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7. 視察報告 7.1. 愛知県児童総合センター 日 時:平成 20 年 12 月 14 日

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7. 視察報告 7.1. 愛知県児童総合センター 日 時:平成 20 年 12 月 14 日
7. 視察報告
7.1. 愛知県児童総合センター
日
時:平成 20 年 12 月 14 日(日)
参加者:澤口隆、太田奈緒、山田夏子、藤澤みどり
愛知県愛知郡長久手町熊張「愛・地球博記念公園内」にある愛知県児童総合
センターを視察した。
愛知県児童総合センター全景
同センターの田嶋茂典センター長から有意義なお話をお聞きすることができ
た。大変な情熱を持ってセンターの運営をなされている点にとても感心させら
れた。
○意味のないこと・無駄なことをさせる(例えば、穴を掘る、土をこねるなど)
○お土産・プレゼントを渡さない
○施設・設備を子どもサイズにせず、大人用のサイズにする(調理台は市販
のものとし、踏み台を用いて作業させる→家の台所でも出来る)
○母親・父親が一緒に参加し、楽しんでいる姿を子どもに見せるように働き
かける
○遊具・おもちゃ等の消毒はせず、自己管理とする
粘土の街
調理スタジオ
7-1
湘北の学生にワークショップを行わせるに当たり、どうしても意味を持たせ
たり、お土産を渡すことを考えたりしがちである。学生の学習効果を考えると、
このようにしたら、子ども達はどう反応するのか、子どもにどんな影響を与え
られたかなどを求めることが多くなる。また、けがなど何かあったらいけない
と思い、制限をしがちになる。
しかし、このセンターでは子ども達が好きなように好きなときに遊んで良い
という環境が作られている。今回の視察のときには、午後から粘土の街をつく
るというワークショップを開催していたが、それ以外は自由に遊んでいた。
ただ遊ばせる公園などとは違い、科学的な興味を持たせる仕掛けが施されて
いて、難しいものとして見せるのではなく、身近なものとして不思議だなとか、
すごいなと思わせるコーナー作りがされていた。
どうしてそのようなことになるのかはわからないかもしれないが、なんでだ
ろうと思わせる、やってみようと思わせることで科学の目をもたせているので
はないかと考えられる。
子どもはもともと好奇心が旺盛なはずなので、それを上手に生かしている。
学生にワークショップをさせる際には、なかなか自由にさせるというのは難し
いが、子ども達の探求心を掘り起こさせるようなものを行わせることができれ
ばよいと感じた。
ミミクリー
ズレテレビ
合成
7-2
7-3
7.2. CSK 大川センター
日
時:平成 20 年 12 月 23 日(火・祝)
参加者:澤口隆、山本滋、山田夏子、髙橋可奈子
京都府相楽郡精華町にあるCSK大川センターを訪問した。
伺った日はクリスマスワークショップを開催していた。参加希望者の中から
抽選で選ばれた子ども達が参加者で、その中からこれまでに参加したことがあ
り、ワークショップがよくわかっているお子さんを各グループのリーダーに任
命している。あらかじめリーダーには緑色のTシャツを渡してあり、他の子ど
も達との差別化を図っていた。グループもすでに決めてあった。自分たちで決
めさせるのかと思っていたが、兄弟などは分けてグループを決めているようで
あった。ファシリテーターとして参加している大人(赤いTシャツ着用)は、
社員とボランティアからなっていてこの日は10名であった。
クリスマスということで午前中はツリーの製作が行われた。様々な材料が用
意され、自分たちの好きに自由に使ってよく、制限も付けられていない。
サンプルで1つ作ってあった。そのサンプルに影響を受けて同じようなもの
が多くなるかと思っていたが、様々なものが出来上がっていた。グループによ
り、まず話し合いでどのようなツリーを作るのかを決めさせ、作業に入る。そ
の中でグループのリーダーにより、まとまって作業するグループ、好き好きに
進めるグループと分かれるが、特に大人がまとめようとすることはせず、温か
く見守っている様子であった。
学生達にワークショップを行わせるときには、子ども1人につき1人または
2、3人に1人の学生がつくように人数を決めてしまうが、ここでは1グルー
プに1人、または2グループに1人ぐらいの割合であった。
時間内に出来上がらないかと思ったが、何とか仕上げていた。
7-4
午後からはクリスマスケーキを作った。スポンジ・フルーツは用意されてお
り、円錐の形にスポンジを詰めて、生クリームフルーツを重ねていく。包丁は
全員にやらせるのではなく、代表の子が切ることにしているが、ほとんど切っ
てあるので使わなくても作れるように準備してあった。生クリームをたくさん
使ってもOKなので、自分たちの1袋を使い終えて2袋目に入るグループもい
た。甘いにおいでおなかいっぱいになった。
その後、グループで振り返りシートを記入し、最後に振り返り会を行う。各
グループで振り返りシートを元に発表し、質疑応答を行った。本学の学生でも
質疑応答はなかなか出来ないのだが、小学生低学年の子ども達も一生懸命質問
を考え、その答えを考えていた。親御さん達は朝子どもを送ってきて一旦家に
戻り、この振り返りの会に間に合うようにまた戻ってきていた。自分の子供達
が発表する様子を後ろで見学し、写真撮影・ビデオ撮影をしている親御さんが
多く見られた。
7-5
私たちはこれで失礼したが、その後、作ったクリスマスケーキを食べるパー
ティが行われたそうである。
今回、愛知県児童総合センターとCSK大川センターを見学させて頂いたが、
湘北の学生のワークショップに関しては、CSK大川センターのやり方の方が
参考にしやすいものであった。1日の流れや作業が決まっていて、その通りに
進行していくという方法のワークショップでないと学生には難しいと思われる。
すべて自由にというのは安全面でも難しいと思われる。しかし、運営の情熱と
いうのは愛知県児童総合センターの職員のみなさまを見習うべき点が多かった
と思う。
7-6
7.3. 大阪大学附属図書館
【概要】
日
時:平成 21 年 8 月 10 日(月)
13 時~15 時
総合図書館、16 時~17 時
理工学図書館
参加者:高橋可奈子、林真弓、飯田幸子、藤澤みどり
目
的:リニューアルオープンされた図書館の施設を見学するとともに、実
践されているさまざまな学習・教育支援への取り組み、特に図書館
職員とTAによる「学習サポート」について、また機器類の貸出に
ついて具体的に情報交換する。
【報告】
図書館は、耐震・改修工事にともない「ラーニング・コモンズ」という新しい
機能を追加して、平成 21 年 6 月に総合図書館、5 月に理工学図書館がリニュー
アルオープンした。
見学時は夏休み中であったが、いずれの図書館も多くの学生が利用しており、
学びに対する意識の高さが感じられた。ラーニング・コモンズ部分の什器は、
本学図書館が採用したメーカーと同じであったため、親近感を持って見学する
ことができた。
○総合図書館
・館内は階層ごとに機能がわけられ、テー
マカラーが設定されている。ラーニング・
コモンズは、活動的な中にもやわらかな印
象を持つオレンジ色である。
*ラーニング・コモンズ
<オレンジ>
会話可、PC 利用可
*マルチメディアネットワークゾーン(端末ゾーン) <グリーン>
会話不可、
PC 利用可
*サイレントゾーン
<ブルー>
会話不可、PC 利用不可
・パソコンはマルチメディアネットワークゾーンに集約されている。設置、運
用に関しては、サイバーメディアセンター(本学の ICT 教育センター)の管轄
となるものが多い。
7-7
・
「ラーニング・コモンズ」の利用者への案内については、館内に 1 カ所「ラー
ニング・コモンズは自主的、自立的な学習活動を支援するための「学びの場」、
「創造の場」、
「発想の場」です。」と掲出しているのみであるが、利用者とりわ
け学生たちは用意された<場>を図書館のねらい通りに有効活用している様子
がうかがえた。
・入館者数は年々減少の傾向にはあったものの、ここ数年は減少してはいない。
ラーニング・コモンズの設置計画は、自主的、自立的な学習支援をするためで
あり、入館者数に危機感を抱いたわけではないということであった。利用者数
についてはリニューアルオープン間もないこともあり、今後の動向をみきわめ
たいそうである。ただし、ラーニング・コモンズの機能を加えたリニューアル
オープン以来、今まで図書館に来ていなかった学生が利用するようになった印
象を持っているとのことであった。図書館の利用のしかたに幅ができたという
ことであろう。
・授業やゼミとの連携については後期からの実施を予定している。授業におけ
るプレゼンテーションの実施場所として利用できるのではないか。また、ラー
ニング・コモンズを教員がどのように使うかについては、理事でもある図書館長
と大学教育実践センターとの連携により推進されるようである。
・学習支援のため、専門分野を活かした大学院生による TA を配備している。
TA の対応時間は、時間割を組むように専門分野と担当時間を明示しており、利
用者にわかりやすくなっている。図書館職員とは相互に連携をとり、利用者の
サポートをしている。見学時には中国からの留学生がカウンターにて対応中で
あった。対応の様子についての質問に大変ていねいに回答してくださり、好感
を持った。学生も相談しやすいであろう。
7-8
・中華テーブルを思わせるディスカッシ
ョンのためのボードや移動可能なホワイ
トボードはかなり活発に使われており、
汚れが気になるほどである。
・携帯電話ブースが設置されている。利
用はさほど多くないようであるが、利用
制限する場合には、代替手段を提示する
ことで利用者に納得してもらうことが必
要であると感じた。
・一息入れるくつろぎの場所として、自動販売機が館内に設置されている。滞
在型図書館の利用者にはニーズがあると思われる。図書館とは別の場所に、カ
フェやラウンジの機能を備えたスチューデント・コモンズが設けられている。
ここには IT サポートの TA スタッフも常駐しており、図書館のラーニング・コ
モンズよりも気軽に利用ができるようである。時間の都合上、見学できなかっ
たのは残念であった。
7-9
・選書ツアーは、Web 選書の方式で実施しているとのこと。直接店頭に出向い
てではなく、書店の Web サイトを活用している。学生同士が本についての話を
しながら現物を手にとってみるという楽しさはないかもしれないが、本学でも
行事や学科のイベントなどにより選書ツアーの日程調整に苦心をしており、試
みてもよいかもしれない。
・衛星放送を視聴できるコーナーも用意されている。視聴覚資料もここにある
が、利用は限定されているようである。
○理工学図書館
・ラーニング・コモンズは総合図書館と
同じオレンジ色を基調とするが、さまざ
まな色を効果的に使用している。かわい
らしい印象がある。
・入口を入ってすぐの場所にラーニン
グ・コモンズとラウンジが設けられてい
る。奥に進むほど静粛なゾーンとなり、
使い分けがされている。
・ラーニング・コモンズの中央円形カウ
ンターに TA が常駐し利用サポートをし
ている。そのカウンターを取り巻くよう
に PC 端末が利用できるテーブル、さら
に外側には可動式の什器が用意されてい
る。円形であるため、やわらかな感じで
ある。
・TA は 15 分から 20 分のデータ
ベース講習の講師としても活躍し
ている。ラーニング・コモンズで
の講習は、参加していなくても声
が聞こえてくることで活動の様子
から刺激を受けることもあるとい
う。オープンなスペースであるこ
との効用である。
7-10
・貸出用として用意されているノートパソコンの台数は少なめであるが、多く
の学生が持参しているためである。ニーズに応じたサービスの提供が肝要であ
る。
・ラウンジスペースには新聞や雑誌が備
えられ、くつろぎの場所として、また、
待ち合わせや簡単な打ち合わせ場所とし
ても活用されている。
・図書館に足を運んでもらうきっかけと
して、<サイエンスカフェ>を実施した
り、ギャラリーでの写真展を開催したり
している。見学時にはギャラリーで鉄道
研究会の写真展が開催されていた。学生によるサークル活動の発表の場として、
図書館を活用することも考えたい。
・図書館を「集まれる場所」にしたいという意向を持っている。そのため、グ
ループの規模にあわせて適切なスケールで集まることができ、グループワーク
をしやすい環境を整えているという。結果として、自ずと足を運んでもらえる
のではないかと考えている。企画、イベントなどを仕掛けることも必要である
が、巧まずして利用されるという基本に立ち返ることも必要であると感じた。
・館内での飲食などについての見回りを 1 日に 1 回実施し、
「注意カード」を利
用して利用マナーへの意識を喚起している。
ラーニング・コモンズという基本方針を持ちながら、それぞれの図書館が、
利用者のニーズを尊重したサービスを展開している。この点が成功の秘訣では
ないかと思われる。
7-11
7.4 Boston/ UMass および MIT 視察(2009.2.9-16)
間:平成 21 年 2 月 9 日(金)~2 月 16 日(木)
期
参加者:澤口隆、北川盈雄、本池巧、松岡良樹、藤澤みどり
7.4.1. 視察の目的
2009 年 2 月 9 日~16 日にかけて、アメリカマサチューセッツ州ボストン視察
を行った。ボストン視察には大きく2つの目的がある。1つは、ラーニング・
コモンズの先駆例として有名なマサチューセッツ大学アマースト校図書館およ
び Amhrest 地域の5大学を視察し、ラーニング・コモンズの効果的な運営方法
を学ぶことで、学生によりよい学習環境を提供することを目的としている。も
う1つは、子ども向けワークショップや開発に実績のある MIT メディアラボを
視察することで、DITO 演習で企画している子ども向けワークショップの参考に
するとともに、地域を含めたコンピュータ教育の環境作りについて学ぶことで
ある。
7-12
7.4.2. 旅程
日
次
月 日 曜
1 2009 年
2月6日
(金)
発着地/滞在地名
現地時間
摘
要
/
訪
問
成田空港
09:30 頃
成田空港第2ターミナルへ集合
成田発
12:00 発
空路、ボストンへ
シカゴ乗換
08:20 着
ボストン着
10:15 発
ボストン滞在
13:30 着
(PM)
先
(PM)
・Boston Public Library
・Harvard University (Science Center)
パークプラザホテル泊
2 2月7日
ボストン滞在
(土)
(AM)
・Museum of Science, Boston
(PM)
・FabLab @ South End Technology Center
パークプラザホテル泊
3 2月8日
(日)
アマーストへ移動
・National Jurrish Book Center
(PM)
・ Eric Carl Museum of Picture and
アマースト滞在
Artbook
・Mount Holyoke College
・Amherst College
キャンパスセンターホテル泊
4 2月9日
アマースト滞在
(月)
(AM)
・UMass Amherst
(PM)
・Smith College
キャンパスセンターホテル泊
5 2 月 10 日 ボストンへ移動
(火)
・MIT Media Lab
ボストン滞在
6 2 月 11 日 ボストン発
(水)
(PM)
ニューヨーク乗換
パークプラザホテル泊
07:30
空港へ
09:45 発
空路、帰国の途へ
11:00 着
12:10 発
7 2 月 12 日 成田着
16:20 着
(木)
7-13
到着後、通関手続き後解散。
7.4.3. Amherst
5大学図書館視察
7.4.3.1. Five Colleges について
今回訪れたマサチューセッツ州アマースト市は、ボストン市から西へ約
145km の位置にある。この地域には 5 つの大学があり、よってこの市は別名
“Town of 5 Colleges”とも呼ばれている。象徴的に言えば、住民 5,000 名規模
に対し、学生数 25,000 名規模の典型的な大学街である。5 つの大学とは、マサ
チューセッツ大学アマースト校、マウントホリヨークカレッジ、アマーストカ
レッジ、スミスカレッジ、ハンプシャーカレッジである。これらの 5 つの大学
はコンソーシアムを構成しており、この 5 つの大学内ならば、どの大学の授業
でも自由に履修することができる。また、図書館などの相互利用も可能になっ
ている。各大学間は PVTA(Pioneer Valley Transit Authority)のバスで接続され
ており、教職員や学生など大学構成員は無料で利用できる。今回、澤口先生の
依頼で紹介頂いたマサチューセッツ大学アマースト校の図書館員のシャロンさ
んのアレンジにより、2 月 8 日(日)と 9 日(月)の 2 日間、マサチューセッツ大学
アマースト校、マウントホリヨークカレッジ、アマーストカレッジ、スミスカ
レッジの図書館視察を行うことができた。
7.4.3.2. UMass Amherst (W.E.B. Du Bois Library)マサチューセッツ大学ア
マースト校
(図書館長の視点から)
今回の視察目的であるラーニング・コモンズ(1)で世界的にも知られている大学
である。学部学生 20,000 名規模、大学院生 2,000 名規模の州立大学であり、上
述した 5 つの大学でも群を抜いて大きな大学である。しかしながら、ハーバー
ド大学など米国を代表する名門大学が数多いマサチューセッツ州においては、
日本での知名度は必ずしも高くはない。
ボストン市にはボストンコモン、アマースト市にはアマーストコモンがあり、
各々が歴史的意味も含めて、市の中心的な公共の場の役割を果たしている。上
述したラーニング・コモンズは直訳的には「学習のための公共の施設」という
ことになろうか。マサチューセッツ大学アマースト校では、2005 年に地上 28
階建ての W.E.B. Du Bois Library のメインフロア(地下 1 階に相当)にラーニン
グ・コモンズを設置した。
7-14
W.E.B. Du Bois Library(ウィキペディアより転載)
次ページにその平面図を示し、この大学のラーニング・コモンズのコンセプ
トを考察しよう。床面積は 25,000ft2(平方フィート)で、この面積は一辺が約 50m
弱の正方形の面積に相当する。旧施設からの改装工事が大規模なものであった
ことは容易に想像がつく。
7-15
W.E.B. Du Bois Library のラーニング・コモンズ(2)
図の吹き出し部に注目して欲しい。それぞれの意味は後に解説するが、図書
館という場に IT テクノロジーによる学習支援体制を敷設すると共に、学生の多
彩な学習形態に対応できる環境(グループ学習や相互ディスカッションなど)、更
7-16
にはキャンパスサービスに該当するコーナーをも併設した場になっていること
が、一目で理解できるであろう。
図中の点線で囲んだ部分は、一般人(ただし一部の席)も含めた学習席に該当す
るもので、一人席やグループ学習席となっている。約 200 台の PC が設置され
ている。平日 24 時間開館であり、学生の多くが学内の寮で生活していることも
あるのであろうが、午後 8 時頃でも満席、午前 8 時頃でも来館する学生がそれ
なりの数いるようである。私どもが視察したのは午前中であったが、図に示す
ように行列ができる状態であった。
行列のできる図書館
従来型の静かな環境で勉強する場は、このビルの 2 階と 3 階にある。また、3
階には Reserve & Media のフロアーがあり、ここではラップトップコンピュー
タや各種 IT 媒体などの貸出し業務が行われている。
さて、以下に通常の図書館という観点からは異質な感を受けた事項を列挙し
ておく。一つは平面図の右上にある “Writing Center”である。この“Writing
Center” はもともとは図書館とは別の部署にあったものである。ここでは、学
生がレポートや論文などを書く際の文章作成技術のサポートをしている。また、
図中の“Academic Advising & Career Service”は、本学に例えれば学生部と
CS 課の出張デスクと言うことのようである。出張デスクを設ける理由にはキャ
ンパスの広さも当然関係していると思われるが、ときには各部署がこの場を使
用して自部署のイベント開催などを行っているようである。言われてみれば成
程とも思うのであるが、そのときの印象ではこうした形の運用もあるものかと
感心させられた。
なお、ラーニング・コモンズ内での飲物等持込みについて述べておこう。今
7-17
回視察したどこの大学の図書館でも、密閉式カップであれば飲物持込みは可で
あった。どこでも自動販売機があり、ノートなどの文具や CD 類の他に飲物や
スナックなどの購入が可であった。また、小さな喫茶店風のカフェも設備され
ていた。日本で飲物持込み可が根付くかは俄かには信じがたいが、日本と米国
の文化の違いに接したことは良い経験であった。
では、このマサチューセッツ大学アマースト校のラーニング・コモンズ視察
の印象を述べておこう。結論的に言えば、世界的にもその名を知られる施設だ
けのことはあって、その先見性、その規模、そのサービスの多様性などは、視
察した他大学の施設に比べても群を抜いている。したがって、事例の学習とい
う観点からみれば、ここから学ぶことは非常に多い。なお、Jay Schafer 図書
館長の言によれば、現在、教員を対象にした Teaching Commons や 研究者を
対象にした Research Commons を計画中とのことであった。
参考文献
(1)米沢誠
インフォメーション・コモンズからラーニング・コモンズへ:大学
図書館におけるネット世代の学習支援。カレントアウェアネス。(289), 2006,
9-12.
(2)W.E.B. Du Bois Library のパンフレットより
(図書館職員の視点から)
地下 1 階地上 25 階建ての図書館は外観も威
風堂々として、キャンパスのランドマーク、あ
るいはシンボルのような印象を受けた。レンガ
造りであることから、レンガの落下危険を防止
するため周囲が柵で囲われている。
米国の学生は、とにかくよく勉強している。
それは、図書館の 24 時間という開館時間にも
現れている。土曜日こそ 9 時から 21 時までの
開館時間であるが、日曜日の 11 時から金曜日
の 21 時までは閉館することがない。眠らない
図書館なのである。金・土曜日の夜は週末でも
あり、学生もリフレッシュを必要とするであろ
7-18
うが、日曜日の夜は翌日からの授業に備えて図書館にこもる学生も少なくない
という。ニーズに合わせて開館時間が設定されているのである。
また、図書館は希望すればだれでも利用ができる。特に登録をする必要もな
いので、ビジターであっても利用は可能。ただし、24 時までには入館しなけれ
ばならない。24 時以降早朝までは、入館時に図書館の利用カードをかざす必要
がある。退館はいつでもかまわない。
夜、果たして利用者はどのくらいいるのだろうか?深夜 24 時前。図書館は暗
い闇の中、煌々ときらめきを放っている。ドキドキしながら扉を押して入館す
ると入口のところにもすでに何人かの学生がいる。階段をおりて、いざラーニ
ング・コモンズへ。真剣なまなざしの学生が一人、二人...それぞれが思い思い
のスペース、思い思いのスタイルで勉強している。二人で利用しているグルー
プもある。数えてみれば 67 人。火曜日真夜中の利用状況である。いやはや、利
用する学生を目の当たりにしてただ驚愕するばかり。24 時間開館の実態なので
ある。設定された開館時間が正当な理由がここにあった。そしておそらくは、
ひとたび入館すれば可能な限り長時間の滞在となるであろうことは容易に想像
がつく。では、深夜に必要となった文房具や空腹を満たすための軽食、頭痛薬
の調達はどうしているのか。キャンパス内であり、もちろん近くにオープンし
ているコンビニエンスストアなども見当たらないとなれば、図書館内でまかな
うことができるようにしなければならない。よろず屋さながらの自動販売機が
用意されているというわけである。鉛筆、ボールペンから電卓、インデックス
カード、USB、DVD-R、ガム、チョコレート、眠気覚ましや頭痛薬まで全 31
種類の商品を取り扱った販売機が設置されている。まずサービスありきではな
く、長時間滞在時における利用者のニーズが的確に把握され、サービスが提供
されていることがよくわかる事例であった。もちろん、昼間は入り口付近のカ
フェがよく利用されており、しっかりと使い分けがなされている。
飲み物については、フタ付の物であれば持ち込みは可能。机の脇には必ずと
いってよいほど置かれており、トラブルもないという。特別なことではなく、
日常のことになっているようである。
携帯電話の利用については、専用のボックスが館内の各所に設けられている。
円柱形の公衆電話ボックスのようなもので、中には椅子が置いてあるだけであ
る。扉をしめてしまえば、音は外にはまったく聞こえない。禁止するならば、
利用できる代替場所を設ける必要があることを感じた。
7-19
昼間の利用状況であるが、まさににぎわっている、活気があるという印象を
受けた。さまざまな閲覧席のタイプに合わせて自由に利用している。グループ
での利用も可能であるが、一人で勉強
している学生が多いようである。透明
なパーテーションとホワイトボードで
区切られたスペースは、個室風であり
ながら中での学びの様子が垣間見える
ことで他の学生への刺激にもなりそう
である。
テーブルの色はすべて赤で統一されており、見た目にも美しい印象を持つ。
PC の利用については、常設されているコーナー、持ち込み PC が利用できる
よう情報コンセントが用意されているコーナー、短時間利用(ネットカフェ簡
易版のイメージ)のコーナーなど利用目的に応じて使い分けがされている。
「行
列ができる図書館」という代名詞は、短時間利用のコーナーで実際に見られる。
利用待ちの行列は確かに圧巻である。行列ができるほどににぎわっているとも
いえる。しかし、レファレンス対応においても「(必要な資料が)今すぐに利用
できなければいらない」
「ないならもういい」という具合に、なかなか待つこと
ができない本学の学生にはない文化なのかもしれないとも感じた。
ただ、学内からは利用状況が確認できるサイ
トが用意されており、必要に応じてチェックを
した上で利用ができるようになっている。利用
者の立場に立つと、図書館に足を運んだものの
PC が利用できなかったという状況を避けるこ
7-20
とができるので、役立ちそうである。同様のサービスが本学においても活用で
きれば理想的である。
この他に、貸出用のノート PC も用意さ
れており、ラーニング・コモンズとは別の
3 階にある「Reserve and Media」カウン
ターで貸出、返却を行っている。貸出時間
は 4 時間。あまりに短時間であることに驚
いたが、必要なときに集中して利用すると
いう習慣なのであろう。そして、延滞する
と 1 時間につき 20 ドルの延滞料金がかか
る、利用にあたっては自己責任という規則
になっている。地震で避難をした際には、
借用した PC が盗難にあうのではないかと
心配をしている学生もいたというエピソー
ドには苦笑するばかりであるが、それほど
に責任を持った利用が求められる。同時に自覚を持って利用していることがよ
くわかる事例であった。
とにかく学生たちはよく勉強している。この学生に対応する図書館員も専門
性を持って仕事に臨んでおり、大変有能である。学生の学びをサポートするた
めにどのような環境を整え、どのようなサービスを提供するべきなのか、さま
ざまな面から考えなければならないと大きな刺激を受けた見学となった。
7.4.3.3. Mount Holyoke College (LITS: Library, Information & Technology
Services) マウントホリヨークカレッジ
(図書館長の視点から)
マウントホリヨークカレッジは、1837 年神学校として設立された学校で、学
生数 1,500 名規模の女子大である。この大学図書館は、前述のマサチューセッ
ツ大学アマースト校が 2005 年にラーニング・コモンズをオープンしたのに対し
て、2003 年にインフォメーション・コモンズを開設したことで知られている。
この大学の図書館のメインビルディングは、いわゆる米国東部地区では伝統
的な茶色のレンガ造りの建物で、2 階にある図書館スペースはオックスフォード
風(シャロンさんの言)の建築美が印象的な部屋であった。この部屋の印象を短い
7-21
言葉で表現すれば、伝統的な図書館の雰囲気を活かした書棚や机の配置の中に、
ラップトップコンピュータを使いながら学習できる環境を整えたということで
あろうか。すでに述べたことでもあるが、もちろん飲物持込み可である。また、
この図書館の入口でもある建物の 1 階にはカフェ(Rao’s Cafe)がある。シャロ
ンさんの説明では、図書館内にカフェを設けた理由には、教室や研究室とは違
って、図書館を先生と学生が対等な立場で会える場としたいという考え方があ
ったということである。こうした考え方は、英国のウォーリック大学のラーニ
ング・グリッドに通じるものがあるような気もする。
さて、この建物の 2 階がこの大学のインフォメーション・コモンズへの入口
になっている。インフォメーション・コモンズには、無線 LAN の敷設の下 50
台規模のコンピュータやプリンタなどの機器がシステム化されており、更にリ
ラックスして学習できるソファーなどが備えられているスペースもある。ただ
し、ソファーは横になることもできる長めのもので、次のアマーストカレッジ
の同種の場所と比べると、学習している学生の姿は日本ではあまり見かけない
位リラックスしている。日本と米国の文化の相違であろうか。
こ の 部 屋 か ら 一 つ 隣 の 建 物 へ 行 く と 、 Media Teaching や Faculty
Development Area など、内部がパーティションによって目的別に区分けされ
た部屋がある。以上述べた施設を管理運営するこの大学の組織は LITS(Library,
Information & Technology Services) と呼ばれている。2005 年には当該インフ
ォメーション・コモンズに対して、ACRL(Association of College and Research
Libraries)より Excellence in Academic Libraries Award が授与されている。
米国でも評価されており、また学校規模が本学とあまり変わらないことなどを
考慮すると、違った観点からのアプローチではあるがマサチューセッツ大学ア
マースト校と同様、学ぶ点が多々ある大学であろう。
(図書館職員の視点から)
レンガ造りの重厚な外観をもった図書館である。中に入るとすぐにカフェが
ある。さほど広いわけではないが、空間をうまく利用してテーブル、椅子が配
置されている。図書館利用者のくつろぎの場としてだけでなく、教員や図書館
員がコミュニケーションをとる場として有効活用されているという。図書館の
<場>を考えるときに重要な視点である。
7-22
カフェから一歩図書館に進むと、天井の
高い開放的な空間がひろがる。ここでは、
人文社会科学系の参考図書や雑誌や新聞、
マイクロフィルムなどが利用できる。大き
めな窓には美しいステンドグラスがはめ
込まれており、教会を思わせるような雰囲
気である。自ずと静粛な空間が保たれるの
ではないだろうか。
もちろん、自分のパソコンを持ち込んで
利用することも可能である。また、学生が
好みの学習スタイルを選べるように、テー
ブル席だけでなくソファも用意されてい
る。ソファにくつろいだ姿勢で本を読んだ
りパソコンを使ったりしている様子が見
られた。
右写真の左手奥にあるらせん階段をの
ぼった中二階部分には、レファレンスルー
ム と と も に < SAW Center > が あ る 。
「SAW」とは、<The Speaking, Arguing,
and Writing (SAW) Program>を意味し、
話すこと、議論すること、書くことについ
て学生が相談できる場所である。対応して
いるのが同じ学生ということであり、ピア
カウンセラーとなって機能している点が
興味深い。学生同士であることにより、お
互いの思いが通いあうというメリットが
あるのかもしれない。ポスターを掲示して
PR していた。
7-23
この大学図書館見学で印象に残ったのが多様な閲覧席である。特にソファの
配備に目を引かれた。個人、あるいはグループ用のテーブル閲覧席だけでなく、
必ずソファ席が用意されている。パソコンをのせるなどのテーブルつきのもの
もあるが、利用者は足を伸ばしたり、ひざの上にパソコンをのせたりといった
思い思いの姿勢で勉強をしている。また、ふた付きのものであれば、飲み物も
OK である。これらの利用マナーや利用行為に対し、日本の大学図書館ならば、
直ちにイエローカードやレッドカードが提示されそうであるが、これこそがま
さしく<マウントホリヨークスタイル>なのであろう。文化の違いを感じた場
面であった。面白いのは休憩場所として用意されているスペースに、LEGOや
パズルゲームなどが置いてあったことである。気分転換のツールなのであろう。
滞在型図書館として、利用者からはどのようなニーズがあるのか、図書館とし
てどのように答えるかについては、ポリシーをもって見極めなければならない。
インフォメーション・コモンズには、
<Technology Consultant>が常駐し、コ
ンピュータの利用に関する相談に応じて
もらえる。ハード面やソフトの使い方、
機器類の操作方法などについては
Digitization center の MEWS(Mediated
Education Work Space)のコンサルタン
7-24
トに問い合わせるという具合に、目的に応じて使い分けがされている。
コンサルタントの案内表示(黄色い旗)の足元にはセロテープとホチキスが
備え付けられてあり、何処の国の学生も必要としているものは同じなのだとい
うことに苦笑してしまった。
左の写真は、インフォメーション・
コモンズを俯瞰したものである。柱周
りのデッドスペースになりそうな場所
にも、カウンター式のテーブルを取り
付けて活用している。パソコンを有効
に利用しながらの<学ぶ場>になって
いる。資料をゆったりと広げても余り
ある大きめなテーブル、パソコン、人
的支援の3つが融合することによって、
インフォメーション・コモンズが成立
することがよくわかる。
パソコンの技術的なサポートを実施しているのが<Digitization center>で
ある。MEWS (Mediated Education Work Space)と呼ばれ、専任スタッフと
ともに学生スタッフ<Student Media Consultant>が活動している。入口には
曜日、対応時間帯(午前・午後・夜間のエリア内に時間を表示)と学生の名前
が掲出されており、いつ、誰に問い合わせたのかがわかりやすい。夜間 19 時~
22 時の時間帯は学生スタッフに任されているようである。
この<Media Teaching Area>で対応できる内容については、アイコンが表示
されたポスターにより一目瞭然である。シンプルなデザインながらわかりやす
く伝えられており、こうした掲示物も大変参考になる。
<LITS: Library, Information & Technology Services>と名づけているとお
り、サポート体制がしっかりしている。図書館内各所に設けられたサポートデ
7-25
スクは役割を明確にし、その内容を明示しているので、利用者が迷うことなく
必要なサービスが受けられるようになっている。利用者の視点に立ったサービ
スの重要性を改めて感じた。
さまざまな点において示唆に富む大学図書館であった。
7.4.3.4. Amherst College (Robert Frost Library)アマーストカレッジ
(図書館長の視点から)
アマーストカレッジは大学院や研究施設を設けない著名な教養型大学
(Liberal Arts College)で、米国のこの種の大学では常に最上位グループにラン
キングされている。学生数は 1,600 名規模である。日本人には、新島襄が留学
した大学として知られている。
ここでは、Robert Frost Library を訪ねた。建物は比較的新しいのか、フロ
アー全体や什器類は小奇麗な感じであった。また、係員の説明では、空間を広
く感じることができるよう、書棚等の高さを低くしてあるとのこと。コンピュ
ータを設備した一人用の勾玉型机(日本語的表現)のスペースはかなり広い。隣と
はパーティションで区切られている。建物内は無線 LAN が敷設されており、日
本でも通常目にするパソコン、プリンタ関係のシステムが完備している。もち
ろん、グループ学習のためのコーナーもある。他の大学と比較して一つ印象的
なコーナーがあった。下の写真に示すリラックスして本を読むことができるコ
ーナーである。この種のコーナーは他大学でも見られたが、どういう表現が適
切なのか多少迷うが、他大学のコーナーにはジーパンスタイルの若者向けとい
うか米国文化の匂いを感じた。
リラックスコーナー(アマーストカレッジ)
7-26
ここでの工夫であろうか、あるいはこの大学の校風でもあろうか、写真のよ
うに視界が建物内からキャンパスに向くように椅子が配置されており、一人静
かに本を読むという感がある。このスタイルの方が日本人の感性(多少古典的か
もしれないが)にはマッチするのかもしれない。
(図書館職員の視点から)
ここは、同志社大学の創設者である新島襄が卒業した大学であり、同志社大
学とは姉妹校の関係でもある。キャンパスに立てられた道標には、京都までの
距離<Kyoto 10977km>が示されていることを案内されたときには日本に思い
をはせ、大変うれしくなった。
図書館は、入口付近はゆったりとスペースをとってカウンターが設けられて
いる。その近くには、気軽に PC が使用できる Library Computers のコーナー
がある。PC はテーブルにはめ込まれており、ガラス面を通して画面を見ながら
操作をする。検索をしながらメモを取るときには都合がよいが、使い勝手はい
かがなものだろうか。いささかの疑問を持った。
地階には私語厳禁の学習スペースが用意されている。ほとんどの席に利用者
がいて、テーブルいっぱいに資料を広げ、パソコンを使用して勉強している。
スペースが有効に活用されていることがよくわかる。テーブルはさまざまな資
料を広げても十分な大きさで、使い勝手が良さそうである。休憩だろうか、資
7-27
料探し、あるいは相談に行っているのか、資料を広げたままで利用者がいない
テーブルもある。つまり、長時間滞在型のスペースとして利用されているので
あろう。静粛な場所ということもあり、一人集中して勉強するには居心地も良
さそうである。
パソコンの利用にあたっては、必要なサポートが受けられるようになってい
る。また、DVD 等の視聴も可能である。
館内の閲覧席には、グループワーク、ディスカッションができるような大型
のテーブル、キャレルデスクといわれる一人用の閲覧席などさまざまなタイプ
のものが用意されている。個人だけでなく、グループでの学習にも配慮されて
いる。
書架スペースの中にあっても空間を効果的
に活用し、ソファとテーブルが置かれていた。
ちょっとした図書の閲覧だけであれば、大き
なテーブルや椅子でなくても利用者にとって
は十分である。
限られたスペースを有効活用するヒントに
なりそうである。
訪問したときには、ちょうど 5 大学間の ILL
(Inter-library Loan:図書館間相互貸借)配
送便が届いたところであった。専用ボックス
(青い箱)の中には無造作に図書や文献が入
れられている。専用ボックスであることから、
厳重な梱包をせずに、簡便な手続きで相互貸
借が行われている。
コンソーシアムを組んでいる 5 大学間であるからこそのメリットといえるで
7-28
あろう。本学図書館でも、厚木市立中央図書館との相互協力においては、専用
ボックスを利用しており大変手軽に貸借が行われている。利用者にとっては必
要な図書がスピーディに届けられる、図書館職員にとっても処理が容易になる
というシステムは有用である。
図書館サービスが着実に実施されており、安心感のある落ち着いた雰囲気が
印象に残っている。
7.4.3.5. Smith College (Neilson Library)スミスカレッジ
(図書館長の視点から)
スミスカレッジは、マウントホリヨークカレッジと同様、米国ではセブンシ
スターズ(19 世紀に設立された名門女子校の総称)と呼ばれる女子大であり、学
部学生数の規模は 2,500 名程度である。
ここでは、Neilson Library を訪ね、Christopher B. Loring 図書館長にお会
いした。館長との懇談で印象的だったことは、インフォメーション・コモンズ
的な図書館を作るためのスペースの確保に多大な努力が必要であったと言うこ
とである。見学を通した印象からも、本棚などの撤去(したがって、本などの撤
去)には傍目にも努力の跡が感じられた。このことは、本学においてもやがては
現実の問題となる可能性がある課題であろう。ここでのインフォメーション・
コモンズ的な設備は、前述のアマーストカレッジと同レベルの感がした。ただ、
別棟にあったマルチメディア関連の部屋の机の配置が印象的であった。コンピ
ュータを乗せた机を部屋の壁に沿ってコの字型に配置し、真中は説明など話を
したり聞いたりするときに集まれるスペースとしてあることである。こうした
タイプの教室は他の大学では紹介されなかった。大変参考になる印象的な教室
であった。
(図書館職員の視点から)
ファイブ・カレッジ(Five Colleges)間の移動に便利なバスを利用しての訪
問であった。車窓からの豊かな自然の景色を眺めながら、満員の学生たちとと
もにバスに揺られてしばし学生気分を味わう。
図書館は、歴史ある大学らしくどっしりとした外観である。
入口から入るとすぐにインフォメーション・コモンズが広がる。
7-29
個人ブースタイプのキャレルデスク
では、パソコンを使用しながら勉強を
している。肘掛のついた大きな背もた
れの椅子は、長時間の利用にも快適に
過ごせそうである。となりどうしの仕
切りが半透明なので閉塞感はない。大
きな窓からの採光もよく、明るい雰囲
気である。そしてここでもソファが置
かれている(写真右奥)。
見学時にはひとテーブルに利用者が
一人という利用状況であったが、椅子
は複数脚用意され、いつでもグループ
での利用が可能である。仕切られた奥
側は書庫スペース。中段の本が抜かれ
ているのは、防犯の意味もあるという。
書庫部分のやりくりによってインフォ
メーション・コモンズのスペースを作
り出したという説明に共感を覚えた。場所の創出には悩むところである。通路
沿いのわずかなスペースも有効活用され、さまざまなタイプの閲覧席が用意さ
れている。利用者の近くを通ってもさほど気にならない様子であった。
机、椅子ともに可動式のものを採用しているのはここだけである。グループ
の人数に応じて、自由に組み替えられるようになっている。
7-30
また、いつでも議論が始められるよ
うにという考えのもと、可動式のホワ
イトボードも各所に用意されている。
ディスカッションを好む米国らしい発
想といえるであろう。
◆スミスカレッジの Christopher B. Loring 図書館長との懇談メモ
・オープンスペースを作り出すため、書架を整理したり、利用頻度の低いマ
イクロフィルムを書庫に入れたりした。外の景色が見えるよう、窓際の場
所に設置した。<窓>は重要。スタッフルームも窓のあるほうが良い。
・スタッフ 51 名は毎月の会議でコミュニケーションをとっている。
・図書館は、教員が利用しなければ学生のためのスペースとはなり得ない。
教員に足を運んでもらうため、「Book for Faculty」という取り組みを行っ
たりしている。教員は資料を大事にしている研究者である。
⇒
教員との連携を模索している様子がうかがえた。学生の図書館利用に
は教員との連携がポイントとなるのは何処も同じ。
・お互いに話すこと、コミュニケーションすることでアイデアがうまれる。
図書館はクロスロード、ニュートラルスペースとして活用されることを目
指して、インフォメーション・コモンズが設けられた。
・ファイブ・カレッジ(Five Colleges)のコンソーシアムを作り、図書館利
用についても貸出や相互協力を実施。特に UMASS の予算が少なく、ほか
の 4 大学予算が潤沢であったときには 5 大学で 1 冊を購入し、ILL で相互
貸借を行ってきた。共同所有することで、所蔵スペースの問題もやや解消。
ただし、予算については厳しい状況になっており、大学は「友の会」制度
を推進して寄付金を募っている。
・スペースの確保が課題。特に、製本雑誌と参考図書をどうするかが直近の
課題となっている。
・地域向けのイベント企画としては、アマーストレファレンスコーナーにお
いて、「お金のため方」「家を買うにはどうするか」「ライフプランニング」
といったキャリア講座を実施している。クッキーとお茶を出して、お昼の
時間帯、なるべく短く 1 時間くらいの実施である。図書館スタッフも参加。
7-31
7.4.3.6.
Hampshire College ハンプシャーカレッジ
ファイブ・カレッジ(Five Colleges)の中でも最も新しい大学である。専攻
も農学、建築学、コンピュータ科学、経済学、文学、芸術など幅広く、とりわ
け芸術や演劇専攻の個性的な学生が学ぶ大学でもある。
車窓からの見学であったが、建物も他の大学に比べて近代的な印象であり、
新しい大学であることが見て取れる。
7.4.3.7. 総括(図書館長の視点から)
以上、視察した各大学図書館の印象を、ラーニング・コモンズあるいはイン
フォメーション・コモンズの視点から概観してみた。マサチューセッツ大学ア
マースト校のラーニング・コモンズはその知名度に違わずすばらしいものであ
った。だからこそ日本からの視察も多いのであろう。前述したように、ここで
の諸サービスやその支援体制などには学ぶことが多い。もちろん視察した各大
学には学生数などの規模や前提となる諸条件に違いがある。よって各大学が現
実的に目指した施設にも自ずと差異が生じることは当然である。本学の規模と
いう観点からみると、マウントホリヨークカレッジのインフォメーション・コ
モンズは、湘北スタイルの施設というハードウェア的な観点から見ると、その
諸設備は教訓的であった。
また、施設の管理というソフトウェア的な観点から見ると、飲食持ち込みの
可否やリラックスコーナーでのマナーなど、日米間では文化の違いがあるよう
にも思う。ラーニング・コモンズやインフォメーション・コモンズのそもそも
の目的は、こうした学習支援施設の使用によって、学生の学力伸長を自発的に
促すことにある。勉強の仕方には個人差もあり、そのマナーも日頃の習慣に依
るところが多い。わが国は、あるいはわが校は自分たちの方法によって目標達
成を目指せばよい。世の動きにも目を向け、トライ・アンド・エラーを通して、
7-32
この施設で学生が何を学習するのかを構成員の相互協力の下で構築して行けば
よい。そう思う。こうした姿勢がやがて実のある湘北スタイルに繋がるのでは
なかろうか。
なお、スミスカレッジの項で述べた新しい環境の構築のためのスペース確保
のための工夫は、何もスミスカレッジに限ったことではない。新プロジェクト
を計画するときには必ず伴う課題であろう。何を選択して何を選択しないか、
その判断の妥当性が重要なのであろう。
7.4.4. MIT Media Lab 視察
7.4.4.1. MIT Media Lab について
MIT Media Lab は、パーソナルコンピュータの父アラン・ケイが述べた「未
来を予測する最前の方法は、自ら未来を創り出すことである」に啓発されたス
ローガン“Inventing a Better Future”の元、デジタル技術の創造やコミュニ
ケーションに応用するための研究をするための機関として、1985 年にニコラ
ス・ネグロポンテと元 MIT 学長のジェローム・ウィーズナーによって設立され
た。
現在の Media Lab の建物は世界的な建築家イオ・ミン・ペイによって設計さ
れたもので、エントランスホールはアートとテクノロジーの融合を探る研究が
盛んな Media Lab にふさわしいものであった。
(a) Media Lab の外観
(b) Media Lab エントランスホール
訪問時の MIT Media Lab の様子
訪問時には、現在のビルに加えて新たな 7 階建てのビルを増築する工事が進
ん で お り 、 新 し い 建 物 が 完 成 す る と 同 時 に 「 Okawa Center for Future
Children」を中心にいくつかの新しいセンターが設置される予定である。
7-33
(a) 新築ビルの完成模型
(b) 新築ビルの工事風景
MIT Media Lab 新築ビル
Media Lab の研究グループは、人間とコンピュータの協調をテーマに、設立
当初はデジタル放送やインターネット技術、1990 年代のユビキタス・コンピュ
ーティングなどの研究を経て、ナノ・バイオ・量子コンピューティングやウェ
アラブルコンピュータなどの次世代の技術開拓、インタラクティブアートなど
新しい表現手法やコミュニケーションの開拓、子どもの学習や発展途上国にお
けるデジタルデバイドへの取り組みなどを中心にした研究活動を行っている。
特に、子どもの学習支援やデジタルデバイドへの取り組みに積極的であり、代
表的なものとしては、Media Lab 1 階の“LEGO Learning Laboratory”を中
心に進められている、子どもの学習・創造性を育成するためのツールである「レ
ゴ
マインドストームズ」や「ピコクリケット」の開発、発展途上国の子ども
のデジタルデバイド解消のための「100 ドルパソコン」の供給などが挙げられ
る。
LEGO Learning Laboratory 入り口
7-34
“LEGO Learning Laboratory”と同じフロアには、”The Center for Bits and
Atoms”という組織がある。この組織は、Media Lab の創始者ネグロポンテが示
した「アトムからビットへ」即ちデジタル情報化への流れとは逆に、
「ビットか
らアトムへ」即ち「あらゆるものを製造する」取り組みが試みられている。そ
の目標は、個人が自分のニーズに合わせたものを作り出す「パーソナルファブ
リケーション」である。その成果の一部は、後述する Fab Lab という組織を通
じてテクノロジーを使った人材育成支援に役立てられている。
The Center for Bits and Atoms の入り口
今回の MIT Media Labo の視察の主な目的な、Labo で行われている子どもの
学習・創造性の育成の研究や Fab Lab のようにテクノロジーを使ったコミュニ
ティー運営の取り組みを直に見ることで、今後、図書館を活動の場とした学生
の学びのコミュニティーの育成・運営についての方策を見出すことである。
実際にはスケジュールの制約もあり、”LEGO Learning Laboratory” 内
の”Lifelong Kindergarten”グループと、MIT Media Labo の支援のもとで活動
している Boston 市街にある South End Technology Center(SETC)内の Fab
Lab を視察した。
7.4.4.2. Lifelong Kindergarten Group (Prof. Mitchel Resnick)
Prof. Mitchel Resnick がディレクターを務める Lifelong Kindergarten
Group は、世の中がもっと楽しみながらかつ創造的な発明や発見を通じて学ん
でいくような人々であふれるようになることを目的/ミッションとした、MIT
Media Lab の研究グループである。新しい技術やメディアの中で育つ子ども達
が、よりクリエイティブで新しい発見の中からたくさんのことを学べるよう、
7-35
新しいデバイスやソフトウェアの開発、また、それらを活用するコミュニティ
ーを立ち上げている。
Lifelong Kindergarten Group Lab
子どもでも自由にアニメーションやビデオゲーム、インタラクティブアート
作品などを作り、それをインターネットで公開できるソフトウェアとして、
Scratch が開発・公開されている。Scratch は、色分けされたブロックを組み合
わせることで、制御や表示などのプログラムを簡単に作成することができる。
Scratch の操作画面
作成した作品は「共有」ボタン1つで、インターネット上の Scratch サイト
で公開することができ、2007 年のサイトオープンからこれまでに約 35 万件の
プロジェクトが公開されている。
7-36
Scratch web site 画面 (http://scratch.mit.edu/)
今回の訪問では、最初に Resnick 教授自らによる Scratch の簡単な紹介を頂
いた。
Prof. Mitchel Resnick による Scratch のデモ
図
スプライトとよばれる画面上のオブジェクトにブロック(プログラム)を配
置していくことで、画面上でアニメーションが動きだし、動作に合わせて音を
鳴らすなど、インタラクティブなマルチメディア作品をすぐに作成することが
できる。
これまでの Scratch では、キーボード、マウス、Web カメラが主なインター
フェースとして機能していたが、Scratch Board(現在の製品名:Pico Board)と
よばれる USB 接続の I/O モジュールを接続することで、光センサ、ボタンスイ
ッチ、スライダー抵抗、マイク、ステレオジャック(抵抗)の外部情報を取り
込むことができるようになる。これを使うことで、例えば夜になったら(暗く
なったら)画面内のキャラクタを眠らせることや、音にあわせてダンスをする
キャラクタなどを作成することができる。
7-37
Scratch Board (製品名:Pico Board)
これに類似したプロジェクトには、Cricket がある。Cricket も同様に PC と
USB で接続される I/O モジュールであり、各種センサの情報を PC に取り込む
ことができる。CSK 大川センター社会貢献推進室が主催する CAMP などでは、
定期的に Cricket ワークショップを行っている。CAMP で用いられている
Cricket は開発版であるが、製品としては Pico Cricket という名前で販売もされ
ている。こうした Physical Computing 環境は近年急速に開発が進んでおり、今
後の Computer-Human Interface には欠かせない役割を果たして行くと思われ
る。
Scratch Board と Pico Cricket の違いとしては、以下のようにまとめられる。
表
Scratch Board と Pico Cricket の違い
I/O モジュール
使用ソフト
センサ
Pico Board
Scratch
音、光、抵抗、スラ 画面、音
出力・制御
イダ抵抗、ボタン
Pico Cricket
Pico Brocks 音、光、抵抗、ボタ サーボモータ、LED ライト、
ン、IR
3 桁デジタル表示、音、IR
Pico Board が、画面上のアニメーションやゲームを、センサーを使ってイン
タラクティブに操作する作品などの制作を目的としているのに対して、Pico
Cricket は、サーボモータや LED ライトなどを使ったおもちゃ制作を目的とし
ている点が違いとして挙げられる。
さらに、現在開発中の LEGO を用いた制御システムのプロトタイプのデモを
見せて頂いた。画面上のブロックを組み合わせることで、モーターの回転やサ
ウンドなどを制御できる。
7-38
LEGO をつかった I/O モジュールとその操作画面
目的としては Pico Cricket に近いが、回転や動作などの動きが全てモジュー
ル化(ブロック)されており、かつ、構成物として LEGO を使用するので、よ
り取り組みやすいものとなっている。
Lifelong Kindergarten グループでは、こうしたソフトウェアやインターフェ
ースを用いた、創造活動の実践の場として、1993 年から「Computer Clubhouse」
プロジェクトを行っている。Computer Clubhouse は、放課後の安全で創造的
な活動の場として世界21カ国に広がっている。最初にこのプロジェクトを実
施した Museum of Science, Boston は、そのフラッグシップモデルとして現在
でも活動を継続している。
(追記)今回の「図書館を実践の場とする学科横断 PBL 教育」の概要を説明し
たところ、
「今朝、ミネソタの大学から電話があって、まさしく図書館を使った
教育という相談があったところだ」との話に驚いた。
壁に整理された LEGO
7-39
7.4.4.3. Fab Lab @ South End Technology Center
The Center for Bits and Atoms(CBA)
Fab Lab について説明する前に、Fab Lab の推進組織である MIT Media Lab
の The Center for Bits and Atoms について説明しよう。MIT Media Lab の設
立の一人であるニコラス・ネグロポンテ教授は、
「アトムからビットへ」の考え
方、即ち未来は、物理的な制約のある”もの”やアナログなど物理的な制約から解
放されたデジタル情報の世界へと変貌を遂げると考え、Media Lab 内でデジタ
ル技術の研究開発を進めた。現在のパーソナルコンピュータおよびインターネ
ットなど現代社会に於けるデジタル情報化の流れの源はここにあるといえる。
デジタル情報化の流れは、パーソナルコンピュータの普及およびソフトウェ
アの低価格化またはフリーソフトウェアの出現をもたらした。これによって、
個人でも映画や音楽など制作しそれを全世界に発信できるようになったのであ
る。このような話は、数年前までは夢物語として語られていたが、今では至極
当たり前のこととなった。
このようにマスメディアやマスコミュニケーションの世界では、着実にマス
からパーソナルへという流れが進行している。しかし、マスプロダクションの
世界では、未だに工場で大型工作機械を使った大量生産が行われている。これ
は、デジタルの世界に例えると大型コンピュータを使って決まった処理をこな
していた時代に相当する。
MIT Media Lab 内にある The Center for Bits and Atoms(通称 CBA)は、
2001 年にニール・ガーシェンフェルド教授らによって「アトムからビット」と
は逆に「ビットからアトム」即ちデジタル情報を実体化しようというスローガ
ンの基にスタートした。CBA は、過去において大型コンピュータがパーソナル
コンピュータで置き換えられたように、工場にある大型製造機械による物作り
をパーソナルな工作機械を使った製造(パーソナル・ファブリケーション)に
置き換えることを目標としている。
CBA の取り組みの一つの例として、MIT のスタタセンター(図 4.3.1)が挙
げられる。スタタセンターは、2004 年に建設された建物で、人工知能などのコ
ンピュータサイエンスと言語学などの学部が入っている。フランク・ゲイリー
という世界的に有名な建築家によって斬新かつ開放的な建物にデザインされて
おり、 これまでの大学の建築とは一線を画している。
7-40
センターが建築された経緯もまた通常の建築とは大きく異なったものである。
まずは、ゲイリーによって作成された建物の模型から、3 次元形状をデジタル情
報としてコンピュータに取り込み、CAD を使って適切な建築構造に変換した後、
建物の骨組みの鉄骨や外壁などを工作機械によって切り出し、それを現場で組
み立てるという方法を用いたのである。この一連の作業は CBA の技術サポート
の基で進められ、3 次元デジタイザ、CAD、工作機械がある種のパーソナル・
ファブリケーターとして、建築家ゲイリーが思い描いた建物を実現して行った
のである。スタタセンターは Media Lab から比較的近い場所に立地しており、
訪問時にその斬新ないでたちを直に触れることができた。
MIT スタタセンター
Fab Lab
さて、話を Fab Lab に戻そう。CBA では、パーソナル・ファブリケーショ
ンの成果が出そろってきたころ、” How to Make (Almost) Anything”など、パ
ーソナル・ファブリケーションを普及させるためのいくつかの講義を開講した。
予想外にも建築・芸術など工学以外の分野の学生からの受講が多かったことを
受け、CBA の設備を利用できない一般市民に対するパーソナル・ファブリケー
ションの可能性や用途を探るために”Fab Lab”プログラムを 2002 年にスター
トさせた。なお Fab Lab とは「物作り研究室」といった意味である。
NSF(全米科学財団)の出資により、ボストンの低所得者向けのコミュニテ
ィー・センター、インドの片田舎、コスタリカ、ノルウェー北部など様々な場
所に Fab Lab が設置された。Fab Lab には、CBA の設備には及ばないが、一
般市民が物作りに取り組むために十分な設備を備えている。それらは、2 万ドル
程度の費用で調達されている。以下に、代表的な設備を列挙する。
7-41
・コンピュータ制御のレーザーカッター
・ 家具の部品を製造できるフライスマシン
・ サインカッター
・ 3 次元切削加工可能なフライスマシン
7-42
South End Technology Center
今回、Fab Lab の実際の取り組みとして、Boston の”Tent City”と呼ばれる低
中所得者向けの住宅街にある South End Technology Center(SETC)を視察し
た。一般市民に向けたパーソナル・ファブリケーションの取り組みとして SETC
内の Fab Lab を視察することになった経緯を述べると、実は視察スケジュール
の中で空いていた視察二日目午後に、ちょうど SETC において Open
Access
Fab Lab として Fab Lab が一般開放されていたからである。当初は、空いたス
ケジュールを埋めるという不純な動機付けであったが、実際に訪れ Fab Lab の
一般市民への取り組みを直に視察できたことはとても参考になった。以下では、
SETC 内の Fab Lab でどのような活動が行われているか視察した結果を報告す
る。
South End Technology Center
SETC は、Tent City のコミュニティーの人々が最新のテクノロジーに触れる
ことができるようにとメル・キング氏によって設立されたコミュニティー・セ
ンターである。一般に解放されており、テクノロジーに興味があれば誰でも参
加可能であり、定期的に、公開講座も実施されている。CBA が Fab Lab プロ
グラムをスタートさせる時に、同じ Boston 市内であることもあって、SETC が
設置場所に当然の流れとして選ばれた。
視察するまで SETC とはどのような建物か知らず、Center という名前から、
それなりの建物ではないかと想像していたのであるが、図でも分かるように
SETC は一般の住宅街の一画の住宅の一階を借切ったものであった。
そのため、
当初、探し出すのに一苦労した。事前にメールでの連絡は取っていたのである
7-43
が返事がなく心配していたが、SETC の皆さん快く迎えてくれ、Fab Lab を担
当されている Edward Baafi さんから SETC での取り組みについての説明を詳
しくしていただいた。
マイクロコンピュータを使った制御
最初に紹介されたのは、マイクロコンピュータを使ってセンサなどを組み込
んだもの作りであった。もの作り支援というと、小物入れやアクセサリなどが
真っ先に思い浮かぶのであるが、Fab Lab では自分のニーズに合った製品作り
という考え方もあるのか、マイクロコンピュータを使ってセンサなどを組み込
んだもの作りが盛んなようである。実際、我々が視察している間にも、付近の
住人が訪れマイコン制御のための基板を作成していた。
回路制作というと基板にエッチングする方法が一般的ではあるが、Fab Lab
では環境に配慮し(エッチングの場合、廃液処理など)、基板表面を精密フライ
ス盤を使った切削により作成している。回路を組み込む場所が曲面であったり
する場合には、銅箔シートから回路部分をサインカッターで切り出すという方
法も取っていた。回路作成というと回路専用 CAD と思ってしまうが、このよう
な作成方法であれば、普通の使い慣れたお絵描きソフトで簡単に作成できる。
部品の取り付けが表面実装になるためハンダ付けの技術が必要ではあるが、普
通の人が気軽に回路作成に取り組む方法としては理にかなったものでありとて
も参考になった。
(a) フライス盤による切削で作成
(b)
基板制作の一例
7-44
銅箔シートをカットしたもの
レーザーカッターの実演
Fab Lab にある全ての製造機械は全てコンピュータ制御になっている。例え
ば、ミシンなども USB で PC に接続され PC からの制御で刺繍ができるように
なっている。
コンピュータ制御されたミシン
その中で最も汎用性の高い加工機械がレーザーカッターであろう。レーザー
カッターは、様々な材料を好きな形でくりぬくことができるだけでなく、皮の
表面に刻印するなど様々な加工ができる。
レーザーカッターとくりぬいた段ボール
今回の視察では、レーザーカッターを使って段ボールを切り抜くという作業
を体験することができた。作業内容としては、まず OpenOffice の Draw を使
ってくり抜きたい図柄を作成する。次に、Draw に組み込まれた専用のマクロを
使ってレーザーカッターにカッティングの命令を送信する。カッターに段ボー
ルを装着後、位置合わせなどの設定行った後に実際にカッティングを行う。赤
外線レーザーを使っているためレーザー光は直接見えないが、レーザーが当た
っている部分が焼けて発光している。レーザーカッターという名前ではあるが、
7-45
非常に小さな穴をレーザーで焼きながら物体をカットしている。カッティング
作業は思ったよりも早く終了した。今回は段ボールを材料にしたが、アクリル
盤など様々な材料も切ることができるようである。この作業を通じて、レーザ
ーカッターを使った加工作業は、適切に使えば通常の刃物を使った機械よりも
安全で簡単に使用できるようであった。なお、レーザーで焼き切るということ
から換気をしっかりとする必要があることは注意しなければならない。SETC
でも実験用の排気ドラフタが設置されていた。
実演を通じて分かったことではあるが、コミュニティー・センターというこ
とで、使用するソフトのほとんどはフリーソフトウェアであった。作業に使用
した PC の OS で使用されている Linux OS や、くり抜くパターンを描くために
使用している OpenOffice の Draw も全てフリーソフトウェアであった。一般の
人でも気軽に取り組めるようにという配慮であろう。また、フリーソフトウェ
アだけでは足りないものは全てプログラミングして作成している。このような
ところに、Fab Lab が目指すパーソナル・ファブリケーションの精神が生きて
いるように思われた。
その他にも、Scratch ボードのプログラムを Web 上で開発するツールなどの
取り組みも説明して頂いた。このような SETC での取り組みを視察して感銘を
受けたことは、MIT の施設に比べると見劣りする設備のなかで、Boston の低中
所得者に対して物作りを通じた人材育成を着実に実践し、ある意味で MIT に匹
敵する成果を挙げていることである。私見ではあるが、Fab Lab の実践例は、
湘北短期大学でもデジタル技術を生かす物作りを通じた人材育成が十分可能で
あり、非技術系の学科の学生にこそこの取り組みが必要なのではないかと思う。
パーソナル・ファブリケーションの知識・技術が、より一層、彼、彼女らの想
像性を引き延ばしてくれるのではないかと思う。そういう将来について思いを
巡らせたところで、SETC 内の Fab Lab 視察の報告を終わりにしたい。
参考文献
ニール・ガーシェンフェルド:
“ものづくり革命“
ソフトバンククリエィティ
ブ、2006
CBA ホームページ:http://cba.mit.edu/
Fab Lab ホームページ:http://fab.cba.mit.edu/
SETC ホームページ:http://www.tech-center-enlightentcity.tv/home.html
7-46
7.4.5. Museum of Science, Boston
チャールズ川ほとりのサイエンスパークに位置するボストン科学館の歴史は
1830 年にさかのぼる。当時 6 人の自然科学者がボストン自然史協会(the Boston
Society of Natural History)を立ち上げ、1864 年にボストンの Back Bay 地域
に New England Museum of Natural History を開設したのが、現在のボスト
ン科学館の前身となる。第2次世界大戦後の 1948 年、現在の場所に移動し、そ
の後 1951 年に新しい科学館が正式にオープンした。現在では、毎年 160 万人以
上の来場者をかぞえ、400 以上のインタラクティブ展示を行っている。
Museum of Science 外観
館内は、WING 毎に色分けされている
7-47
ロボットコーナーでは、AIBO が展示されていた。
ROBOT PARK では、命令の書かれたブロックをつなぎ合わせることで、円盤
状のロボットを操作することができる
命令の通りに移動/回転をするロボット
7-48
至る所に赤いトレーナーを着たスタッフがいて、来場者(子どもも大人も)に
ゆっくりと時間をかけて説明をしている姿が目立つ。
Best Software for Kids 子ども向けソフトウェアの展示。eMac が使用されてい
る
Engineering Design Workshop
7-49
帆船の写真を見ながら、スポンジ性の材料などを使ってオリジナルの船を作成。
出来上がった船を、レーストラックに配置してスタート。新しいタイムレコー
ドは画面上に表示される。
Science Live! Stage。科学に関するライブショーが行われている。この時間は
大気圧についてのステージ。子どもと対話をしながらショーが進められる。
実際の解剖実験なども、少人数と向かい合う形で行われている。
7-50
IMAX シアター
プログラム「ROVING MARS」
7.4.6. National Yiddish Book Center
National Yiddish Book Center(以下、NYBC)は、Hampshire College の敷地
内にある、イディッシュ語や現代ユダヤ語で書かれた新旧書物を保存する非営
利組織である(イディッシュ語とは、ユダヤ人移民の間で話される、ヘブ
ライ語、ドイツ語、スラブ語が混ぜ合わさった言語で、ヘブライ文字で書
かれる。)。約 30,000 人の会員によって支えられており、アメリカにおける
ユダヤ人の文化組織としてはとても大きなものとなっている。NYBC は 1980
年に Aaron Lanskyn によって設立された。Lanskyn は、彼が 23 歳の大学院生
の時、アメリカで多くの Yiddish 語で書かれた書物が捨て去られている現実を
目の当たりにし、このままでは次の世代には Yiddish 語は誰も読むことのでき
ない言語となってしまうと感じ、捨てられる寸前のイディッシュ語やユダヤ語
が書かれた書物の収集と修復作業を始めた.センター開所当初 70,000 冊あった
イディッシュ語の本を6ヶ月かけて修復し、現在では 150 万冊を超える修復を
進めている。1998 年には、Steven Spielberg Digital Yiddish Library プロジェ
クトをスタートさせ、センターの蔵書をデジタル化してオンデマンドで閲覧で
きるようにすることで、Yiddish 語の蔵書を安全にかつ誰でも閲覧できるように
する計画である。
7-51
The National Yiddish Book Center 全景
開館時間:月~金は 10A.M-4.P.M. 日は 11A.M.-4P.M.ユダヤ教の休日にあたる
Shabbos(土曜日)は休館
館内の様子。整理途中の蔵書が山積みになっている。
7-52
イディッシュ語はヘブライ文字で書かれているので、右から左へと読む。本を
開く方向も右から。
Applebaum-Driker Theater 映写室。ユダヤ語の曲の演奏会なども開かれる。
館内案内や解説などのマルチメディアコンテンツが閲覧できる iMac 端末
7-53
作業中の蔵書が台車に積まれている。学生が休み期間にボランティアで作業を
進めている。
イディッシュ語の書き方を学ぶスペース
イディッシュ語の書き方
(参考)The National Yiddish Book Center HP
(http://www.yiddishbookcenter.org/)
7-54
7.4.7. Eric Carle Museum of Picture and Art Book
Hampshire College のごく近くにある Eric Carl Museum of Picture and Art
Book は、子ども達とその家族に絵本の素晴らしさを理解してもらうことを目的
に、Elic Carle とその妻 Barbara によって 2002 年に開館された。これまでに
35 万人の来館者を迎え、70 以上のワークショップと 39 の巡回展示を行ってき
た。ライブラリ・スペースでは、自由に絵本を手に取って読むことができ、子
どもだけでなく親同士のコミュニケーションの場ともなっている。
入り口。Eric Carle 独特の色使いの抽象画が飾られている。
ライブラリ・スペース
写真奥側では、まさに読み聞かせが行われている。親子連れとともに祖父母と
幼児が参加している様子も見受けられた。読み手と子どもが相互にことばをか
けあい、絵本を楽しんでいる。靴を脱いでカーペットにくつろいだり、ソファ
や椅子に座ったりするなど、思い思いのスタイルで参加しており、リラックス
した雰囲気が感じられた。出入り自由、オープンに実施されているところが日
本の公共図書館の様子とは異なるようである。
7-55
Art Studio Classes 色づかいを楽しむ体験ができる.
はらぺこあおむし調にカラーリングされた VW ビートル
(参考)
http://www.picturebookart.org/
7.4.8. 湘北"Learning Commons"に向けて
7.4.8.1 教員の視点から
ラーニング・コモンズは目的ではない。「奇麗な設備を作りました。PC やデ
ジタルビデオの貸出しを始めました。コーヒーが飲めるようになりました。」と
いった、ラーニング・コモンズの表面的模倣をしても意味がない。ラーニング・
コモンズの本当の意義・意味は、文字通り「学生の学びを支援する場であり、
そのための共有資源である」ことであろう。UMass Amherst Du Bois 図書館に
は次のようなスローガンが掲げられている。「You can’t graduate library, but
you can’t graduate without library」。まさしく、大学での学びにとってなくて
7-56
はならない存在が図書館であり、そこに整備されたのがラーニング・コモンズ
なのである。では、学生の学びとは何であろうか。湘北短期大学では、6つの
力「専門力/人間力/国際力/情報力/実践力/就職力」を育成することを目
標として掲げている。この学びを支援するための環境、設備、カリキュラム、
教育サポートをまとめたものが、湘北“ラーニング・コモンズ”であろう。
PC、Internet、携帯が一般に普及し、それを当然のものとして幼少時代から
使いこなす世代(digital-native)の子ども達が大学で学ぶ時代となる。大学で
の教育を鑑みた際、果たして知識の伝達を目的とした旧態依然の教授法でいい
のだろうか?図書館は本や資料を借りて静かに学習をする場のままでいいのだ
ろうか?「最近の若者は図書館を利用しない。まったく本を読まなくなった。」
などと愚痴をこぼしているだけでいいのだろうか。これは大学に限ったことで
はなく、教育全般で考えなければならない問題である。ここで主張をしたいこ
とは、昔はよかったなどと懐古主義的な議論をするつもりはなく、それとは全
く反対である。ドッグイヤーとも呼ばれる急速に変化を続ける現在と未来にお
いて、その変化に柔軟に対応し、教育も変化をしていく必要がある。1990 年代
にアメリカでおこった「Information Commons から Learning Commons への
流れ」
(米澤 http://current.ndl.go.jp/ca1603)は、まさしくこうした情報インフ
ラと学生の変化に合わせた、よりよい学習環境の構築とそのシステム作りであ
った。
今回、UMass Amherst を始めとしたマサチューセッツ西部 five colleges の図
書館を視察する機会を得て、その思想的背景や学生がいかに図書館を必要不可
欠な場所として感じているかを肌で感じることができた。以下に、UMass
Amherst Du Bois Library 館長 Jay Schafer 氏、司書 Sharon Domier 氏、Smith
College Neilson Library 館長 Christopher B. Loring 氏ほか、図書館スタッフ
などとの交流のなかから得られた新たな知見と教員からの視点による今後の図
書館の方向性を考察したい。
7.4.8.1.1 カフェ
UMass Amherst Du Bois Library では、1階入り口スペースにあった貸出し
カウンターを全廃し(自動貸出機の設置)、そのスペースに Procrastination
Station(Procrastination は「やらねばならないことを先延ばしにする、ぐずぐ
ずする」の意。学生公募で名付けられた)と呼ばれるカフェを作った。Mount
7-57
Holyoke College の LITS(Library, Information & Technology Services)でも
図書館1階入り口にカフェを設置している。
UMass Amherst Du Bois Library および Mount Holyoke College LITS の入り
口に設置されたカフェスペース
ラーニング・コモンズにカフェを設置する理由としては、1)長時間滞在を
するには飲食は必要(特に、UMass のように24時間開館している場合には必
須)、2)学生がもっと気軽に図書館に足を運んでもらうため、といった理由が
挙げられる(中には、Smith College のように、ラーニング・コモンズに近い方
向性を目指していながら、飲食解禁までは行っていない大学もある)。更に、
Sharon の話から、次のような第3の目的があることを改めて知った。それは、
「学生と先生が平等な立場で会う場所としてのカフェの存在意義」である。教
員と学生の間にはれっきとした力関係がある。これ自体は学習指導上問題のあ
ることではないが、自由な発想で新しい学びや創造的な学習を進めていくうえ
では、こうした立場による力関係は極力排除されたほうがよい。しかし、こう
した話し合いや議論をする場所として、教員の研究室では、環境による目に見
えない圧力が影響する恐れがある。教室という空間も同様に、教員と学生とい
う立場関係が影響をあたえる。そこで、図書館がカフェをつくり、中立的な場
所として教員と学生がこれを利用することで、学生と先生が平等な立場で交流
をすることができる。この視点は、今回の視察で得られた新しい視点である。
さらに、図書館と教員がコミュニケーションを取る場所としても、カフェが
7-58
有効に利活用されているようである。LITS では、図書館員が先生と話したいと
きは、このカフェで先生にコーヒーをおごる(ための専用のコインがある)。
このように、ラーニング・コモンズの1つの特徴とも取り上げられるカフェ
であるが、ただ“飲食自由”ということではなく、その背景にある、学生と教
員のコミュニケーション、職員と教員のコミュニケーション、といった意義づ
けを忘れてはならない。
7.4.8.1.2 Writing center
UMass Amherst Du Bois Library ラーニング・コモンズには、一区画に
Writing Center が設置されている。
Writing Center
ブースで囲まれた小部屋の中には3人分の teaching スペースがあり、特別の
指導を受けた学生(Tutor)が、一対一で個別にレポートの書き方や校正について
の指導をしている。時間帯での予約制で、常に予約がつまっている状況である。
学生は1時間ほどの時間に、自分の書いたレポートを Tutor と一緒に画面を見
ながら修正を行う。Tutor の学生にとっても、アルバイトという収入だけではな
く、後輩に教えるという経験を通じた自分自身の学びになる側面も大きい。
大学の授業では様々なレポートが課され、それによって学生の評価が行われ
る。レポートの書き方や引用文献の記載方法、体裁のまとめ方などはきちんと
したきまりがあるが、特に、wikipedia などの Web 上の情報が得られやすい状
況になり、引用などのルールや記載などは、教員が常に注意してもなかなか学
生全員には浸透していない。
レポートの内容に関する指導は教員が、書式や体裁、引用文献の記載方法な
7-59
どの指導は Writing Center が担うというきちんとした役割分担が、学生にとっ
ても効率的な学習指導体制となっている。
7.4.8.1.3 Multimedia
パーソナルコンピュータの普及と高性能化、更にはインターネットと Web の
普及によって、学習の方法や課題の作成/提出方法、発表形式なども変化をし
てきた。
「Culture and students are much more multimedia-oriented.」
(UMass
Du Bois Library のラーニング・コモンズ担当司書 Emily Alling 談)であり、
それに合わせてラーニング・コモンズの設備やスタッフのスキルもマルチメデ
ィアを充分に意識したものになっている。教員としては今後、Web を活用して
映像も含めた補助教材の提示やレポート回収、学生の質問に答えるといった、
いわゆるブレンディッド・ラーニング(Blended learning)が必要となってく
るであろう。
7.4.8.1.4 CMS
教員からの教材提示やレポートの提出などを行う CMS として、UMass は
WebCT、Smith College は Moodle を使用している。
7.4.8.1.5.Video Production
日頃の学習の成果を PC を用いて発表したり、マルチメディアを使ったレポー
トの作成や提出、さらには制作物や作品の Web への公開など、ますますマルチ
メディアコンテンツの制作技術と ICT 活用能力が必要不可欠な要素となってき
ている。特に、ラーニング・コモンズで想定されるプロジェクトベースのグル
ープワークなどでは、最終的なグループでの成果を発表して“振り返り”を行
うのが通常である。その際、プレゼンテーションの資料を作成することはもち
ろん、その中に、短いムービーを挿入することも必要とされる場合がある。こ
うしたムービーの作成やそれに挿入するサウンドの編集には、専門の知識と設
備が必要である。当然教員がそれを教える場合もあるが、全ての教員がそのよ
うなスキルを身につけているわけではなく、逆に言えば、digital-native な学生
の方が詳しい場合もあり得る。そこで、UMass では、Learning Commons と
OIT(Office of Information Technology)が協力して、新入生、学生、職員、教員
7-60
向けのそれぞれワークショップやトレーニングを実施している。OIT には、5
人のインストラクターと、4人の graduate student assistance がいる。Web で
も Quick Reference として、PDF 形式のチュートリアルがダウンロードでき、
自分で学習することもできるようになっている。
UMass OIT Website の画面。ユーザ別にワークショップ&トレーニングが行わ
れている。(http://www.oit.umass.edu/)
また、今回お話を聞いた Smith 大学の Joanne Cannon は Multimedia 担当
の司書で映像編集などの授業も行っている。
このように、学生がマルチメディアを使った学習成果の発表や公開をするた
めの技術的な支援と教育は、ラーニング・コモンズないしメディア・センター
が行い、その中身の教育に責任を持つのが教員となる。これは、前述の Writing
Center のように、レポートの体裁や書き方の指導を行うのが Writing Center
で、レポートの中身の指導を行うのが教員である、ということと同じ図式であ
る。
今回、湘北短期大学では、
“IT コンシェルジュ”と名付けたスタッフを1名雇
用することが決まっているが、上記サポートやトレーニングなどもこの IT コン
シェルジュの重要な役割となる。
今回訪問した全ての図書館で Macintosh がメインマシンとして設置されてい
た。この理由としては、Mac には iMovie や FinalCut で容易にマルチメディア
制作が可能だからである。
今回の取組で、平成 20 年に 10 台、21 年に更に 10 台の MacBook を貸出用
として湘北ラーニング・コモンズに導入したことは的を得ていたであろう。
7-61
7.4.8.1.6. ラーニング・コモンズの先へ−Teaching Common と Research Common
教員も新しいメディアや技術に対応していかなければならない。そのために、
UMass Amherst が Learning Commons の次の構想として考えているのが、
teaching common である。(Jay Schafer 館長談)。teaching common では、教
員が Multimedia の使い方、CMS の使い方、魅力的な教授方法などを学ぶ。こ
れは、ただ単に PPT の作り方を学ぶことではない。PPT は学生にとっても退屈
なだけである。教員は talking heads ではだめ。cricker などを使う授業をスタ
ッフが教授に教える場所として、Teaching Common を構想中である。
さらに、Learning Commons は主に学部学生向けの common である。教授や
大学院生用の common として、research common を作る構想ももっている。
research-grant を取る時に必要な書類の書き方や様々なノウハウを支援する、
service-oriented environment ⇒「科研費を出してください」ではなく、通る
ための書類作成に協力する職員、センター対応する common である。また、
research common のもう1つの目的は、研究者の socialize である。場を作り、
集まることで、交流を持ち、そこから新しい発想や発見があり、新しい研究に
結びつく。こうした考えは何も新しいものではなく、17 世紀からあるフランス
の文学サロンや、英国の大学で多く見られる研究者の集まり(サロン)のこと
であろう。
7.4.8.2. マネージメントの視点から
大学経営マネージメントの視点から特記すべきことは、
① 学生をいかに勉学の環境に親しませるか、
② その為に排除すべき阻害要因は何か?
③ 経営者が考慮すべき事は何か?
の 3 点に尽きる。学生をいかに勉学の環境に親しませるかは、まさにラーニン
グ・コモンズのコンセプトであり、
「学ぶ為の場」を創造する事にある。これは
授業を行なう場所・いわゆる教室ではなく、学生が自分の意志で「学ぶ行動」
をとる場であり、その方法として議論やワークショップを行なう施設と支援が
準備されている環境である。マサチューセッツの各訪問大学で実行されていた
のは、図書館を改装し従来とは全く異なるレイアウトでその「場」が創り上げ
られていたことである。このラーニング・コモンズのコンセプトは、日本を含
めいずれの大学も課題としている「学生の書籍離れ」や「学生の居場所探し」
7-62
を同時に解決する画期的な構想である。まずは学生を図書館に足を運ばせるこ
とである。集まりさえすれば指導も可能であり、ファシリテートすることで学
びを活性化する事ができる。学生は多様な方法で、積極的かつ自発的に学ぶこ
とを楽しみ始める。
訪問先で学生が列をなして席をとる順番を待つ姿や、真夜中に多くの学生が
図書館でリラックスしている様子は衝撃的でもあった。
では、そのような環境を作り出すには何が阻害要因だったか?
大学経営
者・教職員の考え方の改革である。24 時間開館していれば、自由時間を持つ学
生は自分の都合でその「場」を利用することができる。事実、比較的利用者の
少ない深夜や早朝を狙って利用する学生が見られた。いつでも利用できること
が学生にとって制限のない自由な「場」である証明でもある。時間的自由度だ
けではなく、スペースの自由度も与える必要がある。従来の図書館では、書籍
の使用頻度にかかわらず分類方法に則って多くの書籍が「素敵な一等地」を占
拠していた。素敵な一等地こそ学生に与える場所ではなかろうか?
レイアウ
トを大幅に変更し、使用頻度の少ない書籍を書庫に収め、空いたスペースに学
生の為の机・テーブル・PC・ソファなどが準備されている。いつでも・どこで
も学生が「たむろ」出来るのである。このような自由度が従来の経営者・教職
7-63
員に理解できたであろうか?
更に、24 時間開館を目指したラーニング・コモ
ンズにとって飲食との戦いを経る必要があった。いつでも・どこでも・誰とで
も自由に活動したい学生にとって飲食の制限は厄介なルールである。従来の図
書館に於いて飲食の禁止は常識であったが、多くの議論とトライアルの末、そ
のルールを廃止した現場を見た。その廃止を支えた大きな理由の一つは、貸し
出した書籍は自宅において飲食禁止の環境で利用されているか?否である。管
理しきれないものは管理しない決断でこのルールは勇気を持って廃止されてい
た。現実に書籍や機器の破損・汚れに増加はない。ただし、蓋付きのマグカッ
プを利用するなどの予防策には各種の工夫がある一方、未だにそのルールを廃
止できない大学図書館もあった。本学においては既に改装済みの図書館におい
て、いつでも・どこでも・誰とでものコンセプトは実現できるが、自由な飲食
に関しては新たなチャレンジとなる。このチャレンジが成功すれば、学生を大
人として扱うと同時に学生からは大人としてのマナーを期待する信頼関係が生
まれるのではなかろうか?
また、図書館の中にカフェを設けた大学ではその位置づけを「平等な場所」
としていた。教室でも研究室でも教員と学生との間には上下関係が存在する。
教員が学生と平等な立場で話すには図書館のカフェが最適であると判断してい
る。多くの施策が Student First のポリシーに基づいている事が今回の大学訪問
の発見である。
経営者が考慮すべきポイントは、多様化している学生や IT ネイティブである
学生に従来の図書館環境を押し付ける事はすでに無理であると理解をすべきで
あろう。大いなる勇気を持って、新しい環境と支援を提供することで学生の自
発的な学びを促進することができる。ラーニング・コモンズの環境では、個人
の学びに加えて議論や協働によるグループダイナミックスが期待でき、より効
果的な学習へと発展する実績が見えている。学生の Socialization も大いに期待
できる。
更に、学生の為のラーニング・コモンズから学べる事は、教員の為のティー
チング・コモンズへのステップアップであり、IT コモンズによる学生・教員・
職員の為の支援と環境である。特に教育の質の向上を目指すには、Instructional
Design Staff を抱えた授業と資料のコンテンツ制作機能を強化することが望ま
れる。
7-64
グループ議論やプレゼンテーションを可能にした IT 教室のレイアウト
これらの展開は、本学が日本一の短大を目指すにあたって避けて通れないス
テップであると確信する。
7.4.9 まとめ;なぜ今"Learning Commons"なのか
なぜ今「ラーニング・コモンズ」なのか? この課題の考察を行う前に、ラー
ニング・コモンズの前身であるインフォメーション・コモンズが登場しはじめ
た時代について語ることにしよう。
世界最初のインフォメーション・コモンズの施設が、南カリフォルニア大学
に登場したのは 1994 年のことである(1)。この頃は CERN(セルン:欧州原子核
研究機構)の Web 公開のニュースが報じられた時期でもある。このニュースは当
時としては衝撃的なもので、物理学を専攻した身にはその記憶が鮮明に残って
いる。さて、このようにして Web 技術が登場してきた 20 世紀の末、図書館界
は入館者数や貸出数の減少という不況にみまわれていた。このため、将来の生
き残りを掛けた議論も盛んに行われていた。こうした時期、図書館の改革をテ
ーマとした出版物が発行された(2),(3)。ブレイビクとギーによる論考である。
ブレイビクとギーは「図書館をとりこんだ学習の効用」の中で、今日から見
れば先見性に富んだ教訓的な指摘を行っている。一つは学ぶ側(学生側)からの指
摘、他方は教育を提供する側(学校あるいは図書館側)への提案である。まず、前
者を私の観点からの解釈も加えて整理すれば、以下のようにまとめられる。
7-65
(1) 図書館を舞台にした学習では、学生が学習の全過程を通して自発的に情報を
取捨選択し、最終的なまとめを行うので、自主的かつ能動的な学習能力を養
うことができる。
(2) 教室や研究室での授業に比較して教員からのプレッシャーが少なく、自発的
な学習姿勢が伴えばその分学習効果が期待できる。
人間好奇心が高い事ほど、場合によっては熱中して取り組んだ事ほど、その
事柄に精通しているものである。
「好きこそものの上手なれ」という格言の視点
から見れば、上述の(1)と(2)は確かに勉強するときの基本姿勢にも通じるもので、
拝聴に値する指摘であろう。
他方、後者については、
「学生の多様な関心に応じた多様な資料の提供」と「時
代と共に変化する学生の学習や生活様式に適合した学習環境の整備」が肝要で
あると提案している。すでに述べたことでもあるが、この出版物(2)が書かれた時
代は Web が登場してきた時代でもあった。このような背景の下、いわゆるイン
フォメーション・コモンズの施設が図書館に登場してきたのである。歴史的な
観点から見れば、この施設の図書館への導入は、低迷していた入館者数を増加
させるという成果をもたらした。
このインフォメーション・コモンズの延長線上に位置付けられるものがラー
ニング・コモンズである。ラーニング・コモンズは、顧客を院生を含まない大
学生(したがって、教育が主)に特化した所に特色がある。
さて、マサチューセッツ大学アマースト校にラーニング・コモンズがオープ
ンしたのは 2005 年である。それからまだ数年しか経過していない。にも関わら
ず、わが国でもこの種の図書館(名称は必ずしも「ラーニング・コモンズ」とは
限らないが)が続々登場している。IT 技術の進展にも似た目覚ましい変化である。
マサチューセッツ大学アマースト校視察の折には、シャロンさんの口から日本
の大学図書館からの視察例が語られた。アマースト校のラーニング・コモンズ
がそれだけ優れたものだからこその結果でもあろうが、一面「アマースト詣」
という言葉が適切と思えるくらい、日本の図書館でのアマースト校の人気は高
い。象徴的な言い方ではあるが、
「ラーニング・コモンズは図書館活性化の起爆
剤となり得るか」と語られる時代が来たのである。
今回、マサチューセッツ大学アマースト校やマウントホリヨークカレッジな
どで、この種の施設の見学をする機会を得ることができた。実際に現地視察を
7-66
行った。名に違わぬアマースト校の設備の素晴らしさを目の当たりにし、また、
本学と同規模のマウントホリヨークカレッジの施設の良さも実感することがで
きた。各大学についての印象は 7.4.3 を参照して頂きたい。大変有意義な視察で
あった。出版物にも当たり、また日本の現状にも目を向けた。知識の蓄えにも
努め、見聞を広めた。よい経験であった。
さて、7.4.3 でも述べたが、ラーニング・コモンズのそもそもの目的は、こう
した学習支援施設の使用によって、学生の学力伸長を自発的に促すことにある。
本学もラーニング・コモンズへの最初の一歩を踏み出した。これからのマラソ
ンへの一歩を。けだし一歩を踏み出したに過ぎない。一口に学習とは言っても、
趣味や習慣に個人差があるように、学習の仕方にも個人差がある。また、学生
には科目に対する好き嫌いもある。実際はまだまだ問題が山積みなのである。
肝心なことは、これからも皆の協力の下、今まで培ってきた知識や経験を活か
して、わが校はわが校流のラーニング・コモンズの建設を目指すことである。
湘北スタイル「ラーニング・コモンズ」を。
参
(1) 米沢誠
考
文
献
インフォメーション・コモンズからラーニング・コモンズへ:大学
図書館におけるネット世代の学習支援。カレントアウェアネス。(289), 2006,
9-12.
(2) P.S. ブレイビク、E.G. ギー
情報を使う力:大学と図書館の改革 (勁草書
房),(1995) 258.
(3) 米沢誠
第 47 回中国四国地区大学図書館研究集会
(2006).
7-67
基調報告、鳥取大学
7.5. 名古屋大学図書館、名古屋柳城短期大学図書館
7.5.1. 名古屋大学図書館
【概要】
時:平成 22 年 1 月 12 日(火)午後
日
参加者:北川盈雄、高橋可奈子、林真弓、和田万紀子、飯田幸子、藤澤みどり
目
的:平成 20、21 年度の2カ年計画により構築が進められた“ラーニング・
コモンズ”の施設と運用の実際を見学し、具体的な情報交換を行う。
【報告】
名古屋大学附属図書館のラーニング・コモンズは、学生の多様な学習ニーズ
と学習形態に対応した新しい学習教育支援環境を提供するというコンセプトの
もと、2 カ年計画により構築された。図書館は「静かな空間」から「話し声が聞
こえていい空間」にするとともに、ラーニング・コモンズ以外のフロアは静粛
空間とし、目的によって使い分けられるようにしている。しかし、ラーニング・
コモンズでの実際の話し声は極々小さく、学びの場を図書館に求めている学生
たちの、学ぶことへの意識の高さがうかがえた。
オープンなラーニング・コモンズの一部には梁と仕切り板が縦横に設置され
ており、グループの人数に応じた個室風な空間を容易につくりだすことができ
るようになっている。仕切り板の一部はホワイトボードなので、グループワー
クに役立つツールとしても活用されている。吊り下げ式のプロジェクタが常設
されており、プレゼンテーションなど実演の際にも特別な設定をする必要がな
く容易に利用できる。<容易>であるということは、図書館員にとっても利用
者にとってもストレスを感じることがなく、また時間の節約にもなることから、
サービス提供にあたっての重要なポイントであると感じた。
7-68
机はさまざまなタイプのものが用意され、必要に応じて組み替えることも可
能であり、ニーズに合わせて使い分けなされている。
「総合サポートカウンター」には、
IT サポートやライティングサポート、
学習支援、ピアサポートなどのさまざ
まなサポートメニューが用意されてい
る。多目的ラーニングエリアにおいて
困ったときには、まずはここで相談に
のってもらってから、次の一歩を踏み
出すことになるという。利用者のこと
を考えた、まさにワンストップ・サー
ビスといえよう。
ライティングサポートエリアには、学生用にレポートに役立つ図書が配架さ
れていたり、ワーキングテーブルには利用者用とサポートスタッフ用として 2
7-69
台のモニタ、2 脚の椅子が用意されていたりするものの、見学時には計画中の段
階であった。実際の運用については今後の経過を見守りたい。
学生相談センターは、学内に分散していたピアサポートの場所を図書館に集
約したものという。今後の運用に期待が寄せられる。
図書館入口部分にカフェをオープンする計画があるという。滞在型図書館に
は利用の合間に一息入れる場所としてくつろぎの場所が求められる。カフェは
だれでも利用できるよう、あえて外向きの場所に計画している。すでに、図書
館の中には自動販売機が何台か設置されていた。
<ラーニング・コモンズ>には決まったモデルがあるわけではなく、それぞ
れの図書館が考えるサービスにあわせて、施設、什器類、人的サポートの配備
を適切に行うことが肝心なことであると感じた。学習や研究を主体とする大学
図書館と課外活動やグループワークに力を入れている本学図書館とでは、おの
ずとサービス内容にも違いが出てくる。図書館を運営するにあたっては、利用
者が求めるサービスは何か、サービスを効果的に提供するにはどのようにした
らよいのか、流行に左右されることなく冷静な判断が求められる。本学に見合
う的確なサービスを追求したい。
7-70
7.5.2 名古屋柳城短期大学図書館
【概要】
時:平成 22 年 1 月 12 日(火)午後
日
参加者:北川盈雄、高橋可奈子、林真弓、和田万紀子、飯田幸子、藤澤みどり
目
的:充実したホームページから活発な図書館サービスが展開されているこ
とがうかがえる。図書館を見学し、具体的な情報交換を行うことで、
運営のヒントを得る。
【報告】
ゼミごとに実施しているガイダンスの内容をはじめ、役立つ資料の紹介、保
育レファレンス事例集の公開など図書館サービスについて、ホームページ上で
うまくアピールをしている。また、特色ある所蔵資料である「紙芝居」を「デ
ヂタル紙芝居ネット」として公開するなど、デジタル化にも積極的に取り組ん
でいる短期大学図書館である。
保育科単科の短期大学であることから、図書館は絵本、紙芝居や保育、福祉
分野の資料を中心に収集しており、複本も用意され、大変充実している。短期
大学の図書館らしく小ぢんまりとした規模ではあるが、アットホームな中にも
伝統が感じられる、落ち着いた雰囲気の図書館であった。キリスト教に関連し
たかわいらしいグッズがたくさん展示されており、キリスト教の精神に基づい
た教育を行っていることがうかがえた。
施設面においては充実しているとはいい難いが、絵本の保護カバーの配布や
児童書の分類、配架など、随所に工夫がこらされ、学ぶべき点が多々あった。
特に、少ない職員数ながら開館時間が午後 8 時までとなっている点については、
卒業生の利用に配慮されているとはいえ、頭が下がる。
7-71
また、名古屋柳城短期大学主催の「手づくりキッズ紙芝居」コンクールと連
携し、資料の保存やデジタル化等にも力を入れ、地域貢献の一翼を担っている。
長年、図書館運営に力を入れ、基礎を築いたという図書館員が事務局に移動
されたため、直接、具体的な情報交換を行うことができなかったのは大変残念
なことであった。しかし、後を引き継ぎ、真摯に図書館運営に取り組む図書館
員と情報交換ができたことは、図書館サービスのあるべき姿について改めて考
える契機となった。
スペースを活かした
展示
カウンター前では絵本のカバーを配布。
廃棄されるものが有効活用されている。
7-72
7.6. イギリス/アイルランド
期
Warwick, Computer Clubhouse
間:平成 22 年 2 月 21 日(日)~2 月 27 日(土)
参加者:澤口隆、本池巧、山本滋、高橋可奈子、小谷羊
7.6.1. 視察の目的
平成22年2月21日~27日の日程で、イギリス・コベントリーに位置す
るウォーリック大学図書館(主にラーニンググリッド)および、アイルランド・
ダブリンのSWICNコンピュータクラブハウスを視察し、図書館やコンピュータ教
室の運営方法を学ぶことで学生によりよい学習環境を提供することを目的とし
ている。
7.6.2. 旅程
午前
2/21(日) JL401 成田発 12:00
午後
宿泊
ヒースロー着 15:45
ロンドン
2/22(月)
大英図書館、大英博物館見学/コベントリーへ移動 コベントリー
2/23(火)
Warwick 大学図書館
コベントリー
バーミンガムまで移動
2/24(水)
コベントリー市内
/飛行機でダブリンへ移動
BHX14:45- DUB15:45
ダブリン
(EI273)
2/25(木)
Trinity
Library 見学
EI608
2/26(金)
College The
Computer
Clubhouse
(SWICN)見学
ダブリン発 13:10
アムステルダム着
15:45
海外乗継便 JL412 アムステルダム発 19:00
成田着
14:30
(27 日)
7-73
ダブリン
7.6.3. ウォーリック大学(University of Warwick)
ウォーリック大学(University of Warwick)は、イギリス、コヴェント
リー市にある国立大学。人文学、社会科学、自然科学、医学分野の学部を
抱える総合大学である。
1965 年に設立されたウォーリック大学は、その浅い歴史にもかかわらず、
英国トップレベルの名門大学として認知されている。
ロンドンに所在する名門校であるインペリアル・カレッジ・ロンドン、ロ
ンドン・スクール・オブ・エコノミクス、ユニヴァーシティ・カレッジ・
ロンドン等と共に、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学に次ぐ高い
評価を得ている大学である。2009 年度の、Guardian University Guide で
は国内総合 4 位、Times Good University guide では同 6 位にランクされ
ている。(Wikipedia 日本語版より引用)
7.6.3.1. ウォーリック大学について
ウォーリック大学図書館およびラーニンググリッドでは、年に数回の頻度で、
Open Dayと称する一般公開日が設定されている。今回訪問をした2010年2月23日
は、当初Open Dayが予定されており、それに合わせて今回の視察旅程を組んで
いた。しかし、直前(1/6)になり、Open Dayが諸事情によりキャンセルとなる旨
の連絡があった。そのため、図書館アカデミックサポート部のAntony Brewerton
氏に直接依頼をすることで、我々のために特別に各種施設の案内と各部署担当
者との意見交換の機会を得ることができた。
7-74
当初予定されていた Open Day のスケジュール案)
Schedule for the day:
9.30 a.m. - Registration and coffee : Council Chamber CMR 1.1
University House first floor
10.00 a.m. - Welcome to University of Warwick Library Services and
Introduction to Day: Antony Brewerton (Head of Academic Support)
location: Westwood ReInvention Centre teaching space: Minibus
provided
10.30 a.m. - Overview of The Learning Grid to date: Rachel Davis, The
Learning Grid and Teaching Grid Manager (Library Services)
11.00 a.m. - Tours of The Learning Grid / Meet the Student Advisors /
How the Space Works
12.30 p.m. - Lunch: Council Chamber CMR 1.1,Location University
House and will provide attendees with an opportunity to consult with
The Learning Grid's partners about how they work with the facility to
support the breadth of student needs.
- Information literacy (Antony Brewerton, Library Services)
- e-learning (Robert O'Toole, e-lab)
- Employability (Liz Rogers, Careers Service)
- Transferrable skill development and PDP (Steve Ranford, Centre for
Student Development and Enterprise)
1.30 p.m. - Library Tour with Sharon Tuersley
2.30 p.m. – Introduction to The Teaching Grid: Rachel Davis & Faiza
Abdul-Wahid
3.30 p.m. – Final Q & A and Evaluation forms.
4.00 p.m. – Close
URL:
http://www2.warwick.ac.uk/services/library/grid/newvisitors/see/openda
yinfo/
7-75
ウォーリック大学
視察スケジュール
Tuesday 23 February 2010
11.00
Arrive at University House on the University of
Warwick Campus
11.00 – 12.30 Tour of the Learning Grid
12.30 – 13.15 Tour of Main Library
13.15 – 14.00 Working lunch to discuss other developments
14.00 – 14.30 Tour of Teaching Grid
14.30 – 15.00 Tour of Research Exchange and finish
7.6.3.2. ラーニンググリッド(Learning Grid)
・ 今回、1日のツアーを設定してくれたのは、Antony Brewerton氏 ( Head of
Academic Support, Library Services)
・ ラーニンググリッドは、以下の4名及びStudent Advisorによってマネージ
メントがされている。
¾
Anne Bell – University Librarian
¾
Antony Brewerton - Head of Academic Support, Library Services
¾
Becky Woolley – The Teaching Grid and The Learning Grid Manager
¾
Dean McIlwraith – The Learning Grid and The BioMed Grid Operations
Coordinator
・ 今回、ラーニンググリッドを案内してくれたのは、ラーニンググリッド・マ
ネージャーであるDean McIlwraith氏
・ ラーニンググリッドは、2005年にスタートした施設で、24時間365日利用で
きる、学生のための学習共有スペースである。University Houseの1、2階
の2フロアを利用して、1350平米の面積を持ち、一度に300人の学生が利用可
能である。
・ ラーニンググリッドのある建物(University House)は、もともと電力供給
施設(Power Grid)があり、大学当局から、その後のスペース利用を打診さ
れた図書館が、ラーニンググリッドの計画をたてた。(Learning Gridの名称
の由来はここからきている。Gridは交わるという意味も含んでいるので、よ
いネーミングだとBrewerton氏は語っていた)
7-76
・ ソファ、机、プラズマディスプレーなどが設置されているが、どれも可動式
にされており、自由に変更することが可能である。
・ セキュリティの面では、警備員が一人建物入り口に常駐。また、監視カメラ
を常時稼働させている。
・ ラーニンググリッドのルールはたったの3つ
1) IDカードがないと入る事ができない
2) 暖かい食べ物は持ち込まない(no hot food)
3) 空間と他の利用者を尊重(respect)すること
・ 基本的に10:00-22:00まではstudent advisorが巡回をしており、様々な質問
などに答えてくれる。
・ 現在、13名のstudent advisorがいる。希望者も多く、試験と面接で採用を
しているため、質の高いStudent Advisorが確保できている。アルバイト代は、
10ポンド/時間。
・ McIlwraith氏曰く、ラーニンググリッドを始めた最も大きな理由は
Collaborationである。
・ ラーニンググリッドを活用してもらう試みとして、写真コンテストや映像コ
ンテストなどを行っている(ちなみに、2010年度の写真コンテストのテーマ
は”Emergence”)
・ 映像コンテストでは、学生数名がグループをつくり、テーマを決めて24時
間以内に、ストーリー作成、撮影、編集、完成までを行った。
・ いろいろな試みを実験的に行ったり、不具合な点などはすぐに直すことがで
きること(quick fix to fit)がラーニンググリッドの利点であり、これがmain
libraryとの大きな違いである。
・ ラーニンググリッドとティーチンググリッドは直接的な強い結びつきをも
っており、ラーニンググリッドの試みがティーチンググリッドを生み出すこ
とにつながり、また、ティーチンググリッドの実験的な試みがラーニンググ
リッドに反映されている。
・ 火曜日の11時に訪問をしたが、ほとんどのテーブルが埋まっており、ノート
パソコンや常設PCを囲みながら勉強をしている様子。中には、場所がなくて、
床に座って二人で宿題を教え合っている学生もいた。
7-77
・ 混雑していることに対して学生からの不満はでていないか?との質問に対
して、30分以上机に物を置いている場合は移動させるunaffected ruleがあ
るので、そうした苦情や問題はないとのことであった。
・ コンピュータや机の予約はできない。唯一予約できる設備は、プレゼンテー
ションルーム(A, B, Cの3つ)である。
・ 学生は本番の発表前に、プレゼンテーションルームを予約し、友人同士で練
習をしている。
・ ラーニンググリッド内にはプリンタが設置されており、その利用代金は学生
アカウントに対して課金している。
・ Learning Gridの入り口には、就職関連の資料が並べられている。
・ PCは4年に1度の予定で更新しているが、マルチメディアユースなどの最新
のスペックが必要な場合は適宜更新している。
大学行きのバスが約 20 分間隔で発車している
Coventry の中心からは Warwick 大学までは、
バスで約 30 分の距離
7-78
2階建てバス。Coventry の中心から Warwick 大
大学までのバスで移動する途中の街並み
学まで行く途中に学生が多く住む地域があるよ
うで、途中でたくさんの学生が乗車してきた
ラーニンググリッドがある
Warwick University House
Warwick University House
ラーニンググリッドの入り口
ゲートで管理をすることで、24 時間利用する
ことができる
7-79
ラーニンググリッド入り口横には、就職関係の
一番右がラーニンググリッド・マネージャー
書類などが並ぶ
の Dean McIlwraith 氏。その隣が図書館アカ
デミックサポート部の Antony Brewerton 氏
10:00~22:00 まで館内を巡回する
個人で学習するスペース以外にも、グループで
Student Advisor
話し合いをできるスペースが設置されている
インフォメーション用ディスプレイには、その
プレゼンテーションルーム。このような部屋が
時間に巡回している Student Advisor の顔写真
3つあり、予約をすることで、プレゼンの練習
が映されている
などに使用することができる
7-80
壁のスペースを有効に活用している。写ってい
館内には至る箇所にインフォーメーション用
る学生は、語学研修で来ている広島修道大学の
モニタが設置されており、各種案内が表示され
学生
ている
館内の様子
館内の様子
館内の様子
館内の様子
7-81
7.6.3.3. メインライブラリ(Main Library)
・ 図書館メインライブラリは、広大なキャンパスの中心に位置している。2008
年1月に図書館の2、3階を改装したばかりで、ここでも、伝統的な図書館か
ら、collaborationとmultimediaを意識した改革を行っている。
・ 建物1階がlibrary cafeになっており、勉強の合間に1階で食事や休憩をと
っている。
・ 図書館入り口は2階にあり、入館、出館、ともにIDカードを通す必要がある
=>学部生、院生、PostDocなどの利用者別の図書館滞在時間を把握する事が
できる。
・ 図書館は2棟が連結されており、3F・4Fはフロアが通路で結ばれている。
⇒ 国際基督教大学図書館と建物の構造が似ている。
・ 入り口右手すぐには、reading loungeがあり、自由に利用されている。
・ 入り口左手には、library cafe barがあり、飲み物やスナックなどを購入で
きる。
・ ラーニンググリッドと同様にno hot foodが原則。
・ 自動貸出機が3台設置されており、IDカードをかざして自分で貸し出し処理
を行う。
・ 3Fは、会話・飲食ができるフロアと一般の図書が配架されているQuietエリ
アがある。
・ Main Libraryでの会話・飲食が可能なフロアは上述した2F・3Fの2フロアで、
PCデスクとグループ学習用のPCデスクがある。館内で最も利用者が多くにぎ
わっている。
・ 3Fにはこのほかに教員のための施設Teaching Gridがある。
・ 3F~6Fに分野ごとの図書・雑誌、閲覧席(キャレルデスク)がある。
・ 閲覧席はQuiet Laptop/Study area とQuiet Study areaに分けられている。
見学した際、Quiet Laptop/Study areaの閲覧席は、ほとんど埋まっていた。
・ 3FにはSilent Study Roomという閲覧室が2か所に設けられており、静かに勉
強したい学生はこの閲覧室を利用するようになっている。見学時の利用率は
半分弱程度であった。
・ このほかに研究者のための施設Research Exchangeがある。(→2.3参照)
・ 雑誌の製本コーナーは各フロア2か所が電動の集密書架で、床荷重の問題で
これ以上は設置できなかったとのこと。
7-82
・ 全部で200台のPCが設置されており、利用状況は館内のモニタに表示されて
いるほか、Webでも確認できる
・ 返却された本は、ベルトコンベアで自動で仕分けされている。(その様子が
ガラス張りの部屋で見る事ができる)
・ 貸し出し冊数は、学部生で10冊、院生などは50冊
・ メインライブラリには100万冊のストックがあるが、これとは別の場所に更
に多くの図書は保管されている。いつでも24時間以内に取り寄せることが可
能。
・ 論文などはPDF化して、Web上で閲覧できるように作業を進めている。
・ Quiet Study areaとSilent Study Areaも分けられている。後者はPCもダメ。
・ 2008年の改装の際に、学生のスペースを増やすために、可動書架を設置して、
スペースを確保した。
・ 3階は2008年の改装には含まれなかったので、以前のままの状態である。
・ メインライブラリの図書館司書数は、15名
・ 2008年の改装前は、全てのスペースがsilence spaceで、2階の大きめの1
部屋のみがコラボレーション用の部屋だった。
広大なウォーリック大学キャンパスの中心に
位置する図書館(メインライブラリー)
図書館の入り口は2階にある。1階には
Library Café があり、学生が軽食や飲み物を
購入することができる
7-83
2階の図書館入り口。入退館は全て ID カード
入り口のすぐ脇にある Reading Lounge
を通す必要がある。これにより、学生の図書館
滞在時間を把握することができる
自動貸出返却装置
返却された図書を IC タグを使って自動で仕分
(3M 製セルフチェックシステム V シリーズ)
ける装置 ベルトコンベアで運ばれる様子を
外から見ることができる
館内の様子
館内の様子
7-84
図書館は2棟が連結されており、
Quiet Study Area に入る際の注意書き
3F・4F はフロアが通路で結ばれている。
2008 年の改装の際にスペースを確保するため、
可動式書架
可動式書架を導入した
Quiet Study Laptop area では、ノート型 PC
を持ち込んで作業をすることができる
Silent Study Area では、PC の使用も
禁止される
7-85
一部古い書架が残っている
Quick Study Area の様子
館内の様子
どこのスペースも混雑しており、床面に座り
こんでレポートについて話をする学生
7.6.3.4. ティーチンググリッド(Teaching Grid)
・ メインライブラリの一角にあるのが、ティーチンググリッドである。2008年
にスタートした。
・ 今回、ティーチンググリッドを案内してくれたのは、ティーチンググリッド
コーディネータのHannah Hodgson 女史。
・ 専任スタッフが教育機材を管理し、使い方の指導やセミナーを行っている。
・ ティーチンググリッドを利用できるのは、教員に限らず、ポスドクなども含
めて、ウォーリックにおいて“教える”ことをしている人全てである。
7-86
・ 入り口に入るとすぐに、social areaがあり、ソファでくつろいで、珈琲な
どを飲む事ができる。これは、色々な学部・箇所から教員は来るので、ここ
で歓談しながら打ち解ける意味合いをもつスペースである。教授法や学習環
境に関する書籍が並べてある。
・ 中はつりカーテンで仕切ってあり、とてもフレキシブルである。
・ 様々な新しい機器が設置されており、試験的に利用することができる。
・ ティーチンググリッドの利用には予約が必要。原則はその時間に1人のみが
予約が可能だが、共有できるときもある。
・ Smart board, Clicker, Screen Flow, IC Recorder, Digital Camera, Video
Cameraなどがある。
・ 教育内容は、WIT Databaseでデータベース化されている。
・ Hodgson女史曰く、ティーチンググリッドはcatalyst change(触媒)である
・ 実物投影機などは、芸術や科学の分野の教員に好まれて使用されている(古
いコインの実物を投影して見せたりするため)
・ ここで使用した機材で有効だと感じられたものは、各学部・箇所で導入され
る(予算化される)。
Teaching Grid の入り口。様々な箇所からの利
教授法や学習環境などに関する書籍が並べら
用者がいるため、ここで話をしたり、打ち解け
れている
たりするための Social Area の役割を果たす
7-87
従来の教室の概念にとらわれない様々な形態
部屋をしきるカーテンを利用して、2面でプロ
の学習スペース
ジェクタ投影
大型モニタに映された PC 画面に直接書き込む
書き込んだ文字は、OCR 機能によってテキスト
ことができる
文字にも変換が可能
Turning Technologies 社製の Student Response
Student Response System 端末
System
7-88
ワイヤレスペンタブレットを使用して、PC 画面
ビデオカメラ、デジタルカメラ、IC レコー
のうえに手書きで書き込みが可能
ダーなども活用できる
スクリーン上部から投影されるプロジェクタ
専用ペンで直接書き込みが可能
システム。
Teaching Grid 担当の Hannah Hodgson 女史
7-89
7.6.3.5. リサーチエクスチェンジ(Research Exchange)
・ 図書館メインライブラリの一角を占めるリサーチエクスチェンジは、分野を
超えた研究交流のための施設である。
・ 今回リサーチエクスチェンジの案内をしてくれたのは、Donna 女史
・ リサーチエクスチェンジが出来るまえには、研究者、PhD 学生らは、孤立し
ていた(isolating)。
・ 入り口を入ったところに、すでに PhD を取得した学生(Research Exchange
Advisers)が座っており、各種相談にのってくれる。
・ 入り口左手にはリフレッシュメントエリアがある。その脇に電源のついたロ
ッカーが40個あり、利用が可能。
・ マグネットでなんでも張ることのできる Creative Wall がありプロジェクタ
も投影。壁のコントローラで制御ができる。
・ 3つのセミナールームがあり、パーティションで区切られている。各部屋は
30人が利用でき、つなげることで最大90名まで収納可能。色々なワーク
ショップやイベント、講演会などが開かれている。セミナールームは Web で
予約が可能。
・ 理系の PhD 学生は、それぞれの大学院や研究室に自分の机を持っているが、
人文系の学生は机を持っていないことが多いので、リサーチエクスチェンジ
を利用する割合が高い。
・ 学年を越えた PhD 学生の交流にも役立っている。(新しい PhD 学生が、最終
学年の学生に相談にのってもらったりするなど)
7-90
Teaching Grid の入り口
Teching Grid のコンセプトカラーはグリーン
入 り 口 す ぐ に 、 Research Exchenge Student
入り口のすぐ脇にあるリフレッシュメントエ
Advisor が座っている
リア
内部に電源コンセントのついたロッカー
ポスターの掲示やホワイトボード、プロジェク
タのスクリーンとして機能する Creative wall
7-91
大型液晶モニタも協力な磁石で壁につけられ
ている
Creative wall に投影するプロジェクタの
操作盤
Research Exchange 中の様子
30 名定員のセミナールーム。横長に 3 つの部
屋がつなげられ、最大で 90 名の会議が開催で
きる
今回コーディネートをしてくれた
Antony Brewerton
7-92
7.6.3.6.
Center for the Appplied Linguistics (CAL)
・ CALは、多くの語学研修ショートプログラムなどを提供しており、日本の大
学からの学生も数多く受け入れている。我々が訪問した期間には、広島修道
大学および立命館大学の学生が滞在をしているとのことであった。
・ CALマネージャーのPaul Wilson氏を訪問し、教育プログラム開発側の視点か
ら、ラーニンググリッドなどの施設の話を聞くことができた。
¾
イギリスの大学は、1992年に政治的な変化から、大学の役割として、
polytechnicな実学的要素を重要視する大学を増やした。
¾
ウォーリック大学はどちらかと言えば、研究重視の大学であるが、コ
ベントリー市内にあるCoventry Univ.は教育重視の大学である。
¾
その中にあっても、CALでは教育を重要視している。
¾
CALでは、日本を始め数多くの国々から、英語を学びたい学生を受け
入れている。
¾
語学研修ショートプログラムに参加した学生には、初日にラーニング
グリッドを案内する。=>ラーニンググリッドがとても重要と考えて
いる
¾
3~4人でチームを作り、英国の生活などのテーマに沿って、調べ学
習をしたり、キャンパスで学生にインタビューをしたりして、
collaborative workを行う。ディスカッションやプレゼンの作成/練
習などをラーニンググリッドを使って行う。
¾
ラーニンググリッドはこうしたプロジェクト型の学習にとって、最適
なスペースとして評価されている。
¾
ラーニンググリッドの目的は、Collaborativeな作業と情報をshare
することである。
¾
ラーニンググリッド・マネージャーのMcIlwraith氏が、新しい教育環
境にとても理解があることが成功の要因であろう。
¾
CALにとって、ティーチンググリッドもラーニンググリッドと同様に
重要である。
7-93
7.6.4.
ウォーリック大学視察所感
(澤口)2005年にスタートしたウォーリック大学のラーニンググリッド
であるが、学生の学習環境の充実・活性化という側面だけではなく、これを
きっかけに学内に、Main Libraryの改善、Teaching Grid, Research Exchange
の開設という、発展的な展開をみせている点が、ラーニンググリッドの成功
を示している。ラーニンググリッドは多くの学生であふれ、非常に活気を感
じられるが、利用している学生全てが勉強やレポート作成のためだけに滞在
しているわけではなく、YouTubeの映像を見ていたり、SNSの書き込みをして
いる学生も多い。しかし、ほとんどの座席やパソコンが埋まっており、他の
利用者に迷惑のかからない程度に話し合いなどをしている状況を見ると、大
学内における学生の“居場所”の1つとして有効に活用されているのであろ
う。ラーニンググリッドには、特別な設備やここでしか利用できない機能が
あるといったことはない。ただ、ラーニンググリッドはたった3つ規則(1:ID
カードがないと入る事ができない、2:暖かい食べ物は持ち込まない、3:空間
と他の利用者を尊重すること)のもと、学生が24時間365日利用できる施設で
あり、学生個々の嗜好やライフスタイルにあわせて、それぞれの学生が自分
のスタイルで活用をしている。イギリスは監視カメラ社会であり、いたると
ころでCCTV(Closed-circuit Television)を目にする。ラーニンググリッドも
通常は、1名のStudent Advisor(8:00-22:00)と、1名の警備員、およびCCTV
のみで管理されているが、原則1のIDカードのチェックと、このCCTVによって、
24時間のサービスを提供できており、大きな問題は起こっていないとのこと
であった。湘北短期大学の場合を考えてみると、私自身の考えでは、図書館
を24時間開館することにはそれほどのメリットがあるとは考えられないが、
学生の“居場所”として自由に活用できるスペースがより拡充されればと期
待したい。これは当然、図書館の物理的スペースの問題もあるのですぐに実
現できることではない。しかし、ウォーリック大学の場合も、ラーニンググ
リッドは図書館が管理運営を行っているが、図書館とは別の建物で運用され
ている。ネットに接続できるPCがあり、フレキシブルに移動できる机や椅子
があり、そこでは飲食が可能で(しかしno hot food)、常に専任のスタッフ
が常駐している施設があれば、それは湘北の学生の“居場所“となり、学生
の満足度をあげることにつながるのではないだろうか。
7-94
(山本)ウォーリック大学の図書館は従来の機能を維持しつつ(蔵書分野で多
いのは人文社会だという。)ラーニンググリッドの導入により、新しい利用への
舵を切った。大学教育が講義中心の受動的学習形態から、グループワークを導
入して問題発見・問題解決能力育成を目指す以上、様々な形態のコミュニケー
ションを学生に試みさせ、その能力の伸長を期することは現代的要請である。
ユニバーサルアクセス下の大学では受動的学習の中から能動的学習態度を身に
付けて行くことのできる学生は限定される。従って、学生の変化に対応するこ
とと教育方法の改善とをシンクロさせていく工夫は必然の方法である。ラーニ
ンググリッドとティーチンググリッドが図書館の機能として存在することによ
り、図書館自体が新たな教育を提供するためのインキュベーダーとしての位置
を獲得しているといえる。また、図書資料の検索は個々の図書館保有の情報に
留まらず、出版会社や全国の大学図書館の保有情報の検索に発展している。そ
の意味で、本学ICTセンターの在り様も、PC学習の条件整備からコンテン
ツ管理へと進んでいく方向の中では、図書館との関係を考える場面が必要にな
ると思われる。
(高橋)
・ これまでに数々の図書館を見学したが、ここまで利用者が多く、活気のある
図書館を訪れたのは初めてで、衝撃を受けた。ウォーリック大学では、活発
にディスカッションやプレゼンテーションを行う様子や、学生アドバイザー
が生き生きと指導している場面が見られた。新しくラーニング・コモンズの
取り組みを始めた国内の大学では、こうした利用スタイルはまだ定着してい
ないように思える。
・ Quietエリアに食べ物を持ち込もうとして図書館員に注意される学生、
YouTubeを見てくつろぐ学生、にぎやかにおしゃべりをする学生、そういった
光景は本学と変わらない。しかし、ウォーリック大学の図書館には、学生が
勉強をするために集まってきているという雰囲気がある。本学では「知的な
空間づくり」が課題である。
・ Learning Gridの成功理由のひとつは、学生アドバイザーの起用にあるので
はないかと感じた。ラーニング・コモンズの実現には、環境を整備するだけ
でなく、学生の学びをサポートすることが重要である。本学では現在IT系の
サポートのみであるため、次の課題は「ライティングのサポート」であろう。
7-95
・ Teaching Gridは、図書館が冊子体の資料やデータベースなどの教育資源だ
けでなく、大学におけるあらゆる教育用のマルチメディア機材を一括管理す
るという先進的な取り組みである。国内でも慶應大学SFCでは早くから図書館
においてPCだけでなくマルチメディア機器を管理しており、オープンスペー
スを設置する上で参考にしたが、SFCは利用者(学生)への技術的なサポート
の面が強い。本学図書館の課題である「授業との連携」という点でTeaching
Gridの考え方は、大いに参考になる。
(小谷)学習の在り方そのものが単なる知識の伝達ではなく、知識の創出と自
主的学習・双方向型学習であるとされる今、授業で教わった知識の理解を深め
るための場所・資料を提供するだけの図書館施設は過去の遺物と言わざるをえ
ない。学生が自主的に問題解決を行い、自分の知見を加えて発信するという学
習活動全般を支援するための施設こそが現代のニーズにあった図書館である。
この点で、ウォーリック大学を訪れ、本学が理想とする先進的な図書館施設を
見学できたことは自身にとって大変貴重な経験となった。従来型の図書館機能
に加え、飲食しながらディベートやグループワークが行える(各専門スタッフか
らも指導も受けられる)ラーニング・スペース、画像・映像の編集加工ソフトの
扱い方・専門的な IT 機器の使用方法を学ぶことができる教職員用 FD スペース
「Teaching Glid」、卒業生や院生専用の研究スペース「Research Exchange」
等、同大学の先端的な「Learning Glid」から発展した複合教育施設は、ソフト
面・ハード面の両面で、各専門教育、就職指導、学生指導、学生課外活動に関
わるあらゆる機能を集約したターミナルとなっている。
一見設備面で大きな違いはない本学の図書館と比較し、絶対的に不足している
のは、図書館=「学生の居場所」という文化である。これは、日本における旧
態依然の従来の図書館イメージが大きな障害になっていると言わざるを得ない。
しかし、図書館の大々的なリニューアルから2年、本学では、教育用マルチメ
ディア機材の管理、IT コンシュジュの常駐、ライティングラウンジの開設、講
義スペースとしての図書館利用等、様々な取組を行い、在学生の図書館に対す
る認識を徐々に変えつつある。本学の図書館を通じて、新たな学びの文化を形
作ることができるよう、今後もソフト面・ハード面の両面で継続的な取組が必
要である。
7-96
7.6.5. その他視察
7.6.5.1. British Library
イギリスの国会図書館としての機能を持つ図書館で、1998 年に大英博物館よ
り移転した。利用にあたっては、調査・研究の目的に限定される。地下の受付
カウンターで利用登録し、ロッカーに荷物を預けて使用する。Exhibition
Galleries は、マグナ・カルタやシェイクスピアの初版本、ビートルズ自筆の楽
譜などが展示されており、自由に見学ができた。
7.6.5.2. Trinity College Library
1592 年にイギリスのエリザベス 1 世によって創設された伝統ある大学。旧図
書館の展示室と 2 階のロングルームのみ有料で見学が可能。福音書「ケルズの
書」「アーマーの書」「ダローの書」の展示と図書館で最も古い蔵書が収められ
ているロングルームを見学した。見学料と Library Shop での収益は図書館の維
持管理に利用されるとのこと。
7.6.5.3.Coventry Central Library
コベントリー市の中央図書館を見学した。市街地の
ショッピングセンター付近にあり、利便性がよい。2
階建ての吹き抜けになっており、1 階には蔵書とカウ
ンター、2 階には PC が利用できる閲覧席があり、館
内では Wi-Fi が無料で利用可能。視聴覚資料の所蔵数
が多く、貸出は有料。外国人居住者のための資料も充
実している。
7-97
7.7. はこだて未来大学
【概
要】
見学先:
時:平成 22 年 8 月 25 日(水)
日
参加者:北川盈雄、飯田幸子、高橋可奈子
目
的:公立はこだて未来大学(情報ライブラリー)は、情報系の単科大学、
学生数は約 1300 名、教員数は約 70 名。2000 年に設立。「オープンス
ペース、オープンマインド」という考え方を目標とした新しい学習環
境を設けてプロジェクト学習に力を入れている。
ラーニング・コモンズの効果的な運営方法を学び、本学図書館に新た
に設置されたオープンスペース活用のヒントを得る。
【報
告】
1. オープンスペースの見学
z
建物は全面ガラス張りになっており、大学に必要な設備はひと通りこの建物
の中に揃っている。情報ライブラリー(図書館)、ミュージアム、事務局、
体育館、食堂なども含まれている。これを補完する建物として研究棟があり、
主に院生が利用する。
z
事務局の入口には職員の所属や顔と名前がわかるように写真入りの座席図
が掲示されており、学生にわかりやすく、親近感を覚えてもらえるような工
夫をしている。
z
施設の利用時間は 22:00 までだが、夜間はカードで通用が可能。
z
ミュージアムは、地域との連携を目的として設置され、研究成果やプロジェ
クト学習の活動を紹介したり、各種イベントを実施したりできるスペースに
なっている。
z
中央の通路を挟んで教室とオープンスペースに分かれている。(写真 A)
z
一般の教室もすべてガラス張りになっており、授業の様子が見られる。(写
真 B)
試験の時など、必要に応じてブラインドが使用される。
z
オープンスペースは、奥側から研究室~ゼミの学習スペース~フリーの学習
スペース~プレゼンテーションベイという並びになっている。
(写真 C・D)
7-98
z
オープンスペース内での飲食は、定められた場所(食堂・喫茶エリア)のみ
で許可されている。
z
学生は入学時に全員がノートパソコンを購入することになっているため、自
分の PC を持参してオープンスペースを利用する。
z
PC 等のトラブル対応やデジカメビデオカメラ等機材の貸出については、ネ
ットワーク管理業者から 1 名が派遣されており、管理室に常駐してサポート
対応している。
z
情報系の単科大学で、全員が PC を所持しているため、学生のスキルが高く、
特別なサポートは必要ないという。
z
オープンスペースを管理する部門はなく、使い方についても利用者に委ねら
れている。ごく稀に盗難はあるが、これまで特に大きなトラブルが起きたこ
とはない。周りの声がうるさいといったクレームもない。飲み物を持ち込ん
でいる学生は見受けられる。細かい規則はないが、一人ひとりがルールやマ
ナーを守って活用しているようだ。
z
各教員の研究室の前に所属するゼミの学生用の学習スペースが設けられて
いる。(写真 E)研究室があって教員の目の届く範囲で学生が活動している
ことも、オープンスペースに管理者が常駐する必要がない理由のひとつ。
z
プレゼンテーションベイはプロジェクト学習やゼミの発表会に活用されて
いる。スクリーンやプロジェクターなどを持ち込んで自由に使用できる。下
級生は自分が興味を持ったゼミの発表を聞いて、ゼミ選択の参考にしている。
(A)
(D)
(B)
(E)
7-99
(C)
(F)
2. 情報ライブラリーの見学
z
情報ライブラリー内は私語が禁じられており、ワークスペースとして利用し
たい場合は、オープンスペースを利用してもらう。
z
専任職員 4 名+学生アルバイトで運営している。
z
閲覧席は、ベンチ、テーブル、カウンターの 3 タイプ。(写真 G・H)
z
雑誌については、電動書庫(開架式)にバックナンバーを保管しているが、
保存年限を設定して順次廃棄するようにしている。(雑誌架=写真 I)
z
電子媒体での契約が可能なものについては、電子ジャーナルへ切り替えてい
る。
z
書架がコの字に配置されており、棚番号がふられている。(写真 J)
z
通路(写真 K)沿いに、新書用の低書架(写真 L)参考図書の低書架(写真
M)が並ぶ。
z
ゲート前のブラウジングコーナーに雑誌、新聞の書架が設置されている。
z
館内に授業「情報環境構築演習」の成果として、学生が作成したパネルが展
示されていた。今年度のテーマは「ライブラリーの編纂」。
z
予算については、大学全体として縮小傾向であるが、図書館の必要性につい
て理解があり、現時点で資料費が削られることはないとのこと。
z
情報リテラシー教育は、ガイダンスの他に 1 つの授業の中で行っている。外
国語の授業では図書館の活用が必須であるが、情報系の単科大学という性格
もあり、図書館を利用せずに、インターネットだけで情報収集する学生も多
い。
7-100
(G)
(H)
(I)
(M)
(J)
【所
z
(K)
(L)
感】
明確なコンセプトをもとに一から建設され、学習環境が整備されているので、
設備やレイアウト全体に無理がないと感じた。全体的にスタイリッシュなデ
ザインで、機能面だけではなく、視覚の面でも斬新さを感じた。特に、プレ
ゼンテーションベイは画期的で、もっとも印象に残った。
z
開放的で壁がない分、プライバシーの面や集中力に欠けるのではないかとい
う懸念もあったが、物理的な壁を排除することで人と人との心の壁をも排除
し、お互い刺激し合える学習環境の方が有意義なものであるようにも感じた。
z
大学を設置する際に函館市の職員もまじえて「地域の大学」として計画され
たこともあり、地方の単科大学ならではの特徴を活かしたコンセプトになっ
ていると感じた。学内で過ごす時間の長い学生が活動しやすいように、各ス
ペースの配置が工夫されており、特に学年に応じて「居場所」をスライドさ
せていくという発想に感銘を受けた。また、地域とのつながりの場としての
「ミュージアム」の活動もユニークである。
7-101
z
近年、学生支援の取り組みとしては、学生への手厚いサポートを充実させる
動きが主流となっている。しかし、はこだて未来大学では、学習環境を整え
ることで学生の自発的な活動を促し、自立した学習者を育成するという思想
が根本にあるように思う。プロジェクト学習やゼミナールの指導だけでなく、
公共の場である「オープンスペース」での学生同士のコミュニケーションを
通して、社会性をも身につけさせるという考え方は、本学の図書館でも参考
にしたい。
【補
足】函館市立中央図書館の見学
函館市(面積 677.92km²、人口 283,301 人 [H21 年 3 月末] )の中央図書館
を見学した。建物中央が吹き抜けになっており、開放的でオープンな空間にな
っている。
(写真 N)1階のフロアに開架図書がまとまっており、一般・青少年・
児童コーナー(写真 O)が仕切りなく見渡せるように配置されている。インタ
ーネットや AV 視聴コーナーも整備されている。PC を持ち込めるスペースや研
究個室も準備されており、ビジネス・研究目的でも利用できる。また、図書館
の建物内に飲食店が入っており、中庭(写真 P)やロビーのベンチでも休憩や
飲食が可能である。長時間の滞在に対応できるように工夫されている。
(N)
(O)
(P)
7-102
7.8. せんだいメディアテーク、尚絅学院大学
7.8.1 せんだいメディアテーク
【概要】
日
時:平成 22 年 11 月 11 日(木)午前
参加者:和田万紀子、小金香奈、藤澤みどり
目
的:理念に基づいて多様なサービスとプログラムを用意しているせんだ
いメディアテークの施設および仙台市民図書館を見学する。
【報告】
「せんだいメディアテークは、美術や映像文化の活動拠点であると同時に、
すべての人々がさまざまなメディアを通じて自由に情報のやりとりを行い、使
いこなせるようにお手伝いする公共施設である」とホームページに明記されて
いる。このコンセプトはまさしく、場としての図書館の活用を考える<ラーニ
ング・コモンズ>に通ずるものがあるといえよう。
①最先端の知と文化を提供(サービス)②端末(ターミナル)ではなく節点
(ノード)へ③あらゆる障壁(バリア)からの自由という 3 つの理念に基づき、
多様なサービスとプログラムが用意されている運営方針に共感を覚えた。サー
ビスには、次の 4 点があげられている。
①ギャラリーやシアターなど、表現の空間の提供
②スタジオやワークショップなど、活動の空間の提供
③最新の知識や情報の提供
④だれもが情報を収集し、蓄積し、編集し、発信のできる環境の提供
地上 7 階、地下 2 階建ての文化複合施設として、それぞれの施設の特色を活
かし、連携しながらサービスが提供されている。市民向けのパソコン講座が実
施されているフロアでは情報機器を使った展示が行なわれていたり、仙台市民
図書館では読書推進の取り組み展示が行なわれていたりといったイベントが仕
掛けられていた。さながら、おもちゃ箱の中を探っているような楽しさが感じ
られるのである。「ここに足を運べばなにか面白いことに出会えるかもしれな
い」という期待にこたえてくれる<場>となっている。この視点は、本学図書
館においても共通して考えるべきであろう。30 分という限られた時間での施設
見学ではあったが、示唆に富むものとなった。
7-103
読書推進の取り組み展示
(情報提供の一例)
さまざまなタイプの活動スペースが
用意されている。(活動空間の提供)
スペースを利用した活動成果の公開。
(情報を編集、発信している一例)
7-104
7.8.2 尚絅学院大学図書館(almo)
【概要】
日
時:平成 22 年 11 月 11 日(木)午後
参加者:和田万紀子、小金香奈、藤澤みどり
目
的:知の協働空間「アルモ」として平成 21 年 9 月に竣工された新図書館
を見学し、図書館の場としての活用について情報交換をする。特に、
ディスカッションができる「コラボックス」や「セミナールーム」
を学習とコミュニケーションの場として活用している様子から本学
図書館運営のヒントを得る。
【報告】
2009 年 9 月に竣工された新図書館は「知の協働空間」を理念としている。図
書館の愛称「almo」は学生からの応募により選定され、イタリア語で「恵み」
を意味するという。館内の空間作りのキーワードは「3C」。
①Collaboration(共同でディスカッションできる協働空間)
②Communication(友達との気軽な交流やリフレッシュできる空間)
③Concentration(個人の学習・レポート作成が集中してできる静寂な空間)
3 つの C が有機的に連携できるよう、回遊式プロムナードが配置されている。
とりわけ目を引くのが①Collaboration を具現化した「コラボックス」と呼ばれ
ているグループ学習室である。館内各所に 4 つ設けられ、4 色に色分けされると
ともに、それぞれの利用目的に応じてテーブル、椅子、PC の配備なども考えら
れている。同じ仕様の個室が 4 つ用意されているのではなく、バリエーション
を持たせているところに工夫が感じられた。
collabox(コラボックス)
7-105
入口を入ってすぐには「絵本スク
エア」があり、大きな展示棚にはた
くさんの絵本が並べられている。ま
た、葉っぱの形をしたスツールがか
わいらしい。附属幼稚園の子どもた
ちが利用できるようにすることを
想定しているという。配置場所が入
口付近であることの理由も納得で
きる。大きな展示棚の後ろ側には、
生涯学習講座の開講が可能なセミ
ナールームへの通路が設けられて
いる。これは、休館時にも利用でき
るという配慮である。利用人数に応
じて部屋の大きさを変えることも
できるようになっているセミナー
ルームは図書館が学習支援スペー
スであることをアピールしている
ともいえよう。ただ、館内から内部
の様子が見えないことは改善課題であるという。
雑誌コーナー、AV・コミックコーナーから見上げる
天井の梁は、大変立派なものであった。この長大な梁を
はじめ、書架、閲覧席、展示棚、館内の階段には木製の
ものが採用されており、大変温かみのある雰囲気となっ
ている。また、学内は土足厳禁であり、図書館入館時に
も靴をはきかえているため、館内は美観が保たれている。
椅子の座面についても取り外してのクリーニングが可
能なタイプを採用しているほどであり、清潔感が感じら
れた。
これまでは閲覧席も限られた小さな図書館であったため利用者も少なかった
が、新図書館オープン後はかなり活発に利用されているという。利用者にとっ
ても図書館が 3C の場所として受け入れられているようである。新図書館のコン
セプトがしっかり実現され、理解されていることがよくわかった。
7-106
サービス面では<展示>に力を入れている印象を受けた。学園の歴史資料の
展示をはじめ、レポートの書き方やレポート課題に関連した資料についての展
示、カウンター周りの小さなスペースにおけるミニ展示など、壁面やコーナー
をうまく利用して展開している。予算をかけずに本学においてもすぐに実践が
可能なことであり、大変参考になった。本学の利用者に向けた<展示>を考え
たい。
また、図書館運営(業務委託方式)についてもお話を伺うことができた。ま
ちづくりを専門とする図書館長の強力なリーダーシップがあってこその新図書
館建設計画、運営方針の策定、サービス展開なのだということを強く感じた。
◎壁面を利用した展示
教員と連携した課題テーマの参考資料
本の探し方、探すときのコツを案内
◎カウンター周りの
ミニ展示
スペース活用の好例
◎大学の歴史も展示で紹介
7-107
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