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教具を組み合わせた「月の満ち欠け」の授業実践 †

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教具を組み合わせた「月の満ち欠け」の授業実践 †
宇都宮大学教育学部教育実践紀要 第2号 2016年8月1日
教具を組み合わせた「月の満ち欠け」の授業実践 †
南 伸昌 *・工藤真理子 *
宇都宮大学教育学部 *
概要
小学校6年理科の「月と太陽」単元、
「月の形と太陽」について、
公立小学校において、
無線朔望儀と太陽・地球・
月の大きさモデルを併用して児童の理解を深める授業実践を行った。用いた教科書と無線朔望儀で、月の形
の表現に若干の違いがあるなどの課題も見つかったが、児童は天体のスケールを実感し、月の満ち欠けの仕
組みは理解できたようであった。
キーワード:小6、月の満ち欠け、教材開発、無線朔望儀、太陽・地球・月の大きさモデル
1.はじめに
子と、それが地球上からどのように見えるのかとい
小学校6年生の理科で学習する「月の満ち欠け」は、
うことを、同時に観察することができる。
地球上と宇宙からの視点移動や天体の位置関係の把
握が難しく、学習の困難さが指摘されている。
1, 2)
(2)太陽・地球・月の大きさモデル
その困難さ克服のために様々な教具が開発され、指
太陽系を約13億分の1に縮めると、地球、月、太
導方法の検討もなされている。本実践では「無線朔
陽の直径は、それぞれ1 cm、2.5 mm、1 mとなり、
3)
4)
望儀」 と「太陽・地球・月の大きさモデル」 を
月−地球、地球−太陽間の距離は、それぞれ30 cm、
併用することにより視点切り替えを体験し、月の満
110 mとなる。地球にビー玉、月にまち針などの小
ち欠けの仕組みを実感することをねらいとした。授
球、太陽に大玉を用いて、運動場などに距離を合わ
業は宇都宮市の公立小学校6年生1クラス17名を対象
せて配置するのが「太陽・地球・月の大きさモデル」
である。
(図2)地球の位置から月と太陽を観察する
に行った。
と、ほぼ同じ大きさに見えることが実感できる。
2.用いた教具
(1)無線朔望儀
無線朔望儀は回転台の中心に設置した無線カメラ
で、中心から延ばした腕の先に付いている「月」を
地球からの視点で捉え、テレビに投影する装置であ
る。
(図1)太陽を模した光源からの光で月が光る様
MINAMI Nobumasa* and KUDOH Mariko*:
Class practice of "the waxing and waning of
the moon" by using teaching materials
Keywords : 6th grade elementary school
student, development of teaching materials,
projection of "the waxing and waning of the
moon", size model of the sun, the earth and the
month
* Faculty of Education, Utsunomiya University
(連絡先:[email protected])
− 207 −
図1 無線朔望儀
図2 太陽・地球・月の大きさモデル
3.実践の流れ
るといえる。ここでは、月が地球の影に入ることは
授業実施前に事前調査を行い、「実際に見える月
考えなくてよいことを口頭で伝えるに留めた。
の形」、「月が光っている理由」、「月の表面の様子」、
月を見る向きと月の光っている面の見え方の関係
「地球・月・太陽の大きさとそれらの間の距離」に
を確認する教具として、半分を黒く塗ったピンポン
ついての認識を確認した。授業は3時間実施した。
玉に爪楊枝を刺したものを1人1個ずつ配った。玉を
1時間目は「月の光り方と見え方」の違いについて、
回して光っている面(白い面)を色々な向きから観
2時間目は無線朔望儀を用いて「月の満ち欠け」に
察すると、
「見える形」が変化する。(図4)月の光
ついて、3時間目は太陽・地球・月の大きさモデル
り方は同じでも、見え方は向きによって変わり、満
を用いて「地球、月、太陽の大きさと距離」の授業
ち欠けで見える形を再現できることを意識させて、
を行った。授業実施後1 ヶ月ほど間を置いて、事前
次の授業に繋げた。
調査と同様の内容の事後調査を行い、理解がどの程
度変化・定着したのか確認した。
4.授業実践
(1)1時間目:月の光り方と見え方(出席16名)
授業の初めに月の拡大写真を見せ、月は岩や石で
できており、月自体は光っていないこと、太陽の光
を反射して光っていることを押さえた。そして、今
図3 月の位置と光り方
までに見たことがある月の形をワークシートに記入
させたところ、満月や半月、三日月が大半であった
が、新月や十三夜月も見られ、月の観察経験が豊富
であることが読み取れた。しかし、月食や直線的に
一部が欠けた月など、満ち欠けにおいては観察でき
ない形もいくつか見られた。
次に、月に一方向から光が当たった場合、月のど
図4 半分を黒く塗ったピンポン玉の見え方
の部分が光るのかを予想させた後、実際にボールに
光を当てて観察を行った。予想では「半分だけ光る」 (2)2時間目:月の満ち欠け(出席17名)
と正答した児童が11名、「端だけ光る」と答えた児
前時に学習した月の光り方と見え方を復習した
童が5名であった。「端だけ光る」は光の当たり方に
後、2 ∼ 3人の班で月の形が変わる理由を考えさせ
よって満ち欠けが起こるという典型的な誤認識であ
た。ワークシートには「月の位置が変わるから」と
り、実験後も2名は依然として認識の改善が見られ
いう記述が最も多く、多くの児童が、月の満ち欠け
なかった。これは、観察時に正面ではなく斜めの位
は月と太陽の位置関係の変化によって起こるという
置から見た印象が強かったためだと考えられる。観
認識をすでに持っていることが判った。しかし、4
察位置をもう少しきちんと指示し、見え方をその場
名の児童が「月の位置が変わることで太陽の光のあ
で丁寧に押さえるべきであった。
たる角度が変わり、月が満ち欠けする」と記してい
次の段階として、いろいろな位置にある月の光り
た。これは、川上(2002)らの調査によると 、小
方の確認を行った。地球の前後左右の4箇所に配置
中学生が最も陥りやすい誤認識だとされている。
した月の光り方を予想させ、机の上にボールを置い
ここで、無線朔望儀を用いて、月の満ち欠けの演
1)
て観察した。(図3)予想では、
「月の位置が変わっ
示実験を行った。
まずは時計まわりに月を動かし、
「地
ても光り方は変わらない」という正答の児童は3名
球外から見える」月の光り方と「地球上からの」月
で、
「地球の影に隠れるときだけ暗くなる」と答え
の見え方が異なり、それらを同時に観察できること
た児童が11名、
「その他」が2名であった。
「地球の
を示した。そして、教科書に示されている新月、三
影に隠れる」と考えた児童は「真ん中に地球がある」
日月、上弦の月、十三夜月、満月、臥待月、下弦の月、
ことを考慮に入れた結果なので、正しく認識してい
有明月の8つの形を一つずつ映し出し、それぞれの
− 208 −
形が見えるときの月の位置と光り方を確認した。光
書かせた。初めは、図鑑に載っている情報が多すぎ
り方を強調することで、月の位置が変わっても光り
て書き始められない児童が多かったが、「大きさは
方は変わらないことを改めて印象づけた。また、満
違うかな?」、
「地球からどのくらい離れているのか
月のときは回転軸を傾けて、本来の配置では太陽−
な?」などの声掛けをすると、書けるようになった。
地球−月は一直線に並ばないことを演示した。
付箋を見ると、表面の温度や直径、地球からの距離
観察後、8つの位置で見えた形と、そのときの月
についての具体的な数値を書くことができていた。
の光り方をワークシートに描かせたところ、月の形
また、クレーターの名称や月の自転にかかる日数な
はおおよそ正しく描けていた。しかし、月の向きは
どを記入した児童もいた。
難しかったようで、特に満月から新月にかけての形
この活動で、月の直径は3476 km、地球から月ま
は、約半数の児童が左右反対に描いていた。これは、
での距離は38万km、太陽の直径は139万km、地球
授業中に児童から指摘を受けたのだが、用いたワー
から太陽までの距離は1億5000万kmであることを一
クシートの記入方法の指示と、教科書の図が異なっ
通り押さえた。そして、その値がどれほど大きい値
ていたことが大きな原因と考えられる。ワークシー
であるかを実感させるために、太陽・地球・月の大
トには地球から見える形を描いたが、教科書には教
きさモデルを用いた実験に移った。
科書の中心から周りの月を眺めるように描かれてお
本授業では直径1 cmのビー玉、直径0.25 cmの粘
り、特に満月から新月の間は逆向きになってしまう。
土の玉を用意し、それらを30 cmの厚紙の両端に取
(図5)授業中は児童の指摘に適切に対応できず、混
り付けて教具とした。これを見せながら、月が地球
の約1/4の大きさであること、地球から月までの距
乱を招く結果となり、課題を残した。
離は地球の直径の約30倍であることを示し、教具を
一人一つずつ与えた。太陽のモデルの大玉は、小学
校の在庫の都合で、当日は直径約1.5 mのものしか
用意できなかった。大玉を校庭に準備し、外に移動
して観察を行った。
児童は大玉とビー玉、粘土玉を見比べて、「太陽
がすごく大きい!」等の発言をしており、実物で比
較することにより、スケールの違いを実感できた様
子であった。大きさを比較した後、T2の大学教員
が大玉を児童たちのいる場所から校庭の端(∼110
m)までゆっくりと遠ざけていった。この間、児童
図5 ワークシートと教科書での月の表現の比較
たちに、ビー玉(地球)に目を近づけて粘土玉(月)
と大玉(太陽)の大きさを観察させた。太陽が遠ざ
(3)3時間目:地球、月、太陽の大きさと距離(出
かるにつれて、地球から見た月と太陽の大きさは近
席17名)
づいていく。両者が同じ大きさに見える位置は、直
初めに2 ∼ 3人の班で、教科書の写真から月と太
径1 mの大玉を使用した場合は約110 mであるが、
陽の表面の様子の違いを探す活動を行った。班ごと
この実験では1.5 mの大玉を使用したため、校庭の
に付箋と、月と太陽の絵が描かれた模造紙を配り、
端ではまだ若干大玉の方が大きかった。そこで、月
見つけた違いを付箋に書いて模造紙に貼り付け、気
と太陽が同じ大きさに見える位置まで児童を後ろに
付いたことを数班に発表させた。月は「白っぽい」、
下がらせたところ、数十メートル下がることになっ
「ゴツゴツ」、「デコボコ」、
「クレーターがある」、太
てしまった。スケールの違いは実感してもらうこと
陽は「あつそう」
「オレンジ色」
、
「黒い点がある」等、
、
ができたが、道具準備の不手際で大きな誤差が生じ
月と太陽の形や色、見た目や明るさの違いについて、
たことは反省点である。
児童は皆たくさん書けていた。
次に、宇宙に関する図鑑の一部をコピーした資料
5.考察
を配り、月と太陽の表面以外の違いも探して付箋に
事前・事後調査結果の比較を通じて授業の効果を
− 209 −
検討した。「月が光っている理由」と「月の表面の
仕組みの理解は深まったといえる。しかし、約半数
様子」については、事前調査においてほぼ全員が正
の児童がほとんどの形を左右逆向きなどに描いてし
しく回答できていたため、事後調査からは省いた。
まい、特に満月から新月にかけて、間違いが多かっ
「地球と月、太陽の大きさ及びそれらの間の距離」
た。これは、その部分の月の描写が、教科書と無線
の認識については、事前調査では正答率が低く、数
朔望儀とで異なることが大きな要因と考えられる。
値的な理解以前にスケールの違いに関するイメージ
他5社の出版社の教科書の記載内容と比較検証し
も危ういものであった。特に月の大きさについては、
たところ、地球から見た形が2社、中心から見るよ
月が地球の半分の大きさと考えている児童が最も多
うに描かれているものが3社であった。ただ、その3
く、中には同じ大きさだと考えている児童もいた。
社のものには、視点の移動に応じてキャプションの
このような誤解が生じるのは、教科書に記載されて
向きも連続して変えるなどの工夫があった。使用し
いる地球や月、太陽の図が、正しい縮尺で描かれて
た教科書ではそのような工夫は一部だったので、児
いないことが一因と考えられる。実際、授業で用い
童には難しかったのかもしれない。
た教科書では、月は地球の約半分に描かれていた。
事後調査では、月の大きさは9割近くの児童が正
6.まとめ
答を選択したが、太陽については正答選択者は減少
無線朔望儀と太陽・地球・月の大きさモデルを組み
し、一番大きい値を選ぶ児童が大幅に増加した。こ
合わせた授業実践により、天体の大きさや位置関係の
れは、ビー玉と大玉の比較において、「ものすごく
イメージを持ち、月の満ち欠けの仕組みについて理解を
違う」というイメージが強まったためと考えられる。
深めることができた。今回は教科書の流れに沿って無
地球との距離の認識についても、事後調査では正誤
線朔望儀を先に使用したが、太陽・地球・月の大きさ
にかかわらず、一番大きい値を選ぶ児童が増加した。
モデルを先に示すと正しい位置関係を把握した上で満
双方の結果から、授業で具体的な数値を定着させ
ち欠けを学べるので、
理解しやすい流れだと考えられる。
ることは難しかったが、スケールの大きさは摑ませ
今回の実践において、授業者の流れと教科書の表
ることができたようだ。小学6年生の理解としてど
現とに、一部沿わない部分があった。授業作りの際、
こまで求めるべきか、引き続き検討したい。
教科書の特性をよく把握して計画を練るよう、これ
「実際に見える月の形」の事前調査では、図6に示
からも心掛けていきたい。
す8つの形の月から、実際に見えるものを選ばせた。
謝辞
それぞれの月の下に選択者の数を記す。
授業実践の機会を設け、丁寧にご指導してくだ
さった、宇都宮市立平石中央小学校の菊地裕志先生
と仁平由美先生に、感謝申し上げます。
図6 事前調査:実際に見える月の形
誤答としては、「月食の形」を選ぶ児童の割合が高
参考文献
かった。この理由として、日食・月食はイベントと
1)川上紳一、他、岐阜大学教育学部研究報告(自
して喧伝され印象に残りやすいこと、外国の国旗や
然科学)
、第27巻第1号、pp.23−28、2002.
アクセサリーに月食の形が使用されているというこ
2)伊東明彦、他、宇都宮大学教育実践総合センター
紀要、第30号、pp.473−482、2007.
とが考えられた。普段目にする形であるが故に誤解
を生みやすいため、実際の満ち欠けとは異なること
3)梶原茉莉、卒業論文、宇都宮大学教育学部理科
教育専攻、2009.
を強調して説明する必要がある。また、少数ではあ
るが、直線的な欠け方も選ばれていたことから、満
4)新潟市総合教育センターホームページ、「月の
ち欠けの形の理解は十分ではないと考えられた。
形と太陽 大地のつくりと変化」
、p.10、http://
事後調査では、無線朔望儀で観察した8つの位置
www.netin.niigata.niigata.jp/science_contents/
に月があるとき、地球からはどのように見えるのか
el6/H24-6nen.pdf
を描かせる問題を出した。月の形については全員が
実際に満ち欠けで観察できる形を描けていたので、
− 210 −
平成28年 3月18日 受理
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