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サーボトラック書込み技術

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サーボトラック書込み技術
サーボトラック書込み技術
Servo Track Writing Technology
あらまし
58, 1, 01,2007
ハードディスクドライブ(HDD)の記録密度の向上のためには,磁気ヘッドをデータト
ラックに位置決めするために用いられるサーボ情報を記録するサーボトラック書込み
(STW)技術の改良が必須である。従来は,外部のアクチュエータを用い,ドライブ自身の
ヘッドで書き込んでいた。一方,より高い生産性とSTW品質の要求が高まってきたため,
最近では新しい方式が求められている。これらの要求に応えるために富士通はHDDメーカ
として様々なSTW技術の開発を行ってきた。
本稿では,主なSTW方式とSTWへの要求事項を紹介し,STW品質を低下させる要因につ
いて述べる。さらに,生産性向上が期待できる外部書込み方式の代表例として,メディア
STWと磁気転写STWについて説明する。
Abstract
To increase the recording density of hard disk drives (HDDs), the technology for writing
the servo tracks used to position the recording heads on the data tracks must be improved.
Servo track writing (STW) is commonly performed using the HDD’s own heads, with the
positioning done using an external actuator. Recently, however, the demands for higher
productivity and STW quality have been growing and a new method is needed. As a major
manufacturer of HDDs, Fujitsu is developing various STW technologies to meet this need.
This paper introduces the main STW methods and requirements and describes the factors
that reduce STW quality. Then, it describes media STW and magnetic printing STW, which
are typical external STW methods.
山田朋良
(やまだ ともよし)
先行技術開発部 所属
現在,HDDの装置要素
技術開発に従事。
FUJITSU.58, 1, p.29-34 (01,2007)
福士雅則
(ふくし まさのり)
ものづくり統括部生産技
術開発部 所属
現在,HDDのSTW技術
開発に従事。
鈴木啓之
(すずき ひろゆき)
ストレージ・インテリ
ジェントシステム研究所
磁気ディスク装置研究部
所属
現在,HDDのヘッド位
置決めの研究に従事。
高石和彦
(たかいし かずひこ)
先行技術開発部 所属
現在,HDDのサーボ技術
の先行開発に従事。
29
サーボトラック書込み技術
ま え が き
STWに要求される項目
ハードディスクドライブ(以下,HDD)の高記
STWには,品質,生産性,設備コストの三つの
録密度化には,データトラックへの位置決め精度の
重要項目が要求される。品質とは,サーボトラック
向上が欠かせない。磁気ヘッドは,ディスク媒体に
に関する精度のことであり,下記の項目が挙げら
磁気的に記録されたサーボ位置情報に従ってサーボ
れる。
制御によりデータトラックに位置決めされる。よっ
て,その基本となるサーボ位置情報の品質がドライ
ブの位置決め精度に大きな影響を与える。
サーボ位置情報を書き込むSTW(Servo Track
Writing)と呼ばれる工程はHDDに特有な技術であ
り,現在はHDD自身の磁気ヘッド,または外部の
磁気ヘッドによりデータと同様に磁気的に書き込む
(1) 自身のトラックの真円度
ドライブでサーボ復調した際の繰返しランナウト
(RRO:Repeatable RunOut)として現れる。
(2) 隣接トラックとの相対位置精度
Write-to-Write TMR(Write-to-Write Track MisRegistration)に影響する。
(3) 復調された位置誤差信号のオフセットに対す
(1) この方法はDVDのようにモー
方法が主流である。
る直線性
ルドによりサーボ位置情報を成形する方法に比べ多
サーボ制御と,許容オフトラックを超えたときに
大な時間と設備を必要とする。そのため,製品コス
書込みを中止する判定の適切さに影響する。
ト低減のためには,短時間で効率的に記録するとい
(4) 復調された位置誤差信号のノイズレベル
う生産性の向上が強く求められる。
本稿では,主なSTWの方法と要件を紹介し,
復調ノイズとして非繰返しランナウト(NRRO:
Non-Repeatable RunOut)に現れる。
STW品質を低下させる要因を説明する。さらに,
これらの項目に対して復調時,または復調後にド
生産性向上が期待される外部書込み方式の代表であ
ライブ側でその影響を減らすために,様々な工夫と
るメディアSTWと磁気転写STWについてサーボ位
努力がなされている。また,これらはサーボパター
置情報の品質と書込み方法などの考察を行い,ドラ
ンにも大きく影響される。
イブにおいてサーボトラック軌跡を補償する方法に
STW品質を阻害する要因
ついて言及する。
主なSTW方式
STW方式は,ドライブ外部で位置情報を書き込
んだディスク媒体をドライブに組み込む「外部書込
磁気転写方式を除き,回転するディスク媒体に磁
気ヘッドを位置決めしてサーボ信号を書き込む方式
の場合,STW品質のうち前章に示した「(1)自身
のトラックの真円度」を決める要因としては,
み方式」と,ドライブ内の自身のヘッドを用いて位
(1) スピンドル,ディスク,ヘッドサスペンショ
置情報を書き込む「内部書込み方式」とに大きく分
ン,ヘッドアーム,ベースプレートなどのSTW
類される。
時の非同期振動
さらに後者の「内部書込み方式」は,光学エン
コーダ,レーザ測長器などでディスク媒体以外の位
置基準にヘッドを位置決めするものと,ディスク媒
体上の位置基準に位置決めするものに分類される。
なお,外部で仮サーボ位置情報が書き込まれた
ディスク媒体をドライブに組み込んでから製品サー
ボ位置情報をリライトする「ハイブリッド方式」も,
(2) STWアクチュエータの位置決め精度
(3) STW時とドライブでの稼働時の回転に同期し
た振幅の変化(偏心ずれなど)
(4) 媒体磁気特性の不均一性(媒体欠陥,媒体雑
音など)
などが挙げられる。
ドライブ内の自身のヘッドを用いてSTWする方
最終的なSTW品質という観点から「内部書込み方
式における機械的な条件は,製品ドライブの稼働時
式」に分類されると考えられる。
の条件とほぼ同じである。よって,上記「(1)ス
後述するメディアSTWと磁気転写STWは「外部
書込み方式」に分類される。
30
ピンドル,ディスク,ヘッドサスペンション,ヘッ
ドアーム,ベースプレートなどのSTW時の非同期
FUJITSU.58, 1, (01,2007)
サーボトラック書込み技術
振動」の外乱項を大幅に低減させることは困難であ
書き始めと書き終わりの位置情報セクタが存在する
る。外乱の最も大きな成分は,ディスク回転の空気
ことになり,外乱振動に対し矩形窓関数で波形を有
流により加振されるディスクフラッタやヘッドアー
限時間だけ切り出したような位置信号列になる。
く
ム,サスペンション振動であるから,ディスクの回
稼働時のHDDは,STWにより書き込まれたサー
転数を低減することは効果的であるが,ヘッドに動
ボトラックに追従するようにフィードバック制御が
圧軸受スライダを用いているために,ディスクの回
行われるが,一般にはSTW時の書き始めと書き終
転数を下げすぎると,磁気記録性能に最も大きな影
わりセクタは認識されないため,この不連続点を通
すき
響を与える因子である浮上隙 間を,安定に確保す
過した場合にはその影響として,離散フーリエ変換
ることができない。
での漏れ(leakage)に相当する現象が生ずる。
この点において,製品ドライブではなく,外部で
STW中の非同期成分は書込みにより凍結され同
STWするメディアSTW方式の場合には,機構や消
期成分(RRO)になり,位置決め誤差信号のうち
費電力の制約が少ないため,様々な対策を適用する
同期成分(RPE)として現れる。このRPEの振幅
ことができる。それらの対策については後述する。
はサーボトラック書き始め時の低域非同期振動の位
一方で,ドライブ外STW方式の場合は,必然的
相,すなわち書き始めタイミングに大きく依存する。
に上記「(3)STW時とドライブでの稼働時の回転
図-1は,STW時に書き込まれた正弦波振動にサー
に同期した振幅の変化(偏心ずれなど)」の問題が
ボをかけたときの位置決め誤差の書き始め位相を
発生する。
振った場合の最大と最小振幅を振動数ごとにプロッ
つぎに,外部書込み方式と内部書込み方式のうち
トしたものである。最大振幅が極小になる最適位相
の外部位置基準方式に特有なSTW品質の問題につ
では,ほぼ感度関数(追従誤差特性)に近い特性を
(2)
いて述べる。
示す。一方,最悪位相で書き込まれたRROに対し
外部位置基準方式の場合,書込みヘッドはディス
てサーボをかけた場合のRPE振幅は回転数の整数
ク媒体の動きとは無関係にエンコーダ座標に対して
倍(高調波)付近では小さく,離れたところで大き
位置決めされるため,ディスク媒体に追従すること
くなる。また低域ほど「漏れ」による裾 広がりが
はできない。ただし,内部位置基準方式の場合でも,
大きく,高域側に広がった成分は感度関数のピーク
フィードバック制御系でディスクフラッタなどの高
付近で増幅される。玉軸受の場合の保持器成分や,
域振動に追従することは困難であり,下手に追従し
流体軸受での半速振れ回りは,回転数の半分に近い
ようとすると位置決め精度を悪化させることもある。
振動数であるため影響が大きいといえる。
すそ
よって,位置決めにおいて差が出るのは,主に回転
なお,メディアSTWの場合には,STW時のスピ
数以下の低域の振動である。玉軸受を用いていた
ンドルの振動を観測してフィードフォワード制御を
HDDにおいては保持器振動が最も大きな影響を与
えたが,最近のHDDに用いられる動圧流体軸受や
3.0
外部STW装置などに用いられる静圧軸受において
2.5
回転に伴うドライブ内の空気流により加振されやす
い。これらの非同期振動は,周波数が低いためドラ
イブ稼働状態ではフィードバック制御系により十分
RPE/RRO
も半速振れ回りにピークを持つ低域振動がディスク
に追従可能であり,かつ低域に多い空気流外乱成分
2.0
1.5
1.0
0.5
RPE/RRO(max)
RPE/RRO(min)
Sensitivity func.
に隠れてしまうためほとんど問題とならないのであ
0
るが,STWでは問題となる。
円周上に等間隔に配置された100∼200個のサー
ボセクタに書かれるサーボトラックは一般に同心円
であるため,サーボトラックを1回転分書込むごと
に移動が必要となる。よって,各トラックにおいて
FUJITSU.58, 1, (01,2007)
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14
Frequency (order)
STW時のNRRO周波数に対するRPE/RROの最大値
と最小値
Fig.1-Maximum and minimum RPE/RRO vs. NRRO
frequency.
図-1
31
サーボトラック書込み技術
行うことで,低域振動の影響をある程度抑圧するこ
能を要求されないため,高域風外乱に対しては剛性
とも可能である。
を重視したアクチュエータ/サスペンション設計が
また,内部位置基準方式の場合は,ドライブが設
可能である。アクチュエータ可動部に作用する低域
置される環境からの外乱を除けば,STW時の外乱
風外乱に対しては,アクチュエータの慣性モーメン
条件はほぼ製品として使用されるドライブの状態と
トを大きくすることが有効である。
同じと考えられる。
ディスク回転数を低下することにより風外乱の影
響を劇的に小さくすることができる。ドライブでは,
メディアSTW
通常,定格回転数において最適な浮上量を確保する
メディアSTWは,図-2に示すように,ドライブ
ように設計されているため回転数を低下させること
とは別のSTW専用スピンドルに複数枚のディスク
は困難であるが,STW専用ヘッドの場合は回転数
を積層し,サーボ位置情報を同時に書き込むことに
に応じた浮上面設計をスライダに適用することもで
より生産性の向上とクリーンルーム使用効率の向上
きるため,生産性を無視すれば,任意のSTW回転
を図ったものである。また,前述したように,製品
数を選択することが可能である。
装置の制約を取り除くことによりSTW品質の向上
磁気転写STW(3)
も期待できる。
製品ドライブにおいても同様であるが,機械的な
磁気転写は,凹凸のパターンの表面に軟磁性層を
外乱振動の多くはディスク回転に伴う空気流に起因
形成されたマスタディスクをディスク媒体に密着さ
する風外乱による「流体関連振動」と呼ばれるもの
せ,外部から磁界を印加することで,マスタディス
で,ディスクフラッタやアーム/サスペンション振
クの凹部に対向する媒体部分の磁化を反転させるこ
動として現れる。
とにより,マスタディスクのパターンをディスク媒
風外乱のうち最も大きな成分であるディスクフ
体に転写するものである。転写した仮サーボパター
ラッタを抑圧するために,製品ドライブにもスクイ
ンを基に,製品で用いるサーボパターンをドライブ
ズ板やシュラウド隙間の低減などが適用されている。
自身のヘッドで書き直すSTW方法もあるが,その
スクイズ板とディスク面との隙間,ディスク端面と
場合の最終的なSTW品質はドライブの外乱に依存
シュラウドの隙間とも,ある距離以下にするとフ
されてしまうため,精度改善のメリットの多くを磁
ラッタ抑制に大きな効果が現れるが,製品において
気転写に求めることができない。著者らは製品で用
は風損による消費電力の増加や組立時の部品干渉の
いる最終サーボパターンが直接転写されたディスク
余裕などにより制約を受ける。一方,STW専用装
媒体をドライブに搭載して評価した。
置であれば,それらの制約をかなり緩和することが
転写したサーボパターンは,直線から構成される
位相パターンである。図-3は,転写された媒体に対
可能である。
さらに,STWアクチュエータには高速シーク性
スピンドルに
ディスクを積層
サーボ位置情報
の書込み
しヘッドをオフセットさせながら読込み,サーボセ
書き込まれた
ディスクの取外し
製品ドライブ
への搭載
図-2 メディアSTW
Fig.2-Media servo track writing.
32
FUJITSU.58, 1, (01,2007)
トラック
サーボトラック書込み技術
時間 (ns)
図-3 磁気転写媒体サーボセクタのヘッド再生信号コンター図
Fig.3-Readback signal image of servo sector.
フィードフォワード電流
(1次,高次RRO)
偏心補正
情報
物理
ターゲット
インタ
フェース
論理
ブロック
アドレス
(LBA)
論理
ターゲット
位置変換器
+
制御器
+
電流
+
-
トラック
アドレス
オフセット
位置誤差信号
復調器
ヘッド信号
タイミングオフセット,
サンプル周期変動
図-4 メディアSTW媒体を搭載したHDDのサーボ制御器のブロック図
Fig.4-Block diagram of servo controller for HDDs with media-STW disks.
クタ部の再生波形を濃淡で表したコンター図である。
ドライブで補正するシステムを図-4に示す。
磁気転写媒体を組み込んだ試作ドライブで,1次
組立てにより生ずる1次偏心は高次の偏心に比べ
偏心成分をフィードフォワード制御により除去しつ
るとはるかに大きいため,補正電流は,その振幅と
つトラック追従制御を行い,位置誤差信号(PES)
位相の双方をゾーンにより変える必要がある。それ
を測定した。RPEの軌跡は大きく蛇行しているも
ぞれのゾーンにおけるRRO補正電流の回転ベクト
のの,それぞれのRPEの差分はトラックピッチの
ルを推定するために,オブザーバをベースとした
3%以下と隣接トラック間では平行性を保っている
RRO補正手法を用いた。各ゾーンでの1次のRRO
ためトラック間の干渉度は小さく,Write-to-Write
の回転ベクトルはテーブルに格納され,1次偏心補
TMRの観点からは十分な精度を確保できたことを
正に用いられる。
高次のRROは,スピンドルモータの電磁振動や
確認した。
ドライブでの対応(4)
流体軸受の軌跡,およびクランプされたディスクの
ひずみ
歪 などが,STW時とドライブ稼働時で異なること
メディアSTWや磁気転写STWのように,ドライ
により発生する。この高次RROの補正値を得るた
ブ外部でサーボトラックを書き込まれた媒体をドラ
めに,繰返し制御を用いた。それぞれのゾーンにお
イブに組み込んで用いる場合には,媒体上のサーボ
いて,いくつかのトラックで繰返し制御により電流
トラック軌跡とドライブの回転軌跡は必ずしも一致
波形を測定し,この電流波形を平均化してテーブル
しないため,ドライブ側での対応が必要になる。こ
に格納し,フィードフォワードの補正電流に用いる。
しん
の軌跡の不一致は,単に芯ずれによる1次偏心だけ
でなく高次の成分も存在する。それらの偏心成分を
FUJITSU.58, 1, (01,2007)
33
サーボトラック書込み技術
む
す
び
サーボトラック書込み方式の精度を決める要因に
ついて考察を行った。ヘッドで書き込むSTW方式
参 考 文 献
(1) Y. Uematsu et al. : Servo Track Writing
Technology.FUJITSU Sci. Tech. J.,Vol.37,No.2,
p.220-226(2001)
.
では,機械的外乱の多くはドライブで受ける外乱と
(2) 山田朋良:磁気ディスク装置の位置信号書込みに
ほぼ同じであるが,STW時の低域振動の影響が大
おける玉軸受振動の影響に関する考察.No.99-1日本
きいという特徴があることを示した。また,生産性
機械学会1999年度年次大会講演論文集(V),1999,
向上が期待できる外部書込み方式を取上げ,メディ
p.147-148.
アSTWでは機械的外乱を低減し良好なSTW品質を
(3) H. Suzuki et al. : Magnetic Duplication for
得られることを示した。一方,ヘッドを用いない磁
Precise Servo Writing on Magnetic Disks. IEEE
気転写方式は,RROの値は大きいものの隣接ト
Trans. Magn. ,Vol.40,No.4,p.2528-2530(2004).
ラックとの平行性は比較的良好であることを確認し
(4) K. Takaishi et al. : Hard Disk Drive Servo
た。これらの外部書込みSTW方式で発生する1次お
Technology for Media-Level Servo Track Writing.
よび高次偏心はドライブでの制御で補正することが
IEEE Trans. Magn. , Vol.39 , No.2 , p.851-856
必要であることを述べた。
34
(2003)
.
FUJITSU.58, 1, (01,2007)
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