の可能性をさぐる) 経過:第 2 回で提案された研究テーマの各々につき、実験の可能性を検討するために、教官と TA による関連先行研究の解説。具体的な研究方法について議論。 (4)第 4 回 5月 15 日(水) 16 時 20 分∼19 時 00 分 計画:実験計画の立案・検討のための集団討議 経過:今までの討議を踏まえ、暫定的に統一テーマを決定し、教官と TA によるアドバイスを参 考にしつつ具体的に実験計画を検討。 (5)第 5 回 5月 22 日(水) 16 時 20 分∼20 時 00 分 計画:実験計画の立案・検討のための集団討議 経過:暫定テーマによる実験計画の問題点を洗い出し、修正を加えて最終的な研究テーマ「音 色及び調の違いが音楽の印象に与える影響」を決定。教官と TA は決定に導くために適宜 アドバイスを与えた。 (6)第 6 回 5月 29 日(水) 16 時 20 分∼19 時 00 分 計画:実験準備 経過:実験に用いる刺激選定のため、受講者が各自複数の候補曲を持ち寄り、試聴と検討を行 った。 (7)第 7 回 6月 5 日(水) 16 時 20 分∼20 時 00 分 計画:実験準備(コンピュータ、各種 AV 機器使用による刺激作成) 経過:選定した曲について、調と音色を変えた演奏音を作成するために、コンピュータを使用 し、協働作業を行った。必要なコンピュータ操作とソフトの使用に関し、教官と TA が指 導。 (8)第 8 回 6月 12 日(水) 16 時 20 分∼19 時 00 分 計画:実験準備(実験手順の検討など) 経過:本研究に必要な心理量測定のための手法について教官と TA が解説。心理評定尺度を具体 的に決定するために集団討議。 (9)第 9 回 6月 19 日(水) 16 時 20 分∼19 時 00 分 計画:実験準備(予備実験) 経過:刺激として用いる演奏音、心理量測定用紙、被験者に対する教示など、実験のために必 要なものを全て完成。全員で予備実験を行い、本実験のための準備完了。 (10)第 10 回 6 月 26 日(水) 16 時 00 分∼19 時 00 分 計画:実験実施 経過:講義室において被験者 30 名を集め、実験実施。実験装置運搬、配線、音量測定、被験者 への教示、 刺激呈示など実験の全過程を全員で分担を定めて実施。 (11)第 11 回 7月 3 日(水) 16 時 20 分∼19 時 00 分 計画:実験実施 214 経過:前回に引き続き、必要な被験者数の残り 37 名を集め、実験実施。 (12)第 12 回 7月 10 日(水) 16 時 20 分∼20 時 00 分 計画:実験結果検討のための集団討議 経過:コンピュータによる実験データの処理。教官と TA によるアドバイスを参考にしつつ結果 検討のための集団討議。 (13)第 13 回 9月 4 日(水) 16 時 20 分∼21 時 00 分 計画:実験結果検討のための集団討議 経過:受講生各自による実験結果の考察を持ち寄り、内容を全員で検討し討議を重ねた。 その過程で生じた問題点の解決のために、教官と TA の指導に従い、コンピュータによる 統計解析を行った。 (14)第 14 回 9月 11 日(水) 16 時 20 分∼19 時 00 分 計画:実験結果検討のための集団討議 経過:実験結果検討をさらに重ね、レポート作成に向けて、コンピュータによる文書作成・作 図・作表などの協働作業を行った。 (15)第 15 回 9月 18 日(水) 16 時 20 分∼21 時 30 分 計画:レポート作成 経過:実験結果について討議を重ね、レポートを完成。 9. 配布教材:下記参考図書をはじめとする関連文献の中から必要資料を配布。 教科書:なし 参考図書: 「音楽心理学」 梅本尭夫著 「音楽の心理学」上下 誠信書房 ダイアナ・ドイチェ著 寺西立年ほか監訳 「音楽の認知心理学」リタ・アイエロ著 大串健吾監訳 「感性情報処理」 オーム社 電子情報通信学会編 「音は心の中で音楽になるー音楽心理学への招待」 「音楽心理学の研究」 梅本尭夫編著 西村書店 誠信書房 谷口高士編著 北大路書房 ナカニシヤ出版 10.成績評価: (1) 評価方法:講義への参加と共同レポートによる。 (2) 評価結果と成績分布:99 点。全受講生の協働作業によるレポートに基づくため、同一 評価。 11.提出物等受講生による成果のサンプル: 上記共同レポートを添付。 215 12.実施結果と今後の課題: 実験実施から仮説の検証に至るまでのプロセスを学生に体験させ、問題提起・企画立案・ 論理的思考・協働作業などの能力を育成するという本講義の目的を達成することが出来た。 受講生の感想文(添付レポート参照)にも記されているように、受講生は全員が積極的に本講 義に関わり、所定の講義時間を越えて協働作業に没頭し、夜遅く迄、教官が終了を促すまで続 けることもしばしばであった。 教官は受講生の討論と作業の方向を導くためのアドバイスを与えることを主とし、TA が実験 装置やコンピュータの操作法を個別指導するという方針を今後も続けたい。 216 217 218 219 体験的授業実施報告書 1. 授業名:身近な光の不思議を探る 2. 授業区分:体験的授業 3. 教官名 1 木下 修一(所属:生命機能研究科) 2 渡辺 純二(所属:生命機能研究科) 3 吉岡 伸也(所属:生命機能研究科) 4. 達成すべき授業目的:日常で見られるような、身近な光に関わる現象を実験を通じて整理し、現代の 物理学がそれらをどのように説明できるのか、その概要を把握する。 5. 体験の内容:種々の実験を行う。たとえば、吸収・発光スペクトルの測定、レーザーの発振、光速の 測定、色素の色と構造色の観察、など。 6. 授業定員:4 名、(男子 4 名、留学生 0) 7. 実施場所・理学部 B121、D103 8. 授業計画と内容: (1) 第一回 4 月 12 日 光に関する言葉を出来る限りあげてもらい、分類を行った。50 個程度の言葉が挙がり、それらは、光源・ 道具・現象・記録道具などに分類された。そのなかで、まずは光源に分類された言葉に注目して、実験 を行うことになった。 (2) 第2回 4月 19 日 小型の分光器と記録用のノートパソコンを用いて、様々な光源からのスペクトルを観測した。測定した 光源は、ハロゲンランプ、レーザー、懐中電灯、太陽光、携帯電話の液晶、自転車の電球など、全部で 14 種類。 (3)第 3 回 4 月 26 日 先週に測定した光源のスペクトルについて、考察と分類を行った。輝線のある ものと連続なスペクトルの二種類があり、いくつかの光源はきわめて類似したスペクトルを持つことが わかった。また、測定に用いた分光器の原理についての説明を行い、実際に分光器の構造を観察した。 さらに、分光された光の波長と人間の視覚が感じ取る色の対応を調べ、それには個人差があることを体 験した。受講者との相談により、来週からは、蛍光について調べることがきまった。 (4)第 4 回 5 月 10 日 レーザー光を用いて、色素分子を励起子、レーザーの色とは異なる色で発光 することを確認した。サンプルは、蛍光管の内側の白い粉、紙に蛍光ペンで塗った部分の色、溶媒に溶 けた色素など。小型の分光器を用いて発光スペクトルを測定した。また人口虹の観察を行った。 (5)第 5 回 5 月17日 レンズとピンホールを用いて、平行に進む光を作り出す光学系を試行錯誤に より製作した。その光学系を用いて、吸収についての実験を行った。ローダミン溶液の吸収スペクトル を測定し、発光スペクトルとの関係を調べた。 (6)第6回 5 月24日 レーザーの原理の説明と、実際に色素レーザーの発振に挑戦した。この日は、 発振を成功させるには至らず、鏡の角度、励起光源の集光方法などが重要であることを体験した。 (7)第 7 回 5 月 31 日 先週に続き、色素レーザーの発振実験を行った。ついに、学生が独力でレーザ ーを発振させることに成功した。 (8)第 8 回 6 月 7 日 色素レーザーの共振器のなかに、波長選択素子(プリズム)を挿入し、レーザ 221 ー光の発振波長を変化させる実験を行った。実際に、レーザー光を分光器の中に挿入して、発振波長の 変化を精密に測定した。それらは以前に測定した発光スペクトルの幅の中にあることを確認した。 (9)第 9 回 6 月 21 日 液体窒素と光との関係について考察を行った。液体窒素を用いていくつか実 験を行い、温度変化による、物質の硬さの変化、電気抵抗の変化、などを体験した。また、モルフォ蝶 の構造色や回折現象を用いてつくられたドラえもんのパターンを観察した。 (10)第 10 回 6 月 28 日アルゴンガスレーザーを用いたレーザー発振実験を行った。アルゴンガス レーザーの発振波長をプリズムを用いて選択し、輝線状の発振をしていることを体験し、色素レーザー の連続的な発振と比較した。 (11)第 11 回 6 月 28 日 自由研究課題の課題設定と取り組み (12)第 12 回 7 月 5 日 自由研究課題への取り組み (13)第 13 回 7 月 8 日自由研究課題のための実験。液体窒素を用いて蜃気楼の実験を行った。 (14)第 14 回 7 月 11 日自由研究課題のための実験。フラスコ中の水を用いて、虹を作る実験を行っ た。 (15)第 15 回 7 月 12 日自由研究課題の成果発表を行った。4 人の発表テーマは、蜃気楼再現実験(西 原)、虹の原理と虹ビーズの謎(木下)、虹からの白色光再現実験(田中)、視力を改善する方法につい て(久野) 9 配布教材 実験の内容をまとめたレジュメと、レーザーの原理についてのプリント 10 成績評価 実験への参加態度、自由研究課題への取り組みとその成果を見て行った。 11 提出物等受講生による成果のサンプル: ● 蜃気楼再現実験を行った西原君は、液体窒素という非常に低温の寒剤を用いて蜃気楼を効率的に生 み出す試みを行った。実験の結果、水蒸気の凝結によって視界が悪くなるために、うまく蜃気楼を 見ることは出来なかったが、それを改善する実験装置を提案した。 ● 色のついた光を混合し、白色光再現実験を行った田中君は、全く独自に実験を発想し、失敗を繰り 返しながら目的に近づいた。その失敗の中から、色の三原色と光の三原色の違いを明確に体験した。 また、懐中電灯の光が青色を含まないことに気づき、電球のスペクトルとの対応をつけることに成 功した。 ● 視力を改善する方法を久野君は考察した。二本の指を用いて細いスリットをつくり、それを通して 黒板を見ると後ろの席からでもよく文字が読めることに彼は疑問を持った。その原理について、目 のレンズの仕組み、近視の原理、回折の影響などを考慮に入れ、スリットの働きについての仮説を 提案した。 ● 木下君は、虹に興味をもち、虹の原理と虹ビーズについて研究を行った。虹ビーズの仕組みについ て調べているうちに、簡単な装置(フラスコ中の水)を用いて、反射を起こせば、虹を観察できる ことに気がついて、実際に実験でそれを再現した。 222 12 実施の成果と今後の課題 授業への参加態度・自由課題への取り組みからして、四人は十分に 光 を体験したといえる。特にレ ーザーの発振実験においては、数時間をかけてついに発振を成功させるにいたった。実験への粘りと成 功した感動を体験できたのは大きな成果である。また、自ら疑問を発見し追及する 研究 の基礎を体 験できた。 223 体験的授業実施報告書 1.授業名:化学フロンティアⅠ 2.授業区分:基礎セミナー 3.教官名 1.「責任者」 海崎 純男 (所属:理学研究科) 2. 鈴木晋一郎 (所属:理学研究科) 3. 今野 巧 (所属:理学研究科) 4. 隈 弘夫 (所属:理学研究科) 5. 山成 数明 (所属:理学研究科) 6. 川田 知 (所属:理学研究科) 7. 山口 和也 (所属:理学研究科) 8. 冬広 明 (所属:理学研究科) 9. 鈴木 孝義 (所属:理学研究科) 10. 川本 達也 (所属:理学研究科) 4.達成すべき目標: 化学という学問が、われわれの生活を豊かにしている 色 とどのように関わってきたかを、過去の 歴史を踏まえて調べる。さらに、現在われわれが享受している色彩豊かな生活がいかに多くの化学物質 に負うところが多いかを、無機化合物を中心にした身の回りのものを例にとり、簡単な実験をまじえて、 明らかにしていく。 5.体験の内容: 反応の観察、金属錯化合物の合成、スペクトル測定等 6.受講人員: [内訳 男子 10 名 女子 6 名 留学生男子 0名 高校生男子 1名 留学生女子 高校生女子 0名 1名 7.実施場所: 理学部教室、理学部化学学生実験室、 共通教育化学学生実験室 8.授業計画と内容: (1)第1回 4月12日(金):いろいろな色の話 計画:身の回りの環境には、色彩があふれている。空の青さ、夕焼け、雨上がりの虹、色とりどり の花、蝶や鳥の彩り、またテレビや映画、絵の具やペンキ、夏の夜空を彩る花火等々。これらの色の原 因について、科学的な立場から概論を行う。そして、受講生自らが興味を持つ「色のテーマ」を見つけ てもらい、セミナーの最後に全員が報告・発表する。 経過:まず、可視光の波長と眼の構造について理解し、色の見える仕組みを学習した。次に、身の 回りの様々な色について、分散、散乱、干渉,回折等の物理現象と関連したものがあることを学習した。 また、加法混色と減法混色の相違を、光の三原色と絵の具の三原色を例にして理解した。更に、原子の 225 出す不連続な線スペクトルについて、花火を例として学習した。最後に、日本語の中にある様々な色の 表現や慣用句についても例を示し、色全般について科学的認識を深めた。 (2)第2回 4月19日(金):金属化合物の色と構造 計画:金属化合物の色の原因について、その構成要素である原子の電子配置に立ち返り、炎色反応 と原子スペクトルの関係や分子・イオンにおけるd電子の役割を通して、考察する。 経過:金属化合物の色の原因について、その構成要素である原子の電子配置に立ち返り、説明した。 また、それと関連して、炎色反応と原子スペクトルの関係や分子・イオンにおけるd電子の役割につい て考えた。 (3)第3回 4月26日(金):宝石の色の話 計画:宝石が呈する様々な色に関して、ルビーを例にして、その組成と含有量との関連づけを考え る。この講義内容は、金属イオンの同定実験(第11回)で自ら確認できる。 経過:宝石が呈する様々な色に関して、ルビーを例にして、その組成と含有量との関連づけで、詳 しく話した。少し、バックグランドが必要とするので、受講生には、理解しにくかったようであるが、 後で、金属イオンの同定実験(第11回)で自ら確認できた。 (4)第4回 5月10日(金):炎色反応の実験 計画:塩素酸カリウムと硫黄の反応によって生じる大量の熱エネルギーを使って、炎色反応を行う。 用いるアルカリ(土類)金属イオンによって赤、黄、青、緑など多彩な色が観察できる。この発光の原 理は、夏の夜空を彩る花火と同じである。 経過:まず、実験の手順および実験上の注意事項を、演示実験を行いながら示した。次いで、学生 2名ずつの班に別れ、実際に炎色反応の実験を行った。実験は、塩素酸カリウムとアルカリ(土類)金 属塩を軽く混合したものを試験管に入れ、ガスバーナーで静かに融解するまで過熱したのち、硫黄粉末 を少量ずつ加えることで、アルカリ(土類)金属の炎色反応を観測した。ほとんど全ての学生が、これ までに経験してきた化学実験よりも迫力のある実験に満足し、また安全に実験することができた。実験 終了後に、炎色反応の原理を実際に行った実験に沿って説明をしたが、実験直後であったため、学生の 理解も深まったと思われる。 (5)第5回 5月17日(金): 文献調査 計画:これまでの講義・実験を通じて、受講生は色についてかなり具体的なイメージを持つことが 出来るようになってきたと思われる。そこで、インターネットや図書館等を利用して具体的な文献調査 活動を行い、受講生が興味を持つ「色のテーマ」を各人に決めてもらう。 経過:一部の学生(理学部化学科の数名)が、新入生ガイダンス研究のため欠席の予定であったた め、当初の予定の第5回と第6回を入れ替えた。 この講議の目的は、この体験的授業の最終2回に予定している学生自らの発表会のために、何をどの ように調べ、どのように発表するかを示すことであった。従って、図書目録の検索法や、インターネッ トを使った情報検索から、発表の仕方、わかりやすいプレゼンテーションなどを例を示しながら説明し た。興味を持って話を聞いている学生もいたが、まだ自分で発表すると言う実感が湧かないためか、あ まり興味を示さない学生もいた。やはり、この講議はほとんどの実験が終了した後(夏休み直前)に行 226 うべきであった。 (6)第6回 5月24日(金):振動反応の実験 計画:化学反応には不可逆な反応、平衡反応の他に、珍しい例ではあるが振動する反応もある。こ の振動反応を金属イオンによって着色し、時間とともに様々な色に周期的に変化する溶液の実験や、水 面に石を投げた時のように空間的に色の輪が繰り返し広がっていく実験を実際に行い、振動反応につい て考察する。 経過:2種類のベローゾフ− ジャボチンスキー(振動)反応を学生自らが、試薬の調整から行った。 一つは、時間的振動反応であり、フェロインとセリウムの働きにより、溶液の色が青→緑→黄→橙→赤 →青と繰り返し変化する。もう一つは、空間的振動反応であり、シャーレの中で、水面に石を落とした 時のように赤と青の波が繰り返し生成し広がっていく。学生は自らが調整した試薬で、これまでに見た ことのない色変化を観測でき、興味深かったようである。色の振動に対する撹拌する速度や温度の影響 など、テキストとして用意していなかった事項にも興味を持って実験する学生もいた。 (7)第7回 5月31日(金):いろいろな色の錯体の合成実験(I) 計画:受講生の多くは、高校までに金属イオンの色として金属アコ錯体の色をそれと認識している。 ここでは、金属イオンの色がさまざまな配位子との錯形成により変化することを理解させるために、簡 単な合成実験により金属イオン(銅、ニッケル等)の色の変化を体験させる。 経過:金属イオンの色がさまざまな配位子との錯形成により変化することを理解させるために、以 下に示す簡単な合成実験により金属イオン(銅、ニッケル等)の色の変化を体験させた。 1 サリチルアルデヒドとエチレンジアミンをエタノール中で混ぜ合わせ、黄色の配位子 salen を合成 した。 2 銅、ニッケル、コバルト、鉄、それぞれの2価イオンの水溶液と配位子のエタノール溶液を混ぜ合 わせ、錯体生成による色の変化を確認した。 さらに、コンピュータを用いて、錯体の構造を視覚的に体感させ、配位化合物の色と構造の関係を学 習させた。 (8)第8回 6月7日(金) :いろいろな色の金属錯体の合成実験(II) 計画:ここでは、クロロペンタアンミンコバルト(III)錯体の合成を行う。この錯体は紫赤色を 有し、コバルト錯体の出発物としてもよく利用される最も代表的なコバルト錯体のひとつである。 経過:合成法を記載したプリントを配布後、金属錯体全般についての説明を行った。次に、配布 したプリントにしたがい具体的な合成法および実験操作について説明を行った。その後、2人一組にて 実際に実験を体験してもらい、その結果、いずれのグループも目的物の合成に成功した。 (9)第9回 6月14日(金):いろいろな色の金属錯体の合成実験(III) 計画:前回合成した錯体を出発物として用い、置換反応によりニトロペンタアンミンコバルト (III)錯体を合成する。これにより、化合物の合成における置換反応の具体例を学ぶことになる。なお、 この錯体の色は黄褐色である。 経過:まず、前回配布したプリントを参考に、具体的な合成法および実験操作についての説明を 行った。その後、前回と同じグループにて実験を体験してもらった。その結果、途中やり直したグルー 227 プもあったが、最終的にはすべてのグループが目的物の合成に成功した。 (10)第10回 6月21日(金):金属錯体の吸収スペクトルの測定実験 計画:実験で合成した錯体の吸収スペクトルを、分光機器を用いて測定する。このことにより、 色とスペクトルの関係を学ぶとともに、金属錯体の色の原因についても考察する。 経過:まず、分光機器について使い方を含めた簡単な説明を行った。次に、実際に過去2回の実 験にて合成した化合物の吸収スペクトルをグループごとに測定してもらった。そして、新たに配布した プリントを参考に、その測定結果についての説明を行った。 (11)第11回 6月28日(金):生物の示す色のお話 計画:様々な生物が織りなす色の世界の中には、生体内で働く金属イオンと密接な関係にあるもの が多い。例えば、ほ乳類の血液の赤色は鉄イオン由来しており、カブトガニなどの甲殻類の血液の青色 は銅イオンに由来している。漆や胡瓜などの事例を紹介するとともに、生物が示す色と生体金属の関連 についての興味を引き起こし、理解させる。 経過:担当者が学会主張のため、計画の 11 回、12 回、13 回の授業を、それぞれ 13 回、11 回と、 12 回として、日程を変えて実施した。この講義では、酸素運搬タンパク質のヘモグロビン(Fe)やヘモ シアニン(Cu)、酸素貯蔵タンパク質、ミオグロビン(Fe) 、電子伝達タンパク質、シトクロム c(Fe)、 西洋ワサビのぺルオキシダーゼ(Fe)の構造と色の原因について、カラーの OHP シートを用いて講述し た。また、漆の樹液を重合する銅含有酵素、ラッカーゼの青色についても構造と色の原因についても解 説した。 (12)第12回 7月5日(金):生物の示す色の実験 計画:高等植物の葉に含まれるクロロフィルを抽出し、クロマトグラフ法により精製し、得られた クロロフィルの紫外可視吸収スペクトルを測定する実験を行う。この実験を通じ、生物の示す色と生体 金属の関連についての興味を深める。 経過:受講者を2名ずつ組ませて実験行った。実験内容は、菊菜のクロロフィルをペーパークロマ トグラフィで分離する実験、ミオグロビンからヘムを抽出する実験、クロロフィルやミオグロビンの簡 易分光器によるスペクトル観察である。 (13)第13回 7月12日(金):宝石や溶液に含まれる金属イオンの同定実験 計画:われわれの身の回りには、約90種類の元素が存在している。それらを、非破壊的に同定す る有力な手段として,蛍光x線分析がある。この装置を用いて宝石や未知試料の測定を行い、含まれる 元素の同定と考察を行う。 経過:まず、蛍光x線分析装置の原理の説明をした。この原理に基づいて、周期表の原子が現在の ように原子番号順にならぶきっかけとなったこと、ナトリウムより重い原子の同定に有用であること等 を理解した。具体的には、第3回で学習した、ルビーやサファイア、ガーネット等の宝石を分析して、 含まれる元素と色の関係について理解を深めた。また、鍵やコイン等に含まれる金属についても蛍光x 線分析し、容易に非破壊で分析できることを実験を通して理解した。 (14)第14回 9月6日(金):レポート発表会 計画:13回までの授業を通じて、各人で興味をもった「色のテーマ」について、レポートを提出 228 してもらう。これを10人づつ2班に分けて、2回で全員にプレゼンテーションしてもらい、互いの内 容を理解し議論を行う。 経過:各自が興味をもった「色のテーマ」についてレポートを提出してもらい、これに基づき発表 会を行った。液晶プロジェクターを用いて行いて発表を行い、各人の発表時間は質疑応答を含めて約1 0分間であった。それぞれ、「金属錯体の色」、「生物発光」、「振動反応」、「花の色」などに関する発表 がなされ、教官および学生からいろいろな質問や感想が出された。 (15)第15回 9月13日(金):レポート発表会 計画:13回までの授業を通じて、各人で興味をもった「色のテーマ」について、レポートを提出 してもらう。これを10人づつ2班に分けて、2回で全員にプレゼンテーションしてもらい、互いの内 容を理解し議論を行う。 経過:前回に引き続き、各自のレポートに基づいて、「色のテーマ」に関する発表会を行った。前 回同様、液晶プロジェクター用いて各人約10分間の発表を行った。発表内容はそれぞれ、「ミラーゴ ーグルの色」、「身近なところにある色」、「宝石の色」、「花の色」「炎色反応」などに関するものであっ た。また。最後にこの授業に関するアンケートに答えてもらった。 9.配布教材:毎回プリントを配布する。 教科書:なし 参考図書:・中原勝儼「色の科学」(培風館) ・江森康文 他編「色 その化学と文化」 (朝倉書店) ・日本化学会編「教師と学生のための化学実験」(東京化学同人) ・B.Z. Shakhashiri, Chemical demonstrations, University of Wisconsin Press(池 本勲訳「教師のためにケミカルデモンストレーション」丸善) 10.成績評価 (1)評価方法: 出席 75 点、レポート 15 点、プレゼンテーションと口頭試問 10 点で採点 (2)評価結果と成績分布: 体験的授業でもあるので、出席の比率を重くして採点した。授業に出席し、レポートを書き、レポー トのプレゼンテーションを行った学生 10 名は、ほとんど 90 点を越える評価となった。プレゼンテーシ ョンを休んだ学生 1 名と、レポートも出さずプレゼンテーションも行わなかった学生2名の評価は低い ものとなった。 11.提出物等受講生による成果のサンプル: 最も成績の良い受講生のレポート、最も成績の悪い受講生のレポート、平均点付近の受講生のレポー トを、添付書類として別に提出する。 12.実施結果と今後の課題: 体験的授業ということで、できるだけ多くの実験を取り入れるように各担当者は努力した。また、1 5回の授業のうちに、第5回に文献調査、第 14 回、第 15 回にレポートのプレゼンテーションを取り入 れ、より自主的・参加的な授業となるように工夫を行った。しかし、途中で受講を放棄した学生が1名、 229 レポート提出もしくはプレゼンテーションを行わなかった学生が3名いたことは、まことに残念であっ た。この原因については今後充分分析して、来年の授業に生かせるようにしたい。 230 231 232 体験的授業実施報告書 1. 2. 3. 授業名:化学フロンテイア IV(光を用いて分子の変化を見る) 授業区分:基礎セミナー 教官名: 1.[責任者]笠井俊夫 (所属:理学部化学科) 2. 大野 健 (所属:理学部化学科) 3. 池田憲昭 (所属:理学部化学科) 4. 大山 浩 (所属:理学部化学科) 5. 吉村彰雄 (所属:理学部化学科) 6. 岡田美智雄 (所属:理学部化学科) 7. 蔡 徳七 (所属:理学部化学科) 8. 野崎浩一 (所属:理学部化学科) 4. 達成すべき授業目的:2~3 人のグループを作り、光を利用して分子の内部構造や動きを知り、分子 を数 える方法を用いて未知の化学世界に入って答えを探す。 5. 体験の内容:光吸収・発光スペクトルを観測し、分子の内部構造・電子状態を解析する。振動する 化学 反応の発光を見る。レーザー光について学ぶ。真空中で運動する分子を見て、分子の向きを制御す る。 原子が並ぶ構造を画像で体験し、分子の数を数える。 6. 受講人員: [内訳 7. 実施場所:反応物理化学研究室及びレーザー光化学研究室 8. 授業計画と内容: 男子 5 名 女子 0 名 高校生男子 2 名 高校生女子 0 名 生徒を希望に応じて2つのコース(A,B)に分けて、授業を行った。 (1)第 1 回 4月 12 日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 計画:オリエンテーションと予備学習 経過:A:オリエンテーション。 経過:B:オリエンテーション。分光器を組み立てて、光の色と波長の関係を学習 した (2)第 2 回 4月 19 日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 計画:光吸収と色の関係 経過:A:光と分子の関係を量子力学の考えで学んだ(I) 経過:B:光吸収と色の関係、光吸収を利用した化学反応の観測方法について講義 (3)第 3 回 4月 26 日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 計画:吸収スペク卜ルと発光スペク卜ルをとる 経過:A:光と分子の関係を量子力学の考えで学んだ(II) 経過:B:いろいろな濃度のブロモフェノールブルー色素溶液を調製し、濃度と透 過率 (4)第 4 回 との関係について分光光度計を用いて調べた 5 月 10 日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 計画:スペク卜ルを解析して分子の内部構造を知る 経過:A:光と分子の関係を量子力学の考えで学んだ(III) 経過:B:分光光度計を用いて、いろいろな物質の吸収スペク卜ルを測定し、物質 の (5)第 5 回 色と吸収スペクトルとの関係について調べた 5 月 17 日(金) 16 時 20 分 ∼ 233 17 時 50 分 計画:発光する高エネルギーな電子の状態 経過:A:ベルーゾフ・ジャボチンスキー(BZ)反応の反応機構について学んだ 経過:B:蛍光とリン光の観測 (6)第 6 回 5 月 24 日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 計画:レーザー光の観測 経過:A:BZ 反応の例としてマロン酸、臭素酸カリウム系で実験を行った 経過:B:アントラセンの蛍光スペクトルの測定と解析 (7)第 7 回 5 月 31 日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 計画:レーザー発振の原理と特徴を学ぶ 経過:A:BZ 反応の例としてマロン酸、ヨウ素酸カリウム系で実験を行った 経過:B:フェナントレン、ベンゾフェノンの 77K におけるリン光スペクトルの 測定 (8)第 8 回 と解析 6 月 7 日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 計画:振動反応を見て発光する信号を体験する 経過:A:実験を行った BZ 反応の反応機構の解析を行った 経過:B:フェナントレン、ベンゾフェノンの 77K におけるリン光の減衰測定 (9)第 9 回 6 月 14 日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 計画:マイナス 197 度の分子が凍結した世界を体験する 経過:A:液体窒素温度でゴム弾性の固化実験を行った 経過:B:前回のリン光の減衰測定結果の解析 (l0)第 l0 回 6 月 21 日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 計画:真空ポンプと真空技術を学び、真空の分子密度を知る 経過:A:真空ポンプの原理と真空度の測定について学んだ 経過:B:フェノールフタレインの強アルカリ性での退色反応の測定と解析 (11)第 11 回 6 月 28 日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 計画:分子の重さと速さの関係を調べる 経過:A:宇宙空間の分子密度、分子の質量と速度を測定した 経過:B:化学発光と活性化エネルギーの認識 (l2)第 12 回 7月 5 日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 計画:研究最先端の装置を用いて分子の向きを制御する 経過:A: 経過:B:アントラセンの三重項状態の吸収スペクトルと溶存酸素との反応の測定 (l3)第 l3 回 7 月 12 日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 計画:超高真空を作り STM の原理を学ぶ 経過:A:超高真空を作る装置の見学。STM の原理を学んだ 経過:B:夏休みに行う自由研究の課題を決めた 7 月∼8 月(夏休みの自由学習課題) 経過:A,B:各自3日間程度研究室に来て自由研究を行った 自由研究テーマ:日光写真について、光硬化性樹脂について、色素増感型太陽電 234 池の (l4)第 14 回 製作、化学発光について、カルボン酸類の吸収スペクトル 9 月 6 日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 計画:グラファイ卜の原子像を見て、表面の構造を考える 経過:A:グラファイ表面の原子像を STM で観察した。表面の構造を解析した 経過:B:成果報告会。1人30分程度で、自由研究の成果を報告した (15)第 l5 回 9 月 13 日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 ∼ 17 時 50 分 計画:未知の課題を決める 経過:A: 経過:B:休講 (l6)第 16 回 9 月 20 日(金) 16 時 20 分 計画:成果報告会 経過:A:実験学習成果報告を行った 経過:B:休講 (17)第 l7 回 9 月 27 日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 計画:成果報告会 経過:A:休講 経過:B:休講 9. 配布教材: 教科書:プリントを配布する。 参考図書:特になし。 URL: 10. 成績評価(評価方法): 出席と平常点、及び、各自が夏休みに行った自由研究の成果についての報告とそれについての研究 課題 レポートの評価を併せて成績とした。 11. 評価結果と成績分布: 全体に良い成績(80∼90 点)であった。特に高校生を含めた数人は優秀であった。 235 体験的授業実施報告書 1.授業名:化学フロンティア VI (身の回りの有機化学とその夢) 2.授業区分:基礎セミナー 第 I セメスター 3.教官名 1. 村田道雄 (所属:理学研究科化学専攻) 2. 小田雅司 (所属:理学研究科化学専攻) 3. 中筋一弘 (所属:理学研究科化学専攻) 4. 川瀬 毅 (所属:理学研究科化学専攻) 5. 山本景祚 (所属:理学研究科化学専攻) 6. 大石 徹 (所属:理学研究科化学専攻) 4.達成すべき授業目的: 有機化合物は生命や日常生活に不可欠であり非常に身近なものであるが,有機化学という学問的な観点から 考える機会は少ない。有機化学の考え方や有機化学のめざすもの(夢)について,身近なものから最先端の ものまで簡単な実験を学生自らが体験して学び,発表や討論を通して考える力を養うことを目的とする。 5.体験の内容 簡単な有機化合物の合成実験,および各種測定機器を使って有機化合物のスペクトルを測定する。 6.受講人員: 14 名 [内訳 男子 9 名 女子 3 名 留学生男子 0 名 留学生女子 0 名 高校生男子 0 名 高校生女子 2 名 7.実施場所: 共通教育講義棟 A-212,共通教育化学棟 3F,理学部本館 E-216,理学部 G-103 8.授業計画と内容 (1) 第1回 4月12日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 計画:序 有機化学の歩み 経過:(授業)本講義の全般的な概要と授業計画を説明し,実験を行う際の一般的な注意事 項を教えた。 (2) 第2回 4月19日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 計画:においと分子(果実香の主役エステルを合成しよう) 経過:花や果実に香りの主成分である種々のエステルをカルボン酸とアルコールから合成さ せた。合成したエステルの香りが何の香りに似ているかを体験させた。 (3) 第3回 4月26日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 計画:有機化合物の構造を探る I(核磁気共鳴スペクトル) 経過:核磁気共鳴スペクトルの原理を説明し,第2回の授業で合成したエステルのサンプル を実際に装置を使って測定させた。得られたスペクトルの解析法を説明し,有機化合物の構造 決定における核磁気共鳴スペクトルの重要性を理解させた。 (4) 第4回 5月10日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 計画:有機化合物の構造を探る II(赤外線吸収スペクトル) 経過:赤外線吸収スペクトルの原理を説明し,第2回の授業で合成したエステルのサンプル を実際に装置を使って測定させた。得られたスペクトルの解析法を説明し,有機化合物の構造 決定における赤外線吸収スペクトルの有用性を理解させた。 (5) 第5回 5月24日(金) 16 時 20 分 ∼ 237 17 時 50 分 計画:現代の機器分析 経過:(授業)核磁気共鳴スペクトルと質量スペクトルは現代の機器分析において非常に重 要な測定法である。低分子有機化合物だけでなくタンパク質などの巨大な生体高分子の構造解 析に用いられている最先端の技術について説明し,身の回りの化学にいかに役立っているかを 理解させた。 (6) 第6回 5月31日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 計画: 「パイ電子は有機分子の物性・機能の主役(分子の設計) 」有機化合物の物性・機能の 発現には不飽和結合のパイ電子の役割が大きく、その二次元、三次元的配置が重要であること を理解させる。 経過:授業ではOHPを利用してできるだけビジュアル化した。まず,有機化合物の構造や 性質には飽和結合を形成するシグマ電子と不飽和結合を形成するパイ電子という,エネルギー 的に異なる2種類の電子があり,とりわけパイ電子がいろいろな性質の発現に重要であること を説明した.具体例として、有機化合物の構造と発色の関係を取り上げパイ電子の重要性の理 解を図った。 (7) 第7回 6月7日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 計画:「X線は有機分子の構造を正確に決める」タンパク質などの巨大な分子も含めて、分 子の三次元構造を精密に知るためには単結晶を用いた X 線結晶構造解析を行うことが決定的 な手段と考えられている。本授業では、原理の簡単な説明、装置の見学、若干の実地体験を通 して X 線結晶構造解析の概要を理解させる。 経過:授業では、まず、X 線結晶構造解析の原理の簡単な説明と回析装置の見学を行い、つ いで測定に用いる 0.2 mm x 3 の大きさの単結晶を顕微鏡下で扱うことや二次元的に図示され たステレオ図の3次元的立体視を体験・修得させた。 (8) 第8回 6月14日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 計画: 「ジーンズの青はインジゴ(染色と化学発光) 」日常生活に身近で有機化学が密接に結 びついている例として布の染色をとりあげ、インジゴによる布の染色実験を計画した。最初に 10分程度染色の歴史やインジゴ染色における化学反反応について説明を行い、続いて実際の 実験を指導する。時間が余ると思われるのでさらに化学発光の例としてルミノール反応を実験 させ、発光の様子を観察させる。 経過:インジゴの染色は実験器具の都合上、二班に分け、それぞれの班で白藍の溶液を調整 し、布の染色は全員が実験を行った。初め黄色の布が空気酸化されて青色に変化する様子を観 察させた。説明と実験で約50分を要した。ルミノール反応は全員が試薬の混合から実験を行 った。全員が化学発光の起こる様子を観察することができた。 (9) 第9回 6月21日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 計画: 「新しい球状分子フラーレン(C60)もパイ電子系」炭素の新しい同素体であるフラー レンに関して,その発見に至る背景や歴史,基本的性質等を知るとともに,フラーレンの模型 製作を通じて三次元構造の特徴を理解する. 経過:スライドプロジェクターを使っての講義形式をとった.実物の C60,C70 を見せ,ベ ンゼンに溶けることをデモンストレーションすると,やはりかなりの関心の高さが感じられた. 話の内容はやや高度ではあったが,全体的には学生のフラーレンに対してかなりの興味は持っ 238 ているように感じられた.また紙を切ってクリップでつなげる模型製作では,最終段階できれ いな球になるところで感動している学生が多く見られた。 (10) 第10回 6月28日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 計画:分子が集まると新しい顔 I(分子集合の化学:概論) 経過:(授業)分子集合体の化学概論として,分子が集まると様々な機能・物性が現れるこ とを解説した。ここで重要なのは,分子自体に特徴ある性質が備わっているが故に新たな機 能・物性が発現することを説明した。なお,今後の講義の理解に必要な基本事項を全員に別枠 の時間をとって,講義に先立ち解説した。 (11) 第11回 7月5日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 計画:分子が集まると新しい顔 II(弱い結合の大きな役割,水素結合も物性・機能の主役な ど) 経過: (授業)分子集合体の授業を焦点を絞って 1 時間ほど行った。内容は、物質の三態や 分子間に働く力など基礎的なものと分子集合体の各論(膜、液晶、結晶、包摂化合物)の二 部構成にした。(実験)残り30分で有機化合物で電導体を作る実験を行った。H-tube と呼 ばれる容器に電子ドナーである TTF と電子アクセプターである TCNQ を入れ、溶媒であるア セトニトリルを加えさせた。これを暗所に翌週まで保管させた。これらの実験操作は学生各 人に行ってもらった。 (12) 第12回 7月12日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 計画:有機化合物で電導体や磁石は造れるか I(分子,分子集合体に託す夢) 経過: (授業) TTF が電子ドナー,TCNQ が電子アクセプターとしての特徴ある性質を示すの は何故かを有機化学の初歩的な知識で理解できることを説明した。さらに,新しい発見はしば しば境界領域の研究から現れることを説明し,この授業内容は物性物理学と有機化学を含む化 学との境界領域の学問として生まれ,発展したことを解説した。(実験)前回作成した電荷移 動錯体を濾過により分取し、顕微鏡で結晶を覗いてもらった。また、得られた結晶の電導性を テスターを用いて確認させた。 (13) 第13回 9月6日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 計画:有機化合物で電導体や磁石は造れるか II(分子,分子集合体に託す夢) 経過:(授業)二種類の有機化合物(電子ドナーと電子アクセプター)を混合して反応させ ると何故電導体(金属)が合成できるのかを,平易に解説した。さらに,白川先生の電気を流 すプラスチックについても,これまでの講義内容と共通点が多いので,その原理およびどのよ うにしてそのような物質が合成されたかを解説し,基礎研究の重要性を解説した。以上はいず れも特徴ある分子が集合することによって現れる電気的性質の一つである。さらに,上記とは 異なる分子集合体の特徴ある性質を身近な物質から次の実験によって体験させた。(実験)分 子集合体(人工イクラ)の実験を行った。多糖類の水溶液をフェノールフタレインで着色させ、 それを塩化カルシウム水溶液に滴下させた。滴下するとすぐに人工イクラが出来るので、それ をピンセットを用いて取り出しろ紙の上で潰させ、弾力性を確かめてもらった。 (14) 第14回 9月13日(金) 16 時 20 分 ∼ 17 時 50 分 計画:プレゼンテーションおよびディスカッション 経過:これまでの授業の総括を行い,意見や感想を述べさせた。 239 9.配布教材:主題ごとにプリントを配布する。 教科書: 特に用いない。 参考図書:特に用いない。 URL:なし 10.成績評価 (1) 評価方法:成績評価は主として出席を中心とした平常点で行う。 (2) 評価結果と成績分布:100 点 9 名,90 点 240 1 名,80 点 2名 体験的授業実施報告書 Ⅰ)報告事項 1. 授業名 地球環境資源問題 2. 授業区分 基礎セミナー 平成 14 年度前期 3. 教官名 1. 責任者 山中 千博 (所属 理学研究科宇宙地球科学専攻) 2. 池谷 元伺 3. 平井 誠 4. 谷 篤史 4. 達成すべき授業目的 日常的に伝えられる環境・資源問題を科学的に分析し,実際その問題を目で見る。あるいは関連する科 学技術を調べ,工場などを見学する。わからない問題を自ら整理し,その上で可能な限り専門家を訪問し て(失礼のないように)最先端の研究現場を見てくる。それをまとめて何をやるべきかを考えて最終報 告を行う。実際に行動することとその準備活動(事前勉強,訪問の約束をとることなども含む)が鍵。何 を考えるべきか。どうまとめるかを考えながら学ぶ。多角的な視点から客観性を養うことの重要性、そ れと個人の主観とどう折り合いをつけるのか議論する。学生は最低限、文献調査の方法を理解し、web 情報の取得、および発信などについて基礎的なことは理解して活用できるようになるはずである。ゴー ルは「何らかの環境問題について取材して、その問題をうかびあがらせるようなルポルタージュを書く」 ということである。ルポを行うことによって、既知の情報の幾らかを入手し、問題点・論点などを実体 験として抽出できればまずOKであって、このセミナーで新たな発見や提言が行うことは時間的にも困 難だし、必ずしもその必要はない。グループ議論型のセミナーという型式に慣れて、全員が積極的に発 することを期待する。 5. 体験の内容: 受講生が対象としたいテーマを基に2−3班に分かれ、それぞれのテーマに関連したことについて 調査研究を行う。机上の勉強ではなく、主体的に行動することが重要。 6. 受講人員:11名 工学部生7名 経済学部生2名 基礎工学生1名 法学部生1名 男子8名 女子3名 7. 実施場所 主に理学研究科宇宙地球科学専攻セミナー室(F217)および研究室F203 研究発表会は F102, F202 教室 8. 授業実施内容: 第 1 回 4月 12 日 各自 自己紹介 教官からの話 このセミナーの説明 資源科学と環境科学について(教官サイドより) 注意するべき点(マナー 著作権 安全確保など) 宿題 テーマについて考えてくる。 第2回 4月 19 日 宿題について発表 資源環境問題に関して疑問に思うことを述べ合う。 ルポルタージュの方法論1。調査の方法、文献調査:図書館とインターネット 第3回 4 月 26 日 241 ルポルタージュの方法論2。フィールドワーク(文系的。理系的) データをどうまとめるか? そのアプローチ 論理的な文章とは? 読ませるルポルタージュとは? さらに資源環境問題に関して疑問に思うことを述べ合う。 宿題 何らかのルポルタージュを一遍読んでその作法を研究する。 4月 30 日 12:00-17:00 吹田万博における環境エキスポ 2002 に参加 参加者5名 国際環境フォーラム「海の未来と可能性」 第4回 5 月 10 日 チームわけ 各チームで絞り込むテーマを決める。教官アドバイザーを決める。 以下各グループ調査に入る。 グループは以下の2個テーマにわけたが、両者で活動することも許可 した。 1班 グローバルおよび日本の森林保護と林業 (教官アドバイザー平井) 2班 水環境・ゴミ問題 (教官アドバイザー谷) 第5回 5 月 17 日 教官アドバイザーのもとで具体的な計画つくり 調査項目の分類, 現場の見学はどこか, など 以下定期、不定期的にグループ間で調査および基礎勉強 第6回 5 月 24 日 各グループ調査(基礎勉強) web ページ作成法について 各自手空きの時間に研究室 PC を使って調査、およびWEB作成を体験する 第 7 回 5 月 31 日 上に同じ 6 月 3 日(土)8:30∼3:00 箕面外院の森間伐作業 参加者: 5名 場所:箕面市外院の森 間伐をボランティアで行う企画に参加。 行動記録をとるほか、他の参加者に森林保護などの アンケートも行う。 第 8-11 回 6 月 7,14,21,28 日 各グループ調査, 議論 第 12 回 7 月 5 日 中間報告会 夏休み中 各グループ調査を実施 水源上下水道 水環境の調査 水環境汚染物質の調査 合成洗剤溶液におけるカイワレ発芽成長に関する実験 (農野) 高度浄水処理の見学と調査、おいしい水とは? (川瀬・福井) 世界の森林に関する調査 温室効果 (秋山∼一岡) 森林の価値と育成(原生林・里山林) (森岡) 森林間伐と林業(渡辺) 熱帯森林の破壊(初鹿野) 242 木材リサイクル(宮本) ゴミ問題(豊中痛みゴミ処理焼却場の見学調査)(岡部) 神戸フェニックス計画の実態調査(菅原) 第 13 回 9 月 13 日 研究室卒業生の作った防災関連のTV番組ビデオを見る。 短時間に視聴者に与えるメッセージの出し方などを鑑賞する。 第 14 回 9 月 20 日 最終発表会 F102教室で4:40から 20:00 まで各個人の調査発表 第 15 回 9 月 27 日 反省会 (F217 で軽食をとりながら。) 以下10月中までに調査内容のROMおよびFDD等を提出完了。 9.教材 環境学に関するWEBページ、相互紹介した書籍、 文科省総合地球環境学研究所 第1回地球環境フォーラム資料など 10. 成績評価(評価方法) 宿題と議論における積極性、活動履歴の報告(各グループ自主申告)、および最終報告会と提出した 電子媒体等資料について(50%)について特に,学生が独自に発展させた部分を評価した。評価は全教官 の協議を行い、結果のまとめ方などにはまだ不足を感ずるものの、主眼とする「体験のための行動力」 については今年度の各学生は予想を超えて驚くべき積極性を示して個性的な調査研究を行ったことで 認識が一致し、それぞれ 100 点を与えた。 Ⅱ)教官側の反省点 半期15回のセミナーで行えることは限りがある。これははじめから覚悟していたことであるが、結 局のところ、資料を電子媒体にまとめるところで精一杯であり、ホームページまで作成できたのは若干 名だけであった。またホームページの公開に当たっては適用資料の公開性の問題もあり、慎重にするべ きとの考えから、内部での展示にとどまっている。来年度までには本セミナーの第1回目の作品として 適当なところを公開できる予定である。 研究者を適宜訪問し、インタビューをしてくることも課題に挙げていたが、森林間伐現場、焼却場、 浄水場などの担当技術者への取材はあったものの、研究機関への訪問は行われなかった。これはやはり 研究者は忙しそうで、あえて迷惑をかけられないなどいう遠慮が強く働いたこともあるようだ。これに ついては来年度、工夫をしてみたいと考えている。 Ⅲ)基礎セミナーとしての体験的授業:教官側から カリキュラム上特にその学習範囲が限定されていない基礎セミナーにおいては自由にそのテーマを 選ぶことができる。そこで、各学生がそれぞれ持つ向学心を刺激して体験的授業とすることがこのセミ ナーの基本的精神である。しかし、指示待ち族が多くなってしまうとこのセミナーは失敗する。そこで、 学生募集においては「積極的に行動する意欲にない学生は選択しないように」との付言を行った。その ためかどうか、受講学生のなかには多少の不安をもつ者もあったらしいが、きわめて積極的な学生の参 加を得ることができ、その結果、それほどでもなかった学生も彼らに引っ張られて積極的な行動学習を 行うことができたものと考える。 20世紀の科学は専門分化的に発展して大きな成功を収めたが、21世紀は専門分化して理解しにく くなった弊害、関連問題を軽視したことによる問題等に対処するために、再び諸科学の再統合的取り扱 いが重要になると考えられる。環境問題は今までの文系理系を越えた世界で解決を模索する分野であり、 教官サイドとしてはこのセミナーにおいても異なったバックグラウンドを持つ学生の参加を望んでい た。結果として、文系学生を複数含む参加者を得たことは本セミナーの議論を活性化させるとともに、 学生同士、自分たちの授業カリキュラムや数学・語学問題を教えあったりして刺激になったようである。 一方、理学部物理学科(宇宙地球専攻)教官の開催するセミナーであるにもかかわらず、物理学科は 243 おろか理学部からの参加は一名もなく、昨年度まで実施した「実験!宇宙地球科学」において理学部も 含め、多くの学部からの参加を得たことに比べると、このことは特異的に感じられた。これは、理学部 学生がより specific な興味を抱いているためか、環境問題に興味が薄いためかはわからない。より専門 指向的、もしくは高校授業の補習的意味合いのセミナーが増加したためかもしれない。(しかし今回の 我々の基礎セミナー(5時限)を受講後にさらに補習授業に参加していた学生もいたことも付記してお きたい。)個々のセミナーの特色はあろうが、一般的には全学共通教育基礎セミナーの趣旨からして、 多種多様の学生が混合して参加できるようにすることが基礎セミナーの重要なポイントであると筆者 は考えている。 反面、将来自分たちが所属する可能性のない学部学科の教官であったためか、学生は極めてフランク に(遠慮無く)彼らの大学や授業に対する思いを語ってくれたようである。ここでそれを詳しく記すこ とはできないが、彼らがオリエンテーションや通常授業などにおける教官の発言をとらえて、どのよう に感じるか ということを聞くと、「教官たる者、学生相手の発言において意図がよく伝わるように、 反感だけを与えないように注意をするべきである」と再認識させられた。 今回は「何らかの環境問題について取材して、その問題をうかびあがらせるようなルポルタージュを 書く」ということが目的であったが、これについては予想以上の成功があったと思う。ただ、教官が理 系一研究室に偏在していることで、教官相互の意志の疎通はよかったものの、できればルポルタージュ 方法論などのゲスト講師がいればよりおもしろくなったであろう。 (山中) 教官が用意したレールの上を進むのではない形での授業で,学生には新鮮であったと思う。学生が想像 以上に積極的にセミナーに関わってくれたことを思うと,一つのテーマを掘り下げるような機会がこれ までに少なかったのではないか。よい経験をしていただけたと思う。反面,私たちの研究グループでな くてもできるセミナーになってはおもしろくないであろう。社会科学系ではできない内容(例えば,実 験をして確かめるなど)を組み入れていければとよいと思う。 (谷) 学生は当初から強く動機付けされており、環境問題に関してマスコミから多くの情報を得ていた。当然 の事ながら学生たちの関心は彼等の専門と直結しているとは言い難く、問題を広く考え、考察すること が重要であることに気付いていったようである。特に、私が担当したグループでは自主的に森林間伐の ボランティアを体験し、身近な現実と地球規模の問題のギャップを感じたようである。初年度の試みと して、これは十分な成果であったと思うが、社会科学系を含めた様々な分野のアドバイスを得ることが 出来れば、より深い探求が起こり有意義なセミナーが実現することと思われた。 (平井) Ⅳ)学生アンケート 共通教育事務によるところのフォーマットされた学生アンケートは実施していないが、各自に本セミナ ーの感想文を求めたところ以下のような返答であった。そのいくつかを転載する。 色々な経験ができた。特にグループで行った間伐ボランティアはこの基礎ゼミに参加していなかったら 一生できなかっただろう。夏休みを挟んだことによって、大きな話(計画)の割には大したことができ なかったのが反省すべき点である。 とてもしんどかったが色々な経験ができてよかった。ひとつはいままでほとんどさわったことのない パソコン(デジカメ、ボイスレコーダーも)を使えたことです。最初は時間をとるばかりでうんざりで したが、今考えると時間を費やした価値があったし、避けては通れなかったと思います。あと一つよか ったのは自分たちに年が近い先生に出会えたことです。自分が何年かたった後のモデルというか….とて も刺激になりました。(中略)とてもしんどかったけど、新しい体験、出会いができてまあいいセミナ ーだったと思っています。 一番印象深いのはみかけよりもずっと苦労を必要とするカイワレ大実験です。….(中略)一人でも多く の人々が合成洗剤の恐ろしさに気づき使用をやめてくれるように願います。 244 生物の半分は熱帯林に依存して生息しているのだから安易に伐採すべきではないだろう! 世界がま とまって森林の貿易に関する法律を作るべきだ。リサイクルをサイクルさせることはやはり重要だ。調 べてみると意外な結果や現状があったので興味深かったり考えさせられたりしました。このセミナーで みんなと環境について話し合えて楽しかったし、自分にとってすごいプラスになったと思います。あり がとうございました!! #地球の有限性、#エコロジーとエコノミーの両立、#問題の発生源と被害を受ける場所が違うこと #リサイクルの重要性、#環境教育。人々の意識、価値観を変えていくことが必要。 #すべての人が自分の見える範囲だけのことだけでなく、見えない範囲の環境も考える必要がある。 #個人、自治体、国の各レベル何をするべきなのか明確にする。 #環境を守るという意識だけで続かない、何か楽しさなり、金銭面や他の面での充実がないと環境問題 は解決できない。 以上がみんなと話し合い考えた環境問題への認識です。これをもとに具体的に森林に関する諸問題につ いて考えていきました。間伐の作業に参加し実際感じたこともこのことを考える上で重要になっていま す。自分の知識だけの環境問題と実際身をもって体験したものとでは大きな違いがあり、やはり目で見 て感じないと本当の問題が見えてこないことがよくわかりました。 この授業に参加してみて内容は環境問題とは少しずれてましたが環境に関して真剣に考える場が持て たことがとてもよかったと思います。普段は環境に興味があるといってもそれについて実際に調べてみ るということはなかなか出来ないし、大勢で話し合うというのも貴重な体験が出来たと思います。また 環境について聞いたことのない多くの事が知ることが出来ました。先生と生徒の雰囲気もとてもよくて 楽しかったです。不満は全くありません。 間伐ボランティアで学んだことはたくさんあるが、その中でも、指導して下さった方の何気ない 2 つの 言葉がとても印象深く残っている。 「楽しんでやらないと続かない」 最初は、森を救うために精一杯働こう、という意識で参加したのだが、ゆっくり自分のペースで進める のが大事だということで、何度も無理はしないようにと注意された。参加されていた人たちも 環境を 守る といった感覚ではなくむしろ息抜きといった感じで、それぞれが自分の仕事を楽しんでいた。 確かに一つひとつの作業は簡単でけっこう楽しいのだが、それを継続して行うことは環境保護の意識だ けではできないだろう。日常生活においても、 「クーラーを 28℃に設定する」というような単純なこと でもなかなか続かない。 これは私にとって新しい発見だった。これまでの私のように、環境ボランティアというと硬いイメージ で参加しにくいと感じている人は結構多いと思う。もちろん、非常に安易な気持ちで参加するのはよく ないが、持続的な活動のためには、少しだけ肩の力を抜いて楽しんで行うことが大切なのではないだろ うか。環境保護という言葉を全面に押し出すのではなく、むしろこういったレジャー的な部分を強調し て行った方が、人々の反応はよいのかもしれない。 「森ははたらきかけただけ必ず答えてくれる」 間伐ボランティアで、森林(里山)の理想状態を見せて頂いたことは前にも書いたが、これはその時に 仰っていたことだ。 環境問題はグローバルな問題である上に、害それ自体、またそれに対する対策においても 結果 が出 るのが非常に遅い。だから、その解決策としても理想論が多いし、結果が明確でない分実際に行動しに くい。しかし、この言葉はしっかりとした 間伐の結果 であったし、間伐は実際に自分でもできると いう実感があったので、とてもうれしく感じた。遠く感じていた森林問題に、自分も関われるという実 感を初めて得た気がした。この感覚はとても大事であると思う。今までほとんど山と関わってこなかっ た私でさえ、実家の山に行ってみようという気になったのだから、これを伝えていくことは放置林の問 題を解決するヒントになるのではないか。また、このような自分とは関わりのないようなグローバルな 問題に、ある種の あきらめ を感じていた人たちにやる気になってもらうきっかけとなるのではない 245 だろうか。 最後に、この半年間はいろいろなことを考えさせられたし、今まではなかった討論型の授業によっても 多くのことを学ぶことができた。環境問題に対する意識も大きく変わった。私にとっては、とても有意 義な時間を過ごせたと思う。この経験を生かしてこれからも環境問題に取り組んでいきたい。 最初にシラバスで書いていた授業内容を見て「いろいろと厳しいこと書いてあるし、やることがいっ ぱいあって大変そうだなぁ」とびびっていたのが正直なところです。でもそれでも選んだのは自分の疑 問に納得するまで突き止める時間を持つ機会が得られると思ったからだ、というのははじめにお話した とおりです。その目標はほぼ達成できたと思います。自分自身が少々怠けていた点もあり、もっと知り たいことを追求することができなかったという部分がいくつかありますが、限られた時間の中でできる だけのことはできたと思います。自分は環境問題・資源問題に対して何の危機感を持つことなく、のほ ほんと生活していたのだなぁと思えば、このセミナーを通して学んできたことは私にとってとても大き な収穫でした。それは自分が調査したごみ問題はもちろん、教官方や基礎セミの友達の話でもそうです。 特に基礎セミの友達と話していると、私達と同世代の人々の環境に対する関心の高さには毎回驚かされ、 話していてとても刺激的でした。教官方には色々とアドバイス等御協力いただきありがとうございまし た。毎回の授業(!?)はとても at home な感じで楽しかったです。毎回のお菓子も楽しみにしていたの も事実です(笑)。これからは環境問題に対してこういうセミナーがなくても、私達の暮らしの中で常 に考えなければなりません。このセミナーだけでこんな簡単に環境問題を追求することは不可能です。 これからはこの基礎セミナーを通して得た様々なことを糧として、もっと環境のことを考えて生活し、 また私にとってまだまだたくさんある不透明な環境問題に対してこれからもっと追求していきたいと 思います。今までありがとうございました。 P.S. ホームページができたらメールで教えてください。楽しみにしています。 Ⅴ)結言 ここに学生諸君のルポルタージュ、取材写真、また報告書などを記載できないのは残念である。中に は4章32ファイルを越える報告書を書いてくれた人もいた。一週間でこの授業が一番おもしろいとい ってくれた学生もおり、初年度としてはかなりの成功を納めたと思う。このセミナーの企画開設に当た っては、筆者が大学一年の時、自分の所属とは全く違う教授の部屋にたまたま行って、コーヒーをごち そうになりながら話をした楽しい記憶の1ページがその原型のひとつである。単に講義に出て帰ってく るという通常の大学学習とは違う体験ができたのなら、受講者にとって悪くない刺激であったと思われ る。 ひとえに受講者の1年生諸君は積極的であり、フランクな物言いができ、セミナーにつきあっている のが教官側にとっても新鮮であり、快感であった。またセミナーのない日に研究室に現れたり、セミナ ー終了後においても、居残って議論や数学の宿題まで検討しはじめるなど少人数ゼミにふさわしい雰囲 気が得られたことは今後の指針となろう。来年度はどういう学生が集まるだろうか?そしてどんなこと がやれるだろうかと楽しみである。 246 基礎セミナー「地球環境を考える」 「水質」班 247 体験的授業実施報告書 1. 授業名:光の速さを測ろう —相対性理論入門— 2. 授業区分:基礎セミナー 3. 教官名: 4. 1. [責任者] 青木正治 (所属:大学院理学研究科) 2. 久野良孝 (所属:大学院理学研究科) 達成すべき授業目的:身近な世界も不思議な現象に満ちあふれていることを体験する。その不思議を 突き詰めてゆくことがサイエンスの醍醐味であり、その積み重ねが人類の福祉に役立つ大発見に繋が るのであるという真理を理解させる。具体的には、光の速さの測定の歴史をとおして純粋科学に真摯 に取り組んできた人々の営みを学び、それが結局電磁気学や相対性理論という華々しい学問への大切 な道程であったことに気付かせる。 5. 体験の内容:半導体レーザーを用いて光の速さを測定する。また、テレビのゴースト現象を用いて電 波の速さも測定し、両者を比較する。さらに、宇宙線の速さを測定してこれが光速であること、光速 を超えていないこと、を確認する。 6. 受講人員:5名 7. 実施場所:B320および、原子核実験施設1階 AVF モデル電磁石室 8. 授業計画と内容: (1) 第1回 [内訳 男子5名] 4月19日(金)午後4時20分∼午後5時50分 計画 : オリエンテーション 経過 : 全体の進め方の紹介をした。また、光速の測定の歴史に関して、発表テーマの割り当て を行った。 (2) 第2回 4月26日(金)午後4時20分∼午後5時50分 計画 : 光速の測定の歴史、受講生による発表紹介 経過 : 木星の衛星イオの回転周期のズレから光速を測定したレマーの観測、恒星からの光路差 を用いたブラッドレーの光速の測定、並びに歯車を用いたフィゾーの光速測定実験に関して、 自分たちで文献を調べた結果を発表させた。 (3) 第3回 5月10日(金)午後4時20分∼午後5時50分 計画 : 半導体レーザーを用いた光速の測定(その1) 半導体レーザーと受光素子を用いて光速を測定する実験の準備を行う。実験原理は言うなれば 「ガリレオのランタン実験を電子的にした場合」に相当する。実験全体は以下の手順で行う計 画とした。 1. 50 MHz の水晶発振素子を用いて半導体レーザーをモジュレートさせながら発信させる。 発信のための電子回路は水晶発振素子へ電源を繋ぐだけの簡単な物であるが、部品だけ供給し て蛇の目基盤上に自作させることとする。 2. 受光素子からの信号をオシロスコープへ接続する端子類も蛇の目基盤上に自分たちで自作 249 させる。 3. レーザー光を一定距離離した点に設置したコーナープリズムで反射させ、それを受光素子 で受ける。オシロスコープには水晶発振素子の出力波形と受光素子からの信号を上下に並べて 同時に表示させる。両者はレーザー発信器及び受光素子とコーナープリズムを光が往復するた めの時間、並びに電子回路に内在した信号の遅れ、の和の分だけ位相がずれる。 4. 電子回路特有の信号遅れはコーナープリズムとレーザー発信器の間の距離によらずに一定 であるが、光の往復時間は距離に比例して変化するので、この関係を利用して光速を測定する。 経過 : 教官側から手取り足取り指導する方針とはせず、極力学生たちの自主的な試みに任せる こととした。最初の30分は何をやったらよいのか検討も付かない様子で、学生たちはお互い に顔を見合わせているばかりであった。測定に必要な電子回路を半田付け製作する必要がある ことを繰り返し指摘して行く内に、半田付けの経験のある工学部の学生が主導して、回路の製 作が始まった。レーザー発振素子用の回路と受光素子用の回路を同一の蛇の目基盤上に製作し たが、これによって後の測定で雑音に悩まされることとなる。 (4) 第4回 計画 5月17日(金)午後4時20分∼午後5時50分 : 半導体レーザーを用いた光速の測定(その2) 実習場所を原子核実験施設内の実験室に移動し、前回製作したレーザー発振器と受光素子を用 いた光速の測定を行う。 経過 : まず、実験机上でレーザー発信器と受光素子を向かい合わせに設置し、距離ゼロの状態 でオシロスコープ上の波形を観察した。水晶発振器からの 50 MHz 方形波と受光素子からの 50 MHz 信号の位相差は 14.5 ナノ秒と観測された。受光素子からの波形はゆがみがひどいため、 位相差の測定には注意が必要であった。次に、テーブル上にコーナープリズムを設置して、レ ーザー発信器と受光素子を両方ともコーナープリズムへ向けて設置した。コーナープリズムと 素子間の距離は約 44 cm とした。位相差は 16.4 ナノ秒であった。この成功に気を良くした受講 者らは距離を一気に約 5m とする測定にチャレンジした。ここで、幾つかの困難に直面するこ ととなった。一つは、コーナープリズムから反射されてきたレーザー光を受光素子にうまく安 定させて中てること、もう一つは受光素子からの信号の波形が以上にゆがむことである。前者 に関しては当初からある程度予想していたので、入射光を入射方向へ反射させる特殊な光学機 器「コーナープリズム」を使用したのであるが、それでも直径 5 mm に満たないレーザー光を 同じく直径 5 mm に満たない受光素子へ旨く導くことはかなり困難であった。受講者各人の創 意工夫に期待したがあまりうまくいかなかったので、レーザー発信器を固定する持具を提供し て解決した。後者に関しては、半導体レーザー光の直進性があまり高くない事情もあって、距 離を離しすぎると受光素子への入射光量が低下し、外部雑音の影響を受けやすくなることが原 因であると推察された。この問題の解決は次回に持ち越された。この困難のため、この回で測 定した光速はおおよそ 2×108 m/s となり、桁は合っているものの精度はあまり高くなかった。 (5) 第5回 5月31日(金)午後4時20分∼午後5時50分 250 計画 : 半導体レーザーを用いた光速の測定(その3) 前回に引き続き、長距離での位相差の測定にチャレンジした。 経過 : 受光素子からの信号の波形がゆがむのは外部雑音によるものと推定されたが、その原因 はわからなかった。いわゆる「雑音落とし」は経験を必要とする作業であり、受講者諸君が自 分たちで解決出来るとは思えなかったので、教官で指示してレーザー発信器用の回路と受光素 子の回路を別々の蛇の目基盤に分離することとした。結果は上々で、受光素子からの信号も安 定して位相が読みとれるようになった。そこで、距離 L を 64.3 cm、1043.5 cm、1645.5 cm の3 点で測定をした。ここで、観測される位相差には発信器の周期 20 ナノ秒の不定性があること を受講者へ指摘し、どのようにしたらその不定性を解決出来るか考えさせた。考える時間があ まり無かった事情もあるが、活発な議論とはならなかったため、教官から答えを提示した。こ の設問は実験に先立ってあらかじめ質問しておき、十分に考える時間を与えるべきであった。 答えは、測定する距離差を何通りか用意すると、それぞれに対して位相差の不定性から無限個 の回答が得られるが、距離差の異なる測定同士でお互いに矛盾しない回答は有限個に絞ること が出来る、という事である。 (6) 第6回 計画 6月 7 日(金)午後4時20分∼午後5時50分 : 実験結果報告と光速の測定の歴史続き 3週にわたって行ったレーザーを用いた光速の測定の実験のまとめを、受講者全員を代表した 一人が行った。それに続いて、光速の測定の歴史の続きを行った。 経過 : 今回受講者が報告するべき光速の測定方法は、ローザとドルセーが行った光速の測定方 法であった。すなわち、真空の誘電率ε0 と透磁率μ0 を測定し、 c = 1 ε0µ 0 の関係式から光 速を求める方法の紹介である。電磁気学の知識を必要とするので若干難易度が高いテーマであ った。 (7) 第7回 6月14日(金)午後4時20分∼午後5時50分 計画 : テレビのゴーストを用いた電磁波の速度の測定 前回の輪講のテーマと併せて、光と電磁波の速さは同じであるという事を体験させるための実 習である。テレビ局のアンテナから直接届くテレビ波に加えて、近隣の構想構造物からの反射 波もテレビアンテナに入った場合には、反射波が遅れて入ることによりテレビ画像が二重にダ ブるという現象がある。これをゴーストと呼ぶが、ゴースト画像上で二重に見える映像の間隔 を、テレビ画像の伝送方式(日本では NTSC 方式)に基づいて解析すれば、ゴーストを生じて いる反射波の時間的な遅れの程度を見積もることが出来る。同時に、テレビ電波を反射してい る構造物が特定出来れば、地図上における測定点と構造物とテレビ局の関係によって、反射波 と直接波の経路の差分を計算出来る。このようにして求めた、反射波と直接波の経路差を反射 波の時間的な遅れで割れば、テレビ電波の速さが評価出来るはずである。実験では、反射波の 源を特定しやすくするために2本の八木アンテナを使用した。一本はテレビ局の方角へ直接向 け、他方を近隣の高層建築物へ向けるのである。テレビはゴースト像と元画像のズレを定規で 251 測定しやすいように14型平面ブラウン管テレビを使用した。 経過 : 実験は理学部B棟屋上で行った。基礎工の建物からの反射波によるゴーストを期待した のであるが、実際にテレビ上に映し出される映像は、右方向に流れるように黒色のバンドを生 じる映像であった。定規で正確にゴースト像のズレの距離を測定出来る状態では無かった。そ の後の検討の結果、これはテレビに「ゴースト除去回路」が入っていた為ではないかと結論し た。黒色の帯はまさにこのゴースト除去回路が働いてゴースト像を消去しているか、または消 去しようとしてうまくいっていない為に生じているのではないだろうか。用意したテレビが最 新のテレビであったことが災いしたようである。ゴースト消去回路の実装されていない中古テ レビか、もしくは単価の安いテレビを入手するべきであった。 (8) 第8回 6月21日(金)午後4時20分∼午後5時50分 (9) 第9回 6月28日(金)午後4時20分∼午後5時50分 (10) 第10回 7 月12日(金)午後4時20分∼午後5時50分 計画 : ファインマン物理学 I(力学)第15−17章、輪講 光の速度に絡んで、簡単に相対性理論の触りを輪読形式で講義する。 経過 : ファインマン物理学の記述は数式をあまり使用しないで本質的な考え方を説くので、わ かりやすいと考えたが、実際受講者の多くは理解しているようであった。 (11) 第11回 9月6日(金)午後4時20分∼午後5時50分 計画 : 宇宙線の速度測定 プラスチックシンチレーションカウンターを2枚用いて、飛行時間法によって宇宙線ミュー粒 子の速さの測定をするデモンストレーションを行う。宇宙から飛来する高速粒子の速度が光の 速さに等しいことを体験する実習である。 経過 : 夏休みを挟んでしまうために、この回の講義(実験実演)は希望者を対象とすることと した。希望者が1名(物理学科)に対して、測定のデモンストレーションを行った。2枚のカ ウンターの時間差はデジタルオシロスコープの画面上で行うという、非常に簡単な実演であっ たが、予想通りの速さ(光速)となり、受講者の印象に残ったようである。 9. 配付教材:無し 教科書:ファインマン物理学 I(力学) 参考図書: URL: 10. 成績評価 (1) 評価方法:実験への参加貢献度、熱意並びにレポート (2) 評価結果と成績分布: 100点:1名 90点:1名 80点:2名 252 70点:1名 11. 提出物等受講生による成果のサンプル: もっとも成績の良い受講生(中井孝洋)と成績の悪い受講生(高木正俊)のレポートを添付する。但 し、成績に占める本レポートの割合は高くはない点に注意されたい。 「授業計画書」にも記述したよう に、 「実験自体の成功失敗は成績には反映させない。むしろ、実験へ取り組む姿勢を評価の基準とする。 自ら主体的に創意工夫をして、積極的に実験に取り組む者に高い成績をあたえるつもりである。」とい う考えで成績を評価している。中井君の成績が高いのは、発振回路の製作に始まり、レーザー、テレ ビゴースト等の実験すべてにわたって積極的であったからである。高木君の成績が芳しくないのは、 自分が担当することになっていた輪講の発表を無断でさぼった事による。 12. 実施結果と今後の課題: 失敗も実験の楽しみの一つである、という方針に基づき、いずれの実験もあらかじめテストをするこ となく、ぶっつけ本番であった。レーザーによる光速の測定は思いの他うまくいき、受講生も強く印 象を持ったようである。予算の都合で発振回路などを1セットしか用意出来なかったのが残念である。 出来れば2セット以上は用意して、全受講者を2班に分けて競わせられれば良かった。ゴースト像に よる電波の速さの測定は失敗であった。今後地上テレビ波がデジタル化されて行くことを考えると、 たとえこの方法がうまくいったとしても今後数年間の話である。そこで、電波の速さはトランシーバ ーを用いる方法へ変更することを検討している。これもうまくいくかどうか分からないが、次回の受 講者達と一緒にチャレンジしてみたい。 相対性理論の輪講は、シラバスに書いてしまった手前上しかたなくやったものである。むしろ、 宇宙線の速さの測定を2-3週間かけて全受講者を対象に行うべきであった。光、電波、高速粒子の3 つの速さがすべて光速で一致するという事を実感させるたかった。次回のシラバスからは「相対性理 論」のキーワードを外したので、今後は実験オンリーのスタイルで行いたいと考える。 また、各実験の前に1コマづつ割いて実験の原理を徹底的に討論するべきであった。今回は時間 の関係でこの部分を省略したため、受講者によっては今自分が何をしているのか理解するまでに時間 がかかっていたようである。 以上 平成 16 年 3 月 24 日 文責:青木正治 253 254 255 体験的授業実施報告書 1.授業名:エネルギー・資源を考える 2.授業区分:基礎セミナー 3.教官名: 1.野村 正勝 教 2.三浦 雅博 助教授(工学研究科分子化学専攻) 3.村田 聡 4.佐藤 哲也 5.貴傳名 甲 授(工学研究科分子化学専攻)[責任者] 助教授(先導的研究オープンセンター) 助 手(工学研究科分子化学専攻) 助 手(工学研究科分子化学専攻) 4.達成すべき授業目的: 21世紀に社会が持続的に発展・成長するためには、エネルギー問題は環境問題と相関して欠かすこ とのできない極めて重要な課題である。現在大量に消費しているエネルギー資源(とくに天然ガス、石 油、石炭などの炭化水素資源)の利用、ならびに利用に伴う排出物低減技術の現状を把握するとともに 技術開発課題について考察し、「エネルギー・資源問題」についての理解を深める。さらに授業通じて 省エネルギー・資源循環型社会の構築の重要性を理解する。 5.体験の内容: インターネット検索、図書資料等によりエネルギー・資源の需給の現状、環境問題に関する情報を収 集するとともに、実際にエネルギー供給基地(発電所、石油製油所、ガス製造所、新技術開発部門)を 訪れ調査見学を行う。 6.受講人員:12名[男子 11名、女子 1 名] 7.実施場所:吹田キャンパス、豊中キャンパス、エネルギー供給基地 8.授業計画と内容: (1)第1回 4月26日(金)16:10-17:40(豊中キャンパス共A214) 計画:授業の概要説明、授業開始までの予習事項の説明(第 1 回ガイダンス) 経過:計画通り授業の詳細説明(目的、実施計画)を行った。当初の受講申請者 は 6 名であったが、ガイダンス当日 8 名がを追加受講申請を行った(その後 2 名が課外活動等を理由に辞退)。受講者が複数の学部・学科の所属のため、 257 簡単な自己紹介を実施。 (2)第2回、第3回、第4回 7月22日(月)10:00-15:30 (吹田キャンパス C1-212、野村研究室) 計画: (ア)集中授業のガイダンス(内容、達成目標事項等説明)、自己紹介 ( イ)エネルギー・資源概説(エネルギー資源需給について) (ウ)エネルギー・資源概説(エネルギー資源消費と環境問題) 経過:計画に従って、第2回ガイダンス、自己紹介を実施(自己紹介は参加者の意 志疎通をはかるうえで極めて重要と思われる)。エネルギー・資源概説(導 入のための講義、OHP を利用)を行った。講義後、備品費で導入したパソ コンを利用し、インターネット検索法の概説を行った。なお、重要と思われ る URL をまとめたプリントを配付した。 (3)第5回、第6回 7月23日(火)8:30-12:00(関西電力南港発電所) 計画:エネルギー供給基地調査(1)(発電所) 経過:関西電力南港発電所を調査見学(吹田キャンパスに集合し、貸し切りバス で現地に移動)。エルシティ館内にて関西電力・佐藤氏からエネルギー・電 力需給の概要についてレクチャーを受けた。その後、火力発電設備、排煙脱 炭(二酸化炭素回収)研究設備を見学。エルシティ館内にて質疑応答。 (4)第7回、第8回 7月23日(火)13:30-16:30(コスモ石油堺製油所) 計画:エネルギー供給基地調査(2)(石油製油所) 経過:コスモ石油堺製油所を調査見学(貸し切りバスで関西電力南港発電所から 移動)。堺製油所会議室にて石油製品需要の現状と将来、環境対応技術につ いてコスモ石油・児玉氏からレクチャーを受けた。製油所内を見学。質疑応 答。バスで帰学(吹田キャンパス、豊中キャンパス)。 (5)第9回、第10回 7月24日(水)8:30-12:00(大阪ガス泉北製造所第二工場) 計画:エネルギー供給基地調査(3)(ガス製造所) 経過:大阪ガス泉北製造所第二工場を調査見学(吹田キャンパスに集合し、貸し 切りバスで現地に移動)。ガス科学館内会議室にて天然ガス需給の現状と将 来、環境対策について大阪ガス・三角氏からレクチャーを受けた。製造所、 ガス科学館見学。質疑応答。 (6)第11回、第12回 7月24日(水)13:30-16:00(大阪ガス技術部) 計画:エネルギー利用技術開発現場(企業研究現場) 経過:大阪ガス技術部を調査見学(貸し切りバスで大阪ガス泉北製造所第二工場 から移動)。大阪ガス技術部会議室にて近未来のクリーンエネルギーとして の水素エネルギーについて大阪ガス・浅岡氏のグループからレクチャーを受 258 けた。水素ステーション(水素を水素自動車に供給するための試験設備)を 見学。質疑応答。バスで帰学(吹田キャンパス、豊中キャンパス)。 (7)第13回、第14回 夏季休暇中 計画:資料収集(インターネット検索、図書資料収集)、レポート作成 経過:調査見学で得た知見をさらに深めるため、各自でインターネット検索、図 書資料収集。課題のレポート作成。 (8)第15回 8月31日(土)10:00-11:00((吹田キャンパス C1-212) 計画:総合討論 経過:当初 8 月初旬に総合討論行う予定であったが、参加学生の希望を集約し、 夏休み最終日とした。作成したレポート内容の一部を各自 5-10 分で発表。 発表内容に基づいて討論を行った。レポートの課題を以下に示す。 レポート課題: 1.化石エネルギー資源(天然ガス、石油、石炭)埋蔵量 2.世界および日本のエネルギー利用内訳と消費量 3.酸性雨対策(窒素酸化物および硫黄酸化物排出低減技術) 4.京都議定書(その内容と温室効果ガス低減対策) 5.21 世紀における化石エネルギー資源の役割(現状と将来) 6.セミナーに参加して(まとめと感想) 9.配付教材:現地調査先で入手した資料。 関西電力(エネルギーの基礎 2001、電気事業の現状、環境とエネルギー、南港発電 所パンフレット) コスモ石油(石油製品の現状と将来、コスモ石油紹介誌) 大阪ガス(泉北製造所パンフレット、大阪ガス紹介誌、水素ステーションパンフレ ット、家庭用ガスコジェネレーションパンフレット) 教科書、参考書は指定しない(各自で探す)。なお、インターネット検索のサイト例と して以下の URL を挙げた。 検索サイト http://www.google.co.jp/ 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)−各種レポート http://www.nedo.go.jp/ 日本エネルギー学会−リンク http://www.jie.or.jp/ 石油学会−リンク http://wwwsoc.nii.ac.jp/jpi/ 全国地球温暖化防止活動推進センター http://www.jccca.org/index.html 259 IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル) http://www.gispri.or.jp/kankyo/ipcc/ipccinfo.html 日本ガス協会−燃料電池、コジェネ、天然ガス自動車 http://www.gas.or.jp/default.html BP−世界エネルギー統計(英語) http://www.bp.com/centres/energy2002/ 石炭エネルギーセンター−石炭ランド http://www.jcoal.or.jp/ エネルギー工学研究所−各種レポート http://www.iae.or.jp/index.html 石油産業活性化センター−各種レポート http://www.pecj.or.jp/ GTL の広場−GTL ってなに、各種情報、ニュース、合成ガス製造技術 http://www.japexrc.com/GTL/GTLhiroba.html 10.成績評価: (1)評価方法: 授業、調査、討論への参加状況(出席、発言) 。 レポート採点。 (2)評価結果: 受講者全員が積極的に参加し、要請通り発言も毎回あった。バスで の調査見学の際に遅刻者もなく極めてスムースであった。レポート も全員 80 点以上で合格。試験ではないので満点はつけず、以下の 4 段階で評価した。 80 点 3名 85 点 3名 90 点 5名 95 点 1名 11.提出物等受講生による成果のサンプル: 報告書の後にレポート 3 点(成績順)に添付した。指示は A4 用紙 3-4 枚としたが、ほとんどの 学生がそれ以上の内容をまとめてきた。 12.実施結果と今後の課題: セミナーへの参加を通じて、「エネルギー・資源問題」についての理解を深め、また省エネルギー ・資源循環型社会の構築の重要性を理解することを目的とした。合わせて「エネルギー・資源問題」の ような社会的重要事項を自発的にどのように調査し、理解を深めるかを少しでも多く体験的に学びとる という目標を掲げた。 ガイダンス時には、比較的おとなしい学生が多いと感じたが、調査見学先 1 箇所につき必ず1回は発 260 言するよう求めたところ、全員がこの要請にこたえ、複数回の発言も多々見られた。質問内容も的を得 たものが多く、見学先ではいずれも熱心な質疑応答が行われた。最後の総合討論の時間でのレポート発 表でも全員に発言をしてもらったが、目的・目標はとりあえず達成できたのではないかと考えている。 自由応募型の受講であり、受講者のポテンシャルの高さが際立った。 「エネルギー・資源問題」は、極めて多岐の内容を含んでおり、需給が今後どうなるかなど、専門家 でも完全に予測できない問題を含んでいる。受講生が、何が問題で、何が分かっていて、何が分かって いないかを把握することの重要性を、今回の体験を通じて少しでも理解してもらえればよいと考える。 現 1 年生がそれぞれの専門に進み、色々な立場から「エネルギー・資源問題」の解決に貢献して欲しい と願う。 授業アンケートを見ると、本セミナーの内容に満足してくれた受講生が多いようであるが、中には内 容が充分理解できなかったというものもあった。まだ未知の分野の専門用語などがあり、理解の妨げに なったのではないか。やさしい表現で濃い内容を心がけているが、来年はさらに気をつけたい。 261 262 263 264 265 266 267 体験的授業実施報告書 1.授業名:自律走行ロボットの世界−火星探査機から深海調査船まで− 2.授業区分:基礎セミナ− 3.教官名:長谷川 和彦 4.達成すべき授業目的:自律型ロボットの基本となるメカニクス、ソフトウェア、エレクトロニクス (メカソフトロニクス)についてシミュレ−ションおよび、簡単な実習を通じて習得する。 5.体験の内容:講義でロボットの基本その他を説明・解説し、コンピュータシミュレーションの自習 を行う。その後グループ毎の企画開発を行い、プレゼンテーションを実施する。 6.受講人員:17 人 内訳 男子 16 名 女子 1名 6.実施場所:全学共通教育 A 棟 2F ピロティ 吹田キャンパス地球総合工学系 S-1 312 大阪ビジネスパーク内ツイン 21、松下 IMP ビル 7.授業計画と内容 説明会を 4 月 26 日 16 時 00 分∼18 時 00 分に開催し授業の概要とロボットの基本を説明した。そ の後は E-mail で連絡・指示を行う。講義は夏期休暇中の 3 日間の集中講義とした。なお、5 月の 銀杏祭のときに開催された前年度の課外奨励研究成果発表会にて前年度受講生が、この授業で作成 した「インターネット扇風機」の実演を見学するよう指導した。 (1)第 1 回 7月 29 日 10 時 00 分∼17 時 00 分 計画:講義(ロボットとは?ロボットの基本。グループ毎の企画開発) 経過:ロボットのイメージを覆すことからはじめ、ロボットとはメカニズムとセンサーと アルゴリズムの3要素からなるものであること。ロボットにとって、どんなメカニズムとセ ンサーを使うかは大変重要である。しかし、そのメカニズムとセンサーを組み合わせて行動 を起こすそのアルゴリズムこそもっとも重要であり、それゆえにロボットといえるものにな る。初日は、そのアルゴリズムを考える訓練としていくつかの身近の問題をあげ、人間がい かに視覚をもとに判断しているかを実感してもらい、それをどう、言葉で表現するかを実施 した。 また、受講生を5−6人ずつのグループに分け、その中でグループリーダー、企画、調査、 開発などの分担を行い、講師にその商品企画提案を行うという擬似体験を行った。初日は、 そのグルーピング、役割分担の相談を行い、その後、グループごとに開発する商品の提案に 関するブレーンストーミングを行った。終了前に、講師に対して第1回目の発表を行い、講 師より、開発目的とか必要性、社会性、開発費用、商品価格なども考慮した意見を述べ、第 2日の講義に続けた。 (2)第 2 回 7 月 30 日 10 時 00 分 17 時 00 分 計画:講義(グループ毎の企画開発、コンピュターシュミレーションの実施、プレゼンテ ーションと質疑応答) 経過:第 1 日目に続き、企画会議や調査など、グループごとの自主性に任せて開発企画書 作成の作業を行い、昼前には講師に対して第 2 回目の発表を行った。午後は、知的情報処理 269 に関する方法論のいくつかを講師が解説し、現在の技術ではどこまでの知的処理がどういう 方法でできるかの概説を行った。 さらに、グループごとの企画会議を行い、講師がグループを回りながら、助言指導を行っ た。最後に、全員の前で、グループごとの企画提案のプレゼンテーションを行って、その内 容の質疑応答を行った。 (2)第3回 7 月 31 日 計画:見学 11 時 00 分 15 時 00 分 昨年度の受講生の成果である「インターネット扇風機」をはじめとして、「通 信」をテーマに行われたイベントに参加した大阪大学 ten-to-ten 実行委員会、OBP アーツ プロジェクト主催で大阪ビジネスパーク内ツイン 21、松下 IMP ビルで開催された 「ten-to-ten」の見学を行った。 経過:「通信」や「インターネット技術」をどう社会に生かすか、還元するかなど自由な立 場からアイディアを出している同企画に参加して、新しいものの考え方に触れる機会を設け た。これにより、さらに、グループ企画、役割分担、プレゼンテーションの重要性とむつか しさを実感してもらい、最終的に各グループの企画書をレポートとして提出し、3 日間にお よぶ集中講義を終えた。 8.配布教材 特になし、インターネットや図書館での調査もグループに任せた 9.成績評価 役割分担、プレゼンテーションと企画内容 10. 提出部等受講生による成果のサンプル: 昨年度のものが次のホームページにある。 http://www.naoe.eng.osaka-u.ac.jp/~hase/robot/ 11. 実施結果と今後の課題: 上記ホームページに本年度の成果も公開予定。 集中だと、日程調整がたいへん。受講希望しながら、出席できない受講生が必ず出る。 270 体験的授業実施報告書 1. 授業名:科学であそぼ!(II) テクテク科学教室 2. 授業区分:基礎セミナー 3. 教官名 山本孝夫 (所属:工学研究科原子力工学専攻) 4. 達成すべき授業目的: 現代の高度な社会活動の大きな柱のひとつが科学とそれに立脚した高度な技術、環境に優しいエネ ルギー技術である。 新入生世代は、これらの本質を知らず当然のものと思いこんで成長し、この 社会活動に参加せざるを得ない時代である。 身辺の生活環境を科学技術が支えていることを、現 場を見て歩きながら実感することが目的である。 5. 体験の内容: 最先端技術を駆使している現場を訪れ本物を見る。今回の対象は、現代社会の活動を下支えしてい る電気エネルギーの源流を辿り、発電所を見学した。現代の主な発電方法である、原子力、火力、 水力の三つの発電所を訪れ見学した。三つの見学に先立ち、大阪市科学館の発電に係わる展示物を 見学し、予備知識を習得した。 6. 受講人員:14名(内訳 男子12名、女子2名) 7. 実施場所:学外(次項参照) 8. 授業計画と内容:http://www.nucl.eng.osaka-u.ac.jp/02/nuc02web/tekuteku/frame.html (1)第 1 回 5 月 11 日(土)午後1時∼午後3時 計画:大阪市立科学館の展示物で発電の原理に関する予備知識を取得する。 経過:大阪市立科学館に現地集合し、科学館の一室を借用し、自己紹介、授業の 趣旨説明を行い、当日の目的を説明し、科学館内の展示物を見学した。 (2)第 2 回 6 月 8 日(土)午後 0 時 30 分∼午後 4 時 30 分 計画:大阪市住之江区にある関西電力南港火力発電所を訪れ、発電設備を見学し 火力発電所の規模を体感する。 経過:豊中キャンパスに集合し、バスで南港火力発電所を訪れ、発電施設の内部 まで入り、ボイラーやタービン、発電器のそばまで近寄り、その規模・音・熱気を体感 した。また、発電所の担当者からその規模に関する数量的なデータを説明してもらい、 個人の生活や日本全体のエネルギー需要と比較できる下地をつくった。見学終了後、バ スで豊中キャンパスに戻り解散した。 271 (3)第 3 回 7 月 16 日(火)午前 9 時∼午後 5 時 計画:福井県大飯郡大飯町にある関西電力大飯原子力発電所を訪れ、発電設備を 見学し原子力発電所の規模と遠隔地にある事実を体感する。 経過:豊中キャンパスに集合し、バスで大飯原子力発電所を訪れ、展示館にて原 子力発電設備の模型で発電の原理や施設の構成の説明を受けた。その後、発電所内部ま で入り、使用済み燃料プールなどを見学した。またバスで発電所構内を一巡し、その規 模を体感した。また、関西電力の技術広報担当者から原子力発電に係わる様々な説明を 受け、帰路のバス中の時間も含めて多くの質疑応答を行った。ほぼ全日に渡るバスツア ーであり、それに要する時間は原発のある場所の遠隔性を体感することになった。これ は、原子力発電が日本のエネルギー問題のなかで置かれている問題点のひとつを実感さ せることとなった。 (4)第 4 回 8 月 31 日(土)午前 10 時∼午後 5 時 計画:兵庫県神崎郡大河内町にある関西電力大河内水力発電所を訪れ、発電設備 を見学し揚水型水力発電所の規模と遠隔地にある事実を体感する。 経過:豊中キャンパスに集合し、バスで大河内水力発電所を訪れ、展示館にて水 力発電設備の原理や特徴、そして建設の経緯などについて説明を受けた。その後、構内 バスにて地下に建設されている発電設備を見学した。また、バスで二つのダムを見学し、 その規模の大きさを体感し、今まで見学した原子力発電所、火力発電所との違いについ ても体感した。 9. 配布教材: 教科書 : 参考図書: 見学した博物館や発電設備の広報資料を活用した。 特に指定しなかった。 図解雑学 エネルギー ナツメ社 佐藤正知・蛭沢重信 著 を配布した。 10.成績評価 (1) 評価方法:各回の出席と、各回毎に見学のポイントと関連付けたレポートを課し、その提 出状況と内容について採点した。また、参加時の質疑応答の様子なども勘案し最終的な成 績判定を行った。 (2) 評価結果と成績分布:14 人の受講者に対する評点は下記の通りであった。 98, 95, 93, 93, 95, 98, 97, 90, 85, 100, 100, 97, 98, 62 11.提出物等受講生による成果のサンプル 最高の内容と判定した受講生のレポート 別添する 平均的と思われる受講生のレポート 別添する 最低の内容と判定した受講生のレポート 別添する 272 12.実施結果と今後の課題 実施した内容の詳細については、受講生へのレポート課題から提出されたレポート(無記名で 掲載)、写真によるセミナーの様子の紹介まで、全てホームページに掲載した。 http://www.nucl.eng.osaka-u.ac.jp/02/nuc02web/tekuteku/frame.html 三つの代表的な発電原理に基づく巨大な発電設備を実際に体感できたことで、相互に比較する ことも可能であり、レポートを読むと、この企画の主旨を充分理解して多くのことを体感した 学生が半数を越えていると思われる。 次年度も実施する予定である。ただ、全学部に渡る受講生を学外にしかも遠隔地まで見学に連 れて行くことは、日程的にも引率する教官の負担からも多くの問題を克服しながら実施してい る。 273 最高の内容と判定した受講生のレポート 電気は人間が経済活動を営むうえで必要不可欠なものである。そのことに反論するひとはいない。 しかし、その電気をつくる発電所のことを詳しく知っているひとは多くはいないだろう。事実、僕 は全く知らないと言っていいぐらいであった。水力発電なら、昔懐かしい水車を連想すればなんと なく理解できるのだが、原子力発電となると、どうやって発電しているのか知らなかった。事前に 『図解雑学 エネルギー』の本を読んでようやく、原子力発電のしくみを理解することができた。 そのしくみを理解するのは大学生にとって難解なものではない。それなのに知ろうとしなかった自 分を恥ずかしく思っている。 関西電力では、2000年度の発電電力量の51%が原子力発電によるものとされる。自分は今 まで原子力発電のしくみを知らずに、原発に対して不安ばかり抱いてきた。新聞をみても、原発の 必要性を説いているのは電力会社のPR記事ばかりで、新聞の社会面は電力会社の不祥事や核施設 の事故を伝えているものが目立っている。原発の問題点に注目が集まるばかりで、そのメリットが とりあげられることはあまりない。それは、とても悲しいことだ。原発の素晴らしい点の一つが、 発電時に二酸化炭素を排出しないことだ。そのおかげで地球温暖化が抑制されていると思えば、原 発はクリーンエネルギーと言えるだろう。 もちろん、原発で事故がおこって放射性物質が外部に漏れ出すと、被害が広範囲にわたる恐れが あるのも事実だ。多くのひとが、その事をひどく心配していることをふまえたうえで、原発は安全 対策に殊更注意を払っている。ヒューマン・エラーに対するインターロックシステムや、一次冷却 水の配管が破断したときに原子炉を冷ましてくれるECCSなどが原子力発電所に設置されてい る。 僕が思うに、これからは原発の存在自体を非難するのではなく、原発がわれわれの暮らしを豊か にしてくれていることを認識していくべきである。その上で、電力会社などの原子力に携わる人間 が、ささいな事故の隠蔽などをした場合、強く非難し、同様の事故や管理の不徹底が起きないよう な管理体制をしていってほしい。管理がしっかりしていれば、低コスト・安定した電力供給・発電 時の二酸化炭素排出量ゼロの原子力発電は非常に優れた発電システムなのだから。 そもそも、人間の経済活動にあわせて、より多くの電気が必要となったのだ。昭和30年代まで 水力が発電の主力であった。だが、高度経済成長に伴って、電気の需要が格段に増したのだ。火力・ 水力・原子力がそれぞれの長所を組み合わせることで、消費者の電力需要を満たしてくれているの だ。電気は貯めておくことができないのだから、需要のピークである昼間に備えた電力供給をおこ なうため、三つの発電所の特徴を生かした電力供給をおこなっているのだ。 原子力発電は電力を常に一定に保っているが、火力発電や揚水式水力発電の場合、需要に応じて 発電電力を変えている。需要が最も多いのは、真夏の昼間である。その時期の火力発電所は灼熱地 獄である。そしてつくられた電気の多くがクーラーに使われる。また、その電気の供給で、二酸化 炭素が排出し地球温暖化が促進される。そのことを思うと、人間の行為は本末転倒である。だが、 すべては人間の欲望の為になされていく。経済性を維持するには環境が改変せざるをえない。環境 の保全と経済性の維持は対立すると思えるが、我々はそれを同時に解決しなければならない。その 答えを知らないままだと、我々は生活していけない。その答えの一つが、三種類の発電所をバラン スよく組み合わすことなのだ。よりふさわしい答えを見つけるべく、日夜、研究を積み重ねている 学者や電力会社の方々には、感謝の気持ちでいっぱいである。そして、僕も省エネルギーを心がけ ることで、エネルギー問題に立ち向かうことにしよう。それが、よりよい将来につながるのだ。 〈基礎セミナーについてのコメント〉 二年生の僕にとって、この基礎セミナーは理論と現実をつないでくれる有意義な授業でした。大 学の大教室での授業は退屈なものもあり、僕は学問に対する興味をうしなっていました。しかし、 このセミナーは実物をみることで発電所のことを知ってもらおうという趣旨ですから、知識の詰め 込みではなく、自然に理解することができました。実際に見学しないと味わえないものもあるので す。例えば、実際に発電所まで行かないと、本当に遠くの場所から送電線を伝って大都市に電気が 来ていることが実感できないでしょうし、発電所が活動している証である、あのうるささや暑さも 生でないと味わえないでしょう。これからも施設見学をするスタイルの基礎セミナーを続けてほし いです。ついでに言えば、バス代を大学側が払ってくれるため出費が少なくすんだのは嬉しいです (笑)。見学した発電所はどれも辺鄙なところにありましたので、交通手段としてバスは最適でし ょう。 274 平均的と思われる受講生のレポート 今回の基礎セミナーを通じていろいろなことがわかった。水力発電、火力発電、原子力発電、そ れぞれが長所と短所をもっていることを知った。また実際に大きな発電所を見ることで、我々が使 用している電気の量が莫大なものであると知った。大きいものを説明する際に「甲子園球場何こぶ んの大きさ」という表現が使われるが、実際に目で見る方が遥かにわかりやすいと感じた。今様々 な発電方法が開発されているがそれらが実用化されないのは経済性の面から見て問題があるから だと知った。勉強がまだまだ足りないため発電所の仕組みについては理解できていないことがある が、今回の基礎セミナーのおかげで科学が応用されている現場を見ることができた。身の回りにも 科学が応用されているものがたくさんあるが、我々の生活に欠かせない電気を産み出す発電所のこ とを意識する機会はこれまでなかった。今回の授業のおかげで私の視野が広がった。見学にいった ところは皆はじめて訪れるところなので、飽きるということはなかった。関西電力の村井さんに発 電所のことを質問できて良かった。発電所のことを少しだけ理解することができた。普通に講義を 受けているだけでは発電所のことにも興味をもたなかっただろう。 大阪大学の新入生が発電所に出かける価値はある。なぜなら、大阪大学に入学する以前から机に 向かって勉強を続けてきており、大学に入ってから実社会に役に立つ研究をするに当たって必要な、 「現在科学がどのように応用され、どのような問題点を抱えているか?」ということを知らないか らだ。あまり勉強してきてない小学生が社会科見学で発電所に行くのとはまた違った成果が得られ る。今回の基礎セミナーが講義形式でなくて良かったと思う。もし、今回の基礎セミナーが講義形 式であったなら、私は途中で挫折していただろう。 最低の内容と判定した受講生のレポート 現代において、人が生活するには、エネルギーは不可欠である。その不可欠であるエネルギーを、 どこから確保するのかというのが、エネルギー問題の重要なところであると思います。その点にお いて、水力発電という発電方法は、非常に有効なものであると思います。 物体の位置エネルギーから電気エネルギーを取り出す方法は、環境を汚すこともなく、非常に安 全であり、また、電気エネルギーを、再び位置エネルギーへと戻し、余剰を無駄なく溜めておくこ とができるというのは、すごい利点だと思います。 ただ、発電量などの面から見ると、原子力発電は圧倒的であり、事故さえ起きなければ非常にクリ ーンな発電方法です。廃棄物処理の問題がありますが、もっとも効率の良いのは、この発電方法だ と思います。 このセミナーは、とてもおもしろいと思います。これからも、今の感じで続けていくといいと思 います。 275 体験的授業実施報告書 1.授業名:建築構造計画入門 2.授業区分:基礎セミナー 3.教官名: 1. 多田元英[責任者] (所属:工学研究科建築工学専攻) 2. 橘 英三郎 (所属:同上) 3. 大野義照 (所属:同上) 4. 甲津功夫 (所属:同上) 5. 中塚 佶 (所属:同上) 4.達成すべき授業目的: 建築構造の力学的な成り立ち、ならびに実構造物に関する入門的な知識を会得する。 5.体験の内容: 建築構造・部材の模型を製作し、さらにそれらに力を加えて壊れるまでの挙動を体験する。 ならびに実際の建築施工現場・構造実験・施設などを見学する。 6.受講人員:14名 [内訳 男子 11 名 女子3名 留学生男子 0名 留学生女子 1名 高校生男子 0名 高校生女子 0名] 7.実施場所:工学部地球総合工学科 S1-713 室、構造実験室およびそれぞれの見学場所 8.授業計画と内容: (1)第1回 4月 19 日(金)16 時 30 分 ∼ 17 時 30 分 計画:ガイダンス 経過:本授業の日程と運営方法を説明 (2)第2回 5月 24 日(金)16 時 30 分 ∼ 17 時 00 分 計画:「コンクリ−ト構造」についての講義 経過:鉄骨構造の歴史と建築構造の中での位置づけについて講義 (3)第3回 5月 31 日(金)16 時 30 分 ∼ 17 時 00 分 計画:「ガリレオの問題から超高層建築にいたるまで」についての講義 経過:構造力学の発展史が建物の形態および都市景観に及ぼした影響について講義 (4)第4、5、6および7回 6月 15 日(土) 10 時 30 分 ∼ 16 時 10 分 計画:「鉄筋とコンクリート、どう組み合わせるとより強い?」についての実験 経過:鉄筋コンクリート模型梁の製作、載荷の実施、ならびに結果についての討論 (5)第8、9および 10 回 6月 22 日(土) 時 分 ∼ 時 分 計画:鉄骨造建物(新関電ビル)の見学 経過:鉄骨造建物における耐震技術例を説明し、その実施例を見学 (6)第 11 回 6月 28 日(金)16 時 30 分 ∼ 17 時 00 分 計画:「鉄骨構造」についての講義 経過:鉄骨構造の歴史の概要と建築構造の中での位置づけについて講義 (7)第 12、13 および 14 回 7月6日(土) 時 分 ∼ 時 分 計画:免震構造建物(仮称・北花田のマンション)の見学 経過:免震装置および免震構造の概要説明、実例見学ならびに討論 9.配布教材:各授業内容の即したプリント等 教科書:特になし 参考図書:特になし 277 10.成績評価: (1)評価方法:実際に体験することを重視するため、出席による評価を原則とした。 (2)評価結果と成績分布: 優;13 名、可;1名 11.提出物等受講生による成果のサンプル:別添 12.実施結果と今後の課題: アンケート結果にも示されているように、本授業には以下のような効果があったと思われる (1) 鉄筋コンクリ−ト造、鉄骨造、制震・免震構造などの見学を通して、授業で得た知識を確認 し、実建物の構造・空間、施工法などをより深く体験できたようである。 (2) 実際のコンクリ−ト断面、鉄骨断面、鉄筋サンプルなどに触れることによって、また、自ら 作った模型試験体に実際に力を加えて壊して、建築構造・部材が外から加わる力に対しどの 様に抵抗しているかなどを実感することによって、授業で学習した建築構造をより身近に理 解したと思われる。 見学および授業によっては数人で構成する班ごとの作業が必要なため、TAの補助、さらに言え ば「教えることは学ぶこと」による次世代教員のFDが是非必要と考える。 278 279 280 体験的授業実施報告書 1.授業名:建築・町を見る 2.授業区分:基礎セミナー 3.教官名: 1. [責任者]吉村 英祐(所属:工学研究科建築工学専攻) 2. 鈴 木 毅(所属:工学研究科建築工学専攻) 3. 山中 俊夫(所属:工学研究科建築工学専攻) 4.達成すべき授業目的 教官とともに実際に町を見て歩くことで、都市空間を構成する建築・街路・公園・河川等の役割や相互の関係、 都市計画や建築デザインの考え方、都市・建築と人間の関わり、歴史的町並みや都市景観の重要性、都市や建築の 魅力等に関する専門的知識を体得し、これらを身近な問題として自ら考える力を養う。 5.体験の内容 京阪神地区の古建築や歴史的町並み、近代建築、話題の新しい建築、特徴のある住宅や都市再開発地区等を見て 歩くことで都市環境を実体験するとともに、担当教官と学生の間で interactive な解説や質疑応答を随時行い、自発 的学習のおもしろさを知る。 6.受講人員:15名[内訳 男子 7名 女子 5名 留学生男子 0名 留学生女子 2名 高校生男子 0名 高校生女子 0名] 7.実施場所: 第 1 回 5 月 11 日(土) 大阪市内 第 2 回 7 月 13 日(土) 京都市内 第 3 回 7 月 16 日(火) 芦屋市・神戸市内 第 4 回 9 月 20 日(金) 大阪大学工学研究科 S1-712 室 8.授業計画と内容 5 月 11 日(土) 9 時 15 分∼17 時 (1)第 1 回 計画:大阪の街並みと建築−近世から現代,そして未来へ 経過: 9 時 15 分にJR大阪駅中央コンコース北噴水前に集合した。登録は 15 名であったが,女子学生 1 名が欠席 したため,参加人数は 14 名であった。 ●主な行程 [午前]9:30 出発 阪急梅田駅旧コンコースの壁画(デザイン:伊東忠太)→東梅田駅→(地下鉄谷町線)→天神橋筋六丁目駅→ 10:00 大阪市立住まいのミュージアム→(地下鉄堺筋線)→恵美須町駅《休憩》 [午後]13:00 出発 大阪市営南日東住宅(2001 年 5 月に閉鎖)→日本橋の家(日本建築学会賞受賞)→市営北日東住宅→市営下 寺町住宅→夕陽丘界隈→黒門市場→日本橋駅→(地下鉄堺筋線)→北浜駅→15:00 適塾見学→北浜界隈の近代 建築群→中之島の近代建築群→《解散》 体験内容 ①近世から第二次世界大戦後の復興期にいたる大阪の庶民の暮らし ②都心におけるさまざまな住宅のタイプとそこでの暮らし ③取り壊されていく北浜界隈の近代建築の見学を通して建築の保存問題を考える ⑤適塾の見学 281 失われる近代建築−解体中 山中助教授の説明を熱心にきく学生 の旧・大阪証券取引所 (大阪市営北日東住宅) 日本建築学会賞を受賞した「日本橋の家」の前 「適塾」の中で熱心に解説ビデオを観る で教官が質問に答える(大阪市中央区) (2)第 2 回 7 月 13 日(土) 9 時 45 分∼17 時 計画:京都:様々な時代の建築文化が積み重なる生活都市 経過: 9 時 45 分にJR京都駅 室町小路広場(西側4階) 朱甲舞(赤いオブジェ)前に集合。前回出席者が全 員来る一方で,前回欠席者が今回も欠席したたため,受講人数およびメンバーは前回と同じであった。 ●主な行程 [午前]9:30 出発 京都駅ビル→(地下鉄,京阪)→京エコロジーセンター→(京阪)→Time’s Ⅰ,Ⅱ《休憩》 [午後]13:00 出発 三条通りを中心とした近代建築→京都芸術センター(旧・明倫小学校)→町屋の再生事例と景観破壊の実態→ 新風館(旧NTT局舎の再利用)→祇園祭に備える鉾町のようす→四条烏丸→《解散》 体験内容 ①JR 京都駅ビルの空間体験 ②京エコロジーセンターにおいてさまざまなエコロジー技術の見学 ③京都の近代建築遺産とその再利用の実践例の見学 ④京町屋の再生事例の見学 ⑤マンションによる景観破壊の実態 ⑥祇園祭に備える鉾町のようす 282 鈴木助教授によるガイダンスとJR京都駅 京エコロジーセンターでさまざまなエコロ ビルの解説(集合場所にて) ジー技術を学ぶ学生 京都三条通りの近代建築群を熱心に見て歩 旧NTT局舎を改修した商業施設「新風館」を く学生 見てまわる (3)第 3 回 7 月 16 日(火) 9 時∼17 時 計画:阪神間の建築・都市文化の蓄積と新たな展開 経過: 9 時に梅田ヒルトンホテル向かい四つ橋筋西側に集合。時期的に炎天下あるいは降雨の可能性が高いことに 加え,公共交通機関で回りにくい行程であることから,体験的課題追求型授業の予算でチャーターしたマイク ロバス(21 人乗り)で移動した。遅刻者はなく,予定通り 9 時 15 分に出発した。なお,今回も受講者は前々 回,前回と同じ 14 名であったため,受講者が確定した。 ●主な行程 [午前]9:15 出発 梅田→(阪神高速)→ヨドコウ迎賓館(重要文化財・旧山邑邸)→六麓荘の超高級住宅地→兵庫県立美術館→ HAT 神戸・灘の浜(震災復興住宅) 《休憩》 [午後]13:30 出発 神戸関電ビル内部見学→新長田地区の震災復興→鷹取地区の震災復興→JR 鷹取駅《解散》 体験内容 ①芦屋の超高級住宅街の見学 ②ヨドコウ迎賓館(旧・山邑邸)の空間体験 ③震災復興プロジェクト「HAT 神戸・灘の浜地区」の見学 ④神戸関電ビルの見学(ビルの耐震構造,省エネルギー対策,景観対策等の実践例) ⑤新長田・鷹取地区の震災復興状況と今に残る震災の傷跡の見学 283 ヨドコウ迎賓館(旧・山邑邸)で説明を受ける(芦屋市) 超高層の震災復興住宅に多数の被災した高齢者が住んで 開館したばかりの兵庫県立美術館(神戸市灘区) 震災で建て替えた関電神戸ビルの見学後,阪大の先 輩・松塚充弘氏(建築工学科出身)との質疑応答(神 いることを知って驚く(神戸市灘区) 戸市中央区の関電神戸ビル内にて) 地震後の火災で曲がったアーケードが今も震災の恐ろ マイクロバスで見学予定地を効率よくまわるこ しさを伝える(間もなく撤去予定) (神戸市長田区) とができた。車中でも解説や議論が行われた。 (神 戸市長田区) (4)第4回 9 月 20 日(金) 15 時∼18 時 計画:プレゼンテーション 経過: 15 時に,大阪大学吹田キャンパス工学研究科 S1 棟 712 室に集合。貸与していた 2 冊の参考図書と,3 日間 の体験をまとめたレポートを持参するようにあらかじめ連絡してあったが,忘れて来た学生はいなかった。各 自のレポートに基づき,基礎セミナーで体験したこと,感じたこと等を1人ずつ発表してもらい,その後全体 でディスカッションを行った。また,全学共通教育機構から依頼があった授業アンケートを実施した。予想以 上に活発な議論が展開し,予定時刻を 1 時間以上オーバーして終了した。 284 学生の発表を聞いて次の議論に備える 前に出て黒板を使って自分の考えを相手に伝える 自分のレポートをもとにみんなの前で発表する 学生の発表に対して教官がコメントする 9.配布教材 教官が作成した資料を配布した。 第 1 回 5 月 11 日(土) :A4 サイズ・31 ページ 第 2 回 7 月 13 日(土) :A4 サイズ・32 ページ 第 3 回 7 月 16 日(火) :A4 サイズ・26 ページ 第 4 回 9 月 20 日(金) :A4 サイズ・1 ページ 教科書:なし 参考図書:①建築 MAP 大阪/神戸(TOTO 出版) ②建築 MAP 京都(TOTO 出版) 参考図書は体験的課題追求型授業の予算で①と②を 15 冊ずつ購入した。これらを受講者に 1 冊づつ貸与 し,現地での探索やレポートをまとめる際の参考図書とした。 10.成績評価 (1)評価方法: 出席状況(第 1∼3 回は 1 回出席につき 20 点)で計 60 点,レポート内容と第 4 回のプレゼンテーションで の発言状況(回数・内容)等で 40 点(担当教官の評価を平均)の,合計 100 点満点で評価した。 評価結果と成績分布 100 点 1 名(女子 1) 95 点 1 名(女子 1) 90 点 3 名(男子 2/女子 1) 85 点 2 名(男子 1/女子 1) 80 点 7 名(男子 4/女子 3) 平均 85.4 点 285 11.提出物等受講生による成果のサンプル:別紙による 12.実施結果と今後の課題 本授業は、(1)建築の文化性・社会性 (2)歴史的町並み・近代建築の保存・都市と景観 (3)都市空間・建築 デザインの読みかた・見かた (4)都市における住環境と生活 (5)省エネルギーや地球環境に配慮した建築技 術 等を学ぶことを目的として行ったものである。授業内容は,工学部地球総合工学科(特に建築工学科目・ 環境工学科目)と密接に関係するものであるが,あえて地球総合工学科以外の学部・学科学生の履修を優先し た。その結果,地球総合工学科の学生は 3 名に抑えられ,他は文学部(1 名) ,人間科学部(1 名) ,法学部(3 名) ,理学部(2 名) ,医学部(2 名) ,歯学部(1 名) ,薬学部(1 名) ,基礎工学部(1 名) ,工学部応用自然科 学科(1 名)と,経済学部を除く 9 学部から幅広い受講者が集まった。また,きつい行程と交通費の自己負担 という条件にもかかわらず,中途脱落者が1人も出なかったことは,履修の競争倍率が高かったこととも関係 していると思われる。 学生の出席率,参加態度,レポート,授業アンケートの結果から判断して,学生は一般の講義形式では得に くい生きた知識を得るとともに,都市や建築はどうあるべきかを考える基礎的素養を体得することができたと 思われる。よって,本基礎セミナーの目的は十分に達成されたと考える。 このことを裏付ける参考として,プレゼンテーション終了後に受講生の一人から山中教官宛に送られてきた 電子メールの一部を転載する。 今回基礎セミナーに参加したメンバーは、みなそれぞれ「建築」というものに対して自分なりのヴィジョンを持っていたように 思います。そして自分の住んでいる(住んでいた)家や地域、町について何かを感じている人たちばかりでした。そうしたメンバ ーが集まっていたのは、 (自分で言うのもおかしいのですが、 )先生方のほうで受講者をある程度厳選されていた影響が大きかった のではないでしょうか。私もこれほどモチベーションの高い人たちと出会ったのは、大学生活の中でも初めてのことで驚きと同時 に強い感銘を受けました。一見するとごく普通の人ばかりなのですが、話してみるとみんな 「こだわり」 なのです。それは建築 に対してだけでなく、自分の専攻や興味のあることすべてについてです。強い感受性を持ち、考えることの好きな本当に魅力的な 人たちばかりでした。向仲君が言っていたように、建築志望の学生でも、なかなかこれほどモチベーションの高い人たちが集まる ことはないと思います。これからも、この基礎セミナーで知り合った仲間を大切にしていきたいと思います。 (中略) 今回の基礎セミナーでは、自分の専門が異なる分野にも応用されていることを知り、より広い視野を持つことがきるようになり ました。 (中略) 最後になりましたが、非常に刺激的なディスカッションで、その時にはとまどうばかりでしたので、学んだことを整理する意味 で、感想のメールを送ることにしました。他の先生方にも、どうぞよろしくお伝えください。また何か感じることがあれば、メー ルさせていただきたく思います。それでは、失礼します。 今後の課題 今後の課題としてまず指摘したいのは,学生ならびに教官が入館料や交通費を自己負担しなければならないこと である。幸い,今年度は「体験的授業」の予算で小型バスをチャーターしていただいたこと,追加で入館料の予算 を確保していただいたが,今後も継続的かつ安定して予算が確保される保証がない限り,今回の体験的授業のレベ ルを維持し,来年度の受講者にも今年度並みの体験をしてもらえない。その他にも,適切な見学先の確保とその準 備,荒天時の対応,事故防止等があるので随時検討する必要がある。 最後に,今後とも基礎セミナーがマンネリ化することのないよう,常に内容を吟味・更新し,体験的授業としの 実効性を維持していくよう務めていきたい。 286 287 288 289 290 291