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原子力発電を巡る世界の状況

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原子力発電を巡る世界の状況
KPMG GLOBAL ENERGY INSTITUTE
アジア太平洋の
エネルギー政策の形成における
原子力発電の位置づけ
kpmg.com/energyaspac
目次
序文
1
原子力発電を巡る世界の状況
2
原子力発電を巡るアジアの状況
3
原子力発電の新設に伴う経済性と資金調達
5
安全性とフクシマの影響
6
ケーススタディ:
英国に見る原子力発電への回帰
7
結論
8
付録:アジア原子力発電市場の概要
9
•既存市場
•新興市場
•潜在的市場
コラム:
13
•フクシマ後の原子力発電
•小型原子炉の潜在的役割
連絡先
17
© 2014 KPMG AZSA LLC, a limited liability audit corporation incorporated under the Japanese Certified Public Accountants Law and a member firm of the KPMG network of independent member firms affiliated with KPMG
International Cooperative (“KPMG International”), a Swiss entity. All rights reserved.
序文
国際エネルギー機関(IEA)
は「ワール
ド・エネルギー・アウトルック2013」の中
で、2035年までに世界のエネルギー需
要は2011年に比べ3分の1増加する
という見通しを示しています。増加分の
内、
新興国における需要増が9割超を占
めます。
のエネルギーミックスの重要な一部とし
て位置付けていることは驚くにあたりませ
ん。
しかし、
原子力発電には、
安全性と経
済面から見た実行可能性に係る多くの
課題が残されています。
直近過去10年間のエネルギー需要の
増加は、中国によって牽引されてきまし
た。一方、
2026年以降の需要増加はイ
ンドや東南アジアにシフトすると
「アウト
ルック」
は予測しています。
本稿は、
アジアにおける原子力発電に
対する需要の増大に着目し、現在の同
地域における原子力発電市場の概要を
紹介しています。
また、原子力発電の開
発を検討している国々にとって主要な課
題の一部である安全性と資金調達にも
焦点を当てています。
アジアが世界のエネルギー需要増加を
牽引していることは間違いありません。中
国、
インドおよびASEAN諸国といった新
興国がエネルギー確保に努めている一
方、
日本や韓国はエネルギー確保に伴う
新興国との競争に直面せざるを得ませ
ん。将来的な国家の成長維持に資する
十分なエネルギーを確保するという観点
から、各国のエネルギーミックスを左右す
るエネルギー政策の重要性はかつてな
いほど高まっています。
近い将来、原子炉建設を計画している
アジア諸国に洞察を提供すべく、
本稿で
は、英国政府による新たな原子力発電
プログラムを取り上げ、特にオペレーシ
ョンの安全性と組織のガバナンスの確
保に注目して紹介しています。英国政府
は、
安全性確保の観点からフクシマの原
子力発電所事故を教訓としています。
ま
た、建設資金確保のためにいかなるプロ
セスを経るべきかについても考慮されて
います。
エネルギー需要の増加に加えて、電力
のアフォーダビリティ
(手頃な価格である
こと)確保と気候変動の影響に対する
行動は世界的な課題となっています。
こ
うした中長期的な目標を達成するため、
多くの国々が今でも原子力発電を自国
本稿の主要執筆者は、KPMG UKの
パートナーであるVicky ParkerとDarryl
Murphyです。両名とも、新設原子力
発電に関する英国政府の政策立案に
深く関与しています。また、アジア太平
洋のKPMG Global Energy Institute
のディレクターであるTim Rockellと
KPMG USのプリンシパルであるGlenn
George博士も執筆に協力しています。
さらに、
日本エネルギー経済研究所のエ
ネルギー安全保障・持続可能性担当グ
ローバル・アソシエイトであり、国際エネル
ギー機関の前事務局長を務められた田
中伸男氏からは、
フクシマの事故から得ら
れた教訓に関する洞察をご提供頂きまし
た。
この場を借りてお礼を申し上げます。
関口 美奈
エネルギー・天然資源担当
アジア太平洋地域責任者、KPMGジャパン
© 2014 KPMG AZSA LLC, a limited liability audit corporation incorporated under the Japanese Certified Public Accountants Law and a member firm of the KPMG network of independent member firms affiliated with KPMG
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原子力発電を巡る世界の状況
確実で費用対効果が高く、
より炭素排出
の少ない電力を長期的かつ持続的に確保
できるようにするという目下の世界的課題
は、世界の原子力産業の発展に新たな勢
いを与えた。
世界のエネルギー消費は2012年から
2035年にかけて41%増加すると見込ま
れており、
そのうち約95%は中国およびイン
ドを中心とする新興国の需要増に起因す
る。1 継続性ならびに信頼性が高い電力
供給を生み出す手段として、
原子力発電は
すぐに利用可能であり、化石燃料の大規
模な代替手段の唯一の選択肢であると多
くの人が考えていることから、
この需要を満
たすのに効果的な立ち位置にいる。
原子力発電市場は世界のエネルギーミッ
クスの中心的要素の1つとして定着し、受
け入れられており、世界のエネルギー消費
全体の4.5%を占めている。1 一部の先進
国における同比率はもっと高く、原子力発
電がエネルギーミックス全体のかなりの部
分を占めている国もある。例えば、
フランス
ではエネルギーミックスの75%、
スウェーデ
ンでは38%、韓国では30%、米国では
19% を原子力発電が占めている。2
炭素排出量の削減に対する関心の高まり
により、再生可能エネルギー源への投資
は、世界的に着実に増加している。
しかし、
電力供給が断続的であるという性質とコス
トに関する懸念ならびに適切な用地確保
の難しさが、再生可能エネルギーのエネル
ギー消費全体に対する影響を限定的なも
のにしている。2012年のデータでは、
世界
の発電量の4.7%が再生可能エネルギー
由来であった。1
一方、米国をはじめとする一部の地域で
は、
シェールガスによってガス火力発電が
経済性の観点から魅力が高まっている。
応する柔軟性が高いバランスの取れたエ
ネルギーミックスの重要な一部として位置
付け、
検討を続けている。
このような事情を反映し、世界では2035
年までに550基以上の新たな原子炉の稼
働が見込まれている。3 中国
(204基)
、
イ
ンド
(63基)
およびロシア
(59基)
が非常に
野心的な新設計画を抱えている。
また、初
めて原子力発電を取り入れようとしている
国は18ヵ国に達している。
相対的に高い中東産のガス価格に苦しん
でいるアジア諸国、特に現在の日本は、
よ
り手頃な価格で獲得できる米国産のガス
を受け入れているが、長期的に見れば、化
石燃料の輸入への過剰依存というリスクと
なる可能性もある。
このような背景から、多
くの国が原子力発電を、確実な発電を支
え、
かつ経済的、政治的状況の変化に対
1
2
3
BP: http://www.bp.com/content/dam/bp/pdf/Energy-economics/Energy-Outlook/Energy_Outlook_2035_booklet.pdf
IAEA Nuclear Share of Electricity Generation in 2012 - http://www.iaea.org/PRIS/WorldStatistics/
NuclearShareofElectricityGeneration.aspx
World Nuclear Association - http://world-nuclear.org/NuclearDatabase/Default.aspx?id=27232
図 2030年までに稼働が計画または提案されている原子炉 (3)
227
204
135
118
58
28
China
Reactors proposed
63
39
18
6
India
59
18
66
31
10
26
Russia
Reactors on order
or planned
Other
Reactors currently
under construction
Source: World Nuclear Association 2013 - http://world-nuclear.org/NuclearDatabase/Default.aspx?id=27232
アジア太平洋のエネルギー政策の形成における原子力発電の位置づけ
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原子力発電を巡るアジアの状況
Pakistan
China
Operating............... 3
Construction.......... 2
Research................ 1
Operating............. 21
(13.8GWe)
Construction........ 28
(32.7GWe)
Planned.............. 58*
(6.4GWe)
*more proposed
India
Research.............. 13
Operating............. 21
(44GWe)
South Korea
Construction.......... 6
Planned................ 18
Research................ 5
Operating............. 23
(20.8GWe)
Construction.......... 5
Planned.................. 6
Bangladesh
(15.6GWe)
CHINA
SOUTH KOREA
Planned.................. 2
Research................ 1
Japan
PAKISTAN
Thailand
INDIA
Operating............... 0
Operable.............. 50
BANGLADESH
Planned.................. 2
Proposed............... 4
Research................ 1
Research................ 2
JAPAN
(44GWe)
Construction.......... 3
Planned................ 10
(16GWe)
THAILAND
+1 being built
PHILIPPINES
Research.............. 17
VIETNAM
Vietnam
Malaysia
MALAYSIA
Research................ 1
Indonesia
Planned.................. 4
Proposed............... 6
Research................ 1
INDONESIA
Philippines
Planned.................. 2
Proposed............... 4
Research................ 3
Proposed............... 1
Research................ 1
Source: Prepared by KPMG based on information from Asia’s Nuclear Energy Growth by the World Nuclear Association as of October 2013
現在アジアに存在する119基の原子炉
の発電容量は、2012年時点で合計85ギ
ガワット
(GW)
である。
これらの発電設備に
よる発電量は、
2012年に331テラワット時
(TWh)
であり、2011年の合計460TWh
を下回った。
減少の理由は、2011年のフクシマの原
子力発電所事故後、
日本の原子力発電
所がすべて停止されたことによるものであ
るが、
日本を除けば、
フクシマの事故は、
ア
ジア地域の原子力発電所開発のトレンド
にマイナスの影響を与えていないようにも
見受けられる。国別に見ると、原子力発電
は、従来から原子力を取り入れてきた既存
市場である中国とインドで増加している。
ま
た、東南アジア
(特にベトナムとインドネシ
アが最も顕著)
に登場し始めている。
現時点では、現在商業規模の原子力発
電を手掛けていない8ヵ国
(うち6ヵ国は東
南アジアの国々)
を含め、
アジア地域には
14ヵ国に55基の研究用原子炉が存在す
る。これらの国の多くは、1970年代の石
油ショックを受けて、主としてロシアからの
技術援助を得て原子力発電の研究開発
を始めた。
アジア太平洋のエネルギー政策の形成における原子力発電の位置づけ
人口増加と経済成長による電力需要の
急増と化石燃料価格の上昇によって、原
子力発電がより現実的な選択肢となった
東南アジアでは、益々真剣に原子力発電
が検討されている。
しかし、アジアの発展
途上国では、研究から商業規模の発電へ
の移行に困難があるようだ。
フクシマの事
故後に安全対策の費用が追加的に負荷
されてからは、
なおさら発展途上国の各政
府は資金調達を巡る長い交渉に直面して
いる。
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アジアにおける研究用原子炉と各国の燃料サイクル上の機能
Country
Stage(s) of Fuel Cycle
Australia
Mining
Bangladesh
Research*
China
Mining, conversion, enrichment, fuel fabrication
India
Mining, fuel fabrication, reprocessing, waste management
Indonesia
Fuel fabrication
Japan
Conversion, enrichment, fuel fabrication, reprocessing, waste management
Malaysia
Research*
Mongolia
Mining
North Korea
Conversion*, fuel fabrication*, reprocessing
South Korea
Conversion, fuel fabrication
Pakistan
Mining, enrichment, fuel fabrication
Philippines
Research*
Taiwan
Research*
Thailand
Research*
Vietnam
Mining*
* Limited information available
Source: International Energy Agency 2013
アジア太平洋のエネルギー政策の形成における原子力発電の位置づけ
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原子力発電の新設に伴う経済性と資金調達
原子炉新設プロジェクトの資金調達には、
現時点で代表的な方法2種類(あるいは
これらの組合せ)
が存在する。1つは、政府
の支援を通じた資金調達で、典型的には
国営の電力会社を通じて政府が必要な
資金を提供する方法である。
あるいは、政府が民間セクターを通じた資
金調達を活用する方法もある。企業または
数社で組成するコンソーシアムによるエク
イティ投資や借入を通じた資金調達に加
え、政府による国家保証を活用して開発
プロジェクトの資金を調達するのである。
こ
の場合、通常は、政府、
オペレーターおよ
びベンダーの間での財務的リスクの配分
は極めて重要な交渉論点であり、技術そ
のものの課題より合意が難しい課題にな
る場合もある。
他の大型インフラ投資の場合と同様、原
子力発電所の建設計画が綿密に行われ
ており、必要なリソースが手当されていて、
事業として成り立つという健全な裏付けが
あり、
そしてリスクが認識され最小化されて
いることを証明することができれば、原子
力発電所の新設プロジェクトの魅力は高
まる。
原子力発電所の新設は、
リスクが大きい
ことが特徴である。例えば、運転開始前の
建設コストに伴うリスクや、建設期間の遅
延リスク、
いつまで掛るか現時点では不明
瞭と言わざるを得ない廃炉に伴う義務や
政治的リスク、規制変更に伴うリスク等が
挙げられる。更に、初めての原子力発電の
新設プロジェクトを手掛ける場合には、初
めてゆえの追加的コストにも考慮しなけれ
ばならず、
民間からの資金調達を試みる場
合には、当該事業が十分魅力的であり続
けるという保証を提供する必要がある。
このため、各国において低炭素発電を実
現する最も経済的な代替策として原子力
発電プログラムの潜在力を活用するには、
建設、市場、規制、法律・政治、環境、安全
およびオペレーションに係る各リスクのバ
ランスを総合的に取ることが極めて重要
である。
の間で合意されたコスト目標の設定を高く
し過ぎないようにすることだろう。
この点において英国政府は、債務提供者
への金銭的保証の提供や発電事業者の
売電について合意された
「ストライク・プラ
イス」の設定を含む一連の取り組みを通じ
て、投資を呼び込むことに一定の成功を
収めている。
電力業界は、今後、新設の原子力発電所
が計画した工期内に予算内で完工し、引
き渡すことができるかどうか、固唾をのんで
見守っている。そこでの最重要課題は間
違いなくコスト管理と資金回収である。原
子力発電業界は、
これまでの歴史的経緯
と経験からの教訓をしっかりと反映し、
活用
していることを世に示さねばならない。
こうしたリスクや不確実性があることから、
民間セクターが、政府の補助なしに原子力
発電の新設プログラムに必要な資本を提
供することに前向きである可能性は低い。
何らかの形態での政府による補助がない
とすれば、初めて原子炉の新設に乗り出
す18ヵ国にとっての最重要の課題は、技
術に対する標準化された明確な取り組
み、明確な収入と投資回収の仕組み、
そし
てプロジェクトの所有者および請負業者
アジア太平洋のエネルギー政策の形成における原子力発電の位置づけ
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安全性とフクシマの影響
2011年の福島の事故後、原子力発電の これらの国が行ったストレステストの結果、
安全性は日本のみならず、世界中で大き (フクシマから)学ぶべき教訓はあるもの
な注目を集め続けている。日本の新たな原 の、第3、第4世代の最新式の原子炉の
子力規制当局である原子力規制委員会 設計であれば、基本的にフクシマと同様の
は、安全基準と原子力発電事業者に対す 極限的状況においてフクシマのような出
る監視を大幅に改善した規制制度を導入 来事は起こらなかったであろうと結論づけ
た。
したがって、新設の原子力発電は依然
した。
として実行可能な選択肢であると大半の
原子力規制委員会は、自然災害やテロ 国が結論づけ、原子力発電における大幅
攻撃によるメルトダウンを阻止できる防 な後退には至らなかった。
御策の義務化、特定の原子炉の炉心冷
却システムへの電力供給の寸断を防ぐ
複数の「オフサイト電力供給」の整備およ 欧州における投資と廃炉
スイス、ベルギー等の幾つかの欧
び緊急制御室の設置を含む一定の規制 ドイツ、
州の国々では、老朽化した原子力発電所
を課した。4
の建て替え計画を中止したり、
エネルギー
日本以外の国では、
「 原子力の安全に関 源としての原子力発電への転換を取り止
する条約」に署名した全ての国が、複雑で め、原子力発電所が閉鎖されたりした。こ
深刻な事故の影響に対する原子力発電 れらの閉鎖の説明として挙げられた主なも
のは原子力エネルギーの生産に伴うリスク
所の防御策の見直しに取り組んだ。
に関するものだが、
フクシマの事故後これ
そうした見直しには既存の原子力発電所 らの国々では、原子力発電に対して否定
に対する改善策と、新設原子力発電所の 的になっているという国民的感情の変化
設計への改善策の両方が含まれている。 も一因であった。
ロシア、
ドイツ、
スペイン、
スイス、英国、米
国等が、
自国の原子力発電事業の安全 フクシマの事故は、確かに安全性と法令
また潜在
性の強化を目的として、独自にフクシマの 順守に係るコストを押し上げた。
的には原子力発電施設の資金調達環境
事故の安全性調査を行った。
をより厳しくしたことで、原子力エネルギー
の経済性にも影響を及ぼした。
しかし、英国や中・東欧全域を始めとする
一部の欧州諸国では、原子力発電が将
来のエネルギーミックスの不可欠な要素に
なるという強い信念が継続している。この
ため、2025年から2050年にかけて、欧州
では原子力発電所に対する投資水準予
測は、同期間に廃炉になる原子力発電容
量を上回ると予想されており、
2050年まで
に欧州全域で設置済みの原子力発電容
量が2010年の水準とほぼ同量になると
予想されている。5
欧州以外では、
フクシマの事故後に原子
力発電事業を中止または延期した国はご
く僅かで、現在20ヵ国が新設原子炉を計
画あるいは建設している。3 アジア太平洋
地域だけでも、
バングラデッシュ、
インドネシ
ア、北朝鮮、
マレーシア、
タイおよびベトナ
ムが初の原子力発電所の建設を検討し
ている。発展途上国ではエネルギー需要
がより急速に増加しており、化石燃料や
石炭価格が上昇する中、低コストの代替
策を提供するニーズがより大きいため、原
子力発電推進の背景には、先進国より更
に抗し難い事情があるのかもしれない。
3
4
5
World Nuclear Association - http://world-nuclear.org/
NuclearDatabase/Default.aspx?id=27232
IDSA - http://idsa.in/idsacomments/
FukushimaImpactinJapan_sakhan_220713
EU Energy, Transport and GHG Emissions: Trends to 2050
- the EC presents a new ‘EU Reference Scenario 2013’. http://ec.europa.eu/energy/observatory/trends_2030/doc/
trends_to_2050_update_2013.pdf
アジア太平洋のエネルギー政策の形成における原子力発電の位置づけ
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| 6
ケーススタディ
:英国に見る原子力発電への回帰
図 英国エネルギー・気候変動省の参照シナリオ
― 英国の電力生産に占める原子力発電の割合 7
世界各国の政府が自国の発電ミックスの
劇的な調整を模索する中、英国の原子炉
新設プログラムの行方を注視している。焦
点は、
「 教訓が学ばれ、反映されているの
か?」、
「 新たなベストプラクティスは確立さ
れたのか? 」の2点である。
英国政府は、2050年までの電力需要が
現在の2倍になると予測している。これを
背景に、英国政府の原子力発電に対す
る考えは直近過去10年間に大きく変化し
た。7 更に見通しを悪化させる要因として、
将来のエネルギー安全保障に対する圧力
に拍車をかける電力インフラストラクチャー
の老朽化(2020年までに発電所の5分
の1が閉鎖の見込み6)
と手頃な価格での
電力供給による経済の脱炭素化への政
治的コミットメントが挙げられる。
伝統的な化石燃料は環境負荷が大き過
ぎると考えられている一方、
ガスや再生可
能エネルギーによる発電は確実性に懸念
が残る。このような中、原子力発電は、英
国の将来のエネルギー市場に重要な役割
を有すると今では広く認知されている。
26.4%
21.2%
15.4%
2010
16.6%
2015
15.7%
2020
2025
2030
Source: Department of Energy & Climate Change (DECC) forecasts 2013
– https://www.gov.uk/government/organisations/department-of-energy-climate-change
Based on outputs electricity (TWhs) instead of capacity
力発電への参入者の両方にとって最優
先 課 題である。原 子力の安 全 性の最
前線で活動している英国の原子力規制
局
(Office for Nuclear Regulation、
現 在 、英 国 では 3つ の 大きな原 子 炉 「ONR」)
は、
フクシマの事故を受けて直
新 設 プ ログ ラ ム が 進 行 中 で ある 。 ちに国内の原子力セクターの包括的な見
最も先 行しているのは E D F の N N B 直しを行った。
Generation Company である。RWE、
E.ON、
Centrica、
SSEおよびIberdrola* この見直しの結果、福島の原子力発電所
の撤退後、英国における6大電力会社 と設計が異なる既存の原子力発電所に
のうち原 子 炉 新 設プログラムに株 主と は安全上の根本的な弱点はないと結論づ
しての持 分を有するのはE DFだけであ けられた。
しかし、同時に、
この報告書は既
る。他の2つのプログラムであるHorizon 存の原子力発電所および将来的な原子
Nuclear PowerとNuGenerationは、現 力発電所に施すべき幾つかの改善策に
在技術提供者である日立製作所と東芝・ ついて勧告している。ONRは、英国の原
ウェスティングハウス*がそれぞれ主導して 子炉新設プログラムが国際的な安全性
おり、
オペレーターとサプライチェーンの参 のベストプラクティスを遵守したものとなる
加者は現時点
(本稿作成時点)
では未定 よう、現在も継続して世界各国との協議を
という状況である。
続けており、今後その役割は極めて重要
になるだろう。
全ての事業が前進した場合、2030年ま
でに10GW以上の原子力発電容量の稼 意外にも、
フクシマの事故によっても原子
働が見込まれており、2050年までに設置 力発電に対する英国の世論は大きく変化
される可能性のある合計160GWの発電 していない。2013年時点の原子力発電
容量のうち16~75GWを原子力発電が に対する世論調査は、支持派
(32%)
、反
占めるという積極的な目標となっている。6
対派(29%)
でほぼ同率を示しており、7
原子力に対する支持が2005年以降伸び
安全性と国民感情
ていることを示している。
この背景には、代
安全性確保は、英国政府と新設の原子 々の英国政府がアフォーダブル、低コスト
かつ将来的に不安のないエネルギーミック
スの確保の観点から、原子力発電が果た
す重要な役割を明確に発信し、
それが功を
奏したことも一因として挙げられるだろう。
投資を巡る課題
英国政府は、政府ではなく民間セクターに
よる資金調達を奨励している。
したがって、
英国に
(原子力発電所建設に伴う)資金
を呼び込むことは相変わらず重要な課題
である。英国の原子力発電新設プログラ
ムはこれまで着実に前進してきた。
しかし、
今後もその勢いを維持するには海外から
の投資が不可欠であることは明白だ。
原子力発電市場が益々グローバル化する
中で、英国における投資機会が世界の他
の有望な投資先(国)
と比較してどう評価
されるか、
という課題があることは英国政
府も認識している。
確かに、英国の原子力発電市場にはイノ
ベーションの機会、厳格な規制環境、安
全性の更なる重視および英国で操業する
ことによる信用力の確保等を含む幾つか
の明確な利点がある。
しかし、
こうした利点
は、他の投資機会との比較において十分
とは言い切れない可能性もある。
Department of Energy & Climate Change (DECC) forecasts – https://www.gov.uk/government/organisations/department-of-energy-climate-change
UK Energy Research Center – http://www.nerc.ac.uk/press/releases/2013/71-nuclear/
* IberdrolaのNuGenerationからの撤退は現在最終仕上げの段階。撤退後の企業はToshiba/WestinghouseとGDF Suezの合弁会社となる。
6
7
アジア太平洋のエネルギー政策の形成における原子力発電の位置づけ
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奨励策の導入
このため、英国政府は新規投資を奨励す
る施策を導入した。例えば、電力市場改
革は一定の期間電力に合意された「スト
ライク・プライス」
を設けて長期的な安定
収入の確保に寄与し、投資家のリスクを
低減する。
しかし、現在この政策は欧州委
員会の承認が条件になっている。委員会
の初期の評価では幾つかの懸念が指摘
された。
そのため、
この取り決めが大きく修
正されることなく承認されるか否かについ
ては、多くの注目が集まっている。この他
にも十分な資金調達を可能にするため、
英国は負債提供者に商業ベースで金銭
的保証を提供することも考えている。
しか
し、
この英国政府によるサポートが国家
支援に関する欧州の規則に違反するか
否か、現在欧州委員会が調査中であり、
金銭的保証制度が実現するか否かには
不確実性が残っている。金銭的保証制
度についても欧州委員会の初期評価で
は幾つかの懸念が指摘された。これにつ
いても今後の行方に多くの注目が集まっ
ている。
対話の継続
結果の如何に関わらず、原子力発電の新
設プログラムを魅力的な投資機会として
維持し続けるためには、英国政府、投資
家および業界プレーヤーによる継続的な
対話が不可欠である。
また、一部の海外投資家は、今後将来的
に英国の原子力発電新設プログラムへ
のより大きな関与を模索している。英国政
府が、今後必要となる資本を確保したい
のであれば、
こうした海外投資家のうち、
戦略的投資家と純粋な金銭的投資家と
の区別を明確にしなければならない。
新設プログラムを行う上での技術者不足
をどうするか、
という課題である。英国原子
力産業協会は、英国にはサプライチェーン
が必要とするリソースの40%から60%を
供給する能力があると推定している。これ
は英国経済に対する大きな刺激になる。
また、英国の原子力発電プログラムは、英
国および海外のサプライチェーン企業の
両方に、国際市場で再現可能な新たな、
そして革新的な形態の提携関係を構築
する大きな機会をもたらすと考えられる。
技術者の不足
英国にとってもう1つ重要な課題は、四半
世紀ぶり
(英国で最後に原子炉建設が着
工したのは1988年)
となる国内の原子炉
結論
世界の殆どの地域でエネルギー需要が伸
び続ける中、原子力発電は炭素効率の良
い方法で需要の伸びを持続的に満たすた
めに必要とされる全体的なエネルギー政
策において、今も重要な一部であるとみな
されている。
アジア太平洋地域においては、将来的に
原子力発電が果たす役割は重要であると
考えられている一方、安全性と経済的な
実行可能性は重要な課題である。
原子力発電の潜在能力の活用を模索す
る国々は、経済性の確保という観点から、
プロジェクトファイナンス資金の確保にお
ける政府の役割を果たす必要がある。ま
た、
それ以上に、原子力セクターに対する
投資家にとって魅力的な投資環境を創出 人々の認識を高め、知識を深めることに注
し、政府による資金負担軽減のため民間 力する必要があるだろう。そうすることによ
セクターからの投資を確保するために、
ど り、長期的な国民支持を確保することに
のように原子力発電の信頼性を高めるか、 繋がるだろう。
を考えるうえで応用可能ないくつかの教訓
がある。
英国の経験は、原子力発電が信頼できる
技術であることを示すプラットフォームを提
供するだろう。
しかし、
これが成功するには
各国の政府の支援が不可欠である。
アジア太平洋のエネルギー政策の形成における原子力発電の位置づけ
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付録 アジアの原子力発電市場の概要
既存市場
JAPAN
本稿執筆時点で、合計容量42GWの原子炉 50基が2011年のフクシマの事故以来
停止している。原子力エネルギーはピーク時には電力需要全体の最大30%を提供して
いた。
その後の不足分はLNGを中心とする化石燃料による火力発電で補われてきた。
国内の原子力発電市場の停止以降、海外、特にベトナム、
トルコ、
カザフスタンおよび
英国への原子力製品やサービスの輸出と資金調達を手掛けるために国際原子力開発
株式会社
(JINED)
が設立された。
CHINA
中国は、今後数年間5%~8%のGDP成長率が続くと予想されており、国内のエネル
ギー需要を満たす確実なエネルギー供給の確保を目指している。
中国の都市部で石炭火力発電所の大規模な運転により深刻な大気汚染問題に見舞
われている。この結果、中国は積極的に新たな代替的エネルギーミックスを追求してき
た。原子力発電は、中国にとっての持続可能かつ炭素排出ゼロのエネルギー源として
認知されている。2012年10月、国務院は2015年までに中国の原子力発電の設置済
み容量が40GW前後に達するというエネルギー政策白書を発表した。
現在中国では21ヵ所の原子力発電所が操業しており、合計の操業能力は12GWであ
る。年率8%という将来的な電力需要の伸びを賄うべく、現在中国には建設中の原子
力発電所28ヵ所
(33GW)
と計画段階の原子力発電所58ヵ所
(64GW)
がある。
中国の原子力発電セクターは、
フランス、
ロシアおよび米国を中心とした外国の原
子炉技術に依存してきた。新たな原子力発電所向けの外国産技術の選定はState
Nuclear Power Technology Corporation
(SNPTC)
が担当している。中国の原子
力政策のニーズを満たすべく、国内の原子力発電所用の燃料集合体は現地で製造さ
れている。
現在中国はウランの採掘から製造、再処理までの燃料サイクルの全段階を海外のサプ
ライヤーに依存している。中国政府はこのバリューチェーンを担う国内の企業を幾つか
選定した。China National Nuclear Corporation(CNNC)
は、現在唯一の国内産
ウランの供給者であり、China Guangdong Nuclear Uranium Resources Co Ltd
(CGN-URC)
は、中国における燃料サイクルの運営全てを担当している。
世界原子力協会は、原子力技術の研究開発における中国の役割をどこにも劣らないと
評価した。原子炉のバリューチェーン
(技術、
ウラン採掘、転換、濃縮、燃料製造、再処
理および廃棄物管理)
における様々な国内能力の構築に、中国の原子力研究事業は
重要な役割を果たしている。近い将来、中国はアジア有数の原子力発電大国になると
予想されている。
アジア太平洋のエネルギー政策の形成における原子力発電の位置づけ
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SOUTH KOREA
アジアの原子力発電大国として、韓国には合計容量21GWの原子力発電所23ヵ所に
加え、建設中の原子力発電所5ヵ所、計画中の原子力発電所6ヵ所がある。韓国の国家
原子力計画は、2030年までに原子力発電所を35ヵ所に増やすとしている。原子力発電
は現在韓国の総電力需要の35%を賄っている。
2010年に韓国の知識経済部は、2030年までに4,000億ドル相当の原子炉技術を輸
出し、世界第3位の原子力サプライヤーになることを目指した。韓国は、東南アジアや中
東の顧客に原子炉技術を供給できる95%国産の原子炉「1000MW OPR -1000」の
開発に成功した。韓国は更にライセンシングや知的財産の制約からも独立する考えであ
る。同国はそうした能力によって世界市場の約20%シェア獲得を目指している。
1980年代以降、韓国はサプライヤーから完結した原子力発電ソリューションの輸出国
に変貌した。Korea Electric Power Corporation(KEPCO)
は、米国との協同により、
完結した原子力発電ソリューションを持つ過程で大きな役割を果たした。米韓の協力は、
原子炉の設計だけでなく人的資本と原子力発電セクターに対する財務的支援にも取り
組んだ。
INDIA
インドには稼働中の原子炉が21基、建設中の原子炉が6基と計画中のものが18基あ
る。他国で使われているものに比べて原子炉の平均サイズが200MWと小さいため、合
計の発電容量は他国に比べて小さい。例えば、中国の原子炉の平均容量は900MWで
ある。
インドでは2020年までに150GWの原子力発電容量の稼働が見込まれている。また、
同国は2050年までに電力の25%を原子力発電で供給することを目指している。最近、
核不拡散条約に加盟したことで燃料や技術の輸入がもたらされ、
インドの原子力発電の
発展に弾みがつくと見られている。同国は主にトリウムを使用する自前の技術を利用して
おり、将来この技術の輸出を目指している。
TAIWAN
エネルギーの97.5%を輸入する台湾では、5GWの合計容量でベースロード電力の4分
の1を発電する6基の原子炉が稼働している。
台湾の原子力発電が使用する技術は、GEの沸騰水型原子炉とWestinghouseの加
圧水型原子炉である。
これらの発電所は、公営企業のTaipowerが経済省の管轄下で
運転している。
研究用原子炉が4基停止・廃炉されて以来、台湾の研究開発の勢いは鈍っている。台
湾は、原子力の安全、技術および老朽発電所の管理について中国および米国と協定を
結び、協力している。
PAKISTAN
パキスタンでは合計725MWの発電容量を有する3基の原子炉が稼働しており、同国の
電力供給の約4%を生産している。
パキスタン政府は2030年までに原子力発電容量を10ヵ所の合計で8GWへと引き上げ
る。現在2基の原子炉が建設中である。
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付録 アジアの原子力発電市場の概要
新興市場
VIETNAM
ベトナムは当初ロシアの国営原子力企業R o s a t o mの協力を得て2014年にNinh
Thua n1原子力発電所の建設を開始し、2023年に運転を始める計画であった。
2014年の初めに伝えられるところによれば、
この計画は6年遅延する可能性がある。
ロ
シアは、ホーチミン市の近くで4基の原子炉を有する2GWのNi n h Th uan1原子力発
電所を建設し、資金も提供する計画である。
また、日本も2基目の2GWの原子力発電所
を同じくNinh Thuanに建設することに合意している。
ベトナムは、2030年までに15GWの電力
(総発電容量の10%)
を原子力発電で生産す
る計画である。韓国がベトナムの原子力発電所に更なる協力を提案している。ベトナム
の公益電力会社EVNがこれらの発電所の所有と運転を予定している。
現在Quang Nam州でウラン鉱床の探査が行われている。
INDONESIA
2001年の同国の発電戦略は、500kVのジャワ・バリ送電網に2016年に2GWの原子
力発電所を乗せることを提案した。発電量は2025年に6~7GWに増加する。
しかしこれらの計画は一時棚上げになっている。National Atomic Energy Ag ency
(BATAN)
の55周年に当たる 2 013年12月に、
エネルギー省はBATANが商業目的
でない動力炉とガンマ線照射設備をS e r p ongに建設すると述べた。Se r p on gには
BATAN最大の研究用原子炉がある。
2014年2月にジャカルタに近いSer pongでのBATANによる30MWの原子力発電所
の建設が提案された。
BANGLADESH
原子力発電セクターにおける新興のプレーヤーとして、Bangladesh Atomic Energy
Commissionは2020年までにロシアの技術を使用した1GWの原子炉を2基建設する
計画である。世界原子力協会によると2013年に建設が始まっている。現在バングラデッ
シュには稼働中の研究用原子炉が1基ある。
アジア太平洋のエネルギー政策の形成における原子力発電の位置づけ
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付録 アジアの原子力発電市場の概要
潜在的市場
AUSTRALIA
豪州の既知のウラン資源は世界最大であり、世界のウラン埋蔵量の31%にあたる。
豪州はカザフスタンとカナダに次ぐ世界第3位のウラン生産国である。Australian
Nuclear Science & Technology Organization( ANSTO)
が20MWの最新式
OPAL研究用原子炉を保有、運転している。
原子力の開発を支えるインフラは存在するものの、豪州の経済的、政治的意志はこれま
でのところつかみどころのない状態に留まっている。
THAILAND
タイにはよく練られた計画があるが、
コミットメントはこれからである。2007年以降2基の商
業原子炉が計画されているが、
フクシマの事故以降頓挫している。1977年から研究用
原子炉が1基運転しており、
もう1基建設中である。
電力の約70%が天然ガス由来である。国内ガス資源の減少とガス輸入の負担を考える
と、
タイには原子力発電が果せる役割がある。
MALAYSIA
マレーシアでは1982年から研究用原子炉が運転している。政府は計画を策定中で
あり、現在フィージビリティ・スタディ、用地選定および規制面の調査を行っている。
また、2~4基の原子炉の建設も考えている。
PHILIPPINES
フィリピンは1980年代初頭にBataan原子炉を建設した。
しかし、安全面の問題からこ
の原子炉は一度も稼働していない。2008年の国際原子力エネルギー機関
(IAEA)
の
検査によって同発電所を改修する計画が復活したが、福島の事故でプロジェクトは再び
棚上げになった。
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コラム:フクシマ後の原子力発電
福島第一原子力発電所の事故後、原子
力発電を取り巻く世界は様変わりした。
安全性の確保はあらゆるところで最重要
の課題になった。日本の原子力発電所
は、定期保守作業のために停止した後、
運転を再開するにあたり独立機関である
原子力規制委員会
(NRC)
が設定した新
たな安全基準審査に合格しなければなら
ず、現在日本で稼働している原子炉はな
い。
向けの安価なガス(IEAはこれを米国の
「石油化学のルネサンス」
と称している)
によって米国産業の競争力は高まり、
ガ
ス火力発電所が生産する安価な電力は
アメリカの製造業を助けるだろう。原子力
発電のような経済的で確実なエネルギー
源なしに、
どうして日本が中国、
インド、
ブラ
ジル等の新興国に加え、米国と競争でき
るだろうか。電力料金の値上がりと雇用
の喪失による痛みを一般市民はまだ感じ
ていない。だが、欧州が米国との比較で
NRCがいつ原子炉の運転再開を許可す エネルギーコストの高さと競争力の欠如
るのか、
あるいは原子力発電が長期的に を経験したように、遅かれ早かれそれは起
どうなるのかについては、予測不可能だ。 こるだろう。
したがって日本のエネルギー基本計画は
定量的な計画ではなく、定性的な政策文 ジョセフ・ナイ、
リチャード・アーミテージの
書とならざるを得ない。原子力発電を使用 両氏が2年前のCSISの報告書で言及し
するリスクはフクシマの事故によって明ら たように、
日本が原子力発電を保有して
かにされた。一方、原子力発電を使用しな 「 一等国 」の地位を維持することを難し
いリスクについては、
しっかりと一般市民 くしているのは、政治家、官僚、電力会社
に説明されていない。短期間のうちに原 および原子力村全体に対する一般市民
子炉が再開しないとすれば、気温の上が の信頼の欠如である。人々の懸念は原
り方次第では、
日本の幾つかの地域はこ 子炉の安全性から、高濃度廃棄物の処
の夏電力不足に直面するかもしれない。 分の安全性にまで広がっている。高速増
日本は、停止している原子力発電の代替 殖炉「もんじゅ」の実証と六ヶ所再処理
えとしての火力発電のため、
( 原子力が 工場の遅延は、核燃料サイクルの終末
稼働していれば必要なかった)
ガスや石 工程(使用済み核燃料の再処理)の技
油の購入に年間400億ドルを支払って 術の妥当性に対する疑念を生じさせる。
いる。休止されていた古い石油火力発電 原子力発電を使い続けるのであれば、核
所が、閉鎖するかしないかのぎりぎりの可 燃料サイクルのオプションは必須である。
能性に直面しながら、保守スタッフの懸命 日本の原子力政策は時として
「トイレのな
な努力によってフル稼働で使用されてい いマンション」だと批判される。平和利用
る。中東では依然として不安定な状況が (不拡散)
、安全性および廃棄物処分の
続いている一方で、
イランの核開発問題 容易さを保証する新たなソリューションが
を巡る交渉は進展している模様である。 必要とされている。その解決策は存在し
だが、P5+1の交渉が期待された結果を ているのだ。一体型高速炉(Integrated
もたらさない恐れがある時には、常にイス Fast Reactor, IFR)とパイロプロセシン
ラエルがイランの核施設を攻撃するリス グである。この技術は、米国のArgonne
クが残る。日本が輸入する石油の85% National Laboratoryで開発、テストさ
、LNGの20%はホルムズ海峡を通過する れた。この技術のパッシブセーフティ
(受
ため、ホルムズの自由な航行は日本にと 動的安全)機能は、1986年に行われた
って極めて重要である。原子力発電所が 発電所内全電源喪失実験で証明され
稼働していない日本のエネルギー安全保 た。ロバート・ストーン監督の「パンドラの
障は、第一次石油ショックに見舞われた 約束」
という最近の映画は、
これをフクシ
40年前と同じように脆弱であると言わざ マで起きた状況を模した実験として取り
るを得ない。
上げた。残念ながら一体型高速炉の開
発は軽水炉に押しやられ、
やがて政治的
シェールガス革命によって、米国はガスを 駆け引きのため早計に中止されてしまっ
輸出できるようになり、中東からの石油輸 た。軽水炉の技術パラダイムは、軍事、特
入も大幅に減らせるようになる。米国のい に原子力潜水艦で利用する必要性に迫
わゆる
「エネルギーの自立」は、今後数年 られ、陸上で建設する場合のパッシブセ
内に手が届くようになる。石油化学業界 ーフティを確立せずに、
また完全な廃棄
アジア太平洋のエネルギー政策の形成における原子力発電の位置づけ
物処分策なしに、慌ただしく確立・開発さ
れたものだ。
フクシマの事故以前は、原子力発電は
安全で安価な電力源であると考えられて
いたが、世界は変わってしまった。フクシ
マを経験した日本には、新たなパラダイム
を構築する責任がある。日本は原子力の
平和的利用の優れたモデルであった。日
本は核兵器保有国ではないが、唯一軽
水炉の使用済み核燃料を再処理する許
可を与えられた国である。韓国はいわゆる
「 1-2-3合意 」
を米国と更新すること
で、一体型高速炉とパイロプロセシングを
使って日本のモデルを踏襲しようとしてい
る。一体型高速炉を開発すべく、米国、
韓国および日本による国際的な研究コン
ソーシアムを設立すべきである。
「災い転じて福となる」
とすべく、
フクシマ
はそのようなプロジェクトに最適な場所だ
ろう。失われた信頼を取り戻すために、
日
本の人々を説得するための大局的な構
想が必要である。
田中伸男氏 執筆
エネルギー経済研究所 エネルギー安全保障・
持続可能性担当グローバル・アソシエイト、
国際エネルギー機関前事務局長
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コラム:小型原子炉
(Small Modular Reactors、
「SMR」)
の潜在的な役割
– 原子炉新設に突き付けられた課題に対する米国の1つの解
このレポートの本文で論じられているよう
に、アジア太平洋地域の全域で、
そして
世界でも原子炉の新設には大きな将来
性がある。
フクシマでの出来事によって突
き付けられた原子力発電に対する世界
的な異議申し立てにも関わらず、米国、英
国、中国、
ロシア、中東、
そして世界各地
の10数ヵ国以上で原子炉新設プログラ
ムが順調に進んでいる。
だが、多様な試練が状況を不確実なもの
にしている。大規模な原子炉に関しては
なおさらである。例えば、活動休止状態に
ある米国政府の新設原子炉を対象とし
た融資保証制度、一部法域における
(主
としてフクシマを契機とした)規制要件の
厳格化、一部地域における原子力発電
の縮小または断念、多くのOECD諸国に
おける緩やかな電力需要の増加、米国や
一部の重要な国々における安価な
(また
はただの)炭素、多くの進行中の原子炉
建設プロジェクトにおける大幅な費用超
過、米国での4基の原子炉の早過ぎる閉
鎖、北米の天然ガスの持続的な安さ等で
ある。世界的に見れば、新設の大型原子
力発電所の市場の見通しは、大目にみて
も不透明としか言えない。
市場には、大型の新設原子炉の圧倒的
な規模の大きさ
(必要とされる投資規模
の大きさ)
が新規原子力発電所のコストと
リスクを増幅し、世界的最大手の電力会
社にとってさえ、原子力発電所プロジェク
トの資金調達を困難なものにしていると
いう見方がある。小型原子炉(SMR)
は、
こうした問題の多くを克服する機会を提
供する。
国際原子力機関は、SMRの定義を容量
300MW未満の原子炉としているが、一
般的には500MW未満の原子炉はいか
なるものもSMRと呼ばれる。これまでに
100を超えるSMRの設計が商業的原子
力発電市場で活動しているほぼ全ての
国の多様なプレーヤーらによって提案さ
れてきた。
内在的な規模の不経済と大型原子炉
が直面するものと同じ課題(安価な天然
ガス等 )の多くを免れないにもかかわら
ず、SMRはフルサイズの原子力発電所
に比べて様々な利点を提供する。SMR
の小ささは資金調達を相対的に容易にす
る可能性がある。工場での連続生産は、
特注プロジェクトに伴う建設費用超過の
リスクを低減する一方、学習曲線効果を
生むこともでき、
それによって資本コストが
下がる。発電量が比較的少なく、部品や
システムが一体化し、発電所の物理的な
範囲が小さい場合、一定のパッシブセー
フティを達成することが相対的に容易か
もしれない。原理的には、SMRの用地選
定や認可は大型原子炉の場合より容易
である可能性がある。
このため、
この市場で競争すべく多くのベ
ンダーが(一部政府の支援を受けて)最
新のSMRの設計を考案している。
フルサ
イズの原子炉同様、
それらはあらゆる技
術に及んでいる。現行のSMRの設計に
は以下のものが含まれる。
z zNuScale
(米国)– 発電量45MWの
モジュールを1~12個使用する軽水
炉設計。
z zPebble Bed Modular Reactor
(PBMR)
(南アフリカ)– 1960年代にド
イツで初めて使用された設計の現代
版。ウラン燃料と安全層を含む最大1
万個の粒子を充填した、黒鉛および
炭化ケイ素でコーティングされた球状
の燃料要素を使用する。
z z Purdue Novel Modular Reactor
(PNMR)
( 米国)– 10年間燃料補給
が不要な小型の沸騰水型原子炉。
z zTerraPower Travelin GWave
(米国)
Reactor(TWR、進行波炉)
– 50 ~100年かけて炉心の中をゆっく
り
「波」状に移動する核分裂連鎖反応
に基づく設計。
(米国)
zz Babcock & Wilcox mPower
–一体型加圧水型原子炉。
1モジュール
z zToshiba Super Safe, Small &
当り約180MW。
Simple(4S)
(日本)– 可動性の中
性子反射板を有するナトリウム冷却を
zz CAREM(アルゼンチン)– 簡略化され
使用する設計。
た加圧水型原子炉を使用する設計。
zz Encapsulated Nuclear Heat Source
(米国)– 鉛または鉛ビスマス冷却材
を使用する液体金属を使用する設計。
z zWe stin g h o u se SMR(米国)–
幾つかのユニークな特 徴を有する、
AP1000原子炉の小型版。
zz Flibe Energy
(米国)– 液体フッ化ト
リウムを使用する溶融塩原子炉。
zz Hyperion Power Module(米国)
– 鉛ビスマス冷却材を使用する液体
金属を使用する設計。
zz International Reactor Innovative
& Secure(IRIS)
(米国)– 5年毎の
燃料補給で稼働可能な容量50MW
のモジュール式の加圧水型原子炉。
zz Korea Atomic Energy Research
Institute SMART design(韓国)
– 100MW級の一体型加圧水型原
子炉。
zz Modified KLT-40(ロシア)– ロシア
の砕氷船で使用される原子炉に基づ
く小型加圧水型原子炉。
アジア太平洋のエネルギー政策の形成における原子力発電の位置づけ
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このレポートの本文で論じているように、世
界的気候変動やその他要因に対する懸
念は次第に高まり、時間の経過とともに原
子力発電一般に対し大きな需要を生み出
す可能性がある。私の見るところ、
それらは
SMRに偏った需要を喚起するかもしれな
い。
そうであるならば、SMRのベンダーにと
っての課題は、数年のうちにより広範な市
場環境でもっと有利になるまで、主に官民
パートナーシップやニッチ展開を通じ、年数
をかけて自社の技術や認可取得努力に関
して明確な進歩を遂げることである。
地への安価な天然ガスの移動
(大洋州全
域に多くみられるような)、
そして一部の国
で閉鎖される火力発電所の代替の3つで
ある。地域的には、中東、中国、
インド、
ロシ
ア、韓国、東南アジア等がSMRにとって
最も有望な市場と言えるだろう。
原子力発電一般、
そして特にSMRの見通
しについて私は依然として楽観的である。
原子力発電は、依然として唯一送り出す
ことができる直接的な炭素排出の無い電
力源である。発電方法の多様性が有する
価値と、
それが信頼性と強靭性・復元力に
短期的・中期的に見ると、SMRにとって有 果たす役割への認識が次第に高まってい
望な市場は、脱塩処理および産業工程に る。SMRの学習曲線効果が本物かつ大
おける加熱処理
(オイルサンドの処理等)
、 きなものであること、建設コストのリスクが
容易にアクセスできない遠隔な人口密集 管理可能であること、
そしてSMRが安全で
アジア太平洋のエネルギー政策の形成における原子力発電の位置づけ
信頼性があり、大幅な規制変更なしに認
可可能であることをベンダーが証明できれ
ば、SMRはやがてアジア太平洋地域およ
び世界各地で発電ミックスにおいて大き
な役割を演じる可能性が高い。
Glenn R. George, PhD, Principal, Advisory,
KPMG in United States
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The KPMG Global Energy Institute (GEI):
2007年に設立されたKPMG GEIは、石油・ガスセクターと電
力・公益事業セクターが直面する課題や、今後起こり得る潮
流に関する洞察を議論する、世界規模での知識共有のた
めのプラットフォームです。GEIは、
エネルギーセクターのプ
ロフェッショナルに、業界の重要なテーマに関する価値ある
thought leadership、研究、イベントおよびウェブキャストを
提供します。GEIは、米州、アジア太平洋、EMEAの各地
域に合わせた洞察を、経営の意思決定を担う皆様に提供
します。GEIは、
このダイナミックな分野における変化により
巧みに対処するための新たなツールの提供を目指していま
す。KPMG GEIへのメンバー登録や詳しい情報は、以下のサ
イトをご覧ください。
kpmg.com/energyaspac
The KPMG Global Energy Conference (GEC):
The KPMG Global Energy Conference
(GEC)
は、
エネル
ギー業界の財務担当幹部に向けた、KPMGの最も重要なイ
ベントです。KPMG Global Energy Instituteが提供するこの
カンファレンスは、
ヒューストンとシンガポールで開催され、
エネ
ルギー業界の重鎮との一連のインタラクティブなディスカッショ
ンのために、
エネルギー企業の財務担当幹部が世界各地から
集まります。
カンファレンスの目的は、参加者に、業界の問題や
課題の解決を支援するための新たな洞察、
ツール、
および戦略
を提供することです。
更なる情報をお求めの方は以下のサイトをご覧ください。
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#KPMGGEC
Global Power Conference
The KPMG Global Power & Utilities Conferenceは、電
力・公益事業セクターのCEO、部門責任者および財務担当
幹部に向けた、KPMGの最も重要なイベントであり、KPMG
Global Energy and Natural Resources Practiceが提供
しています。KPMG Global Power & Utilities Conference
に関するお問い合わせは、
カンファレンスチーム
(gpc@kpmg.
com)
までお寄せいただくか、KPMGのウェブサイトをご覧くださ
い
(kpmg.com/powerconference)
。
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関口 美奈
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KPMG in Japan
T: +81 3 3548 5555 Ext 6742
E: [email protected]
Vicky Parker
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E: [email protected]
Darryl Murphy
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KPMG in the United Kingdom
T: +44 20 7694 3041
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Glenn R. George
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本冊子は、KPMG International Cooperativeが2014年7月に発行した”Nuclear Power: its role in shaping energy
policies in Asia Pacific”を翻訳したものです。翻訳と英語原文間に齟齬がある場合は、当該英語原文が優先するものとします。
ここに記載されている情報はあくまで一般的なものであり、特定の個人や組織が置かれている状況に対応するものではありません。私たちは、的確な情報をタイ
ムリーに提供するよう努めておりますが、情報を受け取られた時点及びそれ以降においての正確さは保証の限りではありません。何らかの行動を取られる場合は、
ここにある情報のみを根拠とせず、プロフェッショナルが特定の状況を綿密に調査した上で提案する適切なアドバイスをもとにご判断ください。
The views and opinions expressed herein are those of the conference speakers and do not necessarily represent the views and opinions of KPMG
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Printed in Japan. 14-1523
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