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低放射化フェライト鋼における介在物と衝撃特性に 及ぼす - J

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低放射化フェライト鋼における介在物と衝撃特性に 及ぼす - J
日本金属学会誌 第 72 巻 第 3 号(2008)176
180
低放射化フェライト鋼における介在物と衝撃特性に
及ぼすエレクトロスラグ再溶解の影響
澤 畠 篤 司1,
谷 川 博 康2
榎 本 正 人3
1茨城大学理工学研究科
2日本原子力研究開発機構
3茨城大学工学部マテリアル工学科
J. Japan Inst. Metals, Vol. 72, No. 3 (2008), pp. 176 
180
 2008 The Japan Institute of Metals
Effects of ElectroSlag Remelting on Inclusion Formation and Impact Property of
Reduced Activation Ferritic/Martensitic Steels
Atsushi Sawahata1,, Hiroyasu Tanigawa2 and Masato Enomoto3
1Graduate
2Japan
School of Science and Engineering, Ibaraki University, Hitachi 3168511
Atomic Energy Agency, Tokai, Ibaraki 3191195
3Department
of Materials Science, Faculty of Engineering, Ibaraki University, Hitachi 3168511
The effects of the second refining process, Electro
Slag Remelting (ESR), were investigated on Ta rich inclusion formation
8Cr
2W
VTa).
in the Vacuum Induction Melted (VIM) Reduced Activation Ferritic/Martensitic steel (RAFM), F82H (Fe
Al2O3 are major inclusion in VIMed F82H, and those were correlated with the reducThe Ta rich oxides such as TaOx and TaOx
tion of the Charpy impact property, as those were found at the crack initiation points. It was revealed that the ESR process was effective on removing those Ta rich oxides. On the other hand, ESR process increased MnS and Al2O3 instead, and these inclusions
Brittle Transition Temperature
were found at the crack initiation points. These could explain the little difference on Ductile
(DBTT) of asVIMed and ESRed F82H.
(Received October 17, 2007; Accepted December 5, 2007)
Keywords: electroslag remelting, vacuum induction melting, ductilebrittle transition temperature, ESRed F82H, VIMed F82H
クラスになるとスラグの流動性などの観点から電解鉄が使え
1.
緒
言
なくなるなどの制限がかかり不純物元素を低減することは難
しくなる.
低放射化フェライト鋼 F82H ( Fe 8Cr 2W V Ta )は核融
酸化物や不純物元素を低減した高純度鋼を製作する方法と
合実証炉の第一候補構造材料として開発が進められている1).
して二次精錬がよく使われる.規模も大きく,清浄度が高い
1996 年に真空誘導溶解で溶製された 5 ton 溶解材の F82H 
精錬に用られている二次精錬法には,エレクトロスラグ再溶
IEA 鋼(Fe8Cr2W0.1C2V0.2Ta)については,国際エネ
解(Electro Slag Remelting: ESR)がある.エレクトロスラグ
ルギー機関(International Energy Agency: IEA)の低放射化
再溶解は,精錬する鋼を消耗電極とし,スラグの抵抗熱を利
フェライト鋼ワーキンググループが中心となって各国でラウ
用してスラグ中で再溶解し,逐次凝固させて鋳塊を作る一種
ンドロビン試験が行われた.近年,この F82H
IEA 鋼から,
の再融解法であり,鋳塊の均質化とあいまって不純物元素や
Ta 酸化物および Ta 酸化物に Al2O3 が複合した複合酸化物
非金属介在物を効果的に低減することができる特徴がある6).
がマトリクス中に生成されていることが微細組織観察により
そこで本研究では,エレクトロスラグ再溶解を二次精錬法
確認された2) .さらに衝撃特性や疲労特性3) に Ta 系酸化物
として真空誘導溶解で溶製した低放射化フェライト鋼に施
が影響を及ぼす可能性があることも報告されている.加え
し,介在物の分布や衝撃特性を精錬前の鋼と比較し,低放射
て,酸化物は凝固過程で形成することから溶解後の加工処理
化フェライト鋼 F82H に対するエレクトロスラグ再溶解の
等で除去することは難しく,酸化物の形成を抑える溶解方法
精錬効果を検討した.
の確立が課題となっている.複合酸化物については不純物元
素の Ti を低減し,清浄度を高めて溶解することで減少させ
ることができ,同時に衝撃特性も改善される4,5) .一方で,
数 kg から数 100 kg 程度の実験溶解ならまだしも,数 ton
供試材および実験方法
2.
2.1
エレクトロスラグ溶解鋼(ESR 鋼)の製作
エレクトロスラグ再溶解は脱硫,脱酸,脱りんを得意とし
茨城大学大学院生(Graduate Student, Ibaraki University)
ている他に,溶融スラグによる介在物の吸収・浄化作用とい
第
3
号
177
低放射化フェライト鋼における介在物と衝撃特性に及ぼすエレクトロスラグ再溶解の影響
Table 1
C
S
Si
Chemical composition of steels studied (mass).
Mn
Cr
W
V
Ta
B
Ti
N
Al
O
VIM steel
0.096
0.0006
0.10
0.44
8.07
2.0
0.21
0.036
0.0010
<0.002
0.0185
<0.002
0.0048
ESR steel
0.096
0.0009
0.09
0.44
8.20
2.0
0.20
0.019
0.0005
<0.002
0.0202
0.003
0.0027
った特徴があり,F82H IEA 鋼で観察されているような Ta
T 方向に採取し,ハーフサイズの 2 mmV ノッチシャルピー
系酸化物の低減が期待できる.酸化物や介在物の無い高清浄
試験片(L55 × w5 × t10 )に加工し試験に用いた.脆性破壊し
度鋼を製作するためには,一次精錬の真空誘導溶解( Vacu-
た破断材について FE SEM および EDS 分析を用いて破断
um Induction Melting: VIM)時に介在物の少ない鋼を製作す
面組織解析を行った.
ることが重要である. F82H IEA 鋼に確認されている酸化
物には Ta が関与していることから, Ta 添加前に脱酸が十
分に行われていれば Ta 系酸化物の生成を抑えることができ
ると考えられる.複合酸化物の生成を抑えるためには Ti を
実
3.
3.1
験
結
果
微細組織観察
可能な限り低減することが必要である4).そこでエレクトロ
Fig. 1(a)~(b ),Fig. 2 (a )~(b)に VIM 鋼中と ESR 鋼中
スラグ再溶解に用いる真空誘導溶解鋼(VIM 鋼)の製作にお
に観察された介在物の二次電子像を示す.VIM 鋼中からは
いては,Ti の混入を防ぎ,強脱酸剤の Al で脱酸を十分に行
F82HIEA 鋼で観察されている Ta 酸化物または複合酸化物
った後に Ta を添加し溶製した.ここで, Al の添加は低放
が観察された.一方,ESR 鋼中からは Al2O3 と MnS の複合
射化の観点から必要最小限に抑える必要があるため注意し
介在物(Fig. 2(a))や MnS(Fig. 2(b))などの介在物が観察さ
た.この VIM 鋼を電極としてエレクトロスラグ再溶解を
れた. VIM 鋼中でも MnS は観察されているが,こちらで
し,エレクトロスラグ再溶解鋼(ESR 鋼)を得た.これらの
は単体ではなく酸化物に付着するように析出している(Fig.
組 成 を Table 1 に 示す . 熱 処 理 は 焼 き 入れ 1040 °
C×1 時
1 (b )).Fig. 3 (a )~(b )に VIM 鋼と ESR 鋼中の介在物の粒
間,焼き戻し 740°
C×1.5 時間とした.
子分布を示す.VIM 鋼には 1 mm 程度の Ta 酸化物や,2~3
2.2
mm の複合酸化物が析出しているが, ESR 鋼中には 1 ~ 2
微細組織観察
mm 程度の球状 Al2O3 と,わずかな MnS が分布しており,
試験片の表面を# 2000 までエメリー紙で湿式研磨および
エレクトロスラグ再溶解により Ta を含んだ酸化物を除去で
0.06 mm の Al2O3 粉末を用いたバフ研磨を施し鏡面に仕上げ
きることがわかった.また, ESR 鋼中には比較的大きな
た.それらを析出介在物を分解せずに金属マトリックスだけ
Al2O3 ( > 4 mm ) が あ る が , こ れ は 球 状 で は な い こ と か ら
溶解し析出介在物を抽出できる SPEED Method(定電位電解
Al2O3 粒子が多数凝集した Al2O3 クラスタであると考えられ
エッチング法)にてクーロン量 2.5 C/cm2,電位-200 mV と
る.Fig. 4 ( a )~(c)に ESR 鋼の鋳塊時の Top, Middle, Bot-
設定し, A 液( 10 アセチルアセトン, 2 テトラメチルア
tom 位置に相当する介在物の分布と,主要な組成分析値を示
ンモニウムクロライド,メチルアルコール)を用いエッチン
す.介在物は Al2O3 が主で,分布形態に偏りは無かった.組
グを施した.
成についても VIM 鋼と比べて変化が大きかった Ta, S, Cr
ミクロ組織観察は,衝撃試験片採取位置と同じ板厚の 1 /
4t 付近を対象に,Ta 酸化物,複合酸化物に注目し行った.
後方散乱電子( BSE )モードでは原子量の大きい原子が強い
コントラスト(白色)を示すことから,原子量の大きな Ta
(180.9)を含む介在物を特定し,EDS 分析により個々の介在
物の化学組成分析を行った.
等はほぼ同じ値を示したことより,均質に精錬されているこ
とが推測された.
3.2
衝撃特性
Fig. 5 にシャルピー衝撃試験の結果を示す.吸収エネル
ギーの値はどちらの鋼とも同じような比較的なだらかな曲線
エレクトロスラグ再溶解の均質性を調べるため, ESR 鋼
を 描 い て お り , 延 性 脆 性 遷 移 温 度 ( DBTT ) も ESR 鋼
の鋳塊時の Top, Middle, Bottom に相当する位置について
(- 54 °
C ), VIM 鋼(-38 °
C )の間で大きな向上は見られなか
介在物の分布と,主要な構成元素の組成分析を行った.介在
った.しかし,- 80 °
C 付近の結果を比較すると ESR 鋼は
物の分布測定は基本観察視野を 0.0427 mm2 とし,介在物を
VIM 鋼にみられるようなバラツキはみられず,比較的まと
1 個 1 個 EDS 分析をしながら判別し,合計 0.854
の範
まった結果を示した.Fig. 6(a)~(d)に試験後の-80°
C 付近
囲を測定を行った.径が 0.3 mm 以下の介在物については
で脆性破壊した破断面の SEM 観察結果を示す. VIM 鋼で
mm2
EDS 分析がマトリックスの影響を受けるため正確な結果を
は F82H IEA と同じ Ta 酸化物や複合酸化物が破壊の起点
得ることができないことから,それらの介在物の測定は行っ
に観察された.一方, ESR 鋼の破壊の起点には母材で観察
ていない.なお, VIM 鋼と比較に用いたのは Bottom に相
されたような MnS と Al2O3 の複合介在物が確認されたが,
当する部分である.
-100°
C の破断面からは観察されなかった.これらのことか
2.3
シャルピー衝撃試験
シャルピー衝撃試験に用いた試験片は板厚の 1/4t から L 
ら,エレクトロスラグ再溶解によって破壊の起点となりうる
介在物が減少したため(Fig. 3(a), (b)),VIM 鋼よりもバラ
ツキが見られなかったと考えられる.
178
日 本 金 属 学 会 誌(2008)
第
72
巻
Fig. 1 SEM micrographs of (a) composite oxide TaOx
Al2O3, and (b) a single phase oxide TaOx in VIM steel, and typical EDX
spectra obtained from these regions.
Small particles observed along with oxides are M23C6, which are the major precipitates of the steel.
Fig. 2 SEM micrographs of (a) composite inclusion MnS
Al2O3, and (b) a single phase inclusion MnS in ESR steel, and typical
EDX spectra obtained from these regions.
比 べ Ta ( VIM: 0.036 mass  → ESR: 0.019 mass  , 以 下
考
4.
4.1
察
構成元素に及ぼすエレクトロスラグ再溶解の影響
VIM → ESR とす る)や B ( 10 → 5 ppm )が 半減 し , S ( 6 → 9
ppm ), Cr ( 8.07 → 8.20 mass ), Al (< 20 → 30 ppm )がわず
かに増加した(Table 1).Ta 元素の減少は微細組織観察,介
エレクトロスラグ再溶解により Ta を含んだ酸化物を低減
在物の分布変化から(Fig. 1, 2, 3),エレクトロスラグ再溶解
することが可能であることが判明した.しかし, VIM 鋼と
時に Ta を含む酸化物が Ta ごと溶融スラグに取り込まれた
第
3
号
低放射化フェライト鋼における介在物と衝撃特性に及ぼすエレクトロスラグ再溶解の影響
Fig. 3
179
Size distribution of the inclusions in (a) VIM steel and (b) ESR steel.
Fig. 4 Size distribution of the inclusion and chemical composition in the several positions of ESR ingot. (a) Top, (b) Middle, (c)
Bottom.
ためと考えられる.一方, Al などの酸素と親和力の大きな
元素はスラグ等の溶解条件に影響をされやすいことから6),
Al の微量な増加は溶融スラグから還元した可能性が考えら
れる.しかし,Al は VIM 鋼にも複合酸化物の一部として形
成しているため,スラグから還元したものなのか,複合状態
から分離したものなのかは定かではない.一方で,S などの
不純物元素は,本来エレクトロスラグ再溶解で低減すること
を得意としているはずであり6),今回のようにわずかに増加
した(S: 6 →9 ppm )原因は不明である.また,これら元素の
増減は鋼全体にわたっているため(Fig. 4)偏析しているとは
考えにくく,再融解による現象であると考えられる.よって
これら元素の微量変化の要因をさらに詳しく調べることは今
後 ESR 処理を適用していくためには重要であると考えられ
Fig. 5 Relationship between test temperature and absorbed
energy of VIM and ESR steels.
る.
180
日 本 金 属 学 会 誌(2008)
第
72
巻
Fig. 6 SEM micrographs of inclusions at the brittle fracture surface of VIM and ESR steels. (a) -90°
C and (b) -100°
C are the
C and (d) -120°
C are the area of ESR steel.
area of VIM steel. (c) -80°
4.2
衝撃特性への影響
衝撃特性については, DBTT はあまり低下しなかった
( Fig. 5 ).この理由としては母相中にも観察された MnS と
去することは可能であるが,代わりに再溶解によって Al2O3
や MnS が生成された.さらに Ta, S, Cr, Al, B などの組成が
増減したが,介在物や組成は均一に分布しており,全体的に
均質な鋼を得ることができた.
Al2O3 の複合酸化物が衝撃破壊の起点に観察されていること


一方, DBTT は大きな改善はみられなかった.これ
から,少なくともこれらの介在物が衝撃特性に影響を及ぼす
は,ESR の過程で生成された Al2O3 や MnS などの介在物の
可能性があると考えられる. MnS は酸化物を核として析出
影響があると考えられる.しかしながら,エレクトロスラグ
してくることが知られており7),実際,VIM 鋼には Ta 酸化
再溶解により介在物が VIM 鋼とくらべて減少したことによ
物に付着する形で生成されている( Fig. 1 ( b )).エレクトロ
り,脆性領域(- 80 °
C 付近)における吸収エネルギー値のバ
スラグ再溶解には Ta 酸化物が除去され鋼中に Al2O3 のみに
ラツキは少なくなった.
なったことから, MnS は Al2O3 を核として複合介在物を形
成したものと考えられた.つまり,Al2O3 の混入をいかよう


今後エレクトロスラグ再溶解を施し良好な衝撃特性持
つ鋼を製作するためには,溶融スラグ等から Al2O3 の混入を
にして防ぐことがエレクトロスラグ再溶解をうまく作用させ
防ぐことで Al2O3 を低減し, MnS 系介在物の生成を抑える
るために必要であると考えられる.一方で,破壊の起点とし
ことが必要であると考えられる.
て観察された介在物はこの一つだけであったことから,少な
くとも破壊の起点になるような介在物は確実に減少している
文
献
のも忘れてはならない.
ま
5.
と
め
F82H 組成で真空誘導溶解した VIM 鋼と,VIM 鋼にエレ
クトロスラグ再溶解した ESR 鋼について,微細組織観察,
シャルピー衝撃試験を行い比較することで F82H 鋼に対す
るエレクトロスラグ再溶解の精錬効果と衝撃特性に及ぼす影
響を調査することで以下のことが分かった.


真空誘導溶解時に生成された Ta 酸化物や Ta 酸化物
と Al2O3 の複合酸化物は,エレクトロスラグ再溶解により除
1) A. Kohyama, Y. Kohno, K. Asakura and H. Kayano: J. Nucl.
215(1994) 684.
Mater. 212
2) H. Tanigawa, A. Sawahata, M. A. Sokolov, M. Enomoto, R. L.
Klueh and A. Kohyama: Mater. Trans. 48(2007) 570.
3) K. Donghyun: Collected Abstracts of the 2007 Autumn Meeting
of the Japan Inst. Metals (2007) 446.
4) K. Shiba, M. Enoeda and S. Jitsukawa: J. Nucl. Mater.
329(2004) 243.
5) A. Sawahata, H. Tanigawa, K. Shiba and M. Enomoto: J. Japan
Inst. Metals 71(2007) 244.
to
Hagane 13(1977) 54.
6) K. Narita: Tetsu
7) Y. Ueshima, H. Yuyama, S. Mizoguchi and H. Kajioka: Tetsu
to
Hagane 75(1989) 501.
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