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オブ
ワー
ルド
ILO 広報誌 ― 2012年第1号(通巻17号)
若者が切るスタートを
より良いものに
オブ
ワー
I
ルド
L
O
広
報
誌
『ワールド・オブ・ワーク(仕事の世
界)』誌は、ジュネーブの ILO 本部コミュ
ニケーション・広報局より年 3 回発行さ
れている広報誌。英語版のほかに、アラ
ビア語、中国語、フィンランド語、フラ
ンス語、ヒンディー語、ノルウェー語、
スペイン語の各国語版がある。英語版の
記事の一部を和訳収録した日本語版は、
ILO 駐日事務所より年 2 回発行されてい
る。
本号は、『ワールド・オブ・ワーク』
誌英語版の第73号(2011年12月発行)及
び第74号(2012年 5 月発行)掲載記事の
一部を和訳収録したものに、本誌オリジ
ナル記事を盛り込んだものである。
本誌は国際労働機関(ILO)の公式文
書ではなく、表明された意見は必ずしも
ILO の見解を反映するものではない。本
書中に用いられる呼称は、いかなる国、
地域、領域、その当局者の法的状態、ま
たはその境界の決定に関する ILO 側のい
かなる見解をも示すものではない。
企業名、商品名及び製造過程への言及
は ILO の支持を意味するものではなく、
また、特定の企業、商品または製造過程
への言及がなされないことは ILO の不支
持を表すものではない。
目 次
2012年 第1号(通巻17号)
特集報告 ILO の20年の歩み
4
14
17
©ILO
『World of Work』誌と振り返る ILO の20年:1992〜2012年
本誌の原書である『World of Work』誌は ILO の広報誌として1992年
に創刊され、2012年5月に発行された第74号で最終号を迎えた。同誌
に掲載されている主な記事の紹介を通じてこの20年間の ILO の歩みを
振り返る。この過程はまた、市場経済化とグローバル化が進む冷戦後
の世界の中で国際労働基準が ILO の専管事項として確立し、1999年に
就任し、2012年9月末で退任するフアン・ソマビア ILO 事務局長が就任
当初から提唱した「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らし
い仕事)を全ての人へ」という目標が世界に浸透していった歴史でも
ある。
第101回 ILO 総会
(ジュネーブ・2012年)にて、
ILO の現事務局長(右)と
次期事務局長
社会正義のバトンを引き継ぐ:ソマビア事務局長からライダー事務局長へ
第101回 ILO 総会の主な成果
特集報告 若者により良いスタートを
20
21
22
23
24
25
若者の雇用危機:より良い未来に向かう道
2012年の第101回 ILO 総会では、深刻な状況にある若者の雇用危機に
関する一般討議が行われ、効果が確認されている様々な対処策を列挙
してこの危機に早急に対処する革新的な手法と政治的な公約を求める
決議が採択された。以下の記事では、世界各地で見られる若者の就業
イニシアチブの成功例の一部を紹介する。
©M. Crozet/ILO
社会正義とディーセント・ワークを熱望するアラブの若者たち
今日の仕事に合った技能を若者に
ケニアで芽吹く若者の就業運動
ペルーの若者向け雇用・移住サービス
一段先に進む東チモールの若者美容師
一般記事
27
30
変わりゆく世界:職場の高齢化に適応する
32
34
36
大洪水の後で:アジアにおける生活と生計手段の再建
病人を就労に適した状態に:
職場復帰ツールとして普及が進むケース・マネジメント
©M. Crozet/ILO
女性:未発掘の資源
ディーセント・ワークと教育:互いにプラスな関係
最近の動き 世界各地で働く ILO
38
障害者の権利国連基金 ほか
ILO 駐日事務所より
39
書籍紹介
©ILO
読者の方々へのお知らせ
本文及び写真(フォト・エージェン
シーのものを除く)は、出典明記のうえ、
自由に転載できます(掲載誌を下記宛お
送りください)。
発行:ILO 駐日事務所
〒150-0001
東京都渋谷区神宮前5-53-70
国連大学本部ビル8階
TEL:03-5467-2701
FAX:03-5467-2700
http://www.ilo.org/tokyo
印刷:㈱プレシーズ
メディアを取り巻く景観が猛スピードで変化しているのに合わせ、
ILO 本部コミュニケーション・広報
局は従来の読者の方々により良いサービスをご提供すると同時に若者を含む新たな読者の方々のニーズ
に応えることを目指し、デジタル・プラットホームのさらなる活用を図ることを決定しました。この結
果、本誌の原書である『World of Work』誌が2012年 5 月発行の第74号で廃刊になるのに伴い、本誌も
今号で休刊します。長年のご愛読有り難うございました。
従来『World of Work』誌に掲載されていた記事内容は今後、ILO のウェブサイト(http://www.ilo.org)
を通じてご提供します。大きなイベントに合わせて特別の印刷物を発行することも計画しています。
ILO 駐日事務所でも日本語ウェブサイト(http://www.ilo.org/tokyo)のさらなる拡充を図り、できる
だけ多くの情報を迅速にご提供していきたいと考えています。印刷物形態での新しい広報媒体の発行も
検討中です。ご意見・ご要望をお寄せいただければ幸いです。
国際労働機関(ILO):創立1919年。加盟国(現在185カ国)の政府、使用者、労働者の共同行動を
通じて、世界中の社会的保護、生活・労働条件の向上を図っている。ジュネーブにある国際労働事務
局はILOの常設事務局。駐日事務所を含み、40以上の現地事務所がある。
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
歴史の中の ILO
3
歴史の中の ILO
社会正義を推し進める
(World of Work 2012年 5 月発行第74号より)
©ILO
2012年の 5 月 7 日は1932年に亡くなったアルベー
工場を訪れ、坑道に下り、所有者や労働者らに質問
ル・トーマの没後80周年に当たる。悲惨な世界大戦
をした。
後に ILO の初代事務局長(1919〜1932年)となった
「各国の現実についての研究に身を傾けるには、
トーマは、「経済問題と社会問題は不可分に結びつ
共通する理想の実現に役立つあらゆる事物を吸収す
いており、経済の再建は社会正義を基礎としてのみ
る必要がある」と説いている。そういう意味で、ト
健全で永続的なものとなる」と主張した。
ーマは今で言えばグローバル化—つまり社会進歩
このため、アルベール・トーマは1920年に、ロン
に役立つ普遍性—の真の信奉者であった。
ドンの私邸を拠点に少数の人々で世界規模の組織を
1933年の ILO 総会における演説で、アルベール・
立ち上げた。彼のリーダーシップの下、労働問題に
トーマの後任となったハロルド・バトラーは、社会
関する ILO の世界的な議会である国際労働総会(通
状況の改善、一人一人の人権保護、そして社会正義
称「ILO 総会」
)は、労働時間、就労最低年齢、健
の促進について言及し、次のように語った。
「トー
康保険、母性保護、失業、団結権、職場での事故に
マはこの基盤の上に、我々が引き継いだ伝統を作り
対する保護、最低賃金、強制労働など基本的な事項
上げることに成功した。彼の功績を讃えるために
を網羅する33本の国際条約を採択した。
我々が建立できる最善の記念碑は、この伝統を維持
しかし、アルベール・トーマはまた、たとえそれ
し、強化することである」。
が条約に述べられているものであったとしても、書
新たな世界規模の社会・経済危機を背景に、ディ
かれた言葉の限界についてもよく分かっていた。
「今
ーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)
日の世界で重要なのは、この種の解決策の精神的な
を基礎とする社会正義の新たな時代を提唱したフア
価値、つまり、危機に対して実行可能で効果的なも
ン・ソマビア現事務局長を含み、ILO の指導者はそ
のだと見えることである」と大恐慌の中で彼は語っ
の後代々この伝統を推進してきた。■
ている。
具体性を好むトーマは現場に赴き、現実を見て、
人々に出会うよう努めた。飛行機がまだ主な交通機
関でなかった時代に、彼は米州、ロシア、中国、日
本、そしてヨーロッパのほとんどの国を歴訪した。
「経済問題と社会問題は不可分に結び
ついており、経済の再建は社会正義を
基礎としてのみ健全で永続的なもの
となる」
4
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
特集報告
特集報告
『World of Work』誌と振り返る
ILO の20年 -1992〜2012年
本誌の原書である『World of Work』誌は ILO の広報
て確立し、フアン・ソマビア ILO 事務局長が21世紀の
誌として1992年に創刊され、2012年 5 月に発行された第
ILO の活動目標とした「ディーセント・ワーク(働きが
74号で最終号を迎えた
。同誌に掲載されている主な
いのある人間らしい仕事)を全ての人へ」という課題が
記事の紹介を通じて、市場経済化とグローバル化が進む
世界に浸透していったこの20年間の ILO の歩みを振り返
冷戦後の世界の中で国際労働基準が ILO の専管事項とし
る。
(注)
変化の試練に直面する基準
一九九二年
第 1 号表紙
1989年 3 月に 5 年の任期で就任したミシェル・アン
プレッシャーの下で、働く人々の世界が大規模な変化
センヌ第 8 代 ILO 事務局長は、就任に当たり、世界経
の途上にあることを記した上で、特集テーマとして取
済危機の中で自らが抱くようになった確信として、雇
り上げる時事問題と共に、パノラマ、各地のニュース、
用の卓越性、ILO 基準などの適用による労働者の権利
社会的パートナーである労使の動向、公開論壇といっ
の促進、対話と相互尊重がない限り労使関係の分野で
た定期コラムを通じて、読者に情報を伝えるだけでな
長持ちするものは何も達成できないであろうというこ
く ILO に幅広く浸透しているパートナーシップの精神
と、の三つを紹介し、それは ILO が拠って立つ原則に
を可能な限り最も興味を引く形で伝えることを新定期
等しいとして、地域紛争の終焉、東西友好回復といっ
刊行物の目的とした。さらに、対話と協力を通じて協
た緊張の緩和が進む冷戦後の世界情勢は、
「ILO が他
働することによって政府及び労使のリーダーは2000年
の国際機関と協調して開発問題に改めてエネルギーを
の多くの課題に最も良く対応できるとして、その取り
注ぐことを可能にしよう」と述べた。
組みに対してあらゆる可能な支援を提供することを本
1992年12月に刊行された『World of Work』誌創刊号
誌の目指すところのものとしている。
の「再生、伝統」と題する巻頭言で、アンセンヌ事務
創刊号は「変化の試練に直面する基準」を特集し、
局長はそれまで年 5 回発行されていた 8 頁の広報紙に
ILO に付託された任務の基盤を成す国際労働基準の策
代わる28頁のニュース雑誌の刊行を、ILO とその加盟
定と適用監視について、時代のニーズへの適応という
国政労使との間の連絡を常に最新の形で保つものと位
切り口から分析している。
置づけた。そして、技術変革と意識変容という二重の
●女性●移民●児童労働●産業●積極的パートナーシップ
一九九三年
第 2 号表紙
『World of Work』誌は当初年 5 回発行された。1993
マ記事の一つとして、産業作業組織に関する国際労働
年 2 月に出された第 2 号は、雇用における女性の平等
問題研究所の研究プログラムの一環として1992年11月
に関する 2 年間の部局間プロジェクトが1992年に開始
に開かれたフォーラムを元にまとめられた日本のリー
されたのに合わせて「トップに到達する女性」を特集
ン生産方式に関する記事も掲載されている。第 5 号は
テーマとする。第 3 号は「移民:抑制から自由な選択 「産業:移転が変える風景」をテーマに、産業移転に
へ」を特集テーマとし、移民労働者の流れ、欧州や湾
伴う問題を特集すると共に1993年の第80回 ILO 総会の
岸諸国における移民労働者の現状、移住の必要性軽減
模様を伝えている。第 6 号は「積極的パートナーシッ
に向けた ILO の事業計画などの記事が掲載され、外国
プ:協力の新たな顔」を特集テーマとし、新しい技術
人労働者に関する日本経営者団体連盟(日経連)の見
協力体制について取り上げている。被援助国の主体
解も紹介されている。
性・自主実行を重んじる方向への援助体制の変化に対
現在まで続く ILO 最大の技術協力計画である児童労
応するとともに ILO の競争優位の確立を図ってアンセ
働撤廃国際計画(IPEC)はドイツ政府の資金協力を得
ンヌ事務局長が提唱し、1993年の総会で承認を受けた
て1992年に開始された。第 4 号はこれに合わせて「児
積極的パートナーシップ政策は、ILO と関係国政労使
童労働:国際的な攻勢」を特集テーマとする。パノラ
がパートナーとして対等な立場で中期達成目標を定め
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
て活動に取り組む手法であり、そのために1993年から
特集報告
5
た。
世界各地に ILO の多角的専門家チームが計14設置され
●環境●回顧と展望●雇用
含み、ILO の今日及び将来的役割に関する幅広い議論
行されるようになった。アンセンヌ事務局長は1990年
が行われ、ILO の基本的価値の再確認や変化への適応
の第77回 ILO 総会に「環境と仕事の世界」と題する事
を内容とする将来の方向に関する決議が採択された。
務局長報告を提出し、環境に優しいグリーン時代に向
また、人種隔離政策であるアパルトヘイト政策をとっ
け、環境と持続可能な開発の問題に対する加盟国政労
ていたことが ILO で問題になり1964年に自ら脱退を通
使の取り組みを ILO が支援することを提案したが、
告した南アフリカについて、ILO では同年の第48回総
1994年最初の号(第 7 号)は環境面の課題を特集し、
会で採択された反アパルトヘイト宣言に基づきこの問
1992年に開かれた国連環境開発会議(地球サミット)
題を継続的に審議してきたが、アパルトヘイト政策の
で採択された行動計画であるアジェンダ21を受け、化
廃止、全人種参加選挙の実施を経て1994年 5 月に南ア
学物質、環境保護と雇用創出の問題、
都市の労働環境、
フリカは ILO に復帰し、第81回総会で宣言が廃止され
先住民と持続可能な開発などの切り口から仕事の世界
た。第 9 号は総会特集号として、このような総会の成
と環境の関わりを説く記事を掲載している。
果を掲載している。ほかに、児童労働と女性にスポッ
1994年は ILO 創立75周年、フィラデルフィア宣言採
トライトを当て、IPEC の取り組みなどが紹介されて
択50周年に当たり、日本を含む世界各地で記念行事が
いる。1994年の総会ではまた、翌年開かれる世界社会
行われた。第 8 号はこの記念号として、
「ILO の回顧
開発サミットに対する ILO の関与を求める決議も採択
と将来展望」を特集テーマとし、過去75年間の歩みを
され、後に ILO 事務局長となるフアン・ソマビア・サ
振り返った上で今日の課題を紹介し、未来への展望を
ミット準備委員会議長の出席も得て会期中に開かれた
記している。「社会正義に向けた新たな道」と題する
サミットに対するILOの貢献を検討する非公式会合で、
巻頭言で、アンセンヌ事務局長は価値の再確認、国際
健全なマクロ経済環境でしか雇用は創出されないとの
労働基準の今日的状況への適応、失業問題への取り組
理論が全面的に支持された。特別ゲストとして演説し
みの重点化、1995年の国連社会開発サミットなどの国
たブトロス・ブトロス=ガーリ国連事務総長からもサ
際的な場へのさらなる関与を提案して、社会正義の促
ミットに対する協力を求められたことを受け、ILO は
進という ILO の使命を追求していく道筋を示した。地
サミットの準備過程に密接に関与した。
第10号では「雇
域の状況を示す地域展望のコーナーでは、東アジアの
用市場の集中治療」と題する特集を組み、単純な解決
状況の部分で
「日本のジェット気流の中で」
と題して、
策では取り組めない雇用問題の複雑さ、多様な取り組
慶應義塾大学経済学部の島田晴雄教授と日本労働研究
みに光を当てることによって、生産的な雇用の促進、
機構の白井晋太郎理事長に聞いた東アジア諸国の経
貧困撤廃、社会的排除の予防というサミットで取り上
済・労働情勢の見通しが掲載されている。
げられる議題の相互連結性を示し、問題を解く鍵であ
第 8 号表紙
一九九四年
『World of Work』誌はこの年からしばらく年 4 回発
1994年の第81回総会では、
「価値の擁護、
変革の促進」 る雇用に取り組むには政府だけでは足りず、労使の積
と題する事務局長報告をもとに、社会条項への対応も
極的な参加が求められる事実を示そうと試みた。
●社会開発サミット●世界女性会議●テレワーク
1995年には ILO にとって意味のある国連の大きな会
れた。
議が二つ開かれた。 3 月にコペンハーゲンで開かれた
1995年の最初の号(第11号)では、
「社会組織が破
世界社会開発サミットは基本的な優先事項として完全
綻する時」と題して世界社会開発サミットに向けて貧
雇用の目標を促進することを約し、貧困撤廃、不平等
困や社会的排除などの問題を特集し、続く第12号では
した。ILO はこれを受けて労働者の基本的な権利の擁
回世界女性会議に向けて、女性労働者を取り巻く現状
護と完全雇用の促進を今後の主導的な活動分野にする
と、家族的責任と職場責任の調和に向けた取り組みな
ことを決め、サミットで基本的と認められた ILO の基
ど過去20年間にわたる女性の地位向上に向けた取り組
本 7 条約の批准キャンペーンを開始した。サミットの
みを特集する。第13号では、「サミット後:貧困に取
成果の一つとして、ILO は1996年 4 月にフランスのリ
り組む活動」と題して世界社会開発サミットが ILO に
ールで開かれた主要 7 カ国(G7)の雇用大臣会合に
とって持つ意味、サミットの結論を実現するための計
経済協力開発機構(OECD)と共に初めて招かれた。
画などを取り上げるとともに1995年の第82回 ILO 総会
また、 9 月に北京で開かれた第 4 回世界女性会議で採
の主な成果、創立30周年を迎えた ILO 国際研修センタ
択された宣言と行動綱領には、人権、経済参加、貧困
ー(通称トリノセンター)の歩みに関する記事などを
など、ILO の活動と深い関わりがある項目が盛り込ま
掲載している。第14号には、「他と違う働き方:テレ
第11号表紙
一九九五年
縮小、社会的排除撲滅に向けた宣言と行動計画を採択 「女性:仕事はある、欲しいのは平等」と題し、第 4
6
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
特集報告
ワーク革命」と題する巻頭記事に加え、1995年 9 月に
せて欧州に焦点を当てて会議の成果や域内諸国の動向
ワルシャワで開かれた第 5 回 ILO 欧州地域会議に合わ
に関する記事などが掲載されている。
●チェルノブイリ●児童労働●女性●船員
一九九六年
第15号表紙
ILO は1996年10月に国連児童基金(UNICEF)と児童
岸及びガザ地区の雇用、アジアの女性移民労働者、中
労働分野での協力と協調を約した趣意書を取り交わし
南米の失業者増大などの記事が掲載されている。第16
た。1995年の世界社会開発サミットのフォローアップ
号は1996年の第83回 ILO 総会の三者構成閣僚級非公式
活動の一環として11月にはジュネーブの ILO 本部で企
会合で児童労働に関する新しい条約の採択が検討され
業フォーラムが開かれ、雇用創出や技能開発、労働者
たことを受け、
「児童労働をなくそう」をテーマにこ
の保護などといった問題を企業の観点から話し合っ
の問題を特集している。第17号は第83回総会の成果を
た。12月に開かれた世界貿易機関(WTO)の第 1 回
特集するとともに、「女性により多くのより良い仕事
閣僚会議では、労働基準は ILO の専管事項であり、保
を」と題する第 4 回世界女性会議に対する ILO のフォ
護主義の手段に用いてはならないと明記する宣言が採
ローアップ活動案などを掲載している。第18号では10
択された。
月に開かれた第84回 ILO(海事)総会の成果や11月に
1996年の最初の号(第15号)には、事故から10年経
開かれた企業フォーラムの模様などが取り上げられて
ったウクライナのチェルノブイリ原子力発電所の労働
いる。
者の不確実な未来、児童労働と貧困、パレスチナの西
●セクハラ●国際貿易と労働者の権利●労働安全●児童労働
一九九七年
第20号表紙
1996年12月に開かれた WTO 閣僚会議の宣言によっ
けるセクシュアル・ハラスメント、マルチメディア化
て ILO に打ち込まれたボールを受けて、世界社会開発
の社会・労働面への影響、パキスタンのシアルコット
サミット以来続けられてきた貿易自由化の社会的側面
におけるサッカーボール産業の児童労働に対する取り
について ILO に何ができるかについての議論が一応の
組み、マイクロクレジット・サミットと金融の社会的
決着を迎えた。1997年の第86回 ILO 総会に提出された
側面に関する記事などが掲載されている。第20号には
事務局長報告は、グローバル経済下で労働者の基本的
当時、国際自由労連(ICFTU)ジュネーブ事務所所長
な権利が全世界的に尊重されるよう確保するために総
であったガイ・ライダー次期 ILO 事務局長を含む労使
会で厳粛なる宣言を採択することを提案した。総会に
が WTO 閣僚会議の影響に対して述べている見解や国
おける議論を受けて、その直後に開かれた第270回
際貿易と労働者の権利に関する記事、1997年 2 月にア
ILO 理事会ではそのような宣言を1998年の総会の議題
ムステルダムで開かれた児童労働会議の成果とその影
に含むことを決定した。11月に神戸で開かれた G8諸
響力に関する記事、移民の搾取と酷使の危険に関する
国と欧州連合(EU)の雇用会議に出席したアンセン
記事など雇用のグローバル化と労働条件に関する複数
ヌ事務局長は東京で「グローバリゼーションと労働へ
の記事が掲載されている。第21号には1997年の ILO 総
の影響」と題する講演を行い、この間の経緯と議論の
会の模様に加え、『人間工学チェックポイント』や『林
成果を紹介した。
業労働の安全衛生に関する実務規程』といった労働安
『World of Work』誌は1997年から「歴史の中の ILO」 全衛生分野の刊行物などに関する記事が掲載されてい
と題するコーナーを新たに設けるなど、徐々にページ
る。第22号は、1997年10月にオスロで開かれた児童労
数を増やし、現在の体裁に近くなった。 3 月に出され
働国際会議など児童労働を巡る一連の国際的な動きに
た第19号には、WTO 閣僚会議の宣言を受けて1997年
関する記事、労使関係をテーマとする『世界労働報告』
1 月にアンセンヌ事務局長が行った、ILO として何が
1997/98年版に関する記事などを取り上げている。
できるかについての記者会見の模様に加え、職場にお
●管理職女性●母性保護●総会●職場内暴力●雇用と訓練
一九九八年
第25号表紙
『World of Work』誌はこの年からしばらく年 5 回発
た G7神戸雇用会議、1997年12月に開かれた第12回 ILO
行されるようになった。この年最初の号(第23号)は
アジア地域会議などに関する記事が掲載されている。
管理職における女性を巻頭記事とし、1997年12月に開
1998年 3 月の第271回 ILO 理事会でフアン・ソマビ
かれたこのテーマに関する会議の討議資料と成果が紹
ア在ニューヨーク・チリ国連常駐代表が初の途上国出
介されている。他に、アフリカの児童労働、日本政府
身の ILO 事務局長として選出された。第24号には職場
の資金協力も得てボスニア・ヘルツェゴビナで進めら
における母性保護に関する巻頭記事に加え、 3 月の理
れている戦災復興の取り組み、国際オリンピック委員
事会の成果、2008年 2 月に会議が開かれた精油産業の
会(IOC)と ILO との間で達成された社会正義と人間
雇用、1998年の第86回 ILO 総会における第一次討議議
の尊厳の促進に向けた協力合意、1997年11月に開かれ
題である児童労働に関する新 ILO 基準案などに関する
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
に加え、アジア金融危機、パキスタンのシアルコット
1998年 の 総 会 は、1994年 以 来 ILO 内 で 議 論 さ れ、
におけるサッカーボール産業の児童労働に対する取り
1995年の世界社会開発サミット、1996年の WTO 閣僚
組み、1998年 4 月に開かれた会議の討議資料をもとに
会議を経て形成されたグローバル化の課題に対する
した電気通信産業の雇用・労働条件などに関する記事
ILO の対応策として「労働における基本的原則及び権
が掲載されている。
利に関する ILO 宣言」を採択した。宣言は、結社の自
第26号には職場内暴力を巻頭記事に、性産業、アジ
由の権利、団体交渉権、児童労働・強制労働・雇用に
アにおける子どもによる物乞いと人身取引、ウガンダ
関わる差別の撤廃といった、労働における基本的な権
の労使関係、ミャンマーの強制労働などに関する記事
利に関わる四つの原則について、関連する基準を批准
が掲載されている。
しているか否かにかかわらず、誠意をもって尊重し、
1998年にノーベル経済学賞を受賞したアマルティ
促進し、かつ実現する ILO 加盟国の義務を強調する。
ア・セン氏は ILO の世界雇用計画の顧問を務めるなど
この総会では ILO の理事を務めていた連合の伊藤祐禎
ILO とも関わりが深い。第27号には特別記事として
参与が副議長に就任し、総会直後に開かれた第272回
ILO の雇用及び開発分野の活動におけるセン氏の役割
ILO 理事会では赤尾信敏在ジュネーブ国際機関日本政
を分析した記事と同氏の論文、『世界雇用報告』1998
府代表部特命全権大使が理事会議長に選出され、 1 年
/99年版をもとにした世界の雇用情勢に関する巻頭記
間の任期を務めた。第25号にはこのような総会の成果
事などが掲載されている。
7
一九九八年
記事が掲載されている。
特集報告
●アジア金融危機●最悪の形態の児童労働条約●主要労働市場指標
どに関する記事が掲載されている。
題など社会に対する影響を深刻化させ、世界的に波及
1999年の総会では、最悪の形態の児童労働の禁止と
した後、徐々に沈静化していった。ILO は当事国の政
撤廃に向けた即時の行動を求める条約と勧告や、強制
労使を招いて危機への社会的な対応を協議し、情報の
労働問題への取り組みを求める審査委員会の勧告への
収集・分析・普及、社会保障制度の構築支援、企業育
対処が見られないミャンマーに対して技術協力の提供
成支援など、加盟国の危機対応を支援した。この年最
や会議参加を制限する決議、ディーセント・ワーク課
初の号(第28号)には、アジア金融危機の分析と考え
題の実現に向けた四つの戦略目標(権利、雇用、社会
られる対応策、タンザニアにおける児童労働に対する
的保護、社会対話)を軸とした事業計画などが採択さ
取り組み、新たに刊行された『ILO 産業安全保健エン
れ、アマルティア・セン・ノーベル経済学者などによ
サイクロペディア(第 4 版)
』などに関する記事が掲
る特別演説が行われた。第30号はこのような総会の成
載されている。
果に加え、パレスチナの女性や小規模鉱山、職場にお
1999年 3 月22日に就任したフアン・ソマビア ILO 事
けるアルコール・薬物乱用問題などに関する記事を掲
務局長は、 3 月の第274回 ILO 理事会で行った就任演
載している。第31号では、新しく発行された統計資料
第29号表紙
一九九九年
1997年に始まったアジア金融危機は1998年に失業問
説で、今日の ILO の中心的な目的を「全ての人にディ 『主要労働市場指標(KILM)
』をもとに、数字で見た
ーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事) 世界の労働情勢に関する記事、1999年 8 月に開かれた
の機会を促進すること」と位置づけ、1999年の第87回
第14回 ILO 米州地域会議の討議資料をもとにした中南
ILO 総会に提出された「ディーセント・ワーク」と題
米・カリブの労働市場情勢に関する記事、西アフリカ
する事務局長報告でこのディーセント・ワーク課題を
のマイクロクレジット(少額融資)などの記事が掲載
加盟諸国に正式に提案した。第29号には、事務局長の
されている。第32号には、アジアの女性労働者、アフ
就任演説を含む 3 月の理事会の模様、児童労働や母性
リカの仕事の世界と HIV(エイズウイルス)/エイズ、
保護といった1999年の総会議題紹介、開発を仕事に転
コソボにおける戦災からの復興、1999年11月に開かれ
化するよう努めるアフリカにおける ILO の活動、オー
た ILO 企業フォーラムの模様などに関する記事が掲載
ストリア、デンマークといった欧州小国の雇用再生な
されている。
●アフリカ●移住●結社の自由●社会的保護●職場のメンタルヘルス
第34号には、新刊書をもとにまとめた移民に関する
第 9 回 ILO アフリカ地域会議を特集し、他に日米両国
巻頭記事、2000年 3 月の第277回 ILO 理事会の成果、
政府の資金協力を得て1999年12月にカンボジアで開か
2000年初めにニューデリーやワシントンの世界銀行本
れたアジア太平洋における中核的労働基準に関するセ
部など各地を訪れてソマビア事務局長が行ったディー
ミナーや2000年 1 月に開かれた専門家会議で採択され
セント・ワークに関する演説、インドの児童労働対応、
た合成ガラス質繊維断熱ウールの使用上の安全に関す
タンザニアにおけるごみ収集事業の女性起業家などに
る実務規程、カンボジアやカリブ地域の児童労働に関
関する記事が掲載されている。
する記事などが掲載されている。
1998年に採択された「労働における基本的原則及び
第37号表紙
二〇〇〇年
この年最初の号(第33号)は1999年12月に開かれた
8
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
特集報告
二〇〇〇年
権利に関する ILO 宣言」は、未批准の基本条約に関す
記事が掲載されている。
る加盟国からの年次報告の理事会による検討と労働に
第36号には、『世界労働報告』2000年版のテーマと
おける基本的原則及び権利に関するグローバル・レポ
なった社会的保護に関する巻頭記事に加え、ブルキナ
ートの総会における検討の二つのフォローアップ手続
ファソやカンボジアの児童労働に対する取り組み、女
きを定める。この手続きは2000年から開始された。
性と労働安全衛生、1995年の社会開発サミットをフォ
2000年の総会ではまた、ミャンマーの強制労働問題に
ローアップするものとして2000年 6 月に開かれた国連
ついて、同年 3 月の理事会で ILO の歴史上初めて発動
社会開発特別総会などに関する記事が掲載されてい
された、審査委員会の勧告履行を確保するための適当
る。第37号は職場のメンタルヘルスを巻頭記事に、
な措置を総会に勧告できることを規定する憲章第33条
1999年の総会で採択された最悪の形態の児童労働条約
に基づき、総会基準適用委員会における本案件の継続 (第182号)の批准に向けた歩み、バングラデシュの船
審議や同国との関係見直しを加盟国政労使に求める決
舶解体業、再統一から10年経ったドイツや初の独立労
議が採択された。第35号には、2000年の第88回 ILO 総
働組合誕生から20年経ったポーランドの状況、ネパー
会に提出された結社の自由と団体交渉権に関する初の
ルの債務奴隷、ILO が国連及び世界銀行と結成した若
グローバル・レポートを巻頭記事に、2000年総会の模
年者雇用ネットワークなどに関する記事を取り上げて
様、仕事の世界におけるエイズ、社会保障年金に関す
いる。
る新刊書、輸送機器製造のグローバル化が社会と労働
に与える影響に関する会議の討議資料などについての
●情報技術●強制労働● HIV/エイズ●児童労働
第38号表紙
二〇〇一年
『World of Work』誌はこの年からしばらく年 4 回発
やケニアのマアサイ族の伝統的な職業である牧畜を巡
行された。
この年最初の号
(第38号)
には、「デジタル・
る最近の問題などといった記事を掲載している。カナ
デバイド(情報格差)の架け橋」と題して『世界雇用
ダのケベック州で1930年代の大恐慌後に増えた独立自
報告』2001年版のテーマである情報通信技術に焦点を
営業のその後、職場における電子メールとインターネ
当てた巻頭記事に加え、テレワーク、インドのストリ
ットの利用、先進国の長期雇用と労働市場の柔軟性、
ート・チルドレン、アフガン派兵やチェルノブイリ原
2001年の第89回 ILO 総会の主な成果などに関する記事
子力発電所事故などを経験したウクライナの国家復
も含まれている。
興、トーゴの貧困・失業対策、トヨタ式カイゼン法へ
2001年 9 月11日に米国で発生した同時多発テロ事件
の言及も含むテーラーの唱えた科学的管理法の復権に
は多方面に大きな影響を与えた。ILO は深刻な業況の
関するドイツからの報告などの記事が掲載されてい
落ち込みを経験していたホテル・観光業及び民間航空
る。第39号は2001年のグローバル・レポートのテーマ
業においてこの影響を検討する産業別会議をそれぞれ
である強制労働を巻頭記事に、西・中部アフリカにお
2001年10月と2002年 1 月に開催した。フルカラーとな
ける子どもの人身取引対策などを取り上げている。他
って最初の号となった第41号には、両産業に対する事
に、2001年 3 月にドイツで五つの労働組合が合併して
件の影響と ILO の提案する対処策を示した記事や緊急
巨大な統一サービス産業労働組合 Verdi が誕生したニ
避難計画の重要性を説いた記事、
『KILM』2001/02年
ュース、社会的責任ある観光業、中・東欧の社会的保
版、2001年11月にジュネーブで開かれた世界雇用フォ
護、アフリカのサヘル地域における協同組合育成など
ーラム、情報通信(IT)産業の雇用縮小、保健医療部
の記事が掲載されている。第40号は2001年に出された
門の職場内暴力、ILO の国連合同エイズ計画
(UNAIDS)
『HIV/エイズと働く世界 ILO 行動規範』を巻頭記事と
への参加などの記事が掲載されている。同号は児童労
するほか、2001年が先住民及び種族民条約(第169号) 働を特集し、2001年12月に横浜で開かれた第 2 回子ど
の発効10周年に当たることを記念して ILO と先住民・
もの商業的性的搾取に反対する世界会議の模様も含ん
種族民との関わり、近代技術が先住民族に与える影響
でいる。
●女性と紛争●児童労働●結社の自由委員会●国際労働協約
二〇〇二年
第42号裏表紙
この年最初の号(第42号)には、2002年の国際女性
った「児童労働にレッドカード」キャンペーンに関す
の日( 3 月 8 日)のテーマであった「女性と紛争」に
る記事)
、2002年 1 月に開かれた民間航空部門の三者
関する巻頭記事に加え、社会保障(2002年 4 月に開か
構成会議の模様、職場における心理社会的問題の解決
れた第 2 回高齢者問題社会会議に合わせての高齢化と
に向けた SOLVE イニシアチブ、ILO で開始されたジェ
中・東欧の保健医療に関する記事)と児童労働(2001
ンダー監査などに関する記事が掲載されている。
年に開かれた第 2 回子どもの商業的性的搾取に反対す
ILO は児童労働に関する初のグローバル・レポート
る世界会議の報告を含む子どもの性的搾取と人身取
が2002年の第90回 ILO 総会において 6 月12日に審議さ
引、2002年のアフリカ・ネイションズ・カップで始ま
れたことを記念してこの日を児童労働反対世界デーに
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
れた ILO 強制労働撲滅特別行動計画の活動、社会再保
ローバル・レポートの内容、児童労働問題を教育で取
険、ILO 駐日事務所(当時は東京支局)が主催・共催
り上げるための教材である SCREAM(教育、アート、
して日本で開かれた仕事における平等や企業とエイズ
メディアを通じた子どもの権利の支援)
、子どもの人
対策に関するフォーラムの模様などの記事を掲載して
身取引に向けた国連諸機関の結集といった記事を掲載
いる。
している。他に、カンボジアにおける ILO の10年間の
第45号は多国籍企業と国際産業別労働者組織の間で
経験、職場における集団的いじめの問題、インドの真
ますます締結されるようになってきた世界規模の枠組
鍮・金属製品製造業、2002年 5 月に独立したばかりの
み協約を特集し、他に南アフリカなどの職場における
東チモールにおける新労働法典制定、2001年11月の第
HIV/エイズ関連活動、インドの手巻きタバコ労働者、
282回 ILO 理事会で設置が決まったグローバル化の社
鉱業の雇用・労働条件、アフリカ南部諸国の労働行政
会的側面に関する世界委員会の初会合などに関する記
強化プロジェクト、インフォーマル経済で働く女性の
事が掲載されている。
母性保護、 6 年間投獄されたエチオピアの教員団体会
第44号は2002年に設置50周年を迎えた ILO 理事会の
長に対するインタビュー、ILO など 4 団体で制定され
結社の自由委員会を巻頭記事に取り上げ、他に2002年
た保健公務部門の職場内暴力に取り組むための枠組み
の総会の主な成果、空港のチェックイン労働者の労働
指針、
ILOのロゴを巡る略史などの記事を掲載している。
9
二〇〇二年
定めた。第43号はこれを受けて児童労働を特集し、グ
特集報告
条件、郵便・電気通信事業の最近の雇用事情、新設さ
●三者構成原則●子どもの人身取引●貧困脱却●アフリカ
から抜け出す道としての仕事を提唱する事務局長報告
構成原則」を巻頭記事に、新たに刊行された『世界の
を巻頭記事とする。他に、ネパールにおける ILO の社
雇用情勢』2003年版、2001年の同時多発テロ事件の影
会的排除・貧困対策戦略・手段(STEP)計画による
響で深刻な業績不振を経験していたホテル・観光業、
小規模健康保険普及の試み、2002年の総会で採択され
同事件で脚光を浴びた救急業務労働者の労働条件、自
た協同組合の促進勧告(第193号)採択 1 周年記念記事、
営労働者の組織化などの記事を掲載している。第47号
2003年 7 月に発効した「すべての移住労働者及びその
には、2003年の児童労働反対世界デーのテーマである
家族の構成員の権利の保護に関する国連条約」に関す
子どもの人身取引及び児童兵士を巻頭記事に、出張先
る記事、ILO 駐日事務所がアジア財団などと共催して
の北京で重症急性呼吸器症候群(SARS)の犠牲にな
2003年 6 月に開いた日本、アメリカ等の男女平等な職
って2003年 4 月に逝去した ILO 職員の追悼記事、2003
場環境に関するシンポジウムなどに関する記事が掲載
年の第91回 ILO 総会に提出された就労に関わる差別に
されている。
関するグローバル・レポート、世界的な IT 業務外注の
第49号では2003年12月に開かれた第10回 ILO アフリ
動き、たばこ産業の雇用事情、ジャーナリストの危険
カ地域会議に合わせて、アフリカにおける ILO の活動
な仕事、2003年 3 月の第286回 ILO 理事会におけるフ
が巻頭記事をはじめ複数紹介されている。他に、2001
アン・ソマビア事務局長の再選、ILO 駐日事務所がア
年の総会で行われた社会保障に関する討議を受けて
ジア財団と共催して2003年 1 月に開いた人身取引と日
2003年の総会で正式に発進した全ての人への社会保障
本の責任についてのシンポジウムなどに関する記事が
の適用を呼びかけるキャンペーン、女性船員に関する
掲載されている。また、2003年から 4 月28日を労働安
新刊書、インドネシアの伝統的な木工産業が直面する
全衛生世界デーと定め、労働災害と職業病の予防と削
グローバル化の新たな課題、新情報技術を活用した組
減の重要性に人々の注意を喚起する日としたことに合
合の新しいサービス、インドにおける ILO の「協同組
わせ、労働安全衛生と世界的な安全文化の必要性に関
合及び類似の自助団体を通じた先住民・種族民の自立
する記事も掲載されている。
促進地域間計画(INDISCO)
」の活動などが掲載され
第48号は2003年の総会の主な成果を取り上げ、貧困
ている。
第46号表紙
二〇〇三年
この年最初の号(第46号)は「21世紀の政労使三者
●公正なグローバル化●ディーセント・ワーク● ILO 創立85周年
労働、移住と児童の人身取引の関係、職場における石
た。この年最初の号(第50号)では、2004年 2 月に発
綿問題、カナダのケベック労働連盟が創設した連帯基
表されたグローバル化の社会的側面に関する世界委員
金、新たに作成されたサービス部門の職場内暴力に関
会の報告書『公正なグローバル化:すべての人々に機
する実務規程などの記事が掲載されている。続く第51
会を創り出す』を巻頭記事に取り上げ、報告書が示す
号でも2004年 3 月の第289回 ILO 理事会における世界
グローバル化の課題に光を当て、グローバル化の利益
委員会の報告書を巡る討議を巻頭記事に据える他、結
が全ての人々の間でより公平に分かち合われるための
社の自由と団体交渉に関するグローバル・レポートや
委員会の提言をまとめている。他に、ブラジルの強制 『グローバル経済における移民労働者の公正な処遇に
第50号表紙
二〇〇四年
『World of Work』誌はこの年から年 3 回発行となっ
10
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
特集報告
二〇〇四年
向けて』
と題する2004年の第92回ILO総会の討議資料、
とって危険である」などと謳う1944年に採択されたフ
2004年の児童労働反対世界デーのテーマである子ども
ィラデルフィア宣言の精神は ILO が21世紀の活動目標
の家事労働者、郵便部門を巡る新たな動向、保健部門
として掲げるディーセント・ワークや公正なグローバ
の社会対話、2004年 4 月に開かれた中国雇用フォーラ
ル化といった課題の強固な基盤として現代もなお通用
ムなどに関する記事や ILO の日本人労働安全衛生専門
することを訴えている。他に、仕事の世界と HIV/エ
家が外国人として初めてベトナムの労働・戦傷者・社
イズ、経済安全保障、若者の雇用情勢、職場の喫煙、
会省から功労賞を授与されたニュースなどが掲載され
先進国の労働時間と労働者の選好、メディア・文化・
ている。
グラフィック部門の仕事の未来と質などをテーマとす
第52号の巻頭記事では、
「85歳の ILO」と題し、ILO
る新刊書の紹介、ペルーの金鉱からの児童労働追放、
の85年間の歴史を簡単に振り返るとともに1919年に定
国境の枠を越えた欧州企業の活動などの記事、日本政
められた ILO 憲章前文に掲げられる「世界の永続する
府の任意資金協力によるベトナムの農民の安全衛生向
平和は、社会正義を基礎としてのみ確立することがで
上に向けたプロジェクト開始のニュースなどが掲載さ
きる」といった理念や「一部の貧困は、全体の繁栄に
れている。
●津波●強制労働●ミレニアム開発目標(MDGs)
二〇〇五年
第53号表紙
2004年12月26日に起こったインド洋津波に応えて
維取り決め(MFA)廃止後の繊維・衣料部門事情、第
ILO は被災者の生計再建を支援する様々な事業を展開
93回総会の主な成果などに関する記事が掲載されてい
した。この年最初の号(第53号)は、この取り組みを
る。
特集している。他に、2005年 2 月に開かれた第 7 回
2005年 9 月に開かれた国連世界サミットでは、「公
ILO 欧州地域会議、カンボジアの繊維工場を対象とし
正なグローバル化を強く支持し、完全雇用、生産的な
て実施されている ILO の労働条件改善プロジェクト、
雇用、全ての人へのディーセント・ワークといった諸
タンザニアにおける生涯のあらゆる段階を通じてのデ
目標を、ミレニアム開発目標(MDGs)達成努力の一
ィーセント・ワークと男女平等の促進に向けたプロジ
部とする決意」が全会一致で表明された。これを受け
ェクト、協同組合の促進に関する ILO の勧告(第193号) てソマビア事務局長が執筆した第55号の巻頭記事で
の活用状況、オンライン賃金指標などに関する記事が
は、2015年までの貧困削減と雇用創出に向けた ILO の
掲載されている。第54号は2005年の第93回 ILO 総会の
戦略が示されている。他には、エチオピアにおける協
討議資料であった強制労働に関するグローバル・レポ
同組合の再生、小口金融による貧困の世代間連鎖の打
ートを特集し、問題の規模を示した上で世界的な行動
破、東アフリカにおける活動を例として示すミレニア
の動員を呼びかけている。他に、リベリアの元女性戦
ム開発目標に対する ILO の貢献、2005年 9 月に米国オ
士の社会復帰、ノルウェーの父親育児休暇、2005年の
ーランド市で開かれた第17回世界労働安全衛生大会、
児童労働反対世界デーのテーマである小規模鉱山・採
2005年10月に発生した南アジア大地震に応えて ILO が
石場における児童労働、ロシアの職場における HIV/
パキスタンの被災者に提供した仕事と所得を得るため
エイズ予防教育、ILO が南東欧諸国で実施していた自
の支援、職場における食事などに関する記事が掲載さ
営業支援のための社会的金融プロジェクト、多国間繊
れている。
●新海事労働条約●ディーセント・ワーク●貧困からの脱却
二〇〇六年
第56号表紙
2006年 2 月に開かれた第94回 ILO(海事)総会は過
現を目指す ILO の課題を支持し、それを世界の目標及
去に採択されたこの分野のほとんどの条約・勧告に置
び各国の現実とするための取り組みを強める閣僚宣言
き換わる包括的な基準として海事労働条約を採択し
を採択した。第57号の巻頭記事ではこの新たな展開を
た。この総会では、日本政府代表の寺西達弥国土交通
紹介するとともにディーセント・ワークを巡る政労使
大学校副校長が政府側副議長を務めた。この年最初の
の声を掲載している。2006年の第95回 ILO 総会の討議
号(第56号)は巻頭記事でこの新しい基準の内容を紹
資料として児童労働に関するグローバル・レポートが
介している。他に、前号に続いての地震被災後のパキ
作成されたのに合わせ、ウガンダの茶園における児童
スタンにおける生活再建・職場復帰に向けた ILO の支
労働撲滅に向けた取り組みなど、児童労働に関する記
援、従業員所有企業、エチオピアの障害者協同組合、
事も含まれる。他に、第95回総会の主な成果、企業の
2006年の国際女性の日のテーマにちなんだスポーツに
社会的責任(CSR)
、労働力移動、写真で見るインド
おける女性、
『世界の雇用情勢』2006年版や『職場内
の伝統産業労働、労働時間に関する ILO の新刊書など
暴力』
、
『KILM』2005年版といった新刊書に関する記
の記事が掲載されている。
事が掲載されている。
第58号は、10月17日の貧困撲滅のための国際デーに
2006年 7 月に開かれた国連経済社会理事会のハイレ
合わせ、
「共に働いて貧困から抜け出そう」と呼びか
ベル会合は、全ての人へのディーセント・ワークの実
けるソマビア事務局長インタビュー記事を巻頭に据
特集報告
え、タンザニアの協同組合やフィリピンの家事労働者、 基準適用状況の改善を目指して世界銀行グループの中
小規模保険に関する ILO の新刊書、2015年までの10年
で民間部門を担当する国際金融公社(IFC)と ILO と
間を「アジアにおけるディーセント・ワークの十年」 の間でベター・ワーク(より良い仕事)計画の展開に
とすることを決めた2006年 8 〜 9 月に釜山で開かれた
ついて2006年 8 月に合意が達成されたニュースなどを
第14回 ILO アジア地域会議の模様などの記事、国際供
掲載している。
11
二〇〇六年
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
給網(グローバル・サプライチェーン)における労働
●仕事における平等●グリーン・ジョブ●児童労働
は仕事の世界に対する気候変動の影響を特集し、グリ
問題を特集し、2007年の第96回 ILO 総会の討議資料で
ーン・ジョブの推進、気候変動を巡る労働組合の動き、
あるこのテーマに関するグローバル・レポートを取り
環境問題及び気候変動に対する先住民族の取り組みを
上げた巻頭記事に加え、先住民女性が直面している複
紹介している。他に、2007年の総会の主な成果、児童
数の障害、仕事における平等を達成するための取り組
兵士写真集、世界の労働時間に関する新刊、南アフリ
みに関する記事や採用に係わる差別に関する世界のニ
カのネルソン・マンデラ元大統領とピッツバーグ大学
ュースのまとめを掲載している。他に、ILO で用いら
のカルメロ・メサ=ラゴ名誉教授に授与された第 1 回
れる 7 言語による同時通訳に加え、日本政府が自前で
ディーセント・ワーク研究賞、2007年 6 月に開かれた
準備する日本語通訳なども提供されている ILO 総会に
G8ハイリゲンダム・サミットが社会進歩を伴ったグ
おける通訳の活躍、IC タグと職場内監視、欧州の社会
ローバル化の中心にあるものとして ILO のディーセン
モデルの未来とフレクシキュリティー(安全保障を伴
ト・ワーク課題に対する支持を表明したことなどの記
った柔軟性)の可能性、2006年12月に EU の欧州理事
事が掲載されている。
会で EU をはじめ世界中でディーセント・ワークを推
第61号は IPEC が開始されてから15年目に当たるこ
進していくことに関する複数の結論が採択されたこと
とを記念し、児童労働を特集している。
「児童労働に
やディーセント・ワークの促進に向けて2007年 2 月に
終止符を」と題する巻頭記事に続き、農業の児童労働、
ILO と国連開発計画(UNDP)との間で合意文書が締
鉱業・採石業の児童労働、児童労働から教育・訓練へ
結されたことなどといったディーセント・ワークを巡
の移行に向けた取り組み、児童労働統計の整備を図る
る動向、労働・雇用条件法令オンライン・データベー
ILOの児童労働統計情報・監視計画(SIMPOC)の活動、
ス開設などの記事が掲載されている。
インドの児童労働対策といった児童労働関連記事に加
ILO は2007年に環境に優しいディーセント・ワーク
え、社会的包摂に関する学習・資料センター(CIARIS)
を意味するグリーン・ジョブへの公正な移行の促進な
オンライン・リソース、グローバル化に対する労働組
どに向けたパートナーシップを国連環境計画
(UNEP)
、
合の対応に関する新刊書、中国の労働事情写真集など
国際労働組合総連合(ITUC)と構築した。2008年に
の記事が掲載されている。
第60号表紙
二〇〇七年
この年最初の号(第59号)は、仕事における平等の
は国際使用者連盟(IOE)もこれに加わった。第60号
●多国籍企業●安全な仕事● ILO 創立90周年
この年最初の号(第62号)は、多国籍企業とディー
生・環境世界計画の活動を紹介する巻頭記事に続き、
セント・ワークをテーマに、社会的に責任ある労働慣
事故・疾病の予防に焦点を当てた国際社会保障協会
行の改善に向けて ILO が政労使、市民社会と協力して (ISSA)の活動、職場における HIV/エイズ関連活動、
コールセンターの労働事情、伝統的な鉄鋼工場におけ
国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」採択
る高温作業の写真集、労働安全衛生分野の書籍・ガイ
30周年を記念して2007年11月に開かれた国際フォーラ
ド・マニュアル紹介、2008年の第97回 ILO 総会の主な
ムの模様を報告する巻頭記事に続き、IFC の協力を得
成果、2008年 6 〜 7 月にソウルで開かれた第18回世界
てベター・ファクトリーズ(より良い工場)から発展
労働安全衛生大会とそれに先立ち開催された安全衛生
したベター・ワーク国際計画、多国籍企業の社会・環
サミットで職場における事故と疾病の削減に向けた政
境問題への取り組みに関する世界のニュース・クリッ
府、使用者、労働者の取り組み強化を目指して採択さ
ピング、清掃請負業の労働事情、南南協力による児童
れた世界初の安全衛生宣言、2008年 5 月に発生した四
労働への取り組み、エチオピアの女性企業家団体によ
川省大地震の被災者に向けた ILO の生計回復支援活動
るインフォーマル経済からフォーマル経済への移行の
などに関する記事を掲載している。
経験、北極圏の労働事情写真集、ビル・アンド・メリ
第64号には、2009年に迎える ILO 創立90周年の特集
ンダ・ゲイツ財団の寄付を受けて開始された革新的な
号として、ILO の歴史を写真で振り返るとともに社会正
小規模保険支援事業などの記事が掲載されている。
義に向けて働いてきた ILO の90年について語るソマビ
第63号は労働安全衛生を特集し、ILO の労働安全衛
ア事務局長の巻頭言、ノーベル経済学者のアマルティ
第64号表紙
二〇〇八年
取ってきた行動と世界の雇用情勢を検討している。
「多
二〇〇八年
12
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
特集報告
ア・セン教授など各界著名人や一般の人々によるディー
トリノにある ILO 国際研修センターの活動、ILO の技
セント・ワークについてのコメント、90周年にちなん
術支援活動における新たなパートナーシップの構築、
で90人の人々から集めた ILO の活動に対して望むキー
新たな定期刊行物である『仕事の世界報告書』2008年
ワード、
「ディーセント・ワークを全ての人へ」とい
版、グリーン・ジョブに関する新刊書、2008年11月の
う課題を推進する ILO の能力を強化し、グローバル化
第303回理事会におけるソマビア事務局長三選、2006
に対する効果的な対応策を構築する活動の基盤になる
年の海事労働条約に基づく旗国及び寄港国の船舶検査
ものとして2008年の総会で採択された「公正なグロー
などに関する記事が掲載されている。
バル化のための社会正義に関する宣言」、イタリアの
●男女平等●仕事の危機●社会的保護の床
第67号表紙
二〇〇九年
2009年の第98回 ILO 総会で男女平等が一般討議の議
地で行われた ILO90周年記念行事、日本政府が ILO の
題になったことに合わせ、2009年の最初の号(第65号)
技術協力活動に対する支援を開始して35周年となるの
はこれを特集テーマに取り上げ、総会前 1 年間にわた
を記念して2009年 6 月にジュネーブの ILO 本部で行っ
って月ごとにテーマを変えて展開された啓発キャンペ
た記念展示などに関する記事が掲載されている。
ーンをもとに、母性保護、教育、若者、差別撤廃、技
ILO は2001年の総会決議を受けて、2003年から社会
能、移民労働者、グリーン・ジョブ、社会対話、仕事
保障を全ての人に広めるキャンペーンを世界的に展開
と家庭の調和、高齢労働者といったテーマ別に男女平
している。国連は2009年 4 月に、今回の経済危機に対
等の問題をひもといている。他に、低所得女性向けの
応して活動を集約すべき九つの分野を選定したが、そ
小規模健康保険、フレクシキュリティーを通じてグロ
の一つに最低限の社会的保護(社会的保護の床)の整
ーバル化と金融危機に取り組むデンマークの経験など
備が掲げられている。第67号は「危機に応えての社会
の記事、性別職業分離の枠を越えて非伝統的な分野に
の床の構築」を特集テーマとし、社会保障を特集する。
進出して働く人々の写真集、職場における育児解決策
危機時の社会保障の役割について論じる ILO 社会保障
に関する新刊紹介、性別視点から見た金融危機に関す
局長の巻頭記事に加え、高齢化社会の利益とコスト、
る世界のニュース・クリッピングが掲載されている。
社会保障に対する危機の影響、実現可能な目標として
2007年後半に始まった金融危機はやがて世界的な経
の全ての人に行き届く保健医療、全国民を対象とした
済危機へと発展し、仕事の世界にも深刻な影響を与え
社会健康保険制度確立に向けたシエラレオネの経験、
るようになった。危機長期化の見通しに直面し、2009
基礎福祉制度を通じた貧困対策、国民全ての社会保障
年の総会では世界的な仕事の危機に対する処方箋を記
に向けたブラジルの手法、長期高齢者介護の課題、危
したグローバル・ジョブズ・パクト(仕事に関する世
機時の失業保険、2009年 9 月に開かれた社会保障の適
界協定)を採択した。
「経済・社会危機を食い止める」 用拡大戦略に関する専門家会議の模様といった記事が
を特集テーマとする第66号には、総会で行われた世界
掲載されている。他に、途上国のインフォーマルな仕
的な仕事の危機に関するサミットの模様と採択された
事とグローバル化に関する ILO と WTO の共同刊行物、
グローバル・ジョブズ・パクトをはじめとする総会の
G20ピッツバーグ・サミットによるグローバル・ジョ
主な成果、自動車産業や建設業、石油・ガス産業に対
ブズ・パクトに対する支持表明と ILO が同サミットに
する危機の影響、危機時における社会対話について得
提出した雇用と社会的保護の展望及び政策に関する報
られた過去の教訓、
危機の影響を受けている人々の声、 告書なども取り上げられている。
開発における社会保障の役割の再考を促す新刊書、各
●家事労働者●児童労働●仕事に焦点を当てた回復
二〇一〇年
第70号表紙
この年最初の号(第68号)は、2010年の第99回 ILO
出された児童労働を特集し、最悪の形態の児童労働撲
総会の第一次討議議題である家事労働者を特集し、総
滅の目標年である2016年に向けて達成された成果と残
会討議資料をもとにした家事労働者の労働事情と提案
された課題について記した巻頭記事、カンボジア、ボ
される国際労働基準に関する巻頭記事に続き、カンボ
リビア、マリの児童労働写真集などを掲載している。
ジア及びタンザニアの児童家事労働者、家事労働者の
他に、環境に対する配慮と雇用創出の二つの需要を満
フォーマル経済移行の試み、米国における家事労働者
たすグリーン・ジョブ、危機に強い協同組合、知的障
の組織化などの記事を掲載している。他に、2010年の
害者が貧困から抜け出す道の敷設、低い保険料で長い
総会で勧告の採択に向けた審議が行われる HIV/エイ
給付が確保される小規模保険が貧しい女性に求められ
ズと仕事の世界、カナダの企業家ママによる仕事と家
る理由、2010年の総会の主な成果、東南アジア諸国連
庭生活の調和、欧州の中国人移民の労働搾取に関する
合(ASEAN)の労働・社会情勢に関する新刊書など
新刊書などに関する記事も取り上げられている。
に関する記事が取り上げられている。2010年の総会で
第69号は2010年の総会にグローバル・レポートが提
は、連合の中嶋滋国際顧問が労働者側副議長に選出さ
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
訓練(TREE)計画」が変えたある若者の生活、「競争
レイアウトを一新した第70号は「仕事に焦点を当て
力と責任ある企業を通じた持続可能性(SCORE)計画」
た回復の促進」を特集テーマとし、この分野での ILO
による中小企業支援、建設業のグリーン・ジョブ、南
の活動を紹介するソマビア事務局長の巻頭言に続き、
アフリカの労働集約型公共道路工事計画、2010年 9 月
『仕事の世界報告書』2010年版などから社会の結束を
に開かれた技術職業教育訓練に関する会議、2010年 9
脅かすほどの雇用喪失が生じている仕事の世界の現
月の会議共催を通じて ILO と国際通貨基金(IMF)と
状、世界の成長と需要の均衡を回復させて景気回復を
の間で達成された、仕事に焦点を当てた政策で世界的
図る方法、金融部門の是正法、最高水準に達している
な景気下降に対応していくことなどの合意、2010年10
若者の失業問題を取り上げている。他に、パキスタン
月に開かれた専門家会議における農業の安全衛生に関
で2010年 7 〜 8 月に発生した洪水の被災者を対象とし
する実務規程の採択、グローバル経済の社会的基盤設
た現金引換労働を通じた生計再建支援、スリランカで
置に向けた ILO の長い戦いの歴史などを扱った記事が
実施されている「農村経済エンパワーメントのための
掲載されている。
13
二〇一〇年
れた。
特集報告
● ILO 総会●仕事における差別●雇用失速
た国際的なイニシアチブである国連=先住民パートナ
えた ILO 総会を特集し、その主な成果を振り返ってい
ーシップ(UNIPP)などのニュースも取り上げられて
る。他に、ブラジルにおける労働監督を通じた強制労
いる。
働との闘い、2011年の第100回総会の議題の一つであ
いったん回復したように見えた雇用危機は、再びよ
った社会保障、欧州におけるプロスポーツ選手とその
り深く落ち込む気配を見せている。第73号は『仕事の
雇い主の社会対話、インドネシアのパプア州における
世界報告書』2011年版などをもとに、良質の仕事が不
先住民女性を対象としたジェンダーと企業家精神の訓
足している現状、若者の雇用危機の世界的な悪化、危
練、旅行・観光業の労働・雇用事情、2011年 2 月に開
機から抜け出すために雇用促進的な市場を形成する方
かれたコンテナ詰込に係わるサプライチェーン(供給
法に関する記事を掲載している。他に、2011年の国際
網)の安全性に関する会議などに関する記事が掲載さ
森林年に合わせて林業労働の課題と解決策、2011年 9
れている。
月に開かれた小売業職場の作業工程・作業環境の高齢
第72号は、2011年の総会に提出されたグローバル・
労働者のニーズへの適応に関する会議、インドの帰還
レポートのテーマであった就労に係わる差別を特集
移民、職場再統合の手段としてのケース・マネジメン
し、人種、移民労働者、女性、職場禁煙方針と喫煙者
ト、東チモールにおける ILO の若年者雇用計画(YEP)
の権利、年齢といった切り口から差別問題を取り上げ
の活動、アジアにおける大災害後の生活再建に向けた
ている。第100回総会の主な成果に加え、同総会で条
ILO の10年間の経験、HIV 及びエイズに対する職場対
約と勧告が採択された家事労働者に関してその組織化
応の鍵を握る男女平等、2011年10月に開かれた第12回
の動き、家事労働者にディーセント・ワークをもたら
ILO アフリカ地域会議、2014年 3 月までの 3 期目の任
第71号表紙
二〇一一年
2011年最初の号(第71号)は、この年100回目を迎
すためのインドの試み、家事労働者条約(第189号) 期終了を待たずに2012年 9 月30日に退任することを希
とアラブ諸国といった記事も掲載されている。他に、
望するソマビア事務局長の辞意表明、郵便部門の HIV
性に基づく暴力、2011年 5 月に ILO など国連諸機関が
/エイズ・ガイドラインなどに関する記事が掲載され
参加して発進した、先住民の権利の促進・保護に向け
ている。
●若者の雇用
最終号となった第74号は
「若者により良い出発点を」 興を図るレバノン、電話を用いて小規模保険を販売す
るケニアの協同組合、2011年12月に京都で開かれた第
起するソマビア事務局長の巻頭言に続き、アラブ、ア
15回ILOアジア太平洋地域会議、若者のディーセント・
フリカ、欧州、中南米、インドネシアといった世界各
ワークの促進に向けた ILO とマスターカード財団の新
地の若者の雇用の現状と訓練政策、国家行動計画など
たなパートナーシップなどに関する記事が掲載されて
を通じた若者の就業のための取り組みを紹介してい
いる。
る。他に、ケニアにおける IPEC の活動成果、鉱業に
おける女性、教育を通じてディーセント・ワークの概
念普及を目指すアルゼンチンの試み、健康に有害なタ
バコ生産からオレガノ生産に切り替えて戦災からの復
(注)
World of work
(ワールド・オブ・ワーク)誌の過去の号の電子版は、ILO 図書館のオンライン・データベース(http://www.ilo.org/public/libdoc/
ilo/P/09521/)及 び 専 用 ペ ー ジ(http://www.ilo.org/global/publications/magazines-and-journals/world-of-work-magazine/issues/lang--en/
index.htm)
から入手できます。印刷物の在庫については ILO 駐日事務所までお問い合わせ下さい。
第74号表紙
二〇一二年
を特集テーマとし、深刻な若者の雇用危機に注意を喚
14
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
特集報告
特集報告
社会正義のバトンを引き継ぐ:
ソマビア事務局長からライダー事務局長へ
©ILO
ソマビア現事務局長(右)からライダー次期事務局長へ
フアン・ソマビア ILO 事務局長による2012年 9 月
「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らし
末での退任表明を受けて2012年 5 月に行われた選挙
い仕事)」の概念に命を与え、これを ILO の行動課
では、ILO 事務局で基準及び労働における基本的原
題の中心に据えた。就任以来、様々な国際会議の場
則・権利を担当するガイ・ライダー総局長が第10代
で行った事務局長の精力的な広報活動も功を奏し、
事務局長に選出された。
ILO とその政策提案は次第に世界中から政治的な支
援を得るようになっていった。
2011年 9 月にフアン・ソマビア ILO 事務局長は、
1995年に開かれた世界社会開発サミットの準備委
理事会役員に宛てた書簡で、家族の近くにいること
員会議長を務めたこともあるソマビア事務局長は、
を要請する強い個人的な理由から2014年 3 月の第 3
1999年 3 月に理事会で行った就任演説で、
「開かれ
期任期満了を待たず、退任日を2012年 9 月30日に前
た社会と経済開放を推進しようとの国際的な合意
倒しする希望を表明した。理事会は辞任表明を受け
は、普通の人々とその家族の真の利益を考慮しない
て、後任者の選出手続きを開始した。事務局長は、
限り持続しない」として、自らの責務を、
「世界の
国連チリ大使としての 9 年間のニューヨーク駐在及
新たな現実のもとで、ILO の価値が広まるよう三者
び13年間にわたって ILO の舵
構成原則を近代化し、その運営を補助すること」と
を取ってきた今、帰国して近
述べ、今日の ILO の中心的な目的を「全ての人にデ
しい人々の近くで暮らすこと
ィーセント・ワークの機会を促進すること」と位置
が必要になったと考える「内
づけた。事務局長のこのディーセント・ワーク行動
なる必要」に突き動かされ、
課題は1999年の ILO 総会に提出された「ディーセン
今回の行動を取るに至ったと
ト・ワーク」と題する事務局長報告で加盟諸国に向
語っている。
けて提案された。課題の実行は、雇用創出、就労に
初の途上国(チリ)出身の
係わる権利の保障、社会的保護の拡大、社会対話の
事務局長として1999年 3 月22
促進という四つの戦略目標を柱に進められている。
日に第 9 代 ILO 事務局長に就
加盟各国における具体的な取り組みは、それぞれの
任したソマビア事務局長は、
国の政労使が ILO と協力して策定するディーセン
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
©M. Crozet/ILO
ト・ワーク国別計画を通じて実施されている。
ソマビア事務局長の主導の下、ILO はグローバル
化が社会に与える影響を懸念する声に応え、2002年
にグローバル化の社会的側面に関する世界委員会を
設置した(右写真)
。西室泰三東芝会長(当時)を
含む労使代表、国家元首、政策策定者、学者、社会
活動家などで構成される委員会は、公式機関として
初めて、グローバル化が社会に与える影響を体系的
に検討した。
委員会は、
グローバル化の利益が人々・
国々の間でより公平に分かち合われるためにはその
あり方を変える必要があるとして、全ての人に機会
を形成する公正なグローバル化を達成する手段とし
てのディーセント・ワークに対する呼びかけなどを
含む、より公正かつより包摂的なグローバル化のあ
り方に向けた勧告をまとめた。
標 1 の下に新しいターゲットとして、「女性や若者
ソマビア事務局長はディーセント・ワークの目標
を含む全ての人々に対するディーセント・ワーク並
を国際的な行動課題として確立することを目指して
びに完全雇用及び生産的な雇用の達成」の目標が含
精力的に活動した。世界経済フォーラムや世界社会
まれることとなった。
フォーラムの年次会合を含み、様々な国際会議の場
2008年の総会で採択された「公正なグローバル化
でこの概念の普及に努めた。世界銀行が主導する貧
のための社会正義に関する ILO 宣言」はグローバル
困削減戦略にディーセント・ワークの目標を導入す
化の課題に対処する ILO の21世紀における使命をデ
る取り組みも並行して進められた。ディーセント・
ィーセント・ワーク課題を通してとらえ直し、この
ワークの目標は次第に広く世界に受け入れられるよ
概念を組織にしっかりと定着させた(左下写真)。
うになり、欧州連合、アフリカ連合、米州機構、ア
2007年後半に始まった金融危機が世界経済・雇用
ジア開発銀行などを含み、様々な地域・国際会議の
危機へと転化していく中、ILO に求められる役割は
場で支持が表明されるようになっていった。2005年
ますます高まった。2009年の第98回総会会期中に開
9 月に開かれた国連世界サミットでは、
「公正なグ
かれた「世界的な仕事の危機に関する ILO サミット」
ローバル化を強く支持し、
完全雇用、
生産的な雇用、
の中で、ILO は景気回復を刺激し、雇用を創出し、
全ての人へのディーセント・ワークといった諸目標
働く人々とその家族に保護を提供することを目指し
を、ミレニアム開発目標(MDGs)達成努力の一部
た国内及び国際の政策を導くことを目指してグロー
とする決意」が全会一致で表明された。2006年 7 月
バル・ジョブズ・パクト(仕事に関する世界協定)
に開かれた国連経済社会理事会のハイレベル会合
を採択した。この文書はその後、主要20カ国・地域
は、ILO のディーセント・ワーク課題を支持し、そ
の G20ピッツバーグ・サミットでも歓迎され、事務
れを世界の目標及び各国の現実とするための取り組
局長は雇用と社会的保護に関する政策及び展望に関
みを強める閣僚宣言を採択した。これらを受けて、
する報告書を提出するよう求められた。事務局長の
極度の貧困と飢餓の撲滅を掲げるミレニアム開発目
リーダーシップの下、ILO はその後の G20サミット
にも招待され参加している。2009年のラクイラ・サ
ミット以来、G8サミットからも招待を受けている。
ソマビア事務局長の下、2006年の海事労働条約、
2011年の家事労働者条約、2000年の HIV 及びエイズ
勧告、2012年の社会的保護の床勧告といった、歴史
的な基準が採択された。
ソマビア事務局長が辞意を表明して以来、2011年
10月に開かれた第12回 ILO アフリカ地域会議、京都
で2011年12月に開かれた第15回 ILO アジア太平洋地
域会議、2012年 3 月に開かれた第313回 ILO 理事会、
©M. Crozet/ILO
特集報告
15
16
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
特集報告
2012年 6 月の第101回 ILO 総会といった場で事務局
2012年 5 月28日にジュネーブの ILO 本部で実施さ
長の功績を讃える機会が設けられた。それぞれの場
れた理事会による選挙の結果、ILO 事務局で国際労
で、ディーセント・ワークの概念を ILO 内外で確立
働基準並びに労働における基本的な原則及び権利を
させ、この組織の存在感を世界的に高めたソマビア
担当するガイ・ライダー総局長が第10代事務局長に
事務局長の13年間にわたるリーダーシップに対して
選出された。国際自由労連(ICFTU)及び国際労働
幅広く讃辞が述べられた。2012年の総会で労使代表
組合総連合(ITUC)の書記長を務めたこともある
及び各地域代表から表明された賛辞を受けて、事務
氏は、ILO の歴史上初の労働者側出身の事務局長と
局長は、第 9 代事務局長として先代から受け継いだ
なる。ソマビア事務局長の下で官房長を務めたこと
バトンを、ILO の価値、憲章の価値というレーンの
もある、英国リバプール生まれの新事務局長は、選
中を走って今また次代に受け継ごうとしている自ら
出後の理事会における演説で、「我々共通の価値は
の状況を述べて1919年に始まる継続性の大切さを示
我々を社会正義の大義の下に結束させる」として、
した上で、1999年の総会で自らが行った演説の中に
現在のような動乱の時代においてはその実現に一層
おける、人々の目を通して問題に近づく必要性を示
の努力が必要なことを指摘し、最大限の効率性をも
し、政労使三者構成原則の強みを希望と現実の間の
って仕事を遂行するための変化を約束すると同時
待機時間を縮小することに置いた箇所を引用し、こ
に、社会正義への道となる三者構成原則の固守を呼
れこそ自分たちが13年間にわたって一緒にやってき
びかけた。新事務局長は 5 年の任期で、2012年10月
たことだと述べて、在任中の協力に謝意を示した。
に就任する。■
ソマビア事務局長と日本
ソマビア事務局長は就任以来 4 度
日本を訪れている。就任間もない
1999年11月に日本政府の招待を受け
て行った初来日では、
(財)日本 ILO
協会創立50周年記念講演会において
「21世紀の ILO」と題する講演を行
い、今世紀の課題に対処する ILO の
戦略についてディーセント・ワーク
の概念の詳細な説明を含めて語って
いる。講演会後に開かれたレセプシ
ョンでは、50年にわたって ILO のた
めに活動してきた同協会の工藤幸男
❶
常務理事にその功績を讃える表彰状
を授与した(写真①)
。2004年11〜12月に行われた二度目の来日では、12月 2 〜 3 日に ILO が厚生労働
省及び国連大学と共催したグローバル化と若者の未来に関するアジア・シンポジウム(写真②)に出席
し、
「公正なグローバル化とディーセント・ワーク」のテーマで基調講演を行った。2008年 5 月に新潟
で開かれた G8労働大臣会合にも招待を受けて出席し、環境に配慮したディーセント・ワークの促進と
いうグリーン・ジョブ構想を中心とした演説を行った(写真③)。最後の来日となった2011年12月に京
都で開かれた第15回 ILO アジア太平洋地域会議の場では野田佳彦首相とも会談し(写真④)、男女・若
者にディーセント・ワークの機会を創り出すことに向けた日本の公約を評価した。
❷
❸
❹
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
第101回 ILO 総会:主な成果
©ILO
日本を含む185加盟国のほとんどから4,000人を超
議を経てまとめられた、過去に各国で試みられた一
える政府、使用者、労働者の代表の出席を得て、
連の措置と政策提案を示して世界的に増大する無職
2012年 5 月30日〜 6 月14日の日程でジュネーブのパ
の若者の問題に取り組むことを呼びかける決議、◇
レ・デ・ナシオン(国連欧州本部)で開かれた第
結社の自由及び団体交渉権の効果的な承認、強制労
101回 ILO 総会では、ディーセント・ワーク(働き
働・児童労働の廃絶、雇用・職業上の差別の撤廃と
がいのある人間らしい仕事)を全ての人に実現する
いった、労働における基本的な原則と権利に関する
ことを目指す ILO のディーセント・ワーク課題と国
包括的な話し合いを行ってまとめられた、今後 4 年
際社会における ILO の役割強化の提案に強い支持が
間のその保護と促進に関する具体的な事業計画、◇
表明された。
強制労働の適用に問題があったミャンマーに対して
課していた ILO の活動参加に対する制限を解除する
総会では次の文書が採択された。◇社会的な支援
決議。
体制におけるギャップの解消によって貧困を削減す
総会では、コスタリカ、イタリア、パナマ、ペル
ることを目指す「社会的保護の床(最低限の社会的
ー、チュニジア、ザンビアの各大統領、世界経済フ
保護)」を各国が構築することを呼びかける新しい
ォーラム会長、スペイン皇太子、ミャンマーのアウ
勧告(第202号)
、◇若者の雇用危機に関する一般討
ン・サン・スー・チー国民民主連盟(NLD)党首に
特集報告
17
18
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
特集報告
よる特別演説が行われた。 6 月12日には、南アフリ
らすことを求める強いメッセージを世界に発信して
カ、中国、チリ、ベルギー、ロシア、オーストラリ
いる。中南米、アフリカ、アジアには床の全体また
アのハイレベル専門家が出席し、世界経済危機が開
は少なくともその主要要素を整備することに成功し
始して以来、各国が直面した課題、学んだ教訓につ
た国が数多く見られ、ある程度の社会的保護を全て
いて経験を交換するパネル討議が行われた。
の人に確保することはほとんどどこでも負担可能な
総会の議長にはドミニカ共和国のラファエル・フ
ことが示されている。フアン・ソマビア ILO 事務局
ランシスコ・アルブルケルケ・デ・カストロ副大統
長は、社会的保護について「強力な危機対応策であ
領、副議長には、スイスのブレーズ・マテイ氏(使
ることが立証された」として、人々を守り、力を付
用者側)
、ケニアのフランシス・アツオリ氏(労働
けさせ、経済需要の増進や回復の加速化に寄与する
者側)
、ヨルダンのラジャブ・スカイリ氏(政府側) だけでなく、「持続可能で包摂的な経済成長の基礎」
が選出された。
であると語っている。各国が決定する社会的保護の
床に投資することの重要性は2012年 6 月に開かれた
各国の社会的保護の床に関する勧告(第202号)
を新たに採択
世界中で50億人以上に十分な社会保障が提供され
主要20カ国・地域の G20ロスカボス・サミットでも
認められている。
ミャンマーの活動制限を解除する決議を採択
ていない現実に鑑み、総会は最終日の 6 月14日に、
総会は 6 月13日に、強制労働条約(第29号)の適
各国の「社会的保護の床」を構成する必要不可欠な
用における問題を理由として1999年からミャンマー
保健医療及び給付並びに基礎的な所得保障を全ての
に課していた技術協力の提供や会議参加における制
人々に提供することを求める新しい勧告を賛成453
限を解除することを決定した。
票、棄権 1 票で採択した。新たに採択された「各国
この制限はミャンマーで強制労働の使用が広く見
の社会的保護の床に関する勧告(第202号)」は、「社
られると結論づけた審査委員会の1998年の勧告をフ
会的保護の床」を「貧困、脆弱性、社会的排除の予
ォローアップするものとして導入された。委員会の
防または緩和を目指した保護を確保するような基礎
勧告は、関連法の改正、強制労働慣行の廃止、違反
的な社会保障を保証するもの」の集合体として、具
者の処罰の 3 点を柱にする。1999年の総会は、委員
体的な定義は各国に委ねている。このような基礎的
会の勧告が実行されるまで、①勧告の即時の実行を
な社会的保護の生涯を通じた提供は、貧困、不平等、
直接的に支援する目的のものを除き、ミャンマー政
健康問題、数多くの早過ぎる死の減少をもたらすこ
府は ILO の技術協力・支援の恩恵を受けないこと、
とになる。
②勧告の即時かつ完全なる遵守を確保することを唯
新勧告によって、各国は国の資金を財源とするこ
一の目的とするものを除き、ミャンマー政府は ILO
の社会的保護の床を自国の社会保障制度の基本的な
の主催する会合、シンポジウム、セミナーへ招待さ
要素として、そして自国の社会・経済・環境開発計
れないことを決定した。続く2000年の総会は、ミャ
画の一部として確立するよう奨励されている。財政
ンマーによる勧告実行の動きが見られないとして、
力・経済力が不十分な国については、自国の取り組
ILO 加盟国政労使に対して自らの行動が強制労働を
みを補足する国際協力・支援を求めることが提案さ
存続させるように用いられないことを確保するた
れている。勧告はまた、フォーマル経済に従事する
め、同国との関係を見直すことなどを求める決議を
人のみならずインフォーマル経済に従事する人たち
新たに採択した。
も社会保障の恩恵を受けるべきと明記することによ
今回採択された決議は、今ある措置の維持はもは
ってフォーマルな就業形態の成長を支え、インフォ
や審査委員会の勧告の遵守という望ましい結果を達
ーマル性を減らすことに力を注ぐよう求めている。
成する助けにならないとして、1999年の総会決議に
新しい労働基準は国家開発プロセスの中で社会的
基づく支援制限・諸会合への参加停止措置の解除な
保護の床をできるだけ早く張り巡らすことを各国に
どを定めている。2000年の決議については、これに
求めており、現在進行中の経済危機にもかかわらず
基づく ILO 事務局長による諸国際機関に対する協力
社会的保護制度を広げること、つまり、各国の状況
再検討の要請や国連経済社会理事会に対する決議採
が許す限り迅速に国内法によって保障された、より
択要請の終了を確認し、加盟国政労使に対する関係
高い水準の社会保障をできるだけ多くの人々にもた
見直し要請に関しては措置を 1 年間停止して来年の
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
総会で再検討することを求めている。
に早急に対処する革新的な手法と政治的な公約を求
総会はその上で、技術協力上の優先事項の把握に
める決議が採択された。
早急に注意を向けることを ILO に求め、既に確定さ
採択された決議は、世界全体で現在、2007年より
れている優先事項として、結社の自由の完全かつ実
400万人多い7,500万人の若者に仕事がなく、そのう
効的な実現、強制労働の撤廃を挙げている。2012年
ち600万人は職探しを完全にあきらめてしまってお
5 月 1 日のメーデーにおけるテイン・セイン大統領
り、働いている若者の中でも 2 億人以上が 1 日 2 ド
のメッセージで明らかにされたように、ミャンマー
ルに満たない賃金を得ているといった、若者の就業
政府は既に強制労働の撤廃に向けた共同戦略に関し
を取り巻く情勢を数字で示した上で、「活発な行動
て ILO と合意に達しており、政府は宣言した2015年
を即時に取らない限り、地球社会は失われた世代と
の撤廃目標年までにこの戦略に関する即時の行動が
いう悲惨な遺産」に直面することになると警告し、
必要なことを認めている。
ILO の主導の下で問題に取り組むことを政府、多国
今年の総会にはミャンマーから政府代表に加え、
間システム、G20、その他関連するあらゆる国内組
新たに成立した労働団体法に基づき誕生した労使団
織、地域組織、国際組織に呼びかけている。決議は、
体の代表も出席し、発言を許された。また、亡命中
技能ミスマッチへの取り組み、見習い研修制度の改
のビルマ労働組合連盟(FTUB)の書記長も国際労
善、若者の起業家精神の促進など、労使の支援を受
働組合総連合(ITUC)代表として演説し、労働者
けて政府が講じ得る様々な措置を列挙し、「若者の
の権利と強制労働に関わる FTUB の過去20年間の戦
労働市場への移行を阻む障壁に取り組む方法につい
いと弾圧、最近の進展について報告した上で、労働
ては多くのことを学んだものの、マクロ経済その他
団体法に基づく FTUB の登録などについて政府と合
の政策は多くの国で非効果的であり、一般的にそし
意が達成されたことを告げ、社会正義、法の統治、
て特に若者のために十分な仕事が提供されていな
男女双方の完全雇用を基礎とした新生ミャンマーの
い」と記す。そして、「この状況改善においては政
構築に向けた効率的なパートナーとなることへの決
治的な公約と革新的な手法が決定的に重要」とした
意を表明し、引き続きの支援を求めた。
上で、ILO にはこのプロセスで演じる重要な役割が
昨年はビデオ・メッセージで総会に参加したアウ
あるとして、政府、社会的パートナーである労使、
ン・サン・スー・チーNLD 党首は最終日の 6 月14
多国間システムが若者の雇用危機に取り組み、若者
日に特別演説を行った。議員は、同国における最近
のディーセント・ワークを促進する行動を支援する
の変化に光を当て、政治変革に加え、経済部門にお
よう求めている。■
ける肯定的な変化を実現しようとの相当の努力が見
られることを紹介した上で、民主主義に優しい開発
成長が自国で見られることへの希望を表明し、
「政
治改革に益する社会と経済の進歩を促進することに
よって民主化プロセスを強化するような援助」をお
願いしたいとして、ミャンマーのより良い未来の構
築を助ける国際的な援助と投資を求めた。そして、
若者の失業問題を特に強調した上で、招来されるべ
きは「雇用創出をもたらす外国直接投資」であると
して、最善の慣行の規範に従うことを投資家に求め
るとともに、国際的に認められた労働基準と環境に
対する責任に関する実績点検の必要性にも言及した。
若者の雇用危機に早急に対処する革新的な手法
と政治的な公約を求める決議を採択
総会では若者の雇用危機に関する一般討議が行わ
れ、総会開幕直前にジュネーブで開かれた若者の雇
用フォーラムに世界中から集った100人の若手リー
ダーからの意見にも留意した上で、若者の雇用危機
©M. Crozet/ILO
特集報告
19
20
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
特集報告
特集報告
若者により良いスタートを
世界82カ国1,000都市以上で見られた抗議活動の
ることが徐々に示されてきた。「労働は商品ではな
中で若者は顕著な存在を示している。「アラブの春」 い」という仕事の意味が広範に切り下げられる一方
以降、このような出来事は一層加速化している。
で、不平等の拡大、機会の縮小、労働異動率の低下
多くは悲観的で、状況を変えられない無力感を感
は、人間らしく働きがいのある仕事を伴った持続可
じている。若者は問う。
「自分は将来どうしたらい
能な成長を確保するための選択肢を狭めている。
いだろう」
、
「より良い未来に向かう道はないのでし
雇用とディーセント・ワークの課題に対する取り
ょうか」と。
組みの実効的な出発点として求められるのは、人々
仕事の世界の観点から見ると、これはもっともな
により良い結果をもたらすことができる新たな成長
懸念を動機とする正当な質問である。世界の失業者
戦略である。若者の雇用とディーセント・ワークを
の10人中 4 人が若者である。
促進する政策はまた、雇用を豊かに生み包摂的な成
若者の 4 人に 1 人が失業している国もある。そし
長・回復戦略の中につなぎ止める必要がある。
て、若者の失業率はより年長の人々の失業率の 3 倍
に、地域によっては 5 倍近くになっている。若い女
(注 1 )
以下で入手可。
http://www.ilo.org/ilc/
ILCSessions/101stSession/
reports/reportssubmitted/WCMS_175421/
lang--en/index.htm
(注 2 )第93回 ILO 総会(ジ
ュネーブ・2005年 6 月)で
採択された若者の就業に関
する決議
今こそ行動の時
性の場合、状況はさらに厳しいこともある。
2012年 6 月に開かれた第101回 ILO 総会ではこの
そして失業は問題の一つの側面に過ぎない。あま
ような若者の雇用危機に関する討議が行われた。採
りにも多くの若者が社会保障や労働法の対象となら
択された決議は、若者の雇用危機に対象を絞り、改
ないインフォーマル就業状態に陥ったり、劣悪な労
めて注力しこの問題に即時に取り組む行動を求め
働条件に苦しんでいる。意欲をなくし、十分な備え
る。マクロ経済政策、就業能力、労働市場政策、若
もなく、自分自身も現在の制度も信頼できずに労働
者の起業家精神、権利の五つの分野で若者の雇用危
市場から離れてしまい、自分自身の育成にとっても
機対策として効果が確認されている様々な方策を提
家族や社会にとっても悪い結果となっている人々も
示すると同時に政策措置間のバランス、一貫性、補
いる。
完性の必要を強調し、政府と社会的パートナーであ
これは今日の失われた世代のリスクと、制度が将
る労使の行動を呼びかけている
(前ページ記事参照)
。
来的に人々の生活に改善をもたらす能力に対する信
討 議 の 背 景 資 料 と な っ た『The youth employ-
頼の喪失を招くという不安なパターンである。
ment crisis: Time for action(若者の雇用危機:今こ
世界的な金融・経済危機と低速かつ不確実で不均
そ行動の時)(注 1 )』と題する報告書は、前回この問
衡な回復の見通しによって悪化させられた若者の雇
題に関する議論が行われ、決議(注 2 ) が採択された
用危機は前例のない規模に達し、転覆しそうな点に
2005年の総会以降に各国が得た経験から学んだ教訓
到達したとの幅広い認識がある。
に光を当て、様々な文脈で様々な若者集団に適用で
我々は若者があきらめたり、自分たちに開かれた
きる一連の選択肢を示している。
唯一の道がワーキング・プア(働く貧困層)と不安
若者に効果的な政策はまた、若者の視点を取り入
定な暮らしにつながっていることを知るというよう
れる必要もあり、若者の参加と若者の関与を得るた
な事態を放置するわけにはいかない。全ての人々の
めの仕組みが求められる。2012年 3 〜 4 月に世界各
ためのより良い未来を形成するには、若者のエネル
国で開催された45の若者対話集会に続き、 5 月23〜
ギー、創造力、活力が必要である。そして、正しい
25日にジュネーブで若者の雇用フォーラムが開か
機会が与えられれば、そのような潜在力をいかに発
れ、若者から直接その希望、そして仕事の世界の未
揮し得るかを示す例は豊富に存在する。
来に関するアイデアや提案を聴取し、総会における
しかしながら、若者の失業はまたより広範な仕事
討議に反映させた。
の世界の危機の一部でもある。
全ての人々のためのディーセント・ワーク、
尊厳、
仕事の不足量を縮小し、
ディーセント・ワーク(働
社会正義を求める要求は世界各地で繰り返し表明さ
きがいのある人間らしい仕事)を求める人々の願望
れている。若者が今日及び将来の分け前を確保でき
に十分に応えるには現在の成長モデルでは限界があ
るような経済と社会を構築すべき時は今である。■
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
特集報告
21
社会正義とディーセント・ワークを
熱望するアラブの若者たち
(World of Work 2012年 5 月発行第74号より)
2011年、アラブ地域の若年失業率は、平均して27.3%以上と
義を受けながら、心の中では、いつも、後にどんな機会がある
いう懸念される水準に達した。この地域の若い女性の労働市場
のだろうかと、疑問を持っているのです」。
への参加は世界中で最も低いのだが、加えて、失業率はさらに
エジプトでも、新しい仕事のほとんどは、インフォーマル経
悪く平均41.1%である。たとえ若者が仕事に就いたとしても、
済の仕事である。
その労働条件はひどい、と北アフリカ地域を担当するドロテ
「仕事の創出は、両国の新政権にとって最優先課題ですが、
ア・シュミット ILO 雇用専門家は言う。
一夜にして成ろうはずがありません。しかし、中期的には、使
用者や企業のニーズに合わせて若者を訓練することによって、
ILO の専門家によれば、アラブ地域の賃金は低く、社会的保
多くのことを達成できるはずです。他方、使用者は、若者たち
護はほとんど無く、労働条件は悪く、キャリアの展望は限られ
の労働条件を改善し、若者に対する態度を改善すべきです」と
ている。「だから、若者たちが怒っているのは当然なのです」
シュミット女史は語る。
とシュミット女史は話す。
ILO の専門家が指摘するもう一つの重要なポイントは、労働
この地域の若者にとって、現実は、あまりにもしばしば、希
市場政策は需要と供給をうまく合わせるべきであるという点で
望とかけ離れている。
「教育水準や所得水準が高いか低いかに
ある。この点について、求職者と求人をマッチングする任務を
かかわらず、同じように失業の影響を受けています。その上、
果たすために、公共及び民間の雇用サービスがさらに強化され
失業保険や年金制度などの社会保障制度は、大抵、公務員しか
なければならない。
対象になりません。ですから、失業したら、すぐに貧困にすべ
最後に、「若い起業家がビジネスを始められるよう、後押し
り落ちてしまうのです」
。
しなければなりません。今日、仕事の多くを創り出しているの
若者たちの不満は、
親が子どもたちのより良い将来のために、 は中小企業です」とシュミット女史は言い、民間部門支援、特
教育に多額の投資をしてきたという事実によって、さらに増幅
に若者のための仕事を創出する潜在力の高い零細・小企業の育
されている。
成が不可欠、と付け加える。
シュミット女史によれば、同地域の労働市場の問題は、国情
若年者雇用を促進する ILO のプログラムは、中東・北アフリ
の違いにかかわらず、とても似ているとされる。例えば、チュ
カ地域の多くの国で拡大している。これらのプログラムは、不
ニジアで、若者たちは、エジプトに比べてはるかに良い教育を
利な立場に置かれた若者を対象とする積極的労働市場政策の総
受けている。チュニジアはまた、労働市場における女性への差
合パッケージの策定と実施など、学校から仕事への移行を改善
別との闘いにおいても域内のどの国よりも前進してきた。
することを目指している。ILO は、また、労働市場のガバナン
しかし、社会全体の状況として、チュニジアにはまだ問題が
スを改善するための制度改革を支援している。
非常に多い。
「革命は、体制を倒したかもしれません。しかし、
現在、北アフリカにおける ILO の若年者雇用計画はカナダ、
チュニジア、特に教育を受けた若者たちを失業から解放するこ
イタリア、スペイン、米国、欧州連合の資金協力を受けている。
とはできませんでした。若者の 3 人に 1 人は失業しています。 「この地域の若者の就業は非常に大きな課題に直面しているた
約30%です。このように教育水準の高い労働力を有する国とし
め、現在、幅広いパートナーシップの構築によってプログラム
ては、衝撃的に高い水準です」とシュミット女史は説明する。
の拡充を図っています」と ILO 若年者雇用計画のジャンニ・ロ
若者を吸収できない労働市場
ザス調整官は語る。
現在、オーストラリア、デンマーク、フィンランド、ノルウ
チュニジアでは、
毎年、2 万人が労働市場に新規参入するが、
ェー、スイスとのプロジェクトがまとまりつつあるが、その統
市場はこれを吸収することができない。逆説的に、仕事のほと
合的な手法は雇用面の課題にあらゆる側面から取り組むことを
んどは、農業や商業などの技能の低い部門と社会保障や労働法
確保することになる。供給側については技能訓練を通じて、需
の保護対象でないインフォーマル経済で創出されるので、大学
要側については雇用創出を通じて、そして求職者と企業のマッ
の学位を持っていない方が、仕事を見つけやすい。しかし、こ
チング・プロセスを通じて。これらのプロジェクトは同時に社
れらの仕事は、賃金が低く、危険が伴う場合がある。
会対話と社会的保護を強化し、国際労働基準を促進するものと
教育水準が高く、高い技能を習得して大学を卒業する若者た
なる。■
ちは、それだけ期待も高く、ディーセント・ワーク(働きがい
のある人間らしい仕事)を求める。チュニジア国立労働社会学
研究所のラサード・ラビディ所長は、次のように語る。「学校
卒業後に仕事を見つけることが、大問題です。学生たちは、講
「教育水準や所得水準が
高いか低いかにかかわらず、
同じように失業の影響を受けています」
22
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
特集報告
今日の仕事に合った技能を若者に
(World of Work 2012年 5 月発行第74号より)
©M. Crozet/ILO
若者の失業が警戒水域に達している今、各国政府
け、実世界のチームワーク、コミュニケーション、
は、落胆し怒りを募らせている世代という潜在的な
根回しに関する経験を通じてソフト面での技能を身
時限爆弾の爆発の危険を取り除き、この危機を克服
に付けることができる職場は、強力な学びの環境を
する方法を急ぎ求めている。ジャーナリストのパト
提供する。職場での訓練は、訓練生が訓練を受けて
リック・モーザーが報告する。
いる企業のアウトプットに貢献する一方で、雇用主
と潜在的な被用者が互いに知り合えることで採用を
若者に労働市場に参入するに必要な技能を身に付
容易にする」と、経済協力開発機構(OECD)の最
けさせることは、世界で7,480万人と推計される若
近の報告書は記す。この OECD の報告書は、
「雇用
者の失業に取り組む上で極めて重要な要素である。
主は技能の不足がある分野で訓練の機会を与えるこ
職業教育・訓練は、若年者が働く準備をするに当
とに最も熱心になるため、職場で学ぶ機会は、雇用
たって中心的な役割を果たし得るが、専門家は、多
主のニーズの直接的な表現でもある」という事実を
くの場合そのようなプログラムは労働市場のニーズ
強調している。
に応えられていないと言う。
しかし、学びの世界と労働の世界の間に強固な橋
未来の仕事に技能を適合させる
を築くことが、労働市場が求める技能を若者が確実
どの国においても、技能開発がもたらすその結果
に身に付けるための鍵であるということは広く同意
は重要である。この先20年にわたり生まれるであろ
されている。若者の雇用を増やすことに成功した
う仕事の多くは現在存在していない。しかし、この
国々においては、職業訓練を労働市場のニーズにリ
先20年にわたる労働力の多くは既に教育過程または
ンクさせている。
訓練に入っているのである。
ILO における技能開発システムの専門家であるミ
技能開発は、よりクリーンなエネルギーの使用、
ハエル・アクスマンは、最近のドイツにおける、長
新たなグリーン・ジョブの創出に向けて、主要な役
く続いてきた「デュアル・システム」の改革の例を
割を有すると期待されている。幾つかの国では、既
挙げる。この「デュアル・システム」は、アプレン
に再生エネルギーやその他の「グリーン」産業にお
ティスシップ制度(企業における実地の訓練)と学
ける技能不足が報告されている。「経済が『グリー
校で行われる理論的な訓練を結びつけたものである。
ン化』を続け、その過程で生まれる雇用の潜在的な
1990年代後半のドイツIT(情報技術)部門における
成長を具現化することができるよう、幅広い範囲の
深刻な技能不足は、この部門での特定のニーズに沿
仕事において必要とされる技能をフルに満たす訓練
った、若者がそれぞれ自ら計画し仕事を実行するの
への緊急のニーズがある」とILOは技能とグリーン・
を手助けすることに重点を置いた、新たなアプレン
ジョブに関する報告書で述べている。
ティスシップ制度を発展させた。このIT 部門でのア
多くの場合、技能プログラムを今日の仕事の世界に
プレンティスシップ制度は、現在ではすっかり一般的
適したものとするよう、カリキュラムの改革が必要とな
なものとなっており、採用を円滑なものとした。そし
っている。
「このことは、技能を付与する方法の抜本的
て、
「デュアル・システム」をより柔軟で適切なもの
な再検討をしばしば必要とする。大量の技術的な詳細
とするための改革プロセスを進める先駆けとなった。
について記憶するよう教育するのではなく、むしろ、
「訓練だけでは決して仕事は創出されない」
しかし、ILO の専門家は、
「訓練だけでは決して
学生は状況に応じ機能的に考え、問題に対して分析的
に臨むことを学ぶ必要がある」
とアクスマンは説明する。
「職業教育と訓練により、我々は、あまりに長くに
仕事は創出されない」と警告する。
わたり、学生の脳を、小さなプロセッサー(演算装
アクスマンによると、企業での訓練は若者が仕事
置)と巨大なメモリー(記憶装置)を有するコンピ
の世界で足がかりを得るのを手助けする。というの
ューターのように働くよう訓練してきた。しかし、
も、若者は雇用経験の記録を持たないので、そのよ
今日の仕事の世界で成功を収めるために真に必要な
うな訓練によって初めて若者と雇用主が互いに知り
のは、はるかに大きなプロセッサーを持ち、一方必
合うことができるのだ。
要な分だけのはるかに小さいメモリーを備えた脳な
「最新の設備に関するハード面での技能を身に付
のである」と ILO の専門家は結論づける。■
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
ケニアで芽吹く若者の就業運動
(World of Work 2012年 5 月発行第74号より)
サハラ以南アフリカでは、多くの若い働き手がサ
生設備の欠如である。“ 空飛ぶトイレ ” はポリウレ
バイバルを余儀なくされていて、そのほとんどが、
タン製バッグで、排泄に使われた後に道端に捨てら
インフォーマル経済に従事している。ジャーナリス
れることで、景観を台無しにしている。しかるべき
トのアン・ホームズが、ケニアにあるアフリカで 2
下水設備がないことで、公衆トイレは詰まり、雨が
番目に大きなスラムからレポートする。このスラム
降るとしばしば氾濫する。
では、協同組合とグリーン・ジョブを通じて若年雇
「キベラの大きな問題はトイレとシャワーがない
用の課題に対処している。ILO の支援により、協同
ことだ」とマティオリ氏は言う。公共サービスにお
組合の育成は、ケニアの若年雇用のための国家行動
けるこの欠陥は、自分たちの手で問題を解決しよう
計画の優先課題の一つになっている。
と決断したキベラの住民に最も安定した雇用機会の
一つを与えることになった。
ケニアにおいて、協同組合は若者たちを貧困から
ウマンデ・トラストは、ILO のアフリカ協同組合
救済する手助けをしている。
若者たちの協同組合は、 ファシリティ(COOP アフリカ)のチャレンジ基金
コミュニティー菜園や、バイオ燃料や公衆衛生向上
の支援を受けている組織で、最も革新的なグループ
のためのし尿処理のプロジェクトを通じて仕事を生
の一つである。彼らは主に若者や女性グループを雇
み出している。
用し、彼らが呼ぶところの “ バイオ・センター” で
ビクター・マティオリ(34歳)は、プロジェクト
ある公衆トイレを建設、運営させ、処理したし尿か
の受益者の 1 人である。彼は、コミュニティー菜園
らのバイオ素材を使って、公衆シャワーの水を加熱
で既にプロジェクトを実施し、若者に仕事を提供し
する。ガスは地元住民に調理用としても売られてい
ている。
る。
彼は、“ 若者更生のためのオーガニック温室農園 ”
「私たちはし尿をバイオガスを生産するための投
がどのようにスタートしたかを説明する。
「選挙後
資と考えていて、しかもこれはクリーンエネルギー
の暴動が農業を始めたきっかけだった。若者たちを
だ。私たちはこのやり方で、コミュニティーにクリ
集めて更生し、良いことをさせようというアイデア
ーンで節度ある形の公衆衛生サービスを確実に提供
を思いついたんだ」
。
している」と、ウマンデ・トラストのポール・ムシ
3 年前の選挙後の暴動では、若者たちは仕事のな
レ広報マネージャーは説明する。「忘れてはならな
い状態とあまりに高い失業率に激怒して、キベラを
いのは、これはメタンであって、メタンは炭素より
通る鉄道線路を引きちぎった。仕事も何もしていな
有害だということだ。だから、メタンを燃やす際に
い何千人もの若い男女が通りに出て、経済的に恵ま
は、環境への負荷を軽減しなければいけない」。
れていると思われる人たちの家や店を壊し火をつけ
ウマンデはケニア全土に50以上の同様のセンター
た。
を展開し、これは独立したコミュニティー・グルー
今日、住民たちはコミュニティーを再建し、スラ
プによって運営されているが、そのほとんどがナイ
ムの喧騒は、鬱積した暴力から生産的な仕事にシフ
ロビのスラムの中に立地している。
トしている。キベラの幹線道路沿いの、洗車ビジネ
スは活気に満ちている。ガブリエル・オウィノは、
既存の世界を新しい角度から見る
友人グループと10年前に始めたこの協同組合を運営
「私たちの出発点は、キベラには財産があるとい
し、泉の隣の機械工場も監督している。
うこと、つまり人々は学校に通い、ラジオがあり、
「ここの人たちはそれぞれ仕事の資格を持ってい
ネットカフェがあり、インターネットがあるという
る。別の良い仕事のために離職する人もいる。学校
点だ」と、2004年に友人たちとこの組織を設立した、
に行く人もいる。ここでは学校を卒業しても仕事の
ジョシア・オモット常務理事は言う。
「私たちは “ 貧
ない人もいるので、町でフラフラしないように、何
困のキベラ ” という考え方から脱却しようとしてき
かしら忙しくしている」と彼は言う。
た。なぜなら貧困という視点で人々を見た瞬間から、
“ 空飛ぶトイレ ”
このようなスラムの深刻な問題の一つが適切な衛
救いようがないという考え方が固定化してしまうか
らだ」。
オモット氏の説明では、過去10年間、雇用は社会
特集報告
23
24
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
特集報告
資本に基づいていたとされる。「もし誰かを知って
意味するのは、正義だ」とオモット氏は語る。
いれば、
職を手にできた。
高所得者が住む地域では、
ILO 協同組合部のマリア=エレナ・チャベス部長
失業率はとても低い。彼らは民間セクターに知り合
は次のように付け加える。「貯蓄信用協同組合のメ
いがいるし、公共セクターにも知り合いがいる」。
ンバーは献身的で、組合もメンバーの幸福のために
しかし、キベラの住民や、ナイロビのその他のス
目に見える貢献をしてきた。キベラを歩くと、組合
ラム地域の住民は、大部分が公式経済部門から締め
のメンバーは彼らのバイオ・センター、保有する銀
出されている。彼らは、一つの小さな仕事から仕事
行口座や貯蓄を誇らしそうに見せてくれた。そして
へと渡り歩く。露天で食べ物を売ったり、中古品を
組合の少額ローンを借りて学校の制服を買うことが
行商したり。安定した収入を手にすることは依然例
できて、自分の子供たちが学校に通えるようになっ
外的な事態である。
た、と説明してくれた。これは協同組合と若者たち
「ウマンデ・トラストの意味するところは、新し
が人々の生活にいかに大きな変化をもたらすことが
さだ。世の中を新しい始まりとともに見ること。昨
できるかについての非常に印象的な例である」
。■
日の考えのリサイクルではだめだ。私たちが本当に
ペルーの若者向け雇用・移住サービス
(World of Work 2012年 5 月発行第74号より)
この10年の見違えるような経済の拡大にもかかわ
らず、ペルーでは2010年の失業者の 3 分の 2 が15〜
若年起業家を対象とした訓練プログラムの制定
(Joven Emprendedor)
29歳層であった。若者の 5 分の 4 が不安定な仕事に
●海外に居住する若年出稼ぎ者と海外への出稼ぎを
就いており、800万人のペルーの若者の半分以上(56
計画するペルーの若者のための情報提供及びオリ
%)が、機会があれば海外に出稼ぎに行きたいと考
エンテーションのサービスの設立(Infomigra)
これらの対策の中には、新たに策定された国家雇
えている。
用政策に統合されたものもあり、この政策は若年者
このような状況に応えるため、ペルー政府は若者
雇用を主流に据えている。
の雇用・不完全就業問題に立ち向かうべく、国家若
若年者雇用行動計画及び国家若年者雇用政策の策
年者雇用政策と若年者雇用行動計画(2009〜2012年)
定と実施について、ILO は、労働省及び雇用に関す
を策定した。本計画の下での諸活動は、雇用創出、
る省庁横断委員会と密接に連携して活動している。
起業家精神及び就業可能性
(エンプロイアビリティ) これらの活動はスペインの MDGs(ミレニアム開発
を促進するものである。その実施は、労使団体の若
目標)達成基金から300万ドルが拠出されている若
者代表を含む国家三者委員会により監視される。
年者雇用・移住プログラムによって支えられてい
対象としている37万人の恵まれない若者のうち、
る。これらの活動は、労働省、女性・社会開発省、
現時点までに26万人以上が本計画による対策により
国家若年者事務局及び国家統計局によって実施され
受益している。若者によって経営される零細企業の
ている。技術的支援は、ILO、国連人口基金
(UNFPA)
、
75%以上が 1 年以上継続できないとする全国調査に
国連開発計画(UNDP)及び国際移住機関(IOM)
基づき、政府は一連の制度的な改革に着手した。
を含む国連国別チームによって提供されている。■
この改革は、以下を含んでいる。
●「お役所仕事」の是正及び公共職業安定サービス
の導入による求職に関連するコストの削減
●若年求職者に関するあらゆる情報を含む単一証明
書を無料で発行する
「ワン・ストップ・ショップ」
の導入(Certi Joven)
●キャリア・ガイダンス・サービスの近代化
●市場の評価を容易にする情報システムを伴った、
©M. Crozet/ILO
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
一段先に進む東チモールの若者美容師
(World of Work 2011年12月発行第73号より)
©M. Crook/ILO
エウジェニア・デ・ジェズス・カルドーゾは、東
を全国から募集している政府のプログラムについて
チモールの生まれ故郷マリアナで美容室を経営して
知った。
いる。彼女は、東チモール政府と ILO の若年者雇用
彼女はプログラムに申し込み、選ばれた12名の若
計画(YEP)が共同で行った研修プログラムで、ビ
者の 1 人として研修に参加した。彼女の目標は生ま
ジネスの知識と、美容師として必要な専門技術を修
れ育った町で美容室を開業することだった。 3 カ月
得した。ILO 東チモール連絡事務所からマット・ク
間にわたり、小規模企業経営、美容・調髪技術の研
ルークが報告する。
修を受けた。
この研修は、東チモール政府の職業訓練・雇用局
【ディリ(東チモール)
】20歳のエウジェニアは高 (SEFOPE)と ILO の若年者雇用計画(YEP)が共同
校を卒業して二つの問題に直面した。一つは、大学
で行った若者就業(JOIN)事業の一環として提供
に行く経済的余裕がなかったこと、そしてもう一つ
された。
は、故郷のマリアナで仕事を見つけるのは簡単では
なかったことである。
ビジネスの世界に参加しよう
「 私 は 技 能 が あ っ た の で、 政 府 や 非 政 府 組 織
「JOIN は、エウジェニアが開業した美容室のよう
(NGO)での仕事に応募しようと思いましたが、選
な、若者の起業を支援します」と SEFOPE のジョゼ・
考基準が高過ぎて、私にはその資格がありませんで
マリア・ダ・コスタ・ソアレス国家雇用総局長は述
した。多くの友達は勉強を続けていくことが出来ず、 べる。「私たちは幾つかの地区で美容師の需要が多
仕事も見つかりませんでした。何人かは首都ディリ
くあることを知り、関心のある若者に研修への登録
に出て、スーパーでの働き口や政府、NGO 事務所
を呼びかけました。今彼らは各地で自分の店を経営
で清掃の仕事を探しました」
。
しています」。
ほぼ諦めかけていた頃に、彼女はディリで小規模
研修が終わると、SEFOPE はエウジェニアの店の
ビジネスを起業するための技能研修を希望する若者
開業を支援した。鏡、椅子、はさみ、洗髪台に至る
特集報告
25
26
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
特集報告
面接し、指導員と協力して提案書が作成されます」
と SEFOPE のアレシャンドリナ・ヴェルディアル・
デ・S・ガマ自営業促進部長は説明する。
「JOIN は失業率の高い東チモールの若者に機会を
与えています。多くの若者が高校を卒業後、進学し
ません。そのため非常に少ない雇用の機会を失って
います」と部長は付け加える。
「マーケティングや販売促進などのビジネス研修
も受けました」とエウジェニアは言う。
「パンフレ
ットを作って地元の軍や警察を回り、割引券を提供
したところ、それが本当に成功してたくさんお客を
獲得できたのよ!」
エウジェニアには今では多くの常連客があり、毎
月の収入は100ドルである。国の人口の約 4 割が 1
©M. Crozet/ILO
まで SEFOPE より支給された。ひとたび必要な設備
日 1 ドル未満で暮らしているこの国でのビジネスと
が全て整えられ、
室内に新しくペンキが塗られると、 しては、良いスタートである。
次に彼女が必要としたのは顧客であった。
この若い美容師は新しく開設した銀行口座に毎月
エウジェニアの経営する小さな美容室は、彼女の
貯金をし、自分のためには少ししか残さない。
また、
家族が経営するキオスクの隣にある。そこは地元の
家族を支えて弟を学校に通わせてもいる。残りは事
人々が飲み物やスナックを買いに来る所で、集客に
業に再投入している。自分の腕を生かし、SEFOPE
は便利である。彼女の兄弟姉妹や親戚も評判を広め
の支援も受けながらビジネスをさらに拡大し、ます
ることに協力した。やがて美容室のうわさが広まる
ます明るい未来を達成することを計画している。
と、客の訪れが絶えないほどになった。
「本当にうれしいです。困難なこともありました
「この美容室プロジェクトは大成功でした」と
が、くよくよしたことなど全くありません。私はた
SEFOPEで働くオーストラリア青年開発大使(AYAD) だ自立して生計を立てようとしてきました。家族は
のスーザン・スラテリーは述べる。「マリアナでは
私が起業したことについて大変喜んでいます」とエ
20名以上の申し込みがありました。私たちは街中に
ウジェニアは語る。■
ちらしを貼り、応募者から申請書と履歴書を送って
もらいました。その中でエウジェニアが最良の候補
者として選ばれたのです」
。
ILO の YEP と SEFOPE への技術支援は、現在オー
ストラリア政府と ILO とのパートナーシップ協定を
通じた支援を受けている。プログラムは東チモール
政府の雇用・職業訓練基金で運営されているが、こ
の基金はこれまでに様々な地域活動を支援してきた。
ILO と SEFOPE は、オーストラリア政府の援助計
画である AusAID の支援を受けて予算1,130万ドルで
YEP が 5 年計画で開始された2008年から緊密に協力
してきた。このプログラムは、雇用のための技能訓
練を通じて地域社会を強化する一方、国の行政機関
やその他の制度の能力強化を図っている。
若者のための機会
「私たちはクライアント、特に若者の支援をする
前に、まず考えられるビジネスのアイデアを特定し
ます。それから地域からの申込者を募り、候補者を
「私たちはクライアント、特に若者の
支援をする前に、まず考えられる
ビジネスのアイデアを特定します」
ILO の若年者雇用計画
2010年に失業者数は世界全体で 1 億9,500万
人と推計され、そのうち約40%の約7,510万人が
15歳から24歳の若者と見られる。この厳しい失
業状態を一層悪化させるものとして、低所得国
では多くの若者がしばしば、インフォーマル経
済の質が悪く、低収入の仕事に就いている。
雇用専門家の世界的なネットワークを通じ
て、ILO の若年者雇用計画(YEP)は調整を図っ
た一貫性のある若年者雇用政策・プログラムの
開発において各国を支援している。この総合的
なアプローチは、労働の需要と供給、雇用の量
と質に取り組む、対象を絞った対策とマクロ経
済政策を結び付けている。
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
一般記事
27
一般記事
変わりゆく世界
職場の高齢化に適応する
(World of Work 2011年12月発行第73号より)
衛生の向上や寿命の伸び、出生率の低下、そし
同フォーラムで事務局長を務めた ILO のジョン・
てベビーブーマーの高齢化に伴い、世界は今や人口
センダニョエ商業部門専門官は、「社会的パートナ
動態上の大きな変化を迎えている。人口の高齢化に
ーである労使は、現在の人口動向では、今後も若年
関する議論は大半が年金制度の持続可能性に関する
労働者を採用し続けることが困難になっていること
ものであるが、先ごろ開催された ILO の会議
で
を確認しました。その強い要請により、このフォー
は、社会の高齢化が小売部門の労働力供給に対して
ラムが企画されたのです」と述べている。「この会
及ぼす影響が取り上げられた。これまでは小売部門
議はとりわけ、社会的パートナーたちが若年労働者
の労働者は大部分が30歳以下だったのである。ジュ
以外からの雇用を増やすことができるような、つま
ネーブを拠点に活動するジャーナリストのタラ・
り労働力供給源として高齢労働者の開拓を奨励する
S・カーペルマンが、スイスとインドからレポート
ような手段・政策の発掘を促進することが目的でし
する。
た」。
(注 ₁ )
このフォーラムの労働者側スポークスパーソンで
今後2050年までに、60歳以上の人口は20億人とな
あったピーター・ジェームズ・スタークによれば、
る見込みであり、人口に対する比率がこれだけ増加
このような対策を講じることは急務であるとされ
すれば社会に多くの影響をもたらす。経済協力開発
る。「私たちは、商業小売部門では高齢労働者の雇
機構(OECD)の予測によれば、加盟各国では今後
用にはあまり注力していないとの感じを抱いていま
50年間で、人口に占める高齢者の割合が急増すると
す。確かに、若年労働者の採用は重点項目です。け
同時に、働き盛りの年齢の人口は急減すると見られ
れど、私たちは現在進行中の人口構造の変化も認識
ている。
する必要があり、職場が高齢者に適合するようさら
このような人口構成の変化により、労働力供給に
なる努力を重ねる必要もあります。何といっても、
も変化が生じることは明らかである。多くの産業で
世界中の大半の国で退職年齢が引き上げられようと
は、若者の採用数を増やすか、または高齢者層への
しているのですから」。
働きかけを強化して就職希望者を増やすかして、適
先述の ILO 報告書では、研修、人材育成、昇進、
応していく必要が生じるだろう。
柔軟な労働慣行、人間工学、そして職務設計といっ
小売業は労働集約度が高く、離職率が平均より高
た実施可能な好慣行が紹介され、討論のテーマとさ
いことで知られており、危機感はとりわけ深刻であ
れた。
る。ILO は「高齢労働者のニーズに合わせた小売業
の作業プロセス及び作業環境の適応」に関する会議
用の報告書で、同産業部門は販売とカスタマーサー
「人々は従来の退職年齢を過ぎても働き続ける
ことになる」
ビスの業務を中心に50歳以上の人々を引き付け定着
「小売業者は高齢化社会における顧客対応という
させる能力を高めるために、その雇用慣行、作業プ
課題に今まさに真剣に取り組み始めたところです」
ロセス、作業環境を見直す必要があると提言してい
と昨年 9 月の ILO 会議で使用者側スポークスパーソ
る。
ンを務めたカナダ使用者評議会のピーター・ウール
ILO は2011年 9 月21日と22日に開催した「小売業
フォード事務局長は語る。「既に参加者全員が、世
における作業プロセス及び作業環境の変化に関連し
界的な高齢化が進行していること、そして様々な理
た高齢労働者のニーズに関する世界対話フォーラ
由から人々が従来の退職年齢を過ぎても働き続ける
ム」と題するフォーラムで政労使それぞれの代表と
ことになると気づいています。そうである以上、こ
共にこうした課題に取り組んだ。
うした労働者を受け入れるとともに、資源として活
©M. Crozet/ILO
(注 1 )
A
daptingworkprocessesandworking
e n v i r o n m e n t s i n
retail commerce to
o l d e r w o r k e r s '
needs 、国 際 労 働 事
務 局、ジ ュ ネ ー ブ、
2011年。
UNI 日本加盟組織連
絡協議会発行の会議
報告書『小売業にお
ける作業プロセス及
び作業環境の変化に
関連した高齢労働者
のニーズに関する世
界対話フォーラム』
中に邦訳が掲載され
ている。
28
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
一般記事
用するために、
職場の変革が必要になるでしょう」。
今のところ人口構造の変動を差し迫った問題と見
ていない事業体にミグロ協同組合がある。この組合
はスイス有数の民間小売業者で 8 万 3 千人以上の従
業員を抱えている。スイスの人口が760万人強であ
るから、スイス国民のおよそ100人に 1 人がこの小
売業者で働いている計算になる。
「このことは、当社の社会的経済的責任を非常に
大きなものとしています」とミグロ・ジュネーブの
ジャン=シャルル・ブリュットメッソ人事文化部長
は言う。
「そこで、私どもは多様性の確保に尽力し
ていまして、
従業員は90カ国以上の出身者からなり、
©M. Crozet/ILO
あらゆる年齢層からなっています」。
りの家から外に出ることができます」。ジャッカー
ミグロ・ジュネーブで働く従業員のほぼ25%が50
ルは、レジ係だけでなくカスタマーサービス担当者
歳以上である。
「社員が辞めずに長く勤めることが
としても働いてきた。「入社当初はレジ係として研
大きいです」とブリュトメッソ部長は言う。「私ど
修を受けましたが、後になって、窓口でお客様の問
もは見習い社員やパートタイマーとして、多くの若
合せに応じるための再訓練も受けました」
。
者・学生を採用するようにしていますが、かなりの
ミグロは予想される従業員の高齢化に対して、若
数に上る社員が、高齢になっても会社が好きで長年
年労働者の大量採用や研修といった種々の対策で取
勤続してくれます」
。
り組んできた。「今のところ、わが社の若年労働者
とはいえ、中には中途で入社してくる高齢従業員
は数も十分ですし、ここで気持ち良く働いているよ
もいる。例えば、エルナ・ジャッカール(58歳)は、
うに見えます」とブリュットメッソ部長は言う。
「ジ
レジ係からスタートして、約10年間ミグロ・ジュネ
ュネーブには教育機関が幾つもあり、アルバイトを
ーブで働いている。
「もともと希望していた職種で
探す学生たちが多いので、その意味ではラッキーで
はありませんでした。以前は州の電報オペレーター
すね」。
をしていました」とのこと。
「けれど、年金が打ち
切られてしまって状況がちょっと苦しくなり、49歳
労働者のニーズに応えた訓練・研修
の時に再就職することにしたのです」。
センダニョエ専門官は「研修、人事のポリシー、
「パートタイムで働きたかったんです。ミグロで
プログラムは、労働者一人一人のニーズに応えるも
働けば、孫たちと過ごす時間を確保しつつ、一人き
のでなければなりません。使用者は、どのような年
三方面アプローチで従業員を定着させるミグロ・ジュネーブ
1 .生涯学習:同社は従業員に対して、個人的
することもできる。
な学習か仕事上の学習かを問わず、研修ま
3 .健康:同社では、高齢の従業員に特によく
たは講座を活用するよう奨励しており、そ
見られる健康上の問題を十分に認識してい
のために従業員に対して 1 万スイスフラン
るが、どの年齢であっても、従業員に対し、
の提供までしている。
自分の健康には特に注意し気を配るよう奨
2 .柔軟性:同社では社内全体で300種類以上の
励している。また、従業員は少なくとも年
フルタイム及びパートタイムの仕事があ
1 回、社内で無料検診サービスを受けられ、
り、従業員は様々な部門の仕事に応募する
また任意で地元の民間病院での健康診断を
ことができる。新しい部署を目指してスキ
受診することもできる。さらに、従業員は
ルを学ぶことも奨励されている。店舗は数
50歳に達すると一週間の追加休暇を与えら
多く、各地にあるため、従業員は自分のニ
れる。
ーズに合わせて、別の店舗への異動を希望
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
齢の人であれ考え方や学び方は各人各様であること
ことなのです」。
を認識しておく必要があります」と言う。
「単に訓
ILO のジョン・センダニョエ専門官によれば、政
練・研修を提供すればいいというわけではなく、使
府及び小売業部門の使用者と労働組合との間での社
用者には、各人が満足するように提供する暗黙の責
会対話が重要である。人口動態的に極めて競争熾烈
任があるのです」
。
な状況で、小売業界への様々な年齢の就職希望者を
ミグロ・ジュネーブの取組みでは既にこの点を念
増やし定着させるようにするための効果的な対策
頭に置いている。同社では、老若問わず従業員向け
が、社会対話により促進されることが見込まれる。
の研修を実施することの有効性を確信している。ブ
結論として「こうした対話(ILO の根本的な原則)
リュトメッソ部長は言う。
「人の学習能力は年齢と
があってこそ、実施される対策が、小売業ならでは
共に減少するものではありません。肝心なのは、人
の個々の特色やニーズに良く適合したものとなる」
生の様々な段階でその時々の方法で研修に取り組む
ということだ。■
開発途上国の状況 —インド
「この人口動態の遷移において先進諸国は最
1 .退職後に別の仕事や別の職種に従事できる
も先行しているとはいえ、大半の開発途上国も
よう高齢労働者を再訓練する機会。チェリ
今後数十年で同様の状態になると予測される。
アン代表は次のように述べている。
「ほとん
ただし、その影響が先進諸国の場合とどれほど
どの高齢者は働くのが好きです。高齢者に
近似した結果となるかを予測するのは困難であ
仕事を与えることです。そうすれば、地域
る」。
社会に役立つことになり、高齢労働者には
ジョン・センダニョエ ILO 商業部門専門官
課題
満足感を与えます。高齢者を幸せにし高齢
者に価値を与えるのです」。
2 .人々が退職しても暮らせるだけの資金を蓄
ヘルプエイジ・インディアのマシュー・チェ
えるとともに、適切な介護が受けられるよ
リアン代表は、インドでは国民のほとんどが、
うにするための、老後の生活設計。チェリ
社会保障もどのような形の年金基金も受けてい
アン代表は次のように述べている。
「現状で
ないと言う。その結果として、高齢者が60歳の
は、子供が大挙して都市部に移住しており、
退職年齢を過ぎて働かなくなると、往々にして
インドの伝統的合同家族は崩壊しつつあり
貧困ライン以下の暮らしに陥ってしまう。
ます。子供が都市に行ってしまうと、高齢
「インドでは、
退職後の雇用機会はきわめてま
労働者は自分で土地を耕さねばならず、身
れです」
と、チェリアン代表は説明する。
「とこ
の回りのことも自分でしなければならなく
ろが現実は、貧しければ、倒れて死ぬまで働く
なります。けれど、それが無理な場合には、
必要があるのです」
。
自分がお荷物になったように感じてしまう
インディラ・ガンジー全国老齢年金制度は、
のです」。
貧困層への支援として、60歳から79歳までの貧
困ライン以下の高齢者に対して毎月200ルピー
(約300円)
、同じく80歳以上に対しては毎月500
ルピー(約700円)を支給する。
「残念ながら、
現在、食品の価格がとても高くなっていて、こ
れではとてもではないが足りません」とチェリ
アン代表は言う。
可能な解決策
以下の 2 種類の政策が長期にわたり必要であ
る。
©M. Crozet/ILO
一般記事
29
30
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
一般記事
病人を就労に適した状態に
職場復帰ツールとして普及が進む
ケース・マネジメント
(World of Work 2011年12月発行第73号より)
医療制度は逼迫の度を増し、障害給付のための支
出が増加の一途をたどる中、負傷したまたは病気の
従業員を職場復帰させる道はないかと模索する使用
管理者や医師らと連携することになる。
成果を上げる職場復帰プログラム
者、政府、保険業者がますます増えている。ジュネ
多くの使用者が、職場復帰プログラムが経費に
ーブを拠点に活動するジャーナリストのパトリッ
十二分に見合うことを認識するに至っている。
ク・モーザーがレポートする。
例えば、スイスのチューリッヒ市は、2006年に
「職
場におけるケース・マネジメント」をパイロット・
経済協力開発機構(OECD)によれば、加盟34カ
プロジェクトとして導入して以来、相当額の経費節
国は、平均して障害給付だけに国内総生産(GDP)
減を記録した。これまでに、このプログラムには
の1.2%、疾病給付まで含めると GDP の 2 %を支出
1,358万スイスフラン(約11億4,600万円)のコスト
している。中には 5 %にまで達する国もあるが、こ
がかかったが、プロジェクトの結果として1,933万
れは失業給付に支出される金額のほぼ2.5倍に上る。
スイスフラン(約16億3,000万円)の経費節減を果
この傾向に対処しようと、多くの国がケース・マ
たし、市当局は575万スイスフラン(約 4 億8,500万
ネジメントに注目している。ケース・マネジメント
円)の純益を得た。
とは、個々のニーズに合わせた解決策を通じて従業
チューリッヒ市は今年このプログラムを正式に導
員の職場復帰の促進を図るアプローチである。
入した。現在では、ケース・マネジャー22名を雇用
ジュネーブに事務局を置く 国 際 社 会 保 障 協 会
して、障害日数を削減する一方で 2 万 5 千人の同市
(ISSA)所属の専門家、ベルント・トライヘルは、
職員の仕事に対する満足度を向上させるという目標
次のように述べている。
「何重ものメリットがあり
を掲げている。
ます。使用者には労災補償費を最小限に抑えられる
「このプログラムはこれまでとてもうまくいって
というメリット、従業員には職場復帰できるという
おり、職員からも好評です」とチューリッヒ市人事
メリット、社会保障の面では障害者に長期にわたり
部のウルスラ・ヘス広報官は述べている。
手当を支払い続けずに済むというメリットがありま
2006年にこのプログラムが導入されて以来、障害
す。そして、社会としては、適格な労働者の供給が
年金を受けた職員数は2006年の151人から2009年に
継続するというメリットがあります」。
は105人へと減少した。昨年、障害年金を一部また
ケース・マネジメントとは、基本的に種々のサー
は全額受けていた市職員は121人であった。2011年
ビスを調整して、その人に最も適した解決策へと導
の最初の 8 カ月間で、現在では解決済みの401人の
くワンストップ・サービスを提供するものであり、
事例を含め、総計で888人の職員がケース・マネジ
精神病の治療、傷害管理、高齢者介護といった様々
メント・プログラムに参加していた。そのうち62%
な場面や職場環境で使用される。
が職場復帰を果たし、障害年金を受給しているのは
職場への復帰という場面では、ケース・マネジャ
10.6%である。
ーは一般的に、傷病者が医療・社会サービスの迷路
スイス公務員組合(VPOD)のカナン・タクタク
を迷わず進むことができるよう手助けするととも
は言う。「私たちはこのプログラムに導入当初から
に、従業員が安全かつできる限り早期に、仕事に復
ずっと賛成しています(中略)、それにこのプログ
帰できるよう、または必要であればより適切なポジ
ラムを利用した組合員からの反応も良好です」
。
ションへの異動ができるよう支援するために、経営
同組合にとって特に重要なのは、このプログラム
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
31
©M. Crozet/ILO
に参加するか否かの決定が
一人一人の職員に委ねられ
ているという点だ。
「この
種のプログラムが強制参加
であったり、もっぱらコス
ト削減のために職員に押し
つけられるものであったり
するなら、とても信用でき
ません」。
国有鉄道の SBB(スイス
連邦鉄道)をはじめ、スイ
スの主要企業の中にも同様
のプログラムが導入されて
いるところがある。社内に
専属のケース・マネジャー
を置く会社もあれば、民間
企業に委 託 す る 会 社 もあ
る。症例としては、激しい
ストレス を 訴 え る 教 師か
ら、視力が低下した機関車
運転手、腰痛に悩む労働者まで多岐にわたっている。 なっています」と述べている。「長期的な健康問題
「就労適合状態サービス」
一般記事
を抱える人々の多くが働いて社会に貢献したいと思
っているものの、休業期間が長くなればなるほど、
他のヨーロッパ各国も、健康上の問題による長期
職場への復帰が困難となっています」。
欠勤に対処するために、ケース・マネジメントまた
先述の英国の調査報告によれば、長期欠勤の単独
はそれに類した解決策に目を向け始めている。
1 位の原因はメンタルヘルスの問題であり、次いで
英国では、スコットランドを含む様々な地域での
筋骨格障害、腰痛、がん治療となっている。
「就労適合状態サービス」プロジェクト11件に政府
症例を管理することによる職場復帰のアプローチ
から資金提供が行われた。政府は、症例を管理する
については、各国の社会保障機関の関心も高まって
このサービスでは「早い段階で介入して支援を提供
いる。ISSA のハンス=ホルスト・コンコレウスキ
します。仕事は一般的に健康に良く、適切な時期で
ー事務局長は、今年初めストックホルムで開催され
の職場復帰は回復プロセスの一部であるとの証拠が
た地域会議で次のように述べている。「社会保障制
示されているからです」と、そのウェブサイト上の
度は、予防、早期介入、リハビリテーション、そし
Health, Work and Wellbeing( 健 康、 仕 事、 幸 福)
て職場復帰という考え方に重点を移してきました」。
のページで説明している。
同氏がとりわけ言及したのは「労働市場の以前か
英国産業連盟とファイザー製薬グループが実施し
らの課題と新しい課題に対して総合的に取り組む積
た調査によれば、昨年英国では 1 億 9 千万日もの労
極的かつ予防的な政策アプローチで、その手段とし
働日が欠勤で失われ、それにより使用者は総額170
ては、例えば高水準の疾病・障害給付請求に対応す
億ポンド(約 2 兆1,500億円)の損失をこうむった。
るだけでなく、受給者たちの雇用可能性の向上をも
長期欠勤は疾病による損失時間全体の 3 分の 1 近
促進することなど」である。
くを占めている。公共部門ではこの割合はさらに高
OECD もこうしたアプローチが、多方面にプラス
くなり、先述した調査によれば、損失日数のほぼ半
となり得る戦略であると考えている。「人々の職場
数が長期的な健康問題によるものである。
復帰支援は、(中略)人々が排除されることなく、
英国ファイザー社医療部長のバークレー・フィリ
より高い収入を得られるよう促すと同時に、長期的
ップス医師は「長期欠勤は懸案事項であり、長期に
に見て、労働力供給の実効性と経済生産を向上させ
わたる疾病に伴うコストは公共部門でとりわけ高く
ると見込まれる」。■
32
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
一般記事
大洪水の後で
アジアにおける生活と生計手段の再建
(World of Work 2011年12月発行第73号より)
大災害の直後は緊急救援活動が優先されるが、仕
事と生計手段の回復は再建活動の一部として重要で
ある。労働集約的な基盤構造復旧プロジェクトやそ
いる。
災害が多発するアジア太平洋地域
の他の種類の雇用創出事業を通じて ILO は被災者の
アジア太平洋は自然災害多発地帯である。1980~
生活再建を支援している。バンコクにある ILO アジ
2009年の間に発生した世界の自然災害全体の45%が
ア太平洋総局の小山淑子危機問題専門官がこの地域
この地域で発生しており、国内総生産(GDP)の損
の災害後再建活動に対する ILO の₁0年に及ぶ関与を
失比率も同じくらいに達している。世界全体の自然
振り返る。
災害による死傷・避難者の10人中 8 人以上がアジア
太平洋の住民である。
リュウ・シャオロンは2008年に中国で発生した四
山本幸子 ILO アジア太平洋総局長は次のように語
川大地震で夫を失った。家も家族で営んでいた小さ
る。「自然災害は人命の喪失や相当の物理的な被害
な宿泊ビジネスも破壊された。
に限らず、雇用や生計手段の喪失も引き起こします。
「主人の埋葬を済ませると、もう自分の人生には
個人及び地域社会に自分たちを支える力がないと再
何も意味がないように感じました。その後何カ月も、 建は不可能です。災害救援計画を作る際に仕事の創
何をする意欲も力もありませんでした」と彼女は振
出と生計手段の回復の問題を後回しにすべきではあ
り返る。
りません」。
しかし、リュウさんには扶養家族として大学に通
過去10年にわたり、ILO は雇用に主導された復旧
う年齢の息子がいた。彼女は縫い物の仕事を始め、
アプローチを用いてアジア太平洋地域の複数の国で
最終的に友人や知人からいくらかの借金をして小型
災害後の再建活動に従事してきた。
車を買い、タクシー運転手として働き始めた。しか
2004年に起こったインド洋津波はインドネシア、
し未登録のタクシーによる白タク営業は一時しのぎ
スリランカ、タイなど域内の多くの国に影響を与え
の手段でしかなかった。
た。災害後の活動の中で ILO は雇用に関連した一連
リュウさんは ILO の生計手段回復プロジェクトが
の支援を提供した。これには、失業者と仕事の機会
提供する訓練に申し込み、コスト計算、支出節減、
のマッチングに向けた緊急ハローワークの開設、短
利潤創出の方法などを含む経営スキルを学んだ。研
期的な技術・職業技能訓練の提供、企業開発支援な
修を修了した彼女は融資を受けて食堂を開いた。
どが含まれる。
「訓練を受けなかったら食堂を経営できなかった
2006年にインドネシアのジャワ島で発生した壊滅
でしょう」と彼女は語る。開業の月こそ赤字だった
的な地震の後で ILO は地元の人々が自宅を再建でき
ものの、状況は次第に改善し、リュウさんの食堂ビ
るようコンクリート調合と組積工事の集中コースを
ジネスは今や非常にうまくいっており、息子の大学
提供することによって復旧活動を支援した。
の学費も負担できるようになった。
2008年 5 月にサイクロンのナルギスによる被害が
リュウさんは ILO が提供する自然災害後支援事業
発生した後で、ILO は(その強制労働に反対する活
の受益者の 1 人である。家も仕事も失い、打ちのめ
動を行うという付託された任務の一環として)ミャ
されて取り残された多くの被災者にとって、ディー
ンマーで労働集約的な基盤構造プロジェクトを実施
セント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)
して地元の雇用機会を最大化するとともに優良な雇
を見つけることは生計手段の再建に留まらず尊厳を
用慣行の例示に努めた。
回復することにも当たる。2011年 3 月に発生した東
日本大震災で生き残ったある避難生活者は、「する
仕事が何もないとおかしくなってしまう」と語って
パキスタンの洪水被災に対する ILO の対応
2011年10月に ILO はパキスタンのシンド地方で洪
©M. Crozet/ILO
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
一般記事
33
©M. Crozet/ILO
2004年12月26日にインド洋
沿岸の広い地域を津波が襲
ってから間もなく、ILO は
素早く行動に打って出た。
バンコク、コロンボ、
ジャカ
ルタ、ニューデリーをはじ
めとした各地の現地事務所
はジュネーブの本部職員と
共に各国機関並びに国連及
びその専門機関と協力して
救援努力を支援し、その後
の長い再建期間のための資
金動員を開始した。
水被災者向けに「現金引換労働(Cash for Work)
」
プロジェクトを開始した。この労働集約的な雇用計
画は村々や保健医療施設に至る道にある障害物の撤
去に加え、最も被害が大きかった二つの地区の給水
ILO と日本がアジア太平洋におけ
る災害復興支援で協力に合意
用貯水池の復旧を支援する。
ILO と日本政府は2011年 3 月11日に発生した
2005年の地震以来、ILO はパキスタンが遭遇した
東日本大震災への対応で得られた日本の経験・
様々な危機に積極的に対応してきた。複数実施され
ノウハウと危機対応・再建分野における ILO の
た ILO のプロジェクトはパキスタンの男女に累計15
専門知識を共有して、アジア太平洋諸国が自然
万日分の労働機会を創出し、100キロに及ぶ道路の
災害の被害に的確に対処することを支援し、早
復旧を助け、 1 万8,000人の被災者に新たな技能の
期復旧・復興過程で雇用が果たす役割を強化す
訓練を提供し、被災児童4,000人以上を児童労働か
ることを目指す新たな協力枠組みに関する合意
ら救い出して社会に復帰させた。
書を2012年 6 月12日にジュネーブの ILO 本部で
「人々が自信と尊厳を再び得られるようにするこ
締結した。この「東日本大震災からの復興にお
とが持続可能な社会再建の重要な部分を構成しま
ける雇用労働対策の国際公共財としての発信の
す。災害後の国際援助は社会の再建に留まらず、よ
ための ILO/日本基金」による協力枠組みに沿
り良い社会の構築を目指すべきです。これにはディ
って、日本は150万ドルを超える財政支援を行う
ーセント・ワーク、つまり生産的で、自由、公平、
ことになる。協力の成果として、①雇用労働対
安全保障、人間の尊厳といった条件が整った仕事が
策が災害復興に果し得る役割についての情報収
必要です」と山本総局長は結論づける。■
集、分析、発信、②災害対応におけるアジア太
平洋諸国政府の能力強化、③集めた教訓を共有
するためのセミナーやワークショップの開催、
④アジア太平洋諸国の政府関係者による日本視
察、などが期待される。
34
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
一般記事
女性:未発掘の資源
(World of Work 2012年 5 月発行第74号より)
©DR
ア・キャロルが指名された。
「女性は鉱業に就くべきではない、と思ったこと
は一度もありません」と南アフリカのサバジンビに
あるアングロ・アメリカン社のクンバ鉄鉱山でゼネ
ラル・マネジャーを務めるコルネリア・ホルツハウ
ゼンは語る。「友人の父親が金鉱山の冶金技術者で
あったなど、私は鉱山の環境の中で育ちました。い
つも鉱山は大変刺激的だと感じていました」
。
オーストラリアで鉱業が盛んなクイーンズランド
州では2011年、政府機関が少女たちに対し鉱業のよ
うな女性に一般的でない職種への就職を検討しても
らおうと「ヘルメットをかぶった女性たち」という
取り組みを開始した。
「鉱山技術者の技能不足に取り組む必要に駆られ
数十年前まで、大半の国で、女性が鉱山で働くこ
ている使用者側にとって、女性は最大の未開発の才
とは禁じられていた。しかし、女性はうまくいくこ
能集団を意味するため、女性を採用することは双方
とを証明して、男性が支配的なこの領域への道を次
にとってメリットがあります。技術者の技能不足に
第に切り開いてきた。ジュネーブ在住のジャーナリ
ある産業では女性を必要としています。もはや選択
スト、パトリック・モーザーが報告する。
の問題ではないのです。女性が鉱山でキャリアを築
くことは、目新しい事ではなく、現実となる必要が
地下500メートルに下っていくクラウディア・ハ
あります」とクイーンズランド州政府のカレン・ス
ネイは、ドイツのヘッセ州にある K + S・カリのノ
トルーザーズ女性長官は述べている。
イホフ=エレルス鉱山で働く男性労働者300人から
「非伝統的産業に女性が進出することは、技術者
尊敬の眼差しを浴びる。
の技能不足の解消に役立ち、クイーンズランド州の
現在33歳のクラウディアは、鉱山のトップを務め
資源ブームの恩恵を女性と少女たちが少しでも享受
るドイツで最初の女性である。
することにもつながります」と長官は述べている。
鉱業は長く専ら男性だけの領域で、女性が坑内に
カナダのブリティッシュ・コロンビア州では、20
いると崩落事故が発生するという迷信に反映される
件の仕事のうちの 1 件は鉱物探査及び鉱業関連であ
ように、女性は敵対的な存在だった。
るが、肉体労働者や重機操作員など女性にとって非
しかし、過去数十年の間に女性は鉱山に進出して
伝統的とされる職に就くわずか 5 %を含めても、鉱
きた。いまだに男性が大多数を占める部門であり女
業労働力全体に占める女性の割合は16%に留まる。
性は少数派であるものの、その数は増えている。そ
ブリティッシュ・コロンビア州の鉱物探査や鉱業
れは女性にとってばかりでなく、鉱山技術者の大規
の予測によると、2016年までに約6,000人の労働者
模な技能不足に直面している鉱業にとっても良いニ
を追加雇用する必要が生じるとされる。2011年にこ
ュースである。
の問題を調査する特別委員会は、女性に働きかける
オーストラリアでは、鉱山を相続したジーナ・ラ
ことが鉱業セクターにとって死活事項だと報告した。
インハートが小規模生産の同族会社を世界規模の鉱
「これらの課題がブリティッシュ・コロンビア州
業グループへと変身させ、その過程で彼女自身もオ
に限られたことでないことは明らかだ」と委員会は
ーストラリア一の大富豪となった。
2007年には、ロンドンを拠点とする巨大鉱業企業
アングロ・アメリカン社の最高経営責任者にシンシ
「女性は鉱業に就くべきではない、
と思ったことは一度もありません」
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
©ILO
その報告書『Women: An unmined resource(女性:
未発掘の資源)
』の中で述べている。例えば、オー
ストラリアや南アフリカで営業している民間会社
は、地元政府と共同で「女性と他のマイノリティー
集団に対し、鉱業をもっとアピールするために、労
力と資源を意識的に集中させている」
。
しかし報告書は、社交活動から締め出されている
という女性たちの報告を載せ、鉱業とその文化に残
っている男性優位の風潮を嘆いている。また、管理
職に女性が不足していることが、女性は男性と同等
ではないという固定観念を維持させる原因になって
いる、とも記している。
数十年前まで、多くの国で女性は地下作業を禁止
されていた。
サンドラ・コリンズは、クイーンズランド州で鉱
男性の両方が鉱業に自由に参入できるようにすべき
山学を学んだ最初の女性たちの中の 1 人であり、こ
です」と ILO の鉱業部門の専門家であるマーチン・
の業界で実際に仕事に就いた 2 番目のオーストラリ
ハーンは述べる。「第45号条約は、とりわけ、当時
ア女性である。現在サンドラは、クイーンズランド
は非常に大きかった地下鉱山作業が身体の安全と健
州の大手炭鉱で事業マネジャーをしている。
しかし、 康に及ぼす危険から女性を保護する目的がありまし
1980年代には、
業界の草分けとして就職するために、 た。鉱山での多くの作業は多大な肉体的強靭さを必
地下鉱山での女性労働を禁止する法律と闘わなけれ
要としたため、女性に適する職とは見なされなかっ
ばならなかった。
たのです。しかし今日、大規模な鉱山での作業の多
「これは女性と子供を鉱山から遠ざけるためにこ
くは機械によって行われ、管理状態が良い鉱山では
の法律が成立した1800年代の遺物でした」とサンド
安全衛生記録がかなり改善されました」とハーンは
ラはオーストラリアの ABC テレビの番組で述べて
述べている。
いる。「その後変更されず、法律として残っていま
オーストラリア鉱山・鉱物協会(AMMA)によれ
した」。
ば、加盟する企業のうちの86社が、鉱山技術者の技
女性の地下作業禁止の歴史は、19世紀半ばまで遡
能不足を経験しているという。この使用者団体は、
る。英国の鉱山における劣悪な状況に対する世間の
問題に取り組むには決定的に重要な技能についての
激しい抗議が王立調査委員会による報告書に記述さ
従業員の訓練の増強と外国人労働者の受入増と同時
れ、女性及び10歳未満の子どもの鉱山労働を禁止し
に、女性の採用が重要な役割を果たす、と考えてい
た鉱山法が1842年に成立した。この慣行はまた、
る。
1935年に採択されて女性の地下作業を禁止した ILO
「AMMA の資源産業の使用者の92%がもっと女性
の「坑内作業(女子)条約(第45号)
」にも反映さ
を雇いたいと言っており、鉱山労働者 5 人に対し女
れている。
性は現在 1 人に満たないことから、オーストラリア
しかし、ILO は鉱山での安全衛生に関する一貫し
女性が鉱業で充実した長期にわたるキャリアを築け
た政策を策定し実施することを加盟国に要請し、こ
る可能性は大変大きい」と2011年 6 月に開催された
れを達成するための幾つかの主要段階をリスト化し
鉱業会議の席で、AMMA のスティーブ・ノット最
た「鉱山における安全及び健康条約(第176号)
」を
高執行責任者は述べている。
1995年に採択したことに続き、加盟国に対し第176
「伝統的に、多くの国々で、鉱業は危険を賭すと
号条約を実行し、したがって第45号条約の廃棄を検
いう強い男性的な文化を備えた産業とされており、
討するよう要請した。第45号条約が鉱山労働から排
現代の労働安全衛生のアプローチとは逆行するとこ
除することで女性を保護しようとしたのに対し、第
ろがあります。この冒険的な文化はほぼ男性のみと
176号条約の基本原則は男性及び女性双方に対する
いう高度に均質的な労働力の存在によって育まれて
危険予防及び保護から成り立っている。
きたので、多様化が進めば事態は実質的に改善され
「強力な労働安全衛生基準で補完しつつ、女性と
るでしょう」とハーンは語っている。■
一般記事
35
36
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
一般記事
ディーセント・ワークと教育
互いにプラスな関係
(World of Work 2012年5月発行第74号より)
ももいるような世の中ではなく、僕たちは平等の機
会を望んでいます」。
彼の隣では、15歳のマイラが緊張気味に待ってい
る。彼女の番になると、こう付け加えた。
「私たち
の両親にディーセントな仕事が欲しいです。子ども
たちが働かなくても済むように」。
次に発言したのは20歳の、再びマティアスという
青年である。彼の要求は次のようなものである。
「学
校は働いている子どもたちの状況を知るべきです。
このため、私たちは家庭教師による教育支援制度を
提案します。学校は一つの基準を全てに通用させる
ような場所であってはいけません。私たちは一人一
人に対応した学校を望んでいます」。
彼らの提案はアルゼンチンの労働省と文部省によ
って開催された「学校でディーセント・ワークにつ
いて考えよう」という 1 日がかりのイベントの結論
の一部である。ブエノスアイレス付近の15の中等学
©Technopolis
2003年、アルゼンチンは国の開発計画にディーセ
校から600人以上の生徒が、教師、校長、両省のチ
ント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の
ームと共にこの企画に参加した。
概念を組み入れた初めての国となった。それ以降、
前提は簡単なものであった。参加者は学校と仕事
多くの国の国家プログラムで「ディーセント・ワー
の間のつながり、さらに正確に言えば、学校と生徒
クを全ての人へ」という課題の様々な側面が実践さ
がやってみたい仕事とのつながりについて考えるこ
れてきた。2004年、アルゼンチンと ILO は共同で、
とを求められた。文部省と労働省という国の機関の
一人一人に仕事の尊厳の概念を促進・発展させるこ
トップが彼らの意見を聞くために参加した。
とを目標とする「ディーセント・ワークのある未来
「学校が性教育や、臓器提供、ディーセント・ワ
の構築」プロジェクトへの取り組みを開始した。こ
ークのような問題を扱うことは『気を散らすこと』
の記事が説明するように、それは学校の初等学年か
になると考える人々とは逆に、私たちは、性教育や
ら始まる道である。
ディーセント・ワークに関する授業を行うことで、
学校はまさしくその義務を全うしていると信じてい
マティアスは、ステージからみんなを見渡し、緊
る」とアルベルト・シレオニ文部大臣は指摘する。
張気味に微笑んでいる。彼の方に振り向いているの
カルロス・トマダ労働大臣は、平等な機会を望む
はクラスメートや他の生徒たち、先生たち、校長先
生徒の声について取り上げる。「機会の平等に関す
生、政府の専門官である。そして、それではまるで
る取り組みは、2003年から始められた。それ以後に
13歳の少年をおじけづかせるには十分でないかのよ
創出された500万人分の雇用に加え、『ディーセン
うに、アルゼンチンの労働大臣と文部大臣がたった
ト・ワークのある未来の構築』プロジェクトは、こ
今ホールに入ってきた。
の取り組みにとって欠かすことができない。なぜな
しかし、マティアスは落ち着いて、紙を手に熱意
ら我々は仕事を創出するだけでなく、ディーセン
を持って雄弁にスピーチを始めた。「学校に行ける
ト・ワークの文化を創り、次世代にそれを強調する
子どももいれば、同じ特権を否定されるような子ど
必要があるからだ」。
ワールド・オブ・ワーク 2012年 第 1 号(通巻17号)
「ディーセント・ワークのある未来の構築」
者らが各国でこのプログラムが取ってきた方向性を
話し合ったこと、などがある。
トマダ労働大臣が説明した「ディーセント・ワー
このプロジェクトの影響は、文部大臣のスピーチ
クのある未来の構築」プロジェクトは、労働省と文
の中で自分の言葉が取り上げられたのを耳にした時
部省、ILO のアルゼンチン事務所によって2004年に
にマティアスが感じた満足感からも読み取ることが
開始された。その目的は当初もそして現在も、一人
出来る。「若者は、一人一人に対応した学校を望ん
一人にディーセント・ワークの価値を促進し、浸透
でいます。私の心を打ち、今後自分でも使っていこ
させることにある。
うと思う一つの考えは、学校
「部分的に ILO から、そして
は一つの基準を全てに通用さ
大半がアルゼンチン政府から提
せるような場所であってはな
供された資金は限られたもので
らない、ということです。学
あったにもかかわらず、
『ディ
校は一人一人にとっての場所
ーセント・ワークのある未来の
であるべきです。つまり、単
構築』プロジェクトは、社会的
に私たちが学校にできるだけ
に強い影響力があった。その成
うまく適応しなければならな
功は明らかにプロジェクトの目
いのではなく、むしろ一人一
的の重要性と関係者の献身にあ
人にとって最善の学校である
る」とマルセロ・カストロ・フ
べきなのです」と大臣は語る。
ォックス ILO アルゼンチン事務
「若い人たちは、ここへ来
所長は述べる。
て政府関係者と直接会う機会
プロジェクトの成果には、◇
を得たことを大変評価してい
ます」と学生を引率してきた
「ディーセント・ワークの探求」
と題する研修コースによる
©Technopolis
教師の 1 人は述べた。 1 日を
1,000人の教師の研修、◇アルゼンチンのすべての
終えてマティアスと他の生徒たちは、自分たちが率
中学校の社会の教師に、21の教員研修施設で提供さ
直に話すことができ、よく話を聞いてもらったとい
れている仕事プロジェクトへの参加機会の付与、◇
う感じを持った。
国の教育評議会の決議によって労働における基本的
「学校でディーセント・ワークについて考えよう」
原則と権利やディーセント・ワークの概念を中学校
という 1 日の催しは、単なる話し合いや集まりの同
のカリキュラムに組み入れたこと、◇経験交流のた
じような 1 日以上の効果があった。どのようにして
めの地域ワークショップを開催し、アルゼンチン、
アルゼンチンがディーセント・ワークを社会経済開
ブラジル、チリ、パラグアイ、ウルグアイといった
発の不可欠な一部と化したかを示す新たな一例とな
域内諸国におけるこのプロジェクトの指導者や奨励
ったのである。■
©Technopolis
一般記事
37
世界各地で働くILO
(World of Work2
0
1
2年5月発行第7
4号より)
障害者の権利国連基金
たデータと情報は、若年雇用に関する国別・地域別・
世界全体の一連の分析報告に盛り込まれることにな
ILOは、国連の6機関によって新たに設立された信
る。これらの報告書は、若者のニーズを十分に考慮し
託基金において積極的な役割を演じることになった。
たプログラム立案と政策決定が行われるよう、若年雇
2011年12月8日に正式に発足したこの信託基金は障害
用と学校から仕事への移行の問題に取り組んでいる政
者の権利の促進を目指すとともに、関連政策、データ
策策定者と実務家を支援することを目的に作成され
収集、障害者へのサービス提供の改善に向けて各国を
る。
支援することを目指すもので、障害者のために国連機
関全体にわたる活動の充実を図るべく設立された。世
界保健機関(WHO)と世界銀行が発行する『World re-
My. COOP:農業協同組合の運営
port on disability(障害に関する世界報告書)
』によれ
2012年の国際協同組合年を記念して、ILOは新しく
ば、世界で10億人以上が障害を抱えていると推測され
農業協同組合(農協)の運営に関する研修パッケージ
ており、これは世界人口の約15%に相当する。
・プログラムであるMy. COOPをスタートした。
この「障害者の権利促進に向けた国連パートナーシ
この研修パッケージの目的は、農協の現職あるいは
ップ信託基金(UNPRPD)
」には、障害者の権利の促進
将来の管理職に、市場主導型農業開発における協同組
と保護に関して豊富な専門知識と経験を有する機関で
合特有の主な課題を見つけ出し、取り組んでもらうこ
ある、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)
、国連経
とである。My. COOPは、正しい運営によって協同組
済社会局(UNDESA)
、国連開発計画(UNDP)
、国連児
合は高い品質、効率的・効果的なサービスを組合員に
童基金(UNICEF)、ILO、WHOの6国連機関が参画し
提供することができるという事実に基づいている。加
ている。ILOはUNPRPDの政策理事会及び運営委員会
えて、よく運営されている農協は、より幅広い開発課
の一員として、世界レベル及び国レベルでの基金助成
題、例えば食料安全保障、天然資源の持続可能な利用、
申請事業の審査に加わることになっている。第1回目
包摂的な雇用創出にも貢献できる。
の助成申請は、2012年4月に受付を開始する予定であ
る。
My. COOPパートナーシップ事業はILOのアフリカ
協同組合ファシリティ(COOPアフリカ)とILO協同
組合部によって開始された。My. COOPの協力団体・
ILO!マスターカード財団パート
ナーシップ
その他支援組織には、ILO国際研修センターの他に、
高失業率、ワーキング・プア(働く貧困層)
、求職意
帯研究所、ワーゲニンゲン大学及び同研究所、Agriterra
欲の喪失といった仕事の危機の悪化に直面している若
などがある。この取り組みは1978年から1990年代初め
アフリカ及び中南米の複数の研修機関、国連食糧農業
機関(FAO)
、世界食糧計画(WFP)
、オランダ王室熱
者の間でのディーセント・ワーク(働きがいのある人
にかけて実施され、
40以上の訓練ツールを開発したILO
間らしい仕事)の促進に向け、ILOとマスターカード
の「協同組合運営教材・技術(MATCOM)
」プログラ
財団は2011年12月にユニークなパートナーシップを結
ムの成功を土台にしている。
んだ。5年間で1,
460万ドル(約11億4,
750万円)を拠
My. COOPパッケージには、農協の運営に関する最
出して行われるこの「Work4Youth」協力事業は、学
新の情報、将来のMy. COOPトレーナー向けのモバイ
校を出た若者が仕事の世界に移行する際に直面する課
ルラーニングや遠隔学習など知識移転のための新しい
題について世界規模での認識向上を目指すものであ
方法も盛り込まれている。My. COOPは専用のプラッ
り、若年雇用に関する政策策定と計画立案における改
ト フ ォ ー ム(http:!
!www.agriculture-my.coop)で
善に向けて世界的に支援していく。
入手可能である。それぞれの国情や他のセクターに合
この「Work4Youth」協力事業を通じ、5大陸28カ
わせた修正、例えば、ボリビアの採掘部門の労働者協
国において、学校から仕事への移行調査を実施するこ
同組合向けのプログラムなども現在準備中である。ス
とが予定されている。若者がディーセント・ワークへ
ペイン語、アラビア語版も近いうちに入手可能になる
移行しようとする際に直面する困難に関する情報は、
予定である。
特に途上国で不足しているが、この調査によりその状
況が改善されるものと期待されている。調査で得られ
詳 し く は、[email protected]ま た は[email protected]
(オンラインコース)までお問い合わせ下さい。
ワールド・オブ・ワーク2
0
1
2年
第1号(通巻1
7号)
書籍紹介
書籍紹介
仕事の世界報告書 2
012年版:より良い経済のためのより良い仕事
World of Work Report 2012. Better jobs for a better economy
ILO国際労働問題研究所
ISBN978!
92!
9251!
009!
1
2012年4月 109pp.5,
000円
仕事の世界報告書2
0
1
2年版は、最近の労働市場及び社会の潮流を包括的に分析し、社会不安
のリスクを評価し、今後5年にわたる雇用展望を提示している。報告書は、雇用は穏やかに回
復し始めているが、仕事の質は悪化し、不公平感が高まっていると強調している。さらに、政
府に支出抑制の圧力がかかる中で、政策努力は雇用創出を拡大する構造改革に焦点を当ててき
た。しかし、政策手法が注意深く設計されなければ、雇用情勢を一段と悪化させ、公平への関
心がさらに高まり、経済と社会の双方に長期的に負の影響をもたらす可能性がある、と指摘し
ている。そして、質の高い仕事を緊急に創出する必要性を考慮して設計された政策アプローチ
を呼びかけると同時に、より生産的で、より公平な経済及び労働市場に向けた基盤整備の必要
性を求めている。
公正で包摂的なグローバル化のための社会的保護の床:ミチェル・バチェレ議長率いる社会的保護の床顧問団の報告書
Social Protection Floor for a Fair and Inclusive Globalization : Report of the Advisory Group chaired by Michelle Bachelet
ILOジュネーブ
ISBN978!
92!
2!
125337!
2
2011年 117pp.4,
000円
「社会的保護の床」顧問団のガイダンスのもとで準備された本報告書は、社会的保護の床に頼
った社会的保護の拡大は、人々の貧困及び窮状を緩和する上で重要な役割を担うことができる
ことを示している。さらに、社会的保護の拡大は、人々が自分たちのスキルを適応させて変化
する経済及び社会環境に十分参加することを妨げている制約を克服するよう助けることによっ
て、人的資本の開発に貢献し、より生産的な活動を刺激することができる。報告書は、いかに
社会的保護が、より包摂的で持続可能な開発への道のりへ向けて回復を加速させることに貢献
しながら、危機時に総需要を安定化させ経済的ショックに対し回復力を増強することを手助け
したかを示している。
グローバルな労使関係の形成:国際枠組協定のインパクト
Shaping Global Industrial Relations : The impact of International Framework Agreements
Konstantinos Papadakis編
Palgrage Macmillanとの
共同出版
ILOジュネーブ!ロンドン
ISBN978!
92!
2!
124587!
2
2011年 308pp.11,
000円
最近、多くの多国籍企業が社会条項を含む企業の行動規範を採用している。現在、セクター
別に労働者を代表するグローバルユニオンと国際枠組協定(IFAs)を締結することも増えてい
る。世界規模のバリュー・チェーンを横断して労使関係を規制することに加え、これらの協定
はILOの中核的労働基準のコンプライアンスを促進することを目指している。
「労働研究の進展(Advances in Labour Studies)」の新シリーズの第2巻として、本書は、
国際枠組協定が世界中に及ぼす影響と労使対話を促進する効果を検証しながら、この現象を評
価している。
中国:積極的雇用政策から雇用促進法へ:経済再建と労働市場調整への対処
China : From an Active Employment Policy to Employment Promotion Law : Coping with economic restructuring and labour market adjustments
ILOジュネーブ
ISBN978!
92!
2!
125442!
3
2011年 78pp.2,
500円
中国は、グローバル化が進展する時期に実行された大規模な経済、社会、制度改革が功を奏
し、3
0年以上にわたり驚異的とも言える高いGDP成長率を謳歌した。中国の世界貿易機関
(WTO)への加盟によって影響を受けたこの改革は、中国経済をグローバルな経済へ一層統合
させる一方、社会主義市場経済を発展させるという課題を背負った。この研究は、市場経済へ
の参加に向かった中国の動きと、中国政府が再建の過程に付随する大規模な労働調整に対し、
いかにして対処したかについて独自の説明を提供している。
世界雇用情勢 2
01
2年版:より深刻な仕事の危機を予防する
Global Employment Trends 2012 : Preventing a deeper jobs crisis
ILOジュネーブ
ISBN978!
92!
2!
124924!
5
2012年 120pp.3,
000円
毎年発表される世界雇用情勢(GET)報告は、労働市場における国レベルの問題及び動向も
分析しつつ、世界及び地域の雇用と失業、部門別雇用、脆弱な雇用、労働生産性及び働く貧困
層に関する最新予測を提供している。本報告書は、世界がグローバルな経済危機及び仕事の危
機から持続可能な回復を形成するために闘い続ける中で、労働市場の発展と台頭する課題を評
価している。
仕事のストレス予防のチェックポイント:職場におけるストレス予防に向けた実践的向上策
Stress Prevention at Work Checkpoints : Practical improvements for stress prevention in the workplace
ILOジュネーブ
ISBN978!
92!
2!
125637!
3
2012年 120pp.3,
500円
仕事に関連するストレスは多くの諸国において最も重要な問題の一つである。ストレスに起
因するマイナスの影響は、多様な形態をとり循環器病及び胃腸病、肉体的・心身的・心理社会
的問題を含む。この出版物は、国内当局、企業、組織内マネジャー、労働組合、労働安全衛生
実務者、そして職場のストレス予防に関心を持つ他の関係当事者の必読書となるだろう。
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ILO の若年者雇用計画(Youth Employment Programme − YEP)
は、若い人々にディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の機
会を提供するという国際的な開発目標と国内課題に取り組む政府及び労使
団体を支援する。この支援は、政策策定の改善及び労働市場制度の強化に向
けた技術支援を、若年者雇用政策・事業計画の有効性を示すような直接介入
活動及びパイロット・プロジェクトと組み合わせた包括的な手法を通じて
提供されている。
詳しくは YEP ウェブサイトへ➡ http://www.ilo.org/youth
年第 号︵通巻 号︶
ILO 若年者
雇用
計画
(YEP)
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