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博士論文 Synthesis and characterization of artificial
博士論文 Synthesis and characterization of artificial nucleases and modified siRNAs for gene expression control (遺伝子発現制御のための人工ヌクレアーゼと修飾 siRNA の合成と特性評価) 群馬大学大学院 工学研究科工学専攻物質創製工学領域 博士後期課程 増田 知和 目次 第1章 序論 1 1‐1 1‐2 1‐3 研究背景 人工ヌクレアーゼ 修飾 siRNA 1 4 6 1‐4 本研究について 9 第 2 章 1,10-フェナントロリンポリアミン複合体によるプラスミド DNA の切断 11 2‐1 序論 2‐2 実験 2‐2‐1 N,N-ビス(1,10-フェナントロリン 2-イル-アミノエチル)アミノ エチルアミン(1)および N,N,N-トリス(1,10-フェナントロリン 2-イルアミノエチル)アミン(2)の合成 11 2‐2‐2 2‐2‐3 2‐2‐4 2‐2‐5 複合体 1 の塩酸塩の調製 複合体 2 の塩酸塩の調製 DNA への結合親和性の評価 多価金属非存在下または Cu(II)錯体におけるプラスミド DNA の切断 2‐2‐6 DNA 切断に対する活性酸素スカベンジャーの影響 2‐2‐7 DNA 切断における pH の影響 2‐2‐8 反応速度の測定 2‐3 結果および考察 2‐3‐1 2‐3‐2 2‐3‐3 切断 2‐3‐4 13 14 14 15 15 15 16 16 16 17 1,10-フェナントロリン-ポリアミン複合体の合成 DNA への結合親和性の評価 多価金属非存在下または Cu(II)錯体におけるプラスミド DNA 17 17 19 スカベンジャーによる切断機構の検討 21 2‐3‐5 複合体 2 における DNA 切断の pH の影響 2‐3‐6 複合体 2 の反応速度の測定 2‐4 まとめ 22 24 24 第 3 章 3′-末端に種々の修飾ヌクレオシドを含む RNA の化学合成および 酵素合成 26 3‐1 序論 3‐2 実験 3‐2‐1 修飾ヌクレオシドの固相担体の合成 3‐2‐2 修飾オリゴリボヌクレオチドの合成 26 29 30 31 3‐2‐3 5′-リン酸化 C5-修飾ピリミジンヌクレオシドを含む DNA 2mer の合成 3‐2‐4 修飾 DNA 2-mer と RNA 19-mer の T4 RNA リガーゼによるラ イゲーション 3‐3 結果と考察 32 3‐3‐1 修飾 RNA の固相合成 3‐3‐2 修飾 DNA 2-mer の合成 3‐3‐3 修飾 RNA の酵素的合成 3‐4 まとめ 48 第4章 57 4‐1 3′-オーバーハング領域に C5-ポリアミン修飾ヌクレオシドを含む siRNA の RNAi 活性の検討 序論 47 48 50 51 55 57 4‐2 実験 4‐2‐1 siRNA の調製 4‐2‐2 ヌクレアーゼ耐性の比較 4‐2‐3 細胞培養 4‐2‐4 qRT-PCR 59 59 59 60 60 4‐2‐5 ウェスタンブロット 4‐3 結果と考察 4‐3‐1 3′-ヌクレアーゼ耐性の比較 4‐3‐2 RNAi 活性の検討 4-4 まとめ 61 61 61 62 65 第5章 66 5‐1 総括 1,10-フェナントロリンポリアミン複合体によるプラスミド DNA の切断 66 5‐2 3′-末端に種々の修飾ヌクレオシドを含む RNA の化学的および酵素 的合成 66 3′-オーバーハング領域に C5-ポリアミン修飾ヌクレオシドを含む siRNA の RNAi 活性の検討 5‐4 今後の展望 67 参考文献 69 謝辞 71 5‐3 67 第1章 1‐1 序論 研究背景 生物は DNA の遺伝情報を mRNA に転写し、翻訳によって機能性分子である タンパク質を合成することで生命活動を維持している。このタンパク質の遺伝 子の数はその生物の複雑さに比例して増加すると考えられていた。しかし、2003 年にヒトゲノムの全遺伝子配列が解析され、その結果、ヒトゲノム中のタンパ ク質を作る遺伝子の数は他の生物と大きな差がないことが判明した1)。最新の研 究では、タンパク質はエキソンのみで全体の 1.2%程度しか遺伝情報がコードさ れていないと報告されている 2)。その他の領域はノンコーディング DNA と呼ば れ、その機能解明のための研究が行われてきた(Figure 1)。その大部分をイン トロンと転移因子が占める 3)。イントロンは翻訳領域に散在する非翻訳領域のこ とで、DNA からの転写後にスプライシングによって除かれる領域のことである。 イントロンはゲノムのおよそ 26%を占めるとされている。転移因子は染色体上 を移動する塩基配列のことで、DNA のまま転移するトランスポゾンや、転写さ れた RNA が逆転写されてから挿入されるレトロトランスポゾンがある。既に転 移する能力を失ったものもあわせておよそ 45%あり、進化の過程で徐々にコピ ー数を増やしてきたと考えられている。これら以外では、RNA ポリメラーゼが 結合して転写を始める領域であるプロモーターや、遺伝子活性化因子と結合す ることで転写を促進させるエンハンサーなどの転写調節領域が含まれる。また、 mRNA のコーディング領域の両側にも非翻訳領域(3′または 5′-UTR)があり、 これらはタンパク質への翻訳の調節に寄与している。そして、タンパク質合成 でも、トランスファーRNA やリボソーム RNA のように転写後に翻訳されるこ 1 となく機能する RNA も存在する。近年、遺伝子のノンコーディング領域から転 写された RNA には microRNA(miRNA)や内在性 short interfering RNA (siRNA)、PIWI-interfering RNA(piRNA)、と呼ばれる小分子 RNA が多数 存在し、これらが遺伝子発現制御にかかわっていることが次第に分かってきた 4)。miRNA や siRNA は RNA 干渉(RNAi)と呼ばれる機構により mRNA の翻 訳を制御している 5)。piRNA は生殖細胞特異的に発現し、レトロトランスポゾ ンがタンパク質コード領域に転移することで起こる遺伝子の変異を抑制する 4)。 特に、miRNA は今までに 1000 以上見つかっており、それらの中には癌や心臓 病などの病気にかかわるものが存在し、その重要性が認識されてきた 6),7)。最近、 細胞内に存在する RNA の大規模解析が行われて、ヒトゲノムのノンコーディン グ領域の 80%に生物学的活性があることが報告され、一層の機能解明が求めら れている 2)。 Figure 1. Protein-coding and non-coding DNA in human genome. これら未知の遺伝子の機能解明には、ある遺伝子をノックアウトさせたマウ スを用いるか、あるいは、遺伝子をノックダウンさせて、その遺伝子と関連す る表現型や行動の解析を行う。遺伝子のノックアウトは、遺伝子を欠損させて 完全に発現を欠損させる手法である。ノックアウトマウスの製作は、胚性幹細 2 胞(ES 細胞)に、発現しないように改変した遺伝子を導入し、相同組み換えに よって遺伝子組み換えを行い、その ES 細胞を受精卵に導入することで行われる。 しかし、この手法での遺伝子導入の効率は悪く、遺伝子が導入されたとしても 染色体対の一方にしか導入されない。そのため、完全な遺伝子欠損マウスの製 作には、生まれたキメラマウスを複数回交配する必要がある。このような問題 の解決には、受精卵の遺伝子を直接改変し、遺伝子欠損マウスを製作する方法 の開発が望まれる。そのために、細胞内で使用でき、かつ、標的遺伝子を自由 に選択できる人工制限酵素の開発が行われてきた。 このようにノックアウトでは、完全な遺伝子の発現抑制ができるが、遺伝子 欠損動物の作製に多くの時間と労力を必要とする。一方、遺伝子のノックダウ ンは、アンチセンス核酸や siRNA、miRNA のような機能性核酸を導入するだ けでよいため、発現誘導が容易である。ノックダウンは、主に遺伝子から転写 された mRNA に作用して、一過的に遺伝子発現を抑制する手法である。これら は相補的な配列を持つ mRNA に結合して翻訳を阻害、または、細胞内のタンパ ク質と複合体を形成して mRNA を切断することで遺伝子発現を抑制する。特に、 siRNA は低濃度で作用し、mRNA を切断することから、in vitro の研究で幅広く 使われている。しかし、これら機能性核酸は血清中で容易に分解されることや、 リン酸骨格と細胞膜の静電反発のために細胞に取り込まれにくいといった、標 的細胞への輸送においていくつもの問題が存在する。そのため、それら核酸分 子に化学修飾を施すことで血清中での安定性を高め、標的細胞への取り込みを 改善するための研究がおこなわれている。 本論文では、遺伝子の機能解析手法の開発を目指して、細胞内で利用可能な 低分子からなる人工制限酵素、並びに、より活性の高い修飾 siRNA の開発を行 った。 3 1‐2 人工制限酵素 特定の遺伝子をノックアウトさせるためには、特定の塩基配列のみを識別し て遺伝子組み換えを行う必要がある。ヒトゲノムはおよそ 30 億塩基対あり、そ のうち一箇所だけを切断するためには 16 塩基程度認識できる人工制限酵素が必 要とされている。しかし、市販の制限酵素では二重鎖 DNA の 4~6 塩基しか識 別できず、より広範囲を識別するためには新たな人工制限酵素が必要となる。 そこで近年、DNA結合ドメインとDNA切断ドメインを組み合わせた人工制限酵 素に関する研究が行われている。人工制限酵素はDNA結合ドメインを組み替え ることで標的とする配列のみを選択して切断することができるのが特徴である。 特に注目されているのが、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)およびTALエフェクターヌクレアーゼ(TALEN)である8)(Figure 2)。ZFNは3塩基を識 別できるジンクフィンガーペプチドを3~6個繋げ、DNA切断ドメインとして非 特異的エンドヌクレアーゼ FokI を結合したキメラタンパク質である。また、 TALENはDNA結合ドメインとして34アミノ酸からなるDNA結合タンパク質、 Transcription Activator-Like Effector(TALE)を、DNA切断ドメインとして 非特異的エンドヌクレアーゼFokIと結合したキメラタンパク質であり、17塩基 対を認識できるように設計されている。いずれもエンドヌクレアーゼが二量体 化することで二本鎖DNAを特異的に切断する。しかし、どちらの人工制限酵素 もその高すぎる設計・製作コストが普及の妨げとなっている。 そこで、DNA切断ドメインおよびDNA結合ドメインを簡便に合成可能な低分 子で代替する研究もおこなわれている。 Komiyamaらによって報告された Artificial-Restriction DNA Cutter(ARCUT)は、DNA切断ドメインはCe(IV) と強い相互作用を持つ N,N,N′,N′-エチレンジアミンテトラキス(メチレンリン 4 酸)(EDTP)を、DNA結合ドメインにはpseudo-complementary peptide nucleic acid(pcPNA)を用いている9)。pcPNAは二本鎖DNAに割り込む形で結合し、 この際に部分的に一本鎖になるように設計しておくことで、Ce(IV)/EDTP錯体 によって一本鎖部分が切断される。しかし、生体内へのCe(IV)の導入は難しく、 in vitroでの利用に限定されている。そのため、Ce(IV)などの金属イオンを必要 とせず、生理的条件下で、DNAを切断可能なDNA切断ドメインの開発が望まれ る。開発されたDNA切断ドメインをDNA認識ドメインと組み合わせることで、 生体内で利用可能な人工制限酵素ができると考えられている。 Figure 2. Architecture of Zinc Finger Nuclease (ZFN) and TAL-effecter Nuclease (TALEN). 5 1‐3 修飾 siRNA 遺伝子のノックダウンを可能にする siRNA の作用機構と有効な誘導体の開発 について述べる。siRNA の作用メカニズムである RNA 干渉(RNAi)は、1998 年に Fire らによって、線虫に二本鎖 RNA(dsRNA)を注入することで遺伝子 発現を抑制したことから発見された 10)。その後、2001 年に siRNA と呼ばれる 21-nt の dsRNA によって哺乳類の細胞でも RNAi が誘起されることが見出され、 医学や生物学において大いに注目されることとなった。ポストゲノム時代とい われる現在では、遺伝子発現制御による強力なツールとして遺伝子の機能解明 に貢献している。 siRNA は細胞内に取り込まれるとタンパク質と複合体を形成し、一方の鎖を 分解することで RNAi 誘導サイレンシング複合体、RISC を形成する(Figure 3)。 そして、相補的な配列を持った mRNA を切断することで、タンパク質の合成を 阻害する。また、RISC に取り込まれた RNA は使い捨てではなくターンオーバ ーすることで微量でも高い活性を示す。さらに、mRNA の配列から最適な siRNA の設計が容易に行えることから、その利用は急速に広まった。 6 Figure 3. Mechanism of RNA-interfering (RNAi). Short interfering RNAs (siRNAs) facilitate sequence-specific silencing of gene expression by RNAi pathway. The siRNAs containing 19-nt duplexed region with 2-nt 3′-overhangs are taken up by protein complex containing Argonaute 2 to form and forms the RNA-induced silencing complex (RISC) via cleaving the sense strand. The antisense strand guides RISC to the complementary site in the target mRNA, which engages the endonucleolytic activity of Ago2, resulting in mRNA cleavage. The RISC is recycled for several rounds of mRNA cleavage. siRNAの医療への応用では、臨床試験に進んだものではほとんどが患部への 直接投与に限定され、癌やウィルス感染などの治療への応用には全身投与可能 なsiRNAの開発が必要とされている。そこで、これまでにRNAi活性と酵素耐性 の向上のためにさまざまな修飾ヌクレオシドを、siRNAに導入する研究が行わ れてきた。最も多く使われている修飾リボヌクレオシドは糖部の2′-位に置換基 を有するものである11)。2′-O-メチレン化RNA(2′-OMe-RNA、Figure 4c)はも っとも多く使われ、酵素耐性と二重鎖安定性の向上を示した。しかし、多すぎ 7 る 2′-OMe 修 飾 は siRNA の 活 性 を 低 下 さ せ る と 報 告 さ れ て い る 。 ま た 、 2′-deoxy-2′-fluoro-RNA(2′-F-RNA、Figure 4d)も有効な2′-修飾RNAの一つで、 2′-F修飾されたsiRNAは血清中での安定性を向上させ、二重鎖安定性を増加させ た。最近注目されている糖部位修飾ヌクレオシドのBridged Nucleic Acid (BNA) /Locked Nucleic Acid(LNA、Figure 4e)は、糖部位の構造が立体的に固定さ れているために、相補鎖に対する結合親和性を著しく増加させ、また、高い酵 素耐性も有する。 a) HO O b) HO B OH OH DNA c) HO O OH B OMe B O OH RNA d) HO B O OH 2'-F 2'-OMe e) HO F B O OH O BNA/LNA Figure 4. 2′-modified nucleosides. 糖部修飾ヌクレオシドと同様に、積極的に研究されてきた修飾ヌクレオシドに 塩基部修飾ヌクレオシドがある。特に、ピリミジン5位の置換基は、二重鎖のメ ジャーグルーブ側にあり、二重鎖形成を阻害しないため、様々な置換基が結合 できる12)。置換基として、ポリアミンを結合したヌクレオシドを含むDNAはリ ン酸ジエステル結合の負電荷を中和するために二重鎖を安定させる13)。 これら修飾ヌクレオシドの siRNA 中での導入位置について、種々検討がされ ているが、有効な修飾部位に 3′-オーバーハング領域がある。この部位への修飾 は二重鎖安定性を大きく損なうことなく、3′-エキソヌクレアーゼに対する耐性 8 を高めることができる。また、siRNA のセンス鎖、アンチセンス鎖いずれとも RISC の形成が可能であるが、RISC 形成時に R2D2 と Dicer-2 と呼ばれる 2 種 類のタンパク質によって二重鎖の非対称性が識別され、相対的に 5′-側が不安定 な鎖が RISC を形成する。そのため、3′-オーバーハング領域への化学修飾によ って非対称性を調整することで、RISC への取り込みを制御できる。これにより、 オフターゲット効果を抑制できるため、RNAi 活性を向上させると報告されてい る 14)。オフターゲット効果とは、標的としていない遺伝子に対して抑制効果を 引き起こすことである。その一つに、センス鎖が RISC を形成し、標的以外の 遺伝子を抑制するものがある。 1‐4 本研究について 本論文では、より効率的な遺伝子の機能解析をめざして、ノックアウトマウ スの製作に必要な細胞内で利用可能な低分子の人工制限酵素の DNA 切断部位、 ならびに、ノックダウンに利用できる活性の高い修飾 siRNA の開発を行った。 第 2 章では、人工制限酵素の DNA 切断ドメインに応用可能な生理的条件、還 元剤非存在下で DNA を切断する人工ヌクレアーゼとして、1,10-フェナントロ リン-ポリアミン複合体とその Cu(II)錯体の活性を検討した。そのために、1,10フェナントロリンを有する 2 種類の複合体を合成し、プラスミド DNA の切断に ついて検討した。また、より活性の高い複合体において、pH 依存性と活性酸素 種の発生を抑制するスカベンジャー存在下での切断からその切断機構について 検討した。 第 3 章では、3′-末端修飾 siRNA の開発に必要な 5 位に種々の機能性基を有す るピリミジンヌクレオシドを含む RNA の化学及び酵素的合成を検討した。化学 9 的合成方法では、固相ホスホロアミダイト合成法で 4 種類の修飾 RNA を合成し た。酵素的合成方法では、ポリアミン修飾の他に疎水性、親水性、アニオン性 の機能性基をピリミジン 5 位に有する修飾 DNA 2-mer と未修飾 RNA 19-mer の T4 RNA リガーゼによる結合を検討した。 第 4 章では、C5 位ポリアミン修飾ピリミジンヌクレオシドを 3′-オーバーハン グ領域に含む siRNA の RNAi 活性を検討した。第 3 章で合成した C5 位ポリア ミン修飾ピリミジンヌクレオシドを 3′-末端に含む RNA から siRNA を調製し、 酵素耐性と RNAi 活性を測定した。RNAi 活性は、ヒト肝癌細胞において変異す ると糖尿病の原因となるタンパク質、肝細胞核因子 4(HNF4)の mRNA 及 びタンパク質の発現量の変化から見積もった。 第 5 章には、総括と今度の展望について記述した。 10 第2章 1,10-フェナントロリンポリアミン複合体によるプ ラスミド DNA の切断 2‐1 序論 遺伝子の機能解明に用いるノックアウトマウスの作製など、現代の遺伝子工 学をより発展させるために、標的とする遺伝子配列を自由に選択できる人工制 限酵素の開発が待望されている。今までに報告された中で、実用的な人工制限 酵素である ZFN や TALEN(1 章参照)は、DNA 切断ドメインに天然のヌクレ アーゼを用いており、その高いコストが普及の障害となっている。そこで、加 水分解的に DNA を切断可能な低分子の人工ヌクレアーゼの開発が望まれてい る。これまでに報告されている人工ヌクレアーゼの多くは、酸化還元活性を持 つ金属錯体を利用しており、還元剤または光による活性化でラジカル的もしく は酸化的に DNA を切断する。しかしながら、このような切断では、切断部位の 塩基の欠損や、切断位置でのリン酸の残存が起こり、その後の遺伝子断片の結 合時に不具合が生じる。一方、加水分解的に DNA を切断することができれば、 これまでの天然の制限酵素を用いて行っていた遺伝子組み換え技術を応用する ことが可能となる。そのため、天然ヌクレアーゼの活性部位を模倣してペプチ ドで造られた人工ヌクレアーゼが報告されている 15),16)。また、生理的条件の下 で、Cu(II)や Zn(II)、ランタニドイオンと低分子化合物からなる錯体による加水 分解的 DNA 切断も報告されている 17),18)。これら多価金属を含まないデオキシ リボヌクレアーゼも報告されたが、それらによる DNA 切断は高温または高い触 媒濃度でのみ引き起こされる 19)。そのため、これら加水分解的に 11 DNA を切断 する分子の活性は低い。最近、比較的効果的な DNA 切断分子が報告された。こ れは、グアニジノエチルとヒドロキシエチル側腕を含む 1,4,7-トリアザシクロノ ナンであり、金属非存在下、濃度 100 M で見かけの速度定数 0.13 h-1 で DNA を切断したことが報告されている 20)。 Sawai らは、フェナントロリン Cu(II)錯体の高い DNA 切断能に着目し、1,10フェナントロリン誘導体の金属錯体による DNA 切断について検討してきた。 1,10-フェナントロリンの Cu(II)錯体は、還元剤存在下で DNA を酸化的に切断 することが知られている 21)。酸化的切断では、還元剤により還元された Cu(I) から生じた活性酸素種がデオキシリボースの C1′、C4′、C5′からの水素の引き抜 きと酸化的付加によって DNA を切断する。錯体中では、リガンドである 1,10フェナントロリンが Cu(II)と共に DNA と結合することでその反応速度を加速 させる。1,10-フェナントロリンの結合様式は、DNA の塩基対の間に挿入される インターカレートであるが、その Cu(II)錯体は、主に二重鎖の溝へのグルーブ バインディングによって非共有結合的に結合すると報告されている 22)。インタ ーカレーションとは、DNA 二重鎖の 2 つの塩基対の間に平面状分子がスタッキ ング相互作用により結合することである(Figure 5a)。一般的なインターカレ ーターにはエチジウムブロマイド(EB)やアクリジンなどがある。一方、グル ーブバインディングは、二本鎖のリン酸骨格の間の溝にはまる形で疎水的、あ るいは、リン酸と静電的相互作用によって結合することである(Figure 5b)。 さらに、1,10-フェナントロリンを様々なアミノリンカーで架橋させたフェナン トロリン‐ポリアミン複合体を合成し、DNA との結合能や切断活性について研 究を行い、その Cu(II)錯体が還元剤存在下で DNA を切断することを報告してい る 22)。これら一連の研究の中で、1,10-フェナントロリン-ポリアミン複合体が、 還元剤及び多価金属非存在下、生理的条件でプラスミド DNA を切断することを 12 見出した。その中でも特にトリス(2-アミノエチル)アミンに 1,10-フェナント ロリンを 3 つ結合させた複合体が、高い活性を示した。本研究では、この 1,10フェナントロリンポリアミン複合体の合成、スーパーコイル型プラスミド DNA を用いた切断活性の検討とその切断機構について検討を行った。 a) b) Figure 5. Schematic representations of the two binding modes for small molecule-duplex DNA interaction. a) Intercalation. b) Groove binding. 2‐2 実験 トリス(2-アミノエチル)アミン(東京化成工業)、1, 8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウ ンデカ-7-エン(DBU、和光純薬)、ピリジン(和光純薬)、ジクロロメタン(キ シダ化学)、メタノール(MeOH、キシダ化学) 、塩酸(和光純薬)、pBR322 DNA (ニッポンジーン)、アガロース (ニッポンジーン)、Tris (SIGMA)、エチレンジ アミン四酢酸(EDTA、同仁化学)、ホウ酸 (和光純薬)、ドデシル硫酸ナトリウ ム(SDS、和光純薬)、塩化銅(岩井化学薬品) 、Calf Thymus-DNA(CT-DNA、 Sigma-Aldrich)エチジウムブロマイド(EB、Sigma-Aldrich)は購入して使用 した。2-クロロ-1,10-フェナントロリンは、報告に基づき合成して用いた 23)。 13 2‐2‐1 N,N-ビス(1,10-フェナントロリ-2-イル-アミノエチル)アミノエチル アミン(1)および N,N,N-トリス(1,10-フェナントロリ-2-イル-アミノエチル) アミン(2)の合成 2-クロロ-1,10-フェナントロリン(1.00 g、4.66 mmol)とトリス(2-アミノエチ ル)アミン(330 l、2.22 mmol)と DBU (1.66 ml、1.11 mmol)を加え、dry ピリジンで 3 回共沸し、アルゴン雰囲気下で 90 ˚C、19 時間還流した。ジクロ ロメタンに溶かし、水で 3 回洗浄した。減圧乾燥後、展開溶媒に溶かし、カラ ムクロマトグラフィ(2-20 % MeOH/ CH2Cl2/1-2 % NH2)で精製し、1 を収量 358 mg、収率 32 %で、2 を収量 298 mg、収率 19.6%でそれぞれ得た。 1:1H NMR (CDCl3): = 9.06 (br-s, 2H, H9), 8.14(d, J = 9.9 Hz, 2H, H7), 7.76 (d, J = 8.7 Hz, 4H, H4), 7.51(m, 4H, H6), 7.43 (d, J = 8.7 Hz, 2H, H8), 6.85 (d, J = 8.7 Hz, 2H, H3), 6.15 (br, 2H, NH), 3.69 (br-s, 2H, CH2),2.88 (br-d, 6H, CH2), 2.74 (br-d, 4H, CH2); ESI-MS: m/z 503.4 ([M + H]+, C30H31N8+, calcd. 503.3). 2:1H NMR (CDCl3): = 9.07 (br-d, 3H, H9), 8.14 (d, 3H, J = 9.6 Hz, H7), 7.69 (d, J = 8.7 Hz, 3H, H4), 7.52 (m, 6H, H6), 7.49 (d, J = 4.2 Hz, 3H, H8), 6.77 (d, J = 8.7 Hz, 3H, H3), 6.00 (br-s, 3H, NH), 3.70 (br-d, 6H, CH2), 3.00 (t, J = 5.7 Hz, 6H, CH2); ESI-MS: m/z 681.4 ([M + H]+, C42H37N10+, calcd. 681.3). 2‐2‐2 複合体1の塩酸塩の調製 複合体 1(50 mg、0.10 mmol)を 5 M 塩酸(6.8 ml、34 mmol)に溶かし、 室温で一晩撹拌した。減圧乾燥後、水で再結晶した。複合体 1 の塩酸塩は、収 14 量 64 mg、収率 87 %で得られた。 Anal. Calcd for C30H30N8 + 4HCl + 5H2O: C, 48.79; H, 6.01; N, 15.17%. Found: C, 49.49; H, 6.16; N, 15.16%. 2‐2‐3 複合体2の塩酸塩の調製 複合体2(32 mg、47 mmol)を5 M 塩酸(3.2 ml、16 mmol)に溶かし、室 温で一晩撹拌した。減圧乾燥後、水で再結晶した。複合体2の塩酸塩は、収量16 mg、収率36 %で得られた。 Anal. Calcd for C42H36N10 + 4HCl + 6H2O: C, 53.97; H, 5.61; N, 14.98%. Found: C, 53.98; H, 5.89; N, 14.88. 2‐2‐4 DNA への結合親和性の評価 3 M CT-DNA と 1 M EB を含む 20 mM Tris-HCl Buffer (pH 7.2)、20 mM NaCl 水溶液を調製後、室温で 1 時間インキュベートした。その後、複合体 1 ま たは 2 を 0 ~ 20 M 添加し、25 °C で励起波長 546 nm で 590 nm の蛍光測定を 行った。蛍光スペクトルは、島津 RF-5300PC 蛍光分光光度計で測定した。 2‐2‐5 多価金属非存在下または Cu(II)錯体におけるプラスミド DNA の切断 多価金属非存在下および Cu(II)錯体における複合体 1 と 2 の切断活性は、 pBR322 DNA と共にインキュベート後、アガロースゲル電気泳動によって、ス ーパーコイル状 DNA(Form I)から開鎖環状(Form II)および直鎖状(Form 15 III)への変化によって評価した。反応混合液は 100 mM Tris-HCl(pH 7.2)、 50 mM NaCl、pBR322 DNA 0.1 g、総量 5 l で調製した。多価金属非存在下 での複合体濃度は 50 ~ 200 M で、Cu(II)錯体では 1 ~ 10 M で行った。銅と の錯体は 1:1 の濃度で調製して、室温で 24 時間放置後に実験に用いた。反応 生成物は、1% SDS を含む 1% アガロースゲルゲル電気泳動で分離した。分離 したバンドは EB 染色によって可視化し、写真を撮った。バンドを ImageJ 画像 処理プログラム(NIH、USA)によって解析し、定量化した。 2‐2‐6 DNA 切断に対する活性酸素スカベンジャーの影響 活性酸素スカベンジャーの影響は、2‐2‐5 節の反応溶液に所定濃度のスカベ ンジャーを加えて反応し、ゲル電気泳動で解析した。 2‐2‐7 DNA 切断における pH の影響 複合体 2 による DNA 切断の pH による影響を調べた。pH に応じて、0.1 M のバッファーとして、Na-カコジル酸(pH 6.2 ~ 6.7)、Tris-HCl(pH 7.2 ~ 8.2)、 Na-バルビタール(pH 8.8 ~ 9.2)と Na-グリシン(pH 9.7 ~ 10.5)を用いて、 0.1 g pBR322 DNA、40 M 複合体 2 を 37 °C、24 時間インキュベートして、 解析を行った。 2‐2‐8 反応速度の測定 複合体 2 による DNA 切断の速度論的研究は、2 の触媒活性の有効性を比較す 16 るために行った。複合体濃度 100 M、pH 7.2、37 ˚C で切断反応を行い、所定 時間毎の反応溶液の解析を行った。 2‐3 結果および考察 2‐3‐1 1,10-フェナントロリン-ポリアミン複合体の合成 1,10-フェナントロリンポリアミン複合体として、トリス(2-アミノエチル) アミンに 1,10-フェナントロリンが 2 つ結合した複合体 1 と 3 つ結合した複合体 2 の合成を行った(Scheme 1)。そして、それぞれの複合体から水溶液に溶解可 能な塩酸塩を調製した。 H N H N NH 2 N N N H2N Cl N H N N N N N N N N DBU NH 2 H N N N HN N NH 2 N 1 2 Scheme 1. Synthesis of 1,10-phenanthroline-polyamine conjugates. 2‐3‐2 DNA への結合親和性の評価 DNA への 1 と 2 の結合能力は、エチジウムブロマイド(EB)を用いた色素 排除実験により評価した。EB は DNA に結合すると強い蛍光を発するが、DNA への化合物の競合的結合によって DNA から EB が排除されることで、EB の蛍 光強度が減少する。 17 EB-DNA 溶液への金属イオンを含まない複合体 1 または 2 のいずれの添加に おいても、蛍光強度は減少した(Figure 6)。EB の蛍光の減少は化合物が DNA にインターカレートかグルーブバインディングによって結合していることを示 している。C50 値は、最初の蛍光が 50%減少する時の複合体濃度であり、複合 体 1 では 7.9 M で、複合体 2 では 1.6 M であった。濃度が低いほど結合能が 高くなるため、3 つのフェナントロリン基を持つ複合体 2 は 1 より強い DNA へ の結合能があることが示された。また、DNA への結合モードは、C50 値が 15 M 以下では主にグルーブバインディング、20M 以上では主にインターカレータ ーであるとされている。したがって、複合体 1 及び 2 は主にグルーブバインデ ィングによって DNA に結合していることが推定できる。しかし、複合体 1 の結 合では蛍光の減少は単調であることから単一の結合モードであるのに対し、複 合体 2 には複数の結合モードが存在すると考えられる。3 つ目のフェナントロリ ン基がインターカレーターとして働いている可能性がある。 B 100 50 0 0 5 10 15 Conjugate / mM 20 100 Relative Fluorescence Intensity / % Relative Fluorescence Intensity / % A 50 0 0 1 2 Conjugate / mM 3 Figure 6. Competitive ethidium displacement assays by conjugate 1 (A) and 2 (B). The experiments were performed by the addition of conjugate to solution containing 3 M CT-DNA and 1 mM ethidium bromide in 20 mM Tris-HCl (pH 7.2), 20 mM sodium chloride at 25 ˚C. The fluorescence intensities were monitored at 590 nm with excitation 546 nm. [Adapted with permission from Chem. Lett., 42, 86 - 88 (2013). Masuda, T., Sasagase, T., Ozaki, A. N., Kuwahara, M., Ozaki, H., and Sawai. H., Copyright © 2013 The Chemical Society of Japan.] 18 2‐3‐3 多価金属非存在下または Cu(II)錯体におけるプラスミド DNA 切断 1,10-フェナントロリン-ポリアミン複合体による DNA の切断活性について 検討を行うために、スーパーコイル型プラスミド DNA を用いた切断実験を行っ た(Figure 7)。これまでに報告されている 1,10-フェナントロリンとその誘導 体を用いた人工ヌクレアーゼは、その多くが銅錯体であったため、本研究にお いても銅錯体による切断活性とその切断機能の検討も併せて行った。スーパー コイル型プラスミド DNA、Form I は DNA 鎖の一箇所が切断されると、開鎖環 状 DNA、Form II となり、さらにもう一方の鎖が切断されると直鎖状 DNA Form III となる。複合体またはその Cu(II)錯体による切断生成物のアガロースゲル画 像を Figure 8 に示す。プラスミド DNA の電気泳動では、最も泳動が速いのは Form I で、最も遅いのは Form II で、Form III は Form I と II の間に泳動され る。複合体 1 と 2 はいずれも還元剤非存在下で多価金属非存在下および Cu(II) 錯体で DNA を切断し、Form II を生じさせた。DNA 切断の度合いは複合体の 種類と濃度によって決まり、3 つのフェナントロリン基を有する複合体 2 の切断 活性が、2 つのフェナントロリン基を有する複合体 1 よりも強いことが分かった。 色素排除実験の結果より、高い DNA への結合能が、切断活性を高めたと考えら れる。また、多価金属非存在下での切断活性はより大きな差がみられたのに対 し、Cu(II)錯体では 1 と 2 に大きな差はなかった。これは、Cu(II)錯体では、そ の結合様式もしくは切断機構が、複合体のみの場合と異なっているためと推測 されるが、複合体の DNA への結合様式を検討していないため、解明には至らな かった。 19 H N H N N N N N N NH 2 H N H N N N N N supercoiled DNA (Form I) nicked DNA (Form II) N HN N N linear DNA (Form III) Figure 7. Cleavage of supercoiled DNA by 1,10-phenanthroline-polyamine conjugates. A 1 2 3 4 5 6 7 8 9 Form II Form III Form I B 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 Form II Form III Form I Figure 8. Agarose gel (1%) electrophoresis of pBR322 plasmid DNA (0.1 g) incubated for 24 h at 37 °C in 100 mM Tris-HCl buffer (pH 7.2) with 1,10-phenanthroline-polyamine conjugates without any metal ions (A) or cupper complex (B).A : Lane 1, control; lane 2 - 5, 1 (50, 100, 150, and 200 M); lane 6 - 9, 2 (50, 100, 150, and 200 M), B ; Lane 1, control ; Lane 2 - 6, 1 (1.0, 2.5, 5.0, 7.5, 10 M) ; Lane 7 - 11, 2 (1.0, 2.5, 5.0, 7.5, 10 M). [Reprinted with permission from Chem. Lett., 42, 86 - 88 (2013). Masuda, T., Sasagase, T., Ozaki, A. N., Kuwahara, M., Ozaki, H., and Sawai. H., Copyright © 2013 The Chemical Society of Japan.] 20 2‐3‐4 スカベンジャーによる切断機構の検討 DNA 切断の機構を解明するために、より活性のある複合体 2 を用いて活性酸 素種の発生を抑制するスカベンジャーを添加して DNA の切断実験を行った。用 いたスカベンジャーは過酸化水素スカベンジャー(カタラーゼ)、一重項酸素ス カベンジャー(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、DABCO)、過酸化物スカベ ンジャー(4,5-ジヒドロキシ-1,3-ベンゼンジスルホン酸二ナトリウム、Tiron)、 ヒドロキシラジカルスカベンジャー(ジメチルスルホキシド、DMSO)である。 各種スカベンジャーを添加して行った DNA の切断実験の結果は Figure 9 に 示す。多価金属非存在下での複合体 2 における DNA の切断は、DABCO と DMSO には阻害されなかったが、カタラーゼと Tiron にはある程度阻害された (Figure 9A)。DNA の酸化的切断はヒドロキシラジカルまたは一重項酸素によ って引き起こされる。DABCO と DMSO による切断の阻害がなかったことから、 酸化的切断によるものではないと言える。カタラーゼと Tiron による切断の抑 制は、それらが陰イオン化合物であることが影響していると考えられる。カタ ラーゼの等電点は 5.4 であり、Tiron には 2 つのスルホン酸基がある。陰イオン 性化合物による影響は、多価陰イオン化合物である EDTA とクエン酸によって 確認を行った結果、2 による DNA 切断を抑制した。これらの陰イオン化合物が 2 の陽イオン部位とリン酸ジエステル結合の陰イオンとの相互作用を阻害し、そ のために DNA の切断が抑制されたと考えられる。このことから複合体 2 は多価 金属非存在下では、静電的に DNA に結合していると考えられる。一方 Cu(II) 錯体では、著しい切断の抑制は見られなかった(Figure 9B)。この結果は複合 体が Cu(II)錯体では加水分解的に DNA を切断していることを示している。 21 Figure 9. A 1 2 3 4 5 6 B 1 2 3 4 5 6 Cleavage of plasmid DNA by phenanthrolinepolyamine conjugate 2 without any metal ions (A) or cupper complex (B) in the presence of an activated oxygen scavenger. Reactions were performed with 0.1 g of pBR322 in the presence of 40 M of conjugate 2 in 100 mM Tris-HCl buffer (pH 7.2) for 24 h at 37 °C. Lane 1, only DNA; lane 2, no scavenger added; lane 3, catalase (10 mg mL-1); lane 4, DABCO (4 mM); lane 5, Tiron (4 mM); lane 6, DMSO (200 mM). [Reprinted with permission from Chem. Lett., 42, 86 - 88 (2013). Masuda, T., Sasagase, T., Ozaki, A. N., Kuwahara, M., Ozaki, H., and Sawai. H., Copyright © 2013 The Chemical Society of Japan.] 2‐3‐5 複合体 2 における DNA 切断の pH の影響 複合体 2 によって触媒される DNA 切断反応における pH の影響について調査 した。DNA 切断反応を pH 6.2 ~ 10.5 で行った結果を Figure 10 に示す。切断 効率は pH 8.8 ~ 10.2 のときに高かった。これらの結果は、複合体 2 が酸塩基触 媒として作用し、DNA 切断が、主に加水分解的であることを示している。推測 される反応機構を Figure 11 に示す。1,10-フェナントロリン基に結合した水分 子が、リン酸ジエステル結合を攻撃するとによって引き起こされると考えられ る。 22 Figure 10. pH dependency of DNA cleavage by 2. A. Agarose gel image. B. Relative amounts of form I, II, and III plasmid DNA. Cleavage of pBR322 plasmid DNA (0.1 g) was performed in the presence of 40 M of 2 for 24 h at 37 °C in 100 mM buffer solution, Na-cacodylate (pH 6.2-6.7), Tris-HCl (pH 7.2 - 8.2), Na-barbital (pH 8.8 - 9.2), and Na- glycine (pH 9.7 - 10.5). [Reprinted with permission from Chem. Lett., 42, 86 - 88 (2013). Masuda, T., Sasagase, T., Ozaki, A. N., Kuwahara, M., Ozaki, H., and Sawai. H., Copyright © 2013 The Chemical Society of Japan.] c O O - H N O O O P O O H HN N - O B O O B O O P O H HO O O O - H N O O O P O O B - O O P O O - B O O P O OH B HO O - B O O P O O Figure 11. Mechanism of hydrolytic cleavage by 1,10-phnanthrolinepolyamine conjugate. 23 2‐3‐6 複合体 2 による DNA 切断の反応速度の測定 複合体 2 の有用性を示すため、DNA 切断の反応速度定数を求めた。Figure 12 は 100 M の 2 の存在下の切断反応の時間依存性を示す。この結果より、見掛 けの反応速度定数は 0.25 h-1 であった。複合体 2 は、グアニジノエチルとヒドロ キシエチル側腕を含む 1,4,7-トリアザシクロノナン(0.13 h-1)に匹敵する高い 切断活性を有しているといえる。これは、複合体 2 が、非常に高い DNA 切断活 性を持つことを示している。 A B Figure 12. Time course of DNA cleavage by 2. A. Agarosse gel image. B. Time course of the DNA cleavage reaction. Cleavage of pBR322 plasmid DNA (0.1 g) was performed in the presence of 100 M of 2 at 37 °C in 100 mM Tris-HCl buffer (pH 7.2) for 0-24 h. [Reprinted with permission from Chem. Lett., 42, 86 - 88 (2013). Masuda, T., Sasagase, T., Ozaki, A. N., Kuwahara, M., Ozaki, H., and Sawai. H., Copyright © 2013 The Chemical Society of Japan.] 2‐4 まとめ 1,10-フェナントロリン-ポリアミン複合体によるプラスミド DNA の切断活 性とその切断機構について検討を行った。1,10-フェナントロリン-ポリアミン 複合体として、トリス(2-アミノエチル)アミンに 1,10-フェナントロリンが 2 24 つ結合した複合体 1 と 3 つ結合した複合体 2 を合成した。いずれの複合体も生 理的条件、還元剤及び多価金属非存在下でプラスミド DNA を切断した。多価金 属非存在下では、3 つのフェナントロリン基を有する複合体 2 は 2 つだけの 1 に比べ、高い DNA への結合能と DNA 切断活性を示した。これは複合体 2 の高 い結合能が、高い切断活性をもたらしたことを示唆している。また、DNA との 結合はいずれの複合体も、主にグルーブバインディングによるものだと推測さ れる。さらに複合体 2 を用いて、その切断活性に及ぼす活性酸素種スカベンジ ャーの添加効果と反応溶液の pH 依存性を検討した。その結果、複合体 2 は、 加水分解的に DNA を切断していることが分かった。1,10-フェナントロリン基に 結合した水分子によって、リン酸ジエステル結合が攻撃されることによる加水 分解的切断と推測される。複合体 2 の Cu(II)錯体も、DNA を加水分解的に切断 していることが分かったが、本研究では、多価金属非存在下での切断活性に主 眼を置いていたため、その詳細については検討しなかった。得られた複合体 2 の反応速度を見積ったところ、その反応速度は既報の DNA 切断分子に匹敵する 高い切断能を有することが分かった。 25 第3章 3′-末端に種々の修飾ヌクレオシドを含む RNA の化 学的合成および酵素的合成 3‐1 序論 近年、分子生物学や医学において siRNA や miRNA のような小分子 RNA を 用いた研究が盛んにおこなわれている。これらの分野への利用には、効率的か つ一度に大量の RNA を合成する技術が必要となるため、RNA 合成に関する研 究が積極的に行われている。RNA を含む核酸の合成方法には、化学的合成方法 と酵素的合成方法がある。化学的合成方法は、主にホスホロアミダイト法が用 いられ、3′-末端のヌクレオシドを固定した固相担体にヌクレオシドのホスホロ アミダイト誘導体を順次反応させることで任意の配列を合成することができる 25) 。また、修飾ヌクレオシドのホスホロアミダイト誘導体を用いることで任意 の位置に修飾ヌクレオシドを導入することが可能である。酵素的合成方法では、 DNA を鋳型としてヌクレオシド-5′-三リン酸を重合する RNA ポリメラーゼ 26) や、RNA の 3′-末端に 5′-リン酸化されたオリゴヌクレオチドを結合する RNA リ ガーゼを用いて合成を行う 27)。構造を大きく損なわない修飾を有するヌクレオ シドを用いることで修飾 RNA の合成にも利用されている 28),29)。T4 RNA リガ ーゼは RNA の 3′-末端にヌクレオシドやその類似体を導入できることから、 tRNA のフルオレセインやビオチンなどによる標識化に用いられてきた 30),31)。 これまでに、siRNA の様々な位置に修飾基を導入し、その RNAi 活性に及ぼ す効果が検討されてきた。siRNA の構造は、Figure 13A に示す。特にアンチセ ンス鎖の 3′-オーバーハング領域とセンス鎖の両末端への導入が最も一般的に使 われてきた。アンチセンス鎖の 3′-オーバーハング領域の 2-nt は、RISC の重要 26 な構成要素である Argonaute 2 の PAZ(Piwi / Argonaute / Zwille)ドメインに 取り込まれる(Figure 14)。この際に、dsRNA の非対称性が識別され、二重鎖 の解離に関して 5′-末端が相対的に不安定な鎖がガイド鎖として RISC に組み込 まれる。RNA 中に修飾基を結合することで二重鎖の熱的安定性が変わることか ら、3′-オーバーハング領域に修飾ヌクレオシドを導入することで二重鎖の熱力 学的安定性を調節できる。このように RISC への取り込みを制御することで RNAi 活性を高め、オフターゲット効果を抑制できる(Figure 13C)。 A B C Figure 13. (A) Schematic representation of a siRNA molecule. siRNA has 2-nt 3′-overhang at each strands. (B) Recognition of thermodynamic asymmetry of siRNA by R2D2/Dicer-2 heterodimer. In thermodynamically asymmetric siRNA duplexes, the strand whose 5′-end lies at the less thermodynamically stable end of the helix is preferentially loaded onto Argonaute 2 as the guide strand. (C) Modulation of siRNA thermodynamic asymmetry by modified nucleosides in the 3′-overhang regions. Chemical modification of siRNA 3′-overhangs can be preferentially incorporated antisense strand during RISC loading by the modulation of the thermodynamic asymmetry of duplex. 27 Figure 14. Schematic representation of siRNA/Argonaute 2 complex. Argonautes consist of four distinct domains: the N-terminal, PAZ, Mid and PIWI domains. The 3′-overhang region of the antisense strand of the siRNA is introduced into the PAZ domain. 本章では、C5 位に機能性基を有するピリミジンヌクレオシドを 3′-末端に導入 した RNA を化学的合成方法のみを用いた場合と、別途合成した修飾 DNA 2-mer を T4 RNA リガーゼによって RNA 19-mer の 3′-末端に結合する方法の検討を行 った(Figure 15)。また、リガーゼ反応に及ぼす置換基の効果を調べた結果も 述べる。そのために、化学合成の出発原料となる修飾ヌクレオシドのホスホロ アミダイト化、ならびに固相担体への担持とそれらを用いた化学合成の結果、 T4 RNA リガーゼによる修飾 DNA 2-mer と RNA 19-mer の結合反応結果を述 べる。 28 a) b) Figure 15. Chemical and enzymatic synthesis of modified RNA 21-mers containing modified nucleoside at the 3′-end. a) Chemical synthesis performed by solid-phase synthesis using phosphoramidite method. b) Enzymatic synthesis performed by ligation of RNA 19-mer with modified DNA 2-mer by T4 RNA ligase. 3‐2 実験 2-シアノエチルジイソプロピルクロロエチルアミン(和光純薬)、N,N-ジイソプ ロピルエチルアミン(i-Pr2NEt)、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP、和光純 薬)、無水コハク酸(関東化学)、4,4′-O-ジメトキシトリチルクロライド(DMTr-Cl、 和 光 純 薬 )、 テ ト ラ -n- ブ チ ル - ア ン モ ニ ウ ム フ ル オ ラ イ ド ( TBAF 、 Sigma-Aldrich)、ナトリウム(関東化学) 、トルエン(和光純薬)、ヘキサン(関 東化学)、1-(3-ジメチルアミノプロピル)エチルカルボジイミド(EDC、同仁化 学)、Long Chain Alkylamine Controlled Pore Glass(LCAA-CPG)、アセトニ トリル(MeCN、関東化学)、トリエチルアミン(TEA、和光純薬)、3% トリ クロロ酢酸 / CH2Cl2(Glen Research)、Chemical Phosphorylation Reagent II 29 (CPRII、Glen Research)、ジシクロヘキシルカルボジイミド (DCC、和光純 薬)、アミノエタノール(関東化学)、チミジンホスホロアミダイト(Proligo, SAFC)、1H-テトラゾール(Glen Research)、塩化ホスホリル(POCl3、和光 純薬)、リン酸トリメチル(和光純薬)、水酸化リチウム・一水和物(LiOH・H2O、 関東化学)、T4 RNA リガーゼ(タカラバイオ)、ポリエチレングリコール 6000 (PEG、和光純薬)アクリルアミド-HG(和光純薬)、メチレンビス(アクリル アミド)-HG(和光純薬)、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA、和光純薬)、 Urea(Sigma-Aldrich)、Tris(Sigma-Aldrich)、SYBR Gold(インビトロゲン) は購入して使用した。5′-O-(4,4′-ジメトキシトリチル)-5-[N-2-[N,N-ビス(2-トリ フルオロアセチルアミノエチル)アミノ]エチル]カルバモイルメチル-2′-デオキシ ウリジン(3)32)、及び、3′-O-[(2-シアノエチル)(ジイソピルアミノ)]ホスホリノ -5′-O-(4,4′-ジメトキシトリチル)-5-[N-2-[N,N-ビス(2-トリフルオロアセチルア ミノエチル)アミノ]エチル]カルバモイルメチル-2′-デオキシウリジン(4)32)、 5-カルボキシメチル-2′-デオキシウリジン(15)33)、5′-O-(4,4′-ジメトキシトリチ ル)-5-(N-プロピル)カルバモイルメチル-2′-デオキシウリジン(16a)13)、-アラ ニンメチルエステル塩酸塩一水和物は、それぞれ報告に基づき合成して用いた。 3‐2‐1 修飾ヌクレオシドの固相担体の合成 3(0.15 g、0.17 mmol)をdry ピリジン 1 ml に溶かし、無水コハク酸(72 mg、 0.72 mmol)とDMAP(30 mg、0.25 mmol)を加えて、室温で20時間撹拌した。 反応液はCH2Cl2に溶かし、5% NaHPO4水溶液で洗浄した。有機相をトルエン で3回共沸することでピリジンを除去した。残渣はシリカゲルカラムクロマトグ ラフィ(10% MeOH/CH2Cl2)で精製し、ヘキサン(70 ml)で再沈殿を行った。 30 そして、3′-コハク酸塩 5(20 mg、0.040 mmol)をdry ピリジンに溶かし、DMAP (6 mg、0.05 mmol)、1-(3-ジメチルアミノプロピル)エチルカルボジイミド (0.19 g、1.0 mmol)とLCC-CPG樹脂(0.50 g)、そして最後にTEA(40 l) を加えた後、室温で4時間ゆっくり撹拌した。CPGは濾過を行い、ピリジンと CH2Cl2で洗浄後、乾燥させた。CPGに結合した修飾ヌクレオシドの量を、3% ト リクロロ酢酸/CH2Cl2溶液によって切り出されたDMTrカチオンを定量すること で求め、23.7 mol/gであった。 3‐2‐2 修飾オリゴリボヌクレオチドの合成 RNAはHNF4の研究で報告されている配列を用いた。6つのオリゴリボヌク レオチド(ORN)は、1 molスケールで392 DNA/RNA synthesizer(アプライ ドバイオシステム)を用いたホスホロアミダイト方法によって合成した(Table 1)。カップリング時間を10分間にし、ORN1と2は3′-オーバーハング領域にTを 導入するためにチミジン(T)のホスホロアミダイトとT-CPGを用いた。同様に、 ORN3と4ではTのホスホロアミダイトと修飾CPG 6を、ORN5と6では修飾ヌク レオシドのホスホロアミダイト体 4と修飾CPG 6を用いた。 合成後、固相担体を濃アンモニア水:エタノール(3:1、v/v)で処理して担体 から切り出した後、55 ˚C で一晩加熱することで脱保護を行った。そして、TBAF で 2′-O-TBDMS の脱保護を行い、カラムとして ODS-80Ts(東ソー、0.46 x 25 cm)、溶離液として 50 mM TEAA(pH 7.2)/ 50 mM TEAA(pH 7.2)、70% MeCN を用いた HPLC によって精製した。 31 3‐2‐3 5′-リン酸化 C5-修飾ピリミジンヌクレオシドを含む DNA 2mer の合 成 5′-O-リン酸 チミジン-3′-イル 5-ビス(アミノエチル)アミノエチルカルバモイル メチル-2′- デオキシウリジン 5′-イル リン酸(13)の合成 室温で、固相担体 6 (42 mg、1 mol)上の修飾ヌクレオシドの 5′-末端を 3%ト リクロロ酢酸/ジクロロメタン 1 mL、10 分で脱トリチル化した。7 を室温で 1Hテトラゾール(14 mg、200 mol)存在下で、チミジンホスホロアミダイト 8 (15 mg、20 mol)と反応させた。10 分後に、0.02 M のヨウ素を含む THF/ピリジ ン/水(88:10:2、1 mL)中で 1 分間酸化し、9 を MeCN で洗浄した。3%ト リクロロ酢酸/ジクロロメタンで脱トリチル化し、得られた生成物は 1H-テトラ ゾール(14 mg、200 mol)存在下で、CPRII (20 mol)と反応させ、0.02 M のヨウ素を含む THF/ピリジン/水(1mL)中で酸化させた。得られた担体 11 は、 固相担体からの切り出しと脱保護のために、濃アンモニア水中で 55 ˚C で一晩 インキュベートし、濾過後、ろ液に空気を吹き付けてアンモニアを除去した。 修飾 DNA 2-mer は室温で 20 分間 80% 酢酸で処理した。さらに脱保護のため に濃アンモニア水に溶かして 37 ˚C で 30 分インキュベートした。生成物は HPLC によって単離し、16%の収率で修飾 DNA 2-mer 13 を得た。ESI-MS: m/z 796.8([M - H]-, C27H43N8O16P2- calcd. 797.2)。 32 5′-O-リン酸 5-ビス(アミノエチル)アミノエチルカルバモイルメチル-2′-デオキ シウリジン-3′-イル 5-ビス(アミノエチル)アミノエチルカルバモイルメチル-2′デオキシウリジン 5′-イル リン酸(14)の合成 修飾 DNA 2-mer 14 においても固相担体 6 と修飾ヌクレオシドのホスホロア ミダイト誘導体 4 から修飾 DNA 2-mer 13 と同様に合成した。その結果、収率 11% で 修 飾 DNA 2-mer 14 を 得 た 。 ESI-MS: m/z 968.8 ([M - H] - , C34H58N12O17P2- calcd. 968.4). 5′-O-(4,4′-ジメトキシトリチル)-3′-O-アセチル-5-(N-プロピル)カルバモイルメチ ル-2′-デオキシウリジン(17a)の合成 アルゴン雰囲気下で、16a(71 mg、0.11 mmol)を DMAP(1 mg、0.01 mmol) と共に MeCN(1 mL)に溶かした。無水酢酸(16 L、0.17 mmol)を加え、 室温で 2 時間撹拌した。反応液を酢酸エチル 50 mL に溶かし、5% NaHCO3 aq で洗浄した。有機相を MgSO4 で乾燥後、濾過を行った。減圧留去後、残渣はシ リカゲルカラムクロマトグラフィ(1-5 % MeOH / CH2Cl2)によって精製し、 収量 73 mg、収率 96 %で 17a を得た。 1H NMR (600 MHz, CDCl3): =7.74 (s, 1H, H6), 7.43-6.84 (m, 17H, Ar), 6.37 (q, 1H, CONH) 6.11 (t, 1H H1), 5.42 (m, 1H, H3′), 4.12 (q, 1H, H4′), 3.79 (s, 6H, OCH3), 3.43 (m, 2H, H5′), 3.10 (m, 2H, CH2CH2), 2.68-2.38 (m, 4H, H2′ and C5-CH2), 2.45 (t, 3H, COCH3), 1.43-1.47 (m, 2H, CH2CH2), 0.866 (t, 3H, CH3), 13C NMR (600 MHz, CDCl3):=170.3 (CONH), 169.0 (COCH3), 163.9 (C4), 158.7 (C4DMT, C4′DMT), 150.2 (C2), 144.4 (C1′′DMT), 138.1 (C6), 33 135.2 (C1DMT, C1′DMT), 130.1 (C2DMT, C6DMT, C2′DMT, C6′DMT), 128.1 (C2′′DMT, C3′′DMT, C5′′DMT, C6′′DMT), 127.0 (C4′′DMT), 113.4 (C3DMT, C5DMT, C3′DMT, C5′DMT), 109.8 (C5), 87.1 (Ar3CODMT), 84.8 (C1′), 84.1 (C4′), 75.1 (C3′), 63.7 (C5′), 55.3 (2×OCH3), 41.4 (C2′), 38.1 (CH2CH2), 34.6 (C5-CH2), 22.7 (CH2CH2), 21.0 (COCH3), 11.4 (CH3). ESI-MS: m/z 670.2 ([M H]-, C37H40N3O9- calcd. 670.28). 5-(N-プロピル)カルバモイルメチル-3′-アセチル-2′-デオキシウリジン(18a)の 合成 17a(73 mg、0.11 mmol)を 3% TCA in CH2Cl2 1 mL に溶かし、室温で 10 分間撹拌した。減圧留去後、残渣はシリカゲルカラムクロマトグラフィ(3-7 % MeOH / CH2Cl2)によって精製し、収量 34 mg、収率 84 %で 18a を得た。 1H NMR (600 MHz, CDCl3): = 8.90 (s, 1H, imido-NH), 8.14 (s, 1H, H6), 6.60 (s, 1H, CONH), 6.30 (t, 1H, H1′), 5.37 (t, 1H, H3′), 4.15 (d, 1H, H4′), 3.92 (ddd, 2H, H5′), 3.17 (q, 2H, CH2CH2), 2.50-2.40 (m, 4H, H2′ and C5-CH2), 2.10 (s, 3H, COCH3), 1.51 (q, 2H, CH2CH2), 0.90 (t, 3H, CH3). 13C NMR (600 MHz, CDCl3):=170.3 (CONH), 169.0 (COCH3), 163.9 (C4), 150.2 (C2), 138.1 (C6), 109.8 (C5), 84.8 (C1′), 84.1 (C4′), 75.1 (C3′), 63.7 (C5′), 41.4 (C2′), 38.1 (CH2CH2), 34.6 (C5-CH2), 22.7 (CH2CH2), 21.0 (COCH3), 11.4 (CH3). ESI-MS: m/z 370.2 ([M + H]+, C16H24N3O9+ calcd. 370.15). 34 5′-O-(4,4′-ジメトキシトリチル)チミジン-3′-イル 3′-O-アセチル-5-(N-ヒドロキ シエチル)カルバモイルメチル -2′-デオキシウリジン 5′-イル 2′′-シアノエチル リン酸(19a)の合成 18a(10 mg、0.027 mmol)、チミジンホスホロアミダイト(24 mg、0.033 mmol)、テトラゾール(19 mg、0.27 mmol)を MeCN(1 mL)に溶かし、室 温で 10 分間撹拌した。反応終了後、0.02M のヨウ素を含む THF/ピリジン/水(5 mL)を加え、さらに 10 分間撹拌した。1% クエン酸 aq 20 mL に溶かし、CH2Cl2 で 3 回抽出を行った。有機相を MgSO4 で乾燥後、濾過を行った。減圧留去後、 残渣はシリカゲルカラムクロマトグラフィ(1-5 % MeOH / CH2Cl2)によって 精製し、収量 28 mg、収率 100 %で 19a を得た。 1H NMR (600 MHz, CDCl3): = 7.68 and 7.56 (2×s, 2H, H6a, H6b), 7.37-6.81 (m, 16H, Ar), 6.43-6.25 (m, 2H, H1′a, H1′b), 5.30-5.18 (m, 2H, H3′a, H3′b), 4.43-4.15 (m, 8H, H4a, H4b, H5′a, H5′b), 3.79 (s, 9H, OCH3), 3.53-3.39 (m, 4H, CH2CH2, POCH2), 3.27-3.18 (m, 4H, H2′a, CH2CH2), 3.12 (q, 2H, C5-CH2)2.84-2.30 (m, 6H, 2×H2′, CH2CN), 2.11 and 2.10 (2×s, 6H, 2×OCH3), 1.97 (s, 3H, C5-CH3), 1.40 (q, 2H, CH2CH2), 0.87 (t, 3H, CH3). 13C NMR (600 MHz, CDCl3): = 170.5 (CONH), 169.8 (COCH3), 164.1 and 163.9 (C4a, C4b), 158.8 (C4DMT, C4′DMT), 150.7 and 150.1 (C2a, C2b), 144.0 (C1′′DMT), 138.43 and 138.29 (C6a, C6b), 135.2 and 135.0 (C1DMT, C1′DMT), 130.2 (C2DMT, C6DMT, C2′DMT, C6′DMT), 128.2 and 128.1 (C2′′DMT, C3′′DMT, C5′′DMT, C6′′DMT), 127.3 (C4′′DMT), 116.6 (CN), 113.4 (C3DMT, C5DMT, C3′DMT, C5′DMT), 111.8 and 110.0 (C5a, C5b), 87.3 (Ar3CODMT), 85.8 and 85.4 (C1′a, C1′b), 84.3 and 84.2 (C4′a, C4′b), 73.8 and 73.7 (C3′a, C3′b), 63.3 35 and 63.0 (C5′a, C5′b), 55.3 (2×OCH3), 41.5 (CH2CH2), 38.9 (POCH2), 36.97 (C2′b), 36.91 (C2′a), 35.0 (C5-CH2), 22.6 (CH2CH2), 20.9 (COCH3), 19.7 (CH2CN), 11.7 (CH3), 11.4 (C5-CH3). 31P NMR (600 MHz, CDCl3): = -2.15 and -2.24. ESI-MS: m/z 1051.3 ([M+Na]+, C50H58N6NaO16P+ calcd. 1051.35). チミジン-3′-イル 3′-O-アセチル-5-(N-プロピル)カルバモイルメチル-2′-デオキ シウリジン 5′-イル 2′′-シアノエチルリン酸(20a)の合成 19a(28 mg、0.027 mmol)を 3% トリクロロ酢酸 / CH2Cl2 1 mL に溶かし、 室温で 10 分間撹拌した。減圧留去後、残渣はシリカゲルカラムクロマトグラフ ィ(3-7 % MeOH / CH2Cl2)によって精製し、収量 15 mg、収率 77 %で 20a を得た。 1H NMR (600 MHz, CDCl3): = 7.79 (s, 1H, H6a), 7.68 (d, 1H, H6b), 6.31-6.26 (m, 2H, H1′a, H1′b), 5.34 (m, 1H, H3′a), 5.16 (m, 1H, H3′b), 4.43-4.22 (m, 6H, H4′a, H4′b, H5′a, H5b), 3.79 (t, 2H, POCH2), 3.13 (t, 2H, CH2CH2), 2.93 (t, 2H, C5-CH2), 2.59-2.40 (m, 4H, H2′a, H2′b, CH2CN), 2.10 (s, 3H, COCH3), 1.87 (s, 3H, C5-CH3), 1.51 (q, 2H, CH2CH2), 0.91 (t, 3H, CH3), 13C NMR (600 MHz, CDCl3): = 171.3 (COCH3), 170.9 (CONH), 165.0 and 164.0 (C4a, C4b), 151.0 and 150.8 (C2a, C2b), 139.1 and 136.6 (C6a, C6b), 117.3 (CN), 110.5 and 109.4 (C5a, C5b), 85.7 and 85.6 (C1′b, C1′a), 84.7 (C4′b, C4′a), 73.7 and 73.6 (C3′a, C3′b), 63.2 (C5′a), 61.3 (C5′b), 41.3 (CH2CH2), 38.1 (POCH2), 36.2 (C2′a, C2′b), 33.5 (C5-CH2), 22.3 (CH2CH2), 19.5 (COCH3), 18.8 (CH2CN), 11.2 (CH3), 10.4 (C5-CH3). 31P NMR (600 MHz, CDCl3): = -2.25 and -2.30. ESI-MS: m/z 727.1 ([M + H]+, C29H40N6O14P+ calcd. 727.23). 36 5′-O-リン酸 チミジン-3′-イル 5-(N-プロピル)カルバモイルメチル-2′-デオキシ ウリジン 5′-イル リン酸(21a)の合成 20a(7 mg、0.01 mmol)をリン酸トリメチル(1 mL)に溶かし、氷浴で冷 やしながら、塩化ホスホリル(9 L、0.1 mmol)をゆっくり滴下した。0 ˚C~ 室温で一晩攪拌した。反応液を飽和 NaHCO3 aq に溶かし、酢酸エチルで 3 回 抽出を行った。水相を減圧留去後、conc. NH3 aq 1 mL に溶かし、37 ˚C で 1 時間インキュベートした。アンモニアを留去後、HPLC で精製を行った。ゲル ろ過により脱塩を行った。収量 9.5 OD260 nm、収率 5.7%で 21a を得た。ESI-MS: m/z 709.7 ([M - H]-, C24H34N5O16P2- calcd. 710.1). 5′-O-(4,4′-ジメトキシトリチル)-5-ヒドロキシエチルカルバモイルメチル-2′-デ オキシウリジン(16b)の合成 15(200 mg、0.340 mmol)をアミノエタノール(25 L、0.41 mmol)と DCC (84 mg, 0.41 mmol)と共に DMAP(4 mg、0.03 mmol)を含む DMF(1 mL) 中で、室温で一晩撹拌した。反応溶液は酢酸エチルに溶かし、飽和 NaHCO3aq で洗浄した。その後、有機相は Na2SO4 で乾燥し、溶媒は減圧留去した。残渣 はシリカゲルカラムクロマトグラフィ(1-5 % MeOH / CH2Cl2)によって精製 し、収率 59 %で 126 mg の 16b が得られた。 1H NMR (600 MHz, CDCl3):=7.75 (s, 1H, H6), 7.41-6.84 (m, 17H, Ar), 6.13 (t, 1H, H1′), 4.50 (m, 1H, H3′), 4.00 (s, 1H, H4′), 3.73 (s, 9H, OCH3), 3.62-3.57 (m, 3H, CH2CH2), 3.31-3.27 (m, 5H, H5′ and CH2CH2), 2.72-2.24 (m, 4H, H2′ and C5-CH2), 13C NMR (600 MHz, CDCl3):=170.6 (CONH), 164.5 (C4), 37 158.5 (C4DMT, C4′DMT), 150.7 (C2), 144.4 (C1′′DMT), 139.0 (C6), 135.6 (C1DMT, C1′DMT), 130.1 (C2DMT, C6DMT, C2′DMT, C6′DMT), 128.1 (C2′′DMT, C3′′DMT, C5′′DMT, C6′′DMT), 127.1 (C4′′DMT), 113.3 (C3DMT, C5DMT, C3′DMT, C5′DMT), 109.1 (C5), 86.8 (Ar3CODMT), 86.5 (C1′), 85.0 (C4′), 72.2 (C3′), 63.7 (C5′), 61.1 (CH2CH2), 55.2 (2×OCH3), 42.4 (C2′), 41.1 (CH2CH2), 34.3 (C5-CH3). ESI-MS: m/z 630.3 ([M - H]-, C34H36N3O9- calcd. 630.25). 5′-O-(4,4′-ジメトキシトリチル)-5-アセトキシエチルカルバモイルメチル-2′-デ オキシウリジン(17b)の合成 16b(100 mg、0.170 mmol)は無水酢酸(40 L、0.43 mmol)と DCC(2 mg, 0.02 mmol) を含む DMF(1 mL)中で、室温で一晩反応させた。反応溶液は 酢酸エチルに溶かし、飽和 NaHCO3 aq で洗浄した。その後、有機相は Na2SO4 で乾燥し、溶媒は減圧留去した。残渣はシリカゲルカラムクロマトグラフィ (1-5 % MeOH / CH2Cl2)によって精製し、収率 87.6 %で 107 mg の 17b が得 られた。 1H NMR (600 MHz, CDCl3):=7.75 (s, 1H, H6), 7.39-6.79 (m, 19H, Ar), 6.48 (q, 1H, CONH), 6.21 (t, 1H, H1′), 5.44 (d, 1H, H3′), 4.13 (d, 1H, H4′), 4.08 (t, 2H, CH2CH2), 3.79 (s, 6H, OCH3), 3.47-3.39 (m, 4H, H5′, CH2CH2), 2.70-2.43 (m, 4H, H2′, C5-CH2), 2.09 and 2.04 (2×s, 6H, 2×OCH3), 13C NMR (600 MHz, CDCl3):=170.6 (CONH), 171.2 and 169.4 (2×COCH3), 164.5 (C4), 158.5 (C4DMT, C4′DMT), 150.7 (C2), 144.4 (C1′′DMT), 139.0 (C6), 135.6 (C1DMT, C1′DMT), 130.1 (C2DMT, C6DMT, C2′DMT, C6′DMT), 128.1 (C2′′DMT, 38 C3′′DMT, C5′′DMT, C6′′DMT), 127.1 (C4′′DMT), 113.3 (C3DMT, C5DMT, C3′DMT, C5′DMT), 109.1 (C5), 86.8 (Ar3CODMT), 86.5 (C1′), 85.0 (C4′), 72.2 (C3′), 63.7 (C5′), 61.1 (CH2CH2), 55.2 (2×OCH3), 42.4 (C2′), 41.1 (CH2CH2), 34.3 (C5-CH2), 21.1 and 20.9 (COCH3). ESI-MS: m/z 714.2 ([M - H]-, C38H42N3O11- calcd. 714.27). 5-(N-アセトキシエチル)カルバモイルメチル-3′-アセチル-2′-デオキシウリジン (18b)の合成 17b(50 mg、0.070 mmol)を 3% トリクロロ酢酸 / CH2Cl2 1 mL に溶かし、 室温で 10 分間撹拌した。減圧留去後、残渣はシリカゲルカラムクロマトグラフ ィ(3-7 % MeOH / CH2Cl2)によって精製し、収量 21 mg、収率 73%で 18b を 得た。 1H NMR (600 MHz, CDCl3):= 9.83 (s, 1H, imido-NH), 8.11 (s, 1H, H6), 7.10 (q, 1H, CONH), 6.30 (dd, 1H, H1′), 6.37 (d, 1H, H3′), 4.13 (q, 1H, H4′), 3.90 (dd, 2H, H5′), 3.47 (q, 2H, CH2CH2), 3.25 (s, 2H, C5-CH2), 3.18 (q, 2H, CH2CH2), 2.48-2.39 (m, 2H, H2′), 2.10 and 2.06 (2×s, 6H, 2×OCH3), 13C NMR (600 MHz, CDCl3):= 171.2 and 170.9 (2×COCH3), 170.6 (CONH) 164.2 (C4), 150.2 (C2), 139.4 (C6), 108.2 (C5), 86.1 (C1′), 85.9 (C4′), 75.3 (C3′), 62.8 (C5′), 62.3 (CH2CH2), 38.9 (C2′), 38.1 (CH2CH2), 34.2 (C5-CH2), 21.0 and 20.9 (COCH3). ESI-MS: m/z 412.0 ([M + H]+, C17H22N3O9+ calcd. 412.14). 39 5′-O-(4,4′-ジメトキシトリチル)チミジン-3′-イル 3′-O-アセチル-5-(N-アセトキ シエチル) カルバモイルメチル- 2′-デオキシウリジン 5′-イル 2′′-シアノエチル リン酸(19b)の合成 18b(15 mg, 0.036 mmol) をチミジンホスホロアミダイト(32 mg、0.044 mmol)と 1H-テトラゾール(25 mg、0.36 mmol)を含む MeCN(1 mL)中で、 室温で 10 分間撹拌した。反応終了後、0.02M のヨウ素を含む THF/ピリジン/ 水(5 mL)を加え、さらに 10 分間撹拌した。1 % クエン酸水溶液に溶かし、 CH2Cl2 で 3 回抽出を行った。有機相を MgSO4 で乾燥後、濾過を行った。減圧 留去後、残渣はシリカゲルカラムクロマトグラフィ(1-5 % MeOH / CH2Cl2) によって精製し、収量 28 mg、収率 72 %で 19b を得た。 1H NMR (600 MHz, CDCl3):= 7.67 and 7.56 (2×s, 2H, H6a, H6b), 7.37-6.81 (m, 16H, Ar), 6.43-6.25 (m, 2H, H1′a, H1′b), 5.31-5.18 (m, 2H, H3′a, H3′b), 4.40-4.07 (m, 8H, H4a, H4b, H5′a, H5′b, C5-CH2), 3.53-3.39 (m, 4H, CH2CH2, POCH2), 3.24 (ddd, 2H, CH2CH2), 2.76-2.66 (m, 1H, H2′a), 2.47-2.41 (m, 2H, CH2CN), 2.33 (ddd, 1H, H2′b), 2.10 and 2.04 (2×s, 6H, 2×OCH3), 1.40 (s, 3H, C5-CH3), 13C NMR (600 MHz, CDCl3):= 170.5 (CONH), 171.1 and 170.2 (2×COCH3), 164.1 and 163.9 (C4a, C4b), 158.8 (C4DMT, C4′DMT), 150.7 and 150.1 (C2a, C2b), 144.0 (C1′′DMT), 138.4 and 138.3 (C6a, C6b), 135.2 and 135.0 (C1DMT, C1′DMT), 130.2 (C2DMT, C6DMT, C2′DMT, C6′DMT), 128.2 and 128.1 (C2′′DMT, C3′′DMT, C5′′DMT, C6′′DMT), 127.3 (C4′′DMT), 116.6 (CN), 113.4 (C3DMT, C5DMT, C3′DMT, C5′DMT), 111.8 and 109.5 (C5a, C5b), 87.3 (Ar3CODMT), 84.33 and 84.26 (C1′a, C1′b), 82.7 and 80.0 (C4′a, C4′b), 73.8 and 73.6 (C3′a, C3′b), 67.4 and 63.3 (C5′a, C5′b), 62.8 (CH2CH2), 40 55.3 (2×OCH3), 45.8 (CH2CH2), 38.72 and 38.68 (C2′a, C2′b), 37.0 (POCH2), 34.8 (C5-CH2), 20.9 (2×COCH3), 19.6 (CH2CN), 11.7 (C5-CH3). 31P NMR (202 MHz, CDCl3):= -2.29 and -2.43. ESI-MS: m/z 1073.1 ([M+Na]+, C51H58N6O18P+ calcd. 1073.35). チミジン-3′-イル 3′-O-アセチル-5-(N-アセトキシエチル) カルバモイルメチル -2′-デオキシウリジン-5′-イル 2′′-シアノエチルリン酸(20b)の合成 19b(28 mg、0.026 mmol)を 3% トリクロロ酢酸 / CH2Cl2 1 mL に溶かし、 室温で 10 分間撹拌した。減圧留去後、残渣はシリカゲルカラムクロマトグラフ ィ(3-7 % MeOH / CH2Cl2)によって精製し、収量 19 mg、収率 96 %で 20b を得た。 1H NMR (600 MHz, CDCl3):= 7.78 and 7.70 (2×s, 2H, H6a, H6b), 6.31-6.26 (m, 2H, H1′a, H1′b), 5.33 (q, 1H, H3′a), 5.15 (q, 1H, H3′b), 4.43-4.21 (m, 6H, H4a, H4b, H5′a, H5′b), 4.11 (t, 2H, CH2CH2), 3.79 (t, 2H, POCH2), 3.43 (q, 2H, CH2CH2), 2.93 (t, 2H, C5-CH2), 2.58-2.38 (m, 4H, H2′a, H2′b, CH2CN), 2.09 and 2.04 (2×s, 6H, 2×OCH3), 1.87 (s, 3H, C5-CH3), 13C NMR (600 MHz, CDCl3):= 171.7 and 171.5 (2×COCH3), 170.8 (CONH), 165.0 and 164.0 (C4a, C4b), 151.0 and 150.8 (C2a, C2b), 138.9 and 136.6 (C6a, C6b), 117.3 (CN), 110.6 and 109.2 (C5a, C5b), 85.6 and 85.5 (C1′a, C1′b), 84.7 and 82.7 (C4′a, C4′b), 73.62 and 73.55 (C3′a, C3′b), 67.7 and 63.3 (C5′a, C5′b), 62.6 (CH2CH2), 61.3 (CH2CH2), 38.5 and 38.4 (C2′a, C2′b), 36.3 (POCH2), 33.4 (C5-CH2), 19.5 (2×COCH3), 18.8 (CH2CN), 11.2 (C5-CH3). 31P NMR (600 MHz, CDCl3):= -2.25 and 23.0. ESI-MS: m/z 771.2 ([M + H]+, C30H40N6O16P+ calcd. 771.22). 41 5′-O-リン酸 チミジン-3′-イル 5-(N-ヒドロキシエチル) カルバモイルメチル-2′デオキシウリジン-5′-イル リン酸(21b)の合成 20b(12 mg、0.016 mmol)をリン酸トリメチル(1 mL)に溶かした。氷浴 で冷やしながら、塩化ホスホリル(15 L、0.16 mmol)をゆっくり滴下した。 0 ˚C~室温で一晩攪拌した。反応液を飽和 NaHCO3 aq に溶かし、酢酸エチル で 3 回抽出を行った。水相を減圧留去後、Conc. NH3 aq 1 mL に溶かし、37 ˚ C で 1 時間インキュベートした。アンモニアを飛ばした後、HPLC 精製を行っ た。ゲルろ過により脱塩を行った。収量 45.2 OD260 nm、収率 17 %で 21b を得 た。ESI-MS: m/z 711.8 ([M - H]-, C23H32N5O17P2- calcd. 712.13). 5′-O-(4,4′-ジメトキシトリチル)-5-メトキシカルボニルエチルカルバモイルメチ ル-2′-デオキシウリジン(16c)の合成 15(100 mg、0.170 mmol)を-アラニンメチルエステル塩酸塩一水和物(28 mg、0.20 mmol)と DCC(35 mg, 0.17 mmol)と共に DMAP(2 mg、0.02 mmol) を含む DMF(1 mL)中で、室温で一晩撹拌した。反応溶液は酢酸エチルに溶 かし、飽和 NaHCO3 aq で洗浄した。その後、有機相は Na2SO4 で乾燥し、溶媒 は減圧留去した。残渣はシリカゲルカラムクロマトグラフィ(1-5 % MeOH / CH2Cl2)によって精製し、収率 68 %で 78 mg の 16c が得られた。 1H NMR (600 MHz, CDCl3):= 8.51 (s, 1H, imido-NH), 7.68 (s, 1H, H6), 7.40-6.82 (m, 19H, Ar), 6.48 (t, 1H, CONH), 6.34 (t, 1H, H1′), 4.54 (q, 1H, H3′), 4.01 (q, 1H, H4′), 3.79 (s, 9H, OCH3), 3.68 (s, 3H, COOCH3), 3.43-3.39 (m, 4H, H5, CH2CH2), 2.64 (q,1H, CH2CH2), 2.47 (t, 2H, C5-CH2), 2.44-2.29 (m, 2H, 42 H2′), 13C NMR (600 MHz, CDCl3):= 172.9 (COOCH3), 170.2 (CONH), 163.5 (C4), 158.7 (C4DMT, C4′DMT), 150.9 (C2), 144.4 (C1′′DMT), 136.0 (C6), 135.4 (C1DMT, C1′DMT), 130.1 (C2DMT, C6DMT, C2′DMT, C6′DMT), 128.17 and 128.04 (C2′′DMT, C3′′DMT, C5′′DMT, C6′′DMT), 127.1 (C4′′DMT), 113.3 (C3DMT, C5DMT, C3′DMT, C5′DMT), 109.2 (C5), 86.8 (Ar3CODMT), 86.1 (C1′), 84.9 (C4′), 72.1 (C3′), 63.7 (C5′), 55.3 (2×OCH3), 51.8 (COOCH3), 38.2 (C2′), 35.0 and 34.9 (CH2CH2, CH2CH2), 33.8 (C5-CH2). ESI-MS: m/z 696.0 ([M + Na]+, C36H40N3NaO10+ calcd. 696.26). 5′-O-(4,4′-ジメトキシトリチル)-5-アセトキシエチルカルバモイルメチル-2′-デ オキシウリジン(17c)の合成 18c(78 mg、0.120 mmol)は無水酢酸(13 L、0.14 mmol)と DCC(2 mg, 0.02 mmol) を含む DMF(1 mL)中で、室温で一晩反応させた。反応溶液は 酢酸エチルに溶かし、飽和 NaHCO3 aq で洗浄した。その後、有機相は Na2SO4 で乾燥し、溶媒は減圧留去した。残渣はシリカゲルカラムクロマトグラフィ (1-5 % MeOH / CH2Cl2)によって精製し、収率 92 %で 81 mg の 19c が得られ た。 1H NMR (600 MHz, CDCl3):=7.73 (s, 1H, H6), 7.39-6.84 (m, 16H, Ar), 6.43 (q, 1H, CONH), 6.36 (t, 1H, H1′), 5.43 (q, 1H, H3′), 4.13 (q, 1H, H4′), 3.73 (s, 6H, OCH3), 3.62-3.57 (m, 5H, CH2CH2, COOCH3), 3.52-3.39 (m, 4H, H5′, CH2CH2), 2.61-2.40 (m, 4H, H2′, C5-CH2), 2.09 (s, 3H, COCH3), 13C NMR (600 MHz, CDCl3):= 172.9 (COOCH3), 170.6 (CONH), 169.3 (COCH3), 163.3 (C4), 158.7 (C4DMT, C4′DMT), 150.9 (C2), 144.3 (C1′′DMT), 136.0 (C6), 43 135.4 (C1DMT, C1′DMT), 130.1 (C2DMT, C6DMT, C2′DMT, C6′DMT), 128.15 and 128.09 (C2′′DMT, C3′′DMT, C5′′DMT, C6′′DMT), 127.2 (C4′′DMT), 113.4 (C3DMT, C5DMT, C3′DMT, C5′DMT), 108.7 (C5), 87.2 (Ar3CODMT), 85.4 (C1′), 84.1 (C4′), 75.2 (C3′), 63.7 (C5′), 55.2 (2×OCH3), 51.7 (COOCH3), 38.2 (C2′), 35.0 and 34.9 (CH2CH2, CH2CH2), 33.8 (C5-CH2), 21.0 (COCH3). ESI-MS: m/z 738.4 ([M + Na]+, C38H42N3NaO11+ calcd. 738.3). 5-アセトキシエチルカルバモイルメチル-3′-アセチル-2′-デオキシウリジン(18c) の合成 17c(81 mg、0.11 mmol)を 3% トリクロロ酢酸 / CH2Cl2 1 mL に溶かし、 室温で 10 分間撹拌した。減圧留去後、残渣はシリカゲルカラムクロマトグラフ ィ(3-7 % MeOH / CH2Cl2)によって精製し、収量 42 mg、収率 91%で 18c を 得た。 1H NMR (600 MHz, CDCl3):= 9.68 (s, 1H, imido-NH), 8.10 (s, 1H, H6), 7.18 (t, 1H, CONH), 6.30 (q, 1H, H1′), 5.37 (d, 1H, H3′), 4.14 (d, 1H, H4′), 3.90 (ddd, 2H, H5′), 3.69 (s, 3H, COOCH3), 3.48 (q, 2H, CH2CH2), 3.24 (s, 2H, CH2CH2), 2.54 (t, 2H, C5-CH2), 2.45-2.36 (m, 2H, H2′), 2.10 (s, 3H, COCH3), 13C NMR (600 MHz, CDCl3):= 172.7 (COOCH3), 170.7 (CONH), 170.6 (COCH3), 164.0 (C4), 150.9 (C2), 139.2 (C6), 108.2 (C5), 86.1 (C1′), 86.0 (C4′), 75.3 (C3′), 62.3 (C5′), 51.9 (COOCH3), 38.1 (C2′), 35.3 (CH2CH2), 33.8 (CH2CH2), 33.7 (C5-CH2), 21.0 (COCH3). ESI-MS: m/z 414.2 ([M + H]+, C17H24N3O9+ calcd. 414.14). 44 5′-O-(4,4′-ジメトキシトリチル)チミジン-3′-イル 3′-O-アセチル-5-(N-アセトキ シエチル)カルバモイルメチル- 2′-デオキシウリジン 5′-イル 2′′-シアノエチルリ ン酸(19c)の合成 18c(10 mg, 0.024 mmol) をチミジンホスホロアミダイト(25 mg、0.036 mmol)と 1H-テトラゾール(17 mg、0.24 mmol)を含む MeCN(1 mL)中で、 室温で 10 分間撹拌した。反応終了後、0.02M のヨウ素を含む THF/ピリジン/ 水(5 mL)を加え、さらに 10 分間撹拌した。1 % クエン酸水溶液に溶かし、 CH2Cl2 で 3 回抽出を行った。有機相を MgSO4 で乾燥後、濾過を行った。減圧 留去後、残渣はシリカゲルカラムクロマトグラフィ(1-5 % MeOH / CH2Cl2) によって精製し、収量 26 mg、収率 100 %で 19c を得た。 1H NMR (600 MHz, CDCl3):= 7.64 and 7.55 (2×s, 2H, H6a, H6b), 7.38-6.81 (m, 19H, Ar), 6.44-6.25 (m, 2H, H1′a, H1′b), 5.26-5.17 (m, 2H, H3′a, H3′b), 4.41-4.15 (m, 8H, H4a, H4b, H5′a, H5′b), 3.70 (s, 3H, COOCH3), 3.54-3.38 (m, 4H, CH2CH2, POCH2), 3.20 (t, 2H, CH2CH2), 3.03 (t, 2H, C5-CH2) 2.76-2.66 (m, 1H, H2′a), 2.53-2.23 (m, 2H, CH2CN, H2′b), 2.09 (s, 3H, OCH3), 1.41 (s, 3H, C5-CH3), 13C NMR (600 MHz, CDCl3):= 172.7 (COOCH3), 170.5 (CONH), 170.0 (COCH3), 163.8 and 163.5 (C4a, C4b), 158.8 (C4DMT, C4′DMT), 150.7 and 150.2 (C2a, C2b), 144.0 (C1′′DMT), 138.2 and 138.0 (C6a, C6b), 135.2 and 135.0 (C1DMT, C1′DMT), 130.2 and 130.1 (C2DMT, C6DMT, C2′DMT, C6′DMT), 128.15 and 128.07 (C2′′DMT, C3′′DMT, C5′′DMT, C6′′DMT), 127.3 (C4′′DMT), 116.6 (CN), 113.3 (C3DMT, C5DMT, C3′DMT, C5′DMT), 111.8 and 109.9 (C5a, C5b), 87.3 (Ar3CODMT), 85.6 and 85.3 (C1′a, C1′b), 82.6 and 80.0 (C4′a, C4′b), 73.8 and 73.7 (C3′a, C3′b), 63.3 and 62.7 45 (C5′a, C5′b), 55.3 (2×OCH3), 51.8 (COOCH3), 45.8 (CH2CH2), 38.9 and 38.8 (C2′a, C2′b), 35.2 (CH2CH2), 34.7 (POCH2), 33.8 (C5-CH2), 20.9 (COCH3), 19.6 (CH2CN), 11.7 (C5-CH3). 31P NMR (202 MHz, CDCl3):= -2.08 and -2.26. ESI-MS: m/z 1073.3 ([M + H]+, C51H58N6O18P+ calcd. 1073.35). チミジン-3′-イル 3′-O-アセチル-5-(N-アセトキシエチル)カルバモイルメチル -2′-デオキシウリジン-5′-イル 2′′-シアノエチルリン酸(20c)の合成 19c(26 mg、0.024 mmol)を 3% トリクロロ酢酸 / CH2Cl2 1 mL に溶かし、 室温で 10 分間撹拌した。減圧留去後、残渣はシリカゲルカラムクロマトグラフ ィ(3-7 % MeOH / CH2Cl2)によって精製し、収量 18 mg、収率 97 %で 20c を得た。 1H NMR (600 MHz, CDCl3):= 7.80 and 7.69 (2×d, 2H, H6a, H6b), 6.32-6.26 (m, 2H, H1′a, H1′b), 5.33 (q, 1H, H3′a), 5.15 (q, 1H, H3′b), 4.43-4.31 (m, 4H, H4a, H4b), 4.28-4.22 (m, 2H, H5′a, H5′b), 3.79 (t, 2H, POCH2),3.66 (s, 3H, COOCH3), 3.43 (t, 2H, CH2CH2), 3.23 (t, 2H, CH2CH2), 2.93 (t, 2H, C5-CH2), 2.58-2.37 (m, 4H, H2′a, H2′b, CH2CN), 2.10 (s, 3H, OCH3), 1.87 (s, 3H, C5-CH3), 13C NMR (600 MHz, CDCl3):= 172.6 (COOCH3), 171.4 (CONH), 170.9 (COCH3), 165.0 (C4a, C4b), 151.0 and 150.8 (C2a, C2b), 138.9 and 136.6 (C6a, C6b), 117.3 (CN), 110.5 and 109.2 (C5a, C5b), 85.7 and 85.6 (C1′a, C1′b), 82.6 and 79.7 (C4′a, C4′b), 73.7 and 73.6 (C3′a, C3′b), 63.2 and 61.3 (C5′a, C5′b), 50.9 (COOCH3), 46.6 (CH2CH2), 38.1 and 36.3 (C2′a, C2′b), 35.2 (CH2CH2), 33.4 (POCH2), 33.2 (C5-CH2), 19.5 (COCH3), 18.8 (CH2CN), 11.1 (C5-CH3). 31P NMR (202 MHz, CDCl3): δ = -2.08 and -2.26. ESI-MS: m/z 46 771.5 ([M + H]+, C30H40N6O16P+ calcd. 771.22). 5′-O-リン酸 チミジン-3′-イル 5-(N-カルボニルエチル) カルバモイルメチル-2′デオキシウリジン-5′-イル リン酸(21c)の合成 20c(9 mg、0.01 mmol)をリン酸トリメチル(1 mL)に溶かした。氷浴で 冷やしながら、塩化ホスホリル(11 L、0.12 mmol)をゆっくり滴下した。 0 ˚C~室温で一晩攪拌した。反応液を飽和 NaHCO3 aq に溶かし、酢酸エチルで 3 回抽出を行った。水相を減圧留去後、1 M 水酸化リチウム水溶液:MeOH(1: 1) 1 mL に溶かし、室温で 1 時間インキュベートした。HPLC 精製を行った。 ゲルろ過により脱塩を行った。1.9 OD260 nm 収率 1%で 21c を得た。ESI-MS: m/z 740.1 ([M - H]-, C24H32N5O18P2- calcd. 740.13). 3‐2‐4 修飾 DNA 2-mer と RNA 19-mer の T4 RNA リガーゼによるライゲ ーション RNA 19mer(5′- UUC UCG ACC ACG CAC UGC C -3′)は、日本バイオサ ービス社から購入した。RNA の配列は、肝細胞核因子 4(HNF4)の mRNA を標的とするように設計した。 合計 5 l の反応液は、5 M RNA 19-mer、50 M DNA 2-mer、50 mM Tris-HCl pH 7.2、10 mM MgCl2、10 mM DTT、1 mM ATP、20% PEG6000、 0.006% BSA、そして 5 unit T4 RNA リガーゼから成る。 反応液は 4 ˚C で 24 時間インキュベートし、loading buffer(95% ホルムアミド、50 mM EDTA、 0.05% BPB)5 l を加えて反応を停止させた。反応生成物は、7 M Urea、20% 47 ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離した。ゲル中のオリゴヌクレオ チドは、SYBR Gold で染色し、青色 LED トランス照明器(日本エイドウ CO.,LTD、日本)によって可視化した。 それぞれのバンド強度は、ImageJ 画 像処理プログラム(NIH、USA)を用いて定量化した。 3‐3 結果と考察 3‐3‐1 修飾 RNA の固相合成 3′-末端に C5 ポリアミン置換ピリミジンヌクレオシドを含む RNA の固相合成 のために、修飾ヌクレオシドの固相担体及びホスホロアミダイト誘導体の合成 を行った(Scheme 2)。これらを用いて DNA 合成装置による ORN の合成を行 った。合成した修飾 RNA の略号、塩基配列と 3′末端構造を Table 1 に示す。ORN 1、2、3、4、5、6 をそれぞれ 0.1、0.2、2.5、0.4、36 と 4.8 の光学濃度(OD260nm) で得た。ORN の吸光係数は、最近接塩基対法によって、モノヌクレオチドの吸 光係数から計算した。高純度の ORN を得るために HPLC による精製を繰り返 した結果、収量が大幅に減少した。精製した ORN は変性 12%ポリアクリルア ミドゲル電気泳動によって確認し、RNA の純度が高いことを確認した。ゲル電 気泳動における、C5-ポリアミン置換ピリミジンヌクレオシドを有する修飾 RNA、ORN 3 ~ 6 の移動は、ORN 1 と 2 よりも遅く、泳動度の順序は ORN 5 と 6 > ORN 3 と 4 > ORN 1 と 2 だった。これは、ポリアミンの正電荷によりリ ン酸骨格の負電荷が打ち消されたためにポリアミンを持つ ORN の移動度が遅 くなったことを示す。 48 O H N HN O O DMTrO H N HN N a O N NHTFA O NHTFA DMTrO O O N O N NHTFA NHTFA 3 OH NC O O P 4 N b NHTFA O H N HN DMTrO c DMTrO NHTFA O O H N HN N O O N O NHTFA O O N O OH R= O NH 2 N H NHTFA O O O O N N H O 5 OR H N O OCH3 Si CPG OCH3 O O 6 Scheme 2. Synthesis of phosphoramidite and solid support of modified nucleoside. Condition: (a) 2-cyanoethyldiisopropylchlorophosphoramidite, i-Pr2NEt, pyridine, CH2Cl2, rt; (b) succinic anhydride, DMAP, pyridine, rt; (c) LCAA-CPG, DMAP, 1-(3-dimethylamino-propyl)ethylcarbodiimide, pyridine, rt. Table 1. Sequences and structures of modified siRNAs. ssRNA Sequence ORN 1 5′-ggcagugcgugguggacaaTT-3′ ORN 2 5′-uuguccaccacgcacugccTT-3′ ORN 3 5′-ggcagugcgugguggacaaTX-3′ ORN 4 5′-uuguccaccacgcacugccTX-3′ ORN 5 5′-ggcagugcgugguggacaaXX-3′ ORN 6 5′-uuguccaccacgcacugccXX-3′ T represent thymidine and X represent 5-bis(aminoethyl)-aminoethyl-2′-deoxyuridine. O O HN O O HN N O O HO P O O O O O HN O O OH TT-3' N HO P NH 2 O O O H N HN N O O NH 2 O HN O N O O N O H N N O O NH 2 O OH HO P O O N N O NH 2 O XX-3' 49 H N HN O NH 2 NH 2 O OH TX-3' N O 3‐3‐2 修飾 DNA 2-mer の合成 修飾 DNA 2-mer を固相法および液相法で合成した(Scheme 3 及び 4)。固相 合成では、自動合成装置を用いずにマニュアル合成で行ったことでカップリン グ効率は改善された。精製操作を効率化することでさらなる収率の改善につな がると思われる。液相合成では、一度に大量の修飾 DNA 2-mer の合成が可能で あった。リン酸化およびその後の精製方法を改善することで収率が向上できる と考えられる。 O NHTFA O O H N b, c O N O DMTrO HN R1O R2 HN N NHTFA O N O N O P DMTrO NC O O H N O N HN NHTFA O N O O CPG 8: R2 = CH3 6: R 1 = DMTr 7: R1 = H a NHTFA O N O O O P O O CN O R2 HN O CPG NHTFA H N 4: R2 = 9: R2 = CH3 N O 10: R2 = NHTFA DMTrO EtO2C NC CO2Et O O P O O d-f NC NHTFA H N O NHTFA O N O O O P O O O O H N g-i N HN NHTFA O N O HO O P HO O O N O O O P HO O O NH 2 H N O N HN NH 2 O N O OH CPG 11: R2 = CH3 NHTFA H N R2 HN O 12: R2 = NHTFA O R2 HN N O 13: R2 = CH3 H N 14: R2 = N NH 2 N O O NHTFA NH 2 Scheme 3. Synthesis of 5′-phosphoryl DNA 2-mer containing C-5 polyamine modified nucleoside. Condition: (a) 3% TCA/CH 2Cl2, rt; (b) Tetrazole, MeCN, rt; (c) I2 in THF/H2O/ pyridine, rt; (d) 3% TCA/CH2Cl2, rt; (e) CPRII, Tetrazole, MeCN, rt; (f) I2 in THF/H2O/ pyridine, rt; (g) conc. NH3, 55 ˚C; (h) 80% CH3COOH, rt; (i) conc. NH3, rt 50 O O OH HN O N O DMTrO OH HN O a 15 R b DMTrO 16a : R = CH3 16b : R = OH 16c : R = COOMe OH H N HN O O N O DMTrO O H N R O O N O 17a : R = CH3 17b : R = OAc 17c : R = COOMe OAc O NH O H N HN c HO DMTrO R O O N O O d O O P O O 18a : R = CH3 18b : R = OAc 18c : R = COOMe OAc N NC O O H N HN O N O 19a : R = CH3 19b : R = OAc 19c : R = COOMe OAc O O HO NH HO O e N O O P O O NC R O O HO O H N HN O N O O R f, g NH O P O O N O O P O HO O O H N HN O N O O OH OAc 21a : R = CH3 21b : R = OH 21c : R = COOH 20a : R = CH3 20b : R = OAc 20c : R = COOMe Scheme 4. Liquid-phase synthesis of DNA 2-mer containing modified nucleoside bearing various functional group at C5 position. Condition; (a) propylamine or aminoethanol or -alanine methylaster monohydrochloride, DCC, MeCN, rt; (b) Ac2O, DMAP, MeCN, rt; (c) 3% TCA/CH2Cl2, rt; (d) thymidine phosphoramidite, Tetrazole, MeCN, rt; (e) 3% TCA/CH 2Cl2, rt; (f) POCl3, (MeO)3PO, rt; (g) conc.NH3 or 1 M LiOH/MeOH (1:1), rt. 3‐3‐3 修飾 RNA の酵素的合成 T4 RNA リガーゼによる修飾 DNA 2-mer の RNA 19-mer の 3′-末端への結合 を行った。まず、反応条件の最適化のために PEG の添加効果を検討した。DNA 2-mer には天然型 DNA 2-mer(pTpT)を用いて、反応溶液に PEG を 0~30% になるように加えて反応を行った。ライゲーション生成物のゲル電気泳動の解 析結果を Figure 16 に示す。PEG 濃度が 0%では生成物は確認できなかったが、 51 R 20%と 25%のとき、ライゲーション効率が最大となった。したがって、PEG 濃 度は 20%が最適であることがわかった。これは分子クラウディング効果による もので、希薄反応溶液に不活性な高分子化合物を加えることで、溶液中での分 Product (%) 子密度を高めることができる。 70 60 50 40 30 20 10 0 0 5 10 15 20 25 PEG concentration (%) 30 Figure 16. Effects of PEG concentration on ligation of pTpT with RNA 19-mer by T4 RNA ligase. The reactions were performed at 4°C for 24 h with 50 M DNA 2-mer, 5 M RNA 19mer and 5 U T4 RNA ligase in 50 mM Tris-HCl, 10 mM MgCl2, 10 mM DDT, 1 mM ATP, 20% PEG, 0.006% BSA at pH 7.2. 各修飾 DNA2-mer と RNA19-mer のライゲーション生成物のゲル電気泳動の 結果を Figure 17 に示す。中性の機能性基を持つ 21a と 21b からの生成物の泳 動度は pTpT からの生成物と同等だったのに対し、ポリカチオンを有する 13 と 14 からの生成物は泳動が遅かった。アニオン性であるカルボニル基を有する 21c からの生成物は他のライゲーション生成物より速かった。生成物の泳動度の順 番は、用いた修飾 DNA 2-mer に基づくと 13 > 14 > pTpT = 21a = 21b > 21c で あった。 52 ライゲーション効率は、21a、21b、21c はいずれも 60%以上で pTpT とほぼ 同等であった。しかし、ポリアミン修飾を有する 13 では 44%で、14 では 9% (Figure 17, arrow)であった。これは、修飾基の立体障害によるものと、ポリ カチオンであることが要因として考えられる。 1 2 3 4 5 6 7 8 Figure 17. Denaturing 20% polyacrylamide gel electrophoresis of ligation reaction of RNA 19-mer with modified DNA 2-mer. The reactions were performed at 4°C for 24 h with 50 M DNA 2-mer, 5 M RNA 19mer and 5 U T4 RNA ligase in 50 mM Tris-HCl, 10 mM MgCl2, 10 mM DDT, 1 mM ATP, 20% PEG, 0.006% BSA at pH 7.2. Lane 1 and 8, RNA (control); lane 2, RNA + pTpT; lane 3, RNA + 13; lane 4, RNA + 14; lane 5, RNA + 21a; lane 6, RNA + 21b; lane 7, RNA + 21c. Arrow indicates ligation-product of RNA 19-mer with compound 14. ポリアミン置換基のリガーゼ反応に及ぼす影響を調べるために、pTpT および ポリアミン修飾 DNA 2-mer 13 の濃度(15~35 M)と反応時間(0~6 h)を 変化させて見掛けの反応速度(kapp)を測定し、得られた結果から LineweaverBurk plot より熱力学的パラメータを算出した(Figure 18)。天然型と 13 の見 かけの Km はそれぞれ 43M と 47 M であり、Vmax は 2.5×102 U ml-1 h-1 と 67 U ml-1 h-1 だった。この結果はライゲーション効率の低下が酵素の最大反応速度 の低下によるものであることを示す。 53 T4 RNA リガーゼによるライゲーション機構は次の 3 段階で表される: (1) E + ATP (2) EpA + p(dN)n EpA + PPi、 App(dN)n + E、 (3) App(dN)n + RNA-OH E RNAp(dN)n + AMP。 (1) RNA リガーゼ(E)は ATP と反応することで、中間体としてアデニル化され たリガーゼ(EpA)とピロリン酸(PPi)をつくり; (2) AMP は EpA から p(dN)n の末端の 5′-PO4 へ移動し、中間体としてアデニル化されたドナー(App(dN)n) を形成する; (3)そして、リガーゼは App(dN)n における RNA の 3′-OH への攻撃 を触媒し、2 つの末端をリン酸ジエステル結合で介して結合し、AMP を放出す る。反応(2)で修飾 DNA 2-mer がリガーゼに取り込まれたときに、塩基部位に 修飾したポリアミンがリガーゼの活性部位付近と相互作用し、それによりライ ゲーションの反応速度が低下したと考えられる。一方で、エチレンジアミンの ようなポリアミンを塩基部位に修飾することで、反応(2) における EpA と p(dN)n のリン酸の負電荷を中和にして静電反発を和らげるために、ライゲーシ ョン効率を向上させると報告されている。しかし、あまりに高いポリアミン濃 度は、ライゲーション効率を低下させる。したがって、活性部位付近に高密度 のポリアミンが存在することが、ライゲーション効率を低下させる要因である と思われる。リガーゼ及び修飾 DNA 2-mer の濃度を高めることでライゲーショ ン効率を改善させることができると思われる。 54 0.07 1/v (l hr U-1 ) 0.06 0.05 0.04 0.03 0.02 0.01 0 -4 -2 0 2 4 1/[RNA] (104 M -1 ) 6 8 Figure 18. Linweaver-Burk plots for the ligation of modified DNA 2-mer with T4 RNA ligase. The substrate was pTpT (○) or 13 (). 3‐4 まとめ ピリミジン C5 位に機能性基を有する修飾ヌクレオシドの合成と、それらを含 む修飾 RNA の化学的および酵素的合成を行い、いずれの方法でも目的物を得る ことができた。化学的合成による修飾 RNA の合成は、固相担体の量や反応時間 を調節することで、大量合成が可能であり、安定供給が可能である。効果的な 修飾基を持つ siRNA が、開発された後に大量合成して試験を行うのに適してい る。本研究においても、この方法で調製した修飾 siRNA の特性と活性を第 4 章 で評価した。 一方、酵素的合成では、リガーゼの反応速度に依存するため、大スケールで 合成するには反応時間を延ばすか、酵素量を増やす必要がある。そのため、化 学的合成に比べて合成できる量が制限される。しかしながら、標的とする配列 に対応した RNA 19-mer を用意するだけで、修飾 DNA 2-mer とのライゲーシ ョンによって簡便に修飾 RNA 21-mer が調製できる。そのため、修飾 siRNA の 修飾基の選択を行う際に、比較的合成の容易な短鎖核酸誘導体を多種類準備す 55 ることで、多種類の修飾 siRNA を調製できる。また、標的配列の変更も可能な ため、効果的な標的配列の選択も容易となる。本研究において、リガーゼによ る種々の修飾 RNA の合成が可能であることを示すことができた。 短鎖核酸誘導体の合成においては、固相合成法と液相合成法の比較検討を行 った。固相合成法の場合、3′-末端への修飾ヌクレオシドの導入には、修飾ヌク レオシドを固定した固相担体が必要となるが、固相に固定されているために、 反応後の試薬の処理が容易であり、合成時間の短縮が可能であった。一方、液 相合成法では、各反応段階で精製が必要になるが、3′-末端の修飾ヌクレオシド ごとに固相担体を用意する必要がなく、大量合成が可能であった。いずれの方 法も効率的に短鎖核酸誘導体を合成可能であるが、目的に応じて使い分ける必 要があることがわかった。 56 第 4章 3′-オーバーハング領域に C5-ポリアミン修飾ヌク レオシドを含む siRNA の RNAi 活性の検討 4‐1 序論 RNA干渉(RNAi)を用いた標的遺伝子の発現阻害は、遺伝子工学における新 しい可能性を示した。この機構はウィルス感染などに対する生体防御機構の一 環として進化してきたと考えられており、多くの生物でその機構は保存されて いる34)。siRNAはウィルス由来の長いRNAからDicerタンパク質によって酵素的 に生成されるdsRNAである。これらのsiRNAはいくつかのタンパク質と結合す ることでRNAi誘導サイレンシング複合体(RISC)を形成する。そして、相補 的な配列を持つmRNAと結合して、配列特異的に分解を引き起こし、特定の遺 伝子の発現を阻害する。したがって、siRNAは目的の遺伝子の発現を除外するた めの非常に有効なツールとなり、培養細胞における生物学的機能解析のための 強力な手段となっている。siRNAは、疾患に関連した遺伝子に基づいて合理的 に設計することができるので、難病のための新しい治療薬として期待されてい る。しかしながら、siRNAの治療薬としての実用化には、血清中に多く存在す る3′-エキソヌクレアーゼに対する耐性を高める必要がある。そのために、これ までに3′-オーバーハング領域に修飾ヌクレオシドを含むsiRNAが研究されてき た。また、siRNAのガイド鎖はこの3′-オーバーハング領域がRISCの主要な構成 要素であるArgonaute 2のPAZドメインに識別される。PAZドメインは疎水性ア ミノ酸からなるポケットである 35)。そのため、3′-オーバーハング領域に疎水性 基で修飾することが有効と考えられた。例えば、1,3-ビス(ヒドロキシメチル)ピ 57 リジン及び1,3-ビス(ヒドロキシメチル)ベンゼンを導入したsiRNAのRNAi活性 の検討を行い、その活性が天然型のヌクレオシドを用いた場合と同等であるこ とが報告されている(Figure 19)36)。 XX = O- O- O P O O P O O O O- O- O P O O P O O N O OH N OH Figure 19. Structure of 1,3-bis(hydroxymethyl)pyridine and 1,3-bis(hydroxylmethyl)benzene in 3′-overhang regions of siRNAs 核酸の修飾の中でもピリミジンのC5位への修飾は、二重鎖のメジャーグルー ブ側にあり、二重鎖形成を阻害しないため、様々な置換基を用いた例が報告さ れている。また、ポリアミン修飾はリン酸ジエステル結合の負電荷を中和する ため二重鎖を安定化させることがわかっている。このことから、C5位にポリア ミンを置換したピリミジンヌクレオシドを含むオリゴデオキシヌクレオチドの 合成と性質についての研究が報告されている。Matsukuraらは、C5位トリスア ミン修飾ピリミジン塩基を有するODNが、HIV-1に感染した細胞で細胞毒性を 減らしただけでなく、より高いアンチセンス活性があることを示した37)。 そこ で、3′-末端にC5ポリアミン修飾ピリミジンヌクレオシドを有するRNAから調製 したsiRNAの肝細胞核因子4(HNF4)に対するRNAi活性について検討を行 った。HNF4は、核内ホルモン受容体ファミリーのメンバーで、肝臓で多く発 現している転写因子である 38)。腎臓、腸とすい臓でも発現され、これらの器官 58 で多くの細胞の特性の発現にも必要とされる。また、HNF4に対するsiRNAが ヒト肝癌細胞(HepG2細胞)で標的プロモーターへのDNA結合活性とHNF4 の発現を減少させることが証明されている。 4‐2 実験 蛇毒ホスホロジエステラーゼ(SVPD、Worthington Biochemical Co.) 、10% ウ シ胎児血清(FBS、GIBCO)、ペニシリン(100 units/ml)- ストレプトマイシ ン(100 g/ml) (Sigma Chemicals Co.)、Hily Max(同仁化学)、RNAiso Plus (タカラバイオ)、ReverTra Ace qPCR RT Kit(東洋紡)、THUNDERBIRD qPCR Mix(東洋紡)、ECL(Amersham Biosciences)は購入して使用した。 4‐2‐1 siRNAの調製 3章で合成したORN 1 ~ 6を用いた。siRNA 1はORN 1とORN 2を、siRNA 2 はORN 3とORN 4を、siRNA 3はORN 5とORN 6を、それぞれアニーリングし て調製した。 4‐2‐2 ヌクレアーゼ耐性の比較 各 ORN(0.8 nmol)を 100 mM MgCl2 と 200 mM Tris-HCl(pH 8.0)を含 むバッファー中で SVPD(0.01 U)と共に 37 ˚C で 5 min または 30 min イン キュベートした。分解生成物は RP-HPLC によって分析し、完全長 RNA の比か らヌクレアーゼ耐性を比較した。 59 4‐2‐3 細胞培養 HepG2細胞は、15 cm ディッシュ、10% FBS、ペニシリン-ストレプトマイ シンを含むウィリアムE液体培地で37 ˚C、 5% CO2インキュベーター内で3日 間培養した。その後、5%FBSに懸濁し、細胞数を3.0×104 cell/wellに調整して、 96ウェルマイクロプレートに撒いた。siRNAは血清および抗生物質を含まない 培地で最終濃度が20 nMまたは100 nMになるように希釈した後、トランスフェ クション試薬であるHily Maxを加えた。室温で30分間インキュベート後、各ウ ェルに加えた。そして、24時間培養後、10% FBSを含む培地に交換し、さらに 24時間培養した。 4‐2‐4 qRT-PCR RNAiso Plus を用いて、HepG2 細胞から total RNA を抽出した。次に、 ReverTra Ace qPCR RT Kitを用いてtotal RNAからcDNAを合成した。cDNA 1 lを0.3 M sense primer、0.3 M antisense primer、THUNDERBIRD qPCR Mix を 含 む 20 l の 反 応 液 に 添 加 し 、 MyiQ Real-time PCR detection system (Bio-Rad)を用いて、95 ˚C 15 sec、60 ˚C 30 secの反応サイクルを40サイク ルでReal-time PCRを行った。 用 い た primer は HNF4 : 5′- CAGGCTCAAG AAATGCTTCC -3′ 、 5′GGCTGCTGTCCTCATAGCTT-3′ 、 GAPDH : 5′- CAATGACCCCTTCATTG ACC -3′、5′- GACAAGCTTCCCGT TCTCAG -3′である。HNF4 mRNAの発現 量は内部標準物質としてグリセルアルデヒド3-リン酸塩デヒドロゲナーゼ (GAPDH)mRNAを用いて規格化した。 60 4‐2‐5 ウェスタンブロッド トランスフェクションした細胞を、可溶化バッファー (7 M Urea、2 M Thiourea、10% Triton X-100) で溶解した後、10% SDS-PAGE で分離し、ニ トロセルロース膜に転写後、抗 GFP 抗体でブロッティングした。これを HRP 標識抗ウサギ IgG 抗体およびECLによる化学発光で検出した。 4‐3 結果 4‐3‐1 3′-ヌクレアーゼ耐性の比較 siRNAのヌクレアーゼ耐性を向上させることは、siRNAの医療への応用にと って重要である。以前の研究で、C5-ポリアミン修飾ピリミジンヌクレオシドの 導入は、オリゴヌクレオチドのヌクレアーゼ耐性を向上させることが報告され ている。そのため、3′-末端への修飾ヌクレオシドの導入によって3′-エキソヌク レアーゼに対する耐性を向上させることが予想された。三種類のORNをそれぞ れSVPDと所定時間反応させ、HPLCにおける分析結果より、ピーク領域から全 RNAに対する残っている完全長RNAの比を計算した(Figure 20)。その結果、 修飾基を持つORN 3とORN 5は30 min後でも、未修飾ORN 1と比較して残存率 が高く、高い耐性を持つことが明らかとなった。3′-オーバーハング領域に1つま たは2つの修飾ヌクレオシドを持ったORN が、ほぼ同等のヌクレアーゼを示し たので、エキソヌクレアーゼに対する耐性を向上させるためには3′-オーバーハ ング領域に修飾が一つだけで十分であることがわかった。 61 ORN 5 after 30 min after 5 min ORN 3 ORN 1 0 20 40 60 % of intact RNA 80 100 Figure 20. Nuclease-resistant activity of ORN1, 3, 5. Each ORN (0.8 nmol) was incubated with SVPD (0.01 U) in a buffer containing 100 mM MgCl 2 and 200 mM Tris–HCl (pH 8.0) at 37 ˚C for 5 and 30 min, respectively. The degraded products were analyzed by RP-HPLC. The ratio of the remaining full-length RNA to the total RNA was calculated from the peak area on a chromatogram. [Reprinted with permission from Bioorg. Med. Chem. Lett., 21, 715 - 717 (2011). Masud, M. M., Masuda, T., Inoue, Y., Kuwahara, M., Sawai, H., Ozaki, H., Copyright © 2010 Elsevier Limited.] 4‐3‐2 RNAi活性の検討 3つのsiRNAのRNAi活性はヒト肝癌細胞HepG2を用いて評価した。HepG2は 高い水準でHNF4を発現する。3種類のsiRNAを、それぞれHepG2細胞にトラ ンスフェクションした後、Real-time RT-PCRによってHNF4 mRNA濃度を測 定し、それらの活性を評価した。Figure 21 に各siRNAのHNF4 mRNAの相 対濃度を示す。なお、HNF4 mRNAの発現量は内部標準物質としてGAPDH mRNAを用いて標準化し、コントロールsiRNAにおけるHNF4 mRNAで規格 化した。その結果、siRNA 2は、siRNA 1ならびに3と比較してmRNAの発現量 がより抑制されることが示唆された。さらに実際のタンパク質発現量をウェス タンブロット法によって測定した。-tubulinを内部標準物質として標準化を行 62 った結果をFigure 22 に示す。この結果からも、遺伝子発現の阻害活性は、3′オーバーハング領域に修飾ヌクレオシドを一つだけ含むsiRNA 2が、チミジンの みのsiRNA 1と修飾ヌクレオシドを2つ含む3と比較して優れていることを示し ている。3′-オーバーハング領域への1つだけの修飾ヌクレオシドの導入はヌクレ アーゼ耐性の向上により細胞内でのsiRNAの残存時間を延長させ、それにより RNAi活性が向上したと考えられる。また、3′-オーバーハング領域の2-ntはその リン酸ジエステル結合がRISC中のArgonaute 2のPAZドメインに水素結合によ り固定され、塩基部位はPAZドメインの外に突き出ている(Figure 23A)。その ため、通常は塩基の種類はPAZドメインへの取り込みには影響を与えない39)。し かしながら、3′-オーバーハング領域の2-ntがPAZドメインに取り込まれる際に、 塩基部位へのポリアミン修飾が、リン酸ジエステル結合と相互作用して、リン 酸ジエステル結合の水和水を除去することで40)、疎水性アミノ酸からなるPAZ ドメインへの3′-オーバーハング領域の取り込みを促進していることも活性向上 の要因として考えられる(Figure 23B)。 一方、3′-オーバーハング領域に2つ修飾ヌクレオシドを含むsiRNA 3は、 HNF4タンパク質の発現が抑制されているのに対し、mRNAの相対濃度は天然 型とほぼ同程度である。このことは、修飾RNAがアンチセンス核酸として働い ている可能性を示唆している。修飾RNAがアンチセンス核酸として働くと、 mRNAの分解が起こらずに翻訳だけが阻害される。そのために、天然型に比べ てmRNAの発現量は差が見られなかったのに対し、タンパク質の発現に影響し たと推測される。これは、2つの置換基を持つRNAでは、ポリカチオン基同士の 静電反発ならびに、立体障害によってPAZドメインへの取り込みがより抑制され るため、RISCを形成できず、遊離の修飾RNAになったことに起因すると推測さ れる(Figure 23C)。 63 120 HNF4 mRNA 100 80 60 40 20 0 Control siRNA1 siRNA2 siRNA3 Figure 21. Real-time RT-PCR for measuring HNF4 mRNA. The cell was treated with siRNA (20 nM). Control is nonsense control siRNA. [Adapted with permission from Bioorg. Med. Chem. Lett., 21, 715 - 717 (2011). Masud, M. M., Masuda, T., Inoue, Y., Kuwahara, M., Sawai, H., Ozaki, H., Copyright © 2010 Elsevier Limited.] HNF4 %control 120 100 80 60 40 20 0 control siRNA1 siRNA2 siRNA3 Figure 22. Western Blot for measuring HNF4 mRNA. The cell was treated with siRNA (100 nM). Control is nonsense control siRNA. A B C Figure 23. (A) Introduction of 2-nt 3′-overhang region into PAZ domain. (B) Removal of the hydration water of the phosphodiester bond by poly cationic group. (C) Inhibitation of introduction into the PAZ domein by steric hindrances of polycationic groups. 64 4‐4 まとめ 合成した3′-オーバーハング領域にC5-ポリアミン置換ピリミジンヌクレオシ ド を 有 す る siRNA の RNAi 活性 を、 HepG2細胞における核ホルモン受容体 HNF4に対する発現抑制で評価した。ヌクレアーゼ耐性の実験では、3′-末端の 修飾がsiRNAにヌクレアーゼ耐性を与えることが証明された。siRNAの3′-オーバ ーハング領域における1つだけの修飾がRNAi活性を高めるのに十分効果的であ ることが示唆された。向上した酵素耐性が細胞内におけるsiRNAの残存時間を延 長したことでRNAi活性を高めたと考えられる。また、3′-オーバーハング領域へ のポリアミン修飾がリン酸結合と相互作用する水分子を排除することで、疎水 性のPAZドメインへの取り込みを促進して活性の向上に寄与していると推測さ れた。しかし、3′-オーバーハング領域における2つのヌクレオシドの修飾は、そ の高い立体障害がPAZドメインへの取り込みに影響を与えていることが考えら れる。そのため、siRNAの一部がアンチセンス核酸として作用し、mRNAの翻 訳を阻害してタンパク質の発現抑制につながったと考えられる。 65 第5章 5‐1 総括 1,10-フェナントロリンポリアミン複合体によるプラスミド DNA の切断 低分子化合物からなる人工制限酵素の DNA 切断ドメインの開発を目的とし て、生理的条件で DNA を切断する 1,10-フェナントロリン-ポリアミン複合体 について研究を行った。トリス(2-アミノエチル)アミンに 1,10-フェナントロ リンを 2 つ結合した複合体 1、及び、3 つ結合した複合体 2 はいずれも生理的条 件、還元剤及び多価金属非存在下でプラスミド DNA を切断した。また、それら の Cu(II)錯体も生理的条件、還元剤非存在下でプラスミド DNA を切断した。こ れらの化合物は、加水分解的に DNA を切断していることが分かった。これは、 天然の酵素と同様に塩基を欠損させることなく、DNA を切断することを意味し ているので、遺伝子工学的な組換えが可能となることを示す。さらに複合体 2 は、その DNA 切断活性が非常に高いことがわかった。このことは、人工制限酵 素開発をまた一歩進め、その実現性を高めたといえる。 5‐2 3′-末端に種々の修飾ヌクレオシドを含む RNA の化学的および酵素的合 成 siRNA の 3′-末端に種々の機能性基を有するピリミジンヌクレオシドを導入す るために、RNA の化学的および酵素的合成方法について研究を行った。化学的 合成方法では、DNA 合成装置を用いた固相合成が適用可能なことから、必要量 を容易に得ることができた。しかしながら、修飾ヌクレオシドを固定した固相 担体を修飾ヌクレオシドごとに準備する必要がある。そのため、この手法は効 66 果的な修飾基や RNA 配列が、判明している場合に有効である。一方、酵素的合 成方法では、標的とする配列に対応した RNA 19-mer を用意するだけで、修飾 DNA 2-mer とのライゲーションによって、3′-末端に種々の修飾ヌクレオシドを 含む RNA を簡便に合成することができた。この手法は、修飾基の RNAi に及ぼ す影響の調査や標的配列との組み合わせの探索に有効である。 5‐3 3′-オーバーハング領域に C5-ポリアミン修飾ヌクレオシドを含む siRNA の RNAi 活性の検討 3′-オーバーハング領域にC5-ポリアミン置換ピリミジンヌクレオシドを有す るsiRNAのRNAi活性について検討した結果、siRNAの3′-オーバーハング領域へ の1つの修飾がRNAi活性を著しく向上させることがわかった。これは主に、3′末端の修飾がRNAにヌクレアーゼ耐性を付与したためであった。3′-オーバーハ ング領域に修飾ヌクレオシドを2つ含むsiRNAが、1つを含むものに比べてRNAi 活性が低い原因は、その高い立体障害がRISC形成を阻害しているためと推測さ れた。安価な原料から合成できるC5-ポリアミン置換ピリミジンヌクレオシドを 3′-末端に1つ導入するだけで、RNAi活性の向上が見られたことから、本方法は 利用価値の高い修飾方法となると考えられる。 5‐4 今後の展望 低分子 DNA 切断分子として、1,10-フェナントロリン-ポリアミン複合体を 利用できることを示した。今後、DNA 配列を識別するドメインと結合すること により、細胞内や生体内で染色体を切断する人工制限酵素への応用が期待でき 67 る。この技術は将来、ノックアウトマウスの製作を効率的にする技術となるか もしれない。 本研究で開発・利用した修飾 RNA の合成方法は、その目的に合わせて使い分 けることで、3′-末端に修飾ヌクレオシドを含む修飾 RNA をより効率的に取得す る技術となる。特に、酵素的合成方法は、siRNA の 3′-オーバーハング領域にお ける最適な機能性基の探索を助けると期待できる。 3′-オーバーハング領域に C5 ポリアミン修飾ピリミジンヌクレオシドを含む siRNA は、高い RNAi 活性を示すことがわかった。さらに詳細に検討した結果、 3′-オーバーハング領域における修飾ヌクレオシドの数によってその活性が変わ っていることが明らかになった。これは、RISC への取り込みやすさに依存する と考えられる。これを利用すると標的配列の熱力学的安定性に依存せずに、 siRNA を設計することが可能となる。 これら、遺伝子発現を制御するためのツールの開発は、まだ機能が解明され ていないヒトゲノムの解析を加速させるのみならず、遺伝子治療のための医薬 品への応用も期待できる。 68 参考文献 1) International Human Genome Sequencing Consortium, Nature, 2004, 2) 3) 4) 5) 431, 931. 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Ozaki, Masayasu Kuwahara, Hiroaki Ozaki, Hiroaki Sawai “Cleavage of supercoiled plasmid DNA by phenanthroline-polyamine conjugates as a metal-free artificial nuclease” Chemistry Letters Vol. 42, No. 1, 2013, pp. 86―88