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50年後の函館を設計するプロジェクト

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50年後の函館を設計するプロジェクト
「50年後の函館を設計するプロジェクト」&
「愛知万博グローバル・ハウス統合情報支援プロジェクト」の展望と
協奏計算アーキテクチャ
†
車谷浩一
産業技術総合研究所
概要
現在進められている「50年後の函館を設計するプロジェクト」ならびに「愛知万博 EXPO 2005
グローバル・ハウス統合情報支援プロジェクト」について概観する.ユビキタス情報環境ではサ
ービスは環境内に分散して存在し,様々なサービスが同時並列的に動作する.このような情報環
境を用いることにより,従来は不可能であった様々な情報サービスが可能になる.上の2つのプ
ロジェクトは,それぞれ50年後または現在すでに実現されているユビキタス情報環境を用いて,
都市や公共空間における情報支援のイメージならびに具体像を提供するものである.一方,
「協奏
計算」とは,自律的なソフトウェア群が分散して情報処理を行うマルチエージェントのコンセプ
トをベースに,1) 利用可能な情報サービスを組み合わせて自分に必要なサービスを作り上げてゆ
くこと,2) 個人の便利さとシステム全体の効率とを同時に達成すること,などを実現するための
計算方法である.本稿の後半で,愛知万博グローバル・ハウス統合情報支援プロジェクトにおい
て採用された協奏計算のコンセプトについて述べる.
キーワード:都市設計,公共空間,協奏計算,マルチエージェント,ユビキタス情報環境,万博
1.はじめに
情報技術は人間や組織・集団の活動を支援するほか,その意志決定や行動の方法そのものをも
変える力を持っているが,そのことは一般にはあまり意識されていないように思われる [1,2,3].
従来の情報技術のイメージは「現在実現されていることを情報技術によって置き換える・省力化
する」といったものが多いが,我々は「情報技術を積極的に利用することによって,従来では実
現できなかった社会の仕掛け(アーキテクチャ)を作り出す」ことが重要であると考えている.
一方で,情報技術はインターネット環境からいわゆるユビキタス (ubiquitous) 情報環境 [4]
(パーヴェィシブ (pervasive) 情報環境 [5])へと急速に変貌を遂げつつある.近年急速に発展
を遂げている携帯型情報端末・携帯電話,無線 LAN に代表される近接無線通信,RFID・2次元
バーコードによる認証・情報取得,環境内に埋め込まれた立体視カメラやセンサネットワークな
Perspectives of “Designing Hakodate 50 Years in the Future Project” and “`EXPO 2005
AICHI Global House’ Integrated Information Support Project.”
Koichi Kurumatani, Multi-Agent Group, Information Technology Research Institute (ITRI),
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST).
†
-1-
どを用いることにより,1) ユーザがいつでもどこでも情報ネットワークにアクセス可能で様々な
サービスを享受できる,2) センサ情報がネットワーク上で流通し,物理的な実世界のモデル化・
操作がネットワーク上で可能になる,といった特徴を持つ情報環境の実用化が確実視されている
と言ってよいだろう.
インターネットがいわば情報の世界に閉じた環境であったのに対し,ユビキタス情報環境では
ユーザは情報の世界のみならず自分が存在する物理世界での情報や実体をもサービスの対象とす
ることが可能になり,そこでは情報的実体と物理的実体の双方に対して従来のウェブのようなサ
ーバ・クライアント型のサービスや P2P サービスが存在し,社会の隅々まで普及したような環
境になると思われる.そこでは情報の送り手・受け手といった区分は曖昧になり,また,サービ
スの提供範囲が世界的にグローバルな範囲のものから,目の前の自動販売機といったローカルな
範囲のものまで混在するような世界となると思われる.
このような情報環境の現出を前提に,我々は現在2つのプロジェクトを進めている.1つは,
情報技術の進展によって実現可能な50年後の都市・市民生活のイメージを提示する「50年後
の函館を設計するプロジェクト」であり,もう1つは現時点で実現可能な公共空間における統合
情報サービスの具体像を提供する「愛知万博 EXPO 2005 グローバル・ハウス統合情報支援プロ
ジェクト」である.
本稿では,これらのプロジェクトについて概観し,またその実現の鍵となる協奏計算について
述べる.
2.50年後の函館を設計するプロジェクト
「50年後の函館を設計するプロジェクト」は,はこだて未来大学の中島秀之学長が中心とな
って,情報技術を用いて実現できる50年後の都市・市民生活のイメージを函館という地域を舞
台に設計するというプロジェクトである.このプロジェクトは未来の予想や夢物語ではなく,情
報技術が社会に浸透していった先に存在するであろう都市・市民生活のイメージを具体的に描い
てみることを目的としており,
「それなりの具体的な情報技術の裏付けのもとで何が可能であろう
か」というイメージを提示するものである.
現在のところ,50年後の都市・市民生活のイメージとして,いくつかの状況・シーンを設定
し,各々の状況・シーンにおいて何が可能になっているだろうかという未来イメージが設計され
つつある.以下では,それらの状況・シーン別に,現時点で検討が進んでいる未来イメージにつ
いて述べる.
2.1.交通制御
最初は情報技術を用いた大域的な都市レベルでの交通制御である.交通流をより効率良くする
ことにより 1) 個々の市民の時間の制約,精神的ストレスの軽減,2) エネルギーの消費削減,公
害や事故の抑制効果などを情報技術で実現できるかという問題である.ここでいう交通制御とは,
道路交通のみならず,歩行や鉄道などを含む広く人・物の移動に関する状況に関するものである.
-2-
2.1.1.協調カーナビ
現在 ITS・カーナビなど自動車への情報技術の導入が盛んであるが,将来的には全ての車両が
通信網によって情報ネットワークに接続される時代が来るものと思われる.すなわち全ての自動
車に通信カーナビが搭載され,それらがネットワーク接続されている状況である.そのような情
報環境が整うと,自動車同士で移動ルートを折衝することにより,交通集中による渋滞を緩和し,
かつ各車両の移動時間をも短縮することが可能になるかもしれない.個々の車両に装備されたカ
ーナビは GPS 等で取得した現在位置と,ユーザが入力した目的地の情報を持っていると仮定する.
実際,通信型カーナビでは,サーバにおいてルートの検索を行い,各車両へ移動ルートを指示す
るシステムがすでに登場している.この通信型カーナビをさらに発展させて,多数の車両間で経
路情報を共有することにより,各車両の移動時間を犠牲にせず全体としても効率の向上を図るの
が「協調カーナビ」のアイデアである [6, 7](図1).
このようなサービスは,従来の通信カーナビを拡張していくだけでは実現が困難である.たと
えば,VICS のような現在の混雑情報をもとに各車両に対してその移動時間を短くするようなサ
ービスを,各車両に対して独立に提供するものとしよう.多くの車両のカーナビが,現在空いて
いるように見える道路へと殺到してしまい,かえってその道路では大きな混雑が起きることにな
るかもしれない.また,その結果新たに空いた道路への一極誘導を再び引き起こし,システム全
体としては振動の様相を呈することが予想される.つまり「今現在空いているように見える道路
に,多数の人・車両が集中して混雑」したり,
「混雑している場所が時間的に移動を続け,システ
ム全体の効率が下がる」ような輻輳現象である.
もし,特定の都市内にいる全車の現在位置・目標位置の情報が入手できれば大域的な最適経路
を計算することは理論的には可能である.たとえば,GA,OR, プランニング,スケジューリン
グ等の手法が利用可能だが,これらの完全な中央制御方式は計算量的に考えて実用化は難しいし
またサーバへのアクセス集中や通信の遅延が頻発することも考えられる.つまり分散処理が計
算・通信の双方において必要である.
1)各車両の
移動計画を
アップロード
2)多数の車両群で
移動計画を共有
Route Information Server
市民の
移動要求
3)各車両が
経路を再計算
Coffee
H ospital
To:Hospital
Pa..
バスの運行経路・台数を
動的に制御
H o.. ....
Par k
To:Coffee
To:Park
Bus comes to picking you up like a taxi.
図1.協調カーナビ [6,7]
図2.フルデマンドバス [9]
-3-
マルチエージェントシミュレーションならびにゲーム理論での解析の結果によると,
「協調カー
ナビ」と呼ばれる経路情報の共有と各車両における分散的再プランニングだけで,各車両の効率
を落とすことなく,システム全体の効率向上が可能なことがわかり始めている [6,7].また経路情
報共有における匿名性の確保には,匿名オークション [8] が利用可能かもしれない.
2.1.2.フルデマンドバス
フルデマンドバスとは,路線を固定せず,乗客の要求に応じて呼び出しがあった地点から目的
地まで自在に運行するバスサービスのことである.固定路線を走っていて呼び出しに応じて回り
道をする通常のデマンドバスとは区別する必要がある.
現在このフルデマンドバスが運行されているのは,人口10万人程度の高知県中村市のみであ
り,一般に大都市でフルデマンドバスの運行は難しいと言われている.しかしながら,マルチエ
ージェントシミュレーションによってフルデマンドバスの可能性を検証してみると,大都市でも
フルデマンドバスが実用化できるかもしれない可能性が見え始めている [9].
具体的には,需要の増大に従ってバスを増便する(バス1台あたりの平均乗客数一定)という
方針でバス台数を増やした場合,最初のうちは固定路線・固定ダイヤ方式の方が有利であるが,
乗客の呼び出しの増大に伴い,次第にフルデマンド方式の平均待ち時間が減少し優位性が高くな
る.従って,ある程度多量の乗客数が見込める大都市においてこそフルデマンドバス方式が有利
であると理解できる.
フルデマンドバスはタクシーと比較すると利便性は劣るが,料金においては有利である.また
固定路線バスと比較するとより高額になるがより良いサービスを提供できる.その意味で,フル
デマンドバスはタクシーと固定路線バスの中間の性質を有するサービスとなる.
2.2.航空管制
航空機の空中衝突事故の減少や,単位時間に離着陸できる航空機数の増加のためには,管制官
による言語誘導を基本とするシステムを情報技術で置き換えることが可能であろう.航空管制に
おいてポイントとなるのは,航空機の間の優先度を考慮し,衝突回避をしながら空港まで誘導す
ることにある.協調カーナビの場合と同様に,マルチエージェント技術を応用した航空機の間の
折衝が実現可能だろう.また管制業務そのものを情報技術で自動化すること(たとえば [10])ま
では実現出来なくても,管制業務における言語伝達の部分のみを自動化するだけでも,言い間違
いや聞き間違いによる事故を減らせる可能性がある.
2.3.日常時から非常時へのシームレスな情報支援
ユビキタス情報環境が実現すれば,日常時において様々な個人への情報支援が可能になるだろ
う.コンテキスト・アウェア (Context-Aware) と呼ばれるような,人間の置かれた状況やその人
の好みに応じた情報サービスが自動的に提供されたり,また個人専用のエージェントがその場そ
の場で利用可能なサービス群を自動的に合成してより適切なサービスを提供するような,サービ
ス連携アーキテクチャの提案も行われている [11, 12, 13](図3).このようなシステムは従来の
-4-
インターネット環境を単に拡張するだけでは実現できず,人間や社会を見守るセンサ群が存在し,
個人のプライバシを守りながらセンサ情報を流通させるネットワークの存在が前提となる.この
ような情報環境があって初めて,人間の作業を単にコンピュータシステムに肩代わりさせるだけ
でなく,本稿で紹介しているような多数の人々を連携させるようなサービスを実現することが可
能になるだろう.
また別の視点として非常時の情報支援の問題がある.災害や事故など非常時の情報支援システ
ムは,日常のシステムと連携したものであることが望ましい.非常時の情報支援システムを専用
システムとして設計を行ってしまうと,いざというときに充電池が弱っていたり非常電源が動作
しないなどのハードウェア的問題,また前提としている他のシステムの更新によってデータ形式
が整合性を失うなどのソフトウェア的問題が起こるからである.
解決策としては,非常時システムは独立なものとして設計するのではなく,日常時から稼働し
ているシステムを非常時にはそのまま非常時用システムとして転用することである.つまり,日
常時と非常時のデュアルな通信インフラ・ソフトウェア・ハードウェアの設計を行えば良い.
また大規模な災害時の救助計画の策定や平常時の訓練には,マルチエージェントシミュレーシ
ョンが有効と思われる [14].大規模災害というのは何時発生するか予測できないし,また予測し
ても発生しないかもしれない.従って,それに備えるには,様々な場合を想定してシミュレーシ
ョンを実行するのがほぼ唯一の対応方法であろう.また平常時の訓練に利用しているシミュレー
タは,万一の場合には救助計画の立案に利用可能なツールとなる.
Social Coordination
User
Tower
User
Pond
Information Providing
and Navigation
Castle
User
CONSORTS アーキテクチャ [11, 12, 13]
Reservation
Reservation
Entrance Gate
図3
Roller Coaster
User
図4
Reservation
Merry-go-round
Exit Gate
テーマパーク問題 [15]
3.愛知万博グローバル・ハウス統合情報支援プロジェクト
前章の「50年後の函館を設計するプロジェクト」は,50年といった人間の予測限界に近い
将来において,都市・公共空間における情報支援のありかたについて検討するものである.それ
に対して,我々が現在進めている「愛知万博グローバル・ハウス統合情報支援プロジェクト」は,
近未来における都市・公共空間での情報支援のあり方に関する1つのイメージを実証的に提示す
るものである.
-5-
ユビキタス情報社会が実現した暁には,様々な種類の情報サービスが様々なユーザデバイス(携
帯,PDA, RFID 等)で利用可能になるが,そのような環境において我々が重要と考えるのは,
1)「自分にとって必要なサービスを見つけ出し」
「それらを柔軟に組み合わせて」使いこなせるこ
と,2) 個人が自分のローカルな視点で最適なサービスを享受できるとともに,システム全体の動
作も最適化されることである.
我々は自律的なソフトウェアが分散して情報処理を行うマルチエージェントの概念をベースと
して,1) 利用可能な情報サービスを組み合わせて自分に必要なサービスを作り上げてゆくこと,
2) 個人の便利さとシステム全体の効率とを同時に達成すること,3) プライバシを守りつつセキ
ュリティを確保すること,などを実現する「協奏計算」の概念とそれを具体的な計算モデルとし
て提供するアーキテクチャ CONSORTS の研究開発を進めている.
愛知万博グローバル・ハウス統合情報支援システムは,CONSORTS アークテクチャに基づい
て,万博のような公共空間において求められている情報支援の統合ソフトウェアのイメージを実
証的に示すものである.具体的には以下のような機能を持つ.
1)統合情報支援サービスの提供
公共空間において重要と思われる,「来場者への情報配信」,並びに「来場者の流動解析」す
なわち多くの人の流れを解析し 1) 混雑の原因を見いだすこと 2) 近未来の混雑予測を行う
こと 3) 混雑を低減する改善案を提案すること,などの多種多様なサービスを CONSORTS
をベースとした単一プラットフォーム上で統合して提供する.
2)多様なユーザデバイスに対応可能
PDA ならびに Aimulet GH(無電源赤外線音声ダウンロード装置 CoBIT とアクティブ
RFID を一体化したもの)が利用可能である.
3)異種センサ群の統合利用と人流の流動解析
アクティブ RFID を利用して人流の流動解析を低コスト・小型・軽量なデバイスで実現する
と同時に,立体視カメラ USV を用いて高精度のデータを流動解析に併用することが可能とな
っている.これらの異種センサからの情報は CONSORTS 上のデータマイニングプロセスで
統合され,シミュレーション結果と照合することにより流動解析を実現する.
4)プライバシの保護とセキュリティの確保
アクティブ RFID の識別子は会場内においてのみ意味を持ち,他の個人情報と統合されるこ
とがない.また立体視カメラ USV は来場者の移動軌跡情報のみを取得し,原画像を蓄積しな
い.これによりプライバシを保護しつつ,一方で端末装置の会場外への不適切な持ち出しを
アクティブ RFID の発する電波により追跡可能としている.
4.協奏計算
以上述べてきた様々な状況に共通することは,どの状況においても,1) 利用可能な情報サービ
スを組み合わせて自分に必要なサービスを作り上げてゆくこと,2) 個人がローカルな視点で自分
にとって最適なサービスを享受できるとともに,システム全体の動作も最適化する必要があるこ
と,3) 各人の個人的情報を保護しつつ,システムの安全を確保しなければないないことである.
-6-
また,これらの状況におけるサービスは本質的に分散計算となるが,計算負荷や計算資源の配
分の方法をその場その場で状況に適応しつつ変更することが必要と思われる.すなわち 4) 分散
処理における負荷分散の動的制御が求められる.
これらのことは,ユビキタス情報環境が整備され,情報サービスが社会の隅々まで浸透するほ
ど重要になる.いくつかの具体例を挙げてみよう.
○
サービス連携問題
ユビキタス情報環境において様々なサービスを連携させて目的とするタスクを実行する問題
[11, 12, 13].たとえば「ドライブ中に喉が渇いたので何か飲みたい」というタスクの実行に
は,近くで飲み物を購入できる場所を検索し,その近くの駐車場を探し,空き状況を確認し,
その場所に向かい,etc. といった一連のサービスを実行する必要がある.このような一連の
サービスの提供・公示・検索・合成と一連の計算過程がサービス連携の一例である.また,
オフィスにおいて会議を開催する場合を考えよう.この場合も上と同じく,資料のプリント
アウト,会議室の予約,参加者の誘導,etc. といったサービスの合成が必要であるが,会議
室やプリンターはいつも空いているとは限らないし,また多数の会議を同時に運営する場合
には個々の会議準備の進行のほか,会議室やプリンターなどの利用に関する資源配分が必要
かもしれない.こういった一連の計算過程もサービス連携の一例である.
○
テーマパーク問題
テーマパークのような多数の施設が集まった空間において,ユーザの施設への訪問希望をユ
ーザ間で交換し,ユーザの満足度の向上ならびに施設の利用効率向上を図る問題
[15,16,17,18](図4)や,ユーザの効用を時間的連続性を考慮しながら評価しプランを生成す
る問題 [19].
○
移動計画問題
ユーザの車両による移動に関する希望(現在位置と目的地)を知り,ユーザの移動経路(通
過する道路)をユーザ間で交換し,ユーザの移動要求や道路状況に応じて経路生成を行う協
調カーナビ [6, 7] や,車両の適切な運行計画を決定するデマンドバスの運行計画問題 [9].
対象地域での信号制御や一方通行の動的制御問題など.
○
サプライチェーン
域内の環境を保全しながら,刻々と変化する物流要求や道路状況に対応し適切な物流計画を
立てる問題.
これら一連の問題はその応用領域が異なるため一見異なる様相を示しているが,それらをサービ
スの提供・公示・検索・合成のプロセスと見なしたときには,一定の共通性が存在する.すなわ
ち,
1) 計算プロセス・サービスの柔軟な合成
動的に変化する状況に応じて求められるタスクを遂行するためには,必要な計算プロセスや
サービスの選択・合成・実行を柔軟に行う必要がある.そのためには OWL-S 等で検討され
ているような計算プロセス・サービスのモデル化とその合成手法が不可欠である.
-7-
2) 個の効用と全体の効用の同時的増大
個人のローカルな認知範囲でタスクが遂行されるが,一方で系全体としての最適化も実現し
なければならない.たとえば,ワークフローを支援するシステムでは,個々の会議の準備を
(準)最適化すると同時に,組織全体としても(準)最適化を行う必要がある.協調カーナ
ビ等の移動計画や,信号機制御・通行制限などの交通制御でも同様である.
3) 個の情報の開示制限とシステムの安全の確保
個に属する情報の一部のみ開示され,また個に属する情報が空間的・時間的に統合できない
環境において,システムの一部または全体に対する攻撃に対し安全を確保しなければならな
い.
4) 分散処理における負荷分散の動的制御
計算負荷や計算資源の配分の方法をその場その場で状況に適応しつつ変更することが必要で
ある.つまり分散のあり方(中央集権的なプランニングを単に分散処理するのか,大域的な
情報を使った分散処理か,ローカルな情報交換だけで分散処理を行うのか)を動的に変化さ
せ状況の変化に追随する必要がある.そのためには,ネットワーク属性(ランダム,スケー
ルフリー等)に注目したシステムの動的自己再編・自己組織化も必要となるだろう.
これらを実現するようなマルチエージェントベースの計算方法を,我々は「協奏計算」と呼んで
いる.例えば,
「個人が自分の楽器演奏に集中しつつ,かつ楽団としてのパフォーマンスに貢献す
る.そして,その演奏を聞く聴衆も楽しい」というような計算方法のことである†.
5.おわりに
「50年後の函館を設計するプロジェクト」ならびに「愛知万博 EXPO 2005 グローバル・ハウ
ス統合情報支援プロジェクト」について概観した.これらのプロジェクトは,50年後・現在と
いう異なる時間における都市や公共空間での情報支援サービスのイメージを提供するものである.
また,これらの応用イメージの実現に有効と考えられる「協奏計算」の概念について述べた.
謝辞
本稿のアイデアは,多くの方々との議論の中から生まれた.特に「50年後の函館を設計するプ
ロジェクト」
「協奏計算アーキテクチャ CONSORTS プロジェクト」「愛知万博 EXPO 2005 グ
ローバル・ハウス統合情報支援プロジェクト」のメンバーならびに御協力頂いている,中島秀之,
大沢英一,David Lindsay Wright, 武山政直,山中俊治,川村秀憲,大内東,和泉憲明,幸島明
男,和泉潔,山下倫央,松尾豊,高木朗,澤井雅彦,金指文明,高岡大介,依田育士,中村嘉志,
伊藤日出男,野田五十樹,船生佳孝,橋田浩一,坂上勝彦の各氏に感謝したい.
†
協奏計算によって実現される情報サービスのことを「群ユーザ支援」と呼び,計算方法として
の協奏計算と区別する.
-8-
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