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介護負担感に関与する要因の相互関係性と 家族介護者への介入

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介護負担感に関与する要因の相互関係性と 家族介護者への介入
博士(スポーツ科学)学位論文
介護負担感に関与する要因の相互関係性と
家族介護者への介入プログラム効果
The Combined Effect of Associated with Caregiver
Burden and Effects of Intervention Program for Primary
Caregivers
2009年1月
早稲田大学大学院
スポーツ科学研究科
牧迫 飛雄馬
Makizako, Hyuma
研究指導教員:
中村
好男
教授
目次
第1章
序論
在宅介護を取り巻く状況と本研究の位置づけ・・・・・・1~10
1-1
在宅介護の背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
1-2
在宅介護の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
1-3
家族介護者に関する先行研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
1-4
本研究の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
1-5
本論文の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
第2章
在宅重度要介護者における基本動作能力の評価指標
Bedside Mobility Scale の開発―信頼性、妥当性の検討―・・・11~21
2-1
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
2-2
方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
2-3
結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
2-4
考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
2-5
まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
第3章
在宅要介護者の主介護者における
介護負担感に関与する要因についての研究・・・・・・・・・22~33
3-1
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
3-2
方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
3-3
結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
3-4
考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31
3-5
まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
I
第4章
介護負担感に関与する諸要因の相互関係性について
―共分散構造分析による検証―・・・・・・・・・・・・・・34~43
4-1
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35
4-2
方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36
4-3
結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
4-4
考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41
4-5
まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43
第5章
家族介護者に対する教育的な個別介入の効果
―層化無作為割り付けによる比較対照試験―・・・・・・・・44~59
5-1
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44
5-2
方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45
5-3
結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49
5-4
考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55
5-5
まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58
第6章
結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60~62
謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・63
引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64~70
II
第1章
序論
在宅介護を取り巻く状況と本研究の位置づけ
1-1 在宅介護の背景
1-2 在宅介護の現状
1-3 家族介護者に関する先行研究
1-4 本研究の目的
1-5 本論文の構成
わが国の高齢者人口は総人口の 20.0%(2005 年)に達し、世界の先進国に類をみない急
速な高齢化が進行している。介護保険制度による在宅サービスの充足や入院期間の短縮化
に伴い、在宅で生活する要介護高齢者は増加の一途である。
本章では、在宅介護生活を取り巻く状況をふまえ、家族介護者に着目して、在宅介護の
問題点の提示とその改善策の提案に関する本研究の意義についてまとめる。
1-1 在宅介護生活の背景
急速な高齢化に伴う医療費の増大や核家族化の進展などを背景に要介護者を社会全体で
支援する新たな仕組みとして、2000 年 4 月に介護保険制度が導入された。介護保険制度の
導入により、さまざまな介護支援サービスが整備され、国民に浸透してきている。介護保
険制度導入後もわが国の高齢化は進行し続けており、重要な社会問題となっている。図 1-1
に示すとおり、他の先進地域の各国と比較して、わが国では急速な高齢化が進行しており、
2005 年 10 月 1 日現在で 65 歳以上の高齢者人口が総人口に占める割合は 20.04%であり、国
民の 5 人に 1 人が 65 歳以上の高齢者にあたり、さらに 75 歳以上の後期高齢者の割合は 9.06%
と約 11 人に 1 人が 75 歳以上といった状況である 1)。今後もさらなる高齢者層の人口および
高齢率の増加は予想されており、2035 年には 65 歳以上の高齢者の人口は 3500 万人に達し、
その割合は 30%を超えるとされている(図 1-2)
。
1
図1‐1 世界の高齢化率の推移
資料:内閣府 平成15年 高齢社会白書
(千人)
(%)
40
40000
35000
35
後期高齢者(75歳以上)
前期高齢者(65歳~74歳)
30000
30
65歳以上人口割合
25000
高
齢
者
人
口
25
75歳以上人口割合
20000
20
15000
15
10000
10
5000
5
0
0
1950
1960
1970
1980
1990
2000
2010
2020
2030
2040
2050
(年)
図1‐2 日本の高齢化推移
2000年までは総務省「国勢調査」、2005年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」をもとに作図
2
人
口
に
対
す
る
割
合
高齢者の増加に伴い、日常生活において何かしらの支援や介護を必要とする要支援、要
介護者も増加の一途であり、介護保険制度が施行された 2000 年では、218 万人であった要
支援・要介護認定者は、2007 年では 440 万人に達している 2)(図 1-3)
。なかでも、居宅サ
ービス利用者は、2000 年の 97 万人から 2006 年では 255 万人と約 2.6 倍になっており、施
設サービス利用者の増加に比べて、在宅ケアを必要する要介護者は急増している(図 1-4)
。
(千人)
要介護 5
4500
要介護 4
要介護 3
4000
要介護 2
455
要介護 1
3500
要支援
341
365
2000
525
547
381
424
394
431
479
561
652
527
492
651
756
614
595
394
641
290
358
339
1500
489
497
414
3000
2500
465
464
571
490
317
1332
1252
876
1387
1070
1000
891
394
709
500
1088
351
0
291
320
398
505
2000.4
2001.4
2002.4
2003.4
601
674
759
2004.4
2005.4
2006.4
2007.4
(年.月)
図1‐3 要介護認定者の推移
注:2006.4以降の要支援には、要支援1、要支援2、経過的要介護を含む
資料:厚生労働省 「介護給付費実態調査月報」 をもとに作図
(千人)
3000
2547
2500
2315
2000
施設サービス
1724
居宅サービス
1500
971
1000
758
689
789
518
500
0
2000.4
2002.4
2004.4
2006.4
(年.月)
図1‐4 介護保険による居宅・施設サービス利用者の推移
資料:厚生労働省 「介護給付費実態調査月報」 をもとに作図
3
65 歳以上の要介護となる原因をみると、第 1 位が脳血管疾患で 26.1%を占めており、第 2
位が高齢による衰弱 17.0%、第 3 位が転倒・骨折 12.4%となっている(図 1-5)。高齢による
衰弱や転倒・骨折をはじめ、低栄養、失禁などの「老年症候群」が生活機能や生活の質の
低下を引き起こし、要介護へと導くことが示唆されており、これらに対する早期発見、早
期対処が重要な課題とされ 3)、2006 年 4 月の介護保険制度改正においては、予防重視型の
システムへと転換が図られ、要介護状態へ陥らないための対策が講じられている。一方、
重度の障害を有する要介護者においては、脳血管疾患をはじめとして、神経筋疾患や大腿
骨頸部骨折などの重篤な整形疾患、重度な認知症など、重篤な疾患を有する者が多いこと
が推察される(図 1-6)
。
その他
16.5 %
パーキンソン病
6.2 %
脳血管疾患
26.1 %
関節疾患
10.6 %
痴呆
11.2 %
転倒・骨折
12.4 %
高齢による衰弱
17.0 %
図1‐5 65歳以上の要介護の原因
(平成13年国民生活基礎調査より)
要支援
要介護度1
要介護度2
要介護度3
要介護度4
要介護度5
1位
高血圧性疾患
高血圧性疾患
高血圧性疾患
脳梗塞
脳梗塞
脳梗塞
2位
関節症
関節症
脳梗塞
高血圧性疾患
血管性および詳
細丌明の痴呆
血管性および詳
細丌明の痴呆
3位
骨の密度
および
構造の障害
脳梗塞
血管性および
詳細丌明の痴呆
血管性および
詳細丌明の痴呆
高血圧性疾患
高血圧性疾患
(第7回社会保障審議会介護保険部会議事録より)
図1‐6 主治医意見書に記載された要介護状態の原因と考えられる疾患
4
このように在宅で生活する要介護高齢者が増加しており、高齢者では加齢による身体的
および精神的な機能低下や複数の健康問題に関連する慢性的な疾患による影響を受けやす
く 4),5)、特に日常生活で介助や介護が必要になった障害者や高齢者においては、家族介護者
の支援は不可欠となる。そして、その支援内容は、食事やトイレ、更衣などのセルフケア
介助のほか、服薬管理やコミュニケーションの支援など多岐にわたり、特に重度な要介護
高齢者の介護においては、特別な技能や知識を必要とする場合も尐なくはない。
1-2 在宅介護の現状
在宅介護生活においては、さまざまな問題が社会的にも注目されており、なかでも介護
者の負担増大による身体的および精神的なストレスの経験やそれに伴う要介護者の虐待、
介護放棄、介護生活を苦とした無理心中などの報道も後を絶えない。また、高齢者のみの
世帯が増大することにより、要介護者を介護する家族の高齢化も問題となっている。筆者
の経験からも在宅でリハビリテーションを必要する要介護者を高齢の配偶者が介護の役割
を担っている世帯も尐なくはない(写真 1-1)。
写真1‐1 要介護度5の妻を在宅で介護する高齢介護者(92歳男性)
5
厚生労働省の平成 16 年国民健康基礎調査による要介護者を介護する者の続柄と性別、年
齢階級の結果を図 1-7 に示す。在宅での介護を担う者の 66.1%が同居家族であり、なかでも
配偶者が最も多く、約 4 分の 1 を占めている。介護者の年齢層をみると、男女ともに 60 歳
以上の介護者が半数以上であり、男性介護者では 37.9%、女性介護者では 25.0%が 70 歳以
上の高齢者であり、主たる家族介護者が高齢者である場合も多い。また、図 1-8 に示すとお
り、要介護者と同居している主介護者では、男性で 55.6%、女性で 67.5%がストレスや悩み
を抱えており、その内容は同居家族の介護に関することが最も多い(図 1-9)
。さらに、4 割
近くの介護者では、自分自身の健康や病気についても悩みやストレスを抱いており、この
ような状況に対して、家族介護者の身体的および精神的な支援はきわめて重要な課題であ
ると考える。
図1‐7 要介護者を介護する主介護者の続柄および性別、年齢階級
資料:厚生労働省 「国民健康基礎調査」(平成16年)
6
(%)
図1‐8 要介護者と同居している主介護者の悩みやストレスのある者の割合
資料:厚生労働省 「国民健康基礎調査」(平成16年)
(%)
図1‐9 同居している主介護者の悩みやストレスの原因
資料:厚生労働省 「国民健康基礎調査」(平成16年)
7
1-3 家族介護者に関する先行研究
家族介護者の介護負担に対する関心の発端は、1950 年代に遡る。戦後革命が女性の労働
力へと促されることにより伝統的な家族連結が変化し、その結果、高齢者に対する介護が
問題として取り上げられるようになった
6)
。1980 年にペンシルバニア州立大学の老年学者
である Zarit は介護者の健康状態や幸福感、経済的や社会的生活状態を含めた介護負担とい
う概念を提唱した 7)。この介護負担には、要介護者の心身状態や介護者の心身状態、社会的
要因などさまざまな因子が関連している。要介護者の要因としては、日常生活活動(Activity
of Daily Living:ADL)能力の低下や問題行動の出現が介護負担感を増大させる要因として
報告されており 8),9),10)、介護者の要因としては、不安や抑うつ、精神的疲労感が介護負担感
と関連すると報告されている
11),12),13)
。また、社会的な要因としては、社会的支援がより得
られる状況であれば、介護負担感は低く、介護者の幸福感や健康観が良好であり、抑うつ
も低いとされている
14)
。このように身体機能や精神機能の低下した高齢者を介護する家族
介護者では、高度なストレスをしばしば経験することがあり
15)
、このことは、幸福感を低
下させたり、負担感の増大やうつ状態を招いたりと精神状態を悪化させる要因となり得る
16),17)
。また、介護により身体的な健康を阻害し、さらには、介護者の死亡を早める恐れがあ
るとまで報告されている 17)。
このように介護生活は、家族にとって何かしらの負担を伴うものであり、これらの問題
に対して、近年では介護負担軽減のための介入研究の効果も報告されている。介護者への
介入方法は 2 つに大別され、ひとつは集団による介入であり、もうひとつは個別介入であ
る。Yin ら 18)の 1980~2000 年の介護者に対する介入研究をまとめたメタアナリシスによる
と、18 の集団介入研究のうち 90%以上が教育的な介入と仲間支援プログラムを含むもので
あった。その他、集団カウンセリングやレスパイト(息抜き)ケアに関する内容(33%)、
ストレス管理(27%)が含まれた。一方、個別介入は 8 研究であり、介入内容としては電
話や訪問による個別カウンセリングが多く、それらの効果量は、集団介入と比べて差はな
いとされている。ただし、これらの研究の多くが、対象者数が尐ない、無作為化がなされ
ていない、欠損値が多いなどの問題を含んでおり、家族介護者に対する効果的な介入手段
の検討は十分とはいえない状況にある。
特に重度要介護者の主介護者においては、介護に要する時間は半日以上を費やしている
割合も多く
19)
、これらの要介護者の在宅生活の継続を支援するには、介護する主介護者の
身体的および精神的な負担にも配慮する必要があり、介護者にとっての精神的および身体
的な負担感を軽減したり、幸福感を高めたりするための取り組みはさらなる発展が必要で
8
あると考える。
1-4 本研究の目的
以上のように、要介護者を在宅で介護する家族介護者の介護負担には、さまざまな要因
が関連しており、これらの要因に対して包括的に働きかけることで介護者の身体的、精神
的な負担軽減のための方略を明確にすることが重要である。介護保険によるさまざまな居
宅支援サービスにおいては、直接的に家族介護者へ働きかけを行うサービスは含まれてお
らず、当然のことであるが利用者である要介護者へのサービスに主眼が置かれている。本
研究の最終的な目的は、介護保険により在宅での訪問リハビリテーションサービスを利用
している家族介護者を対象に、介護負担を軽減できるような介入方法を提案して、直接的
に家族介護者へ働きかけを行い、その効果を検証することとした。
この効果検証を行うための手続きとして、まず在宅で生活する要介護高齢者および障害
者の身体機能状態を評価する指標を明確にする必要があると考えた。特に重度の障害を有
する者の身体機能状態は家族介護者への負担の程度にも影響を与えると予測されるため、
これらの対象者の動作能力の評価を目的とした指標として Bedside Mobility Scale(BMS)を
開発し、その信頼性、妥当性を検証することとした。
この BMS のほか、既に先行研究で報告されているさまざまな評価指標を用いて、家族介
護者の介護負担感との関連要因を多面的な視点から明らかにするための横断的な調査を実
施した。この意義は、介護負担感に影響する因子を多面的に検討して明らかにすることで、
介護負担の軽減に向けた介入方法の試案に貢献する資料となると考えた。
横断的な調査により介護負担感に影響する要因を明らかにしたうえで、家族介護者への
介護方法や介護に関する情報提供を行い、家族の心理状態や介護負担感に与える影響を検
証することとした。
筆者の仮説は、介護負担の要因の解決方法に関する知識を家族介護者が持つことは、介
護者の心理的安定や介護負担の軽減をもたらすというものである。この介入方法が家族介
護者の心理状態の向上や介護負担の軽減に寄与することができれば、在宅サービスのひと
つとして、家族への情報提供の有益性を実証し、その具体的方法を明示することができる
と考えた。
9
1-5 本論文の構成
本論文は、図 1-10 に示すように 6 章により構成される。本章では、在宅介護生活の背景
や現状について触れて、家族介護者に関する先行研究をふまえて、本研究の目的および構
成について述べる。第 2 章では、在宅要介護者の動作能力を把握するための評価指標の確
認を行い、第 3 章および第 4 章では、第 2 章で開発した指標も用いて、横断的な調査によ
り介護負担感に関与する要因を明らかにし、それら諸要因の相互関係性を検証する。これ
らの横断的調査結果により確認された家族介護者の心理状態や介護負担感に影響する要因
をふまえて、第 5 章では在宅で介護生活を送る家族介護者に対する個別介入プログラムを
提案し、その効果を検証する。そして、第 6 章では本研究の一連を通じて総考察を行い、
本研究で得られた成果の意義と今後の課題についてまとめる。
在宅要介護者および家族介護者の評価指標の確認
―第2章―
「在宅重度要介護者における基本動作能力の評価指標」
評価指標の確認・開発
家族介護者の介護負担感に関与する諸要因の検証
―第3章―
「在宅要介護者の主介護者における
介護負担感に関与する要因についての研究」
―第4章―
「介護負担感に関与する諸要因の相互関係性について」
横断的な調査・分析
介護負担軽減を目指した家族介護者への介入
―第5章―
「家族介護者に対する教育的な個別介入の効果」
結論
―第6章―
図1‐10 本論文の構成
10
介入研究による効果
第2章
在宅重度要介護者における基本動作能力の評価指標
Bedside Mobility Scale の開発―信頼性、妥当性の検討―
2-1 はじめに
2-2 方法
2-3 結果
2-4 考察
2-5 まとめ
本章では、介護者の負担感にも関連が強いと考えられる要介護者の動作能力を評価する
指標について、先行研究の報告をふまえ、在宅で生活する重度要介護者を主たる評価の対
象として新たな指標の開発を行い、その信頼性と妥当性を検証した。
在宅介護においては、より重度な要介護者を介護する家族介護者において、介護負担の
問題が顕著となることが予想される。在宅で生活する要介護者およびその家族介護者を対
象とするため、重度な機能障害を有する要介護者の評価方法を確立する必要がある。要介
護者の基本動作能力を評価する際、現在汎用されている評価指標では不十分な点があり、
在宅重度要介護者における基本動作能力の評価指標の確認が必要であると考え、Bedside
Mobility Scale を作成し、その信頼性と妥当性を検証した。内容妥当性を満たした 10 項目か
らなる Bedside Mobility Scale(BMS)を作成し、在宅にて理学療法士または作業療法士の訪
問によるリハビリテーションを実施していた 163 名(男性 83 名、女性 80 名、平均年齢 76.4
歳)を対象として、BMS による動作・移動能力評価を行った。分析の結果、BMS には高い
検者内および検者間信頼性が得られた。また、BMS は日常生活活動能力や日常生活自立度
と有意な関連を持ち、特に重度要介護者および日常生活自立度の重度低下者の動作能力評
価に適しており、臨床的意義が高いと考えられた。この指標を含めた要介護者の動作能力
の評価から介護者の負担感や精神状態に影響するさまざまな要因について、検証を進めて
いく必要がある。
11
2-1 はじめに
在宅介護生活における家族介護者の負担を軽減するためには、介護を必要とする障害者
や高齢者の動作能力の改善を図ったり、良好に維持したりすることも重要である。要介護
者の心身機能状態を高めるためのリハビリテーションにおいて、移動能力および動作能力
の改善は重要な目的のひとつであり、それらの能力を評価する尺度が、動作能力評価や日
常生活活動(Activities of Daily Living:ADL)評価として諸家により提唱されている。たと
えば、ADL の代表的指標として用いられている Barthel Index(BI)20)は、信頼性、妥当性、
感度が確認されており 21),22),23)、多くの病院や施設で一般的に広く利用されている。BI は基
本的な ADL を評価する 10 項目から構成されているが、BI に含まれる粗大運動機能に関す
る項目が乏しく、また、採点方法が 2 から 3 段階と粗いために微細な身体機能の状態変化
をとらえるには適切とはいえない。わずかな ADL の変化もとらえられる指標として
Functional Independence Measure(FIM)24),25)が開発され、理学療法の効果指標として活用さ
れている 26)。FIM は運動項目 13 項目と認知項目 5 項目から構成され、自立や要介助の程度
により 7 段階で評価され、動作の自立度を観察により評定する指標であり、運動や動作能
力を客観的にとらえているとは言い難い。
動作能力に着目した評価方法として、Rivermead Mobility Index(RMI)が開発され、信頼
性や妥当性が確認されている 27),28)。RMI は、14 項目の質問と 1 項目の行動観察から構成さ
れ、15 点満点で採点される。項目には、寝返り、起き上がり、座位保持、立ち上がり、立
位保持、移乗、屋内外歩行、階段、床から物を拾う、入浴、段差、走るといった、粗大運
動および移動に特化した評価である。しかし、RMI は動作遂行の可否を二件式にて対象者
から聴取する質問紙評価であるため、能力変化を正確にとらえることができるかは疑問で
ある。Lennon ら 29)は、RMI を修正した Modified RMI(MRMI)を作成し、その信頼性と妥
当性を検証した。MRMI は、寝返り、起き上がり、座位保持、立ち上がり、立位保持、移
乗、屋内歩行、階段昇降の 8 項目から構成され、得点範囲は 0 から 40 点である。直接観察
にて、介助の程度や補助具の使用、監視や誘導の有無により、各項目 5 段階で評定する。
各項目の内的整合性は良好な結果を示しているが、監視の有無や、一人または二人介助か
などの判断は理学療法士により異なるため、得点に差異を認めることもあり、より詳細な
ガイドラインが必要であることが示唆されている 29)。
ま た、 脳卒 中後 遺症 患者 を対 象と した 評価 とし て、 Daley ら
30)
に よ り The Stroke
Rehabilitation Assessment of Movement(STREAM)が開発された。STREAM は、四肢の随意
運動の回復と基本動作の改善を評価する目的で開発され、信頼性と妥当性が脳卒中後遺症
12
患者において確認されている 31),32)。全 30 項目から構成される STREAM の評価項目の中か
ら基本動作に関する項目 10 項目を抽出して、他の動作評価との比較、検討が行われている
33)
。STREAM の動作に関する評価項目は、寝返り、ブリッジング、起き上がり、立ち上が
り、立位、一歩踏み出し、後方へのステップ、側方へのステップ、10m 歩行、階段降段の
10 項目からなり、直接観察法にて評価する。得点は 0 から 30 点であり、高い信頼性、妥当
性が確認されているものの
31),32)
、立位動作での評価項目が多く、立位が困難な対象者や重
度障害を有する要介護者への適応には限界がある。わが国では、臼田
34),35)
により基本動作
能力を客観的に評価する目的で機能的動作尺度が報告されており、座位保持から階段昇降
までの多岐にわたる 11 項目が評価項目に含まれている。この尺度は、機能的な動作能力を
客観的に評価するには適しているが、立位での評価項目が多く含まれ、重度の機能障害者
における動作能力の差異をとらえるには困難であると考えられる。特に慢性疾患患者や重
度障害を有する要介護者では、身体機能および動作能力の自立度や出来高を向上させるこ
とは困難なことが多く、動作遂行時の過程を評価する視点を含んだ評価指標により、対象
者の微細な変化をとらえられる可能性があると考えられる。
このように、現在用いられている ADL や身体機能評価方法では、在宅で介護を必要とす
る重度身体機能低下を有する者の状態を正確に把握することが難しく、慢性疾患の維持期
のように、大きな身体機能状態の変化が認められにくい者の微細な状態変化をとらえるこ
とは難しい。そのため、身体機能が低下している重度要介護者においても実施可能で、能
力変化をとらえることができる指標を確立することは重要な課題であると考えられる。
本研究では、特に在宅介護生活での家族介護者への負担の程度に影響を与えると予測さ
れる重度障害を有する者を評価対象に見据えた動作能力評価指標である Bedside Mobility
Scale(BMS)を開発し、その信頼性、妥当性を検証することを目的とした。
2-2 方法
2-2-1
対象
在宅にて訪問による理学療法または作業療法を受けていた要介護者 163 名(男性 83 名、
女性 80 名、年齢 76.4±12.8 歳)を対象とした。対象者の属性情報を表 2-1 に示した。対象者
には研究の主旨を説明し同意を得た。認知機能の低下が疑われる場合には、家族へ研究の
主旨を説明し、同意を得た。なお、本研究は早稲田大学スポーツ科学学術院研究倫理委員
会の承認を受けて実施した。
13
表2-1 対象者の基本情報
年齢(歳)
76.35±12.8歳(30-104歳)
性別(人数)
男性 83名 女性 80名 主疾患(人数)
脳血管疾患
77名(47.2%)
骨関節系疾患
40名(24.5%)
神経筋疾患
20名(12.3%)
呼吸器疾患
8名(4.9%)
循環器疾患
3名(1.8%)
その他
発症後経過期間(人数)
要介護度(人数)
3~6ヶ月
4名(2.5%)
6ヶ月~1年
8名(4.9%)
1~3年
43名(26.4%)
3年以上
108名(66.3%)
要支援1 0名(0.0%)
要支援2 5名(3.1%)
要介護1 要介護2 要介護3 障害老人の日常生活自立度(人数)
14名(8.6%)
36名(22.1%)
33名(20.2%)
要介護4 40名(24.5%)
要介護5 24名(14.7%)
非該当 8名(4.9%)
未申請 3名(1.8%)
ランクJ 18名(11.0%)
ランクA 64名(39.3%)
ランクB ランクC 2-2-2
15名(9.2%)
60名(36.8%)
21名(12.9%)
BMS の項目決定の手順
BMS の評価項目を決定するために内容妥当性の検討を行った。評価項目の候補として、
先行研究
20),24),29),34)
における動作および移動に関する項目を抽出し、さらに 5 名の理学療法
士(Physical therapist: PT)により、重度障害を有する者に対する動作能力評価に必要と思わ
れる項目をブレインストーミング法
36)
により列挙した。その後、デルファイ法
37)
を適用し
て評価項目の選定を行った。デルファイ法の手順は、まず先行研究およびブレインストー
ミングによって得られた評価項目について、ブレインストーミングに参加した 5 名の PT を
対象に重度障害を有する者に対するベッドサイドや居室内での動作能力評価に必要と思わ
れる項目を 1:
「全く必要でない」から 5:「非常に必要である」の 5 段階の評定尺度で評価
させた。次の段階として、この評価の集計結果を 5 名の評価者に提示したうえで、同じ 5
14
名の評価者を対象に同様の項目必要性に関する評価を繰り返し行った。このように、デル
ファイ法では、意見調査の集計結果を参加者全員が参照しながら同様の意見調査を繰り返
し、参加者全体の合意の程度を高めていく手法である
37)
。今回の項目選定に参加した 5 名
すべての PT が、2 回目の意見調査において評価項目として「必要である」と回答した項目
を BMS の項目として選択した。同様に、各項目の得点方法に関して、何段階で評価すべき
かについての意見も聴取し、評価の段階付けを決定した。
なお、項目選択に参加した PT5 名(男性 4 名、女性 1 名)の経験年数は、1 年 3 か月から
14 年 3 か月であった。また、現在および過去の主たる勤務機関(複数回答)は、病院 3 名、
介護老人保健施設 3 名、訪問看護ステーション 2 名、大学 2 名、研究機関 1 名であった。
2-2-3
検者内信頼性および検者間信頼性
BMS の検者内信頼性の検討として、13 名の対象者(男性 5 名、女性 8 名、年齢 80.0±10.5
歳)に対して、理学療法士 A(経験年数 2 年 4 か月)が、同一対象者に BMS の 2 回繰り返
し評価を行った。13 名の対象者の属性は、主疾患として脳血管疾患 7 名、骨関節系疾患 4
名、神経筋疾患 2 名であり、要介護度は要介護 2 が 2 名、要介護 3 が 3 名、要介護 4 が 6
名、要介護 5 が 2 名であった。1 回目と 2 回目の評価間隔は、身体機能、動作能力の改善に
よる影響や時間的な身体機能変化を最小限にするために、7―16 日(平均 11.3 日)とした。
なお、2 回目の評価の際には、理学療法士 A が 1 回目の評価結果を参照できないように配慮
し、また、1 回目と 2 回目での対象者の評価順序は順不同とした。また、検者間信頼性の検
討のために、
検者内信頼性の検討とは異なる 10 名の対象者
(男性 3 名、
女性 7 名、年齢 84.8±7.7
歳)について、理学療法士 B(経験年数 2 年 4 か月) と看護師 C(経験年数 10 年 4 か月)
が BMS 評価を行った。10 名の対象者の内訳は、主疾患として脳血管疾患 2 名、骨関節系疾
患 6 名、神経筋疾患 1 名、呼吸器疾患 1 名であり、要介護度は要介護 1 が 1 名、要介護 2
が 3 名、要介護 3 が 3 名、要介護 4 が 1 名、要介護 5 が 2 名であった。理学療法士 B と看
護師 C はお互いの結果を知りえないようにし、両評価の間隔は 3 週間以内とした。
2-2-4
基準妥当性
BMS と対象者の基本属性、日常生活機能との関係を調べるために、性別、年齢、疾患名、
発症後の経過期間、要介護度をカルテから得た。また、各対象者の担当 PT または作業療法
士(Occupational therapist: OT)により、居室動作能力指標として BMS、ADL 評価指標とし
て BI、日常生活の自立度判定指標として障害老人の日常生活自立度(寝たきり度)38)を同一日
15
中に評価した。寝たきり度は、ランク J(日常生活はほぼ自立しており、独力で外出する)
、
A(屋内での生活は概ね自立しているが、介助なしには外出できない)、B(屋内での生活は
何らかの介助を要し、日中もベッド上での生活が主体であるが、座位を保つ)、C(1 日中ベ
ッド上で過ごし、排泄、食事、着替えにおいて介助を要する)で判断し、各ランクを 2 段
階に分けたランク J1、J2、A1、A2、B1、B2、C1、C2 に細分化した評価 38)を用いた。
2-2-5
統計解析
BMS の得点分布から、天井効果および床効果についての検証を行った。天井効果および
床効果は全対象者中 20%の分布集中で判断した 39)。
検者内信頼性の検討は、1 回目と 2 回目の評価値から、級内相関係数(Intraclass Correlation
Coefficient:ICC)を算出した。同様に検者間信頼性の検討として、理学療法士 B と看護師
C の評価値から ICC を算出した。BMS と BI、要介護度、寝たきり度との関連性の検討のた
めに、BMS と BI の相関関係については Pearson の相関係数、BMS と要介護度、寝たきり度
との相関関係は Spearman の順位相関係数を算出した。要介護度、寝たきり度別による BMS
の比較は、一元配置分散分析および多重比較検定(Tukey)を用いて分析した。なお、統計
処理には SPSS14.0 を用い、有意水準は両側検定にて危険率 5%未満とした。
2-3 結果
2-3-1
BMS の内容妥当性
先行研究と 5 名の PT によるブレインストーミングにより 40 項目の潜在的な評価項目が
挙げられた。これらについて要介護者に対する動作能力評価としての必要性についてデル
ファイ法で検討した結果、項目選定に関する 2 回目の意見調査で 5 名の理学療法士全員が
評価項目として「必要である」と判断した 10 項目を評価項目として採択した。また、得点
化については、0 点から 4 点の 5 段階で評価すべきであると回答したものが 5 名中 3 名で最
も多かった。以上の結果から、最終的には 10 項目 40 点満点の BMS を作成した(付録 2-1)
。
16
付録2-1 Bedside Mobility Scale(BMS)
評価項目:「できる動作」 として、対象者の動作能力を直接観察法にて評価する。
*9.いす(車いす)上での座位保持は、日常の生活も考慮し、できる動作を判断する。
1.寝返り
6.立ち上がり
2.ベッド上での移動
7.立位保持
3.起き上がり
8.ベッド⇔いす(車いす)の移乗
4.ベッド上での座位保持
9.いす(車いす)上での座位保持
5.座位で物を拾う
10.移動(車いす駆動)
Scoring
0
動作丌可能
1
動作一部可能
2
ほぼ動作可能
(協力動作量<介助量) (協力動作量>介助量)
3
動作可能
4
(監視や誘導または
セッティングが必要)
完全に動作可能
1.寝返り
ベッド(日常で就寝している寝床)で寝返りを行う。完全な横向き(側臥位)を動作の終了とする。
ベッド柵を用いてもよい。完全に動作可能とは、布団をはいだり、道具の操作も含めて全動作可能である。
2.ベッド上での移動
ブリッジング(お尻上げ)を含め、ベッド上で体を移動させる。ベッド柵などを用いてもよい。
完全に動作可能とは、片肘ついた横向き(肘つき側臥位)での上下移動などベッド上で自由に移動できる。
3.起き上がり
仰向け(背臥位)から起き上がり、ベッド端座位になる。また、その逆の動作で、背臥位になる。
ベッド柵を用いてもよい。完全に動作可能とは、布団をはいだり、道具の操作も含めて可能である。
4.ベッド上での座位保持
ベッド上に端座位(または長座位)になる。背もたれのない状態で1分以上行う。
手すりなどの把持物、支持物を用いてもよい。
完全に動作可能とは、転倒や転落の危険がなく、安全に座位保持が可能である。
5.座位で物を拾う
端座位で、足元にある物(ペンなどの小物)を拾うことができる。手すりなどを用いてもよい。
完全には足元まで届かないが、手の届く範囲であれば物を取ることができればスコア2とする。
完全に動作可能とは、転落の危険がなく、監視なしで安全に足元の物を拾うことができる。
6.立ち上がり
ベッド端座位または椅子(車いす)から立ち上がる。ベッド柵などの支持物を利用してもよい。
完全に動作可能とは、おおむね15秒以内に自立して、立ち上がり動作を終了できる。
15秒以上を要する場合は、スコア3とする。
7.立位保持
1分以上の立位を保持する。ベッド柵などを利用してもよい。
疼痛や疲労などにより、1分以上の立位が困難な場合は、その程度により判断する。
完全に動作可能とは、転倒の危険がなく、把持物の操作も含めて可能である。
8.ベッド⇔いす(車いす)移乗
ベッドからいす(車いす)に移乗する。また、その逆の動作を行う。
ベッド柵やその他の福祉用具を用いてもよい。
完全に動作可能とは、いすや車いすの位置修正やブレーキの確認など含めて可能である。
9.いす(車いす)上での座位保持
背もたれ付いす(車いす)上で1時間以上の座位保持が可能かどうか判断する。車いすの種類は問わない。
リクライニングや徐圧などの体位修正が自ら困難な場合は、介助とする。
介助や体位修正により、30分可能であれば、スコア2とする。
完全に動作可能とは、転落の危険もなく、必要に応じて徐圧なども自らで可能である。
10.移動(車いす駆動)
屋内で目的地まで車いすを駆動する。通常、歩行を移動手段としている場合は、歩行を評価する。
日常的に屋内生活で必要と思われる距離、目的地までの移動(およそ10m程度)を評価する。
完全に動作可能とは、方向転換やブレーキの操作を含め、車いすを操作できる。または、歩行できる。
歩行に関しては、いかなる歩行補助具を使用してもよい。
17
2-3-2
BMS の検者内信頼性および検者間信頼性
理学療法士 A による検者内(再検査)信頼性は ICC(1,2)= 0.97(95%信頼区間:0.95 ―
0.99)であり、また、理学療法士 B と看護師 C による検者間信頼性は ICC(2,1)= 0.97(95%
信頼区間:0.87 ― 0.99)であり、高い信頼性が確認された。
2-3-3
BMS の天井効果、床効果(表 2-2)
全対象者 163 名のうち、152 名(93.3%)が要介護認定を受けており、その内訳を表 2-1
に示した。なお、要介護度および寝たきり度による年齢の差は認められなかった。
BMS における 40 点満点者の割合を要介護度別、寝たきり度別に示した(表 2-2)。要支援
2 から要介護 2 までの軽度要介護者では 55 名中 34 名(61.8%)が 40 点満点であり、天井
効果を認めた。また、寝たきり度別にみると日常生活の自立度が高く、介助により外出し、
日中のほとんどはベッドから離れて生活できる程度である J1 から A1 の対象者では、47 名
中 36 名(76.6%)が 40 点満点であり、天井効果を認めた。BMS の床効果に関して、最低
得点である 0 点者は全対象者中 2 名(1.2%)で、いずれも要介護 5 かつ寝たきり度 C2 であ
り、床効果は認められなかった。一方、BI の最低得点 0 点者は、全対象者中で 9 名(5.5%)
であり、要介護度 5 の対象者のうち 20.8%(24 名中 5 名)が 0 点者であった。また、9 名
の BI 得点 0 点者はすべてランク C であり、21 名中 9 名(42.9%)を占めていた。
表2-2 BMS得点の天井効果
要支援2(n = 5) 要介護1(n = 14) 要介護2(n = 36) 要介護3(n = 33) 要介護4(n = 40) 要介護5(n = 24)
要介護度別の
4名(80.0%)
8名(57.1%)
22名(61.1%)
12名(36.4%)
3名(7.5%)
0名(0.0%)
BMS40点満点者数(%)
要支援2 - 要介護2(n = 55)
要介護3 - 要介護5(n = 97)
34名(61.8%)
寝たきり度別の
15名(15.5%)
J1(n =7)
J2(n = 11)
A1(n = 29)
A2(n = 35)
B1(n = 31)
B2(n = 29)
C1(n = 8)
C2(n = 13)
6名(85.7%)
10名(90.9%)
20名(69.0%)
15名(42.9%)
0名(0.0%)
0名(0.0%)
0名(0.0%)
0名(0.0%)
BMS40点満点者数(%)
2-3-4
J1 - A1(n = 47)
A2 - C2(n = 116)
36名(76.6%)
15名(12.9%)
BMS の妥当性(表 2-3)
要支援 2 であった 5 名を除いた 147 名を分析対象として、要介護度を要因とする一元配
置分散分析の結果(表 2-3)
、BMS に主効果(F4.142 = 37.4, p < 0.01)を認め、多重比較検定
の結果、要介護 1 と 4、要介護 1 と 5、要介護 2 と 4、要介護 2 と 5、要介護 3 と 4、要介護
3 と 5、要介護 4 と 5 との間に有意差を認め(p < 0.05)、介護度が高い対象者ほど BMS は低
18
かった(表 2-3)
。また、寝たきり度に関しては、ランク J、A、B、C の 4 群間で比較する
と、BMS に主効果を認め(F3.159 = 119.5, p < 0.01)
、ランク J と A との間を除く、すべての
ランク間で有意差を認め(p < 0.05)
、寝たきり度が重症化するほど BMS は低かった。
BMS と BI、要介護度および寝たきり度との相関関係を調べたところ、BMS と BI の相関
係数は r = 0.88(p < 0.01)となり、有意な正の相関関係を認めた。BMS と要介護度(要介
護認定者 152 名のうち、
要支援 2 の 5 名を除く 147 名)との相関係数は r = -0.70
(p < 0.01)
、
BMS と寝たきり度との相関係数は r = -0.85(p < 0.01)であり、いずれも有意な負の相関
関係を認めた。BMS が高いほど要介護度は低く、日常生活の自立度が高かった。また、BMS
が高いほど BI による ADL も高かった。
表2-3 要介護度、寝たきり度別のBMS得点(単位:点)
平均値±標準偏差
(最小値-最大値)
要介護度
38.9±1.7(35 - 40)
要介護2(n = 36)
38.5±2.9(28 - 40)
要介護3(n = 33)
35.5±6.4(15 - 40)
要介護4(n = 40)
28.9±10.7(3 - 40)
要介護5(n = 24)
15.3±11.5(0 - 34)
**
要介護1(n = 14)
**
**
**
**
**
**
寝たきり度
28.3±9.3(3 - 39)
ランクC(n = 21)
9.2±7.9(0 - 30)
**
ランクB(n = 60)
**
38.5±2.6(29 - 40)
**
ランクA(n = 64)
**
39.8±0.5(38 - 40)
**
ランクJ(n = 18)
** p < 0.01
2-4 考察
要介護者の運動能力や移動動作能力を評価する際には、歩行速度
40)
や 6 分間歩行距離テ
スト 41)などの歩行能力評価、Berg Balance Scale42)や Functional Reach Test43)などのバランス能
力評価、Timed Up & Go Test44)などのバランスと移動といった複合的な動作能力評価を目的
とした多くの指標が用いられている。しかし、その多くは立位でのパフォーマンステスト
19
であり、立位や歩行が困難な対象者における実施可能な評価は数尐なく、数値化できる評
価は十分に実施されていない。そのため、身体機能が著しく低下した重度要介護者におけ
る客観的な動作能力の差異を明示することが難しい。本研究では、重度障害を有する者に
適応可能な、動作および移動能力の評価尺度の開発を試み、その信頼性、妥当性の検討を
行った。
本研究の対象者における BMS の天井効果を検討した結果、要支援と要介護 1、2 の比較
的軽度の障害を有する対象者では、
最高点である 40 点の分布割合が 61.8%を占めた。
また、
寝たきり度で分類してみると、外出頻度が比較的保たれており、屋内での日常生活が自立
している J1 から A1 の対象者では、76.6%が 40 点満点であった。以上から、障害度が低く、
日常生活自立度が高い対象者では、天井効果を認め、BMS の適用は妥当でないと考えられ
た。一方、要介護度 3 以上の重度の介護を必要とする対象者では、40 点満点の分布割合が
15.5%であり、同様に、寝たきり度 A2 から C2 の日常生活自立度が低い対象者では、40 点
満点の割合は 12.9%であり、著明な天井効果は認められなかった。BMS による動作および
移動能力の評価は、ADL に介助や監視を必要とする要介護状態の対象者に適応できると考
えられた。
BMS の信頼性の検討では、検者内および検者間信頼性ともに ICC = 0.97 であり、高い信
頼性が得られた。BMS はおよそ 10 から 15 分程度で実施でき、日常動作を観察することで
評価可能なため、対象者への負担も尐ない。さらに、BMS は日常での動作遂行時の実用性
についても得点に反映されるように構成されているため、補助具の利用や環境調整などの
介入効果を把握するための動作遂行能力の評価指標として活用可能である。
BMS の妥当性に関して、ADL 能力と日常生活自立度との関係から検証を試みた。BMS
は、BI との相関係数が r = 0.88、障害老人の日常生活自立度との相関係数が r = -0.85 であ
り、ADL 能力および日常生活自立度との有意な相関関係を認めた。ADL 能力指標として用
いた BI では、要介護度 5 の対象者で 20.8%が最低点 0 点であり、床効果を認めたのに対し
て、BMS では要介護度 5 の対象者における最低点 0 点は 8.3%であり、顕著な床効果は認め
なかった。以上の点から、ADL と関連した動作能力評価指標のひとつとして BMS の有用性
が示されたものと考えられる。また、要介護度と BMS の関連をみると、重度な介護を必要
とする要介護度 3 以上の対象者では、要介護度が高いほど BMS による評価が低くなる結果
となった。この結果は、BMS が要介護度 3 以上の重度障害の対象者における動作、移動能
力の差異を明確化できる可能性を示している。また、寝たきり度と BMS の関連をみると、
日常生活自立度の高いランク J と A の間では BMS に差が認められなかったが、その他の群
20
間では BMS に有意差が認められた。日常での活動範囲が屋内中心で、立位や歩行などの動
作パフォーマンスによる評価が困難な要介護者に特化した評価尺度として BMS を開発した。
そのため、より要介護度が高く、寝たきり度が高い群において、床効果が解消され、低下
した動作能力の中にも差異を明らかにすることができたものと考えられた。この点が BMS
の指標としての特徴であり、BI や FIM が ADL 動作能力を把握するのに有用であるのに比
して、BMS は短時間で寝返りや起き上がりなどの基本動作を中心とした項目から構成され、
これらの動作を直接観察して評価するため、客観的な動作能力指標として利用可能である。
そして本研究結果から、BMS はより重度な要介護者や寝たきり度が高い対象者における動
作能力の差異を明らかにできることが可能であり、重度な障害を有する対象者の動作に特
化した評価指標として有用であると考えられた。
本研究の限界として、対象者の特異性と BMS の感度や予測妥当性の検証が行われていな
い点が挙げられる。本研究の対象は、在宅にて訪問による理学療法または作業療法を実施
している者に限られており、なおかつ、発症後の経過期間が 1 年以上経過している者が大
多数であった。理学療法、作業療法による動作や移動能力の改善には、急性期や回復期に
おける介入が重要であり、このような時期での身体機能や動作能力の改善は慢性期に比べ
て急速である。急性期や回復期の対象者でも本研究と同様の結果が得られるかは不明であ
る。しかしながら、以降の本研究では、このように在宅で生活する重度な要介護者を中心
とする訪問リハビリテーション利用者とその家族介護者を対象とした介護負担感に関連す
る要因を探り、その解決策を提案するものとする。その介護負担感に関連する要因のひと
つとして、動作能力を評価するための指標に BMS は有用性があると考える。
2-5 まとめ
第 2 章では、在宅で生活する重度要介護者を対象とした基本的な動作能力を評価する新
たな指標として BMS の開発を行い、その信頼性と妥当性を検証した。その結果、BMS には
高い検者内および検者間信頼性が得られ、特に重度要介護者および日常生活自立度の重度
低下者の動作能力評価に適しており、臨床的意義が高いと考えられた。この指標を含めた
要介護者の身体機能や動作能力の評価から介護者の負担や精神状態に影響するさまざまな
要因についての検証を進めていく必要があると考え、第 3 章では介護者の介護負担感を把
握する作業を行う。
21
第3章
在宅要介護者の主介護者における
介護負担感に関与する要因についての研究
3-1 はじめに
3-2 方法
3-3 結果
3-4 考察
3-5 まとめ
本章では、要介護者を在宅で介護する主たる家族介護者における介護負担感に関与する
要因を横断的な分析により検証した。在宅で理学療法士または作業療法士の訪問リハビリ
テーションを実施していた要介護者 78 名(男性 40 名、女性 38 名、年齢 77.8 歳)とその主
介護者 78 名(男性 20 名、女性 58 名、年齢 66.8 歳)の 78 組 156 名を分析対象とした。介
護負担感の指標である短縮版 Zarit 介護負担尺度(J-ZBI_8)の結果から介護負担感の低負担
群(10 点未満:5.0±3.0 点)41 組と高負担群(10 点以上:15.9±5.9 点)37 組の 2 群間で比
較した。その結果、低負担群の要介護者では、高負担群の要介護者に比べ、高い基本動作
能力、日常生活動作能力を有していた。また、低負担群の主介護者では、高負担群に比べ
て、介護を手伝ってくれる人(低負担群 65.9%、高負担群 40.5%)、介護相談ができる人(低
負担群 95.1%、
高負担群 75.7%)
を有する割合が有意に多く、主観的幸福感(低負担群 9.6±3.5、
高負担群 6.3±3.7)も有意に高かった。また、高負担群では、すべての日常生活の各動作項
目における自覚的な介助負担度も大きかった。要介護者の日常生活動作能力や基本動作能
力は介護負担感に影響を与える一因であることが示唆された。また、介護協力者や介護相
談者の有無も介護負担感と関係し、介護負担感が高い主介護者では主観的幸福感が低いこ
とが示された。
22
3-1 はじめに
わが国における急速な高齢化の進行に伴い、在宅生活を送る障害を有する要介護高齢者
は増加の一途を辿り、介護保険制度が施行された 2000 年では、218 万人であった要支援・
要介護認定者は、2005 年では 410 万人に達している 2)。なかでも、居宅サービス利用者は、
2000 年の 97 万人から 2005 年では 256 万人となっており、在宅ケアを要する要介護者は約
2.6 倍と急増している 2)。このような状況のなか、特に要介護 3 以上の重度要介護者の主介
護者においては、介護に要する時間は半日以上を費やしている割合が多く
19)
、これらの要
介護者の在宅生活の継続を支援するには、介護する主介護者の身体的および精神的な負担
にも配慮する必要があろう。要介護者の在宅介護において、主介護者の高齢化や主介護者
による虐待などの問題が顕著化する事例があり、身体機能や精神機能の低下を有する高齢
者および障害者を自宅で介護することは、介護者にとって精神的にも身体的にも負担とな
ることが推測される。介護による負担は虐待リスクとの関連が報告されており
45)
、介護に
おける家族負担に関与する要因についての研究も報告されている 8),12),46)。また、無作為化比
較対照試験による介護者におけるストレスと対処法に関する介入効果検証も報告されてい
る 47)。
介護負担という問題を定量的に評価する指標が Zarit により報告され 7)、日本語版 Zarit 介
護負担尺度(J-ZBI)の信頼性および妥当性も確認されている
48)
。J-ZBI を用いた研究で介
護負担感は、介護者の身体的疲労や精神的疲労と有意に関連し、要介護者の問題行動があ
る群では介護負担感が強く、虐待の有無との関連も報告されている
を評価指標とした報告も散見され
49)
。その他にも J-ZBI
50),51)
、在宅要介護者が増加していく状況において、介護
負担に着目した研究は、今後もさらなる発展が必要であると思われる。介護負担感と要介
護者の機能状態との関係について、介護負担感は要介護者の身体機能や生活機能レベルと
関連がある 9),48)と報告されている。一方、Elmstahl ら 52)によると脳卒中後遺症患者を対象と
した 3 年間の追跡調査では、日常生活動作(Activities of Daily Living: ADL)能力の改善が必
ずしも介護負担感の軽減に結びついてはいないと報告されており、要介護者の身体機能や
生活機能と介護負担感との関連に関する見解は一致しておらず、今後も検討の余地がある。
そこで本研究では、特に在宅要介護者の運動機能および生活機能に着目し、これらの機
能と主介護者の介護負担感との関連を明らかにすることを第一の目的とした。また、主介
護者の体力や主観的幸福感、主介護者のソーシャルサポートなどの多面的な視点から介護
負担感に関与する要因について検証した。本研究の仮説は、要介護者の身体機能や生活機
能が低いほど、介護者の介護負担感が強く、介護負担感には主介護者の主観的な健康感や
23
体力、ソーシャルサポートなどの要因も関連すると考えた。この研究の意義は、介護負担
感に影響する因子を多面的に検討し、明らかにすることで、介護負担の軽減に向けた介入
方法の試案に貢献する資料となると思われる。
3-2 方法
3-2-1
対象
都内 1 施設、北関東地方 2 施設の訪問看護ステーションのいずれかにおいて、理学療法
士(PT)または作業療法士(OT)の訪問によるリハビリテーションを実施していた要介護
者とその主介護者を対象とした。96 組の要介護者およびその主介護者に本研究への協力を
依頼した結果、91 組から協力が得られ、そのうち要介護認定を受けており、在宅での介護
期間が 6 か月以上 240 か月以下であった 78 組を分析対象とした。分析対象者とした要介護
者 78 名の属性は、男性 40 名、女性 38 名、平均年齢 77.8(47 - 103)歳であり、その主
介護者 78 名は、男性 20 名、女性 58 名、平均年齢 66.8(42 - 85)歳であった。対象者に
は研究の主旨を説明し、口頭および書面にて同意を得た上で実施した。なお、本研究は早
稲田大学スポーツ科学学術院研究倫理委員会の承認を受けて、2006 年 9 月 14 日から 2006
年 11 月 14 日の期間に実施した。
3-2-2
測定項目
要介護者の性別、年齢、要介護度、要介護状態(機能障害と関連のある)の起因となる
疾患名およびその疾患発症からの経過期間を訪問看護指示書から得た。なお、複数の疾患
を有する場合は、より要介護状態や機能障害に関連のある疾患を取り上げた。加えて、障
害老人の日常生活自立度(寝たきり度)38)、痴呆老人の日常生活自立度
53)
、居室内動作能
54)
力評価(Bedside Mobility Scale:BMS) 、ADL 指標として Barthel Index(BI)20)を担当 PT
または OT により評価した。BMS は、第 2 章で信頼性および妥当性が確認されており、起
居動作や移乗動作、移動動作などを含む 10 項目から構成される指標であり、得点範囲は 0
から 40 点で、得点が高いほど高い動作能力を有する。BI は基本的な ADL 能力を示す 100
点満点の指標であり、高得点ほど日常生活動作能力が高いことを示す。
主介護者に対しては、性別、年齢、要介護者との続柄の基本情報に加え、介護期間、介
護を手伝ってくれる人の有無、介護相談ができる人の有無、介護負担感として Zarit 介護負
担尺度(短縮版:J-ZBI_8)49),55)および視覚的アナログスケール(Visual Analogue Scale: VAS)
24
による ADL 介助負担度、主観的幸福感として PGC モラール・スケール
56)
、簡易体力評価
として Motor Fitness Scale(MFS)57)を構造化質問紙法にて聴取した。介護負担尺度は様々
な指標が開発されてきたが、なかでも Zarit 介護負担尺度(Zarit‟s Burden Interview: ZBI)は
最も引用され、研究による使用頻度も高い
14)
。この ZBI は、介護負担という問題を定量的
に評価する指標として報告され 7)、日本語版 Zarit 介護負担尺度(J-ZBI)の信頼性および妥
当性も確認されている
48)
。本研究の介護負担感評価は、8 項目から構成される短縮版 Zarit
介護負担尺度(J-ZBI_8)49),55)を用い、合計得点を算出した(付録 3-1)
。得点範囲は、0 点
から 32 点で得点が高いほど介護負担感が高いことを意味する。ADL 介助負担度は、食事、
移乗、整容、トイレ動作、入浴、歩行、車いすでの移動、階段昇降、更衣の 9 項目につい
て、日常において各動作を介助する際の介助負担の程度を VAS により 10cm の一直線上に
印をつけてもらい、各項目の合計を ADL 介助負担度とした(付録 3-2)。なお、この指標は
得点が高いほど介護負担度が高いことを意味する。PGC モラール・スケール
58)
は「心理的
動揺」
、
「孤独感・不満足感」
、
「老いに対する態度」の 3 つの下位尺度から構成される合計
17 項目(得点範囲:0 から 17 点)による主観的幸福感の指標として用い、合計得点を算出
した。MFS57)は、質問紙調査により簡易的に体力を把握する指標であり、移動性 6 項目、筋
力 4 項目、平衡性 4 項目から構成される 14 点満点の評価である。本研究では、質問紙によ
り回答の得られた MFS の合計点を主介護者の体力指標として用いた。
付録3-1 短縮版Zarit介護負担尺度
*あなたの気持ちに最も当てはまると思う番号を○で囲んで下さい。
思わない
たまに
思う
時々思う
よく思う
いつも
思う
0
1
2
3
4
0
1
2
3
4
0
1
2
3
4
0
1
2
3
4
0
1
2
3
4
0
1
2
3
4
0
1
2
3
4
0
1
2
3
4
1.介護を受けている方の行動に対し、
困ってしまうことがありますか
2.介護を受けている方のそばにいると
腹が立つことがありますか
3.介護があるので、家族や友人と
付き合いづらくなっていると思いますか
4.介護を受けている方のそばにいると、
気が休まらないと思いますか
5.介護があるので、自分の社会参加の機会が
減ったと思うことがありますか
6.介護を受けている方が家族にいるので、友達を自宅に
よびたくてもよべないと思ったことがありますか
7.介護をだれかに任せてしまいたいと
思うことがありますか
8.介護を受けてる方に対して、
どうしていいかわからないと思うことがありますか
25
付録3-2 日常におけるADL介助の負担感について
*以下の各項目に関して、介護および介助の負担の程度をあてはまるところに×印をしてください。
介助したことない、もしくは日常で介助する機会がない場合は、□にレ印をつけて下さい。
介護・介助の必要がなく全く負担がない場合は、全く負担でないのところに×印をしてください。
例)
全く負担ではない
非常に負担である
介助したことがない
非常に負担である
介助したことがない
非常に負担である
介助したことがない
1.食事の介助
全く負担ではない
2.ベッドと椅子(車いす)間の乗り移りの介助
全く負担ではない
3.整容(手や顔洗い、整髪、髭剃り、歯磨きなど)の介助
全く負担ではない
非常に負担である
介助したことがない
非常に負担である
介助したことがない
非常に負担である
介助したことがない
非常に負担である
介助したことがない
非常に負担である
介助したことがない
非常に負担である
介助したことがない
非常に負担である
介助したことがない
4.トイレ動作の介助
全く負担ではない
5.入浴の介助
全く負担ではない
6.歩行の介助
全く負担ではない
7.車いすでの移動の介助
全く負担ではない
8.階段昇降の介助
全く負担ではない
9.更衣(服の着脱、靴や装具も含める)の介助
全く負担ではない
26
3-2-3
統計解析
分析方法は、主介護者の介護負担感について検討するために、J-ZBI_8 得点の中央値およ
び平均値から、介護負担の低い低負担群と、負担感の高い高負担群の 2 群に対象者を分類
し、要介護者と介護者における各測定項目をカイ二乗検定、コクラン・アーミテージ検定
(同検定のみ Excel 統計 2006 を使用)、Mann-Whitney の U 検定、対応のない t 検定を用い
て群間比較した。なお、統計処理には SPSS14.0 を用い、有意水準は両側検定にて危険率 5%
未満とした。
3-3 結果
3-3-1
要介護者および主介護者の特性(表 3-1)
対象となった要介護者 78 名は要介護 1 が 4 名、要介護 2 が 16 名、要介護 3 が 20 名、要
介護 4 が 23 名、要介護 5 が 15 名であった。主疾患として、脳血管疾患が 41 名(52.6%)
と半数以上を占めており、
次いで骨・関節疾患が 15 名
(19.2%)
、神経筋疾患が 8 名
(10.3%)、
呼吸・循環器疾患が 3 名(3.8%)であり、その他が 11 名(14.1%)であった。また、疾患
発症からの経過期間は、6 か月以上 1 年未満が 3 名
(3.8%)、
1 年以上 3 年未満が 25 名
(32.1%)、
3 年以上が 50 名(64.1%)であった。痴呆老人の日常生活自立度の調査において、正常の
判定であったものを認知症の疑いなし、Ⅰから M の判定であったものを認知症の疑いあり
と判断した。その結果、78 名中 48 名(61.5%)が認知症の疑いを有していた。また、ADL
の指標とした BI の平均値および標準偏差は 50.6±30.2 点であり、居室内での基本動作能力
の指標とした BMS は 30.2±11.8 点であった(表 3-1)
。
主介護者全体の平均年齢は 66.8±10.2 歳であり、範囲は 42 歳から 85 歳であった。また、
性別は男性が 20 名、女性が 58 名であり、74.4%が女性であった。要介護者との続柄では、
妻が 34 名(43.6%)と最も多く、次いで娘が 17 名(21.8%)
、夫が 15 名(19.2%)
、息子が
5 名(6.4%)
、嫁が 4 名(5.1%)
、母が 1 名(1.3%)
、婿が 1 名(1.3%)
、妹が 1 名(1.3%)
であり、全体のうち半数以上の 62.8%が配偶者であった。介護期間は、中央値(最小値 -
最大値)で 48 か月(6 - 222 か月)であった。また、78 名中 67 名(85.9%)が「介護の
相談をできる人がいる」
、42 名(53.8%)が「介護を手伝ってくれる人がいる」と回答した。
J-ZBI_8 の平均得点は 10.1±7.2 点であり、PGC モラール・スケールは 8.0±3.9 点、MFS は
10.1±4.2 点であった。
27
表3-1 介護低負担群(ZBI-J_8:10点未満)と高負担群(ZBI-J_8:10点以上)の比較:要介護者データ
全体(n=78)
低負担群(n=41)
高負担群(n=37)
年齢:歳
77.8±11.5
76.4±12.6
79.4±10.1
(年齢範囲)
(47-103)
(47-103)
(47-95)
40/38
21/20
19/18
要介護1
4
3
1
要介護2
16
10
6
要介護3
20
11
9
要介護4
23
11
12
要介護5
15
6
9
ランクJ
5
3
2
ランクA
31
18
13
ランクB
30
17
13
ランクC
12
3
9
0.134 ‡
脳血管疾患(有/無):名
41/37
24/17
17/20
0.364 §
認知症の疑い(有/無)注:名
48/30
21/20
27/10
0.064 §
Barthel Index:点
50.6±30.2
57.2±30.0
43.2±31.2
0.041 †
Bedside Mobility Scale:点
30.2±11.8
32.9±9.6
27.3±13.4
0.035 †
性別(男/女):名
p値
0.252 †
1.000 §
要介護度:名
0.111 ‡
障害老人の日常生活自立度(寝たきり度):名
§:カイ二乗検定 †:対応のないt 検定 ‡:コクラン・アーミテージ検定
注)認知症の疑い:痴呆老人の日常生活自立度により判定。
認知症の疑い無し = 正常、認知症の疑い有り = I~M
3-3-2
介護負担感と要介護者の特性との関連(表 3-1)
全介護者における J-ZBI_8 得点の中央値は 9.0 点、平均値は 10.1 点であり、今回は J-ZBI_8
の 10 点で介護負担の高低を分類した。低負担群(10 点未満)は 41 組が含まれ、J-ZBI_8 の
平均値は 5.0±3.0 点であり、高負担群(10 点以上)は 37 組が含まれ、J-ZBI_8 の平均値は
15.9±5.9 点であった。
低負担群と高負担群の比較において、要介護者の年齢および性別は、両群間で有意差は
認められなかった。また、要介護度、寝たきり度、脳血管疾患の有無に関しても両群間で
有意差は認めなかった。
一方、
認知症の疑いを有する者は、
低負担群で 41 名中 21 名
(51.2%)
、
28
高負担群で 37 名中 27 名(73.0%)であり、高負担群において割合が多い傾向であった(p =
0.064)
。また、BI は低負担群では 57.2±30.0 点、高負担群では 43.2±31.2 点であり、BMS は
低負担群で 32.9±9.6 点、高負担群で 27.3±13.4 点であり、BI および BMS ともに両群間で有
意差を認め(BI;p = 0.041、BMS;p = 0.035)
、高負担群における要介護者では ADL 能力が
低く、居室での基本動作能力は低かった。
3-3-3
介護負担感と主介護者の特性との関連(表 3-2)
低負担群と高負担群の間では、主介護者の年齢や性別、介護期間、要介護者との続柄に
は有意な差を認めなかった。ソーシャルサポートに関する項目では、低負担群で 41 名中 39
名(95.1%)
、高負担群で 37 名中 28 名(75.7%)が介護に関する相談ができる人がおり、
また、低負担群で 41 名中 27 名(65.9%)、高負担群で 37 名中 15 名(40.5%)が介護を手
伝ってくれる人がいると回答し、両群間で有意な差を認めた(相談者の有無:p = 0.021、協
力者の有無:p = 0.040)
。PGC モラール・スケールによる主観的幸福感は、低負担群で 9.6±3.3
点、高負担群で 6.3±3.7 点であり、低負担群が有意に高い値であった(p = 0.000)
。VAS によ
る ADL 介助における負担度は、すべての ADL 項目において高負担群が有意に大きかった
(表 3-2)
。体力評価として用いた MFS は両群間の主介護者間で有意差を認めなかった。
29
表3-2 介護低負担群(ZBI-J_8:10点未満)と高負担群(ZBI-J_8:10点以上)の比較:介護者データ
全体(n=78)
低負担群(n=41)
高負担群(n=37)
年齢:歳
66.8±10.2
66.3±9.8
67.4±10.6
(年齢範囲)
(42-85)
(47-83)
(42-85)
20/58
12/29
8/29
妻
34
16
18
夫
15
9
6
娘
17
11
6
息子
5
3
2
その他
7
2
5
0.722 ‡
:月
48(6-222)
42(6-216)
60(10-222)
0.101 ∬
介護相談者(有/無):名
67/11
39/2
28/9
0.021 §
介護協力者(有/無):名
42/36
27/14
15/22
0.040 §
8.0±3.9
9.6±3.5
6.3±3.7
0.000 †
心理的動揺
3.0±1.8
3.7±1.6
2.4±1.8
0.001 †
老いに関する態度
2.0±1.7
2.4±1.7
1.4±1.5
0.011 †
孤立感・丌満足感
3.0±1.2
3.5±1.0
2.5±1.1
0.000 †
食事介助
4.1±3.0(n=68)
2.8±2.3(n=33)
5.3±3.2(n=35) 0.001 †
移乗介助
3.8±3.3(n=63)
2.2±2.4(n=30)
5.3±3.3(n=33) 0.000 †
整容介助
3.6±3.1(n=62)
1.8±1.8(n=31)
5.4±3.0(n=31) 0.000 †
トイレ介助
4.7±3.1(n=61)
3.1±2.7(n=29)
6.2±3.2(n=33) 0.000 †
入浴介助
5.2±3.1(n=47)
3.9±2.8(n=26)
6.8±2.7(n=21) 0.001 †
歩行介助
4.4±3.2(n=47)
2.7±2.0(n=24)
6.1±3.3(n=23) 0.000 †
車いす介助
4.3±3.1(n=59)
2.8±2.2(n=29)
5.7±3.2(n=30) 0.000 †
階段介助
5.0±3.4(n=33)
3.7±3.0(n=17)
6.4±3.4(n=16) 0.018 †
更衣介助
4.7±3.2(n=70)
3.3±2.7(n=36)
6.1±3.1(n=34) 0.000 †
10.1±4.2
10.1±4.3
性別(男/女):名
p値
0.641 †
0.604 §
続柄:名
注1
介護期間
PGCモラールスケール
注2
:点
ADL介助における負担注3:cm
Motor Fitness Scale
注4
:点
10.0±4.0
0.871 †
§:カイ二乗検定 †:対応のないt 検定 ‡:コクラン・アーミテージ検定 ∬:Mann-WhitneyのU 検定
注1)中央値(最小値-最大値)を記載。
注2)合計点で低負担群5名、高負担群1名の欠損あり。
「心理的動揺」で低負担群2名、高負担群1名、「老いに関する態度」で低負担群4名、高負担群1名、
「孤立感・丌満足感」で低負担群3名、高負担群1名のそれぞれ欠損あり。
注3)日常的に介助を行っている対象者のみ分析した。
注4)低負担群に3名、高負担群に2名の欠損あり。
30
3-4 考察
介護負担感は、要介護者の問題行動の程度や介護者の精神的な疲労、不安感、抑うつな
どとの関連が報告されている 8),12),46)。一方、要介護者の身体機能や生活機能と介護負担感と
の関連に関する見解は統一しておらず 52),59)、検討の余地があると考えられる。本研究では、
特に在宅要介護者の運動機能および生活機能に着目し、主介護者の介護負担感に関連する
要因を検討した。要介護認定を受けて、在宅での訪問によるリハビリテーションを実施し
ていた要介護者を対象とし、J-ZBI_8 得点から介護負担の低い群と高い群の 2 群に分けて比
較した結果、要介護者の運動機能および生活機能は、主介護者の介護負担感と関連を有す
ることが示唆された。一方、両群間で年齢や性別といった基本属性に有意差は認めず、ま
た、機能状態を大分類するカテゴリ変数による評価指標である要介護度や寝たきり度では、
高負担群と低負担群で有意差は認めなかった。そのため、本研究の対象者である発症後の
経過期間が長い慢性疾患患者においては、BI や BMS による詳細な機能状態の評価を行うこ
とで、介護負担感と関連した動作能力や生活機能を把握することができると考えられた。
また、介護者調査項目では ADL 介助負担度、PGC モラール・スケール、介護を手伝って
くれる人の有無、介護相談者の有無で低負担群と高負担群との間に有意な差を認めた。介
護者の能力として、介護にあたって問題が生じた際の解決能力が介護負担感を左右すると
報告されており、その問題解決能力の向上にはソーシャルサポートが重要であるとされて
いる
60)
。本研究においても、介護負担感が低い群では、高い群に比べて介護協力者や介護
相談者がいる割合が多く、ソーシャルサポートの必要性が支持される結果であった。J-ZBI_8
は、Personal strain(介護を必要とする状況(または事態)に対する否定的な感情の程度)と
Role strain(介護によって(介護者の)社会生活に支障を来たしている程度)の 2 つの因子
構造により成り立ち 61)、心理的負担や社会的負担の側面に関する評価が中心となっている。
本研究では、実際の ADL における介助負担度を介護者の自覚的負担度として VAS を用いて
評価した結果、J-ZBI_8 得点から分類した高負担群のほうがすべての ADL 介助場面におい
て有意に大きな負担を感じていることが明らかとなった。その他に介護負担感との関連が
示唆された変数として、介護者の主観的幸福感が挙げられ、介護負担の大きい群では主観
的な幸福感が低い結果であった。この結果からは、大きな介護負担感を有するものが主観
的な幸福感が低く感じているのか、または主観的な幸福感が低い者が介護負担感を大きく
感じているのかといった介護負担感と主観的幸福感の因果関係を推定することはできない。
しかし、このように介護負担感が大きい介護者は心理的問題を抱えており、積極的な支援
の必要性が示唆された。一方、高負担群と低負担群で介護者の体力に有意差を認めなかっ
31
た。本研究で用いた MFS は両群ともに平均得点が 10 点以上であり、今回の対象者におい
ては、天井効果を示したため、体力の差異を明らかにするには不十分な内容であった可能
性も考えられた。
介護負担の軽減を目的として、褥瘡予防や栄養指導、歩行介助、コミュニケーション、
移乗・移動介助の技術指導などの介護者への介入を行うと、介護者の介護負担感が軽減す
ることが無作為化比較対照試験により明らかにされている
62),63)
。このような包括的な介入
方法をより効果的かつ効率的に計画するためには、介護負担感に影響する要因を明らかに
したうえで、介護者が有する問題を明らかとし、介入方法を検討することが必要であると
考えられる。本研究の結果から、介護負担感は要介護者の ADL 能力や動作能力との関連性
が示唆され、横断的かつ単変量解析結果であるという限界はあるが、要介護者の機能状態
の差異が介護者の負担感にも影響を与える一因となり得るのではないかと考える。さらに、
介護者自身の要因としては、ソーシャルサポートや介護者の主観的幸福感が介護負担感と
の関連が示され、これらの要因に着目した介入方法の検討も課題であると考える。
本研究の限界として、対象者が PT または OT の訪問によるリハビリテーションを実施し
ている者に限られている点がある。2004 年での居宅サービス利用者のうち、訪問看護また
は訪問リハビリテーションを利用している者の割合は 13%程度であり
2)
、本研究の結果を
一般的な在宅要介護者、介護者の代表集団として捉え、一般化するには注意が必要である。
介護負担感の軽減に対する公的サービスの重要性に関する報告もある
64)
が、本研究では居
宅サービスによるサポート状況には言及できていない。また、本研究では、J-ZBI_8 得点か
ら中央値と平均値を参照に介護負担感を便宜的に低負担群(10 点未満)と高負担群(10 点
以上)とに分けた解析結果であるために、カットオフに関する根拠が不十分であることも
限界点のひとつであると考える。
本研究では、要介護者の ADL 能力や動作能力は主介護者の介護負担感に影響を与える要
因である可能性が示唆された。また、介護協力者や介護相談者の有無も介護負担感と関係
し、介護負担感が高い主介護者では主観的幸福感が低いことが示された。今後は、介護負
担に影響するさまざまな要因の相互関係性や介護負担の軽減に向けた介入方法の検討につ
いて引き続いて検討していくことが課題である。
3-5 まとめ
第 3 章では、在宅要介護者の運動機能および生活機能はじめ、主介護者の体力や主観的
32
幸福感、主介護者のソーシャルサポートなどの多面的な視点から介護負担感に関与する要
因について検証した。その結果、要介護者の ADL 能力や動作能力は主介護者の介護負担感
に影響を与える要因である可能性が示唆された。また、介護協力者や介護相談者の有無も
介護負担感と関係し、介護負担感が高い主介護者では主観的幸福感が低いことが示された
65)
。しかし、本章では介護負担感により、高負担群と低負担群に分けて比較した横断的な単
変量解析の結果であり、介護負担に影響するさまざまな要因の相互関係性については、検
証がなされていない。第 4 章では、本章で用いた評価指標のほか、介護を継続していく自
信の程度を指標のひとつに加え、介護負担に影響するさまざまな要因の相互関係性を明ら
かにすることを目的に再調査を行い共分散構造分析により検証した。
33
第4章
介護負担感に関与する諸要因の相互関係性について
―共分散構造分析による検証―
4-1 はじめに
4-2 方法
4-3 結果
4-4 考察
4-5 まとめ
本章では、要介護者を在宅で介護する家族の介護負担感に関与する諸要因の相互関係に
ついて検証した。対象は、在宅にて理学療法士または作業療法士の訪問によるリハビリテ
ーションを実施していた要介護認定者 49 名(男性 26 名、女性 23 名、平均年齢 77.5 歳)と
その主たる家族介護者 49 名(男性 15 名、女性 34 名、平均年齢 66.4 歳)の 49 組 98 名であ
った。介護負担感と介護負担感への関与が予測される因子との関係について、共分散構造
分析(構造方程式モデル)によるモデル適合度を判定した。モデル適合度が統計学的な許
容水準を満たしたモデル(GFI = 0.903、CFI = 0.998、RMSEA = 0.017)において、
「介護負
担感」に直接的な影響を与えていた変数は、
「要介護者の機能状態」であり、
「介護負担感」
に対する標準化係数は、-0.39(p < 0.05)であった。また、
「介護負担感」は「介護者の主
観的幸福感」および「介護セルフ・エフィカシー」と有意な関連を示し、それぞれに対す
る標準化係数は、
「介護者の主観的幸福感」が-0.48 (p < 0.01)、
「介護セルフ・エフィカシー」
が-0.36 (p < 0.01)であった。また、
「介護者の体力」は、
「介護者の主観的幸福感」と「介護
セルフ・エフィカシー」とに有意に関連する因子であった。
要介護者の機能状態が介護負担感に関与し、介護負担感および介護者の体力は介護者の
介護生活を継続していく自信の程度と主観的幸福感に影響を与える要因である可能性が示
唆された。介護者の介護負担感の軽減や心理状態の安定に向けた取り組みでは、これらの
要因に対して包括的に働きかける必要があると考えられた。
34
4-1 はじめに
厚生労働省によると、2000 年の介護保険制度導入後 6 年間で、要支援または要介護認定
を受けた人は 109%増の 456 万人となったと報告している。さらに、介護保険による施設サ
ービス利用者の増加は 56%増の 81.3 万人であったのに対して、在宅介護サービス利用者の
数は 180%増の 272 万人となった。在宅で身体的、精神的な障害を有する要介護者を介護す
る者にとって、介護による負担は介護者にとって大きな問題を引き起こすことも尐なくな
く、虐待に至るケースもある。そのため、介護者の負担を軽減することは、高齢化の進行
するわが国において社会的な問題となっている。
要介護高齢者を在宅で介護する場合、多くの家族は負担感やストレスを感じることが多
く 66),67)、それがうつ状態などの精神状態に悪影響を及ぼすことは強い見解の一致が得られ
ており、多大な負担は介護者の健康状態を害することにもつながる 17),68)。
Pinquart や Sorensen ら 69)によるメタアナリシス研究では、より高齢であること、社会的な
経済状況が低いこと、または社会的支援が低いレベルであることが介護者の健康を損なう
原因の一つであることを報告している。特に要介護者の心身状態、介護者の心身状態、社
会的要因が介護者の負担と関係がある重要な要因であるとされている。要介護者の運動能
力の低下は、介護者の家族支援、経済状況、介護のスケジュールに関連しているとした報
告もある 70)。また、2 つ以上の障害を有する高齢者の介護者では、より大きな介護負担を経
験している傾向にある 8)。介護者の負担の程度は要介護者の日常生活動作(ADL)能力との
関連が示されており 8),9)、不安感やうつ状態、あるいは身体的な疲労感と介護者の負担感と
の関係について、これまで報告がなされてきた 10),11),12)。介護負担感と家族の社会的支援と
の関係性については、社会的支援の良好さは、介護者のうつ状態の軽減や良好な主観的幸
福感、一般的な健康感、問題解決能力との関連も示されてきた 13),60)。これらの結果はさま
ざまな要因が介護負担と関連していることを示している。しかしながら、在宅介護におい
て、家族介護者の介護継続の自信の程度や体力状態などを含んだ介護負担との関連が推測
される諸要因の相互関係性については、わが国においては未だ十分には明らかにされてい
ない。
家族介護者に対して負担の軽減を目的とした効果的な介入を行うためには、介護負担感
に関連する諸要因の相互関係性を確認する必要があると考え、本章では共分散構造分析
(structural equation modeling : SEM))を用いて、家族介護者の負担感と要介護者および家族
介護者のその他の要因について相互関係性を検証した。
35
4-2 方法
4-2-1
対象
対象者は、理学療法士(PT)または作業療法士(OT)の訪問によるリハビリテーション
を実施していた在宅生活において家族による介護を必要とする 50 歳以上の要介護者とその
主たる家族介護者を対象とした。終末期治療、緩和医療を目的とした在宅サービスを利用
していた者は除外した。また、一般的な質問紙に妥当な回答ができるように、著しく理解
力の低下している家族介護者は除外した。61 組の要介護者およびその家族介護者に参加協
力を依頼し、家族介護に対する質問紙調査は自宅訪問による留め置き法にて行った。その
うち、49 名(80.3%)の家族介護者から完全回答を得た。そのため、回答の得られた 49 組
の要介護者(男性 26 名、女性 23 名、平均年齢 77.5 歳)とその家族介護者(男性 15 名、女
性 34 名、平均年齢 66.4 歳)を分析対象とした。対象者には研究の主旨を説明し、口頭およ
び書面にて同意を得た上で実施した。なお、本研究は早稲田大学スポーツ科学学術院研究
倫理委員会の承認を受けて、2007 年 3 月 7 日から 2007 年 5 月 30 日の期間に実施した。
4-2-2
介護者の測定項目
主介護者には、基本情報として年齢、性別、要介護者との続柄のほか、介護生活の支援
状況として、介護を手伝ってくれる人の有無、介護相談ができる人の有無を聴取し、介護
負担感として短縮版 Zarit 介護負担尺度(J-ZBI_8)49),55)、主観的幸福感として PGC モラー
ル・スケール 58)、簡易体力評価として Motor Fitness Scale(MFS)57)、介護の自信の程度と
して介護セルフ・エフィカシーの質問紙調査を留め置き法にて行った。
介護負担感は、第 3 章でも用いた信頼性および妥当性の確認されている 8 項目から構成
される短縮版 Zarit 介護負担尺度(J-ZBI_8)49),55)(得点範囲:0 から 32 点)を用い、合計得
点を算出した。また、主観的幸福感の指標として PGC モラール・スケール 58)を用いて(得
点範囲:0 から 17 点)
、合計得点を算出した。
また、介護者の介護行動に対する自信の程度を把握するために「今後、介護生活を続け
ていく自信がある」の設問に対して、
「まったく自信がない(1 点)
」から「かなり自信があ
る(5 点)
」の 5 段階で回答する評価を用いた。
4-2-3
要介護者の測定項目
要介護者の居室内での動作能力を評価するために Bedside Mobility Scale(BMS)54)、ADL
指標として Barthel Index(BI)20)を担当 PT または OT により評価した。BMS は、第 3 章と
36
同様に第 2 章において信頼性と妥当性の確認された動作能力を評価する起居動作や移乗動
作、移動動作などを含む 10 項目から構成される指標を用いた(得点範囲:0-40 点)
。BI
は基本的な ADL 能力を示す 100 点満点の指標であり、高得点ほど日常生活動作能力が高い
ことを示す。
4-2-3
統計解析
まず、分析の第 1 段階として、要介護者と介護者のそれぞれの変数の相関関係を調べる
ために、相関分析を行った。分析の第 2 段階では、要介護者の要因として身体機能状態(BI、
BMS)
、介護者の要因として主観的幸福感(PGC モラール・スケール)、体力(MFS)、介護
セルフ・エフィカシー、年齢、介護の協力者有無、続柄(配偶者であるか否か)
、介護負担
感(J-ZBI_8)による構造的な仮説モデルを作成し、共分散構造分析によりモデル適合度を
判定した。なお、本研究では共分散構造分析を行うにあたり、サンプルサイズが不十分で
あったため、
ブートストラップ法によりサンプルサイズを 5000 に設定して分析を行った 71)。
2
モデルの適合判定は、χ 検定、Goodness of Fit Index(GFI)、Comparative Fit Index (CFI)、
the Root Mean Square Error of Approximation(RMSA)により判断した。また、モデル内にお
ける各変数間の関係性を調べるために標準化係数を算出し、モデル修正の参考とした。な
お、統計処理には SPSS16.0 および AMOS16.0 を用い、有意水準は危険率 5%未満とした。
4-3 結果
4-3-1
対象者の基本属性と調査結果(表 4-1, 4-2)
表 4-1 に要介護者と家族介護者の基本属性を示した。要介護者の 31 名(63.3%)が脳卒中
後遺症患者であった。家族介護者の続柄では、妻が介護を担っている家族が 20 組(40.8%)
で最も多く、次いで夫が介護を担っている家族が 13 組(26.5%)であり、合わせて 33 組
(67.3%)の対象者において配偶者が主たる介護者であった。
表 4-2 には調査結果の値を示した。簡易体力の指標とした MFS(14 点満点)は中央値が
12 点(得点範囲:8-14 点)であり、多くの家族介護者が高得点を示したため、共分散構
造分析のモデルにおいては、MFS 得点の 4 分位により 4 つのカテゴリ変数へと変換して投
入した。
37
表4-1 要介護者と家族介護者の基本属性
要介護者
対象者 [名]
49
男性/女性 (男女比: 男性の割合 %)
26/23 (53.1)
年齢 [歳]:平均(標準偏差)
77.5 (11.5)
年齢範囲(最小―最大) [歳]
53 ― 104
主たる診断名 [名 (%)]
脳血管疾患
31 (63.3)
骨・関節系疾患
5 (10.2)
神経筋疾患
4 (8.2)
呼吸器疾患
1 (2.0)
循環器(心)疾患
1 (2.0)
その他
7 (14.3)
認知機能低下の疑い [名 (%)]
18 (36.7)
家族介護者
対象者数 [名]
49
男性/女性 (男女比: 男性の割合 %)
15/34 (30.6)
年齢 [歳]:平均(標準偏差)
66.4 (10.9)
年齢範囲(最小―最大) [歳]
42 ― 85
要介護者との続柄 [名 (%)]
妻
20 (40.8)
夫
13 (26.5)
娘
11 (22.4)
息子
3 (6.1)
嫁
2 (4.1)
表4‐2 要介護者および家族介護者の調査、測定結果
平均値(標準偏差)
中央値(IQR)
Barthel Index [点]
45.6 (27.4)
45.0 (20.0 - 67.5)
Bedside Mobility Index [点]
30.2 (10.6)
33.0 (26.5 - 38.5)
J-ZBI_8 [点]
9.0 (6.3)
8.0 (3.0 - 13.5)
PGC scale [点]
8.8 (4.4)
8.0 (5.0 - 13.0)
Motor Fitness Scale [点]
10.5 (3.8)
12.0 (8.5 - 14.0)
Care self-efficacy [点]
3.4 (0.9)
3.0 (3.0 - 4.0)
要介護者
家族介護者
介護相談者(有/無)[名(有の割合:%)]
41/8 (83.7)
介護協力者(有/無)[名(有の割合:%)]
31/18 (63.3)
IQR: Interquartile range(四分位範囲)
38
4-3-2
各変数の相関関係(表 4-3)
各測定結果における変数間の相関行列を表 4-3 に示した。介護負担の指標とした J-ZBI_8
は、要介護者の ADL 能力および動作能力を示す BI や BMS のほか、介護者の主観的幸福感
(PGC モラール・スケール)
、介護セルフ・エフィカシーと有意な相関関係を認めた。
表4‐3 各変数間の相関関係: Spearman's rank correlation coefficient
変数
1
2
3
4
5
6
7
8
9
1. 要介護者の性別
-
2. 要介護者の年齢
.16
-
3. 介護者の性別
-.44**
.31*
-
4. 介護者の年齢
-.13
.15
.10
-
5. J-ZBI_8
-.13
.17
.17
.01
-
6. Barthel Index
.26
.00
-.34*
.17
-.39**
-
7. Bedside Mobility Scale
.22
.01
-.28
.19
-.41**
.93**
-
8. PGC scale
.26
.24
-.20
-.26
-.50**
.23
.17
-
9. Motor Fitness Scale
.12
-.14
-.21
-.61**
-.06
-.26
-.22
.37**
-
10. 介護セルフ・エフィカシー
10
11
.21
-.24
-.27
-.27
-.42**
.01
.01
.32*
.50**
-
11. 介護相談者の有無
-.03
.11
.19
-.23
-.02
-.23
-.21
.10
.26
.17
-
12. 介護協力者の有無
.38**
.07
-.14
-.32*
-.03
-.05
-.09
-.01
.20
.14
.35*
* p < .05. ** p < .01
4-3-3
共分散構造分析による仮説モデルの検証(図 4-1)
共分散構造分析による仮説モデルの分析結果を図 4-1 に示した。仮説モデルでは、先行研
究および第 3 章の結果をふまえ、要介護者の身体機能状態(BI、BMS)、介護者の主観的幸
福感(PGC モラール・スケール)
、体力(MFS)、介護セルフ・エフィカシー、年齢、介護
協力者の有無、要介護者との続柄(配偶者であるか否か)、介護負担感(J-ZBI_8)を投入し
た。なお、介護に関する相談者の有無については、80%以上の多くの介護者で相談できる人
がいると回答したため、仮説モデルには用いなかった。要介護者との続柄について、Tanji
ら
72)
による主たる家族介護者が配偶者である場合は、より介護負担感がうつ状態に導きや
すいという報告をもとに、本研究での仮説モデルにおいては、介護者が配偶者家族である
か否かをひとつの要因として採用した。図 4-1 においては、各変数間における標準化係数を
示した。仮説モデルによる共分散構造分析の結果、要介護者の身体機能状態は、介護負担
感に有意な関連を認め、介護負担感は介護セルフ・エフィカシー、主観的幸福感に有意な
影響を与えていた。しかしながら、モデル全体の適合度指標の結果は、GFI が 0.803、CFI
が 0.717、RMSEA が 0.186 であり、統計学的な許容水準を満たさなかった。なお、モデル適
合度に関しては、GFI および CFI が 0.90 以上、RMSEA が 0.05 以下を良好なモデルとして
39
12
-
の適合判断とした 73)。
e1
e2
Bedside Mobility Scale
Barthel Index
.90
.93
要介護者の身体機能
e3
-.43**
e5
J-ZBI_8
-.37**
介護セルフ・エフィカシー
Motor Fitness Scale
e4
PGC scale
-.50**
(介護負担感)
(主観的幸福感)
-.12
-.12
e6
介護協力者
.05
a)
-.57**
介護者年齢
(介護者体力)
χ2 = 69.010, d.f. = 26, p = .000.
続柄(配偶者)
.48**
e7
* p < .05, ** p < .01
GFI = .803, CFI = .717, RMSEA = .186
a) Motor Fitness Scale: 4分位により、4段階のレベルに分類
図4‐1 仮説モデル (モデル 1)
4-3-3
共分散構造分析による修正モデルの検証(図 4-2)
仮説モデルの結果をもとにモデルの修正を行い、修正モデルの適合度および各変数間の
標準化係数を算出した(図 4-2)。仮説モデルでは、介護協力者の有無および続柄と介護負
担感が有意な関連を認めなかったため、これらの変数が影響を与えると予測される変数を
主観的幸福感へと変更した。さらに、仮説モデルで有意な関連を認めなかった体力レベル
の介護負担感へ対する影響を介護セルフ・エフィカシーおよび主観的幸福感へと変更した。
その結果、モデル適合度指標は、それぞれ GFI が 0.903、CFI が 0.998、RMSEA が 0.017 と
なり、統計学的な許容水準を満たすモデルとなった。
40
e1
e2
Bedside Mobility Scale
Barthel Index
.87
.96
要介護者の身体機能
介護協力者
e3
e5
介護セルフ・エフィカ
シー
Motor Fitness Scale a)
J-ZBI_8
-.36**
.24**
(主観的幸福感)
.29**
-.57**
-.44**
介護者年齢
(介護者体力)
χ2 = 25.330, d.f. = 25, p = .444.
e4
PGC scale
-.48**
(介護負担感)
.53**
e6
-.39*
.48**
e7
続柄(配偶者)
* p < .05, ** p < .01
GFI = .903, CFI = .998, RMSEA = .017
a) Motor Fitness Scale: 4分位により、4段階のレベルに分類
図4‐2 修正モデル (Model 2)
4-4 考察
本研究では、在宅で生活する要介護者と介護する家族における介護負担感とそれに影響
を与えるさまざまな要因について相互の関係性を明らかにすることを目的とした。Zarit に
よると、介護負担は主たる介護者の身体的な健康、心理的な幸福感、経済状況、社会活動
を含む経験される不安や苦痛であると定義している 7)。この介護負担に影響を与えるとして、
要介護に関する要因、介護者自身の要因、社会的な要因などが先行研究によって明らかに
されてきた。本研究では、介護負担との関連があるさまざまな要因を組み合わせた構造モ
デルをデザインした。図 4-1 に示したように、介護負担を取り巻く要因を考慮した相互関係
性についての仮説モデルの適合度を検証した結果、そのモデル適合度は統計学的に許容な
水準を満たさなかった。
本研究でデザインした仮説モデルでは、介護負担感に対する介護協力者の有無、要介護
者との続柄(配偶者であるか否か)の直接的な関連性は有意ではなかった。同様に介護者
の体力レベルも介護負担感に対して直接的な影響は有意ではなかった。介護者の健康状態
や社会的支援は介護負担感と関連があると報告されているが 7),13)、本研究における仮説モデ
ルでは介護者の体力レベルや介護協力者の有無は、介護負担感に対して直接的に影響を与
41
える変数としては、有意とはならなかった。この仮説モデルの検証結果を受けて、仮説モ
デルにおけるそれぞれの標準化係数と相関関係の結果を参考にモデルの修正を試みた。あ
る研究では、介護負担に対する社会的支援の重要性について報告しており、この社会的支
援には、家族や友人のほか近隣住民などから提供される公的ではないネットワークも含ま
れる 24)。このように社会的支援は、情動的や手段的な側面を持ち合わせており、多面的な
要素で構成されている。本研究におけるモデルでは、支援体制に関する要因は、介護協力
者の有無のみであり、これは介護負担感への直接的な影響ではなく、主観的な幸福感へと
影響を与えていた。社会的支援の要素について、十分に反映するための包括的な構造が本
研究の調査に含まれないことは、限界点のひとつであると考える。本研究での修正モデル
においては、モデル全体の適合度は統計学的な許容水準を満たし、要介護者の身体機能状
態が家族の介護負担感に直接的に影響しており、さらに介護負担感は介護セルフ・エフィ
カシーと主観的幸福感に影響を与えていることが明らかとなった。その他、介護者の体力
レベル、年齢、続柄、介護協力者の有無といった要因が、直接的または間接的に介護負担
感と関連していることが示された。
本研究の限界点として、サンプルサイズの問題、また対象者が在宅での PT あるいは OT
によるリハビリテーションサービスを利用している要介護者ならびにその家族介護者に限
られている点が考えられる。そのため、本研究における構造モデルを一般化するには十分
な注意が必要である。また、先に挙げた社会的支援の側面の質問構造については、社会的
支援は介護者のストレスを軽減させることによって介護者の健康に影響を与えるとされて
いる 75)。本研究の質問項目では、社会的支援の多面性について把握するには不十分であっ
た可能性がある。もうひとつの見込まれる限界点は、対象者がいくつかの疾患を有する者
が多く含まれることが推測されることである。認知症 9),13),66)、癌 10),11)、脳血管疾患 74),75),76)
といった特定の疾患を有する対象者とその家族の介護負担の関係を報告した研究は多く報
告がなされている。しかしながら、多く高齢者においては、有する疾患や障害は複数の要
因が絡み合う。地域在住の要介護者とその家族介護者を対象とした本研究の見解は、それ
ゆえに主介護者の負担に関する要因の組み合わされた効果を明らかにするという点で有用
であると考える。
本研究における新規性は、高い介護負担感は要介護者の低い身体機能状態に影響を受け、
さらに介護負担の高い状態と体力レベルの低さは、介護生活を継続していく自信の低下と
主観的幸福感の低下を導く可能性がある点である。さらに、介護者の体力レベルの低さや
介護協力者のいない介護者、配偶者である介護者は、主観的な幸福感の低下に影響する恐
42
れがある。在宅で生活する要介護者を介護する家族を対象とした介護負担の軽減や心理的
な安定を図るための支援においては、このような諸要因の相互関係性を考慮する必要があ
ると考える。
4-5 まとめ
第 4 章では、要介護者を在宅で介護する家族の介護負担感に関与する諸要因の相互関係
について検証した。本章で明らかになった点は、要介護者の身体機能状態が介護負担感に
関与し、介護負担感および介護者の体力は介護者の介護生活を継続していく自信の程度と
主観的幸福感に影響を与える要因となっていることである。今後、介護者の介護負担感の
軽減や心理状態の安定に向けた取り組みでは、本研究における介護負担感に関与する諸要
因の相互関係性について考慮し、これらの要因に対して包括的に働きかける必要があると
考えられた。
43
第5章
家族介護者に対する教育的な個別介入の効果
―層化無作為割り付けによる比較対照試験―
5-1 はじめに
5-2 方法
5-3 結果
5-4 考察
5-5 まとめ
本章では、第 2 章から第 4 章におけるそれぞれの研究結果をふまえて、在宅にて訪問に
よるリハビリテーションを利用する要介護者の家族を対象として、介護方法や介護に関す
る情報提供を行い、介護者の負担感の軽減や心理状態の向上が可能か検討した。介入は、
要介護者の介護度を層化して、対象者を無作為に対照群と介入群に分類し、介入群に対し
て個別介入を 3 か月間実施した。介入の実施は、訪問によるリハビリテーション時に行い、
1 回の介入は 5 分間程度とし、その他のサービスは両群とも継続した。介入後調査を完遂し
た家族介護者(対照群 10 名、介入群 11 名)を分析した結果、介護負担感を有意に改善させ
るほどの十分な効果は認めなかったが、介護者の主観的幸福感の指標とした PGC モラー
ル・スケールが、対照群では低下したのに対して、介入群では向上を示し、有意な交互作
用を認めた。この結果は、家族介護者に対する情報提供が、介護者に対する主観的幸福感
に良好な影響を与えることを示唆した。
5-1 はじめに
日常生活で介護が必要になった障害者や高齢者の在宅生活の継続において、家族介護者
の支援は重要である。在宅での介護は、家族に負担を強いるため、家族介護者の精神状態
や身体状態の悪化に影響を及ぼすことが知られている
44
66),67),77)
。身体機能や精神機能の低下
した高齢者の家族介護者は、しばしば高度なストレスを経験し
14)
、幸福感の低下や負担感
の増大、うつ状態を招くといった精神状態を悪化させる要因となり得る
15),16)
。また、介護
により身体的健康を害し 15)、介護者の死亡を早める恐れがあるとまで報告されている 17)。
家族介護者の介護に対する精神的、身体的負担を軽減するための方法は、集団および個
別的な介入方法によって実施されてきた。Yin ら 18)の 1980~2000 年の介護者に対する介入
研究をまとめたメタアナリシスによると、集団介入研究のうち 90%以上が教育的な介入と
仲間支援プログラムを含むものであった。一方、個別介入は 8 研究であり、介入内容とし
ては電話や訪問による個別カウンセリングが多く、それらの効果量は、集団介入と比べて
差はないとされている。ただし、これらの研究の多くが、対象者数が尐ない、無作為化が
なされていない、欠損値が多いなどの問題を含んでおり、家族介護者に対する効果的な介
入手段の検討は未だ十分とはいえない状況にある。
わが国における在宅生活を送る要介護高齢者は増加の一途をたどり、在宅介護の継続を
図るうえで、家族介護者における心身の負担の軽減を図っていくことはきわめて重要な課
題である。本研究の目的は、家族介護者への介護方法や介護に関する情報提供が、家族の
心理状態に与える影響を検証することとした。情報提供の内容は、介護や介助の方法に関
する知識、疾患に対する知識、社会資源の情報などといった、家族の介護負担感に影響す
るさまざまな要因とその解決方法とし、それらを介護者の要望に合わせて個別的に介入し
た。本研究の仮説は、介護負担の要因の解決方法に関する知識を家族介護者が持つことは、
介護者の心理的安定をもたらすと考えた。この簡便な介入方法が家族介護者の心理状態の
向上に寄与することができれば、在宅サービスのひとつとして、家族への情報提供の有益
性を実証し、その具体的方法を明示することができる。
5-2 方法
5-2-1
対象
東京都内の A 訪問看護ステーションで理学療法士(PT)または作業療法士(OT)の訪問
によるリハビリテーションを実施していた要介護者とその家族介護者を対象とした。対象
者選定のプロセスは図 5-1 に示した。2007 年 6 月現在で A 訪問看護ステーションからの訪
問サービスを利用していた 159 名のうち、以下の取り込み基準を満たす利用者とその家族
介護者に研究協力の依頼をした。取り込み基準は、1)定期的な訪問によるリハビリテーシ
ョンを実施している、2)日常生活に介護が必要であり主たる家族介護者がいる、3)PT ま
45
たは OT が訪問時に主介護者と定期的な面会が可能である、4)終末期治療を行っていない、
とした。取り込み基準を満たした 41 組を要介護度により層化して無作為に対照群 20 組、
介入群 21 組に割り付けた。その後、対照群 6 組、介入群 6 組が入院、訪問終了などの理由
によりベースライン調査を受けられずに脱落し、対照群 14 組、介入群 15 組をフォローア
ップの対象とした。要介護者は男性 17 名、女性 12 名、年齢 80.2±8.7 歳、主介護者は男性 4
名、女性 25 名、年齢 65.2±9.3 歳であった。ベースライン調査は、2007 年 7 月 3 日から 8 月
22 日に行い、フォローアップ調査は、2007 年 10 月 2 日から 11 月 24 日に行った。なお、対
象者には、本研究の主旨や目的を面接による口頭および書面にて説明し、同意を得た。本
研究は早稲田大学スポーツ科学学術院研究倫理委員会の承認を受けて実施した。
A訪問看護ステーションの利用者159名(2007年6月現在)
取り組み基準
◇定期的な訪問によるリハビリテーション(PT、OT)を実施している。
◇日常生活において介護が必要であり主たる介護者がいる。
◇PTまたはOTが訪問時に主介護者と定期的な面会が可能である。
◇終末期の治療を行っていない。
上記基準を満たした要介護者およびその主介護者41組を対象候補に選定
無作為割り付け(軽度要介護群と重度要介護群で層化)
介入群21組
対照群20組
割り付け後脱落
◇開始前訪問理学療法終了1組
◇開始前主介護者入院1組
◇参加拒否1組
◇主介護者との都合調整困難2組
◇その他理由2組
割り付け後脱落
◇開始前訪問理学療法終了1組
◇開始前利用者入院2組
◇主介護者との都合調整困難2組
◇その他理由1組
初期調査
対照群14組
介入群15組
脱落
◇利用者死亡1組
◇利用者入院1組
◇その他理由1組
3ヶ月後調査
脱落
◇利用者入院2組
対照群11組
介入群13組
解析除外
◇男性介護者1組
解析対象
解析除外
◇男性介護者2組
対照群10組
介入群11組
図5-1 対象者の選定プロセス
5-2-2
研究デザイン
層化無作為割り付け法による比較対照試験を実施した。割り付け方法は、要介護者の障
害度の偏りを防ぐために要介護 2 以下の軽度要介護者と要介護 3 以上の重度要介護者に層
化して取り込み基準を満たした 41 組を無作為に対照群 20 組、介入群 21 組に割り付けた。
なお、割り付けの際には、本研究に全く関与しない者が順不同に記載された対象者の匿名
46
番号と要介護度のみをもとに乱数表を用いて割り付けた。本研究では、評価者と介入者の
盲検化は施されていない。
5-2-3
調査項目
すべての調査は、要介護者および家族介護者のそれぞれに対して、介入前および 3 か月
後に実施した。
要介護者の調査項目
要介護者の基本情報として、年齢、性別、要介護度、要介護となった主たる原因疾患、
主たる疾患発症後の経過日数、認知症の疑いを判断するために痴呆老人の日常生活自立度
53)
を調査した。また、日常生活活動(ADL)能力の指標として Barthel Index(BI)20)、基本
動作能力指標として Bedside Mobility Scale(BMS)54)を訪問している PT が評価した。基本
的な ADL 能力を測定する指標として 10 項目から構成される 100 点満点の BI を用いた。基
本動作能力の指標に用いた BMS は、重度な要介護者、身体機能の障害を有する者の基本動
作能力を測定する評価として開発された 54)。BMS は、寝返り、ベッド上での移動、起き上
がり、ベッド上での座位保持、座位で物を拾う、立ち上がり、立位保持、ベッドと椅子(車
いす)間の移乗、椅子(車いす)上での座位保持、移動(車いす駆動)の 10 項目から構成
され、各項目において、動作の自立度から、全介助、一部動作協力あり、一部要介助、要
監視(セッティング含む)
、完全自立の 5 段階の 0 点から 4 点で評価する。BMS は 0 点から
40 点の指標であり、得点が高いほど基本動作能力が良好であることを意味し、第 2 章にお
いて信頼性および妥当性が確認されている。
家族介護者の調査項目
主介護者には、基本情報、介護負担感として短縮版 Zarit 介護負担尺度(J-ZBI_8)49),55)、
視覚的アナログスケール(VAS)による ADL 介助負担度、主観的幸福感として PGC モラー
ル・スケール
56)
、介護の自信の程度として介護セルフ・エフィカシーの質問紙調査を留め
置き法にて行った。介護者の基本情報は、年齢、性別、介護をしている方との続柄を聴取
した。
介護負担感は、第 3 章と第 4 章と同様に信頼性および妥当性の確認されている 8 項目か
ら構成される短縮版 Zarit 介護負担尺度(J-ZBI_8)49),55)(得点範囲:0 から 32 点)を用い、
合計得点を算出した。また、主観的幸福感に関しても同様に PGC モラール・スケール 56)を
47
用いて(得点範囲:0 から 17 点)
、合計得点を算出した。
ADL 介助負担度は、食事、移乗、整容、トイレ動作、入浴、歩行、車いすでの移動、階
段昇降、更衣の 9 項目について、日常生活において各動作を介助する際の介助負担の程度
を VAS により 10cm の一直線上に印をつけてもらい、ADL 介助負担度の指標とした。10cm
の一直線上につけられた印の位置を計測し、1mm 単位で記録した。なお、この指標は数値
が大きいほど介助負担度が高いことを意味する。
また、介護者の介護行動に対する自信の程度を把握するために以下の 5 つの条件におい
て、介護をうまくやれるという自信の程度を「まったく自信がない(1 点)
」から「かなり
自信がある(5 点)
」の 5 段階で回答する評価を用いた。5 つの条件は、身体活動特有のセ
ルフ・エフィカシーを測定する質問紙 78),79)を参考にして、
「あなた自身が疲れているとき」
、
「あなた自身の機嫌が悪いとき」
、「時間がないと思うとき」、「あなた自身が休んでいると
き」
、
「あなた自身の体力が衰えてきたとき」と設定し、さらに、
「今後、介護生活を続けて
いく自信がある」の設問にも同様に 5 段階で回答した。
5-2-4
介入方法
介入群は 40 分から 50 分間の PT または OT の訪問によるリハビリテーションサービスに
加えて、訪問した PT または OT による家族介護者へ個別の教育介入を 1 回につき 5 分間程
度実施した(写真 5-1)。教育介入の内容は、介護に関する社会支援情報や介助方法、福祉
用具、栄養、介護者向け体操などの 50 項目で作成した「介護に関する学習プログラム」を
用いて、訪問時に家族介護者の希望する項目に関する情報を提供し、介護者が介護に関す
る知識や情報を定期的に学習する場とした。
「介護に関する学習プログラム」の各項目の情
報提供量は A4 サイズ 1 枚とした。実技が含まれるものは、紙面での情報提供に加えて、簡
単な実技指導も含めた。介護者が希望する項目がない場合は、現在困っていることを聴取
し、情報提供や助言を 5 分間ほど行った。また、訪問した PT や OT により介入が必要と判
断した項目は、優先的に介入項目として採用した。介入頻度は月に 1 から 3 回であった。
なお、訪問によるリハビリテーションの臨床経験が 2 年以上ある PT3 名、OT1 名が介入を
行った。
一方、対照群では 40 分から 50 分間の PT または OT による訪問リハビリテーションサー
ビスを継続して行った。
48
写真5-1 家族介護者への個別介入
5-2-5
統計解析
ベースライン調査における各変数の群間比較のために、カテゴリ変数については χ2 検定、
連続変数は対応のない t 検定を用いた。なお、Shapiro-Wilk 検定により正規性を認めなかっ
た連続変数については Mann-Whitney 検定を用いて比較した。各群におけるベースラインと
3 か月後の変化を、対応のある t 検定、Wilcoxon 符号付順位検定用いて、各変数の群内変化
を検証した。正規性が確認された J-ZBI_8 および PGC モラール・スケールに関しては、群
(対照群、介入群)と時間(ベースライン、3 か月後)を要因とする二元配置分散分析を行
った。さらに単純主効果を検証するために Bonferroni 法による下位検定を行った。また、3
か月後の変化量を対応のない t 検定により群間比較を行った。なお、統計処理には SPSS16.0
を用い、有意水準は危険率 5%未満とした。
5-3 結果
5-3-1
対象者の基本属性および継続状況
介入期間中の 3 か月間で対照群 14 組では、1 名の要介護者が死亡、1 名の要介護者が入
49
院、1 名の介護者がその他の理由で脱落し、介入群 13 組では、2 名の要介護者が入院によ
り脱落し、その結果 3 か月後のフォローアップ調査を完遂できたのは、対照群が 11 組
(78.6%)
、介入群が 13 組(86.7%)であった。今回の研究では、3 か月後のフォローアップ
調査を完遂した対照群 11 組、介入群 13 組のうち、男性介護者を除いた対照群 10 組、介入
群 11 組を最終的な解析対象とした(図 5-1)。
解析対象となった対照群の要介護者 10 名は、男性が 6 名、女性が 4 名で平均年齢 82.5 歳
(70-95 歳)
、介入群の要介護者 11 名では、男性が 7 名、女性が 4 名で平均年齢 78.7 歳(56-92
歳)であり、性別および年齢に両群間で有意差は認めなかった(性別;p = 1.00, 年齢;p = 0.36)
。
要介護者の要介護の原因となる主たる疾患では、両群ともに脳血管疾患を有する対象者が
最も多く、対照群で 8 名(80.0%)
、介入群で 6 名(54.6%)であった。また、主たる疾患を
発症してから 3 年以上経過している要介護者がほとんどであり、その割合は対照群で 9 名
(90.0%)
、介入群で 8 名(72.7%)であった(表 5-1)
。
家族介護者の平均年齢は、対照群で 68.8 歳(56-84 歳)、介入群で 64.8 歳(52-85 歳)で
あり、両群間で有意差は認めなかった(p = 0.30)。要介護者との続柄では、両群ともに配偶
者が最も多く、次いで娘の順であった(表 5-1)
。
表5-1 解析対象者の基本情報
対照群(n = 10)
介入群(n = 11)
p-value
82.5±7.8
78.7±10.2
0.36a)
6/4
7/4
1.00b)
脳血管疾患
8
6
脳血管疾患以外
2
5
6か月~1年
0
1
1年~3年
1
2
3年以上
9
8
要支援1または2
1
0
要介護1
1
2
要介護2
1
4
要介護3
1
1
要介護4
3
1
要介護5
3
3
6
8
0.66
68.8±8.2
64.8±11.2
0.30
妻
6
5
娘
3
3
嫁
0
2
姉
0
1
姪
1
0
要介護者
年齢:歳 [平均±標準偏差]
性別(男性/女性):名
主たる疾患:名
0.36b)
主たる疾患の発症後経過日数:名
要介護度:名
認知症の疑いあり
注)
:名
b)
介護者
年齢:歳 [平均±標準偏差]
a)
要介護者との続柄:名
注)痴呆老人の日常生活自立度により、I~Mの者を「認知症の疑いあり」と判断した。
a) 対応のないt 検定
2
b) χ 検定
50
5-3-2
ベースライン調査における特性(表 5-1, 5-2)
ベースライン調査では、要介護者および介護者のすべての変数において、対照群と介入
群の両群間で有意差を認めなかった。ベースライン調査での要介護者の BI は、対照群で
55.5±23.7 点、介入群で 54.1±31.8 点で、BMS は対照群で 31.7±5.7 点、介入群で 30.8±11.8 点
であり、群間で有意差はなく(BI;p = 0.91, BMS;p = 0.83)、両群の要介護者 ADL 能力お
よび基本動作能力はほぼ同程度であった。また、介護負担感と主観的幸福感については、
J-ZBI_8 が対照群で 9.4±5.0 点、介入群で 11.6±8.9 点、PGC モラール・スケールが対照群で
9.4±3.8 点、介入群で 8.0±4.3 点であり、いずれも両群間で有意差を認めなかった(J-ZBI_8;
p = 0.49, PGC モラール・スケール;p = 0.44)。その他、VAS による ADL 介助負担度、介護
セルフ・エフィカシーの各質問項目の得点においても群間で有意差を認めなかった。
5-3-3
介入頻度と介入内容に対するニーズ
本研究の介入では、1 回の介入ごとに介護者から学習したい項目を選択してもらった。ま
た、学習したい項目がない場合は、担当 PT または OT の判断により、対象者およびその家
族に必要と思われる項目を選定した。介入回数は、フォローアップ調査を完遂した介入群
11 名での合計介入回数は 48 回であり、ひとり平均 4.4 回(2~7 回)の介入であった。介入
群で介入期間中に脱落した 3 組と解析から除外した男性介護者 1 組の介入回数を加えると
合計 64 回の介入を実施し、介入の際に選択した項目の結果を表 5-3 に示す。
「その他(自由
な疑問や質問)
」を除いて、最も実施回数が多かった項目は、
「嚥下体操」で 4 回の実施が
あり、次いで、
「関節の拘縮(固まること)予防:足の運動」、
「歩行の介助」、
「入浴の注意」、
「メタボリック・シンドロームの予防」、「腰痛を予防する体操」、「家庭内の転倒を防ぐ」、
「部屋の環境」がそれぞれ 3 回の介入を実施した。また、その他の自由な疑問や質問とし
て、
「ベッドの選定について」や「福祉用具の選定について」、
「排淡法について」、
「服薬に
ついて」などが挙げられた(表 5-3)
。
51
表5-2 各測定値の変化(ベースラインと3か月後の比較)
測定項目
要介護者
Barthel Index:点
Bedside Mobility Scale:点
注1)
介護給付費
:円/日
介護者
J-ZBI_8:点
PGCモラール・スケール
注2
:点
介護セルフ・エフィカシー:点
①あなた自身が疲れているとき
②あなた自身の機嫌が悪いとき
③時間がないと思うとき
④あなた自身が休んでいるとき
⑤あなた自身の体力が衰えてきたとき
⑥今後、介護生活を続けていく自信がある
対照群(n = 10)
ベースライン
3か月後
55.5±23.7
42.5(25 - 90)
31.7±5.7
31.5 (23 - 40)
392.5±315.1
273.5 (101.7 - 1050.2)
49.5±19.2
45(20 - 80)
31.2±4.6
32 (22 - 36)
430.2±300.3
352.8 (125.8 - 1036.4)
9.4±5.0
8.5 (3 - 17)
9.4±3.8
10 (3 - 15)
11.1±5.9
11 (2 - 18)
7.4±3.7
7 (3 - 14)
2.3±1.3
2(1 - 5)
2.8±1.0
2.5 (2 - 5)
2.6±1.0
2 (2 - 5)
2.4±1.0
2.5 (1 - 4)
2.5±1.0
2 (1 - 4)
3.3±0.7
3 (2 - 4)
2.3±1.2
2(1 - 5)
2.2±0.8
2 (1 - 4)
2.3±1.1
2 (1 - 4)
2.5±1.1
2 (1 - 5)
2.0±0.8
2 (1 - 4)
3.1±1.1
3 (1 - 5)
ADL介助負担度:cm
ADL合計
有意差
n.s
n.s
*
n.s
n.s
n.s
*
n.s
n.s
n.s
n.s
介入群(n = 11)
ベースライン
54.1±31.8
65 (0 - 90)
30.8±11.8
35 (1 - 40)
571.9±339.6
602.3 (171.9 - 1158.5)
48.6±29.5
45 (0 - 85)
28.3±12.5
30 (1 - 40)
561.2±320.3
568.3 (139.2 - 1218.0)
11.6±8.9
11 (1 - 27)
8.0±4.3
7 (2 - 15)
12.6±8.0
15 (2 - 26)
8.5±4.1
7 (2 - 14)
2.5±1.2
2 (1 - 5)
2.8±1.1
3 ( 1- 5)
3.2±1.1
3 (2 - 5)
3.3±1.0
3 (2 - 5)
2.7±1.1
3 (1 - 5)
3.5±1.0
4 (2 - 5)
2.5±1.0
2 (1 - 5)
2.6±1.0
3 ( 1- 5)
2.6±1.2
2 (1 - 5)
2.8±1.3
2 (1 - 5)
2.3±1.2
2 (1 - 5)
3.4±0.8
3 (2 - 5)
28.0±19.1
29.5±19.2
25.8±20.2
n.s
25.6 (1.0 - 63.6)
29.0 (2.1 - 52.7)
23.5 (1.1 - 62.8)
セルフケア
15.7±10.1
16.6±9.6
14.3±11.2
n.s
(食事・整容・更衣・トイレ・入浴)
16.6 (0.5 - 30.0)
20.0 (2.1 - 28.1)
9.7 (1.1 - 35.1)
移乗・移動
12.3 ±10.2
12.8±11.2
11.5 ±10.6
n.s
(移乗・歩行・車いす・階段)
11.0 (0.5 - 33.6)
10.5 (0.0 - 30.1)
11.4 (0.0 - 27.7)
上段:平均値±標準偏差 下段:中央値 (最小値 - 最大値)
*:p < 0.05, n.s:not significant
注1)対照群で1名、介入群で2名の欠損あり(医療保険による対応のため)。調査月の介護給付費を日割りにて算出。
注2)対照群にて1名の欠損あり
Barthel Index、J-ZBI_8、PGC scaleについては、対応のあるt 検定を使用。その他は、Wilcoxonの符号付順位検定を使用。
52
3か月後
22.2±19.2
18.3 (5.1 - 68.5)
12.8±11.4
9.5 (1.2 - 37.9)
9.4±9.0
7.3 (0.0 - 30.6)
有意差
n.s
n.s
n.s
n.s
n.s
n.s
n.s
n.s
n.s
n.s
n.s
n.s
n.s
n.s
表5-3 「介護に関する学習プログラム」における家族介護者への介入頻度と学習項目のニーズ
No タイトル
介入回数 No タイトル
Ⅰ まずは、介護にあたって(3項目)
1
2
3
介護の心得
介護保険で利用できるサービス
介護の悩み整理法
0
0
0
Ⅱ 状態が悪化しないように(4項目)
1
2
3
4
認知症予防・早期発見
褥瘡(床ずれ)予防
関節の拘縮(固まること)予防:足の運動
関節の拘縮(固まること)予防:腕、手の運動
0
1
3
2
Ⅲ 動作の介助方法(10項目)
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
寝返りの介助
ベッドの上で移動する、移動させる
ベッドからの起き上がり
布団からの起き上がり
椅子からの立ち上がり介助
床からの立ち上がり介助
移乗(ベッドと車いすとの乗り移り)の介助
歩行の介助
階段の介助
車への乗り移り介助
1
1
0
1
1
1
0
3
0
0
Ⅳ 日常生活の介助方法(7項目)
1
2
3
4
5
6
7
食事の介助
着替えの介助(寝まき:ゆかた式)
着替えの介助(パジャマ:上衣、下衣)
トイレの介助
入浴の注意
手足の洗浄方法
顔の洗浄方法
1
0
0
0
3
1
2
Ⅴ 栄養、食事について(5項目)
1
2
3
4
5
食生活の注意点
低栄養にならないように
誤嚥と食べ物について
口腔ケアの方法
嚥下体操
5-3-4
介入回数
Ⅵ 介護者自身のために(7項目)
2
1
1
2
4
1
2
3
4
5
6
7
介護者の血圧チェックと理想的な血圧について
更年期を健康に過ごすには・・・
介護者のための体操(腰痛編)
介護者のための体操(肩こり編)
1
メタボリック・シンドロームの予防
腰痛予防の生活ポイント、腰痛になったら
腰痛を予防する体操
3
1
3
Ⅶ 取り巻く環境にも目を向けて(7項目)
1
2
3
4
5
6
7
家庭内の転倒を防ぐ
寝まきについて
福祉用具について
部屋の環境
靴選びのポイント
民間救急車、民間の患者等搬送者
いす選びのポイント
3
0
2
3
0
0
1
Ⅷ たまには息抜きも(4項目)
1
2
3
4
介護者をテーマにした映画
車いすでの電車の利用
旅行情報
リフレッシュ事業(I区のみ)
1
1
1
0
Ⅸ その他(3項目)
1
2
3
4
ぐっすり眠るためには・・・
健康な老人と物忘れと痴呆老人の記憶障害
痴呆症状と介護の対応策
その他(自由な疑問、質問)
・ベッドの選定について
・福祉用具の選定
・屋外歩行
・靴について
・車いすについて
・排淡法について
・服薬について
合計 介入による変化(表 5-2)
3 か月間の介入期間前後の比較において、対照群と介入群ともに要介護者の ADL 能力お
よび基本動作能力、介護者の介護負担感および主観的幸福感のいずれの変数についても有
意な変化は認めなかった(表 5-2)。介護セルフ・エフィカシーに関しては、対照群におい
て「あなた自身の機嫌が悪いとき」のセルフ・エフィカシーが有意な低下を示し(p = 0.01)
、
その他の項目はいずれの群でも有意な変化を認めなかった。VAS による ADL 介助負担度に
ついては、ベースラインと 3 か月後のいずれにおいても群間での有意差は認めず、群内に
おいても有意な変化は認めなかった(表 5-2)
。
介入による変化を検証するために介護者の J-ZBI_8 と PCG モラール・スケールについて、
群(対照群、介入群)と時間(ベースライン、3 か月後)を要因とする二元配置分散分析を
行った結果、J-ZBI_8 は群および時間のいずれにおいても主効果を認めず、群×時間の交互
53
2
1
0
0
1
0
9
64
作用もみられなかった。また、下位検定の結果においても有意な単純主効果は認められな
かった。一方、PGC モラール・スケールについては、群×時間の交互作用が有意となった。
対照群の PGC モラール・スケールの得点は 3 か月後に低下を示しており、下位検定の結果
では有意な単純主効果を認めた。(J-ZBI_8;F1,19 = 0.2, p = 0.63, PGC モラール・スケール;
F1,18 = 6.5, p = 0.02)
(図 5-2、表 5-4)。また、PGC モラール・スケールは、3 か月後の変化量
に群間での有意差を認めた(p = 0.03)
(図 5-3)
。
(点)
交互作用なし
(点)
交互作用あり (p < 0.05)
11
9
7
対照群
介入群
50
0
ベースライン
J-ZBI_8の変化
3か月後
PGCモラール・スケールの変化
図5-2 J-ZBI_8およびPGCモラール・スケール変化の群間比較
表5-4 介入効果(平均値±標準偏差)
J-ZBI_8:点
PGCモラール・スケール:点
*
ベースライン
3か月後
対照群(n = 10)
9.4±5.0
11.1±5.9
介入群(n = 11)
11.6±8.9
12.6±8.0
対照群(n = 9)
9.4±3.8
7.4±3.7
介入群(n = 11)
8.0±4.3
8.5±4.1
p <0.05
J-ZBI_8:短縮版Zarit介護負担尺度
54
二元配置分散分析
(F 値)
群
時間
群×時間
0.39
2.55
0.17
0.02
2.57
6.49*
Bonferroni法による
下位検定
(F 値)
1.93
0.74
7.83*
0.50
(点)
(点)
2.5
2.5
2
1.5
1
0.5
0
-0.5
-1
-1.5
-2
-2.5
2
n.s
*
1.5
1
0.5
0
対照群
-0.5
介入群
対照群
介入群
-1
-1.5
-2
-2.5
介入前後のPGCモラール・スケール
変化量
介入前後のJ-ZBI_8の変化量
*:p < 0.05
n.s:not significant
図5-3 介入前後のJ-ZBI_8およびPGCモラール・スケール変化量
5-4 考察
Sorensen ら
80)
は、介護者への介入方法を 6 つに分類して、その効果を検証している。そ
の介入方法は、心理・精神的な教育介入、支援介入、レスパイト/デイケア介入、心理療
法、要介護者の能力を高める介入、複数の内容構成による介入であり、それぞれに良好な
効果報告がみられるが、ランダム化比較試験による効果検証をした報告は十分になされて
いない。家族介護者への介入では、介護者の介護に対する能力や知識は向上が認められて
いるが、介護負担感や介護者の心理状態の安定などに関しては、十分な検証がなされてい
るとは言い難い(図 5-4)
。
55
介入前―介入直後
介護負担感
うつ症状
主観的健康観
意気向上
能力/知識
要介護者の症状
介入前―
フォローアップ
介護負担感
うつ症状
主観的健康観
能力/知識
要介護者の症状
Effect size
図5-4 家族介護者に対する介入効果のメタアナリシス結果
Sorensen S, et al.: How effective are interventions with caregivers? An updated meta-analysis. Gerontologist, 42(3): 356-372(2002).
本研究では、在宅で訪問によるリハビリテーションを実施していた要介護者の家族介護
者を対象として、要介護度により層化して無作為に 2 群に割り付けて訪問でのリハビリテ
ーションサービスに付加した家族への個別教育介入の効果を検証した。介入内容は、家族
介護者の学習希望に合わせて選択できるようにし、介護技術の助言や社会資源の情報提供、
介護者向けの健康管理方法や体操メニュー、住環境情報など多岐にわたる複数の内容によ
り構成した資料を用いた。3 か月間の介入の結果、介護者の主観的幸福感の指標とした PGC
モラール・スケールについて、群間と時間による交互作用を認め、その変化量をみても対
照群では介護者の主観的幸福感が低下傾向であったのに対して、介入群では向上傾向を認
めた。
介護者の心理状態に対する介入効果として、Mackenzie ら 81)はデイセンターを利用してい
る高齢者を介護する家族介護者を対象に「介護のストレスを書き綴って表現する」、「歴史
的な出来事を書き綴っていく」、
「介護に対しての時間の使い方や前日の出来事を時間に沿
って書き綴っていく」
というそれぞれ 20 分間の介入を 1 週間 4 回の計 2 週間行ったところ、
介護に対しての時間の使い方や前日の出来事を時間に沿って書き綴っていく介入を行った
群では、介護者の精神的および身体的健康観に改善が認めた。また、Carretero ら
82)
による
要介護高齢者を介護する家族に対する訪問介護サービスの効果を検証した報告では、訪問
介護サービス利用者においてサービスへの満足度は高く、生活の質(Quality of Life:QOL)
の向上を認めたとしている。その他、うつ症状や不安感、ストレスなどの精神状態や介護
56
者の QOL に対しての介入の効果は良好な結果が報告されており 83),84)、免疫機能の指標とさ
れる血中ナチュラルキラー細胞活性も有意に増強したとする報告もある
85)
。これらの報告
は、本研究同様に介護者の心理的な側面に対して、介護者への支援の必要性を支持するも
のと考える。また、本研究では介護セルフ・エフィカシーに関して、介護者の機嫌の悪い
ときについて、対照群で低下がみられたのに対して、介入群では維持されており、介護に
関する情報提供や知識の収集によって、介護生活の自信の程度に良好な影響を与える可能
性も期待できる。
一方、Mackenzie ら 81) や Carretero ら 82)の報告でも本研究と同様に介護負担感には有意な
改善は認めなかった。介護負担感は包括的な概念であるため、さまざまな要因で規定され、
必ずしも心理状態の改善が直接的に介護負担感に対して良好に働くとも限らない。また、
本研究で行った個別教育介入においては、今まで介護者が行ってきた介護方法や認識して
いた知識を修正することが新たな負担感となることも否定できない。さらに、本研究の対
象者では PT や OT による訪問サービスを実施している者のみであるため、訪問サービスそ
のものが介入の要素を多く含んでおり、それに付加した家族に対する個別の教育介入が介
護負担感に作用する効果を判断するには至らなかった可能性も推察された。介護負担感に
対する介入効果としては、脳卒中患者とその家族を対象に褥瘡予防や栄養指導、介助技術
指導などの介入により、介護者の介護負担感が軽減することがランダム化比較対照試験に
より明らかにされている
62),63)
。また、認知症患者を介護する家族を対象にした個別カウン
セリングや支援グループへの参加などの介入による良好な効果が報告されている
86),87)
。こ
のように疾患に特化した知識提供や介護技術の指導、カウンセリングがより効果的となり
得ることが推察される。さらに、脳卒中患者とその家族を対象に介護負担感軽減に効果を
認めた報告
62),63)
では、介入時期は脳卒中発症後の入院期間中であり、介護負担感軽減のた
めには家族への介入時期も重要な要因であると推察される。
本研究の限界として、第一に介入頻度および内容の統制がなされていない点があげられ
る。家族介護者の希望する内容を優先して介入項目に決定したために、介入内容は対象者
ごとに異なっている。また、訪問による個別介入であるため、介護者の都合などにより、
介入頻度も統制がなされていない。これらの介入頻度や内容の相違は本研究の結果に影響
を与える重要な要因となり得る。個別介入においては、より効果的な支援のために介入内
容が介護者の希望により変化し得ることは推測できるが、尐なくとも介入頻度や強度を統
制した研究デザインでの効果を検証すべきと考える。第二に介護者の健康度や職業、収入、
住居環境などの介護者の心理状態へ影響を及ぼす可能性がある交絡要因が十分に考慮され
ていない。また、主観的幸福感の指標とした PGC モラール・スケールは、
「老いに対する態
度」が下位項目に含まれるように高齢者への適応が元来の目的であり、本研究では最尐年
57
齢 52 歳の家族介護者も含まれ、その評価指標の適応には配慮が必要である。石原ら 88)は 50
歳から 74 歳までの 1785 名を調査した結果、PGC モラール・スケールに年齢階級別による
有意差は認めず、50 歳代を含めても総得点の安定性は確認されている。なお、本研究の対
象者においても PGC モラール・スケールは年齢階級別による特異的な傾向は示しておらず、
本研究の対象者への適応可能性は高いと考える。また、本研究では分析対象者数が尐なく、
脱落者が多かった。Kalra ら 62)の介護負担感に対する効果報告と熊本ら 49)の要介護高齢者の
家族介護者に対する大規模調査(J-ZBI_8 平均得点:11.5±7.7 点)をもとに、有意水準を
5%、検出力を 80%にてサンプルサイズを計算すると、介護負担感の効果を判定するために
は各群 150 名程度の対象者が必要となる。そのため、介護負担感に対する本研究で実施し
た介入効果の是非を検討するためには、対象者数を確保したうえでさらに検証を行ってい
く必要がある。また、今回対象とした要介護者は要介護状態になってから 3 年以上経過し
た者がほとんどであった。このような在宅での介護生活が長期化している家族に対して、
短期間で実施した簡便な介入では、多くの調査項目において有意な効果を引き出すことが
できなかったものと考えられた。アルツハイマー型認知症の家族に対して、個別カウンセ
リングや支援グループへの参加、電話でのカウンセリングによる介入を行い、10 年間以上
にわたり追跡調査した研究によると、介入をしない家族に比べて、介入した家族では介護
負担感やうつ症状が有意に改善されたと報告がなされた
63)
。この結果は、在宅生活の長期
化した要介護者や家族介護者においては、長期にわたる観察や支援が必要であることを示
唆するものと考えられた。
本研究では、今まで継続してきた訪問によるリハビリテーションサービスに 1 回 5 分間
程度の家族に対する学習、教育の機会を提供する介入を実施し、家族介護者の心理状態の
向上が可能か検討した。結論として、1 回 5 分間程度であっても家族のために時間を割き、
介護に関する学習や情報を提供する個別介入を行うことで家族の主観的幸福感が維持され、
家族に対する情報提供の必要性が示唆された。今後は在宅での介護生活の短い対象者や自
宅復帰前の時期での家族への支援効果、介護生活が長期化している対象者に対する効果的
な支援方法を探り、介護負担感の増大を抑制して、より良い在宅での介護生活が延伸でき
るような支援体制の構築が求められると考える。
5-5 まとめ
第 5 章では、在宅にて訪問によるリハビリテーションを利用する要介護者の家族を対象
に個別的な教育介入を行い、その効果を検証した。その結果、介護者の主観的幸福感の指
標とした PGC モラール・スケールが、対照群では低下したのに対して、介護に関する社会
58
支援情報や介助方法、福祉用具、栄養、介護者向け体操などの個別プログラムを実施した
介入群では向上を示し、有意な交互作用を認めた。この結果は、家族介護者に対する個別
の情報提供が、介護者に対する主観的幸福感に良好な影響を与えることを示唆し、家族介
護者へ対する支援の重要性が確認された。
59
第6章
結論
急速な高齢化が進行しているわが国においては、日常生活において何かしらの支援や介
護を必要とする要支援、要介護者も増加の一途であり、このような方々に対しての支援体
制はより一層の充実が望まれる。在宅生活での介助や介護が必要になった障害者や高齢者
においては、家族介護者の支援が不可欠となる。これらの要介護者の在宅生活の継続を支
援するには、介護する主介護者の身体的および精神的な負担にも配慮する必要であり、介
護者にとっての精神的および身体的な負担感を軽減するための取り組みは重要な課題であ
る。本研究の最終的な目的は、在宅で介護をしている家族介護者を対象に、介護負担の軽
減や心理状態の安定を図ることができるような介入方法を提案して、直接的に家族介護者
へ働きかけを行い、その効果を検証することとした。
はじめに、第 1 章では在宅介護の背景や現状、家族介護者に関する先行研究に触れ、本
研究の意義についてまとめた。在宅で生活する要介護高齢者が増加しており、特に日常生
活で介助や介護が必要になった障害者や高齢者においては、家族介護者の支援は不可欠と
なる。その支援内容は、多岐にわたり、特に重度な要介護高齢者の介護においては、特別
な技能や知識を必要とする場合も尐なくはない。在宅介護生活においては、介護者の負担
増大による身体的および精神的なストレスの経験やそれに伴う要介護者の虐待、介護放棄、
介護生活を苦とした無理心中などの問題も絶えず、家族介護者の身体的および精神的な支
援はきわめて重要な課題となっている。家族介護者の介護負担には、さまざまな要因が関
連しており、これらの要因に対して包括的に働きかけることで介護者の身体的、精神的な
負担軽減のための方略を明確にすることが重要である。そのためには、まず在宅で生活す
る要介護高齢者および障害者の身体機能状態を評価する指標を明確にする必要があると考
えた。これらの対象者の身体機能状態の評価を目的とした指標を確立し、その他のさまざ
まな評価指標を用いて、家族介護者の介護負担感との関連要因を多面的な視点から明らか
にする必要性があった。
そこで第 2 章では、介護者の負担感にも関連が強いと推測される特に在宅での重度要介
護者の動作能力を評価する指標について、先行研究における報告を十分にふまえたうえで、
新たな指標の開発を行い、その信頼性と妥当性を検証した。内容妥当性を満たした 10 項目
からなる Bedside Mobility Scale(BMS)を作成し、在宅要介護者を対象に調査を行った結果、
60
BMS には高い検者内および検者間信頼性が得られ、特に重度要介護者および日常生活自立
度の重度低下者の動作能力評価に適しており、臨床的意義が高いことが確認された。
次に第 3 章では、第 2 章で信頼性および妥当性が確認された BMS のほか、さまざまな評
価指標を用いて調査を行い、家族介護者における介護負担感に関与する要因を横断的な分
析により検証した。その結果、要介護者の日常生活動作能力や基本動作能力は介護負担感
に影響を与える一因であることが示唆された。また、介護協力者や介護相談者の有無も介
護負担感と関係し、介護負担感が高い主介護者では主観的幸福感が低いことが示された。
しかし、第 3 章の分析では、介護負担感により高負担群と低負担群の 2 群に分けて比較し
た横断的な単変量解析の結果であり、介護負担に影響するさまざまな要因の相互関係性に
ついては、検証がなされていないという問題が含まれた。
この問題を解決するために、第 4 章では介護負担感に関与する諸要因の相互関係を明ら
かにするために再び調査を実施し、共分散構造分析を行った。要介護者の身体機能状態(BI、
BMS)
、介護者の主観的幸福感(PGC モラール・スケール)、体力(MFS)、介護セルフ・エ
フィカシー、年齢、介護協力者の有無、要介護者との続柄(配偶者であるか否か)、介護負
担感(J-ZBI_8)を変数として、それぞれの相互関係性を検証する構造モデルを作成して分
析した。その結果、モデル適合度が統計学的な許容水準を満たしたモデルにおいて、要介
護者の機能状態が介護負担感に関与し、介護負担感および介護者の体力は介護者の介護生
活を継続していく自信の程度と主観的幸福感に影響を与える要因である可能性が示唆され
た。介護者の介護負担感の軽減や心理状態の安定に向けた取り組みでは、これらの要因に
対して包括的に働きかける必要が示された。
最後に第 5 章では、第 2 章から第 4 章におけるそれぞれの研究結果をふまえて、要介護
者を在宅にて介護する家族介護者を対象として、介護方法や介護に関する情報提供を行い、
介護者の心理状態の向上が可能かを検討した。介入は、要介護者の介護度を層化して、対
象者を無作為に対照群と介入群に分類し、介入群に対して個別介入を 3 か月間実施した。
介入の実施は、訪問によるリハビリテーション時に行い、1 回の介入は 5 分間程度とし、そ
の他のサービスは両群とも継続した。その結果、介護負担感を有意に改善させるほどの十
分な効果は認めなかったが、介護者の主観的幸福感の指標とした PGC モラール・スケール
が、対照群では低下したのに対して、介入群では向上を示し、有意な交互作用を認めた。
61
この結果により、家族介護者に対する個別による情報提供などの教育プログラムの有用性
が示唆され、その必要性が確認された。
以上の一連の研究により、要介護者を在宅で介護する家族における介護負担感には、要
介護者の身体機能、介護者の主観的幸福感、介護を継続していく自信の程度、介護者の体
力レベルなどの要因が直接的、または間接的に関連しており、これらの要因の相互関係性
をふまえた介護に関する社会支援情報や介助方法、福祉用具、栄養、介護者向け体操など
の各家族介護者のニーズに合わせた個別支援による教育プログラムは、心理状態の安定に
有効であることが示された。要介護者ならびにその家族介護者の在宅生活がより良い状態
で延伸するためには、家族介護者に対しても積極的な支援や個別介入を企画する必要があ
り、その支援は多岐にわたるべきであり、重要性は極めて高いものと考える。
今後の課題として、家族への支援体制がより整備されるように長期フォローによる効果
の検証が必要である。また、わが国における家族介護者に対する十分にデザイン化された
介入プログラムの効果検証は不十分であり、今後の家族介護者への支援施策の確立のため
にも、有用な資料となりうるエビデンスの構築が望まれる。
62
謝辞
本研究の実施ならびに本論文の作成にあたり、早稲田大学スポーツ科学学術院の中村好
男教授には真摯なるご指導を賜り、深謝の意を申し上げます。また、審査員(副査)をお
引き受け下さり、本論文への貴重なご助言・ご指導を頂きました早稲田大学スポーツ科学
学術院村岡功教授、荒尾孝教授に感謝の意を表します。早稲田大学スポーツ科学学術院岡
浩一朗准教授からも本研究の発展に寄与する貴重なご教示を頂きました。ならびに、東京
都老人総合研究所の島田裕之博士、リハビリ推進センター株式会社の阿部勉代表取締役、
札幌医科大学保健医療学部理学療法学科の古名丈人准教授には、研究の計画から論文作成
まで懇切なるご指導を頂きました。ここに深く感謝の意を表します。
また、早稲田大学スポーツ科学研究科体力科学研究室の先輩、同級生、後輩各位には多
大なるご協力とご支援を頂きましたことに深謝致します。
最後に本研究にご協力頂きました対象者の皆様ならびにデータ収集に際して快くご尽力
頂きました板橋リハビリ訪問看護ステーション、にしなすのマロニエ訪問看護ステーショ
ン、訪問看護ステーションはまなすの職員の皆様にはこの場をお借りして深謝致します。
なお、本研究の一部は、財団法人フランスベッド・メディカルホームケア研究・助成財
団による平成 19 年度研究助成を受けて実施した。
63
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