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高性能蒸気インジェクタによる革新的簡素化原子力発電プラントの技術開発

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高性能蒸気インジェクタによる革新的簡素化原子力発電プラントの技術開発
平成14年度
成果報告書概要版
高性能蒸気インジェクタによる革新的簡素化原子力発電プラントの技術開発
東京電力㈱
東京工業大学
工学院大学
大 阪 大 学
東 京 大 学
筑 波 大 学
茨 城 大 学
㈱ 東 芝
森 治嗣、大森 修一
矢部 孝、尾形 陽一
小泉 安郎、大竹 浩靖
片岡 勲、大川 富雄、松本 忠義、吉田 憲司
岡本 孝司、杉井 康彦
阿部 豊
田中 伸厚
奈良林 直、岩城 智香子
キーワード:高性能蒸気インジェクタ、簡素化給水系、簡素化炉心注水系、シビアアクシデ
ントフリー炉、PIV法可視化計測、CIP法・CIVA法数値解析シミュレーション
要旨
従来の蒸気インジェクタ(Steam Injector : SI)の性能と適用範囲を超えて高性能化し且つ
広範囲な運転領域に適用可能、しかも過去に例のない多段・並列運転を可能とした「高性
能蒸気インジェクタ」技術をベースに、原子力発電プラントの簡素化をテーマとして給水
加熱器や非常用炉心冷却系を高性能SIで代替することにより、設備の大幅な簡素化・物量削
減を行うとともに、炉心冠水維持によるシビアアクシデントフリー化を達成し、我が国の
原子力発電プラントの信頼性と国際的な価格競争力の向上を図ることが期待できる。また、
高速の蒸気凝縮を伴う自由噴流解析に関連して最新鋭の流動解析技術と計測技術を適用し、
実機規模の大型実証試験に依らず実機サイズ設計への適用化手法の確立を目指す。
実用化を念頭に開発すべき技術開発項目を以下にまとめる。
(1)高性能 SI システムを適用したプラント概念の構築に関する技術開発
a.簡素化給・復水系プラントの過渡評価・物量評価
b.簡素化注水系・格納容器冷却系システム評価
c.非凝縮性ガス又はボイド・スラグを含む SI の作動検証とメカニズムの評価
(2)高性能 SI 本体の技術開発
簡素化給水加熱用及び簡素化炉心注水系用高性能 SI 本体の技術開発
(3)シビアアクシデントフリー炉に関する技術開発
a.簡素化注水系の安全性評価
b.シビアアクシデントフリー化に関する技術評価
(4)高性能 SI 本体内部の計測技術開発と可視化
粒子画像流速計測法(PIV 法)による、SI 内部の蒸気流及び水噴流計測技術開発
(5)高性能 SI 本体の数値解析シミュレーション評価技術開発
CIP 法及び CIVA 法による、SI 内部流動現象の数値解析シミュレーション技術開発
これらの技術開発は平成 14 年度下期から平成 17 年度までの約 3.5 年間で実施する計画であ
る。今年度は、主に各技術開発項目の基本計画の策定を行った。
i
Development of Technologies for Innovative-Simplified Nuclear Power Plant
using High-Efficiency Steam Injectors
Tokyo Electric Power Company: MORI Michitsugu, OHMORI Shuichi
Tokyo Institute of Technology: YABE Takashi, OGATA Yoichi
Kogakuin University: KOIZUMI Yasuo, OHTAKE Hiroyasu
Osaka University: KATAOKA Isao, OHKAWA Tomio, MATSUMOTO Tadayoshi, and YOSHIDA Kenji
University of Tokyo: OKAMOTO Koji, SUGII Yasuhiko
University of Tsukuba: ABE Yutaka
Ibaraki University: TANAKA Nobuatsu
Toshiba Corporation: NARABAYASHI Tadashi, IWAKI Chikako
Key Word:High-Efficiency Steam Injector, Simplified Feed-Water System, Simplified Core Injection System, Severe
Accident Free Reactor, Particle Image Velocimetry, Cubic-Interpolated Propagation, Cubic-Interpolation with
Volume/Area coordinates
ABSTRACT
Using high-performance steam injector (SI) system technology, which outperforms conventional SIs in
application of a wider operating range and enables multistage parallel operation, we have carried out a study on a
simplified nuclear power plant design to apply high-performance SIs in core coolant injection systems and feedwater
heating systems. The most use of substantially simplified SIs and application of this technology for nuclear power
plants could incorporate innovative ideas to make plants free from severe accidents, and reduce material, and
develop a severe accident-free design to enhance the reliability and International cost competitiveness of Japanese
nuclear power plants. We aim at establishing a technique for the application of the high-performance SI technology
in an actual design without relying on large-scale demonstration of operational equipment by employing the
advanced thermal-hydraulics analysis and measurement techniques in relation to free jet analyses involving
high-speed steam condensation and by verifying performance analysis and evaluation techniques in comparison with
the results of experiments with a-fraction-of-scale models.
The following technical developments are scheduled for practical implementation of SI system:
(1) Technical development targets on plant concept for specific implementation using SI system.
a. Assessment of transients by analyses and material-reduced simplified feedwater and condensation system.
b. Assessment of the simplified core coolant injection and containment cooling systems.
c. Assessment of SI operability and mechanism including non-condensable gas and/or void slug.
(2) Technology development of the high-efficiency SI for the simplified feedwater heating system and the
simplified core injection system.
(3) Technology development for severe accident free plant
a. Safety assessment of the simplified core injection system
b. Technical assessment for elimination of possible severe accidents.
(4) Development of measurement technique and visualization inside the high efficiency SI component
Development of measurement technique to steam flow and water jet flow in SI based on Particle Image
Velocimetry(PIV)methodology
(5) Development of numerical simulation technique for SI
Development of numerical simulation technique for dynamical flow phenomena in SI in application of
Cubic-Interpolated Propagation (CIP) and Cubic-Interpolation with Volume/Area (CIVA) methodologies
Development of technologies stated above will be accomplished for 3.5 years from FY 2002 through 2006.
Essential and fundamental planning for the steady development of each technology has been drawn up in FY2002.
ii
目
次
要
旨
i
目
次
iii
1. はじめに
1-1
2. 技術開発計画
2.1 全体の技術開発計画
2-1
2.2 平成 14 年度の技術開発計画
2-5
3. 平成 14 年度の成果概要
(注:蒸気インジェクタ(Steam Injector)を SI と略記する)
3.1 高性能 SI システムを適用したプラント概念の構築に関する技術開発
3.1.1 簡素化給・復水系プラントの過渡評価・物量評価
3-1
3.1.2 簡素化注水系・格納容器冷却系システム評価
3-3
3.1.3 非凝縮性ガスまたはボイド・スラグを含む SI の作動検証とメカニズムの評価
3-5
3.2 高性能 SI 本体の技術開発
3.2.1 簡素化給水加熱器用高性能 SI 本体の技術開発
3-6
3.2.2 簡素化炉心注水系用高性能 SI 本体の技術開発
3-8
3.3 シビアアクシデントフリー炉に関する技術開発
3.3.1 簡素化注水系の安全性評価
3-10
3.3.2 シビアアクシデントフリー化に関する技術評価
3-12
3.4 高性能 SI 本体内部の計測技術開発と可視化
3-15
3.5 高性能 SI 本体の数値解析シミュレーション評価技術開発
3.5.1 CIP 法による高性能 SI 本体の数値解析シミュレーション
3-17
3.5.2 CIVA 法による高性能 SI 本体の数値解析シミュレーション
3-19
4. まとめ
4.1 全体のまとめ
4-1
4.2 今後の計画
4-1
添1
添付資料
iii
1. はじめに
原子力発電プラントは環境問題、エネルギーセキュリティ等、多くのメリットを有する
一方で、近年は建設コストの増大や新鋭火力発電所の発電コスト低減化の他、欧米で主流
となりつつある第 4 世代の次世代炉ではシビアアクシデント対策を設計に反映する要求
もあり、バックエンドを含めた総合コストでその魅力が失われつつある。
原子力発電プラントの発電コストを押し上げている主な要因には、プラントの複雑さや
部品点数の膨大さから来る高い建設コストと長い建設工期、定検時の点検機器の膨大さ、
交換部品の多さによるマンパワーの増大が挙げられる。一部のプラントでは給水加熱器の
劣化に伴う大掛かりな交換工事も実施されている。更に、シビアアクシデント対策を設計
に反映すると建屋ボリュームの増大などにより建設コスト増につながる懸念がある。これ
らを更に分析すると、①タービン復水給水加熱系(BOP)の複雑さ、②非常用炉心冷却系
や格納容器冷却系などの安全系の物量や、安全グレードを要求する動的機器のコスト要因
がある。
東京電力㈱と㈱東芝は、BWR プラント(沸騰水型原子力発電プラント)への蒸気イン
ジェクタの適用化に向けた共同研究を平成 2 年度から平成 12 年度の約 10 年間にわたって
実施してきた。ここでは、従来の蒸気インジェクタの性能と適用範囲を超えて高性能化し、
且つ広範囲な運転領域に適用可能であり、しかも過去に例のない多段・並列運転を可能と
した「高性能蒸気インジェクタ」システム技術を開発し、炉心注水系や給水加熱器への適
用化検討を進めてきた [1]~[10]。
そこで、本技術開発は、この「高性能蒸気インジェクタ」技術をベースに原子力発電プ
ラントの簡素化をテーマとし、給水加熱器、非常用炉心冷却系を蒸気インジェクタで代替
することにより、設備の大幅な簡素化・物量削減を行うとともに、炉心冠水維持によるシ
ビアアクシデントフリー化を達成して、我が国の原子力発電プラントの信頼性と国際的な
価格競争力の向上を図ることを目的として実施する。また、高速の蒸気凝縮を伴う自由噴
流解析に関連して最新鋭の流動解析技術と計測技術を適用し、実機規模への大型化開発に
おける開発費の低減化を図ることも目的として実施するものである。
本成果報告書概要版では、「高性能蒸気インジェクタによる革新的簡素化原子力発電プ
ラントの技術開発」の平成 14 年度の技術開発成果について報告する。
Steam
Mixing Nozzle
Water
Water Jet
Diffuser
(a) Central water jet type 蒸気インジェクタ
(a)中心水噴流(環状蒸気)型
Water
Mixing Nozzle
Steam
Water Jet
Diffuser
(b)中心蒸気(環状水噴流)型
(b) Central steam jet type 蒸気インジェクタ
図 1-1
蒸気インジェクタの構造模式図
1-1
2. 技術開発計画
2.1 全体の技術開発計画
2.1.1 技術開発目標
これまでに東京電力㈱と㈱東芝が開発してきた「高性能蒸気インジェクタ(Steam Injector :
SI)」技術 [1]~[10]をベースに、給水加熱器・非常用炉心冷却系等を SI で代替することにより、
革新的簡素化原子力発電プラントを開発する。具体的な技術開発成果の目標は、
○低圧給水加熱器用多段 SI、高圧炉心注水系用 SI、低圧炉心注水系用 SI、及び格納容器冷
却系用 SI を用いることにより、
・炉心冠水維持によるシビアアクシデントフリー化を達成し、信頼性向上・コスト低減
・機器及び建屋物量の削減及び簡素化により、建設コスト及び保守コスト低減
を達成した『革新的簡素化原子力発電プラント』の概念構築、基本的システム構築、及び
成立性の確認を行う。
○またその過程で、高速の蒸気凝縮を伴う自由噴流解析に関連して、最新鋭の流動解析技
術(CIP 法: Cubic-Interpolated Propagation 法、CIVA 法: Cubic-Interpolation with Volume/Area
coordinates 法)と計測技術(PIV 法: Particle Image Velocimetry 法)の高度化及び、それらを
用いた計測・解析技術の開発を行う。
静的格納容器冷却系
Passive Containment Cooling System
静的炉心注水系
Passive Core
Injection System
高圧炉心注水系用SI
低圧炉心注水系用SI
低圧給水加熱器用
多段SIシステム
格納容器
冷却系用SI
簡素化給水加熱系
Simplified Feed-Water Heater System
簡素化給水系
簡素化注水系
図 2.1.1-1
高性能蒸気インジェクタを用いた
革新的簡素化原子力発電プラントの概念図
2.1.2 具体的実施計画とスケジュール
平成 14 年度下期から平成 17 年度までの約 3.5 年間に渡り、高性能 SI を用いた革新的簡素
化原子力発電プラントの開発にあたってキーとなる技術の開発を行う。各技術開発項目に
対するスケジュールを表 2.1.2-1 に示す。
(1) 高性能 SI システムを適用したプラント概念の構築に関する技術開発
a. 簡素化給・復水系プラントの過渡評価・物量評価
高性能 SI システムをタービン給復水系に適用した場合のシステム概念設計検討及び技術
2-1
開発計画作成を実施(H14 年度)し、多段 SI システムの詳細設計(H15 年度)、過渡及び事
故時の運転性及び安全性の評価(H16 年度)を行い、配置・機器設計の詳細化、物量評価・
コスト評価を実施して(H17 年度)総合評価を行う。
SI の直接接触熱交換器としての機能を生かし、110 万 kW クラスの BWR 及び ABWR で
は 3 系列 4 段から構成される大型の給水加熱器を、高性能 SI システムで代替する検討を行
う。これにより、革新的に簡素化された原子力発電プラントとなることが期待される。
b. 簡素化注水系・格納容器冷却系システム評価
SI の静的ポンプとしての特性を生かし、RCIC(Reactor Core Isolation Cooling System : 原
子炉隔離時冷却系)などの高圧注水系、低圧注水系及び格納容器冷却系に高性能 SI を適用
する簡素化炉心注水システム及び格納容器冷却システムについて、それぞれのシステム成
立性検討と技術開発仕様及び開発計画の策定を実施する(H14 年度)。仕様要求に対し、炉
心熱水力挙動解析及び除熱性能解析等を実施してシステム設計の詳細化を行い(H15~16
年度)、物量・コスト評価及び実用化に向けた総合評価を行う(H17 年度)。
c. 非凝縮性ガスまたはボイド・スラグを含む SI の作動検証とメカニズムの評価
格納容器冷却系に適用した場合に想定される、非凝縮性ガスまたはボイド・スラグを含
む流動条件下での SI の作動検証とメカニズムについて、実験および解析評価を実施する。
基本概念、基礎仕様の検討(H14 年度)、実験及び解析モデルの構築(H15~16 年度)を行
い、整備した解析プログラムにより作動検証・メカニズム評価を実施する(H17 年度)。
(2) 高性能 SI 本体の技術開発
a. 簡素化給水加熱用高性能 SI 本体の技術開発
低圧蒸気で稼働する給水加熱器用高性能 SI 本体の要求仕様及び縮尺モデル試験計画を策
定し(H14 年度)、縮尺モデル試験供試体製作(H15 年度)及び試験並びに解析評価(H15
~16 年度)を実施する。基本仕様決定に当たっては、これまでに蓄積した基礎データ [1]~[10]
と最新の CFD(Computational Fluid Dynamics : 数値流体力学)技術を駆使して仕様決定す
る。H15~16 年度に実施する試験は、縮尺モデル単機及び多段の高性能 SI システム性能評
価試験を実施し、その結果を基に、より一層の高性能化のための改良試験を併行して実施
する。これらの成果をとりまとめ、総合評価を行う(H17 年度)。
b. 簡素化炉心注水系用高性能 SI 本体の技術開発
RCIC などの高圧注水系、低圧注水系及び格納容器冷却系に適用するためには、高圧蒸気
から低圧蒸気までの広範囲にわたり、確実に作動する必要がある。簡素化炉心注水系用高
性能 SI 本体の要求仕様及び技術開発計画を策定し(H14 年度)、縮尺モデル試験供試体製
作(H15 年度)及び試験並びに解析評価、改良試験(H15~16 年度)を実施する。基本仕
様決定に当たっては、これまでに蓄積した基礎データ [1]~[10]と最新の CFD 技術を駆使して仕
様決定する。これらの成果をとりまとめ、総合評価を行う(H17 年度)。
(3) シビアアクシデントフリー炉に関する技術開発
a. 簡素化注水系の安全性評価
高性能 SI を適用した、静的な簡素化炉心注水系で構成された原子力発電プラントの技術
開発と安全性評価を実施する。RCIC などの高圧注水系、低圧注水系及び格納容器冷却系と
2-2
して作動した場合のシステムレスポンス、冷却性能について、高圧蒸気から低圧蒸気まで
の広範囲にわたり実験および解析評価する。基本計画策定及び凝縮熱伝達率測定実験装置
の設計製作(H14 年度)、凝縮熱伝達率測定試験及び評価(H15~16 年度)を実施する。こ
れらの成果をもとに、最適な簡素化注水系のシステム詳細設計を行う(H16~17 年度)。
b. シビアアクシデントフリー化に関する技術評価
革新的に簡素化された、高性能 SI を適用した静的な簡素化炉心注水系で構成される原子
力発電プラントの、シビアアクシデントに対する安全性評価を実施する。想定されるシビ
アアクシデントのシナリオ検討、及び中心高圧蒸気型 SI 内水噴流厚さ測定試験を行う(H14
年度)。LOCA 解析コードやシビアアクシデント解析コードを用いてシビアアクシデントフ
リー化の定量的かつ詳細な検討を行い(H15~16 年度)、実機に近い条件での SI 内の凝縮
二相流流動実験と解析を実施し(H15~16 年度)、簡素化炉心注水系の最適なシステムおよ
び詳細設計と総合評価を行う(H17 年度)。
(4) 高性能 SI 本体内部の計測技術開発と可視化
SI の、従来のシェル&チューブ熱交換器に較べ 1,000 倍程度高い伝熱性能を支配している、
水噴流内の乱流熱伝達現象について「粒子画像流速測定法(PIV 法)」等により計測を行い、
現象の本質的な理解を得るとともに、数値解析シミュレーションとの比較を行い解析手法
の妥当性検討を行う。従来開発されている PIV 法よりも、約 1 桁速い流速を測定する必要
があり、技術開発検討が必要である。蒸気流及び界面挙動の計測により、凝縮界面である
水噴流表面で発生している「理想凝縮熱伝達」と呼ばれる実現象の熱伝達率の最高理論値
に近い現象を解明することが期待される。PIV システム整備と適用可能性評価及び検証実
験を行い(H14 年度)、PIV 計測実験及び界面速度計測技術開発を実施し(H15~16 年度)、
高速 PIV 適用可能性検討、及び精度評価と結果評価を行う(H16~H17 年度)。
(5) 高性能 SI 本体の数値解析シミュレーション評価技術開発
高速の蒸気凝縮を伴う自由噴流解析に関連して最新鋭の流動解析技術を適用し、現象の
数値シミュレーションによる解明と、数分の 1 程度の縮尺スケール実験結果と比較しなが
ら性能解析評価手法を検証し、実機サイズ設計への適用化手法の確立を目指す。このため、
密度が大きく異なる固体、液体、気体を汎用的に取り扱える CIP 法(Cubic-Interpolated
Propagation 法)をもとに、解析シミュレーションへの適用を図る。
a. CIP 法による高性能 SI 本体の数値解析シミュレーション
CIP 法を用い、SI の水噴流と高速蒸気流との相互作用、相変化などを含めたモデリング、
及び数値シミュレーションを実施する。開発計画策定(H14 年度)、および解析手法検討、
解析及び評価(H15~16 年度)を実施し、実機大 SI 解析コード総合評価を行う(H17 年度)。
b. CIVA 法による高性能 SI 本体の数値解析シミュレーション
CIP 法を三角形や四面体メッシュ(非構造メッシュ)に拡張し汎用性をさらに高めた手法
である CIVA 法(Cubic-Interpolation with Volume/Area coordinates 法)を用い、SI のモデリン
グ及び数値シミュレーション技術を開発する。調査及び実現可能性検討を行い(H14 年度)、
乱流モデル・相変化モデルの導入検討、解析・評価(H15~16 年度)を実施し、SI 体系で
の解析及び総合評価を行う(H17 年度)。
2-3
表 2.1.2-1
技術開発項目
(1) 高性能 SI を適用
したプラント概念の
構築に関する技術開
発
a. 簡 素 化 給 ・ 復 水 系
プラントの過渡評
価・物量評価
b. 簡 素 化 注 水 系 ・ 格
納容器冷却系システ
ム評価
c. 非凝縮性ガスまた
はボイド・スラグを
含む SI の作動検証と
メカニズムの評価
(2) 高性能 SI 本体の
技術開発
a. 簡素化給水加熱用
高性能 SI 本体の技術
開発
b. 簡素化炉心注水系
用高性能 SI 本体の技
術開発
(3) シ ビ ア ア ク シ デ
ントフリー炉に関す
る技術開発
a. 簡素化注水系の安
全性評価
b. シビアアクシデン
トフリー化に関する
技術評価
(4) 高性能 SI 本体内
部の計測技術開発と
可視化
(5) 高性能 SI 本体の
数値解析シミュレー
ション評価技術開発
a. CIP 法による高性
能 SI 本体の数値解析
シミュレーション
b. CIVA 法 による高
性能 SI 本体の数値解
析シミュレーション
技術開発スケジュールおよび実施体制
平成 14 年度
分担
平成 15 年度
平成 16 年度
平成 17 年度
基本概念・
開発計画策定
多段 SI システ
ム詳細設計
過渡・事故時の運
転性・安全評価
配置・機器詳細設計
経済性評価
東電
森
GM
基本概念・
開発計画策定
熱水力挙動
除熱性能解析
システム
詳細設計
経済性評価
総合評価
東芝
岩城
主務
基本概念・
基礎仕様検討
凝縮試験
凝縮モデル
開発
SI の作動検証
メカニズム評価
筑波大
阿部
助教授
要求仕様
試験計画策定
供試体製作
縮尺モデル試験
縮尺モデル試験
改良試験
実機適用大 SI 本体
の設計、評価
東芝
奈良林
主幹
要求仕様
開発計画策定
供試体製作
縮尺モデル試験
縮尺モデル試験
改良試験
実機適用大 SI 本体
の設計、評価
東芝
奈良林
主幹
基本計画
試験装置設計
試験装置製作
試験
熱伝達率測定
試験・評価
最適な簡素化
注水系システム
詳細設計
工学院
小泉
教授
シナリオ検討
予備試験
二相流
流動試験
解析による
定量評価
システム詳細
設計、総合評価
阪大
片岡
教授
適用可能性
評価
計測システム
検討
PIV 計測
試験、評価
解析手法の
妥当性検討
精度評価
東大
岡本
助教授
開発計画
策定
解析手法検討
モデリング
解析、評価
実機大 SI
解析コード
総合評価
適用可能性
評価
解析手法検討
(乱流モデル等)
モデリング
解析、評価
注)SI:Steam Injector(蒸気インジェクタ)
CIP:Cubic-Interpolated Propagation
CIVA:Cubic-Interpolation with Volume/Area coordinates
PIV:Particle Image Velocimetry(粒子画像流速測定法)
2-4
SI 体系での
解析評価
(リーダー)
東工大
矢部
教授
茨城大
田中
助教授
2.1.3 技術開発実施体制
東京電力㈱、東京工業大学、工学院大学、大阪大学、東京大学、筑波大学、茨城大学及び
㈱東芝が連携して本技術開発を実施する。なお、総括代表者は東京電力㈱が務める。また、
各技術開発項目の分担(リーダー)を表 2.1.2-1 に示す。
2.2 平成 14 年度の技術開発計画
平成 14 年度は以下の項目を実施した。(注)SI:Steam Injector:蒸気インジェクタ
(1) 高性能 SI を適用したプラント概念の構築に関する技術開発
a. 簡素化給・復水系プラントの過渡評価・物量評価
簡素化原子力発電プラントの基本概念について、その要求仕様及びシステム構成、必要な
機器設備を抽出し、SI を用いた簡素化給復水システムの技術開発仕様及び開発計画を策定
する。
b. 簡素化注水系・格納容器冷却系システム評価
シビアアクシデントフリー炉の基本概念について、その要求仕様及びシステム構成、必要
な機器設備を抽出し、簡素化注水系及び格納容器冷却系システムの技術開発仕様及び開発
計画を策定する。
c. 非凝縮性ガスまたはボイド・スラグを含む SI の作動検証とメカニズムの評価
水ジェットと蒸気との界面で生じる直接凝縮に及ぼす非凝縮性ガスの影響を評価する実
験及び、SI の動作検証に使用可能な凝縮モデルの開発とその凝縮モデルを組み込んだ解析
プログラムの整備を行う。本年度は実験の基本概念の決定ならびに基礎仕様と計測項目の
決定、計測機器の準備を実施する。
(2) 高性能 SI 本体の技術開発
a. 簡素化給水加熱用高性能 SI 本体の技術開発
簡素化給水加熱用高性能 SI 本体の要求仕様及びシステム構成を検討し、低圧蒸気で稼働
する SI 本体の仕様及び縮尺モデル試験計画を策定する。
b. 簡素化炉心注水系用高性能 SI 本体の技術開発
簡素化炉心注水系の基本概念とシステム構成及び要求仕様について検討し、簡素化炉心注
水系用高性能 SI 本体の仕様及び技術開発計画を策定する。RCIC などの高圧注水系及び低
圧注水系(格納容器冷却用の低圧用 SI も含む)に使用するため、高圧蒸気系から低圧蒸気
系に至る広範囲の蒸気圧力に対応した SI の基本仕様を策定する。
(3) シビアアクシデントフリー炉に関する技術開発
a. 簡素化注水系の安全性評価
簡素化注水系の安全性評価計画を策定する。また、簡素化注水系として設計する場合に必
要なパラメータである蒸気凝縮伝達率及び凝縮速度を計測する凝縮熱伝達率測定装置の設
計・製作を行う。
b. シビアアクシデントフリー化に関する技術評価
高性能 SI を適用した、静的な簡素化炉心注水系で構成される原子力発電プラントの安全
性評価に関して、想定されるシビアアクシデントのシナリオ等を検討する。
2-5
また、格納容器冷却系に採用予定の、中心高圧蒸気型 SI 内可視化による正確な流動挙動
測定に向け、SI 内水噴流厚さ測定試験を行う。
(4) 高性能 SI 本体内部の計測技術開発と可視化
簡易モデルを用いて、レーザと同期して PIV 撮影を行い、画像解析を実施して、SI 本体
内部流速測定実験を行う。この結果を、(2)高性能 SI 本体の技術開発において今後製作する
予定の SI 縮尺モデル及び実験装置の設計に反映する。
(5) 高性能 SI 本体の数値解析シミュレーション評価技術開発
a. CIP 法による高性能 SI 本体の数値解析シミュレーション
基本検討として、物理現象の把握、基本的モデルの試験的計算による困難な点の把握、及
び開発に向けての計画設定を実施する。
b. CIVA 法による高性能 SI 本体の数値解析シミュレーション
SI の数値流動解析に関する調査・検討を行う。
参考文献
[1] 森治嗣
他、「蒸気インジェクタ駆動簡素化給水系の開発(1)系統の簡素化と物量削減」、
日本原子力学会、1998 春、H12
[2] 奈良林直
他、「蒸気インジェクタ駆動簡素化給水系の開発(2)並列多段蒸気インジェ
クタの開発」、日本原子力学会、1998 春、H13
[3] 大森修一
他、「蒸気インジェクタ加熱簡素化給水系の開発(3)システムの検討」、日本
原子力学会、2000 春、E49
[4] 奈良林直
他、「蒸気インジェクタ加熱簡素化給水系の開発(4)多段蒸気インジェクタ
の開発」、日本原子力学会、2000 春、E50
[5] 奈良林直
他、「蒸気インジェクタ加熱簡素化給水系の開発(5)流動解析による熱水力
性能の向上」、日本原子力学会、2001 秋、J31
[6] 大森修一
他、「蒸気インジェクタ加熱簡素化給水系の開発(6)大容量化と実機の配置
検討」、日本原子力学会、2001 秋、J32
[7] S.Ohmori, et al., (2000). Proc. of 2 nd Japan-Korea Symp. on Nucl. Therm. Hydr. and Safety
(NTHAS2) Fukuoka, Japan, pp.351-355
“Simplified Feed-water Heater System by Multi-Stage
Steam Injectors”
[8] 大森修一
他、「多段蒸気インジェクタの BWR 給水加熱系への適用」、日本機械学会
第
8 回動力・エネルギー技術シンポジウム、2002、P21-13
[9] T.Narabayashi, et al., (1999). Proc. of Structural Mechanics in Reactor Technology (SMiRT-15)
Korea,
“Development of Steam Injector for Next-Generation Reactors”
[10] T.Narabayashi, et al., (2000). Nuclear Engineering and Design, Vol.200 pp.261-271
two-phase flow dynamics in steam injectors
“Study on
II. High-pressure tests using scale-models”
2-6
3. 平成 14 年度の成果概要
3.1 高性能 SI システムを適用したプラント概念の構築に関する技術開発
3.1.1 簡素化給・復水系プラントの過渡評価・物量評価
高性能蒸気インジェクタ(Steam Injector 以降 SI という)システムをタービン給復水系に適
用した場合のシステム設計について、電気出力 110 万 kW クラスの BWR 及び ABWR を対象と
した概念設計及び開発計画の策定を行った。簡素化給復水系プラントの概念構成及び要求仕様
等の技術的検討は、東京電力㈱と㈱東芝との共同研究「蒸気インジェクタシステムの研究」で
得られた成果に基づきまとめたものである。
原子力発電所で比較的大きな容量を占める給復水系に SI システムを導入し、設備を簡素化で
きれば、波及効果として建屋容積を縮小することが可能となり、発電所初期導入資本(建設コ
スト)の圧縮等の効果が期待できる。SI システムを原子力発電プラントに導入するには、従来
実現が困難とされてきた極めて低い蒸気圧力(例えば 0.05 MPa)での成立及び実用化が必要で
ある。本技術開発の特徴は、低い蒸気圧力と相対的に高い(例えば 0.4 MPa)蒸気圧力とで SI
形状等を変えた、革新的な高性能及び高効率多段式 SI システムの開発にある。
極めて低い蒸気圧力での SI の成立性については、これまでに実機の 1/9.2 スケール、1/7.07
スケール及び 1/5 スケールの小規模試験装置を用いた数多くの単段及び多段での性能試験を実
施し、従来は実現が困難とされてきた SI 機能を達成する見通しを得ており、また多くの知見を
得た。本技術はそれらの試験成果及び知見に基づくものであり、0.05 MPa から 0.4 MPa までの
低圧タービン抽気蒸気を利用した多段式 SI システムの設計を行う。
今年度は、現在の給復水系の設計要求を満足する SI システムの概念設計を行い、性能上の成
立性について検討した。図 3.1.1-1 a.に現在の ABWR での給復水系系統図を示す。簡素化給復
水系プラント設計では、現在の 3 系列 12 基の低圧給水加熱器を、3 系列 6 台の多段 SI システ
ムに置き換える(図 3.1.1-1 b.)。低圧タービンからの 0.05、0.1、0.21、0.4 MPa の抽気蒸気を利
用し、SI を小型の直接接触熱交換器として作動させることで、給復水系機器の簡素化を実現さ
せる。図 3.1.1-1 c.に示すように、多段式 SI システムでは、1 段目から 3 段目まではシングルノ
ズルを採用することでディフューザ部でのエネルギー損失を少なくし、最終 4 段目ではジェッ
ト脱気器としての機能を兼ね合わせることで、更なる高性能・高効率化を目指す。これまでに
得られた知見から、現在の低圧給水加熱器とほぼ同じ熱効率上の設計要求を満足し、実機と同
等の電気出力を維持できる見通しを得ている。
次に、プラント起動停止及び過渡変化時の SI システム運用についての検討を行った。まず
SI は、作動条件として一定の給水流量が必要であり、これまでの試験結果から定格の 60%流量
での作動を確認している。プラントの起動停止時には、約 60%負荷以上で SI システムを併入
約 60%負荷以下では SI システムをバイパスする運用や、6 台ある多段 SI を部分台数運転とす
ることにより 1 台あたりの必要給水流量を確保して低負荷へ対応すること等を考えている。
また、過渡時の給水系システムに対する要求性能は、スクラムを伴わない過渡変化に対して
は原子炉水位を設定された範囲内に維持するような給水流量調整機能であり、スクラムに至る
ような過渡変化に対しては、工学的安全設備が起動することなく通常の原子炉停止手順に移行
できる原子炉水位に制御できる機能である。これに対して、給水ポンプ運転台数に依存した給
3-1
a. 1356MW 級 ABWR プラントのタービン給復水系 系統構成
RFPT
MSH
1,356MW
566t/h 1.3MPa
198t/h
0.21MPa
TD-RFP
7,624t/h
復水器
209t/h
0.4MPa
415t/h
2.4MPa
117℃
156℃
8.7MPa
97℃
216t/h
0.1MPa
SJAE
313t/h
0.05MPa
LPCP
復水ろ過
脱塩装置
42℃
0.29MPa
75℃
139℃
216℃
発電機
低圧タービン
高圧タービン
7,646t/h
186℃
高圧給水
加熱器
ドレン
タンク
HPCP
49℃
2.8MPa
MD-RFP
低圧給水加熱器
A,B,C 3 系列 計 12 基
RIP 10 台
ドレン
タンク
LPDP
HPDP
点線枠内 を簡素化
b. 簡素化給水系の系統構成
42℃
1.0MPa
139℃
給水
吐出
点線枠内 の詳細
バッファ
タンク
SIバイパス
ライン
Jet加熱 3 段 SI
脱気器
多段SIシステム
A,B,C 3系列に2台ずつ計6台
c. 並列多段 SI システムの 1 系列の機器構成
0.4MPa
低圧タービン抽気蒸気
0.21MPa
蒸気再循環ライン
0.05MPa
0.1MPa
環状蒸気
ノズル
給水
42℃
139℃
吐出
逆止弁
第4段 Jet加熱脱気器
バッファータンク
図 3.1.1-1
第3段SI
第2段SI
第1段SI
現行 ABWR プラントのタービン給復水系統および多段 SI システム構成
3-2
給水流量
調節機構
水流量の要求、再循環ポンプトリップ等の過渡時に原子炉水位を気水分離器の性能要求から決
定される範囲に制御できるか、などの要求事項について整理した。また、給水系が直接関与す
る原子炉の安全設計に係わる評価には、
「運転時の異常な過渡変化」事象として「給水加熱喪失」
及び「給水制御系の故障」が挙げられる。SI システムの導入により解析条件の一部変更が必要
となるが、ΔMCPR に与える影響は小さく、現概念設計でも問題は無いと考えられる。
今後の開発計画として、今年度の概念設計を基に、平成 15 年度に多段 SI システムの詳細設
計、平成 16 年度に過渡及び事故時の運転性及び安全性の評価を実施し、平成 17 年度に配置・
機器設計の詳細化、物量評価・コスト評価を実施する計画である。詳細設計では、SI システム
の運転性や安全性について更に検討を行い、システムのレイアウトや保守性を考慮した形状、
機器寿命などについて検討・評価を行い、SI 技術の実用化を目指す。
以上に述べたように、技術的に困難とされていた低圧蒸気条件下での SI 性能の成立性を確認
し実用化の見通しを得、多段式 SI システムの ABWR を対象とした設計では従来と同じ熱効率
で、構成機器点数を削減し、結果として建屋容量を低減することが可能であるなどのメリット
が本技術開発のポイントである。
3.1.2 簡素化注水系・格納容器冷却系システム評価
静的ポンプとしての SI は、従来のポンプのような駆動用のタービンやモータの大型回転機器
が不要で、構成が極めてシンプルかつコンパクトであり、動力用電源も不要である。本研究で
はこの利点を活かし、SI を原子力発電プラントに適用したシステムとして、①簡素化炉心注水
システム及び②格納容器冷却システムについて、それぞれシステムの成立性の検討と技術開発
仕様及び開発計画の策定を実施した。
(1) 簡素化炉心注水システム評価
簡素化炉心注水系は、図 3.1.2-1 に示すように、大気圧の水と原子炉内の蒸気を SI に供給し、
高圧の吐出圧を得て原子炉内へ注水するものである。本システムにおいては、SI による注水に
より炉心が安全に冷却されるかどうかが重要となる。そこで、システム評価に、詳細な原子炉
過渡解析に広く適用され信頼度の高い TRAC コード(Transient Reactor Analysis Code)を用いる。
TRAC は以下のような特徴をもった解析コードで、軽水炉の過渡・事故時特性評価に用いられる。
a.気相/液相についてそれぞれ質量、運動量、エネルギー保存方程式を使用。
b.燃料集合体モデル、原子炉動特性モデルを持ち、炉心の詳細な熱流動解析が可能。
c.制御系や各種のトリップロジックをモデル化可能。
本解析コードを用いて、事故時あるいは過渡事象発生時に SI を用いて炉心注水した場合の炉
心の熱水力挙動を解析する。特に、炉心が事象を通じて冠水が維持され、燃料棒の被覆管最高
温度(PCT)が許容範囲を超えて上昇しないことを確認する。また、このような解析により、
SI に要求される詳細仕様も評価することができる。TRAC コードを用いて原子炉圧力容器内を
モデル化した案を図 3.1.2-2 に示す。
(2) 簡素化格納容器冷却システム評価
簡素化格納容器冷却系は、図 3.1.2-3 に示すように、冷却材喪失事故時に建屋上部に設置した
PCC/IC(Passive Containment Cooling / Isolation Condenser)プールから発生する大気圧の蒸気の
3-3
Steam
Water
SI-PCIS
Start up
drain
to S/P
図 3.1.2-1
図 3.1.2-2
簡素化炉心注水システム
TRAC コードによる解析モデル案
一部と地上の水タンクの水を用いて SI を駆動し、再びプール内に注水するシステムである。本
システムは、大気圧の蒸気以外の動力は不要であり、原子力発電プラントの簡素化に大きく寄
与する。特に、建屋上部プールの容量を大幅に縮小することができ、原子炉建屋上部のレイア
ウトを簡素化することが可能で、耐震設計も容易になるといった効果が期待できる。
このシステムにおいては、SI は供給蒸気圧が大気圧でも作動すること、地上約 30m に設置
される PCC/IC プールへの
供給が可能な吐出圧が得ら
PCC/IC
POOL
れることが要求される。事
故時の格納容器内には、蒸
気中に N2 等の不凝縮ガス
WATER TANK
が含まれる。これらの不凝
縮ガスは、除熱性能に大き
く影響を及ぼすため、事故
時の格納容器内の気体の流
SI
れや各種の気体の濃度分布
の評価が重要となる。そこ
で、本研究ではこのような
気体の流動解析を行うこと
により、本システムの除熱
性能の評価を行う。こうし
図 3.1.2-3 格納容器冷却システムの概念
た気体の詳細流動解析には、
例えば汎用の流動解析コー
ド STAR-CD が適用できる。本解析コードは、流体の質量および運動量の保存則に加え拡散フ
ラックスを扱い、各種気体の拡散を解析することができる。したがって、これを用いて事故時
3-4
の格納容器内の気体の三次元流動解析を行い、除熱性能への影響を評価する。
3.1.3 非凝縮性ガスまたはボイドスラグを含む SI の作動検証とメカニズムの評価
本年度は、水ジェットと蒸気との界面で生じる直接凝縮に及ぼす非凝縮性ガスの影響を評価
する実験の基本概念の決定並びに基礎仕様と計測項目を決定し、計測機器の準備を実施した。
本研究で対象とする各種の SI 内部での蒸気と水の圧力・流速は、以下を想定した。温度とし
ては、蒸気は飽和温度、水は入口で 20-40℃である。
・高圧炉心注水系用:蒸気 7MPa、800-900m/s:水 0.3MPa、30→100m/s
・低圧炉心注水系用:蒸気 0.2-1MPa、500m/s:水 0.3MPa、30→60m/s
・格納容器冷却系用:蒸気 0.1MPa(大気圧)、400-450m/s:水 0.15-0.2MPa、20-30m/s
・給水加熱器用:蒸気 0.05、0.1、0.21、0.4MPa、200-400m/s
(1) SI における気液界面輸送現象
SI の気液界面における熱伝達率は極めて高く、バーンアウトヒートフラックスを超えており、
全ての伝熱現象でも最も高い値となっている。そのため、気液界面において大きな蒸気凝縮が
発生し、結果として大きな負圧を発生し高速で水噴流を駆動することができる。しかしながら、
SI の動作は、凝縮によって発生する負圧によって駆動されるため、蒸気の凝縮によって気液界
面での水温が上昇した場合、凝縮量が減少するために負圧の程度が減少し、SI が動作しにくく
なるという特性を有する。
気液界面から水噴流中心へ向かう熱輸送は、水噴流自身の乱流による熱輸送が律速となって
いる。従って、SI において水噴流内の乱れが少ない場合、水噴流の気液界面から中心へ向かう
熱輸送が低くなり、結果として気液界面温度が局所的に上昇する。
このように、水噴流と蒸気流の気液界面の状態は、凝縮熱伝達を通しての駆動力差圧を生成
するとともに界面から水噴流中心部への乱流熱輸送という二つの機構を支配する基本的な現象
ということになる。
図 3.1.3-1 は、予備的に行った自
由落下噴流における界面形状挙動
に対して、最大撮影速度 10,000fps
の高速ビデオによって、高速可視
観測を行った結果の例である。噴
流速度によって、極めて滑らかな
界面から乱れた界面さらには噴流
が分裂するような挙動も観察され
ることが分かる。
図 3.1.3-1 自由落下噴流における界面形状変化
(2) SI における気液界面輸送現象に及ぼす不凝縮性ガスの影響評価
事故時の格納容器内には、蒸気中に N2 等の不凝縮ガスが含まれる。また、何らかの原因に
よって蒸気流中への不凝縮性ガスの混入がおこった場合、これらの不凝縮ガスは、気液界面で
の凝縮量を大きく変化させることから、SI の駆動性能や加熱性能に大きく影響を及ぼす可能性
がある。
3-5
また、蒸気中に混じっている空気等の不凝縮性ガスが大量に存在する場合、蒸気が凝縮して
も、噴流中に気泡として残存することになり、ボイド率が高くなると気泡が合体することによ
ってスラグ流に遷移することになる。SI は、スロート部において空気などの不凝縮性ガスがス
ラグ流になるようなことが発生した場合、作動が困難となる可能性がある。
以上より、SI の作動限界は、不凝縮性ガスが気液界面輸送現象に及ぼす影響に強く依存して
おり、高性能 SI システムを適用したプラント概念の構築に関する技術開発のためには、不凝縮
性ガスまたはボイド・スラグを含む SI の作動検証とメカニズムの評価を行うことが必要不可欠
である。そのために、水噴流ジェットと高速蒸気との界面で生じる直接凝縮に及ぼす不凝縮性
ガスの影響を評価する実験を行い、SI の動作検証に使用可能な凝縮モデルの開発とその凝縮モ
デルを組み込んだ解析プログラムの整備を行う。
凝縮モデルの構築にあたっては、水噴流の温度と流速ならびに蒸気流の温度と流速に及ぼす
不凝縮性ガスの影響を、バルクの値に対するものとしてではなく、気液各相内での分布に対す
るものとして、実験的に把握する。
SI 内部の水噴流ならびに蒸気流中での流速分布ならびに温度分布を、不凝縮性ガスの濃度を
変化させて計測することによって、水噴流ジェットと高速蒸気との界面で生じる直接凝縮に及
ぼす不凝縮性ガスの影響を評価する。その実験結果を基に、SI の動作検証に適用可能な凝縮モ
デルの開発とその凝縮モデルを組み込んだ解析プログラムの整備を行う。
本研究では、実験の基本概念の決定ならびに基礎仕様についての検討を行うとともに、以下
の主要計測項目の決定を行い、計測機器の準備を実施した。
a. 蒸気、水噴流の温度分布計測(放射温度計)
b. 噴流形状の計測(デジタル寸法計)
c. 界面の波立ちや液滴形成の可視化観測(高速カメラ)
d. 流速分布計測(PIV、LDV)
今後、ジェットへの蒸気の直接凝縮実験を実施するとともに不凝縮性ガスが凝縮熱伝達に及
ぼす影響を調べる実験により、解析モデルとして使用できる凝縮モデルを作成し、新たに評価・
開発した凝縮モデルを STAR-CD 等の汎用解析コードに組み込むことにより、SI の作動検証と
メカニズムの評価を行う。
来年度以降には引き続き不凝縮性ガスの影響を評価する実験の実施並びに SI の動作検証に
使用可能な凝縮モデルの開発とその凝縮モデルを組込んだ解析プログラムの整備を行う。
3.2
高性能 SI 本体の技術開発
3.2.1
簡素化給水加熱器用高性能 SI 本体の技術開発
本年度は簡素化給水加熱器用高性能 SI 本体の要求仕様及びシステム構成を検討し、低圧蒸気
で稼働する SI 本体の仕様及び縮尺モデル試験計画の策定を実施した。
簡素化給水加熱系は、現在の軽水炉で用いられている低圧給水加熱器を全て高性能 SI 3 段と
ジェット脱気器に置き換えるものである。各段の低圧蒸気の圧力は図 3.2.1-1(a)に記載の通りで
ある。ABWR など 1356MWe 級の実機に適用する場合、SI 本体は全長が約 20m のものが各復水
器上部に 2 基、A,B,C の 3 系列で計 6 基となる。このため、抽気蒸気の総流量は、原子力発電
3-6
プラントの低圧タービン抽気蒸気合計値の 1/6 で約 155t/h(43kg/s)もの流量となり、実寸大の
試験は非常に困難である。このため、本技術開発では、先行研究で蓄積した基礎データと最新
の CFD 技術を駆使して開発に当たることとし、解析コードの検証用という位置付けで縮尺モデ
ル試験を実施する。
第1段蒸気
第2段蒸気
0.05MPa
0.1MPa
第3段蒸気
0.21MPa
第4段Jet脱気器用蒸気
0.4MPa
水噴流
(a)給水加熱器用多段 SI の基本構成(第 1 段 SI+第 2 段 SI+第 3 段 SI+ジェット脱気器)
(b)実機多段 SI の設置検討
図 3.2.1-1
(c)供試体の基本構成
簡素化給水加熱器用 SI 供試体の概略構造(3D-CAD 図)
SI の仕様の決定にあたっては、最新の CFD コードに SI 特有の伝熱および相変化モデルを組み
込み、流動解析を行った。解析結果の代表例を図 3.2.1-2 に示すが、例えば第 1 段では蒸気が水噴
流表面に凝縮混合する混合ノズルの内面形状を太くすることにより、混合ノズル内の蒸気温度が
上昇して給水加熱性能が向上する一方で、蒸気速度が低下して SI のポンプ作用が弱くなる。形状
には最適値が存在し、起動用ドレンが生ずるオーバーフローノズルと呼ばれるノズルの終端構造
も性能に大きく影響するため、最終的な本体の開発には CIP 法や CIVA 法といった最先端の二相
流解析手法を駆使する必要がある。また、それらの詳細コードの検証を行うための PIV 法と呼ば
れる高度な計測手法を用いる必要もあり、今年度の供試体の基本仕様の検討の結果、表 3.2.1-1 の
通りとした。試験装置の最大電力が約 2MW であることから、試験は 2MW 以内の縮尺および試
験段数で実施する必要がある。
異なる縮尺を実施することでスケーリングの影響を検討すると共に解析評価を実施する。
3-7
(a)
(b)
(c)
流動解析メッシュ作成用 3 次元 CAD モデル
流動解析結果の代表例(温度分布、第 1 段~第 3 段)
流動解析結果の代表例(ノズル形状のパラメータ検討、第 1 段の拡大図)
図 3.2.1-2
表 3.2.1-1
縮尺
簡素化給水加熱器用 SI の流動解析結果の代表例
供試体の仕様(縮尺と模擬段数、および試験用所用電力)
第 1 段 SI 第 2 段 SI 第 3 段 SI 第 4 段 JetDA
合計蒸気流量
必要電力
蒸気圧力(MPa)
-
0.05
0.1
0.21
0.4
-
-
蒸気流量(kg/s)
1/1
9
9
10
15
43 kg/s
116 MW
1/5
0.36
0.36
-
-
0.72 kg/s
1.9 MW
1/7
0.18
0.18
0.2
-
0.56 kg/s
1.5 MW
1/10
0.09
0.09
0.1
0.15
0.43 kg/s
1.2 MW
試験可能範囲
3.2.2
簡素化炉心注水系用高性能 SI 本体の技術開発
簡素化炉心注水系は、図 3.1.2-1 にシステム概念を示す通り、格納容器内のプール水を水源と
し、原子炉が内蔵する蒸気を昇圧用エネルギー源として SI を作動させ、炉心注水を行うことに
より炉心の冠水維持を達成するもので、ディーゼル発電機や遠心ポンプやモータといった動的
機器(大型の回転機械)を必要としない、極めてシンプルでかつコンパクトな注水系である。
平成 14 年度は、簡素化炉心注水系用高性能 SI 本体の要求仕様及び技術開発計画の策定を実施
した。SI の形式は大別して、図 3.2.2-1 に示す通り、(a)中心蒸気噴流型と(b)中心水噴流型の 2
つがあり、前者は高圧蒸気・低圧給水に対して、また後者は低圧蒸気で比較的給水圧が高い場
合に特に作動の信頼性が高い。
3-8
Mixing Nozzle
先行研究として東京電力㈱と㈱東芝の
Steam
共同研究があり、図 3.2.2-2 に示す供試体
Steam Jet
W ater
での作動実績と、図 3.2.2-3 に示す二相流
Diffus er
流動解析結果があり、試験結果と解析結
(a)
Centralsteam
steam
(a) Central
jet jet
typetype
果の比較的良好な一致を得ている。しか
し、本技術開発では、炉心注水系に採用
Steam
Mixing Nozzle
するため、更に一段と高い性能と作動の
W ater
信頼性向上を目指しており、以下の項目
W ater Jet
を技術開発目標とした。
Diffus er
(b)
jet jet
typetype
(b) Central
Centralwater
water
図 3.2.2-1
SI の形式
Handwheel
Stem for
Steam Nozzle
Handwheel
Stem for
Water Jet
Nozzle
Steam Port
Water Port
Steam Nozzle
680
mm
Steam Port
Water Port
Water Jet
Nozzle
712
mm
Overflow
Port #1
Pressure
Taps
Pressure
Taps
Overflow
Port #2
Discharge
Port
Overflow
Port #1
Overflow
Port #2
Discharge
Port
(a)中心蒸気噴流型
(b)中心水噴流型
図 3.2.2-2
先行研究の SI 本体の構造
(1)中心蒸気噴流型を高圧炉心注水系用に、中心水噴流型を低圧炉心注水系用に組み合わせて作
動させることにより、運転圧力から低圧まで幅広い作動範囲を確保する。
(2)中心水噴流型は炉心減圧系の機能も持たせることにより、自動減圧系(ADS)時にも炉心注
水を行い、蒸気を凝縮させた量以上の水を炉心に注水することにより、炉心の冠水維持を達
成し、炉心溶融などのシビアアクシデントが起こりえない、シビアアクシデントフリーシス
テムを構成する。
(3)起動用やオーバーフロー(過剰水排水)のドレンノズル部の設計を CIP 法や CIVA 法などの
最先端の流動解析手法を用いて最適化を図り、吐出圧を向上させると共に、無効ドレン水の
大幅削減を図り、SI 本体の作動余裕を拡大する。
3-9
このような開発目標を考慮して、表 3.2.2-1 に示す SI 本体の仕様を決定した。
表 3.2.2-1
注水系名称
SI 形式
作動蒸気圧力 (MPa)
作動蒸気流量 (kg/s)
作動水温範囲 (℃)
最大吐出流量 (kg/s)
供試体縮尺
供試体吐出流量 (kg/s)
供試体蒸気流量 (kg/s)
発生蒸気相当電力 (MW)
Pressure (MPa)
Steam
α=100%
SI 供試体本体の仕様
高圧炉心注水系
中心蒸気噴流型
8~2
2
低圧炉心注水系
中心水噴流型
2~0.1
2
10~30
8
1/2
2
0.5
1.35
10~30
16
1/2
4
0.5
1.3
Water α=0%
OF1
OF2
Mixing Nozzle
10
Diffuser
Throat
5
Cal.
Exp.
0
-100
0
100
200
Axial Distance Z (mm)
300
(a)中心蒸気噴流型
図 3.2.2-3
3.3
(b)中心水噴流型
SI 本体の二相流動解析結果
シビアアクシデントフリー炉に関する技術開発
3.3.1
簡素化注水系の安全性評価
本研究では、簡素化注水系の安全性評価計画策定として、簡素化注水系として SI を設計す
る場合に必要なパラメータである凝縮熱伝達率の定量的把握を目的とし、特に凝縮伝熱の素過
程の理解も含めて、単純な実験系を用いて凝縮熱伝達率及び凝縮速度を取得する実験の計画策
定、及び実験装置の設計・製作を実施した。
(1) 実験計画
蒸気凝縮伝熱の素過程の理解を含め、凝縮熱伝達率及び凝縮速度を計測するために、
a. 静止液中での単蒸気泡およびスラグ気泡の凝縮
b. 流動系の直接接触凝縮熱伝達
の二つの実験を行う。
(2) 実験装置
3-10
(1)項に示した各実験計画に対して設計した実験装置の概要を以下に示す。
a. 静止液中での単蒸気泡およびスラグ気泡の凝縮
図 3.3.1-1 及び図 3.3.1-2 に示す実験装置系統図による、静止液中での単蒸気泡およびスラ
グ気泡の凝縮に関する実験を計画した。
図 3.3.1-1
静止液中での単蒸気泡の凝縮実験系統図
図 3.3.1-2
スラグ気泡の凝縮
実験は大気圧下の静止状態のサブクール大気圧液中に単一の蒸気泡を投入し、主として画像
処理計測により、凝縮の素過程の検討を行う。凝縮熱伝達率は、マイクロスコープと高速度ビ
デオカメラより得られるデジタル画像より、蒸気泡の直径の時間変化を観測して求める。
また、図 3.3.1-2 に示すように、自然循環流路内スラグ気泡の凝縮実験を併せて行い、SI の作
動時により近い状況での凝縮の素過程の検討を行う。なお、前出単蒸気泡実験と同様に凝縮熱
伝達率は、画像処理計測結果より算出する。
試験流体としては大気圧水を用いるが、後述する代替フロン AK225 も併せて用いる計画であ
る。
b. 流動系の直接接触凝縮熱伝達
流動系の直接接触凝縮熱伝達に関する実験装置の系統図を図 3.3.1-3 に示す。
図 3.3.1-3 に示すように、大気圧状態の飽和蒸気で満たされた(混合)ノズル内に、ポンプに
より液ジェット流を導き、液ジェット表面の蒸気を直接凝縮させる。凝縮熱伝達率は、蒸発器
への投入電力、液溜めタンクの冷却量等を調整し定常状態を実現した後、液温上昇量より算出
する。なお、系内は予め真空ポンプにて十分に不凝縮ガス(空気)を追い出す。
液ジェット径 D および長さ L の実験条件を決定するための設計計算を図 3.3.1-4 に示す。図
3.3.1-4 中の破線は、理論凝縮熱伝達率である、
hci[W/m2K]=1.414 hlg1.5/[{vg(vg-vl)}{Tsat(Tsat-Tl)}]0.5 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (3.3-1)
の 10%値である、
qci=0.1hci×(Tsat-Tl) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (3.3-2)
より求めた凝縮熱流束である。ここで v は比容積、hlg は蒸発潜熱であり、添字の g、l は各々蒸
気、液である。
3-11
P
Vacuum
T
T
Pump
P
P
T
Heater
T
D
T P
P
T
L
T
Cooling
Water
AK225
0.1 hci
D 10- l 100 mm
D 5- l 15
0.1 hci
107
D 5- l 15
T
Water
Heater
T
図 3.3.1-3
流動系の直接接触実験系統図
101
D 1- l 10 mm
P
Cooling
Water
102
Q kW
T
D 10- l 100
qcond W/m2
10
8
0
20 40 60
∆Tsat K
図 3.3.1-4
D 1- l 10
0
100
10 20 30 40
∆Tsat K
凝縮熱流束と必要蒸気加熱量
定常実験を実現するためには、qci と液ジェット径 D および長さ L に対応する熱量
Q= qci×(πDL)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (3.3-3)
を蒸発器に投入する必要がある。この実験に必要な熱量を実線で図 3.3.1-4 に示した。図 3.3.1-4
には、大気圧水条件とともに、大気圧 AK225 の計算値を併記した。図 3.3.1-4 より、5 kW 程度
の蒸発器を想定すると、大気圧水の場合、D=1 mm、L=10 mm、大気圧 AK225 では、D=5 mm、
L=15 mm 程度の液ジェット系の実験が可能である。界面不安定による液ジェットの分裂防止等
を考慮し、当初は代替フロン AK225(R-113 代替品)を用い、液ジェット径及び長さがそれぞ
れ約 5 mm、15 mm の直接接触凝縮実験を進め、その後大気圧水条件に拡張する計画である。
なお、SI 作動時のように、蒸気超音速噴流が凝縮する際の液噴流流量は、320 K での AK225
の音速である 120 m/s より、液噴流径を 5 mm と想定すれば、0.00235 [m3/s]となる。実験室レベ
ルの流動系を想定すると、液噴流径を 2.5 mm と想定すれば、0.00589 [m3/s]であり、従って液ジ
ェット径は DAK225=2.5mm(長さ L 15 mm)程度が妥当と考えられる。なお大気圧水に対しては、
1 mm の液噴流径を仮定すると、373 K での音速 awater=480 m/s から、0.00038 [m3/s]の液噴流流量
が予想され、十分対応可能である。
来年度以降は、実験計画に基づいて実験装置の設計及び製作を引き続き行うとともに、精力
的に実験を行う予定である。特に、界面の乱れと凝縮熱伝達率との関係を凝縮の素過程を通し
て検討する予定である。
3.3.2 シビアアクシデントフリー化に関する技術評価
高性能 SI を適用した、静的な簡素化炉心注水系で構成される原子力発電プラントの安全性評
価に関して、想定されるシビアアクシデントのシナリオ等の検討を行った。また、格納容器冷
3-12
却系に採用予定の、中心高圧蒸気型 SI 内部可視化による正確な流動挙動測定に向け、SI 内水
噴流厚さ測定試験を実施した。
軽水炉におけるシビアアクシデントに至るシナリオとして、確率論的安全評価において検討
されているものに炉内高圧状態における炉心溶融(高圧破損)がある。こうした高圧破損の結
果として起こる重大なシビアアクシデント現象として格納容器直接加熱(DCH:Direct
Containment Heating)がある。これは米国原子力規制委員会(NRC)の確率論的安全評価報告
書 NUREG-1150 において考慮されており、高圧の蒸気流によって炉心溶融物が格納容器内に液
滴状態で放出され、格納容器内の温度と圧力が上昇し格納容器破損に至るとするものである。
こうした DCH の起こる確率は極めて小さいが、もし起こった場合には、外部への核分裂生成
物の放出割合は低圧破損時に比べて非常に多くなると考えられている。また、高圧破損は低圧
破損に比べて炉心溶融開始から格納容器破損に至るまでの時間余裕が小さいことが安全評価か
ら分かっており、確率は小さいものの、高圧破損を防止することは革新的簡素化原子力発電プ
ラントのシビアアクシデントフリー化にとって極めて重要な技術課題である。
高圧破損に至る事故シナリオとしては、NUREG-1150 以来、従来炉において様々なものが考
えられてきた。代表的なものとして次のようなものが挙げられる。
(1) 主蒸気隔離弁(MSIV)誤閉に伴い、炉心はスクラムするが、その後 ECCS の高圧炉心スプ
レイ、高圧注入系の作動にいずれも失敗する場合(BWR)。
(2) 炉心への主給水、補助給水のいずれもが喪失し、炉心の圧力が上昇するが加圧器逃がし弁
と高圧注入系の作動に失敗する場合(PWR)。
(3) 小破断 LOCA が起こり炉心はスクラムするが、その後高圧注水系の作動に失敗する場合
(BWR、PWR 共通)。
(4) 何らかの理由により発電所内外の全電源が喪失し、原子炉はスクラムするがその後高圧注
入系が動作しない場合(BWR、PWR 共通)。
これらいずれの場合にも共通することは、高圧注入系が作動しないことである。従来の軽水
炉では、高圧注入系はいずれも高圧ポンプを電源により作動させていたため、電源の喪失及び
機械的故障の確率が、小さいとはいえ排除できなかった。
高圧注入系の最も重要な機能は炉心の減圧である。DCH を始めとする、高圧破損に伴う重大
なシビアアクシデント事象は炉心が減圧されないために起こる。例えば炉心が減圧されれば
(2MPa 以下)DCH は起こり難いことが実験並びに解析で示されている。高圧注入系は炉心の
冷却には実質的には寄与しない(冷却は低圧注入系による)ので、給水量は極めて少なくてよ
く給水源の確保は確実に行うことが可能である。また、高圧注入系が確実に作動するため最も
重要な条件は、高圧注入系の圧力が炉心の圧力より高くなることである。
静的機器で構成する SI を用いた高圧注入系の特性を考慮すると、前述の高圧破損シビアアク
シデントに至るシナリオで、電源喪失による高圧注入系の動作失敗を排除することが可能であ
り、さらに機械的故障による高圧注入系の動作失敗確率をも排除できる。また、蒸気―水系の
二相流の流動現象を正確に考慮した、適切な SI ノズルの設計を行うことで、高圧注入系の圧力
を炉心の圧力より高く確保することができる。
従って、SI による高圧注入系の導入により、DCH に至る確率を非常に小さくすることが可能
3-13
となり、シビアアクシデントフリー化が実現できる。このため、高圧注入系の SI 内部の気液二
相流(中心を蒸気が流れ、管壁を液膜が流れる二相流)の詳細な実験的解析を行った。
こうした、気液二相流を用いた昇圧機構は、基本的には非常に有効な方法であり、早くから
その可能性については指摘されていたが、気液二相流の知見が十分でなかったために実用化に
は至っていなかった。本技術開発においては、気液二相流の詳細な知見と制御技術に基づく SI
を開発しこれを実現するものであり、試作段階ではその実現性を確認している。
ノズル上流側の気液二相流密度をρm、ノズル出口の単相流の水密度をρL とし、ρ m << ρ L を
達成できれば、エネルギー保存式から非常に大きな圧力を発生することが可能となる。気液二
相流は気相と液相の混合物であるため、ボイド率を大きくすればこの条件を達成することが容
易にでき、効果的な昇圧が可能となる。ここでボイド率を大きく取るためには、流路中心に蒸
気流が流れる環状流、環状噴霧流とする必要がある。本技術開発ではこのため、中心蒸気噴流
型 SI を採用し実現を可能としている。但し、気液二相流においては気液界面での摩擦によるエ
ネルギー散逸が上記の昇圧効率に大きな影響を及ぼすが、環状流についてのこうした知見は極
めて不十分であり、これについての正確な実験的、解析的知見を得ることが本技術開発では重
要である。そこで、環状流における気液界面エネルギー散逸を正確に求めるための乱流計測の
実験を行い、結果をまとめた。以下に主要な実験結
100
果について示す。
実験対象とするのは、内径 20mm の透明アクリル
電極型プローブを用いて測定した液膜厚さの測定結
果を図 3.3.2-1 に示す。平均液膜厚さは液相流量とと
もに減少しているが、大きくは気相流量に依存して
おり、気相流量の増加とともに平均液膜厚さは減少
している。また液相流量の増加とともにボイド率分
布を表す曲線の勾配が緩やかになり、最大液膜厚さ
Void fraction %
製円管内を流動する空気-水系の環状流である。点
80
60
40
Exp.
Exp.
Exp.
Exp.
Exp.
Exp.
Exp.
Exp.
Exp.
20
0
0
0.2
0.4
0.6
Distance from the wall mm
図 3.3.2-2 に、高速度カメラにより撮影した、液膜
流上の気液界面波のスナップショットを示す。
(b.)
図 3.3.2-2
気液界面波の挙動
3-14
0.8
図 3.3.2-1 環状流における液膜厚さ
は非常に大きくなることが分かる。
(a.)
jG=15.5m/s, jL=0.75cm/s
jG=15.5m/s, jL=1.00cm/s
jG=15.9m/s, jL=1.25cm/s
jG=20.8m/s, jL=0.75cm/s
jG=20.9m/s, jL=1.00cm/s
jG=26.4m/s, jL=1.25cm/s
jG=26.6m/s, jL=0.75cm/s
jG=26.9m/s, jL=1.00cm/s
jG=21.0m/s, jL=1.25cm/s
図 3.3.2-2(b.)には擾乱波と呼ばれる、大規模で非常に複雑な構造をもつ界面波が見られる。
この擾乱波は気相みかけ流速 jG に対して、液相みかけ流速 jL が比較的大きな場合に現れる。ま
た同図(a.)及び(b.)ともに、リップル波と呼ばれる比較的小さく単純な構造の波が見られる。
高速度カメラにより撮影された動画を解析することにより、リップル波は平均液膜速度とほぼ
同じ移動速度を有すること、また擾乱波はリップル波の約 5~10 倍の移動速度を持つことが明
らかになった。
3.4
高性能 SI 本体内部の計測技術開発と可視化
本項は、SI 内部の蒸気速度分布及び液面の速度分布を粒子画像流速測定法(PIV:Particle Image
Velocimetry)を用いて計測し、基礎的なデータを得ることを目的に実施する。
本年度は、PIV システムの整備と SI に PIV 手法を適用するための検討を実施した。また 1/1000
スケールの流路モデルを用いて、計測可能性についての検証実験を行った。
従来の研究においては、蒸気流中のミストをトレーサとし、レーザドップラ法(LDV)による
計測が行われて、ある一点の速度情報が取得されている。これを PIV 手法で行うことにより、蒸
気流の空間速度分布情報を得ることができるようになり、数値シミュレーションとの比較評価が
可能になるとともに、SI の基礎的特性を把握することが可能になる。
(1) PIV の概要
PIV は、流れにトレーサを混入し、そのトレーサの移動を画像解析することによって、任意断
面における 2 次元ないし 3 次元速度分布を計測することができる手法である。PIV 手法は、照明
光源としてのレーザの発展と、画像記録機器としての CCD カメラの発達により、近年急速に利
用されるようになってきた。PIV は、まず流れ場を可視化し、その可視化した流れ場をデジタル
画像に取得、さらにこの画像を解析して速度分布を求めるというように、多くのステップから成
り立っている。また、SI 内部の流れは超音速流となっており、非常に高速な流れ場である。この
ことから、複雑体系内流動かつ超高速の流れ場における PIV 測定は、測定範囲や測定精度の面か
ら、チャレンジングなテーマである。
(2) PIV 手法の SI への適用可能性の評価
PIV においては、流れそのものの速度を計測するのではなく、流れに混入したトレーサの速度
を計測する。流れとトレーサの間に相対速度がある場合には、計測精度が低下する。この相対速
度は、粒子と流体の密度差、粒子の大きさ、加速度などの関数となる。SI で利用するトレーサは、
蒸気流中に含まれる湿り蒸気が水滴となったミストであり、気流との密度差は大きいが、1μm
程度の径であれば、ショック以外の部分ではほぼ追従する事を確認した。
SI 内部の任意断面を照明するためには、光の導入窓が必要である。もしくはプリズムを内蔵し
たプローブタイプの光導入管を用いる必要がある。ターゲット領域を 10cm 四方とすれば、既存
の 25mJ/pulse ダブルパルスレーザで出力は十分である。
SI 内の速度は 400m/s 以上と考えられる。これだけの高速流を計測するためには、特殊なダブ
ルシャッタカメラを用いる必要がある。PIV においては連続する 2 枚の画像を計測するが、この
2 枚の画像間において粒子像の移動量がある一定以下であることが必要十分条件となる。連続す
る 2 枚の画像に対して、微小時間でシャッタを切ることのできるダブルシャッタカメラが必須と
3-15
なることから、ダブルシャッタカメラを用いたシステムの整備を行った。
(3) 画像時間間隔の評価
ダブルシャッタの時間間隔について検討した。実速度を u [m/s]、画像上での粒子移動距離を⊿
X [pixel]、2 枚の時間間隔を⊿t [s]、対象とする領域の大きさを L [m]、カメラの解像度を k[pixel]
とおくと、次の関係がある。
∆t = L∆X ku ・・・・・・・・・ (3.4-1)
SI 領域
PIV においては、画像間の粒子移動距離
⊿X は 5pixel 程度であることが望ましい。
カ メ ラ の 解 像 度 を 1280x1024pixel
(k=1024)とすると、上式は、領域の大
きさ L と速度 u の関数として⊿t を得る
式となる。この関係を図示したものを図
1/1000 モデル
3.4-1 に示す。
SI を対象とし、大きさ L=0.1m、速度
図 3.4-1 画像時間間隔とスケール
u=500m/s を仮定すると⊿t=1μs となる。
SI 内部の流れを計測するためには、画像間の時間間隔が 1μ秒以下に調整できることが必要であ
る。
(4) 1/1000 スケールでの検証実験
次年度以降の実測に向け、超音速蒸気流を計測できることを確認するための、1/1000 スケール
モデルによる実験を実施した。(3)に示した式から、L/u が同じであれば PIV 計測としての時間間
隔⊿t は同じである。実際に計測すべきターゲットは SI 内の超音速流で、視野 0.1m、速度 500m/s
程度を想定している。本実験では 1/1000 にスケールダウンし、流体として水を用い、直径 0.1mm
の円管内における速度 500mm/s の流れ場を計測した。この微小スケールにおいては、レンズに顕
微鏡レンズを用いる必要があるが、レーザやカメラの制御などは全く同じである。図 3.4-2 に実
験装置の概略図を示す。レーザは 25mJ/pulse のダブルパルスレーザ(NewWave 社製)を用い、カ
メラは 1280x1024pixel/10bit のダブルシャッタカメラ
(PCO 社製)を用いた。図 3.4-3 に示すような、1μ秒の
Cooling CCD Camera
(1280×1024 pixels)
Color filter
Micro syringe 250 µl
時間間隔で撮影された 2 枚の画像から速度分布を解析し、
Microscope
PC
図 3.4-4 に示す流れ場を得た。なお、トレーサとしては、
1μm のプラスチック粒子を用いている。この流れ場は、
Oil Immersion 60x
Objective Lens
Re=40 の層流であり、ポアズイユフローが正しく計測さ
Microchip
れている。スケールアップして考えると、直径 0.1m の
Mirror
Double Pulse Nd:YAG Laser
λ=532 nm
図 3.4-2 実験装置概略図
管内を速度 500m/s で流体が流れていることに相当する。
この条件は、SI の計測領域をカバーしており、十分に速
度計測が可能であることを確認することができた。
3-16
0.50 [m/sec]
160
80
y position [µm]
y position [µm]
100
60
40
120
80
40
20
0
0
20
40
60
80
100
120
140
0
0
40
80
x position [µm]
図 3.4-3
120
160
200
x position [µm]
PIV 画像の例
図 3.4-4 取得速度ベクトル
(5) まとめ
超音速流の SI 内部の速度分布計測を目的として、PIV システムの整備と適用可能性の評価を行
い、その見込みを得ることができた。また、1/1000 スケールモデルを用いた実験により、データ
取得が可能であることを確認した。
3.5 高性能 SI 本体の数値解析シミュレーション評価技術開発
高速の蒸気凝縮を伴う自由噴流解析において、物理現象の把握、基本的モデルの試験的計算に
よる困難な点の把握、及び開発に向けての基本的計画策定を実施すると共に、SI の数値流動解析
に関する調査・検討を行った。
高性能 SI 内部では、非圧縮性流体、圧縮性流体、自由液面、相変化、乱流といった様々な現象
が混在している。すなわち、駆動流体である蒸気流速は超音速で圧縮性流体であるが、一方被駆
動流体の水は非圧縮性流体であり、圧縮性流体と非圧縮性流体が混在している。また、蒸気と水
の界面は自由液面であり、相変化(凝縮)も伴う。また、その体系は曲面よりなる複雑境界であ
る。このような複雑な現象及び形状は、従来の単相流解析コードまたは二相流解析コードでの取
り扱いが困難であるため、近年、
「固体・液体・気体の統一解法」あるいは「圧縮性・非圧縮性流
体の統一解法」として注目されている CIP 法(Cubic-Interpolated –propagation 法)、及び CIP 法の
汎用性をさらに高めた CIVA 法(Cubic- Interpolation with Volume/Area coordinates 法)を導入する。
3.5.1
CIP 法による高性能 SI 本体の数値解析シミュレーション
(1) CIP 法の概要
CIP 法は固定されたメッシュ上で、物質表面のようなシャープな境界面の移動を模擬するこ
とができる。これは、本質的には
∂f
∂f
+u
= 0 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (3.5-1)
∂t
∂x
で表されるような移流問題である。この式の解は、単に波が速度 u で移動するだけである。初
期のプロファイル(図 3.5.1-1 a の実線)は、連続体では a の破線のように移動するだけである。
このとき、次の時刻でのメッシュ点上の値は黒丸となり、厳密解は破線である。しかし計算機
3-17
内では、黒丸のような情報しか記憶されていない(図 3.5.1-1 b)ので、この黒丸から a の破線
の解を再現することは難しい。これを直線でつなぐと図 3.5.1-1 c となり、
数値拡散が発生する。
このスキームを一次の風上差分と呼んでいる。
図 3.5.1-1 CIP 法の原理
a 実線は初期値で、破線は移流後の厳密解。
b 厳密解の離散点のみの表示。
c b の点を線形補間すると数値拡散が発生。
d CIP 法では、空間微分係数も移流するた
め、グリッド内部のプロファイルが復元で
きる。
CIP 法では、メッシュ間のプロファイルでさえも方程式を満足する解を用いる。すなわち、式
(3.5-1)を微分して、
∂g
∂g
∂u
+u
= − g ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (3.5-2)
∂t
∂x
∂x
となる関係を用いる。伝播速度 u が一定の場合には、式(3.5-2)は式(3.5-1)と一致し、微分 g が u
の速度で伝播することを表わす。これで値 f とその微分 g の時間発展が方程式に基づいて追跡
できることになる。図 3.5.1-1 d のように、微分さえも u で伝播するとすれば、移動後のプロフ
ァイルに図中の矢印のような制限が加わる。この情報を用いればメッシュ間のプロファイルが
移動前に非常に近くなることが期待できる。
実際に、CIP 法を用いた流体計算の例を図
3.5.1-2 に示す。図 3.5.1-2 は、一つの流体が別の流
体に進入する様子を表す。白い線が使用したメッ
シュで、境界面が粗いメッシュでも正確に模擬で
きており、またメッシュ内部の構造も確認できる
ことがわかる。これはメッシュ内部の構造も方程
式を満たすためであり、このような粗いメッシュ
でも正確な計算が可能となった。
粗いメッシュでも正確に模擬できることは、次
元数の多い計算において有利となる。図 3.5.1-3 は
図 3.5.1-2 二流体の境界面不安定性
三次元計算の例である。
図 3.5.1-3
水切り現象の
シミュレーション
(左)実験
(右)CIP 法による解析
3-18
(2) 技術開発計画
次に、CIP 法を SI に適用するにあたり、技術開発が必要となる項目についてまとめる。
a. 水の飛沫の模擬
図 3.5.1-3 に示した例のように、水が固体と衝突を起こすと、水境界面は飛沫となって空中
に飛び散る。このような場合には、水滴の大きさがメッシュの大きさよりも小さくなること
が予想される。これを防ぐために、
「保存保証型 CIP 法」が開発されているが、メッシュ内
での多数の液滴をさらに正確に捉えるには、手法のさらなる高度化が必要である。
b. 蒸発問題
水の蒸発を含む現象を取り扱うため
には、水の状態方程式を適切に取り込む
必要がある。図 3.5.1-4 は金属のレーザー
による溶融・蒸発過程のシミュレーショ
ンである。図 3.5.1-4 のようなレーザー加
工は、ナノ秒からミリ秒のオーダーの時
間スケールであるために、蒸発の時間ス
図 3.5.1-4 レーザー加工のシミュレーション
ケールが非常に短くても、計算できるレベルであったが、SI の時間スケールで行うためには、
計算時間を大きくできる安定化手法を開発する必要がある。
c. 解適合格子
CIP 法は、粗い計算格子でも精度の良い計算が可能であったが、複雑な形状での流体解
析では、なるべく構造体に沿う形の格子が便利で、メッシュが少なくて済む。しかし、一般
に境界適合一般座標系で数値解法を行うと、精度が極端に悪くなる。
このような場合には、図 3.5.1-5 のような CIP 法に適したソロバン格子が最適である。ソロ
バン格子では、メッシュのノードは直線的な座標に沿った形で行われる。このような制限を
つけても、図 3.5.1-5 の右図のような、円柱に沿うメッシュを作ることが可能である。今後、
このような適合格子モデルの CIP 法への適用性について検討を行う。
図 3.5.1-5
ソロバン格子モデル
3.5.2 CIVA 法による高性能 SI 本体の数値解析シミュレーション
高性能 SI 内部では、図 3.5.2-1 に示すように、非圧縮性流体、圧縮性流体、自由液面、相変
化、乱流といった種々の物理現象が混在しており、またその体系は曲面よりなる複雑な境界を
形成している。CIVA 法は CIP 法を三角形や四面体メッシュ(非構造メッシュ)に拡張し、汎
3-19
用性を高めた手法である。その利点として、(1)形状模擬性(境界条件)、(2)メッシュの追加・
削除が容易で解適合格子などへの発展が容易、(3)メッシュフリー手法へも適用可、などが挙げ
られる。とくに、(1)や(2)は、今回対象とする高性能 SI を構成する構造物が、図 3.5.2-2 に示す
ような曲面よりなる複雑境界である点を考えれば、三角形や四面体のメッシュとして利用でき
る点は、形状模擬性において有利であると考えられる。
ここでは、まず CIVA 法の概要を述べ、SI に関連した流体問題への適用例を示し、CIVA 法
による高性能 SI 本体の数値解析の実現可能性について検討する。
圧縮性流体
自由液面、相変化
蒸気
水
非圧縮性流体
図 3.5.2-1
図 3.5.2-2
ディフューザ
高性能 SI 内部の流動状況
CIVA 法による高性能 SI 内部の流動解析概念図
(1) CIVA 法の概要
従来の非構造メッシュに基づく数値解析手法では、補間あるいは関数近似により生ずる数値
粘性の発生に問題があり、その原因は、非構造メッシュに適用できるような高精度な補間アル
ゴリズムが存在しないことに起因する。非構造メッシュでは、対象となる位置の周りの点群の
データを用いて線形補間を行うかまたは、最小自乗法を利用してデータ補間を行う。しかしそ
うした方法では、与える関数を高次にしても高精度化には単純には結びつかず、用いる点群の
数を増やしても数値的な誤差を発生させる可能性がある。そうした手法で高精度補間を実現す
るには、なるべく少ない点群を用いて高次補間を行う必要がある。また、柔軟性の点から考え
てもその点群の形状としては二次元では三角形、三次元では四面体が適切である。しかし、従
来の補間方法では、このような形状での補間は一次補間となってしまい、関数近似による誤差
が大きい。CIVA 法は、物理量だけでなく、その空間微係数も変数として考慮する CIP 型の手
法を採用することにより、図 3.5.2-3 に示すように三角形や四面体のメッシュ上で3次関数によ
る補間を行い、高精度化を達成するものである。
3-20
三次関数
物理量 f
各三角形
内の物理
量を三次
関数近似
x
y
計算点 k
fk, fxk, fyk
図 3.5.2-3
CIVA 法による計算モデル
(2) SI に関連した流体問題への適用例
ここでは、CIVA 法の、SI に関連した流体問題への適用例をあげ、CIVA 法によるの高性能
SI 本体の数値解析の実現可能性について検討を行う。
a. 圧縮性流体解析と解適合格子
吉田等は、矩形格子と三角形格子を用いた混合格子を用いた圧縮性非粘性流体解析手法を提
案している。提案している解析手法は、移流フェーズを矩形格子では CIP 法、三角形格子では
CIVA 法を用い、非移流フェーズを移動最小自乗法で解く分離解法である。この手法では、流
況の変化の激しい場所に格子を集中させ、計算の効率を下げずに解の精度を向上させる解適合
格子が用いられている。その際、格子を細分化した際に生じる新しい接点の持つ値を精度良く
求める必要があるが、細分化する格子内で CIVA 法の三次補間を行うことで物理量、微分量と
もに高精度に求めることができる。
図 3.5.2-4 に前向きステップの衝撃波問題の解析結果を示す。(a)は解析結果後の計算格子(解
適合格子)であり、(b)が密度の等高線図である。Woodward らによるベンチマーク結果と比較
しても、衝撃波を非常に良く捉えている。また、計算格子の衝撃波の付近に三角形格子が集中
していることから、CIVA 法は急激な変化を伴う解析にも有効であることが分かる。
これらの例により、CIVA 法は三角形及び四面体格子に基づく高精度補間法であるため、複
雑形状である解析にも容易に適用できる。また、解析例より CIVA 法は、衝撃波など急激な変
化を伴う圧縮性流体解析にも適用できる。
(a)
(b)
解適合格子
図 3.5.2-4
密度等高線図
前向きステップの衝撃波問題の解析結果
3-21
b. 非構造解適合格子を用いた圧縮性・非圧縮性流体の統一解法
高橋等は、形状適合性に優れた三角形及び四面体に CIVA 法を適用することで汎用性の高い
統一解法を提案している。また、解適合格子法を併用し、計算過程で激しい変化部分の格子を
細かくしメモリの有効利用や計算効率の向上を図っている。この手法は、移流フェーズの解法
に CIVA‐粒子法を、非移流フェーズの解法に移動最小自乗法を用いた分離解法であり、衝撃
波の解析に必要となる人工粘性は、N‐R 型の人工粘性を圧力項に加えている。高橋等の手法
による、二次元正方内の強制対流問題(レイノルズ数 1000)の解析結果を図 3.5.2-5 に示す。
Ghia らによるベンチマーク解と比較しても十分な精度を有していることが確認できている。
(a) 解適合格子
図 3.5.2-5
(b) 流れ関数
正方空間内の強制対流問題の解析結果(レイノルズ数 1000)
(3) まとめ
高性能 SI 内部の数値流体解析を実現するためには、非圧縮性流体、圧縮性流体、自由液面、
相変化、乱流といった様々な現象や複雑境界といった幾何学的条件を統一的に取り扱う数値解
法が必要である。CIVA 法の利点である、複雑境界の取り扱いの容易さやメッシュの追加・削
除が容易な点は、解析対象とする高性能 SI を構成する構造物が曲面よりなる複雑境界である点
を考えれば、形状模擬性において有利である。さらに、自由液面問題、非圧縮性流体問題、圧
縮性流体問題、解適合格子など、SI に関連した流体問題への適用例を調査・検討し、CIVA 法
による高性能 SI 本体の数値解析の実現可能性について示した。今後は、適用例で検証されてい
るような機能を組み合わせ発展させることにより、高精度な高性能 SI 本体の数値解析シミュレ
ーションを実現する。
3-22
4. まとめ
4.1 全体のまとめ
平成 14 年度は以下の内容を実施した。(注)SI:Steam Injector:蒸気インジェクタ
(1) 高性能 SI システムを適用したプラント概念の構築に関する技術開発
a. 簡素化給・復水系プラントの過渡評価・物量評価
高性能 SI システムをタービン給復水系に適用したシステム設計について、電気出力 110
万 kW クラスの BWR 及び ABWR を対象として概念設計を行い、技術開発計画を策定した。
b. 簡素化注水系・格納容器冷却系システム評価
SI を適用した①簡素化炉心注水システム及び②格納容器冷却システムについて、それぞれ
システムの成立性の検討と技術開発仕様及び開発計画の策定を実施した。
c. 非凝縮性ガスまたはボイド・スラグを含む SI の作動検証とメカニズムの評価
水ジェットと蒸気との界面で生じる直接凝縮に及ぼす非凝縮性ガスの影響を評価する実
験の基本概念の決定並びに基礎仕様と計測項目を決定し、計測機器の準備を実施した。
(2) 高性能 SI 本体の技術開発
a. 簡素化給水加熱用高性能 SI 本体の技術開発
簡素化給水加熱用高性能 SI 本体の要求仕様及びシステム構成を検討し、低圧蒸気で稼働
する SI 本体の仕様及び縮尺モデル試験計画の策定を実施した。
b. 簡素化炉心注水系用高性能 SI 本体の技術開発
簡素化炉心注水系用高性能 SI 本体の要求仕様及び技術開発計画の策定を実施した。
(3) シビアアクシデントフリー炉に関する技術開発
a. 簡素化注水系の安全性評価
簡素化注水系の安全性評価計画策定として、凝縮熱伝達率の定量的把握を目的とした凝縮
熱伝達率及び凝縮速度を取得する実験の計画策定、及び実験装置の設計・製作を実施した。
b. シビアアクシデントフリー化に関する技術評価
高性能 SI による静的な簡素化炉心注水系を持つ原子力発電プラントについて、想定され
るシビアアクシデントシナリオの検討を行うと共に、中心高圧蒸気型 SI 内水噴流厚さ測定
試験を実施した。
(4) 高性能 SI 本体内部の計測技術開発と可視化
SI 内部超音速流の速度分布計測を目的として、PIV システムの整備と適用可能性評価及び
1/1000 スケールモデルを用いた検証実験を行い、データ取得が可能であることを確認した。
(5) 高性能 SI 本体の数値解析シミュレーション評価技術開発
a. CIP 法による高性能 SI 本体の数値解析シミュレーション
CIP 法を SI に適用する際に必要となる技術開発項目を整理し、開発計画を策定した。
b. CIVA 法による高性能 SI 本体の数値解析シミュレーション
SI に関連した流体問題への CIVA 法適用例を調査・検討し、CIVA 法による高性能 SI 本体
数値解析の実現可能性について示した。
4.2 今後の計画
平成 15 年度から平成 17 年度にかけて以下の項目を実施し、高性能 SI による革新的簡素
4-1
化原子力発電プラント技術を開発する。
(1) 高性能 SI システムを適用したプラント概念の構築に関する技術開発
a. 簡素化給・復水系プラントの過渡評価・物量評価
今年度の概念設計を基に、多段 SI システムの詳細設計、過渡及び事故時の運転性及び安
全性の評価を実施し、配置・機器設計の詳細化、物量評価・コスト評価を実施する。
b. 簡素化注水系・格納容器冷却系システム評価
簡素化炉心注水系のシステム評価として、事故時・過渡事象発生時に SI を用いて炉心注
水した場合の炉心熱水力挙動の解析を行い、SI に要求される詳細仕様を評価する。
簡素化格納容器冷却系について、事故時における格納容器内の気体の 3 次元流動解析を行
い、除熱性能評価及び不凝縮性ガスの除熱性能への影響評価を実施する。
c. 非凝縮性ガスまたはボイド・スラグを含む SI の作動検証とメカニズムの評価
水噴流への高速蒸気の直接凝縮実験及び、不凝縮性ガスが凝縮熱伝達に及ぼす影響評価実
験を行い、解析モデルとして使用できる凝縮モデルを開発し、その凝縮モデルを組み込ん
だ解析プログラムを整備することにより、SI の作動検証とメカニズムの評価を行う。
(2) 高性能 SI 本体の技術開発
a. 簡素化給水加熱用高性能 SI 本体の技術開発
今年度策定した縮尺モデル供試体の基本仕様に則り、縮尺モデル試験を実施する。異なる
縮尺試験を実施することでスケーリングの影響を検討すると共に解析評価を実施する。
b. 簡素化炉心注水系用高性能 SI 本体の技術開発
今年度整理した要求仕様を満足する簡素化炉心注水系用高性能 SI 本体の開発を実施する。
(3) シビアアクシデントフリー炉に関する技術開発
a. 簡素化注水系の安全性評価
凝縮熱伝達率測定実験装置の製作を引き続き行い、精力的に実験を実施する。特に、気液
界面の乱れと凝縮熱伝達率との関係を、凝縮伝熱の素過程を通して検討する。
b. シビアアクシデントフリー化に関する技術評価
LOCA 解析コードやシビアアクシデント解析コードを用いてシビアアクシデントフリー
化の定量的かつ詳細な検討を行う。また、実機に近い条件での SI 内の凝縮二相流流動実験
と解析を行い、簡素化炉心注水系の最適設計条件を探索する。
(4) 高性能 SI 本体内部の計測技術開発と可視化
SI 内部の蒸気速度分布及び液面の速度分布について PIV 計測実験を行い SI の基礎的な流
動特性を把握することにより、解析コードの検証にフィードバックする。
(5) 高性能 SI 本体の数値解析シミュレーション評価技術開発
a. CIP 法による高性能 SI 本体の数値解析シミュレーション
水の状態方程式を適切に取り込み SI の時間スケールで計算を行う安定化手法や、CIP 法に
最適な適合格子(ソロバン格子)等による複雑形状適合計算などを行い、実機大適用可能
な SI 解析コードの開発・評価を実施する。
b. CIVA 法による高性能 SI 本体の数値解析シミュレーション
適用例で検証されているような機能を組み合わせ発展させることにより、高精度な高性能
SI 本体の数値解析シミュレーションを実現する。
4-2
添付資料
参考文献
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添1
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