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『世界の農林水産-FAOニュース-』2010年冬号
Winter 2010 World’s Agriculture, Forestry And Fisheries FAO News No.821 特集 長引く危機に 直面する国々 ――22 ヵ国に重点的な取り組みが必要 Report 1 食品安全のための EMPRES ――FAO の緊急予防システム Report 2 飢餓に対して結束する 飢餓に対して 結束する 飢餓を終焉させる申し立てに署名を WWW. BILLIONHUNGRY.ORG/JP 398-009-312.indd 1 世界食料デー 国際連合食糧農業機関(FAO) www.fao.org LOJ/10.09/200 2010年10月16日 10/09/24 16:51 Countries in Protracted Crises 特集 長引く危機に 直面する国々 ――22 ヵ国に重点的な取り組みが必要 WINTER 2010 今年 10 月、FAO は最新の世界の飢餓人口を 9 億 2,500 万人と発表した。 現在、特にアフリカを中心とする 22 ヵ国で、 危機が長期化している。 03 干ばつに見舞われたケニアで、 栄養不足の子どもを抱える女性。 ©FAO / Ami Vitale SOFI2010 の発表記者会見。 ©FAO / Giulio Napolitano 1996 年の世界食料サミットで、当時 8 億人 し難い制約に対するキャパシティが不足し とされた世界の飢餓人口を半減させる目標が ている可能性もあるが、市民の権利を守る 掲げられたにもかかわらず、FAO が 2010 年 に発表した世界の飢餓人口は 9 億 2,500 万 もある。 人にのぼる。食料価格高騰や世界経済危機 ■ 持続的でない生活方式・食料安全保障の の影響を受けた昨年と比べると若干減ってい 乏しい成果:これらは、栄養不足や高い るものの、この数字が依然として受け入れが 死亡率の一因となる。一時的であれ慢性 たい水準であることに変わりはない。こうした 的であれ、食料不安は長引く危機を増大 なか、 FAO は現在特に 22 ヵ国が「長引く危 させる傾向がある。しかし、持続的でない 機」に直面しているとし、飢餓に関する年次 生活方式は長引く危機の兆候であるだけ 報告書「世界の食料不安の現状( SOFI )20 ではない。生活方式の持続性の悪化は、 10 」の中で、こうした国々の特徴と対策を論 紛争を招く要因にもなりえ、それがひいて じている。本稿では、その一部を紹介する。 は長引く危機をもたらす可能性もある。 政治的意思の欠如を反映している可能性 ■ 地域の機構・制度の破綻:これは国家の 長引く危機にある国々の共通点 脆弱性によって悪化することが多い。比較 長引く危機にある国に関する単純な定義はな 的持続的な従来の機構・制度が、しばし い。長引く危機そのものは、「国民のかなり ば長引く危機の下で悪化することがあるが、 の割合が、長期にわたり、死や疾病、生計 国が運営する代替案がそれを補完すること の崩壊に対して非常に脆弱な状態にある環 はまれである。 境。対応能力や、国民に対する脅威を緩和 WINTER 2010 高温と干ばつの被害を受けたト ウモロコシの苗(エチオピア、20 04 10 年 6 月)。 ©FAO / Giulio Napolitano する、あるいは適切な水準の保護を提供する 長引く危機にある国々の定義 能力が制限されている国では、こうした環境 上記のことから、長引く危機の定義がいくら の統治は、概して非常に脆弱である」と定義 か流動的であることは明らかである。長引く されている。食料不安は、長引く危機の最も 危機を特定する単独の特徴はなく、前述し 一般的な兆候である。 た特徴の 1 つあるいは複数が欠けているから ■ といって、必ずしもある国/地域が長引く危 長引く危機の状況は一様ではないが、次のよ 機にないということを意味するわけではない。 うな特徴のいくつか(必ずしもすべてではない) SOFI2010 では、ある国が長引く危機にある が共通していることがある。 かどうかを確定するために、下記の測定可能 ■ 持続時間/期間:例えばアフガニスタン、 な 3 つの基準を用いる。 ソマリア、スーダンの各国では、1980 年 ■ 危機の期間:危機の持続期間に関する基 代以降、30 年近くにわたって何らかの危 準は、ある国が、対外援助を必要とする 機が続いている。 危機(自然災害、人的危機/災害、あるいは ■ 紛争:紛争は一般的な特徴であるが、紛 双方の併発)を報告した年数に基づいてい 争のみが長引く危機を生み出すわけではな る。この情報は FAO の世界食料農業情報 い。長引く危機にある国のなかには、明白 早期警報システム( GIEWS )を通じ国連の な軍事紛争が主要な要因とはなっていな 全加盟国に対して毎年照合される。この い、もしくは要因となっているのが国の一 GIEWS のリストに 2001 年から 2010 年の 部にとどまる国もある(エチオピアやウガ ン 間に 8 年以上(最新の危機を把握するため)、 ダなど) 。 ■ 脆弱な統治/脆弱な行政:これは単に抗 もしくは 1996 年から 2010 年の間に 12 年 以上掲載された国は、長引く危機にあると 表 1 ― 長引く危機にある国々:危機の類型( 1996 2010 年)および人道支援の割合( 2000 2008 年) 自然災害のみ 人的災害のみ 自然災害と 人的災害の併発 国 災害数計 ODA 合計に対する 1996 2010 2000 2008 年 年数 アフガニスタン アンゴラ 1 ブルンジ 中央アフリカ チャド 2 コンゴ共和国 コートジボワール 北朝鮮 6 コンゴ民主共和国 エリトリア 2 2 エチオピア ギニア ハイチ 11 イラク ケニア 5 11 14 8 4 13 9 3 15 3 2 10 1 4 9 リベリア 14 15 15 5 シエラレオネ ソマリア スーダン タジキスタン 3 ウガンダ ジンバブエ 2 4 3 人道支援の割合 % 10 1 3 6 10 11 3 11 3 1 10 8 10 5 15 12 15 8 9 13 9 15 15 15 15 10 15 15 12 15 15 15 15 11 14 10 20 30 32 13 23 22 15 47 27 30 21 16 11 14 14 33 19 64 62 13 10 31 出典:FAO GIEWS および Development Initiatives みなされる。 理的領域に限定され、国民全体に影響を及 ■ 援助の流れ:第 2 の基準は、その国が受 ぼさないものもある。例えばウガンダは長引 けている人道支援額の総支援額に対する く危機リストに掲載されているが、この危機 割合である。2000 年以降に、政府開発 は同国の北部と北東部に限定されている。ヨ 援助( ODA )の 10% 以上を人道支援が占 ルダン川西岸やガザ地区のような地域も、長 める場合、その国は長引く危機にあるとみ 引く危機にあるとみなすことができる。 なされる。 長引く危機にあると思われるものの、リストに 2003 年の洪水で被害を受けた 井戸から泥を取り除く農民(スー ■ 経済状態・食料安全保障の状況:第 3 の 掲載されていない国の事例もある。例えばス 基準は、FAO の低所得食料不足国(LIFDC ) リランカは、島北部の大部分に打撃を与え、 現在、合計 22 ヵ国がこれら 3 つの基準をす ら脱しつつある。しかし、同国が GIEWS の べて満たしている(表 1 )。 リストに掲載されたのは過去 10 年間のうち 7 これらの国はすべて、何らかの人的緊急事 年間のみで、対象基準からわずかに外れて 態(紛争や政治的危機など)が発生した国であ いる。 る。このうち 16 ヵ国は、ある時期に単独、も このように、危機対応能力を含め、長引く危 しくは人的緊急事態を伴う自然災害を経験し 機にある国々にはかなりのばらつきがある。 た。また 15 ヵ国が、少なくとも1 度、自然 政府が機能している諸国もあれば、現在、 災害と人的緊急事態の併発を経験した。 国家が脆弱あるいは破綻したとみなされてい ■ 長引く危機の状況には、ある国の特定の地 ©FAO / Antonello Proto 05 国民の多くを退去させた長期にわたる内戦か WINTER 2010 リストに掲載されていることである。 ダン) 。 特集 る国もある。 長引く危機に直面する国々 援助の流れから見ると、長引く危機にある Protracted Crises Countries in 紛争が終結した地域で、漁業 を再開した帰還兵の男性(コン ゴ民主共和国) 。 ©FAO / Giulio Napolitano 国々の特徴は、開発支援よりも人道支援の 重人口、5 歳未満の死亡率に関する複合デー 方が支援全体において比較的高い割合を占 タを基に算出された世界飢餓指数は、下は めていることである。世界的には ODA 全体 コートジボワールの 14.5%(「深刻な飢餓問 の約 10% が人道支援となっているが、長引 題」)から、上はコンゴ民主共和国の 39.1% く危機にある国々においては通常、その割合 (「きわめて憂慮すべき飢餓問題」)まで、程度は はかなり高く、ソマリアやスーダンなどでは全 さまざまである。 体の 3 分の 2 にのぼる。人道支援の 1 人当た 表 2 は、長引く危機にある国々では栄養不足 りの受給金額も、長引く危機にある 22 ヵ国 人口の割合が平均して他の開発途上国(長引 ではすべて、開発途上国の平均を上回って く危機にある国々、中国、インドを除いた場合)に いる。 比べて 3 倍近いことを示している。とはいえ、 長引く危機にある国々のすべてにおいて栄養 食料不安:長引く危機にある国々は特 不足の水準が非常に高いわけではなく、危 別な事例なのか 機が特定の地域あるいは地方に限定されて 長引く危機にある国々では、一般的に食料 いる国もある。長引く危機にある国々におけ 不安が非常に深刻である(表 2 )。これらの る栄養不足人口は、 約 1 億 6,600 万人である。 国々における 2005 年から 2007 年にかけて これは世界の栄養不足人口の約 20%、中国 の栄養不足人口の割合は、最も低いコート とインドを除いて計算すると世界合計の 3 分 ジボワールが 14%、最も高いコンゴ民主共 の 1 以上を占める。 和国が 69%となっている。栄養不足、低体 長引く危機にある国々の食料安全保障は、 表 2 ― 長引く危機にある国々では食料不安が非常に深刻である 総人口 国 栄養不足人口 2005 07 2005 07 栄養不足人口の 平均体重に 割合 対する低体重の 5 歳未満の人口 2005 07 2002 07 5 歳未満の 死亡率 2007 アンゴラ ブルンジ 中央アフリカ チャド コンゴ共和国 コートジボワール WINTER 2010 北朝鮮 コンゴ民主共和国 エリトリア エチオピア ギニア ハイチ 06 イラク ケニア リベリア シエラレオネ ソマリア スーダン タジキスタン ウガンダ ジンバブエ na 17.1 7.6 4.2 10.3 3.5 19.7 23.6 60.8 4.6 76.6 9.4 9.6 na 36.8 3.5 5.3 na 39.6 6.6 29.7 12.5 発育不良※ 1 衰弱※ 2 2009 2000 07 1996 07 年 % 100 万人 アフガニスタン 世界飢餓指数 na 7.1 4.7 1.7 3.8 0.5 2.8 7.8 41.9 3.0 31.6 1.6 5.5 na 11.2 1.2 1.8 na 8.8 2.0 6.1 3.7 na 41 62 40 37 15 14 33 69 64 41 17 57 na 31 33 35 na 22 30 21 30 32.8 14.2 35.0 24.0 33.9 11.8 16.7 17.8 25.1 34.5 34.6 22.5 18.9 7.1 16.5 20.4 28.3 32.8 27.0 14.9 16.4 14.0 注 na =データなし ※ 1 身長年齢比の割合 < - 2SD(標準偏差) ※ 2 体重身長費の割合 < - 2SD(標準偏差) 25.7 15.8 18.0 17.2 20.9 12.5 12.7 5.5 16.1 7.0 11.9 15.0 7.6 4.4 12.1 13.3 26.2 14.2 10.9 6.7 13.0 9.0 na 25.3 38.7 28.1 31.3 15.4 14.5 18.4 39.1 36.5 30.8 18.2 28.2 na 20.2 24.6 33.8 na 19.6 18.5 14.8 21.0 59.3 50.8 63.1 44.6 44.8 31.2 40.1 44.7 45.8 43.7 50.7 39.3 29.7 27.5 35.8 39.4 46.9 42.1 37.9 33.1 38.7 35.8 8.6 8.6 8.2 10.5 16.1 8.0 8.6 8.7 14.0 14.9 12.3 10.8 10.3 5.8 6.2 7.8 10.2 13.2 21.0 8.7 6.3 7.3 出典:FAO、IFPRI、WHO 特集 表 3 ― 長引く危機にある国々の食料安全保障は、その他の後発開発途上国に比べて著しく劣っている Countries in T- 検定 従属変数 栄養不足人口の割合 低体重人口の割合 発育不良人口の割合 衰弱人口の割合 5 歳未満の死亡率(%) 世界飢餓指数 長引く危機ではない 危機 長引く危機 18.8 17.9 35.1 8.2 7.8 16.5 31.4 19.9 40.2 9.3 11.9 22.3 注 2005 2007 年のデータ * 長引く危機にある国々と長引く危機にない国々との著しい差異 P < 0.05( 95%) ** 長引く危機にある国々と長引く危機にない国々との著しい差異 P < 0.01( 99%) 差 - 12.6 範囲 ** - 2.0 - 5.1 * - 1.1 - 4.1 ** - 5.8 ** 出典:FAO、IFPRI、WHO 関するさらに詳しい分析では、収入の変化、 な食料安全保障指標のうち 4 つにおいて著し 統治の有効性、汚職抑制、危機にある年数が、 く劣っている。この 4 つの指標とは、栄養不 栄養不足人口の割合に大きく関連しているこ 足人口の割合( FAO )、発育不良人口の割合、 とが判明した(表 4 )。これらの要因のほか、 5 歳未満の子供の死亡率、世界飢餓指数( IF 教育も、その国の世界飢餓指数に有意に関 PRI )である(表 3 )。 連している。さらに重要なことは、長引く危 長引く危機と食料安全保障の成果の関係に Protracted Crises 1.0 69.0 1.6 44.6 3.7 63.1 1.0 22.9 0.7 26.2 5.2 39.1 他の開発途上諸国に比べると、6 つの重要 ■ 長引く危機に直面する国々 機が存在するか否かだけではなく、その国が 危機にある年数も肝要であるという点である。 FAO から配布された引換券を 持って「種子フェア」に参加す る人 々。2005 年 の 干 ば つと キャッサバモザイク病の被害を 受けた農民や、紛争の被害者 を対象に行われた(ブルンジ)。 ©FAO / Giulio Napolitano 表 4 ― 回帰結果:食料安全保障、人間開発指数、世界ガバナンス指標、長引く危機 従属変数:栄養不足人口(%) 要因 従属変数:世界飢餓指数 弾性 収入 ※1 教育※ 2 統治の有効性 ※3 汚職抑制※ 4 危機にある年数 ※5 要因 Z(特徴) ** - 0.76 - 2.85 0.32 - 1.45 1.05 0.38 1.21 ** - 3.63 ** 2.79 ** 4.29 ** 0.52 自由度調整済み決定係数 ( OLS )※ 6 弾性 収入 ※1 教育※ 2 統治の有効性 ※3 汚職抑制※ 4 危機にある年数 ※5 Z(特徴) The State of Food Insecurity in the World( SOFI ) 2010 世界の食料不安の現状 2010 年報告 - 0.72 - 4.58 ** - 0.36 - 2.36 * 世界の飢餓の現状をモニタリン - 2.84 ** グする FAO の年次報告書。20 - 0.65 * 0.48 0.16 2.14 ** 3.14 ** 0.72 自由度調整済み決定係数 ( OLS )※ 6 * P < 0.05 ** P < 0.01 ※ 1 人間開発指数( UNDP ) ※ 2 人間開発指数( UNDP ) ※ 3 世界ガバナンス指標(世界銀行研究所) ※ 4 世界ガバナンス指標(世界銀行研究所) ※ 5 FAO の GIEWS の対外人道支援を必要とする国リストに掲載された年数 ※ 6 最小二乗法 出典:FAO、IFPRI、WHO 10 年版は、危機が長期化して いる国々に焦点を当て、その原 因と対策を論じます。原文(英 語ほか)は下記 URL からダウン ロードできるほか、FAO 寄託 図書館( p.32 参照)で閲覧が可 能です。 www.fao.org/docrep/013/ i1683e/i1683e00.htm ある国が危機にある年数が長ければ長いほど、 という用語、原則、関与は互いに関連してい 栄養不足は著しく増加する。 FAO 2010 年 10 月発行 12 ページ A4 判 英語ほか ISBN:978-92-5-106610-2 る。しかし、長引く危機においては、この段階 の移行は長期にわたり予測不可能になると思 長引く危機への関与:制約と機会 われる。緊急事態の場合のように必ずしも急 長引く危機にある国々の特性は、国際社会 激に低下するわけではないが、少なくとも長 の関与を困難にすることがある。これは次の 期間にわたって上向きになることもない。 2 つの重要な問題と関連している。①開発コ ■ ミュニティが、長引く危機や、危機と開発プ 第 2 の問題は第 1 の問題と密接にかかわって ロセスとの関係を認識する方法と、②長引く いるのだが、長引く危機への関与構造が、あ 危機に対する支援の方法(支援構造)である。 る程度の長期的な改善につながる短期的危 第 1 の点に関しては、「開発」は生活の質の 機に対する関与構造と、概して似かよってい 段階的改善として捉えられることがある。災 るという点である。しかしながら、大半の長 害もしくは緊急事態は、この段階を(一時的 引く危機的状況の性質には明らかに適してい に)中断するが、危機が終結すれば「正常」 ない。脆弱な国家状況における取り組みに関 な上昇段階に戻ることが期待される(図)。し する経済協力開発機構( OECD )の最新原則 たがって、「災害」 「回復」 「持続可能な開発」 の一部でさえ、長引く危機への関与において は適切であるようには見えない。この結果、 長引く危機への関与、特に国際的関与は、 WINTER 2010 図 ─ 長引く危機は、緊急災害モデルとは 根本的に異なる 直面する問題に十分に適合しておらず、用い られるアプローチは、柔軟性に乏しく、現状 変化へ適応することができない。多くの場合、 困窮する国の国家機構は長引く危機によって 開発 生活の質 08 災害 弱体化し、機構の隔絶と、関与の優先事項 に関する長引く問題を残している。 持続的な危機 出典: 「 The State of Food Insecurity in the World 2010 」FAO, 2010( pp.12 17 より抜粋) 関連ウェブサイト:FAO Hunger:www.fao.org/hunger 時間 出典:P. Walker. 2009. How to think about the future: history, climate change and conflict. Presentation to the Harvard Humanitarian Summit, Cambridge, September 2009. 特集 長引く危機に直面する国々 Countries in Protracted Crises Winter 2010 03 World’s Agriculture, Forestry And Fisheries FAO News No.821 世界の農林水産 特集 長引く危機に直面する国々 FAO News Winter 2010 通巻 821 号 ――22 ヵ国に重点的な取り組みが必要 10 平成 22 年 12 月 1 日発行 (年 4 回発行) Report 1 発行 食品安全のための EMPRES (社) 国際農林業協働協会( JAICAF ) 〒 107-0052 ――FAO の緊急予防システム 16 20 東京都港区赤坂 8-10-39 赤坂 KSA ビル 3F Tel:03-5772-7880 Report 2 Fax:03-5772-7680 飢餓に対して結束する E-mail:fao @ jaicaf.or.jp www.jaicaf.or.jp 共同編集 インターン報告記 大きな視野で捉えて小さなことを積み重ねる重要さ 明治学院大学 法学部政治学科 3 年 小林 理恵 www.fao.or.jp 21 Crop Prospects and Food Situation 26 FAO 水産養殖局とは ? 世界の穀物需給概況/食料危機最新情報 FAO 水産委員会について 国際連合食糧農業機関( FAO ) 日本事務所 第3回 FAO 水産養殖局 上席水産専門官 渡辺 浩幹 編集:宮道 りか、リンダ・ヤオ 穀物見通しと食料事情 2010.9 (社) 国際農林業協働協会 編集:森 麻衣子、今井 ちづる デザイン:岩本 美奈子 本誌と月刊ニュースレター 「 FAO Newsletter 」は、 JAICAF の会員にお届けしています。 30 Food for All FAO の活動にご協力いただいている団体 国際学としてなぜ食を作り、学ぶのか。 作るまでは自然科学で、分配は社会科学で 詳しくは JAICAF ウェブサイトを ご覧ください。 明治学院大学 国際学部 教授/国際平和研究所 元所長 勝俣 誠 32 FAO 寄託図書館のご案内 古紙パルプ配合率100% 再生紙を使用 PHOTO JOURNAL 西アフリカの農村部女性への支援 ――National Alliance の活動現場を訪問して FAO 日本事務所 企画官 三原 香恵 36 FAO で活躍する日本人 No.22 FAO MAP 世界の栄養不足人口 ――ハンガーマップ 2010 09 中近東ってどんなところ ? FAO 中近東地域事務所 自然資源(水資源)開発/管理担当官 阿部 信也 38 WINTER 2010 33 スーパーマーケットの肉売り場 (ハンガリー)。 ©FAO / Balint Porneczi Report 1 WINTER 2010 食品安全のための EMPRES ――FAO の緊急予防システム 10 農産物や食品の国境を越えた取引きが増加し、フードチェーンが複雑化するなか、 食品安全性を国際的に確保する重要性がますます高まっています。 こうした背景のもとに FAO が立ち上げた 「食品安全のための緊急予防システム」を紹介します。 世界的な食品安全 ネギによって、2003 年、米国内に 3 名の死 食料供給が地球規模となりフードチェーンが 者と600 人以上の患者が発生し、メキシコ 一層複雑化していることで、食品安全――特 産農産物の市場が閉鎖されました。 に国境を越えて取引きされる食品の安全性 ――に対する国民の関心が高まっています。 汚染された食品が人の健康や農業・食品産 緊急事態に対応する フードチェーン・アプローチ 業の経済的安定にもたらす影響への意識は、 国境を越える動物の疾病や植物の病虫害、 いまや公的機関、食品安全機関の間でも高 食品安全緊急事態が近年増加したことで、 まっています。 人の健康だけでなく、生計、食料安全保障、 ■ 国民経済および世界市場に及ぼす潜在的な 最近生じた食品のメラミン汚染による世界的 影響に対する一般国民の関心が高まりました。 危機では、少なくとも 6 人が死亡し、30 万 こうした問題の発生によって、フードチェー 人が罹患しました。約 115 種類の食品がメ ン全体に向けた総合的なアプローチを通じて ラミンに汚染されました。この危機は人の疾 脅威を取り扱う必要性があるという認識が高 病と死亡、さらに貿易の混乱と関係者の経 まりました。 済的損失という結果をもたらしたのです。 ■ 農業生態学的条件の変化や食料生産システ 近年の食品安全上の事件 ムの集約化、そしてこれらのシステムがもた メラミン危機は特異なものでありません。世 らした世界貿易の拡大によって、動植物の疾 界に衝撃を与えた食品汚染事件は、下記の 病や害虫の発生が、以前と比べさらに遠方か ように近年頻発しています。開発途上国では つ急速に発生・拡大し、安全性の損なわれ 食品安全上の脅威が非常に大きな課題とな た食品が遠隔地市場の大勢の消費者にまで っているにもかかわらず、食品安全に関する 届く可能性が高まりました。 インフラは多くの場合、構築過程にあり、強 ■ 力な食品管理システムを有する先進国にも大 このような状況を背景に、フードチェーンに きな影響を与えています。 沿った危機防止と危機管理を目的とした統 ■ サルモネラ中毒 バンコクの屋台(タイ)。 ©FAO / Dan White 合的、協働的、合理的なプロセスを FAO の 中に構築する計画が進められました。 2009 年、米国でピーナッツから発生し、死 ■ られています。何百種もの産品が影響を受け 植物害虫および食品安全上の脅威から生じ ました。 る大規模緊急事態の一層の巨大化・頻発化 ダイオキシン から生じる問題に対処すること、そして加盟 2008 年、ダイオキシンに汚染されたアイル 国に緊急事態の防止・対策に対する組織的 ランド豚肉によって、安全許容水準の 80 かつタイムリーな援助を提供することです。 200 倍のレベルの毒性に消費者がさらされま こうした FAO のフードチェーン緊急事態の枠 した。経済的損失は 10 億 USドル以上と見 組みのひとつが、すでにある動物衛生と植物 積もられています。 衛生のための EMPRES(緊急予防システム)を A 型肝炎 補完する「食品安全のための EMPRES 」を A 型肝炎ウイルスに汚染されたメキシコ産青 構築することでした。 11 その目的とするところは、越境性の動物疾病、 WINTER 2010 亡者 9 人、患者 2 万 2,000 人以上と見積も Report 1 食品安全のための EMPRES EMPRES Food Safety Report 1 食品安全のための EMPRES 食品安全のためのEMPRES長期戦略計画の構成要素 EMPRES Food Safety 早期警報 緊急事態予防 迅速対応 要素 要素 要素 早期警報の発令 差し迫った脅威の深刻化を 迅速な対応処理 早期警報を発するため、 短期的、 迅速措置によって、 特定された食品安全上の 緊急事態への INFOSAN(国際食品安全当局ネットワーク)を 食品安全への差し迫った脅威の発生、 適時な対応措置の実施。 連動させる。 深刻化、 または再発を防止する。 要素 要素 1 3 食品安全性上の脅威に関わる 2 8 防止すること すべての活動実施のための 4 ホライズン・スキャニング 要素 (予測的監視) の実施 目立たない兆候や指標の食品安全的視点 からの分析的情報収集によって、 食品安全への脅威を予測する。 広範囲な枠組み 食品安全上の各種脅威の優先順位付け 5 FAOの標準的な 不足している知識の充足 食品安全対策事業 要素 6 予防計画の策定と準備 キャパシティビルディング ・ 科学的助言 要素 7 対応体制整備のための 手段、 助言、 業務の提供 出典:FAO トウモロコシを日干しする少女 (ハイチ)。 ©FAO / Giulio Napolitano WINTER 2010 12 食品安全のための EMPRES を特定し、その発生の可能性と結果を評 食品安全のための EMPRES の主目的は、食 価する。 品安全危機を防除することです。その柱とな ■ 評価過程で特定されたリスクのうち、行動 るものは、世界・地域・地方レベルでの食 が必要とされるリスクを決定し、確実に制 品安全緊急事態に対する早期発見、早期警 圧するために必要とされる具体的な行動に 報と迅速対応です。第 1 の目標は FAO の持 ついて助言する。 つ比較優位性を活用し、新たに生じる食品 ■ 利害関係者間の話し合いをサポートし、 安全上の危険を見極める予測的監視(ホライ 効果的な緊急対応への支援に必要とされ ズン・スキャニング)を可能とする国際的プロ る総合的な情報を提供する。 グラムを確立し、加盟国に対して「何を監視し、 ■ リスク緩和、現場評価および介入措置(国 いかにして新たに生じる食品安全危機を防止 家レベル、地域レベルでの防除と封じ込め、検 し、タイムリーに対応しうる体制整備を整え 出と診断、対応体制整備と緊急時対策)の戦 るか」についての助言を提供することです。 略的分析のための戦略を策定し実行する ■ こと。 食品安全のための EMPRES は、FAO の栄養・ ■ 標準的参照機関ならびに地域の支援単位 消費者保護部に設置され、以下を主な業務 およびネットワークとの連携関係を構築・ としています。 維持する。特に FAO / WHO 国際食品安 全当局ネットワーク( INFOSAN )と連携する。 ■ 食品供給の安全性と健全性に関わる、人 の健康への潜在的かつ切迫した脅威の源 FAO 本部で行われた第 2 回世界種子会議の様子。 ©FAO / Giulio Napolitano FAO の特別な立場 ■ 世界の食品供給の安全性を高めるため、ま FAO は食品安全関係のプログラムを効果的 た食品安全上の脅威によって生じる社会・ に実施するに当たり豊富な経験を有していま 経済的損失を最小限に抑えるために、フード す。本部であれ現場であれ、食品安全問題 チェーン上に存在する脆弱性を早期に特定 については世界保健機構( WHO )と強い連 して、効果的な防止システムを実行に移すこ 携関係を結んでいます。FAOとWHOはともに、 とは、世界の食料供給安全保障にとって不 食品安全上の危機と脅威に立ち向かうため、 可欠です。 国レベルで農業部門と保健部門が協調的に 行動できるよう努めています。 食品安全のための EMPRES 長期戦略計画 本稿で紹介した「食品安全の フードチェーンと食品安全に対する脅威が、 ■ ための EMPRES 」の長期戦略 性質として世界的規模に広がる場合が非常 改善された世界規模の食品安全モニタリン に多い昨今、FAO は、生産から消費に至る グ、地域的・制度的連携と調整、強化した た冊子。原文(英語ほか)が FA こうした脆弱性を評価し、潜在的な脅威に対 国家食品管理システムならびにあらゆる国際 ブサイトで日本語版をご覧いた する助言と対策を提供する特別な立場にあり 的、地域的、国家的レベルでの緊急事態対 だけます。 ます。同時に、すべての脅威を予測できるわ 応体制と対応措置のプランニングはすべて、 けではないため、どの国においても、食品安 世界規模の食品安全システムを支え、強力 全危機に迅速かつ組織的に対応する適切な なものとする重要な柱となっています。 要です。 出典:「 EMPRES Food Safety 」FAO, 2010 関連ウェブサイト:www.fao.org/agn/agns O 本部のウェブサイトに公開さ れているほか、JAICAF のウェ 英語版:www.fao.org/ag/ agn/agns/files/FAO-empres ENG_reduced.pdf 日本語版:www.jaicaf.or.jp/ fao/publication/shoseki_20 10_2.pdf FAO 2010 年 7 月発行 40 ページ 18×18cm 英語ほか 13 メカニズムを持つことが、同様にきわめて重 計画をさらに具体的に解説し WINTER 2010 ■ EMPRES Food Safety Strategic Plan ベネズエラの都市農業協同組 合の農民。かんがい用のホー スを調整する男性(前方)と、レ Report 2 WINTER 2010 飢餓に対して結束する 14 2010 年 10 月 16 日、世界食料デーは 30 周年を迎えました。 この日は FAO 設立記念日の 65 周年にも当たります。 今年は、世界の飢餓に対する国・地域そして国際レべルでの 闘いにおける取り組みについて認識を高めるため、 「飢餓に対して結束する」が世界食料デーのテーマに選ばれました。 タスの苗代のために土壌の通 気を行う男性(後方)。 ©FAO / Giuseppe Bizzarri 「飢餓に対する結束」の動き た国際的な専門家との協議を受けて、 きる仕事ではないからです。民間セクタ 飢餓に対する結束は、政府や市民社会、 この国内連帯の参加はさらに強化されま ーだけでは、その取り組みを行うことが 民間セクターが、あらゆるレべルで飢餓 した。各国の国内連帯は、食料と栄養 できません。政府や農民も同様です。 や極度の貧困、栄養不足を克服するた の安全保障を強化するために拡大され しかし、政府、研究機関、大学、農民 めに協働する時に実現されるものです。 た CFS や HLTFといった国際的な機構に この協働にあたり、ローマに本部を置く 積極的に参加しています。 組合、圧力団体、国連機関、市民社会、 そして民間セクターが協働して取り組め 国連機関――FAO、国際農業開発基 ■ 金( IFAD )、世界食糧計画( WFP )―― 世界食料安全保障サミット(飢餓に関す ■ は、2015 年までに飢餓人口を半減させ るサミット)が 2009 年 11 月に開かれ、 こうした状況の中で飢餓に対して結束す ることを求める国連ミレニアム開発目標 地球上から飢えを永遠になくすという ることは、社会正義と貧しい人々のため ( MDGs )の第 1 目標――極度の貧困と 1996 年の世界食料サミットでの確約を のより優れた社会的セーフティネットを 飢餓をなくす――の達成に国際的な努 再確認する宣言を採択しました。この 推し進めるために結束することを意味し 力を向ける鍵となる、戦略的な役割を 宣言は、国レベル・国際レベルでの農 ています。市民社会、学校、エンター 担っています。 業投資の拡大や、農村セクターへの新 テインメントとスポーツ、NGO など、さ 規投資、公共セクター・民間セクター まざまなセクターの活動主体が連携す 国連システムとさまざまなプレイヤーが、 の関係者と協力して国際的な食料問題 れば、一人も飢えることがないように社 FAO の世界食料安全保障委員会(CFS ) への対応を改善すること、そして気候 会が特別な注意を払うべきだ、というメ に参加しています。CFS は最近改革が 変動が食料安全保障に及ぼす脅威に対 ッセージを強化することができるでしょ 行われ、FAO の加盟国だけでなく、IFA 応した行動の強化も呼びかけています。 う。例えば FAO は、プロ・スポーツの ■ D や WFP、国連事務総長主宰の「世 界の食料危機に関するハイレベル・タ ば、可能となるのです。 スターたちと連携してきました。欧州プ 未来を養う農業革命 ロサッカーリーグをはじめとするサッカ ーリーグ所属の選手や経営陣、そして さらには食料安全保障や栄養の分野で には、農業生産を 70% 増加させる必 ファンたちと一緒に、イべントやキャン 活動する他の機関が参加しています。 要があります。土地が希少になっていく ペーンを通して飢えの問題への注目を CFS は、市民社会や NGO、そして食 なかで、農民は、農地を拡大するので 高めています。 料不安の影響を受けるすべての人々の はなく、すでに耕作されている土地から 代表、また国際的な農業研究機関、世 さらに多くの収穫を得ることを求められ 新たな食料増産に向けて 界銀行、国際通貨基金( IMF )、地域開 るのです。しかし、集約的な食料生産 これらの新たな食料を、誰が生産する 発銀行、世界貿易機関( WTO )を含ん はこれまで、農薬と肥料への依存の拡大、 のでしょうか ? 小規模農家とその家族は でいるだけでなく、民間企業や慈善団 水の過剰使用を意味し、その結果、土 約 25 億人にのぼり、世界人口の 3 分 体にも門戸を開こうとしています。CFS 壌や水資源を劣化させる恐れがありまし の 1 以上を占めています。こうした人々 はまた、迅速で情報に基づいた決定を た。そうであってはならない、とFAO は が食料増産に貢献できるという点を、F 下すことができるよう、現在、食料安全 主張します。 AO は強調します。 ■ ■ ベル・パネルから助言を受けています。 「飢餓に対して結束する」ことと、「新た 小規模農家の大多数にとっては、農業 ■ な緑の革命」を開始する必要性を結び でさえも収入の主要な創出源にはなりま 約 30 ヵ国において、市民社会組織( CS つけるのはなぜでしょうか ? それは、こ せん。小規模農家の多くは女性で、臨 O )と政府機関で構成される国内の連帯 れほど膨大な量の食料を増産するとい 時の仕事や送金から現金収入を得てい が積極的に協力し合い、アドボカシーと う任務、そしてすべての人がその食料に ます。これらの人々は家庭菜園や都市 意識啓発活動に取り組んでいます。先 アクセスできなければならないという目 農園で多少は作物を生産していますが、 の 2010 年 6 月に FAO 本部で開催され 標は、単独の機関やセクターだけでで 総体として多くが食料購入者であり、1 15 保障と栄養に関する専門家によるハイレ WINTER 2010 スクフォース( HLTF )」といった国連機関、 2050 年に 90 億となる人口を養うため 日を 2USドル以下で暮らしています。 成長過程の適切な時期に適切な量だけ 技術によって、作物は、必要とする時期、 世界で栄養不良に苦しむ人々の多くは、 注意深く使用することなのです。このよ 必要とする場所で、肥料を確実に取り このような人々なのです。 込むことができるようになります。 うな原則に基づく実践は「生態系アプロ ■ ーチ」と呼ばれ、自然が可能にするさま 私たちは、彼らの将来の食料生産への ざまな「生態系サービス」に基づいてい 寄与を促進することができ、そうするこ ます。現在、農業投入財は多くの場合、 コスト削減、水使用および土壌汚染の とで、彼らが貧困と栄養不良から抜け 必ずしも最大限の効率で利用されてい 減少のために、病虫害に強い品種や生 出ることを支援することもできます。これ るわけではありません。こうした投入財 物的病虫害管理技術、耕作方法、農 は農業を可能としている環境を破壊せ の使用を最適化することで、他の投入 薬の適切な利用を組み合わせたもので ずとも実行が可能です。適切な政策と、 財の潜在力を全面的に発現させること す。このアプローチの主な特徴は、生 自然を補完する適切な技術とアプロー ができます。例えば、90 億人を養う食 態系の効用でもある天敵の活用を基本 チを活用することで、作物生産を持続 料は、無機肥料がなくては生産できま に置いていることです。農薬使用の最 可能な方法で向上させることができるの せん。しかし、生産コストを削減し環境 適化は明らかに環境と人間の健康に良 です。自然の贈与物には、植物に大切 問題を軽減するためには、これらをうま いだけでなく、農民の資金節約にもつ な栄養分が届くように促す土壌微生物 く利用しなければなりません。肥料は、 ながり、その資金を農地に再投資した や、水分を保持したまま地下水を再補 作物が必要とする栄養分と生育期間中 り家族のために栄養ある食料の購入に 充する土壌構造、受粉、害虫を制御す の土壌の肥沃度とをうまく調和させ、肥 当てることができます。 る自然の天敵などがあります。言い換え 料の放出時期の管理や深部埋め込みと ■ れば、持続可能な形で作物を増産させ いった改良技術に切り替えることで、効 保全型農業は、生態系サービスに基つ ることは、比較的安全な外部投入財を、 率的な使用が可能となります。こうした く生態系アプローチのもう1 つの方法で ■ 総合的病虫害管理( IPM )は、生産拡大、 WINTER 2010 16 す。土壌中の有機物の増加が土壌の保 政府の役割 水力を向上させ、かんがいの必要性を 食料生産は、将来の需要に対応するの Report 2 減少させたり、もしくはその必要性をな に十分な規模で拡大しなければなりま くしてしまいます。 せん。 ■ ■ 1965 年から 2000 年の間に達成された 国民国家は、政府を通して、法律や規 世界の作物生産増収の 50% は、植物 則、規制、プログラムを施行しています。 遺伝学の発展によるものであり、残りの 国家はさまざまなレべルで、環境に責 50% は水供給や肥料、農作物管理実 任を持つ農法を促進する権限を持って 飢餓に対して結束する United Against Hunger 践の改善の組み合わせによるものでした。 います。例えば国家は、農民が土地に ■ 関して安心し、天然資源の保護を含む 生態系サービスは生命の多様性に依拠 長期的な見通しを持って、必要とされ しています。家畜品種、微生物、作物 る食料を生産する農法を採用できるよう、 品種……これらの多様性すべてが、そ 土地保有を安定させる法律を制定する れらが提供するサービスにとって不可欠 ことができます。また、使用される製品 です。実際、ある時期には不必要に思 の品質をチェックし、それらが正しいラ える種子が、気候やその他の変化が起 べルを貼られ、市場に出され、危険性 べる農民(セネガル)。 きた時に重要となる可能性もあります。 を最小限にとどめていることを保証する 右ページ:農民と話し合うFA 生物多様性は生態系サービスの未来に ことができます。 対するセーフガードとなっているのです。 左ページ:稲の生育状況を調 ©FAO / Olivier Asselin O の総合的生産・病害虫管理 ■ ( IPPM )地域コーディネーター。 ©FAO / Olivier Asselin WINTER 2010 17 各国政府は、公共政策と立法によって G8 会合では、各国が、国境を超えた 生態系アプローチを促進しなければなり 投資と開発の関係、そして政府開発援 ません。言い換えれば、国家は、農業 助( ODA )だけでは世界食料安全保障 が持続可能な方法で拡大することので を実現するのに不十分であるという事実 きる環境を作っていくのに有益な媒体な に注意を促しました。各国は、途上国 のです。 において責任ある持続的な方法で国際 的な投資を拡大することの重要性を強 ■ また、各国は一致団結して持続可能な 調しました。 食料生産と食料安全保障を支援するた ■ めに活動しなければなりません。例えば、 意志と勇気、粘り強さを持ち、多くの United Against Hunger 飢餓に対して結束する 2009 年、イタリアのラクイラで、G8 活動主体が協働しまた互いに助け合え 諸国が、他の国々およびさまざまな機関 ば、さらに多くの食料が、より持続可能 るパンフレット。FAO のウェブ とともに食料安全保障を広げていくため、 な形で生産され、そしてそれが最も必 本パンフレットの全文に加え、 「総合的なアプローチを活用する」 「国家 要としている人々の口にもたらされるは 主導の計画に投資する」 「戦略的協調を ずです。 強化する」 「多国間機関の利点を活用す 出典:「 United against Hunger 」FAO,2010 る」そして「持続的で明確な誓約を完遂 世界食料デー 2010 を紹介す サイト(関連ウェブサイト参照)では、 過去の食料デーの関連資料も ご覧いただけます。 FAO 2010 年 9 月発行 4 ページ A4 判 英語ほか 関連ウェブサイト:World Food Day: する」という基本行動指針を採択しまし www.fao.org/getinvolved/worldfoodday た。このラクイラ食料安全保障イニシア ティブは、幅広い合意形成を促進し、 CFS の改革を前進させました。 ■ カナダのムスコカで開かれた 2010 年の 10 億人飢餓プロジェクト 2009 年、食料価格高騰と金融危機が要 因の一部となって、世界の飢餓人口が 10 The 1billionhungry project ( 10 億人飢餓プロジェクト) 億人という臨界点に達しました。2009 年 www.1billionhungry.org/jp WINTER 2010 11 月の「飢餓に関するサミット」に先立っ て、FAO はこの状況に対する良心の憤り を示す申し立てへの署名を呼びかけるプ ロジェクト「 The 1billionhungry project ( 10 億人飢餓プロジェクト) 」を開始しました。 18 その後、価格高騰の緩和や途上国の経 済成長などが要因となって、2010 年の 推定飢餓人口は 9 億 2,500 万人となりま したが、この数字は依然として容認できな い水準であることに変わりはありません。 Report 2 2010 年 11 月現 在、 世 界中から 300 万 10 億人飢餓プロジェクトを呼びかける FAO ローマ 件を超える署名が集まっています。 本部のイベント。 飢餓に対して結束する United Against Hunger Cr op Pr ospects and Food Situation 20 1 0 . 9 穀物見通しと食料事情 FAO の「 Crop Prospects and Food Situation 」は、 世界の穀物需給の短期見通しと世界の食料事情を包括的に報告するレポートです。 地域別の食料事情や付属統計など、全文(英語)は ウェブサイトでご覧ください。 www.fao.org/giews/english/cpfs 世界の穀物需給概況 とどまり22 億 4,800 万トンと予想され 0 万トン近くになると予想されている。し るが、それでも今年の世界の穀物利用 かし、主要な CIS 諸国の小麦生産国、 穀物 を 900 万トン上回る。しかし、比較的 特に干ばつによる生産急減がみられる 大きな穀物在庫があることから供給は ロシア、さらに EUと北米での生産減少 順調で、穀物利用に占める在庫率はわ が主な要因となって、世界の小麦生産 ずかに 1% 縮小の 23%と予想され、2 予想は、なおも2009 年から 4.7% の ( 9 月 1 日に発表された)2010 年の世界の 007 / 08 年に記録された 19.6%という 減少と予想される。 穀物生産予想は、前回の予想を若干 30 年来の低水準を十分に上回る。多く 2010 / 11 年の世界の小麦利用の見通 上回り、22 億 3,900 万トンに改訂され の穀物の国際価格は最近数週間で急 しは、6 億 6,600 万トンへと若干上方 た(精米換算のコメを含む)。2010 年の 激に上昇した。FAO の穀物価格指数は、 修正された。食用利用の増加は、平均 世界の穀物生産は、2009 年をちょうど 8 月に 182と、2009 年 6 月 以 降 の 最 人口の伸びと足並みを揃えており、食 1% 下回り史上 3 番目の記録の水準と 高値に達した。特に小麦とトウモロコシ 用消費は合計 4 億 6,700 万トンに達す なる。独立国家共同体( CIS )諸国での 価格が上昇を続けていることから 9 月に るとみられる。しかし、小麦の飼料用利 小麦と大麦の大幅な生産減が、減産が は指数はさらに上昇するものとみられる。 用は 2 年続きで伸びず、1 億 2,300 万 懸念される主な要因である。 2010 / 11 年の世界の穀物貿易は、主 トン前後にとどまると予想される。 国際価格が高く、飼料用需要の伸びが として小麦の出荷減少により若干( 1% ) 最新の生産と利用見通しに基づき、20 緩慢と予想されることから、2010 / 11 縮小し、2 億 6,200 万トンになると予想 11 年の小麦の期末在庫は、前回予想 年の世界の穀物利用はわずかな拡大に される。世界貿易が少し減少するにもか を 300 万トン上回るが、8 年来最高だ かわらず、穀物価格上昇のため、2010 った期首在庫を 9% 下回る約 1 億 8,40 / 11 年の国際穀物輸入勘定は、2009 0 万トンに修正された。今月の予想が高 / 10 年よりも12% 高い 770 億 USドル くなったのは、第 1 にオーストラリアで に増加すると予想されるが、最高であっ の在庫増予想によるものである。2010 た 2007 / 08 年よりも28% 低い。 / 11 年の小麦利用に対する在庫率は現 穀物の利用に対する在庫率 ※1 30 % 30 % コメ 26 穀物計 18 14 小麦 期比 2.5% 減だが 30 年来の低水準を 記録した 2007 / 08 年よりも5.5% 高い。 18 オーストラリアでの豊作予想により 小麦の供給見通しが向上 今季、5 つの主要輸出国の供給状況が 14 世界の小麦生産は、この数週間オース 比較的良好であることから、期末在庫 トラリアで好天が続き小麦の収穫予想 の全消失(国内利用および輸出の総計)に が増加したことから、現時点で、前回 対する割合は、現在、18.6%と予想 の予想よりも 400 万トン多い 6 億 5,00 されている。これは、前期比でほぼ 3 22 粗粒穀物 10 10 06 / 07 07/ 08 08 / 09 09 / 10 10 / 11年 推定 ※2 予測 ※1 期末在庫と次期の利用を比較 出典:FAO ※2 2010 / 11 年度の利用は 1990 / 2000 年度から 2009 / 2010 年度にかけての推定に基づいた傾向値 21 小麦 22 時点では 27.7%と算出されており、前 26 WINTER 2010 CIS 諸国では生産が急減したものの 2010 年の世界の穀物生産は 史上 3 番目の記録 Cr op Pr ospects and Food Situation 穀物見通しと食料事情 % の減 少だが、2007 / 08 年の 12% によるものである。この減少があっても、 2006 / 07 年の最低水準より約 3% 増 以下に比して 7% の増加となる。 米国では史上最高の生産を記録するこ の、18% を下回る程度へ減少すると予 2010 / 11 年の世界小麦貿易(小麦粉を とになる。世界のトウモロコシ生産は 8 想される。しかし、供給が緊迫しつつあ 含む)の予想は、 9 月に 100 万トン増加し、 億 4,200 万トンに達すると予想されるが、 る兆候として、主要輸出国の全消失に 2009 / 10 年を 5% 下 回る 1 億 2, 000 これは史上最高値で、前年より2.5% 対する在庫率はさらに低下し、わずか 万トンになった。前回報告からの増加は、 増になる。米国に次ぐ世界第 2 のトウモ 10%と予想される。2009 / 10 年は 12. オーストラリアからの輸出増予想を反映 ロコシ生産国である中国も、今年、史 5%、最近で最も低かった 2006 / 07 している。 上最高の生産が予想される。これに対し、 年と2007 / 08 年は 12% であった。比 従来からの主要輸出 5 ヵ国からの小麦 世界の大麦生産は、今年 14% 近く急 率減少の主要な要因は、米国における 出荷は、急増し、ロシアおよび他の主 減して、1 億 3,000 万トンにとどまり、 トウモロコシ在庫が 2004 年以降最低 要な CIS 諸国の輸出国からの輸出急減 40 年来の低水準になるとみられる。こ 水準に急減し、また EU におけるトウモ を埋め合わせると予想される。輸出増 れは、主として CISとEU の主要な生産 ロコシ、大麦在庫が急減したことである。 加の大部分は米国( 7 月 / 6 月の年度で前 国が天候に恵まれず生産が急減したこ 2010 / 11 年の粗粒穀物の世界貿易は、 期から 800 万トンの増)とオーストラリア とによる。 前期比 4% 増の 1 億 1,300 万トンに達 で予想されるものである。輸入側では、 2010 / 11 年の世界の粗粒穀物利用は、 すると予想される。大麦の十分な輸出 WINTER 2010 22 アジア諸国の総輸入量が前期から 800 11 億 2,200 万トンと前年からほとんど 供給がないことでトウモロコシ需要が急 万トン減少すると予想されるが、これは 変わらず、また今年の生産予想にほぼ 増したことが、この増加の主要な要因と 主としてイランでの豊作と最近発表され 見合うと予想される。飼料向け利用に みられる。世界のトウモロコシ貿易は、 た(いくつかの他の食料商品と並んだ)小麦 ついては、トウモロコシは 4 億 6,800 万 2009 / 10 年(編注:原文は 2010 / 11 年) 輸入禁止決定によるものである。小麦 トンと増減がないものの、大麦の飼料 から 800 万トン近く増加し、史上 2 番 価格上昇により、韓国が飼料用小麦の 向け利用(多くがロシアで利用されている) 目の記録となる 9,000 万トンに近づくと 輸入を減らすことも、輸入総量の減少 が約 6% 減少し 9,300 万トンになること 予想される。米国からの粗粒穀物輸出 に寄与するだろう。これに対し、アフリ から、全体として 1.4% 縮小し 6 億 2, は少なくとも200 万トン増の 5,000 万ト カでは輸入増が予想され、モロッコ、 600 万トンになると予想される。粗粒穀 ン以上と予想される。アルゼンチンから チュニジアなど北アフリカの国々で今年 物の食用利用は約 2% 増加して 1 億 9, の出荷も増加するとみられ、予想される の小麦生産が昨年の平年並の水準を下 500 万トンになると予想されるが、その CIS 諸国および EU の輸出国からの大麦 回るものだったことから、北アフリカの 大部分はサハラ以南アフリカ地域での とトウモロコシの販売減少を十分に埋め 輸入が最も大きくなると予想される。 生産増予想によるものだ。粗粒穀物の 合わせる。予想される輸入増の多くは、 工業用利用もさらに拡大すると予想され 数ヵ国が高値の飼料用小麦に代わって 粗粒穀物 るが、米国でのトウモロコシ・ベースの 粗粒穀物を購入するとの予想によるも 供給は順調だが 需要は弱い エタノール生産の減速予想が主な要因 のである。また、北アフリカ諸国、特に となって、ここ2 3 年よりも緩慢なペ エジプトとチュニジア、および中米(特に 世界の粗粒穀物生産は、前回報告を ースになるだろう。 メキシコ)でも輸入増が予想される。 約 300 万トン下回り、前年の水準より 世界の粗粒穀物の 2011 年期末在庫は、 若干低い 12 億 2,200 万トンになると予 比較的高かった期首水準から 3% 減少 想される。最新予想での減少はすべて、 し、2 億 800 万トンと予想される。20 コメ 2010 年の生産は史上最高を 予想されるが、貿易は若干減少 米国のトウモロコシ生産予想がわずか 10 / 11 年、粗粒穀物の世界利用に対 に減少し 3 億 3,430 万トンになったこと する在庫率は 2009 / 10 年より1% 減、 9 月以降、北半球の主要な生産国では、 2010 年の一期作の収穫が進んでいくと みられるが、これは例年、今期の収量 世界の穀物状況( 100 万トン、精米換算) 2008 / 09 の大部分を占める。この 2 3 ヵ月以上、 2009 / 10 推定 主要国のうち数ヵ国は、収穫されるコメ の収量や品質に悪影響を及ぼす干ばつ とそれに続く洪水といった問題に直面し た。その結果、FAO は 2010 年の世界 のコメ生産予想を約 500 万トン下方修 正し、精米換算で 4 億 6,700 万トンと したが、それでも2009 年より3% 増の 史上最高を記録することになる。2010 年の世界のコメ生産予想を大きく引き 下げたのは、パキスタンにおける 2 大生 産地のパンジャブ州とシンディ州で、洪 水による大きな被害が発生したことであ る。中国も、南部のいくつかの省で天 候不順のため早生米の収量が昨年比 6 % 減となり、2010 年の生産予想を引 き下げた。 2009 / 10 年に対する 2010 / 11 年の変化(%) 2010 / 11 予測 2010 9/1 2010 9 / 24 生産 1 世界 開発途上国 先進国 2285.3 1239.9 1045.3 2261.0 1237.4 1023.5 2237.7 1267.5 970.2 2238.6 1270.0 968.6 1.0 貿易※ 2 世界 開発途上国 先進国 281.5 72.0 209.5 264.8 66.3 198.6 261.1 73.7 187.4 262.2 74 187.7 1.0 利用 世界 2182.3 開発途上国 1333.1 先進国 849.2 1 人当たり食用利用( kg / 年) 152.2 2236.5 1358.0 878.5 152.1 2247.9 1386.1 861.8 152.7 2248.1 1386.6 861.4 152.6 0.5 2.1 1.9 0.3 540.6 370.1 170.5 24.0 527.1 378.8 148.3 23.1 524.5 380.9 143.6 23.0 3 2.9 15.8 4.2 ※ 在庫※ 3 世界 開発途上国 先進国 利用に対する在庫率 518.1 349.8 168.4 23.2 2.6 5.4 12.2 5.5 注 合計は四捨五入されていないデータから算出した ※ 1 記載されている 2 ヵ年のうち初年度のデータを示す ※ 2 小麦と粗粒穀物の貿易は、7 月 / 6 月市場年度に基づいた輸出を示す。コメの貿易は、記載されている 2 ヵ年のうち後者の輸出を示す ※ 3 国ごとの作物年度末時点での在庫の合計を示し、いかなる時点での世界の在庫レベルを示すものではない 現在の予想では、モンスーンの雨に恵 では記録的な生産になると予想される。 が予想されるインドの回復に支えられ、 失われ、今季の収量は精米換算で 500 2011 年のコメの世界貿易は、2010 年 アジアでのコメの収量は3%以上回復し、 万トンにとどまると測定されている。他 の予想量よりも100 万トンすなわち 3.3 もみ米換算で 6 億 3,400 万トンとなって の地域では、西アフリカおよび東アフリ % 減の 2900 万トンに縮小するとみられ いる。同様に、2009 年に収量減であ カ諸国の生産予想はおおむね好調で、 る。これは主として、アジア諸国、特に った日本、ネパール、フィリピンも、今 多くの国で豊作となるだろう。しかし、 バングラデシュ、中国、インドネシア、 期を通して続いた不足の大部分を回復 政府の水使用制限により作付けを縮小 フィリピンで 2010 年が豊作になり輸入 すると予想され、また、バングラデシュ、 したエジプトでは、生産が縮小すると予 が減少するとの予想を反映している。 インドネシア、イラン、スリランカ、そし 想される。今季の収穫の大部分が終わ 国際価格の上昇もあって、この地域へ て限られた量ではあるがベトナムも、昨 った南部アフリカ諸国に関しては、マダ のコメの流れは、2010 年の 1,380 万 年に引き続き収量増となるだろう。昨季 ガスカルでは史上最高の生産と予想さ トンから 1,310 万トンへと減少すると予 に比してごくわずかの増加ではあるが、 れるが、生産期を通して干ばつの問題 想される。アフリカでは、輸入は 980 最新の予想では、中国も史上最高の生 があったモザンビークでは生産減となる。 万トン程度の水準を保つと予想される。 産が予想されている。それに対し、カン 降雨の遅れとそれに続く大雨に見舞わ 主要な輸入国のうち、ナイジェリアとコ ボジア、北朝鮮、韓国、ラオス、ミャ れた南米、特にボリビア、ブラジル、ウ ートジボワールは購入量に変化がなく、 ンマー、パキスタンでは、主として天候 ルグアイも生産減となった。残る地域で 南アフリカ、ケニア、セネガルは量を増 不順のために減産が予想されている。 は、オーストラリアは豊作で収穫を終え やし、一方でマダガスカルとモザンビー パキスタンの場合、広範囲に及ぶ洪水 ると予想され、EU、ロシア、特に米国 クは量を減らすと予想される。ラテンア 23 のため、現時点で 240 万トンのコメが WINTER 2010 まれて生産を立て直し史上最高の生産 Cr op Pr ospects and Food Situation 穀物見通しと食料事情 WINTER 2010 24 メリカおよびカリブ海諸国では、現在の 価格 トウモロコシ価格は、特に米国の生産 予想によれば、ブラジルとベネズエラへ 予想が下方修正された 8 月後半から 9 の搬入量は減少するが、地域の他の 国際穀物価格は 9 月にさらに上昇 国々には変化がないだろう。EU の輸入 国際小麦価格は上昇を続けている。8月、 の 3 週間の米国産トウモロコシ( No.2 量は、現時点では、2010 年の 110 万 ロシアの小麦輸出禁止が 8 月中旬から 黄色、湾岸)価格は 1トン当たり204US トンから増えて 120 万トンになると予想 年末まで続くことに、市場が反応した。 ドルと、2008 年 9 月以降の最高値をつ される。 9 月 2 日、輸出禁止措置が 2011 年の けたが、2008 年 6 月の史上最高値に 予想される世界の 2011 年の輸出減少 収穫期まで続く可能性があるとの発表 比べると27% 低い。先物市場での価 は、供給困難に直面するとみられるカン により、国際価格上昇にさらに弾みが 格も急 上 昇し、9 月第 3 週の 2010 年 ボジア、ベトナム、そして特にパキスタ ついた。9 月最初の 3 週間の米国産小 12 月引き渡し CBOTトウモロコシ先物 ンからの出荷減予想を反映している。こ 麦( No.2 硬質赤色冬小麦、湾岸出荷)の 価格は 1トン当たり199USドルと、今 れに対し、ブラジル、インド、タイは販 平均価格は、昨年 9 月の平均より55 期初めより30% 上昇している。 売を拡大する可能性がある。インドの % 高い 309USドル /トンであった。そ 数ヵ月の比較的安定した時期を経て、 場合、政府が現行の非バスマティ米の れでも小麦価格は(名目価格が)史上最 コメ価格は 2010 年 6 月から 9 月にかけ 輸出制限を撤廃すると、現在の予想以 高であった 2008 年 3 月より36% 低い。 て上昇した。特に 9 月には、8 月に 217 上に輸出が拡大する可能性がある。米 ヨーロッパ産小麦の輸出価格の大幅な であった FAO の価格指標平均が 9 月に 国からの出荷は、公式の予想では 360 上昇はさらに顕著となり、黒海地域で は 232 に高騰した。9 月には、2009 年 万トンと、2010 年の予想量をわずかに の輸入用購入が EU 産(主としてフランス、 には米国と並んで世界で 3 番目の国際 上回る。 ドイツ産) 小麦へ急に移行したことから、 的なコメ供給国になったパキスタンが洪 現在の増加基調の 2010 / 11 年収穫予 80% を超える上昇となっている。最新 水被害を受けたことから、国際コメ価 想に従えば、世界生産は世界のコメ消 の報告がオーストラリアの生産を前回よ 格上昇の圧力が高まった。小麦をめぐ 費を 460 万トンほど上回り、世界の在 りも増加して予測したことが一時的に価 る国際的な見積もりの上昇がコメの輸 庫が 2010 年の 1 億 2,500 万トンから 2 格を軟化させたが、全体的な供給切迫 入へのシフトを促したことも、コメ価格 011 年には 1 億 3,300 万トンへ増加す の予想と最近のトウモロコシ価格上昇 を下支えした。例えば、7 月に 466US ると予想される。在庫の多くは、伝統 が小麦市場を下支えし、堅調な価格を ドル /トンだったタイ白米 100%B のベン 的な輸出国、特に 2010 年に記録的な 保っている。9 月第 3 週の、2010 年 12 チマークは、8 月に 472ドル、9 月最初 豊作が予想される中国とインドに集中す 月引き渡し CBOT 小麦先物は、264US の 3 週間には 496ドルへと上昇した。バ ると予想される。インドでは、7 月 1 日、 ドル /トンに近づいている。これは 8 月初 ングラデシュとイラクで政府の輸入入札 政府の大量購入により公的在庫が 2,4 めにロシアが輸出禁止を発表した際の が始まったことで、さらに低品質のイン 30 万トンとなり、その時点で緊急用保 23 ヵ月ぶりの高値より12% 低いが、1 ディカ米も上昇し、7 月に 325USドル / 管米として定められた 980 万トンを大き 年前の同時期よりも50% 近く高い。 トンだったベトナム米( 25% の破砕米を く超えたことが報じられた。生産増によ 粗粒穀物価格も今期初めからかなり上 含む)の価格が 9 月最初の 3 週間に 415 る在庫増は米国でも予想される。一方、 昇した。大麦価格が最も急騰し、特に ドルへと急騰した。ジャポニカ米および エジプト、ミャンマー、パキスタン、タイ、 黒海地域での供給がこれまでになく厳し 香り米も、記録的な価格になった。 月にかけて上昇が加速した。9 月最初 ベトナムといったいくつかの主要な輸出 く、また EU での不足が確認された 7 月 国では、コメ在庫が縮小すると予想さ から 8 月にかけて上昇がみられた。1ト れる。輸入国の全在庫は前年比で安定 ン当たり250USドル以上となった(飼料 を保つとみられる。 用)大麦価格は、昨年からほぼ倍増した。 翻訳:斉藤 龍一郎 出典:「 Crop Prospects and Food Situation, September 2010 」FAO, 2010( pp.2 9 より抜粋) 食料危機最新情報 ※ 外部からの支援を必要としている国 ( 30ヵ国) 食料不安の性質 国名 主な理由 変化 (2010 年 5 月の前報告から ■ 変化なし アフリカ( 21 ヵ国) コンゴ共和国 食料生産/供給の異常な不足 モーリタニア 数年来の干ばつ/ 2009 年食 料生産の急減/ 37 万人に食 料援助が必要 ■ ニジェール 2009 年の穀物生産の急減お ■ ジンバブエ よび 牧 畜の不 振により、 約 710 万人(人口の 48%)に食料 援助が必要 農村部・都市部の推定 168 万人に食料援助が必要/経 済危機によって通常の食料へ のアクセスが困難 ■ リベリア シエラレオネ ソマリア 経済危機と多くの国内避難民 に起因する厳しい食料危機が 続く/最近の降雨により干ば つに苦しんでいた牧畜地帯で 牧草/水利用が回復 ▲ 戦争被害から回復の遅れ/ 不十分な社会サービスとイン フラストラクチャー、市場アク セスの困難 ■ 戦争被害から回復の遅れ/ 通貨安に伴うインフレーショ ンの昂進により購買力が低下 し食料安全保障が悪化 ■ 現在も続く内戦により約 200 万人に食料援助が必要/ 20 09 / 10 年小雨季「デイル」お よび 2010 年大雨季「グ」の 穀物生産好調によって状況は 改善 ▲ ■ エチオピア 2009 年の「メーアー」雨季 が不 作だった地 域で約 520 万人が食料援助を必要とし、 慢性的な栄養不良に苦しむ/ 2010 年の「ベルグ」雨季の 豊作により食料安全保障の諸 条件が改善 ▲ 食料の高価格とインフレが食 料へのアクセスにマイナスの 影響 ■ 主として北西部の牧畜地帯・ 半農半牧地帯および南東部と 海岸部の低地において推定 160 万人が食料不安に/ 20 09 / 10 年の小雨季の豊作に より食料安全保障の状況は改 善 ▲ マダガスカル 穀物生産の不作のため南部 の複数の自治体で慢性的な 食料危機が続いているが、国 産米の豊作により市場への供 給が改善 ▲ マラウイ 降雨不足により南部のいくつ + かの地区はこれまでにない不 作/推定 106 万人に食料援 助が必要 社会不安により農地利用が困 難であることに加え、食料価 格の上昇や変動が食料へのア クセスを困難に ■ 多数の難民(スーダンより約 27 万 ■ 人、 中央アフリカより約 8 万 2,000 人) が南部と東部に避難/最近 の洪水による作物被害 スーダン 深刻な社会不安 ■ 広範囲なアクセスの不足 北朝鮮 モンゴル 経済的混乱と農業投入財不 足が続き、食料生産の不足と 食料危機の悪化をもたらして いる ▼ 2009 / 10 年冬の厳しい寒さ ▼ (ズッド)により4,400 万頭の家 畜のうち 600 万頭近くが死亡、 約 50 万人の生計に影響 厳しい局地的食料不安 アフガニスタン 紛争と社会不安/中央部と北 東部の食料不安が緩和 キルギスタン 社会不安、最近の民族紛争、+ 国内避難民の影響 ネパール 市場アクセスと輸送の制約に より食料が不足し価格が不安 定 ▲ パキスタン 大洪水の影響で 2,060 万人 の住居、インフラおよび収穫 に被害 ▼ イエメン 最近の戦闘の影響/国内避 難民(約 33 万人が現在も避難キャ ンプに滞在)/難民 ■ ▲ ラテンアメリカ・カリブ海諸国( 1 ヵ国) ハイチ 食料消費は改善したものの、 大地震前に比べ食料危機のレ ベルは高い ▲ 南部および中央部地域で穀 + 物生産の不作により約 45 万 人に食料援助が必要 紛争(ダルフール)、社会不安(南 ■ 部スーダン)、2009 年 大 雨 季 の穀物生産の減少、さらに食 料の高価格をはじめとする複 数の要 因が重なり、 約 640 万人に食料援助が必要 ウガンダ 主に 2009 年大雨季の不作と 社会不安により、北部とカラ モジャ地域で推定 61 万人に 食料援助が必要 ▲ ※「外部支援を必要としている国」とは、伝えられる食料不安の危機的問題に対処する資源が欠如していると予想される国である。食料危機は、ほとんど常に複数の要因が組み合わさったものであるが、その対応に おいては、食料危機の特質が、主として食料入手可能性の欠如に関連しているものなのか、食料へのアクセスが限られているものなのか、あるいは、厳しい状況ではあるが局地的な問題であるのか、といったことを 確認することが重要である。したがって、外部支援を必要とする国のリストは、概略的ではあるが相互に他を排除するものではない次の 3 つのカテゴリーに区分される。●凶作、自然災害、輸入の途絶、流通の混乱、 収穫後の甚大な損耗、その他の供給阻害要因によって、総体的な食料の生産/供給における異常な不足に直面している国。●きわめて低い所得、異常な高食料価格、あるいは当該国内において食料が流通しない といったことが原因で、人口の大多数が地方市場から食料を調達できないというような、広範な食料へのアクセス欠如が見受けられる国。●難民の流入、国内避難民の集中、あるいは凶作と極貧が組み合わさった地 域など、厳しい局地的な食料不安に直面している国 25 チャド ▲ イラク WINTER 2010 中央アフリカ ギニア アジア( 8 ヵ国) 食料生産/供給の異常な不足 コンゴ民主共和国 社会不安/国内避難民/帰 還民/食料価格の高止まり モザンビーク キャッサバ生産の減少をはじ めとする複数の要因が重なり 北部では慢性的な食料危機 が続く ■ 超える難民流入が限られた食 料資源をさらに圧迫 ■ ケニア 厳しい局地的食料不安 ブルンジ 2009 年 末 以 降の 10 万 人を 戦争被害/国内の一部(主に 北部のいくつかの地域)では支援 の欠如により近年農業が大き な損害 コートジボワール 広範囲なアクセスの不足 エリトリア ▲ 好転中 ▼ 悪化中 +新規) 国際平和研究所での国際シンポジ ウム「グローバリゼーションと『南』 の農民」。左側はブラジル土地な し農民の運動リーダー。中央は地 球環境学者、故原後雄太(はらご ゆうた)さん( 2005 年) 。 私たちの南北問題研究ゼミの特色は、もう20 年以上に たことがあります。 わたり、演習の一環として、食べ物を自分たちで作って 「 FIAT PA実際、FAO のロゴもよく見ると、小麦の下に、 みる体験が組み込まれていることです。そのせいか、よく NIS 」というラテン語が記されています。FIAT は「充たす」 外部の方から、おたくの学部は農学部系ですかと聞かれ で PANIS は「パン」です。これは第二次大戦後復興で、 ます。体験必修の理由は、 国際学( international studies ) 一日も早く万人が食べられる農業を促進する使命を意味 という世界を幅広く読み、よりよく生きるというリベラルア しています。 ーツの理念と食料生産とは密接な関係があるからです。 とはいっても、自然科学系ではないので、命の再生産に ■ 関わる諸問題の国際政治経済学からの分析と考察が中 人間社会は、一人一人が安心して食べ物を口にしないと、 心です。食料生産体験は、初めは近くの市民農園地を 自由な考え方や生き方ができなくなり、ともすれば、争 借りて、サツマイモを作ったり、隣接する市立公園の田 いの原因となります。平和というコトバも、「平」は万人 んぼで有機米を栽培したりしましたが、今では、秩父の に対して平等で、「和」は穀物を指す禾と 山村で麦、イモなどに取り組んでいます。ゼミでよく言う 口からなっていて、万人が平等に食べ物 のは、作るまでは自然科学の法則、収穫物の処分・分 を口にできる状態を意味することだと聞い 配は、社会科学の領域ということです。実際、収穫物は 国際学としてなぜ食を作り、学ぶのか。 作るまでは自然科学で、分配は社会科学で 平和研による平和学のブ ックレット「南を考える」 WINTER 2010 ( 2010 年)。 明治学院大学 国際学部 教授/国際平和研究所 元所長 勝俣 誠 30 Food for All FAO の活動にご協力いただいている団体 FAO の使命は「人類の飢餓からの解放と世界経済の発展に貢献すること」です。 そのために「 FOOD for ALL(すべての人に食料を)」というスローガンを掲げてテレフード・キャンペーンを行っています。 自分たちでは全部消費せず、お裾分けという自発的再分 人々の購買力でなく、人権をベ 配をしています。 ースとした政治決定です。FAO FAOとの関係では、ゼミ生が自分たちで FAO 日本事務 もこのスタンスから、世界人権 所から貸し出された途上国の食料問題のパネル展を学 宣言の「食料への権利」と、そ 生食堂で実施したり、共催でイベントを行ったりするほか、 こから政策的に導き出される 横浜市国際交流協会( YOKE )と明治学院大学が共催す 「食料主権」の実現を強く訴え る「国際機関実務体験プログラム」を通じて、FAO 日本 てきています。 事務所にインターンを派遣してきています。 第 2 は、「南」が「北」の生活・ 自らの農具改良を説明するセネガルの農民。 生産水準に急速に近づくにつ ■ では、なぜ今、国際政治経済学系のゼミで、食という れて、激化している資源争奪をどう避けるかをこの生命 テーマにこだわるのか、次の 2 点を挙げておきたいと思 財から考えたいからです。今や自国民の胃を充たすため います。 には、資金力によって他国の農地を取得する動きも広が 第 1 は、グローバル市場化が進み、私たちの食べ物が、 っています。この争いが地球環境の破壊と生物多様性の 単なる商品となってしまい、人類が各地域の多様性を生 危機に行き着かないようにするには、持続可能なもうひ かして形成してきた食生活、生産の地域の自立システム とつの地球住民の食生活のあり方、ひいては、文明のあ が崩壊し、しばしば食料難を起こすからです。これは市 り方を考える知的作業が不可欠です。これをゼミではよ 場の原理の当然の帰結で、その危険を唯一回避する手 り少なく消費し、よりよく生きる文明を探る、自然をこれ 段は、食べ物は単なる商品でなく、万人に人権によって 以上商品にしない脱経済成長のシナリオが求められてい 確保させる生命財であるという認識です。これは優れて、 ます。その問いを深く考えるには、デジタル世界から時々 脱出して、自ら身体労働を基本とする農の体験が不可欠 です。アフリカなどの「南」の地域での実習では、必ず 関連ウェブサイト: 明治学院大学国際学部:www.meijigakuin.ac.jp/~kokusai2/ 明治学院大学国際平和研究所:www.meijigakuin.ac.jp/~prime/ WINTER 2010 農村体験を入れているのもそのためです。 31 有機米の稲架組みを指 導する筆者( 1993 年)。 Pu b l i c a t i o n s FAO は「食料・農林水産業に関する世界最大のデータバンク」 と言われており、加盟国や他の国際機関、衛星データ等からさま ざまな情報を収集・分析・管理し、インターネットや多くの刊行 資料を通じて世界中に情報を提供しています。FAO 寄託図書館 は、日本国内においてこれらの情報を多くの人が自由に利用できる よう、各種サービスを行っています。お気軽にご利用ください。 FAO 寄託図書館は(社)国際農林業協働協会(JAICAF)が運営しています。 ■ 所在地 NEW 神奈川県横浜市西区みなとみらい 1-1-1 パシフィコ横浜 横浜国際協力センター 5F The Wealth of Waste FAO日本事務所内 資源としての廃水 都市化や気候変動などによっ ■ 利用予約および問い合わせ て水資源への圧力が世界的に Tel:045-226-3148 Fax:045-222-1103 E-mail:[email protected] 高まるなか、農業における廃水 の再生利用が注目されています。 本書は、再生水利用を経済的 ■ 開館時間 側面から考察するとともに、ス 平日 10 : 00 ∼ 12 : 30 13 : 30 ∼ 17 : 00 ペインやメキシコの成功例を紹 ■ サービス内容 www.fao.org/docrep/012/ i1629e/i1629e00.htm 介します。 FAO 資料の閲覧(館内のみ) FAO 2010 年 9 月発行 129 ページ A4 判 英語 ISBN:978-92-5-106578-5 インターネット蔵書検索(ウェブサイトより) レファレンスサービス(電話、E-mail でも受け付けています) 複写サービス(有料) ■ ウェブサイ ト www.jaicaf.or.jp/fao/library.htm F A O 寄 託 図 書 館 のご 案 内 FA O D e p o s i t o r y L i b r a r y i n Ja p a n NEW パシフィコ横浜 国立大ホール FAO 寄託図書館 横浜国際協力センター 5F FAO日本事務所内 WINTER 2010 インターコンチネンタルホテル 展示ホール 会議センター アクセス The Second Report on the State of The World s Plant Genetic Resources for Food and Agriculture 食料・農業のための植物遺伝資源白書 第 2 回報告 食料・農業のための植物遺伝 資源( PGRFA )に関する世界の 32 みなとみらい線みなとみらい駅 現状をまとめた報告書。第 1 クイーンズスクエア連絡口 回報告から 12 年ぶりの発行と 徒歩 3 分 みなとみらい駅 2F JR・横浜市営地下鉄桜木町駅 徒歩 12 分 ランドマークタワー チネンタルホテルを目指してお エスカレーター 動く歩道 出でください。1 階または2 階(連 絡橋)のホテル正面入り口に向 より5 階へお越しください。 なります。113 ヵ国の国 別 報 告データの分析結果や、食料 安全保障と持続的な農業開発 いずれの場合も、インターコン かって左側にあるエレベーター クイーンズスクエア 至横浜 JR 桜木町駅 至関内 に対する PGRFA の貢献を論じ ます。 www.fao.org/docrep/013/ i1500e/i1500e00.htm FAO 2010 年 10 月発行 370 ページ 25.5×18cm 英語ほか ISBN:978-92-5-106534-1 中近東地域は、広大な乾燥地帯を有し の先天的、構造的な制約要因のひとつ ており、世界で最も水資源の乏しい地域 となっています。地域の穀類の生産予測 のひとつです。地域の平均年間降水量 は、需要をはるかに下回る傾向を示して は 135mmで、日本の10 分の1にも及びま います。地域の人口増加率は世界平均 せん。また、この地域の国々は食料輸入 のおよそ倍であり、国々は生産と需要の への依存率が高く、国々の大半は少なく ギャップを輸入にてまかなわざるを得ませ ともカロリーの半分を輸入でまかなってい んが、それは世界の農産物市場変動に るのが現状です。農業が、この地域にお 対して脆弱であることを意味しています。 ける水資源利用の主要セクターですが、 乏しい水資源が地域の食料生産増加 ■ また、この地域では、地表を流れる水 FAO で 活躍する 日本人 国連で働く、 とは? No. 22 FAO 中近東地域事務所 自然資源(水資源) 開発/管理担当官 阿部 信也 イランにて、かんがいスキーム改善ミッションの集合写真(後段右から 4 人目が筆者)。 WINTER 2010 資源の制約から、地下水に頼っている 国々も多いのですが、著しい量の水が、 ほぼ補充のされない化石地下水と呼ば れるものから汲み上げられており、持続 36 可能性への問題を抱えています。一方 で、地域の国々におけるかんがいの水利 用効率は改善の余地が大きく、一滴の 水を大切にする更なる努力が必要です。 さらに、気温上昇、降水量低下、異常 気象、海水面上昇といった気候変動の 予測は、地域の水資源欠乏の悪化や農 業生産性への影響を示しています。 ■ 私は現在、東はイランから西はモーリタニ アにわたる18ヵ国をカバーするFAO 中 近東地域事務所(所在地:カイロ、エジプト) において、水資源と気候変動分野に関 する技術部署に所属しています。仕事 を通じ、この地域における食料安全、水 資源、気候変動分野に対するFAO の 重要性を大いに感じています。日本では オフィスでの会議の様子。なお、職員の出身国で日本から一番近い国はインド。 8 月に「世界食料デー月間 2010 」シリー ※ ズのセミナー において、この地域の食 した。また、大学院や仕事先でも素 動への課題の観点から発表をさせてい 晴らしい方々に巡り合うことができ、多 ただく機会を賜りました。当日は、大変暑 くを学び、助けていただきました。現 い中、70 名もの方々に参加をしていただ 在の上司も大変素晴らしい方です。 きまして、ここに厚く御礼を申し上げます。 お世話になった方々には、連絡を絶や ■ 中近東って、 どんなところ? 料問題について水資源の現状と気候変 さずに、大切な宝を失わないことを心 FAOに入るまでの経歴は、私の場合、 掛けています。 比較的長い時間を経ています。大学で ■ 農業を学び、民間企業での食料輸入業 キャリア形成も容易ではありません。入 務、留学を経る間に、序々に途上国開 るための窓口、クリアすべきハードル、 キャリア戦略:開発業界への門は狭く、 発支援に目を向けていきました。その後、 その後のキャリア展開も含め、ウェブサ 開発コンサルティング会社勤務を経て、 イトやポストの必要要件を分析すること 米国の大学院で農業における水資源開 などにより、キャリア形成戦略を立てる 発・管理を研究し、その後、国際協力 ことを心掛けてきました。私はロジック 銀行( JBIC、現 JICA )勤務期間中に、 ツリーを使って考えるようにしています。 外務省によるアソシエートエクスパート等 ■ 派遣制度( JPO 制度)に合格し、2009 年 れない場所での生活をすることになり、 より現職に就いています。 大変感謝をしています。今後も仕事 上、家族とともに途上国で生活すること、 または単身での海外勤務となることが す方々へのメッセージとして、私が大切 考えられます。仕事と家庭の両立の と感じていることを述べさせて頂ければと 大切さを肌で感じ、今は一緒に来てく 思います。 れている家族を大切にできるよう、日々 ■ 人との巡り合い:開発業界に入った初 37 最後に FAO や国際協力の仕事を目指 WINTER 2010 ■ 家族:留学や仕事において、妻は慣 努力をしています。 期に、幾度かの国際協力メーリングリ ストのオフ会を通じて、貴重な人脈を 築くことができ、キャリア形成のアドバ イスをいただいたり、国連でのキャリア 形成小勉強会へ参加することができま ※ FAO 日本事務所主催、JAICAF 共催 関連ウェブサイト FAO Regional Office for the Near East: www.fao.org/world/Regional/RNE エジプトにて、かんがいスキーム改善ミッションにおけ る現地視察。 ブルキナファソの 9 月は雨季に 当たるが、雨の合間を縫って 女性たちへのインタビューを行 Photo Journal マリ ブルキナファソ ワガドゥグー ベナン ――National Alliance の活動現場を訪問して FAO 日本事務所 企画官 三原 香恵 トーゴ 食料安全保障と飢餓・栄養不良人口の削減 ■ を目的として、約 30 の国や地域で国内連帯 2003 年のローマの国際機関 による International Alliance Against Hunger( IAAH、 Alliance )がアドボカシーや啓発活動、農村 2010 年 10 月に Alliance Against Hunger and 住民への支援などに取り組んでいます。これ Malnutrition, AAHMと名称を変更)の設立を らの国のアライアンスとのネットワーキングの 受けて、ブルキナファソでは同年よりAlli- 可能性を検討するために、2010 年 9 月、比 ance Nationale Contre la Faim( ACF、飢 較的活動の活発なガーナとブルキナファソを 餓に対する国内連帯)という名称でアライアン ※1 訪問しました 。 スの活動を行っています。 33 ( National Alliance )や地域連帯( Regional ※2 WINTER 2010 コート ジボワール ガーナ ニジェール 西アフリカの 農村部女性への支援 った。 左:シアの木の下で。左から 2 番目が著者、左から 3 番目 が AFD / Buayaba の代表の Antoinette Ouédraogo さん。 西アフリカの逞しい女性を象徴するようなパワフルな女性。 右から 3 番目がNGO「緑のサヘル」 ( Action for Greening Sahel, AGS.JAPON )事務局長の菅川氏。 下:ACF ブルキナファソ の代表(左)と元代表(右)。西アフリカで最初に設立された National Allianceとしての自負心を持っていると筆者に語 ったのが印象的。活動の一環として、ブルキナファソ政府 の食料政策への働きかけも行っている。 ACF のメンバーのうち、女性の社会経済面 販売が行われています。シアバターは保湿力 での向上を目的に活動する女性グループ、A が高く、肌へのうるおい補給ということで、フ FD / Buayaba( Association Féminine pour le ランスの某有名ブランドでもシアシリーズの ASSANA のブティックも併設。 中:ASSANA のブティックの Développement )の活動を訪問しました。AF 製品を展開しているほどです(筆者も同シリー D / Buayaba は 3,200 人から成る 47 の女性 ズのクリームを愛用)。ASSANA のブティック 様子。石鹸、ポマード、クリ 組合をメンバーとする大規模な NGO であり、 に並べられた製品も負けず劣らず、日本人の 上:AFD / Buayaba の事務所。 ームなどを販売している。石鹸 は、1 つあたり100CFA フラン ( 655C F A フラン= 固 定レ ートで 1 Euro )。 下:ASSANA ではシ 主要プロジェクト「 ASSANA 」では、女性グ 目から見てもシンプルでお洒落なパッケージ ループの小規模社会事業の支援が行われて が女性にうけるのではないかと思いました。 います。ASSANA とはグルマンチェ語(同国 ■ の主要言語の一つ)で「シアバター」という意 ASSANA に続き、2 番目に訪れたのは ACF CFA フラン( 2010 年 9 月時点)。 味で、女性たちの手により、文字どおりシア のメンバー AMIFOB( Amicale des Forestiè- 価格が安い時期に多めに購入 の木の実から抽出されるシアバターを原料と res du Burkina )による女性グループ支援の した石鹸やクリームなどの美容製品の加工と 現場です。同グループでは野菜栽培活動を アバター抽出のためにシアの木 の実を購入。女性によれば、 訪問時の値段は 2.5kg で 350 しているとのこと。 WINTER 2010 石鹸製作過程。シアの木の実 から抽出されるシアバターに香 料と化成ソーダを混ぜて十分 34 にこねる。AFD / Buayaba 代 表の Antoinette Ouédraogo さん(右端)も作業に加わった。 石鹸作りの作業場でオクラを 処理する女性たち。 行っており、AMIFOB の支援のもと、メンバー と連携して National Alliance を設立予定で から徴収した会費を井戸の維持管理やガー すが、アフリカのアライアンスとの連携を行う ドマンへの支払いなどの経費に当てています。 ことで、食料安全保障への支援のみならず、 女性たちとの簡単なディスカッションを行った アフリカの農村部女性のエンパワーメントや ところ、2008 年に野菜栽培の活動を始めて ジェンダー平等の達成への貢献につながるこ 以来、「野菜取得による栄養改善を通じた健 とを期待しています。 切り分けたオクラを並べる女性 たち。オクラは乾燥させて保存 食として販売される。 康面での向上を実感した」 「野菜販売による 収益で子どもの衣服を購入できるようになっ た」などの声が聞かれました。 ※ 1 誌面のスペースの都合上、本ジャーナルでは主にブル ブルキナファソの農村部の女性の約 95% は ※3 生計のために農業に従事しています 。日本 でもNGO / NPO、民間企業、関係機関等 ※ 2 FAO、世界食糧計画( WFP )、国際農業開発基金( IFAD )、 Bioversity International の 4 機関。 ※3 FAO Gender and Land Rights DATABASE, Full Coun- try Report, Burkina Faso.:www.fao.org/gender/land rights/report/ Photo Journal WINTER 2010 キナファソについて記載。 ■ B u r k i n a Fa s o 35 左:AMIFOB はブルキナファソ国の環境・生活環境省 の女性森林技官により設立されており、女性グループ の 野 菜 栽 培 活 動 などの 支 援を行っている。 右: AMIFOB の支援する女性グループのメンバーたち。プ ロソフィスの苗木の他、ピーマン、キャベツ、ナス、に がうり、セロリ、ニンジン、オニオンなどを栽培。メン バーのキャパシティにより栽培エリアを配分している。 ■ FAO MAP 世界の栄養不足人口 ―― ハンガーマップ 2010 Prevalence of undernourishment in developing countries:Hunger Map 2010 開発途上国における栄養不足人口の割合 ( 2005 2007 年) WINTER 2010 非常に高い( 35% 以上) 高い( 25 34% ) やや高い( 15 24% ) やや低い( 5 14% ) 38 非常に低い( 5% 未満) データなし/データ不足 2010 年現在、世界では 9 億 2,500 万 引く危機」にある国々において食料安全 な取り組みが必要であるとして、世界 人が栄養不足に苦しんでいます。このう 保障を着実に高めていくためには、現 食糧計画( WFP )や他の国連機関と連 ち、特にアフリカを中心とする 22 ヵ国 地制度の枠組みを利用した長期的な支 携しながら、支援を強化しています。 では、紛争などの人為的要因や自然災 援活動の構築や、食料支援物資を現 害、もしくはそれらの併発によって、食 地で調達することによって現地の市場を 料不安や飢餓などを主な特徴とする危 活性化させるなどの取り組みが必要で 「長 機が8 年以上続いています。こうした す。FAO は、これらの国々への重点的 関連ウェブサイト: FAO Hunger:www.fao.org/hunger WINTER 2010 39 出典:FAO FAO News Winter 2010 通巻 821 号 平成 22 年 12 月 1 日発行(年 4 回発行) ISSN:0387 4338 発行:社団法人 国際農林業協働協会( JAICAF ) 共同編集:国際連合食糧農業機関( FAO )日本事務所 表紙写真:洪水防止のため、FAOとEU の支 援で堤防が設けられたエチオピア(アムハラ州)の 川( 2010 年)。アムハラ州をはじめとするエチオ ピアの各地域では、度重なる洪水に悩まされて おり、2007 年にはアムハラ州だけで 13 万人 以上が被災、約 3 万 4,000ha に及ぶ作物が 被害を受けた。 ©FAO / Giulio Napolitano