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(D大阪簡判平成15年10月16日(兵庫県弁護士会ホームページ)
(事案)
6ケ月間入居した物件を解約したところ、本件賃貸借契約の特約に基づき、
敷金40万円のうち30万円を差し引かれた賃借人が、敷金の返還を求めた。
(判決の内容)
契約書(甲5)及び重要事項説明書(乙1)には、敷引金額が記載されてい
るだけで、その趣旨や内容は明示されておらず、契約締結にさいし、口頭でそ
の説明があったことも伺われない。さらに原告は個人として契約したものであ
り、途中解約は転勤というやむを得ない事情によるものであること、入居期間
は約6か月に過ぎず、原告の責めに帰すべき本件物件の損傷はなく、自然損耗
もほとんど考えられないことなど本件特有の事情が認められ、途中解約によっ
て、害される被告の将来の家賃収入に対する期待は、次の入居者を見つかるこ
とで容易に回復可能であることを考慮すれば、本件の場合、前記2①②の趣旨
で設定された敷引特約を個人契約者である原告にそのまま適用し、保証金の7
月パーセントもの敷引きを行うことは、当事者間の信義衡平に照らし、相当で
したがって、
はない
個人契約者である原告に対して、個人契約者(消費者)
に対しても入居期間の長短に係わらず一律に保証金40万円のうち30万円
を差し引くこととなる前記敷引特約は、この限度で、民法及び借地借家法等の
国連法規(判例、御
よる場合に比し、消費者の権利を制限し、義務を加重する条項であって、信義
則に反して消費者の利益を一方的に害する条項であるといえるから、消費者契
約法10条により無効である。
②京都地判平成16年3月16日(最高裁判所ホームページ)
(事案)
原告が、被告Aに対し、原告と同被告との間に建物賃貸借契約の終了及び建
物の明渡しを理由に、敷金20万円及びこれに対する第1事件の訴状送達の日
の翌日である平成14年11月30日から支払済みまで民法所定年5分の割合
による遅延損害金の支払いを求めたところ、同被告は、原状回復特約に基づく
原状回復費用を控除すると返還すべき敷金はないこと及び原告は建物明渡しの
際に原状回復費用を控除すると返還すべき敷金はないことを了解したと主張し、
これに対し、原告は上記原状回復特約は無効であると主張するとともに、、上記
了解を否認した。
(判決の内容)
① 賃貸借契約が終了したときは、斬をければならな
賃貸期間中の使用収益により目的物に物理的変化が生じることは避
けられ畔糾こより定められた
盟主地主重電史
目的物を返還すれば足りるといえる。
したがって、本件原状回復特約は貸借人の目的物返還義務を加重するも
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のといえる。
@ 本件原状回復特約が貸借人の利益を一方的に害するものか否か検討する。
ア 本件賃貸借契約書では賃料には原状回復費用は含まないと定められて
いるから(争いのない事実(1)③のなお書き)、原状回復費用を賃借人
の負担とする合意は、賃料の二重取りにはあたらないから、契約自由の
原則により、合意どおりの効力を認めてよいとの見解も考えられる。
しかし、貸借人が賃貸借契約の締結にあたって、明渡し時に負担しな
ければならない自然損耗等による原状回復費用を予想することは困難で
あり(したがって、本件のように賃料には原状回復費用を含まないと定
められていても、そうでない場合に比べて賃料がどの程度安いのか判断
することは困難である。)、この点において、賃借人は、賃貸借契約締結
の意思決定にあたっての十分な情報を有していないといえる。また、本
件賃貸借契約のように原状回復費用の単価等が定められている場合であ
ってもーそのような定めがない場合はなおさら一具体的な自然損耗等の
有無、原状回復の要否又は原状回復費用の額は明渡し時でないと明らか
にならない。さらに、貸借人が自然損耗の有無等を争おうとすれば、敷
金返還請求訴訟を提起せざるを得ず、この点も賃借人にとって負担とな
る。
なお、本件のような集合住宅の賃貸借において、入居申込者は、賃貸
人又は被告B社のような管理会社の作成した賃貸借契約書の契約条項の
変更を求めるような交渉力は有していないから、賃貸人の提示する契約
条件をすべて承諾して契約を締結するか、あるいは契約しないかのどち
らかの選択しかできないことは明らかである。
イ これに対し、賃貸人は将来の自然損耗等による原状回復費用を予想す
ることは可能であるから、これを賃料に含めて賃料額を決定し、あるい
は賃貸借契約締結時に賃貸期間に応じて定額の原状回復費用を定め、そ
の負担を契約条件とすることは可能であり、また、このような方法をと
ることによって、貸借人は、原状回復費用の高い安いを賃貸借契約を締
結するかどうかの判断材料とすることができる。
ウ 以上の点を総合考慮すれば、自然損耗等による原状回復費用を賃借人に
負担させることは、契約締結に当たっての情報力及び交渉力に劣る賃借
人の利益を一方的に害するものといえる。
③ 以上によれば、本件原状回復契約は消費者契約法10条により無効である
と解するのが相当である(本件原状回復特約が民法90条により無効か否か
を判断する必要はない。)。
③京都地判平成16年6月11日(兵庫県弁護士会ホームページ)
(事案)
建物賃貸借契約の終了後、原告が敷金20万円の返還とこれに対する訴状送
達の日の翌日から支払済まで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた
のに対し、被告が、同賃貸借契約には、通常の使用方法に伴う自然の損耗を含
めて、貸借人の負担で契約開始当時の原状に回復する旨の特約がある等として、
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敷金からの原状回復費用の控除又は原状回復費用請求権と敷金返還請求権と
の相殺を主張して争った。
(判決の内容)
(ア)消費者契約法10条は、消費者契約の条項が、①民法、商法その他の法
律の任意規定によれば消費者が本来有しているはずの権利を特約によって
制限し、又は任意規定によれば消費者が本来果たすべき義務を特約によっ
て加重している場合であって、かつ、②当該条項の援用によって、民法1
条2項に規定する基本原則である信義誠実の貞則に反する程度に一方的に
消費者の利益を害する場合に、当該条項を無効とするものである。
これを本件について検討するに、貸借人は賃貸人に対し、貸借物を善良
な管理者の注意を持って保管する義務を負い(民法400条)、賃貸借契担
が終了した場合、賃借人は、貸借物をその負担において、引渡を受けた当
時の原状に回復して賃貸人に返還する義務(原状回復義務)を負う(民法
616条・59
上記原状回復義務の範囲は、貸借人が付加した造作等の除去義務のほか、
通常の使用の限度を超える方法により賃貸目的物の価値を減耗させた場合
の復旧義務及び貸借人の故意過失により賃借物を穀損・汚損した場合の債
務不履行による損害賠償義務(民法415条)等に及ぶが、他方、真壁週
間中の経年劣化による減価分は、賃貸人の負担に帰すべきものであって賃
借人が負担すべき理由はないし、賃貸借契約で予定されている通常の利用
に卿
きものであって、その減価を賃料以外の方法で賃借人に負担させることは
できないというべきである。
したがって、本件特約は、民法の任意規定による賃借人の目的物返還義
務を加重するものといえる。
(イ)次に、本件特約における上記義務の加重の程度が信義則に反するほど消
費者の利益を一方的に害するものであるか否かについて検討する。
前記認定のとおり、本件特約は、賃借人の原状回復義務の発生要件とし
て、「明渡しの際に賃貸人が本件貸室の検査を行った結果、賃貸人が畳・襖・
クロスその他内装設備の修理・交換・清掃の必要があると認めて貸借人に
通知した場合」と定めているところ、かかる基準は、原状回復の要否の判
断を、専ら賃貸人に委ねている点で、客観性を欠き、公平の観点から均衡
を失するものというべきでぁる。
また、本件特約は、賃貸人が貸借人に代わって原状回復を実施した場合
に賃借人が負担すべき費用の額については、別紙復元基準表の単価欄記載
の金額に基づき算出するものと定めているが、同単価のうち、同表No.23
ないし37、48ないし坤
と、瑚各(単価)の増減があ
るものとする。」と定められており、結局、貸借人において負担すべき金額
を予想することが著しく困難であると言わざるを得ない。
以上の事実に加えて、醐て、
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入居申込者は、賃貸人側の作成した定型的な賃貸借契約書の契約条項の変
更を求めるような交渉力は有していないから、賃貸人の提示する契約条件
をすべて承諾して契約を締結するか、契約を締結しないかの選択しかでき
ないこと、他方、賃貸人には、将来の自然損耗等による原状回復費用を予
測して賃料額を決定するなどの方法を採用することが可能であることを考
慮すると、他方において、 本件賃貸借契約では、権利金等のいわゆるとり
きりの一時金の授受がないことや、賃料が比較的低額であり、自然損耗の
よる減価分が必ずしも反映されていないとする余地があることを考慮して
もなお、本件特約は、原状回復義務の発生要件及びその具体的内容につい
て客観性、公平性及び明確性を欠く点において、信義則に反する程度に消
費者の利益を一方的に害するものと認められ冬。
(ウ)したがって、本件特約は、消費者契約法10条により無効と解すべきで
ある。
⑤大阪高判平成16年12月17日(判例時報1894号19貢)
(事案)
賃貸マンションの解約時にクロスの汚れなどの自然損耗分の原状回復費用
を借主に負担させる特約を理由に、敷金を返還しないのは違法として、家主に
敷金20万円の返還を求めた。
(判決の内容)
民法四八三条は、債権の目的が特定物の引渡なるときは弁済者はその引渡を
為すべき時の原状にて其の物を引き渡すことを要すとし、四00条は、債権の
目的が特定物の引渡なるときは債務者はその引渡を為すまで善良なる管琴者
の注意を以て其の物を保存することを要すとし、六一六条の準用する五九四条
は、借主は契約又は其の目的物の性質によりて定まりたる用法に従い共の物の
使用及び収益をしているから、民法は、賃貸借契約の−終了に際し、借主は契約
又は其の目的物の性質によりて定まりたる用法に従い共の物の使用及び収益
をしている限り、返還すべき時の現状にて共の物を引き渡すべきであり、善良
なる管理者の注意義務に違反した場合には損害賠償等一定の責任が生じるが、
原状回復義務を負わないと規定しているといえ、判例も同趣旨と解される(最
判昭和二九年二月二日民集第八巻第二号三二→貢、同年一一月一八日裁判集民
事一六巻五二九貢)。また、同法六一六条の準用する五九四条は、借主の収益
嘩を規定しているのであって、義務に言及したものでないことは明文上明らか
である。なお、原状回復義務を負うとの学説もあるが、根拠は示されていない。
本件原状回復特約は、自然損耗等についての貸借人の原状回復義務を約し、
貸借人がこの義務を履行しないときは賃借人の費用負担で賃貸人が原状回復
義務を約し、賃借人がこの義務を履行しないときは賃借人の費用負担で賃貸人
が原状回復できるとしているのであるから、民法の任意規定の適用による場合
に比し、貸借人の義務を加重していることは明らかである。
イ 前記のとおり、本件原状回復特約により自然損耗等についての原状回復費
用を貸借人に負担させることは、貸借人の二重の負担の問題が生じ、賃貸人
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に不当な利得を生じさせる瑚にも庭±
星。
そして、本件原状回復特約を含む原状回復を定める事項は、退去時、住宅
若しくは付属設備に模様替えその他の変更がある場合、
査の結果
畳、障子、襖、内壁その他の設備を修理・取り替え若しくは清掃の必要があ
ると認めて貸借人に通知した場合には、自然損耗も含み、本件建物を賃貸開
始当時の原状に回復しなければならないとされており、賃
人が一方的に必
要があると認めて賃借人に通知した場合には当然に原状回復義務が発生す
る態様となっているのに対し、賃借人に関与の余地がなく、賃借人に一方的
に不利益であり、信義則にも反する。
また、居住目的の建物賃貸借契約において、消費者貸借人と事業者賃貸人
との間では情報力や交渉力に差があるのが通常であり、本件において、賃貸
借契約書(甲−)調印の際に交付された原状回復等に関するご連絡という文
書(乙一)の内容は、別紙のとおりであるところ、これによれば、原状回復
すべき内容を冷暖房、乾燥機、給油機等の点検、畳表替え、ふすま張り替え
などと具体的に掲げ、賃貸人が原状回復した場合の貸借人の費用負担額の基
礎となる費用単価を明示し、さらに、敷金と原状回復費用とを差引計算して
返還するものであ
なる場合もあることが指摘されているが、本件原状回復契約による自然損耗
等についての原状回復義務負担の合意及び賃料に原状回復費用を含まない
との合意に閲し、五万五000円という賃料額が従前の賃借人の負担した自
然損耗等についての原状回復費用を含めたものか否か(控除したか否か)と
か、これを含めたもの(控除しないもの)とすると考えられる本件の場合、
事後的に退去時に発生する原状回復費用をどのように賃料に含ませない(控
除する)こととするのか、原状回復の内容をどのように想定し、費用をどの
ように見積もったのか、とりわけ、自然損耗等についての原状回復の内容を
どのように想定し、費用をどのように見積もったのか等については、賃借人
に適切な情報が提供されたとはいえない。
したがって、貸借人は、敷金二○万円、賃料五万五000円という各金額
を前提に、本件原状回復特約による自然損羊毛等についての原状回復義務を負
担することと賃料に原状回復費用を含まないこととの有利、不利を判断し得
る情報を欠き、適否を決することができない。
このような状況でされた本件原状回復特約による自然損耗等についての
原状回復義務を負担することと賃料に原状回復費用を含まないこととの有
利、不利を判断し得る情報を欠き、適否を決することができず、貸借人に必
要な情報が与えられず、自己に不利益であることが認識できないままされた
ものであって、賃借人に「方的に不利益であり、信義則にも反する。
したがって、本件原状回復特約は信義則に反して貸借人の利益を∵方的に
害するといえる。
控訴人は本件原状回復特約が合理性を有して公平である旨を種々主張す
るが、自己が自然損耗等についての原状回復費用を出指しないまま、自然損
耗等についての原状回復費用に相当する分の二重負担という態様で賃借人
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に原状回復義務を負わせ、貸借人の損失の下に実現する合理性、公平性であ
って、同主張は、信義則に反し、正当なものといえない。
り よって、本件原状回復特約、即ち、自然損耗等についての原状回復義務を
貸借人が負担するとの合意部分は、民法の任意規定に適用による場合に比し、
貸借人の義務を加重し、信義則に反して貸借人の利益を一方的に害しており、
消費者契約法一○条に該当し、無効である。
⑥大阪高判平成17年1月28日(兵庫県弁護士会ホームページ)
(事案)
通常の使用に伴う自然損耗分も含めて貸借人の負担で契約開始当時の原状
に回復する旨の特約のある建物賃貸借契約の解約に際し、当該契約が無効であ
るとして敷金の返還を求めた。
(判決の内容)
(イ)しかしながら、貸褒借契約において、賃貸人は、賃貸物を、貸借人に使
用収益させる義務を負い、その対価として、貸借人から、賃料の支払いを受
けるところ(民法6,01条)、建物の賃貸借の場合、貸借人が建物を通常利
用し、使用収益することによって、建物に、経年劣化を含めて、自然損耗が
生じることは明らかであるから、賃貸人がこのような損耗による負担を受け
ることは、賃貸人が貸借人に賃貸物を使用収益させる義務に含まれると解釈
推そうすると、賃貸人である控訴人が負担すべき本件貸室の自然損耗
分の原堪回復費錮
1条の規定に比して、消費者である被控訴人の義務を加重し、被控訴人に不
利益なものであるということができる。
⑧大阪地判平成17年4月20日(兵庫県弁護士会ホームページ)
(事案)
原告は、建物(共同住宅の一室)を披告から賃借し約11ケ月を経過して建
物を明け渡したので、貸貸借契約の終了に伴い、保証金(敷金)からペットに
よる損耗の補修費を差し引いた金額とこれに対する訴状送達の日の翌日から
の遅延損害金の支払を求めた。
(判決の内容)
本件敷引特約の内容は、上記の認定のとおりであり、保証金り8旦パナセン
トにも及んでいること、入居者の入居期間の長短にも関わらず一律に保証金5
00、000円から400、000円を差し引いていること、本件敷引特約の
趣旨が、被告の主張のとおり、通常損耗部分の補修費に充てるためのものであ・
るとしても、補修費に比較してその金額が大きく本件敷引特約の趣旨を逸脱し
ていると考えられることからすると、本件敷引特約は、消
約法10条の
民法の公の秩序に閲しない規定(民法601条、606条)の適用の場合に比
し、消費者である貸借人の義務を加重する条項に該当し、かつ、信義貝射こ運筆
することになる。
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しかしながら、関西とりわけ京阪神地方においては賃貸借契約終了時に敷金
の2ない.し3割を控除して敷金を返還するという慣行が存在し、控除される金
員が敷引である。家主は敷引をもって入居者の入替えに伴う修繕費用や空室損
料に充てるものとされている(甲23)。この慣行は、敷金の額が相当で、賃
料額が敷引を考慮して適正額に抑えられている限り、長年の慣行であることか
ら必ずしも不当とはいえない。したがって、本件敷引特約条項の全部を無効と
するのは、当事者の合理的意思に反するものと考えられる。(原告は、本件敷
引特約の趣旨の説明は受けていないが、本件敷引特約自体が存在し、賃貸借契
約の解約時引金が400、000円であることを知っていた(甲26、乙1、
弁論の全趣旨)。)。本件において、被告の主張、上記慣行等をも考慮すれば、
本件敷引特約の趣旨を通常損耗部分の補修費に充てるためのものとみるのが
相当であり、保証金(敷金)の額、敷引の額、賃料額、賃貸物件の広さ、賃貸
借契約期間などを総合考慮して、敷引額が適正額の範囲内では本件敷引特約は
有効であり、その適正額を超える部分につき無効となるものと解する。既に認
定したところから、本件においては、保証金(敷金)500、000円、敷引
の額400、000円、賃料月額70、000円、共益費月額10、000円、
本件物件の間取りは2DKで床面積が約45平方メートル(乙1)、賃貸借契
約期間2年ということになっている。また、被告が賃貸している別室である4
01号室の補修費は111、800円とされている(乙6)。2年間の賃貸借
契約の間に通常損耗分の補修費として必要な額は、本件物件の広さ、別室であ
る401号室の補修費の額、敷金の額などからみてせいぜい保証金(敷金)の
2割に該当する100、000円とみるのが相当である。したがって、杢盤整
引特約のうち、解約時引金400、000円のうち100、000円を超える
300、000円については、本件敷引特約の趣旨を逸脱し無効となる。した
がって、被告は、原告に対し、保証金(敷金)500、000円のうち100、
000円を差し引いた400、000円を返還すべきである。
⑨神戸地判平成17年7月14日(判例時報1901号87貢)
(事案)
7ケ月居住していた建物を退去した際に、敷引特約があることを理由に保証
金(敷金)の返金を拒否されたこ敷金30万円のうち25万円(83.3%)
を差し引く敷引特約は消費者契約法10条により無効であるとして返還を求
めた。
(判決の内容)
賃貸借契約は、賃貸人が賃借人に対して目的物を使用収益させる義務を負い、
賃借人が賃貸人に対して目的物の使用収益の対価として賃料を支払う義務を
負うことによって成立する契約であり(民法601条)、賃貸目的物の使用収
益と賃料の支払いが対価関係にあることを本質的な内容とするものである。そ
して、民法上、賃借人に賃料以外の金銭的負担を負わせる旨の明文の規定は存′
しない。そうすると、民法において、貸借人が負担する金銭的な義務としては、
賃料以外のものを予定していないものと解される(ただし、賃借人に債務不履
60
行がある場合は、別である)。また、学説や判例の集積によって一般的に承認
された不文の任意法規や契約に関する一般法理によっても、敷引特約が確立し
たものとして「般由に承琴さ。
したがって、貸借人に賃料以外の金銭的負担を負わせる内容の本件敷引特約
は、賃貸借契約に関する任意規定の適用による場合に比し、貸借人の義務を加
重するものと認められる。
関西地区での不動産の賃貸借契約においては、敷金、保証金などの名目で一
時金の授受が行われた際、賃貸借契約終了時に敷金又は保証金から一定金額
(敷引金)を返還しない旨の合意(敷引契約)がされることが多い。この敷引
金の性質について、一般的には、(D賃貸借契約成立の謝礼、②賃貸目的物の自
然損耗の修繕費用、③賃貸借契約更新時の更新料の免除の対価、④賃貸借契約
終了後の空室賃料、⑤賃料を低額にすることの代償などと説明されている。
ところで、敷引金の性質について当事者の明確な意思が存する場合はともか
く、そのような明確な意思が存しない場合には敷引金の性質を特定のものに限
定してとらえることは困難であるから、その敷引金の性質は、上記①ないし⑤
などのさまざまな要素を有するものが津然一体となったものととらえるのが
相当である。
これを本件についてみるに、控訴人と被控訴人の間で、本件敷引金の性質に
ついて明確な意思が存するものでないので、本件敷引金の性質については、上
記(Dないし⑤などのさまざまな要素を有するものが揮然一体となったものと
解さざるを得ない。
(略)
以下、本件敷引金の性質として考えられる(Dないし⑤の各要素について検討
を加えた上、本件敷引特約が信義則に違反して賃借人の利益を一方的に害する
ものかどうかについて判断することとする。
イ 上記①ないし⑤の各要素の検討
(ア)(D賃貸借契約成立の謝礼
賃貸借契約成立の際、貸借人のみに謝礼の支出を強いることは、賃借人に
一方的な負担を負わせるものであり、正当な理由を見いだすことはできない。
そして、賃貸借契約は、賃貸目的物の使用収益と賃料の支払が対価関係に立
つ契約であり、賃貸人としては、目的物を使用収益させる対価として賃料と
は別に賃貸借契約成立の謝礼を受け取ることができないとしても、何ら不利
益を被るものではない。
(イ)②賃貸目的物の自然損耗費用
賃貸借契約は、賃貸目的物の使用収益と賃料わ支払が対価関係に立つ契約
であるから、目的物の通常の使用に伴う自然損耗の要する修繕費用は考慮さ
れた上で賃料が算出されているものといえる。そうすると、賃借人に賃料に
加えて敷引金の負担を強いることは、賃貸目的物の自然損耗に対する修繕費
用について二重の負担を強いることになる。これに対し、賃貸人は、賃料か
ら賃貸目的物の自然損耗の修繕費用を回収することができるのであるから、
別途敷引金を受け取ることができないとしても、何ら不利益を被るものでは
ない。
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