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子ども達の感性を耕す科学教育 ~センス・オブ・ワンダーの喚起を志向し
科教研報 Vol.24 No.1 子ども達の感性を耕す科学教育 ~センス・オブ・ワンダーの喚起を志向して~ Science education to develop the sensibility of children : Intend to awake to "The Sense of Wonder" 田口瑞穂 1 ・藤田静作 2 TAGUCHI,Mizuho 1 ・ FUJITA,Seisaku 2 大仙市立神宮寺小学校・秋田大学教育文化学部 1 Jinguji Elementary School, 2 Akita University [要約]子どもの理科離れや大人の科学に対する関心の低さが問題視されている社会情勢の 中,教師にできることは何かを検討し,授業の中でできることと授業以外の場面でできる ことを考え,実践することにした。その時の核となる考えが故 R.カーソンの言う「美しい もの,未知のもの,神秘的なものに目を見はる感性"センス・オブ・ワンダー"」で あ る 。 子ども達の感性を耕し,感動体験を多く持たせ,自然の美しさやすばらしさを感じる心が 育てば,生涯にわたり自然や科学に関心を持ち続ける人となるであろう。この仮説のもと に,授業の中だけでなく,広く保護者・地域に向けて働きかけをしていこうと考えた。そ の結果,児童の理科に対する興味が高まり,感性も耕され,磨かれたことが分かった。 [キーワード] センス・オブ・ワンダー 小学校 理科教育 保護者や地域への働きかけ 1.はじめに 表1 理科が大好き・好きと答えた児童生徒の割合 中央教育審議会やマスコミ,そして教師 学年 大好き・好き(%) の研修会で何度も話題としてでてくる理科 小4 90.5 離れ。また,文部科学省からは,国民一人 小5 84.3 一人の科学に関する基礎的素養の向上が喫 小6 83.2 緊の課題 としてあげられている。このよ 中1 73.2 うな社会情勢の中,子ども達の感性を育む 中2 68.7 1) ために,私たち教師にできる事は何かを検 この表から分かるように,理科が好きな 討し,小学校の授業の中でできる事と授業 児童の割合は学年が進むにつれて減ってい 以外の場面でできることを考え,実践した。 く。その一番の理由は, 「楽しい」と感じる 子どもの減少である。そして,不得意,分 2.児童生徒の理科学習への意欲 かりにくい,といった割合が増えていく。 秋田県では,県独自の学習状況調査を実 そこで,子ども達一人ひとりの「センス・ 施している。ここで,平成 20 年 12 月に実 オブ・ワンダー」の心を耕すことで,理科 2) 施した調査 から,理科に対する意識につ を楽しむ子どもや意欲が向上した子どもに いて見てみる。 なるであろうと仮定し,実践に取り組んだ。 33 3.授業の中での実践 そして5年生では「生命の誕生」の学習が 1)魅力的な資料提示 ある。命の神秘さと感動を味わう絶好の機 3年生の自然探検や昆虫の学習では,単 会である。小さなメダカの卵の中で拍動す 元の動機付けとして,以下の写真を用い, る心臓と,それによって流れる血液を見て, 命のすばらしさや美しさを感じ取らせた。 目を輝かせない児童はいない。このような 感動体験は大切にしたい。 6年生では,動物や植物のからだのはた らきの学習で,生き物(自分を含めた)の 精妙さに触れる。また, 「水溶液のはたらき 」 で化学入門を行い,「大地のつくりと変化」 で地球というスケールの大きいものに出会 う。そのどれもが,今後の自然やものの見 方,考え方に大きな影響を与えるので,い 図1 チョウトンボ(学校の近くの沼) い体験と探究ができるように工夫してい る。子ども達の感性を磨くのは実物の持つ 2)実物との出会いと現地学習 力だけだと思っているので,できるだけ本 4年生の天体の学習においては,実際に 物に触れさせるよう心がけている。 星空観察会を開催したり,天体望遠鏡に触 れさせる機会を設け,星空へのロマンをか きたてた。新設の「動物のからだのつくり と運動」では,生命の神秘と美しさに触れ させることができそうである。 5年生の「流れる水のはたらき」では, 実際に川の上流の渓谷に行き,川の勉強を した後で,渓谷ならではの自然と戯れた。 自分で見つけた宝物を互いに紹介し,感動 図 3 露頭で地層を観察する を分かち合った。 4.授業以外での実践 1)虫さんクイズ 虫に限らず,お花さんクイズや鳥さんク イズ,動物さんクイズなど多岐にわたる。 写真のように,その季節に見られる生き物 で,子ども達に目を向けてほしいと思うも のを取り上げてクイズにしている。難しい 生き物の場合は,ヒントとして傍らに図鑑 図 2 上流での活動と見つけた宝物 を開いている場合もある。 34 きるであろうという,試みである。 図 4 壁に貼られる虫さんクイズの実際 毎回答えを入れる子ども,次の問題を待 ち遠しくしている子ども,卒業しても答え を入れていく子どももいて,盛況である。 学校を訪れた保護者が,答えを入れていっ た事もあった。クイズの答えを箱に入れ, 後日,正解と共に正解者の名前が貼り出さ れ称えられる,という流れで行っている。 図 6 理科室通信 次の言葉のように,毎号,楽しみにして くださる保護者も多い。 「第 22 号で紹介された,カマキリの卵の高 さで積雪量がわかる?ということは,前か ら聞いたことがありまして……すごく興味 があります。個人的には協力ということは 図 5 クイズに答えて箱に入れる様子 なかなか出来ませんが続編を楽しみに待っ ています。」 2)理科室通信 「親子で理科を楽しもう」をキャッチフ 3)パフォーマンス レーズに始めた理科室通信。モノクロ印刷 昼休みに全校児童の前で科学に関するパ で全校配布している。大仙市立神宮寺小学 フォーマンスを披露し,刺激を与えている。 校のウェブサイトにも掲載されていて,そ [例]凧揚げ,ブーメラン飛ばし,空気砲, こではカラー版で見られ,地域の人も閲覧 静電気クラゲ,BTB 溶液の変色等 することができる。親や地域の方々のセン ス・オブ・ワンダーを刺激することで,家 4)ビオトープの活用 庭に帰っても子どもの感性を育むことがで 学校のビオトープは,子ども達と生き物 35 とが出会える場所である。ビオトープで見 2) また,秋田県の学習状況調査 によると, つけた生き物を友達に紹介できるコーナー 本校の平成 20 年度の6年生では, を設けて,足が向かうように工夫している。 理科が大好き……64.3% 理科が好き………32.1% と,高い値が得られた。 ある子どもの発芽実験の記録では, 「芽が 出た。よかった。」から「発芽した。葉はま だ種子のからに入っていてきゅうくつそう だ。くきには細かい毛が生えている。くき は曲がっているが,だんだん上を向いてま っすぐになってきた。がんばれ。」のように , ビオトープで遊ぶ子ども達 変化が見られた。また,虫や鳥,花に興味 をもったり,季節の移ろいを敏感に感じ, 5)クラブ活動 日記に書いたりする子どもが増えた。 理科クラブでは,顕微鏡観察やものづく 以上の調査結果や記録から,子ども達の り,化学実験等,様々な事を楽しんでいる。 科学的興味は確実に高まり,感性は磨かれ 希望者が多い人気のクラブである。 ていると感じた。感性を測ることは難しい が,子ども達のノートの記述や発表の言葉 の変化,自然と触れ合うと時の姿勢等から, 十分に感じ取ることができた。 6.まとめ 子ども達の感性に訴える授業を重ね,感 性を耕す働きかけを日々行うことで,自然 の美しさを感じる心や神秘的なものを感じ 炎色反応楽しんでいる る心を伸ばす事ができた。そして,その結 果,理科が好きな子どもが増え,学習意欲 5.成果 を向上させることができた。 本校の理科研究発表会への参加者数 は ,, 児童数減少の中,少しずつ増えてきている。 引用文献 表 2 本校の理科研究発表会への参加状況 1)平成 19 年度文部科学白書第 2 部第 2 章 2)平成 20 年度学習状況調査報告書 秋田県 平成○年 18 19 20 21 発表題数 2 2 4 4 参考文献 常連以外 0 0 2 3 (1)レイチェル・カーソン(1996)上遠恵子訳 『センス・オブ・ワンダー』新潮社 36