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SERI 経営ノート
SERI 経営ノート
2010 年 12 月 2 日(第 83 号)
進化する特許ビジネス
目次
1.特許環境の変化
1
2.新特許ビジネスモデル
4
3.示唆点
9
作成: イム・ヨンモ首席研究員(3780-8222)
[email protected]
三星経済研究所
≪要約≫
これまで特許は研究開発の副産物で、事業活動保護のための防御的手段として認識さ
れてきた。しかし、多様なビジネスモデルを有した特許専門企業が登場して、米国の特
許取引市場が 2000 年 2 億ドルから 2008 年には 14 億ドル以上に拡大するなど、今や特許
が独立的な収益創出の手段に変化している。
新しく登場する特許ビジネスモデルは、ライセンシング、支援サービス、金融等の類
型に区分できる。まず、ライセンシング型は、特許を購入または委託を受けた後にこの
特許を利用して、ライセンシングまたは訴訟で利益を創出するモデルだ。世界で最も巨
大なライセンシング企業の Intellectual Ventures は、50 億ドル以上のファンドを運用
して 3 万件以上の特許を確保している。また、企業から委託された特許プールを形成し
て、ライセンシング業務の代行も請け負っている。ライセンシング専門企業が提起した
訴訟件数が 2000 年の 100 件余りから最近 500 件程度に急増し、RPX 等は防御ファンドを
設立して製造企業を保護する事業を展開している。
支援サービス型は、特許の仲介・評価・コンサルティングなどを提供するモデルだ。
特許仲介企業は、供給者と需要者を競売やオンライン市場などを通じて仲介するが、こ
れらは M&A、特許戦略などを総合コンサルティングする会社として発展している。また、
評価や侵害調査などを専門的に代行する会社も登場している。一方、私募ファンドなど
金融機関の参加も増加している。数億ドルの大規模な特許ファンドが出現しており、特
許を現金化する多様な金融技法も発展している。
特許環境の変化は、韓国の製造企業に危機を招いている。韓国は GDP10 億ドル当たり
102.6 件、R&D 費用 100 万ドル当たり 3.3 件の特許を出願している。これは、世界でも
最も活発な水準だ。しかし、韓国企業の特許競争力は収益と防御すべてが脆弱だ。2008
年韓国は 31 億ドルの技術貿易赤字を記録しており、OECD 国家のうちスイスの 44 億ドル
(2007 年)に続いて 2 番目に膨大な赤字を記録した。また、2006 年 47 件だった海外企
業との特許関連紛争は、2009 年には 106 件と増加した。
これまで韓国企業は保有件数に依存して、特許紛争リスクを回避しようと受動的な防
御戦略にだけ重点を置いてきた。しかし、今やビジネスの観点から事業および R&D 戦略
と有機的に連携した戦略を樹立しなければならない。さらに、不足した特許力を短期間
で補完するため特許環境との連携を強化する必要がある。
1.特許環境の変化
特許がビジネス手段として浮上
□ 研究開発の副産物で事業活動保護のための防御的手段とだけ認識されていた特許が、
独立的な収益創出の手段として進化
-1474 年初めに特許制度が施行されてから、発明者に実施(商品を製造、販売)を
前提として独占的な権利を付与してきた。
世界最初の特許制度
○1474 年イタリアのベニス政府は、外部から優れた才能を有した職人を招き入れて
経済の活性化を目的に特許制度を作り、以来ヨーロッパ全域に伝播した。
-現在の特許制度において発明の条件である新規性、有用性、実用性を求め、保護
期間は 10 年と限定する。
資料:Watanabe,T.(2010).「研究開発と知財マネージメント」.
『Int.symp.on IP 2010』,11 月 17 日.ソウル:コエックス.)
-1990 年代 TI(Texas Instrument)、ポラロイドなどの企業がいくつかの特許だけを所有
して数億ドルの収益を得るや特許の価値に対して再認識し始める。1)
-2000 年代から製造活動をせず、特許ライセンシングおよび訴訟などを通じて収益を創
出する NPE(Non-Practicing Entity)が急成長
・2001 年 IT バブル崩壊により、破産したベンチャー企業の特許を取得した NPE が相次
いで高額のロイヤルティー収入を創出
1)ペ・ジンヨン(2008).「特許権管理会社の定義と誕生背景」.『知識財産 21』、102 号、
3‐25.
□2000 年代に入り、特許が独立的な資産として流通市場で取引され始め、多様な特許ビ
ジネスモデルを有した企業が登場
-NPE と紛争防御のための製造企業の特許購入が拡大するにつれ、取引市場が急成長
・米国特許取引市場(ライセンシングを除く)規模は、2000 年に 2 億ドルを若干超える
水準であったが、2008 年には 14 億ドル以上に拡大
-特許ビジネスの拡大とともに、これを支援するための仲介・評価・金融等の専門サー
ビス企業が増加するに従って特許環境が早期に変化
特許取引市場規模
(百万ドル)
注:2009 年は経済危機により、NPE と製造企業の特許購入が減少し市場規模が急減
資料:Chernesky,J.(2009).Patent secondary market.IPotential.資料を基に再構成
□特許環境が変化するにつれ、個人・大学・企業など既存の特許生産者も収益活動を強
化
-これまで発明に対する十分な補償を受けられなかった個人と大学などが、権利を要求
するために活発な活動を展開
-経済危機以降、経営実績が悪化した企業を中心に特許収益の極大化のため特許の売却
およびライセンシング活動が強化
特許環境の変化は韓国の製造企業に危機を招く
□韓国は積極的な特許出願により、量的な面において世界で上位圏
-2009 年、韓国は 8,066 件の PCT(Patent Cooperation Treaty)特許 2)を出願して米国、
日本、ドイツに続き世界 4 位
-韓国は 2008 年の GDP10 億ドル当たり 102.6 件、R&D 費用 100 万ドル当たり 3.3 件の
特許を出願し、世界で最も活発に特許活動を展開 3)
□韓国企業は多くの特許を保有しているにもかかわらず、収益創出と防御力がすべてに
おいて脆弱
-2008 年韓国は、31 億ドルの技術貿易赤字を記録し、OECD 国家中スイスの 44 億ドル
(2007 年)に続いて 2 番目に膨大な赤字を記録
主要国家別の特許出願と技術貿易の現況比較
(単位:件、億ドル)
区分
韓国
米国
日本
イギリス
ドイツ
スウェー
スイス
デン
PCT 出願
8,066
45,790
29,827
5,320
16,736
3,667
3,688
技術
輸出
25
919
215
339
527
179
103
貿易
輸入
56
541
58
193
437
124
147
収支
△31
378
157
146
90
55
△44
注:PCT 出願は 2009 年基準、技術貿易は 2008 年基準(スイスは 2007 年基準)
資料:教育科学技術部、主要科学技術統計
-最近、ライバル企業の牽制と NPE の増加により、海外企業との特許関連紛争が増加
・韓国企業の海外特許紛争件数
4)
:47(2006 年)→89(2007 年)→127(2008 年)→106(2009
年)
2)
PCT は、出願人が自国の特許庁に出願を希望する国家を指定して PCT 国際出願書を提出
すれば、即日各指定国に出願書を提出したことと同じ効果を与える制度
3)
WIPO(2010).World Intellectual Property Indicator.
4)
韓国知識財産保護協会ホームページ
2.新特許ビジネスモデル
新特許ビジネスモデル
類型
ライセンシング
ビジネスモデル
主要業者
購入した特許で訴訟等を通じてロイヤルティ
IV,Acacia
ー収入獲得
特許の委託を受けてライセンシング代行
防御ファンド運営、コンサルティング
特許取引仲介、総合コンサルティング、競売
Sisvel,IPvalue
RPX,Patent,Freedom
IPotential,
支援
サービス
OceanTomo
特許評価業務コンサルティング、評価ツール
OceanTomo,
提供
金融
特許担保貸出、流動化証券発行
IPB
Altitude,Paradox
①ライセンシング
□商業化能力に乏しい個人やベンチャー企業などから購入した特許を利用し、特許侵害
訴訟を提起することによって、製造企業からライセンシング収益を獲得
-Acacia,Rate Technology など、いわゆる「特許怪物(Patent Troll)」と呼ばれる一部
のライセンシング専門企業は、特許法上の発明者権利を濫用して攻撃的に特許侵害訴訟
を提起
・ライセンシング専門企業が提起した訴訟件数は、2000 年は 100 件余りに過ぎなかった
が、最近は 500 件程度に急増 5)
-最近、私募ファンド形態で投資者を誘致し大量の特許を購入した後、ライセンシング
事業を展開する企業も登場
・Intellectual Ventures は、50 億ドル以上のファンドを運用して 3 万件以上の特許を確
保
□特許の委託を受けて訴訟、交渉などを代行する専門企業が登場
5)
Patent Freedom ホームページ、Current Research.<http://www.patentfreedom.com>
-1990 年代末、個人発明家などから勝訴条件付きで特許訴訟を受任する法律会社が出現
し、ライセンシング専門企業の登場が開始
-最近、製造企業にライセンシング業務をコンサルティングまたは一部委託を受けて訴
訟や交渉などをおこなう企業が増加
・2001 年に設立した IPvalue は、BT やゼロックスなどとパートナーシップを締結してラ
イセンシング対象の発掘から交渉までの総合的なサービスを提供
-Sisvel,Via Licensing などは、多数の企業に散らばっている関連特許を収集して特許
プール(Pool)を構築し、これを委託管理
Sisvel の MPEG Audio 特許プール委託管理
○イタリアの Sisvel は、音声圧縮技術の MPEG Audio 特許プールを委託管理しながら攻
撃的なライセンシング戦略を使って業界の注目を集める
-フィリップス、フランステレコムなど MPEG Audio と関連した特許を保有する企業から
200 件余りの特許委託を受けた後、侵害訴訟を提起するなどの方法でアップル・ノキア
など 1,000 社余りの企業とライセンス契約を締結
-現在 MPEG Audio 他 cdma2000、UHF-RFID、DVB-T などの特許プールを管理
(資料:Tomoya,Y.& Dominique,G.(2009).The emerging patent market
(STI WORKING PAPER2009/9).OECD.)
□ライセンシング専門企業による製造企業の被害が増加し、専門的に防御するビジネス
モデルも登場
-RPX など防御型ファンド会社は、加入した企業を代行して特許流通市場でライセンシ
ング専門企業から攻撃を受けやすい特許を購入
-PatentFreedom などは、ライセンシング専門企業関連動向をモニタリングして企業に
情報とコンサルティングを提供
②支援サービス
□特許供給者と需要者を取り持つ仲介企業と競売など取引市場を提供する企業が増加
-特許の場合、売渡人および買収人の大多数が情報公開を敬遠する傾向があり、多くの
取り引きが非公開市場で仲介業者を通して進行
-特許ビジネスの活性化により、仲介企業は IP 基盤 M&A、特許戦略コンサルティングな
どに事業領域を拡大して総合コンサルティング会社として発展中
・デ ュ ポ ン は 、 広 範 囲 な 技 術 移 転 を 希 望 す る 業 者 の 発 掘 業 務 を 仲 介 専 門 企 業 で あ る
Yet2.com に委託
-最近、競売およびオンラインサイトなど、公開された市場で特許を取引きできるよう
にする企業が早期に成長
・NineSigma,Innocentive などは、オンライン上で多数の技術保有者と技術強化を図る企
業を取り持つ事業を展開
OceanTomo の特許ビジネス
○OceanTomo は、2006 年世界初のオフライン特許競売を開始
-2010 年シカゴ炭素排出権取引所社長を迎え入れて、特許権を株式のように取引きする
ように仲介する IPXI(IP Exchange International)を設立
○売却後にライセンシング、特許担保貸出、知的財産の流動化証券発行など多様な特許
金融サービスを提供
○知的財産戦略が優秀な 300 企業の株式に投資する OT300 上場指数ファンド
(EFT:Exchange Traded Fund)を開発して米国証券取引所に上場
(資料: OceanTomo ホームページ<http://www.oceantomo.com/>
□評価、侵害調査など多様な特許ビジネス支援サービス企業が増加
-米国 OceanTomo、日本 IPB などは、特許の引用関係・書誌事項・紛争などの情報を総
合して客観的に特許の質を評価するツールを提供
-製造企業やライセンシング専門企業のために特許侵害訴訟に必要な証拠を専門的に調
査するビジネスモデルも登場
特許侵害専門調査企業,Chipworks
○1992 年に設立された Chipworks は、半導体と電子製品の特許侵害の有無を専門的に調
査するサービスを提供
-回路、システムなど多様な分野に所属する 70 人余りの逆エンジニアリング技術者が、
侵害可能製品の発掘、技術的証拠の確保などの業務を遂行
-これまでに、3 万件の特許と 1 万個の製品を調査
(資料:Tomoya,Y.& Dominique,G.(2009).The emerging patent market
(STI WORKING PAPER 2009/9).OECD.)
③金融
□特許の経済的価値が高まり、私募ファンドなど金融機関の参加が増加
-米国ベンチャーキャピタルなどは、リスクが高いベンチャー企業の代わりに特許を新
しい投資対象として注目
・最も多く特許訴訟を提起している Acacia は、ベンチャーキャピタルが当時確保した特
許を基盤に 2001 年からライセンシング専門企業に転向
-大型投資銀行のドイツバンクと私募ファンドは、特許ファンドを運用またはライセン
シングを目的にする企業に投資
Altitude Capital Partners の特許金融事業
○Altitude Capital は、2 億 5,000 万ドルの資金を運用しながら特許関連企業に投資
-2007 年モバイル e メールの特許を保有した Visto は、Altitude Capital から 3,500
万ドルの投資を得た後、特許訴訟を通じてブラックベリーで有名な RIM だけ 2 億 6,800
万ドルのロイヤルティーを獲得
-Altitude Capital が 800 万ドルを投資した Deep Nines は、2008 年インターネット
保安業者の McAfee から 2,500 万ドルの合意金を得て訴訟を終結
□資金不足の中小企業に対し、多様な金融技法で保有特許を現金化して支援
-運営資金が必要な企業が特許を売却する代わりに、再度実施権
6)
を得る「売却後ライ
センシング(Sale/Lease back)」技法が登場
・2009 年イスラエルの VocalTec は、22 件の特許のうち 15 件を「売却後ライセンシング」
方式で現金化して 1,540 万ドルを調達 7)
-大規模投資と長期間かけた R&D が特徴のバイオ分野を中心に、IP 基盤構造化の金融技
法が発達
・IP 基盤構造化金融:未来の知的財産収益に対する権利を事前に販売することで、R&D
など現在必要な資金を調達する金融技法
Royalty Pharma
○1996 年に設立された Royalty Pharma は、大学やベンチャー企業などが既存の制約企
業と締結したロイヤルティー契約を取得する事業を展開
○2009 年現在、市販される 17 個の製品と臨床試験中の 5 個の製品から 6 億 9,000 万ド
ルのロイヤルティー収益を創出
-ロイヤルティー収益(百万ドル):67(2003 年)→161(2005 年)→385(2007)→690(2009
年)
6)
実施権:特許を使用して製品を作成できる権利
7)
Mustoe,H.(2009.1.14).Cash-Strapped Technology Small-Caps Hold Patent Sales.
Bloomberg.
3. 示唆点
特許戦略をビジネス観点で再点検
□特許を R&D の副産物としてだけ見ていた視点から脱皮して、ビジネス観点から戦略を
樹立
-これまで韓国企業は、保有件数に依存して特許紛争リスクを回避しようと受動的防御
戦略にだけ集中
・量中心の防御戦略は、融・複合化の深化により必要な特許が増加し、多様なビジネスモ
デルが出現する環境変化に対応するのに限界
-反面、欧米の先進企業は特許を企業戦略の重要な軸として事業および R&D 戦略との有
機的連携を通じ、収益創出の拡大を追求
□変化した特許環境を製品競争力と R&D 生産性向上の契機として活用
-韓国企業は収益は多いが、相対的に特許競争力が弱いため、訴訟などによる攻撃的な
収益化戦略はメリットよりもデメリットの方が多い
-仲介企業などを活用して優れた特許を購入し、継続出願と同様の戦略的出願活動で強
力な特許網を構築
・アップルは 2005 年 Fignerworks から確保したマルチタッチ技術を土台に、アイフォン
などライバル社と差別化した製品を開発
-内部で眠っている休眠特許を外部に公開し、収益創出とともに新しい市場開拓の可能
性を探索
特許環境との有機的連携を強化
□特許流通市場の流動性と透明性が向上し、特許環境がさらに早期に変化すると予想
-客観的に特許価値を評価できる技法が発達し、競売など公開された取引市場が成長し
て特許流通市場における透明性が向上
・これまで特許流通市場は、売渡人と買受人の大部分が情報公開を敬遠して、商品・価
格などの取引情報の公開が不十分であることが問題点
-特許のビジネス価値が高まり、需要と供給が増え、多様なビジネスモデルを持ち合わ
せた企業が参加して特許流通市場が急成長
・現在の特許流通市場の変化は、1980 年代住宅モーゲージ産業で多様な分野の専門企業
が登場し、市場が急成長したパターンと類似 8)
□特許環境との戦略的連携強化で特許力を向上
-現在特許ビジネスは、巨大な特許流通市場である米国で活動している特許専門業者が
最前線で主導しているため、これらの企業を最大限活用して不足した特許力を補完し、
ノウハウ獲得の機会として活用
・特許専門会社の 3 分の 1 以上が米国シリコンバレー地域に集中
-内部における人材力の向上には相当な時間が必要とされるため、各分野の専門家を迎
え入れ、最高の特許チームを構成することも考慮
・MS は、IBM からライセンシング事業分野を構築したマーシャルフェルプス氏を迎え入
れて短期間に特許競争力を向上
-以上-
8)
Chesbrough,H.(2006).Open Business Model.HBS Press.
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