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災害調査報告書 - 労働安全衛生総合研究所

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災害調査報告書 - 労働安全衛生総合研究所
 災害調査報告書
清掃工場の汚水処理設備における 塩酸漏洩災害 独立行政法人 労働安全衛生総合研究所 1 1.災害調査の概要
1 . 1 災 害 の 種 類 塩酸供給バルブからの塩酸漏洩
1 . 2 〜 1 . 3 略
1 . 4 災 害 概 要 清掃工場の汚水処理設備施設において,純水設備へ塩酸を供給するため,塩酸貯槽
( 6 m 3 )か ら 35% 濃 度 の 塩 酸 を マ グ ネ ッ ト ポ ン プ に て 圧 送 し て い た と こ ろ ,塩 酸 貯 槽
のレベル異常(水位検出による塩酸量の不足)が確認された.その直後,施設巡視担
当 者 が 汚 水 処 理 設 備 施 設 に 向 か っ た が ,塩 酸 が 充 満 し て 立 ち 入 る こ と が で き な か っ た .
汚 水 処 理 設 備 施 設 の 換 気 後 に 施 設 内 を 調 査 し た と こ ろ ,ダ イ ヤ フ ラ ム バ ル ブ( No.1 塩
酸希釈層付近)に使用されているボルトが破断しており,バルブから塩酸が漏洩して
いた.なお,被災者はいない.
1 . 5 調 査 の 内 容 ボルトの破断原因の究明
1 . 6 略 2.現地調査
塩 酸 が 漏 洩 し た ダ イ ヤ フ ラ ム バ ル ブ の 概 要 は 以 下 の と お り で あ る .ま た ,図 2 .2
にダイヤフラムバルブの設置されていた現場写真を示す.
(1) 〜 (3)
略
(4) 呼 び 径
40 mm( 4 inch)
(5) ボ ン ネ ッ ト の 材 料
U-PVC
(6) ガ ス ケ ッ ト の 材 料
PTFE
(7) ね じ の 材 料
SUS304
図 2 . 3 に ダ イ ヤ フ ラ ム バ ル ブ ( 呼 び 径 40 mm) の 締 結 仕 様 を 図 2 . 4 に ダ イ ヤ フ
ラ ム バ ル ブ の 締 結 部 の 断 面 図 を 示 す .バ ル ブ は 主 に ボ ン ネ ッ ト ,ラ バ ー ,PTFE ガ ス ケ
ッ ト ,ボ デ ィ か ら 構 成 さ れ て お り ,6 本 の ボ ル ト に よ り 締 結 さ れ て い る .内 部 流 体( 本
災 害 で は 塩 酸 ) は ボ デ ィ と PTFE ガ ス ケ ッ ト に よ っ て 密 封 さ れ る .
図 2 . 1 略
2 塩酸漏洩を起こした
ダイヤフラムバルブ
の設置箇所
図 2 . 2 漏 洩 災 害 を 起 こ し た ダ イ ヤ フ ラ ム が 使 用 さ れ て い た 現 場 の 様 子
3 ボンネット
ラバー
ボディ
140
PTFE
ガスケット
(mm)
180
図 2 . 3 ダ イ ヤ フ ラ ム バ ル ブ ( 呼 び 径 40 mm)
ボルト
ナット
PTFE
ガスケット
ボンネット
ラバー
ボディ
塩酸
ボディ
図 2 . 4 ダ イ ヤ フ ラ ム バ ル ブ 模 式 図
4 図 2 . 5 に 当 該 ダ イ ヤ フ ラ ム バ ル ブ に 使 用 さ れ た も の と 同 じ PTFE ガ ス ケ ッ ト を 示
す . ま た , 図 2 . 6 に PTFE ガ ス ケ ッ ト の 二 面 図 を 示 す が , 灰 色 で 示 す よ う に ガ ス ケ
ッ ト は 凸 部 を 有 し て お り , 図 2 . 4 の よ う に バ ル ブ を 締 結 し た 際 に は PTFE ガ ス ケ ッ
トの凸部が変形することで密封される.
φ1
06
φ 80
φ 95
φ 125
図 2 . 5 新 品 の PTFE ガ ス ケ ッ ト
図 2 . 6 PTFE ガ ス ケ ッ ト の 二 面 図
5 ボ ル ト は 外 径 10 mm の ス テ ン レ ス 鋼 (SUS304)で あ る .現 地 調 査 終 了 後 ,確 認 の た め
成 分 分 析 を 行 っ た 結 果 を 表 2 . 1 に 示 す . ボ ル ト は SUS304 製 で あ る こ と が 確 認 さ れ
た.
表 2 . 1 破 断 し た ボ ル ト の 成 分 分 析 結 果 (weight %)
成分
C
Si
Mn
P
S
Ni
Cr
Cu
サンプル
0.015
0.29
1.87
0.032
0.003
8.73
18.14
2.60
SUS 304J3
≧ 0.08
≧ 1.00
≧ 2.00
≧
≧
8.00 ~
17.00 ~
1.00 ~
0.045
0.030
10.50
19.00
3.00
試料名
現 地 調 査 の 結 果 ,ボ ル ト の 破 断 原 因 の 調 査 を 行 う こ と と し た .ま た ,図 2 .4 に 示
す よ う に PTFE ガ ス ケ ッ ト が 正 常 に 機 能 し て い れ ば 塩 酸 が 漏 洩 し て ボ ル ト に 付 着 す る
ことは無い.そのため,併せて塩酸が漏洩したメカニズムについても検討した.
6 3.ボルト破断原因の調査
3 . 1 破 断 面 の 肉 眼 に よ る 観 察
ダ イ ヤ フ ラ ム の ボ デ ィ 側 の 外 観 を 図 3 .1 に 示 す .ボ デ ィ に 開 け ら れ た ボ ル ト 用 の
穴 を 1 〜 6 と す る .1 と 4 は 貫 通 し て お り ,ボ ル ト は ボ デ ィ の 反 対 側 か ら ナ ッ ト で 締
結されていた.また,2,3,5,6についてはボディにねじ部が設けられており,
貫通はしていない.
図 3 . 1 破 断 し た ダ イ ヤ フ ラ ム の 外 観
現 地 調 査 に よ り 1 も し く は 4( 以 下 ,貫 通 ボ ル ト と す る ),2 ,5 番 の ボ ル ト を 観
察 す る こ と と し た .そ れ ぞ れ の 破 断 面 の 写 真 を 図 3 .2 か ら 図 3 .5 に 示 す .貫 通 ボ
ルトについては,1か4の判断が不可能であった.
こ れ ら の 写 真 と 現 地 調 査 の 結 果 か ら ,事 故 後 の ボ ル ト の 観 察 結 果 に つ い て 以 下 に ま
とめる.
1)
破断したボルトは1,4,5,6番.
2)
2,3番は未破断.(図3.1,図3.2)
3)
5,6番は破断面の全面が錆びている.(図3.1,図3.3)
4)
貫通ボルトは破断面の一部が錆びている(局部腐食).(図3.4)
5)
貫通ボルトと5番には表面に枝分かれしたひび割れのような模様が観察さ
れる.(図3.5)
7 図 3 . 2 破 断 し た ボ ル ト の 外 観
図 3 . 3 5 番 ボ ル ト の 破 断 面
8 図 3 . 4 貫 通 ボ ル ト の 破 断 面
一般的に破断面に占める錆の割合は腐食環境に置かれた時間と相関があると考え
ら れ る . ま た , 腐 食 環 境 に あ る SUS304 で ひ び 割 れ た 模 様 が 観 察 さ れ る の は , 時 間 依
存 型 破 壊 で あ る 応 力 腐 食 割 れ ( 以 下 , SCC) の 典 型 的 な 例 で あ る .
し た が っ て ,腐 食 の 影 響 を 5 ,6 番 が 最 も 強 く 受 け て お り ,次 に 貫 通 ボ ル ト ,最 も
影 響 を 受 け て い な い の は 2 ,3 番 の ボ ル ト で あ る .つ ま り ,5 ,6 番 は SCC に よ り 破
断 し た 後 も 塩 酸 が 破 断 面 を 腐 食 さ せ て い た と 推 測 さ れ る .一 方 ,貫 通 ボ ル ト は SCC に
よ り き 裂 が 入 り ,錆 び た 面 は 5 番 と 同 じ く 塩 酸 が 入 り 腐 食 さ せ て い た .ま た 錆 び て い
な い 面 は 事 故 の 前 に 生 成 さ れ て い た 面 で は あ る が ,錆 び る 前 に 事 故 に 至 っ た か ,事 故
発生時に生成した面である.最後に2,3番はほとんど塩酸と接していなかった.
以 上 の こ と か ら ,5 ,6 番 は 事 故 発 生 以 前 か ら 破 断 し て お り 塩 酸 と 接 し て い た と 考
え ら れ る .次 に ,貫 通 ボ ル ト が 塩 酸 と 接 す る こ と で 腐 食 が 始 ま り ,徐 々 に き 裂 が 進 展
し て い っ た .そ の た め ,内 圧 が か か っ た 状 態 で ボ ン ネ ッ ト と ボ デ ィ を 締 結 す る た め に
十 分 な 強 度 を ボ ル ト 6 本 で 確 保 す る こ と が で き な く な り ,ボ ル ト が 破 断 し ,塩 酸 が 大
量に漏洩したと考えられる.
9 図 3 . 5 ボ ル ト 表 面 の 様 子
3 . 2 破 断 面 の 顕 微 鏡 を 用 い た 微 視 的 観 察
次に破断面の微視的な様相を観察する.
は じ め に ,表 面 に 観 察 さ れ た ひ び 割 れ 模 様 の ボ ル ト 内 部 の 形 状 を 観 察 し た .観 察 し
た 箇 所 を 図 3 .6 に 示 す .黒 線 で 切 断 し ,2 の 線 で 切 断 さ れ た 時 に 見 え る 断 面 を 研 磨
し(図3.6右下),観察箇所と記してある場所を観察した.
ひ び 割 れ 模 様 内 部 の き 裂 先 端 の 様 子 を 図 3 .7 に 示 す .左 側 は き 裂 の 全 体 像 ,右 側
は 一 部 を 拡 大 し た 金 属 顕 微 鏡 の 暗 視 野 像 で あ る .き 裂 先 端 が 枝 分 か れ て お り ,SCC の
特徴を示している.
10 図 3 . 6 ひ び 割 れ 内 部 を 観 察 す る た め の 試 験 片 外 観
図 3 . 7 内 部 の ひ び 割 れ ( き 裂 ) の 様 子
11 図 3 . 8 に 破 断 面 の 電 子 顕 微 鏡 像 を 示 す . 上 側 は 観 察 倍 率 が 100 倍 , 下 側 は 1200
倍 で あ る .破 断 面 は 濃 塩 酸 が 付 着 し て い た た め 腐 食 し て お り ,上 側 の 写 真 に は 腐 食 し
て で き た 孔( 黒 い 部 分 )が 観 察 さ れ る .下 側 の 写 真 で は 腐 食 生 成 物 が 観 察 さ れ る .一
般 的 に SCC の 破 断 面 は 粒 界 割 れ の 模 様 (1) が 観 察 さ れ る が ,ボ ル ト の 破 断 面 に は 粒 界 割
れの模様は観察されなかった.これは,破断面に濃塩酸が付着したためである.
図 3 . 8 破 断 面 の 電 子 顕 微 鏡 像
12 3 . 3 ボ ル ト の 破 断 原 因
以 上 の 調 査 か ら ,ボ ル ト 表 面 と 内 部 の 枝 分 か れ し た ひ び 割 れ 模 様 と ,破 断 面 の 腐 食
に よ る 孔 か ら ,ボ ル ト の 破 断 原 因 は 塩 酸 に よ る 応 力 腐 食 割 れ で あ る と 推 定 さ れ る .し
か し ,ガ ス ケ ッ ト が 正 常 に 機 能 し て い れ ば ボ ル ト に 塩 酸 は 接 触 せ ず ,腐 食 し な い .し
た が っ て ,ガ ス ケ ッ ト か ら 塩 酸 が 漏 洩 し て い た と 考 え ら れ る た め ,次 に ガ ス ケ ッ ト の
劣化と塩酸の漏洩メカニズムついて検討を行う.
13 4.塩酸漏洩のメカニズムの調査
4 . 1 PTFE ガ ス ケ ッ ト の 外 観 観 察
PTFE ガ ス ケ ッ ト と ボ デ ィ の 間 か ら 塩 酸 が 漏 洩 し た メ カ ニ ズ ム に つ い て 調 査 を 行 っ
た . 図 4 . 1 に 事 故 品 の PTFE ガ ス ケ ッ ト を 示 す . な お , 事 故 品 の PTFE ガ ス ケ ッ ト
は 図 の よ う に カ ッ ト さ れ 一 部 の み 提 供 さ れ た . 図 4 . 2 に 事 故 品 の PTFE ガ ス ケ ッ ト
の 断 面 写 真 を 示 す が ,本 来 平 坦 で あ る は ず の ガ ス ケ ッ ト の ラ バ ー 側( 以 下 ,上 側 )が
盛 り 上 が っ て お り ,そ の 分 塩 酸 側( 以 下 ,下 側 )の 凸 部 が 潰 れ て お り ,ガ ス ケ ッ ト に
変形の跡が観察された.
断面観察方向
図 4 . 1 事 故 品 の PTFE ガ ス ケ ッ ト
凸部が上側にはみでている
ラバー側
(上側)
塩酸側
(下側)
断面形状トレース箇所
凸部が潰れている
図 4 . 2 事 故 品 の PTFE ガ ス ケ ッ ト の 断 面 写 真
14 そ こ で , PTFE ガ ス ケ ッ ト の 凸 部 の 変 形 量 を 調 査 す る た め , 図 4 . 2 に 示 す よ う な
PTFE ガ ス ケ ッ ト の 断 面 を 10 倍 拡 大 鏡 に て 映 し 出 し , 断 面 形 状 を ト レ ー ス し た .
図4.3に事故品および新品のガスケットの凸部の断面形状を示す.新品のガスケ
ットは上側が平坦で,下側には密封のための凸部があり,ガスケットの厚みは最大で
約 2.40 mm あ っ た . 一 方 , 事 故 品 の ガ ス ケ ッ ト は 新 品 の ガ ス ケ ッ ト に 比 べ て 下 側 凸 部
が 平 均 で 約 0.43 mm 減 っ て い る . ま た , 事 故 品 の ガ ス ケ ッ ト の 厚 み は 全 体 的 に 低 下 し
ており,その分,下側の凸部が上側に盛り上がるような変形をしている.担当者への
聴 取 り 調 査 で は , 漏 洩 災 害 を 起 こ し た ダ イ ヤ フ ラ ム バ ル ブ は 10 年 程 度 使 用 さ れ て い
た . こ の こ と か ら , PTFE ガ ス ケ ッ ト は ボ ル ト に よ る 締 付 け 荷 重 を 受 け 続 け る う ち に ,
凸部が徐々に変形したものと考えられる.
--- 新品
厚さ方向
(上 側 )
― 事故品
2.40 mm
0.35 mm
(下 側 )
15.0 mm
0.50 mm
横方向
図 4 . 3 事 故 品 お よ び 新 品 の ガ ス ケ ッ ト の 凸 部 の 断 面 形 状
15 4 . 2 PTFE ガ ス ケ ッ ト の 応 力 分 布 の 変 化
ガスケットが使用される締結体においては,ガスケットの厚みが低下することで,
応 力 が 低 下 す る (1) .そ こ で ,PTFE ガ ス ケ ッ ト の 変 形 に よ る 応 力 の 変 化 を 有 限 要 素 解 析
により調査した.図4.6にダイヤフラムバルブの有限要素モデルを示す.有限要素
モ デ ル は 軸 対 称 モ デ ル と し た . ボ ル ト の 締 付 け 力 は 式 (1)を 用 い て 算 出 し た (2) . な お ,
ダ イ ヤ フ ラ ム バ ル ブ の 締 付 け ト ル ク は 11 N・m で あ る (3) .ト ル ク 係 数 は JIS B1083 ね じ
の 締 付 け 通 則 か ら 0.254 と し た . ト ル ク 係 数 を 決 定 す る 際 に 用 い た 摩 擦 係 数 は 一 般 の
亜 鉛 メ ッ キ 同 士 の 摩 擦 係 数 (2) の 平 均 値 0.2 を 採 用 し て い る .
F=
T
K ⋅d
(1)
こ こ で ,F:ボ ル ト の 締 付 け 力 ,T:ボ ル ト の 締 付 け ト ル ク ,K:ト ル ク 係 数 ,d:ね じ の
呼び径である.
ボンネット
ボルト
応力分布の 検討箇所
ボルトによる
締付け
ゴム
内圧 P
ガスケット
ナット
Y
ボディ
X
(a) 有 限 要 素 モ デ ル
(b) 境 界 条 件
図 4 . 6 ダ イ ヤ フ ラ ム バ ル ブ の 有 限 要 素 モ デ ル お よ び 境 界 条 件
16 図 4 .7 に PTFE ガ ス ケ ッ ト の Y 方 向 の 応 力 分 布 を 示 す .(a)は 初 期 状 態 に お け る 応
力 分 布 , (b)は 経 年 後 の 応 力 分 布 を 示 し て い る . 運 転 中 お よ び 経 年 後 に お け る PTFE ガ
スケット凸部の応力を比較したところ,凸部の応力分布は大きく変化している.特に
内 側 凸 部 の 応 力 に つ い て 見 る と ,-22 MPa か ら -7.1 MPa と 1/3 ま で 低 下 し て い る .こ こ
で ,負 の 応 力 と は 圧 縮 応 力 の こ と で あ る .PTFE ガ ス ケ ッ ト の 凸 部 の 圧 縮 応 力 が 低 下 し
たことによって,塩酸の漏洩が起きやすくなっていたものと考えられる.
内側凸部
Y
-22 MPa
外側凸部
-44 MPa
X
(a) 初 期 状 態
内側凸部
-7.1 MPa
Y
外側凸部
-14 MPa
X
(b) 経 年 後
図 4 . 7 運 転 中 の PTFE ガ ス ケ ッ ト 凸 部 の 応 力 分 布
17 4 . 3 漏 洩 メ カ ニ ズ ム の 検 討
塩 酸 が ボ デ ィ と PTFE ガ ス ケ ッ ト の 間 か ら 漏 洩 し た メ カ ニ ズ ム は 以 下 の よ う に 想 定
される.
(a) ボ ル ト で ガ ス ケ ッ ト を 締 め 付 け る .
(b) 時 間 の 経 過 と 共 に PTFE ガ ス ケ ッ ト の 凸 部 が 徐 々 に 変 形 し , 凸 部 の 上 側 が ラ バ
ーにめり込むこみ,ガスケットの凸部の応力が低下する.
(c) ボ デ ィ と PTFE ガ ス ケ ッ ト の 間 か ら 塩 酸 が 徐 々 に 漏 洩 す る こ と に よ り , ボ ル ト
は応力腐食割れを起こし,ボルトにき裂が発生する.
(d) 応 力 腐 食 割 れ に よ り 強 度 が 低 下 し た ボ ル ト は , 内 圧 に 耐 え ら れ ず 破 断 す る .
ボンネット
ゴム
応力の低下
ボディ
(a) 締 付 け 直 後
(b) ガ ス ケ ッ ト の 経 年 変 形 後
(c) ボ ル ト の 応 力 腐 食 割 れ
(d) ボ ル ト の 破 断 , 塩 酸 の 漏 洩
図 4 . 8 塩 酸 漏 洩 の メ カ ニ ズ ム
18 5.まとめ
本災害調査において得られた結果は以下のとおりである.
(1) ボ ル ト は ダ イ ヤ フ ラ ム バ ル ブ の 内 部 を 流 れ る 塩 酸 が 漏 洩 し た こ と で 応 力 腐 食
割れを起こし,強度が低下したため内圧により破断した.
(2) 塩 酸 が 漏 洩 し た 原 因 は , PTFE ガ ス ケ ッ ト の 凸 部 が 経 年 に よ り 変 化 し , 凸 部 の
圧縮応力が低下したためである.
6.再発防止対策
本災害は,ダイヤフラムのガスケットを締め付けているボルトの応力腐食割れが原
因 で 発 生 し た .そ こ で ,ボ ル ト を 耐 応 力 腐 食 割 れ 性 の 高 い 材 料( 例 え ば SUS316L)に
交換することで,腐食速度を低下することはできるが,それより塩酸がボルトに付着
しないための対策を行うことが望ましい.したがって,再発防止対策として以下が考
えられる.
(1) PTFE ガ ス ケ ッ ト は 経 年 に よ る 変 形 を 起 こ し や す い 材 料 で あ り , ボ ル ト の 軸 力
を低下させやすいため,定期的にボルトの締付けトルクを確認する.
(2) PTFE ガ ス ケ ッ ト と ボ デ ィ の 隙 間 か ら の 漏 洩 を 定 期 的 に 確 認 し , に じ み 等 が 確
認 さ れ た 場 合 , PTFE ガ ス ケ ッ ト ( ま た は バ ル ブ 全 体 ) を 交 換 す る .
参考文献
(1) 日 本 材 料 学 会 フ ラ ク ト グ ラ フ ィ 部 門 委 員 会 編 集 ,フ ラ ク ト グ ラ フ ィ ,丸 善 ,p.101.
(2) 高 木 知 弘 , 他 3 名 , ガ ス ケ ッ ト の 粘 弾 塑 性 挙 動 を 考 慮 し た ボ ル ト 締 結 体 の 力 学 的
特 性 の 評 価( PTFE ガ ス ケ ッ ト を 用 い た 場 合 ),日 本 機 械 学 会 論 文 集 C 編 ,Vol.73,
No.728, (2007), pp.1245-1252.
(3) 山 本 晃 , ね じ 締 結 の 理 論 と 計 算 , (1971), 養 賢 堂 , p.140.
(4) 〜 (6) 略
19 
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