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LINE の既読無視はなぜ非難されるのか ―大学 1 年生へのアンケート
LINE の既読無視はなぜ非難されるのか ―大学 1 年生へのアンケート調査を通じて― Why Was Read Message Neglect Blamed in LINE ? From Interviews to First-year University Students 種 村 剛 要約 LINE の既読無視が非難される理由について考察をおこなった。第一 に、スマートフォンと LINE の使用状況を確認した。第二に、既存の即レス についての先行研究を概観し【同調圧力仮説】【孤立不安仮説】【「コンサマ トリーなコミュニケーション」とメール文化仮説】を挙げた。第三に、9 人 の大学 1 年生に、LINE の既読無視についてのインタビューをおこなった。 この結果から先行研究を批判的に検討し、既読無視の非難を説明する新たな 仮説を、探索的に構築した。その仮説は【大学生の同調圧力弱化仮説】【感 情ギャップ仮説】【道具的使用状況における非難仮説】【グループ LINE にお ける既読無視仮説】の四つである。 キーワード LINE コミュニケーション 既読無視 若者 はじめに:LINE と既読無視 本稿は LINE の既読無視に関する考察である。本項は、本稿の基礎概念 である「LINE」(1.)と「既読無視」 (2.)について確認する。 1.LINE LINE とは、LINE 株式会社(東京)が 2011 年に始めた、無料通話や メールなどのサービス、および、サービス提供を受けるためのアプリケー ションを指す。アプリケーションはスマートフォンやフューチャーフォ ン、タブレット端末、パソコン等にインストールして使用する。ほぼリア ルタイムにメッセージを送受信することができるため、1 対 1 のメッセー ジのやりとり、およびグループ間のチャットにも利用されている。 LINE には既読機能がある。既読機能とは、受信者がメッセージを見る と送信者に「既読」が通知される機能である。また、LINE には、文字だ けではなく「スタンプ」と呼ばれる画像を送信する機能もある。 ─ 73 ─ それでは LINE はどれほど普及しているのだろうか。複数の利用実態調 査を参考にして、若者のスマートフォンおよび LINE の、2014 年での利 用状況を確認しておく。 第一に、総務省情報通信政策研究所の「平成 25 年 情報メディアの利 用時間と情報行動に関する調査」 (2014 年 4 月)がある。まずスマート フォンの利用率について確認しよう。この調査によると、スマートフォン の利用率は 10 代で 63.3%、20 代で 87.9%である。平成 24 年度の同調査 によれば、スマートフォンの利用率は 10 代で 36.7%、20 代で 68.4%であ る。スマートフォンの利用率が、1 年で約 20 ポイント上昇していること がわかる 。 次に LINE の利用率について確認しよう。平成 25 年度の同調査によれ 1 ば、LINE の利用率は 10 代で 70.5%、20 代で 80.3%となっている。平成 24 年度の同調査によれば LINE の利用率は 10 代で 38.8%、20 代で 48.9% である。LINE の利用率が、1 年で約 30 ポイント上昇している。 第二に、内閣府「平成 25 年度 青少年のインターネット利用実態調査」 (2014 年 3 月)がある。この調査から高校生のもつ携帯電話の 80.5%がス マートフォンであることがわかる。平成 24 年度の同調査によれば、高校 生のもつ携帯電話の 55.9%がスマートフォンである。スマートフォンの利 2 用率が、1 年で約 25 ポイント上昇している 。 第三に、総務省情報通信政策研究所の「高校生のスマートフォン・アプ リ利用とネット依存傾向に関する調査」(2014 年 5 月)がある。この調査 によれば、高校生のスマートフォン利用率は全体で 84.5%(男性 81.5%、 女性 87.2%)である。また、LINE の利用率は全体で 85.5%(男性 82.3%、 女性 88.7%)である 。 3 第四に、リクルート進学総研の「高校生の WEB 利用実態把握調査 2014」(2014 年 5 月)がある。この調査によれば、高校生の 82.2%がス マートフォンを所有している。また「スマートフォンでよく使う無料通話 アプリ」として、全体 87.5%(男性 82.3%、女性 92.1%)が LINE を挙げ ている 。 4 第五に、総務省情報通信政策研究所の「青少年のインターネット利用と 依存傾向に関する調査」 (2013 年 6 月)がある。この調査は「 「友人との 連絡」に普段もっとも利用する手段や機器」について質問している。調査 によれば、中学生の 8.1%、高校生の 21.1%、大学生の 31.8%が LINE を ─ 74 ─ もっとも利用していると答えている(中学生の 37.0%、高校生の 54.0%、 5 大学生の 49.2%が携帯電話のメールと答えている) 。 以上の調査を総括すると、2014 年時点で、1)高校生以上の 8 割近くが スマートフォンを利用していること、2)若年層に LINE が急速に普及し ていることの二点を読み取ることができる。 2.既読無視 「既読無視」とは、LINE を用いたコミュニケーションにおいて、受け 手が、送り手の送信したメッセージを読んでいるのにもかかわらず(相手 に「既読」が通知されているにもかかわらず) 、当該のメッセージに対し て返信をおこなわない、あるいは、返信が送り手の予想以上に遅れた場合 を指す言葉である。 「既読スルー」ともいわれる。 いくつかの新聞および雑誌記事は、若者(主に 10 代の中高生)の間で 既読無視が問題化していることを指摘している。たとえば次のような記事 がある。 「「既読無視」はメッセージを読んだのに返事しないこと。 「読んでもら えたのか」という心配を解消する便利な機能のはずが、新たな心配を生 んでしまったのだ。 「既読無視されツライ」 「忙しくて返事できないが既 読無視と思われそうで不安」 。いつの間にか「既読無視は人を傷つける」 という考えが広まり「犯罪です」なるスタンプが登場した」 6 「LINE では、届いたメッセージを見ると、送信した側に既読の表示が 出る。便利な機能だが、返事を書かないのは「既読スルー」などと呼ば れて、タブーとされている。たいていグループでやりとりするから受信 数が多い。しかも携帯メール時代は「3 分以内の返信」と言われたのに 対し、今は 1~2 秒で反応しないといけないと思い込む子もいる」 7 「日本で 3 人に 1 人使う無料通話アプリ「LINE」によって“会話”は格 段に速く簡単になった。 […]一方で、メッセージを読んでも返信しな いことが「KS(既読スルー) 」と呼ばれるなど、独特のタブーも生んで いる。特に、些細なやり取りが教室の空気を一変させる中高生の間で は、即レスしないと外されるなど暗黙のルールができ、LINE がらみの ─ 75 ─ いじめやトラブルが急増している」 8 「多くの生徒は、相手がメッセージを読んだ既読の印がついても返信が ない「既読無視」のつらさを訴えた。 「既読の印をオンやオフにする機 能をつければ、いじめなどの問題がなくなる」との提案もあった」 9 「朝から晩まで LINE にくぎづけになる“依存”の問題も指摘されてい る。友人からの LINE のメッセージを読んだのにすぐ反応しない「既読 スルー」が原因のいじめは社会問題化している。既読のスルーを恐れ、 朝から晩までスマホを手放さない、深夜まで就寝せずに健康を害した り、成績が落ちるなどの例が全国の学校で問題になっている」 10 以上の新聞・雑誌記事は、1)既読無視が、特に若年層にとって否定的 な事象(いくつかの記事では「タブー」と表現されている)であること、 2)既読無視が、いじめなど人間関係のトラブルの原因になりうることを 示している。それでは、なぜ、10 代の若者にとって既読無視は否定的な 事象であり、非難対象となりうるのだろうか。本稿は、その理由について 考察する。 I 問いと即レスについての先行研究 本項は、既読無視についての本稿の問い(1.)と、即レスについての先 行研究(2.)をまとめる。 1.問い LINE の既読無視について次の【問い】を提示する。 【問い】 なぜ、10 代の若者にとって既読無視は非難される事象になりうるのか。 【問い】の意義について説明する。前項で、若者に LINE を用いたコ ミュニケーションが普及していること、そして、既読無視に関するトラブ ルが発生していることを確認した。既読無視が非難される理由について考 察することは、LINE を用いたコミュニケーションに由来するいくつかの ─ 76 ─ 問題を解決するためのヒントになるのではないだろうか。 2.即レスについての先行研究 本稿が提示した【問い】について先行研究ではどのようなことが指摘さ れているだろうか。ここでは、LINE を使用する若者の「即レス」につい ての先行研究をまとめることにする。即レスとは、受信したメッセージに 対してすぐさま返信する(即、レスポンスする)ことである。すでに明ら かなように、即レスとは、既読無視の逆である。即レスすることが求めら れる理由を反転させれば、既読無視が否定されることの理由になると考え る。以下、若者が即レスをおこなうことについての三つの仮説を取り上げ る。 第一に【同調圧力仮説】がある。これは、若者の即レスは「相手が即レ スしているから、自分も即レスしなくては」と考える同調圧力によるもの であるとする仮説である。竹内和雄は「女子生徒が連れ立ってトイレに行 くような“同調圧力”の変形です。以前は学校から帰るといったん終われ たけれど、スマホ時代は家に帰ってもずっと続いてしまう」と述べてい る 。 11 第二に【孤立不安仮説】がある。これは、若者は「自分のメッセージが 相手にきちんと届いているのか不安に感じる」がゆえに、相手に即レスを 求め、自分も相手に即レスすることを指摘する仮説である。橋元良明は 「今では孤立不安症みたいになって、 […] 『お前なんかもう要らない』と 言われるのが、現代ではもっとも恐れられることです」と指摘してい る 。 12 第三に【「コンサマトリーなコミュニケーション」とメール文化仮説】 がある。松下慶太はネットメディアの登場が若者の「コミュニケーション の閾値」を下げ、「コンサマトリーなコミュニケーション」の普及を促し たとする。そしてこのことが「相手が返信したくなるメール術やメールが 来たらすぐに返す「即レス」など独特の「メール文化」 」を「醸成」した という 。つまり、メッセージのやり取りそれ自体を楽しむために、メッ 13 セージに即レスすることが求められるようになり、メッセージに即レスし ないことは「直接会って話しかけられているにもかかわらず無視をするの と同じ意味を持っている」という 。 14 これらの即レスについての先行研究が指摘している三つの仮説は、相互 ─ 77 ─ に関連していると思われる。一点目、メッセージのやりとりがコンサマト リーなものになったがゆえに( 【 「コンサマトリーなコミュニケーション」 とメール文化仮説】 ) 、コミュニケーションの関係から疎外されることに対 して孤立不安を感じるようになるのかもしれない(【孤立不安仮説】)。 二点目、相互に相手の孤立不安をおもんぱかって即レスをおこない、同 時に孤立不安から相手に即レスを求める( 【孤立不安仮説】 ) 。すると「相 手が即レスしているから、自分も即レスしなくては」という同調圧力が働 くようになるのではないだろうか( 【同調圧力仮説】 ) 。そして、このよう な同調圧力に従わないことは、自身の孤立を深めることになると考えてい るのではないだろうか。 三点目、孤立不安や同調圧力によって互に即レスをおこなう。すると即 レスが慣習化し、一種の「メール文化」の形成としてあらわれるのではな いだろうか(【「コンサマトリーなコミュニケーション」とメール文化仮 説】)。 以上、即レスについての先行研究を整理し、三つの仮説を指摘した。こ れらの仮説を参考にしながら、既読無視の非難を説明する仮説を、探索的 に構築するために、インタビュー調査をおこなう。 II 調査方法 前述の考察のために、2014 年度入学の大学 1 年生に対して、既読無視 についてのインタビュー調査をおこなった。インタビュー調査を通じて、 1)若者にとって何が既読無視にあたるのか、2)若者にとって既読無視は 非難にあたるものなのか、3)もし既読無視が非難されるのならばその理 由は何かについて、調査対象者の意識を確認し、仮説構築の手掛かりにす る。 1.調査対象者と調査日時 講義を担当している大学 1 年生に、講義終了後、既読無視についてのイ ンタビュー調査のお願いを口頭で発表した。レスポンスカードに、調査を 受けてもよいと記した学生全員(男 4 名 A, B, F, G、女 5 名 C, D, E, H, I) に対して、インタビューをおこなった。 調査は、2014 年の 5 月 23 日から 30 日の間に、大学の教室およびフ リースペースで、1 人約 20~30 分おこなった。2 人同時におこなったイン ─ 78 ─ タビューが 2 件(D と E、F と G)ある。インタビューの内容は許可を得 て IC レコーダに録音している。インタビューは文字に起こし、それぞれ の調査対象者に内容を確認してもらい、掲載の許可を得ている。 2.インタビュー項目 インタビューは、質問項目を以下のように構造化しておこなった。 (1)氏名、年齢、性別の確認。 (2) 携 帯 電 話 と ス マ ー ト フ ォ ン の 所 有 歴、 お よ び、SNS の 使 用 歴 (mixi、Twitter、Facebook、LINE) 。 こ こ で は、 携 帯 電 話 を フ ュ ー チャーフォンとスマートフォンを合わせたカテゴリとして用いる。 (3)「既読無視とはどのようなものか、どのような状態を既読無視と考 えるか」についてたずねた。 (4) 「既読無視をしたことがあるかどうか」を質問した。「したことがあ る」と答えたなら、既読無視をしたことを相手から非難されたことが あるかを確認した。この場合「非難される」とは、相手から責められ るということだけではなく、既読無視をした理由の問いただしを含む ものだとした。 「非難されたことがある」と答えたならば、そのとき の状況をたずねた。 (5) 「既読無視をされたことがあるかどうか」を質問した。「されたこと がある」と答えたなら、そのときどのような気持ちになったかを質問 した。加えて、既読無視をした相手を非難したことがあるかを質問 し、非難したことがあるならば、そのときの状況をたずねた。このと き「非難する」とは、既読無視をした相手を責め、理由を問いただす ことを指す。 (6)最後に「既読無視はよくないことか。もしそうだとするなら、その 理由について教えて下さい」と質問した。 III インタビュー調査結果 以下、インタビュー調査の結果をまとめる。 1.スマートフォンと LINE 使用の概要 ここでは、インタビューから、スマートフォンと LINE の利用につい て、2 点まとめる。 ─ 79 ─ 1)スマートフォンの普及と SNS の利用状況 調査対象者は大学 1 年生で、インタビュー時点では全員が 18 歳であり、 かつ、スマートフォンを使用していた。スマートフォンの使用時期は、早 い者で中学卒業/高校入学時(A, F) 、遅い者で高校卒業/大学入学時 (E)であった。他の者は高 1 から高 2 の間にフューチャーフォンからス マートフォンに切り替えていた。 LINE と Twitter は対象者の全員がおこなっていた。インタビューからは スマートフォンへの切り替えが、LINE や Twitter を始めるきっかけとなっ ていたこともうかがえた。 2)コミュニケーションツールとしての LINE 調査対象者の全員が LINE をコミュニケーションツールとして利用して いた。 「LINE が一番使われている連絡手段。今は、メールのアカウントをお 互い聞かないで LINE のアカウントで連絡をとるというのが主流。大学 でもそのようにつかっている。LINE は簡単にグループが作れるので、 割と手当り次第に、LINE のグループを作って、そこで会話しないこと もあるんですけど、とりあえずつくっておく」 (A) 「アドレス知らない人いますね、大学で。クラスの友達も知らないです ね」(B) 上の発言から、LINE のアカウントは、かつてのケータイの電話番号や メールアドレスを代替していることがうかがえる。メールから LINE へ、 スマートフォンを用いた大学生のコミュニケーションは、LINE の登場に よって大きく変化したといえるのではないだろうか。 2.既読無視とは何か/既読無視は非難されるのか ここでは、調査対象者の既読無視についての考え方について示す。結論 を先取りすれば、調査対象者は必ずしもすべての既読無視を非難すべきも のだとは考えていないことがわかった。 ─ 80 ─ 1)既読無視とはどのような状態か 既読無視について、調査対象者の認識は、次の回答に代表することがで きるだろう。 「既読無視っていうのは、多分 LINE を使っている人間に聞けば、だい たいみんな同じことをいうと思うんですけど、LINE を起動しておいて、 会話しているグループなり相手なりのページを開いておくと、こっちが 見たことになって、相手に既読っていうのが送られるんですよ。それ で、こちらが返信を返さないと、既読無視、既読スルーってことにな る」(A) つまり、既読がついているのにもかかわらず、返信がこないと既読無視 と判断されるのである。では、どのくらい返信の間隔があくと既読無視に なるのだろうか。調査対象者が答える「既読無視になる間隔の表現」は次 のようにまとめることができる。 第一に、既読無視を「既読を確認して返信まで一定の時間の間隔があく こと」とする立場である。その時間間隔は状況や回答者によって異なる。 「夜に LINE を送って、次の朝(か)昼ぐらいに(LINE)見て、もう既 読ついて返していないと、これは既読スルーかと。たいてい夜送るから […]」(D) 「時間帯にもよるんですけど、普通に 8 時(夜の)ぐらいにしてて、寝 る前に返って来ないと、スルーされているのかなと思う」(B) 「自分が相手にメッセージを送って、既読ってついたときに、ついてか ら、時間がたってからも返信が返って来ないこと。1 日ぐらい、長くて 1 日。短いと、1 時間ぐらい」 (F) 「基本的に、LINE は、結構既読っていうのがついちゃうせいで、みん な急いで返すんですよ。見ると。なんで、既読ってついて、まあ 1 時間 ぐらいして返ってこないと「ああこれは既読スルーなんだな」って」 (A) ─ 81 ─ 「自分が既読をついているのを見てから 5 分ぐらいで既読無視」(G) このように、夜から朝・昼まで(D) 、夜から寝る前(B)、長くて 1 日、 短いと 1 時間(F, A) 、5 分(G)と既読無視を判断する間隔は回答者と状 況によって様々に変化する。既読無視を判断する間隔がさらに短い者もい る。 「既読無視、私の中ではですけど、やっぱり、既読っていうその人との 会話のページを開いて、既読っていうマークが相手に見られた時点で、 返さなかったら既読無視になってしまうと思っていて[…]」(C) つまり「送信者が既読を確認した時点で、受信者が返信していないなら 既読無視」である。同様な回答として「会話の流れが遮断されたらス ルー」と答える者もいた。 「そのまえもってやりとりしていた頻度にもよるんですけど、もしその ふつうのリアルタイムで、ずっとぽんぽんぽんぽん流れていたら、うー ん、その流れが途切れたらスルーだと思うんですけど、うーん、そうで すね会話の流れが遮断されたらスルーかな」 (H) 以上のインタビューから二つのことを読み取ることができる。一つは、 送り手が既読無視だと判断したならば、それは既読無視であるということ である。つまり、既読無視かどうかは送信者の状況判断に依存しているこ とがうかがえる。もう一つは「既読っていうマークが相手に見られた時 点」あるいは「会話の流れが遮断されたらスルー」という回答の場合があ るように、場合によっては、送信者が既読無視であると判断する時間は極 めて短いものになりうることである。 2)質問のメッセージに答えない既読無視(1):LINE のコンサマトリー な使用と道具的な使用の区別 上記のように、既読無視は、既読がついてから(あるいは既読がついた ことに気がついたときから)返信がくるまでの間隔として理解されてい ─ 82 ─ た。 しかし、その一方で、インタビューからは、既読無視の判断には別の水 準があることがわかった。それは「質問のメッセージに答えない」ことを 意味する既読無視である。たとえば、つぎのコメントである。 「ちゃんと疑問形の文にすれば、だれか返してくれるんですけど、そう いうのに返さないと既読無視。 […]たわいのないことで、無視されて もそんな、ちゃんと見ているんだと思うので…」(B) 「もし、相手が疑問文で聞いていることに対しては、既読無視は私はよ くないと思うんですよ。聞かれていることに対して、ちゃんと返事をか えさないのは、よくないことだと思うんですけど、どうでもいいことっ ていったらあれですけど、自分が返す言葉が見つからないって思った ら、それは全然、平気だと思います」 (I) 上記二つのコメントから次のことがうかがえる。 第一に、調査対象者は、LINE によって送られてくるメッセージを、文 型によってコンサマトリーな LINE の使用と、道具的な LINE の使用を区 別していたことである。LINE において「疑問文」で表された「質問の メッセージ」があらわれたら、それは LINE の道具的な使用であると「状 況の定義」をおこなっているのである。 先に示したように、LINE はすでにメールを代替するものとなっている。 LINE に流れるメッセージは、コンサマトリーなメッセージと道具的な メッセージが混在している。LINE の使用にあたっては、二つのメッセー ジを区別するリテラシーが必要なのである。 第二に、先のインタビューで、B は質問のメッセージに返信しないこと こそが既読無視だと主張している。一方、I は質問のメッセージに答えな い既読無視を「よくないこと」と位置づけることで、コンサマトリーな使 用に対する「全然、平気」な既読無視と区別している。 このように、調査対象者は、LINE のメッセージのうち質問のメッセー ジについては必ず答えるべきであると考えている。それゆえに、質問に答 えない既読無視は、よくないことであり、非難の対象になる。この理解は 調査対象者全体に確認できる。たとえば、次のようなコメントである。 ─ 83 ─ 「状況によっては、それこそ「必ず返してください」って最後に書いて あった場合は、返信するべきだと思うんですけど、それはメールと一緒 ですよね。「必ず返して」って書いてある場合はしなくてはいけないと 思うけれど、それ以外の場合は…」 (A) 「ハテナで終わっている。こっちが疑問形で終わっているのに返されな いとかのときには、本当に腹立つなって思うし。こっちが本気で聞いて いるときに返してくれなかったりとか。たぶん未読無視されているんだ なって思うときには、あーもうこの人は、あんまり頼らないでおこうっ て、そういうふうにはなっちゃいますね。私も逆に、そういう疑問形で きかれているときには、絶対に返すので、そのへんは失礼かなって思い ます。結構大事だなって思うときに、返さないのはどうなんだろう」 (C) 「既読(無視)を怒るというより、質問答えて。質問答えないことに怒 る」(H) 以上のように、質問のメッセージ(LINE の道具的な使用)に答えない 既読無視は非難の対象になりうる。つまり、LINE を使用するためには、 コンサマトリーな使用と道具的な使用を区別し、後者については既読無視 をおこなわないリテラシーが必要になるのである。また、C の発言に「未 読無視」という概念が登場している。 「未読無視」については(3.)で説 明する。 インタビューの結果をまとめよう。調査対象者は、LINE のコンサマト リーな使用と道具的な使用を、文型を用いて区別していた。道具的な使用 (主に質問や予定の確認)について返信がない場合こそ既読無視、あるい はまた、非難に値する既読無視であると考えていた。このことは、先行研 究の【「コンサマトリーなコミュニケーション」とメール文化仮説】で指 摘されていた「コンサマトリーなコミュニケーション」を維持するために 即レスをおこなうとする仮説の内容とズレがある。調査対象者が、LINE の即レスを相手に要求するのは、コンサマトリーな使用よりも、むしろ道 具的な使用においてであったのである。 ─ 84 ─ 3)質問のメッセージに答えない既読無視(2) :個別 LINE とグループ LINE の区別 LINE は複数のメンバーと同時にコミュニケーションをおこなう「グ ループ LINE」と、個人と 1 対 1 でコミュニケーションをおこなう「個別 LINE」がある。 これらに先ほどの LINE のコンサマトリーな使用と道具的な使用をクロ スさせると、既読無視のパタンは、図 1 のように表すことができる。 インタビュー全体をみると、既読無視について非難をされたり、したり する事例は、主に I(グループ LINE における道具的な使用)の場合につ いて多く語られていることがわかった。 グループ LINE における質問のメッセージに対する既読無視を相手から 非難された事例として次がある。 「本当に最近の話です。いままで、高校のときは友達と遊びのこと、く だらないことについて会話していたので特に問題はなかったんですけ ど、クラスでグループつくったじゃないですか、そこでまあ Q 君がい ろいろ先導してやっている。で、それで Q が、どれくらいすすんで る? とか、いつ集まれる? とか(LINE でメッセージを)送ったと きに、たとえば、そのとき手が空いていなかったり、まだ予定がわから 道具的な使用(質問) II I 個別 LINE グループ LINE III IV コンサマトリーな使用 図 1 LINE を用いたコミュニケーションのパタン ─ 85 ─ なくて、まあ、結果的にスルーをしてしまったときに、Q が「返信をし てくれないと、どうなっているかわからない」と、「なにかいってくれ」 と、ま、先日いわれまして」 (A) 「うーん。たとえば、友達のグループ LINE で「どこならいける、何日 遊べるって人」って(質問が)きて、見てたけど、その私が最初に見た みたいで、だれも返信してなくて、ちょっと予定もまだわからないし、 既読はちゃんとつけたけど、返信していないときに、後からみんな、い ける、いける、いけないってきて「既読ついているのに H 返信してな いでしょ」っていうのはある」 (H) また、グループ LINE で質問のメッセージを送ったにもかかわらず既読 無視をされたことについて、次のコメントがある。 「 (グループ LINE で)予定は返して欲しいねー。しかもそれって一発目 (の書き込み)でしょ、何度かして既読無視は全然平気。だけど、一発 目にそれはないな「え、それする」って。出だしはね、出だしぐらいは 返してって。用事じゃん[…]たいてい一発目って用事だから。返し てーって」 (D) 「グループ LINE ね。既読が全員ついたのに、全然返ってこない時には めっちゃ悲しい」 (D) 「悲しい。提案したんだから、ハイかイイエかいえよって。結構、グ ループ LINE は…非難じゃないけど、どっちかいえって、思う」(E) 「全体 LINE とかで(既読無視)されるとつらい。クラスとかでかい LINE で、なんか質問があったりして聞くと、既読だけぱーっとついて いくんですよ。だけどだれも返してくれないとき」(F) このように、グループ LINE で流れた質問メッセージに対する既読無視 が「つらく」「悲しい」ことであることは、多くの調査対象者が指摘して いる。 それではなぜ、グループ LINE では、質問のメッセージに対して既読無 ─ 86 ─ 視が生じるのだろうか。 第一に、調査対象者へのインタビューからは、自分にあてた質問と判断 できない場合、回答を留保し、他のグループのメンバーに回答を任せよう と考える傾向を確認できる。 〔疑問形に答えない既読無視をしたことはありますか〕 「個人間の LINE ではないです。グループの LINE では、自分に聞いていないのかなと 思って、他の人に返信をまかせることもありますけど、個人ではしない ですね」 (B) 「うーん。たとえばクラスの LINE とかだったら、けっこうみんなとも 顔もしっているし、仲もいいので、わりと「なんとかかんとかだっ け」って質問がきたら、返信しようかなって気がするんですけど、たと えば、サークルの新歓のために招待された LINE とか、90 人ぐらいい る LINE とかあるんですけど、とかだったらやっぱり発言しにくいかな と思って、そんなに自分が返さなくちゃいけない質問じゃなかったら、 返さないときもあるかな。でも、グループの方が既読無視する頻度が高 いかな」 (H) 第二に、調査対象者は、グループ LINE では発言していいのかどうかわ からない雰囲気が生まれ、それが質問に対する既読無視を生じさせる要因 になると考えている。たとえば、以下に見るように C はグループ LINE で 回答が滞る理由を「会話の流れ」の問題と見なしている。そして、E は 「会話の流れ」をつけるために、グループ LINE にメッセージを出すよう に根回しをおこなっている。 「会話って流れってあるじゃないですか、誰かが言い出さなかったりす るとだれも言い出さないのもある、そういうので、みんな既読をつけて いるけど、だれもしゃべらないとか」 (C) 「だから、仲のいい子に、うらでつながっておくんですよ、これから (グループ LINE で)いうから返事してねって、LINE で。けっこう根回 しするんですよ。結構私それやる。いくよっていって、けっこうみんな ─ 87 ─ 来てくれる。そういう流れを作っておいて、みんなが言いやすくするけ ど。それでも来ないときがある」 (E) 以上の二つの回答から、グループ LINE での既読無視の原因には「人間 関係への気づかいを原因とする、グループ LINE 内のメッセージ送信タイ ミングの読み合い」があると結論できるのではなかろうか。たとえば、グ ループ内の人間関係を気にして「A が「いく」といったら自分も「いく」 と答えよう」「B が答える前に自分が答えるのはちょっと気が引けるな」 と回答の間合いをとっているうちに、結果として誰も返信しない状況が生 じ「会話の流れ」が途切れた状況が成立してしまう。そして、その状況が さらに返信を阻害する要因になっていたのではなかろうか。 4)コンサマトリーな使用における既読無視(1) :既読無視をしてしまう 理由 質問のメッセージに答えない既読無視がよくないものとされ、非難の対 象となる一方で、コンサマトリーな使用の場合、メッセージのやり取りを する気がないのならば、既読無視をすると答える者もいた。 〔どのくらい既読無視をすることはありますか?〕 「一日に何回かやっ ちゃうかな。会話がだらだらつづいている場合には、ほんとうにけっこ うやっちゃいます。個別の LINE で、けっこうだらだらしていた、もう どうでもいい会話だなって思ったら、引き延ばしちゃったりしますね。 あえて時間をおいて返す」 (C) 〔既読無視をしたことはありますか?〕 「 「だるがらみ」されたときはし ますね」 〔だるがらみ?〕 「 「だるがらみ」いきなりスタンプが連打され たりしたときは、なんだこいつはと思ってシカトしますね」(F) 「既読無視しちゃうほう。終わる終わらせるは半々ぐらい。でも、相手 によっては絶対にこっちが、返信をしないでおわっちゃう人と、絶対と いうか、あっちが返信しないでおわるのは決まっている気がします。そ れは人によって違う」 (H) ─ 88 ─ このように、コンサマトリーな個別 LINE やり取りにおいて既読無視は 意識的におこなわれていることがわかる。そして、最後の H の発言は次 の示唆を与える。第一に、既読無視は、コンサマトリーなメッセージのや りとりを終結するための過程の一つであるということである。 第二に、既読無視をする人と、既読無視をしない人はだいたい決まって いるということである。自分よりも既読無視をする頻度が高い人とのメッ セージのやりとりは「相手が返信しないでおわる」ことになる。逆に自分 よりも既読無視をする頻度が低い人とのメッセージのやりとりは「自分が 返信しないで終わる」ことになる。まさに「人によって違う」のである。 つまり、コンサマトリーなメッセージのやり取の休止において、既読無 視は必然的に生じてしまうのである。ゆえに、質問のメッセージに答えな い既読無視とは異なり、コンサマトリーな使用における既読無視につい て、いちいち噴き上がっていては、コンサマトリーに LINE を使うことは できないのである。このことを H は次のように表現している。 「スルーとかだけど、どっちにせよいつかはどっちかがどっちかの既読 スルーの形でおわるじゃないですか、やりとりは。だからそれを前提に しているから、たぶん今の大学生とかは、既読スルーに対して、そこま でそんなに怒ったりとかはしないのは普通と思う、私の周りでは」(H) 5)コンサマトリーな使用における既読無視(2) :既読無視をしない理由 上に示したように、インタビューでは、コンサマトリーな使用において は既読無視することがあり、そのような既読無視はしかたのないものだと 考える者もいた。しかし、その一方で、コンサマトリーな使用において必 ず返信しようとする者もいる。 「メッセージがきたらどんなに面倒くさくても返す。基本的に返すんで、 そういうことがなければ、基本は(既読無視を)しないですね。どんだ け面倒くさい内容がきても、基本返せるんであれば、返します」(G) 彼のいう「そういうこと」とは「メッセージを見て、返そうとしている ときに充電が切れてしまうときとか、メッセージを見て用事が入ってし まってそのまま放置みたいになったとき」等メッセージの返信を阻害する ─ 89 ─ 事象が偶発的に生じてしまった場合である。このような場合としてほかに 「夜に LINE をしていて、寝てしまった、いわゆる寝落ちっていうやつ」 を挙げる者(A)もいる。 興味深いのは次のコメントである。 「わたしは始めたばっかりだから。返す。結構返す。メールは…夜は返 さないけど。メールですぐ返信きたら逆に怖くない? LINE はいいけ どメールだと、ちょっとちょっと空けよう。メールですぐに返ってくる のは逆に怖い。LINE はいい。LINE はすぐにかえさなきゃって思う。 なんでだろう。ポンッって来るから、通知が、なんていうかチャットみ たいな「いいね」とか「うん」とか、メールだと送らないじゃないです か。LINE だと送れる」 (E) 大学に入学してからスマートフォンを使い始めた E は、メールと LINE のメッセージへの返信を比較している。メールの返信がすぐに返ってくる ことは、メールがくることを待ちかまえられている(相手がケータイの メーラーをリロードし続けている)ようで逆に「怖い」のかもしれない。 一方、E にとって LINE の「ポンッ」とくる通知機能(アーキテクチャ) は、短い返信を促進する要因として機能している。話は変わるが、メール を用いて「いいね」とか「うん」とか、たわいのないメッセージを送って いた世代にとっては「 「いいね」とか「うん」とか、メールだと送らない じゃないですか」という E の発言にはメール世代と LINE 世代の違いを感 じる。 なぜ調査対象者は LINE の返信をしようと努めるのだろうか。「既読無 視はあまりしない方」という B は、会話のアナロジーを用いて、次のよ うに理由を述べている。 「自分は(既読無視を)よくないことだと思います。普通にしゃべって いるときに、返事をしないことはないじゃないですか、直接しゃべって いるとき。だけど LINE では返事をしないっていうことが、正直自分は 理解できないかなって感じ」 (B) この即レスを返事ととらえる B の発言は【 「コンサマトリーなコミュニ ─ 90 ─ ケーション」とメール文化仮説】で松下が指摘している「直接会って話し かけられているにもかかわらず無視をするのと同じ」に相当する。一方相 手の心情を気づかって返信すると答える者もいる。 「自分がされてあまりいい気持ちにならないので、自分がいやなことは 他人にしちゃいけないな」 (B) 「私は返します。相手のことを気にする。結構最初だからかな。結構気 にする」 (E) 「自分がしないのは、相手に悪く思われたくないっていうのがあって、 相手の気分を害さないようにすることに気をつかって、自分がするのは 悪いことって思うんですけど、相手がするのはしょうがない。いいやつ ぶっているだけかもしれないですけど。そうですね」(G) 相手の心情を気づかって返信をする(既読無視をしない)ということ は、逆をいえば、自分が相手からコンサマトリーな使用において既読無視 をされる側になったときに、心情を害することがあったということであろ う。これは【孤立不安仮説】にあるように即レスがないと「自分のメッ セージが相手に届いているか不安」に思い、そしてそのような不安を相手 に与えるべきではないと考えるがゆえに、既読無視をしないようにふる まっているといえるだろう。 3.未読無視と複数の SNS の同時使用 ここで今回の LINE インタビューで、興味深い論点を二つ確認しておこ う。 第一に「未読無視」がある。前述のように、LINE では受信者がメッ セージを読むと、送信者に既読が通知される。しかし、ある方法を使う と、既読の通知を生じさせずにメッセージを読むことができる。未読の状 態にしたままメッセージを読み、返信しない状態を未読無視という。いく つかの LINE の使用法についての文献では、既読無視で非難されることを 回避する手段として未読無視が挙げられている。この未読無視について は、調査対象者に肯定的な意見と批判的な意見の両方が確認できた。 ─ 91 ─ 未読無視を既読無視よりもよいとする意見として、次のようなものがあ る。 「LINE って、見る前に通知画面っていうのが来るんですけど、そこで だいたいどんなのが来るのかわかるんです。だから、そこで開かなけれ ば、向こうには既読がつかないから、話だけわかっていればいいってと きには、そこで見ちゃって相手には既読をつけなければ、既読無視には ならないからいいかなって思っちゃって。わたしはむしろそっちをつ かっちゃったりしますね。見るだけとか。既読をつけないで未読無視。 けっこうやっちゃいます」 (C) 〔未読無視するのは、相手のことを気づかっているの?〕 「それはある …」(E) 「 (気づかっている)つもり、既読無視よりもいいかなって、 どうなんだろうね。わからないけど。気づかった風にして」(D) 「個人的な意見なんですけど、未読無視の方がまだいいかなって。既 読っていう機能は、見たっていう機能があるので、見ているのに返さな いのは、どうしたのかな、何かがあるのではという不安。未読の方が、 相手が見ているか見ていないかわからないので、気にならない。既読が ついているほうがどうしたのかなって気になってしまうという点では、 未読無視の方がいいかな」 (G) 対して、未読無視に否定的な意見としては次のようなものがある。 「既読無視は…。そこまでよくないことではないかもしれない。未読無 視の方が悪意を感じる。わざと、自分忙しいからでられないんだ、みた いな感じを出して、返信しなくてもいい状況にしているんじゃないかっ て。未読無視の方がいやですね。むしろ既読っていう機能がいやです。 もうなんか、既読の機能がいやです」 (F) 「わたしは、むしろ既読無視より未読無視の方が傷つきます。既読無視 は、とりあえず相手がみたっていうことが分かるから、まだそれだけで まあいいかなって思うんですけど。未読は見たくない、これまたこれも ─ 92 ─ わかんないんですけど、もしかしたらもう見るのもやだからみていな いっていう考え、気持ちになっているんだなっていうことのほうが悲し いな」 (H) 第二に、調査対象者は LINE や Twitter など複数の SNS を同時に使用し ている。すると、たとえば、自分が友人に LINE で送ったメッセージに対 して、友人から返信がないのにもかかわらず、Twitter には友人のメッ セージが投稿されているという状況が生じうる。メディア上で Twitter を 使っているのならば、LINE もまた使えるはずである。単に既読無視が問 題ではなく、このような状況が明らかになってしまうことが問題であると する指摘がある。 「明らかに Twitter とかではいるのに、LINE では未読。その方が問題視 されていると思う。だから、友達の話だと、なんかそう連絡したくもな い先輩といやいや連絡していて、返すのめんどくさいので、3 時間ぐら い未読にしておいて、他の人は既読にしておいて、このまま未読のまま にしているけど、Twitter とかはその人も見ていて、ケータイをいじっ ているってわかっちゃうから、お気に入りとかできなくて、めんどくさ いとか。私は、そんなめんどくさいことするなら、既読をばんってつけ て、って思いますけど」 (H) 4.感情のギャップと生存戦略 上で私たちは二つのことを確認した。一つは、コンサマトリーな使用に おいて既読無視は許容されうると考える者がいること。もう一つは、既読 無視はなるべくしないように心掛けているという者も存在し、その理由は 既読無視をされる相手のことを気づかってであった。この二つのことをま とめると、次のようにあらわせるかもしれない。 調査対象者は、コンサマトリーな使用において、既読無視は望ましくな いが、仕方がないものだと理解している。しかしながら、既読無視をされ ることは感情的には辛く、それゆえに既読無視をすることもされることも 避けたいものなのである、と。つまり、コンサマトリーな使用における既 読無視は、非難するほどのものではない一方で、やはり既読無視は失礼で あり、ときに人を傷つけうるものであるとも考えられているのである。 ─ 93 ─ そのことに気がついている調査対象者は、既読無視に対する感情の ギャップを軽減するための手段をあみ出している。この手段を「生存戦 略」と名づけよう。先に挙げた未読無視も生存戦略の一つである(ただ し、確認したように未読無視戦略は既に効果的な戦略とはいえなくなって いる) 。ここでは未読無視の他に四つの生存戦略を挙げておこう。 生存戦略の第一は、LINE 使用の抑制である。たとえば I は次のように 述べている。 「LINE で会話する相手は、彼氏とは毎日しますが、それ以外の相手と は全くしないですね。本当に必要最低限だけ。[…]メールではあんま り、どうでもいいはなしをするタイプではなかったので、高校とか中学 とか「あの子とメール夜中までした」話を聞いたんですけど、それはい まいちよくわからない」 (I) このように LINE でコンサマトリーなメッセージのやり取をする相手を 限定することで、既読無視から生じる面倒を避けようとする考え方があ る。 第二の生存戦略は、既読無視の作法としてのスタンプである。 「スタンプきたら終りだよね」 (E) 「ああ終りだわって。出す気ないやって。みんなスタンプで締めるよね。 私スタンプ押さないけど」 (D) 「Twitter も「お気に入り」でおわる。ああ、ファボられたーって。ファ ボって終わる」 (E) 「だってぐだぐだしてきて、どうやって終わるのってなっちゃう。そこ で終わってくれるのなら、むしろありがたいって」(D) 「既読無視、わりと失礼にあたっちゃう。みんな、スタンプとか押して、 会話を終了することが多い。スタンプ押して終わる。あと、もうそんな に続けたくないなと思うときはスタンプ押しちゃう。既読スルーするに はちょっとあれかなと思うときに、無難なスタンプ押すみたいな。相手 もスタンプ押してきたら、これで終了ですねーって、暗黙の了解」(H) ─ 94 ─ スタンプは、LINE におけるメッセージのやりとりの終結についての、 自然発生的でインフォーマルな一種の作法(社会規範)の成立であるとい えよう。この作法を自覚的に用いることで、既読無視による摩擦を回避し ようとしている。 第三に、キャラ化戦略である。キャラ化戦略には二つある。一つは、相 手に自分が「既読無視する人格=キャラクター」だと認知させる(され る)ことによって、既読無視の非難を免れる戦略である。 「私がけっこう面倒くさがりとか、わかっているから、そういう子には 既読無視でも大丈夫かなって思って、既読無視とかけっこうしちゃいま すね」 (C) 「でも、それ(返信をしないこと)をみんなわかってくれているの。 […]高校のときも、そういう人ばっかりとつきあってきたから、そう いう人だとわかっているから、もう怒られない。最後らへんは、もうあ きれられて終わる」 (D) もう一つは、「必ず返信をかえす側」に自分をキャラづけする戦略であ る。先の G は次のように語っている。 「会話を続けるタイプなので、どうしてもこっちがメッセージを送って 会話が切れるというのが多いので。切れたら、そこまでの会話だったか なと思って、毎回そんな。気分害することなく、会話の切れ目かなと」 (G) G は必ず返信をするので、G とメッセージをやり取りする相手は、G 自 身と比較して相対的に「既読無視をする頻度が高い人」である。そのた め、G は「メッセージを送って会話が切れること」が多くなる。G はそれ を「会話の切れ目」として粛々と受け入れることで、感情の噴き上がりを 押さえこんでいるといえる。 第四に、非難のネタ化である。コンサマトリーなやり取りについては、 既読無視について指摘をうける。しかし、その指摘は非難というよりも 「ふざけて」「本気でない感じ」 「軽い感じ」であり、既読無視は友人関係 ─ 95 ─ の会話のネタとして消費される。 「LINE 返してないのに、Twitter で反応したりしていると、いやちゃん と LINE で返せよ、なんで LINE 出ないのに Twitter 返すのとか。結構そ れはあります。本当にふざけてでですけど」 (C) 「返さないよねーってネタとしていわれる。もう直接でも全然いわれる。 「このまえの返してねーだろーお前って、2 週間前に送ったの見てねー だろーって」 「見てるよって、…あ、見てない」なんてあるけど、でも まあ「ごめん」って。あんまり非難っていうか、ガチで怒る人はいない よね。みんな、ネタとして「おまえ返してないだろ」って、いわれるだ けで」 (D) 「本気でいわれたことは…、ない…」 〔じゃあ本気でない感じでは?〕 「本気でない感じでいわれたことはある。既読無視して次の日の朝、そ の友達と会った時に「無視すんなよ」そんくらいの軽い感じでいわれた ことはある」 〔そのときはどう対応する?〕「 「うっせえよ」みたいに返 す」(F) また、非難のネタ化が特に親密な相手に対しておこなわれる場合もあ る。 「恋人。でもそんなに心から怒ってはないけど、なんかつかないと、し てよーって感じで、反応してよっていうかんじでするだけで、そんなに 心から怒ったことは、ない。もう既読スルーしてんじゃないよっていう ぐらい、心が開いている相手ならいえる」 (H) 恋人に対する甘噛みのような非難は、森もり子の制作した「もっと私に かまってよ!——返事をくれない彼氏を追いこむスタンプ」にもあらわれ ている(図 2)。 ただし、以上に示した生存戦略(特に三や四)を自覚的におこないうる のは、インタビューをおこなった対象が「大学生」だからかもしれない。 ─ 96 ─ 図 2 もっと私にかまってよ!——返事をくれない彼氏を追いこむスタンプ (森もり子作) 次のようなコメントがある。 「私たちぐらいの年になると、わりと大人になってきていたりするから、 そういうのもわかってきていると思うんですけど、もし私がまだ中学生 ぐらいだったら、怒ったり、それでいじめにつながったりすることも考 えられるなと思います」 (H) 「(LINE のいじめ)大学生はなくない? 中学生のときにあったら、ち がうかもしれないけど、わかんないけど」 (E) 5.あまり仲が良くない相手の既読無視こそ心配 調査対象者のコメントには、 「あまり仲が良くない相手」の既読無視ほ ど心配になる傾向があらわれている。 「私は「誕生日おめでとう」って久しぶりに中学の友達に送って「あり ─ 97 ─ がとう」って返ってきて、で、ちょっと長めに学校はどうとか、今度遊 ぼうねって送ったら、既読無視だった。うん、まあ「オゥ」みたいな。 (返信が)こないんだって思ったけど、ハッピーバースデーには反応し てくれたから。一回みて、後で返そうと思っていたら、忘れることって あるから、そういうことかなって、思って。そんなに気にしてない。そ んなすごく仲良かったわけでもないし、まあまあまあって感じ」(E) 「人によって、違うんです。仲のいいやつなら、こいつわざとだなって。 かるく腹立つんですけど、でも、どうせまた次の日に会って、逆におれ が「無視すんなよ」みたいにいって、それでおわっちゃうんで」 〔仲が 良くなかったら?〕 「仲の良くないやつだと、めっちゃ心配になります ね。昔の友達とか、最近会わない人に(既読無視)されると、やべえと 思いますね。心配になる」 (F) 〔既読無視をされて不安になるのは?〕 「そんなに仲良くない人とか、で すね。もう気のおけない人とかだったら、多少、無礼講じゃないですけ ど、既読無視しといて、また次の話題を自分から出すとか、(既読無視) されといてまた別の話題を(自分から出す)とかやりやすいけど、そん なに仲良くない相手だったりすると、うーん、どうすればいいかな、と かなります」 (H) 「あまり仲が良くない相手」の既読無視ほど心配になることは、コンサ マトリーな使用に限らず、質問のメッセージに答えない既読無視の場合に も当てはまる。そして、この場合は関係の解消までありうる。 「すごく仲が良い人だったりすれば、 「ねえどうして返してくれない の」っていえるんですけど、それが微妙な距離だといえないから、もう こっちは…もういいって思うしかない。学校で会える人なら「返して よ」っていえるし、Twitter でよく絡む人なら、Twitter でも言えるんで すけど、なかなか、たまーにしかしない人だと、いえないから、いえな いから、向こうからもこないし、そこで結構、関係が切れちゃうことも ある、あると思いますね」 (C) ─ 98 ─ なぜ「あまり仲が良くない相手」の既読無視の方が気になるのだろう か。二つの理由を考えることができる。第一に「あまり仲が良くない相 手」の場合、その既読無視(スタンプすら返さない)は「本気」で自分と のメッセージのやり取りを拒否しているのかどうかがわからないからであ ろう。相手の既読無視の理由を確かめるためには、直接会って確認する か、それができないのであれば(すでにメールが LINE に代替されている 状況では)LINE で再びメッセージを出して確認することになる。しかし、 「あまり仲が良くない相手」に続けざまに自分からメッセージを出すこと はばかられる(H のコメント参照) 。そのため、相手の心情を図りかね、 気になり不安になるのだろう。 第二に、「あまり仲が良くない相手」の場合、先に挙げた生存戦略を 使って、感情のギャップをコントロールすることが困難だからであろう。 一方、現実に直接会える人とのメッセージのやり取りについては、互いに 気心が知れているため、既読無視をキャラやネタとしてお互い解釈するこ とができる。これは先に挙げた LINE の生存戦略のうち、第三と第四に対 応する。この点に注目するならば、LINE によるメッセージのやり取りは、 対面的で親密な友人関係を前提とすることで、コンサマトリーな使用にお ける既読無視に伴って生じる感情的な起伏(噴き上がりや不安)を抑制す ることが可能になり、安定的にコミュニケーションが維持されるようにな るといえるかもしれない。また逆に、生存戦略を通じたギャップ解消に失 敗した場合やそれができない場合に、既読無視に対する非難が生じるのか もしれない。 三点補足する。 第一に、調査対象者は、LINE における相手や自分の既読無視をネタや キャラとして互いにゆるしあうことを通じて、現実の友人関係を再帰的に 作り直し、親密さを維持しているように思われる。その意味で、LINE は 現実の友人関係を補完するツールともいえるだろう。 このような LINE のもたらす再帰的な親密さは、大学生の友人関係が互 いのネタやキャラに「ノル」ことで維持されていることを示唆するかもし れない。もしそうだとするならば、学生たちの友人関係は、辻泉がいう、 自由に友人を選択することが結果として似通った者同士の人間関係を形成 するという「選択のもたらす内閉のパラドクス」、あるいは宮台真司の指 摘する「共振的コミュニケーション」 、すなわち、ノリを共有するもの同 ─ 99 ─ 士で形成された人間関係ともいえるだろう 。 15 第二に、LINE は現実の友人関係を再帰的に作り直しているとする第一 の指摘を逆から眺めれば、コンサマトリーな LINE の使用は、現実の人間 関係が反映(リフレクト)しているともいえるだろう。 第三に、LINE の既読無視をネタやキャラとしてゆるしあえないことは、 現実における友人関係を疎遠にしていく可能性もあるのだろう。 「最近会 わない人に(既読無視)されると、やべえと思」うのは、友人が友人でな くなってしまう可能性への不安なのかもしれない。もしかしたら、調査対 象者たちは「ノリ」を「共振」できなくなったとき、友人関係が解消して しまうことに自覚的なのかもしれない。 まとめ 上述したインタビューの結果を、次のようにまとめることができる。 第一に、調査対象者は既読無視を、質問のメッセージに答えない既読無 視とコンサマトリーな使用における既読無視に分けていた。 第二に、質問のメッセージに答えない既読無視が非難の対象となってい た。調査対象者は、グループ LINE における、質問のメッセージに答えな い既読無視について、非難したことや非難された経験を語っていた。 第三に、一方、コンサマトリーな使用における既読無視は、望ましくな いが仕方がないものと理解されていた。しかし、それでもなお既読無視さ れることは辛いことであり、既読無視をすることは失礼なことでもあっ た。 第四に、コンサマトリーな使用における既読無視に伴う、感情の噴き上 がりを抑止するために、調査対象者は、LINE のコンサマトリーな使用を 制限したり、自らをキャラ化したり、既読無視をネタとして消費したりし ていた。 第五に、コンサマトリーな使用における既読無視については、仲があま り良くない友達ほど心配になると考える者がいた。このことより、LINE のコンサマトリーなやり取りは、現実の友人関係を前提とすることで、安 定的に成り立つと推測した。 次に、インタビューの結果を、即レスについての三つの仮説と対照し、 仮説を批判的に検討することから、探索的に新しい仮説を構築することを 試みる。 ─ 100 ─ 第一に【同調圧力仮説】について。インタビュー全体を通じて、調査者 が少し意外に思ったことは、調査対象者は、既読無視を新聞メディアが報 道しているほど問題視していないことだった。なぜなのだろうか。 この理由は、調査対象者が大学生であり、中学校・高校時代と比較して 相対的に同調圧力が小さいからではなかろうか。中学校・高校時代は、一 つの教室で、毎日同じ顔をつきあわせるような友人関係が中心であり、こ のような閉じた人間関係を前提として LINE を用いてコミュニケーション がおこなわれていた。しかし、大学入学によって、高校時代とはまた違う 複数の人間関係のグループができあがる。クラス、サークル、バイト、高 校時代の友人、そのグループごとに LINE が用いられている。すべての メッセージに完全に即レスすることはもはや不可能であるし、自分がそう である以上、友人の既読無視にいちいち噴き上がることも非合理的であ る。以上の予想をもとに、次の仮説を構築する。 【大学生の同調圧力弱化仮説】 相対的に閉じたクラスの人間関係が中心の中学校・高校時代の人間関係 においては、即レスが即レスを生じさせることで、同調圧力を高めてい く。しかし、相対的に複数の人間関係を横断することの多くなる大学の人 間関係では、いつでも必ず即レスすることは不可能となる。結果として、 同調圧力も弱まり既読無視を非難することも少なくなるのではなかろう か。 【大学生の同調圧力弱化仮説】は【同調圧力仮説】を前提とする仮説で ある。しかし【同調圧力仮説】が明示しない次のインプリケーションを有 している。結論だけ述べるならば「中学校・高校における LINE 使用の問 題(即レスや既読無視)についての情報モラル教育は確かに「その時期の 学生」にとっては必要である。しかし大学生になればその問題は同調圧力 の減少によって自ずと解決に向かいうる」 「中学校・高校における LINE 使用の問題は、情報モラル教育によって対処することも必要である。しか し、その一方で、クラスという現実の閉鎖的な人間関係から生じる同調圧 力を弱化することも解決のために必要なのではないか」の二点である。 第二に【孤立不安仮説】について。インタビューからは、二つのことが ─ 101 ─ わかった。一点目、コンサマトリーな使用状況の既読無視は、相手を不 安・不快にさせることがあり避けるべきであると考える者も存在した。こ の点において【孤立不安仮説】は妥当する。しかし、その一方でコンサマ トリーな使用における既読無視はしかたないものと捉える者も存在した。 つまり、即レスしないこと(既読無視すること)から孤立不安は生じる一 方で、孤立不安は必ずしも既読無視の非難に至るとはいえないのである。 二点目、調査対象者は、コンサマトリーな状況での既読無視はしかたな いことであると理性的に判断する一方で、感情的には孤立不安が生じて不 快であるという、理性と感情のギャップを解消するために、生存戦略を編 み出していた。このことから、コンサマトリーな使用において既読無視が 生じる理由として、次の仮説を構築することができるのではないか。 【感情ギャップ仮説】 コンサマトリーな使用の場合、たんに孤立不安を生じるがゆえに既読無 視を非難するというよりも、感情ギャップを埋めるための生存戦略をうま く適用できない場合に、若者は既読無視を非難するのではないか。 この【感情ギャップ仮説】は【孤立不安仮説】では十分に説明できない 「感情的に孤立不安はあるが、理性的には非難には至らないことも自覚し ている」にもかかわらず既読無視の非難が生じるうることを、説明可能に する仮説である。 第三に【「コンサマトリーなコミュニケーション」とメール文化仮説】 について。既読無視を「話しかけられた時に返事をしないことと同じ、無 礼なふるまい」と回答した者が存在した(B) 。ゆえに【「コンサマトリー なコミュニケーション」とメール文化仮説】の指摘する状況が確認でき た。しかしながら、インタビューからは、既読無視に対する非難は、コン サマトリーな使用よりもむしろ、道具的な使用の局面で言及されていた。 また、個別 LINE とグループ LINE を比較すると、グループ LINE での 道具的使用において、既読無視の非難が生じる傾向があることがうかがえ た。このことから、次の二つの仮説を構築する。 ─ 102 ─ 【道具的使用状況における非難仮説】 若者は、文型によって LINE のコンサマトリーな使用と道具的な使用を 区分しているのではないか。そして、コンサマトリーな使用よりも道具的 な使用状況において、既読無視を非難するのではないか。 【グループ LINE における既読無視仮説】 グループ LINE では、グループ内の対人関係を気づかうことで既読無視 が生じやすく、結果として既読無視の非難も個別 LINE の場合よりも生じ やすいのではないか。 【道具的使用状況における非難仮説】と【グループ LINE における既読 無視仮説】は、次の点が新しい。それは、コンサマトリーなコミュニケー ションに着目していた先行研究に対して、むしろ、道具的な使用(コンサ マトリーな使用からの道具的な使用を区別する利用者の「状況の定義」 ) に着目している点である。 最後に、新たに構成した仮説間の関係を確認しておこう。 【大学生の同 調圧力弱化仮説】に示したように、大学生の LINE コミュニケーションで は、すべてのメッセージに即レスを返すことは不可能である。だからこ そ、コンサマトリーなメッセージと、道具的なメッセージを読み分けて、 後者に対しては即レスを返すことが求められるようになるではないか。こ のことは【道具的使用状況における非難仮説】と関係する。 ここに生じる非難は、単に既読無視をした「事実」についての非難だけ ではなく、「メッセージを読み分けて、返信すべきメッセージに即レスで きないようなヤツは LINE を使うなよ」という人格に対する非難が含まれ る可能性もあるだろう。この非難の属人化があるからこそ、 「既読無視を するキャラ」というキャラ化(=既読無視の属人化)によって、自分の既 読無視を無効化する戦略もまた成立しうるともいえるだろう。 そして、コンサマトリーな使用状況では【感情ギャップ仮説】に示した ように、既読無視に対して生じる感情ギャップを抑える必要がある。しか し、私たちは道具的なメッセージの既読無視を非難することについては、 合理的な理由があると考えるだろう(たとえば、仕事のメールに返信がこ ないことについて、理由を問いただすことはもっともなことであろう)。 ─ 103 ─ つまり、道具的な使用の既読無視については、コンサマトリーな使用に比 べて、ストレートに非難が生じうるのではないだろうか。 【グループ LINE における既読無視仮説】のポイントは「気づかい」で ある。「気づかい」には、二つの異なる水準がある。一つは、仮説にも示 した「人間関係への気づかい」である。これは「グループ LINE 内のメッ セージ送信タイミングの読み合い」から「会話の流れ」を遅延させ、既読 無視が生まれる原因となる。もう一つの気づかいのあり方として「タスク に対する気づかい」がありうる。つまり、相手のタスクの完了を気づか い、率先して質問に答えるふるまいである。 【グループ LINE における既 読無視仮説】がもし成り立つとするのならば、そこには「タスクに対する 気づかい」よりも「人間関係への気づかい」を重視するふるまいを見てと ることができるのではないだろうか。個別ラインでは「人間関係への気づ かい」が即レスを生じさせていといえよう。そしてその一方で、グループ LINE では「人間関係への気づかい」を「タスクに対する気づかい」より も重視するがゆえに、逆に既読無視を生じさせてしまい、結果として人間 関係を気まずくするという、パラドックスが生じているともいえるのであ る。 付記 本稿は 2014 年社会情報学会における学会報告「既読無視はなぜ非難され るのか——大学 1 年生へのインタビュー調査を通じて」に加筆修正を加えた ものである。 注 1 総務省情報通信政策研究所「平成 25 年 情報メディアの利用時間と情報行 動に関する調査(速報)」 (2014 年 4 月) HP:http://www.soumu.go.jp/iicp/ chousakenkyu/data/research/survey/telecom/2014/h25mediariyou_1sokuhou.pdf (2014 年 8 月 1 日閲覧) 2 内閣府「平成 25 年度 青少年のインターネット利用環境実態調査」 HP: http://www8.cao.go.jp/youth/youth-harm/chousa/h25/net-jittai/pdf-index.html (2014 年 8 月 1 日閲覧) 3 総務省情報通信政策研究所「高校生のスマートフォン・アプリ利用とネット 依 存 傾 向 に 関 す る 調 査 」(2014 年 5 月 )HP:http://www.soumu.go.jp/iicp/ chousakenkyu/data/research/survey/telecom/2014/internet-addiction.pdf(2014 ─ 104 ─ 年 8 月 1 日閲覧) 4 リクルート進学総研「高校生の WEB 利用実態把握調査 2014」(2014 年 5 月 )HP:http://souken.shingakunet.com/research/2014_smartphonesns.pdf(2014 年 8 月 1 日閲覧) 5 総務省情報通信政策研究所「青少年のインターネット利用と依存傾向に関す る調査」 (2013 年 6 月)HP:http://www.soumu.go.jp/iicp/chousakenkyu/data/ research/survey/telecom/2013/internet-addiction.pdf(2014 年 8 月 1 日閲覧) 6 小国綾子「発信箱 LINE のオキテ」『毎日新聞』 (2013 年 5 月 21 日)朝刊 10 面. 7 森川明義「スマホに縛られる子供たち LINE 返信疲れ」 『読売新聞』 (2013 年 12 月 2 日)夕刊 11 面. 8 金城珠代「子どもの LINE 地獄 中高生 1 万人 LINE いじめ実態調査」『アエ ラ』 (2013 年 12 月 9 日)28 頁. 9 山根由起子「中高生が語る LINE 生活」『朝日新聞』 (2014 年 3 月 6 日)朝刊 32 面. 10 無署名「LINE トラブルを回避せよ 親と子が守るべき五カ条」 『週刊ダイ ヤモンド』(2014 年 4 月 19 日)56 頁. 11 森川前掲書.同様の指摘として、菅野仁『友だち幻想——人と人の〈つな がり〉を考える』ちくまプリマー新書、2008 年、50-52 頁. 12 神田憲行「 「LINE いじめ」から我が子を守る 4 カ条」 『週刊文春』 (2014 年 5 月 29 日)39 頁.同様の主張として、小川克彦『つながり進化論——ネッ ト世代はなぜリア充を求めるのか』中公新書、2011 年、168-169 頁、北田暁 大『増補 広告都市・東京——その誕生と死』ちくま学芸文庫、2011 年、 135 頁(初出は北田暁大『広告都市・東京——その誕生と死』廣済堂ライブ ラリー、2002 年)がある。 13 松下慶太「Twitter に見る若者たちのコミュニケーション考」『青少年問題』 653(2014 年 1 月)32 頁。 14 松下慶太「「LINE」に見る、子どもたちの新しいコミュニケーションの光 と闇」『教職研修』42-8(2014 年 4 月)93 頁。 15 宮台真司『制服少女たちの選択』講談社、2014 年、辻泉「携帯電話を元に した拡大パーソナル・ネットワークの試み——若者の友人関係を中心に」 『社会情報学研究』7 号(2003 年)97-111 頁. ─ 105 ─