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フランス語構文型体系における無動詞文の位置づけ: 非動詞文分析序説

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フランス語構文型体系における無動詞文の位置づけ: 非動詞文分析序説
東京外国語大学論集第 85 号(2012)
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フランス語構文型体系における無動詞文の位置づけ:
非動詞文分析序説
敦賀 陽一郎
序論
1. フランス語の構文型体系
2. 非動詞文と外心構造
3. これ迄の非動詞文の取り扱い
4. 新聞社説のタイトルの事例
5. 文脈中の典型的な事例
結論
序論
伝統文法は勿論のこと構造言語学以後の種々の言語研究の流れにおいても,フランス語の文
構造分析は動詞を文の核とする動詞文を主たる対象として来た。しかも,動詞文は本質的に「主
辞名詞句-述辞動詞句」の 2 項(binaire)構成のものと捉えられて来ている。このような捉え
方は資料の実例を調査してみても裏付けられているといえる。つまり,「動詞文:2 項構成」
は他を圧倒しているからである。しかしながら,正に多少の資料に目を通すだけで分かること
ではあるが,動詞文以外の文構成が存在しないということではないし,この文構成はそんなに
稀有な訳でもない。また,上記の 2 項構成について反省させられる例も少なくないのである。
以下では,これらの非動詞的ではあるが,前後の文脈から独立している発話を非動詞文と呼
ぶことにする。問題は非動詞文をどのように取り扱うかということである。動詞文も非動詞文
も全体で一つの文構成体系を成立させている限り相互の密接な繋がりはあると考えざるをえな
い。つまり,文構成の根幹にある意味単位そして意味単位が所属する品詞の結合特性・可能性
(combinabilité)は動詞文においても非動詞文においても当然共通である。これを前提として非
動詞文をどのような観点から分析するか。動詞文とは違う構文特性は十分尊重されなければな
らない。そうすると,非動詞文を動詞文の単なる省略形とするような観方,構成を動詞文の構
成に全て還元するような観方は避けねばならないことになる。
動詞文においては動詞という品詞(クラス)が述辞機能に専門化された記号素クラスである
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フランス語構文型体系における無動詞文の位置づけ:非動詞文分析序説:敦賀
陽一郎
ので,述辞の認定が容易である。非動詞文においてはそのように専門化された記号素は存在し
ない。よく「名詞文」と呼ばれたりするのは,名詞対動詞の対立が目立ち名詞述辞が頻繁であ
ること,等が理由であろうが,非動詞文の述辞機能は名詞クラス以外の種々の要素が担うのは
実例を見れば分かることである。それでは,この非動詞述辞はどのように認定しうるであろう
か。先ず,文は従属関係の階層(ピラミッド)をなしていて,この頂点に述辞が位置すること
を思い出そう。この階層は前後の階層(=文)から独立している。つまり,文としての統辞的
独立性(indépendance)が形の上でどのように保証されているかということが問題になる。これ
があって初めて独立的な意味解釈も可能になるのであって,この逆ではないだろう。
当該の非動詞文の構成要素が前後の動詞文
(多くの場合)
の構成要素に依存していないこと,
これは独立性の消極的な要因である。これに加えて非動詞文そのものが動詞文の均質な一部を
構成しない形であったならば,動詞文に取り込まれることもないことになるであろう。これは
非動詞文の側からの独立性の積極的な構成ということになる。このような観点から,以下では
特に非動詞文とされるものの文構成の形式的特質を見極めるように分析を進めて行く。非動詞
文の構文的意味特性も正にそこから生じて来るのである。
先ず,非動詞文と動詞文との関係を見るためにフランス語の構文型体系の全体を概観する。
1. フランス語の構文型体系
構文型には色々なレベルのものが考えられるが,主たるものは述辞(prédicat)を核(noyau)
として構成される文(phrase)の構文(construction)の型,つまり文型(types de phrase;英 sentence
pattern)である。文型は文を構成する特徴的な構成要素の組合せにより決まる。
特徴的な構成要素とは何であろうか。フランス語の述辞の主たるものは動詞(verbe)である
ので,伝統的には動詞述辞を特徴付ける構成要素ということになる。動詞が述辞として機能す
るのは活用している場合が基本なので,活用した動詞の周りに直接的に組織される要素(一次
機能 fonction primaire)を見てみよう。(Cf. これらの一次機能を修飾する要素,あるいは更に
それらを修飾する下位の要素は述辞動詞の下位分類には直接的には関係しない。これらは非一
次機能(fonction non primaire)なものである。)
1.1. 構文型の特徴づけ
ここで,個々の構成要素の検討の前に,「動詞述辞を特徴付ける」ということの本質的意味
を問うておくことが必要である。例えば,以下でも取り上げる分かり易い例の Luc pense à Léa
で,間接目的 à Léa は動詞 penser の構文を特徴付けると言える。しかし,これが penser という
個々の語彙の特徴づけに終わるのならば,統辞構造体系への発展・まとまりはありえないので
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はなかろうか,というのが我々の基本的考えである。
(Cf. この点については MARTINET (1979)
の特有機能(fonction spécifique),HARRIS (1963),SALKOFF (1973) の objet と比較のこと。)
à Léa は rêver à Léa, obéir à Léa, appartenir à Léa,等をも特徴づけ,これらは「V-àN」とされる一
下位クラスを構成する限りにおいて動詞構文体系に参与するということである。つまり,語彙
の個別の特徴づけはあくまでもグループを構成することにより統辞構造の一端を担うというこ
とである。一見個別の語彙的意味が通信・伝達に直接的に働いているように考えがちだが,語
彙は統辞構造の中で働くことによってのみ存在意義があるのである。言語の二重分節による定
義の第一次分節(première articulation)の統辞的存在意義がこれである。以下の分析はこの基本
構想に基づく。
1.2. 主辞機能 sujet と直接目的機能 objet direct(Luc aime Léa):位置依存要素
先ず,頻度の上からも,人称構文を考えるべきであろう。すぐ目に付くのは主辞機能(Luc
chante)であるが,主辞機能は原則的に必須であり,必須項は実は動詞構文の下位クラスの特
徴づけには役立たないことになる。ところが,フランス語の文構成の全てに主辞機能がある訳
ではないので主辞機能も結局は形からしても極めて明確な特徴項であることになる。主辞機能
が特徴付ける下位クラスはかなり大きなものとなるのは確かである。しかし,N’importe, Voici
un livre, Quelle question !, Et Luc de partir, 等の文と比較すると主辞が特異な機能であることは明
らかである。この点は以下を参照。
次に伝統的にも話題になるのは目的項(objet)である。目的項には直接(Luc aime Léa)と間
接(Luc obéit à Léa)がある。間接は機能指示詞(前置詞や従属接続詞)がついたものである。
ここで厳密化する必要があるのは,むしろ「直接」の概念であろう。「直接的要素」という
のは,簡単に言うと,名詞句相当ということになろう。しかし,伝統的にも構造統辞論,その
他においても,この「名詞句相当」は明示化されたことはない。MARTINET (1960) の機能統
辞論(基本的に我々もこれに則る)の考えでは,これは「位置依存辞 dépendant positionnel」と
も言うべき要素である。これはその関係的記号内容(signifié relationnel)に他を修飾するものを
積極的には含んでいないような要素である。典型は名詞である。(Cf. 関係的記号内容は品詞
(partie du discours)の根本特徴をなす。)分かり易い例を挙げると,例えば,形容詞はその品
詞特徴として「名詞を限定・修飾するという積極特徴」を含んでいる。名詞クラスの品詞特徴
にはこのような「積極的限定特徴」は含まれていなくて,他との関係構成に当たって,その相
対的位置が重要になるということである。
このような「位置依存的要素」は,より実際的な選別基準を挙げるならば,「フランス語の
何らかの動詞の前後において主辞機能も直接目的機能も担える形」,ということになる(更に
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遡る基準として je, tu, il, nous, vous, ils; me, te, le, la, nous, vous, les などを挙げてもよい)。これは
具体的には次の 6 つの形である。
1. 名詞句
(N : Luc aime Léa)
,
2. 不定詞
(Vinf : Luc aime chanter)
,
3. de つき不定詞(deVinf : Luc décide de chanter),4. que つき節(queV : Luc aime que Léa chante),
5. 直接話法名詞句(DD (discours direct) : Luc dit : « Je chante. »),6. 間接話法名詞句(DI (discours
indirect) : Luc ne sait pas si Léa chante)。勿論,実際にこれらの形が主辞または直接目的として
機能しうるのは,個々の動詞次第であるのは言うまでもない。(Cf. 例えば,動詞 manger の主
辞機能や直接目的機能となりうるものは名詞句以外では難しいだろう。間接話法名詞句の DI
が主辞となる場合もかなり限られているであろうことも付加えておく。)3 と 4 の de, que は典
型的な前置詞と従属接続詞であるが,これらが名詞句相当を構成する場合は「他を積極的に限
定する能力の付与」には寄与していない「位置依存辞化子(positionnalisateur)」と見なしてい
る。つまり,これが付くことにより名詞句性が際立ち,むしろ相対的位置が重要になるのであ
る。
上で,特有機能としての直接目的は多少明確化されたであろう。このような直接目的を取る
動詞はフランス語では数多いが,かなりはっきりと下位クラスを限定できる。
主辞機能は不可欠であること,
主辞機能も直接目的機能も形の制限が明確であることがあり,
両特有機能の認定は一般的に容易である。
1.3. 間接目的機能 objet indirect(Luc traite de ce problème, Luc pense à Léa, Luc croit en Léa,
等):自律化連辞
位置依存辞以外のものには次の二種類のものがある。a. 機能指示詞がつくことにより他を明
確に限定することになる自律化連辞(syntagme autonomisé),b. 関係的記号内容が積極的に他
を限定するような形容詞や副詞のような自律記号素(monème autonome)。時制(temps)や法
(mode)や冠詞(article)は関係的記号内容が他を積極的に限定するものであるが,一種の記
号素クラスしか限定しないので様態辞(modalité)として自律記号素とは区別されるが,ここで
は一まとめにしておいてよい。動詞様態辞(modalité verbale)と名詞様態辞(modalité nominale)
が認められるが,これらは典型的に非特有機能を持つ(それぞれ全動詞,全名詞を限定する)。
特有機能として,主辞,直接目的の次に来るものは間接目的機能である。これには機能指示
詞(前置詞,等)がつくので認定が難しくなる。つまり,機能指示詞が介入することにより他
要素との結合がより複雑になる(緩くなる)のである。
端的には,非特有機能である状況補語(complément circonstanciel)との区別が問題になる。
実際のところ,この区別は伝統文法は勿論のこと,構造統辞論や生成文法,等,文構成を扱う
場合には常に問題となる一番本質的な問題であるが,これまで徹底的に追求されることがなか
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った問題である。
この問題の全体を見渡すために,意味的に単純化して考えてみよう。意味的に多少具体的に
言うと,あらゆる文において次の点が問題になりうるとも考えられる。つまり,「何時」,「何
処で」,「誰が」,「何を」,「何故」,「どの様に」,「どうするか」,ということである
(cf. 「誰に」を加えてもよい)。「誰が」,「何を」,「どうしたか」は主辞,目的,述辞
が表すと考えられる。「何時」は時間表現,「何処で」は場所表現,「何故」は理由,「どの
様に」は様態で,これらの後者 4 要素は考えようによってはあらゆる発話に出現しうるし,出
現しなくとも済まされるとも考えられる。
例えば,位格とも呼ばれる場所表現は何処にでも現れそうであるが,La Terre est ronde とか
Deux et deux font quatre のような文ではむしろ考えにくいだろう。Luc rencontre Léa à Paris では à
Paris はこの他動詞構文を特徴付けているようには思えないが,Luc va à Paris や Luc envoie un
paquet à Paris,Luc entre dans la chambre,等の場所表現ではどうであろうか。更に,Luc met sa
voiture au garage と Luc met du linge à sécher とを比較すると,前者の au garage は構文を特徴付け
ない非特有機能だが,後者の à sécher は構文特徴づけに不可欠な特有機能である,とは言い難
いであろう。何故かと言うと,garage も sécher も構文的には厳密に同じ範列(paradigme)に含
まれるからである。
これは mettre の意味の抽象性で片付けられる問題ではないし,
当然ながら,
代名詞化(y による置き換え)等,で処理しうる問題でもない。我々の分析では,今のところ,
「方向性が動詞構文を特徴付けていると考えられる位格,その他(時間表現,等)」の要素は
特有機能と認めていいのではないか,ということになる。(Cf. 場所表現は全て非特有機能と
みなしたり,前置詞 de がついたものは非特有とする分析もあるのが現状である。MARTINET
(1979), TESNIERE (1959))
間接目的で頻繁に出てくることが予想できるのは,dePosi, àPosi, enPosi(Posi : 位置依存辞=
名詞句相当)である。これは,これらの 3 前置詞の頻度が一番高いことが根本にある。勿論,
dans, pour, par, sur, avec, comme, 等,主要構文の間接項に介入してくる前置詞(的要素)は多い。
間接目的項と状況項との区別は微妙な場合があるが,特有機能(間接目的を含む)は構文特徴
となっているので省略が難しいという点がある。しかし,この省略不可能性はそれなりに助け
とはなるが,選別基準とするのは困難である。省略の問題は結局文脈との複雑な関係が根本に
あるからである。Luc regarde attentivement le théâtre で ?Luc regarde とするのは難しいとしても,
Luc regarde attentivement も Luc regarde le théâtre も許容可能性には問題がないだろう。この事実
から attentivement も特有機能であるとする訳にはいかない。この副詞が一つの構文特徴を持つ
動詞述辞の下位クラスを選別するとは言い難いからである。省略不可能性は間接目的の選別に
は助けになるだろう。
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副詞的自律記号素は一般的に動詞クラスを限定する関係的記号内容を持っている。それ故に
動詞の一下位クラスを選別する特有機能を担うのは困難である。しかし,例えば,Luc se
comporte bien の bien はどうであろうか。上で問題になった省略不可能性について言うと,se
comporter は確かに「様態」を表す副詞を必要としているように見える。しかし,これを特有機
能とすると「特有」の意味合いが変わってくる。つまり,例えば,直接目的はこれを取る動詞
を取らない動詞から区別して一下位クラスを構成させるのである。bien, mal,等の様態の副詞
はこれらを取る動詞を他から区別することはない(ただし,これらを必要とする動詞を他から
区別するかもしれない)。何故なら,種々の構文を持つ大半の動詞がこれらの様態の副詞を取
りうるが,取らなくともよいからである。つまり,これら様態の副詞の特殊な意味を必要とす
る動詞が存在するということである。これらの副詞要素は形は決まっていない。attentivement, de
cette façon, à la manière, en tant que..., 等,種々雑多である。こういった要素を構文型を決める特
有機能としてよいであろうか。勿論,形が決まっている主辞,直接目的,間接目的であっても,
意味要素が介入していないということではない。しかし,形が限定する特有機能の関係的記号
内容はかなり一般的で広いものであるといえよう。特有機能として問題になる他のこのような
副詞類,このような動詞類があるのならば,この問題は一考に価するが,現状では我々は特有
機能とは認めない。広い意味での必要とされる意味文脈の一種ではなかろうか。例えば,Il doit
prendre la décision de se comporter,Il doit décider quand et où se comporter, Il ne sait pas se comporter,
Sa façon de se comporter est insupportable, 等は許容不可であろうか。(Cf. 上の Luc regarde
attentivement と比較のこと。)
1.4. 属詞 attrubut (Luc est [avocat/gai/loin/à la mode]) : 位置依存辞,自律記号素,自律化連辞
属詞は人称構文ではコピュラ(copule)動詞が必要とする述辞機能である。コピュラの代表
は être であるが,
これ以外にも sembler, devenir や paraître, rester, demeurer の一部の用法がある。
コピュラが形式的中心ではあるが,機能的には属詞が構文構成の中心をなす述辞である。この
機能を担う形は多彩であるが,形容詞や名詞が代表であると言える。動詞の右に現われたり,
le による代名詞化が可能なので,直接目的と似たようなところがあるが,違いは大きい。(Cf.
例えば,属詞機能について受動化は問題になりえない。属詞は述辞であるので当然省略不可で
あるのに対して,直接目的は文脈によっては省略が十分可能になる。)直接目的の属詞もある
ことに注目しよう(Luc trouve cela parfait)。人称構文で属詞は主辞の「属性」を表すというの
が伝統的解釈であるが,特に非人称では主辞は不可欠ではないことにも注意すべきである。Il est
tard では「何が」tard であるかを問うのは意味がないし,Que te semble de cette affaire ? では属
詞 Que に対して,主辞のみならず非人称の il さえも現れていない。属詞は本来述辞機能なので
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不可欠であるが,述辞は動詞文においてすら主辞機能を必要としないことがある(cf. 以下の
非動詞文と比較のこと)。
1.5. 非人称主辞 sujet impersonnel (Il pleut, Il est tard, C’est là que Luc rencontre Léa)
1.1.~1.4.で主たる特有機能を概観したが,非人称の il と ce を忘れないようにしよう。これら
はその範列(paradigme)が閉じている主辞機能である。意味的には重要度も低く,構文的にも
実質的重要性は弱い。しかし,正に人称主辞機能を排除するという意味で「主辞-述辞」の 2
項構文を除外しているのである。
この意味では構文の一つの重要な型を特徴付ける特有機能で,
また頻度も低くはない。
1.6. 現働化子 actualisateur (Voici Luc)
名詞要素がコピュラに支えられて属詞述辞となる場合は人称構文では主辞機能が存在して
いる。ここで問題になる現働化子とは,述辞機能に特化されていない名詞要素を述辞として機
能させるために専門化された要素であり,しかも,主辞なしの文においてである。
1.7. 構文型一覧
以上で構文型を特徴付ける主たる特有機能,等の説明も終わり,構文型の一覧を提示する準
備が整ったと言える。フランス語の構文型の主たるものは以下の通りとなる。
1.7.1. S-Pr-OD-... (S : 人称主辞,Pr : 動詞述辞,OD : 直接目的)
これは人称主辞と動詞述辞と直接目的を一つ共通項としてもつ構文の型である。この型は多
くの種々の型を含み,構文体系全体の中で圧倒的位置と頻度を占めている。S-Pr-OD-OI (Luc
donne un livre à Marie), S-Pr-OD-Att(Att : 属詞)(Luc trouve cela parfait), S-Pr-OD1-OD2 (Luc laisse
Marie chanter),等,構文型は豊富である(cf. OD2 は直接目的の属詞との解釈も可)。間接目的
に入る前置詞の種類は豊富である。
1.7.2. S-Pr-OI-... (OI : 間接目的)
これは人称主辞と動詞述辞と間接目的を一つ共通項としてもつ(ただし,直接目的は持たな
い)構文の型である。S-Pr-OI (Luc pense à Léa), S-Pr-OI-OI (Cela sert de prétexte à Luc, Luc demande
à Léa à chanter), S-Pr-OI-Att (Luc juge de cela comme novateur),等。間接目的の前置詞は種々ある
が,複数の間接目的が両立する例は多くない。
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1.7.3. S-se-Pr-...
これは人称主辞と動詞述辞の代名動詞構文である。S-se.dir-Pr (Luc se lève,Cela ne se dit pas, La
porte s’ouvre), S-se.indir-Pr (Luc et Léa se téléphonent), S-se.indir-Pr-N (Luc se donne un but),
S-se.dir-Pr-deN (Luc se moque de Léa), 等。
1.7.4. S-êtreVé-...
人称主辞と être つきの受動構文である。S-êtreVé-deN (Luc est aimé de tout le molnde),
S-êtreVé-parN (Cet arbre a été renversé par le vent),等。
1.7.5. S-Pr
人称主辞のみの自動詞構文。これはこれのみ。S-Pr (Les êtres humains évoluent)。
1.7.6. S-V-Att-...
人称主辞と属詞を取る自動詞構文で,
次の être の属詞構文と統辞構造的には同じなので 1.7.6.,
1.7.7. は一まとめにしてもよい。区別は être の記号内容の単純さによる。S-V-Att (Luc devient gai,
Luc semble gai, Luc paraît gai, Luc reste gai, 等),S-V-Att-àN (Luc semble attentif à cela,等)。
1.7.7. S-être-Att-...
人称主辞と属詞を取る être の自動詞構文。S-être-Att (Luc est gai, Le fait est que Luc chante, Agir
est plus atroce que cela, Vouloir, c’est povoir, 等)。
1.7.8. Il-Pr-..., Ce-être-X-[qui/que]V
非人称主辞 Il または Ce と動詞述辞または
「コピュラ動詞+属詞」
の非人称構文。
Il-Pr (Il pleut),
Il-V-Att (Il est tard, Il me semble entendre cela, Il semble que Luc chante, 等)。Ce-être-X-[qui/que]V
(C’est Léa que Luc aime, C’est Luc qui aime Léa, C’est à Paris que Luc rencontre Léa, 等)。
Pr-Aut(Aut : 自律記号素・自律化連辞)(Peu importe, N’importe, Reste à partir:Peu も N’も
副詞である)のような文もここに分類すべきかもしれない。これらには人称主辞も非人称主辞
もないが動詞文であることは確かである。
1.7.9. C.s.-Posi-...(C.s. : Centre syntagmatique 連辞中心核,Posi : 位置依存的要素)
「連辞的中心核」は位置依存的要素を現働化して述辞機能を担わせる。「連辞的中心」は動
詞的要因を多少保っている : Voici Luc — Le voici, Ne voilà-t-il pas que... ?。1.7.9. は種類も出現状
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況も限られているので 1.7.8. に統一することも可能だろう。
1.7.10. Phrase averbale 非動詞文
これは以下で詳しく扱うが,上の 1.7.1.~1.7.9. とは異なって,動詞的要素(=動詞活用形)
を全く含んでいない。1.7.9. の voici や voilà も動詞的要素とは殆どみなし得ないが,頻度と用
法の定着を考慮して一応別分類としている。Quel choix !, De là la Révolution française, Menaces
sur la paix au Laos, Et Luc de partir, 等。
2. 非動詞文と外心構造
上の構文型一覧でも概観したように非動詞文の重要特徴は構文の(形式的かつ/または機能
的)核として定動詞的要素を全く含んでいないことにある。それで,主辞,直接目的,間接目
的,属詞,等の動詞文がらみの構成素・概念は使えないことになる。勿論,文構成であるから
「述辞機能」は核の機能として不可欠である。そして,動詞文も非動詞文も同一のフランス語
の文構成体系の構成要素であるから,記号素や連辞の基本的な結合可能性は同じものと見なさ
ねばならない。加えて,動詞文の圧倒的優位性(種類の豊富さと頻度)からしても動詞文の基
本的構成は非動詞文の構成に影響を与え反映されざるをえないだろう。逆に,非動詞文の構成
は動詞文にないものを生み出し,
これが動詞文構成をより柔軟なものにすることも期待出来る。
先ず,最初に確認すべきことは,動詞文でも非動詞文でも,文脈から連辞関係的に
(syntagmatiquement)独立(indépendant)していなければならない,という点である。これは
文の連なりである談話(discours)の中における文の根本特徴であり,全ての統辞構造の基盤で
ある。そもそも,統辞構造とは,一部の現象は別にすると,本質的に文内部の文構成要素間の
関係である。文は連辞関係的により大きなまとまりの一部を成していないのである。
述辞機能に特化された動詞(定動詞)を欠く非動詞文の文としての独立性はどのようにして
保証されるのであろうか。動詞文全般を考察すると,文は構成部分からなり,それぞれの構成
部分は一つのまとまりを成していることが分かる。これは当然であり,これらの部分の動詞述
辞への関係が統辞機能とされるものである。文自体が談話,テキストの中で一つのまとまりを
成しているのも当然のことである。
構造統辞論で伝統的に言及される分析概念として内心構造(endocentrique)と外心構造
(exocentrique)があることをここでを喚起しよう。意味単位のグループ(=連辞)の考察にお
いて,内部の一つの核に収斂するような構造を内心構造と呼ぶ。これに対して,内部の一つの
核に収斂し得ないような構造を外心構造と呼ぶ。
よって,ある意味では,文は談話分析においては,述辞機能に収斂する内心構造を成すと考
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えてもよい。しかし,今問題となっているのは文内部の統辞分析である。文を構成する部分に
も内心的なものと外心的なものが区別できる。
簡単な具体例で考えてみよう。例えば,Luc rencontre Léa aujourd’hui à 15 heures à l’entrée du
Louvre. こ の 文 を 述 辞 を 直 接 修 飾 す る 一 次 機 能 の も の に 分 け る と 次 の よ う に な る 。
Luc/rencontre/Léa/aujourd’hui/à 15 heures/à l’entrée du Louvre. 伝統的には名詞句(15 heures,など)
は核の名詞に収斂するので内心とみなす。前置詞句(à 15 heures, 等)は名詞句の前の前置詞に
収斂し得ないとして外心とする(すると,前置詞を含む名詞句の l’entrée du Louvre はどうなろ
うか)。「主辞-述辞」や「述辞-目的」は述辞に収斂せずとして外心とみなすが,「述辞-
副詞」(例えば,(Luc) chante bien (cette chanson) の chante bien)は述辞動詞に収斂するとして
内心とする。以上の分析には種々の曖昧さ,問題点が残っている。
文内部の関係を部分,部分のまとまりという観点から見直してみよう。文内部では,Luc
rencontre はより大きな一つのまとまりは成し難い。rencontre が rencontrer と不定詞になった時
は Luc は rencontre に対して同一の関係を保持しえない(*Luc rencontrer)。rencontre Léa は
rencontrer Léa においても同じままである。このように考えると,l’entrée du Louvre は核である
entrée を中心として一つにまとまっていて,他の文脈でもこのまとまりは保持しうる。前置詞
句 à 15 heures もこの意味では一つの緊密なまとまりをなしていて,前置詞の à が取りまとめて
いると言える(cf. 前置詞の後の被制辞が「前置詞の目的語」などと言われるのはこの意味で
あろう)。
すると,上例において,まとまりえない関係として Luc rencontre, Léa aujourd’hui, aujourd’hui à
15 heures, à 15 heures à l’entrée du Louvre, Luc...Léa, Luc...aujourd’hui, Léa...à l’entrée du Louvre,
aujourd’hui... à l’entrée du Louvre 等,多くのものがあることが分かる。一般的に同一核の周りに
等位構造なしに両立しうるものは違う機能を担っているから両立しうるのであり,これらは一
つにまとまりえない。このようなものは当然外心構造にあるのであるが,この点に注目してみ
よう。
すると,
正にこの外心関係にあるものが文としての独立性を反映していることが分かる。
これに対して,上のような意味で一つにまとまるものを内心構造と呼ぶならば,これは文とし
ての独立ではなくて,文の部分であること,つまり,非独立性を反映していることが分かる。
このような意味合いでの内心,外心構造は非動詞文においても機能している。そして,正に
このような意味での外心性が非動詞文の独立性を支えている。つまり,例えば,単なる名詞句
ならば,それは動詞文の一構成要素であり,文としては独立し難い。独立には名詞にまとまり
きらない少なくとももう一つの要素が不可欠になる。複数の,一つにはまとまりきらない要素
が不可欠ではあるが,それらは前後の文脈からは独立していなければならない。つまり,先行
するあるいは後続の独立文のどの要素にも従属していないということは示されていなければな
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らない。
文脈からの独立に加えて外心構造はこの独立性を補強すると言っていいだろう。この外心構
造は動詞文の構成要素の性質である内心構造を排除するのである。例えば,De là la Révolution
française の De là と la Révolution française は一つにはまとまりえない(=動詞文の一構成要素
にはなりえない)。しかも,この二つは外心構造ではありながら関係を保っている。そして,
前後の可能な文のどの部分にも連辞関係的には依存しえないのである。これで文としての独立
性は十分であろう。あるいは,上例の Aujourd’hui à l’entrée du Louvre などについても同様のこ
とが言えよう。この外心構造も動詞文の一構成要素にはなりえない。Aujourd’hui と à l’entrée du
Louvre は動詞述辞の周りで違う統辞機能を担うであろうから。しかし,これら二つも一つの外
心関係を保ちながら前後の文脈から独立することが十分可能であろう。
以上の例からも分かるように,上記のように考えた「内心構造」と「外心構造」は述辞機能
に特化された定動詞を持たない非動詞文の分析において重要な手がかりとなるのではなかろう
か。
3. これ迄の非動詞文の取り扱い
非動詞文はこれまでの文法書でそれ程注目されていた訳ではないが無視されていた訳でも
ない。二,三のものの取り扱いを見てみよう。
3.1. TESNIÈRE. 1959, pp. 177-181.
非動詞文は「実詞文(phrase substantivale)」と呼ばれる。全ての実詞文の核は他に従属して
いなければ独立文を構成する。実詞文は「décousu(ほどけた,裂かれた,支離滅裂な)」であ
り多様性に欠けるが,会話体には適しているところがある。殊に種々のタイトルに適している
(これは,むしろ,「タイトル」という特殊な文脈が多様なものを許容すると言うべきか)。
中心実詞核には第三行為項(tiers actant)が付くこともある(例. Garde à vous.)。実詞は不定詞
でもよい(例. Que faire ?)。種々の従属項も伴いうる(例. Les cheveux tout blancs., Après nous, le
déluge.)中心実詞は転用(translation)の結果であることもある(例. Trêve de plaisanteries !)。
また,実詞には「de-不定詞」による限定が伴うこともあるとして「物語体不定詞」の例を提示
している(例. Et grenouilles de se plaindre)。形容詞節の後続(例. L’Homme qui rit)。Que が導
く文要素の後続(例. De vrais petits sauvages que mes neveux !)もある。
結局,
種々の例は提示されているが,
実詞文の独立がどのように保証されるかの説明はない。
「主辞-述辞」の動詞構文の型は使われていないが,正に TESNIÈRE の独自の概念である「第
三行為項(Garde à vous の à vous)」や「転用」が使われ,これは動詞文の概念のそのままの適
344
フランス語構文型体系における無動詞文の位置づけ:非動詞文分析序説:敦賀
陽一郎
用ということになる。「物語体不定詞」の例で「de-不定詞」を述辞ではなくて限定句として,
それと平行して L’Homme qui rit や De vrais petits sauvages que mes neveux ! を挙げるのは適切で
あるが,これらの構文としての独立性の説明はない。
実詞文の「décousu」な性質を始めとして,上の多くの例で「外心性(=一つにまとまらない)」
が関係している点に注目すべきである。
3.2. WAGNER, PINCHON. 1962, pp. 514-517.
非動詞文は「動詞なし文(phrases sans verbe)」として取り扱われている。一項文の場合「thème
機能」のもの(例. Eh bien, et l’abandon de la peine de mort en matière politique ?)と「prédicat 機能」
のもの(例. La belle demande !)があるとする。非動詞文は簡略化や強調の為に使われる。二項
文の場合は「thème 機能」と「prédicat 機能」を担う(例. La liberté ? un beau mot.; Chauds, les
marrons !)。
一項の非動詞文に「thème 機能」があるということは,文の中心核の機能が一つに定義され
ていないということであろうか。統辞機能が談話機能に置き換わっていると言ってもいい。二
項文は「主辞-述辞」とせずに「thème - prédicat」としている点は動詞文との区別という点で重
要である。
(しかし,他の箇所で Lui, mentir ? が動詞文として分類されていることに注意。) 問
題は談話機能的,意味的用法の説明のみであり,非動詞文の文としての独立性の形の説明がな
いことである。また,C’est Luc のような文も非動詞文としていることも問題である。
3.3. GREVISSE, GOOSSE. 1939, 200113, pp. 626-628.
非動詞文は疑問,感嘆,諺,タイトル,文学素描,先行文に対する同格的無冠詞コメント,
等として使われるとして,形としては,2 項,1 項の場合を挙げている。2 項の場合はしばしば
述辞が主辞に先行する(例. Finies les vacances !)として,主辞概念を使用している。1 項の場合
ですら,述辞(例. Magnifique !)の方が主辞(例. Pierre !)より頻繁であるとしている。
1 項の非動詞文が主辞で成り立つということは述辞(prédicat)なしの文の存在を認めている
ことになる。これは非動詞文が動詞文の不完全な変異体であるとする極端な意味的解釈にすぎ
ない。
3.4. LE GOFFIC. 1993, pp. 509-523.
フランス語文法全般を扱う類書の中では例外的に多くの頁数を非動詞文に充てている(第 17
章全体)。多くの例が詳細に分類・分析されているが,要点は次の通りである。非動詞文の独
立性を保証する手段は韻律と要素配列順である。「主辞-動詞」関係(の一致)は存在しない
東京外国語大学論集第 85 号(2012)
345
ので「主辞」という概念はそのまま使うことは出来ない。この二点を基本として,非動詞文は (1)
「属詞的(Heureux les pauvres !)」,(2)「位格的(Au diable les soucis !)」,(3)「存在的(Pas un
bruit !)」の三種に分類される。(1) の二項構成では,
「Adj prédicat - GN sujet (ou thème) : Heureux
le poète insensible !」,
「GN prédicat - queP sujet (ou thème) : Dommage (,) qu’il soit arrivé trop tard !」,
等。一項では,「Adj prédicat : Excellent !」,等。「Triste nouvelle que la mort de Paul ! 型」(こ
れは二項構成ではないのか),「Ordre sujet - prédicat : Stationnement interdit; Deux et deux, quatre」
(これも二項構成),等。(2) の二項構成では,「Gprép prédicat - GN sujet : À vous l’honneur」,
「Gprép prédicat - de Inf sujet (ou thème) : À vous de jouer !」,「GN sujet - Gprép prédicat : Chacun à
son tour.」,等。(3) では,Partout (,) le silence., Tiens, un revenant !, Bientôt la fin !, Pas un bruit !, Ah,
là là, cette chance !, Tremblement de terre en Arménie., 等。そして,Sûrement que Paul sera là 型が
付加えられている。(以上の (3) の例は全て二項構成。)
先ず,主辞概念の使用に注意を促しておきながら,この概念の使用箇所での説明はないよう
である(例えば Deux et deux, quatre で先行名詞句が主辞と言い切れるのは動詞文 Deux et deux
font quatre との関連からか)。また,最後の Sûrement que Paul sera là では,副詞の Sûrement が
述辞,que Paul sera là が主辞であるとするのは,やはり動詞文(Il est sûr que Paul sera là)との関
連のためなのであろうか。我々の分析では,Deux et deux, quatre の後続名詞が述辞で先行名詞
句は必須の外心的拡張であり,機能は「主辞」以外のものでなくてはならない。Sûrement que Paul
sera là では,que 節が述辞機能で Sûrement は必須の外心的拡張となる。この副詞の機能は勿論
「主辞」でも「述辞」でもない。次に,全体を通しての形式・機能的分類は理解できるが,動
詞文に依拠している印象が強い。また,肝心の非動詞文としての独立性の形式的根拠の説明が
見られないのはどういうことであろうか。上の多くの例において外心性の概念はかなり有効な
ように思える。
3.5. RIEGEL, PELLAT, RIOUL. 1994, 20094, pp. 763-769.
「非動詞文(phrase non verbale)」は動詞を含まないが「述辞化(prédication)」と言明・平
叙,疑問,命令,感嘆,等の「発話の様態(modalité d’énonciation)」を含むとする。また,二
項(Chauds, les marrons !)のものと一項(Café ?; Bon voyage !)のものとを分ける。二項のもの
はただ並列されているだけで,話し言葉では上昇,下降の抑揚によって示されるとし,「述辞
-主辞」の順が多いとする。前置により述辞は強調される。
文の中心としての述辞は統辞構造概念として不可欠である。しかし,主辞は別である。動詞
文の述辞に不可欠な統辞機能として主辞機能はあるが,非動詞文にもあるとされる主辞はどの
ように定義し,二種の主辞の共通点はどのようなものになるのであろうか。非動詞文の形式的
346
フランス語構文型体系における無動詞文の位置づけ:非動詞文分析序説:敦賀
陽一郎
独立性の説明が殆どなくて,非動詞文が動詞文の変異体にすぎないとの印象が強く残る。一項
文の場合,これを述辞とするのは適切である(cf. 上の 3.3. の GREVISSE, GOOSSE での取り
扱い)。
3.6. LEFEUVRE. 1999, 351p.
これはフランス語関係では非動詞文を正面から捉えた数少ない本格的論文の一つである。こ
の論文の詳細な分析は別の機会に譲るが,方法論的な問題についての二,三のコメントを試み
る。
先ず,非動詞文が一つの文を構成するのはどのような点にあるのか,という問いに対して,
断定(assertion)があるからであるとする。Passionnant, ce livre ! が独立した文であるのは,断
定が含まれているからである。これはその通りであるが,問題は断定が形の上でどのように保
証されているかである。規準としては,主辞を構成する個別のクラス,要素の限定性,述辞と
共に使われる述辞化の標識(例. Pas question de prévenir les flics, bien sûr !),意味,書記,文脈,
等を挙げながら,どれ一つとしてそれだけで文の独立性を保証するものはない,とする。
次に,非動詞文を構成する 2 要素に関して,主辞が含まれてもいいが含まれなくてもいいと
して,両者は連続的につながっているとしている。つまり,ここでも主辞概念が使われている。
また,非動詞文は発話カテゴリーの時制,人称,法と必ずしも無関係ではないとしている。
主辞だけの非動詞文(cf. 3.3. の GREVISSE, GOOSSE)は提示されていないが,非動詞文に
主辞を認める場合,動詞文と非動詞文に共通の統辞関係としての主辞機能とはどのようなもの
になるのであろうか。かなり動詞文の意味解釈的なものに基づいての分析であるとの印象が強
いのは否めない。上例の二つとも明白な外心性(exocentricité)を示しているが,この点につい
ての言及はない。上例を少し変えて Ce livre passionnant ! や Stupide question de prévenir... ! とし
た場合にも非動詞文の独立性は同じ程度に残るとするのであろうか。
以上,取り扱いは様々であるが,かなりの共通点がある。それは意味的用法の説明の傾向が
強く,しかも,それが動詞構文の概念に依拠している点である。これと平行して,非動詞文の
文としての独立性の統一的でかつ形の上での説明の必要性が殆ど認められていないということ
である。これは少し驚くべき点である。Les marrons chauds ! では独立非動詞文としては不十分
である。Chauds, les marrons ! となると独立文となる。後者には要素配列順の変化がある。しか
し,必要なのは,この変化があると何故独立性が高まるかを説明することなのではないだろう
か。上の多くの例の中で構造言語学の古典的な概念である外心構造(structure exocentrique)が
極めて効果的であるのを見て取るのは我々だけなのだろうか。
東京外国語大学論集第 85 号(2012)
347
以下ではこの外心性を操作概念として活用しながら実例を分析して行く。
4. 新聞社説のタイトルの事例
文脈中での非動詞文の分析の前に特殊な例として新聞記事のタイトルの事例を概観してみ
よう。タイトルは非常に特殊な,非言語的とも言える文脈・状況を提示していて,異言語を含
めたあらゆる言語断片が出現する可能性がある。一つの記事の内容をコンパクトに表すという
意味でも内心構造の典型である名詞・名詞句の出現が経験的にも十分予想されるところである。
全般的に構造と頻度の一覧を示す。Le Monde 紙 2002 年度 1 年間,312 の社説(Éditorial)の
タイトルである。(異言語の例は除く。下位クラスの頻度は ( ) に入れる。)
4.1. N
26 例
形容詞句なしの名詞(句)の例である(「複数」が付いたり,合成名詞の例もここに入れる)。
冠詞の有無の違いは内心性に影響しない(cf. 冠詞の有無は名詞にとって重要であるが,冠詞
は名詞の名詞句としての内心性を強めるのみである。)。これは当然内心以外ではありえない
が,疑問の抑揚(「?」により表示)が付く(例. Restauration ?)と外心的にならざるをえない。
つまり,「名詞(句)+上昇抑揚」が一つにまとまって,例えば,動詞文の一機能をなうのは
難しい。(以下,内心性が弱まるもの,または外心性が強まるものに下線をつける。)結果と
して発話の独立性が高まることになる。
øN (14 例) : Antiaméricanismes (le 7.12.2002; 以下同様で 2002 は省略), Concomitance (30.11),
Résolution (8.11), Communication (28.9), Régressions (7.8), Hypocrisie (3.8), Vigilance (23.7),
Provincialisme (17.6), Contre-pouvoirs (6.6), JOURNALISTE (4.6), Xénophobies (28.5),
Restauration ? (8.5), Non-assistance... (1.4), Convergences (19.3)
N (12) : La gouvernance (6.12), L'après-Sangatte (12.11), Le tout-répressif (18.7), Le doute (18.6), Le
danger (11.6), Les amnésiques (25.5), Le "trop-plein" (22.5), L'humiliation (24.4), Les conventionnels
(1.3), Le gouffre (6.2), Un demi-Parlement (17.1), L'après-euro (3.1)
4.2. 不定詞
8
不定詞も上の名詞(句)のようになる。直接目的や状況項がついても不定詞句全体の内心性
に変わりはなく,動詞文の中で単一の統辞機能を担いうる形である。疑問抑揚がつくことによ
り独立性が高まることも同様である。
348
フランス語構文型体系における無動詞文の位置づけ:非動詞文分析序説:敦賀
陽一郎
Vinf-N (7) : Refonder l'Europe (3.12), Interdire un parti ? (28.8), Punir les parents ? (5.8), Réguler le
capitalisme (19.7), Aider le Timor (21.5), Voter Chirac (3.5), Ecouter les médecins (12.3)
Vinf-pourN (1) : Payer pour l'Europe (29.10)
4.3. 副詞・形容詞句(節)
7
副詞・形容詞句(節)も一つにまとまる(前置詞・従属接続詞に収斂するとみなす)。前置
詞がついた形は文脈により形容詞的にも副詞的にもなり,
単独で出てきた場合には曖昧である。
何れにしろ,動詞文で一つの機能を担う形,つまり,動詞文の一構成要素になる形であり,独
立性は弱い。
しかし,以下の De la France à l'Europe のように二つの句が呼応して出てくる場合はどうであ
ろうか。これは動詞文では明らかに二つの統辞機能を担わざるをえない(例えば,Cela passe de
la France à l'Europe)。これは外心構造であることは確かである。この句が単一の副詞句とそれ
ほど違うものと見なし難いのは,de... à... で一まとまりの印象を与え,しかも同時出現の頻度
も高いということがあるのであろう。
deN (1) : De la sécurité (29.1)
àN (1) : A la soviétique (29.10)
contreN (1) : Contre l'intolérance (9.4)
dès-queV (1) : Dès qu'il y a soupçon (14.6)
deN-àN (3) : D'Enron à Vivendi (16.8), De la France à l'Europe (7.5), De la rue aux urnes (2.5)
4.4. 形容詞 A・過去分詞 Vé つき名詞句内心構造
72
名詞に形容詞が先行または後続,過去分詞が後続する名詞句である。これは上の名詞(句)
と同様で,付加形容詞が内心性を強めることはあれ弱めることはない。この形容詞(句)の機
能は典型的な名詞の内心的限定である。疑問の上昇イントネーショんが加わってまとまりが弱
まり内心性が下がることも同様である。例えば,Affaires impunies ? は独立発話を構成しうるだ
ろう。ここでも冠詞の有無は内心性に影響しない。
øN-A (30) : Scénario américain (21.12), Président destituable (13.12), Ecrans violents (15.11),
Désinvolture budgétaire (1.10), Diplomatie japonaise (2.9), Protectionnisme vert (31.8.), Propagande
raciste (23.8), TOURNANT TURC (6.8), M. Raffarin anti-européen ? (26.7), Affaires impunies ?
(8.7), Cauchemar judiciaire (6.7), Leçons post-Messier (3.7), Rhétorique africaine (29.6), Justice
東京外国語大学論集第 85 号(2012)
349
américaine (22.6), Jubilé jubilatoire (5.6), Abstention algérienne (3.6), Cacophonie médicale (1.6),
Inéquité fiscale (13.5), Devoir républicain (27.4), Espoir malgache (20.4), Démocratie italienne (26.3),
Succès balkaniques (18.3), Droits syndicaux (28.2), Consensus sécuritaire (21.2), Irritations
transatlantiques (18.2), Tableaux algériens (8.2), Carnet rose (7.2), Détenus irréguliers (23.1),
Médecine souffrante (2.1), Malédiction argentine (1.1., p. 8)
øN-Vé (5) : Hachette obligé (24.10), Libertés menacées (27.9), Air France privatisée (31.7), Violence
interdite (30.7), Homosexuels martyrisés (4.1)
N-A (20) : La France métisse (2.12), L'Europe électrique (29.11), Notre enjeu turc (5.11), L'égoïsme
français (9.10), La France girondine (5.10), L'exception marocaine (2.10), L'impasse américaine (11.9),
Le duel allemand (27.8), L'Europe sociale (21.6), Le test européen (18.6), Les coûts médicaux (7.6),
La droite équivoque (31.5), L' "exemple" tunisien (29.5), La droite ambiguë (23.5), L'exigence
écologique (20.3), L'épreuve malgache (15.2), Le déficit américain (2.2), La F 1 industrielle (30.1), La
France avare (24.1), Un budget chiraquien (10.7)
N-Vé (8) : L'Europe unie (14.12), La Bretagne outragée (11.9), La ville retrouvée (19.8), Un monde
pollué (15.8), La parité ridiculisée (13.7), Le ciel cloisonné (11.7), Une Europe élargie (20.6), La
gauche déprimée (8.6)
øA-N (5) : Mafieuse Russie (28.11), Quel Irak ? (29.8), Sainte alliance (27.5), Plusieurs mondes (8.4),
Mortelles illusions (11.3)
A-N (4) : Les nouveaux Tartufe (17.10), L'autre Amérique (14.10), Un lourd silence (6.5), La grande
Suisse (5.3)
上の「形容詞-名詞」で形容詞は名詞句内部にある(例 Un lourd silence)ことに注意。これ
は当然内心構造のままであるが,形容詞が名詞句の外に出て先行すると全体は当然外心となり
文としての独立性が高まる(例. Génial, ce film !)。上にはそのような例はない(以下の類似例
を参考)。
上の Quel Irak ? はどうであろうか。Quel... は非動詞文の典型の一つである。Quel Irak ! でも
同様に独立性が高い。前者の疑問要素も後者の「!」の感嘆要素も quel と一体化しているとみ
なしてよい。両要素と名詞との関係は外心的である点に注意しよう。つまり,単なる名詞(句)
にないものをつけ加えているのである。これは通常の付加形容詞にはないものである。これら
は当然発話の独立性を高めることになる。しかし,「?」にしても「!」にしても quel と一体化
しているのであり,どの程度まで発話の抑揚曲線として取り出しえようか。
350
フランス語構文型体系における無動詞文の位置づけ:非動詞文分析序説:敦賀
4.5. 副詞つき名詞句外心構造
陽一郎
2
名詞(句)に形容詞がつくのと副詞がつくのとでは全く違ってくる。副詞は動詞,形容詞,
副詞には内心的修飾句として付加しうるが名詞との相性は悪い。正に,名詞に対しては外心的
修飾を与えるのである。
以下の Chaplin aujourd'hui でも Aujourd’hui Chaplin でも内心的な Chaplin d’aujourd'hui(以下の
N-deN の例を参照)とは全く違っていて外心的である。aujourd’hui が Chaplin の独立性を高め
ていると言える。Vivement 2004 ! の vivement は非動詞文専用とでもいうべきものである
(Vivement demain !, Au fait, et vivement !, Vivement qu’il chante !)。後続要素がある場合はそれ
が述辞機能を担う。
N-Ad (1) : Chaplin aujourd'hui (16.10)
Ad-N (1) : Vivement 2004 ! (19.1)
4.6. 形容詞句つき名詞句
94
名詞と内心構造を作り易い形容詞とは違っていて,形容詞句の場合は前置詞により内心,外
心はかなり左右される。つまり,「前置詞+名詞(不定詞)」が副詞句的性質を帯びることは
十分にありうる。
4.6.1. N-de[N/Vinf]
(53)
典型的な形容詞句の deN,deVinf が N にづつく例である。この名詞句も全体として内心性は
強い。deN は先行名詞との一体化が強い(=内心性が強い)形容詞句を構成するのは前置詞 de
の結合可能性による。de の前後の二名詞句に冠詞の有無の違いがありうるが内心性に影響は与
えない。ただ,核となる先行名詞が無冠詞 だと,動詞文における構成要素としては用法に制限
が出てくることはありえる。
øN-deøN (6) : Leçons de Bali (15.10), Liberté de création (7.10), Fragilité de Vivendi (17.4), Bataille
d'idées (11.4), Début de campagne (22.2), Injustice d'Etat (25.1)
øN-deN (2) : Eloge du débat (6.11), Filles des cités (25.10)
N-deøN (24) : Cinq ans de soupçon (16.12), La droite de Sarkozy (11.12), Les idées de Raffarin (9.12),
Le message de Fox (18.11), Le choix de Saddam (11.11), Le succès de M. Bush (7.11), Le silence de
Moscou (31.10), L'islam de France (23.10), L'enfer de Sangatte (30.9), Le oui de Bagdad (18.9), La
route de Bagdad (14.9), Le tango de M. O'Neill (9.8), La faute de Sharon (25.7), La leçon de Fortuyn
東京外国語大学論集第 85 号(2012)
351
(17.5), Les colères de Chirac (14.5), L'âme de Canal (18.4), Les mots de Sharon (12.4), Le réveil de M.
Bush (6.4), La faute de M. Chirac (29.3), Les secrets d'Arlette (14.3), Les leçons d'Enron (20.2),
L'enjeu de Porto Alegre (28.1), Le cri d'Yves Saint Laurent (9.1), Une dette de sang (5.1)
N-deN (20) : Le fait du président (20.12), L'argent de la recherche (5.12), Le vote des immigrés (11.10),
Le prix de l' " ivoirité " (23.9), L'humanité de la loi (19.9), Les leçons d'un sommet (5.9), La voix des
immigrés (30.8), L'avenir des Saoud (24.8), Le coût de la culture (17.8), La réforme de la PAC (17.7),
Les causes de la faim (15.6), La fin d'une illusion (13.6), L'Europe des extrêmes (23.4), Le choix de
l'Ukraine (2.4), L'opacité du CSA (28.3), L'argent de la culture (25.3), Le prix de la gratuité (19.2), Le
pouvoir des mots (26.1), L'exutoire du Cachemire (7.1), Le désir de la politique (1.1., p.12)
N-deVinf (1) : Le droit de savoir (16.4)
上の Le droit de savoir は全く内心的であると言えるが,N-deVinf が常にそうであるとは限ら
ない(cf. 以下 5.5. の Et Luc de partir の例)。
4.6.2. N-àN
(18)
àN は名詞句とのまとまりが弱い。àN は位格を表すことが多いが,これは動詞文では(つま
り,動詞が近くにあると)動詞に係って行く傾向が強い。Cf. Coup d'Etat à Caracas と On a eu un
coup d'Etat à Caracas とを比較のこと。
以下の例で名詞と内心的構造を形成するのは Maths à la française くらいであろう。
Tous à Porto
Alegre !,Bienvenue à la CPI,Un Bavarois à Berlin ?,L'Italie, à contretemps,A droite, du nouveau,
等は特に外心性が強く発話としての独立性も強い。
øN-àøN (5) : Transition à Pékin (16.11), Valse à Vienne (16.9), Carter à Cuba (20.5), Coup d'Etat à
Caracas (15.4), Tous à Porto Alegre ! (21.1)
øN-àN (8) : Banque aux enchères (26.11), Démocratie au Brésil (30.10), Compromis à l'ONU (19.10),
Chasse aux sorcières ? (4.9), Maths à la française (22.8), Bienvenue à la CPI (2.7), Terreur au Pakistan
(10.5), Doutes au Pakistan (3.5)
N-àøN (3) : L'Europe à vingt-cinq (22.10), L'Europe à vingt-cinq (1.2), Un Bavarois à Berlin ? (14.1)
N, -àøN (1) : L'Italie, à contretemps (8.1)
àøN, -N (1) : A droite, du nouveau (19.11)
4.6.3. N-enN
(13)
352
フランス語構文型体系における無動詞文の位置づけ:非動詞文分析序説:敦賀
陽一郎
enN も具体的,抽象的の違いはあるが位格的なものを構成している。その意味では動詞との
結合の方が強いと言える。「en-地名」(例. Espoir en Afghanistan)は当然具体的位格となるが,
en danger とか en crise とかは抽象的位格と見なしうる(例. La politique en crise)。
Mise en condition はむしろ内心的だが,この en condition は mettre... en condition という動詞構
文との関係(N-mettre-N-en condition で en condition はこの構文を特徴付ける特有機能である)
で mise との一体化は強いと言えるだろう(cf. 以下の 4.6.9. についても同様)。
N-enøN (3) : Les Antilles en danger (13.11), La politique en crise (10.6), Le foot en danger (10.4)
øN-enøN (10) : Défense en hausse (6.9), Dialogue en Corse (29.7), Mise en condition (24.7), Espoir en
Afghanistan (11.6), Urgence en Angola (18.5) Foot en débâcle (22.4), Paix en Angola ? (5.4), Femmes
en politique (9.3), Milosevic en procureur (16.2), M. Bush en guerre (31.1)
以下の例はそれぞれ前置詞の先行名詞との一体性が可か不可かにより内心か外心かが決まる
といってよい。
4.6.4. øN-pour(ø)N
(3)
Culture pour tous (12.12), Grâce pour Bové ! (21.11), Tournant pour la justice (16.5)
4.6.5. øN-sur(ø)N
(2)
Hold-up sur l'OTAN (22.11), Menace sur Air France (9.9)
4.6.6. N-sansN
(2)
La mer sans droit (20.11), L'euro sans discipline (14.2)
4.6.7. N-aprèsøN
(1)
L'asile après Sangatte (15.7)
4.6.8. N-dansN
(1)
Malaise dans la santé (22.1)
4.6.9. øN-enøN-deN
(1)
Mise en scène de l'audit (28.6)
Cf. Alien in vitro ?
上の Mise en scène de l'audit は mettre l’audit en scène を名詞化したもので,内心性は強いと言
える。つまり,動詞 mettre,名詞 mise という核を中心に強く一体化しているのである。
東京外国語大学論集第 85 号(2012)
4.7. 等位(coordination)内心構造
353
56
かなり高頻度のものに等位接続詞により繋がれた内心構造の名詞句がある。等位接続詞を含
む句を外心とする分析もあるが,上述のようにこれらは全体として緊密なまとまりを示すので
我々は内心とみなす(N0 et N1 で et N1 の部分はどちらか一つに収斂するとは言い難いが,N0 et N1
は全体で N に収斂すると言えよう)。
等位構造は機能的に同等のものを繋げているが,二つ(以上)の要素で構成されているので
まとまりが崩れる(外心化の)萌芽を含んでいると言える(cf. 4.8. の並列(juxtaposition)構造
の例)。
等位で一つにまとまっている限り一つの統辞機能を担いうる形となっている。まとまりの度
合いは接続詞なしの単なる並列のものよりも高いと言える。等位接続詞が正にまとまりを強め
る役割を果す。名詞に冠詞が付いたり付かなかったりするが,内心性に影響は与えない。
øN-et-øN (17) : Abidjan et Paris (23.12), Famille et politique (18.12), Afrique et famine (17.12), Bali et
Moscou (26.10), Irak et Corée du Nord (21.10), Salaires et actions (4.10), 35 heures et plus (7.9),
Brèches et absences (5.7), Critique et offense (27.6), Jénine et Grozny (29.4), Islam et terrorisme
(19.4), Richesse et trop-plein (4.4), Milosevic et Al-Qaida (12.2), Justice et démocratie (5.2), Drogues
et politique (18.1), Droit et politique (15.1), Faute médicale et handicap (11.1)
øN-et-N, N-et-øN (13) : Guantanamo et le droit (9.11), L'Europe et Kyoto (4.11), Bush et les libertés
(12.8), Israël et ses colons (1.11), M. Bush et l'Irak (1.8), L'ONU et Jénine (4.5), M. Chirac et la
Tchétchénie (22.7), Bush et le capitalisme (12.7), Bush et la Palestine (26.6), Le Hamas et M. Bush
(24.6), Chirac et la gauche (30.4), M. Chirac et le déficit (27.3), M. Bush et la bombe (13.3)
N-et-N (22) : Le Congrès et l'Irak (12.10), La France et l'Irak (10.10), L'école et la sécurité (25.9), Le
climat et les hommes (12.9), Les Quinze et l'Irak (3.9), L'enjeu et le doute (26.8), Le pape et l'Europe
(20.8), La retraite et la Bourse (2.8), L'Etat et la télévision (25.6), Le Pen et l'Algérie (4.6), L'Europe et
l'immigré (30.5), Les Quinze et les " treize " (24.5), L'habileté et le combat (9.5), Les juges et la prison
(13.4), L'alerte et la raison (3.4), Le Net et la rumeur (21.3), L'école et la société (16.3), Le juge et
l'Elysée (6.3), Les Saoud et la paix (4.3), L'Eglise et la Shoah (27.2), La loi et la Corse (12.1), Le droit
et les terroristes (10.1)
N-ou-N (1) : Le Pen ou l'Europe (26.4)
Vinf-ou-Vinf ? (1) : Punir ou éduquer ? (4.7)
N, -mais- (1) : Moins d'impôt, mais... (20.7)
øN, -N-et-N (1) : Bush, l'Irak et l'ONU (3.10)
354
フランス語構文型体系における無動詞文の位置づけ:非動詞文分析序説:敦賀
陽一郎
上の Punir ou éduquer ?では疑問のイントネーションが内心性を弱めていると言える。このま
まで動詞文の一構成要素とはなり難いのは明らかである。Moins d'impôt, mais...ではまとまりが
明らかに弱くなっている。しかし,非動詞文としても不完全である。
4.8. 並列内心・外心構造
37
等位関係と並列関係には要素連続構成上の重要な違いはない。どちらも同じ統辞機能を担う
ものをつなげている。
違いは前者には等位接続詞があるのに対して後者にはないので,
その分,
後者では全体のまとまりが弱くなっているということである。この違いは内心と外心との関連
で重要である。
ここでもう一点注意すべきは,並列と両立(compatible)は区別すべきであるということであ
る。例えば,Luc va à Paris, à Genève, à Prague では à Paris, à Genève, à Prague は並列関係にあるが,
Luc va à Prague en été au pont Karel で,Luc,à Prague,en été,au pont Karel は va の周りで等位関
係なしに両立しているのであって並列関係にあるのではないのである。両立関係は外心関係そ
のものであるが,並列関係は基本的に内心関係である。ただ,à Paris, à Genève et à Prague の等
位関係の方が並列よりも内心性が強いという点も注意すべきである。これらの違いが以下の実
例にも明白に現れてくる。
4.8.1. 並列内心・外心構造 N-N
(22)
ここには内心性が(ポーズ,等により)一見弱まってはいない例を挙げる。N-N は基本的に
後続名詞が先行名詞の同格と見なしうる。しかし,名詞の組合せにより,また冠詞の有無,要
素配列順によりこの構造は崩れて外心構造となる。
Joschka superstar は典型的な同格内心名詞句である。しかし,Hypocrite M. Bush は外心で意味
的には M. Bush est hypocrite に近い。内心の M. Bush hypocrite とも勿論区別されることに注意。
Attention surprises ! は être の動詞文による書き換え的説明も出来ないという意味でも一層外心
的である(意味的には Attention aux surprises ! に近いか)。surprises は Attention の同格ではあ
りえない。Guantanamo-Genève は正に単なる並列以外の何物でもないが,同格ではもちろんな
い。この両名詞句の背景的意味から両者の関係は色々考えうるが,この場合,一方が他方にま
とまる内心関係でないことは確かである。両立関係的なものから来る外心構造と見るべきであ
ろう。これは文脈,状況によっては等位に近い並列の内心構造とも十分になりうるということ
である(cf. 内心の L'axe Bush-Poutine と比較のこと)。
冠詞の有無はこれだけでは基本的に内心・外心に影響を与えないが,Villepin l'européen は
東京外国語大学論集第 85 号(2012)
355
Villepin européen よりも外心的であると言えようか。
øN-øN (9) : Joschka superstar (24.9), Jurisprudence Papon (20.9), Hypocrite M. Bush (7.3), Fragile plan
Sharon (23.2), Attention surprises ! (13.2), Daniel Pearl (25.2), " Partenaire Afrique " (11.2),
Guantanamo-Genève (9.2), Raffarin.com (13.8)
N-øN (11) : Le cas Juppé (10.12), La manière Poutine (14.11), Le symbole Delanoë (8.10), Peu de
candidats profs (17.9), Le danger Al-Qaida (11.9), L'étudiant Gritz (7.8), La tache Papon (27.7), Le
bon docteur Chirac (16.7), Le défi Mugabe (15.3), La griffe Raffarin (19.6), Le cas Savimbi (26.2.)
øN-N (1) : Villepin l'européen (23.11)
N-øN-øN (1) : L'axe Bush-Poutine (15.5)
4.8.2. 並列外心構造 N, -N
(15)
ここには表面的にも「ポーズ」により内心的一体性が弱められている例を挙げる。同格でも
一体性は弱められている(cf. 上の 4.8.1.の例と比較のこと)。後続名詞と先行名詞の種別の違
いが大きくなると同格関係は成り立ち得ない。Afghanistan, an II,Milosevic, acte II,等は同格で
はありえない。以下の諸例を見ると動詞構文では様々に異なる 2 名詞間の関係が「N, -N」によ
り表されているのは注目すべきである。例えば,IBM : mauvaise note や Sida, le temps d'agir,等
は動詞文的書き換えで単一の関係に還元するのは不可能である。この辺りは正に非動詞構文が
その柔軟性を発揮しているところである。これは,また,「タイトル」という特殊文脈により
可能になっている点も大きい。
øN, -øN
(6) : Afghanistan, an II (4.12), Milosevic, acte II (13.9), Hôpitaux, urgence (10.9), Danger,
mer infertile (12.6), Tokia Saïfi, ministre (11.5), IBM : mauvaise note (8.3)
øN, -N (8) : Route, le tournant (19.12), PS : le grand débat (21.8), FMI : l'effet Stiglitz (14.8), Sida, le
temps d'agir (9.7), Algérie, 40 ans (1.7), Sécurité, l'autre faute (30.3), Mineurs, le casse-tête (23.3),
Halphen, le symbole (16.1)
N, -øN (1) : Le Pen, version Poujade ? (4.2)
Cf. Italia, fai da te ! (22.3)
4.9. 動詞文
6
「タイトル」には動詞文もありうる。
356
フランス語構文型体系における無動詞文の位置づけ:非動詞文分析序説:敦賀
陽一郎
N-V-N (2) : Ellen sauve le rhum (25.11), AZF, connais pas ! (21.9),
N-se-V (1) : Tout ne se débat pas (25.4)
N-V (2) : La gauche vit encore (18.10), République oblige (7.5)
N-être-àN (1) : Le débat est à droite (2.11)
4.10. 動詞文-[N/Vinf]
2
動詞文の後に名詞句,不定詞が続いている場合である。後続の名詞句,不定詞は内心構造で
あるが,独立文を構成すると言えよう。内容的には後続要素は先行動詞文を言い換えてまとめ
たものである。
Bruxelles renonce à l'équilibre budgétaire en 2004 Le nouveau pacte (26.9)
En 2001, Le Monde continue sa progression et son expansion Poursuivre l'effort (27.5)
4.11. øN-動詞文
2
上の 4.10 の順が逆になった例である。内容的には後続の動詞文が先行名詞を説明したもので
ある。先行名詞は独立文を構成しているというべきか。
Sida : le pire est à venir (27.11)
TV : la qualité se paie (10.8)
5. 文脈中の典型的な事例
以下の 5.1.~5.4. の事例は Le Monde 紙(1974-1975 年度)の 119 日間の社説中のものである。
5.1. 外心的拡張ゼロ
以下の例は外心的拡張を含まないが前後の文脈に従属せずに独立した非動詞文を構成して
いる(当該部分をイタリックで表示)。
次の (1) は,動詞文的解釈に従って,例えば,
先行文を受けて C’est une autre façon de renforcer...
とすれば分かりやすいと言える。長い拡張が続いているが façon を核とする内心名詞句として
まとまっている例である。拡張の長さが文としての独立性を強めている可能性はある。名詞文
による文体的効果(例えば,簡潔さ)も勿論ある。
(1) Une autre façon de renforcer le « noyau » dur de l’entreprise, mais aussi de regarder avec un peu plus
東京外国語大学論集第 85 号(2012)
357
de commisération le dernier venu britannique, qui a mis beaucoup plus d’ardeur pour renégocier les
conditions d’adhésion au Marché commun que pour mettre en ordre ses affaires économiques.
次の例は「名詞句-動詞文」であるが,名詞句は独立文を構成している。意味的には後続の
動詞文は先行名詞句の説明,実例である(cf. 4.11.)。この後続の動詞文との関係が Autres leçons
の独立性を強めている。
(2) Autres leçons : les mêmes ressorts de solidarité ne fonctionnent pas toujours pour faire avancer
l’Europe.
疑問詞(Pourquoi ?:「?」は疑問詞 pourquoi と一体化しているものとみなし,外心的拡張と
はみなさない)はそれだけで非動詞文的独立発話を構成する。これに対する答え(parce que...)
の方も同様である。次の (4) の Tout simplement では tout は simplement と内心的一体をなし,
simplement は parce que... と一体をなす。「副詞+副詞」,「副詞+副詞節」でそれぞれ一まと
まりとなる。副詞は不可欠ではない。
(3) Pourquoi ?
(4) Pourquoi ? Tout simplement parce que, cette fois, les Etats-Unis avaient un autre point de vue sur
le développement des ... solidarités.
次の 2 例は参考例である。ponctuation やイントネーションにより独立した非動詞文とされて
いる例である。書き言葉では長めの副詞節がこのように処理される例は稀ではない。しかし,
これらの副詞句・節は内心構造としてまとまっている。つまり,動詞文内部では一つの統辞機
能を担う形となっている。統辞構造的自律性(= 他に積極的に従属する結合可能性;この場
合は d’autant plus que...,pour... による副詞句・節の明示)が示されている以上,先行文に従属
する副詞句・節とみなす。これらは発音されると先行文に従属すると解釈される可能性は十分
にある。
しかし,
これらも C’est... 等を補って解釈してみると,
それぞれ,
C’est d’autant plus que...,
C’est pour ... の属詞述辞を強調する非動詞文としての分析も十分可能であろう。
Cf. D’autant plus — et c’est la dernière leçon — que l’élargissement du marché commun a nui à son
approfondissement, malgré les voeux de ceux qui avaient souhaité ardemment l’entrée de la
Grande-Bretagne dans l’organisme européen.
358
フランス語構文型体系における無動詞文の位置づけ:非動詞文分析序説:敦賀
陽一郎
Cf. Pour mieux tenir compte, par exemple, des conséquences de l’adhésion de trois nouveaux membres...
5.2. 外心的拡張1
以下の例は外心的拡張が一つ付加されて外心性が出て来ている例である。
次の(5),(6) の例は前置詞句が先行名詞句と緊密な内心構造を形成しにくい例である。
(5) Washington et Pékin contre Moscou.
(6) Une seule ombre au tableau : la persistance de l’hypothèque anglaise.
(7) は Chantage ? が独立非動詞文の例であるが,これに対する答えの Sans doute, et d’une
espèce assez commune も更に一層外心的で独立した非動詞文を構成している(これについては以
下の 5.3. (15) を参照)。
(7) Chantage ? Sans doute, et d’une espèce assez commune.
次の (8) では,Encore heureux は内心的であるが,si... 以下の副詞節は形容詞 heureux に対し
て内心的拡張にはなりえない。(9) も同様で,副詞節 puisqu’il donne... が名詞 Virage とは一体
化しにくい例である。
(8) Encore heureux si, compte tenu de la gravié de la situation, il ne se voit pas obligé de conjuguer les
deux types de mesures.
(9) Virage important, puisqu’il donne désormais la priorité à la lutte non plus contre l’inflation, mais
contre la récession.
次の (10) の副詞 Evidemment も間投詞 non と一体化した内心構造は形成しない。これは「文
副詞」とも呼ばれる副詞で正に文の存在を予告する副詞である。この種の副詞の結合可能性の
根本は他の品詞との内心的一体性を拒否するところにあるといってもいい。
(10) Evidemment non, et c’est bien ce dont ont dû convenir les Américains.
次の (11) は
「名詞 dirigeants+副詞 aussi」
の外心の例である。
pour qui... 以下は先行詞 dirigeants
と内心的一体を構成するが,「ポーズ」や「長さ」もあり,一体性は弱まっているというべき
東京外国語大学論集第 85 号(2012)
359
である。
(11) Les dirigeants de Moscou aussi, pour qui le « traité de paix, d’amitié et de coopération » signé en
août 1971 avec New-Delhi est avant tout destiné à faire pièce à la puissance chinoise et à l’action des
révolutionnaires iraniens.
次は疑問副詞 pourquoi と不定詞 entreprendre との外心構造である。
「Pourquoi+名詞」
(Pourquoi
cela ?)等の場合と同様である。不定詞の拡張はいくら長くなっても内心構造の中に納まる。拡
張の長さは全体の文としての独立性を補強することになる。
(12) Pourquoi ne pas entreprendre cette reconversion progressive des industries d’armement dont M.
Giscard d’Estaing se disait l’avocat, et orienter l’effort d’exportation vers les biens d’équipement, les
machines-outils notamment, qui assurent avec le succès que l’on sait l’excédent du commerce
extérieur de la République fédérale?
5.3. 外心的拡張2
次の (13) は副詞句 cet été と上昇抑揚(?)が先行名詞に対して外心的拡張を構成している。
(13) La conférence paneuropéenne cet été ?
(14) では副詞 Pas と de statuts compliqués が述辞名詞 besoin に対する外心的拡張となる。
besoin
de statuts compliqués は内心構造ともみなしうるが,動詞文 Luc a besoin de cela,等では besoin と
de cela は外心的である点を考慮すべきであろう。
(14) Pas besoin de statuts compliqués : il ne s’agit pas d’une association régie par la loi.
次の (15) の Sans doute に対しては,et も d’une espèce... も外心的に働いている。et も d’une
espèce... も非動詞述辞 Sans doute に係らざるを得ない。つまり,et が等位接続で結びうる要素
間の機能的異質性,d’une espèce... が本来従属すべきものの不在,これらが Sans doute,... 以下全
体の外心性を更に高めていることになる。
(15) Chantage ? Sans doute, et d’une espèce assez commune.
360
フランス語構文型体系における無動詞文の位置づけ:非動詞文分析序説:敦賀
陽一郎
(16) では ce が非動詞述辞を構成している。この場合は先行文と ce が et により等位されて,
ce の文としての独立性はこれだけで保証されている。つまり,文に等位関係で結び付けられる
ものは文となるのである。これに更に外心的拡張 dans un « bain »... が加わっている。(17) も同
様である。
(16) [...], et ce dans un « bain » nationaliste extrêmement pointilleux, qui paraît actuellement tourner à
une solide rancoeur à l’égard de l’étranger.
(17) [...] : et cela pour la raison suivante : [...].
次の (18) では名詞述辞 des rumeurs に外心的拡張 D’où と pour contrer la manoeuvre が係って
いる。(19) も同様で,l’optimisme に de là と aussi が係っている。
(18) D’où pour contrer la manoeuvre, des rumeurs, rapportées complaisamment par ceux qui y avaient
intérêt, selon lesquelles l’Algérie bradait son pétrole.
(19) [...], de là aussi l’optimisme qui se manifeste dans la capitale américaine devant les déboires de M.
Cunhal.
(20) では名詞述辞 Nul doute に外心的拡張 d’ailleurs と qu’une partie... が係る。qu’une partie...
は Nul doute に対して一見名詞的同格に見える(Nul doute que...)が,この que...には「à propos de」
の意味の de が含まれている(Nul doute (de ce) que...)と解釈すべきであろう(cf. On doute (de ce)
que...)。
(20) Nul doute, d’ailleurs, qu’une partie de l’entourage du Caudillo exerce une forte pression sur cet
homme diminué pour qu’il prolonge son règne au maximum... ou qu’il se survive à travers
quelques-uns de ses proches.
以下の例では,(21) dans ces conditions, à ce que,(22) mais, comment,(23) Et, que,のようにそ
れぞれ二つずつの外心拡張が名詞または不定詞述辞に係っている。(22) で ne pas imaginer
comment,(23) で dire quoi とすると,むしろ内心的になることに注意。
(21) Rien d’étonnant dans ces conditions à ce que plusieurs ministres rhodésiens séjournent actuellement
東京外国語大学論集第 85 号(2012)
361
au Cap.
(22) [...] : mais comment ne pas imaginer que l’initiative chinoise inclinera les gouvenements socialistes
les plus soucieux d’autonomie, tel celui de Bucarest, à passer outre aux consignes données par
Moscou ?
(23) Et que dire du problème du sucre et des « quotas » d’importation aux Etats-Unis ?
5.4. 外心的拡張3
以下の例は外心的拡張が三つある場合である。
(24) の mais は等位接続詞であるが,述辞 dialogue に対する外心的要素でもある。この非動詞
文は本来 Le dialogue certes だけで十分に独立性があると言える。
この certes がないと Le dialogue,
mais à condition que... となるが,ここでの mais の働きは名詞述辞 dialogue と副詞節 à condition
que... とを等位関係で結ぶことになる。これは本来拡張である副詞節を強引に独立文と見なす
ことにつながる。正に,à condition que... は強調されて強引につなげられていて,mais c’est à
condition que... のニュアンスが出ている。この意味で à condition que... は(属詞的)述辞の役割
を担っている。こういった一連の関係が名詞述辞の独立性を高めているのである。
(24) Le dialogue certes, mais à condition que le tiers-monde fasse preuve de raison.
次の (25) では,名詞述辞 de salut に外心的拡張の Hors de cette stabilité と pas が係っている。
これに加えて挿入節の pensent... が更に全体の外心性を高めていると言える。この挿入節も外
心的拡張とみなしうる。
(25) Hors de cette stabilité, pensent MM. Giscard d’Estaing et Schmidt, pas de salut.
5.5. Et Luc de partir 型構文
これは「物語体不定詞(Infinitif de narration)」と呼ばれる非動詞文の型である。これが上述
のものと違う点は,
構文の型が定着していて動詞文との比較では説明し難いということである。
意味的には Et Luc de partir は確かに Et Luc part に近いと言えるが,動詞文をどのように変えた
らこの文が出来上がるかを説明することは不可能であろう。この意味で,構文上の連関が全く
ないのである。
ただ,これ迄の分析との関係で言うと,この構文にも外心的拡張(Et,de partir)が二つある
のである。等位接続詞 Et と名詞 Luc が外心関係にあるのはいいとして(cf. 例えば,et Luc は
362
フランス語構文型体系における無動詞文の位置づけ:非動詞文分析序説:敦賀
陽一郎
外心だが Léa et Luc は内心とされることに注意),Luc de partir が完全な外心関係であるという
ことである。この構文の核心はこの点にある。例えば,la décision de partir は内心で décision に
収斂し,動詞文において名詞句が担う統辞機能は全て担うことが出来るが,Luc de partir に単一
の統辞機能(例えば,主辞,直接目的,等)は担いえない。つまり,名詞 N と de-不定詞との
関係ではなくて,N の下位クラスが関係して来ている。
この構文の我々の分析は次のようになる。Et が先行文との等位関係を表すので,これだけで
Luc (de partir)の文としての独立性は多少保証される。更に Et と de partir の Luc に対する外
心性がこれを補強する。つまり,この文の述辞機能は名詞 Luc が担うことになる。よって,de
partir は述辞 Luc の拡張ということになるが,単なる名詞句の内心的拡張である形容詞句ではな
い(cf. Et Luc qui part の qui part は内心的)。動詞文的発想に従うと,この文の述辞は意味的に
も不定詞の partir ということになるのではなかろうか。そうではない点がこの構文の特徴であ
るというのが我々の分析である。より端的には,Et は先行動詞文と名詞 Luc を等位関係で結ん
でいるので Luc が文の資格を与えられている典型的な名詞文(非動詞文の一種)なのである。
前置詞 de は機能指示詞の結合可能性を保っていて,de-Vinf はあくまでも拡張で他要素に従属
する自律化連辞(syntagme autonomisé)である。(以下の例では当該部分に下線を付す。)
(26) “Il faut tout le génie de Rossini, écrit un contemporain, pour composer un macaroni parfait. Et si
l'on savait quelle active surveillance, quels soins minutieux exige ce mets délicieux, on renoncerait à des
contrefaçons déplorables qui déshonorent la cuisine française.” Et le commentateur de conclure : “Sans
doute, ce n'est pas parce qu'il épousa sa cuisinière qu'il doit prendre place au panthéon des gastronomes.
Rossini, amateur de mets délicats, cherchait à les préparer lui-même.”
上の (26) で先行文と le commentateur が Et により等位関係で結ばれている。de conclure は意
味的にはむしろ qui conclut に近いと言える
(ただし,
qui conclut は内心的): Et le commentateur qui
conclut : “Sans doute, ... ”。 次の (27) も同様である。
(27) Après une chute en 1991, le taux de mortalité infantile (24 pour 1 000) progresse de nouveau, la
Roumanie n'étant dépassée à l'est que par l'Albanie. Et le rapport de conclure : “Le niveau de vie est
entré dans un processus de dégradation rapide et continue avec une explosion de la misère.”
次の (28) は勿論当該構文ではない。quel plaisir de passer... は内心構造であるが,「quel + N」
はこれだけで感嘆の非動詞文を構成する。Mais が外心的に独立性を更に補強すると言えよう。
東京外国語大学論集第 85 号(2012)
363
(28) En ce sens, “Sous la couverture” ressemble plus à une discussion de bonnes femmes devant une
tasse de thé qu'à un débat d'intellectuels. Mais quel plaisir de passer de Truman Capote à Saint-Exupéry,
des dessins de Sempé aux “perles” [...].
結論
統辞論において先ず問題になるのは文の構造である。本来統辞論は文内部の要素間の関係を
分析対象とする。文構造の中心は文の核たる述辞核が組織する構造である。フランス語の述辞
核は主として動詞クラスの記号素が担っている。しかし,フランス語には動詞記号素(定動詞)
を含まない文も確実に存在する。よって,動詞文と非動詞文とがフランス語の文の体系を構成
していることになる。
体系とは文の型の体系のことである。一定数の限られた数の型が文構成の基にあり,これに
従って個別の文は作られる。フランス語では動詞文の型が体系を圧倒していると言っていい。
この動詞構文型の体系には大きく分けて,他動詞構文を始めとして,9 種の構文下位クラスが
ある。これらの中心核の部分には何らかの形で動詞要素が含まれていて,9 種の特徴づけには,
主辞,直接目的,間接目的,属詞,非人称主辞,連辞的中心核の諸統辞機能,代名動詞構文,
受動態,等が関わっている。これに非動詞文の型が加わって 10 種になる。10 種のそれぞれの
型は更に下位分類され多くの下位クラスの構文型を組織することになる。
今問題になっている 10 種の型が大きく二つに分かれることに注目しよう。
動詞文と非動詞文
である。これらは大きく異なるが,全体で一つの構文型体系を構成している以上,関係しあっ
ていない訳はない。先ず,文を構成する意味単位である記号素は共通である。次に記号素が属
するクラスである品詞,クラスを構成する下位クラスは共通でクラスの基にある結合可能性
(combinabilité)も当然共通である。それから,特に注目すべきは,意味単位の結合の中の一つ
の中心に収斂する内心性(endocentricité),一つには収斂しない外心性(exocentricité)も共通
である。こういったものは共通でなければ一つの言語は機能しえない。
それでは何が異なっているのであろうか。それは正に型の構成原理が違っているのである。
つまり,上述の動詞文を特徴付ける諸概念は非動詞文においては一切使用できないということ
になる。例えば,非動詞文 Chauds, les marrons ! の型を特徴付けるにあたって,主辞や属詞とい
った概念を使用できるであろうか(直接目的,受動態,等は問題外であるが)。これまでの非
動詞文研究においても Chauds が属詞,les marrons が主辞とする分析に近いものがある。しか
し,このような分析では非動詞文を動詞文の不完全なもの(例えば,Les marrons sont chauds ! の
être(sont)が欠けたもの)とすることになってしまうだろう。
364
フランス語構文型体系における無動詞文の位置づけ:非動詞文分析序説:敦賀
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我々の分析では Chauds は述辞
(この機能は文の中心という意味であらゆる文に不可欠な一般
統辞論的概念)であり,les marrons はこの構文型を特徴づけるのに不可欠な外心的拡張になる。
この拡張の機能は動詞文の中で定義されている主辞ではないし,勿論,属詞でもない。Les
marrons chauds は単なる内心的な名詞句で chauds は付加形容詞(épithète)である。Les marrons,
chauds ! は内心性が弱くなり,Chauds, les marronds ! は外心的になる。形容詞 chauds は les
marrons に対して外心的関係になることにより述辞機能を担うことになる。Chauds を述辞とす
るのは,形容詞の結合可能性(=関係的記号内容)として「他要素(特に名詞)を積極的に限
定する」ということと「コピュラ(être,等)に助けられて属詞として働く」があるからである。
(Cf. しかし,動詞文の Les marrons sont chauds においても chauds は形式的には連辞中心核であ
る sont へ向かっていることに注意。例えば,Les marrons le sont と比較のこと。)これに対して,
名詞(les marrons)は「積極的な結合可能性(=他に積極的に従属する可能性)」は持ってい
ないのである。勿論,コピュラなしの非動詞文 Chauds, les marrons ! において Chauds は属詞で
はない。動詞文 Les marrons sont chauds では,sont の存在により chauds は明確に外心的属詞(=
述辞)となっている。
非動詞文の分析では要素配列順にも関係する外心性に特に注目すべきである。大半の主な非
動詞文の型において外心性の果す役割は大きい。上例でも Les marrons chauds ! は独立した文に
なりうるが,この独立性は Les marrons ! の独立性と同等である。Chauds, les marrons ! とする
ことにより,内心性は崩れ外心構造となり,動詞文の単なる一部である名詞句ではないことが
明示されることになる。
文は,
中心核である述辞に直接に従属する一次機能の要素よりなるが,
これらの要素のそれぞれは均質な内心的まとまりをなしている。内心性とは「まとまった一部
分」を代表し,外心性はとは正にそのような「一部分ではない」ことを表す形式的特徴である。
これらは文分析を通じて抽出された構造統辞論の重要な古典的概念である。この形式的関係事
実は動詞文であれ非動詞文であれ,文構成の関係を取り扱う際には常に有効な概念であること
を想起すべきである。
本研究の実例調査には Paris-Est Marne-la-Vallée 大学の IGM-LADL 研究所の構文解析プログラ
ム Unitex と実例資料分類を利用させて頂いた。研究所の全研究員に記して謝意を表明する。な
お,この分析は一部日本学術振興会科学研究費基盤研究 (C)(課題番号 22520422)の補助を受
けている。
東京外国語大学論集第 85 号(2012)
365
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資料
Le Monde 1974-75, 1994, 2002.
東京外国語大学論集第 85 号(2012)
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Le statut des phrases sans verbe dans le système
des types de construction phrastique en français :
Introduction à l’analyse des phrases averbales
TSURUGA Yoichiro
La syntaxe a comme principal objet la structure de la phrase. La syntaxe, à proprement parler,
analyse les relations entre les éléments à l’intérieur de la phrase. La majeure structure phrastique est celle
qu’organise le noyau prédicatif qui est le centre de la phrase. Le noyau prédicatif est principalement
assumé par les monèmes de la classe verbale. Il existe, pourtant, en français, assurément des phrases qui
ne contiennent aucun monème verbal (= verbe fini). Par conséquent, les phrases verbales et averbales
constituent le système des phrases françaises.
Le système est celui des types de phrase. Un nombre limité de types est à la base de la
constitution phrastique, selon lesquels chaque phrase individuelle est composée. En français, on peut le
dire, les types de phrases verbales occupent largement et incontestablement tout le système. Dans ce
système des types de phrases verbales, il y a, regroupées en gros, 9 sous-classes, à partir de celle des
verbes transitifs. Les noyaux centraux de la construction de ces 9 sous-classes comprennent sous une
forme quelconque un élément verbal. La caractérisation de ces sous-classes est faite par les fonctions
syntaxiques (sujet, objet direct, objet indirect, attribut, sujet impersonnel, centre syntagmatique
actualisateur), la construction des verbes pronominaux et la voix passive, etc. À ces 9 sous-classes
s’ajoute le type de phrase averbale. Il y a ainsi au total 10 sous-classes. Ces sous-classes sont chacune
encore sous-classées en détail et organisent leurs sous-classes inférieures.
Remarquons que les 10 sous-classes en question sont divisées en 2 groupes : les phrases verbales
et celles qui sont averbales. Elles diffèrent profondément mais puisqu’elles constituent ensemble tout
un système de types de construction, elles ont nécessairement des relations étroites entre elles. Tout
d’abord, les monèmes qui sont des unités minimales significatives formant des phrases doivent être
communs. Ensuite, les parties du discours auxquelles appartiennent les monèmes, soit les classes de
monèmes et leurs sous-classes sont communes, et les combinabilités qui sont à la base des classes et des
sous-classes sont nécessairement identiques. Enfin, il convient surtout de remarquer l’endocentricité qui
représente la nature du groupe des monèmes qui convergent vers un seul noyau et l’exocentricité, celle
フランス語構文型体系における無動詞文の位置づけ:非動詞文分析序説:敦賀
368
陽一郎
du groupe des monèmes qui ne convergent pas vers un seul. Elles sont bien sûr communes dans tout le
système. Si ces facteurs n’étaient pas communs, une langue ne pourrait jamais fonctionner.
Qu’est-ce qui est différent alors ? C’est justement les principes de constitution du type phrastique
qui diffèrent profondément. Cela signifie qu’aucun des divers concepts énumérés ci-dessus qui
caractérisent les phrases verbales ne peut être utilisé dans l’analyse des phrases averbales. Par exemple,
dans l’analyse de la phrase averbale Chauds, les marrons!, pourrait-on recourir aux notions « sujet » et
« attribut » (sans parler, bien sûr, de l’objet direct ni de la voix passive, etc.) ? Parmi les analyses des
phrases averbales qui ont été effectuées jusqu’ici, il y en a qui ne sont pas loin de celle qui considère
Chauds comme attribut et les marrons comme sujet. Mais les analyses de ce genre considéreraient
finalement les phrases averbales comme quelque chose, d’incomplet ou d’elliptique, des phrases
verbales : Chauds, les marrons! serait une variante de Les marrons sont chauds! où manquerait le verbe
être (sont).
Selon notre analyse, Chauds est le prédicat (cf. la notion de « prédicat » est indispensable, comme
centre de l’organisation phrastique, au niveau de la syntaxe générale) et les marrons est une expansion
exocentrique indispensable qui caractérise ce type de phrase averbale. Il est évident que la fonction de
Chauds n’est ni attribut ni sujet. Les marrons chauds n’est qu’un syntagme nominal endocentrique, Les
marrons, chauds! est moins endocentrique et Chauds, les marrons! est exocentrique. L’adjectif Chauds
assume le prédicat quand il a une relation exocentrique par rapport au nominal Les marrons.
Dans l’analyse des phrases averbales, il importe de remarquer surtout l’exocentricité qui est
étroitement liée à l’ordre des éléments aussi. Dans la plupart des importants types de phrase averbale,
l’exocentricité joue un rôle décisif surtout concernant leur indépendance phrastique. L’énoncé Les
marrons chauds! pourrait être un énoncé indépendant, mais cette indépendance serait au même niveau
que celle de Les marrons! L’énoncé Chauds, les marrons! ne garde plus l’endocentricité, ce qui
manifeste clairement qu’il ne s’agit plus d’une partie constituante de la phrase verbale.
La phrase est constituée par les constituants de fonction primaire qui sont directement subordonnés
au noyau prédicatif, et chacun de ces constituants forme un ensemble endocentrique cohérent.
L’endocentricité et l’exocentricité sont les caractéristiques formelles d’un groupe de monèmes qui
représentent l’une « une partie » et l’autre « non une partie ». Ce sont les importants concepts classiques
de la syntaxe structurale qui sont dégagés à travers l’analyse de différentes phrases. Ces faits formels et
relationnels sont communément opératoires dans l’analyse des phrases verbales et averbales.
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