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放送通信融合環境における帯域幅を考慮したスケジューリング手法
DEIM Forum 2016 B8-4 放送通信融合環境における帯域幅を考慮したスケジューリング手法 後藤 佑介† 義久 智樹†† † 岡山大学大学院自然科学研究科 〒 700–8530 岡山県岡山市北区津島中 3–1–1 †† 大阪大学サイバーメディアセンター 〒 567-0047 大阪府茨木市美穂ヶ丘 5–1 E-mail: †[email protected], ††[email protected] あらまし 近年の放送通信融合環境の普及にともない,放送と通信を同時に利用して,音声や映像といった連続メディ アデータを配信する技術への注目が高まっている.放送通信融合環境における連続メディアデータの配信では,クラ イアントは,放送チャネルを用いた放送型配信でデータの一部を受信しながら,通信チャネルを用いたオンデマンド 型配信で残りの部分を受信することで,データ再生時に発生する待ち時間を短縮できる.我々の研究グループでは, 放送型配信およびオンデマンド型配信それぞれについて,データを複数の部分に分割した上でどのようにクライアン トに配信するかを決定するスケジューリング手法を提案してきた.本研究では,放送通信融合環境において,帯域幅 を考慮したスケジューリング手法を提案する.提案手法では,サーバは,クライアントの再生レートとサーバが使用 できる放送チャネルの帯域幅を考慮して配信スケジュールを作成することで,クライアントは再生時の待ち時間を既 存手法に比べて短縮できる. キーワード 放送通信融合環境,スケジューリング手法,帯域幅 1. は じ め に デジタルネットワーク技術の急速な発達 [1] により,音楽や 映像といった連続メディアデータを受信しながら再生するスト リーミング配信が注目されている.ストリーミング配信では, 下,放送通信融合環境)に関する研究が行われている.放送通 信融合環境では,クライアントは放送チャネルと通信チャネル の両方を用いてサーバからデータを受信することで,待ち時間 を短縮する. これまでの研究では,サーバは放送型配信で連続メディア クライアントが連続メディアデータの受信をサーバに要求する データを構成する複数のセグメントを順番に繰返し配信し,ク と,サーバは連続メディアデータを複数の部分(以下,セグメ ライアントは,受信を要求した時刻より後のセグメントを放送 ント)に分割してクライアントに配信する.連続メディアデー 型配信で受信しながら,受信要求時刻より前に配信していた前 タは再生中に途切れが発生しない一続きのデータであるため, 半部のセグメントをオンデマンド型配信で受信することで,待 サーバは,クライアントが最後まで途切れなく再生できるよう ち時間を短縮していた.しかし,サーバが使用できる帯域幅に にデータを配信することが重要になる. 上限があり,連続メディアデータの配信に必要な帯域幅を下回 クライアントは,現在再生しているセグメントの再生終了時 る場合,セグメントの配信時間が再生時間を上回るため,セグ 刻までに次のセグメントの受信を完了できない場合,再生が メントの再生が終了するたびに中断が発生し,待ち時間は長大 中断する.そこで,この待ち時間を短縮するさまざまな手法が 化する. 提案されている [2], [3], [4], [5], [6], [7].これらの手法は,放送を そこで本研究では,放送通信融合環境において,帯域幅を考 用いる手法(以下,放送型配信)と通信を用いる手法(以下, 慮したストリーミング配信の待ち時間短縮手法を提案する.提 オンデマンド型配信)の二つに分類される.放送型配信では, 案手法では,サーバが使用できる帯域幅に制限がある状況で, サーバは一定の帯域幅で複数のクライアントにデータを繰返し 連続メディアデータを複数の部分に分割して,論理的に分割し 配信することでサーバの負荷を軽減できるが,クライアントは た複数の放送チャネルで配信する分割放送型配信を用いる.そ 受信を要求してから再生を開始するまで待つ必要がある.一方, の上で,放送チャネルで配信するセグメント数を決定するスケ オンデマンド型配信では,サーバはクライアントの視聴要求に ジューリング手法を用いることで,これまでの配信方式に比べ 応じてセグメントを送信することで,クライアントは所望する て待ち時間を短縮する. データをすぐに再生できる.しかし,サーバはデータを要求す るクライアントごとに送信する帯域幅を確保するため,クライ アントの視聴要求が集中する人気番組を送信する場合,必要と なる帯域幅が使用できる帯域幅を上回り,クライアントの待ち 時間は長大化する. 放送と通信それぞれのシステムにおける問題点は,相補的な 2. 放送通信融合環境 2. 1 概 要 対象とする放送通信融合環境について述べる.放送通信融合 環境におけるストリーミング配信システムでは,クライアント は,放送チャネルと通信チャネルを両方使用してデータを受信 関係である.そこで,サーバが放送型配信とオンデマンド型配 する.1. で説明したように,セグメントはデータの分割単位で 信の両方を使用してクライアントにデータを配信する環境(以 あり,クライアントはセグメントごとにデータを再生する. 放送サーバ 配信側 通信サーバ Internet Broadcasting クライアント Communication クライアント クライアント 図1 クライアント オンデマンド型配信 図3 ハイブリッド型配信 増加する.通信に必要となる帯域幅が使用できる帯域幅を上回 ると,サーバにデータの受信を要求する新たなクライアントに 対して帯域幅を確保できず,待ち時間は長大化する. 3. 3 放送型配信 放送型配信でサーバがデータを配信する様子を図 2 に示す. 放送型配信は,マルチキャストを用いて,あらかじめ指定した 複数のクライアントに同じ動画データをまとめて配信する方式 である.サーバは一定の帯域幅でデータを配信でき,クライア 図2 放送型配信 ントの数が増加しても配信サーバの処理負荷や使用する帯域幅 の増加を抑制できる.一方で,クライアントは,データの受信 放送通信融合環境で利用される放送システムで行われるスト を要求してから再生を開始するまでの間に待ち時間が発生する. リーミング配信は,さまざまな方式が考えられる.本研究では, 3. 4 ハイブリッド型配信 待ち時間を短縮するニアオンデマンド型のストリーミング配信 放送通信融合環境において,放送チャネルと通信チャネルを を想定する.ニアオンデマンド型では,複数の放送チャネルを 同時に利用してクライアントにデータを配信するハイブリッ 用いて各チャネルでセグメントを繰返し配信する分割放送型配 ド型配信について説明する.ハイブリッド型配信のネットワー 信を用いることで,クライアントが最初のセグメントを受信で ク構成を図 3 に示す.ハイブリッド型配信のネットワークは, きる機会が増え,待ち時間を短縮できる.分割放送型配信は, サーバとクライアントで構成される.ハイブリッド型配信では, 電波放送や IP マルチキャストといった放送形態を想定してお サーバはデータを複数のセグメントに分割して,クライアント り,マルチキャストによる比較的単純な放送でも利用できる. に配信する. 一方,通信システムで行われるストリーミング配信もさまざ ハイブリッド型配信では,サーバはネットワークに接続して まな方式が考えられる.本研究では,サーバ・クライアント型 いるすべてのクライアントを管理し,放送チャネルを用いてす のストリーミング配信を想定して,サーバはクライアントの要 べてのクライアントにデータを繰り返し配信する.また,クラ 求ごとに帯域幅を確保した上で,クライアントが所望するセグ イアントがサーバにデータを要求すると,サーバはデータを複 メントを順番に送信する. 数のセグメントに分割した上で,通信チャネルを用いてクライ 3. データ配信方式 アントに送信する.このときクライアントは,サーバからセグ メントを受信してバッファに保存し,データの最初のセグメン 3. 1 サーバ・クライアント間のデータ配信 従来のサーバとクライアントで構築されたネットワーク環境 におけるデータ配信方式は,オンデマンド型配信と放送型配信 の二つがある.以下で順番に説明する. トを受信すると,再生を開始できる. 3. 5 データ配信方式の比較 3. 2, 3. 3, および 3. 4 節で説明した配信方式の特徴を表 1 に 示す.オンデマンド型配信では,サーバはクライアントからの 3. 2 オンデマンド型配信 受信要求に応じて直ちにクライアントにデータを送信できる オンデマンド型配信でサーバが動画データを配信する様子を が,クライアント数に比例してサーバの処理負荷や使用する帯 図 1 に示す.オンデマンド型配信では,サーバはデータの受信 域幅は増加する.次に,放送型配信では,サーバの処理負荷や を要求するクライアントごとにチャネルを設定し,チャネルの 使用する帯域幅の増加を抑制できるが,クライアントのデータ 帯域幅を確保してデータを配信する.一方で,クライアントの 受信時に待ち時間が発生する.最後に,ハイブリッド型配信で 数に比例して,サーバの処理負荷や通信に必要となる帯域幅は 表1 配信手法 オンデマンド型配信 放送型配信 ハイブリッド型配信 C1 C2 C3 C4 C5 C6 153.9 (0.83 Mbps)・・・ ・・・ (0.83 Mbps) ・・・ (0.83 Mbps) (0.83 Mbps)・・・ ・・・ (0.83 Mbps) ・・・ (0.83 Mbps) Time クライアント が再生して いる様子 (5.0 Mbps) 各配信方式の特徴 長所 クライアントの受信要求に応じて 直ちに送信可能 サーバの処理負荷や使用する帯域 幅の増加を抑制 オンデマンド型配信および放送型 配信の長所をもつ. 秒 クライアントがデータの受信要求を出してから再生が終了す S1 S1 S1 S1 S1 S1 S1 ・・・ S2 S2 S2 S2 ・・・ S2 ・・・ S3 S3 S3 S4 S4 ・・・ S5 S5 ・・・ ・・・ S6 S6 t0 t1 再生 開始 待ち 時間 短所 クライアント数に比例して処理負 荷や使用する帯域幅が増加 クライアントのデータ受信時に待 ち時間が発生 データの配信処理が複雑 るまでの様子を図 4 に示す.理解しやすい例として,ここでは, サーバが BE-AHB 法 [8] を用いて 6 分割し,計 6 つのチャネ ルで放送する場合を考える.映像データは MPEG-2 で符号化 されており,データの再生時間は 240 秒とする.BE-AHB 法で は,各チャネルの帯域幅はすべて等しい.使用するチャネルを C1 , · · · , C6 とし,使用できる帯域幅を 5.0 Mbps とすると,各 チャネルの帯域幅は C1 = · · · = C6 = 5.0/6 = 0.83 Mbps とな t2 S1 S2 S3 S4 S5 S6 秒 240 図 4 途切れが発生しない配信スケジュール例(BE-AHB 法) る.再生レートは 5.0 Mbps とする.S1 は,連続メディアデー タを S1 , · · · , S6 に 6 分割したときの 1 番目の部分であり,再 生時間が 25.5 秒のデータである.また,S2 は再生時間が 29.8 秒となり,S6 は再生時間が 55.3 秒のデータとなる.S1 , · · · , S6 のデータサイズは,数式で与えられる [8].C1 では,再生時間 が 25.5 秒で再生レートが 5.0 Mbps の S1 を 0.83 Mbps の帯 は,サーバがオンデマンド型で送信しながら放送型で配信する ことで,オンデマンド型配信と放送型配信の長所をもつ.一方 で,データの配信処理は複雑になるため,サーバが使用できる 帯域幅や再生レートといったネットワーク条件を考慮したスケ ジューリング手法が必要となる. 4. 関 連 研 究 域を用いて放送するため,25.5 × 5.0/0.83 = 153.9 秒ごとに繰 り返して放送する.同様に,C2 では 29.8 × 5.0/0.83 = 179.5 秒,C6 では 55.3 × 5.0/0.556 = 333.1 秒ごとに繰り返して放送 する.BE-AHB 法の場合,最初のセグメントの受信が完了した 後で再生を開始するため,6 分割して放送する場合の待ち時間 は S1 の受信時間のみとなり,153.9 秒となる.分割せずに放送 する場合,再生時間が合計 240 秒で再生レートが 5.0 Mbps の 4. 1 スケジューリング手法 データを 5.0 Mbps の帯域を用いて放送するため,240 秒ごと 4. 1. 1 分割放送型配信 に繰り返して放送することになり,待ち時間は 240 秒となる. 放送型配信では,クライアントがデータの受信をサーバに要 このため,6 分割したときの平均待ち時間は,分割していない 求してから受信を完了するまでの間に待ち時間が発生する.受 場合に比べて (240 − 153.9)/240 × 100 = 35.9% 短縮できる. 信要求からデータの最初の部分を受信するまでの間は受信開始 を待つため,データを繰り返して放送している場合,この待ち 4. 1. 2 放送通信融合環境 放送通信融合環境において,待ち時間を短縮する研究はいく 時間は,連続メディアデータの受信時間分発生する.例えば, つか行われている.Unified Video-on-Demand (UVoD) [9] 法 受信に 60 分かかる連続メディアデータを 1 つのチャネルで受 は,複数の放送チャネルを使用して,同じデータを繰り返し放 信する場合,60 分の待ち時間が発生する.このため,一般的に 送する.チャネルごとにデータの最初の部分の放送開始時刻を は,連続メディアデータを分割して,初めの部分を頻繁に放送 ずらすことで,クライアントが再生を開始できる機会を増加さ することで,待ち時間を短縮している.このような放送形式を せ,待ち時間を短縮する.また,待ち時間をより短縮するため 分割放送型と呼ぶ.分割放送型では,連続メディアデータをい に,次の放送開始時刻までの待ち時間が長い場合,もしくはあ くつかのセグメントに分割し,複数の放送チャネルを用いて放 る再生端末が要求したデータを別の再生端末がもっているとき, 送する.サーバは,データの初めの部分のセグメントを頻繁に 通信帯域を使用してデータをもっている端末からユニキャスト 放送することで,クライアントの待ち時間を短縮する.このよ で受信できる. うな放送形態は,電波放送や帯域が保証された IP マルチキャ ストといった放送を想定している. Super-Scaler VoD [10] 法は,UVoD 法の改良版である.デー タの最初の部分が放送されるまでの時間があらかじめ設定した 分割放送型では,クライアントのデータ再生中に途切れが発 待ち時間より長い場合,同じデータを要求している複数の再生 生しないようにスケジューリングすることが重要である.これ 端末にマルチキャストすることで,データを配信する.サーバ までの研究では,クライアントが使用できる帯域幅を用いて, は一度ですべてのクライアントにデータを配信できるため,人 複数のチャネルから同時に受信することで,途切れのない再生 気がある番組のデータに対して,配信効率は UVoD 法よりも を実現していた.このことについて,以下に説明する. 向上する. 表2 記号 4. 1. 3 ハイブリッド型配信 Neighbors-Buffering Based VoD (NBB-VoD) 法 [11] では, 定式化のための変数 説明 N セグメント数 Si B セグメント,1 < =i< =N サーバが放送で使用する帯域幅 di Si のデータサイズ ti Ci で配信する Si の放送周期 る.他のクライアント端末が既に所望のデータをもっている場 r 再生レート 合,クライアントはこの端末からデータを受信する.また,す TA クライアントは放送型配信でサーバからデータを受信しなが ら,他のクライアントと端末間で接続してデータセグメントを 受信する端末伝送型配信を想定することで,待ち時間を短縮す Dtotal べてのクライアント端末が所望のデータをもっていない場合, クライアントはサーバから通信チャネルを用いてデータが配信 される. 再生開始待ち時間 連続メディアデータの合計データサイズ Db 放送チャネルで配信するデータサイズ Dc 通信チャネルで配信するデータサイズ 上記のように,待ち時間を短縮される手法はいくつか提案さ れてきた.しかし,放送と通信それぞれのチャネルで配信する ジュールを考慮して,放送と通信の二つの配信スケジュールを セグメントを決定するスケジューリング手法はこれまで提案さ 同期させることで,クライアントはサーバからどのセグメント れていなかった. を配信するかをスケジューリングできる. 我々の研究グループでは,放送型配信において待ち時間を短 縮するスケジューリング手法をいくつか提案してきた [12], [13]. 5. 提 案 手 法 また,通信で用いているストリーミング配信において,待ち時 5. 1 概 要 間を短縮するスケジューリング手法も提案してきた [14], [15]. 放送通信融合環境における帯域幅を考慮したスケジューリン 放送と通信それぞれについて,データ受信で発生する待ち時間 グ手法として,Division-based Hybrid Broadcasting (DHB) を短縮するスケジューリングはこれまで検討してきたが,放送 法を提案する.提案手法では,サーバが使用できる帯域幅に制 型配信とストリーミング配信を組み合わせてデータを受信する 限がある状況で,分割放送型でデータを配信することで,放送 場合のスケジューリングは考慮していない. チャネルを用いてできるだけ多くのデータを配信する.このと 4. 2 データ配信システム き,再生開始待ち時間を事前に設定し,途切れのない再生に必 4. 2. 1 放送型配信システム 要なセグメントの受信時間が再生開始待ち時間を上回る場合は, 分割放送型による放送型配信システムとして,T eleCaS [16] 通信チャネルを用いて配信することで,再生開始待ち時間が一 が挙げられる.T eleCaS では,付加情報を考慮してデータの 定値以下になるようにスケジューリングする. 配信契機を同期する方式,クライアントがセグメントを途中か 5. 2 想 定 環 境 ら受信できる方式,および逐次再生に対応する方式を実現する 本手法を提案するにあたって,想定する環境を箇条書きで ことで,データの配信時に発生する待ち時間や途切れ時間を短 縮できる. ま た ,選 択 型 コ ン テ ン ツ の 放 送 型 配 信 シ ス テ ム と し て , Corne [17] が挙げられる.選択型コンテンツでは,コンテ ンツの視聴順序が複数に分岐しており,ユーザの嗜好に合わせ てコンテンツを選択し,視聴することを想定している.選択型 コンテンツの例として,ユーザの選択に応じて正解のコンテン ツと不正解のコンテンツに分岐する択一式のクイズ番組が挙げ られる.Corneは,制御情報が配信スケジュールに影響を与え る問題に対処したデータの配信契機を同期する方式,および逐 次再生に対応する方式を実現することで,実際のネットワーク 環境を考慮して選択型コンテンツを配信できる.また,Corne は選択型コンテンツの放送型配信において多くのスケジューリ ング手法 [18], [19] を適用可能である. 4. 2. 2 ハイブリッド型配信システム 示す. • 放送システムは放送型配信を行う. • 通信システムはサーバ・クライアント型でストリーミン グ配信を行う. • 放送システムと通信システムがそれぞれ使用できる帯域 幅の合計には上限がある. • クライアントは,放送システムと通信システムの両方か らデータを受信できる. • クライアントは,再生するストリーミングデータを構成 するすべてのセグメントを保存できる. • クライアントは,ストリーミングデータを最初から最後 まで早送りや巻き戻しをせずに再生する. • クライアントは,セグメントを受信完了と同時に再生で きる. 想定する放送システムとして地上波デジタル放送が考えられ 放送通信融合環境におけるハイブリッド型配信システムと る.また,通信システムでは,インターネットを用いたデータ して, Brossomを実現してきた [20], [21].Brossomでは, 配信を想定している.地上波デジタル放送は複数の放送チャネ データの再生に必要となるデータ量をバッファに格納できれば, ルを用いたニアビデオオンデマンド配信が可能である.また, すべてのデータの受信が完了していなくても再生を開始できる インターネットを用いたストリーミング配信は既に行われてお 逐次再生方式により,クライアントはバッファサイズに応じた り,このような放送通信融合環境は現実的である. 配信スケジュールを作成できる.また,サーバからの配信スケ Time 58.14 C1 ・・・ (3.0 Mbps) C2 (3.0 Mbps) C3 (3.0 Mbps) 秒 Time S1 S1 S1 S1 S1 ・・・ S2 ・・・ S3 S2 S2 93.02 秒S 3 配信データ受信要求 148.84 クライアント が再生して 待ち時間 いる様子 ・・・ ・・・ ・・・ 秒 S1 S2 S3 (5.0 Mbps) C1 (3.0 Mbps) C2 (3.0 Mbps) C3 (3.0 Mbps) 30 秒 ・・・ S1 S1 S1 S1 S1 ・・・ S2 ・・・ S3 ・・・ S2 S2 48.0 ・・・ 秒S ・・・ 3 配信データ受信要求 76.8 クライアント が再生して 待ち S いる様子 時間 1 S2 S3 秒 通信チャネル から受信 (5.0 Mbps) 34.9 秒 55.8 秒 89.3 秒 図 5 BE-AHB 法の配信スケジュール例 18.0 秒 28.8 秒 46.1 秒 87.1 秒 図 6 提案手法の配信スケジュール例(再生開始待ち時間: 30 秒) 5. 3 スケジューリング手順 とし,5.0 Mbps の動画データ (r = 5.0 Mbps) を放送する場 提案手法のスケジューリング手順を示す.提案手法では,ク 合を考える.放送に使用できるチャネルの数は 3 とし,データ ライアントの受信要求時刻に応じて,各セグメントの受信開始 の再生時間は 180 秒とする.5. 3 節のスケジューリング手順に 時刻と受信終了時刻を算出する.また,本研究で用いる記号を より,S1 の受信時間が 30 秒になるようにスケジューリングす 表 2 に示す. る.このとき,データの後半部となる 87.1 秒分は通信チャネ ルで受信することで,再生開始時間が一定値以下になるように ( 1 ) 連続メディアデータを N 個のセグメント Si (1 < =i< = N) に分割する. スケジューリングする. 6. 評 ( 2 ) 帯域幅が等しい N 個の放送チャネル Ci (1 < =i< = N) を 用いて,C1 で配信する S1 の放送周期 t1 を以下の式で与 価 6. 1 評 価 環 境 提案手法 DHB 法の性能評価を行う.ユーザが連続メディア える. データの視聴を要求してから再生が開始されるまでの待ち時間 t1 = T {(1 + B N ) Nr − 1} ( 3 ) t1 < = TA であれば,(5) へ.そうでなければ,(4) へ. ( 4 ) t1 = TA となるように,Si のデータサイズ di を求め,放 送チャネルで配信するデータサイズ Db ならびに Dc を以 設定して放送と通信の両方でデータを受信することで,サーバ の処理負荷を軽減できる.本節では,既存手法と比べて DHB 法の待ち時間が短縮されることを示し,DHB 法の有効性を示 す.評価は計算機シミュレーションで行った. 初めに,DHB 法と既存のスケジューリング手法である BE- AHB 法を用いて,使用できる帯域幅とセグメント数の変化に 下の式で与える. Db = {(1 + が短いほど,ユーザは満足する.一方で,再生開始待ち時間を B N ) − 1} × r × TA Nr 応じた待ち時間の変化を示す.次に,放送チャネルのデータ配 信割合の変化について評価する. 6. 2 待 ち 時 間 Dc = Dtotal − Db ( 5 ) Ci で Si を繰返し配信する. 使用する帯域幅や分割するセグメント数に応じて待ち時間が 変化するため,平均待ち時間の長さを考慮したうえで,使用す る帯域幅を決定することが考えられる.そこで,帯域幅を変化 させた場合の平均待ち時間の評価を行った.使用する帯域幅と 5. 4 具 体 例 セグメント数をそれぞれ変化させた場合の評価結果を図 7, 8 に 図 5 に,再生開始待ち時間を考慮せずに配信する場合の配信 示す.横軸は,図 7 では使用する帯域幅,図 8 ではセグメント スケジュールを示す.既存手法である BE-AHB 法を用いて, 数である.縦軸は,待ち時間である.図 7 で用いるセグメント 再生中に途切れが発生しないようにスケジューリングする.図 数は 5,図 8 で用いる放送チャネルの帯域幅は 12.5 Mbps と 5 ではすべてのデータを放送チャネルで配信できるが,待ち時 する.“DHB” は,提案手法 DHB 法の場合,“BE-AHB” は, 間は 58.14 秒発生する. 既存手法 BE-AHB 法の場合である. 次に,再生開始待ち時間が 30 秒に制限されている状況で, 図 7 より,帯域幅の増加にともない待ち時間は短縮する.使 提案手法で配信する場合のスケジューリング例を図 6 に示す. 用できる帯域幅が 11.5 Mbps 未満の場合,BE-AHB 法で発生 クライアントが使用できる帯域幅は放送チャネルで 9.0 Mbps する待ち時間は再生開始待ち時間より長くなる.一方で,提 図9 図 7 帯域幅と待ち時間 図 8 セグメント数と待ち時間 図 10 帯域幅と放送チャネルのデータ配信割合 セグメント数と放送チャネルのデータ配信割合 案手法では,再生開始待ち時間を一定値以下にすることで, る.再生開始待ち時間に応じて放送チャネルで配信するデータ BE-AHB 法に比べて待ち時間を短縮できる.また,図 8 では, の残りを通信チャネルで配信する場合,データの受信を要求す セグメント数が 1 から 3 の場合,BE-AHB 法で配信する S1 るクライアントが増加すると,配信に必要となる帯域幅が増加 のデータサイズは大きくなり,S1 の受信時間は再生開始待ち時 する.このため,クライアントの要求頻度を考慮して通信チャ 間より長くなる.一方で,DHB 法では,通信チャネルで残り ネルの帯域幅やセグメント数を設定することで,通信チャネル のデータを配信することで,再生開始待ち時間を一定値以下に で配信するデータサイズを決定できることが分かる. できる.以上より,使用できる帯域幅とセグメント数を考慮す ることで,実際の配信サービスで想定される再生開始待ち時間 を算出できることが分かる. 7. お わ り に 放送通信融合環境における帯域幅を考慮したスケジューリン 6. 3 データ配信割合 グ手法として,Division-based Hybrid Broadcasting (DHB) S1 の放送周期が再生開始待ち時間より長くなると,通信チャ 法を提案した.提案手法では,サーバが使用できる帯域幅に制 ネルでデータを配信する割合は大きくなる.クライアントの 限がある状況で,分割放送型でデータを配信することで,放送 データ要求頻度に応じて放送と通信でデータを配信する割合を チャネルを用いてできるだけ多くのデータを配信する.また, 決定することは重要である.そこで,使用する帯域幅とセグメ 再生開始待ち時間を事前に設定し,途切れのない再生に必要な ント数をそれぞれ変化させた場合について,データ配信割合の セグメントの受信時間が再生開始待ち時間を上回る場合は,通 評価結果を図 9, 10 に示す.横軸は,図 9 では使用する帯域幅, 信チャネルを用いて配信することで,再生開始待ち時間が一定 図 10 ではセグメント数である.縦軸は,放送チャネルのデー 値以下になるようにスケジューリングする.評価の結果,DHB タ配信割合である.再生開始待ち時間は 30 秒とし,図 9 で用 法は既存のスケジューリング手法にくらべて待ち時間を短縮で いるセグメント数は 5,図 10 で用いる放送チャネルの帯域幅 きることを確認した. は 12.5 Mbps とする. 今後の予定として,複数の連続メディアデータを配信する場 図 9 より,使用する帯域幅の増加にともない,放送チャネル 合のスケジューリング手法や,データを選択して視聴する選択 で配信するデータの割合は増加する.また,帯域幅が 13 Mbps 型コンテンツ [13] を用いた場合のスケジューリング手法が考え 以上の場合は,すべてのデータサイズを放送チャネルで配信し られる. ても再生開始待ち時間を 30 秒未満に抑えることができる.ま た,図 10 では,セグメント数が 3 以下の場合,放送チャネル で配信するデータサイズの割合は 41.7% から 86.0% の幅とな 謝 辞 本研究の一部は,JSPS 科研費 26730059,15H02702, (公財) ウエスコ学術振興財団,ならびに総務省戦略的情報通信研究開 発推進事業(SCOPE)による成果である.ここに記して謝意 を表す. 文 献 [1] 総務省,“情報通信白書平成 27 年版,” 総務省(オンライン), 入手先〈http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/ whitepaper/ja/h27/index.html〉(参照 2016-01-07). 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