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の検討に関するクラウド研究会」報告書(別紙)(PDF形式:329KB)

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の検討に関するクラウド研究会」報告書(別紙)(PDF形式:329KB)
別紙
米国でのコンテンツロッカーサービスに関する裁判事例
米国事業者は、いくつかの態様でのコンテンツロッカーサービスを提供しているが、同サー
ビスでは音楽や映像といったコンテンツをサーバに蔵置させるサービスが法律上どのように扱
われるかがサービス提供の可否に大きく影響する。以下では、コンテンツロッカーサービスの
提供事業者が複数存在する米国での裁判例を検討する。
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MP3tunes 事件
まず、ストレージサービスの裁判例Capitol Records, Inc. v. MP3tunes, LLC 1を見ていく
ことにする。
(1) 事案の概要
被告 MP3tunes は、MP3tunes.com と Sideload.com の2つのサイトを運営していた。
MP3tunes.com は以下のようなサイトであった。
ユーザーが個人的に音楽ファイルを蔵置、再生、ダウンロードできるオンラインストレージ「ロ
ッカー」を提供する。他方、ユーザー個人のハードドライブに蔵置されている mp3 ファイルをロ
ッカーに自動的にアップロードできるソフトウェア「ロッカーシンク」も提供する。さらに、第三者
のサーバに蔵置されている音楽ファイルのウェブアドレスに入ってユーザーのロッカーに転送
することを可能にする「ウェブロード」というサービスも提供する。MP3tunes は、音楽ファイル
にハッシュタグを割り当てておき、異なるユーザーが同じデータブロックに同じ音楽をアップロ
ードしても音楽ファイル自体は一度しか保存しない。ユーザーがロッカーから音楽をダウンロ
ードするときは、ハッシュタグを使って当該ユーザーがロッカーにアップロードしたのと同じファ
イルを再現する。
また、Sideload.com は以下のようなサイトであった。
ユーザーはキーワードで所望する無料楽曲ファイルを検索でき、検索結果から曲がホスティ
ングされている他人のサイトへのリンクをたどって、楽曲の再生や別のPCへのダウンロードが
できる。ユーザーが MP3turnes にロッカーを持っていれば、自分のロッカーに「サイドロード」
(複製)することができる。MP3tunes は、ユーザーがどこから楽曲を入手したかの入手元のサ
イトを特定できる。MP3tunes は、ユーザーにプラグインソフトを無償提供しており、それを使う
と、ユーザーは MP3tunes を介することなく直接他人のサイトから楽曲を複製できる。ユーザ
ーがサイドロードした第三者のサイトは、検索可能な楽曲として Sideload.com のインデックス
に追加される。また、楽曲に関連するアーティスト、アルバム、タイトルといった情報は「トラック
詳細」ページに自動的に蔵置され、インデックスの一部となる。
ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所2011年10月25日 Amended memorandum and order
(2011 WL 5104616)。なお、本判決は、後述2の Viacom International, Inc. v. YouTube, Inc.
(Viacom 事件)の控訴審判決を受けて、2013年5月14日に見直し判決(Reconsideration)が出され
ている。その具体的内容については、各箇所で言及する。
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代表者マイケル・ロバートソンを含む被告の役員らは MP3tunes に個人アカウントを持ち、
様々な第三者のウェブサイトから楽曲をサイドロードしていた。
被告は、著作権者から侵害楽曲と侵害楽曲が含まれるウェブアドレスを削除するよう通知を
受け、ウェブアドレスのリストは削除したが、ユーザーのロッカーにある侵害楽曲は削除しなか
った。そこで、原告(レコード会社、音楽出版社)は、被告 MP3tunes 及びロバートソンに対し、
音楽や録音物等の著作権を侵害するとして提訴した。
なお、本判決は、当事者がSummary Judgment 2の申立をしたことに対するものであり、重
大な事実につき真正な争いのない部分についてのみ、法律問題として判断したものである。
(2) 争点
争点は、以下のとおりである。
① MP3tunesがデジタルミレニアム著作権法(DMCA)512 条 3で免責されるか
② MP3tunes はユーザーの直接侵害(サイドロード)について二次的責任(寄与責任
又は代位責任)を負うか、
③ 被告らは、直接侵害責任を負うか。
DMCA の 512 条は、インターネット関連のサービスプロバイダに著作権侵害について免責
を与えるセーフハーバー(safe harbor)を定めている。
米国著作権法には、特許法のような二次的侵害(間接侵害)についての規定はないが、判
例法上、寄与侵害(contributory infringement)と代位侵害(vicarious infringement)とい
う二次的侵害の責任が認められている 4。前者は、他人の侵害行為を助長、促進、勧誘したこ
とによる責任であり、後者は、いわゆる報償責任の原理に基づく責任である。
セーフハーバーによる免責は、基本的にサービスプロバイダにそのユーザーによる直接的
な侵害行為を理由として侵害責任を負わせないというもので、インターネットサービスの革新と
発展を目的とする。クラウド関連ビジネスもまさに DMCA の目的の範疇にあり、セーフハーバ
ーによる免責を受けることによって促進されていくことになる。
(3) DMCA 上の免責に関する検討
本判決では、セーフハーバーによる免責の詳細な検討が行われている。
セーフハーバーは、ユーザーによる侵害物件の蔵置(storage)や、ディレクトリ、インデック
スやリンクといった位置情報ツール(information location tools)を提供してユーザーに侵害
物件の含まれる場所を参照、リンクさせることに関し、サービスプロバイダには責任を問わない
とするものである。そして、セーフハーバーによる免責を受けるためには、サービスプロバイダ
重要な事実について真正な争点(genuine issues)がなく、法律問題だけで判決できる場合に行わ
れる判決。
3 17 U.S.C.§512。
4 Sony Corp. of America, Inc. v. Universal City Studios, Inc., 464 U.S. 417, 104 S.Ct. 774, 78
L.Ed.2d 574 (1984)。
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が、反復的侵害者に対するポリシーを定め実施していること 5、著作権者側から侵害物件やそ
の特定等に必要な情報を含む削除通知が送付されてきたときに、当該侵害物件の削除やア
クセスの遮断などを行って迅速に対応すること 6、侵害行為から利益を得ていない、侵害行為
を管理していないこと 7、といった要件を満たしていなければならない。それとともに、主観的要
件として、サービスプロバイダに、侵害についての「現実の悪意(actual knowledge)」、また
は、ユーザーの侵害行為を明らかにする「事実や状況」(危険信号)についての認識がないこ
とも必要である 8。
裁判所は、上記主観的要件に関し 9、512 条(c)(1)(A)及び(d)(1)(侵害についての認識)の
要件である「現実の悪意」や「事実や状況」の認識とは、個別のアイテムに関する具体的で特
定可能な侵害についての認識でなければならないと判示した
10。その上で、MP3tunesは、
ユーザーの行為によってある程度の侵害が発生していると知っていたことは間違いないが、削
除通知によって特定されたURL以外、Sideload.comの特定のリンクに関して特定の「危険信
号」の認識があったとはいえないとした
11。その理由として、裁判所は、サービスプロバイダに
侵害についての調査義務を課すことは、DMCAの目的を減殺するゆえ許されないことを挙げ
ている。つまり、侵害の疑いが生じたときに、その判断をするためにサービスプロバイダに積極
的な調査を行わなければならないとしたら、そのような状況は「危険信号」ではない。
裁判所は、上記の主観的要件も含めた DMCA の各要件を検討した結論として、削除通知
によって特定されたリンクからサイドロードされた楽曲で、ユーザーのロッカーから排除しなか
ったものについては、MP3tunes はセーフハーバーによる保護を受けることはできないが、そ
れ以外の、MP3tunes.com に蔵置されている原告作品と Sideload.com にリンクされている原
告作品については、MP3tunes に DMCA のセーフハーバーが適用され免責されると判断し
た。
(4) ユーザーの直接侵害に対する二次的責任の検討 12
裁判所は、DMCA での免責が受けられないと判断した部分につき、続けて、MP3tunes が
ユーザーの直接侵害について二次的責任を負うかを検討し、結論として、寄与侵害が認めら
DMCA 512(i)(1)(A)
DMCA 512(c)(1)(C)及び DMCA512(c)(3)、並びに DMCA 512(d)(3)
7 DMCA 512 (c)(1)(B)及び DMCA 512 (d)(2)
8 DMCA 512 (c)(1)(A)(i)(ii)及び DMCA (d)(1) (A)(B)
9 本判決では、DMCA の免責の可否につき、他の要件についても検討されているが、本項では、日本
法との比較の関係で主観的要件を中心に検討する。
10 見直し判決においては、まず、Viacom 事件の控訴審で適用が議論された故意の無知(willful
blindness)理論を問題とし、故意の無知が成立するためには、明白な事実認定が必要であるか
ら、Summary Judgment の要件を満たさないとした。
11 見直し判決においては、
「危険信号」の認識は、削除通知以外のものによっても生じうるゆえ、
重要な事実についての争点が残っているとして Summary Judgment に適さないとした。
12 本判決中では、被告が直接侵害責任を負うかという争点についても検討されているが、この点は、米
国固有の法解釈とライセンスの問題であるので、本稿では検討しない。
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れるので代位侵害については判断しないとした。
裁判所は、寄与侵害責任の検討において、削除通知で特定された原告の楽曲のサイドロ
ードがユーザーによる直接侵害に該当することを前提として、寄与侵害成立に必要な、i)ユー
ザーによる直接侵害を知っていたか知るべき理由があること、及び ii)ユーザーの直接侵害に
対する実質的貢献(寄与)があること、の2点をいずれも肯定した。
i)については、原告が特定の著作物及び Sideload.com 上の特定のリンクを明示した削除
通知を送っていたこと、及びユーザーがかかるリンクを訪れ、原告の著作物をサイドロードした
ことを記録していたことから、MP3tunes には「現実の悪意(actual knowledge)」があったとし
た。ii)については、サービスのサーバが専らユーザーの侵害を助長するものである場合、実
質的貢献が認められるとし、ユーザーが MP3tunes のサーバを侵害物品のダウンロード等の
ためにのみ利用している、としている。
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その他の裁判例
Viacom International, Inc. v. YouTube, Inc. 13は、MP3tunes事件で原審判決が引用さ
れている事件である。
事案は次のようなものであった。
原告は、フットボール協会プレミアリーグ、映画会社、テレビネットワーク、音楽出版社、スポ
ーツリーグである。被告は、ユーチューブ・インク、ユーチューブLLCとグーグル・インクである。
原告は、2005年から2008年の間にユーチューブのサイトに掲載された映像クリップについて
の公衆上演権、陳列権及び複製権の直接・二次的侵害を理由として損害賠償及び差止を求
めて提訴した。本件も Summary Judgment の申立であり、重要な事実につき真正な争いが
ない部分について、法律問題として判断が下された。
本件で特徴的なのは、サービスプロバイダからセーフハーバーによる保護の適格性を喪失
させる要件としての主観的要件の解釈である。
原審であるニューヨーク南部地区連邦地方裁判所は、「現実の悪意」や「事実や状況」の認
識は、特定の個別の品目に関する具体的で特定可能な侵害についての認識を指すとし、単
に侵害が蔓延しているという一般的な認識では足りないと述べた。この解釈は上記
MP3tunes 事件でも引用されている。
第二巡回区控訴裁判所は、地裁の主観的要件の解釈を支持しつつ、さらに「現実の悪意」
には(場合によっては「事実や状況」の認識にも)、故意の無知(willful blindness)理論の適
用の余地があると述べ、重大な事実問題があるとして地裁に差し戻した。地裁は、故意の無知
の理論を適用せず、被告らには特定の侵害の事実についての認識はないとしてセーフハー
バーの保護を認めていた。
第二巡回区控訴裁判所2012年4月5日 Viacom International, Inc. v. YouTube, Inc., 676 F.3d
19 (2nd Cir. 2011)。原審は、Viacom International, Inc. v. YouTube, Inc., 718 F.Supp.2d 514
(S.D.N.Y. 2010)。
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この故意の無知理論は、特許権や商標権侵害事件においては認められていた理論であ
り
14 、故意の無知は悪意と見なすというものである。エイムスター関連著作権訴訟(In
re
Aimster copyright Litigation 15)でも議論されており、上記Viacom International, Inc. v.
YouTube, Inc.でも引用されている。
エイムスター関連著作権訴訟事件は、P2Pファイル共有サービスを提供していたエイムスタ
ーに対し、レコード会社、映画会社、音楽出版社等が著作権侵害訴訟を提起した一連の裁判
である。第7巡回区控訴裁判所は、エイムスターは、暗号化技術を使って、どのユーザーが何
のファイルを交換したかが把握できないようにしていたが、原告からの警告書や、サイト上でど
うやって著作権を侵害するかを教示していたこと、ユーザーのチャットルームや掲示板での発
言といった事情から、故意の無知理論によってユーザーの侵害行為についての現実の悪意
はあったと認定した 16。
このように、一定の状況下においては、特定の侵害の事実についての悪意や認識を立証す
るために、故意の無知理論は適用されうる。
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考察
上記のとおり、米国の著作権侵害訴訟において、サービスプロバイダが免責を受けるため
の主観的要件に関し、個別の品目に関する具体的で特定可能な侵害についての認識がない
場合は、免責を受けうると判断した。
ネットワーク環境において、具体的な侵害行為を行うのがサービスプロバイダではなく、その
ユーザーである場合に、サービスプロバイダがどこまでユーザーの特定の行為を認識してい
たかは、同プロバイダの責任を問う前提として重要な問題である。サービスプロバイダが、侵害
行為に関する一般的な認識しか有していなかった場合に侵害責任を負わせるべきかについ
ては、現時点では否定的と解されるが、今後、議論の焦点となることも予想される(他の状況か
ら、サービスプロバイダは当然侵害の事実を知っているべきであるのに、敢えて知ることのない
ように行動した場合には、故意の無知理論を適用されることもあり得る)。
DMCA は、サービスプロバイダの保護を通じてインターネットサービスの革新と発展を企図
するというものであり、かかる考え方はコンテンツロッカーサービスにおいても同様である。
Tiffany (NJ) Inc. v. eBay, Inc., 600 F.3d 93 (2d Cir. 2010)、Global-Tech Appliances, Inc. v.
SEB S.A., U.S., 131 S.Ct. 2060, 179 L.Ed.2d 1167 (2011)参照。
15 In re Aimster copyright Litigation, 334 F. 3d 643 (7th Cir. 2003)。原審は、252 F. Supp. 2d
634 (N.D. IIl, 2002)。
16 なお、エイムスター関連著作権訴訟事件においては、寄与侵害の主観的要件として「故意の
無知理論」が使われている。DMCA による免責要件としての「現実の悪意」との関係は述べら
れていない。
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